(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】フレイル状態評価支援装置、フレイル状態評価支援システム、フレイル状態評価支援方法及びフレイル状態評価支援プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20240315BHJP
【FI】
A61B5/11 230
(21)【出願番号】P 2023131216
(22)【出願日】2023-08-10
【審査請求日】2023-08-14
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000181826
【氏名又は名称】社会福祉法人兵庫県社会福祉事業団
(74)【代理人】
【識別番号】100181630
【氏名又は名称】原 晶子
(72)【発明者】
【氏名】陳 隆明
(72)【発明者】
【氏名】戸田 晴貴
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-158996(JP,A)
【文献】特開2017-055809(JP,A)
【文献】特開2019-193710(JP,A)
【文献】山田 実,体幹加速度由来歩容指標による歩容異常の評価-歩容指標の変形性股関節症状者と健常者との比較、および基準関連妥当性-,理学療法学,第33巻第1号,日本,2006年,14-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレイル状態評価支援装置と、
杖に設けられ、互いに直交する3方向
の加速度を計測し、計測した加速度データを前記フレイル状態評価支援装置に送信する計測装置と、を備え、
前記フレイル状態評価支援装置は、
前記計測装置で計測された、前記加速度データを取得する取得部と、
取得した前記加速度データに基づいて、杖を用いて歩行する対象者の動作の特徴を示す特徴情報を生成する特徴情報生成部と、
生成された前記特徴情報を、予め設定されている規定値と対比して、前記規定値より高いか低いかを判定する判定部と、を有し、
前記取得部は、水平面において対象者の歩行方向に対して直交する左右方向、対象者の歩行方向である前後方向、並びに、前後方向及び左右方向と直交する上下方向の前記加速度データを取得し、
前記特徴情報生成部は、前記取得部で取得した
左右方向、前後方向及び上下方向の前記加速度データの周波数解析を行い、周波数解析の結果から前記加速度データの方向と同方向の
左右方向、前後方向及び上下方向の平均周波数又は中間周波数を含む特徴情報を生成し、
前記判定部は、前記特徴情報生成部で生成された
左右方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値
以上であるか否かを判定する
ことと、前記特徴情報生成部で生成された前後方向及び上下方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値以下であるか否かを判定すること
とにより対象者のフレイル状態を判定することを特徴とするフレイル状態評価支援システム。
【請求項2】
前記判定部は、左右方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値以上である場合に、前後方向及び上下方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値以下であるか否かを判定することにより対象者のフレイル状態を判定することを特徴とする請求項1に記載のフレイル状態評価支援システム。
【請求項3】
前記取得部は、互いに直交する3方向の前記加速度データを
複数回取得し、
前記判定部は
、前記特徴情報生成部で生成された、
左右方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が規定値以上である回数、並びに、前後方向及び上下方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が規定値以下である
回数の少なくとも一方に基づいて対象者のフレイル状態を判定することを特徴とする
請求項1に記載のフレイル状態評価支援
システム。
【請求項4】
前記判定部で判定された結果を表示する表示装置をさらに備え、
前記表示装置は、前記判定部で判定された結果を、
前記規定値を示す基準線と、前記基準線に対する前記平均周波数又は前記中間周波数の上下位置を示す点とで表示することを特徴とする
請求項1~3のいずれか一項に記載のフレイル状態評価支援システム。
【請求項5】
前記フレイル状態評価支援装置は、前記判定部で判定された結果に基づいて、対象者のフレイル状態を評価する評価部をさらに備え、
前記表示装置は、前記評価部で評価された結果を表示することを特徴とする
請求項4に記載のフレイル状態評価支援システム。
【請求項6】
前記フレイル状態評価支援装置は、前記計測装置が設けられる杖に設けられていることを特徴とする
請求項1に記載のフレイル状態評価支援システム。
【請求項7】
フレイル状態評価支援システムを用いてフレイル状態の評価の支援を行うフレイル状態評価支援方法であって、
前記フレイル状態評価支援システムは、
取得部、特徴情報生成部及び判定部を有するフレイル状態評価支援装置と、
杖に設けられ、互いに直交する3方向の加速度を計測し、計測した加速度データを前記フレイル状態評価支援装置に送信する計測装置と、を備え、
フレイル状態評価支援方法は、
前記取得部が、杖に設けられた計測装置で計測された、互いに直交する3方向
の加速度データを取得するステップと、
前記特徴情報生成部が、取得した前記加速度データに基づいて、杖を用いて歩行する対象者の動作の特徴を示す特徴情報を生成するステップと、
前記判定部が、生成された前記特徴情報を、予め設定されている規定値と対比して、前記規定値より高いか低いかを判定するステップと、を備え、
前記取得部は、水平面において対象者の歩行方向に対して直交する左右方向、対象者の歩行方向である前後方向、並びに、前後方向及び左右方向に直交する上下方向の前記加速度データを取得し、
前記特徴情報
生成部は、前記加速度データを取得するステップで取得した
左右方向、前後方向及び上下方向の前記加速度データの周波数解析を行い、周波数解析の結果から前記加速度データの方向と同方向の
左右方向、前後方向及び上下方向の平均周波数又は中間周波数を含む特徴情報を生成し、
前記判定
部は、前記特徴情報を生成するステップで生成された
左右方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値
以上であるか否かを判定する
ことと、前記特徴情報生成部で生成された前後方向及び上下方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値以下であるか否かを判定すること
とにより対象者のフレイル状態を判定することを特徴とするフレイル状態評価支援方法。
【請求項8】
前記判定部は、左右方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値以上である場合に、前後方向及び上下方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値以下であるか否かを判定することにより対象者のフレイル状態を判定することを特徴とする請求項7に記載のフレイル状態評価支援方法。
【請求項9】
前記フレイル状態評価支援装置は、評価部をさらに備え、
前記フレイル状態評価支援方法は、前記判定するステップで判定された結果に基づいて、
前記評価部が、対象者のフレイル状態を評価するステップをさらに備えることを特徴とする
請求項7又は8に記載のフレイル状態評価支援方法。
【請求項10】
フレイル状態評価支援システムを用いてフレイル状態の評価の支援を行うフレイル状態評価支援プログラムであって、
前記フレイル状態評価支援システムは、
取得部、特徴情報生成部及び判定部を有するフレイル状態評価支援装置と、
杖に設けられ、互いに直交する3方向の加速度を計測し、計測した加速度データを前記フレイル状態評価支援装置に送信する計測装置と、を備え、
フレイル状態評価支援プログラムは、
コンピュータに、
前記取得部が、杖に設けられた計測装置で計測された、互いに直交する3方向
の加速度データを取得するステップと、
前記特徴情報生成部が、取得した前記加速度データに基づいて、杖を用いて歩行する対象者の動作の特徴を示す特徴情報を生成するステップと、
前記判定部が、生成された前記特徴情報を、予め設定されている規定値と対比して、前記規定値より高いか低いかを判定するステップと、を含む処理を実行させ、
前記取得部は、水平面において対象者の歩行方向に対して直交する左右方向、対象者の歩行方向である前後方向、並びに、前後方向及び左右方向に直交する上下方向の前記加速度データを取得し、
前記特徴情報
生成部は、前記加速度データを取得するステップで取得した
左右方向、前後方向及び上下方向の前記加速度データの周波数解析を行い、周波数解析の結果から前記加速度データの方向と同方向の
左右方向、前後方向及び上下方向の平均周波数又は中間周波数を含む特徴情報を生成し、
前記判定
部は、前記特徴情報を生成するステップで生成された
左右方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値
以上であるか否を判定する
ことと、前記特徴情報生成部で生成された前後方向及び上下方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値以下であるか否かを判定すること
により対象者のフレイル状態を判定することを特徴とするフレイル状態評価支援プログラム。
【請求項11】
前記判定部は、左右方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値以上である場合に、前後方向及び上下方向の前記平均周波数又は前記中間周波数が前記規定値以下であるか否かを判定することにより対象者のフレイル状態を判定することを特徴とする請求項10に記載のフレイル状態評価支援プログラム。
【請求項12】
前記フレイル状態評価支援装置は、評価部をさらに備え、
前記フレイル状態評価支援プログラムは、
コンピュータに、
前記判定するステップで判定された結果に基づいて、
前記評価部が、対象者のフレイル状態を評価するステップをさらに実行させることを特徴とする
請求項10又は11に記載のフレイル状態評価支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、介護が必要になりやすいフレイル状態の評価を支援するためのフレイル状態評価支援装置、フレイル状態評価支援システム、フレイル状態評価支援方法及びフレイル状態評価支援プログラムに関するものである。特に、本発明は、対象者が歩行時に使用する杖の取扱いに基づいて、対象者のフレイル状態の評価を行うためのフレイル状態評価支援装置、フレイル状態評価支援システム、フレイル状態評価支援方法及びフレイル状態評価支援プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
多くの高齢者は、加齢による体力又は歩行能力などの身体機能の低下により、健康状態から徐々に要介護状態に移行する。この健康状態と要介護状態との間の状態を示す概念として、「フレイル状態」という言葉が用いられている。フレイル状態は、適切な介入及び予防を行うことで、要介護状態に進まずに健康状態に戻ることが可能な時期でもある。超高齢社会において、健康寿命の延伸及び介護費抑制の観点から、このフレイル状態を早期に判定することが強く望まれている。
【0003】
フレイル状態になると動作が遅くなったり転倒しやすくなったりする。この点に着目し、歩行動作からフレイル状態を判定する装置が開発されている(例えば、特許文献1)。また、一般に歩行能力が低下してくると、日常生活の中で杖を使って歩行することが多くなる。この杖を使った歩行動作からフレイル状態を判定する装置も開発されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2022-136780号公報
【文献】特許第6881451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のフレイル判定支援装置は、被験者の左右の足首に取り付けたセンサで、被験者の歩行時における所定時間ごとに左右各足の前後方向加速度と、上下方向加速度と、左右方向加速度とを計測している。そして、計測値から1秒あたりの平均歩行速度、平均進行方向静止加速度及び1歩あたりの平均所要時間を算出し、平均歩行速度が基準速度未満である場合、平均進行方向静止加速度が基準加速度以下である場合、平均所要時間が基準時間である場合にフレイル状態であると判定している。
【0006】
特許文献2の歩行状態判定装置は、対象者の両足と対象者が使用する杖に荷重を計測するセンサが設けられている。そして、センサで取得される杖にかかる荷重と足にかかる荷重とに基づいて、杖を用いた際の対象者の動作の特徴を生成し、生成した情報に基づいて対象者の歩行状態を判定している。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2の判定装置は、いずれも対象者の両足に計測装置を取り付けて歩行動作を計測する必要がある。そのため、日常生活の中での歩行動作を計測するためには日常的に計測装置を装着する必要があり、対象者の負担になるという問題があった。また、計測装置を装着していない場合には歩行動作を計測することができず、継続的に歩行動作を計測することが難しいという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、対象者に計測装置を装着せずに、対象者の歩行状態を計測することで対象者のフレイル状態を評価することができるフレイル状態評価支援装置、フレイル状態評価支援システム、フレイル状態評価支援方法及びフレイル状態評価支援プログラムを提供することを目的とする。特に、本発明は、対象者が歩行時に使用する杖に計測装置を装着し、対象者の杖の取扱いに基づいて、対象者のフレイル状態の評価を的確且つ容易に実施できるようにしたフレイル状態評価支援装置、フレイル状態評価支援システム、フレイル状態評価支援方法及びフレイル状態評価支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のフレイル状態評価支援装置は、杖に設けられた計測装置で計測された、互いに直交する3方向のうちの少なくとも1方向の加速度データを取得する取得部と、取得した加速度データに基づいて、杖を用いて歩行する対象者の動作の特徴を示す特徴情報を生成する特徴情報生成部と、生成された特徴情報を、予め設定されている規定値と対比して、規定値より高いか低いかを判定する判定部とを備える。特徴情報生成部は、取得部で取得した加速度データの周波数解析を行い、周波数解析の結果から加速度データの方向と同方向の平均周波数又は中間周波数を含む特徴情報を生成する。判定部は、特徴情報生成部で生成された平均周波数又は中間周波数が規定値より高いか低いかを判定する。
【0010】
好ましい実施形態のフレイル状態評価支援装置では、取得部は、互いに直交する3方向のうち、対象者の歩行方向に対して直交する左右方向の加速度データを取得する。判定部は、特徴情報生成部で生成された左右方向の平均周波数又は中間周波数が規定値以上であるか否かを判定する。
【0011】
さらに好ましい実施形態のフレイル状態評価支援装置では、取得部は、互いに直交する3方向の前記加速度データを取得する。判定部は、さらに、特徴情報生成部で生成された、対象者の歩行方向である前後方向及び上下方向の平均周波数又は中間周波数が規定値以下であるか否かを判定する。
【0012】
また、好ましい実施形態のフレイル状態評価支援装置は、判定部で判定された結果に基づいて、対象者のフレイル状態を評価する評価部をさらに備える。
【0013】
また、本発明のフレイル状態評価支援システムは、フレイル状態評価支援装置と、杖に設けられ、互いに直交する3方向のうちの少なくとも1方向の加速度を計測し、計測した加速度データをフレイル状態評価支援装置に送信する計測装置とを備える。フレイル状態評価支援装置は、計測装置で計測された、加速度データを取得する取得部と、取得した加速度データに基づいて、杖を用いて歩行する対象者の動作の特徴を示す特徴情報を生成する特徴情報生成部と、生成された特徴情報を、予め設定されている規定値と対比して、規定値より高いか低いかを判定する判定部とを有する。特徴情報生成部は、取得部で取得した加速度データの周波数解析を行い、周波数解析の結果から加速度データの方向と同方向の平均周波数又は中間周波数を含む特徴情報を生成する。判定部は、特徴情報生成部で生成された平均周波数又は中間周波数が規定値より高いか低いかを判定する。
【0014】
好ましい実施形態のフレイル状態評価支援システムでは、フレイル状態評価支援装置は、計測装置が設けられる杖に設けられている。
【0015】
また、好ましい実施形態のフレイル状態評価支援システムは、判定部で判定された結果を表示する表示装置をさらに備える。表示装置は、判定部で判定された結果を、規定値を示す基準線と、基準線に対する平均周波数又は中間周波数の上下位置を示す点とで表示する。
【0016】
さらに好ましい実施形態のフレイル状態評価支援システムでは、フレイル状態評価支援装置は、判定部で判定された結果に基づいて、対象者のフレイル状態を評価する評価部をさらに備える。表示装置は、評価部で評価された結果を表示する。
【0017】
また、本発明のフレイル状態評価支援方法は、杖に設けられた計測装置で計測された、互いに直交する3方向のうちの少なくとも1方向の加速度データを取得するステップと、取得した加速度データに基づいて、杖を用いて歩行する対象者の動作の特徴を示す特徴情報を生成するステップと、生成された特徴情報を、予め設定されている規定値と対比して、規定値より高いか低いかを判定するステップとを備える。特徴情報を生成するステップは、加速度データを取得するステップで取得した加速度データの周波数解析を行い、周波数解析の結果から加速度データの方向と同方向の平均周波数又は中間周波数を含む特徴情報を生成する。判定するステップは、特徴情報を生成するステップで生成された平均周波数又は中間周波数が規定値より高いか低いかを判定する。
【0018】
また、好ましい実施形態のフレイル状態評価支援方法は、判定するステップで判定された結果に基づいて、対象者のフレイル状態を評価するステップをさらに備える。
【0019】
また、本発明のフレイル状態評価支援プログラムは、コンピュータに、杖に設けられた計測装置で計測された、互いに直交する3方向のうちの少なくとも1方向の加速度データを取得するステップと、取得した加速度データに基づいて、杖を用いて歩行する対象者の動作の特徴を示す特徴情報を生成するステップと、生成された特徴情報を、予め設定されている規定値と対比して、規定値より高いか低いかを判定するステップとを含む処理を実行させる。特徴情報を生成するステップは、加速度データを取得するステップで取得した加速度データの周波数解析を行い、周波数解析の結果から加速度データの方向と同方向の平均周波数又は中間周波数を含む特徴情報を生成する。判定するステップは、特徴情報を生成するステップで生成された平均周波数又は中間周波数が規定値より高いか低いかを判定する。
【0020】
また、好ましい実施形態のフレイル状態評価支援プログラムは、コンピュータに、判定するステップで判定された結果に基づいて、対象者のフレイル状態を評価するステップをさらに実行させる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、対象者に計測装置を装着せずに、対象者の歩行状態を計測して対象者のフレイル状態を評価することができる。特に、本発明によれば、対象者が歩行時に使用する杖に計測装置を装着し、対象者の杖の取扱いに基づいて、対象者のフレイル状態を評価することができ、フレイル状態の評価を的確且つ容易に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の一実施形態に係るフレイル状態評価支援システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図1のフレイル状態評価支援システムの計測装置が設けられる杖の一例を示す斜視図である。
【
図4】
図1のフレイル状態評価支援システムの計測装置が設けられる杖の他の一例を示す斜視図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るフレイル状態評価支援方法を示すフローチャートである。
【
図7】本発明の一実施形態に係るフレイル状態評価支援システムで算出された合成躍度の時間変化を示すグラフである。
【
図8】本発明のフレイル状態評価支援システムを用いて対象者の平均周波数を算出した結果を示す図である。
【
図9】実施例の実験結果を示す図で、フレイル状態である対象者の平均周波数を示した図である。
【
図10】実施例の実験結果を示す図で、フレイル状態でない対象者の平均周波数を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。本発明のフレイル状態評価支援装置及びフレイル状態評価支援システムは、対象者が歩行時に使用する杖の取扱いに着目して、対象者のフレイル状態を評価する装置及びシステムである。
【0024】
図1~
図5を参照して、本実施形態に係るフレイル状態評価支援システム1及びフレイル状態評価支援装置20について説明する。
図1は、本実施形態に係るフレイル状態評価支援システム1の構成を示すブロック図である。
図2は、本実施形態のフレイル状態評価支援システム1の計測装置10が設けられる杖2の一例を示す斜視図である。
図3は、
図2の杖2の変形例を示す斜視図である。
図4は、本実施形態のフレイル状態評価支援システム1の計測装置10が設けられる杖2の他の一例を示す斜視図である。
図5は、
図4の杖2のV部拡大図である。
図5では、杖2の内部の構成を分かりやすくするために、杖2の一部を切り欠いて内部が現れるように示している。以下では、本実施形態のフレイル状態評価支援システム1の計測装置10が取り付けられる杖2の通常の使用状態における上下方向を上下方向と定義する。また、杖2を持って歩行する対象者の歩行方向を前側として前後方向を定義する。上下方向と前後方向に直交する方向を左右方向と定義する。
【0025】
図1に示すように、フレイル状態評価支援システム1は、計測装置10と、フレイル状態評価支援装置20と、表示装置30とを備える。計測装置10、フレイル状態評価支援装置20及び表示装置30は、インターネット又はLAN(Local Area Network)等のネットワークを介して接続されて構成されている。
【0026】
図2~
図5に示すように、計測装置10は、対象者が日常生活の中で歩行時に使用する杖2に設けられる。フレイル状態評価支援装置20は、
図4及び
図5に示すように杖2に設けられてもよいし、杖2とは別の場所に設けられてもよい。一般的には、杖2に計測装置10を設け、表示装置30を有するスマートフォン、タブレット、ノートパソコン又はパソコンなどの端末機器にフレイル状態評価支援装置20を設ける構成が採用される。フレイル状態評価支援装置20は、フレイル状態評価支援装置20の動作を実現するフレイル状態評価支援プログラム(アプリなど)をインストールすることで端末機器に設けられる。
【0027】
また、
図3に示すように、フレイル状態判定システム1は、さらに充電装置40を備えてもよい。充電装置40は、杖2に設けられる計測装置10の電源16を充電する装置である。電源16は、例えば、充電式電池である。充電装置40は、杖2の下端部5が差し込み可能な差込口411を有する充電台41を備える。差込口411は、杖2の下端部5を差し込んだときに、杖2が充電台41の上で自立可能に形成されている。充電装置40は、電力系統から供給される交流電力を所定の電圧の直流電力に変換して、杖2に搭載される電源16に供給する。なお、充電装置40は、
図4に示す、計測装置10及びフレイル状態評価支援装置20が設けられている杖2に対しても、
図3に示す杖2と同様にして備え付けることができる。この構成では、電源16は、フレイル状態評価支援装置20に対しても電力を供給する。
【0028】
以降、本実施形態では、杖2に計測装置10が設けられ、フレイル状態評価支援装置20及び表示装置30は計測装置10と互いにネットワークを介して接続されるフレイル状態評価支援システム1で説明する。
【0029】
計測装置10は、互いに直交する3方向のうちの少なくとも1方向の加速度を計測する装置である。計測装置10は、互いに直交する3方向のうちの少なくとも1方向の加速度を計測できる加速度センサ11を備える。計測装置10には、例えば、加速度センサ、3軸加速度センサ、慣性計測装置(IMU;Inertial Measurement Unit)などが用いられる。
【0030】
計測装置10は、杖2の下端部5(杖2の接地面に近い側の端部)に設けられる。計測装置10は、対象者が歩行する前後方向、水平面において対象者が歩行する前後方向に直交する左右方向、及び、前後方向と左右方向とに直交する上下方向の3方向のうちの少なくとも1方向の加速度が計測できるように設けられる。
【0031】
一般的な杖2は、杖2の上下方向(鉛直方向)に延びる杖軸部3と、杖軸部3に交差する水平面に概ね沿うように伸びる把持部4とを備えている。一般に、対象者は、杖2の把持部4を身体の横で前後方向に沿わして把持部4を握って杖2を使用する。そのため、計測装置10は、把持部4が延びる前後方向、把持部4と直交する左右方向、及び、杖軸部3が延びる上下方向の3方向のうちの少なくとも1方向の加速度が計測できるように設けられる。なお、杖2には、杖軸部3の上端が把持部4となるものも含む。このような杖2の場合には、杖2の使用時に前後方向が明確になるような目印を設け、計測装置10は、杖2の前後方向、水平面で前後方向に直交する左右方向、及び、杖軸部3が延びる上下方向の3方向のうちの少なくとも1方向の加速度が計測できるように設けられる。
【0032】
このように構成される計測装置10は、所定時間毎の、上下方向の加速度、前後方向の加速度、及び、左右方向の加速度のうちの少なくとも1方向の加速度を計測する。計測装置10は、計測した加速度を、ネットワークを介して、加速度データとしてフレイル状態評価支援装置20に送信する。
【0033】
フレイル状態評価支援装置20は、取得部21と、特徴情報生成部22と、判定部23と、評価部24と、記憶部25と、制御部26とを備える。フレイル状態評価支援装置20は、例えば、スマートフォン、タブレット、パソコンなどのコンピュータである。フレイル状態評価支援装置20が杖2に設けられる場合は、フレイル状態評価支援装置20は、杖2に設置可能な大きさのマイクロコンピュータで構成される。
【0034】
取得部21は、杖2に設けられた計測装置10で計測された、互いに直交する3方向のうちの少なくとも1方向の加速度データを取得する。すなわち、取得部21は、対象者の歩行方向である前後方向、水平面において対象者の歩行方向に対して直交する左右方向、並びに、前後方向及び左右方向と直交する上下方向のうちの少なくとも1方向の加速度データを取得する。具体的には、取得部21は、ネットワークを介して、計測装置10が送信した加速度データを取得する。
【0035】
特徴情報生成部22は、取得部21が取得した加速度データに基づいて、杖2を用いて歩行する対象者の動作の特徴を示す特徴情報を生成する。具体的には、特徴情報生成部22は、取得部21で取得した加速度データの周波数解析を行い、周波数解析の結果から、加速度データの方向と同方向の平均周波数又は中間周波数を含む特徴情報を生成する。この特徴情報は、対象者が歩行時に使用する杖2に設けられた計測装置10で計測された加速度データに基づいて生成されているため、対象者の杖2の取扱いに関する特徴情報となる。
【0036】
判定部23は、特徴情報生成部22で生成された特徴情報、すなわち、平均周波数又は中間周波数を、予め設定されているフレイル状態か否かを判断する基準となる規定値と対比して、平均周波数又は中間周波数が規定値より高いか低いかを判定する。本実施形態では、判定部23は、水平面において対象者の歩行方向(前後方向)に対して直交する左右方向の平均周波数若しくは中間周波数が規定値以上であるか否か、並びに/又は、対象者の歩行方向である前後方向及び上下方向の平均周波数若しくは中間周波数が規定値以下であるか否かを判定する。
【0037】
評価部24は、判定部23で判定された結果に基づいて、対象者のフレイル状態を評価する。評価部24は、対象者がフレイル状態であるか否かを評価することに加え、対象者がフレイル状態に近いか近くないか、以前と比較してフレイル状態に近づいたかフレイル状態がより悪化したかフレイル状態が改善したかなども評価する。
【0038】
記憶部25は、種々の情報、データ、プログラムなどを記憶する。記憶部23は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)によって構成される。記憶部25には、対象者がフレイル状態か否かを判断する基準となる規定値、及び、対象者のフレイル状態の評価を支援するフレイル状態評価支援プログラムが保存されている。また、記憶部25には、フレイル状態評価支援プログラムによって判定及び評価された対象者のフレイル状態の判定結果及び評価結果が保存される。フレイル状態の判定結果及び評価結果は、過去の判定結果及び評価結果も履歴として保存される。
【0039】
制御部26は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサによって構成される。制御部26は、プログラムを実行することによって、取得部21、特徴情報生成部22、判定部23、評価部24及び記憶部25の動作を制御する。
【0040】
表示装置30は、フレイル状態評価支援装置20の判定部23で判定された結果、及び/又は、評価部24で評価された結果を対象者に表示する装置である。表示装置30は、画像又は映像のような視覚情報及び音声又はメロディのような聴覚情報の少なくとも一方で、基準値と対比した判定結果、及び/又は、フレイル状態の評価結果を表示する。表示装置30は、例えば、テレビモニタ、ディスプレイ、スピーカーなどである。
【0041】
表示装置30は、判定部23で判定された判定結果を示す際、後述する
図9及び
図10に示すように、規定値を示す基準線51と、基準線51に対する平均周波数又は中間周波数の上下位置を示す点52とで表示することが好ましい。このとき、各点52には、測定日時を追加してもよい。また、過去に測定された際の平均周波数又は中間周波数も重ねて表示してもよい。この場合、測定日時に応じて色を変えてもよい。これにより、評価部24でフレイル状態であるか否かまで評価を行わなくても、点52が基準線51を超えているかいないか、
図9及び
図10の例では点52が基準線51より上か下か、を見ることで対象者が自身でフレイル状態であるか否かを判断することができる。
【0042】
また、表示装置30は、評価部24で評価された評価結果を示す際は、例えば、「フレイル状態です」、「フレイル状態が進んでいます」、「フレイル状態が悪化しつつあります」、「フレイル状態は心配ありません」などの文言で表示する。また、同様の文言を音声で表示してもよい。また、文言に変えて、フレイル状態の程度に応じた図柄、例えば、フレイル状態でない場合は笑顔の図柄、フレイル状態が悪化していたら泣顔の図柄などで表示してもよい。
【0043】
次に、
図6~
図8も参照して、フレイル状態評価支援システム1に基づいてフレイル状態の評価を支援するフレイル状態評価支援方法について説明する。
図6は、本実施形態に係るフレイル状態評価支援方法を示すフローチャートである。
図7は、本実施形態に係るフレイル状態評価支援システム1で算出された合成躍度の時間変化を示すグラフである。
図8は、本実施形態のフレイル状態評価支援システム1を用いて対象者の平均周波数を算出した結果を示す図である。フレイル状態評価支援方法の各処理は、フレイル状態評価支援装置20に格納されているフレイル状態評価支援プログラムによって実行される。
【0044】
以下では、計測装置10が、互いに直交する3方向の加速度、すなわち、前後方向の加速度、左右方向の加速度及び上下方向の加速度を計測して、対象者のフレイル状態の評価を支援するフレイル状態評価支援方法について説明する。なお、フレイル状態評価支援方法は、計測装置10が、対象者の身体機能の衰えの影響が最も現れやすい、少なくとも左右方向の加速度を計測して、対象者のフレイル状態の評価を行ってもよい。
【0045】
対象者が杖2を使用して歩行を開始する。制御部26は、対象者が杖2を使用して歩行を開始したか否かを判定し、計測開始判定を行う(S10)。計測開始判定は、例えば、杖2に設けられた計測装置10が加速度を取得して加速度データをフレイル状態評価支援装置20へ送信し、取得部21で取得した加速度データから杖2が接地したことを検知して行われる。
【0046】
接地の判定は、以下のようにして行う。すなわち、制御部26は、計測装置10から取得部21が取得した3方向の加速度データを受け取り、加速度データに対してカットオフ周波数40Hzのローパスフィルタをかける。そして、上下方向の加速度、前後方向の加速度、及び、左右方向の加速度の微分を行って躍度を算出し、3方向の躍度から式1を利用して3方向の合成躍度を算出する。
【数1】
ここで、jark_normは合成躍度、jark_xは上下方向の躍度、jark_yは左右方向の躍度、jark_zは前後方向の躍度である。
【0047】
合成躍度は、加速度を計測する所定時間毎に算出する。所定時間を1フレームとしてフレーム数と合成躍度との関係を示した図が
図7である。
図7に示されるように、杖2が接地するとその衝撃がインパルス状の波形として現れる。式1で算出された合成躍度が所定値を初めて超えたとき、つまり、最初のインパルス状の波形が見られたときが、計測開始時となる。
【0048】
なお、互いに直交する3方向のうちの1方向又は2方向の加速度データのみを取得する場合は、以下のようにして躍度又は合成躍度を算出する。1方向の加速度データのみを取得する場合は、取得した方向の加速度データから、取得した加速度データの方向の躍度を算出する。2方向の加速度データのみを取得する場合は、取得した加速度データの方向の躍度を二乗して足し合わせ、平方根を算出することで合成躍度を算出する。算出した躍度又は合成躍度は、杖2が接地するとその衝撃がインパルス状の波形として現れる。よって、算出した躍度又は合成躍度が所定値を初めて超えたときが計測開始時となる。
【0049】
計測が開始されると、計測装置10は、互いに直交する3方向の加速度を計測する(S12)。具体的には、計測装置10の加速度センサ11が、所定時間毎に、上下方向の加速度、前後方向の加速度、及び、左右方向の加速度を計測する。計測装置10で計測された3方向の加速度は、加速度データとしてフレイル状態評価支援装置20に送信される。取得部21は、計測装置10で計測された加速度データを取得して、所定時間毎に時間と関連付けて記憶部25に記憶される。
【0050】
対象者の歩行が終了すると、制御部26は計測終了判定を行う(S14)。計測終了判定は、例えば、杖2に設けられた計測装置10からフレイル状態評価支援装置20へ送信される加速度データが一定値となり、杖2が接地していないことを検知して行われる。具体的には、式1で算出される合成躍度(1方向又は2方向の加速度データのみを取得する場合は計測開始判定の際と同様にして算出される躍度又は合成躍度)が所定値を一定時間超えなくなると計測終了となる。
【0051】
計測が終了すると、特徴情報生成部22は、取得部21が計測装置10から取得した3方向の加速度データに基づいて、杖2を用いて歩行する対象者の動作の特徴を示す特徴情報を生成する(S16)。特徴情報は、例えば、互いに直交する3方向の平均周波数又は中間周波数である。特徴情報生成部22によって生成された特徴情報は、判定部23へ送信される。
【0052】
以下で、特徴情報生成部22が特徴情報を生成する処理をより具体的に説明する。互いに直交する3方向の平均周波数又は中間周波数を特徴情報として生成するために、まず、特徴情報生成部22は、取得部21で取得した3方向の加速度データに対して、高速フーリエ変換による周波数解析を行い、時間領域の信号を周波数領域変換したパワースペクトルを得る。そして、特徴情報生成部22は、周波数解析の結果であるパワースペクトルから、3方向の平均周波数又は中間周波数を算出する。ここで、平均周波数は、パワースペクトルの各周波数の平均値である。また、中間周波数は、パワースペクトルの面積を2つの等しいエリアに分ける周波数である。特徴情報生成部22は、このようにして3方向の平均周波数又は中間周波数を特徴情報として生成する。なお、周波数解析手法は、高速フーリエ変換に変えて、ウェーブレット変換を用いてもよいし、他の周波数解析手法を用いてもよい。また、1方向又は2方向の加速度データを取得した場合は、取得した加速度データの方向と同方向の平均周波数又は中間周波数を含む特徴情報を生成すればよい。
【0053】
判定部23は、特徴情報生成部22から特徴情報を受け取ると、記憶部25に記憶されている、予め設定されている規定値を読み出し、特徴情報を規定値と対比して、規定値より高いか低いかを判定する(S18)。本実施形態では、平均周波数又は中間周波数からなる特徴情報に基づき、平均周波数又は中間周波数が規定値より高いか低いかを判定する。判定部23で判定された判定結果は、記憶部25に保存される。また、判定部23で判定された判定結果は、評価部24及び表示装置30に送信される。
【0054】
以下で、判定部23が判定を行う処理を具体的に説明する。判定部23で判定された判定結果を示した図が
図8となる。
図8では、複数人(3人)のフレイル状態である対象者及び複数人(5人)のフレイル状態でない対象者が複数回の歩行動作を行い、対象者ごとに平均周波数を算出している。そして、各回の歩行動作の平均周波数から対象者ごとに平均周波数の平均値を算出し、フレイル状態である対象者群と、フレイル状態でない対象者群のそれぞれの平均周波数の平均値を算出している。この平均周波数の平均値の算出を、上下方向の平均周波数、左右方向の平均周波数、及び、前後方向の平均周波数の各方向に対して行い、各方向の平均周波数の平均値を示している。
【0055】
図8から分かるように、上下方向の平均周波数、左右方向の平均周波数、及び、前後方向の平均周波数のうち、左右方向の平均周波数において、フレイル状態でない対象者とフレイル状態である対象者との差が最も顕著に現れていることが分かる。したがって、フレイル状態を評価する指標として、まずは左右方向の平均周波数を利用すればよいことになる。これは、対象者がフレイルにより身体機能が低下すると、歩行方向と直交する方向(左右方向)のバランスが極端に悪くなり、杖2が左右方向に大きく揺れるためであると考えられる。このことから、左右方向の平均周波数を規定値と対比する際には、左右方向の平均周波数が規定値以上であるか否かを判定する。なお、平均周波数に変えて中間周波数を用いても同様である。
【0056】
また、
図8から分かるように、上下方向の平均周波数及び前後方向の平均周波数でも、フレイル状態でない対象者とフレイル状態である対象者とで平均周波数が異なることが分かる。すなわち、上下方向の平均周波数又は前後方向の平均周波数も、フレイル状態を評価する指標として利用することができる。対象者がフレイルにより身体機能が低下すると、フレイル状態でない対象者より杖2の上下方向や前後方向の揺れが小幅になるためであると考えられる。このことから、上下方向及び前後方向の平均周波数を規定値と対比する際には、上下方向又は前後方向の平均周波数が規定値以下であるか否かを判定する。なお、平均周波数に変えて中間周波数を用いても同様である。
【0057】
評価部24は、判定部23から判定結果を受け取ると、対象者のフレイル状態を評価する(S20)。評価部24は、左右方向の平均周波数若しくは中間周波数が規定値以上である場合、又は、上下方向若しくは前後方向の平均周波数若しくは中間周波数が規定値以下である場合に、対象者がフレイル状態であると評価する。また、対象者が複数回歩行動作を行った場合には、各回の平均周波数又は中間周波数のうち何回規定値以上又は規定値以下であったかによって、フレイル状態ではないけどフレイル状態に近づいている状態であるなどの評価を行ってもよい。また、評価部24は、記憶部25に記憶されている対象者の過去の評価結果と比べて、フレイル状態が改善した又は悪化したなどの評価を行ってもよい。評価部24で評価された評価結果は、記憶部25に保存される。また、評価部24で評価された評価結果は、表示装置30に送信される。
【0058】
対象者のフレイル状態の判定及び評価が終了すると、判定部23で判定された判定結果及び評価部24で評価された評価結果が表示装置30に表示される(S22)。判定結果は、対象者の特徴情報が規定値以上又は規定値以下であるかを示す。評価結果は、対象者がフレイル状態であるか否かを示す。このとき、今回の判定結果及び評価結果を前回の判定結果及び評価結果と比較して、フレイル状態が改善しているのか、フレイル状態に変化がないのか、又は、フレイル状態が悪化しているのかを示してもよい。対象者は、表示装置30に表示されるフレイル状態の判定結果及び評価結果を確認する。
【実施例】
【0059】
次に、上記実施形態に係るフレイル状態評価支援システム1について、実施例を挙げて具体的に説明する。
【0060】
本実施例では、上記実施形態のフレイル状態評価支援システム1を用い、対象者の歩行方向と直交する方向(左右方向)の平均周波数に基づいてフレイル状態の評価を行う。ここでは、フレイル状態である対象者4人(対象者A、対象者B、対象者C、対象者D)と、フレイル状態でない対象者4人(対象者E、対象者F、対象者G、対象者H)とに、フレイル状態評価支援システム1の計測装置10が設けられた杖2を使用して5回ずつ歩行してもらい、フレイル状態を評価する。
【0061】
対象者A~Hが杖2を使用して歩行を行い、上記実施形態で示したようにして、左右方向の平均周波数を算出した。算出結果を
図9、
図10、表1及び表2に示す。
図9は、実施例の実験結果を示す図で、フレイル状態である対象者の平均周波数を示した図である。
図10は、実施例の実験結果を示す図で、フレイル状態でない対象者の平均周波数を示した図である。表1は、フレイル状態である対象者の平均周波数を示す。表2は、フレイル状態でない対象者の平均周波数を示す。
【0062】
【0063】
【0064】
一般に、高齢者は、フレイルにより身体機能が低下すると左右方向のバランスが悪くなる。そのため、歩行時に身体が左右に揺れ、その揺れが杖2に伝わり、杖2の左右方向の平均周波数が大きくなる。対象者の歩行動作によっては、揺れが顕著に現れる場合と現れない場合とがあるため、5回のうち過半数以上の3回が規定値以上の場合にフレイル状態であると評価する。本実施例では、平均周波数の規定値は5.5Hzと設定する。これに基づき、
図9、
図10、表1及び表2の結果を参照すると、フレイル状態である対象者A~Dでは、平均周波数が5.5Hz以上となる場合が少なくとも3回以上あり、フレイル状態でない対象者E~Hでは、平均周波数が5.5Hz以上となる場合が多くても2回までとなり、フレイル状態を判定できていることが確認できていることが分かる。
【0065】
また、対象者B(5/5)や対象者C(4/5)は、規定値以上の回数が多くなっている結果を見て、フレイル状態が相当進んでいると判断することができる。これに対し、対象者A(3/5)や対象者D(3/5)は、規定値以上の回数がやや多くなっている結果を見て、フレイル状態が進みつつあると判断することができる。また、対象者H(0/5)は、規定値以上の回数がゼロである結果を見て、全くフレイル状態の心配はないと判断することができる。
【0066】
以上のように、本発明のフレイル状態評価支援システム1及びフレイル状態評価支援装置20では、対象者が歩行時に使用する杖2に計測装置10を取り付け、杖2の計測装置10で計測される加速度に基づいて対象者の歩行時の杖2の取扱いに関する特徴情報を生成している。そして、生成された特徴情報に基づいて、対象者がフレイル状態であるか否かを評価している。このように、杖2に取り付けた計測装置10のみでフレイル状態を評価できるため、対象者に計測装置10を装着せずに、対象者の歩行状態を計測してフレイル状態を評価することができる。その結果、日常生活での測定が気軽に行えるだけに留まらず、検査として測定する場合でも、対象者は日常生活と同様にリラックスして歩行することができ、より正確に対象者のフレイル状態を評価することができる。
【0067】
また、本発明のフレイル状態評価支援方法では、フレイル状態を評価する指標として、対象者の杖2の取扱い状態が最も的確に反映される平均周波数又は中間周波数を特徴情報として使用している。これにより、平均周波数又は中間周波数が規定値以下又は規定値以上であるかを判定するだけで対象者のフレイル状態を評価することができ、対象者のフレイル状態の評価を的確に且つ容易に実施することができる。
【0068】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。
【0069】
例えば、上記実施形態では、フレイル状態評価支援システム1及びフレイル状態評価支援装置20は、評価部24を備え、フレイル状態評価支援方法は、対象者のフレイル状態を評価しているが、本発明は必ずしもこの構成でなくてもよい。すなわち、フレイル状態評価支援システム1及びフレイル状態評価支援装置20は、評価部24を備えなくてもよい。この場合、判定部23で判定された判定結果のみが表示装置30に表示される。この場合は、対象者、医療従事者、検査者などが、基準値と対比された判定結果を見て、フレイル状態であるか否かなどを自己評価する。
【符号の説明】
【0070】
1 フレイル状態評価支援システム
2 杖
10 計測装置
20 フレイル状態評価支援装置
21 取得部
22 特徴情報生成部
23 判定部
24 評価部
30 表示装置
51 基準線
52 点
【要約】
【課題】 対象者に計測装置を装着せずに対象者の歩行状態を計測することで対象者のフレイル状態を評価することができるフレイル状態評価支援装置を提供する。
【解決手段】 本発明のフレイル状態評価支援装置20は、杖2に設けられた計測装置10で計測された、互いに直交する3方向のうちの少なくとも1方向の加速度データを取得する取得部21と、取得した加速度データに基づいて、杖2を用いて歩行する対象者の動作の特徴を示す特徴情報を生成する特徴情報生成部22と、生成された特徴情報を、予め設定されている規定値と対比して、規定値より高いか低いかを判定する判定部23とを備える。特徴情報生成部22は、取得した加速度データの周波数解析を行い、周波数解析の結果から加速度データの方向と同方向の平均周波数又は中間周波数を含む特徴情報を生成する。判定部23は、生成された平均周波数又は中間周波数が規定値より高いか低いかを判定する。
【選択図】
図1