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特許7455366化合物、それを含んでなるアンモニア検出材料及びその製造方法、並びにそれを用いたアンモニアの検出方法
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  • 特許-化合物、それを含んでなるアンモニア検出材料及びその製造方法、並びにそれを用いたアンモニアの検出方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】化合物、それを含んでなるアンモニア検出材料及びその製造方法、並びにそれを用いたアンモニアの検出方法
(51)【国際特許分類】
   C07F 5/02 20060101AFI20240318BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20240318BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C07F5/02 C CSP
G01N31/00 G
G01N21/64 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020041889
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021143140
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100151183
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】足立 直也
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-526094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/02-5/05
G01N 31/00
G01N 21/64
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(4)で表す化合物
【化1】
(上記一般式(4)中、各Rは、それぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素数8~35のアルキル基、アルキルオキシ基又はアルキルシリルオキシ基であり、Xは、任意のカウンターアニオンであり、各nは、それぞれ独立に、1~5の整数である。)
【請求項2】
請求項記載の化合物を含んでなるアンモニア検出材料。
【請求項3】
請求項記載の化合物を基材に添加する工程を備えるアンモニア検出材料の製造方法。
【請求項4】
請求項記載の化合物を含む媒体に被測定試料を接触させ、前記化合物によりもたらされる蛍光の変化を調べることにより前記被測定試料に含まれるアンモニアの存在を検出することを特徴とするアンモニアの検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物、それを含んでなるアンモニア検出材料及びその製造方法、並びにそれを用いたアンモニアの検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは、化学肥料、合成繊維等をはじめ、各種の化学品の合成に用いられる有用な化合物であり、現代の化学産業において大量に生産及び消費されているのは周知の通りである。また、アンモニアは、生体やその排泄物等の分解や腐敗によって、天然にも産出される。大気中に放出されたアンモニアは、ガス状を呈し、極めて希薄な場合であってもその特異臭が感じられるため、悪臭防止法により大気中の濃度が規制されている。また、高濃度のアンモニアガスに人体が曝されると、有害であることも広く知られるところである。
【0003】
以上のような背景から、各種のアンモニアセンサーが開発されている。しかしながら、それらの多くは、金属酸化物を検出部位とした半導体型のガスセンサーであるため(例えば、特許文献1を参照。)、高感度ではあるが電源や設置場所の問題を生じがちである。また、そのようなガスセンサーの多くは、数値データ等の形でアンモニアの存在を示すものが多く、直感的にその存在を判別しにくいものではある。
【0004】
半導体を用いた電気的なものでなく、化学的な手法を用いたアンモニアの検出法としては、ネスラー試薬を用いた手法が挙げられる。ネスラー試薬は、ヨウ化水銀(II)水溶液とヨウ化カリウムの混合物であり、アンモニアを含む溶液試料にこれを滴下して混合すると、褐色の沈殿を生じる。ネスラー試薬を用いたアンモニアの検出法は、かなりの高感度を期待できるので水質検査等の分野で用いられてきたが、水銀を含むネスラー試薬を用いるため環境への影響が懸念されるし、試料に試薬を添加する操作を必要とするため、手軽に実行できるものでもない。
【0005】
一方、これはアンモニアの検出とは関係が無いが、本発明者の関連する発明として、室温で液体状態を示す共役系化合物についての発明が特許文献2及び3に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-071658号公報
【文献】特開2018-076251号公報
【文献】特開2020-002024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の背景からなされたものであり、感度良くアンモニアの存在を検出でき、かつ蛍光色調や強度の変化という形で目視でも直感的にアンモニアの存在を知覚することのできる、新規な化合物及びそれを用いたアンモニア検出材料等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、以上の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、複数の芳香環を含んで共役系を形成している化合物において、その共役系の一部をピリジン環とし、そのピリジン環の窒素原子に、アンモニア結合部位であるフェニルボロン酸ユニットを結合させて得た化合物が、アンモニアの存在下で蛍光の変化を生じることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は、以下のようなものを提供する。
【0012】
(1)本発明は、下記一般式(4)で表す化合物である。
【化4】
(上記一般式(4)中、各Rは、それぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素数8~35のアルキル基、アルキルオキシ基又はアルキルシリルオキシ基であり、Xは、任意のカウンターアニオンであり、各nは、それぞれ独立に、1~5の整数である。)
【0013】
)本発明は、(1)項記載の化合物を含んでなるアンモニア検出材料でもある。
【0014】
)本発明は、(1)項記載の化合物を基材に添加する工程を備えるアンモニア検出材料の製造方法でもある。
【0015】
)本発明は、(1)項記載の化合物を含む媒体に被測定試料を接触させ、前記化合物によりもたらされる蛍光の変化を調べることにより前記被測定試料に含まれるアンモニアの存在を検出することを特徴とするアンモニアの検出方法でもある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、感度良くアンモニアの存在を検出でき、かつ蛍光色調や強度の変化という形で目視でも直感的にアンモニアの存在を知覚することのできる、新規な化合物及びそれを用いたアンモニア検出材料等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、水溶液中におけるアンモニアの添加に伴う化合物(5)のスペクトル変化を表す図であり、図1(a)は、化合物(5)の紫外可視吸収スペクトルを表し、図1(b)は、化合物(5)の蛍光スペクトルを表す。
図2図2は、化合物(5)のアンモニアガス未曝露下及び曝露下での蛍光スペクトル変化を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る化合物、アンモニア検出材料及びアンモニア検出材料の各一実施形態、本発明に係るアンモニア検出材料の製造方法及びアンモニアの検出方法の各一実施態様についてそれぞれ説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施態様に限定されるものではなく、本発明の範囲において適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
[化合物]
まずは、本発明の化合物の一実施形態について説明する。本発明の化合物は、下記一般式(1)で表すπ共役系化合物である。この化合物は、複数の芳香環を含むπ共役系を備えることから蛍光を示し、また、π共役系の中に組み込まれたピリジン環の窒素原子へメチレン基を介してフェニルボロン酸ユニットが結合している。この化合物の周囲にアンモニア分子が存在すると、フェニルボロン酸ユニットのホウ素原子にアンモニア分子が結合し、その結合によりπ共役系の電子状態が変化して蛍光の波長や強度が変化する。この蛍光の波長の変化は、蛍光の色調変化という形で肉眼でも判別が可能であり、また、蛍光の強度の変化も同様に肉眼で識別が可能である。ゆえに、本化合物は、アンモニアの存在により蛍光の色調を変化させる、肉眼により識別可能なアンモニアセンサーとなる。この場合、フェニルボロン酸ユニットがアンモニアセンサーとなり、分子中に含まれるπ共役系が情報発信ユニットとして機能することになる。
【0020】
【化5】
【0021】
上記一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、水素原子、又は後述するRである。「各~は、それぞれ独立に」とは、複数存在する~のそれぞれが独立して決定されるという意味であり、これらは、互いに同一でもよいし異なってもよい。このような表現は、本明細書で度々用いられるが、いずれも意味は同じである。
【0022】
上記一般式(1)中、各Rは、それぞれ独立に、分岐を有してもよい炭素数8~35のアルキル基、アルキルオキシ基又はアルキルシリルオキシ基である。アルキル基又はアルキルオキシ基中のアルキル基部分としては、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ウンデシル基、2-オクチルドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ナノデシル基、イコシル基等が挙げられ、これらの中でも、2-オクチルドデシル基を好ましく例示できる。
【0023】
上記一般式(1)中、各Arは、それぞれ独立に、置換基及び/又はヘテロ原子を有してもよい芳香環である。このような芳香環としては、ベンゼン環、ナフタレン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、アヌレン環、アズレン環等が挙げられ、これらの中でも、ベンゼン環を好ましく例示できる。芳香環に含まれてもよいヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。
【0024】
上記一般式(1)中、Lは、共役系を維持しながら各芳香環を連結する2価の基又は単結合である。各Lは、それぞれ独立に、-CR=CR-、-C≡C-又は単結合である。これらの基又は単結合であれば、共役系を維持したまま各芳香環が互いに連結されることになる。これらの中でも、Lとしては、エテニレン基(-CH=CH-)を好ましく例示できる。各Rは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。このようなアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
【0025】
上記一般式(1)中、Xは、ピリジン環に生じたカチオンに対する、任意のカウンターアニオンである。このようなアニオンとしては、Cl、Br、F、I、NO 、BF 、PF 等が挙げられ、これらの中でも、Brを好ましく例示できる。
【0026】
上記一般式(1)中、各kは、それぞれ独立に、1~5の整数である。このようなkとしては、1を好ましく例示できる。上記一般式(1)中、mは、0~4の整数である。このようなmとしては、0を好ましく例示できる。
【0027】
上記一般式(1)で表す化合物として、より具体的には、下記一般式(2)で表す化合物を挙げることができる。
【0028】
【化6】
【0029】
上記一般式(2)中、R、L、X及びmについては、上記一般式(1)におけるものと同じである。
【0030】
上記一般式(2)中、各nは、それぞれ独立に、1~5の整数である。このようなnとしては、2を好ましく挙げることができる。
【0031】
上記一般式(1)及び(2)で表す化合物として、より具体的には、下記一般式(3)で表す化合物を挙げることができる。
【0032】
【化7】
【0033】
上記一般式(3)中、R、L、及びXについては、上記一般式(1)におけるものと同じである。また、上記一般式(3)中、nについては、上記一般式(2)におけるものと同じである。
【0034】
上記一般式(1)~(3)で表す化合物として、より具体的には、下記一般式(4)で表す化合物を挙げることができる。
【0035】
【化8】
【0036】
上記一般式(4)中、R及びXについては、上記一般式(1)におけるものと同じである。また、上記一般式(4)中、nについては、上記一般式(2)におけるものと同じである。上記一般式(1)~(4)において、Rは、この化合物に溶解性を付与することに寄与する。特に、上記一般式(4)において、各nが2以上であり、Rとして長鎖のアルキル基、中でも分岐を有するものが選択されることにより、この化合物自体が室温で液状を呈するものとなり、基材に本化合物を塗布したり練り込んだりして用いるのが容易になって好ましい。このようなRとして2-オクチルドデシルオキシ基が選択された化合物が好ましく挙げられ、その一例として下記(5)で表す化合物を挙げることができる。
【0037】
【化9】
【0038】
上記化学式(5)で表す化合物は、室温で液状を呈し、254nmの紫外光照射を受けたときに約500nm付近(緑色)に蛍光を示す。この化合物を基材の表面に塗布して薄膜としてから、その薄膜の表面にアンモニアガスを接触させると、500nmに観察された蛍光が、400nmにシフトして青色を示すようになる。すなわち、この化合物は、アンモニアの存在を検知して、その検知結果を蛍光の変化という肉眼で判別可能な形で発信することができる。
【0039】
次に、この化合物がアンモニアを検知して、蛍光を変化させるメカニズムを調べるために、上記化学式(5)の化合物からフェニルボロン酸ユニットを取り除いた化合物(A)を合成し、下記化学反応式のように、その化合物(A)に酸を作用させたときの蛍光の変化を調べた。その結果、酸を作用させる前の化合物(A)の蛍光が405nmに観察されたのに対して、酸を作用させて、化合物(B)のようにピリジニウム塩としたときの蛍光は508nmに観察された。なお、下記化合物(A)及び(B)におけるRは、上記化学式(5)と同様に、2-オクチルドデシル基である。
【0040】
【化10】
【0041】
上記化学式(5)に示す化合物も、化合物(B)のようにピリジニウム塩を形成しており、これらがともに500nm付近に蛍光を示したことから、この共役系はピリジニウム塩を形成しているときに500nm付近の緑色蛍光を示すことがわかる。そして、ピリジニウム塩でない化合物(A)は、上記化学式(5)に示す化合物がアンモニアを検知したときと同様に400nm付近に青色蛍光を示した。このことから、下記に示すように、上記化学式(5)に示す化合物は、アンモニアと接触するとアンモニアがホウ素原子に結合してイオン化することで電子リッチな状態になり、この電子が電子不足のNへと移動することでNの電子不足が解消されて、上記化合物(A)のように青色蛍光を示すことになると推察される。なお、下記化学反応式におけるRは、上記化学式(5)と同様に、2-オクチルドデシル基である。
【0042】
【化11】
【0043】
これまで説明したように、本発明の化合物は、アンモニアの存在を検知して、蛍光の変化という肉眼で識別可能な形でその情報を発信する。この化合物は、ppbレベルのアンモニアを検出可能であり、極めて高感度なセンサーとして用いることが可能である。また、この化合物は、溶液中に溶解状態で存在するアンモニアでも、気体中にガス状態で存在するアンモニアでも同様に検出することが可能である。さらには、本発明の化合物は、アンモニアガスに曝露されたときに上記の通り蛍光の変化を生じるが、アンモニアガスの曝露状態が解除されると速やかに蛍光が元の状態に戻る。したがって、本発明の化合物は、アンモニアガスに曝露されているときのみ蛍光変化を示すので、繰り返しアンモニア検知に用いることが可能である。
【0044】
ところで、既に説明したように、本発明の化合物は、フェニルボロン酸部位のホウ素原子にアンモニアが結合してこれを検知する。このとき、ホウ素原子が、アンモニアの窒素原子上の非共有電子対を受け入れて結合を形成しており、これはルイス酸として考えることができる。したがって、本発明の化合物は、アンモニア(pKa=9.3)と近いpKaを備え、かつ非共有電子対を備えた化学種もアンモニアと同様に検知することが可能と考えられる。このような化学種として、As(OH)(pKa=9.29)を挙げることができる。
【0045】
本発明の化合物の合成方法の一例として、上記化学式(5)で表す化合物の合成スキームの一例を下記に示す。下記のスキームは、2,6-ジメチルピリジンをブロモ化した後、トリフェニルホスフィンと反応させてホスホニウム塩(11)を得るとともに、3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒドの水酸基をアルキルエーテルとして化合物(12)を得てから、1分子の化合物(12)と2分子の化合物(13)とをWittig反応により結合させて化合物(13)を得た後、ピリジニウム塩である化合物(5)を得るものである。なお、下記スキームにおいて、BPOは、過酸化ベンゾイルであり、NBSは、N-ブロモスクシンイミドをそれぞれ意味する。
【0046】
【化12】
【0047】
[アンモニア検出材料]
次に、本発明のアンモニア検出材料について説明する。本発明のアンモニア検出材料は、上記本発明の化合物を含んでなることを特徴とする。既に説明したように、本発明の化合物は、アンモニアの存在を検知して自身の蛍光を変化させる。本発明のアンモニア検出材料は、そのような本発明の化合物の性質を応用したものである。なお、本発明のアンモニア検出材料の構成要素となる本発明の化合物については既に述べた通りなので、ここでの説明を省略する。
【0048】
本発明のアンモニア検出材料に上記本発明の化合物を含ませる方法は、特に問わない。このような方法の一例として、本発明の化合物そのものをアンモニア検出材料とする方法、本発明の化合物を基材の表面に塗布してこれをアンモニア検出材料とする方法、本発明の化合物を樹脂等の基材に練り込んでこれをアンモニア検出材料とする方法、本発明の化合物を溶媒に溶解させてこれをアンモニアの検出材料とする方法等が挙げられる。特に、本発明の化合物は、置換基Rの選択によっては、室温においてそれ自身が液状を示すので、アンモニアの検出材料として所望の場所に適用することが可能である。
【0049】
本発明のアンモニア検出材料がアンモニアを検出したか否かは、その蛍光を観察することで判別される。そのため、本発明のアンモニア検出材料を用いる場合、紫外光を含む光の照射が必要である。このような光を発する光源としては、太陽(すなわち太陽光)、ブラックライト、紫外LED、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を挙げることができる。
【0050】
本発明のアンモニア検出材料は、上記の光源からの光を受けることにより蛍光を発し、アンモニアを検知するとその蛍光が変化する。これにより、本発明のアンモニア検出材料は、肉眼でも識別可能なアンモニア検出材料として機能する。蛍光の観察方法としては、肉眼のほか、蛍光スペクトル分光計をはじめとして、各種の分光器を用いることも可能である。
【0051】
[アンモニア検出材料の製造方法]
次に、本発明のアンモニア検出材料の製造方法について説明する。本発明のアンモニア検出材料の製造方法は、上記本発明の化合物を基材に添加する工程を備えることを特徴とする。なお、本発明のアンモニア検出材料の製造方法で用いる上記本発明の化合物については既に述べた通りなので、ここでの説明を省略する。
【0052】
本発明の化合物が添加される基材は、特に限定されず、本発明の化合物を塗布、混合、溶解等の手段により添加可能であれば何でもよい。このような基材としては、ガラス、樹脂、紙、木材、セラミック等を挙げることができる。
【0053】
本発明の化合物の基材への添加方法としては、特に限定されず、例えば塗布、練り込み等を挙げることができる。
【0054】
[アンモニアの検出方法]
次に、本発明のアンモニアの検出方法について説明する。本発明のアンモニアの検出方法は、上記本発明の化合物を含む媒体に被測定試料を接触させ、その化合物によりもたらされる蛍光の変化を調べることにより被測定試料に含まれるアンモニアの存在を検出することを特徴とする。なお、この方法で用いる本発明の化合物については既に述べた通りなので、ここでの説明を省略する。
【0055】
媒体は、本発明の化合物が添加されるものであり、固体でも液体でもよい。このような媒体としては、ガラス、樹脂、紙、木材、セラミック、水、各種の溶媒等が挙げられる。媒体として液体のものが選択された場合、本発明の化合物を含む媒体は、溶液となる。媒体として固体のものが選択された場合、本発明の化合物を含む媒体は、固体の表面に本発明の化合物が塗布されたものや、固体中に本発明の化合物を含むもの等が挙げられる。
【0056】
被測定試料は、アンモニアが含まれるか否かの検査対象となるものであり、固体、液体、気体を問わない。
【0057】
蛍光の変化の観察については、既に述べた通りなので、ここでの説明を省略する。
【実施例
【0058】
以下、実施例を示すことにより本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
・2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジンの合成
【化13】
【0060】
2,6-ジメチルピリジン(1.0g、9.33mmol)を四塩化炭素10mLに溶解させて溶液とした。この溶液へ、N-ブロモスクシンイミド(NBS,3.65g,20.5mmol)及び過酸化ベンゾイル(BPO,0.23g,0.933mmol)を加え、窒素気流下、75℃で16時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、自然濾過を行って濾液から溶媒を減圧留去した。その後、この残渣にヘキサンを加えて、再度自然濾過を行い、濾液から溶媒を減圧留去して透明な液体を得た。この液体を次の反応にそのまま用いた。収量は、2.30g(収率93%)だった。
【0061】
・(ピリジン-2,6-ジイルビス(メチレン))ビス(トリフェニルホスホニウム)ブロミド(11)の合成
【化14】
【0062】
2,6-ビス(ブロモメチル)ピリジン(2.30g,8.68mmol)をトルエン10mLに溶解させた。そこへ、トリフェニルホスフィン(TPP,3.43g,12.0mmol)を加えて、120℃で2時間撹拌した。反応終了後、反応混合物を温かいまま吸引濾過し、固体を得た。得られた固体をトルエン及びヘキサンでよく洗浄した。洗浄後の固体を60℃で乾燥させ、白色固体の化合物(11)を得た。収量は、2.55g(収率37%)だった。
【0063】
・3,4-ビス((2-オクチルドデシル)オキシ)ベンズアルデヒド(12)の合成
【化15】
【0064】
3,4-ジヒドロキシベンズアルデヒド(0.32g,2.30mmol)をジメチルホルムアミド(DMF)10mLに溶解させた。そこへ、炭酸カリウム(3.20g,23.0mmol)及びヨウ化カリウム(50mg)を加えて、65℃で30分間加熱しながら撹拌した。その後、反応混合物へ1-ブロモ-2-オクチルドデカン(2.0g,5.53mmol)を加えて、120℃で24時間撹拌した。反応後、反応混合物を氷中へ注ぎ入れ、酢酸エチルで抽出し、有機相を水で2回、飽和食塩水で1回それぞれ洗浄してから有機相を得た。得られた有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。得られた残渣について、ジクロロメタン:ヘキサン=1:2の溶媒比でシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、透明な液体の化合物(12)を得た。収量は、0.70g(収率43%)だった。
【0065】
2,6-ビス((E)-3,4-ビス((2-オクチルドデシル)オキシ)スチリル)ピリジン(13)の合成
【化16】
【0066】
化合物(11)(0.30g,0.377mmol)及び化合物(12)(0.58g,0.830mmol)をテトラヒドロフラン(THF)5.0mL中に加え、撹拌した。そこへ、tert-ブトキシカリウム(tert-BuOK,3,77mmol)を加えて、窒素気流下、65℃で16時間反応させた。反応終了後、反応混合物を水中に注ぎ入れ、クロロホルムで抽出し、有機相を水で2回、飽和食塩水で1回それぞれ洗浄してから有機相を得た。この有機相を硫酸マグネシウムで乾燥させ、溶媒を減圧留去した。得られた残渣について、ジクロロメタン:ヘキサン=1:2の溶媒比でカラムクロマトグラフィーを行い、透明な液体の化合物(13)を得た。収量は、0.20g(収率35%)だった。
【0067】
・2,6-ビス((E)-3,4-ビス((2-オクチルドデシル)オキシ)スチリル)-1-(4-ボロノベンジル)ピリジン-1-イウムブロミド(5)の合成
【化17】
【0068】
化合物(13)(0.10g,0.0680mmol)及び4-ブロモメチルフェニルボロン酸(22mg,0.102mmol)をトルエン3.0mLに溶解させ、115℃で24時間加熱しながら撹拌した。反応終了後、反応混合物を室温に戻してから溶媒を減圧留去し、ヘキサンを加えて自然濾過を行い、濾液から溶媒を減圧留去して黄色液体の化合物(5)を得た。収量は、0.l0g(収率91%)だった。
【0069】
[水溶液中におけるアンモニア検知能]
本発明の化合物の水溶液中でのアンモニア検知能を調べた。まず、蒸留水、10-10Mのアンモニア水溶液、及び10-2Mのアンモニア水溶液を用意し、これらのそれぞれについて、化合物(5)の濃度が1.84×10-6Mとなるように化合物(5)のTHF溶液を混合した。得られた溶液のそれぞれについて、紫外可視吸収スペクトル及び蛍光スペクトル(励起波長335nm)を観察した。その結果を図1に示す。図1は、水溶液中におけるアンモニアの添加に伴う化合物(5)のスペクトル変化を表す図であり、図1(a)は、化合物(5)の紫外可視吸収スペクトルを表し、図1(b)は、化合物(5)の蛍光スペクトルを表す。なお、当業者にとって周知なように、単位の「M」はmol/Lを意味する。
【0070】
図1を参照すると、紫外可視吸収スペクトルでは、アンモニアの添加に伴って410nm付近の吸収の増加が観察されるとともに、405nmにおける蛍光の増加が観察された。この変化は、アンモニア濃度が10-10Mのときから生じており、本発明の化合物がppbオーダーの濃度のアンモニアを検知していることが理解できる。
【0071】
[アンモニアガスの検知能]
次に、本発明の化合物のアンモニアガスの検知能を調べた。まず、ガラス板に液体状態である化合物(5)を塗布し、化合物(5)の薄膜(厚さ0.5μm)を形成させた。この薄膜の大気中での蛍光スペクトル(励起波長335nm)を測定した後、アンモニアガスの存在下、すなわちアンモニアガス曝露下での蛍光スペクトル(励起波長335nm)を測定した。その結果を図2に示す。図2は、化合物(5)のアンモニアガス未曝露下及び曝露下での蛍光スペクトル変化を表す図である。
【0072】
図2を参照すると、化合物(5)の蛍光スペクトルは、アンモニアガス未曝露状態で405nm(青色に相当)にピークを示していたのが、アンモニアガスの曝露により、そのピークが508nm(緑色に相当)へ長波長シフトしていることがわかる。また、図2には示さないが、化合物(5)は、アンモニアガスの曝露を解除すると、直ちに元の青色蛍光を発する状態となった。このことから、本発明の化合物は、アンモニアガスの存在を検知し、その情報を蛍光の変化により目視可能に発信することができ、かつ、繰り返し用いることが可能であることが示された。
図1
図2