(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】淡水産微細藻類の培養方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/12 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
C12N1/12 A
C12N1/12 C
(21)【出願番号】P 2020550515
(86)(22)【出願日】2019-10-02
(86)【国際出願番号】 JP2019038975
(87)【国際公開番号】W WO2020071444
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2018187763
(32)【優先日】2018-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年2月13日に、ウェブサイト(アドレス:http://www.jst.go.jp/mirai/jp/program/lowcarbon/index.html#theme01)で公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年2月13日に、ウェブサイト(アドレス:http://www.jst.go.jp/mirai/jp/uploads/saitaku2017/JPMJMI17EF_miyagishima.pdf)で公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成30年2月13日に、ウェブサイト(アドレス:https://www.jst.go.jp/mirai/jp/news/2017/index.html)で公開した。
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-22333
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP-22334
(73)【特許権者】
【識別番号】503360115
【氏名又は名称】国立研究開発法人科学技術振興機構
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】宮城島 進也
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 俊亮
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/141318(WO,A1)
【文献】特開2015-192598(JP,A)
【文献】SAKAJIRI, T. et al.,Cytologia,2008年,Vol.73(3),pp.341-368,特にSummary, 第341頁第25行~第342頁28行、Figure1A
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-1/38
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
淡水産微細藻類の培養方法であって、
淡水産微細藻類を、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.1~0.4Mとなるように調製した培地で、培養温度が15~60℃で培養する前培養工程と、
前記前培養工程後の淡水産微細藻類を、ナトリウムイオン濃度が前記前培養工程における前記ナトリウムイオン濃度の1.2~5倍であって0.4M以上であり水素イオン濃度pH1.0~6.0となるように調製した培地で培養する本培養工程と、
を含み、
前記淡水産微細藻類が、イデユコゴメ綱に属する微細藻類である、
淡水産微細藻類の培養方法。
【請求項2】
前記本培養工程における前記培地が、海水に、窒素含有塩、リン含有塩及び鉄含有塩を少なくとも添加し、且つ水素イオン濃度pH1.0~6.0となるように調製した培地である、請求項1に記載の淡水産微細藻類の培養方法。
【請求項3】
ナトリウムイオン濃度が0.5M以上である培地で増殖できないイデユコゴメ綱に属する微細藻類を、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.1~0.4Mとなるように調製した培地で培養する工程と、
前記培養後のイデユコゴメ綱に属する微細藻類を、ナトリウムイオン濃度が0.5
~1Mであり水素イオン濃度pH1.0~6.0となるように調製した培地で培養する工程と、
を含む、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.5
~1Mとなるように調製した培地で増殖可能なイデユコゴメ綱に属する微細藻類の生産方法。
【請求項4】
前記イデユコゴメ綱に属する微細藻類が、シアニジウム属に属する微細藻類の1倍体である、請求項3に記載のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の生産方法。
【請求項5】
イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体であって、
水素イオン濃度pH2.0、ナトリウムイオン濃度0.5Mとなるように調製したMA培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m
2sの連続光で7日間静置培養したときの下記式(1)で算出される値が2以上であり、
水素イオン濃度pH2.0となるように調
製したMA培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m
2sの連続光で7日間静置培養したときの下記式(1)で算出される値が2未満である、
イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体。
(培養開始7日後のOD
750値-培養開始時のOD
750値)/(7×培養開始時OD
750値) (1)
【請求項6】
水素イオン濃度pH7の等張液、または蒸留水中で細胞が破裂する、請求項5に記載のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体。
【請求項7】
藻類細胞の乾燥処理を行い、前記乾燥処理後の細胞をpH7の等張液に懸濁すると、前記細胞が破裂する、
請求項5又は6に記載のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか一項に記載のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体を、海水に、窒素含有塩、リン含有塩及び鉄含有塩を少なくとも添加し、且つ水素イオン濃度pH1.0~6.0となるように調製した培地で培養することを含む、
イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体の培養方法。
【請求項9】
請求項5~7のいずれか一項に記載のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体を屋外で培養することを含む、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、淡水産微細藻類の培養方法に関する。また、耐塩性が付与された淡水産微細藻類の生産方法及び当該生産方法により得られた耐塩性の淡水産微細藻類に関する。より具体的には、屋外大量培養、特に海水での屋外大量培養に適した淡水産微細藻類及びその生産方法に関する。
本願は、2018年10月2日に、日本に出願された特願2018-187763号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
微細藻類は、陸上植物と比較して、高い二酸化炭素固定能力を有すること、及び農産物と生育場所が競合しないことから、いくつかの種は、大量培養されて、飼料、機能性食品、化粧品材料等として産業的に利用されている。
微細藻類の産業上利用については、コスト面等から、高価な機能性食品等の利用形態に限られている。微細藻類の生産コストを抑制して産業利用を促進するためには、屋外における大量培養が好ましい。屋外大量培養は、管理が簡易などの特徴を有するものの、コンタミネーションのリスクがあり、また直接外部環境の影響を受けるほか、藻類捕食者等の侵入も問題となる。そのようなリスクを回避するため、屋外大量培養を行う微細藻類としては、環境変動(光、温度等)に耐性を有すること、他の生物が生存できないような条件で培養できること、高密度まで増殖可能であること、等の条件が求められる。
そのため、現在までに、産業的に実用化されているのは、クロレラ(Chlorella)、ユーグレナ(Euglena)、ドナリエラ(Dunaliella)、スピルリナ(Spirulina)等の数種に限られている。これらの藻類種は、屋外大量培養に成功しており、機能性食品やサプリメントの原料として利用されている。
【0003】
他の生物が生存できない環境としては、例えば、海水のような高塩濃度環境が挙げられる。有用微細藻類を高塩濃度培地で培養することに関しては、例えば、特許文献1~3の報告がある。
特許文献1には、耐塩性藻類を、段階的に塩濃度を増加させた培地で培養することを特徴とする油脂成分を産生する方法が記載されている。特許文献1に記載の方法では、220nmの波長において、培地中の硝酸塩含有量を測定した場合、該含有量が、10mg/L以下となるときに、2段階目の塩濃度を増加させることを特徴としている。
特許文献2には、淡水に生息し、炭化水素類産生能を有する藻類シュードコリシスチス・エリプソイディア(Pseudochoricystis ellipsoidea)の培養において、その炭化水素生産能の生産性を高めるために、培養を開始してから培地の光学濃度が飽和状態を示す光学濃度の2分の1の光学濃度に達するまでの間に、培地に塩を投入することが開示されている。
特許文献3には、ドコサヘキサエン酸を産生するクリプセコディニウム(Crypthecodinium)属の培養において、藻体内にドコサヘキサエン酸を蓄積させるために、培養液の食塩濃度を前記藻類の生育に好適な食塩濃度より0.1~10重量%高い値に設定して培養する方法が開示されている。
特許文献1~3に記載の方法は、微細藻類に塩ストレスを与えて、炭化水素生産能やドコサヘキサエン酸生産能を高めようとするものであり、屋外培養におけるコンタミネーションリスクの抑制を目的とするものではない。
【0004】
一方、単細胞原始紅藻であるイデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する微細藻類は、硫酸酸性温泉において優先増殖する。イデユコゴメ綱には、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、シアニジウム(Cyanidium)属、ガルデリア(Galdieria)属がある。シアニディオシゾン属に属するシアニディオシゾン・メロラエ(Cyanidioschyzon merolae)は、強固な細胞壁を有さない。シアニディオシゾン・メロラエは、極めて単純な細胞小器官セットにより構成されており、ゲノム配列の解読が完了している。そのため、光合成生物の基礎研究のためのモデル生物として利用されており、遺伝子改変技術の開発も進められている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/25552号
【文献】特開2013-102748号公報
【文献】特開平07-075557号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Fujiwara T et al.(2013) Gene targeting in the red alga Cyanidioschyzon merolae: single- and multi-copy insertion using authentic and chimeric selection markers. PLOS ONE. Sep 5;8(9):e73608.
【文献】Fujiwara T et al.(2015) A nitrogen source-dependent inducible and repressible gene expression system in the red alga Cyanidioschyzon merolae. Front Plant Sci. Aug 26;6:657.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
イデユコゴメ綱に属する淡水産の好酸性微細藻類は、他の生物が生育できないような酸性環境下で生育可能であり、屋外培養に適している。これらの微細藻類に、高塩濃度耐性を付与できれば、酸性かつ高塩濃度の環境で培養することができ、屋外培養時のコンタミネーションリスクがさらに低下する。また、培養に海水を利用することができれば、培養コストを抑制することができる。
【0008】
そこで、本発明は、低pH且つ高ナトリウムイオン濃度環境下で淡水産微細藻類を良好に増殖させることができる淡水産微細藻類の培養方法、低pH且つ高ナトリウムイオン濃度環境下で良好に増殖可能な淡水産微細藻類、及び当該淡水産微細藻類の生産方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]微細藻類の培養方法であって、淡水産微細藻類を、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.1~0.4Mとなるように調製した培地で、培養温度が15~60℃で培養する培養工程を含む、淡水産微細藻類の培養方法。
[2]淡水産微細藻類の培養方法であって、淡水産微細藻類を、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.1~0.4Mとなるように調製した培地で培養する前培養工程と、前記前培養工程後の淡水産微細藻類を、ナトリウムイオン濃度が前記前培養工程における前記ナトリウムイオン濃度の1.2~5倍であり水素イオン濃度pH1.0~6.0となるように調製した培地で培養する本培養工程と、を含む、[1]に記載の淡水産微細藻類の培養方法。
[3]前記本培養工程における前記培地が、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.5M以上となるように調製した培地である、[1]又は[2]に記載の淡水産微細藻類の培養方法。
[4]前記本培養工程における前記培地が、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.4M以上となるように調製した培地である、[1]又は[2]に記載の淡水産微細藻類の培養方法。
[5]前記本培養工程における前記培地が、海水に、窒素含有塩、リン含有塩及び鉄含有塩を少なくとも添加し、且つ水素イオン濃度pH1.0~6.0となるように調製した培地である、[1]~[4]のいずれかに記載の淡水産微細藻類の培養方法。
[6]前記淡水産微細藻類が、イデユコゴメ綱に属する微細藻類である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の淡水産微細藻類の培養方法。
[7]ナトリウムイオン濃度が0.5M以上である培地で増殖できない淡水産微細藻類を、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.1~0.4Mとなるように調製した培地で培養する工程を含む、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.5M以上となるように調製した培地で増殖可能な淡水産微細藻類の生産方法。
[8]前記淡水産微細藻類が、シアニジウム属に属する微細藻類の1倍体である、[7]に記載の淡水産微細藻類の生産方法。
[9]前記淡水産微細藻類が、ガルデリア属に属する微細藻類の1倍体である、[7]に記載の淡水産微細藻類の生産方法。
[10]イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体であって、水素イオン濃度pH2.0、ナトリウムイオン濃度0.5Mとなるように調製したM-Allen培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光で7日間静置培養したときの下記式(1)で算出される値が2以上であり、水素イオン濃度pH2.0となるように調製したM-Allen培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光で7日間静置培養したときの下記式(1)で算出される値が2未満である、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体。
(培養開始7日後のOD750値-培養開始時のOD750値)/(7×培養開始時OD750値) (1)
[11]水素イオン濃度pH7の等張液、または蒸留水中で細胞が破裂する、[10]に記載のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体。
[12]藻類細胞の乾燥処理を行い、前記乾燥処理後の細胞をpH7の等張液に懸濁すると、前記細胞が破裂する、[10]または[11]に記載のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体。
[13]前記[10]~[12]のいずれか1つに記載のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体を、海水に、窒素含有塩、リン含有塩及び鉄含有塩を少なくとも添加し、且つ水素イオン濃度pH1.0~6.0となるように調製した培地で培養することを含む、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体の培養方法。
[14]前記[10]~[12]のいずれか1つに記載のイデユコゴメ綱に属する微細藻類を屋外で培養することを含む、イデユコゴメ綱に属する微細藻類1倍体の培養方法。
[15]淡水産微細藻類として、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体であって、水素イオン濃度pH2.0、ナトリウムイオン濃度0.5Mとなるように調製したM-Allen培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光で7日間静置培養したときの下記式(1)で算出される値が2以上であり、水素イオン濃度pH2.0となるように調製したM-Allen培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光で7日間静置培養したときの下記式(1)で算出される値が2未満である、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体を、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.4M以上となるように調製した培地で培養することを含む、淡水産微細藻類の培養方法。
(培養開始7日後のOD750値-培養開始時のOD750値)/(7×培養開始時OD750値) (1)
[16]淡水産微細藻類として、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体であって、水素イオン濃度pH2.0、ナトリウムイオン濃度0.5Mとなるように調製したM-Allen培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光で7日間静置培養したときの下記式(1)で算出される値が2以上であり、水素イオン濃度pH2.0となるように調製したM-Allen培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光で7日間静置培養したときの下記式(1)で算出される値が2未満である、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体を、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.4M以上となるように調製した培地で培養することを含む、淡水産微細藻類の生産方法。
(培養開始7日後のOD750値-培養開始時のOD750値)/(7×培養開始時OD750値) (1)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば低pH且つ高ナトリウムイオン濃度環境下で淡水産微細藻類を良好に増殖させることができる淡水産微細藻類の培養方法、低pH且つ高ナトリウムイオン濃度環境下で良好に増殖可能な淡水産微細藻類、及び当該淡水産微細藻類の生産方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】シアニジウム・エスピー HKN1(1倍体)をM-Allen培地(MA培地)で前培養した後、MA培地、MA培地に0.3MのNaClを添加した培地(MA+0.3M NaCl培地)、又はMA培地に0.5MのNaClを添加した培地(MA+0.5M NaCl培地)で本培養したときの増殖曲線、並びにMA+0.3M NaCl培地で前培養した後、MA+0.5M NaCl培地で本培養したときの増殖曲線(OD
750の経時変化)を示すグラフである。
【
図2】シアニジウム・エスピー HKN1(1倍体)をMA+0.3M NaCl培地で前培養した後、海水培地又はMA+0.5M NaCl培地で本培養したときの増殖曲線を示すグラフである。
【
図3】シアニジウム・エスピー HKN1(1倍体)をMA+0.3M NaCl培地で前培養した後、pH2~7の海水培地で7日間本培養した後のOD
750を示すグラフである。
【
図4】シアニジウム・エスピー HKN1(2倍体)をMA培地で前培養した後、MA培地、MA+0.3M NaCl培地、又はMA+0.5M NaCl培地で本培養したときの増殖曲線、並びにMA+0.3M NaCl培地で前培養した後、MA+0.5M NaCl培地で本培養したときの増殖曲線を示すグラフである。
【
図5】シアニジウム・エスピー HKN1(2倍体)をMA+0.3M NaCl培地で前培養した後、海水培地又はMA+0.5M NaCl培地で本培養したときの増殖曲線を示すグラフである。
【
図6】シアニディオシゾン・メロラエ 10DをMA培地で前培養した後、MA培地、MA+0.3M NaCl培地、又はMA+0.5M NaCl培地で本培養したときの増殖曲線、並びにMA+0.3M NaCl培地で前培養した後、MA+0.5M NaCl培地で本培養したときの増殖曲線を示すグラフである。
【
図7】シアニディオシゾン・メロラエ 10DをMA+0.3M NaCl培地で前培養した後、海水培地又はMA+0.5M NaCl培地で本培養したときの増殖曲線を示すグラフである。
【
図8】シアニジウム・エスピー HKN1(1倍体)を、MA培地、MA培地+0.5M NaCl培地、および海水培地で培養した培養品のポリリン酸と液胞を観察した蛍光顕微鏡写真である。
【
図9】シアニジウム・エスピーHKN1(2倍体)を、MA培地、MA培地+0.5M NaCl培地、および海水培地で培養した培養品のポリリン酸と液胞を観察した蛍光顕微鏡写真である。
【
図10】シアニジウム・エスピーHKN1(1倍体)を、10Lの海水培地で培養したときの増殖曲線を示すグラフである。
【
図11】葉緑体リブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ大サブユニット(rbcL)遺伝子に基づくイデユコゴメ綱に属する微細藻類の分子系統樹を示す。各枝の近傍に最尤法によるローカルブートストラップ値(50以上のみ記載、左)及びベイズ法による事後確率(0.95以上のみ記載、右)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において、「MA培地」は、M-Allen培地を意味する。具体的には、表1に記載の組成を有する培地であって、水素イオン濃度がpH1.0~6.0となるように硫酸を用いて調整した培地を意味する。単に、「MA培地」又は「M-Allen培地」と記載する場合、NaClを添加していない培地を意味する。「水素イオン濃度pH2.0となるように調製したM-Allen培地」は、pH2.0となるように調整した、NaClを添加していないMA培地を意味する。
【0013】
本明細書において、「MA地+0.3M NaCl培地」は、NaCl濃度が0.3Mとなるように調整したMA培地を意味する。具体的には、表4に記載の組成を有する培地であって、水素イオン濃度がpH1.0~6.0となるように硫酸を用いて調整した培地を意味する。「水素イオン濃度pH2.0、ナトリウムイオン濃度0.3Mとなるように調製したM-Allen培地」は、pH2.0となるように調整したMA+0.3M NaCl培地を意味する。
【0014】
本明細書において、「MA+0.5M NaCl培地」は、NaCl濃度が0.5Mとなるように調整したMA培地を意味する。具体的には、表5に記載の組成を有する培地であって、水素イオン濃度がpH1.0~6.0となるように硫酸を用いて調整した培地を意味する。「水素イオン濃度pH2.0、ナトリウムイオン濃度0.5Mとなるように調製したM-Allen培地」は、pH2.0となるように調整したMA+0.5M NaCl培地を意味する。
【0015】
MA培地、MA+0.3M NaCl培地、及びMA+0.5M NaCl培地において、水素イオン濃度(pH)は、特に言及がない限り、pH1.0~6.0の範囲の任意の値であることができる。
【0016】
本明細書において、培地中の成分濃度に関して用いられる「M」は、「mol/L」を表す。
【0017】
<淡水産微細藻類の培養方法>
一実施形態において、本発明は、淡水産微細藻類の培養方法を提供する。本実施形態の培養方法は、淡水産細藻類を、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.1~0.4Mとなるように調製した培地で、培養温度が15~60℃で培養する培養工程を含む。前記培養方法は、淡水産微細藻類を、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.1~0.4Mとなるように調製した培地で培養する前培養工程と、前記前培養工程後の淡水産微細藻類を、ナトリウムイオン濃度が前記前培養工程における前記ナトリウムイオン濃度の1.2~5倍であり水素イオン濃度pH1.0~6.0となるように調製した培地で培養する本培養工程と、を含むことが好ましい。
【0018】
一実施形態において、本実施形態の培養方法は、高塩濃度の酸性培地で本培養を行う前に、0.1~0.4Mのナトリウムイオン濃度の酸性培地で前培養を行うことを特徴とする。かかる前培養を行うことで、耐塩性を有さない淡水産微細藻類であっても、海水と同程度の高塩濃度培地で良好に増殖できるようになる。
【0019】
本明細書において、前培養工程における培地のナトリウムイオン濃度及び水素イオン濃度(pH)とは、前培養工程の培養開始時のナトリウムイオン濃度及びpHをそれぞれ意味する。前培養工程の培養開始時の培地が「ナトリウムイオン濃度0.1~0.4M」であり「pH1.0~6.0」である限り、前培養期間中に、ナトリウムイオン濃度又はpHが変動して前記範囲を外れた場合であっても、本実施形態の培養方法の前培養工程に包含される。
本培養工程における培地のナトリウムイオン濃度及びpHとは、本培養工程の培養開始時のナトリウムイオン濃度及びpHをそれぞれ意味する。本培養工程の培養開始時の培地が「ナトリウムイオン濃度が前培養工程におけるナトリウムイオン濃度の1.2~5倍」であり「pH1.0~6.0」である限り、本培養期間中に、ナトリウムイオン濃度又はpHが変動して前記範囲を外れた場合であっても、本実施形態の培養方法の本培養工程に包含される。
【0020】
(淡水産微細藻類)
本実施形態の培養方法は、pH1.0~6.0の酸性条件下で増殖可能な淡水産微細藻類に適用可能である。「淡水産微細藻類」とは、淡水域に生息する微細藻類を意味する。淡水のナトリウムイオン濃度は、通常、0.05質量%未満である。淡水域は、特に限定されず、河川、湖沼、温泉、地下水等が挙げられるが、pH1.0~6.0の酸性条件の淡水域であることが好ましい。そのような酸性条件の淡水域としては、酸性温泉(硫酸酸性温泉など)が好ましく例示される。本明細書において、「微細藻類」とは、単細胞の藻類を意味する。
【0021】
pH1.0~6.0の酸性条件下で増殖可能な淡水産微細藻類としては、例えば、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に属する微細藻類が挙げられる。イデユコゴメ綱は、分類学上、紅色植物門(Rhodophyta)、イデユコゴメ綱(Cyanidiophyceae)に分類される。イデユコゴメ綱には、現在、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、シアニジウム(Cyanidium)属、及びガルデリア(Galdieria)属の3属が分類されている。イデユコゴメ綱に属する微細藻類としては、これまでに多くの種類の微細藻類が知られておりここで列挙することはしないが、
図11に、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の葉緑体rbcL遺伝子の塩基配列を用いた系統樹を示す。
【0022】
本実施形態の培養方法は、淡水産微細藻類の中でも、耐塩性を有さない淡水産微細藻類に適用することが好ましい。ここで「耐塩性を有さない」とは、海水又は海水と同等のナトリウムイオン濃度(約0.5M)の培地で培養した場合に、淡水産微細藻類用培地(ナトリウムイオン濃度0.05M以下)で培養した場合と比較して、増殖が抑制されること(増殖できないことを含む)を意味する。前記増殖の抑制は、淡水産微細藻類用培地における増殖速度と比較して、増殖速度が60%以上低下することが好ましく、80%以上低下することがより好ましい。pH1.0~6.0の酸性条件下で増殖可能で耐塩性を有さない淡水産微細藻類としては、
図11に示すイデユコゴメ綱に属する微細藻類を挙げることができる。例えば、シアニジウム属に属する微細藻類の1倍体、シアニディオシゾン・メロラエ、ガルデリア属に属する微細藻類の1倍体等が挙げられる。
【0023】
イデユコゴメ綱に属する微細藻類は、1倍体の細胞形態又は2倍体の細胞形態をとることができるものがある。本発明者らは、2倍体の細胞形態をとる細胞群から1倍体の細胞形態をとる細胞群を得る方法や、逆に1倍体の細胞形態を取る細胞群から2倍体の細胞形態をとする細胞群を得る方法を提供している(国際公開第WO2019/107385号)。
【0024】
後述する実施例で示すように、シアニジウム属に属する微細藻類の2倍体は耐塩性を有するが、1倍体は耐塩性を有さない。1倍体及び2倍体の細胞形態を有するシアニジウム属に属する微細藻類の具体例としては、例えば、シアニジウム・エスピー(Cyanidium sp.)YFU3株(FERM P-22334)(以下、「YFU3株」という。)、及びシアニジウム・エスピー(Cyanidium sp.)HKN1株(FERM P-22333)(以下、「HKN1株」という。)等、並びにこれらの近縁種、変異株、及び子孫が挙げられる。
以下、YFU3株について、2倍体の細胞形態と1倍体の細胞形態とを区別して記載する場合には、2倍体の細胞形態を「YFU3株(2倍体)」、1倍体の細胞形態を「YFU3株(1倍体)」と記載する。同様に、HKN1株について、2倍体の細胞形態と1倍体の細胞形態とを区別して記載する場合には、2倍体の細胞形態を「HKN1株(2倍体)」、1倍体の細胞形態を「HKN1株(1倍体)」と記載する。単に、「YFU3株」又は「HKN1株」と記載する場合には、2倍体の細胞形態及び1倍体の細胞形態の両方を包含するものとする。
【0025】
藻類が2倍体であるか、1倍体であるかの判定は、同一遺伝子座のコピー数を確認することにより行うことができる。すなわち、同一遺伝子座のコピー数が1であれば、1倍体であると判定される。また、次世代シーケンサー等を用いて、藻類が1倍体であることの判定を行うこともできる。例えば、次世代シーケンサー等で全ゲノムのシーケンスリードを取得し、それらのシーケンスリードをアセンブルした後、アセンブルして得られた配列に対して、シーケンスリードをマッピングする。2倍体ではアレルごとの塩基の違いがゲノム上の様々な領域で見つかるが、1倍体では1アレルしか存在しないため、その様な領域は見つからない。
あるいは、DAPI等の核染色試薬で細胞を染色し、1倍体であることが既知である細胞と比較して、同等の蛍光輝度を示す細胞を1倍体と判定し、約2倍の蛍光輝度を示す細胞を2倍体と判定してもよい。あるいは、DAPI等の核染色試薬で細胞を染色し、2倍体であることが既知である細胞と比較して、同等の蛍光輝度を示す細胞を2倍体と判定し、約1/2倍の蛍光輝度を示す細胞を1倍体と判定してもよい。
【0026】
YFU3株(1倍体)は、日本国大分県由布市の温泉の高温酸性水より単離された単細胞紅藻である。YFU3株は、2017年5月30日付で、受託番号FERM P-22334として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に寄託され、受託番号FERM BP-22334として、2018年4月20日付で国際寄託に移管されている。
HKN1株は、日本国神奈川県足柄下郡箱根町の温泉の高温酸性水より単離された単細胞紅藻である。HKN1株(1倍体)は、2017年5月30日付で、受託番号FERM P-22333として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センターに寄託され、受託番号FERM BP-22333として、2018年4月20日付で国際寄託に移管されている。
【0027】
また、本実施形態の培養方法を適用する淡水産微細藻類は、酸性温泉などの淡水域から単離してもよく、カルチャー・コレクション等から入手してもよい。例えば、シアニディオシゾン・メロラエは、国立研究開発法人国立環境研究所微生物系統保存施設(日本国茨城県つくば市小野川16-2)、American Type Culture Collection(ATCC;10801 University Boulevard Manassas, VA 20110 USA)等から入手することができる。
【0028】
また、本実施形態の培養方法を適用する淡水産微細藻類は、自然界から単離されたものに限定されず、天然の淡水産微細藻類に変異が生じたものであってもよい。変異は、自然発生的に生じたものであってもよく、人為的に生じたものであってもよい。例えば、シアニディオシゾン・メロラエは、ゲノムサイズが小さく(約16Mbp)、ゲノム配列の解読が完了しているため(Matsuzaki M et al., Nature. 2004 Apr 8;428(6983):653-7.)、遺伝子改変を行いやすい。したがって、例えば、遺伝子改変により作製されたシアニディオシゾン・メロラエの形質転換体(例えば、栄養成分が強化された形質転換体)に、本実施形態の培養方法を適用してもよい。また、遺伝子改変可能であれば、他の淡水産微細藻類の形質転換体に、本実施形態の培養方法を適用してもよい。
【0029】
また、ガルデリア属に属する微細藻類の中にも、1倍体の細胞形態及び2倍体の細胞形態をとることができるものがある。例えば、ガルデリア属に属する微細藻類の2倍体を、一定期間(例えば、1~3週間程度)培養することにより、1倍体の細胞形態を得ることができる。1倍体の細胞を得るために2倍体の細胞を培養する培地としては、例えば、酸性温泉排水培地、塚原鉱泉培地(Hirooka et al. 2016 Front in Microbiology)等が好適に利用可能である。ガルデリア属に属する微細藻類の1倍体又はその形質転換体にも、本実施形態の培養方法を適用可能である。ガルデリア属に属する微細藻類としては、例えば、G. partita(NBRC 102759)、及びG. sulphuraria(SAG108.79等)等が挙げられる。ガルデリア属に属する微細藻類は、酸性温泉などの淡水域から単離してもよく、カルチャー・コレクション等から入手してもよい。カルチャー・コレクションとしては、前記シアニディオシゾン・メロラエで挙げたカルチャー・コレクションに加えて、NITE Biological Resource Center(NRBC;日本国東京都渋谷区西原2-49-10)、GEORG-AUGUST-UNIVERSITY GOTTINGEN ulture Collection of Algae(SAG)等が挙げられる。
【0030】
イデユコゴメ綱に属する微細藻類の中でも、1倍体の藻類細胞は強固な細胞壁を有さないことが多い。そのような強固な細胞壁を有さない1倍体の細胞形態の藻類細胞は、中和処理、低張処理、凍結融解処理などの比較的温和な処理により、細胞を破壊することができる。なお、本明細書において、「強固な細胞壁を有さない」とは、下記(A)~(C)の細胞破裂処理のいずれかで細胞破裂を生じることを意味する。
【0031】
(A)藻類細胞をpH7の等張液に懸濁し、1週間以上放置する。
(B)藻類細胞を蒸留水に懸濁し、1分以上放置する。
(C)藻類細胞の乾燥処理を行い、pH7の等張液に懸濁する。
上記(A)~(C)において、藻類細胞が培養細胞である場合、各処理を行う前に、遠心分離等により培地を除去し、等張液等で藻類細胞を洗浄してもよい。
上記(A)及び(C)において、等張液としては、10%スクロース及び20mMのHEPESを含むpH7の緩衝液が挙げられる。
上記(C)において、乾燥処理としては、冷蔵庫内(4℃)での乾燥、凍結乾燥等が挙げられる。乾燥処理には、遠心分離により回収した藻類細胞の沈殿を用いる。冷蔵庫内で乾燥する場合、乾燥処理時間は、藻類細胞の量によるが、3日以上が例示される。
【0032】
また、細胞破裂が生じたか否かは、上記(A)~(C)の細胞破裂処理後の藻類細胞懸濁液を遠心分離(1,500×g、3分)し、藻類細胞懸濁液中の全タンパク質量に対する、遠心上清中のタンパク質量の割合を求めることにより、判定することができる。具体的には、下記式により求められる破裂率が、20%以上である場合に、細胞破裂が生じたと判定することができる。
【0033】
【0034】
あるいは、藻類細胞懸濁液中の藻類細胞を光学顕微鏡(例えば、倍率600倍)で観察し、細胞破裂が生じている細胞の割合が、藻類細胞全体の10%程度以上、好ましくは20%程度以上である場合に、細胞破裂が生じたと判断してもよい。
【0035】
上記(A)~(C)の細胞破裂処理では、pH7の等張液を用いることができるため、上記(A)~(C)のいずれかの細胞破裂処理で細胞破裂が生じる細胞は、pH7の条件下で細胞破裂が生じる細胞であるということができる。
pH7の条件下で、その細胞が破裂する微細藻類であれば、培養槽の外に流出した場合に、外部環境で生育することが困難であり、環境へのコンタミネーションを抑制することができる。
藻類細胞が強固な細胞壁を有さない場合、光学顕微鏡による観察(例えば、倍率600倍)では、通常、細胞壁が観察されない。なお、pH6以下の条件での温和な低張処理により細胞破裂が生じるか否かは、強固な細胞壁を有さない微細藻類であるか否かの判定には影響しない。
【0036】
[前培養工程]
前培養工程は、淡水産微細藻類を、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.1~0.4Mとなるように調製した培地で培養する工程である。
【0037】
前培養工程で用いる培地は、ナトリウムイオン濃度が0.1~0.4Mであり、pHが1.0~6.0の培地であれば特に限定されない。例えば、一般的な淡水産微細藻類用培地に、0.1~0.4Mのナトリウムイオンを添加し、pH1.0~6.0に調整したものを好ましく用いることができる。
淡水産微細藻類用培地は、特に限定されず、培養する淡水産微細藻類の種類に応じて適宜適切なものを選択すればよい。淡水産微細藻類用培地としては、例えば、窒素源、リン源、鉄源、微量元素(亜鉛、ホウ素、コバルト、銅、マンガン、モリブデンなど)等を含む無機塩培地が例示される。例えば、窒素源としては、アンモニウム塩、硝酸塩、亜硝酸塩、尿素、アミン類等が挙げられ、リン源としては、リン酸塩、亜リン酸塩等が挙げられ、鉄源としては、塩化鉄、硫酸鉄、クエン酸鉄等が挙げられる。淡水産微細藻類用培地の具体例としては、例えば、2×Allen培地(Allen MB. Arch. Microbiol. 1959 32:270-277.)、M-Allen培地(Minoda A et al. Plant Cell Physiol. 2004 45: 667-71.)、MA2培地(Ohnuma M et al. Plant Cell Physiol. 2008 Jan;49(1):117-20.)等が挙げられる。なお、本明細書においては、M-Allen培地を「MA培地」と記載することがある。
【0038】
ナトリウムイオン濃度は、0.1~0.4Mの範囲内で、後述の本培養工程におけるナトリウムイオン濃度に応じて適宜選択すればよい。より具体的には、本培養工程で予定するナトリウムイオン濃度の0.2~0.8倍のナトリウムイオン濃度を選択することができる。ナトリウムイオン濃度は、本培養工程におけるナトリウムイオン濃度の0.5倍以上であることが好ましく、0.5~0.7倍であることがより好ましく、0.5~0.6倍であることがさらに好ましい。
例えば、本培養工程におけるナトリウムイオン濃度を海水と同程度(約0.5M)とする場合、前培養工程におけるナトリウムイオン濃度は0.25M以上であることが好ましく、0.25~0.35Mであることがより好ましく、0.25~0.3Mであることがさらに好ましい。
培地のナトリウムイオン濃度の調整は、市販のナトリウムイオン試薬を用いてもよく、食塩を用いて行ってもよい。また、天然海水、濃縮海水、人工海水等をナトリウムイオン濃度が0.1~0.4Mとなるように希釈し、適宜、窒素源、リン源、鉄源、及び微量元素等を添加して用いてもよい。天然海水としては、表層水又は海洋深層水をろ過したものを使用できるほか、市販品も使用可能である。天然海水の市販品としては、例えば、ナジーム10(伊豆10mの表層海水)、及びナジーム800(伊豆赤沢800m海洋深層水)(いずれも日本QCE bluelab事業部)等が挙げられる。人工海水の市販品としては、例えば、ダイゴIMK培地、ダイゴ人工海水SP(いずれも日本製薬株式会社)等が挙げられる。
【0039】
天然海水、特に海水表層に含まれる主要なイオンの濃度としては、例えば、下記の組成が知られている。この組成は海洋の表層における一般的な組成と思われ、また、地域において塩分濃度が異なることは周知である。そのため、海水の塩分濃度を定義することは困難であるが、金属イオンにおいてはナトリウムが主要な金属であることは疑いない。そこで、発明者らは、概ねナトリウムイオン濃度として0.4Mを超える場合は海水条件であるとした。より海水条件に近いナトリウムイオン濃度としては、0.45M以上、さらに好ましくは0.5M以上である。
ナトリウムイオン 1.0556質量%
マグネシウムイオン 0.1272質量%
カルシウムイオン 0.0400質量%
カリウムイオン 0.0380質量%
ストロンチウムイオン 0.0008質量%
塩化物イオン 1.8980質量%
硫酸イオン0.2649質量%
臭化物イオン 0.0065質量%
炭酸水素イオン 0.0140質量%
フッ化物イオン 0.0001質量%
ホウ酸 0.0026質量%
【0040】
水素イオン濃度は、pH1.0~6.0の範囲内で、淡水産微細藻類の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、淡水産微細藻類が、イデユコゴメ綱に属する微細藻類である場合、pH1.0~5.0が好ましく、pH1.0~3.0がより好ましい。
培地のpH調整は、例えば、硫酸、塩酸等の無機酸、水酸化カリウム等の無機塩基等を用いて行うことができる。また、培養中のpH変動を抑制するために、任意に、pH緩衝剤を培地に添加してもよい。
【0041】
前培養工程は、淡水産微細藻類の細胞を、培地に接種することにより開始することができる。培養開始時の藻類濃度は、特に限定されないが、例えば、OD750=0.05~0.5の細胞濁度とすることができる。「OD750」とは、750nmでの吸光度を意味する。培養開始時の細胞濁度は、OD750=0.05~0.3であることが好ましい。
【0042】
前培養工程における温度条件は、淡水産微細藻類の種類に応じて適宜選択すればよい。一般的には、培養温度は、15~60℃を例示することができ、好ましくは15~50℃、さらに好ましくは30~50℃である。淡水産微細藻類が、イデユコゴメ綱に属する微細藻類である場合、培養温度は30~50℃が好ましい。
前培養工程における光条件は、淡水産微細藻類の種類に応じて適宜選択すればよい。一般的には、5~2000μmol/m2sを例示することができる。淡水産微細藻類が、イデユコゴメ綱に属する微細藻類である場合、5~1500μmol/m2sが好ましい。光条件は、連続光であってもよく、明暗周期(10L:14Dなど)を設けてもよい。前培養工程は、自然光下で行ってもよい。
前培養工程におけるCO2条件は、淡水産微細藻類の種類に応じて適宜選択すればよい。一般的には、0.04~5%CO2条件を例示することができる。淡水産微細藻類が、イデユコゴメ綱に属する微細藻類である場合、0.04~3%CO2条件が好ましい。イデユコゴメ綱に属する微細藻類の中でも、ガルデリア属は高CO2濃度耐性が高く、100%CO2でも生育可能であるため、淡水産微細藻類がガルデリア属に属する微細藻類である場合には、100%CO2条件としてもよい。また、CO2条件は、大気中CO2濃度であってもよい。
【0043】
前培養工程における培養方法は、特に限定されず、微細藻類の培養方法として一般的に用いられる方法を用いればよい。具体例としては、静置培養、通気培養(200~400mL air/minなど)、振とう培養(100~200rpmなど)等が挙げられる。
【0044】
前培養工程における培養期間は、特に限定されないが、誘導期の期間を終えて対数期にさしかかるまでの期間が必要であり、通常3日以上が必要であり、好ましくは5日以上であり、より好ましくは7日以上である。前培養工程を前記下限日数以上の期間行うことで、本培養工程における淡水産微細藻類の増殖をより良好に維持することができる。前培養期間の上限は、特に限定されないが、対数期を終えて定常期にまでさしかかるまで行うと、本培養において微細藻類の増殖を良好に維持する上で不適切である。前培養期間としては、3~20日が好ましく、5~15日がより好ましく、7~10日がさらに好ましい。
前培養のスケールは本培養のスケールに応じて選択することが出来る。本培養で微細藻類の育種や変異株の選択等小スケールで培養する場合は、前培養を小スケールで行うことができ、通常は、0.1~1000mLで行われる。また、本培養で工業的に大量生産が行われる場合には、前培養を1~10L程度で行われる場合もある。
【0045】
[本培養工程]
本培養工程は、前記前培養工程後の淡水産微細藻類を、ナトリウムイオン濃度が前培養工程におけるナトリウムイオン濃度の1.2~5倍であり水素イオン濃度pH1.0~6.0となるように調製した培地で培養する工程である。
【0046】
本培養工程で用いる培地は、ナトリウムイオン濃度が前記前培養工程で用いた培地の1.2~5倍であり、ナトリウムイオン濃度で換算して0.4M以上、好ましくは0.45M以上、より好ましくは0.5M以上のものを用いることが出来る。水素イオン濃度は、pH1.0~6.0の培地であれば特に限定されない。例えば、一般的な淡水産微細藻類用培地に、前記濃度のナトリウムイオンを添加し、pH1.0~6.0に調整したものを好ましく用いることができる。淡水産微細藻類用培地としては、前記「[前培養工程]」で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0047】
本培養工程で用いる培地は、海水に、適宜、窒素源、リン源、鉄源、及び微量元素等を添加し、pHを1.0~6.0に調整したものであってもよい。海水は、天然海水であってもよく、人工海水であってもよく、濃縮海水を希釈したものであってもよい。天然海水及び人工海水の市販品としては、前記「[前培養工程]」で挙げたものと同様のものが挙げられる。本培養工程において、大量培養を行う場合には、天然海水を用いることでコストを抑制することができる。天然海水は、表層水であってもよく、海洋深層水であってもよい。天然海水は、ろ過等を行って、不純物を除去したものが好ましい。海水に添加する窒素源、リン源、鉄源、及び微量元素等は、淡水産微細藻類の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0048】
淡水産微細藻類が、イデユコゴメ綱に属する微細藻類である場合、海水に、窒素含有塩、リン含有塩及び鉄含有塩を少なくとも添加することが好ましい。
窒素含有塩としては、アンモニウム塩、硝酸塩、及び亜硝酸塩等の窒素含有無機塩類等が挙げられる。中でも、窒素含有塩としては、アンモニウム塩(硫酸アンモニウムなど)が好ましい。アンモニウム塩の海水への添加量としては、アンモニウムイオン濃度として、20~100mMが例示される。
リン含有塩としては、リン酸塩、及び亜リン酸塩等のリン含有無機塩類等が挙げられる。中でも、リン含有有塩としては、リン酸塩(リン酸二水素カリウムなど)が好ましい。リン酸塩の海水への添加量としては、リン酸イオン濃度として、2~10mMが例示される。
鉄含有塩としては、塩化鉄(III)、硫酸鉄(II)、クエン酸鉄(II)及びこれらの水和物等が挙げられる。中でも、鉄含有塩としては、塩化鉄(III)が好ましい。鉄含有塩の海水への添加量としては、鉄イオン濃度として、0.1~2mMが例示される。
その他、海水には、ホウ酸、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、銅等の微量元素を添加することが好ましい。
淡水産微細藻類がイデユコゴメ綱に属する微細藻類である場合、本培養工程で用いる培地の具体例としては、後述の表9に記載の「海水培地」が好ましく例示される。
【0049】
本培養工程で用いる培地のナトリウムイオン濃度は、特に限定されないが、前記前培養工程における前記ナトリウムイオン濃度の1.1~5倍、好ましくは1.2~5倍であり、1.4~2倍であることがより好ましく、1.5~2倍であることがさらに好ましい。本培養工程で海水を利用する場合、ナトリウムイオン濃度は約0.4M以上であり、用いる微細藻類種によっては1M以下の培地が用いられる。
また、本培養工程を屋外で行う場合には、他の生物のコンタミネーションを抑制するために、0.5M以上のナトリウムイオン濃度を用いることもできる。例えば、ナトリウムイオン濃度を0.5~1Mとしてもよい。
培地のナトリウムイオン濃度の調整は、前記前培養工程における培地と同様に行うことができる。
【0050】
水素イオン濃度は、pH1.0~6.0の範囲内で、淡水産微細藻類の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、淡水産微細藻類が、イデユコゴメ綱に属する微細藻類である場合、pH1.0~5.0が好ましく、pH1.0~3.0がより好ましい。
また、本培養工程を屋外で行う場合には、他の生物のコンタミネーションを抑制するために、より低いpH(pH1.0~2.0など)を用いることもできる。
培地のpH調整は、前記前培養工程における培地と同様に行うことができる。
【0051】
本培養工程は、前培養工程の培養液を、本培養工程における培地に接種することにより開始することができる。培養開始時の藻類濃度は、特に限定されないが、例えば、OD750=0.05~0.5の細胞濁度とすることができる。「OD750」とは、750nmでの吸光度を意味する。培養開始時の細胞濁度は、OD750=0.05~0.3であることが好ましい。
【0052】
本培養工程における培養スケールは、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、微細藻類の育種や変異株の選択等を行う場合は、小スケールで本培養を行うことができ、通常は、10mL~10L程度で行われる。また、本培養で工業的な大量生産が行われる場合には、20~5000L程度で培養を行ってもよい。500Lの大量培養を行う場合には、屋外培養を行ってもよい。
【0053】
本培養工程における温度条件、光条件、CO2条件及び培養方法は、上述の前培養条件と同様とすることができる。
また、本培養工程は、屋外で培養を行ってもよい。この場合、温度条件、光条件及びCO2条件は、培養槽が設置された外部環境の条件とすることができる。本培養工程を屋外培養とした場合でも、pH1.0~6.0の酸性条件下での培養であるため、他の生物の混入を抑制することができる。また、淡水産微細藻類として、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体を用いた場合、pH7の環境下での生存が困難であるため、屋外の培養槽から外部環境に放出された場合でも当該環境の汚染が抑制される。
【0054】
本培養工程における培養期間は、特に限定されず、所望のバイオマス量が得られるまで培養を継続することができる。あるいは、微細藻類の生育状況を確認し、定常期となるまで培養を行ってもよい。
【0055】
本実施形態の培養方法によれば、淡水産微細藻類を低pH及び高ナトリウムイオン濃度の培地で、培養開始時から短い誘導期で良好に増殖させることができる。そのため、屋外培養の場合であっても、他の生物の侵入を効果的に抑制することができる。また、イデユコゴメ綱に属する微細藻類(特に1倍体)は中性条件下では死滅するため、仮にイデユコゴメ綱に属する微細藻類(特に1倍体)が大量培養系から環境中に放出される場合があったとしても生物学的封じ込めが可能である。そのため、有用物質を生産する淡水産微細藻類の屋外大量培養に好適に適用することができる。
【0056】
<淡水産微細藻類の生産方法>
一実施形態において、本発明は、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.5M以上となるように調製した培地で増殖可能な淡水産微細藻類の生産方法を提供する。本実施形態の淡水産微細藻類の生産方法は、ナトリウムイオン濃度が0.5M以上である培地で増殖できない淡水産微細藻類を、水素イオン濃度pH1.0~6.0、ナトリウムイオン濃度0.1~0.4Mとなるように調製した培地で培養する工程を含む。
【0057】
本実施形態の方法で用いる淡水産微細藻類は、ナトリウムイオン濃度が0.5M以上である培地で増殖できない淡水産微細藻類である。
淡水産微細藻類が、ナトリウムイオン濃度が0.5M以上である培地で増殖できないか否かは、対象の淡水産微細藻類をナトリウムイオン濃度が0.5M以上である培地で培養し、経時的に細胞濁度(OD750)を測定することにより確認することができる。培養開始時から、OD750が上昇しない場合には、当該淡水産微細藻類は、ナトリウムイオン濃度が0.5M以上である培地で増殖できない淡水産微細藻類であると判定することができる。
また、淡水産微細藻類は、pH1.0~6.0で増殖可能であることが好ましい。
そのような淡水産微細藻類としては、例えば、シアニジウム属に属する微細藻類の1倍体が挙げられる。シアニジウム属に属する微細藻類の1倍体の具体例としては、HKN1株(1倍体)及びYFU3株(1倍体)が挙げられる。
【0058】
本実施形態の方法は、前記のような淡水産微細藻類を、ナトリウムイオン濃度が0.1~0.4MであるpH1.0~6.0の培地で培養する工程を含む。当該工程は、前記「<淡水産微細藻類の培養方法>」の「[前培養工程]」と同様に行うことができる。
【0059】
本実施形態の方法によれば、耐塩性を有さない淡水産微細藻類に、耐塩性を付与して、塩化ナトリウ濃度が0.5M以上であるpH1.0~6.0の培地で増殖可能な淡水産微細藻類を得ることができる。当該淡水産微細藻類が生育可能な高塩濃度及び低pHの環境では、他の生物の侵入が抑制される。また、イデユコゴメ綱に属する微細藻類(特に1倍体)は中性条件下では死滅するため、仮にイデユコゴメ綱に属する微細藻類(特に1倍体)が大量培養系から環境中に放出される場合があったとしても生物学的封じ込めが可能である。そのため、当該淡水産微細藻類は屋外大量培養に好適に用いることができる。
【0060】
<耐塩性を有するイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体>
本発明の1実施形態に係るイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、ナトリウムイオン濃度が0.5Mのような高塩濃度の培地で生育するが、天然のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は生育ができない。しかし、本発明の1実施形態に係る培養方法により、前培養期間中に耐塩性を獲得すると、0.5Mのナトリウムイオン濃度の培地でも生育できるようになる。このとき、前培養期間中よりも短期間の誘導期の後、対数増殖を開始する特徴があり、この特徴はさらに培地を植え継いでも同様である。しかも、耐塩性獲得をした本発明の1倍体藻類は、NaClを添加していないMA培地に植え継ぐと、生育しないかまたは生育が不良となってしまうという特徴がある。
生育が良好かどうかについては、コントロールの培養条件と比較することによってもできるが、本発明の1実施形態においては、自己の培養初期状態の細胞数と所定期間経過する間に増大した細胞数の比の大小により検討する。具体的には式(1)により計算する。細胞数は培養液の750nmにおける吸光度ODを測定することにより求め、所定期間は7日間とし、式(1)の値が2以上の場合は生育が良好であり、2未満の場合は生育が不良であるとする。生育が不良の原因としては、環境条件に馴化するのに時間を要することや、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は強固な細胞壁を持たないために高張液の浸透圧に耐えられず細胞が破壊されて死滅していることが考えられる。細胞が破壊されていることの確認については顕微鏡で観察することが考えられるが、定量性を確保することが困難である。そのため、本発明の1実施形態においては、細胞の内容物であるフィコシアニンの量を測定することで定量的な考察を行う。
【0061】
一実施形態において、本発明は、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体であって、水素イオン濃度pH2.0、ナトリウムイオン濃度0.5Mとなるように調製したMA培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光で7日間静置培養したときの下記式(1)で算出される値が2以上であり、MA培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光で7日間静置培養したときの下記式(1)で算出される値が2未満である、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体を提供する。
(培養開始7日後のOD750値-培養開始時のOD750値)/(7×培養開始時OD750値)で示される培養速度 (1)
【0062】
「水素イオン濃度pH2.0、ナトリウムイオン濃度0.5Mとなるように調製したMA培地」は、実施例における表5に記載される培地(以下、「MA+0.5M NaCl培地」ともいう)である。本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、MA+0.5M NaCl培地で増殖することができる。さらに、MA+0.5M NaCl培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光の条件で、静置培養したとき、下記式(1)で算出される増殖速度が2以上になるという特徴を有する。
(培養開始7日後のOD750値-培養開始時のOD750値)/(7×培養開始時OD750値) (1)
【0063】
前記式(1)において、「培養開始時のOD750値」とは、培養開始時(0時間)において波長750nmで測定した培養液の吸光度を意味する。通常、培養開始時のOD750値が、0.1となるように、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体をMA+0.5M NaCl培地に接種し、培養を開始する。前記式(1)において、「培養開始7日後のOD750値」とは、培養開始から7日(168時間)後において波長750nmで測定した培養液の吸光度を意味する。培養液の吸光度は、吸光度計で測定することができる。
培養は、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光の条件で、7日間の静置培養で行う。培養スケールは、特に限定されないが、例えば、24穴プレートを用いて、1mLの培養液で培養することができる。
【0064】
天然のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、MA+0.5M NaCl培地で増殖することはできない。そのため、天然のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体をMA+0.5M NaCl培地で培養した場合、前記式(1)で算出される値は、2未満である。しかしながら、本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、高ナトリウムイオン濃度に対する耐性を有しているため、MA+0.5M NaCl培地でも良好に増殖することができる。したがって、本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体をMA+0.5M NaCl培地で培養した場合、前記式(1)で算出される値が2以上となる。本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、MA+0.5M NaCl培地で培養したときの前記式(1)で算出される値が、3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましい。
【0065】
上記特徴に加えて、本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、MA培地で、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光で静置培養したとき、前記式(1)で算出される値が2未満であるという特徴を有する。MA培地は、実施例における表1に記載される培地である。通常、培養開始時のOD750値が、0.1となるように、イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体をMA培地に接種し、培養を開始する。培養は、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光の条件で、7日間の静置培養で行う。培養スケールは、特に限定されないが、例えば、24穴プレートを用いて、1mLの培養液で培養することができる。
【0066】
天然のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、MA培地で良好に増殖することができる。そのため、天然のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体をMA培地で培養した場合、前記式(1)で算出される値は、通常2以上となる。しかしながら、本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、高ナトリウムイオン濃度に対する耐性を有する一方、低ナトリウムイオン濃度での増殖能力が低下する。したがって、本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体をMA培地で培養した場合、前記式(1)で算出される値が2以上となる。本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、MA培地で培養したときの前記式(1)で算出される値が、1.8未満であることが好ましく、1.5未満以上であることがより好ましい。
【0067】
本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、MA培地に懸濁したときの死滅率が、30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。前記死滅率が30%以上であると、環境中に藻類細胞が放出されたとしても、ナトリウムイオン濃度が低い環境中では藻類細胞の生存が難しい。そのため、屋外の開放培養系で培養した場合でも、環境へのコンタミネーションが起こりにくい。
【0068】
前記死滅率は、以下のように算出されるものである。
MA+0.5M NaCl培地で培養を行った後、2mLの前記培地に懸濁したときにOD750=1となる量の藻類細胞を回収し、下記の処理1~3を行う。
処理1:MA培地2mLに懸濁し、ボルテックスで10分間振盪する。
処理2:MA+0.5M NaCl培地2mLに懸濁し、ボルテックスで10分間振盪する。
処理3:MA+0.5M NaCl培地0.1mLに懸濁後、-196℃で凍結し、前記培地で2mLとなるようにメスアップし、ボルテックスで10分間振盪する。
【0069】
次いで、下記式により、死滅率を算出する。
死滅率(%)={(処理2後のPC濃度-処理1後のPC濃度)/(処理2後のPC濃度-処理3後のPC濃度)}×100
前記式中、「PC濃度」は、フィコシアニン濃度を表す。PC濃度は、処理1~3のいずれかを行った後の懸濁液について、積分球を取り付けた分光光度計を用いて、620nm及び678nmの吸光度を測定することにより求めることができる。PC濃度は、620nm及び678nmの吸光度から、下記式により算出することができる。
PC濃度(μg/ml)=138.5×A620-35.49×A678
【0070】
本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、下記(a)~(c)のいずれか1つ以上の特徴を有することが好ましく、下記(a)~(c)のいずれか2つの特徴を有することがより好ましく、下記(a)~(c)の全ての特徴を有することがさらに好ましい。
(a)天然の前記微細藻類の1倍体と比較して、ナトリウムイオン濃度が0.5MであるpH1.0~6.0の培地での培養開始後7日間の増殖速度が大きい。
(b)天然の前記微細藻類の1倍体と比較して、ナトリウムイオン濃度が0.05M以下であるpH1.0~6.0の培地での培養開始後7日間の増殖速度が小さい。
(c)ナトリウムイオン濃度が0.05M以下であるpH1.0~6.0の培地での培養開始後7日間の増殖速度と比較して、ナトリウムイオン濃度が0.5MであるpH1.0~6.0の培地での培養開始後7日間の増殖速度が大きい。
【0071】
「天然のイデユコゴメ綱に属する微細藻類」とは、自然界で生息するイデユコゴメ綱に属する微細藻類又は前記微細藻類と同様の性質を有する当該種類の微細藻類をいう。天然の微細藻類は、自然界から単離され、ナトリウムイオン濃度が0.05M以下であるpH1.0~6.0の培地で培養することにより維持されたものであってもよい。
「天然のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体」とは、自然界で生息するイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体又は自然界で生息するイデユコゴメ綱に属する微細藻類の2倍体から得られた1倍体をいう。ナトリウムイオン濃度が0.05M以下であり、pH1.0~6.0となるように調製された培地で天然のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の2倍体を一定期間(例えば、1~3週間程度)、一定条件で培養し、減数分裂した微細藻類を顕微鏡下において物理的に選択し、天然のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体を得ることができる。
【0072】
イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体が、上記(a)の特徴を有するか否かは、当該微細藻類の1倍体と当該微細藻類と同じ種である天然の微細藻類とを、ナトリウムイオン濃度が0.5MであるpH1.0~6.0の培地で培養し、培養開始後7日間の増殖速度を比較することにより判定することができる。前記増殖速度が、天然の微細藻類の1倍体よりも大きい場合には、当該微細藻類が上記(a)の特徴を有すると判定される。
【0073】
イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体が、上記(b)の特徴を有するか否かは、当該微細藻類の1倍体と当該微細藻類と同じ種である天然の微細藻類とを、ナトリウムイオン濃度が0.05M以下であるpH1.0~6.0の培地で培養し、培養開始後7日間の増殖速度を比較することにより判定することができる。前記増殖速度が、天然の微細藻類の1倍体よりも小さい場合には、当該微細藻類が上記(b)の特徴を有すると判定される。
【0074】
イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体が、上記(c)の特徴を有するか否かは、当該微細藻類の1倍体を、ナトリウムイオン濃度が0.05M以下であるpH1.0~6.0の培地及びナトリウムイオン濃度が0.5MであるpH1.0~6.0の培地で培養し、両培地における培養開始後7日間の増殖速度を比較することにより判定することができる。前記ナトリウムイオン濃度が0.5MであるpH1.0~6.0の培地での増殖速度が、ナトリウムイオン濃度が0.05M以下であるpH1.0~6.0の培地での増殖速度よりも大きい場合には、当該微細藻類が上記(c)の特徴を有すると判定される。
【0075】
ナトリウムイオン濃度が0.5MであるpH1.0~6.0の培地、及びナトリウムイオン濃度が0.05M以下であるpH1.0~6.0の培地としては、上記「<淡水産微細藻類の培養方法>」で挙げた培地と同様の培地が挙げられる。上記(a)~(c)における培養条件としては、例えば、培養温度42℃、二酸化炭素濃度2%、照度60μmol/m2sの連続光の条件での静置培養が挙げられる。培養スケールは、特に限定されないが、例えば、24穴プレートを用いて、1mLの培養液で培養することができる。
【0076】
本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、前記実施形態の淡水産微細藻類の生産方法により得ることができる。イデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体の具体例としては、シアニディオシゾン・メロラエ、シアニジウム属する微細藻類の1倍体、及びガルデリア属に属する微細藻類の1倍体が挙げられる。シアニジウム属に属する微細藻類の1倍体の具体例としては、HKN1株(1倍体)及びYFU3株(1倍体)が挙げられる。ガルデリア属に属する微細藻類の1倍体の具体例としては、G. partita、及びG. sulphuraria等が挙げられる。中でも、シアニジウム属に属する微細藻類又はガルデリア属に属する微細藻類の1倍体が好ましく、シアニジウム属に属する微細藻類の1倍体がより好ましく、HKN1株(1倍体)又はYFU3株(1倍体)がさらに好ましく、HKN1株(1倍体)が特に好ましい。
【0077】
本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類は、ナトリウムイオン濃度が0.6M以上であるpH1.0~6.0の培地で増殖できることが好ましく、ナトリウムイオン濃度が0.7M以上であるpH1.0~6.0の培地で増殖できることがより好ましく、ナトリウムイオン濃度が0.8M以上であるpH1.0~6.0の培地で増殖できることがさらに好ましく、ナトリウムイオン濃度が0.9M以上であるpH1.0~6.0の培地で増殖できることが特に好ましい。本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類は、ナトリウムイオン濃度が1M以上であるpH1.0~6.0の培地で増殖できるものであってもよい。
【0078】
本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類は、ナトリウムイオン濃度が0.5MであるpH1.0~6.0の培地で培養した後、ナトリウムイオン濃度が0.5MであるpH1.0~6.0の新たな培地に植え継いだ場合であっても増殖速度が維持されることが好ましい。これにより、本実施形態の微細藻類を、ナトリウムイオン濃度が0.5MであるpH1.0~6.0の培地で継体培養して維持することができる。また、前記のように維持した本実施形態の微細藻類を、任意の時期に、ナトリウムイオン濃度が0.5MであるpH1.0~6.0の培地で大量培養した場合でも、良好に増殖させることができる。
【0079】
本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、海水と同程度のナトリウムイオン濃度で良好に増殖することができるため、海水に、窒素含有塩、リン含有塩及び鉄含有塩を少なくとも添加し、且つpH1.0~6.0に調整した培地を用いて良好に増殖させることができる。そのような培地の具体例としては、前記「<淡水産微細藻類の培養方法>」の「[本培養工程]」で挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0080】
本実施形態のイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、高ナトリウムイオン濃度及び低pHの環境で良好に増殖することができるため、屋外大量培養に好適に用いることができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0082】
(培地の調製)
表1に示す組成のM-Allen培地(MA培地)を調製した。具体的には、A2 Fe stock以外の培地成分を混合し、硫酸でpH2.0に調整した後、オートクレーブにより滅菌した。オートクレーブ滅菌後、フィルター滅菌した4mLのA2 Fe stockを添加し、MA培地とした。
表2及び表3に、A2 trace element及びA2 Fe stockの組成をそれぞれ示す。
【0083】
【0084】
【0085】
【0086】
MA培地に、0.3M NaClを加えて、MA+0.3M NaCl培地を調製した。また、MA培地に、0.5M NaClを加えて、MA+0.5M NaCl培地を調製した。MA+0.3M NaCl培地及びMA+0.5M NaCl培地の組成を表4及び表5にそれぞれ示す。表4及び表5中のA2 trace element及びA2 Fe stockは、それぞれ表2及び表3に示すものである。
【0087】
【0088】
【0089】
以下の実施例において、前記培地を前培養又は本培養に用いる場合、各培地を下記のように表記する場合がある。
前培養に用いる場合
MA培地:培地(A)
MA+0.3M NaCl培地:培地(B)
MA+0.5M NaCl培地:培地(C)
本培養に用いる場合
MA培地:培地(a)
MA+0.3M NaCl培地:培地(b)
MA+0.5M NaCl培地:培地(c)
【0090】
(生育状況の測定)
微細藻類の生育状況は、細胞濁度(OD750)により確認した。具体的には、吸光度計(BIO-RAD 社のSmartSpec Plus)を用いて、藻類培養液の750nmにおける吸光度を測定し、細胞濁度(OD750)を求めた。
【0091】
(培養方法)
シアニジウム・エスピー HKN1の培養は、前培養も本培養もともに、特に断りのない限り、CO2インキュベーター内での、静置培養により行った。培養温度は42℃とし、照度60μmol/m2sの連続光を用い、CO2濃度は2%とした。特に断りのない限り、培養は、24穴プレートで、1mLの培養液で行った。
シアニディオシゾン・メロラエ 10Dの培養は、前培養も本培養もともに、特に断りのない限り、通気培養(300mL ambient air/min)により行った。培養温度は42℃とし、照度60μmol/m2sの連続光を用いた。特に断りのない限り、培養は、24穴プレートで、1mLの培養液で行った。
シアニジウム・エスピー HKN1及びシアニディオシゾン・メロラエ 10Dのいずれも、前培養開始時及び本培養開始時の細胞濁度は、OD750=0.1となるようにした。特に断りのない限り、培養は、24穴プレートで、1mLの培養液で行った。
【0092】
(ポリリン酸の定性分析)
ポリリン酸の存在については次のようにDAPI染色により観察した。
培養液に最終濃度1%(w/v)になる様にglutaraldehydeを加えた後に、最終濃度が3μg/mLになる様にDAPIを加え、蛍光顕微鏡で観察した。
【0093】
(液胞の定性分析)
液胞の存在については次のようにキナクリン染色により観察した。
培養液に最終濃度が100mMになる様に1M Tris-HCl(pH 8.0)緩衝液を加えた後に、最終濃度が40μg/mLになる様にキナクリンを加え、15分間、室温で静置した。遠心後(1500g、5分)、上澄みを捨て、沈殿にMA培地を加え、37℃で30分静置し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0094】
[実施例1]
シアニジウム・エスピー HKN1(1倍体)(以下、「HKN1(1倍体)」と略記する場合がある)を、MA培地(培地(A))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、培地(a)、(b)、又は(c)を用いて7日間静置培養した(本培養)。本培養中、経時的に培地のOD
750を測定して、HKN1(1倍体)の生育状況を確認した。
また、HKN1(1倍体)をMA+0.3M NaCl(培地(B))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、培地(a)、(b)、又は(c)を用いて7日間静置培養した(本培養)。本培養中、経時的に培地のOD
750を測定して、HKN1(1倍体)の生育状況を確認した。
結果を表6及び
図1に示す。
図1は、表1に示すOD
750の変化をグラフにしたものである。
【0095】
【0096】
表6及び
図1に示すように、前培養が培地(A)であった場合、本培養が培地(a)及び培地(b)のときには同様の増殖を示したが、本培養が培地(c)のときには増殖しなかった。
一方、前培養が培地(B)であった場合、本培養が培地(c)のときでも、上記培地(a)及び培地(b)の場合と同様の増殖を示した。
【0097】
[実施例2]
天然海水としてナジーム10(表層の海水:日本QCE bluelab事業部)を使用した。MA培地の成分をそれぞれ海水(ナジーム10)に添加して、HKN1(1倍体)を培養し、MA培地中のどの成分がHKN1(1倍体)の生育に寄与するのかを確認した。
本培養に用いた培地を表7~8に示す。ナジーム10に、表7~8に示すMA培地成分を添加して、硫酸でpH2.0に調整し、培地1~17を調製した。なお、マグネシウム及びカルシウムは、海水中に豊富に存在するため、培地1~16では、MgSO4及びCaCl2を添加しなかった。培地17は、ポジティブコントロールとして、MA培地相当のMgSO4及びCaCl2を添加した。
【0098】
HKN1(1倍体)を培地(B)で1週間、前培養した後、培地1~17のいずれかの培地で10日間、本培養を行った。本培養10日後、培地のOD750を測定し、HKN1(1倍体)の生育状況を確認した。結果を表7~8に示す。
【0099】
【0100】
【0101】
表7~8に示すように、培地16及び培地17は同等の増殖を示した。これらの結果から、海水に、(NH4)2SO4、KH2PO4、A2 Fe stock、及びA2 trace metal elementを添加することにより、HKN1(1倍体)の生育に適した海水培地として使用できることが確認できた。
上記培地16の組成を表9に示す。以下の実施例で「海水培地」と表記するものは、表9に示す組成の培地である。表9中のA2 trace element及びA2 Fe stockは、それぞれ表2及び表3に示すものである。
【0102】
【0103】
[実施例3]
HKN1(1倍体)をMA+0.3M NaCl培地(培地(B))で1週間前培養し、MA+0.5M NaCl培地(ポジティブコントロール)(培地(c))又は海水培地で、7日間、本培養した。本培養中、経時的に培地のOD
750を測定して、HKN1(1倍体)の生育状況を確認した。
結果を表10及び
図2に示す。
図2は、表10に示すOD
750の変化をグラフにしたものである。
【0104】
【0105】
表10及び
図2に示すように、HKN1(1倍体)は、培地(c)及び海水培地のいずれの培地で本培養を行った場合でも同等の増殖を示した。
【0106】
[実施例4]
HKN1(1倍体)の生育に及ぼすpHの影響を確認するために、pHをpH2~7の間で変化させた海水培地をそれぞれ用意した。pHの調製は、硫酸又は水酸化カリウムを用いて行った。
HKN1(1倍体)をMA+0.3M NaCl(培地(B))で1週間前培養し、上述のようにpHを調整した各海水培地で、7日間、本培養した。本培養終了後、最終的な培地のOD
750を測定して、HKN1(1倍体)の生育状況を確認した。
結果を表11、及び
図3に示す。
図3は、表11に示すOD
750をグラフにしたものである。
【0107】
【0108】
表11及び
図3に示すように、HKN1(1倍体)は、pH6以下では増殖できるが、pH7では増殖できなかった。なお、一般的に、アンモニアを窒素源とする培地で藻類を増殖させると、藻類の増殖に伴いpHが低下するため、緩衝剤やアルカリ性物質を加えてpHを中性付近に維持する必要がある。しかしながら、好酸性のHKN1(1倍体)でpH調整の必要はなかった。
【0109】
[実施例5]
シアニジウム・エスピー HKN1(2倍体)(以下、「HKN1(2倍体)」と略記する場合がある)を、MA培地(培地(A))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、培地(a)、(b)、又は(c)を用いて7日間静置培養した(本培養)。本培養中、経時的に培地のOD
750を測定して、HKN1(2倍体)の生育状況を確認した。
また、HKN1(2倍体)をMA+0.3M NaCl(培地(B))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、培地(a)、(b)、又は(c)を用いて7日間静置培養した(本培養)。本培養中、経時的に培地のOD
750を測定して、HKN1(2倍体)の生育状況を確認した。
結果を表12及び
図4に示す。
図4は、表12に示すOD
750の変化をグラフにしたものである。
【0110】
【0111】
表12及び
図4に示すように、HKN1(2倍体)は、培地(A)及び培地(B)のいずれの培地で前培養を行った場合でも、培地(a)、培地(b)及び培地(c)の本培養で同等の増殖速度を示した。
【0112】
[実施例6]
HKN1(2倍体)をMA+0.3M NaCl培地(培地(B))で1週間前培養し、MA+0.5M NaCl培地(ポジティブコントロール)(培地(c))又は海水培地で、7日間、本培養した。本培養中、経時的に培地のOD
750を測定して、HKN1(2倍体)の生育状況を確認した。
結果を表13及び
図5に示す。
図5は、表13に示すOD
750の変化をグラフにしたものである。
【0113】
【0114】
表13及び
図5に示すように、HKN1(2倍体)は、培地(c)及び海水培地のいずれの培地で本培養を行った場合でも同等の増殖速度を示した。
【0115】
[実施例7]
シアニディオシゾン・メロラエ 10D(以下、「10D)」と略記する場合がある)を、MA培地(培地(A))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、培地(a)、(b)、又は(c)を用いて7日間静置培養した(本培養)。本培養中、経時的に培地のOD
750を測定して、10Dの生育状況を確認した。
また、10DをMA+0.3M NaCl(培地(B))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、培地(a)、(b)、又は(c)を用いて7日間静置培養した(本培養)。本培養中、経時的に培地のOD
750を測定して、10Dの生育状況を確認した。
結果を表14及び
図6に示す。
図6は、表14に示すOD
750の変化をグラフにしたものである。
【0116】
【0117】
表14及び
図6に示すように、10Dは、前培養が培地(A)であった場合、本培養が培地(a)及び培地(b)のときには同様の増殖を示した。一方、本培養が培地(c)のときには、本培養3日までは徐々にOD
750が低下したが、5日目に回復し、その後は培地(a)及び培地(b)と同等の増殖速度を示した。
一方、前培養が培地(B)であった場合、本培養が培地(c)のときでも、培養開始時から、上記培地(a)及び培地(b)の場合と同様の増殖を示した。
【0118】
[実施例8]
10DをMA+0.3M NaCl培地(培地(B))で1週間前培養し、MA+0.5M NaCl培地(ポジティブコントロール)(培地(c))又は海水培地で、7日間、本培養した。本培養中、経時的に培地のOD
750を測定して、10Dの生育状況を確認した。
結果を表15及び
図7に示す。
図7は、表15に示すOD
750の変化をグラフにしたものである。
【0119】
【0120】
表15及び
図7に示すように、10Dは、培地(c)及び海水培地のいずれの培地で本培養を行った場合でも同等の増殖速度を示した。
【0121】
[実施例9]
MA培地で1週間培養したHKN1(1倍体)を、OD
750=0.1となるようにMA培地に移植して、7日間、CO
2インキュベーター内(2%CO
2)で静置培養し、HKN1(1倍体)のMA培地培養品とした。 MA培地で1週間培養したHKN1(1倍体)を、MA培地+0.3M NaClで1週間前培養した後、MA培地+0.5M NaCl培地に移植し、7日間、CO
2インキュベーター内(2%CO
2)で静置培養した。これを、MA培地+0.5M NaCl培地培養品とした。
MA培地で1週間培養したHKN1(1倍体)を、MA培地+0.3M NaClで1週間前培養した後、海水培地に移植し、7日間、CO
2インキュベーター内(2%CO
2)で静置培養した。これを海水培地培養品とした。
各培地培養品について、DAPIによりポリリン酸の定性分析を、キナクリンにより液胞の定性分析を行った。
結果を
図8に示す。
MA培地培養品、MA培地+0.5M NaCl培地培養品、海水培地培養品をDAPIで染色したところ、MA培地培養品にのみポリリン酸が認められた。ポリリン酸が存在すると言われる液胞をキナクリンで染色したところ、液胞の染色のされ方に違いはなかった。
【0122】
[実施例10]
藻類としてHKN1(2倍体)を用いたこと以外は実施例9と同様にして培養して、MA培地培養品、MA培地+0.5M NaCl培地培養品、及び海水培地培養品の3種類の培養品を製造した。それぞれ、実施例9と同様に、DAPIによりポリリン酸の定性分析を、キナクリンにより液胞の定性分析を行った。
結果を
図9に示す。MA培地培養品にはポリリン酸が確認できなかったが、MA培地+0.5M NaCl培地培養品および海水培地培養品では、表層付近を中心にポリリン酸が観察された。また、ポリリン酸が存在すると言われる液胞はいずれの培養品も同様に観察された。
【0123】
[実施例11]
10Dを、MA培地(培地(A))又はMA+0.3M NaCl(培地(B))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、NaCl濃度を0~1000mMの間で変化させたMA培地で、7日間、本培養した。本培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、10Dの生育状況を確認した。結果を表16に示す。
また、培地(B)での前培養後、MA+0.5M NaCl培地(培地(c))で10Dを7日間本培養して得られた藻類細胞を、MA培地(培地(a))又はMA+0.5M NaCl培地(培地(c))に植え継ぎ、さらに7日間培養した。培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、10Dの生育状況を確認した。結果を表17に示す。
【0124】
本培養開始時及び植え継ぎ時の培地のOD750は0.1となるようにした。以下の実施例12~17でも同様とした。表17中、「式(1)-(A)」は、培地(A)で前培養した後、表に示すNaCl濃度で本培養した微細藻類の式(1)で算出した値を示す。「式(1)-(B)」は、培地(B)で前培養した後、表に示すNaCl濃度で本培養した微細藻類の式(1)で算出した値を示す。以下、実施例12~17でも同様である。OD750が<0.1であるものは、式(1)で値を算出できないため、「-」とした。
【0125】
【0126】
【0127】
表16に示すように、培地(B)で前培養したものでは、培地(A)で前培養したものと比較して、NaCl 0mMの培地で本培養した場合の増殖が抑制された。一方、500mM以上の高NaCl濃度では、培地(A)で前培養したものでは、増殖が認められなかったのに対し、培地(B)で前培養したものでは500mMの高塩濃度でも増殖が確認された。
【0128】
表17に示すように、培地(c)で本培養した後、培地(a)に植え継いだものでは増殖が抑制されたが、培地(c)に植え継いだものでは、良好な増殖が見られた。
また、培地(c)で本培養して得られた藻類細胞は、培養液を遠心後に藻類細胞を回収し、pH7の蒸留水に投入したところ、細胞が破裂することが確認された。
【0129】
[実施例12]
HKN1(1倍体)を、MA培地(培地(A))又はMA+0.3M NaCl(培地(B))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、NaCl濃度を0~1000mMの間で変化させたMA培地で、7日間、本培養した。本培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、HKN1(1倍体)の生育状況を確認した。結果を表18に示す。
【0130】
また、培地(B)での前培養後、MA+0.5M NaCl培地(培地(c))でHKN1(1倍体)を7日間本培養して得られた藻類細胞を、MA培地(培地(a))又はMA+0.5M NaCl培地(培地(c))に植え継ぎ、さらに7日間培養した。培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、HKN1(1倍体)の生育状況を確認した。結果を表19に示す。
【0131】
【0132】
【0133】
表18に示すように、培地(B)で前培養したものでは、NaCl 0mMの培地で本培養した場合の増殖が認められなかった。一方、400mM以上の高NaCl濃度では、培地(A)で前培養したものでは、増殖が認められなかったのに対し、培地(B)で前培養したものでは400mM以上の高塩濃度でも増殖が確認された。
【0134】
表19に示すように、培地(c)で本培養した後、培地(a)に植え継いだものでは増殖が抑制されたが、培地(c)に植え継いだものでは、良好な増殖が見られた。
【0135】
[実施例13]
HKN1(2倍体)を、MA培地(培地(A))又はMA+0.3M NaCl(培地(B))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、NaCl濃度を0~1000mMの間で変化させたMA培地で、7日間、本培養した。本培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、HKN1(2倍体)の生育状況を確認した。結果を表20に示す。
【0136】
また、培地(B)での前培養後、MA+0.5M NaCl培地(培地(c))でHKN1(2倍体)を7日間本培養して得られた藻類細胞を、MA培地(培地(a))又はMA+0.5M NaCl培地(培地(c))に植え継ぎ、さらに7日間培養した。培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、HKN1(2倍体)の生育状況を確認した。結果を表21に示す。
【0137】
【0138】
【0139】
表20に示すように、培地(B)で前培養したものでは、培地(A)で前培養したものと比較して、NaCl低濃度の培地で本培養した場合の増殖が若干抑制される傾向にあった。一方、800mM以上の高NaCl濃度では、培地(A)で前培養したものでは、増殖が認められなかったのに対し、培地(B)で前培養したものでは800mM以上の高塩濃度でも増殖が確認された。
【0140】
表21に示すように、培地(c)で本培養した後、培地(a)に植え継いだもの及び培地(c)に植え継いだもののいずれも、良好な増殖が見られた。
【0141】
[実施例14]
Galdieria partita (NBRC 102759)(1倍体)を、MA培地(培地(A))又はMA+0.3M NaCl(培地(B))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、NaCl濃度を0~1000mMの間で変化させたMA培地で、7日間、本培養した。本培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、G. partita(1倍体)の生育状況を確認した。結果を表22に示す。
【0142】
また、培地(B)での前培養後、MA+0.5M NaCl培地(培地(c))でG. partita(1倍体)を7日間本培養して得られた藻類細胞を、MA培地(培地(a))又はMA+0.5M NaCl培地(培地(c))に植え継ぎ、さらに7日間培養した。培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、G. partita(1倍体)の生育状況を確認した。結果を表23に示す。
【0143】
【0144】
【0145】
表22に示すように、培地(B)で前培養したものでは、培地(A)で前培養したものと比較して、NaCl 0mMの培地で本培養した場合の増殖が抑制された。一方、700mM以上の高NaCl濃度では、培地(B)で前培養したものは、培地(A)で前培養したものと比較して、増殖抑制率が低かった。
【0146】
表23に示すように、培地(c)で本培養した後、培地(a)に植え継いだものでは増殖が抑制されたが、培地(c)に植え継いだものでは、良好な増殖が見られた。
【0147】
[実施例15]
G. partita(2倍体)を、MA培地(培地(A))又はMA+0.3M NaCl(培地(B))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、NaCl濃度を0~1000mMの間で変化させたMA培地で、7日間、本培養した。本培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、G. partita(2倍体)の生育状況を確認した。結果を表24に示す。
【0148】
また、培地(B)での前培養後、MA+0.5M NaCl培地(培地(c))でG. partita(2倍体)を7日間本培養して得られた藻類細胞を、MA培地(培地(a))又はMA+0.5M NaCl培地(培地(c))に植え継ぎ、さらに7日間培養した。培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、G. partita(2倍体)の生育状況を確認した。結果を表25に示す。
【0149】
【0150】
【0151】
表24に示すように、培地(B)で前培養したものでは、培地(A)で前培養したものと比較して、高NaCl濃度の培地での増殖が向上する傾向があった。
【0152】
表25に示すように、培地(c)で本培養した後、培地(a)に植え継いだもの及び培地(c)に植え継いだもののいずれも、良好な増殖が見られた。
【0153】
[実施例16]
Galdieria sulphuraria(SAG108.79)(1倍体)を、MA培地(培地(A))又はMA+0.3M NaCl(培地(B))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、NaCl濃度を0~1000mMの間で変化させたMA培地で、7日間、本培養した。本培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、G. sulphuraria(1倍体)の生育状況を確認した。結果を表26に示す。
【0154】
また、培地(B)での前培養後、MA+0.5M NaCl培地(培地(c))でG. sulphuraria(1倍体)を7日間本培養して得られた藻類細胞を、MA培地(培地(a))又はMA+0.5M NaCl培地(培地(c))に植え継ぎ、さらに7日間培養した。培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、G. sulphuraria(1倍体)の生育状況を確認した。結果を表27に示す。
【0155】
【0156】
【0157】
表26に示すように、培地(B)で前培養したものでは、培地(A)で前培養したものと比較して、NaCl 0mMの培地で本培養した場合の増殖が抑制された。一方、700mM以上の高NaCl濃度では、培地(A)で前培養したものでは、増殖が認められなかったのに対し、培地(B)で前培養したものでは700mM以上の高塩濃度でも増殖が確認された。
【0158】
表27に示すように、培地(c)で本培養した後、培地(a)に植え継いだものでは増殖が抑制されたが、培地(c)に植え継いだものでは、良好な増殖が見られた。
【0159】
[実施例17]
G. sulphuraria(2倍体)を、MA培地(培地(A))又はMA+0.3M NaCl(培地(B))を用いて1週間前培養した。前記前培養後、NaCl濃度を0~1000mMの間で変化させたMA培地で、7日間、本培養した。本培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、G. sulphuraria(2倍体)の生育状況を確認した。結果を表28に示す。
【0160】
また、培地(B)での前培養後、MA+0.5M NaCl培地(培地(c))でG. sulphuraria(2倍体)を7日間本培養して得られた藻類細胞を、MA培地(培地(a))又はMA+0.5M NaCl培地(培地(c))に植え継ぎ、さらに7日間培養した。培養終了後、最終的な培地のOD750を測定して、G. sulphuraria(2倍体)の生育状況を確認した。結果を表29に示す。
【0161】
【0162】
【0163】
表28に示すように、培地(B)で前培養したものでは、培地(A)で前培養したものと比較して、高NaCl濃度の培地での増殖が向上する傾向があった。
【0164】
表29に示すように、培地(c)で本培養した後、培地(a)に植え継いだもの及び培地(c)に植え継いだもののいずれも、良好な増殖が見られた。
【0165】
上記の結果を総合すると、1倍体の淡水産微細藻類では、0.3MのNaCl濃度で前培養を行うことにより、0MのNaClで前培養したときと比較して、0.5M以上のNaCl濃度で本培養したときの増殖が向上することが確認された。これにより、前記式(1)で算出される値が2以上となった。また、0.3M以上のNaCl濃度で培養を行った後は、0MのNaClで前培養したときと比較して、0MのNaCl濃度での増殖が抑制されることが確認された。また、0.3MのNaCl濃度で前培養を行うことにより、0MのNaCl濃度の培地での増殖速度よりも、0.5MのNaCl濃度の培地での増殖速度が上昇する傾向にあった。また、0.5MのNaCl濃度で本培養した後、0.5MのNaCl濃度の培地への植え継ぎが可能なことも確認された。
また、0.3MのNaCl濃度で前培養を行うことにより、1倍体の淡水産微細藻類でも、500~1000mMの高NaCl濃度の範囲で増殖可能であることが確認された。屋外培養を想定した場合、水の蒸発や、雨水の流入により、培養中に塩濃度が変動することが考えられる。上記の結果より、0.3MのNaCl濃度で前培養したイデユコゴメ綱に属する微細藻類の1倍体は、塩濃度の変動に対する寛容性を示し、屋外培養に十分耐えることが示された。
【0166】
[実施例18]
HKN1(1倍体)を、MA+0.3M NaCl培地(培地(B))で7日間前培養した後、さらに海水培地で1週間前培養した。次いで、前記のHKN1(1倍体)を、10Lの海水培地に植え継いで本培養を行った。本培養は、ビニールハウス中で行い、光、温度及びCO
2濃度の制御は行わなかった。本培養は、通気培養で行い、培養期間は、2019年5月13日~2019年7月1日とした。定期的に培養液をサンプリングし、750nmの吸光度を測定した。その結果を
図10に示す。
図10に示すように、10Lのスケールでも、海水培地で良好に増殖できることが確認された。
【0167】
[実施例19]
HKN1(1倍体)を、MA培地、MA+0.3M NaCl培地、又はMA+0.5 NaCl培地で7日間培養した。2mLの培地に懸濁したときに、OD750=1となる量の藻類細胞を含む培養液を3本のマイクロチューブに回収した。培養液の遠心分離(1500×g、5分)を行い、上清を除去し、ペレットを回収した。ペレットとして回収した各藻類細胞を、下記処理1~3のいずれかで処理した。
処理1:MA培地2mLに懸濁し、ボルテックスで10分間振盪した。
処理2:前記培養に用いた培地と同じ培地2mLに懸濁し、ボルテックスで10分間振盪した。
処理3:前記培養に用いた培地と同じ培地0.1mLに懸濁後、-196℃で凍結し、前記培養に用いた培地と同じ培地で2mLとなるようにメスアップし、ボルテックスで10分間振盪した。
【0168】
藻類細胞が壊れると、細胞内容物が培地中に放出され、フィコシアニン(PC)が酸性の培地に晒されて退色する。凍結処理(処理3)により、藻類細胞が100%死滅すると仮定し、下記式により処理1による藻類細胞の死滅率を算出した。
【0169】
死滅率(%)={(処理2後のPC濃度-処理1後のPC濃度)/(処理2後PC濃度-処理3後のPC濃度)}×100
【0170】
PC濃度は、積分球(ISR-2600Plus;島津製作所)を取り付けた分光光度計(UV-2600;島津製作所)を用いて、620nm及び678nmの吸光度を測定することにより測定した。PC濃度は、以下の式により算出した。
PC濃度(μg/ml)=138.5×A620-35.49×A678
【0171】
結果を表30に示す。
【0172】
【0173】
表30に示すように、MA+0.3M NaCl培地又はMA+0.5M NaCl培地で培養した藻類細胞は、MA培地への再懸濁により細胞が壊れやすくなっていることが確認された。
【0174】
[実施例20]
HKN1(1倍体)に替えて10Dを用いたこと以外は、実施例19と同様の方法で、前記処理1による藻類細胞の死滅率を算出した。その結果を表31に示す。
【0175】
【0176】
表31に示すように、MA+0.3M NaCl培地又はMA+0.5M NaCl培地で培養した藻類細胞は、MA培地への再懸濁により細胞が壊れやすくなっていることが確認された。また、MA+0.3M NaCl培地で培養した藻類細胞に比べて、MA+0.5M NaCl培地で培養した藻類細胞の方が、死滅率が高くなった。
【0177】
[実施例21]
HKN1(1倍体)に替えてG. partita(1倍体)を用いたこと以外は、実施例19と同様の方法で、前記処理1による藻類細胞の死滅率を算出した。その結果を表32に示す。
【0178】
【0179】
表32に示すように、MA+0.3M NaCl培地又はMA+0.5M NaCl培地で培養した藻類細胞は、MA培地への再懸濁により細胞が壊れやすくなっていることが確認された。また、MA+0.3M NaCl培地で培養した藻類細胞に比べて、MA+0.5M NaCl培地で培養した藻類細胞の方が、死滅率が高くなった。
【0180】
[実施例22]
HKN1(1倍体)に替えてG. sulphuraria(1倍体)を用いたこと以外は、実施例19と同様の方法で、前記処理1による藻類細胞の死滅率を算出した。その結果を表33に示す。
【0181】
【0182】
表33に示すように、MA+0.3M NaCl培地又はMA+0.5M NaCl培地で培養した藻類細胞は、MA培地への再懸濁により細胞が壊れやすくなっていることが確認された。また、MA+0.3M NaCl培地で培養した藻類細胞に比べて、MA+0.5M NaCl培地で培養した藻類細胞の方が、死滅率が高くなった。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明によれば、低pH且つ高ナトリウムイオン濃度環境下で淡水産微細藻類を良好に増殖させることができる淡水産微細藻類の培養方法、低pH且つ高ナトリウムイオン濃度環境下で良好に増殖可能な淡水産微細藻類、及び当該淡水産微細藻類の生産方法が提供される。
本発明によれば、安価に入手できる海水により淡水酸微細藻類を大量に培養することができるので、藻類を利用した有用物質の生産に有用である。さらに、淡水酸微細藻類が大量に培養されれば、それによって大気中の二酸化炭素を吸収することも期待される。