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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】振動伝達経路用ボールジョイントセット
(51)【国際特許分類】
   F16C 11/06 20060101AFI20240318BHJP
   F16C 11/08 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
F16C11/06 N
F16C11/08 E
F16C11/06 J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020050224
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021148248
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-06
(73)【特許権者】
【識別番号】398042576
【氏名又は名称】三恵工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】市田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】勝山 将
(72)【発明者】
【氏名】林 諒
【審査官】松江川 宗
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-080925(JP,U)
【文献】特開2002-089552(JP,A)
【文献】特開2017-089718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/00-11/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動伝達経路に設けられるボールジョイントと、
厚みの異なる複数の調整スペーサと、
を備え、
前記ボールジョイントは、
ボール部及びスタッド部を含むボールスタッドと、
前記ボール部を支えるボールシートと、
前記ボール部及び前記ボールシートを収めるソケットと、
前記スタッド部を通す開口部を含み、前記ソケットに収まったボール部を押さえた状態で前記ソケットに対して固定されるキャップと、
前記ソケットと前記キャップとの間に配置可能な基準スペーサと、
を有し、
前記複数の調整スペーサのうち、少なくとも一つは前記基準スペーサよりも薄く、他の前記調整スペーサのうちの少なくとも一つは、前記基準スペーサよりも厚い、
前記基準スペーサ及び前記複数の調整スペーサの中から、干渉音を生じにくい前記基準スペーサ又は前記調整スペーサが選択され、当該選択された前記基準スペーサ又は前記調整スペーサが、前記ソケットと前記キャップとの間に配置するスペーサとして使用される振動伝達経路用ボールジョイントセット。
【請求項2】
前記ボールジョイントは、
前記ソケットに収まり、前記スタッド部の中心軸方向において前記ボールシートを前記ボール部側に向かって弾性的に押す弾性体を有する、
請求項1記載の振動伝達経路用ボールジョイントセット。
【請求項3】
前記ボールジョイントは、前記ボールスタッドを一対有し、
前記一対のボールスタッドのうちの一方のボールスタッドのスタッド部が振動伝達経路における加振装置側に配置されるスタッド部であり、他方のボールスタッドのスタッド部が振動伝達経路における被振動体側に配置されるスタッド部である、
請求項1又は請求項2記載の振動伝達経路用ボールジョイントセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動伝達経路用ボールジョイントセットに関し、より詳しくは、ボールジョイントとスペーサとがセットになったボールジョイントセットに関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、部材同士をボールジョイントで連結することが行われている(特許文献1参照)。ボールジョイントは、ボールスタッドと、ボールスタッドが取り付けられるハウジングと、を備える。ボールスタッドは、ハウジングに対して、歳差運動可能に取り付けられている。
【0003】
ボールスタッドは、ハウジングに回転可能に保持される球と、球から一方向に延びた螺子部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-026075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のボールジョイントは、ボールスタッドの可動性を損なわないように、かつ適切に部材同士を連結できるように構成されている。しかし、従来のボールジョイントは、振動伝達経路に設けられることを想定していないため、振動伝達経路に設けられると、ボールジョイントの構成部品の干渉音が生じやすい、という問題がある。
【0006】
本発明の目的は、振動伝達経路に設けられても、構成部品の干渉音が生じにくい振動伝達経路用ボールジョイントセットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る一態様の振動伝達経路用ボールジョイントセットは、振動伝達経路に設けられるボールジョイントと、厚みの異なる複数の調整スペーサと、を備える。前記ボールジョイントは、ボール部及びスタッド部を含むボールスタッドと、前記ボール部を支えるボールシートと、前記ボール部及び前記ボールシートを収めるソケットと、前記スタッド部を通す開口部を含み、前記ソケットに収まったボール部を押さえた状態で前記ソケットに対して固定されるキャップと、前記ソケットと前記キャップとの間に配置可能な基準スペーサと、を有する。複数の調整スペーサのうち、少なくとも一つは前記基準スペーサよりも薄く、他の調整スペーサのうちの少なくとも一つは、前記基準スペーサよりも厚い。
【0008】
また、上記態様の振動伝達経路用ボールジョイントセットでは、前記ボールジョイントは、前記ソケットに収まり、前記スタッド部の中心軸方向において前記ボールシートを前記ボール部側に向かって弾性的に押す弾性体を有することが好ましい。
【0009】
また、上記態様の振動伝達経路用ボールジョイントセットでは、前記ボールジョイントは、前記ボールスタッドを一対有し、前記一対のボールスタッドのうちの一方のボールスタッドのスタッド部が振動伝達経路における加振装置側に配置されるスタッド部であり、他方のボールスタッドのスタッド部が振動伝達経路における被振動体側に配置されるスタッド部であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る上記態様の振動伝達経路用ボールジョイントセットによれば、振動伝達経路に設けられても、構成部品の干渉音が生じにくくできる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一態様に係るボールジョイントにおける、ボールスタッドの中心軸に沿う面での断面図である。
図2図2は、同上のボールジョイントの使用例を示す説明図である。
図3図3は、同上のボールジョイントの分解斜視図である。
図4図4は、変形例1に係るボールジョイントにおける、ボールスタッドの中心軸に沿う面での断面図である。
図5図5は、変形例2に係るボールジョイントにおける、ボールスタッドの中心軸に沿う面での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(1)実施形態
以下、本実施形態に係る振動伝達経路用ボールジョイント1のセット(「ボールジョイントセット」という場合がある)について、詳細に説明する。
【0013】
(1.1)概要
本実施形態に係るボールジョイントセットは、ボールジョイント1と、調整スペーサと、を備える。ボールジョイント1は、振動伝達経路に設けられる。ボールジョイント1は、図1に示すように、ボールスタッド2と、ボールシート3と、ソケット51と、キャップ53と、基準スペーサと、を備える。
【0014】
ボールスタッド2は、ボール部23と、スタッド部24と、を有する。ボールシート3は、ボール部23に対向する球面311(321)を有する。ソケット51は、ボール部23及びボールシート3を収める。キャップ53は、スタッド部24を通す開口部531を含んでおり、ソケット51に収まったボール部23を押さえた状態でソケット51に対して固定される。基準スペーサは、ソケット51とキャップ53との間に配置され得る。
【0015】
複数の調整スペーサのうち、少なくとも一つは基準スペーサよりも薄い。また、他の調整スペーサのうちの少なくとも一つは、基準スペーサよりも厚くなるように形成されている。
【0016】
ここで、振動伝達経路に設けられるボールジョイント1は、振動伝達経路を伝達する振動の周波数や振幅等によって、構成部品同士の干渉音が生じたり、生じなかったりする場合がある。したがって、実際に、振動伝達経路にボールジョイント1を設けてみないと、ボールジョイント1から干渉音が生じるか否かは判別できない。
【0017】
このため、作業者は、実際に、ボールジョイント1を振動伝達経路に設置して干渉音が発生するかどうかを確認しながら、基準スペーサ及び複数の調整スペーサのうちのいずれかのスペーサ6を選択する。作業者は、選択したスペーサ6を用いて、ボールジョイント1を組み立てる。これによって、振動伝達経路に設置しても干渉音が生じにくいボールジョイント1を構成することができる。
【0018】
ここでいう「セット」は、販売等の際に、ボールジョイント1と複数の調整スペーサとをひとまとめにしたものを意味する。ボールジョイント1と複数の調整スペーサとが、一つの箱に同梱されているものはもちろん、別々の箱に梱包されているものでも、ひとまとめにされていれば、「ボールジョイントセット」に含まれる。
【0019】
(1.2)詳細
(1.2.1)ボールジョイント
本実施形態に係るボールジョイント1は、上述したように、振動伝達経路用のボールジョイント1である。基準スペーサ及び調整スペーサから選択されたスペーサ6を用いて、組み立てられたボールジョイント1は、ボールスタッド2の可動性を損なわれておらず、かつ構成部品同士の間の隙間が生じていない。このため、ボールジョイント1が振動伝達経路に設けられても、構成部品同士が衝突するような干渉音や、過度な摩耗が生じにくい。
【0020】
本実施形態に係るボールジョイント1は、例えば、図2に示すように、第一部材X1と第二部材X2とを連結することに用いられる。本実施形態に係るボールジョイント1では、スタッド部24同士のハウジング5から突出する方向が、互いに反対方向を向いている。このため、一対のスタッド部24のうちの一方のスタッド部24を第一部材X1に接続し、他方のスタッド部24を第二部材X2に接続することができる。このとき、本実施形態に係るボールジョイント1によれば、第一部材X1の中心軸C2と第二部材X2の中心軸C3とが一直線上になくても(つまり、中心軸C2と中心軸C3とがずれていても)、第一部材X1と第二部材X2とを適切に連結することができる。
【0021】
第一部材X1は、例えば、加振装置である。加振装置は、振動を発生させる装置である。加振装置としては、例えば、電磁式、圧電式、油圧式、機械式等が挙げられるが、特に制限はない。加振装置が発生する振動は、高周波、低周波のいずれであってもよい。
【0022】
第二部材X2は、例えば、被振動体である。被振動体は、加振装置から出力された振動を受けて振動する物である。被振動体としては、特に制限はなく、例えば、自動車、自動車部品、建築物、建築材料、工作機械、自転車、船舶、航空機、コンピュータ、スマートフォン、人工衛星、ボルト・ナット、これらの試験体等が挙げられる。
【0023】
ボールジョイント1は、図1に示すように、ハウジング5と、一対のボールシート3と、弾性体4と、一対のボールスタッド2と、を備える。
【0024】
(1.2.2)ボールスタッド
ボールスタッド2は、ハウジング5に対して可動な軸状の部品である。一対のボールスタッド2は、上述したように、中心軸C1が一直線上に配置される。ここで各ボールスタッド2の中心軸C1が、一直線上にある位置を「基準位置」とする。以下、特に断りがない限り、「中心軸C1」は基準位置にある中心軸C1を意味する。また、一対のボールスタッド2のうち、振動伝達経路における加振装置側に配置されるボールスタッド2を「第一ボールスタッド21」といい、被振動体側に配置されるボールスタッド2を「第二ボールスタッド22」という場合がある。
【0025】
各ボールスタッド2は基準位置から回転中心を中心として傾き得る。各ボールスタッド2は、基準位置に対して、所定角度の範囲内で傾く。ここでいう「所定角度」は、特に制限はないが、例えば、5°である。また、ボールスタッド2は、基準位置又は基準位置に対して傾いた位置において、中心軸C1を回転軸として回転し得る。したがって、各ボールスタッド2は、ハウジング5に対して歳差運動可能に取り付けられている。
【0026】
ボールスタッド2の材質は、例えば、金属、合成樹脂、カーボン等が挙げられる。金属としては、例えば、合金工具鋼、ステンレス鋼、スチール、炭素鋼、合金鋼、チタン、アルミニウム等が挙げられる。この中でも、振動に対する強度及び耐摩耗性の観点から、ボールスタッド2は、金属製であることが好ましく、さらに、コストの観点から、合金工具鋼製であることが好ましい。また、硬さやじん性を向上するために、焼入れ及び/又は焼き戻し等の熱処理を行うことが好ましい。ボールスタッド2は、ボール部23と、スタッド部24と、を備え、これらボール部23及びスタッド部24が一体に形成されている。
【0027】
ボール部23は、略球状に形成された部分であり、ボールシート3によって、回転中心を中心として回転可能に支えられる。ボール部23は、大部分が球面で構成されており、球面の中心が回転中心となる。ボール部23は、ハウジング5に収まる。ボール部23の直径は、スタッド部24の直径よりも大きく形成されており、ハウジング5からの抜け止めが図られている。ボール部23は、ボールスタッド2の中心軸C1に沿う方向(中心軸C1方向という場合がある)におけるボールジョイント1の中央側の端に形成された平面231を有する。当該平面231は、中心軸C1に対して略直交している。なお、当該平面231はなくてもよく、平面231に代えて、隣接する面に連続した球面が形成されてもよい。
【0028】
スタッド部24は、ボール部23から一方向に突き出た部分である。スタッド部24は、ボールスタッド2がハウジング5に取り付けられると、ハウジング5から突出する。一対のボールスタッド2は、ハウジング5に取り付けられると、一対のスタッド部24同士が、ハウジング5から互いに反対方向に向かって突出する。第一ボールスタッド21のスタッド部24は、第一部材X1(図2)に接続される。また、第二ボールスタッド22のスタッド部24は、第二部材X2に接続される。スタッド部24は、棒状(円柱状)に形成されており、外周面に雄ねじが形成されている。
【0029】
ただし、本発明に係るスタッド部24は、棒状に形成されていればよく、角柱状に形成されてもよい。また、スタッド部24は、雄ねじが形成されていなくてもよいし、雄ねじ7に代えて、中心軸C1に沿った雌ねじ穴が形成されてもよい。
【0030】
(1.2.3)ボールシート
ボールシート3は、ボール部23に対向する球面311,321を有し、ボール部23を回転可能に支える。一対のボールシート3は、いずれもハウジング5に収まる。各ボールシート3に形成された球面311,321は、凹状の球面であり、ボール部23の表面と略同じ曲率に形成されている。当該球面311,321とボール部23との間には、グリース等の潤滑剤が介在することが好ましい。
【0031】
ボールシート3の材質は、例えば、金属、合成樹脂、カーボン等が挙げられる。金属としては、例えば、合金工具鋼、ステンレス鋼、スチール、炭素鋼、合金鋼、チタン、アルミニウム等が挙げられる。この中でも、振動に対する強度及び耐摩耗性の観点から、ボールスタッド2は、金属製であることが好ましく、さらに、コストの観点から、合金工具鋼製であることが好ましい。また、硬さやじん性を向上するために、焼入れ及び/又は焼き戻し等の熱処理を行うことが好ましい。
【0032】
ボールジョイント1は、一対のボールシート3として、第一ボールスタッド21のボール部23を支える第一ボールシート31と、第二ボールスタッド22のボール部23を支える第二ボールシート32と、を備える。
【0033】
第一ボールシート31は、図3に示すように、円筒状に形成されている。図1に示すように、中心軸C1方向において、第一ボールシート31の第一ボールスタッド21側の端部には、ボール部23を支える球面311が形成されている。中心軸C1方向において、第一ボールシート31の球面311がある側とは反対側の端面には支持面312が形成されている。支持面312は、中心軸C1に略直交する平面であり、弾性体4を支える。第一ボールシート31は、中心軸C1方向に沿って移動可能にハウジング5に収容されている。
【0034】
第二ボールシート32は、図3に示すように、円筒状に形成されている。図1に示すように、中心軸C1方向において、第二ボールシート32の第二ボールスタッド22側の端部には球面321が形成されている。中心軸C1方向において、第二ボールシート32の球面321がある側とは反対側の端部には、弾性体4が収容される収容部322が形成されている。収容部322は、図3に示すように、第二ボールシート32の端面から凹んだ凹状の部分である。収容部322は、中心軸C1方向における第一ボールシート31側の端部に形成された開口面323と、奥面324と、を有する。奥面324は、開口面323と球面321との間に形成されている。奥面324は、図1に示すように、中心軸C1に対して略直交しており、支持面312に対して略平行である。弾性体4は、奥面324と支持面312との間に配置されている。
【0035】
(1.2.4)弾性体
弾性体4は、中心軸C1方向において、各ボールシート3を、対応するボール部23側に向かって弾性的に押す。ここでいう「対応するボール部23」とは、一対のボール部23のうちの、当該ボールシート3が受けているボール部23を意味する。弾性体4は、ハウジング5内に配置されており、ハウジング5に収まっている。
【0036】
弾性体4は、ボールスタッド2がハウジング5に取り付けられた際に、弾性エネルギを蓄えることができるものであれば、特に制限はなく、例えば、板ばね、皿ばね、ねじりコイルばね、ゴム等が挙げられる。本実施形態に係る弾性体4は、複数の皿ばね41によって構成されており、皿ばね41の数量に応じて、ボールシート3を押す力を調整することができる。
【0037】
弾性体4は、奥面324と支持面312との間に配置された状態で、弾性変形しており、常時、ボールシート3を対応するボール部23側に向かって押している。この状態において、弾性体4がボールシート3を押している力は、加振装置から弾性体4に入力される力に対して、1.2倍以上であることが好ましく、より好ましくは1.5倍以上である。ここでいう、加振装置から入力される力は、実際に入力される力であってもよいし、入力のための設定値であってもよい。
【0038】
弾性体4は、奥面324と支持面312との間に配置された状態で、ボールシート3を対応するボール部23側に向かって押しているため、第二ボールシート32と支持面312とは、微小な隙間を介して離れている。微小な隙間は、奥面324と支持面312との間の寸法の0.3%以下の隙間であることが好ましい。
【0039】
このように、第二ボールシート32と支持面312との間には、微小な隙間が介在しているが、弾性体4がボールシート3を押している力が、加振装置から弾性体4に入力される力に対して1.2倍以上に設定されるため、第二ボールシート32と支持面312とは干渉しにくい。仮に、支持面312に対して、第二ボールシート32が干渉する場合であっても、第二ボールシート32が支持面312に近接する際には、第二ボールシート32は支持面312に対してゆっくりと近付いて接触する。このため、第二ボールシート32と支持面312との間では干渉音が生じにくい。
【0040】
また、第二ボールシート32と支持面312との間の微小な隙間は、奥面324と支持面312との間の寸法の0.3%以下に設定されているため、仮に、支持面312に対して、第二ボールシート32が動いたとしても、上述のように、第二ボールシート32は、支持面312に対して当たる。このため、皿ばね(弾性体4)の変形量を一定以下に抑えることができ、皿ばねが破断するのを防ぐことができる。なお、第二ボールシート32と支持面312との間の隙間が、奥面324と支持面312との間の寸法の0.4%を超えると、支持面312に対して、第二ボールシート32が動いた場合には、皿ばねの変形量が大きくなり、皿ばねが破断する可能性がある。
【0041】
ただし、本発明では、第二ボールシート32と支持面312とは、接触していてもよい。すなわち、第二ボールシート32と支持面312との間の隙間はなくてもよい。
【0042】
以上の通り、弾性体4は、奥面324と支持面312との間に配置されており、すなわち、第一ボールシート31と第二ボールシート32との間に配置されている。したがって、弾性体4は、第一ボールシート31を、対応するボール部23側に向かって弾性的に押すと共に、第二ボールシート32を、対応するボール部23側に向かって弾性的に押す。
【0043】
(1.2.5)ハウジング
ハウジング5は、ボールジョイント1における筐体である。ハウジング5には、中心軸C1方向に沿って、順に、第一ボールスタッド21のボール部23、第一ボールシート31、弾性体4、第二ボールシート32及び第二ボールスタッド22のボール部23が並んだ状態で収まっている。ハウジング5は、ソケット51と、一対のキャップ53と、スペーサ6と、を備える。
【0044】
ソケット51は、中空な部材であり、中心軸C1方向の両端に開口面を有している。ソケット51の内部には、一対のボール部23、一対のボールシート3及び弾性体4が配置される。ソケット51は、本実施形態では、円筒状に形成されているが、本発明では、円筒状に限らず、角筒状であってもよい。ソケット51の材質は、特に制限はなく、例えば、金属、合成樹脂、カーボン等が挙げられる。金属としては、例えば、合金工具鋼、ステンレス鋼、スチール、炭素鋼、合金鋼、チタン、アルミニウム等が挙げられる。また、硬さやじん性を向上するために、焼入れ及び/又は焼き戻し等の熱処理を行うことが好ましい。ソケット51の開口周縁部には、図3に示すように、キャップ53を取り付けるための取付け面512が形成されている。
【0045】
一対のキャップ53は、ソケット51の開口面を閉じた状態で、ソケット51に対して固定される。各キャップ53には、図3に示すように、スタッド部24を通す開口部531が形成されている。キャップ53の厚さ方向のうち、中央側の面には、開口部531の周縁に沿ってボール部押さえ532が形成されている。ボール部押さえ532には、凹状の球面533が形成されている。凹状の球面533は、キャップ53がソケット51に対して固定されると、図1に示すように、ボール部23の表面に対して対向する。ボール部23は、キャップ53の球面533とボールシート3の球面311,321とで、しゅう動可能に保持されており、これによって、ハウジング5に保持されている。
【0046】
キャップ53の材質は、特に制限はなく、例えば、金属、合成樹脂、カーボン等が挙げられる。金属としては、例えば、合金工具鋼、ステンレス鋼、スチール、炭素鋼、合金鋼、チタン、アルミニウム等が挙げられる。また、硬さやじん性を向上するために、焼入れ及び/又は焼き戻し等の熱処理を行うことが好ましい。
【0047】
スペーサ6は、ソケット51とキャップ53との間に配置され、ボールシート3の球面311,321とボール部23の表面との接触圧を調整する。スペーサ6は、本実施形態では、一対のキャップ53のうちの一方のキャップ53と、ソケット51の取付け面512との間に配置されている。
【0048】
本実施形態では、スペーサ6として、設計上の厚さ寸法で形成された基準スペーサに加えて、厚みの異なる複数の調整スペーサが予め用意されている。本実施形態では、例えば、六つの調整スペーサが用意されており(これを、「第一調整スペーサ」「第二調整スペーサ」…などという)、第一調整スペーサ、第二調整スペーサ及び第三調整スペーサが、基準スペーサよりも厚く、第四調整スペーサ、第五調整スペーサ及び第六調整スペーサが、基準スペーサよりも薄い。第一~第三調整スペーサ、基準スペーサ、第四~第六調整スペーサまで、順に、所定寸法ずつ厚みが増すように形成されている。ここでいう「所定寸法」としては、加振装置から出力される振動の周波数又は/及び振幅等に応じて設定されるが、0.02mm以下であることが好ましく、より好ましくは、0.005mm以上、0.015mm以下であり、更に好ましくは、0.01mmである。
【0049】
例えば、所定寸法(つまり調整幅)が0.01mmであるとすると、基準スペーサが、例えば、6.00mmの厚さ寸法を有する場合、第一調整スペーサの厚さ寸法が5.97mm、第二調整スペーサの厚さ寸法が5.98mm、第三調整スペーサの厚さ寸法が5.99mmである。また、第四調整スペーサの厚さ寸法が6.01mm、第五調整スペーサの厚さ寸法が6.02mm、第六調整スペーサの厚さ寸法が6.03mmである。
【0050】
作業者は、振動伝達経路にボールジョイント1を設置し、実際に加振装置を作動して、ボールジョイント1の構成部品同士の干渉音が生じないかを確認しながら、基準スペーサ及び複数の調整スペーサの中から適切なスペーサ6を選択する。そして、選択したスペーサ6をソケット51とキャップ53との間に配置して組み立てる。これにより、振動時に構成部品間の干渉音が生じないボールジョイント1を構成することができる。
【0051】
スペーサ6は、図3に示すように、リング状(円環状)に形成されている。スペーサ6には、複数の貫通孔61が形成されている。複数の貫通孔61に対して、キャップ53とソケット51とを固定するねじ7を通すことで、スペーサ6は、ソケット51及びキャップ53に取り付けられる。ただし、本発明では、スペーサ6は、リング状に限らず、例えば、略U字状、略C字状に形成されてもよい。また、キャップ53とソケット51とを固定するねじ7が中央に通される複数の筒体で構成されてもよい。
【0052】
スペーサ6の材質は、特に制限はなく、例えば、金属、合成樹脂、カーボン等が挙げられる。金属としては、例えば、炭素鋼、合金工具鋼、ステンレス鋼、スチール、炭素鋼、合金鋼、チタン、アルミニウム、合成樹脂、カーボン等が挙げられる。硬さやじん性を向上するために、焼入れ及び/又は焼き戻し等の熱処理を行うことが好ましい。
【0053】
(1.3)作用効果
以上のように構成されたボールジョイントセットでは、基準スペーサに代えて取り付け可能な調整スペーサを備えている。このため、例えば、0.01mmの調整幅とすることも可能であり、調整シムを用いた場合に比べて、調整幅を小さくすることができる。この結果、ボールスタッド2の可動性を損なわないようにしつつ、ボールジョイント1の構成部品の干渉音が発生するのを回避したボールジョイント1を得ることができる。
【0054】
また、本実施形態に係るボールジョイント1は、スタッド部24の中心軸C1方向において、ボールシート3を、対応するボール部23側に向かって弾性的に押す弾性体4を備える。このため、ボールジョイント1について、より一層、ボールスタッド2の可動性を適切に保ちつつ、干渉音の発生を防ぐことができる。
【0055】
本実施形態では、弾性体4が一対のボールシート3の間に配置されているため、ハウジング5に仕切り部511があるボールジョイント1(図4参照)に比べて、部品点数を減らすことができる。また、弾性体4が収容部322に収まるため、弾性体4をハウジング5内に収める際に、組み立て作業を行いやすい。
【0056】
また、ボールジョイント1では、一対のボールスタッド2のスタッド部24同士は、ハウジング5から突出する方向が互いに反対方向を向いている。このため、図2に示すように、第一部材X1の中心軸C2と第二部材X2の中心軸C3とが一直線上になくても、第一部材X1と第二部材X2とを適切に連結することができる。
【0057】
(2)変形例
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本発明の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。以下、変形例を説明する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0058】
(2.1)変形例1
変形例1に係るボールジョイント1の断面図を図4に示す。本変形例に係るボールジョイント1は、上記実施形態と比較すると、ハウジング5が仕切り部511を有する点、弾性体4を備えない点で、上記実施形態とは異なっている。
【0059】
本変形例に係るボールジョイント1は、ハウジング5と、一対のボールスタッド2と、一対のボールシート3と、を備える。本変形例に係るボールジョイント1も、上記実施形態と同様、一対のスタッド部24同士は、ハウジング5から突出する方向が反対方向を向いている。
【0060】
ハウジング5は、ソケット51と、一対のキャップ53と、スペーサ6と、を備える。ソケット51は、外殻部510と、仕切り部511と、を備える。なお、キャップ53は、上記実施形態と略同じ構成であるため説明を省略する。
【0061】
外殻部510は、ボールジョイント1の外周面を構成する。外殻部510は、円筒状に形成されている。仕切り部511は、外殻部510の中心軸C1方向の中央に形成されている。仕切り部511は、中心軸C1に略直交している。仕切り部511の厚さ方向の両側の各々には、ボールシート3が配置されている。ボールシート3は、実施形態1と異なり、ハウジング5に対して固定されている。
【0062】
スペーサ6(基準スペーサ又は調整スペーサ)は、ソケット51とキャップ53との間に配置され、ボールシート3の球面311,321とボール部23の表面との接触圧を調整する。スペーサ6は、ソケット51の中心軸C1方向の両側に配置されている。基準スペーサ及び調整スペーサの構成は、実施形態1と同じであるため、説明を省略する。
【0063】
本変形例に係るボールジョイントセットでは、上記実施形態と同様、基準スペーサに加えて、複数の調整スペーサが含まれている。作業者は、上記実施形態と同様、振動伝達経路にボールジョイント1を設置し、実際に加振装置を作動して、ボールジョイント1の構成部品同士の干渉音が生じないかを確認しながら、基準スペーサ及び複数の調整スペーサの中から適切なスペーサを選択する。そして、作業者は、ボールジョイント1を組み立てる。これにより、振動伝達経路に設けられた際に、構成部品の干渉音が生じないボールジョイント1を得ることができる。
【0064】
(2.2)変形例2
変形例2に係るボールジョイント1の断面図を図5に示す。本変形例に係るボールジョイント1は、上記実施形態と比較すると、ボールスタッド2がソケット51から一方にのみ突出している点、中心軸C1方向においてボールシート3とハウジング5との間にベース52が配置されている点で上記実施形態とは異なっている。
【0065】
ベース52は円筒状に形成されており、ベース52において、中心軸C1方向の仕切り部511とは反対側の端面が支持面312である。弾性体4は、支持面312と収容部322の奥面324との間に配置されている点では実施形態と同じである。
【0066】
本変形例に係るボールジョイントセットでは、上記実施形態と同様、基準スペーサに加えて、複数の調整スペーサが含まれている。作業者は、上記実施形態と同様、振動伝達経路にボールジョイント1を設置し、実際に加振装置を作動して、ボールジョイント1の構成部品同士の干渉音が生じないかを確認しながら、基準スペーサ及び複数の調整スペーサの中から適切なスペーサを選択する。そして、作業者は、ボールジョイント1を組み立てる。これにより、振動伝達経路に設けられた際に、構成部品の干渉音が生じないボールジョイント1を得ることができる。
【0067】
(2.3)その他の変形例
以下、実施形態のその他の変形例を列挙する。
【0068】
上記実施形態では、ボールシート3とボール部23とが面状に接触していたが、ボールシート3の球面311,321又はボール部23の表面に対し、他の部分よりも突き出た凸部が形成されてもよい。これにより、ボールシート3とボール部23との接触面積を減らすことができると共に、ボールシート3とボール部23との間に潤滑油を保持しやすいため、ハウジング5に対するボールスタッド2の可動性を向上することができる。
【0069】
上記実施形態では、基準位置にある一対のボールスタッド2の中心軸C1は、一直線上に位置したが、本発明では、互いにずれていてもよい。この場合、一対のボールスタッド2の中心軸C1同士が、ハウジング5の中心軸と平行な位置を「基準位置」とする。
【0070】
上記実施形態では、ボールシート3は、球面311の底と支持面312との間、球面321と奥面324との間が通じるように筒状に形成されていたが、当該部分は通じていなくてもよい。すなわち、球面311,321の底は、貫通孔が形成されていなくてもよい。
【0071】
本明細書にて、「略平行」、又は「略直交」のように「略」を伴った表現が、用いられる場合がある。例えば、「略平行」とは、実質的に「平行」であることを意味し、厳密に「平行」な状態だけでなく、数度程度の誤差を含む意味である。他の「略」を伴った表現についても同様である。
【0072】
また、本明細書において「端部」及び「端」などのように、「…部」の有無で区別した表現が用いられている。例えば、「端部」とは、「端」を含む一定の範囲を持つ部分を意味する。他の「…部」を伴った表現についても同様である。
【符号の説明】
【0073】
1 ボールジョイント
2 ボールスタッド
23 ボール部
24 スタッド部
3 ボールシート
4 弾性体
51 ソケット
53 キャップ
531 開口部
6 スペーサ(基準スペーサ、調整スペーサ)
C1 中心軸
図1
図2
図3
図4
図5