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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】熱伝導性組成物及び熱伝導性部材
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/14 20060101AFI20240318BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20240318BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20240318BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240318BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C09K5/14 E
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/013
C08K3/22
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023562694
(86)(22)【出願日】2023-06-16
(86)【国際出願番号】 JP2023022400
【審査請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2022098435
(32)【優先日】2022-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022138189
(32)【優先日】2022-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】須田 裕美
(72)【発明者】
【氏名】岩本 達矢
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/075434(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/080256(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/021826(WO,A1)
【文献】特表2016-513151(JP,A)
【文献】特開2009-256428(JP,A)
【文献】特開2008-160126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、
(B)ヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
(C)熱伝導性充填材と、
(D)メタクリロイル基を有するポリシロキサン化合物と、
(E)ヒドロシリル化触媒と、を含む熱伝導性組成物であって
前記熱伝導性組成物に含有される全(D)成分の重量平均分子量Mwdが、前記熱伝導性組成物に含有される全(A)成分の重量平均分子量Mwaよりも小さい、熱伝導性組成物。
【請求項2】
(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、
(B)ヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
(C)熱伝導性充填材と、
(D)メタクリロイル基を有するポリシロキサン化合物と、
(E)ヒドロシリル化触媒と、を含む熱伝導性組成物であって
前記(A)成分及び(D)成分の少なくともいずれか1つ、及び、前記(E)成分を含み、前記(B)成分を含まない第1剤と、
前記(B)成分を含み、前記(E)成分を含まない第2剤との組合せからなり、
前記(C)成分が、前記第1剤及び前記第2剤の少なくともいずれか一方に含まれ、
前記熱伝導性組成物に含有される全(D)成分の重量平均分子量Mwdが、前記熱伝導性組成物に含有される全(A)成分の重量平均分子量Mwaよりも小さい、熱伝導性組成物。
【請求項3】
前記(D)成分の重量平均分子量Mwdと前記(A)成分の重量平均分子量Mwaとが、下記(1)式を満たす、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
wd×2.3≦Mwa ・・・(1)
【請求項4】
メタクリロイル基含有量(Me含有量)、及びアルケニル基含有量(Vi含有量)が、モル基準で下記(2)及び(3)式を満たす、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
0.10≦α≦0.60 ・・・(2)
α=Me含有量/(Me含有量+Vi含有量) ・・・(3)
【請求項5】
モル基準のヒドロシリル基の含有量H、及びアルケニル基の含有量Viが、下記(4)式を満たす、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
0.8≦H/Vi≦1.5 ・・・(4)
【請求項6】
モル基準のヒドロシリル基の含有量H、アルケニル基の含有量Vi、及びメタクリロイル基の含有量Meが、下記(5)式を満たす、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
0.4≦H/(Vi+Me)≦1.2 ・・・(5)
【請求項7】
前記熱伝導性組成物を25℃で24時間放置した後のタイプE硬さ(E1)と、前記熱伝導性組成物を25℃で24時間放置し、さらに150℃で250時間放置した後のタイプE硬さ(E2)との関係が、下記(6)式を満たす、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
E2/E1≦1.5 ・・・(6)
【請求項8】
さらに、(F)付加反応基を有さないオルガノポリシロキサンを含有する、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項9】
温度25℃、せん断速度3.16(1/s)の条件下における粘度が10~1000Pa・sである、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項10】
前記(C)成分が酸化アルミニウムを含む、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項11】
前記重量平均分子量M wa が12000以上である、請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物。
【請求項12】
第2剤と混合されることで、
(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、
(B)ヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
(C)熱伝導性充填材と、
(D)メタクリロイル基を有するポリシロキサン化合物と、
(E)ヒドロシリル化触媒と、を含む熱伝導性組成物として使用できる第1剤であって、
前記(A)成分及び(D)成分の少なくともいずれか1つ、及び、前記(E)成分を含み、前記(B)成分を含まず、
前記第2剤と組合せることで、前記熱伝導性組成物に含有される全(D)成分の重量平均分子量Mwdが、前記熱伝導性組成物に含有される全(A)成分の重量平均分子量Mwaよりも小さい、第1剤。
【請求項13】
第1剤と混合されることで、
(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、
(B)ヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、
(C)熱伝導性充填材と、
(D)メタクリロイル基を有するポリシロキサン化合物と、
(E)ヒドロシリル化触媒と、を含む熱伝導性組成物として使用できる第2剤であって、
前記(B)成分を含み、前記(E)成分を含まず、
前記第1剤と組合せることで、前記熱伝導性組成物に含有される全(D)成分の重量平均分子量Mwdが、前記熱伝導性組成物に含有される全(A)成分の重量平均分子量Mwaよりも小さい、第2剤。
【請求項14】
請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物を硬化させてなる、熱伝導性部材。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の熱伝導性組成物を硬化させてなる熱伝導性部材が、発熱体と放熱体の間に介在する電装部品。
【請求項16】
前記発熱体が、エンジンルーム内及びモーター近傍の少なくともいずれかに配置されるものである、請求項15に記載の電装部品。
【請求項17】
150℃以上の環境下に晒される、請求項15に記載の電装部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性組成物及び熱伝導性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導性組成物は、硬化可能で液状のものが広く知られており、例えば、発熱体と放熱体の間に充填され、その後、硬化することで硬化物を形成し、発熱体が発する熱を放熱体に伝える放熱ギャップフィラーなどの熱伝導性部材として使用される。従来、熱伝導性組成物としては、オルガノポリシロキサンと熱伝導性充填材を含む、シリコーン熱伝導性組成物が広く使用されている。
【0003】
近年、電気自動車の生産量が順調に伸びていく市場背景の中で、燃費向上や安全性向上を目的に電装化が進展している。車載電装部品では、自動実装ニーズが高まっており、液状で複雑な形状の箇所にも使用できる放熱ギャップフィラーの需要が増加している。
また、昨今の自動車では燃費が重要な差別化要素の一つとなっており、可能な限り車体重量を軽くすることが求められている。車載電装部品もその例外ではなく、軽量小型化の開発が進められている。しかし、電装部品を小型化すると、単位体積当たりの発熱量すなわち発熱密度が増加する。そのため、放熱ギャップフィラーは、長期間にわたって熱伝導性などの性能を低下させることなく使用できる信頼性が求められている。
【0004】
熱伝導性組成物は、従来、信頼性について様々な検討がなされている。例えば、特許文献1には、(A)1分子中に2個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(B)1分子中に2個のSi-H基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(C)1分子中にSi-H基を3個以上有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(D)下記(D1)及び(D2)から選ばれる少なくとも一つの化合物、(D1)1分子中に1個のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、(D2)1分子中に1個のSi-H基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、(E)白金触媒、(F)熱伝導性充填剤を前記(A)~(E)全量100体積%としたときに100~600体積%、を含む成分を硬化させたことを特徴とする熱伝導性シリコーンゲル組成物が開示されている。
【0005】
特許文献1には、(D)成分で分子量が大きくならないように調整することが記載されており、ゲル状硬化物でありながら、低オイルブリードである熱伝導性シリコーンゲル組成物を提供できることが示されている。ただし、特許文献1において、ICパッケージ等の発熱性電子部品の表面温度は80℃程度の温度であることが想定されており、それ以上の高温下における信頼性については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2021/140694号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、昨今の自動車では、車室内の居住性を向上させるために、室内空間を広くすることが要求されている。車体部品のレイアウト検討では、エンジンやモーター等の大きくて重い基幹部品が優先されることが多く、電装部品のように比較的小さくて軽い部品は、残されたスペースに配置せざるを得なくなることがある。結果として、電装部品の中にはエンジンルーム内やモーター近傍などにおいて、150℃以上の高温環境下に晒されることがあり、それに伴い放熱ギャップフィラーも高温下で使用されることがある。しかしながら、従来の熱伝導性シリコーン熱伝導性組成物により形成された放熱ギャップフィラーは、150℃以上の高温環境下で長期間使用されると硬度が上昇して、発熱体や放熱体に対して剥離が生じるため、熱抵抗が上昇することを抑制することが難しい。
【0008】
なお、従来のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサン、及びヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンをシリコーン樹脂の主成分とする熱伝導性組成物では、柔軟性を高くするために、架橋間の分子鎖を長くして、官能基濃度を下げて架橋点を疎にすることも考えられる。
しかし、架橋間の分子鎖を長くすると、シリコーン樹脂の分子量が大きくなって高粘度となる。分子量の大きいシリコーン樹脂は反応性が低く、硬化反応が進行して熱伝導性組成物が液状から固体に変化していった際に、固体中で拡散しにくいため、シリコーン樹脂の反応が進むほど反応基同士の接触可能性が低下していき、最終的には未反応の成分が長時間にわたって残存することとなる。未反応の成分が残ると、例えば150℃以上の高温環境下における耐熱性が低下する問題がある。この場合、例えばヒドロシリル基同士の架橋反応など、未反応官能基に由来する反応が起こることにより、硬化物の硬度が上昇することがある。
【0009】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、150℃以上の高温環境下においても、硬度上昇が抑制された熱伝導性部材を得ることができる熱伝導性組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討の結果、メタクリロイル基を有するシリコーン化合物は、主剤であるアルケニル基を有するシリコーン化合物よりも分子量が低い場合であっても、付加反応速度が遅いことを突き止め、上記課題を解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[19]を提供する。
【0011】
[1](A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、(B)ヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(C)熱伝導性充填材と、(D)メタクリロイル基を有するポリシロキサン化合物と、(E)ヒドロシリル化触媒と、を含み、前記(D)成分の重量平均分子量Mwdが、前記(A)成分の重量平均分子量Mwaよりも小さい、熱伝導性組成物。
[2](A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、(B)ヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(C)熱伝導性充填材と、(D)メタクリロイル基を有するポリシロキサン化合物と、(E)ヒドロシリル化触媒と、を含み、前記(A)成分及び(D)成分の少なくともいずれか1つ、及び、前記(E)成分を含み、前記(B)成分を含まない第1剤と、前記(B)成分を含み、前記(E)成分を含まない第2剤との組合せからなり、前記(C)成分が、前記第1剤及び前記第2剤の少なくともいずれか一方に含まれ、前記(D)成分の重量平均分子量Mwdが、前記(A)成分の重量平均分子量Mwaよりも小さい、熱伝導性組成物。
[3]前記(D)成分の重量平均分子量Mwdと前記(A)成分の重量平均分子量Mwaとが、下記(1)式を満たす、[1]又は[2]に記載の熱伝導性組成物。
wd×2.3≦Mwa ・・・(1)
[4]メタクリロイル基含有量(Me含有量)と、アルケニル基含有量(Vi含有量)とが、モル基準で下記(2)及び(3)式を満たす、[1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
0.10≦α≦0.60 ・・・(2)
α=Me含有量/(Me含有量+Vi含有量) ・・・(3)
[5]モル基準のヒドロシリル基の含有量H、及びアルケニル基の含有量Vi、及びメタクリロイル基の含有量Meが、下記(4)式を満たす、[1]~[4]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
0.8≦H/Vi≦1.5 ・・・(4)
[6]モル基準のヒドロシリル基の含有量H、アルケニル基の含有量Viが、及びメタクリロイル基の含有量Meが、下記(5)式を満たす、[1]~[5]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
0.4≦H/(Vi+Me)≦1.2 ・・・(5)
[7]前記熱伝導性組成物を25℃で24時間放置した後のタイプE硬さ(E1)と、前記熱伝導性組成物を25℃で24時間放置し、さらに150℃で250時間放置した後のタイプE硬さ(E2)との関係が、下記(6)式を満たす、[1]~[6]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
E2/E1≦1.5 ・・・(6)
[8]さらに、(F)付加反応基を有さないオルガノポリシロキサンを含有する、[1]~[7]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[9]温度25℃、せん断速度3.16(1/s)の条件下における粘度が10~1000Pa・sである、[1]~[8]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[10]前記熱伝導性充填剤が酸化アルミニウムを含む、[1]~[9]のいずれかに記載の熱伝導性組成物。
[11]第2剤と混合されることで、(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、(B)ヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(C)熱伝導性充填材と、(D)メタクリロイル基を有するポリシロキサン化合物と、(E)ヒドロシリル化触媒と、を含む熱伝導性組成物として使用できる第1剤であって、前記(A)成分及び(D)成分の少なくともいずれか1つ、及び、前記(E)成分を含み、前記(B)成分を含まず、前記第2剤と組合せることで、前記(D)成分の重量平均分子量Mwdが、前記(A)成分の重量平均分子量Mwaよりも小さい、第1剤。
[12]第1剤と混合されることで、(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、(B)ヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと、(C)熱伝導性充填材と、(D)メタクリロイル基を有するポリシロキサン化合物と、(E)ヒドロシリル化触媒と、を含む熱伝導性組成物として使用できる第2剤であって、前記(B)成分を含み、前記(E)成分を含まず、前記第1剤と組合せることで、前記(D)成分の重量平均分子量Mwdが、前記(A)成分の重量平均分子量Mwaよりも小さい、第2剤。
[13][1]~[10]のいずれかに記載の熱伝導性組成物を硬化させてなる、熱伝導性部材。
[14][1]~[10]のいずれかに記載の熱伝導性組成物を硬化させてなる熱伝導性部材が、発熱体と放熱体の間に介在する電装部品。
[15]前記発熱体が、エンジンルーム内及びモーター近傍の少なくともいずれかに配置されるものである、[14]に記載の電装部品。
[16]150℃以上の環境下に晒される、[14]又は[15]に記載の電装部品。
[17][1]~[10]のいずれかに記載の熱伝導性組成物を硬化させてなる熱伝導性部材を、発熱体と放熱体の間に介在させる、使用方法。
[18]前記発熱体が半導体素子である、[17]に記載の使用方法。
[19]前記発熱体が150℃以上に発熱する、[17]又は[18]に記載の使用方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、150℃以上の高温環境下においても、硬度上昇が抑制された熱伝導性部材を得ることができる熱伝導性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[熱伝導性組成物]
以下、本発明の熱伝導性組成物について詳しく説明する。
本発明の熱伝導性組成物は、以下の(A)~(E)成分を有するものである。以下、(A)~(E)成分について詳細に説明する。
【0014】
<(A)成分>
(A)成分は、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンである。熱伝導性組成物は、(A)成分を含有することで、後述するオルガノハイドロジェンポリシロキサンと付加反応して、適度な硬度を有する硬化物を形成できる。(A)成分は、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンを複数混合してなる混合物とすることもできる。また、(A)成分として使用されるアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、直鎖状でも分岐状であってもよいし、直鎖状と分岐状の混合物でもよいが、直鎖状であることが好ましい。
【0015】
(A)成分におけるアルケニル基は、(A)成分のポリシロキサン構造の分子鎖の末端又は途中のいずれに含有させてよく、末端及び途中の両方に含有させてもよいが、少なくとも末端に含有させることが好ましく、ポリシロキサン構造によりなる分子鎖の両末端に含有させることがさらに好ましく、両末端のみに含有させることがよりさらに好ましい。
アルケニル基としては、特に限定されないが、例えば炭素数2~8のものが挙げられ、ビニル基、アリル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基などが挙げられ、これらの中では合成の容易性、反応性の観点などから、ビニル基が好ましい。また、アルケニル基は、ケイ素原子に直接結合したアルケニル基であるとよい。
(A)成分における一分子中のアルケニル基の数は、1個以上であればよいが、好ましくは2個以上、より好ましくは2~4個、さらに好ましくは2~3個、よりさらに好ましくは2個である。
なお、(A)成分には、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンでのアルケニル基の数の異なる複数の成分を含んでも良いが、熱伝導性組成物に一定の硬化性を付与する観点から、主成分として含まれるオルガノポリシロキサンはアルケニル基の数が、2個以上であることが好ましく、より好ましくは2~4個、さらに好ましくは2~3個、よりさらに好ましくは2個である。なお、主成分とは、(A)成分におけるオルガノポリシロキサンのうち、最も含有割合が高い成分を意味する。また、2個以上のアルケニル基を有するオルガノポリシロキサンは、(A)成分のうち、例えば50~100質量%、好ましくは70~100質量%の割合を占めるとよい。
また、本明細書において、「~」で示す範囲は、「~」の前後に記載されている所定の数値以上から所定の数値以下までの範囲であることを意味する。
【0016】
アルケニル基以外のケイ素原子に結合する残余の基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基等のアラルキル基が例示され、更にクロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等の置換炭化水素基なども具体例として挙げられる。これらのうち、合成のし易さなどの観点からメチル基が好ましい。また、ケイ素原子に結合する残余の基のうち、80モル%以上がメチル基であることが好ましく、90モル%以上がメチル基であることがより好ましく、100モル%がメチル基であることがさらに好ましい。なお、(A)成分は、ケイ素原子に結合する残余の基として、水素原子を有さず、すなわち、(A)成分は、ヒドロシリル基を含有しないとよい。
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
本発明の熱伝導性組成物において、(A)成分の重量平均分子量Mwaは、後述するとおり、(D)成分の重量平均分子量Mwdよりも大きいものであればよいが、硬化物の硬度上昇を抑制しやすくしたり、硬化物において架橋密度が高くなりすぎることを防止して、硬化後の柔軟性を維持しやすくしたりする観点から、12000以上であることが好ましく、15000以上であることがより好ましく、18000以上であることがさらに好ましい。また、Mwaは、熱伝導性組成物が高粘度となることを防止したり、一定の反応性を付与したりする観点から、35000以下であることが好ましく、32000以下であることがより好ましく、27000以下であることがさらに好ましい。
また、硬化物の硬度上昇を抑制しやすくしたり、硬化物において架橋密度が高くなりすぎることを防止して、硬化後の柔軟性を維持することと、熱伝導性組成物が高粘度となることを防止したり、一定の反応性を付与したりすることの両立という観点から、(A)成分の重量平均分子量Mwaは、12000~35000であることが好ましく、15000~32000であることがより好ましく、18000~27000であることがさらに好ましい。
ここで、(A)成分の重量平均分子量Mwaは、熱伝導性組成物に含有される全(A)成分の重量平均分子量をいう。後述する(D)成分についても同様である。
【0018】
(A)成分の25℃における粘度は、特に限定されないが、例えば80~5000mPa・s、好ましくは150~2500mPa・s、より好ましくは200~1500mPa・s、さらに好ましくは250~800mPa・sである。
また、(A)成分は、後述する(B)成分との混合物として配合されることがあるが、(A)成分と(B)成分の混合物の25℃における粘度は、例えば80~5000mPa・s、好ましくは150~2500mPa・s、より好ましくは200~1500mPa・s、さらに好ましくは250~800mPa・sである。
(A)成分、又は(A)及び(B)成分の混合物の粘度を上記下限値以上とすることで、硬化物において、架橋密度が高くなりすぎることを防止して、硬化後の柔軟性を維持しやすくなる。また、上記上限値以下とすることで、熱伝導性組成物が高粘度となることを防止できる。さらに、粘度を上記範囲内とすることで、(A)成分、又は(A)及び(B)成分の反応性を適切にしやすくなる。
なお、2液型の熱伝導性組成物において、(A)成分は、第1剤に配合される(A)成分の25℃における粘度が、上記粘度範囲に調整され、また、第2剤に配合される(A)成分と(B)成分の混合物の25℃における粘度が、上記粘度範囲に調整されてもよい。
【0019】
(A)成分の含有量は、特に限定されないが、熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン全量に対して、例えば20~70質量%、好ましくは25~60質量%、より好ましくは30~50質量%である。なお、上記オルガノポリシロキサン全量に含まれるオルガノポリシロキサンは、付加反応に寄与する(A)成分、(B)成分、(D)成分に加え、付加反応しない(F)成分の合計である。
【0020】
<(B)成分>
(B)成分は、ヒドロシリル基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。熱伝導性組成物は、(B)成分を含有することで、(B)成分が(A)成分及び(D)成分と付加反応して、適度な硬度を有する硬化物を形成できる。
【0021】
(B)成分は、直鎖状又は分岐状であってもよいし、直鎖状と分岐状の混合物でもよいが、直鎖状であることが好ましい。(B)成分において、ヒドロシリル基は、ポリシロキサン構造の分子鎖の末端、又は分子鎖の途中のいずれに含有させてよく、末端及び途中の両方に含有させてもよいが、少なくとも末端に含有させることが好ましく、ヒドロシリル基を、ポリシロキサン構造の分子鎖の両末端それぞれに含有させることがさらに好ましい。
(B)成分における一分子中のヒドロシリル基の数は、特に限定されず、1個以上であればよいが、2個以上が好ましく、より好ましくは2~25個、さらに好ましくは2~20個である。
(B)成分としては、2個のヒドロシリル基を有する成分(B-1)と、3個以上のヒドロシリル基を有する成分(B-2)を併用してもよい。2個のヒドロシリル基を有する成分は、特に限定されないが、例えば、直鎖状で、かつヒドロシリル基をポリシロキサン構造の分子鎖の両末端それぞれに含有させることが好ましい。また、3個以上のヒドロシリル基を有する成分は、一分子中のヒドロシリル基の数が3~25個であることが好ましく、3~20個であることがより好ましい。
【0022】
(B)成分において、ヒドロシリル基以外のケイ素原子に結合する残余の基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、ドデシル基等のアルキル基、フェニル基等のアリール基、2-フェニルエチル基、2-フェニルプロピル基等のアラルキル基が例示され、更にクロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等の置換炭化水素基も具体例として挙げられる。これらのうち、合成のし易さなどの観点からメチル基が好ましい。また、ケイ素原子に結合する残余の基のうち、80モル%以上がメチル基であることが好ましく、90モル%以上がメチル基であることがより好ましく、100モル%がメチル基であることがさらに好ましい。なお、(B)成分は、ケイ素原子に結合する残余の基として、アルケニル基を有さず、すなわち、(B)成分は、アルケニル基を含有しないものであるとよい。
(B)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(B)成分の25℃における粘度の下限は、特に限定されないが、例えば10mPa・s以上であり、好ましくは40mPa・s以上であり、より好ましくは80mPa・s以上である。
(B)成分の25℃における粘度の上限は、特に限定されないが、例えば2000mPa・s以下、好ましくは1500mPa・s以下、より好ましくは1200mPa・s以下である。
また、(B)成分の25℃における粘度は、特に限定されないが、例えば10~2000mPa・s、好ましくは40~1500mPa・s、より好ましくは80~1200mPa・sである。(B)成分の粘度を上記下限値以上とすることで、架橋密度が高くなることを防止して硬化後の柔軟性を良好にしやすくなる。また、反応性が早くなりすぎることを防止して、付加反応を適切に進行させやすくなる。また、(B)成分の粘度を上記上限値以下とすることで、反応性が低下したり、熱伝導性組成物が高粘度となったりすることを防止できる。さらに、粘度を上記範囲内とすることで、(B)成分の反応性を適切にしやすくなる。
【0024】
(B)成分の含有量は、後述する含有量比H/Viなどを所定の範囲内に調整できるように適宜選択されればよく、特に限定されないが、熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン全量に対して、例えば、3~35質量%、好ましくは5~30質量%、より好ましくは8~25質量%である。
【0025】
<(C)成分>
(C)成分は、熱伝導性充填材である。本発明の熱伝導性組成物は、熱伝導性充填材を含有することにより、熱伝導性組成物、及び該熱伝導性組成物を硬化してなる硬化物(熱伝導性部材)の熱伝導性が向上する。
熱伝導性充填材としては、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、熱伝導性充填材の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
熱伝導性充填材において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなどが挙げられる。金属酸化物としては、アルミナに代表される酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛などが挙げられる。金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示できる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛、ダイヤモンドなどが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。これらの中でも、熱伝導性充填材としては、熱伝導性向上の観点から、金属酸化物、金属窒化物、炭素材料が好ましく、これらの中では金属酸化物がより好ましい。また、具体的には、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化アルミニウム、ダイヤモンドが好ましく、酸化アルミニウムがさらに好ましい。
これら熱伝導性充填材は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。例えば、熱伝導率を高める観点からは、ダイヤモンド、酸化マグネシウム、窒化アルミニウムの少なくともいずれかと、酸化アルミニウムを併用することが好ましい。また、熱伝導率と難燃性のバランスの観点からは、酸化アルミニウムと水酸化アルミニウムを併用することが好ましい。
【0026】
熱伝導性充填材の平均粒径の下限は、特に限定されないが、熱伝導性を高める観点から0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることがさらに好ましい。熱伝導性充填材の平均粒径の上限は、特に限定されないが、熱伝導性組成物の流動性を高める観点から200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、70μm以下であることがさらに好ましい。
また、熱伝導性充填材の平均粒径は、特に限定されないが、上記観点を両立するために、0.1~200μmであることが好ましく、0.3~100μmであることがより好ましく、0.5~70μmであることがさらに好ましい。
熱伝導性充填材は、平均粒径が0.1μm以上5μm以下の小粒径熱伝導性充填材と、平均粒径が5μm超200μm以下の大粒径熱伝導性充填材を併用することが好ましい。平均粒径の異なる熱伝導性充填材を使用することにより、充填率を高めることができる。なお、平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた熱伝導性充填材の粒度分布において、体積積算が50%での粒径(D50)を意味する。
【0027】
熱伝導性組成物における熱伝導性充填材の含有量の下限は、熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは150質量部以上、より好ましくは500質量部以上、さらに好ましくは1000質量部以上、よりさらに好ましくは1500質量部以上である。
一方、熱伝導性組成物における熱伝導性充填材の含有量の上限は、から熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは4000質量部以下、より好ましくは3500質量部以下、さらに好ましくは3200質量部以下、よりさらに好ましくは3000質量部以下である。
また、熱伝導性組成物における熱伝導性充填材の含有量は、熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン100質量部に対して、好ましくは150~4000質量部、より好ましくは500~3500質量部、さらに好ましくは1000~3200質量部、よりさらに好ましくは1500~3000質量部である。
また、熱伝導性充填材の体積基準の含有量の下限は、熱伝導性組成物全量を100体積%とした場合に、好ましくは50体積%以上、より好ましくは70体積%以上、さらに好ましくは75体積%以上、よりさらに好ましくは80体積%以上である。
また、熱伝導性充填材の体積基準の含有量の上限は、熱伝導性組成物全量を100体積%とした場合に、好ましくは95体積%以下、より好ましくは93体積%以下、さらに好ましくは92体積%以下、よりさらに好ましくは90体積%以下である。
また、熱伝導性充填材の体積基準の含有量は、熱伝導性組成物全量を100体積%とした場合に、好ましくは50~95体積%、より好ましくは70~93体積%、さらに好ましくは75~92体積%、よりさらに好ましくは80~90体積%である。
熱伝導性充填材の含有量を上記下限値以上とすることで、一定の熱伝導性を熱伝導性組成物およびその硬化物に付与できる。熱伝導性充填材の含有量を上記上限値以下とすることで、熱伝導性充填材を適切に分散できる。また、熱伝導性組成物の粘度が必要以上に高くなったりすることも防止できる。また、さらに熱伝導性充填材の含有量を上記下限値~上限値の範囲とすることで、一定の熱伝導性を熱伝導性組成物およびその硬化物に付与できる観点と、熱伝導性充填材を適切に分散でき、熱伝導性組成物の粘度が必要以上に高くなったりすることも防止できる観点を両立することができる。
【0028】
<(D)成分>
(D)成分は、メタクリロイル基を有するポリシロキサン化合物である。本発明の熱伝導性組成物において、(D)成分の重量平均分子量Mwdは、(A)成分の重量平均分子量Mwaより小さい。本発明では、熱伝導性組成物が、(A)成分の重量平均分子量Mwaより重量平均分子量Mwdが小さい(D)成分を含有することで、150℃以上の高温環境下においても硬度上昇を抑制することができる。高温環境下での硬度上昇が抑制されると、長期耐熱性が良好となり、柔軟性が維持され、例えば、発熱体や放熱体に対する剥離が生じにくくなり、これらに長期にわたって固定した状態に維持しやすくなる。また、(D)成分は、硬化時に(B)成分に付加反応するので、硬化後にブリードアウトすることも防止できる。
【0029】
なお、高温環境下で硬度上昇が抑制される原理は、定かではないが、以下のように推定される。
本発明の熱伝導性組成物は、その硬化過程において、該過程の前半では、アルケニル基はメタクリロイル基よりも付加反応速度が速いため、(B)成分中のヒドロシリル基と、(A)成分中のアルケニル基とが優先的に反応する。そして、付加反応により(A)成分と(B)成分により架橋構造が形成されてくると、(A)成分と(B)成分は、組成物内で拡散または移動しにくくなり、結果として反応しきれない(A)成分中のアルケニル基と、(B)成分中のヒドロシリル基(以下、「未反応のヒドロシリル基」ともいう)が残存してしまう。その後、該過程の後半では、(D)成分のメタクリロイル基は、(A)成分中のアルケニル基と反応しきれなかった、(B)成分中のヒドロシリル基(以下、「未反応のヒドロシリル基」ともいう)と反応する。本発明の熱伝導性組成物は、(A)成分よりも重量平均分子量が小さい(D)成分を含有することで、(A)成分と(B)成分により架橋構造が形成されつつある硬化過程の後半においても、(D)成分は重量平均分子量が小さいため、架橋構造内を拡散または移動しやすいため、(D)成分のメタクリロイル基と、未反応のヒドロシリル基とが反応しやすくなる。したがって、熱伝導性組成物中の未反応のヒドロシリル基の残量を減少させ、該組成物の硬化後には、150℃以上の環境で使用されても、硬化物の硬度上昇を抑制することができる。
また、以上の硬化過程において形成された硬化物の硬度は、実質的に、(A)成分中のアルケニル基と、(B)成分中のヒドロシリル基との反応で形成される架橋構造により確定される。そのため、(D)成分中のメタクリロイル基と、(B)成分中のヒドロシリル基との反応による、硬化物の硬度への影響は限定的である。したがって、(D)成分の含有量が増減しても、その増減率と比較して、硬化物の硬度は大きく変化しにくい利点がある。
【0030】
wa及びMwdは、以下(1)に示す式を満たすことが好ましい。
wd×2.3≦Mwa ・・・(1)
wa及びMwdが、上記(1)に示す式を満たすことにより、(D)成分の、未反応のヒドロシリル基との反応性を高くすることができ、150℃以上の高温環境下において、熱伝導性組成物の硬化物の硬度上昇を抑制することができる。Mwa及びMwdは、熱伝導性組成物の硬化物の硬度上昇をより効果的に抑制する観点から、以下に示す、式(1-A)を満たすことがより好ましく、式(1-B)を満たすことがさらに好ましい。
wd×2.5≦Mwa ・・・(1-A)
wd×3.0≦Mwa ・・・(1-B)
また、Mwa及びMwdの差の上限は、特に限定されないが、それらの差を一定以下とし、(A)成分及び(D)成分の重量平均分子量をそれぞれ調整することで、(B)成分中のヒドロシリル基との反応性を適切にする観点から、以下に示す式(1-C)において、tが30であることが好ましく、tが10であることがより好ましい。
wa≦Mwd×t ・・・(1-C)
なお、前記熱伝導性組成物が、後述の第1剤と第2剤の組合せでなる2液型の熱伝導性組成物である場合には、第1剤と第2剤とを混合した全体におけるMwaとMwdの比率が上記関係式を持たすものとする。
【0031】
(D)成分として使用されるポリシロキサン化合物としては、オルガノポリシロキサンが使用される。(D)成分のオルガノポリシロキサンは、直鎖状でも分岐状でもよいし、直鎖状と分岐状の混合物でもよいが、直鎖状であることが好ましい。
メタクリロイル基は、ポリシロキサン構造の分子鎖の末端、又は分子鎖の途中のいずれに含有させてよいが、末端に含有させることが好ましく、ポリシロキサン構造の分子鎖の片末端に含有させることがより好ましい。(D)成分は、分子中にメタクリロイル基を1個以上有するとよいが、耐熱性に優れた硬化物を得られるという観点から、好ましくはメタクリロイル基を1個有する。
【0032】
メタクリロイル基は、ケイ素原子に直接結合したメタクリロイル基であってもよいが、任意の二価の基(例えば、二価の飽和脂肪族炭化水素基、-XO-で表される基(ただし、Xは二価の飽和脂肪族炭化水素基、なお、二価の飽和脂肪族炭化水素基は、例えば炭素原子数1~18、好ましくは1~6、より好ましくは2~4である。また、-XO-は、好ましく酸素原子がメタクリロイル基に結合する))や酸素原子を介して、ケイ素原子に結合してもよい。
【0033】
(D)成分において、ケイ素原子に結合する残余の基としては、(A)成分で列挙したものと同様であるが、合成のし易さなどの観点からメチル基が好ましい。また、ケイ素原子に結合する残余の基のうち、80モル%以上がメチル基であることが好ましく、90モル%以上がメチル基であることがより好ましく、100モル%がメチル基であることがさらに好ましい。なお、(D)成分は、ケイ素原子に結合する残余の基として、水素原子を有さず、すなわち、(D)成分は、ヒドロシリル基を含有しないものであるとよい。
(D)成分のオルガノポリシロキサンは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
(D)成分の重量平均分子量Mwdは、上記した(A)成分の重量平均分子量Mwaよりも小さいものであり、上記した(1)に示す式を満たすことが好ましい。Mwdは、15000以下であることが好ましく、12000以下であることがより好ましく、7000以下であることがさらに好ましい。Mwdが上記上限値以下であることにより、熱伝導性組成物中に残存したヒドロシリル基との反応が促進され、硬化物の硬度上昇を抑制することができる。また、熱伝導性組成物が高粘度となることを防止することができる。
他方で、Mwdの下限は、特に限定されないが、熱伝導性組成物の粘度を低減する観点から、800以上が好ましく、1500以上がより好ましく、3000以上がさらに好ましい。
また、熱伝導性組成物中に残存したヒドロシリル基との反応が促進され、硬化物の硬度上昇を抑制することができる観点と、熱伝導性組成物の粘度を低減する観点から、Mwdは、800~15000であることが好ましく、1500~12000であることが好ましく、3000~7000であることが好ましい。
【0035】
(D)成分の25℃における粘度は、特に限定されないが、例えば10~2000mPa・s、好ましくは50~1000mPa・s、より好ましくは80~600mPa・sである。
(D)成分の粘度を上記下限値以上とすることで、硬化物における架橋密度を低下させやすくなり、硬化後の柔軟性を高めやすくなる。また、上記上限値以下とすることで、熱伝導性組成物が高粘度となることを防止できる。また(D)成分の粘度を上記範囲内に調整することで、(D)成分の反応性を適度なものに調整できる。
【0036】
(D)成分の含有量は、後述する含有量比H/Viなどを所望の範囲内に調整できるように適宜選択すればよく、特に限定されないが、熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン全量に対して、例えば、1質量%以上、好ましくは2質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上である。また、例えば、55質量%以下、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
また、さらに(D)成分の含有量は、特に限定されないが、熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン全量に対して、例えば、1~55質量%、好ましくは2~50質量%、より好ましくは3~45質量%、さらに好ましくは4~30質量%である。
【0037】
<(E)成分>
本発明の熱伝導性組成物は、(E)成分としてヒドロシリル化触媒を含む。本発明の熱伝導性組成物は、ヒドロシリル化触媒を含有することで、アルケニル基を含有するオルガノポリシロキサンと、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの付加反応を促進して、熱伝導性組成物を適切に硬化させることができる。ヒドロシリル化触媒としては、特に限定されないが、塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン類、ビニルシロキサン又はアセチレン化合物との錯化合物などが挙げられる。白金族系硬化触媒の熱伝導性組成物における含有量は、付加反応を促進できる量含有されればよく特に限定されないが、熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン100質量部に対して、例えば0.001~1質量部、好ましくは0.005~0.5質量部である。
【0038】
<(F)成分>
本発明の熱伝導性組成物は、さらに(F)成分として、付加反応基を有さないオルガノポリシロキサンを含有することが好ましい。本発明の熱伝導性組成物は、(F)成分を含有することにより、硬化物において、一定量以上の成分が架橋構造に組み込まれず、柔軟性を向上させやくなる。また、熱伝導性組成物の粘度を低下させやすくなり、取扱い性を向上させやすくなる。なお、付加反応基は、付加反応により反応する官能基を意味し、代表的には、アルケニル基、メタクリロイル基、アクリロイル基、ヒドロシリル基などが挙げられる。
【0039】
(F)成分としては、(F-1)シリコーンオイル、及び(F-2)少なくとも1つのアルコキシ基を有するオルガノポリシロキサンが挙げられる。(F)成分は、(F-1)成分又は(F-2)成分のいずれか1種を含有すればよいが、少なくとも(F-2)成分を含有することが好ましい。(F-2)成分を含有することで、熱伝導性組成物の粘度をより一層低下させやすくなる。熱伝導性組成物は、(F-2)成分を含有する場合には、さらに(F-1)成分を含有してもよい。
【0040】
(F-1)シリコーンオイルとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のストレートシリコーンオイルの他、ポリシロキサン構造を有する主鎖、主鎖に結合する側鎖、又は主鎖の末端に非反応性の有機基を導入した、非反応性の変性シリコーンオイル等が挙げられる。非反応性の有機基とは、付加反応基を有しない有機基である。非反応性の変性シリコーンオイルとしては、例えば、ポリエーテル変性シリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、フロロアルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸エステル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸アミド変性シリコーンオイル、及びフェニル変性シリコーンオイルが挙げられる。上記の中でも、シリコーンオイルとしてはストレートシリコーンオイルが好ましく、ストレートシリコーンオイルの中でも、ジメチルシリコーンオイルがより好ましい。
(F-1)シリコーンオイルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
(F-2)成分は、直鎖状でも分岐状でもよいし、直鎖状と分岐状の混合物でもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、(F-2)成分としては、少なくとも1つのアルコキシ基を有するオルガノポリシロキサンであればよいが、ポリシロキサン構造の分子鎖末端に少なくとも1つのアルコキシ基を有するオルガノポリシロキサンが好ましく、片末端のみに少なくとも1つのアルコキシ基を有するオルガノポリシロキサンがより好ましい。(F-2)成分は、アルコキシ基、特に、末端にアルコキシ基を有することで、熱伝導性充填材の表面に存在する官能基などと反応ないし相互作用しやすく、かつポリシロキサン構造を備えることも相まって、充填材の摩擦を低減させて、熱伝導性組成物の粘度を低下させやすくなると推定される。
【0042】
(F-2)成分は、具体的には、下記式(X)で表される構造を有するものであることが好ましい。
【化1】

(式(X)中、R、R、R、Rはそれぞれ独立に飽和炭化水素基であり、Rは酸素原子または2価炭化水素基であり、nは15~315の整数であり、mは0~2の整数である)
【0043】
式(X)で表される構造の(F-2)成分を用いることで、熱伝導性組成物の粘度低減効果がより高まる。
式(X)において、R、R、R、Rはそれぞれ独立に飽和炭化水素基である。飽和炭化水素基としては、例えば、直鎖状アルキル基、分岐鎖状アルキル基、環状アルキル基などのアルキル基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン化アルキル基などが挙げられる。
直鎖状アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等が挙げられる。分岐鎖状アルキル基としては、イソプロピル基、ターシャリーブチル基、イソブチル基、2-メチルウンデシル基、1-ヘキシルヘプチル基等が挙げられる。環状アルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロドデシル基等などが挙げられる。
アリール基としては、フェニル基、トリル基、キシリル基等などが挙げられる。アラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、2-(2,4,6-トリメチルフェニル)プロピル基等が挙げられる。ハロゲン化アルキル基としては、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基等が挙げられる。
【0044】
式(X)におけるR~R、m、nは、粘度低減効果を高める観点から以下のとおりであることが好ましい。
式(X)におけるRは、好ましくは炭素数1~8のアルキル基であり、より好ましくは炭素数2~6のアルキル基であり、特に好ましくはブチル基である。
式(X)におけるR、R、Rは、それぞれ独立に、好ましくは炭素数1~8のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基であり、特に好ましくはメチル基である。
式(X)におけるRは酸素原子または2価炭化水素基であり、2価炭化水素基であることが好ましい。2価炭化水素基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、メチルエチレン基などが挙げられ、中でもエチレン基が好ましい。
【0045】
式(X)におけるnは15~315の整数であり、好ましくは18~280の整数であり、より好ましくは20~220の整数である。式(X)におけるmは0~2の整数であり、好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。したがって、(F-2)成分は、片末端にトリアルコキシシリル基を有するオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
(F-2)成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
(F)成分の25℃における粘度の下限は、特に限定されないが、例えば1mPa・s以上、好ましくは5mPa・s以上、より好ましくは10mPa・s以上である。
一方、(F)成分の25℃における粘度の上限は、特に限定されないが、例えば800mPa・s以下、好ましくは250mPa・s以下、より好ましくは150mPa・s以下である。
また、(F)成分の25℃における粘度は、特に限定されないが、例えば1~800mPa・s、好ましくは5~250mPa・s、より好ましくは10~150mPa・sである。(F)成分の粘度を上記下限値以上とすることで、硬化後のブリードアウトも防止しやすくなる。一方、(F)成分の粘度を上記上限値以下とすることで、(F)成分自体の粘度が高くなりすぎることがなく熱伝導性組成物の粘度を低減させつつ、硬化物も形成しやすくなる。また、(F)成分の粘度を上記範囲内とすることで、硬化後のブリードアウトも防止しやすくなり、(F)成分によって熱伝導性組成物の粘度を効果的に低減させつつ、硬化物も形成しやすくなる。
【0047】
(F)成分の熱伝導性組成物における含有量は、熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン全量基準で、例えば3質量%以上であり、例えば63質量%以下である。(F)成分の含有量を上記下限値以上とすることで、熱伝導性組成物から得られる硬化物の柔軟性を高めやすくなり、(F)成分によって熱伝導性組成物の粘度も低減させやすくなる。また、(F)成分の含有量を上記上限値以下とすることで、熱伝導性組成物に一定の硬化性を付与でき所望の物性の硬化物を得やすくなり、硬化後のブリードアウトも防止しやすくなる。(F)成分の熱伝導性組成物における含有量の下限は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましい。一方、(F)成分の熱伝導性組成物における含有量の上限は、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましい。また、(F)成分の熱伝導性組成物における含有量の上限は、3~63質量%であることが好ましく、5~50質量%がより好ましく、10~40質量%がさらに好ましく、15~35質量%がよりさらに好ましい。
【0048】
(F)成分は、上記の通り、(F-2)成分を含有することが好ましい。(F-2)成分の熱伝導性組成物における含有量の下限は、熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン全量基準で、2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上がより好ましく、8質量%以上がさらに好ましい。一方、(F-2)成分の熱伝導性組成物における含有量の上限は、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。また、(F-2)成分の熱伝導性組成物における含有量は、2~40質量%であることが好ましく、4~30質量%がより好ましく、8~20質量%がさらに好ましい。
(F-2)成分を上記下限値以上含有する熱伝導性組成物は、(F)成分の中でも、(F-2)成分を一定量以上で含有することで、熱伝導性組成物の粘度をより一層低減しやすくなる。また、(F)成分を上記上限値以下とすることで、熱伝導性組成物に一定の硬化性を付与でき所望の物性の硬化物を得やすくなり、硬化後のブリードアウトも防止しやすくなる。
【0049】
本発明の熱伝導性組成物において、(A)、(B)、(D)、及び(F)成分の合計含有量の下限は、熱伝導性組成物全量に対して、好ましくは2質量%以上である。また、本発明の熱伝導性組成物において、(A)、(B)、(D)、及び(F)成分の合計含有量の上限は、熱伝導性組成物全量に対して、好ましくは40質量%以下である。(A)、(B)、(D)、及び(F)成分の合計量を一定量以上とすることで、これら成分がバインダー樹脂としての機能を適切に発揮でき、これら成分によって熱伝導性充填材を適切に保持することができる。また、上記合計含有量を一定量以下とすることで、熱伝導性充填材を多量に含有させて熱伝導性を高めることが可能になる。
上記観点から(A)、(B)、(D)、及び(F)成分の合計含有量の下限は、熱伝導性組成物全量に対して、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは3.5質量%以上、よりさらに好ましくは4質量%以上である。一方、(A)、(B)、(D)、及び(F)成分の合計含有量の上限は、熱伝導性組成物全量に対して、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下、よりさらに好ましくは10質量%以下である。また、(A)、(B)、(D)、及び(F)成分の合計含有量は、熱伝導性組成物全量に対して、より好ましくは3~20質量%、さらに好ましくは3.5~15質量%、よりさらに好ましくは4~10質量%である。
【0050】
本発明の熱伝導性組成物におけるオルガノポリシロキサンは、(A)、(B)、(D)成分又は(A)、(B)、(D)、及び(F)成分からなってもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で(A)、(B)、(D)、及び(F)成分以外のオルガノポリシロキサンを含有してもよい。(A)、(B)、(D)、及び(F)成分以外のオルガノポリシロキサンの含有量は、熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン全量に対して、例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、最も好ましくは0質量%である。
【0051】
本発明の熱伝導性組成物中には、種々の添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、反応制御剤、分散剤、難燃剤、可塑剤、酸化防止剤、着色剤などが挙げられる。なお、各添加剤は、2液型の熱伝導性組成物においては、第1剤及び第2剤のいずれか一方に含有させればよいが、両方に含有させてもよい。添加剤は、これらから1種又は2種以上を適宜選択して使用すればよい。
【0052】
<アルケニル基及びメタクリロイル基の含有量>
熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン全量におけるアルケニル基及びメタクリロイル基の合計含有量(以下、「合計Vi+Me含有量1」ともいう)は、0.30mmol/g以下であることが好ましい。合計Vi+Me含有量1を0.30mmol/g以下とすることで、硬化物における架橋密度を低くして、柔軟性を良好にしやすくなる。合計Vi+Me含有量1は、より好ましくは0.25mmol/g以下、さらに好ましくは0.15mmol/g以下、よりさらに好ましくは0.12mmol/g以下である。
合計Vi+Me含有量1は、熱伝導性組成物に一定の硬化性及び適度な架橋密度を付与する観点から、0.02mmol/g以上が好ましく、0.04mmol/g以上がさらに好ましく、0.06mmol/g以上がさらに好ましく、0.08mmol/g以上がよりさらに好ましい。
また、硬化物における架橋密度を適度なものとして、適度な柔軟性にするという観点から、合計Vi+Me含有量は、0.02~0.30mmol/gが好ましく、0.04~0.25mmol/gがさらに好ましく、0.06~0.15mmol/gがさらに好ましく、0.08~0.12mmol/gがよりさらに好ましい。
なお、2液型の熱伝導性組成物のとき第1剤及び第2剤のそれぞれについて合計Vi+Me含有量1を測定できるが、上記した合計Vi+Me含有量1の好ましい範囲は、第1剤及び第2剤を合わせた値である。
【0053】
熱伝導性組成物におけるアルケニル基及びメタクリロイル基の合計含有量(以下、「合計Vi+Me含有量2」ともいう)は、8.0μmol/g以下であることが好ましい。合計Vi+Me含有量2を8.0μmol/g以下とすることで、硬化物における架橋密度を低くして、柔軟性を良好にしやすくなる。合計Vi+Me含有量2は、より好ましくは7.0μmol/g以下、さらに好ましくは6.5μmol/g以下、よりさらに好ましくは6.0μmol/g以下である。
合計Vi+Me含有量2は、熱伝導性組成物に一定の硬化性及び適度な架橋密度を付与する観点から、0.5μmol/g以上が好ましく、1.0μmol/g以上がさらに好ましく、2.0μmol/g以上がさらに好ましく、3.0μmol/g以上がよりさらに好ましい。
また、硬化物における架橋密度を適度なものとして、硬化物に適度な柔軟性を付与するという観点から、合計Vi+Me含有量2は、0.5~8.0μmol/gが好ましく、1.0~7.0μmol/gがさらに好ましく、2.0~6.5μmol/gがさらに好ましく、3.0~6.0μmol/gがよりさらに好ましい。
なお、上記アルケニル基及び後述するメタクリロイル基の含有量は、NMR測定装置を用いて測定される1H-NMRスペクトルの積分比から算出した値とすることができる。
【0054】
熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン全量におけるメタクリロイル基の含有量(以下、「Me含有量1」ともいう)は、0.15mmol/g以下であることが好ましい。Me含有量1を0.15mmol/g以下とすることで、メタクリロイル基を必要以上に含有することなく、未反応のヒドロシリル基の残量を減少させて、硬化後の高温環境下における硬度上昇を抑制しやすくなる。Me含有量1は、より好ましくは0.12mmol/g以下、さらに好ましくは0.08mmol/g以下、よりさらに好ましくは0.05mmol/g以下である。
Me含有量1は、熱伝導性組成物中の未反応のヒドロシリル基の残量を十分減少させ、硬化後の高温環境下における硬度上昇を抑制する観点から、0.002mmol/g以上が好ましく、0.004mmol/g以上がさらに好ましく、0.006mmol/g以上がさらに好ましく、0.008mmol/g以上がよりさらに好ましい。
また、メタクリロイル基を必要以上に含有することなく、未反応のヒドロシリル基の残量を減少させて、硬化後の高温環境下における硬度上昇を抑制しやすくなる観点から、合計Me含有量1は、0.002~0.15mmol/gが好ましく、0.004~0.12mmol/gがさらに好ましく、0.006~0.08mmol/gがさらに好ましく、0.008~0.05mmol/gがよりさらに好ましい。
なお、2液型の熱伝導性組成物の場合には、第1剤及び第2剤のそれぞれについて合計Me含有量1を測定できるが、上記した合計Me含有量1の好ましい範囲は、第1剤及び第2剤を合わせた値である。
【0055】
熱伝導性組成物におけるメタクリロイル基の含有量(以下、「Me含有量2」ともいう)は、4.0μmol/g以下であることが好ましい。Me含有量2を4.0μmol/g以下とすることで、メタクリロイル基を必要以上に含有することなく、未反応のヒドロシリル基の残量を減少させて、硬化後の高温環境下における硬度上昇を抑制しやすくなる。Me含有量2は、より好ましくは3.5μmol/g以下、さらに好ましくは3.0μmol/g以下、よりさらに好ましくは2.5μmol/g以下である。
Me含有量2は、熱伝導性組成物中の未反応のヒドロシリル基の残量を十分減少させ、硬化後の高温環境下における硬度上昇を抑制する観点から、0.05μmol/g以上が好ましく、0.1μmol/g以上がさらに好ましく、0.2μmol/g以上がさらに好ましく、0.3μmol/g以上がよりさらに好ましい。
また、メタクリロイル基を必要以上に含有することなく、未反応のヒドロシリル基の残量を減少させて、硬化後の高温環境下における硬度上昇を抑制しやすくなる観点から、合計Me含有量2は、0.05~4.0μmol/gが好ましく、0.1~3.5μmol/gがさらに好ましく、0.2~3.0μmol/gがさらに好ましく、0.3~2.5μmol/gがよりさらに好ましい。
【0056】
なお、熱伝導性組成物に含有されるオルガノポリシロキサン全量におけるアルケニル基の合計含有量(以下、「合計Vi含有量1」とし、熱伝導性組成物におけるアルケニル基の合計含有量(以下、「合計Vi含有量2」もいう)としたき、「Me含有量1」と「合計Vi含有量1」との合計が「合計Vi+Me含有量1」であり、「Me含有量2」と「合計Vi含有量2」との合計が「合計Vi+Me含有量2」である。
【0057】
Me含有量2、及び合計Vi含有量2は、モル基準で下記(2)及び(3)式を満たすことが好ましい。
0.10≦α≦0.60 ・・・(2)
α=Me含有量2/(合計Vi+Me含有量2) ・・・(3)
上記(2)及び(3)式に示すように、合計Vi+Me含有量に占めるMe含有量の割合を一定量以上とすることで、熱伝導性組成物中の未反応のヒドロシリル基の残量を減少させ、架橋点が密になりすぎることを防止しつつ、高温環境下において、硬化物の硬度上昇を抑制することができる。Me含有量は、合計Vi+Me含有量に対して、0.15以上がより好ましく、0.19以上がさらに好ましい。また、メタクリロイル基を必要以上に含有することなく、未反応のヒドロシリル基の残量を減少させて、硬化後の高温環境下における硬度上昇を抑制する観点から、Me含有量は、合計Vi+Me含有量に対して、0.55以下がより好ましく、0.50以下がさらに好ましい。
また、Me含有量は、合計Vi+Me含有量に対して、0.15~0.55であることがより好ましく、0.19~0.50以上がさらに好ましい。
【0058】
また、熱伝導性組成物において、(A)成分(すなわち、アルケニル基を有するオルガノポリシロキサン)の片末端のみにアルケニル基を有する(A)成分に含有されるアルケニル基の含有量(以下、「DVi含有量」ともいう)は、熱伝導性組成物に一定の硬化性を付与する観点から、合計Vi+Me含有量に対して、0.17以下が好ましく、0.15以下がより好ましく、0.10以下がさらに好ましく、0.05以下がよりさらに好ましい。合計Vi+Me含有量に対するDVi含有量は、硬化物に適切な架橋構造を付与する観点からは、低ければ低い程よく、0以上であればよい。
【0059】
<含有量比H/Vi>
熱伝導性組成物における、モル基準のヒドロシリル基の含有量H、及びアルケニル基の含有量Viは、以下の式(4)の関係を満たすことが好ましい。
0.8≦H/Vi≦1.5 ・・・・(4)
本発明の熱伝導性組成物は、(D)成分を含むため、以上の式(4)の関係を満足することで、熱伝導性組成物の硬化性を良好にでき、例えば熱伝導性組成物を常温でも適度に硬化させることができる。また、150℃以上の高温環境においても、熱伝導性組成物の硬化物の硬度上昇を抑制する効果が高まる。未反応のアルケニル基の量を少なくするという観点からは、上記H/Viは、0.95以上であることがより好ましく、1.05以上であることがさらに好ましい。一方、未反応のヒドロシリル基の量を少なくするという観点からは、上記H/Viは、1.40以下であることがより好ましく、1.20以下であることがさらに好ましい。また、未反応の付加反応基を少なくして熱伝導性組成物の硬化物の硬度上昇を抑制する観点から、H/Viは、0.95~1.40であることがより好ましく、1.05~1.20がさらに好ましい。
なお、H/Viの値によらず、硬化過程の前半では、未反応のアルケニル基と未反応のヒドロシリル基が残存してしまうため、H/Viが1以下の場合であっても、硬化過程の後半において未反応のヒドロシリル基と(D)成分とを反応させることで、熱伝導性組成物の硬化物の硬度上昇を抑制することができる。一方、未反応のアルケニル基の残存量が問題となる場合は、アルケニル基の含有量Viよりもヒドロシリル基の含有量H量を多くすることで、未反応のアルケニル基の量を減らし、さらに未反応のヒドロシリル基を、硬化過程の後半において(D)成分と反応させていることで、熱伝導性組成物の硬化物の硬度上昇を抑制することができる。
【0060】
<含有量比H/(Vi+Me)>
熱伝導性組成物における、モル基準のヒドロシリル基の含有量H、アルケニル基の含有量Vi、及びメタクリロイル基の含有量Meは、以下の式(5)の関係を満たすことが好ましい。
0.4≦H/(Vi+Me)≦1.2 ・・・・(5)
本発明の熱伝導性組成物は、以上の式(5)の関係を満足することで、熱伝導性組成物の硬化性を良好にでき、例えば熱伝導性組成物を常温でも適度に硬化させることができる。また、150℃以上の高温環境においても、熱伝導性組成物の硬化物の硬度上昇を抑制する効果が高まる。
また、硬化性の観点から、H/(Vi+Me)は、0.50以上であることがより好ましく、0.55以上がさらに好ましい。また、硬度上昇を抑制する観点から、H/(Vi+Me)は、1.05以下であることがより好ましく、0.95以下であることがさらに好ましい。
さらにまた、硬化性及び硬度上昇抑制の観点から、H/(Vi+Me)は、0.50~1.05であることがより好ましく、0.55~0.95がさらに好ましい。
なお、含有量比H/Vi、及び含有量比H/(Vi+Me)は、配合される各成分の官能基量と、各成分の含有量から算出することができる。配合される各成分の官能基量は、上記の通り1H-NMRスペクトルの積分比から算出できる。
また、下記式(5-2)の関係を満足することで、熱伝導性組成物中にメタクリロイル基が含有されることとなり、高温環境下において、熱伝導性組成物の硬化物の硬度上昇を抑制することができる。
H/(Vi+Me)<H/Vi ・・・(5-2)
【0061】
<タイプE硬さ>
本発明の熱伝導性組成物は、25℃で24時間放置した後のタイプE硬さ(E1)と、25℃で24時間放置し、さらに150℃で250時間放置した後のタイプE硬さ(E2)との関係が、下記(6)式を満たすことが好ましい。
E2/E1≦1.5 ・・・(6)
E2/E1が1.5以下であると、硬化後の硬さの変化が大きくなりすぎないため、耐熱性が良好となり、例えば、発熱体や放熱体などに対する剥離を発生しにくくなり、安定した固定が可能となる。このような観点から、E2/E1は、1.45以下であることがより好ましい。他方、E2/E1の下限は、特に限定されないが、実用的には例えば1以上、好ましくは1.15以上である。
なお、本発明におけるタイプE硬さは日本工業規格であるJIS K 6253のタイプEの硬度計によって測定される値である。
【0062】
熱伝導性組成物は、タイプE硬さ(E1)が、40以上であることが好ましく、45以上であることがより好ましく、50以上であることがさらに好ましい。熱伝導性組成物は、タイプE硬さ(E1)を一定値以上とすることで、常温に放置するだけで一定の硬度を有する硬化物を得ることができる。そのため、例えば、常温硬化後の状態で、硬化物の上部に設置した部材の重量を十分に支持することができ、使用時に厚さ方向に圧縮したりすることを防止できる。また、熱伝導性組成物のタイプE硬さ(E1)は、65以下であることが好ましく、62以下がより好ましく、60以下がさらに好ましい。タイプE硬さ(E1)を上記上限値以下とすることで、熱伝導性組成物の硬化物の柔軟性を向上させることができる。
【0063】
熱伝導性組成物は、タイプE硬さ(E2)が、下記(7-2)式を満たすものであることが好ましい。
E2<80 ・・・(7-2)
なお、熱伝導性組成物は、2液型の熱伝導性組成物においては、第1剤と第2剤を混合した後に25℃で24時間放置すればよい。他の硬さの測定においても同様である。
【0064】
上記のタイプE硬さ(E2)が、80未満となると、150℃以上の環境下において硬化物の柔軟性を維持しやすく、振動などの応力を緩和しやすいことから発熱体や放熱体から剥離が発生しにくくなる。そのため、熱伝導性組成物の硬化物を150℃以上の環境下で放熱ギャップフィラー(熱伝導性部材)として使用すると、発熱体や放熱体などに対する剥離の発生、熱抵抗の上昇を防止でき、信頼性を維持することができる。タイプE硬さ(E2)は、柔軟性及び信頼性の観点から、75以下が好ましく、73以下がより好ましく、70以下がさらに好ましい。なお、柔軟性が高くなると、緩衝性を発揮しやすくなり、振動が発生する環境下において好適に用いることができる。
また、タイプE硬さ(E2)は、特に限定されないが、例えば30以上、好ましくは40以上、より好ましくは50以上である。タイプE硬さ(E2)を一定値以上とすることで、150℃以上の環境下において硬化物の柔軟性を維持しやすくでき、さらに例えば硬化物の上部に設置した部材の重量を十分に支持することができ、使用時に硬化物が厚さ方向に圧縮されすぎることを防止できる。
【0065】
25℃で24時間放置し、さらに150℃で1000時間放置した後のタイプE硬さをE3とすると、E3-E2の値で表される硬度変化は、長期間150℃で加熱された際の硬度変化を表す。E3-E2の値は、低ければ低いほど150℃以上の温度で長期間使用しても性能変化が少なく、長期耐熱性が良好であることを意味する。E3-E2の値で表される硬度変化は、長期耐熱性の観点から、6以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましく、2以下であることが好ましい。なお、E3-E2の値で表される硬度変化は、特に限定されないが、通常は0以上である。
【0066】
<ヒドロシリル基の濃度比>
本発明の一実施形態に係る熱伝導性組成物において、(B)成分に含まれる(B-1)成分及び(B-2)成分は、下記(1-2)式の関係を満たすように含有されることが好ましい。
b1/(b1+b2)>0.45 ・・・(1-2)
式(1-2)において、b1は(B-1)成分が有するヒドロシリル基の濃度、b2は(B-2)成分が有するヒドロシリル基の濃度である。なお、ここでいうヒドロシリル基の濃度とは、熱伝導性組成物におけるヒドロシリル基の濃度である。ただし、後述する2液型の熱伝導性組成物においては、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、第1剤に含有されずに、第2剤のみに含有される。したがって、2液型の熱伝導性組成物においては、第2剤におけるヒドロシリル基の濃度を意味するものともいえる。すなわち、(B-1)成分及び(B-2)成分は、(1-2)式の関係を満たすように第2剤に含有されるとよい。
【0067】
本組成物において、b1/(b1+b2)が0.45より大きくなると、架橋点が疎になりやすく、150℃以上の環境下において硬化物の柔軟性を良好に維持しやすくなる。そのため、熱伝導性組成物の硬化物を150℃以上の環境下で放熱ギャップフィラーとして使用すると、発熱体や放熱体などに対する剥離が発生しにくくなり、熱抵抗が上昇する不具合が生じにくくなり、信頼性が向上する。さらには、柔軟性が高くなることで、例えば厚くした場合などには、緩衝性を発揮でき、振動が発生する環境下において好適に用いることができる。
架橋点を疎にして信頼性や柔軟性をより一層良好にする観点からb1/(b1+b2)は、0.48以上が好ましく、0.50以上がより好ましく、0.52以上がさらに好ましい。
b1/(b1+b2)は、0.85未満であることが好ましい。b1/(b1+b2)を0.85未満とすることで、硬化物に適度な架橋密度で架橋構造を導入しやすくなる。そのため、長期間にわたって高温で加熱されても硬度を一定の値に維持しやすくなり、長期耐熱性などを良好にしやすくなる。以上の観点から、b1/(b1+b2)は、0.75以下であることがより好ましく、0.70以下であることがさらに好ましく、0.63以下であることがよりさらに好ましい。
本発明では、上記式(1-1)の要件及び式(1-2)の要件のいずれか一方を満たせばよいが、両方を満たしてもよい。
なお、(B-1)成分および(B-2)成分のヒドロシリル基の濃度は、NMR測定装置を用いて測定される1H-NMRスペクトルの積分比から算出した値とすることができる。
【0068】
<ラマン強度比p2/p1>
本発明の一実施形態において熱伝導性組成物は、ラマン分光スペクトルにおける2160cm-1のラマン強度p1と、2130cm-1のラマン強度p2とが、下記(1-1)式の関係を満たすことが好ましい。
p2/p1>3.00 ・・・(1-1)
【0069】
ラマン分光スペクトルにおける2160cm-1のラマン強度p1は、ポリシロキサン構造の分子鎖の途中に含有されるヒドロシリル基に由来するピーク波長のラマン強度である。ラマン分光スペクトルにおける2130cm-1のラマン強度p2は、ポリシロキサン構造の分子鎖の末端に含有されるヒドロシリル基に由来するピーク波長のラマン強度である。したがって、p2/p1は、分子鎖の途中に含有されるヒドロシリル基に対する、末端ヒドロシリル基の量を示す指標といえる。
【0070】
p2/p1を3.0より大きくすることで、分子鎖の末端に含有されるヒドロシリル基の量が多くなる一方で、分子鎖の途中に含有されるヒドロシリル基の量が少なくなって、架橋点が疎になりやすく、150℃以上の環境下においても硬化物の硬度上昇を抑制しやすくなる。
架橋点を疎にして信頼性、柔軟性をより一層良好にする観点から、p2/p1は、3.10以上が好ましく、3.20以上がより好ましく、3.30以上がさらに好ましい。
また、p2/p1は、5.5未満であることが好ましい。p2/p1を5.5未満とすることで、硬化物に適度な架橋密度で3次元架橋構造を導入しやすくなる。そのため、長期間にわたって高温で加熱されても硬度を一定の値に維持しやすくなり、長期耐熱性などを良好にしやすくなる。以上の観点から、p2/p1は、4.5未満であることがより好ましく、4.2以下であることがさらに好ましく、4.0以下であることがよりさらに好ましい。
【0071】
<ラマン強度比H/(Vi+Me)>
ラマン分光スペクトルにおける、アルケニル基及びメタクリロイル基由来のピークの強度に対する、ヒドロシリル基由来のピークの強度の比(「ラマン強度比H/(Vi+Me)」ともいう)は、硬化性の観点から、3.00以上であることが好ましく、4.00以上であることより好ましく、5.00以上であることがさらに好ましい。一方、硬度上昇を抑制する観点から、上記ラマン強度比H/(Vi+Me)は、12.00以下であることが好ましく、10.00以下であることがより好ましく、9.00以下であることがさらに好ましい。
また、ラマン強度比H/(Vi+Me)は、3.00~12.00であることが好ましく、4.00~10.00であることがより好ましく、5.00~9.00であることがさらに好ましい。ラマン強度比H/(Vi+Me)を上記範囲内にすることで、ヒドロシリル基の数と、アルケニル基及びメタクリロイル基の合計数とがつり合い、(A)、(B)、及び(D)成分を適切に硬化させやすくなり、例えば、常温下でも適切に硬化が進行しやすくなる。また、硬化後の高温環境下における硬度上昇を抑制しやすくなる。
【0072】
<ラマン強度比H/Vi>
ラマン分光スペクトルにおける、アルケニル基由来のピークの強度に対する、ヒドロシリル基由来のピークの強度の比(「ラマン強度比H/Vi」ともいう)は、未反応のアルケニル基の量を少なくするという観点からは、7.00以上であることが好ましく、8.00以上であることより好ましく、9.50以上であることがさらに好ましい。一方、未反応のヒドロシリル基の量を少なくするという観点からは、上記ラマン強度比H/Viは、14.00以下であることが好ましく、12.50以下であることがより好ましく、11.00以下であることがさらに好ましい。
また、未反応の付加反応基を少なくして熱伝導性組成物の硬化物の硬度上昇を抑制する観点から、ラマン強度比H/Viは、7.00~14.00であることが好ましく、8.00~12.50であることがより好ましく、9.50~11.00であることがさらに好ましい。
なお、上記ラマン強度比H/Viはラマン強度比H/(Vi+Me)よりも大きな値となる。
【0073】
なお、ラマン分光スペクトルの測定は、熱伝導性組成物について、少なくともオルガノポリシロキサンと熱伝導性充填材とを分離して、オルガノポリシロキサンに対してラマン測定をするとよい。この際、オルガノポリシロキサンには、測定に影響を及ぼさない範囲であれば、オルガノポリシロキサン以外の成分が混合されていてもよい。したがって、通常は、遠心分離機などにより、液状成分と固体成分とを分離させて、液状成分についてラマン分光スペクトルを測定するとよい。
また、2液型の熱伝導性組成物については、第1剤及び第2剤について別々にラマン測定を行い、ラマン強度比p2/p1、H/Vi、H/(Vi+Me)を算出するとよいが、ラマン強度比p2/p1は、第2剤のラマン分光スペクトルから算出するとよい。オルガノハイドロジェンポリシロキサンは、第1剤に含有されずに、第2剤のみに含有されるためである。ラマン測定の測定条件は、以下で述べるとおりである。なお、アルケニル基は代表的にはビニル基であり、上記したラマン強度比H/Viは、典型的には、後述するとおり、ヒドロシリル基/ビニル基比の指標を算出することで求めることができ、上記したラマン強度比H/Viは、典型的には、後述するとおり、ヒドロシリル基/(ビニル基+メタクリロイル基)比の指標を算出することで求めることができる。
【0074】
以下に熱伝導性組成物が2液型であり、かつアルケニル基がビニル基である場合のラマン測定の具体例について述べるが、ラマン測定法は、以下の方法に限定されない。
第1剤および第2剤について、それぞれ遠心分離器を用いて、液体成分と固体成分(熱伝導性充填材)とを分離する。そして分離した液体成分について、それぞれのラマンスペクトルを測定する。ラマンスペクトルの測定条件は、例えば、以下を採用する。
装置:RENISHAW社製 inViaラマンマイクロスコープQONTOR
スペクトル範囲:300~2500cm-1
レーザー光波長:532nm、100mW(10%に減光)
グレーティング:1800line/mm
照射時間:1.0s
積算:100
対物レンズ:50倍
【0075】
ラマン強度比p2/p1は、ヒドロシリル基を含む第2剤から得られたラマン分光スペクトルについて、波数2130cm-1のラマン強度p2と波数2160cm-1のラマン強度p1から見積もる。
ラマン強度比H/Vi(アルケニル基由来のピークの強度に対する、ヒドロシリル基由来のピークの強度の比)は、以下のように算出する。すなわち第1剤のラマンスペクトと第2剤のラマンスペクトルについて、まず、波数490cm-1に表れるSi-O-Siのピークの面積C、波数1600cm-1に表れるビニル基のピークの面積D、及び、波数2130~2160cm-1に表れるヒドロシリル基のピークの面積Fを算出する。次いで面積Cを基準に以下の計算を行い、測定毎の強度の誤差を補正して規格化する。
面積D/面積C=面積割合D1
面積F/面積C=面積割合F1
続いて、第1剤の面積割合D1に第1剤に含まれる液体成分の質量割合を乗じた値と、第2剤の面積割合D1、F1に第2剤の液体成分に含まれる質量割合を乗じた値とを合計して熱伝導性組成物におけるD1、F1を見積もる。
そして、下記式により、ヒドロシリル基/ビニル基比の指標を算出することで求める。
ラマン強度比H/Vi=面積割合F1/面積割合D1
【0076】
また、ラマン強度比H/(Vi+Me)(アルケニル基及びメタクリロイル基由来のピークの強度に対する、ヒドロシリル基由来のピークの強度の比)は、以下のように算出する。すなわち第1剤のラマンスペクトと第2剤のラマンスペクトルについて、まず、波数490cm-1に表れるSi-O-Siのピークの面積C、波数1600cm-1に表れるビニル基のピークの面積D、波数1640cm-1に表れるメタクリロイル基のピークの面積E、及び、波数2130~2160cm-1に表れるヒドロシリル基のピークの面積Fを算出する。次いで面積Cを基準に以下の計算を行い、測定毎の強度の誤差を補正して規格化する。
面積D/面積C=面積割合D1
面積E/面積C=面積割合E1
面積F/面積C=面積割合F1
続いて、第1剤の面積割合D1、E1に第1剤に含まれる液体成分の質量割合を乗じた値と、第2剤の面積割合D1、E1、F1に第2剤の液体成分に含まれる質量割合を乗じた値とを合計して熱伝導性組成物におけるD1、E1、F1を見積もる。
そして、下記式により、ヒドロシリル基/(ビニル基+メタクリロイル基)比の指標を算出することで求める。なお、ビニル基とメタクリロイル基とではラマン散乱強度の違いがあるため、補正係数として0.5を乗じて計算するものとする。
ラマン強度比H/(Vi+Me)=面積割合F1/[面積割合D1+(面積割合E1×0.5)]
なお、熱伝導性組成物において、ビニル基以外のアルケニル基を有する場合にも、ビニル基以外のアルケニル基由来のピーク強度を同様に算出して、ラマン強度比H/Vi及びラマン強度比H/(Vi+Me)を算出するとよい。
【0077】
<2液型の熱伝導性組成物>
本発明の熱伝導性組成物は、1液型でもよいし、第1剤と第2剤を組み合わせてなる2液型でもよいが、保存安定性の観点から、2液型が好ましい。2液型は、使用時に第1剤と第2剤とを混合させて熱伝導性組成物を得るものである。
2液型の熱伝導性組成物において、第1剤と第2剤の質量比(第2剤/第1剤)は、1又は1に近い値であることが好ましく、0.8~1.2が好ましく、0.9~1.1がより好ましく、0.95~1.05がより好ましい。このように、第1剤と第2剤の質量比を1又は1に近い値とすることで、熱伝導性組成物の調製が容易になる。
なお、2液型の熱伝導性組成物において、第1剤と第2剤は混合させて熱伝導性組成物を得る方法は限定されないが、例えばスタティックミキサー、攪拌羽根を有するミキサー、振動撹拌機や自転公転ミキサーなどを用いることができる。
【0078】
2液型の熱伝導性組成物において、第1剤は、アルケニル基又はメタクリロイル基のいずれかを有するオルガノポリシロキサン(アルケニル基含有オルガノポリシロキサン)と、(E)ヒドロシリル化触媒とを含むが、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有しない。また、第2剤は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有するが、(E)ヒドロシリル化触媒を含有しない。さらに、第1剤及び第2剤の少なくとも一方に(C)熱伝導性充填材が含有される。また、第1剤及び第2剤のいずれにも(C)熱伝導性充填材が含有されることが好ましい。
より具体的には、第1剤は、(A)成分及び(D)成分の少なくともいずれか1つと、(E)成分を含むが、(B)成分を含有しない。一方で、第2剤は、(B)成分を含むが、(E)成分を含有しない。また、第1剤及び第2剤の少なくともいずれか一方に(C)成分を含む。
また、第1剤は、(A)成分及び(D)成分の少なくともいずれか1つと、(C)成分と、(E)成分を含むが、(B)成分を含有しない。一方で、第2剤は、(B)成分と、(C)成分とを含むが、(E)成分を含有しないことがより好ましい。
【0079】
以上の構成を有する第1剤は、付加反応を促進する(E)ヒドロシリル化触媒を含有するが、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有しないので、第2剤と混合する前に付加反応が進行することを防止することができる。第2剤は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンを含有するが、付加反応を促進する(E)ヒドロシリル化触媒を含有しないので、第1剤と混合する前に付加反応が進行することを防止することができる。
【0080】
熱伝導性組成物を構成するアルケニル基又はメタクリロイル基のいずれかを含有するオルガノポリシロキサンは、全てが、第1剤に含有されてもよいが、一部が第1剤に含有され、残りが第2剤に含有されることが好ましい。より具体的には、熱伝導性組成物における(A)及び(D)成分は、全てが第1剤に含有されてもよいが、(A)及び(D)成分の一部が第1剤に含有され、(A)及び(D)成分の残りが第2剤に含有されることが好ましい。
このように、アルケニル基又はメタクリロイル基のいずれかを含有するオルガノポリシロキサンを第1剤と、第2剤に分割して含有させることで、第1剤及び第2剤の粘度を所望の範囲に調整しやすくなり、また、第1剤と第2剤の質量比を1又は1に近い値にしやすくなる。なお、第2剤は、オルガノハイドロジェンポリシロキサンも含有するが、(E)白金族系硬化触媒を含有しないので、アルケニル基又はメタクリロイル基のいずれかを含有するオルガノポリシロキサンを含有しても、保管時などにおいて、付加反応を実質的に進行させなくすることができる。なお、第2剤には、反応制御剤を含有させて、第2剤において反応が進行することを防止してもよい。
なお、アルケニル基又はメタクリロイル基のいずれかを含有するオルガノポリシロキサンは、第2剤に含有される場合には、オルガノハイドロジェンポリシロキサンとの混合物として第2剤に配合されてもよく、例えば、(A)成分は(B)成分との混合物として、第2剤に配合されてもよい。
【0081】
熱伝導性組成物を構成するオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、全てが第2剤に含有され、第1剤には含有されない。
(C)熱伝導性充填材は、熱伝導性組成物を形成するための第1剤と第2剤のいずれか一方に含有されればよいが、上記の通り第1剤と第2剤の両方に含有されることが好ましく、中でもおおよそ均等に含有されることがより好ましい。具体的には、第1剤における(C)熱伝導性充填材の含有量に対する、第2剤における(E)熱伝導性充填材の含有量の比(質量比)は、0.67~1.5が好ましく、0.83~1.2がより好ましく、0.91~1.1がさらに好ましい。(C)熱伝導性充填材を第1剤と第2剤におおよそ均等に配分することで、第1剤と第2剤の粘度差を小さくしやすくなり、また、第1剤と第2剤の質量比も1に近づけやすくなる。
【0082】
熱伝導性組成物は、(F)成分を含有することが好ましいが、(F)成分は、第1剤及び第2剤の少なくともいずれかに含有させるとよい。ただし、(F)成分は、少なくとも第1剤に含有させることが好ましく、第1剤及び第2剤の両方に含有させることがより好ましい。第1剤及び第2剤の両方に(F)成分を含有させると、第1剤及び第2剤の粘度を(F)成分によって調整でき、第1剤及び第2剤の両方を比較的低い粘度にすることも可能である。なお、(F)成分は、(F-2)成分を含有する場合に、(F-2)成分を第1剤及び第2剤の両方に含有させることがより効果的であり好ましい。
【0083】
<粘度>
熱伝導性組成物に含有されるバインダー樹脂の25℃における粘度VBは、特に限定されないが、好ましくは50~800mPa・s、より好ましくは80~600mPa・s、さらに好ましくは100~400mPa・sである。なお、バインダー樹脂の粘度VBとは、熱伝導性組成物に含まれるオルガノポリシロキサンの粘度であり、通常は、(A)~(D)成分、又は(A)~(D)成分及び(F)成分の混合物の粘度であるが、これら以外のオルガノポリシロキサンが含有される場合には、そのオルガノポリシロキサンもさらに含めた混合物の粘度である。後述する第1剤及び第2剤のバインダー樹脂の粘度VB1、VB2についても、同様に第1剤及び第2剤それぞれに含まれるオルガノポリシロキサンの粘度である。
【0084】
2液型の熱伝導性組成物では、第1剤及び第2剤それぞれに含有されるバインダー樹脂の25℃における粘度VB1,VB2はそれぞれ、好ましくは50~800mPa・s、より好ましくは80~600mPa・s、さらに好ましくは100~400mPa・sであるとよい。
なお、第1剤及び第2剤それぞれにおけるバインダー樹脂の粘度VB1,VB2は、第1剤及び第2剤それぞれに含有されるオルガノポリシロキサンを混合して、混合して得たオルガノポリシロキサンについて粘度を測定するとよい。熱伝導性組成物におけるバインダー樹脂の粘度VBも同様に測定可能であるが、2液型の熱伝導性組成物の場合には、第1剤及び第2剤それぞれにおけるバインダー樹脂の粘度VB1、VB2からおおよその粘度VBを見積もることも可能である。
【0085】
各オルガノポリシロキサンの25℃における粘度、第1剤、及び第2剤に含有されるバインダー樹脂の粘度VB1,VB2は、以下のとおり測定することができる。
レオメーター(例えば、アントンパール社製のレオメーター「MCR-302e」)を用いて、サンプルの温度をペルチェプレートにて25℃に調整し、φ50mmで1°角度のコーンプレートを用い、せん断速度10~100(1/sec)の範囲で連続的にせん断速度を変化させながら粘度測定を行う。粘度の値は、せん断速度10(1/s)における粘度を採用する。
【0086】
2液型の熱伝導性組成物において、第1剤及び第2剤それぞれの温度25℃、せん断速度3.16(1/s)の条件下における粘度V1,V2はそれぞれ、10~1000Pa・sであることが好ましく、50~700Pa・sであることがより好ましく、200~450Pa・sであることがさらに好ましい。第1剤及び第2剤が上記のような粘度を有することにより、取扱い性が向上しやすくなる。
【0087】
また、本発明の熱伝導性組成物の温度25℃、せん断速度3.16(1/s)の条件下における粘度Vは、10~1000Pa・sであることが好ましく、50~700Pa・sであることがより好ましく、200~450Pa・sであることがさらに好ましい。熱伝導性組成物が上記のような粘度を有することにより、硬化前においては所定の流動性を有して、狭い隙間や複雑な形状に対しても対応することができる。
熱伝導性組成物の粘度Vは、2液型である場合には、第1剤及び第2剤を混合して、直ちに測定することで求めることができるが、第1剤及び第2剤の粘度V1、V2よりおおよその粘度の値を見積もることもできる。
【0088】
上記した第1剤の粘度V1と、第2剤の粘度V2の差(|V1-V2|)は、熱伝導性組成物を均一に混合しやすくする観点から小さいほうが好ましい。具体的には、第1剤と第2剤の粘度差(|V1-V2|)は、例えば130Pa・s以下であるとよく、100Pa・s以下であることが好ましく、30Pa・s以下であることがより好ましい。また、第1剤と第2剤の粘度差(|V1-V2|)は、0Pa・s以上であればよい。
第1剤及び第2剤の粘度V1、V2は、以下の方法により測定できる。
レオメーター(例えば、アントンパール社製のレオメーター「MCR-302e」)を用いて、サンプルの温度をペルチェプレートにて25℃に調整し、φ25mmのパラレルプレートを用い、せん断速度0.0001~100(1/s)の範囲で連続的にせん断速度を変化させながら粘度測定を行う。そして、上記せん断速度における粘度を読み取るとよい。
【0089】
[熱伝導性部材]
本発明の熱伝導性組成物は、放熱ギャップフィラーなどの熱伝導性部材として使用されることが好ましい。熱伝導性部材は、熱伝導性組成物を硬化させてなる硬化物である。
熱伝導性部材は、電子機器内部などにおいて使用される。具体的には、熱伝導性部材は、発熱体と放熱体との間に介在させられ、発熱体で発した熱を熱伝導して放熱体に移動させ、放熱体から放熱させる。ここで、発熱体としては、電子機器内部で使用されるCPU、パワーアンプ、電源、半導体素子などの各種の電子部品が挙げられる。また、放熱体は、ヒートシンク、ヒートポンプ、電子機器の金属筐体などが挙げられる。
また、熱伝導性部材は、電装部品に使用されるとよく、電装部品において、前記発熱体は、エンジンルーム内及びモーター近傍の少なくともいずれかに配置されるとよく、本発明は特に150℃以上の高温環境下に晒される電装部品の用途に好適である。また、150℃以上に発熱する発熱体の放熱にも好適である。
【0090】
熱伝導性部材は、例えば発熱体及び放熱体の間の隙間に熱伝導性組成物を充填して、硬化して形成するとよい。硬化は、加熱して行ってもよいが、常温付近(例えば、0~40℃程度、好ましくは15~35℃程度)で行うことが好ましい。常温付近で硬化することで、電子部品に熱履歴を加えることなく、熱伝導性部材を電子機器内部に配置することができる。熱伝導性組成物は、2液型である場合には、第1剤と第2剤を混合させた後に発熱体及び放熱体の間の隙間などに充填させて硬化させるとよい。
熱伝導性部材の形状は、特に限定されず、シート状であってもよいし、他の形状で使用されてよい。熱伝導性部材の厚みは、特に限定されず、例えば0.3~5mm、好ましくは0.5~4mmで使用できる。本発明では、熱伝導性部材が柔軟性を有するため、その厚みを大きくすると(例えば、0.5mm以上)、緩衝性を発揮でき、振動が発生する環境下において好適に用いることができる。
【実施例
【0091】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0092】
<熱伝導性組成物の硬化物の硬度>
第1剤及び第2剤を50ccの2液並列カートリッジ(MIXPAC社製の1:1混合用カートリッジ「CDA050-01-PP」)に充填し、スタティックミキサー(2液混合用スタティックミキサー「MA6.3-12S」、エレメント数6.3mm×12、吐出口内径1.5mm)を使用して混合して得た熱伝導性組成物(体積比1:1、質量比1:1)を、サンプルの厚みが2mmとなるように、離型処理されたPETフィルム(パナック社製「SG2」)の離型面に塗布して、そのサンプルの上からもう一枚のPETフィルム(パナック社製「SG2」)を離型面がサンプルに接触するようにして押しつぶして固定した。温度25℃、湿度50%RHで24時間放置し、サンプル1Aを得た。得られたサンプル1Aから30mm角のシートを5枚打ち抜いて重ね合わせたものを用いてタイプE硬さを測定して、硬さE1とした。
上記と同様の方法で得られたサンプル2Aを、150℃に設定された恒温槽内部に投入し、恒温槽内部で250時間放置した。250時間放置後のサンプル2Aを、恒温槽から取り出して25℃まで冷却したうえで、サンプル2AのタイプE硬さを測定して、硬さE2とした。得られた硬さE1、E2よりE2/E1も求めた。
【0093】
<(A)成分及び(D)成分の重量平均分子量>
(A)成分及び(D)成分を含む第1剤および第2剤(以下、「試料」ともいう)について、高速液体クロマトグラフ(HPLC)-ラマン顕微鏡複合装置(LC-Ramanシステム:島津製作所社製、カラム:Shodex HK-404L(150mm×4.6mmI.D.、3.5μm))を用いて、各成分の重量平均分子量を求めた。具体的には、各試料をテトラヒドロフランに溶解させ、0.2重量%の溶液を調整し、該溶液を0.2μmのフィルターでろ過してから、測定に用いた。GPC測定はカラム温度40℃で行い、溶出液としてテトラヒドロフランを使用し、カラムの移動相の流速は0.2mL/minとした。インジェクションボリュームは10μLで、スプリット比は9:1とした。スポッティングタイムは20秒で、スポッティングプレートはHudson PL-PC-000040-Pを使用した。分子量順に溶出するクロマトグラム上の異なる溶出位置、即ち異なる分子量の溶出液をスポッティングプレートにスポッティングして、ラマン測定して得られたラマンスペクトルを確認することによって(A)成分であるか(D)成分であるかを識別して、それぞれの成分の重量平均分子量を見積もった。なお、ラマンスペクトルにおいて、ビニル基は1600cm-1、メタクリロイル基は1640cm-1のピークで識別した。ついで、第1剤と第2剤との混合比に基づき、熱伝導性組成物に含まれる(A)成分と(D)成分の重量平均分子量を見積もった。
なお、上記は第1剤と第2剤とについて別々に分析したが、混合物であっても同様に分析することができる。また、各原料が分離できる場合は、それぞれの成分について重量平均分子量を測定しても良い。
【0094】
実施例及び比較例で使用した各原料は、以下の通りである。
<オルガノポリシロキサン>
オルガノポリシロキサン1((A)成分):分子鎖の両末端にビニル基を有するオルガノポリシロキサン(ビニル基含有量0.17mmol/g、粘度410mPa・s、重量平均分子量25400)
オルガノポリシロキサン2((A)成分及び(B)成分):分子鎖の両末端にビニル基を有するオルガノポリシロキサン((A)成分)と、3個以上のヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン((B)成分)の混合物(ビニル基含有量0.15mmol/g、ヒドロシリル基含有量0.19mmol/g、粘度336mPa・s、重量平均分子量25000、質量比((A)成分:(B)成分)=90:10)
オルガノポリシロキサン3((A)成分):分子鎖の両末端にビニル基を有するオルガノポリシロキサン(ビニル基含有量0.314mmol/g、粘度100mPa・s、重量平均分子量11300)
(オルガノポリシロキサン2において、(A)成分はヒドロシリル基を有さず、(B)成分は、ビニル基(アルケニル基)を有さない。)
【0095】
オルガノポリシロキサン4((B)成分):分子鎖の両末端にヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン(ヒドロシリル基含有量0.329mmol/g、粘度128mPa・s、重量平均分子量6000)
【0096】
オルガノポリシロキサン5((D)成分):分子鎖の片末端にメタクリロイル基を有するオルガノポリシロキサン(メタクリロイル基含有量0.20mmol/g、粘度65mPa・s、重量平均分子量5000)
オルガノポリシロキサン6((D)成分):分子鎖の片末端にメタクリロイル基を有するオルガノポリシロキサン(メタクリロイル基含有量0.10mmol/g、粘度177mPa・s、重量平均分子量10000)
【0097】
オルガノポリシロキサン7:分子鎖の片末端にビニル基を有するオルガノポリシロキサン((A)成分、50質量%)と、分子鎖の両末端にビニル基を有するオルガノポリシロキサン((A)成分、25質量%)と、ビニル基を有さないオルガノポリシロキサン((F)成分、25質量%)の混合物(ビニル基含有量0.22mmol/g、粘度110mPa・s、重量平均分子量5000)
【0098】
オルガノポリシロキサン8((F-1)成分):ヒドロシリル化付加反応基を有さないジメチルシリコーンオイル(粘度101mPa・s)
オルガノポリシロキサン9((F-2)成分):ヒドロシリル化付加反応基を有さず、末端にトリアルコキシシリル基を有するオルガノポリシロキサン(粘度26mPa・s)
【0099】
オルガノポリシロキサン10((A)成分)):分子鎖の両末端にビニル基を有するオルガノポリシロキサン(ビニル基含有量0.34mmol/g、粘度110mPa・s、重量平均分子量9200)
オルガノポリシロキサン11((A)成分及び(B)成分)):分子鎖の両末端にビニル基を有するオルガノポリシロキサン((A)成分)と、3個以上のヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサン((B)成分)の混合物(ビニル基含有量0.30mmol/g、ヒドロシリル基含有量0.19mmol/g、粘度90mPa・s、重量平均分子量9200、質量比((A)成分:(B)成分)=90:10)
【0100】
<熱伝導性充填材>
酸化アルミニウム1((C)成分):球状アルミナ(D50:0.5μm)
酸化アルミニウム2((C)成分):球状アルミナ(D50:3μm)
酸化アルミニウム3((C)成分):球状アルミナ(D50:18μm)
酸化アルミニウム4((C)成分):球状アルミナ(D50:45μm)
酸化アルミニウム5((C)成分):球状アルミナ(D50:70μm)
<ヒドロシリル化触媒>
白金触媒((E)成分)
【0101】
[実施例1~9、比較例1~4]
以下の表1~3に示す配合に従って第1剤と第2剤を用意した。第1剤と第2剤を混合して得た熱伝導性組成物を用いて、各種物性の測定及び各種評価を行った。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
【表3】

※合計Vi+Me含有量1は、第1剤及び第2剤それぞれにおけるオルガノポリシロキサン1~9の合計量に対する、アルケニル基及びメタクリロイル基の合計含有量である。
※合計Vi+Me含有量2は、熱伝導性組成物(第1剤と第2剤)の合計量に対する、アルケニル基とメタクリロイル基の合計含有量である。
※合計Me含有量1は、第1剤及び第2剤それぞれにおけるオルガノポリシロキサン1~9の合計量に対する、メタクリロイル基の合計含有量である。
※合計Me含有量2は、熱伝導性組成物(第1剤と第2剤)の合計量に対する、メタクリロイル基の合計含有量である。
※ヒドロシリル基量1は、第1剤及び第2剤それぞれにおけるオルガノポリシロキサン1~9の合計量に対する、ヒドロシリル基の合計含有量である。
※ヒドロシリル基量2は、熱伝導性組成物(第1剤と第2剤)の合計量に対する、ヒドロシリル基の合計含有量である。
【0105】
以上の実施例から明らかなように、本発明の要件を満たす熱伝導性組成物から形成された熱伝導性部材は、高温環境下に置かれた場合でも硬度上昇が抑制されていた。
これに対し、比較例2及び3の熱伝導性組成物から形成された熱伝導性部材は、いずれも(D)成分を含有しておらず、高温環境下において、硬度上昇を抑制することができなかった。また、比較例1の熱伝導性組成物は、硬化不可だったため、熱伝導性部材を形成することができず、硬度上昇の抑制の有無を評価することができなかった。さらに、(D)成分の重量平均分子量Mwdが、(A)成分の重量平均分子量Mwaよりも大きかった比較例4についても、高温環境下において、硬度上昇を抑制することができなかった。

【要約】
(A)アルケニル基を有するオルガノポリシロキサンと、(B)ヒドロシリル基を有するオルガノポリシロキサンと、(C)熱伝導性充填材と、(D)メタクリロイル基を有するポリシロキサン化合物と、(E)ヒドロシリル化触媒と、を含み、前記(D)の重量平均分子量Mwdが、前記(A)の重量平均分子量Mwaよりも小さいことを特徴とする熱伝導性組成物。