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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 105/04 20060101AFI20240318BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20240318BHJP
   C10N 20/02 20060101ALN20240318BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20240318BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240318BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20240318BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20240318BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20240318BHJP
【FI】
C10M105/04
C10N50:10
C10N20:02
C10N20:00 A
C10N30:00 Z
C10N40:04
C10N40:02
C10N30:08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020111121
(22)【出願日】2020-06-29
(65)【公開番号】P2022022576
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】390022275
【氏名又は名称】株式会社ニッペコ
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100121049
【弁理士】
【氏名又は名称】三輪 正義
(72)【発明者】
【氏名】石井 宏治
(72)【発明者】
【氏名】中里 朋也
(72)【発明者】
【氏名】雑賀 光哉
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-136738(JP,A)
【文献】特開2013-028749(JP,A)
【文献】特開2013-129794(JP,A)
【文献】特許第6587920(JP,B2)
【文献】特開2019-065207(JP,A)
【文献】特開2014-122282(JP,A)
【文献】特開2015-160909(JP,A)
【文献】特開2016-044265(JP,A)
【文献】特開2021-161297(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基油と増ちょう剤と、を含むグリース組成物であって、
前記基油は、コール・ツー・リキッド(CTL)含み、
前記基油の動粘度は、100℃において、3mm/s以上mm/s以下であることを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記基油の動粘度は、40℃において、18.5mm /s以上34.1mm /s以下であることを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
JIS K 2220:2013に記載の低温トルク試験方法にて求めた、基油の流動点を7℃下回る温度における起動トルクの値(A)と、前記値(A)の測定温度より10℃高い温度における起動トルクの値(B)との比(A/B)が、3.00以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
JIS K 2220:2013に記載の低温トルク試験方法にて求めた、-40℃での起動トルクの値が、400mN・m以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記基油の粘度指数が、120以上であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載のグリース組成物。
【請求項6】
JIS K 2220:2013に記載のちょう度試験方法にて求めた混和ちょう度が、220~385の範囲内であることを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載のグリース組成物。
【請求項7】
前記グリース組成物は、自動車部品、或いは、精密機械部品のギヤ、軸受又は摺動部に適用されることを特徴とする請求項1から請求項のいずれかに記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車部品や精密機械部品に組み込まれるギヤや軸受等の機械要素に使用されるグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車部品や精密機械部品のギヤ、軸受及び摺動部等には、これらの摩擦・摩耗等を防ぐためにグリースが使用されている。従来より、グリースの基油として、鉱油や合成油が広く用いられている。
【0003】
近年、省エネルギー化、及び省電力化が求められる中、グリースにもそれに応じた性能として、低トルク化が必要とされている。特に、グリースは、低温環境下で使用される際、室温環境下に比べて硬くなり、機器作動時の抵抗となってしまう。そのため、自動車部品や精密機械部品に組み込まれているギヤや軸受等の機械要素に使用されるグリースは、低温時でもあまり硬くならず、機器作動時の抵抗となりにくいグリース、即ち優れた低温作動性を実現できるグリースが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、合成油より安価の鉱油を用いても、合成油と用いた場合と同等に近い耐熱性及び低温特性を有するグリース組成物に関する発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-43745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、基油の流動点付近での低温作動性について言及していない。すなわち、基油の流動点付近にて、低温トルクが大きく変動すると、低温作動性は悪くなり、自動車部品や精密機械部品に必要な低温作動性の実現が困難となる。
【0007】
また、特許文献1に記載の発明では、JIS K 2220:2013「グリース」に定められた低温トルク性能において、試験温度を-20℃で実施している。
【0008】
しかしながら、自動車部品や精密機器部品等における要求性状を鑑みると、例えば、-40℃の条件における起動トルクは400mN・m以下であることが求められ、特許文献1における低温作動性は十分でない。
【0009】
本発明は、上記の現状を鑑みてなされたもので、低温環境下で使用される自動車部品や精密機械部品に必要な低温作動性を実現可能なグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも基油と増ちょう剤と、を含むグリース組成物であって、前記基油は、コール・ツー・リキッド(CTL)含み、前記基油の動粘度は、100℃において、3mm/s以上mm/s以下であることを特徴とする。
本発明では、前記基油の動粘度は、40℃において、18.5mm /s以上34.1mm /s以下であることが好ましい。
【0011】
本発明では、JIS K 2220:2013「グリース」に記載の低温トルク試験方法にて求めた、基油の流動点を7℃下回る温度における起動トルクの値(A)と、前記値(A)の測定温度より10℃高い温度における起動トルクの値(B)との比(A/B)が、3.00以下であることが好ましい。尚、以降断りの無い限り、「起動トルク」とは、JIS K 2220:2013に記載の低温トルク試験方法にて求めた起動トルクを指す。
【0012】
本発明では、JIS K 2220:2013「グリース」に記載の低温トルク試験方法にて求めた、-40℃での起動トルクの値が、400mN・m以下であることが好ましい。本発明では、前記基油の粘度指数が、120以上であることが好ましい。
【0013】
本発明では、JIS K 2220:2013「グリース」に記載のちょう度試験方法にて求めた混和ちょう度が、220~385の範囲内であることが好ましい。
【0014】
本発明における前記グリース組成物は、自動車部品、或いは、精密機械部品のギヤ、軸受又は摺動部に適用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明のグリース組成物を用いることで、良好な低温作動性を実現することができる。すなわち、基油の流動点を下回る温度においても、低温作動性の急激な悪化は生じない。このため、基油の流動点以下となる使用環境下においても、グリース組成物による抵抗を抑えた状態で機器を適切に作動することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本実施の形態におけるグリース組成物について詳しく説明する。まずは、本実施の形態のグリース組成物に至るまでの経緯について説明する。
【0017】
<本実施の形態のグリース組成物に至るまでの経緯>
グリース組成物は、基油、増ちょう剤(基油を固めることのできる成分)、及び添加剤によって構成された半固形状の潤滑剤であり、基油には、鉱油や合成油等が使用される。
【0018】
多くの合成油は、鉱油と比較して低い流動点を有する。このため、基油として合成油を有するグリース組成物は、良好な低温作動性を要求される自動車部品や精密機械部品に組み込まれるギヤや軸受等の機械要素に広く適用されている。
【0019】
しかしながら、合成油は鉱油と比較して高価である。そのため、合成油を基油としたグリース組成物は、鉱油を基油としたグリース組成物より高価となるデメリットがある。
【0020】
このような経済的観点を考慮して、特許文献1に記載の発明では、基油として鉱油を用いている。特許文献1では、基油の流動点、飽和分、硫黄分、粘度指数、及び40℃動粘度を適宜選択してなる所定の鉱油を用い、これにより、合成油を用いた場合と同等程度の耐熱性及び低温特性が得られるとしている。
【0021】
しかしながら、特許文献1に記載の発明では、基油の流動点付近での低温作動性について言及していない。また、後述する実験でも示すように、基油として合成油のポリ-アルファ-オレフィン(以下、PAOと記述する)を用いた場合は、基油の流動点付近で大幅に低温トルクが変動してしまい、上記した経済的観点と合わせて使い勝手は悪化する。
【0022】
更に、特許文献1に記載の発明では、JIS K 2220:2013「グリース」に定められた低温トルクの試験温度を-20℃として実施しているものの、実際には、自動車部品や精密機器部品等における要求性状は、更に低い温度での良好な低温作動性である。一例であるが、低温作動性としては、-40℃の条件における起動トルクが400mN・m以下であることが求められる。
【0023】
以上により、合成油より安価で且つ、優れた低温作動性を実現可能なグリース組成物が求められる。
【0024】
<本実施の形態のグリース組成物の概要>
そこで、本発明者らは、鋭意検討の結果、基油として、
CTL、或いは、グループIII基油を用いることを見出した。これらは、合成油に比べて安価であり、且つ、基油として、CTL或いは、グループIII基油を用いることで、良好な低温作動性を得ることができる。特に、これらの基油を用いる事により、使用環境温度が、基油の流動点を下回り、基油自体の流動性が低下しても、急激な低温作動性の悪化を起こすことはない。
【0025】
本実施の形態のグリース組成物は、
(1) 少なくとも基油と増ちょう剤と、を含むグリース組成物であって、
(2) 基油は、CTL、或いは、グループIII基油から選択される少なくとも1種類を含み、
(3) 基油の動粘度は、100℃において3mm/s以上40mm/s以下である、
ことを特徴とする。
【0026】
(基油)
上記(2)で示した通り、本実施の形態のグリース組成物の基油には、CTL、或いは、グループIII基油を用いる。
【0027】
CTLとは、石炭から直接又は間接的にフィッシャー・トロプシュ法にて合成され、更に精製、異性化等の処理を実施し得られた潤滑用途の液体を指す。
【0028】
本実施の形態では、基油として、CTL、或いは、グループIII基油を用いることで、基油の流動点に関わらず、グリースとしては良好な低温作動性を得ることができる。特に、後述する実験に示すように、使用環境温度が、基油の流動点を下回り、基油自体の流動性が低下しても、低温作動性の急激な悪化を抑制することができる。
【0029】
本実施の形態のグリース組成物の基油として、CTL又はグループIII基油を用いるが、これらは単独で使用することもできるし、混合して用いることもできる。また、経済性や用途を深慮しつつ、その他の基油を適宜加えて使用しても良い。
【0030】
その他の基油として、低温作動性に影響を及ぼさない限りは、当該技術分野で既知の基油、例えば、鉱油として米国石油協会(American Petroleum Institute)分類におけるグループI基油、又はグループII基油、或いは、合成油として炭化水素系合成油、エステル系合成油、フェニルエーテル系合成油、グリコール系合成油、シリコーン系合成油、若しくは、フッ素系合成油又はこれらの混合油を使用することができる。
【0031】
本実施の形態では、上記(3)で示した通り、基油の動粘度は、100℃において3mm/s以上40mm/s以下であることが好ましい。これにより、高温時の基油蒸発量を少なくでき、また、-40℃での低温トルク試験において、起動トルクを、400mN・m以下に抑えることができる。従って、グリース組成物の耐久性を向上させることができるとともに、良好な低温作動性を得ることができる。以上により、本実施の形態のグリース組成物を、自動車部品や精密機械部品に組み込まれているギヤや軸受等の機械要素に、好ましく使用することができる。また、基油の動粘度は、100℃において、3mm/s以上8mm/s以下であることがより好ましく、3mm/s以上7mm/s以下であることが更により好ましい。基油の100℃における動粘度は、JIS K 2283:2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に記載の動粘度試験方法に基づいて測定される。
【0032】
また、本実施の形態のグリース組成物に用いられるCTL、又はグループIII基油の粘度指数は、120以上であることが好ましく、130以上がより好ましく、140以上であることが更に好ましい。これにより、良好な低温作動性を得ることができ、更に、高温時の動粘度の低下を抑制でき、潤滑性を向上させることが可能になる。
【0033】
本実施の形態のグリース組成物に用いられるCTL、及び、グループIII基油のうち、CTLを用いることにより、特に優れた低温作動性を得ることができる。
【0034】
(増ちょう剤)
本実施の形態のグリース組成物の増ちょう剤は、限定されるものでなく、例えば、用途などに応じて、当該技術分野で既知のものから、適宜選択することができる。例えば、金属石けんとして、リチウム石けん、リチウム複合石けん、カルシウム石けん、カルシウム複合石けん、アルミニウム石けん、及び、アルミニウム複合石けんからなる群から1種又は2種以上を選択することができる。また、非石けんとして、ウレア化合物、有機化ベントナイト、シリカゲル、及び、ポリテトラフルオロエチレンからなる群から1種又は2種以上を選択することができる。金属石けんと非石けんは、上記以外のものであってもよい。また、金属石けんと非石けんとを混合して使用することもできる。
【0035】
(その他)
本実施の形態のグリース組成物は、基油として、CTL又はグループIII基油の少なくとも1種類と、増ちょう剤を含み、更に、用途に応じて適宜、添加剤を含むことができる。
【0036】
添加剤としては、当該技術分野で既知の各種添加剤、例えば、酸化防止剤、腐食防止剤、防錆剤、極圧剤、固体潤滑剤、耐摩耗剤、増粘剤、油性剤、摩耗防止剤、構造安定剤、着色剤、洗浄分散剤、色相安定剤、金属不活性剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、或いは、界面活性剤、又は、その他の添加剤を含むことができる。これら添加剤を1種又は2種以上含むことができる。特に、高温環境での安定性を考慮し、酸化防止剤を使用する事が望ましい。
【0037】
<低温作動性について>
本実施の形態のグリース組成物を用いることで、優れた低温作動性を得ることができるが、具体的には、以下のように評価される。
【0038】
すなわち、JIS K 2220:2013「グリース」に記載の低温トルク試験方法にて求めた、基油の流動点を7℃下回る温度における起動トルクの値(A)と、値(A)における測定温度より10℃高い温度の起動トルクの値(B)との比(A/B)が、3.00以下であることが好ましい。これにより、流動点を下回るときの起動トルクが、流動点を上回るときの起動トルクに比べて大幅に大きくならず、良好な低温作動性を保持することができる。本実施の形態では、比(A/B)は、2.50以下であることがより好ましく、2.00以下であることが更に好ましく、1.75未満であることが更により好ましい。
また、基油の流動点は、JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点試験方法」に準拠して測定(1℃毎に測定)された流動点を意味する。
【0039】
また、基油の流動点は、CTLやグループIII基油であれば特に限定されないが、一例を示すと、-10℃以下が好ましく、より好ましくは、-20℃以下、更により好ましくは、-30℃以下である。これにより、合成油を基油としたグリース組成物と同等以上の低温作動性が得やすくなる。
【0040】
また、本実施の形態では、JIS K 2220:2013「グリース」に記載の低温トルク試験方法にて求めた、-40℃での起動トルクの値が、400mN・m以下であることが好ましく、300mN・m以下がより好ましく、200mN・m以下であることが更に好ましい。これにより、合成油を基油としたグリース組成物と同等以上の低温作動性を得ることができる。
【0041】
また、本実施の形態のグリース組成物は、JIS K 2220:2013「グリース」に定められる混和ちょう度が、220~385の範囲内であることが好ましい。これにより、良好な低温作動性を保持することができるとともに、グリース組成物の流出を抑制し、良好な潤滑性を得ることができる。また、混和ちょう度は、265~340がより好ましい。
【0042】
<用途>
本実施の形態におけるグリース組成物の用途は、低温環境下で使用される用途であれば特に限定されるものではないが、各種産業機械、自動車、家電製品、及び精密部品等に好ましく適用できる。この中でも特に、低温作動性を要求される自動車部品、精密機械部品等の摺動箇所に広く利用することができる。具体的には、自動車部品や精密機械部品のギヤ、軸受及び摺動部等に適用することができる。自動車や精密機器では、例えば、-40℃という過酷な低温環境下においても、所望の起動トルク(例えば、400mN・m以下)であることが求められる。
【0043】
本実施の形態のグリース組成物では、基油として、CTL、或いは、グループIII基油を用いており、これにより、合成油を基油としたグリース組成物に比べて優れた低温作動性を得ることができる。すなわち、基油の流動点付近での起動トルクの変動を小さくすることができ、流動点を下回る使用環境下においても、グリース組成物の抵抗を抑えた状態で機器を作動することが可能になる。
【実施例
【0044】
以下、本発明を実施例により、更に詳しく説明する。ただし、本発明は、これらに何ら限定されるものではない。
【0045】
<実施例、比較例における基油の性状>
実施例及び比較例に使用した基油の性状を、以下の表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
[実施例1]
(工程1) CTL-1 91.5質量部及びLi石けん8.0質量部を混合、撹拌しながら加熱し、その温度を210℃まで上昇させた後、当該組成物の加熱を停止し、当該組成物の温度が室温となるまで撹拌しながら放置した。なお、Li石けんには、12-ヒドロキシステアリン酸リチウムを用いた。
(工程2) 工程1で得られた組成物に酸化防止剤0.5質量部を加え、更に、3本ロールミルにかけて均一に分散させ、グリース組成物を得た。
【0048】
[実施例2]
実施例1で用いたCTL-1に代えて、GrIII-1を使用した他は、実施例1と同様の工程を経て、グリース組成物を得た。
【0049】
[実施例3]
(工程1) CTL-2 89.5質量部及びLi石けん10.0質量部を混合、撹拌しながら加熱し、その温度を210℃まで上昇させた後、当該組成物の加熱を停止し、当該組成物の温度が室温となるまで撹拌しながら放置した。
(工程2) 工程1で得られた組成物に酸化防止剤0.5質量部を加え、更に、3本ロールミルにかけて均一に分散させ、グリース組成物を得た。
【0050】
[実施例4]
実施例3で用いたCTL-2に代えて、GrIII-2を使用した他は、実施例3と同様の工程を経て、グリース組成物を得た。
【0051】
[比較例1]
実施例1で用いたCTL-1に代えて、PAO-1を使用した他は、実施例1と同様の工程を経て、グリース組成物を得た。
【0052】
[比較例2]
実施例3で用いたCTL-2に代えて、PAO-2を使用した他は、実施例3と同様の工程を経て、グリース組成物を得た。
【0053】
生成した実施例1~4、及び比較例1、2の各グリース組成物については、JIS K 2220:2013「グリース」に定められた方法で、混和ちょう度の値を測定した。
【0054】
また、各試料で使用した基油の100℃における動粘度を、JIS K 2283:2000「原油及び石油製品-動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に記載の動粘度試験方法に基づいて測定した。
【0055】
また、各試料で使用した基油の流動点を、JIS K 2269:1987「原油及び石油製品の流動点試験方法」に準拠して測定した。なお、流動点は、1℃毎に測定した。
【0056】
以下の表2には、実施例1~4及び、比較例1、2の各グリース組成物の調製に使用した各成分の詳細、及び、混和ちょう度、基油の動粘度、基油の流動点についてまとめた。
【0057】
【表2】
【0058】
実施例1~4及び比較例1、2について、グリース組成物としての性能を評価するための試験を実施した。試験項目及び試験方法は、以下の通りである。
【0059】
<試験項目及び試験方法>
実施例1~4及び比較例1、2のグリース組成物を用いた際の低温作動性について調べた。
【0060】
[低温トルク試験]
JIS K 2220:2013「グリース」に定められた低温トルク試験方法に基づいて、(1) -40℃の温度条件とした際の起動トルク、(2) 基油の流動点を7℃下回る温度での起動トルク、(3) (2)での測定温度より10℃高い温度での起動トルクをそれぞれ測定した。なお、起動トルクの単位は、mN・mである。
【0061】
[低温トルクの比の算出]
上記(2)で求めた起動トルクの値を(A)とし、上記(3)で求めた起動トルクの値を(B)としたとき、(A/B)にて算出される起動トルクの比Xを求めた。
試験結果を表3及び表4に示す。
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
なお、表3に示した実施例1、実施例2及び比較例1と、表4に示した実施例3、実施例4、及び比較例2の低温トルクは、いずれも基油の動粘度、及びグリース組成物の混和ちょう度を概ね合わせた上で測定した。したがって、同一表内での各試料間には、それらの影響はないものとして扱うことができ、基油種の違いによる起動トルクの差を確認できた。
【0065】
表3及び表4から明らかなように、どの試料においても、流動点を下回る温度での起動トルクの値(A)は、流動点を上回る温度での起動トルクの値(B)よりも高くなるが、実施例1~4では、比較例1、2に比べて、その上昇幅が小さくなった。
【0066】
実施例1~4では、起動トルクの比(A/B)が、3.00以下であることがわかった。これに対し、比較例1、2は、起動トルクの比(A/B)は、3.00を超えることがわかった。また、実施例1~4では、-40℃における起動トルクの値が、400mN・m以下であった。
【0067】
以上のことから、実施例1~4では、基油の流動点を下回る環境下においても、優れた低温作動性を有することがわかった。また、実施例1~4では、自動車部品等において要求される-40℃以下となる低温環境下においても好適に使用できることがわかった。更に、実施例1~4では、基油として、CTLやグループIII基油を用いており、比較例で使用したPAO(合成油)を用いたグリース組成物と比較して、安価に生成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に関わるグリース組成物は、低温環境下で使用される各種産業機械、自動車、家電製品、精密部品等、特に低温作動性を要求される自動車部品、精密機械部品等の摺動箇所に広く利用することが可能である。