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特許7455270多層膜、光学部材、および多層膜の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-14
(45)【発行日】2024-03-25
(54)【発明の名称】多層膜、光学部材、および多層膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/18 20150101AFI20240315BHJP
   G02B 1/115 20150101ALI20240315BHJP
   G02B 1/02 20060101ALI20240315BHJP
【FI】
G02B1/18
G02B1/115
G02B1/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023221408
(22)【出願日】2023-12-27
【審査請求日】2024-01-25
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591111112
【氏名又は名称】キヤノンオプトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】村田 哲也
【審査官】酒井 康博
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-036101(JP,A)
【文献】特開2007-204780(JP,A)
【文献】特開2000-019304(JP,A)
【文献】特開平07-110403(JP,A)
【文献】特開平04-116501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/00 - 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウムを含有する層と、前記酸化セリウムを含有する層の上に直接あるいは他の層を介して、低屈折率層とを有し、
前記低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層を有し、
前記酸化セリウムを含有する層が、立方晶系多結晶構造および柱状構造を含む酸化セリウムを含有し、
前記酸化セリウムを含有する層の膜厚が、85nm以上800nm以下であり、
前記酸化セリウムを含有する層全体を領域(A)とし、前記領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下であり、
前記低屈折率層の膜厚が、50nm以上240nm以下であり、
波長500nmの光に対する、前記低屈折率層の屈折率が、1.65以下である、ことを特徴とする多層膜。
【請求項2】
前記酸素欠損率(V)が、0.05%以上0.6%以下である、請求項1に記載の多層膜。
【請求項3】
前記酸素欠損率(V)が、0.1%以上0.3%以下である、請求項1に記載の多層膜。
【請求項4】
前記酸化セリウムを含有する層と前記低屈折率層との界面から8nm以下の範囲にある、酸化セリウムを含有する層の領域を領域(B)とし、前記領域(B)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.5%以上30%以下である、請求項1に記載の多層膜。
【請求項5】
前記酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下であって、
前記酸素欠損率(V)が、0.5%以上30%以下であって、
前記領域(A)のうち、前記領域(B)を除いた領域を領域(C)とし、前記領域(C)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0%以上10%以下であり、
前記酸素欠損率(V)が、前記酸素欠損率(V)より大きい、請求項4に記載の多層膜。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の多層膜を有する、光学部材。
【請求項7】
基材の上に直接あるいは他の層を介して、酸化セリウムを含有する層を真空蒸着法により形成する工程(A)と、
前記酸化セリウムを含有する層の上に直接あるいは他の層を介して、低屈折率層を真空蒸着法により形成する工程(B)と
を含み、
前記低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層を有し、
前記酸化セリウムを含有する層が、立方晶系多結晶構造および柱状構造を含む酸化セリウムを含有し、
前記酸化セリウムを含有する層の膜厚が、85nm以上800nm以下とし、
前記酸化セリウムを含有する層全体を領域(A)とし、前記領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下であり、
前記低屈折率層の膜厚が、50nm以上240nm以下である、ことを特徴とする多層膜の製造方法。
【請求項8】
前記酸化セリウムを含有する層と、前記低屈折率層との界面から、8nm以下の範囲にある酸化セリウムを含有する層の領域を領域(B)とし、前記領域(B)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.5%以上30%以下であり、
前記領域(A)のうち、前記領域(B)を除いた領域を領域(C)とし、前記領域(C)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0%以上10%以下であり、
前記酸素欠損率(V)が、前記酸素欠損率(V)より大きい、請求項7に記載の多層膜の製造方法。
【請求項9】
前記工程(A)の前に、あらかじめ雰囲気の水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値が、2×10-2Pa以下であり、
前記領域(B)の成膜中の水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値が、平均で2×10-2Pa以下である、請求項7または8に記載の多層膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自己浄化性および親水性に優れた多層膜、該多層膜を有する光学部材、ならびに該多層膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズ、ミラー、光学フィルターのような光学部材は、光の透過率や反射率を増加または低減させるために、無機材料により形成された膜を有している。無機材料により形成された膜は、一般的に成膜直後の時点では表面自由エネルギーが高いため、親水性が高い。しかしながら、自己反応や人あるいは環境由来の汚れが付着することにより、比較的短時間で表面自由エネルギーが低下し、親水性が低下する。
【0003】
例えば自動車に使用される光学製品、防犯カメラ、メガネレンズなどの屋外で使用する光学製品やこれらの保護カバーの表面の親水性が低下している状態で、水滴が付着すると、視界が悪化する場合があり、上記光学製品や保護カバーの機能が十分発揮できない恐れがある。
【0004】
前述の課題を解決する手段として、結晶性の二酸化チタン薄膜上に二酸化ケイ素薄膜を形成した親水膜が利用される(特許文献1、特許文献2、非特許文献1)。結晶性二酸化チタンの表面に近紫外光を照射すると、光触媒機能により活性酸素が生成し、生成した活性酸素が親水膜の表面の有機物を分解する。結果として、親水膜の親水性が回復し、降雨により汚れが洗い流され、自己浄化される。また、二酸化チタンの上に二酸化ケイ素を配置することで、光照射を停止しても、二酸化チタンのみの薄膜のように短時間で疎水化することはなく、暗所でも1~2週間程度は親水性が継続することが知られている。
【0005】
しかしながら、特許文献1の表2に記載のように、結晶性の二酸化チタン薄膜上に形成した二酸化ケイ素薄膜が50nmに満たない場合、二酸化チタンの屈折率が大きいため、反射率が増大し、透過率が低下するという課題がある。そのため反射率が大きくなっても支障のない車載用ドアミラーなどには適用できても、反射防止膜を備えたレンズのような光学部材には適さないという課題がある。
また、結晶性の二酸化チタン薄膜上に形成した表面の二酸化ケイ素薄膜が50nm以上である場合、光触媒反応による自己浄化機能が充分に発現しない課題がある。加えて、暗所での親水性維持性能が、結晶性二酸化チタンのみの場合に比べると改善されるものの、十分ではない課題がある。
【0006】
また、特許文献2の実施例や非特許文献1に記載のように、結晶性二酸化チタン層を光触媒として使用する場合、二酸化チタンからなる薄膜を結晶化するために、薄膜や該薄膜を上に設けた基材を高温に加熱しなければならない場合があり、耐熱性の低い樹脂製基材が使用できない課題がある。一部のウェットプロセスによる二酸化チタンの成膜は、高温加熱を要しない。しかしながら、ウェットプロセスを用いた場合は、1nm単位の細かな膜厚制御、均一な膜厚を有する薄膜の形成、および平板などの単純な形状の基材以外の基材の上への成膜が難しく、また、コーティング液の保存期間が短いなどの固有の課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-053449号公報
【文献】特開平09-057912号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】K.Miyashita,et al, Journal of the Ceramic Society of Japan 110 [5] 450-454 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
光学部材への応用を考慮すると、光学部材表面の低屈折率層を反射防止膜として設計することが可能なように、低屈折率層の膜厚を厚くした場合においても、光触媒反応による自己浄化機能が充分に発現する多層膜が望まれている。また、暗所で親水性を維持する期間がより長い多層膜が望まれている。
【0010】
本開示の目的は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、光の反射率を低減させるために、表面の低屈折率層の膜厚を特定の厚さ以上にした場合にも、表面で光触媒反応による自己浄化機能が充分に発現し、また暗所において親水性を長期間維持できる多層膜を提供することである。本開示の目的は、上記多層膜を有する光学部材を提供することである。また、本開示の目的は、上記多層膜の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、本開示は、
酸化セリウムを含有する層と、前記酸化セリウムを含有する層の上に直接あるいは他の層を介して、低屈折率層とを有し、
前記低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層を有し、
前記酸化セリウムを含有する層が、立方晶系多結晶構造および柱状構造を含む酸化セリウムを含有し、
前記酸化セリウムを含有する層の膜厚が、85nm以上800nm以下であり、
前記酸化セリウムを含有する層全体を領域(A)とし、前記領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下であり、
前記低屈折率層の膜厚が、50nm以上240nm以下であり、
波長500nmの光に対する、前記低屈折率層の屈折率が、1.65以下である、ことを特徴とする多層膜である。
【0012】
また、本開示は、上記の多層膜を有する光学部材である。
【0013】
また、本開示は、
基材の上に直接あるいは他の層を介して、酸化セリウムを含有する層を真空蒸着法により形成する工程(A)と、
前記酸化セリウムを含有する層の上に直接あるいは他の層を介して、低屈折率層を真空蒸着法により形成する工程(B)と
を含み、
前記低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層を有し、
前記酸化セリウムを含有する層が、立方晶系多結晶構造および柱状構造を含む酸化セリウムを含有し、
前記酸化セリウムを含有する層の膜厚が、85nm以上800nm以下とし、
前記酸化セリウムを含有する層全体を領域(A)とし、前記領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.5%以上10%以下であり、
前記低屈折率層の膜厚が、50nm以上240nm以下である、ことを特徴とする多層膜の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本開示の一態様よれば、光の反射率を低減させるために、表面の低屈折率層の膜厚を特定の厚さ以上にした場合においても、表面で光触媒反応による自己浄化機能が充分に発現し、また、暗所においても親水性を長期間維持可能な多層膜、上記多層膜を有する光学部材、および上記多層膜の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本開示に係る第1の実施形態における構成を示す概略断面図である。
図1B】本開示に係る第1の実施形態を説明するための概略断面図である。
図2】本開示に係る第2の実施形態における構成を示す概略断面図である。
図3】本開示に係る応用例の一例を示す概略図である。
図4】本開示に係る応用例の別の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本開示に係る多層膜、該多層膜を有する光学部材、該多層膜の成膜方法の実施形態を説明する。
また、本開示は下記実施形態に限定されるわけではない。
また、本開示において、数値範囲を表す[XX以上YY以下]や[XX~YY]の記載は、特に断りのない限り、端点である下限および上限を含む数値範囲を意味する。さらに、数値範囲が段階的に記載されている場合、各数値範囲の上限および下限は任意に組み合わせることができる。
【0017】
本開示において[多層膜]とは、基材の面上に形成した2つ以上の層を含む構成を指す。本開示に係る多層膜は、基材の上に直接あるいは他の層を介して、設けることができる。以下、多層膜を構成する層について膜もしくは薄膜とも称する場合がある。
【0018】
本開示において[基材]とは、物品としては固形物である。
【0019】
本開示において[光学部材]とは、上記多層膜を備える光学部材である。該光学部材としては光学フィルター、光学レンズ、採光レンズ、光学フィルム、光学プリズム、眼鏡レンズ、写真用レンズ、監視カメラのカバー、車載カメラのカバー、車載センサーのカバー、車両用ドアミラー、ホームドアのセンサー、採光レンズのカバー、板ガラス、集光レンズ、ディスプレイ用カバーガラス、タッチパネル、および各種フィルムなどが挙げられる。
【0020】
本開示に係る多層膜について具体的に説明をするに先立ち、本開示の理解のため、まず、その効果を奏するメカニズムの推定について以下に述べる。ただし、以下の説明はあくまで仮説にすぎず、本開示は何ら以下の仮説によって限定されるものではない。
【0021】
本発明者は、基材の上に直接あるいは他の層を介して特定の酸素空孔を有する立方晶系多結晶構造からなる酸化セリウムを含有する層を配置し、さらに上記酸化セリウムを含有する層の上に直接あるいは他の層を介して特定の膜厚のフッ化マグネシウムもしくは酸化ケイ素を含有する層が配置されている場合において、光触媒による自己浄化性による親水性の回復機能が発現するとともに、暗所での親水性維持能力が飛躍的に向上することを見出した。前記のメカニズムについて、以下の内容が考えられる。
【0022】
近紫外線に応答する光触媒の膜に近紫外光を照射したとき、光励起により電子と正孔が生成する。生成した電子や正孔が、膜の表面に到達できた場合、化学反応が起こり、自己浄化性による親水性の回復機能が発現する。本開示の酸化セリウムを含有する層の酸化セリウムには適量の酸素空孔が存在する。酸素空孔が過剰でないことで、光励起により生成した正孔と電子との再結合が抑えられる。その結果、光触媒活性が強くなる。また、酸素空孔の不足による、光励起により生成した電子や正孔の移動度の低下が抑えられる。その結果、光触媒による自己浄化機能の低下が抑えられる。
【0023】
さらに、酸素空孔が存在することにより、薄膜や環境由来の水分子(HO)や酸素分子(O)などを酸素空孔がとらえられ、紫外線のない環境下においても活性種が生成し、暗所における表面の親水性維持に寄与する。加えて、本開示の酸化セリウムを含有する層において、特に多結晶界面には酸素空孔が存在する。これにより、電気伝導性が向上するため、光励起により生成した電子と正孔の分離が促進され、電子と正孔が界面に沿ってスムーズに移動し、表面に到達しやすくなる。これらの結果、光触媒による自己浄化性による親水性の回復機能が発現するとともに、暗所での親水性維持能力が飛躍的に向上すると考えられる。
【0024】
≪第1の実施形態≫
第1の実施形態は、多層膜についてである。
本開示の多層膜は、
酸化セリウムを含有する層と、前記酸化セリウムを含有する層の上に直接あるいは他の層を介して、低屈折率層とを有し、
前記低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層を有し、
前記酸化セリウムを含有する層が、立方晶系多結晶構造および柱状構造を含む酸化セリウムを含有し、
前記酸化セリウムを含有する層の膜厚が、85nm以上800nm以下であり、
前記酸化セリウムを含有する層全体を領域(A)とし、前記領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下であり、
前記低屈折率層の膜厚が、50nm以上240nm以下であり、
波長500nmの光に対する、前記低屈折率層の屈折率が、1.65以下である、ことを特徴とする。
【0025】
本開示の多層膜は、酸化セリウムを含有する層と、酸化セリウムを含有する層の上に直接あるいは他の層を介して、低屈折率層とを有し、低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層を有する。図1Aは、基材の上に設けられた本開示の多層膜における、第1の実施形態を示す概略断面図である。図1Aでは、基材11上に、低屈折率層として、本開示の酸化セリウムを含有する層13が形成され、さらに酸化セリウムを含有する層13の上にフッ化マグネシウムを含有する層14が形成された構成例を示している。図1A(および後述する図1B)において、フッ化マグネシウムを含有する層14の代わりに、酸化セリウムを含有する層13の上に酸化ケイ素を含有する層15が形成されていてもよい。なお、図1A図1Bおよび図2は、本開示における多層膜の構成を模式的に表したものである。そのため、各層の面積や膜厚などを正確な比率で表したものではない。
【0026】
基材11について説明する。
基材11は、他の層12や本開示の酸化セリウムを含有する層13を積層形成可能なものであればよく、ガラス、セラミックス、樹脂、および金属などを用いることが可能である。基材の形状は限定されることはなく、例えば、平面、曲面、凹面、凸面、およびフィルム状であってもよい。また、基材11は、ハードコート層やバリア層を有していてもよい。加えて、基材11の大きさや厚さについても特に限定されることはなく、用途などに応じて適宜設定することが可能である。
【0027】
本開示に係る酸化セリウムを含有する層13について説明する。本開示の多層膜は、酸化セリウムを含有する層全体を領域(A)とし、領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下である。酸素欠損率が0.05%未満であると、光で励起した電子や正孔の移動度が低下し、光触媒による自己浄化機能が低下する。10%を超えると、光で励起した電子や正孔が再結合しやすくなり、光触媒による自己浄化機能が低下する。
【0028】
本開示における[酸素欠損率]の定義としては、酸化セリウムの酸素含有量をAとし、CeOの理論上の酸素含有量をBとするとき、酸素欠損率を(B-A)/B×100(%)で表すことができる。例えば、化学量論組成通りのCeOの酸素欠損率が0%、CeOの酸素原子が全て無いと仮定したとき(Ceであるとき)の酸素欠損率が100%である。
【0029】
本開示の多層膜は、酸化セリウムを含有する層13の領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率(V)が、0.05%以上0.6%以下であることが好ましい。酸素欠損率が0.05%以上であると、自己浄化機能力、親水性の維持能力がさらに高まる。
【0030】
本開示の多層膜は、酸化セリウムを含有する層13の領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率(V)が、0.1%以上0.3%以下であることがより好ましい。酸素欠損率がこの範囲であると、自己浄化機能力、親水性の維持能力がより高まる。
【0031】
本開示の多層膜は、酸化セリウムを含有する層13が、立方晶系多結晶構造を含む酸化セリウム(CeO)を含有する。単結晶構造の酸化セリウムよりなる層では、膜にクラックが発生しやすくなる。非晶質構造の酸化セリウムからなる層であると、光触媒による自己浄化機能および暗所での親水性維持能力が顕著に低下する。
【0032】
また、本開示における[多結晶構造]の定義としては、成膜後の膜のX線回折(XRD)測定において、酸化セリウム特有のピークが出現することを意味する。
【0033】
本開示の多層膜は、酸化セリウムを含有する層13の膜厚が、85nm以上800nm以下である。酸化セリウムを含有する層13の膜厚が85nmを下回ると、光触媒による自己浄化機能および暗所での親水性維持能力が顕著に低下する。また、酸化セリウムを含有する層13の膜厚が800nmを超えると、クラックが発生しやすくなり、また不均質や表面粗さ、多結晶の結晶界面による光散乱が大きくなりすぎる場合があり、光学特性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0034】
本開示の多層膜は、酸化セリウムを含有する層13が、柱状構造を有する酸化セリウムを含有する。柱状構造を有することで、光で励起した電子や正孔の分離が促進され、また電子と空孔が表面に到達しやすくなる。これにより、光触媒による自己浄化機能より高まる。
【0035】
ここで、本開示における[柱状構造]を定義する。柱状構造とは、膜中に円柱状構造、角柱状構造、錐台状構造、棒状構造、繊維的柱状などの多結晶を含むことをいう。中実状であっても良く、中空状であってもよい。柱状の長手方向は、概ね膜の基材側から膜の外気側方向に成長したものであり、鉛直方向に真っ直ぐに伸びるもの、傾斜状に伸びるもの、湾曲しながら伸びるもの、枝状に分岐して伸びるもの、柱状結晶が複数本成長する途中で融合したものなどを含む。
【0036】
本開示の酸化セリウムを含有する層13は、基材11上に直接配置されてもよいし、後述する他の層12を介して配置されていてもよい。
【0037】
本開示の多層膜は、低屈折率層の膜厚が、50nm以上240nm以下であることが好ましい。本開示の多層膜は、波長500nmの光に対する、前記低屈折率層の屈折率が、1.65以下であることが好ましい。
【0038】
本開示に係るフッ化マグネシウムを含有する層14について説明する。本開示の多層膜は、フッ化マグネシウムを含有する層14の膜厚が、50nm以上240nm以下である。フッ化マグネシウムを含有する層14の膜厚が50nm未満であると多層膜の反射率が高くなりすぎる場合がある。一方、フッ化マグネシウムを含有する層14の膜厚が240nmを超えると、多層膜表面において光触媒による自己浄化機能が発揮されない場合がある。また、本開示の多層膜は、波長500nmの光に対するフッ化マグネシウムを含有する層14の屈折率が、1.65以下である。フッ化マグネシウムを含有する層14の屈折率が1.65を超えると多層膜の反射率が高くなりすぎる場合がある。
【0039】
本開示の多層膜は、図1Bに示されるように、酸化セリウムを含有する層13と、フッ化マグネシウムを含有する層14との界面から、8nm以下の位置にある酸化セリウムを含有する層13の領域を領域(B)とし、領域(B)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、酸素欠損率(V)が、0.5%以上30%以下であることが好ましい。本開示の多層膜は、領域(A)のうち、領域(B)を除いた領域を領域(C)とし、領域(C)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、酸素欠損率(V)が、0%以上10%以下であることが好ましい。本開示の多層膜は、酸素欠損率(V)が、酸素欠損率(V)より大きいことが好ましい。
【0040】
フッ化マグネシウムを含有する層14を構成する物質の総量におけるフッ化マグネシウムの含有比が65質量%以上であることが好ましい。上記の範囲内であれば、暗所における親水性維持能力がより高まる。
【0041】
上記の通り、図1Aおよび図1Bにおいて、フッ化マグネシウムを含有する層14の代わりに、酸化ケイ素を含有する層15が配置されてもよい。以下に、本開示に係る酸化ケイ素を含有する層15について説明する。
【0042】
本開示の多層膜は、波長500nmの光に対する酸化ケイ素を含有する層15の屈折率が、1.65以下である。酸化ケイ素を含有する層15の屈折率が、1.65を超えると、多層膜の反射率が高くなりすぎる場合がある。本開示の多層膜は、酸化ケイ素を含有する層15が、50nm以上240nm以下である。酸化ケイ素を含有する層15の膜厚が50nm未満であると多層膜の反射率が高くなりすぎる場合がある。一方、酸化ケイ素を含有する層15の膜厚が240nmを超えると、多層膜の表面において光触媒による自己浄化機能が発揮されない場合がある。
【0043】
本開示の多層膜は、図1Bに示されるように、酸化セリウムを含有する層13と、酸化ケイ素を含有する層15との界面から、8nm以下の位置にある酸化セリウムを含有する層13の領域を領域(B)とし、領域(B)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、するとき、酸素欠損率(V)が、0.5%以上30%以下であることが好ましい。本開示の多層膜は、領域(A)のうち、領域(B)を除いた領域を領域(C)とし、領域(C)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、酸素欠損率(V)が、0%以上10%以下であることが好ましい。本開示の多層膜は、酸素欠損率(V)が、酸素欠損率(V)より大きいことが好ましい。
【0044】
酸化ケイ素を含有する層15は、酸化ケイ素(SiO)を含有する層である。酸化ケイ素を含有する層15における酸化ケイ素の含有割合は、酸化ケイ素を含有する層15全体に対して65質量%以上であることが好ましい。酸化ケイ素を含有する層15における酸化ケイ素の含有割合が上記の範囲内であれば、暗所における親水性維持能力がより高まる。
【0045】
酸化ケイ素を含有する層15は、酸化ケイ素の組成はSiOであって、xは1.5以上2.0以下であることが好ましい。酸化ケイ素の組成SiOにおけるxの値が上記の範囲内であれば、酸化ケイ素を含有する層15の屈折率を1.65以下にすることができる。また可視光線から近赤外線の波長範囲において、より透明な膜を得ることができる。
【0046】
酸化ケイ素を含有する層15は、酸化ケイ素(SiO)以外に酸化アルミニウムを含有してもよい。このとき、酸化ケイ素を含有する層15における酸化アルミニウムの含有割合は、酸化ケイ素を含有する層15全体に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。酸化ケイ素を含有する層15が酸化アルミニウムを0.1~10質量%含むことにより、多層膜の光触媒による自己浄化機能や暗所での親水性維持能力を保ったまま、耐擦傷性や耐湿性などの多層膜の耐久性を高めることができる。
【0047】
酸化ケイ素を含有する層15は、酸化ケイ素(SiO)以外に酸化セリウムを含有してもよい。このとき、酸化ケイ素を含有する層15における酸化セリウムの含有割合は、酸化ケイ素を含有する層15全体に対して0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましい。酸化ケイ素を含有する層15が酸化セリウムを0.1質量%以上10質量%以下を含むことにより、多層膜の親水性維持能力を保ったまま、光触媒による自己浄化機能を高めることができる。
【0048】
≪第2の実施形態≫
第2の実施形態は、多層膜についてである。第2の実施形態の多層膜は、基材11の上に設けられた他の層12の上に設けられているという点で、第1の実施形態の多層膜と異なっている。他の層12以外については、上記の通りであるので、説明を省略する。
図2は、本開示の多層膜における、第2の実施形態を示す概略断面図である。図2では、本開示に係る多層膜は、基材11の上に設けられた他の層12の上に設けられている。すなわち、第2の実施形態は、基材11上に他の層12が形成され、さらに他の層12の上に、本開示の酸化セリウムを含有する層13が形成され、加えて酸化セリウムを含有する層13の上に、低屈折率層として、酸化ケイ素を含有する層15が形成された構成例を示している。
【0049】
基材11および本開示の酸化セリウムを含有する層13に関しては前記の第1の実施形態で説明した通りである。
【0050】
図2において、酸化ケイ素を含有する層15の全てまたは一部について、代わりに第1の実施形態で説明したフッ化マグネシウムを含有する層14を配置してもよい。また、本開示の酸化セリウムを含有する層13は、他の層12を介さずに、基材11上に直接配置されてもよい。
【0051】
他の層12としては、金属やフッ化物、酸化物、炭化物、硫化物、ハロゲン化物、窒化物および複合アニオン化合物(酸窒化物、酸硫化物、酸ハロゲン化物、酸フッ化物、酸窒化物など)を含有する層を配置することができる。他の層12としては、具体的には、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、シリコン(Si)、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)のような元素を含む金属層や、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化カルシウム(CaF)のようなフッ化物を含有する層、酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化イットリウム(Y)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ニオブ(Nb)、酸化インジウム(In)、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)、酸化セリウム(CeO)、酸化チタン(TiO)、チタン酸ランタン(LaTi)、チタン酸アルミニウム(LaAl)、アルミナ添加二酸化ケイ素(SiO+Al)のような酸化物を含有する層、ZnSのような硫化物を含有する層、窒化ケイ素(Si)、窒化ガリウム(GaN)のような窒化物を含有する層、炭化タングステン(WC)のような炭化物を含有する層、酸窒化ケイ素(SiO)、酸フッ化鉛チタン(PbTi)のような複合アニオン化合物などを用いることができる。他の層12は、1層であってもよいし、2層以上の多層であってもよい。他の層12が2層以上の多層であるとき、上記で例示した層のうち、複数種類の層を組み合わせて他の層12を構成してもよい。また他の層12は、上記で例示した層が含有する化合物のうちの2種類以上からなる混合物を含有する層でもあってもよい。
【0052】
他の層12の形成方法は特に制限されない。他の層12の形成方法には、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法のような乾式による成膜法や、ディッピング法、塗布法、スプレー法、スピンコート法、バーコート法、印刷法、フローコート法のような湿式による成膜法を適用することが可能である。
【0053】
他の層12を目的や機能に応じた組成、屈折率、膜厚、層数などにすることで、反射防止層、ハーフミラー層、光吸収層、アルカリ拡散防止層、密着層、帯電防止層、ヒーター層など特定の機能を付加した多層膜にすることができる。
【0054】
≪応用例≫
本開示の応用例は、光学部材についてである。
本開示の光学部材は、上記に記載の多層膜を有する、ことを特徴とする。
図3および図4は、それぞれ本開示の光学部材の一実施形態における構成を示す概略図である。図3は監視カメラ用のレンズカバーであり、ドーム型樹脂基材21の表面に本開示の多層膜を形成したものである。また、図4は眼鏡であり、本開示の光学部材の一実施形態である眼鏡レンズ31と、メガネフレーム32から構成されている。眼鏡レンズ31の両表面には、本開示の多層膜が形成されている。
【0055】
本開示の多層膜は、反射防止膜や各種光学フィルター多層膜、光学ミラー多層膜などの光学薄膜として利用することができる。また、光学フィルター、光学レンズ、採光レンズ、光学フィルム、光学プリズム、眼鏡レンズ、写真用レンズ、監視カメラのカバー、車載カメラのカバー、車載センサーのカバー、車両用ドアミラー、板ガラス、集光レンズ、ディスプレイ用カバーガラス、タッチパネルおよび各種フィルムなどの光学部材や該光学部材を保護するカバーなどに用いることができる。また、基材11の、上述した各層を設ける面以外の面に、目的や機能に応じた組成、屈折率、膜厚、層数などを有する層のコーティングをすることで、ミラー層、ハーフミラー層、光吸収層、透明ヒーター層、反射防止層など、特定の機能を付加した光学部材にすることができる。
【0056】
≪第3の実施形態≫
第3の実施形態は、多層膜の製造方法についてである。
本開示の多層膜の製造方法は、
基材の上に直接あるいは他の層を介して、酸化セリウムを含有する層を真空蒸着法により形成する工程(A)と、
前記酸化セリウムを含有する層の上に直接あるいは他の層を介して、低屈折率層を真空蒸着法により形成する工程(B)と
を含み、
前記低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層を有し、
前記酸化セリウムを含有する層が、立方晶系多結晶構造および柱状構造を含む酸化セリウムを含有し、
前記酸化セリウムを含有する層の膜厚が、85nm以上800nm以下とし、
前記酸化セリウムを含有する層全体を領域(A)とし、前記領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下であり、
前記低屈折率層の膜厚が、50nm以上240nm以下である、ことを特徴とする。
以下に、説明をする。多層膜については、上記の通りなので、説明を一部省略する。
【0057】
上記工程(A)で形成する酸化セリウムを含有する層13は、特定の酸素欠損率を有する立方晶系多結晶構造からなる酸化セリウムを含有し、また、上記工程(A)で形成する酸化セリウムを含有する層13の膜厚は、85nm以上800nm以下である。また、上記工程(B)で形成する酸化ケイ素を含有する層14またはフッ化マグネシウムを含有する層15の膜厚は、50nm以上240nm以下である。波長500nmの光に対する、上記工程(B)で形成する酸化ケイ素を含有する層14およびフッ化マグネシウムを含有する層15の、屈折率は、1.65以下である。
【0058】
本開示の多層膜の製造方法は、基材の上に直接あるいは他の層を介して、酸化セリウムを含有する層を真空蒸着法により形成する工程(A)と、前記酸化セリウムを含有する層の上に直接あるいは他の層を介して、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層を真空蒸着法により形成する工程(B)とを含む。真空蒸着するときの基材の温度は、酸化セリウムが結晶化する温度が好ましい。使用する基材の耐熱温度や他の成膜条件にもよるが、通常0℃以上、500℃以下の範囲で温度を選択することができる。
【0059】
真空蒸着における蒸発方法は、膜形成材料が蒸発する方法であれば限定されない。例えば、蒸発方法には、電子銃や抵抗加熱、レーザーのような蒸発手段を適用することができる。また、上記蒸発手段には、必要に応じてイオンアシスト、プラズマアシストなどを併用することができる。
【0060】
本開示の多層膜の製造方法は、工程(A)の前に、あらかじめ雰囲気の水分子(HO)の分圧と酸素分子(O)の分圧との合計値が、2×10-2Pa以下であることが好ましく、5.9×10-4Pa以下であることがより好ましい。また、領域(B)の成膜中の水分子(HO)の分圧と酸素種(本発明において、酸素種とは、酸素原子、酸素分子、酸素イオンをいう。)の分圧との合計値が、平均で2×10-2Pa以下であることが好ましく、平均で7.8×10-3Pa以下であることがより好ましい。
【0061】
蒸着装置内の真空度が同一(例えば真空度7×10-4Pa)であっても蒸着装置内の状態が異なる場合、例えば汚れ具合、微小な真空リークがある場合とリークがほとんどない場合、事前のベーキングの実施などによって、真空雰囲気中に残存する気体の分圧比が大きく変わる。その結果、酸化セリウムを含有する層を成膜する前および成膜中の気体分圧が変化するため、得られる酸化セリウムを含有する層13の特性に影響する場合がある。例えば、成膜前に装置内の蒸発元周辺や壁面などの吸着物質(水分子など)が少なくなるように、清掃を行うことで水分子の分圧を低下させることができる。
【0062】
また、電子銃で成膜する膜形成材料については、最もよく利用される純銅製のハースライナーを使用すると高い熱および電気伝導性ゆえに、エネルギーロスが大きく、電子銃出力をより大きくしないと蒸発しないため、蒸発元周辺の温度がより高くなってしまう。そのため、脱離する吸着ガス(水分子など)量などがより多くなってしまう場合がある。純銅製ではなく、モリブデン製やタンタル製のハースライナーを使用することで、成膜中の電子銃出力を低くすることができる。また通常の無酸素銅よりモリブデンなどの方が、ガス含有量が少ない特長を有する。
【0063】
真空排気装置にはロータリーポンプ、拡散ポンプに加え、クライオチラーを設置すると、雰囲気の水分子分圧が低下しやすくなる。また、真空蒸着装置の壁面を加熱するヒーター(壁ヒーター)によって真空蒸着装置の壁面付近を加熱したり、事前にベーキングを行ったりすると、雰囲気の水分子分圧が低下しやすくなる。
【0064】
成膜プロセスを開始する前に、成膜装置のリークがほとんどないことを確認すると、装置内の酸素分圧を安定させることができる。なぜなら、微小なリークであっても装置周辺の空気が装置内に流れ込むため、雰囲気の酸素分圧が大きくなってしまい、得られる酸化セリウムを含有する層の特性に影響する場合があるからである。
【0065】
基材加熱する際は、基材の実際の温度が熱電対による計測温度と同じ温度になるまでタイムラグがある。基材熱設定温度、基材ホルダーの素材、基材の厚みなどにもよるが、熱電対の温度が設定温度に到達した後、10~20分間ほど待つ必要がある。また、基材には少なからず水分などが吸着しているため、基板が充分に加熱することにより、成膜前に基材に吸着している水分をより多く脱離させることができる。成膜中は蒸発元からの輻射熱によるエネルギーも加わるため、より基材から水分が脱離しやすくなる。そのため、基板を加熱する際は、基板温度測定用の熱電対が設定温度±2℃を示してから15分間以上経過後、成膜プロセスを開始した。
【0066】
基材を蒸着装置内に設置する際、通常ホルダー、ヤトイなどと呼ばれる治具を使用して基材を装置内にセッティングする。この治具については、洗浄した清浄なものを使用し、またSUS316LN製などのガス吸脱着が少ない素材を使用すると、成膜中に脱離する水分などのガス放出量を低減させることができる。一方、汚れがある治具や多孔質素材、素材が真鍮や合成樹脂である治具、あるいは亜鉛メッキされた治具などは、ガス放出量が多いため、成膜中に治具から、水分や酸素などのガス成分が脱離しやすくなる。
【0067】
これら内壁面清掃、クライオチラーの設置、リークの確認、基板加熱時間の制御、治具素材の選定などを行う理由は、酸化セリウムを含有する層13を成膜する際、同じガス導入条件(例えば全くガス導入しない場合や、酸素導入量を1×10-2Paとしたとき)であっても、雰囲気の酸素分子や水分子の分圧が異なってしまう。そのため、得られる酸化セリウムを含有する層の酸素欠損率に影響する場合がある。したがって、これらを行わない場合、その他の成膜条件などが本願実施例と同じであっても、本開示の酸化セリウムを含有する層13を含む多層膜が得られない場合がある。
【0068】
本開示の多層膜の製造方法は、酸化セリウムを含有する層全体を領域(A)とし、領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下である。また、本開示の多層膜の製造方法は、図1Bに示されるように、酸化セリウムを含有する層と低屈折率層(フッ化マグネシウムを含有する層または酸化ケイ素を含有する層)との界面から8nm以下の位置にある、酸化セリウムを含有する層の領域を領域(B)とし、領域(B)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、酸素欠損率(V)が、0.5%以上30%以下であり、領域(A)のうち、領域(B)を除いた領域を領域(C)とし、領域(C)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、酸素欠損率(V)が、0%以上10%以下であり、酸素欠損率(V)が、前記酸素欠損率(V)より大きいことが好ましい。
【0069】
上記の方法により、本開示の多層膜を好適に製造することができる。
【実施例
【0070】
以下、本開示を実施例に挙げてさらに詳細に説明するが、本開示は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0071】
実施例における多層膜作製および評価のために使用した材料を以下に記す。
【0072】
(基材)
以下に挙げる素材の平板を基材として使用した。なお、蒸着時の基材温度が100℃以上の場合は、樹脂製以外の基材を使用した。それ以外の基材温度の場合は、下記すべての基材を使用した。なおシリコンと塩化ナトリウムの基材は酸素欠損率の分析や電子顕微鏡による膜厚測定用として使用した。
・硼珪酸ガラス:厚さ3mm
・合成石英:厚さ3mm
・ポリカーボネート樹脂:厚さ2mm
・ポリメタクリル酸メチル樹脂:厚さ2mm
・シリコン:厚さ1mm
・塩化ナトリウム:厚さ2mm
(膜形成材料)
以下に挙げる材料を使用した。
・Ce:粒状、純度99.9%
・CeO:円柱状、純度99.9%
・La:円柱状、純度99.9%
・Sm:円柱状、純度99.9%
・SiO:粒状、純度99.9%
・SiO:粒状、純度99.9%
・Al:粒状、純度99.95%
・MgF:粒状、純度99.9%
・Ti:粒状、純度99.9%
・TaO:粒状、純度99.9%
・Cr:粒状、純度99.9%
(イオンアシスト成膜用ガス)
・O:ガス、純度99.999%
・Ar:ガス、純度99.999%
(真空リーク確認用ガス)
・He:ガス、純度99.9999%
(測定時のエッチング用ガス)
・Ar:ガス、純度99.9999%
(試薬など)
・純水:JIS K0557 A4
・ステアリン酸:JIS K8585特級、純度99.9%
・ヘプタン:JIS K9701特級、純度99.9%
【0073】
(多層膜の作製)
多層膜の作製における、実施例および比較例の共通の成膜方法および成膜条件を説明する。成膜装置として真空蒸着装置(ドーム径Φ1300mm、蒸着距離1100mm)を用いた。
蒸着装置内に設置した全基材で同一の多層膜が得られるように、温度分布、膜形成材料の成膜速度、イオンアシストの入射イオン分布などがすべてのドーム上に設置した基材および、モニター基材で同一になるように調整した。この調整のために、ファラデーカップや熱電対、膜厚測定装置などよる測定と補正板や、シーズヒーターの配置、ヒーター出力の最適化を繰り返した。
成膜前に装置内の蒸発元周辺やドーム、壁面を、研磨および有機溶剤(イソヘキサン)による拭き取り清掃を行った。
【0074】
続いて、前記の膜形成材料と清浄な基材各種とを真空蒸着装置内にセッティングした。
電子銃で成膜する蒸着材料については、清浄かつ脱ガス処理したモリブデン製ハースライナーに設置して蒸発させた。基材ホルダーには、清浄かつ脱ガス処理したSUS316LN製のものを使用した。
得られる試験片が多層膜のみであると分析や解析評価が困難になる場合があるため、各層ごとに基材を交換できる機構に各種基材をセッティングし、多層膜だけでなく分析、解析評価用の単層膜も同時に得られるようにした。
【0075】
その後、成膜を開始する真空度、水分子および酸素分子の分圧になるまで排気した。真空排気装置にはロータリーポンプ、拡散ポンプに加え、クライオチラー(PFC-1102HC、Polycold社製)を併用した。
成膜プロセスを開始する前に、リーク検知用のHeガスおよび四重極質量分析計(Qulee with YTP-H、アルバック社製)をリークディテクターとして使用して、真空蒸着装置にリークがほとんど無いことを確認した。確認項目として、質量分析計がリーク検知用のHeガスを検出しないことおよび窒素分子(質量数28)と酸素分子(質量数32)の比率が大気中の比率(N:O=79%:21%)とは明らかに異なることを確認した。
【0076】
酸化セリウムを含有する層13の成膜開始前に雰囲気の水分子の分圧および酸素分子の分圧を電離真空計および四重極質量分析計により測定、算出した。
また、酸化セリウムを含有する層13の領域(B)を成膜中に、1秒ごとに水分子の分圧と酸素種(酸素原子、酸素分子、酸素イオン)の分圧を電離真空計および四重極質量分析計により測定、算出し、これらの分圧を合計し、平均して、領域(B)成膜中の平均分圧を算出した。
成膜時の基材温度は、-15℃以上600℃以下である。基材温度が設定温度±2℃に達してから15分間以上経過したから成膜プロセスを開始した。
【0077】
その後、セッティングした基材上に膜形成用材料を真空蒸着法によって、表1-1~表1-4に挙げる通りに多層膜を形成して、試験片を得た。
特に記載がない場合、酸化セリウムを含有する層は0.5nm/sの成膜速度で蒸着した。各層を成膜中のドーム回転速度は20rpmとした。CeO+AlやSiO+Alなどの2成分からなる膜は、2種類の膜形成用材料を、2箇所の加熱源それぞれに設置して、同時に蒸発させる方法である二元蒸着法により成膜した。MgFおよびSiOを膜形成材料として使用する際は、加熱源としてタンタルボートおよび抵抗加熱を使用した。
【0078】
なお、各実施例1~66および比較例1~22において、基材の種類を変えて得られた多層膜同士は、実質的に違いがなかったため、表1-1~表1-4には1例のみ記載した。また、表1-1~表1-4中の「結晶質」は、酸化セリウムを含有する層が、立方晶系多結晶構造を有する酸化セリウムを含有することを意味し、「非晶質」は、酸化セリウムを含有する層が、立方晶系多結晶構造を有する酸化セリウムを含有しないことを意味する。表1-1~表1-4中の「柱状」は、酸化セリウムを含有する層が、柱状構造を有する酸化セリウムを含有することを意味し、「非柱状」は、酸化セリウムを含有する層が、柱状構造を有する酸化セリウムを含有しないことを意味する。
【0079】
以下、多層膜作製における各実施例および比較例の個別条件について説明する。
[実施例1]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.53×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B):酸化セリウムを含有する層と、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層との界面から、8nm以下の位置にある酸化セリウムを含有する層の領域)の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.11×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0080】
[実施例2]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを105℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.50×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.06×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0081】
[実施例3]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを110℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.50×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAlを用いて、SiO+Al3膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.05×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0082】
[実施例4]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを115℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.49×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.03×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0083】
[実施例5]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを140℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.48×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.00×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0084】
[実施例6]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを120℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.47×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.98×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0085】
[実施例7]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを125℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.45×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.96×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0086】
[実施例8]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを130℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.45×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.94×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0087】
[実施例9]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを135℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.44×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al3膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.92×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0088】
[実施例10]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを140℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.39×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.84×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0089】
[実施例11]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを145℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.38×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.80×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0090】
[実施例12]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを150℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.37×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.78×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0091】
[実施例13]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを155℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.34×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.73×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0092】
[実施例14]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.33×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.71×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0093】
[実施例15]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを165℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.26×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.57×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0094】
[実施例16]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを150℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.71×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、0.7nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で4.89×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0095】
[実施例17]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを175℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.78×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、1.0nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で7.23×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0096】
[実施例18]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを180℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.96×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、1.5nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で1.20×10-2Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0097】
[実施例19]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.87×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で5.84×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0098】
[実施例20]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.83×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で5.76×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0099】
[実施例21]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを200℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.03×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてSmおよびCeOを用いて、0.65nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.71×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0100】
[実施例22]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.84×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で5.76×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0101】
[実施例23]
真空蒸着装置の基材温度を250℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が250±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.51×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層を成膜する際には、RFイオン源によるイオンアシストを行った。イオンアシストの条件は、加速電圧値700V、加速電流値700mA、Oガス流量60sscmである。また、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、イオンガンおよびガス導入を停止して成膜した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、イオンガンおよびガス導入を停止して成膜した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.08×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0102】
[実施例24]
真空蒸着装置の基材温度を350℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が350±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.49×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層を成膜する際には、Auto Pressure Control(APC)による酸素導入を行った。酸素ガスの導入量は1.9×10-2Paである。また、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、酸素ガス導入を停止してから1分間後に成膜した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.03×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0103】
[実施例25]
真空蒸着装置の基材温度を300℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が300±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.45×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層を成膜する際には、RFイオン源によるイオンアシストを行った。イオンアシストの条件は、加速電圧値700V、加速電流値700mA、Oガス流量35sscm、Arガス流量7sccmである。また、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、イオンガンおよびガス導入を停止して成膜した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.95×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0104】
[実施例26]
真空蒸着装置の基材温度を300℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が300±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.39×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層を成膜する際には、RFイオン源によるイオンアシストを行った。イオンアシストの条件は、加速電圧値700V、加速電流値700mA、Oガス流量30sscm、Arガス流量10sccmである。また、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、イオンガンおよびガス導入を停止して成膜した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.83×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0105】
[実施例27]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.45×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、2.0nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で1.99×10-2Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0106】
[実施例28]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.87×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で5.84×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0107】
[実施例29]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.51×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.08×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0108】
[実施例30]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.51×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.08×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0109】
[実施例31]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.50×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種との分圧の合計値は、平均で3.05×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0110】
[実施例32]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.47×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.98×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0111】
[実施例33]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.45×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.95×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0112】
[実施例34]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.42×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.89×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0113】
[実施例35]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.38×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.80×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0114】
[実施例36]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.37×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.80×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0115】
[実施例37]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.31×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.66×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0116】
[実施例38]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを200℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、9.84×10-5Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてLaおよびCeOを用いて、0.7nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.80×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0117】
[実施例39]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.87×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で5.84×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0118】
[実施例40]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.27×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.59×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0119】
[実施例41]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.51×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.08×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0120】
[実施例42]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.37×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.79×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0121】
[実施例43]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.51×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.08×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0122】
[実施例44]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.45×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.94×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0123】
[実施例45]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.51×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.08×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0124】
[実施例46]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.45×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.95×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0125】
[実施例47]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.51×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.07×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0126】
[実施例48]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.41×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.87×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0127】
[実施例49]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.51×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.07×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0128】
[実施例50]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.37×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.78×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0129】
[実施例51]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.51×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.08×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0130】
[実施例52]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.45×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.95×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0131】
[実施例53]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.50×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.05×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0132】
[実施例54]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.44×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.94×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0133】
[実施例55]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.37×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.79×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0134】
[実施例56]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.22×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.49×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0135】
[実施例57]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.08×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、3.0nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al3膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.54×10-2Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0136】
[実施例58]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを160℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.87×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.51×10-2Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0137】
[実施例59]
真空蒸着装置の基板加熱をOFF、壁ヒーターを50℃に設定して真空排気した。成膜前の基板温度は28℃であった。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.22×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製したなお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.48×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0138】
[実施例60]
真空蒸着装置の基板加熱をOFF、壁ヒーターを50℃に設定して真空排気した。成膜前の基板温度は31℃であった。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.45×10-4Paであった。各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.95×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0139】
[実施例61]
真空蒸着装置の基材温度を100℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が100±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、9.54×10-5Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で1.94×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0140】
[実施例62]
真空蒸着装置の基材温度を100℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が100±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.36×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.78×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0141】
[実施例63]
真空蒸着装置の基材温度を270℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が270±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.87×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で5.84×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0142】
[実施例64]
真空蒸着装置の基材温度を270℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が270±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.84×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、1.0nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で7.50×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0143】
[実施例65]
真空蒸着装置の基材温度を500℃、壁ヒーターを200℃に設定して真空排気した。基材温度が500±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.37×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製したなお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で2.79×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0144】
[実施例66]
真空蒸着装置の基材温度を500℃、壁ヒーターを200℃に設定して真空排気した。基材温度が500±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.87×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてYおよびCeOを用いて、0.7nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で8.18×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0145】
[比較例1]
真空蒸着装置の基材温度を300℃、壁ヒーターを50℃に設定して真空排気した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、8.20×10-3Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、0.2nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で6.68×10-2Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0146】
[比較例2]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、6.15×10-3Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、0.2nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で5.01×10-2Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0147】
[比較例3]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.53×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、0.2nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層を成膜する際には、Auto Pressure Control(APC)装置にて真空度が1.8×10-2PaになるようにOガスを導入した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で1.80×10-2Paであった。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0148】
[比較例4]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.53×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、0.2nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際には、RFイオン源によるイオンアシストを行った。イオンアシストの条件は、加速電圧値700V、加速電流値700mA、Oガス流量50sscmとした。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.11×10-3Paであった。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0149】
[比較例5]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを150℃に設定して真空排気した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.91×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、0.9nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、成膜速度を0.1nm/sに変更して成膜した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で1.07×10-2Paであった。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0150】
[比較例6]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを150℃に設定して真空排気した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.87×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、1.0nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、成膜速度を0.1nm/sに変更して成膜した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で1.17×10-2Paであった。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0151】
[比較例7]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを150℃に設定して真空排気した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.83×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、1.1nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、成膜速度を0.1nm/sに変更して成膜した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で1.27×10-2Paであった。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0152】
[比較例8]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを150℃に設定して真空排気した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.79×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、1.2nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、成膜速度を0.1nm/sに変更して成膜した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で1.36×10-2Paであった。続いてその上に、膜形成材料としてSiOおよびCeO用いて、SiO+CeO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0153】
[比較例9]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを150℃に設定して真空排気した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.75×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeおよびCeOを用いて、1.4nm/sの成膜速度で酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、成膜速度を0.1nm/sに変更して成膜した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で1.57×10-2Paであった。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0154】
[比較例10]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.53×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層を成膜する際には、APCによる酸素導入を行った。酸素ガスの導入量は5.0×10-2Paである。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で5.00×10-2Paであった。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0155】
[比較例11]
真空蒸着装置の基材温度を250℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が250±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.52×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層を成膜する際には、RFイオン源によるイオンアシストを行った。イオンアシストの条件は、加速電圧値が700Vであり、加速電流値が700mAであり、Oガス流量が80sscmである。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.09×10-2Paであった。続いて、その上に、膜形成材料としてSiOおよびAl用いて、SiO+Al膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0156】
[比較例12]
真空蒸着装置の基材温度を250℃、壁ヒーターを100℃に設定して真空排気した。基材温度が250±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.52×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層を成膜する際には、RFイオン源によるイオンアシストを行った。イオンアシストの条件は、加速電圧値が700Vであり、加速電流値が700mAであり、Oガス流量が70sscmである。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.02×10-2Paであった。また。続いてその上に、膜形成材料としてMgFを用いて、MgF膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。
【0157】
[比較例13]
実施例34の柱状構造を有する酸化セリウムを含有する層の代わりに、非柱状構造の酸化セリウムを含有する層が得られるように、基材温度を600℃に変更した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.51×10-4Paであった。酸化セリウムを含有する層の成膜には、RFイオン源によるイオンアシストを行った。イオンアシストの条件は、加速電圧値が900Vであり、加速電流値が1000mAであり、Oガス流量が6sscmであり、Arガス流量が34sccmである。また、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、イオン源のOガス流量を2sscmに変更し、Arガス流量を38sccmに変更して成膜した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.08×10-3Paであった。それ以外は実施例34と同様の方法で多層膜を作製した。
【0158】
[比較例14]
実施例36の柱状構造を有する酸化セリウムを含有する層の代わりに、非柱状構造の酸化セリウムを含有する層が得られるように、基材温度を600℃に変更した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.51×10-4Paであった。酸化セリウムを含有する層の成膜には、RFイオン源によるイオンアシストを行った。イオンアシストの条件は、加速電圧値が1000Vであり、加速電流値が1000mAであり、Oガス流量が3sscmであり、Arガス流量が37sccmである。また、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))を成膜する際は、イオン源のOガス流量を0sscmに変更し、Arガス流量を40sccmに変更して成膜した。酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で3.07×10-3Paであった。それ以外は実施例36と同様の方法で多層膜を作製した。
【0159】
[比較例15]
実施例19の立方晶系多結晶のCeO層の代わりに、非晶質のCeO層が得られるように、基材温度を-18℃に変更し、加えて壁ヒーターをOFFにしてから真空排気し、成膜した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.38×10-5Paであった。また、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で4.84×10-4Paであった。それ以外は実施例19と同様の方法で多層膜を作製した。
【0160】
[比較例16]
実施例20の立方晶系多結晶のCeO層の代わりに、非晶質のCeO層が得られるように、基材温度を-18℃に変更し、加えて壁ヒーターをOFFにしてから真空排気し、成膜した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.87×10-4Paであった。また、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で5.84×10-3Paであった。それ以外は実施例20と同様の方法で多層膜を作製した。
【0161】
[比較例17]
実施例24のSiO膜を形成する代わりに、SiOを用いて1.3nm/sの成膜速度でSiO膜を形成した。SiO膜は屈折率が大きく、光吸収による光損失量も多いため、光学薄膜として不適であった。
【0162】
[比較例18]
真空蒸着装置の基材温度を400℃、壁ヒーターを180℃に設定して真空排気した。基材温度が400±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始前に水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、2.87×10-4Paであった。その後、各種基材上に、膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。続いてその上に、膜形成材料としてYを用いてY膜を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B))の成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で5.84×10-3Paであった。その他の成膜条件は、(多層膜の作製)に記載した通りである。Y膜より屈折率が大きいため、光学部材として不適であった。
【0163】
(酸素欠損率の評価)
得られた多層膜の試験片をエックス線光電子分光装置(Scienta社製 ESCA-300)に導入して、高真空になるまで排気した。多層膜の酸化セリウムを含有する層13より上層の薄膜をアルゴンイオンによるエッチングで除去した。続いて、Ce 3d軌道のXPSスペクトル測定とアルゴンイオンによるエッチングを繰り返した。多層膜の分析エリア変えて合計3箇所した。得られた結果から酸化セリウムを含有する層(13)の酸素欠損率(V)、酸素欠損率(V)、酸素欠損率(V)を算出した。
【0164】
エックス線光電子分光法の定量下限を下回る酸素欠損率については、走査透過型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製、HF5000)で観察・投影・酸素空孔の計測を行った。測定する多層膜の前処理としては、(1)試料の得られた多層膜を基材ごと割り、切断して断面を露出させる、(2)集束イオンビーム(FIB)による加工、(3)イオンビームによる垂直方向へのエッチングの(1)~(3)作業のいずれかもしくは組み合わせて、測定部位を採取・微細加工を行った。また加工の際は、酸素空孔の変化を最小限にするために、低温、アルゴンガス、真空ポンプを組み合わせた雰囲気で成膜直後に行った。
【0165】
その後、加速電圧200kVの条件にて、酸化セリウムを含有する層の酸素原子の有無が分かるHAADF-STEM像およびABF-STEM像を膜厚の深さ方向に段階的に得た。軽元素である酸素や酸素空孔の観察を補助するために、同じエリアのLAADF-STEM像も得た。層膜の分析エリア変えて合計5箇所の像を得た。得られた各々の像をソフトウェア処理してマッピング像に変換し、酸素サイト数と酸素空孔の数をカウントして、酸化セリウムを含有する層の酸素欠損率(V)、(V)、(V)を求めた。
【0166】
実施例19~22、28、38、39、比較例5~9で得られた多層膜については、エックス線吸収微細構造法(XAFS)による酸素欠損率(V)の測定も行った。標準試料としてCeOおよびCe(NO-6HOを使用し、測定吸収端はCe-L吸収端(5723.0eV)、検出器に多素子シリコンドリフトを使用した蛍光収量法により測定を行った。得られたXANESスペクトルのフィッティング結果より酸素欠損率を算出した。エックス線光電子分光法や電子顕微鏡で測定した酸素欠損率値と差は殆ど無く、酸素欠損率の測定が妥当であることを確認した。
【0167】
(厚さ(膜厚)の測定と屈折率の測定)
実施例および比較例の多層膜の各層の厚さおよび屈折率は分光エリプソメトリー(JA WOOLLAM社製 ESM300)を用いて求めた。光源の波長は192nmから1000nmとし、入射角度は45°~65°の範囲を5°ごとに測定した。また、解析の精度を向上させるために、透過率も合わせて測定した。得られた反射および透過率データを、Cauchy、Gaussian、Tauc-Lorentz、有効媒質近似(表面ラフネス)などのモデルを組み合わせて解析を行い、膜厚および屈折率を求めた。多層膜であるため、層数と膜厚が複雑であり、解析が困難な場合がある。その際は、同一バッチの成膜で別途得られた単層膜を測定および解析を行い、得られた屈折率などのデータを利用して解析を行った。
【0168】
(組成の測定)
実施例および比較例の多層膜におけるSiO+CeOやSiO+Alなどの2成分からなる層の組成を、波長分散型蛍光エックス線分光分析装置((株)リガク製 ZSX PrimusII)により測定して求めた。層ごとの定量分析が困難な場合は、同一バッチの成膜で別途得られた単層膜について測定を行った。
【0169】
(構造の確認)
Si基板上に形成した多層膜を、断面を超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(JSM-IT800、日本電子(株)製)によって反射電子像および二次電子像を観察した。得られた画像から柱状構造であるか、それ以外の構造(非柱状)であるかを確認した。その際、各層の膜厚も確認した。前記エリプソメーターで得られた膜厚値との差は殆ど無く、エリプソメーターによる膜厚測定が妥当であることを確認した。また、各層の組成をエネルギー分散型エックス線分光法(EDX)によっても測定を行い、前記の(組成の測定)で得られた値と差は殆ど無く、前記の組成の測定が妥当であることを確認した。
【0170】
(結晶性の測定)
実施例および比較例の多層膜をXRD回折装置(Smart Lab、(株)リガク製)にて集中法により2θ=20°~100°の範囲を0.01°のステップ、5°/分のスピードで測定し、回折線強度などにより層の同定および結晶性の確認を行った。多層膜であるため、MgFやSiO+CeOなどの回折強度が解析の妨げになる場合がある。その際は、同一バッチの成膜で別途得られた単層膜についても測定して、あわせて解析を行った。酸化セリウムを含有する層に起因する回折ピークがある多層膜については結晶質と判断し、酸化セリウムを含有する層に起因する回折ピークが無い多層膜については非晶質と判断した。
【0171】
(親水性維持評価)
実施例および比較例の多層膜を暗所(温度23±2℃,湿度60±15%RH)に60日間放置し、その後、水に対する接触角を測定した。前記測定後、基材をさらに暗所に240日間放置し、合計300日間暗所に放置した後、水に対する接触角を測定した。なお、接触角計には協和界面科学(株)製 CA-X150型を使用し、試験片にマイクロシリンジから2.5mLの純水を滴下して、滴下5秒後の接触角をθ/2法により求めた。
表面の親水性は水との接触角によって定量化することができる。一般に20°未満の場合を親水性、10°未満の場合は超親水性と呼ばれる。それに倣い、接触角10°未満の場合は[A]の評価とし、接触角10°以上20°未満の場合は[B]の評価、接触角が20°以上の場合は[C]の評価とした。
【0172】
(自己浄化性能評価)
実施例および比較例の多層膜に、JIS R1753-1に準拠して、ステアリン酸のヘプタン溶液(0.3質量%)を用いてステアリン酸を塗布し、乾燥機で70℃、30分間乾燥した。その後、ステアリン酸を塗布した試験片の接触角を、(親水性維持評価)に記載の方法と同様に測定し、接触角が20°以上になっていることを確認した。接触角が20°以上になっていない場合は、接触角が20°以上になるまでステアリン酸の塗布、乾燥、接触角測定を繰り返した。その後、ステアリン酸を塗布した多層膜に紫外線を2時間および30時間照射した後、再び接触角を測定し、紫外線照射後の水接触角を求めた。紫外線光源にはブラックライトブルー蛍光灯((株)ホタルクス製 FL20SBL-B)を用いた。紫外線は、照度が2.0mw/cmとなるように、試験片に照射した。
前記の(親水性維持評価)における評価と同様に、接触角10°未満の場合は[A]の評価とし、接触角10°以上20°未満の場合は[B]の評価、接触角が20°以上の場合は[C]の評価とした。
【0173】
(親水性維持評価)および(自己浄化性能評価)で得られた結果を表1-1~表1-4に示す。なお、各実施例および比較例において、評価結果は基材の種類に依らず同じであった。
【0174】
(光学特性の評価)
実施例および比較例の多層膜の入射角5°における透過率および反射率を測定した。測定装置として紫外可視近赤外分光光度計(日立ハイテク製 UH4150)を使用し、測定波長範囲450nm~1200nmを1nmごとに測定した。得られた波長ごとの透過率(%)および反射率(%)の平均値を求め、平均透過率(%)および平均反射率(%)を得た。100%から平均透過率(%)および平均反射率(%)を差し引き、光損失の平均値を求めた。光損失の平均値が1%未満の場合は[A]の評価とし、1%以上の場合は[C]の評価とした。
【0175】
【表1-1】
【0176】
【表1-2】
【0177】
【表1-3】
【0178】
【表1-4】
【0179】
[比較例23]
実施例23の酸化セリウムを含有する層を成膜する代わりに、TiO膜を形成した。その際、膜形成材料としてTiを使用した。その他の成膜条件は、実施例23と同じ条件で多層膜を形成した。TiO層の結晶性を評価した結果、アナターゼ型の多結晶であった。また構造を評価した結果、柱状構造であった。親水性維持性能を評価した結果、60日間経過後の水接触角が58.7°であり、300日間経過後の水接触角が63.4°であった。自己浄化性能を評価した結果、2時間照射後の水接触角が77.5°であり、30時間照射後の水接触角が72.5°であった。
【0180】
[比較例24]
実施例24の酸化セリウムを含有する層を成膜する代わりに、TiO膜を形成した。その際、膜形成材料としてTiを使用した。その他の成膜条件は、実施例24と同じ条件で多層膜を形成した。TiO層の結晶性を評価した結果、主成分がアナターゼ型結晶で、その他に微量のルチル型結晶が存在する多結晶であった。また構造を評価した結果、柱状構造であった。親水性維持性能を評価した結果、60日間経過後の水接触角が39.4°であり、300日間経過後の水接触角が61.6°であった。自己浄化性能を評価した結果、2時間照射後の水接触角が72.3°であり、30時間照射後の水接触角が63.4°であった。
【0181】
[比較例25]
各種基材を真鍮製および純度99.5%アルミニウム製ホルダーにセットし、真空蒸着装置の基板加熱をOFF、壁ヒーターをOFFに設定して、1.3×10-3Pa以下まで真空排気した。成膜前の基板温度は24℃であった。各種基材上に第1層としてCr層(1nm)を形成した。無酸素銅製のハースライナーと膜形成材料としてCeOを用いて、酸化セリウムを含有する層を形成した。酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値分圧を確認したところ、8.94×10-4Paであった。続いてその上に、膜形成材料としてSiOを用いて、SiO膜(低屈折率層)を形成し、多層膜を作製した。なお、酸化セリウムを含有する層の表層側8nm(領域(B):酸化セリウムを含有する層と、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層との界面から、8nm以下の位置にある酸化セリウムを含有する層の領域)のを成膜中における、水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値は、平均で8.03×10-3Paであった。得られた多層膜について、実施例1~68の多層膜と同様に、結晶性、構造、光学特性、酸素欠損率について評価を行った。評価の結果、酸化セリウムを含有する層は結晶質の柱状構造であり、酸素欠損率は、Vが0.02%、Vが0.01%、Vが0.02%であった。SiO層の屈折率は1.46であった。また多層膜の光損失は1.4%であり、光学特性は[C]評価であった。
【0182】
[実施例67]
実施例3で得られた多層膜を有する平板ガラスを加工し、市販車両の近赤外線センサーの外側に装着して、センサーの保護カバーとした。
【0183】
[実施例68]
使用する基材として、アクリル系ハードコートが施されたポリメタクリル酸メチル樹脂(三菱ケミカル製 アクリライト(登録商標))製のドーム型透明基材を使用し、真空蒸着装置の基材温度を50℃、壁ヒーターを50℃に設定して真空排気した。基材温度が50±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.49×10-4Paであった。膜形成材料としてSiOを使用して、SiO膜(200nm)を0.3nm/sの蒸着速度で1層目に形成した。
【0184】
次に、膜形成材料としてTaOを使用して、Ta膜(14nm)を0.2nm/sの蒸着速度で2層目に形成した。3層目に、膜形成材料としてSiOを使用して、SiO膜(35nm)を0.7nm/sの蒸着速度で1層目に形成した。4層目に、膜形成材料としてCeおよびCeOを使用して、酸化セリウムを含有する層(256nm)を0.3nm/sの蒸着速度で形成した。5層目に、膜形成材料としてSiOおよびCeOを使用して、0.5nm/sの蒸着速度でSiO(95%)+CeO(5%)膜(79nm、屈折率1.52)を形成した。最後の6層目に、膜形成材料としてSiOを使用して、SiO膜(10nm、屈折率1.46)を形成し、多層膜を作製した。なお成膜中は、基材を遊星回転させながら多層膜を作製した。
【0185】
また1、2、4層目の成膜時には、RFイオン源を使用してイオンアシストを行った。その際1層目については、加速電圧値280V、加速電流値280mA、Oガス流量40sccmの条件下でイオンアシストを行い、また2層目については、加速電圧値が500Vであり、加速電流値が500mAであり、Oガス流量が60sccmである条件下でイオンアシストを行った。5層目については、加速電圧値500V、加速電流値500mA、Oガス流量40sccmの条件下でイオンアシストを行い、5層目の表層側8nmを成膜する際は、成膜速度を0.5nm/sに変更し、さらにイオン源のOガス流量を0sccm、Arガス流量40sccmに変更して成膜した。
【0186】
得られた多層膜付きのドーム型樹脂基材および同時に成膜した各種基板について、実施例1~68の多層膜と同様に、薄膜の組成、結晶性、構造、酸素欠損率、光学特性について評価を行った。評価の結果、SiO+CeO層の組成は、SiO(95%)+CeO(5%)、膜厚は79nm、屈折率は1.52であった。SiO層の屈折率は1.46であった。また、酸化セリウムを含有する層は結晶質の柱状構造であり、酸素欠損率は、Vが0.05%、Vが0.52%、Vが0.03%であり、光損失は1.5%未満であった。続いて、得られた多層膜付きのドーム型樹脂基材を、監視カメラカバーとして使用するために、監視カメラに装着した。
【0187】
作製したカバーを装着した監視カメラを、暗所である商品化粧箱の中に4か月間保管した。その後、夜間の雨天時に屋外に設置し、降雨で水が付着した場合も、水滴がカバー上に濡れ広がり、良好な視認性を維持した。また水分が乾燥した後も水跡は残らず、良好な視認性を維持した。さらに屋外設置した8か月後の雨天時も、水滴がカバー上に濡れ広がり、良好な視認性を維持した。
【0188】
[実施例69]
使用する基材を、シリコン系ハードコートが施された樹脂基材(三井化学製MR-8)とし、真空蒸着装置の基材温度を80℃、壁ヒーターを80℃に設定して真空排気した。基材温度が80±2℃に達してから15分間以上経過したときであって、酸化セリウムを含有する層の成膜プロセスを開始する前に、水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値を確認したところ、1.52×10-4Paであった。膜形成材料としてAlを使用してAl膜(82nm)を多層膜の1層目に形成した。2層目に、膜形成材料としてCeおよびCeOを使用して、CeO膜(252nm)を形成した。3層目に、膜形成材料としてSiOおよびAlを使用して、SiO(95%)+CeO(5%)膜(75nm、屈折率1.52)を形成した。最後の4層目に、膜形成材料としてSiO用を使用して、SiO膜(15nm、屈折率1.46)を形成し、多層膜を作製した。なお成膜中は、0.5nm/sの蒸着速度によって多層膜を作製した。得られた多層膜付きの樹脂基材を加工して、眼鏡用のフレームに装着して、眼鏡を作製した。
【0189】
得られた多層膜付きのメガネレンズ基材および同時に成膜した各種基板について、実施例1~68の多層膜と同様に、結晶性、構造、酸素欠損率、光学特性について評価を行った。評価の結果、酸化セリウムを含有する層は結晶質の柱状構造であり、酸素欠損率は、Vが0.05%、Vが0.53%、Vが0.03%であり、光損失は1.5%未満であった。続いて、作製した眼鏡を、暗所であるアルミニウム製の眼鏡ケースの中に3か月間保管した。その後、レンズに水飛沫を付着させた場合、水滴がレンズ上に濡れ広がり、良好な視認性を維持した。その際の水の接触角は4.7°であった。また水分が乾燥した後も水跡は残らず、良好な視認性を維持した。
【産業上の利用可能性】
【0190】
本開示の多層膜は、光学フィルター、光学レンズ、採光レンズ、光学フィルム、光学プリズム、眼鏡レンズ、写真用レンズ、車両用ドアミラー、板ガラス、集光レンズ、ディスプレイ用カバーガラス、タッチパネル、および各種フィルムなどの光学部材や、監視カメラのカバー、車載カメラのカバー、車載センサーのカバーなどの光学部材を保護するカバーなどに利用することができる。
【0191】
また、本開示の光学部材は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、アクションカメラ、内視鏡、レンズ鏡筒、眼鏡、センサー、双眼鏡、望遠鏡、監視カメラ、車載カメラ、スマートフォン、タブレットPC、お天気カメラ、ライヴカメラ、保護ゴーグル、水中眼鏡、ヘッドマウントディスプレイ、サングラス、スマートグラス、フェイスシールド、ヘルメット用シールド、車両用ミラー、および浴室用ミラーなどの光学機器などやそれらを保護するカバーなどとして利用することができる。
【0192】
本開示は以下の実施形態を含む。
(1)
酸化セリウムを含有する層と、前記酸化セリウムを含有する層の上に直接あるいは他の層を介して、低屈折率層とを有し、
前記低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層を有し、
前記酸化セリウムを含有する層が、立方晶系多結晶構造および柱状構造を含む酸化セリウムを含有し、
前記酸化セリウムを含有する層の膜厚が、85nm以上800nm以下であり、
前記酸化セリウムを含有する層全体を領域(A)とし、前記領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下であり、
前記低屈折率層の膜厚が、50nm以上240nm以下であり、
波長500nmの光に対する、前記低屈折率層の屈折率が、1.65以下である、ことを特徴とする多層膜。
(2)
前記酸素欠損率(V)が、0.05%以上0.6%以下である、(1)に記載の多層膜。
(3)
前記酸素欠損率(V)が、0.1%以上0.3%以下である、(1)に記載の多層膜。
(4)
前記酸化セリウムを含有する層と前記低屈折率層との界面から8nm以下の範囲にある、酸化セリウムを含有する層の領域を領域(B)とし、前記領域(B)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.5%以上30%以下である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の多層膜。
(5)
前記酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下であって、
前記酸素欠損率(V)が、0.5%以上30%以下であって、
前記領域(A)のうち、前記領域(B)を除いた領域を領域(C)とし、前記領域(C)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0%以上10%以下であり、
前記酸素欠損率(V)が、前記酸素欠損率(V)より大きい、(1)~(4)のいずれか1つに記載の多層膜。
(6)
(1)~(5)のいずれか1つに記載の多層膜を有する、光学部材。
(7)
基材の上に直接あるいは他の層を介して、酸化セリウムを含有する層を真空蒸着法により形成する工程(A)と、
前記酸化セリウムを含有する層の上に直接あるいは他の層を介して、低屈折率層を真空蒸着法により形成する工程(B)と
を含み、
前記低屈折率層は、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層を有し、
前記酸化セリウムを含有する層が、立方晶系多結晶構造および柱状構造を含む酸化セリウムを含有し、
前記酸化セリウムを含有する層の膜厚が、85nm以上800nm以下とし、
前記酸化セリウムを含有する層全体を領域(A)とし、前記領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下であり、
前記低屈折率層の膜厚が、50nm以上240nm以下である、ことを特徴とする多層膜の製造方法。
(8)
前記酸化セリウムを含有する層と、前記低屈折率層との界面から、8nm以下の範囲にある酸化セリウムを含有する層の領域を領域(B)とし、前記領域(B)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0.5%以上30%以下であり、
前記領域(A)のうち、前記領域(B)を除いた領域を領域(C)とし、前記領域(C)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、前記酸素欠損率(V)が、0%以上10%以下であり、
前記酸素欠損率(V)が、前記酸素欠損率(V)より大きい、(7)に記載の多層膜の製造方法。
(9)
前記工程(A)の前に、あらかじめ雰囲気の水分子の分圧と酸素分子の分圧との合計値が、2×10-2Pa以下であり、
前記領域(B)の成膜中の水分子の分圧と酸素種の分圧との合計値が、平均で2×10-2Pa以下である、(7)または(8)に記載の多層膜の製造方法。
【符号の説明】
【0193】
11 基材
12 他の層
13 酸化セリウムを含有する層
14 フッ化マグネシウムを含有する層
15 酸化ケイ素を含有する層
16 二酸化ケイ素を含有する層
21 ドーム型樹脂基材
31 眼鏡レンズ
32 眼鏡フレーム
【要約】
【課題】光の反射率を低減させるために、表面の低屈折率層の膜厚を特定の厚さ以上にした場合にも、表面で光触媒反応による自己浄化機能が充分に発現し、また暗所において親水性を長期間維持できる多層膜を提供すること。
【解決手段】酸化セリウムを含有する層が、立方晶系多結晶構造および柱状構造を含む酸化セリウムを含有し、酸化セリウムを含有する層の膜厚が、85nm以上800nm以下であり、酸化セリウムを含有する層全体を領域(A)とし、領域(A)における酸化セリウムの酸素欠損率を酸素欠損率(V)とするとき、酸素欠損率(V)が、0.05%以上10%以下であり、酸化ケイ素を含有する層またはフッ化マグネシウムを含有する層の膜厚が、50nm以上240nm以下であり、波長500nmの光に対する低屈折率層を含有する層の屈折率が、1.65以下である、ことを特徴とする多層膜である。
【選択図】図1A
図1A
図1B
図2
図3
図4