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特許7455353急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/40 20060101AFI20240318BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240318BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20240318BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
A61K31/40
A61P35/00
A61P35/02
A61P7/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019218270
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021004230
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019118990
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】原 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】宮下 和也
(72)【発明者】
【氏名】八木 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】武智 あづさ
(72)【発明者】
【氏名】中田 千尋
(72)【発明者】
【氏名】牧 昌次郎
(72)【発明者】
【氏名】鉢呂 佳史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 千紘
(72)【発明者】
【氏名】東 智也
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】Journal of Chemical Research: Synopses,1986年,Vol.40,p.440-441
【文献】Journal of the Chemical Society, Perkin Transactions 1: Organic and Bio-Organic Chemistry (1972-1999),1984年,Vol.7,p.1577-1579
【文献】東京都医学総合研究所年報2019版,2019年08月,p.29
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】
[式中、Rは、水素又はハロゲン元素であり、Rは、炭素数1~4のアルキル基又はベンジル基であり、Rは、水素又は炭素数1~4のアルキル基であり、mは、2、3又は4であり、但し、Rが水素の場合、mは4である]で表わされる化合物を含むことを特徴とする、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物。
【請求項2】
上記一般式(I)中のRがハロゲン元素であり、mが2又は3である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項3】
上記一般式(I)で表わされる化合物が、下記構造式(II)、(III)、(IV)、(V)又は(VI):
【化2】
で表わされる化合物である、請求項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
下記一般式(I):
【化3】
[式中、Rは、水素又はハロゲン元素であり、Rは、炭素数1~4のアルキル基又はベンジル基であり、Rは、水素又は炭素数1~4のアルキル基であり、mは、2、3又は4であり、但し、Rが水素の場合、mは4である]で表わされる化合物を含むことを特徴とする、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
急性リンパ芽球性白血病(Acute Lymphoblastic Leukemia:ALL)は、小児における発症率が最も高いがんの1つである。ALLと急性骨髄性白血病(AML)の比は、成人では3:7であるのに対して、小児では8:2と逆転する。ALLには、B細胞系統のB-ALLとT細胞系統のT-ALLとがあり、ALL全体での割合は、それぞれ75%と25%である。
【0003】
かつては不治の病と言われていたALLも、新しい分子標的薬が開発されたことで、治療成績は改善している。例えば、BCR-ABL融合遺伝子を標的としたイマチニブは、フィラデルフィア染色体(Ph)陽性ALL患者に対して、また、B細胞マーカーCD20に対する抗体薬リツキサンと化学療法の組み合わせは、B-ALL患者に対して、それぞれ高効率で完全寛解をもたらしている。さらに最近、B細胞マーカーCD19を認識する抗体の細胞外ドメインとCD3ζの細胞内ドメインのキメラ遺伝子を導入した患者由来T細胞(CAR-T)を利用する細胞療法製剤キムリアが開発され、B-ALLの治療成績の更なる改善が期待されている。
【0004】
その一方、T-ALLやT細胞由来のリンパ芽球性リンパ腫(T-Lymphoblastic Lymphoma:T-LBL)に対しては、様々な候補薬の開発が進められているが(非特許文献1及び2)、未だ実用化には至っていない。日本国におけるT-ALLの発症頻度は、約10万人に1人と低いが、再発率が非常に高く、成人では、再発患者の約60%が死亡するという予後不良の白血病である。従って、T-ALL患者を救うためには、腫瘍化したT前駆細胞に特異的に作用する薬剤の開発が急務な状況にある。
【0005】
このような状況下、本発明者らは、T-ALL細胞の増殖の仕組みについて研究する過程で、転写制御因子Lhx2がCCRF-CEMを含む複数のヒトT-ALL由来白血病細胞株の増殖を強力に抑制することを発見した(非特許文献3)。これは、主にLhx2の過剰発現によって、T-ALL細胞の自己複製に必須なLMO2タンパク質の分解が急速に誘導されることに因る。なお、Lhx2は、Bリンフォーマ細胞株Rajiや複数の上皮性癌細胞株の増殖には影響を与えない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Durinck, K., Goossens, S., Peirs, S., Wallaert, A., Van Loocke, W., Matthijssens, F., Pieters, T., Milani, G., Lammens, T., Rondou, P., et al. Novel biological insights in T-cell acute lymphoblastic leukemia. Exp. Hematol., 43: 625-639, 2015.
【文献】Lepretre, S., Graux, C., Touzart, A., Macintyre, E., and Boissel, N. Adult T-type lymphoblastic lymphoma: Treatment advances and prognostic indicators. Exp. Hematol., 51: 7-16, 2017.
【文献】Miyashita, K., Kitajima, K., Goyama, S., Kitamura, K., and T. Hara. Overexpression of Lhx2 suppresses proliferation of human T cell acute lymphoblastic leukemia-derived cells, partly by reducing LMO2 protein levels. Biochem. Biophys. Res. Commun., 495: 2310-2316, 2018.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のLhx2のような核内タンパク質を抗がん剤としてT-ALL患者へ投与することは不可能であり、遺伝子治療も不確定要素が多過ぎて現実的ではない。仮に、上記のLhx2活性を模倣するような化合物が存在するならば、該化合物は新しいT-ALL治療薬になる可能性がある。
【0008】
そこで、本発明者らは、天然化合物ライブラリーの中から、Lhx2感受性のT-ALL細胞株CCRF-CEMの増殖を阻害し、Lhx2抵抗性のBリンフォーマ細胞株Rajiの増殖に影響を与えない天然化合物を探索した。その結果、本発明者らは、基準を満たすヒット天然化合物として、以下の3種の化合物の発見に至った。
【化1】
【0009】
しかしながら、これらの天然化合物は、構造が複雑であり、工業的に合成することは困難である。また、前記天然化合物は、細菌やカビに由来するが、細菌やカビから前記天然化合物を抽出、単離、精製することも、コストの観点から困難である。更には、前記天然化合物は、低濃度でLhx2感受性のT-ALL細胞株CCRF-CEMの増殖を阻害し、同一濃度ではLhx2抵抗性のBリンフォーマ細胞株Rajiの増殖に影響を与えないとの基準を満たすものの、その阻害活性、選択性には、依然として改良の余地がある。
【0010】
そこで、本発明者らは、前記天然化合物と類似した増殖抑制活性を有する類縁化合物の有機合成を試み、以下の2種の化合物の発見に至った。
【化2】
【0011】
しかしながら、これらの合成化合物は、阻害活性、選択性が低く、依然として改良の余地がある。
【0012】
そこで、本発明は、活性及び選択性に優れた、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0014】
本発明の急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物は、下記一般式(I):
【化3】
[式中、Rは、水素又はハロゲン元素であり、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Rは、水素又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、mは、2、3又は4であり、但し、Rが水素の場合、mは4である]で表わされる化合物を含むことを特徴とする。
かかる本発明の医薬組成物は、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
【0015】
本発明の医薬組成物の好適例においては、上記一般式(I)中のRが、炭素数1~4のアルキル基又はベンジル基である。この場合、一般式(I)の化合物の合成が容易であり、また、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性が向上する。
【0016】
本発明の医薬組成物の他の好適例においては、上記一般式(I)中のRがハロゲン元素であり、mが2又は3である。この場合も、一般式(I)の化合物の合成が容易であり、また、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性が向上する。
【0017】
本発明の医薬組成物の他の好適例においては、上記一般式(I)で表わされる化合物が、下記構造式(II)、(III)、(IV)、(V)又は(VI):
【化4】
で表わされる化合物である。これら構造式(II)、(III)、(IV)、(V)又は(VI)の化合物は、合成が容易であり、また、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
【0018】
また、本発明の他の態様によれば、下記一般式(I):
【化5】
[式中、Rは、水素又はハロゲン元素であり、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基であり、Rは、水素又は置換基を有していてもよい炭化水素基であり、mは、2、3又は4であり、但し、Rが水素の場合、mは4である]で表わされる化合物を含むことを特徴とする、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用キットが提供される。
かかる本発明のキットは、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、活性及び選択性に優れた、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】天然化合物ライブラリーのハイスループットスクリーニングによって得られたLavendamycin、Rumbrin、Auxarconjugatin Bの、ヒトT-ALL細胞株CCRF-CEM(図中では、「CEM」と略記することがある。)、Bリンフォーマ細胞株Rajiの増殖阻害活性を示す図である。図1(a)は、CCRF-CEM細胞とRaji細胞を、様々な濃度のLavendamycinを添加した培地で72時間培養したときの細胞生存率を示し、図1(b)は、CCRF-CEM細胞とRaji細胞を、様々な濃度のRumbrinを添加した培地で72時間培養したときの細胞生存率を示し、図1(c)は、CCRF-CEM細胞とRaji細胞を、様々な濃度のAuxarconjugatin Bを添加した培地で72時間培養したときの細胞生存率を示す。
図2】ヒト急性骨髄性白血病(Acute myeloid leukemia:AML)又は慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)由来細胞株の、Auxarconjugatin B感受性を示す図である。図2(a)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF-1を、様々な濃度のAuxarconjugatin Bを添加した培地で72時間培養したときの細胞生存率を示し、図2(b)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP-1を、様々な濃度のAuxarconjugatin Bを添加した培地で72時間培養したときの細胞生存率を示し、図2(c)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度のAuxarconjugatin Bを添加した培地で72時間培養したときの細胞生存率を示す。
図3】化学合成したAuxarconjugatin B類縁体の、ヒトT-ALL細胞株CCRF-CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiの増殖抑制活性を示す図である。図3(a)は、様々な濃度のエステル体8を添加した培地で72時間培養したときのCCRF-CEM細胞、Raji細胞の生存率を示し、図3(b)は、様々な濃度のエステル体9を添加した培地で72時間培養したときのCCRF-CEM細胞、Raji細胞の生存率を示す。
図4】ヒトAML又はCML由来細胞株の、エステル体9感受性を示す図である。図4(a)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF-1を、様々な濃度のエステル体9を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図4(b)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP-1を、様々な濃度のエステル体9を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図4(c)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度のエステル体9を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図5】化学合成した、本発明に従うAuxarconjugatin B類縁体の、ヒトT-ALL細胞株CCRF-CEM、Bリンフォーマ細胞株Rajiの増殖抑制活性を示す図である。図5(a)は、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地で72時間培養したときのCCRF-CEM細胞とRaji細胞の生存率を示し、図5(b)は、様々な濃度の構造式(III)の化合物を添加した培地で72時間培養したときのCCRF-CEM細胞とRaji細胞の生存率を示し、図5(c)は、様々な濃度の構造式(IV)の化合物を添加した培地で72時間培養したときのCCRF-CEM細胞とRaji細胞の生存率を示し、図5(d)は、様々な濃度の構造式(V)の化合物を添加した培地で72時間培養したときのCCRF-CEM細胞とRaji細胞の生存率を示し、図5(e)は、様々な濃度の構造式(VI)の化合物を添加した培地で72時間培養したときのCCRF-CEM細胞とRaji細胞の生存率を示す。
図6】ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(II)の化合物感受性を示す図である。図6(a)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF-1を、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図6(b)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP-1を、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図6(c)は、ヒトAML(M2クラス)由来細胞株HL-60を、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図6(d)は、ヒトAML(M7クラス)由来細胞株MKPL-1を、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図6(e)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図7】ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(III)の化合物感受性を示す図である。図7(a)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF-1を、様々な濃度の構造式(III)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図7(b)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP-1を、様々な濃度の構造式(III)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図7(c)は、ヒトAML(M2クラス)由来細胞株HL-60を、様々な濃度の構造式(III)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図7(d)は、ヒトAML(M7クラス)由来細胞株MKPL-1を、様々な濃度の構造式(III)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図7(e)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(III)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図8】ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(IV)の化合物感受性を示す図である。図8(a)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF-1を、様々な濃度の構造式(IV)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図8(b)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP-1を、様々な濃度の構造式(IV)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図8(c)は、ヒトAML(M2クラス)由来細胞株HL-60を、様々な濃度の構造式(IV)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図8(d)は、ヒトAML(M7クラス)由来細胞株MKPL-1を、様々な濃度の構造式(IV)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図8(e)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(IV)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図9】ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(V)の化合物感受性を示す図である。図9(a)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF-1を、様々な濃度の構造式(V)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図9(b)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP-1を、様々な濃度の構造式(V)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図9(c)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(V)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図10】ヒトAML又はCML由来細胞株の、構造式(VI)の化合物感受性を示す図である。図10(a)は、ヒトAML(M6クラス)由来細胞株TF-1を、様々な濃度の構造式(VI)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図10(b)は、ヒトAML(M5クラス)由来細胞株THP-1を、様々な濃度の構造式(VI)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図10(c)は、ヒトAML(M2クラス)由来細胞株HL-60を、様々な濃度の構造式(VI)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図10(d)は、ヒトAML(M7クラス)由来細胞株MKPL-1を、様々な濃度の構造式(VI)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図10(e)は、ヒトCML由来細胞株K562を、様々な濃度の構造式(VI)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図11】ヒト接着性細胞株の、構造式(II)の化合物感受性を示す図である。図11(a)は、ヒト子宮頸癌由来細胞株HeLa、ヒト口腔癌由来細胞株HSC-3を、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示し、図11(b)は、ヒト胎児腎臓由来細胞株293Tを、様々な濃度の構造式(II)の化合物を添加した培地でそれぞれ72時間培養したときの生存率を示す。
図12】構造式(II)の化合物の、in vivo抗T-ALL活性を示す図である。図12(a)は、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したCCRF-CEM細胞を皮下移植したNSGマウスを用いて、構造式(II)の化合物又は溶媒(DMSOと表す)を4回連続投与し、各群について投与前後の発光強度の増加率を平均値にて示し、図12(b)は、使用した代表的なマウス3頭ずつのIVISイメージ写真を示し、図12(c)は、構造式(II)の化合物又は溶媒(DMSOと表す)を投与したマウス群の生存日数を表す。
図13】構造式(VI)の化合物の、in vivo抗T-ALL活性を示す図である。図13(a)は、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したCCRF-CEM細胞を皮下移植したNSGマウスを用いて、構造式(VI)の化合物又は溶媒(DMSOと表す)を9回連続投与し、各群について投与前後の発光強度の増加率を平均値にて示し、図13(b)は、使用したマウス6頭ずつのIVISイメージ写真を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用の医薬組成物及びキットを、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0022】
<医薬組成物>
【0023】
本発明の急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用医薬組成物は、下記一般式(I):
【化6】
で表わされる化合物を含むことを特徴とする。
一般式(I)で表わされる化合物は、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れ、該一般式(I)で表わされる化合物を有効成分として含む本発明の医薬組成物は、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病の治療に有用である。
【0024】
上記一般式(I)中、Rは、水素又はハロゲン元素である。ここで、ハロゲン元素としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。これらの中でも、塩素が好ましい。なお、Rが水素又は塩素である化合物は、合成が容易である。
【0025】
上記一般式(I)中、Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基(即ち、置換又は非置換の炭化水素基)である。ここで、炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよく、また、環式でも非環式でもよい。炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数4~10のアルカジエニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のシクロアルケニル基等が挙げられる。
【0026】
炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基等が挙げられる。
炭素数2~10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチルアリル基等が挙げられる。
炭素数2~10のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等が挙げられる。
炭素数4~10のアルカジエニル基としては、1,3-ブタジエニル基、ペンタジエニル基、ヘキサジエニル基等が挙げられる。
炭素数6~20のアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、インデニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、2,3-キシリル基、2,5-キシリル基、o-クメニル基、m-クメニル基、p-クメニル基等が挙げられる。
炭素数7~20のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-フェニルエチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
炭素数3~10のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
炭素数3~10のシクロアルケニル基としては、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0027】
また、前記炭化水素基の置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、チオール基、アシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルコキシカルボニル基等が挙げられる。なお、前記炭化水素基は、置換基を有しても、有しなくてもよく、また、置換基を有する場合において、置換基の数は、1つても、複数でもよい。
【0028】
上記一般式(I)中のRは、炭素数1~4のアルキル基又はベンジル基であることが好ましい。一般式(I)で表され、Rが炭素数1~4のアルキル基又はベンジル基である化合物は、合成が容易であり、また、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
【0029】
上記一般式(I)中、Rは、水素、又は、置換基を有していてもよい炭化水素基(即ち、置換又は非置換の炭化水素基)である。ここで、炭化水素基は、飽和でも不飽和でもよく、また、環式でも非環式でもよい。炭化水素基としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数4~10のアルカジエニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数7~20のアラルキル基、炭素数3~10のシクロアルキル基、炭素数3~10のシクロアルケニル基等が挙げられる。
【0030】
炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基等が挙げられる。
炭素数2~10のアルケニル基としては、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチルアリル基等が挙げられる。
炭素数2~10のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基等が挙げられる。
炭素数4~10のアルカジエニル基としては、1,3-ブタジエニル基、ペンタジエニル基、ヘキサジエニル基等が挙げられる。
炭素数6~20のアリール基としては、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、インデニル基、o-トリル基、m-トリル基、p-トリル基、2,3-キシリル基、2,5-キシリル基、o-クメニル基、m-クメニル基、p-クメニル基等が挙げられる。
炭素数7~20のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基、1-ナフチルメチル基、2-ナフチルメチル基、1-フェニルエチル基、フェニルプロピル基等が挙げられる。
炭素数3~10のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
炭素数3~10のシクロアルケニル基としては、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0031】
また、前記炭化水素基の置換基としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン元素、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシル基、チオール基、アシル基、カルボキシル基、アミノ基、アルコキシカルボニル基等が挙げられる。なお、前記炭化水素基は、置換基を有しても、有しなくてもよく、また、置換基を有する場合において、置換基の数は、1つても、複数でもよい。
【0032】
上記一般式(I)中のRは、水素又は炭素数1~4のアルキル基であることが好ましい。一般式(I)で表され、Rが水素又は炭素数1~4のアルキル基である化合物は、合成が容易であり、また、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
【0033】
上記一般式(I)中、mは、ビニレン単位(-CH=CH-)の繰り返し数を示し、2、3又は4である。但し、Rが水素の場合、mは4である。一般式(I)で表され、Rが水素で、mが3以下である化合物は、上述のように、活性、選択性が低い。これに対し、一般式(I)で表され、Rが水素で、mが4である化合物は、活性及び選択性に優れる。
【0034】
上記一般式(I)中のRがハロゲン元素である場合、mは2、3、4のいずれでもよいが、mは2又は3であることが好ましく、3であることが更に好ましい。一般式(I)で表され、Rがハロゲン元素で、mが2又は3である化合物は、合成が容易であり、また、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
【0035】
上記一般式(I)で表わされる化合物としては、下記構造式(II)、(III)、(IV)、(V)又は(VI):
【化7】
で表わされる化合物が好ましく、構造式(II)、(V)又は(VI)で表わされる化合物が特に好ましい。構造式(II)、(III)、(IV)、(V)又は(VI)の化合物は、合成が更に容易であり、また、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。また、構造式(II)、(V)又は(VI)で表わされる化合物は、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に特に優れる。
【0036】
上記一般式(I)で表わされる化合物は、任意の方法で合成することができる。
例えば、まず、ホルミルピロールやハロゲン化ホルミルピロールを出発物質とし、Wittig反応によりニトリル化してニトリル体を合成し、更に、ニトリル体をDIBAL還元することによりホルミル体を合成する。次に、得られたホルミル体に対し、Wittig反応によるニトリル化と、DIBAL還元とを繰り返し、所望のビニレン単位(-CH=CH-)の繰り返し数を有するホルミル体を合成し、最後に、所望の置換基を有するWittig試薬を用いることにより、一般式(I)で表わされる化合物を合成することができる。
【0037】
本発明の医薬組成物は、経口投与及び非経口投与のいずれの剤形でもよい。これらの剤形は、常法に従って製剤化することができる。本発明の医薬組成物は、上記一般式(I)の化合物の他、医薬的に許容される担体、添加剤等を含むことができる。
【0038】
前記担体及び添加剤としては、水、酢酸、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、寒天、ポリエチレングリコール、ジグリセリン、グリセリン、プロピレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加剤として許容される界面活性剤等が挙げられる。
前記添加剤は、本発明の医薬組成物の剤形に応じて、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
前記剤形としては、経口投与の場合は、錠剤、カプセル剤、細粒剤、粉末剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤等が挙げられる。また、非経口投与の場合、剤形としては、注射剤、噴霧剤、塗布剤、外用剤等が挙げられる。ここで、注射剤形の場合、例えば、点滴等の静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射等により、全身又は局所的に投与することができる。例えば、注射用製剤の場合、本発明の医薬組成物を溶剤(例えば、生理食塩水、緩衝液、ブドウ糖溶液等)に溶解し、更に適切な添加剤(ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコール、マンノース修飾デンドリマー、シクロデキストリン結合体等)を加えたものを使用することができる。また、使用前に溶解する剤形とするために、凍結乾燥したものであってもよい。凍結乾燥用賦形剤としては、例えば、マンニトール、ブドウ糖等の糖アルコールや糖類を使用することができる。
【0040】
本発明の医薬組成物又は上記一般式(I)化合物の投与量は、対象者の年齢、性別、症状、投与経路、投与回数、剤形等に応じて適宜選択できる。該投与量は、例えば、成人(60kg)の場合、1日当り通常0.006~600mg、好ましくは0.06~60mg、より好ましくは0.6~6mgである。投与方法は、患者の年齢、症状により選択することが好ましい。また、投与は、数日間隔で、1日当り1回投与するか、或いは1日当り2~4回に分けて投与することが好ましい。
【0041】
本発明の医薬組成物は、抗がん剤として用いることができる。対象になるがんの種類は、急性Tリンパ芽球性白血病(T-ALL)、Tリンパ芽球性リンパ腫(T-LBL)、又は急性骨髄性白血病(AML)である。
【0042】
<キット>
本発明の急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病治療用キットは、上述した、上記一般式(I)で表わされる化合物を含むことを特徴とする。
本発明のキットは、上記一般式(I)で表わされる化合物を含むため、急性Tリンパ芽球性白血病若しくはリンパ腫、又は急性骨髄性白血病に対する活性及び選択性に優れる。
【0043】
本発明のキットは、上記一般式(I)で表わされる化合物に加えて、医薬的に許容される担体や添加剤、試薬類、補助剤、専用容器、その他の必要なアクセサリー、取扱説明書等を含むことができる。本発明のキットは、癌治療用キットや、研究試薬キットとしても使用することができる。
【実施例
【0044】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
<材料と方法>
(細胞培養)
ヒト白血病由来細胞株(CCRF-CEM、Raji、TF-1、THP-1、HL-60、MKPL-1、K562)の培養は、10% fetal bovine serum(FBS;Invitrogen)、Penicillin-Streptomycin(PS;Sigma)、50μMの2-メルカプトエタノールを含むRPMI-1640 Medium(Sigma)を用いて、37℃-5% COの条件下で行った。なお、TF-1細胞の培養には、上記の培地にGM-CSF(5 ng/ml, Peprotech)を添加した。
また、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)、接着性ヒト癌細胞株(HSC-3、Hela)、ヒト腎上皮細胞株(293T)の培養には、10% FBSとPSを含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(Sigma)を用いた。
【0046】
(in vitro増殖抑制アッセイ)
増殖抑制アッセイでは、まず、細胞を96 well plateに3,000 cells/wellになるように入れ、それぞれの化合物を段階希釈して添加した。3日間培養した後、Cell Counting Kit-8を添加し4時間培養し、生存細胞数を450nmの吸光度測定によって比較定量した。
【0047】
(T-ALL細胞のin vivoゼノグラフトモデル)
12-16週齢の雌NOD-SCID-γc-KO(NSG)マウスに、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したCCRF-CEM細胞を10個/100μlずつ皮下注入した。4週間後にルシフェラーゼ発光基質を腹腔投与し、腫瘍部の発光強度をIVIS Spectrum-FM(Caliper)を用いて測定した(0日)。マウスを2群に分け、250μMの構造式(II)の化合物、又は溶媒2.5% DMSO-PBSを20μlずつ1日1回4日間腫瘍内投与した(0日~4日)。5日目に再びルシフェラーゼ発光基質を腹腔投与し、IVIS Spectrum-FMを用いて発光強度を測定した。その後、上記のマウス群を3週間飼育し、生存日数を記録した。
また、構造式(VI)の化合物のin vivo投与実験では、CCRF-CEM細胞(10個)を皮下移植して3週間飼育したNSGマウスの腫瘍内に、500μMの構造式(VI)の化合物、又は溶媒20% 2-ヒドロキシプロピル-γ-シクロデキストリン-5% DMSOを20μlずつ朝夕合計9回投与した(0日~4日)。5日目に再びルシフェラーゼ発光基質を腹腔投与し、IVIS Spectrum-FMを用いて発光強度を測定した。
【0048】
<Auxarconjugatin B類縁化合物の有機合成>
(エステル体8及びエステル体9の合成)
エステル体8及びエステル体9の合成経路は、以下の通りである。
【化8】
【0049】
まず、市販のピロール-2-カルボキシアルデヒド(1)をWittig反応によりニトリル化しニトリル体2を合成した。次に、ニトリル体2をDIBAL還元することによりホルミル体3を得た。また、ホルミル体3にWittig試薬を用いることでニトリル体4を得た。次に、ニトリル体4をDIBAL還元によりホルミル体5を合成し、Wittig反応によりニトリル体6へと誘導した。次に、ニトリル体6をDIBAL還元によりホルミル体7へと誘導し、最後に、2種類のWittig試薬を用いることにより、目的化合物であるエステル体8、エステル体9を合成した。
【0050】
(構造式(II)の化合物、構造式(IV)の化合物、構造式(V)の化合物、及び構造式(VI)の化合物の合成)
構造式(II)の化合物、構造式(IV)の化合物、構造式(V)の化合物、及び構造式(VI)の化合物の合成経路は、以下の通りである。
【化9】
【0051】
まず、市販の4-クロロピリジン N-オキサイド(10)と硫酸銅五水和物を用いて混合水溶液を作製し、高圧水銀ランプによる光照射で光反応を行い、ホルミル体11を得た。また、ホルミル体11をWittig反応によりニトリル化し、ニトリル体12を合成した。次に、ニトリル体12をDIBAL還元することにより、ホルミル体13を得た。また、ホルミル体13にWittig試薬を用いることで、ニトリル体14を得た。次に、ニトリル体14にDIBAL還元を行うことで、ホルミル体15を合成し、Wittig反応により構造式(V)の化合物を合成した。また、ホルミル体15にWittig試薬を用いることで、ニトリル体16へと誘導した。次に、ニトリル体16をDIBAL還元によりホルミル体17へと誘導した。また、ホルミル体17に3種類のWittig試薬をそれぞれ用いることで、構造式(II)の化合物と構造式(IV)の化合物と構造式(VI)の化合物をそれぞれ合成した。
【0052】
(構造式(III)の化合物の合成)
構造式(III)の化合物の合成経路は、以下の通りである。
【化10】
【0053】
まず、市販のピロール-2-カルボキシアルデヒド(1)をWittig反応によりニトリル化し、ニトリル体2を合成した。次に、ニトリル体2をDIBAL還元することによりホルミル体3を得た。また、ホルミル体3にWittig試薬を用いることで、ニトリル体4を得た。次に、ニトリル体4をDIBAL還元によりホルミル体5を合成し、Wittig反応によりニトリル体6へと誘導した。次に、ニトリル体6をDIBAL還元により、ホルミル体7へと誘導した。
また、ホルミル体7にWittig試薬を用いることで、ニトリル体18に誘導し、ニトリル体18をDIBAL還元することにより、ホルミル体19を得た。そして、最後に、Wittig反応を行うことで、構造式(III)の化合物を合成した。
【0054】
<T-ALL細胞株の増殖を選択的に抑制する天然化合物の同定>
約15万種類の天然化合物ライブラリーを用いて、ヒトT-ALL細胞株CCRF-CEMの増殖を阻害し、ヒトBリンフォーマ細胞株Rajiの増殖に影響を与えない物質をハイスループットスクリーニングによって探索した。その結果、以下の3種類の天然化合物が、CCRF-CEM細胞の増殖を選択的に抑制することを見出した(図1参照)。
【化11】
【0055】
これらの中でも、RumbrinとAuxarconjugatin Bは、共通の化学構造を有している。
【0056】
次に、ヒト皮膚線維芽細胞(HDF)の増殖に対するRumbrinとAuxarconjugatin Bの影響を調べた。
その結果、Rumbrinは1μMの濃度でさえHDFに毒性を示したが、Auxarconjugatin Bは1~5μMの濃度でHDFに毒性を示さなかった。
【0057】
そこで、Auxarconjugatin Bをシード化合物に選定して、詳細な解析を実施した。
Auxarconjugatin BのCCRF-CEM細胞に対するIC50は0.51μMであり、Raji細胞に対するIC50はその約11倍の5.7μMであった(図1(c)参照)。
また、Auxarconjugatin Bは、ヒト赤芽球系(M6クラス)急性骨髄性白血病(Acute myeloid leukemia:AML)細胞株TF-1や、ヒト単球系(M5クラス)AML細胞株THP-1の増殖を、それぞれ0.72μMと1.3μMのIC50値にて抑制した(図2(a)、図2(b)参照)。
【0058】
<リード化合物類縁体の評価>
以上の結果から、Auxarconjugatin BがT-ALLやAMLに対して有効である(即ち、リード化合物として有望である)ことが示唆されたが、Auxarconjugatin Bはカビ由来の天然化合物であるため、大量に製造することができない。
そこで、Auxarconjugatin Bと類似の構造を持つ、エステル体8及びエステル体9に対して、ヒトT-ALL細胞株CCRF-CEM、ヒトBリンフォーマ細胞株Rajiの増殖阻害活性を評価した。結果を図3に示す。
【0059】
更に、エステル体9に対して、ヒト赤芽球系(M6クラス)AML細胞株TF-1、ヒト単球系(M5クラス)AML細胞株THP-1、ヒト赤芽球系慢性骨髄性白血病(Chronic myeloid leukemia:CML)細胞株K562の増殖阻害活性を評価した。結果を図4に示す。
【0060】
その結果、エステル体9は、ヒト赤芽球系(M6クラス)AML細胞株TF-1、ヒト単球系(M5クラス)AML細胞株THP-1の増殖を強力に抑制することが分かった。
但し、エステル体8は、CCRF-CEM細胞に対するIC50が1.7μMで、Raji細胞に対するIC50が8.8μMであり、また、エステル体9は、CCRF-CEM細胞に対するIC50が1.3μMで、Raji細胞に対するIC50が4.1μMであり、Auxarconjugatin Bよりも活性及び選択性に劣っていた。
【0061】
次に、Auxarconjugatin Bと類似の構造を持つ、構造式(II)の化合物、構造式(III)の化合物、構造式(IV)の化合物、構造式(V)の化合物、構造式(VI)の化合物に対して、ヒトT-ALL細胞株CCRF-CEM、ヒトBリンフォーマ細胞株Rajiの増殖阻害活性を評価した。結果を図5に示す。
【0062】
更に、これらの化合物に対して、ヒト赤芽球系(M6クラス)AML細胞株TF-1、ヒト単球系(M5クラス)AML細胞株THP-1、ヒト骨髄球系(M2クラス)AML細胞株HL-60、ヒト巨核球系(M7クラス)AML細胞株MKPL-1、ヒト赤芽球系CML細胞株K562の増殖阻害活性を評価した。構造式(II)の化合物の結果を図6に、構造式(III)の化合物の結果を図7に、構造式(IV)の化合物の結果を図8に、構造式(V)の化合物の結果を図9に、構造式(VI)の化合物の結果を図10に示す。
【0063】
構造式(II)の化合物のCCRF-CEM細胞に対するIC50は0.27μMであるのに対し、Raji細胞に対する増殖抑制効果はほとんど検出されなかった(図5(a)参照)。
また、ヒト赤芽球系CML細胞株K562細胞に対する構造式(II)の化合物の増殖抑制効果もほとんど検出でされなかった(図6(e)参照)。
また、構造式(II)の化合物は、Auxarconjugatin Bと同様、ヒト赤芽球系(M6クラス)AML細胞株TF-1、ヒト単球系(M5クラス)AML細胞株THP-1、ヒト骨髄球系(M2クラス)AML細胞株HL-60、ヒト巨核球系(M7クラス)AML細胞株MKPL-1の増殖を、それぞれ0.23μM、1.2μM、0.27μM、0.42μMのIC50値にて抑制した(図6(a)、図6(b)、図6(c)、図6(d)参照)。
【0064】
また、構造式(III)の化合物、構造式(IV)の化合物、構造式(V)の化合物、及び構造式(VI)の化合物にも、構造式(II)の化合物に類似したT-ALL及びAMLに選択的な細胞死滅活性が検出された(図5(b)、図5(c)、図5(d)、図5(e)、図7図8図9図10参照)。
【0065】
次に、構造式(II)の化合物に対して、ヒト上皮性癌細胞株HelaとHSC-3の増殖阻害活性を評価し、更に、ヒト腎上皮細胞株293Tの増殖阻害活性を評価した。結果を図11に示す。
【0066】
その結果、構造式(II)の化合物は、ヒト上皮性癌細胞株HelaとHSC-3の増殖にまったく影響を与えなかった(図11(a)参照)。
また、構造式(II)の化合物は、ヒト腎上皮細胞株293Tに対するIC50値が3.5μMと、CCRF-CEMより13倍高かった(図11(b)参照)。
【0067】
以上の実験の結果から、本発明に係る上記一般式(I)で表される化合物は、Auxarconjugatin Bと共通の標的分子を認識していると推察され、T-ALL及びAMLに対するがん種選択的な治療薬として有効であることが分かった。また、本発明に係る上記一般式(I)で表される化合物は、Auxarconjugatin Bよりも、活性及び選択性に優れることが分かった。
【0068】
<in vivo抗白血病活性>
次に、活性とT-ALL選択性が最も優れていた構造式(II)の化合物及び構造式(VI)の化合物を用いて、in vivo抗腫瘍活性を検討した。NSGマウスの皮下で増殖したCCRF-CEM由来腫瘍の内部に構造式(II)の化合物又は構造式(VI)の化合物を連続投与してみたところ、構造式(II)の化合物又は構造式(VI)の化合物投与マウス群では溶媒コントロール群と比べて腫瘍増殖が抑えられ、マウスが延命する傾向が観察された(図12図13)。この結果から、本発明に係る上記一般式(I)で表される化合物には、in vivo抗白血病活性もあることが分かった。
図1
図2
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図5
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図7
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図9
図10
図11
図12
図13