(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】白血球捕捉デバイス
(51)【国際特許分類】
G01N 1/04 20060101AFI20240318BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20240318BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20240318BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20240318BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240318BHJP
C12M 1/26 20060101ALI20240318BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
G01N1/04 M
G01N1/04 G
G01N33/49 A
G01N35/08 A
G01N37/00 101
C12M1/00 A
C12M1/26
G01N1/10 V
(21)【出願番号】P 2022553758
(86)(22)【出願日】2021-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2021033343
(87)【国際公開番号】W WO2022070841
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2020163378
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【氏名又は名称】水野 基樹
(74)【代理人】
【識別番号】100217892
【氏名又は名称】松田 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】中村 麻子
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健太
(72)【発明者】
【氏名】小森 隆幸
【審査官】佐野 浩樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-109232(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0148140(US,A1)
【文献】特開2017-000921(JP,A)
【文献】特開2019-154241(JP,A)
【文献】特開2010-042020(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0138540(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0313332(US,A1)
【文献】特開2012-088055(JP,A)
【文献】特表2019-508050(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102360010(CN,A)
【文献】特表2009-509143(JP,A)
【文献】特開2005-140790(JP,A)
【文献】特開2003-102710(JP,A)
【文献】特表2008-538282(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0194420(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M1/00-3/10
G01N1/00-1/44
15/00-15/1492
33/48-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
前記凸部の入口側の端面における前記捕捉部以外の部分は層方向に平行に延びており、かつ、前記凸部における前記バイパス部を構成する端面は層方向に対して垂直方向に延びている、請求項1~3のいずれかに記載の白血球捕捉デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は白血球捕捉デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
DNAは放射線被曝や生活環境の影響により損傷を受ける。損傷を受けたDNAは癌などの疾患と密接な関係があるとされている。従来、このDNAの損傷を解析するためには5mlの血液を遠心分離して白血球を取り出し、染色後、スライドガラスで観察するという方法がとられている。
【0003】
また、白血球等の微粒子を捕捉するためのマイクロ流路が、従来、提案されている(特許文献1参照)。特許文献1には、凹型の捕捉部を備えたマイクロ流路を用いて、固液混合物から一定以上の大きさの固体のみを捕捉、分離するフィルタ機能を有するマイクロ流路デバイスが開示されている。特許文献1においては、1つの捕捉部が1 個または複数
の一定の大きさ以上の固体を収容し、複数の捕捉部が配置された分離部の終端までに完全に一定の大きさ以上の固体が捕捉されつくすことを目的としており、捕捉された白血球等の固体を観察しやすいように1つの捕捉部に固体を1個だけ捕捉することは考慮されていない。また、一旦捕捉部に捕捉された固体が再浮遊して捕捉部から流出しないように常に固液混合物がマイクロ流路の入口から出口に向かって流れている必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来法では5mlと多い血液を必要とするため侵襲的である。また、従来法では遠心分離機等の大型装置を必要とする。そのため、その場で解析するようなPOCT(Point Of Care Testing)では使うことが困難である。
【0006】
また、血液含有液等の固液混合物から白血球等の特定の大きさの固体成分を捕捉部により分離、載置し、その場で解析することを目的とする場合、特許文献1に記載のマイクロ流路が有する凹型の捕捉部では、白血球等の個体成分の捕捉効率が低い。
【0007】
本発明は上記のような課題を解決することを目的とする。すなわち、本発明は、遠心分離機のような大型装置を必要とせず、必要とする血液も1μl程度に少量とすることができ、従来技術より高い捕捉効率を有する白血球捕捉デバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の(1)~(4)である。
(1)血液含有液を通過させて、前記血液含有液に含まれる白血球を捕捉するチップを備える白血球捕捉デバイスであって、
前記チップは、平面部とその上に設けられた多数の凸部とを有し、入口から入った前記血液含有液が、前記チップにおける前記平面部の表面上、かつ、前記凸部とそれに隣り合う別の前記凸部との間を通過し、出口から排出されるように構成されており、
前記凸部は、前記平面部上において層状に設けられ、各層は複数の前記凸部を含んでおり、入口側の層を通過した前記血液含有液がそれに隣り合う出口側の層を通過するように構成されており、
各層において前記凸部とそれに隣り合う別の前記凸部との間の幅が2~7.5μmに設定されている捕捉部と、8~20μmに設定されているバイパス部とが形成されており、
前記捕捉部を構成する2つの前記凸部における入口側の入側部分の幅が、前記捕捉部の奥へ向かって徐々に狭くなるように面取りされていて、
特定の層における全部または一部の前記バイパス部の出口側に対向して、それに隣り合う別の層の一部として前記捕捉部が配置されている、白血球捕捉デバイス。
(2)特定の層と、それに隣り合う別の層との幅が8~30μmである、上記(1)に記載の白血球捕捉デバイス。
(3)捕捉部の幅に対する前記バイパス部の幅の比が1より大きく3以下である、上記(1)または(2)に記載の白血球捕捉デバイス。
(4)前記凸部の入口側の端面における前記捕捉部以外の部分は層方向に平行に延びており、かつ、前記凸部における前記バイパス部を構成する端面は層方向に対して垂直方向に延びている、上記(1)~(3)のいずれかに記載の白血球捕捉デバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、遠心分離機のような大型装置を必要とせず、必要とする血液も1μl程度に少量とすることができ、従来技術より高い捕捉効率を有する白血球捕捉デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】好ましい態様の本発明の白血球捕捉デバイスにおけるチップ表面の概略図である。
【
図4】実施例および比較例において用いたチップの表面の拡大写真である。
【
図5】実施例1において白血球を捕捉した状態を示す蛍光顕微鏡を用いて観察して得たチップの拡大写真(暗転蛍光)である。
【
図6】実施例2において白血球を捕捉した状態を示す蛍光顕微鏡を用いて観察して得たチップの拡大写真(暗転蛍光)である。
【
図7】従来技術のマイクロ流路デバイスの捕捉部およびバイパス部の概略図である。
【
図8】捕捉判定のための捕捉部の境界を示す図である。
【
図9】比較評価実験において白血球を捕捉した状態を示す蛍光顕微鏡を用いて観察して得たチップの拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の白血球捕捉デバイスについて説明する。
本発明の白血球捕捉デバイスは、血液含有液を通過させて、前記血液含有液に含まれる白血球を捕捉するチップを備える白血球捕捉デバイスであって、前記チップは、平面部とその上に設けられた多数の凸部とを有し、入口から入った前記血液含有液が、前記チップにおける前記平面部の表面上、かつ、前記凸部とそれに隣り合う別の前記凸部との間を通過し、出口から排出されるように構成されており、前記凸部は、前記平面部上において層状に設けられ、各層は複数の前記凸部を含んでおり、入口側の層を通過した前記血液含有液がそれに隣り合う出口側の層を通過するように構成されており、各層において前記凸部とそれに隣り合う別の前記凸部との間の幅が2~7.5μmに設定されている捕捉部と、8~20μmに設定されているバイパス部とが形成されており、前記捕捉部を構成する2つの前記凸部における入口側の入側部分の幅が、前記捕捉部の奥へ向かって徐々に狭くなるように面取りされていて、特定の層における全部または一部の前記バイパス部の出口側に対向して、それに隣り合う別の層の一部として前記捕捉部が配置されている、白血球捕捉デバイスである。
【0012】
本発明の白血球捕捉デバイスについて、図を用いて説明する。
図1は、本発明の白血球捕捉デバイス1を示す概略図であり、
図2は
図1における部分Aの拡大図であり、
図3は
図1におけるB-B線断面図である。
【0013】
図1に例示する本発明の白血球捕捉デバイス1は、チップ10と、チップ10へ血液含有液を供給するための入口3と、チップ10を通過した血液含有液が排出される出口5を備える。本発明の白血球捕捉デバイスの構成は
図1に例示したものに限定されず、例えば
図1に示す本発明の白血球捕捉デバイス1の全体が筐体に覆われていてもよい。
【0014】
図1~3に示すように、本発明の白血球捕捉デバイス1におけるチップ10は、平面部12と、その上に設けられた多数の凸部14とを含む。
【0015】
このような本発明の白血球捕捉デバイス1では、ポンプや静水圧、電気浸透流等によって、入口3から入った血液含有液が出口5へ向かって流れるが、その過程においてチップ10における平面部12の表面上、かつ、凸部14とそれに隣り合う別の凸部14との間を流れ、特定の凸部14間において白血球が挟まって捕捉される。
【0016】
ここで血液含有液は、人間の血液を含む液体であれば特に限定されず、例えば人間の血液をリン酸緩衝液、抗凝固剤、染色液等に加えた混合液であってもよい。また、血液含有液は人間の血液そのものあってもよい。
【0017】
また、凸部14は、
図1に示すように、平面部12上において層状に設けられている。
図1では、最も入口3に近い層を第1層とし、第1層に隣り合う出口側(下流側)の層を第2層と示している。また、ある層を第P層とし、第P層に隣り合う出口側(下流側)の層を第P+1層とし、さらに隣り合う出口側(下流側)の層を第P+2層と示している。
また、各層は複数の凸部14を含む。
図1では各層が7個の凸部14を含む例が示されているが、各層に含まれる凸部14の個数は特に限定されない。さらに、層の数も特に限定されない。
【0018】
入口3から本発明の白血球捕捉デバイス1へ入った血液含有液は平面部12の表面上を流れ、初めに第1層における凸部14間の流路を通過し、次に第2層における凸部14間の流路を通過する。その後も同様にして、第P層における凸部14間の流路を通過し、次に第P+1層における凸部14間の流路を通過するように構成されている。
【0019】
また、
図2に示すように、各層において凸部14とそれに隣り合う凸部14との間の幅(流路の幅)L
1が2~7.5μmに設定されている捕捉部21と、当該幅L
2が8~20μmに設定されているバイパス部23とが形成されている。
【0020】
図2の例では、第P層、第P+1層、第P+2層の各層において、複数の凸部14の間には流路として捕捉部21とバイパス部23が交互に形成されている。ただし、本発明の白血球捕捉デバイスにおいて、各層に形成されている捕捉部とバイパス部とは、
図2のように交互に形成されていなくてもよい。例えば層内において複数の捕捉部が連続して存在していてもよい。
【0021】
さらに、特定の層におけるバイパス部23の出口側に、それに隣り合う別の層の一部として捕捉部21が配置されている。すなわち、
図2の例では、第P層におけるバイパス部23の出口側(下流側)に、第P+1層における捕捉部21が配置されている。
図2に例示するように、第P層におけるバイパス部23と、第P+1層における捕捉部21とが層方向に対する垂直方向に並んで配置されていることが好ましい。より具体的には、層方向に対する垂直方向の直線を引いたときに、当該直線が第P層におけるバイパス部23と、第P+1層における捕捉部21とを通過する(すなわち、当該直線が凸部14に接しない)ように、第P層におけるバイパス部23と、第P+1層における捕捉部21とが配置されていることが好ましい。
【0022】
図1、
図2に示す例では、入口側(上流側)から流れてきて第P層に到達した血液含有液に含まれる白血球は、原則、捕捉部21を通過できないので、白血球の少なくとも一部は第P層の捕捉部21で捕捉される。白血球が捕捉されると当該捕捉部21は閉塞する。一方、白血球以外の成分(赤血球、血小板等)は第P層の捕捉部21を通過して第P+1層に到達する。また、第P層に到達した血液含有液に含まれる全ての成分はバイパス部23を通過できる。よって、第P層の捕捉部21で捕捉されなかった白血球は第P層のバイパス部23を通過して第P+1層に到達し、その少なくとも一部は第P+1層における捕捉部21で捕捉される。ここで、第P層におけるバイパス部23の出口側(下流側)に、第P+1層における捕捉部21が配置されているので、第P層のバイパス部23を通過した白血球は、第P+1層の捕捉部21で捕捉されやすい。
【0023】
図1、
図2に示すような平面図において、凸部14は矩形または略矩形(矩形をベースにして、その四隅の角の一部が直線によって切り落とされて面取りされている形状や、矩形の四隅における少なくとも一部の角が削られて丸みを帯びた形状)であることが好ましい。ここで直線によって切り落とされた面取り部分および丸みを帯びるように削られた面取り部分の面積は、捕捉する白血球の面積(投影面積)より小さいことが好ましい。
また、
図2に例示するように、捕捉部21を構成する2つの凸部14における入側部分が、捕捉部21の奥へ向かって連続的に徐々に狭くなるように面取りされている。この場合、捕捉部によって白血球が捕捉されやすくなるからである。また、一旦捕捉部に捕捉された白血球は変形して面取り部分に嵌まり込んでいるため、捕捉部から流出しにくいからである。
面取りされてなる直線がなす角度は、層方向に対して垂直な方向(入口から出口に向かう方向)に対して30~60度であることが好ましい。ここで面取りが直線的ではなく、例えば匙面取りや丸面取りである場合、その接線がなす角度の平均値が30~60度であることが好ましい。この角度が30度よりも小さいとバイパス部23への白血球が流れる速度が早くなり、捕捉効率が低くなる傾向がある。また、この角度が60度よりも大きいと、1つの捕捉部21で複数の白血球が捕捉されてしまう確率が高くなる傾向がある。
面取りは、捕捉部21の奥に向かって徐々に狭くなっていれば、捕捉部を構成する2つの凸部の両方の入側部分が面取りされていても、片方の入側部分だけが面取りされていても構わないし、両方の入側部分が面取りされている場合、面取りの角度が同じであっても異なっていても構わない。
【0024】
凸部14が矩形または略矩形である場合、すでに微粒子が捕捉されている捕捉部21に到達した別の白血球が、凸部14の端面に沿って層方向へ移動し、バイパス部23から下流側の隣の層へ移動して、下流側の層における捕捉部21で捕捉されやすい。この結果、白血球の捕捉効率が高まることを、本発明者は見出した。
特に、
図2に示す場合のように、捕捉部21を構成する2つの凸部14における入側部分が、捕捉部21の奥へ向かって連続的に徐々に狭くなるように(好ましくは直線的に)面取りされていて、かつ、凸部14の入口側の端面における捕捉部21以外は層方向に平行に延びており、かつ、バイパス部23は層方向に垂直方向に延びていると、この効果が顕著となり、白血球の捕捉効率がより高まるので好ましい。
凸部14が矩形または略矩形ではない場合(例えば円形や楕円形等の場合)、その外形にRが含まれるので、そのRに沿って白血球が移動してしまい、下流側の隣の層における捕捉部21へ移動しない可能性がある。
【0025】
捕捉部21の幅L1は2~7.5μmであるが、3~6μmであることが好ましく、4
~5μmであることがより好ましい。
また、バイパス部23の幅L2は8~20μmであるが、8.5~15μmであること
が好ましく、9~10μmであることがより好ましい。
なお、幅L1および幅L2は、各層において凸部14とそれに隣り合う凸部14との間の最短距離を意味するものとする。
【0026】
また、捕捉部21の幅L1に対するバイパス部23の幅L2の比(L2/L1)が1より大きく3以下であることが好ましく、1.5~2.5であることがより好ましい。この場合、バイパス部23への流れが適度に抑制され、捕捉部で白血球が捕捉されやすくなるからである。
【0027】
また、第P層と第P+1層との幅L3は8~30μmであることが好ましく、9~10
μmであることがより好ましい。
なお、幅L3は、第P層と第P+1層との最短距離を意味するものとする。
また、捕捉部21の入側の面取り部分の最大幅L4は、10~35μmであることが好
ましく、15~25μmであることがより好ましい。
【0028】
図3に示される凸部14の高さhは8~30μmであることが好ましく、9~15μmであることがより好ましい。
【0029】
チップの大きさや材質は特に限定されない。例えばシリコーンゴム、アクリル樹脂、ポリカーボネート、環状オレフィンポリマー、環状オレフィンコポリマー、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタラート等の樹脂から形成されていてよく、樹脂がガラス等の基板に貼り付けられた態様のものであることが好ましい。
【実施例】
【0030】
<白血球捕捉デバイスの作成>
以下に示す手順で、バイパス部および捕捉部の幅が表1に示す値となる6種類のチップを備える白血球捕捉デバイスを作製した。なお、全ての白血球捕捉デバイスにおける特定の層と、それに隣り合う別の層との幅(
図2でいう幅L
3)は、全て10μmとなるよう
にした。
【0031】
初めに、スピナーを用いて板状のシリコーンウエハーの表面に感光性樹脂(SU-8 3050、日本化薬社製)を均一に塗布した。
次に、特定のマスクを通して感光性樹脂に紫外線を照射した。
次に、紫外線を当てたシリコーンウエハー上の感光性樹脂を95℃でベイクした。
次に、developer(SU-8 Developer、日本化薬社製)を用いて、紫外線未照射部を除去し、モールドを作製した。
次に、モールドにシリコーンゴム(SILPOT184、ダウコーニング社製)を流し込んだ。
次に、100℃で0.5時間の条件でシリコーンゴムを加硫した。
次に、シリコーンウエハーからシリコーンゴムを剥がして流路形成チップを形成した。
次に、入口および出口となる箇所にパンチ穴を開け、流体導入部を作製して、白血球捕捉デバイスを作製した。
【0032】
<接合>
光源(L 12530-01、浜松ホトニクス株式会社製)を用いて、流路形成チップが形成されたガラス基板との双方に真空紫外光を15秒照射した。そして、双方の照射面を張り合わせることでチップを作製した。
作製したチップを蛍光顕微鏡で観察して得た拡大写真を
図4に示す。
【0033】
<実験>
成人男性から得た末梢血をPBS(リン酸緩衝液、和光純薬工業社製)で2倍に希釈した。
次に、希釈した血液を1μl~2μl、チップの入口に滴下し、静水圧により送液した。
次に、1時間ほど静置後に不要な血液を除去、PBSを滴下し送液した。これにより捕捉された白血球以外の物質を取り除いた。
次に、PBSを取り除き、DNA結合染色液(DAPI)を滴下し、30分静置した。
【0034】
そして、6種類の白血球捕捉デバイスの各々について、蛍光顕微鏡でチップを観察して、白血球が捕捉されているか否かを確認した。結果を表1に示す。表1では、少なくとも1か所以上の補足部で白血球の1細胞補足が確認できるものを「〇」、いずれの補足部でも1細胞補足が確認できないものを「×」と示した。
また、実施例1および実施例2のチップについて、蛍光顕微鏡で観察して得た暗転蛍光の拡大写真を
図5および
図6に示す。
図5の拡大倍率は、
図4の場合と同一である。
図6はデバイス全体の像である。
図5および
図6における白点が白血球を表している。
図5および
図6から実施例1および実施例2において、白血球の1細胞捕捉が達成されたことが確認できた。実施例3および実施例4についても実施例1および実施例2と同様に蛍光顕微鏡で観察したところ、白血球の1細胞捕捉が達成されたことが確認できた。
一方で捕捉部およびバイパス部の幅が広すぎる比較例1、2の場合、白血球は十分に捕捉できなかった。
【0035】
【0036】
<比較評価>
本発明による白血球捕捉デバイスにおける白血球の捕捉効率を従来技術と比較することを目的として、本発明による白血球捕捉デバイスと、特許文献1に記載されるような従来技術の凹型の捕捉部を有するマイクロ流路デバイスとを作成し、比較評価実験を実施した。マイクロ流路デバイスの捕捉部およびバイパス部の概略図を
図7に示す。
捕捉効率を評価するための指標としては、[式1]および[式2]で示される二つの指標を採用した。
単一捕捉捕捉部率(%)=[単一捕捉捕捉部数]/[観察範囲内の捕捉部の数]×100 ・・・[式1]
単一捕捉白血球率(%)=[単一捕捉白血球数]/[観察範囲内に存在する白血球の数]×100 ・・・[式2]
観察範囲内の捕捉部の数は、比較評価の対象となる白血球捕捉デバイスやマイクロ流路デバイスに設定した観察範囲内に存在する捕捉部の数を示す。単一捕捉捕捉部数は、観察範囲内で白血球が1つだけ捕捉された捕捉部の数を示す。単一捕捉白血球数は、観察範囲内で1つの捕捉部に1つだけ捕捉された白血球の数を示し、単一捕捉捕捉部数と等しい。観察範囲内に存在する白血球の数は、観察範囲内に存在する全ての白血球の数を示し、捕捉部に1つだけ捕捉された白血球だけでなく、1つの捕捉部に複数個捕捉された白血球や、捕捉部外の流路に存在する白血球を含む。
また、白血球が捕捉部に捕捉されたかどうかは、
図8(a)に示す本発明による白血球捕捉デバイスの捕捉部と、
図8(b)に示す従来技術のマイクロ流路デバイスの捕捉部において、それぞれ図内の赤線で示す、一つの捕捉部を構成する一組の凸部を囲む最小の矩形内に白血球が一部でも入っていれば捕捉されていると判定する。
これらの指標を捕捉効率の評価指標として採用した理由は以下のとおりである。
本発明による白血球捕捉デバイスの活用場面として想定されるDNA損傷評価などの蛍光画像解析においては、画像解析を画像処理プログラム等により自動解析することを考慮すると、一つの捕捉部に白血球が一つだけ捕捉された白血球の数が、解析に使用する蛍光顕微鏡等の一視野内に少なくとも解析に必要な個数以上で、できるだけ多く存在することが望ましい。また、画像処理プログラムの作製のし易さを考慮すると、分離、整列が完了した時点で、捕捉部外の流路に白血球が残らないことが望ましい。
すなわち、上記に示した望ましい二つの性質を評価するために、観察範囲内の捕捉部のうちで細胞が1つだけ捕捉された捕捉部の割合である単一捕捉捕捉部率、および観察範囲内に捕捉された細胞のうちで捕捉部に1つだけ捕捉された細胞の割合である単一捕捉白血球率、という二種類の指標を捕捉効率の評価指標とすることとした。
【0037】
<白血球捕捉デバイスとマイクロ流路デバイスの作成>
前述の実施例1~4の場合と同様の手順により、本発明による白血球捕捉デバイスを備えたチップを実施例5として作成し、同様の手順により凹型の捕捉部を有するマイクロ流路デバイスを備えるチップを比較例3として作成した。各チップの捕捉部およびバイパス部等のサイズを表2に示す。
図2のL
1、
図7のL
1'がそれぞれ捕捉部の幅を示し、
図2のL
2、
図7のL
2'がそれぞれバイパス部の幅を示し、
図2のL
3、
図7のL
3'がそれぞれ層間の距離を示し、
図2のL
4、
図7のL
4'がそれぞれ捕捉部の入側部分の最大幅を示す
。
【0038】
【0039】
<実験>
前述の実施例1~4の場合と同様の手順により実験を実施した。
【0040】
2種類のチップについて、蛍光顕微鏡でチップを観察して、それぞれ同じ数の捕捉部を含む観察範囲において、観察範囲内に存在する捕捉部数、観察範囲内に存在する白血球数、単一捕捉白血球数(単一捕捉捕捉部数)、をそれぞれ計数し、式1、および式2により捕捉効率を評価した。チップごとの捕捉効率を表3に示す。また、
図9(a)に本発明の白血球捕捉デバイスのチップの観察対象範囲に捕捉された白血球の様子を、
図9(b)に従来技術のマイクロ流路デバイスのチップの観察対象範囲に捕捉された白血球の様子を示す。各図において蛍光を発している粒子の一つ一つが白血球である。
【0041】
【0042】
表3に示すとおり、本比較評価実験により、実施例5の単一捕捉捕捉部率が比較例3と比較して68%高く、単一捕捉白血球率が53%高いことが示され、本発明による白血球捕捉デバイスは、従来法と比較して、白血球等の固体成分の捕捉効率が極めて高いことが確認できた。
この差は、本発明の捕捉部を構成する2つの凸部における入口側の入側部分の幅が、前記捕捉部の奥へ向かって徐々に狭くなるように面取りされていることにより、従来技術における捕捉部のような凹型の構造と比較して、静水圧により捕捉部の奥の方に押し込まれた細胞を両側から挟み込む効果を生じることとなり、一度捕捉された細胞の離脱や一つの捕捉部への複数個の細胞の捕捉を起こしにくいことにより生じたものであると推察される。
【0043】
この出願は、2020年9月29日に出願された日本出願特願2020-163378を基礎とする優先権を主張し、その開示のすべてをここに取り込む。
【符号の説明】
【0044】
1 本発明の白血球捕捉デバイス
3 入口
5 出口
10 チップ
12 平面部
14 凸部
21 捕捉部
23 バイパス部