(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】カチオン重合性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20240318BHJP
C08K 5/37 20060101ALI20240318BHJP
C08G 59/66 20060101ALI20240318BHJP
C08G 65/18 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K5/37
C08G59/66
C08G65/18
(21)【出願番号】P 2020174084
(22)【出願日】2020-10-15
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】青野 智史
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-053199(JP,A)
【文献】特開2015-218261(JP,A)
【文献】特開2018-145322(JP,A)
【文献】特開2019-109294(JP,A)
【文献】特開昭56-152833(JP,A)
【文献】特開2019-035031(JP,A)
【文献】特開2009-114279(JP,A)
【文献】特開2019-167414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 59/00-59/72
C08G 65/00-67/04
C08F 6/00-246/00、301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合性化合物(A)と、熱カチオン開始剤(B)と、チオール化合物(C)と、可塑剤(D)とを含むことを特徴とするカチオン重合性樹脂組成
物であって、前記成分(C)の含有量が、前記カチオン重合性樹脂組成物の総量に対して、0.5~20重量%であ
り、前記成分(D)は、エステル構造を有さない可塑剤であって、キシレン樹脂系可塑剤、アクリルポリマー系可塑剤、ポリブタジエン系可塑剤、ポリイソプレン系可塑剤、ポリブテン系可塑剤及びテルペン系可塑剤からなる群より選択される少なくとも一種である、カチオン重合性樹脂組成物(但し、ラジカル重合性化合物を含むカチオン重合性樹脂組成物を除く)。
【請求項2】
カチオン重合性化合物(A)と、熱カチオン開始剤(B)と、チオール化合物(C)と、可塑剤(D)とを含むことを特徴とするカチオン重合性樹脂組成物であって、前記成分(C)の含有量が、前記カチオン重合性樹脂組成物の総量に対して、0.5~20重量%である、カチオン重合性樹脂組成物(但し、ラジカル重合性化合物を含むカチオン重合性樹脂組成物を除き、ゴム粒子及び脂環式エポキシ樹脂を含む樹脂組成物であって、前記ゴム粒子は、(メタ)アクリル酸エステルを必須モノマー成分とするポリマーで構成され、表面にエポキシ基と反応し得る官能基としてヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基を有し、平均粒子径が10nm~500nm、最大粒子径が50nm~1000nmであり、且つ前記樹脂組成物の硬化物との屈折率差が±0.02以内である、ゴム粒子及び脂環式エポキシ樹脂を含む樹脂組成物を除く)。
【請求項3】
前記成分(D)は、エステル構造を有さない可塑剤であって、キシレン樹脂系可塑剤、アクリルポリマー系可塑剤、ポリブタジエン系可塑剤、ポリイソプレン系可塑剤、ポリブテン系可塑剤及びテルペン系可塑剤からなる群より選択される少なくとも一種である、請求項2に記載のカチオン重合性樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカチオン重合性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン重合性樹脂組成物は、大気中の酸素に起因した硬化阻害を引き起こしにくい、紫外線等のエネルギー供給を停止した後においても硬化反応が進行可能、アクリルなどのラジカル反応と比較して収縮率が低いなどの特徴を有しており、様々な分野において様々な研究がなされている。なかでも、近年においてはカチオン重合性樹脂組成物の前記特徴を活かすべく、光学用途への適用が注目されており、特に液晶モジュール用材料としての用途展開が盛んになされている。前記液晶モジュール用材料として求められる主な性質としては、樹脂組成物の柔軟性が挙げられる。
【0003】
前記液晶モジュール用材料として用いられるカチオン重合性樹脂組成物として、特許文献1には、多価フェノール類と多価ビニルエーテル類とをアセタール化反応させて得られる変性多価フェノール類をグリシジルエーテル化して得られる柔軟性カチオン重合性化合物、シクロアルカン骨格を有するエポキシ樹脂、オキセタン化合物、及び、カチオン重合開始剤を含有することを特徴とする光学部材用光硬化性樹脂組成物が開示されている。また、柔軟性を付与した組成物として、特許文献2には、特殊なビニル重合体を用いる手法が開示されている。さらに、特許文献3には、エポキシシリコーンを用いて柔軟性を具備させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-248387号公報
【文献】国際公開2012/073633号
【文献】特開2006-152087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のカチオン重合性樹脂組成物では、液晶TVやパソコン、携帯電話等で指による画面への押圧力を緩和するために必要な柔軟性を発現するのは困難であった。また、特許文献1及び2に記載されているようなカチオン重合組成物では、一般的に黄~褐色の着色がある硬化物が得られる場合が多い。そのため、そのようなカチオン重合組成物を液晶モジュール用材料として用いる際に、この着色が問題となる場合があった。さらに、特許文献3に記載されているようなシリコーンは高価で、汎用性が高く低価格を求められる液晶モジュールには不適であった。
【0006】
よって、本発明の課題は、酸素阻害なく硬化できるカチオン重合の性能を保ちながら、高い柔軟性と低い着色性を発現できるカチオン重合性樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下の構成を有する。
[1]カチオン重合性化合物(A)と、熱及び/又は光カチオン開始剤(B)と、チオール化合物(C)とを含むことを特徴とするカチオン重合性樹脂組成物(但し、ラジカル重合性化合物を含むカチオン重合性樹脂組成物を除く)。
[2]さらに、可塑剤(D)を含む、[1]のカチオン重合性樹脂組成物。
[3]成分Cの含有量が、カチオン重合性樹脂組成物の総量に対して、0.5~20重量%である、[1]又は[2]のカチオン重合性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、酸素阻害なく硬化できるカチオン重合の性能を保ちながら、高い柔軟性及び低い着色性を発現できるカチオン重合性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[定義]
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味し、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくとも一方を意味する。
本明細書において、数値範囲に関して「~」とは、その両端の値を含むことを意味する。即ち、「0.5~20重量%」は、「0.5重量%以上20重量%以下」を意味する。
本明細書において、「以下」は「同じ又は未満」を意味し、「以上」は「同じ又は超える」を意味する。
【0010】
[カチオン重合性樹脂組成物]
カチオン重合性樹脂組成物は、カチオン重合性化合物(A)と、熱及び/又は光カチオン開始剤(B)と、チオール化合物(C)とを含む。但し、カチオン重合性樹脂組成物は、ラジカル重合性化合物を含むカチオン重合性樹脂組成物を除く。
【0011】
カチオン重合性樹脂組成物は、ラジカル重合性化合物を含まないため、カチオン重合の性能を保つことができる。即ち、カチオン重合性樹脂組成物が、ラジカル重合性化合物を含まないため、大気中の酸素に起因した硬化阻害を引き起こしにくく、紫外線等のエネルギー供給を停止した後においても硬化反応が進行可能である。また、アクリル化合物等のラジカル重合反応と比較して、収縮率が低いなどの特徴を発揮できる。
【0012】
〔カチオン重合性化合物(A)〕
カチオン重合性化合物(A)は、分子内に1以上のカチオン重合性基を有する化合物であれば、特に限定されない。カチオン重合性基としては、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基等が挙げられる。カチオン重合性化合物(A)の具体例としては、エポキシ化合物、オキセタン化合物、ポリスチレン系化合物、及びビニルエーテル化合物等が挙げられる。
【0013】
<エポキシ化合物>
エポキシ化合物としては、芳香族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化共役ジエン重合体及びその他の分子内にエポキシ基を有する化合物が挙げられる。
【0014】
≪芳香族エポキシ化合物≫
芳香族エポキシ化合物としては、ビスフェノールA型エポキシ化合物(DIC社製のEPICLON850、850-S、EXA-850CPR、EXA-8067等)、ビスフェノールF型エポキシ化合物(DIC社製のEPICLON830-S、EXA-830LVP等)、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、ナフタレン型エポキシ化合物(DIC社製のEPICLONのHP-4032D、HP-7200H等)、フェノールノボラック型エポキシ化合物(DIC社製のEPICLON N-740、N-770等)、クレゾールノボラック型エポキシ化合物(DIC社製のEPICLON N-660、N-670、N-655-EXP-S等)、多官能型エポキシ化合物等が挙げられる。多官能型エポキシ化合物としては、テトラ(ヒドロキシフェニル)アルカンのグリシジルエーテル、テトラヒドロキシベンゾフェノンのグリシジルエーテル、エポキシ化ポリビニルフェノール等が挙げられる。
【0015】
≪脂肪族エポキシ化合物≫
脂肪族エポキシ化合物としては、多価アルコール又はそのアルキレンオキシド付加物のポリグリシジルエーテルが挙げられる。脂肪族エポキシ化合物の具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル(共栄社化学社製のエポライト100MF)、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0016】
≪脂環式エポキシ化合物≫
脂環式エポキシ化合物は、脂環構造を形成する2つの炭素原子と酸素原子とで、エポキシ基が形成された構造を有する化合物であり、脂環構造を形成する1つの炭素原子に、エポキシ基が結合する化合物は含まれない。脂環式エポキシ化合物としては、シクロヘキサン系、シクロヘキシルメチルエステル系、シクロヘキシルメチルエーテル系、スピロ系及びトリシクロデカン系エポキシ化合物が挙げられる。脂環式エポキシ化合物の具体例としては、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製のセロキサイド2021P等)、1,2:8,9-ジエポキシリモネン、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン等が挙げられる。
【0017】
≪エポキシ化共役ジエン重合体≫
エポキシ化共役ジエン重合体としては、エポキシ化ポリブタジエン(日本曹達社製のBF-1000等)、エポキシ化スチレン-ブタジエン共重合体、エポキシ化スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0018】
≪その他の分子内にエポキシ基を有する化合物≫
その他の分子内にエポキシ基を有する化合物としては、異節環状型エポキシ化合物、グリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、ゴム変性エポキシ化合物、ウレタン変性エポキシ化合物、エポキシ基含有ポリエステル化合物、エポキシ基含有ポリウレタン化合物等が挙げられる。
【0019】
<オキセタン化合物>
オキセタン化合物の具体例としては、3-エチル-3-ヒドロキシメチルオキセタン(オキセタンアルコール)(東亞合成社製のOXT-101等)、2-エチルヘキシルオキセタン(東亞合成社製のOXT-212等)、キシリレンビスオキセタン(XDO。東亞合成社製のOXT-121等)、3-エチル-3{[(3-エチルオキセタン-3-イル)メトキシ]メチル}オキセタン(東亞合成社製のOXT-221等)、オキセタニルシルセスキオキセタン(東亞合成社製OXT-191等)、フェノールノボラックオキセタン(東亞合成社製PHOX等)及び3-エチル-3-フェノキシメチルオキセタン(POX。東亞合成社製OXT-211等)が挙げられる。
【0020】
<ビニルエーテル化合物>
ビニルエーテル化合物の具体例としては、ヒドロキシブチルビニルエーテル(ISP社製のHBVE等)、1,4-シクロヘキサンジメタノールのビニルエーテル(ISP社製のCHVE等)、トリエチレングリコールジビニルエーテル(ISP社製のDVE-3等)、ドデシルビニルエーテル(ISP社製のDDVE等)、及びシクロヘキシルビニルエーテル(ISP社製CVE等)が挙げられる。
【0021】
<好ましい(A)成分の態様>
カチオン重合性化合物(A)は、エポキシ化合物、オキセタン化合物及びビニルエーテル化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物であることが好ましく、エポキシ化合物及び/又はオキセタン化合物であることがより好ましく、エポキシ化合物であることが特に好ましい。
カチオン重合性化合物(A)は、ラジカル重合性基を有さないことが好ましい。ラジカル重合性基としては、ビニルエーテル基以外のエチレン性不飽和基を有する基が挙げられ、その具体例としては、ビニル基、(メタ)アクリロイル基が挙げられる。
カチオン重合性化合物(A)は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0022】
〔熱及び/又は光カチオン開始剤(B)〕
熱及び/又は光カチオン開始剤(B)は、加熱及び/又は光によりカチオン重合させる際のカチオン発生源となる成分である。
【0023】
熱カチオン重合開始剤としては、ベンジルスルホニウム塩、チオフェニウム塩、チオラニウム塩、ベンジルアンモニウム塩、ピリジニウム塩、ヒドラジニウム塩、カルボン酸エステル、スルホン酸エステル、アミンイミド等が挙げられる。
【0024】
熱カチオン重合開始剤の市販品としては、ADEKA社製のアデカオプトンCP77、アデカオプトンCP66;日本曹達社製のCI-2639、CI-2624;及び、三新化学工業社製のサンエイドSI-60L、サンエイドSI-80L、サンエイドSI-100L等が挙げられる。
【0025】
光カチオン重合開始剤としては、カチオン部分が、芳香族スルホニウム、芳香族ヨードニウム、芳香族ジアゾニウム、芳香族アンモニウム、チアンスレニウム、チオキサントニウム、又は、(2,4-シクロペンタジエン-1-イル)[(1-メチルエチルベンゼン]-Feカチオンであり、アニオン部分が、BF4
-、PF6
-、SbF6
-、又は、[BX4]-(式中、Xは少なくとも2つ以上のフッ素原子又はトリフルオロメチル基で置換されたフェニル基である)である、カチオン部分及びアニオン部分で構成されるオニウム塩が挙げられ、スルホニウム塩及び/又はヨードニウム塩が好ましい。
【0026】
光カチオン重合開始剤の市販品としては、サンアプロ社製のIK-1、CPI-100P、CPI-110P、CPI-101A、CPI-200K、CPI-210S;ダウ・ケミカル日本社製のサイラキュア光硬化開始剤UVI-6990、サイラキュア光硬化開始剤UVI-6992、サイラキュア光硬化開始剤UVI-6976;ADEKA社製のアデカオプトマーSP-150、アデカオプトマーSP-152、アデカオプトマーSP-170、アデカオプトマーSP-172、アデカオプトマーSP-300;日本曹達社製のCI-5102、CI-2855;BASF社製のIRGACURE(登録商標)250;ローディア社製のPI-2074;和光純薬工業社製のWPI-113;サンアプロ社製のIK-1;及び、三新化学工業社製のサンエイドSI-60L、サンエイドSI-80L、サンエイドSI-100L、サンエイドSI-110L、サンエイドSI-180L、サンエイドSI-110、サンエイドSI-180等が挙げられる。
【0027】
なお、熱及び/又は光カチオン重合開始剤(B)は、熱カチオン重合開始剤としても光カチオン重合開始剤としても機能する成分であってもよい。
この他に、熱及び/又は光カチオン開始剤(B)としては、国際公開2012/073633号のカチオン重合性開始剤として記載された成分が挙げられる。
【0028】
熱及び/又は光カチオン開始剤(B)は、1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0029】
〔チオール化合物(C)〕
チオール化合物(C)は、分子内に1以上のメルカプト基を有する化合物である。チオール化合物(C)として、アルカンチオール、アルカンジチオール、その他のチオール化合物が挙げられる。
【0030】
アルカンチオールは、炭素原子数6~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルカンチオールであることが好ましい。このようなアルカンチオールとしては、1-ヘキサンチオール、1-ヘプタンチオール、1-オクタンチオール、tert-オクタンチオール、1-ノナンチオール、1-デカンチオール、1-ウンデカンチオール、1-ドデカンチオール、1-テトラデカンチオール、1-ヘキサデカンチオール、1-オクタデカンチオール等が挙げられる。
【0031】
アルカンジチオールは、炭素原子数4~20の直鎖状又は分岐鎖状のアルカンジチオールであることが好ましい。このようなアルカンジチオールとしては、1,4-ブタンジチオール、2,3-ブタンジチオール、1,5-ペンタンジチオール、1,6-ヘキサンジチオール、1,7-ヘプタンジチオール、1,8-オクタンジチオール、1,9-ノナンジチオール、1,10-デカンジチオール、1,12-ドデカンジチオール、1,14-テトラデカンジチオール、1,16-ヘキサデカンジチオール、1,18-オクタデカンジチオール等が挙げられる。
【0032】
その他のチオール化合物の具体例として、メルカプトプロピオン酸トリデシル、メルカプトプロピオン酸メトキシブチル、メルカプトプロピオン酸オクチル等のメルカプトプロピオン酸アルカンエステル;及び、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキスチオプロピオネート、トリス[(3-メルカプトプロピオニロキシ)-エチル]イソシアヌレート、分子内に2以上のメルカプト基を有する3-メルカプトブチレート誘導体等の多官能チオール化合物;が挙げられる。
【0033】
分子内に2以上のメルカプト基を有する3-メルカプトブチレート誘導体の具体例としては、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン、1,3,5-トリス(3-メルカブトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)-トリオン、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(3-メルカプトプロピオネート)等が挙げられる。
【0034】
チオール化合物(C)の市販品としては、昭和電工社製のカレンズMTBD1、カレンズMTPE1、カレンズMTNR1、カレンズMTTPMB;及び、堺化学社製のTMMP;等が挙げられる。
【0035】
チオール化合物(C)は、チオール化合物による臭気が抑えられ、作業性が向上する観点から、分子内に3以上のメルカプト基を有する化合物であることが好ましく、分子内に4~6のメルカプト基を有する化合物であることが特に好ましい。また、チオール化合物(C)は、分子内に2以上のメルカプト基を有する3-メルカプトブチレート誘導体であってもよい。
チオール化合物(C)は、分子内に2以上のメルカプト基を有する1種又は2種以上の組み合わせであってよい。
【0036】
〔更なる成分〕
カチオン重合性樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、その目的に応じて、更なる成分を含んでいてもよい。このような更なる成分としては、可塑剤(D)、及び可塑剤以外のその他の成分(E)が挙げられる。カチオン重合性樹脂組成物は、更なる柔軟性や低着色性付与の観点から、更に、可塑剤(D)を含んでいてもよい。
【0037】
<可塑剤(D)>
可塑剤(D)は、加熱及び/又は光照射によりそれ自身は硬化しない成分である。このような可塑剤としては、エステル構造を有さない可塑剤及びエステル構造を有する可塑剤が挙げられる。
【0038】
エステル構造を有さない可塑剤としては、キシレン樹脂系可塑剤、アクリルポリマー系可塑剤、ポリブタジエン系可塑剤、ポリイソプレン系可塑剤、ポリブテン系可塑剤、テルペン系可塑剤及びその他の可塑剤が挙げられる。
【0039】
キシレン樹脂系可塑剤は、m-キシレンを基本とした芳香族オリゴマーであり、市販品として、フドー社製のニカノールH、ニカノールY50、ニカノールLL、ニカノールL等が挙げられる。
アクリルポリマー系可塑剤は、予め重合させたアクリルポリマーであり、市販品として、東亞合成社製のUP1061、UP1010等が挙げられる。
ポリブタジエン系可塑剤としては、ポリブタジエン、又はこれらの水素化物、これらの両末端に水酸基を導入した誘導体もしくはこれらの水素化物の両末端に水酸基を導入した誘導体等が挙げられる。
ポリイソプレン系可塑剤としては、ポリイソプレン、又はこれらの水素化物、これらの両末端に水酸基を導入した誘導体もしくはこれらの水素化物の両末端に水酸基を導入した誘導体等が挙げられる。
ポリブテン系可塑剤としては、ポリブテン、又はこれらの水素化物、これらの両末端に水酸基を導入した誘導体もしくはこれらの水素化物の両末端に水酸基を導入した誘導体等が挙げられる。
テルペン系可塑剤としては、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂、変性テルペン樹脂、水添テルペン樹脂等が挙げられる。
その他の可塑剤としては、ポリカーボネートポリオール等のポリオール系可塑剤(但し、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリールを除く);熱可塑性エラストマー;石油樹脂;脂環族飽和炭化水素樹脂;ポリエーテルポリオール等のポリエーテル系可塑剤等が挙げられる。
【0040】
エステル構造を有する可塑剤としては、クエン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、多価カルボン酸アルキルエステル系可塑剤、アジピン酸エステル系可塑剤等、セバシン酸エステル系可塑剤、及びその他のエステル系可塑剤が挙げられる。
【0041】
クエン酸エステル系可塑剤としては、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。
フタル酸エステル系可塑剤としては、ジブチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ(2-エチルヘキシル)フタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート等が挙げられる。
多価カルボン酸アルキルエステル系可塑剤としては、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸ジイソノニル等の多価カルボン酸のC3~C12アルキルエステル等が挙げられる。
アジピン酸エステル系可塑剤としては、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジイソノニル等のアジピン酸ジエステルが挙げられる。
セバシン酸エステル系可塑剤としては、セバシン酸ジオクチル、セバシン酸ジイソノニル等が挙げられる。
その他のエステル系可塑剤としては、トリクレジルホスフェート、トリブチルホスフェート等のリン酸エステル;トリメリット酸トリオクチル等のトリメリット酸エステル;トリエチレングリコールビス(2-エチルヘキサノエート)等のポリオキシアルキレングリコールのアルキルエステル(ジ、トリ又はテトラエチレングリコールのC3~C12アルキルエステル等);アジピン酸系ポリエステル、ポリエステルポリール等のポリエステル系可塑剤(但し、アジピン酸ジエステルを除く);エポキシ系エステル系可塑剤;安息香酸エステル系可塑剤;等が挙げられる。
【0042】
<可塑剤以外のその他の成分(E)>
可塑剤以外のその他の成分(E)としては、シランカップリング剤、フィラー、着色剤、安定剤、増量剤、粘度調節剤、粘着付与剤、難燃剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、変色防止剤、抗菌剤、防黴剤、老化防止剤、帯電防止剤、発泡剤、離型剤、溶剤等が挙げられる。成分(E)は、公知の成分から適宜選択することができる。
【0043】
≪フィラー≫
カチオン重合性樹脂組成物は着色性(即ち、黄~褐色による着色性)が低いため、カチオン重合性樹脂組成物が、成分(E)として、フィラーを含む場合、フィラーに基づいて白濁していてもよい。
フィラーとしては、無機フィラー、有機フィラーが挙げられ、柔軟性の観点から有機フィラーが好ましい。
無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、珪酸アルミニウム、酸化チタン、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化ケイ素、カオリン、タルク、ガラスビーズ、セリサイト活性白土、ベントナイト、窒化アルミニウム、及び窒化ケイ素が挙げられる。
有機フィラーとしては、ポリメタクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリスチレン、これらを構成するモノマーと他のモノマーとを共重合させて得られる共重合体、ポリエステル微粒子、ポリウレタン微粒子、及びゴム微粒子が挙げられる。
【0044】
〔各成分の含有量〕
カチオン重合性樹脂組成物の総量に対する各成分の含有量は以下の通りであることが好ましい。
成分(A)の含有量は、低着色性、柔軟性の観点から、5重量%以上100重量%未満であることが好ましく、20~90重量%であることがより好ましく、30~80重量%であることが特に好ましい。
成分(B)の含有量は、硬化性、低着色性の観点から、0重量%超10重量%以下であることが好ましく、0.5~5重量%であることが特に好ましい。
成分(C)の含有量は、低着色性、柔軟性の観点から、0重量%超30重量%以下であることが好ましく、0.5~20重量%であることがより好ましく、1~10重量%であることが特に好ましい。
成分(D)の含有量は、柔軟性の観点から、70重量%以下であることが好ましく、10~60重量%であることが特に好ましい。
成分(E)の含有量は、30重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることが特に好ましい。
【0045】
[製造方法]
カチオン重合性樹脂組成物は、各成分を混合することで製造することができる。なお、熱及び/又は光カチオン開始剤(B)が固体である場合は、各成分との相溶性の向上のために、溶剤に溶解させて、カチオン重合性樹脂組成物の製造に供されてもよい。
【0046】
〔硬化方法〕
カチオン重合性樹脂組成物は、紫外線等のエネルギー線の照射により、熱を加えることにより、又は紫外線等のエネルギー線の照射の、前、後若しくは同時に熱を加えることにより硬化させることができ、カチオン重合性樹脂組成物に含まれる(B)成分の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0047】
〔弾性率〕
カチオン重合性樹脂組成物の硬化物は、高い柔軟性を有する。カチオン重合性樹脂組成物の硬化物の圧縮弾性率は、0.001~240MPaであってもよく、0.01~120MPaであってもよい。圧縮弾性率の測定方法は、実施例における測定方法が挙げられる。
【0048】
〔用途〕
カチオン重合性樹脂組成物は、光学用途、オプトデバイス用途、表示デバイス用途、電気・電子部品材料用途等に用いることができる。
【実施例】
【0049】
以下に本発明の具体的な実施様態を明らかにするために実施例を示すが、本発明はここに示す実施例のみに限定されるわけではない。
【0050】
実施例及び比較例の各組成物を以下の原材料を使用して製造した。
1.成分(A)
(1)エポキシ化ポリブタジエン(日本曹達社製、BF-1000)
(2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC社製、EXA-8067)
(3)キシリレンビスオキセタン(東亞合成社製、OXT-121)
(4)3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(ダイセル社製、セロキサイド2021P)
2.成分(B)
(1)熱カチオン開始剤
ベンジルメチルp-ヒドロキシフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモナート(三新化学工業社製、サンエイドSI-100L(γ-ブチロラクトン溶液))
(2)光カチオン開始剤
トリアリールスルホニウム塩系カチオン開始剤(サンアプロ社製、CPI-210S)
3.成分(C)
(1)ペンタエリトリトールの3-メルカプトブタン酸エステル(昭和電工製、カレンズMTPE1)
4.成分(D)
(1)キシレン樹脂(フドー製、ニカノールH(高粘度タイプ))
(2)キシレン樹脂(フドー製、ニカノールY50(低粘度タイプ))
5.成分(E)
(1)溶剤:プロピレンカーボネート(東京化成製)
【0051】
〔作製方法〕
表に記載の配合比(重量部)に従い、各成分を撹拌機付きフラスコで均一になるまで30分攪拌混合した。このうち、光カチオン開始剤(CPI-210S)は固体成分であり溶解しにくいため、プロピレンカーボネートに予め溶解させてから他の成分と混合し、実施例及び比較例の液状の光硬化性樹脂組成物を得た。
【0052】
〔評価〕
(1)圧縮弾性率
光カチオン開始剤を添加している組成物は、組成物をPETフィルムで1mm厚に貼り合せてからメタルハライドランプ(アイグラフィックス製、M06-L31)にて6000mJ/cm2のUVを照射して硬化させた。1mm厚の硬化物を10×10mmの大きさに切り、それを10枚重ねてから、120℃オーブンにて1時間加熱し、10mm角の硬化物試験片を作製した。
【0053】
熱カチオン開始剤を添加している組成物は、10mm角のテフロン(登録商標)製容器に組成物を入れ、蓋をしてから120℃オーブンにて1時間加熱し、10mm角の硬化物試験片を作製した。この10mm角の試験片を、23±2℃で、引張圧縮万能材料試験機(ミネベア製 TG-2kN)にて10mm/minの速度で10%圧縮し、その際の5~10%圧縮強さの傾きから圧縮弾性率を算出した。
【0054】
(2)透過率
スライドガラス基板上にカチオン樹脂組成物を塗布してから、もう一枚のスライドガラスを貼り合わせ、厚み500μmとなるように組成物を押しつぶした。
光カチオン開始剤を添加している組成物は、メタルハライドランプ(アイグラフィックス製、M06-L31)にて6000mJ/cm2のUVを照射してから、120℃オーブンにて1時間加熱した。
熱カチオン開始剤を添加している組成物は、UV照射は行わずに、120℃オーブンにて1時間加熱した。
その後、300~800nmの透過率測定を行い、400nmの値を抽出した。
【0055】
結果を表1に示す。
【0056】
【0057】
本発明のカチオン重合性樹脂組成物は、低着色性及び柔軟性に優れていた。
実施例1~4の比較より、(C)成分の含有量が多くなる場合、低着色性及び柔軟性がより優れ、(C)成分の含有量がより多くなる場合、柔軟性がより優れていた。実施例7~8の比較より、(C)成分の含有量がより多くなる場合、柔軟性がより優れていた。
実施例4及び実施例8より、エポキシ化共役ジエン重合体やオキセタン化合物を、グリシジルエーテル化合物や脂環式エポキシ化合物に変えた場合であっても、低着色性及び柔軟性に優れていた。
また、実施例1~4と比較例1との比較より、比較例1の組成物は、(C)成分を含まないため、低着色性及び柔軟性が劣っていた。また、実施例5と比較例2との比較、実施例7~8と比較例3、及び、実施例9と比較例4との比較においても同様であった。