(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】組織および細胞凝集体の解離および単一細胞の濃縮のためのマイクロ流体濾過デバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
C12M 3/08 20060101AFI20240318BHJP
B01D 29/01 20060101ALI20240318BHJP
B32B 5/02 20060101ALI20240318BHJP
B32B 27/02 20060101ALI20240318BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C12M3/08
B01D29/04 510B
B01D29/04 510D
B01D29/04 510E
B01D29/04 530A
B32B5/02 Z
B32B27/02
B32B27/34
(21)【出願番号】P 2020566610
(86)(22)【出願日】2019-05-29
(86)【国際出願番号】 US2019034470
(87)【国際公開番号】W WO2019232100
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-13
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592110646
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】ハウン,ジェレッド
(72)【発明者】
【氏名】チォウ,シャオロン
(72)【発明者】
【氏名】ぺネル,マリッサ ノエラニ
(72)【発明者】
【氏名】フゥイ,エリオット イー.
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2012-0042531(KR,A)
【文献】再公表特許第2009/016842(JP,A1)
【文献】特開2016-052300(JP,A)
【文献】特開2016-195589(JP,A)
【文献】特開2014-113064(JP,A)
【文献】再公表特許第2017/057234(JP,A1)
【文献】特開2015-012839(JP,A)
【文献】国際公開第2018/003476(WO,A1)
【文献】特表2012-501245(JP,A)
【文献】特表2007-501633(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104261(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00- 7/08
B01J 10/00-19/32
B01D 23/00-37/08
B32B 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ流体組織解離濾過デバイスにおいて、
上流位置で第1のマイクロ流体チャネルに結合された入口であって、前記第1のマイクロ流体チャネルは下流位置で第1の出口に結合されており、前記第1のマイクロ流体チャネルは前記マイクロ流体組織解離濾過デバイスの第1の層に配置されている、入口と、
前記マイクロ流体デバイスの第2の層内に配置された第2のマイクロ流体チャネルと、
前記第1のマイクロ流体チャネルと前記第2のマイクロ流体チャネルとの間に挿入された第1の濾過膜であって、前記第2のマイクロ流体チャネルは、前記第1の濾過膜を含む接続通路によって前記第1のマイクロ流体チャネルと流体連通している、第1の濾過膜と、
前記第2のマイクロ流体チャネルの下流位置に結合された第2の出口と、
前記第2の出口と前記第2のマイクロ流体チャネルとの間に挿入された第2の濾過膜と、
を具え、前記第1の濾過膜が
25~50μmの範囲の直径を有する細孔を有し、前記第2の濾過膜が
10~15μmの範囲の直径を有する細孔を有
することを特徴とするマイクロ流体組織解離濾過デバイス。
【請求項2】
前記第1の層および前記第2の層を含む複数の層で形成された積層構造を具える、請求項1に記載のマイクロ流体組織解離濾過デバイス。
【請求項3】
前記第1の濾過膜が50μmの細孔径を有し、前記第2の濾過膜が15μmの細孔径を有する、請求項1に記載のマイクロ流体組織解離濾過デバイス。
【請求項4】
前記接続通路は第3またはそれ以上のさらなる層に形成される、請求項
1に記載のマイクロ流体組織解離濾過デバイス。
【請求項5】
前記入口、前記第1の出口、または前記第2の出口のうちの1以上に結合されたポンプをさらに備える、請求項1に記載のマイクロ流体組織解離濾過デバイス。
【請求項6】
前記第1の濾過膜および前記第2の濾過膜が、織りメッシュポリマー糸の単層を含む、請求項1に記載のマイクロ流体組織解離濾過デバイス。
【請求項7】
前記第1の濾過膜および前記第2の濾過膜が、ポリアミド糸から形成されている、請求項
6に記載のマイクロ流体組織解離濾過デバイス。
【請求項8】
請求項1に記載のマイクロ流体組織解離濾過デバイスを使用する方法において、刻まれた組織のサンプルを含んだ溶液を入口に流すステップを含む方法。
【請求項9】
請求項1に記載のマイクロ流体組織解離濾過デバイスを使用する方法において、前記第1の出口のアウトプットが前記入口に再循環される、方法。
【請求項10】
請求項1に記載のマイクロ流体組織解離濾過デバイスを使用する方法において、前記第1の出口および前記第2の出口のうちの少なくとも1つからのアウトプットが生細胞を含んでいる、方法。
【請求項11】
マイクロ流体組織解離濾過デバイスにおいて、
上流位置で第1のマイクロ流体チャネルに結合された入口であって、前記第1のマイクロ流体チャネルは下流位置で第1の出口に結合されており、前記第1のマイクロ流体チャネルは、前記マイクロ流体組織解離濾過デバイスの第1の層に配置されている、入口と、
前記マイクロ流体デバイスの第2の層内に配置された第2のマイクロ流体チャネルと、
前記第1のマイクロ流体チャネルと前記第2のマイクロ流体チャネルとの間に挿入され
、25~50μmの範囲の直径を有する細孔を有する第1の濾過膜であって、前記第2のマイクロ流体チャネルは前記第1の濾過膜を含む接続通路によって前記第1のマイクロ流体チャネルと流体連通している、第1の濾過膜と、
前記第2のマイクロ流体チャネルの下流位置に結合された第2の出口と、
前記第2の出口と前記第2のマイクロ流体チャネルとの間に挿入され
、10~15μmの範囲の直径を有する細孔を有する第2の濾過膜と、
前記マイクロ流体組織解離濾過デバイスの異なる層に配置された1つまたは複数の追加のマイクロ流体チャネルであって、当該1つまたは複数の追加のマイクロ流体チャネルのはそれぞれ、自身に結合されたそれぞれの出口と、隣接するマイクロ流体チャネルの間に挿入されたそれぞれの濾過膜を有する、1つまたは複数の追加のマイクロ流体チャネルと
を具えることを特徴とするマイクロ流体組織解離濾過デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
[0001]この出願は、2018年5月30日に出願された米国仮特許出願番号62/678,171の優先権を主張するものであり、これは参照により本明細書に組み込まれる。優先権は、35U.S.C.§119およびその他の該当する法令に従って主張される。
【0002】
技術分野
[0002]この技術分野は、一般に、組織断片および細胞凝集体から単一細胞を取得するためのマイクロ流体デバイスおよび方法に関する。より具体的に、本発明は、大きな組織断片を同時に濾過し、小さな凝集体を単一細胞に解離し、それによって単一細胞の収量および純度を改善する安価なマイクロ流体デバイスに関する。
【0003】
連邦政府が後援する研究開発に関する声明
[0003]本発明は、米国立科学財団によって授与された助成金番号IIP1362165の下で政府の支援を受けて行われた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0004】
[0004]複雑な組織について、多様性をカタログ化し希少なドライバ細胞を特定する努力のために、単一細胞レベルでの分析がますます増加している。この分析は、例えばHuman Cell Atlasイニシアチブによって推進されているように、組織または臓器の生物学理解を高め、固形腫瘍を含む主要な疾患の診断と治療を改善するために利用可能な包括的な細胞調査を提供し得る。フローサイトメトリ、マスサイトメトリ、シングルセルRNAシーケンスなどの細胞ベースの診断技術は、上記目標を達成するために理想的な位置にあるが、最初に組織を単一細胞の懸濁液へと分解する必要があるという主な制限がある。従来、組織は、メスで細かく刻み、タンパク質分解酵素で消化し、ピペットで機械的に解離および/またはボルテックスの後に、セルストレーナーで濾過して残りの凝集体を除去することによって解離されていた。組織の解離を自動化および改善するためにマイクロ流体技術が最近開発され、これには鋭い表面エッジ、ポストアレイ、および流体力学的流体ジェットを生成する分岐チャネルネットワークを用いるオンチップ消化・分解が含まれる。
【0005】
[0005]これらのデバイスによって処理速度と単一細胞の収量が改善されたが、処理後には常にかなりの数の小さな凝集体が残ることが分かっている。大きな組織断片と細胞凝集体は、通常、孔径35~80μmのNylon(商標名)メッシュフィルタを含むセルストレーナーを使用して、消化された組織サンプルから除去される。これらの細孔は、小さな凝集体やクラスタが単一細胞とともに通過するのに十分な大きさである。より小さな孔径のセルストレーナーも利用可能だが、それらは一般に単一細胞を失うことへの懸念から避けられている。解離力を強化するかオンチップ分離メカニズムを提供することによってこれらの凝集体を排除できれば、単一細胞懸濁液の品質が向上し、すぐに下流での分析が可能になる。
【発明の概要】
【0006】
[0006]一実施形態では、マイクロ流体組織解離濾過デバイスが提供され、上流位置で第1のマイクロ流体チャネルに結合された入口を具え、この第1のマイクロ流体チャネルは下流位置で第1の出口に結合されている。第1の濾過膜が、第1のマイクロ流体チャネルと第2のマイクロ流体チャネルとの間に挿入され、当該第2のマイクロ流体チャネルは、第1の濾過膜を介して第1のマイクロ流体チャネルと流体連絡している。第2の出口が、第2のマイクロ流体チャネルの下流位置に結合されている。第1の出口は、第1の濾過膜を通過しない流体および内容物を通すのに対応し、第2の出口は、第1の濾過膜を通過する流体および細胞またはより小さな細胞凝集体を通すのに対応する。いくつかの実施形態では、第2のマイクロ流体チャネルは、第2の出口と第2のマイクロ流体チャネルとの間に挿入された第2の濾過膜を具える。第2の濾過膜は、好ましくは第1の濾過膜に含まれる孔径よりも小さい孔径を含み、さらなる濾過を行うことができる。
【0007】
[0007]一実施形態では、マイクロ流体組織解離濾過デバイスは、積層構造を作るように互いに結合または他の方法で接着された複数の別個の基板または層から作製され得る。これらの基板または層は、ポリマベースであり、次に互いに接着して、複数の層からなる最終的なモノリシック構造を作ることができる。第1のマイクロ流体チャネルはこれらの層の1つ(または複数)に配置され、第2のマイクロ流体チャネルは1つ(または複数)の異なる層に配置され得る。他の層に形成されたビア、穴、または開口を用いて、第1のマイクロ流体チャネルと第2のマイクロ流体チャネル(またはさらなるチャネル)を流体接続するとともに、それぞれの濾過膜を保持することができる。
【0008】
[0008]マイクロ流体デバイス内に濾過膜を配置すると、ホールドアップ量が最小限に抑えられ、洗浄効率が向上する。さらに、マイクロ流体組織解離濾過デバイスは、高流量(>10mL/分)で運用することができ、他の流体力学的組織消化および凝集体解離技術と容易に統合することができる。
【0009】
[0009]一実施形態では、濾過膜は、織りメッシュを形成するポリマー糸から作製される。例えば、濾過膜は、明確に規定されたミクロンサイズの細孔を形成するポリアミド糸から作られ得る。利用される特定の細孔径は、濾過される細胞の性質に依存し得る。典型的には、細孔のサイズは、約5μm~約1,000μmであり、より好ましくは約10μm~約1,000μmまたは約5μm~約100μmである。一実施形態では、第1の濾過膜は直径d1を有する細孔を有し、第2の濾過膜は直径d2を有する細孔を有し、ここでd1>d2である。例えば一実施形態では、第1の濾過膜は15μm~1,000μmの直径を有する細孔を有し、一方で第2の濾過膜は5μm~100μmのより小さな直径の細孔を有する。この後者の実施形態は、マルチステージのマイクロ流体組織解離濾過デバイスを含む。より小さな血液細胞からの循環腫瘍細胞(CTC)のサイズベースの分離の場合、一実施形態では、細孔径は5~10μmであり得る。流量は、用途に応じて広範囲の流量に及び得る。例えば、マイクロ流体組織解離濾過デバイスを使用したCTC濾過の場合、流量は全血のmL/時から希釈血液の10mL/分の範囲になる。脂肪組織などの他の組織の場合、より大きな細孔、例えば500μm~1,000μmの細孔を用いることができる。
【0010】
[0010]一実施形態では、マイクロ流体組織解離濾過デバイスは、孔径が5~50μmのポリアミド(例えば、ナイロン(商標名))メッシュ膜を、レーザー微細加工式、積層プラスチック式、またはポリマベースのマイクロ流体デバイスに統合する。マイクロ流体組織解離濾過デバイスは、試料が濾過膜を通過する従来の直接濾過モード、または膜の目詰まりを防止するためにクロスフローを利用してタンジェンシャル濾過モード、あるいはその両方の組み合わせの下で動作し得る。癌細胞株を使用して、10μm以下の細孔を持つNylon(商標名)膜は、高流量(mL/分)で運用した場合でも、4つ以上の細胞からなる凝集体をすべて除去することが実証された。しかしながら、細胞2~3個のクラスタの中には、5μmという小さな細孔を通過するものもある。興味深いことに、単一細胞の数は、細胞よりも小さい細孔径を通過した後に5倍も大幅に増加することが観察されたが、これは細胞の損傷とも相関している。また、解離は膜を通過する流量にわずかに依存するだけであるが、これはタンジェンシャル濾過モードでのクロスフローの存在によって大幅に減少することもわかった。
【0011】
[0011]別の実施形態において、単一細胞の回収および純度は、凝集体が徐々に小さなサイズへと分解されるように、2つの濾過デバイスを直列に結合することによって向上した。結果は主に第2の膜の細孔径と相関しており、これはより小さく直接濾過モードで常に使用されるものである。次に、細かく切り刻んだマウス腎臓組織サンプルを使用して、パフォーマンスを最適化した。50μmと15μmの細孔径の膜の組み合わせが最も単一細胞を生成することがわかった。最後に、50μm(第1の濾過膜)と15μm(第2の濾過膜)の細孔径の膜を単一のマイクロ流体組織解離濾過デバイスに統合し、マウスの腎臓、肝臓、および乳房腫瘍組織サンプルを使用して結果を検証した。細かく切り刻み、コラゲナーゼで消化した後、二重膜マイクロ流体組織解離濾過デバイスは、細胞の生存率を維持し、凝集体を減少させながら、単一細胞の収量を少なくとも3倍、場合によっては10倍以上増加させた。最も驚くべきことに、このマイクロ流体組織解離濾過デバイスを使用すると、15分の短い消化期間の後、60分の消化と同数の単一細胞が生成される。この方法で処理時間を短縮すると、以降の分子分析のために、細胞の生存率、表現型、および分子シグネチャーを維持するのに役立つ。二重膜マイクロ流体濾過デバイスは、ハイドロミンチや分岐チャネルアレイなどの上流の組織処理技術と統合して、さまざまな組織タイプの解離速度と効率を最大化することができる。このデバイスは、二重膜マイクロ流体濾過デバイスを追加の上流組織処理技術、および細胞の選別や検出などの下流操作と統合することにより、完全な組織分析プラットフォームを作成するために利用することができる。
【0012】
[0012]一実施形態において、マイクロ流体組織解離濾過デバイスは、上流位置で第1のマイクロ流体チャネルに結合された入口を具え、当該第1のマイクロ流体チャネルは下流位置で第1の出口に結合されており、前記第1のマイクロ流体チャネルと第2のマイクロ流体チャネルの間に第1の濾過膜が挿入されており、前記第2のマイクロ流体チャネルは前記第1の濾過膜を介して前記第1のマイクロ流体チャネルと流体連通している。第2の出口が、前記第2のマイクロ流体チャネルの下流位置に結合されている。
【0013】
[0013]別の実施形態において、マイクロ流体組織解離濾過デバイスは、上流位置で第1のマイクロ流体チャネルに結合された入口を具え、当該第1のマイクロ流体チャネルは下流位置で第1の出口に結合されており、前記第1のマイクロ流体チャネルは前記マイクロ流体組織解離濾過デバイスの第1の層に配置されている。このデバイスは、当該マイクロ流体デバイスの第2の層内に配置された第2のマイクロ流体チャネルと、前記第1のマイクロ流体チャネルと第2のマイクロ流体チャネルとの間に挿入された第1の濾過膜とを具え、ここで前記第2のマイクロ流体チャネルは、前記第1の濾過膜を有する接続通路によって前記第1のマイクロ流体チャネルと流体連通している。第2の出口が、前記第2のマイクロ流体チャネルの下流位置に結合されており、第2の濾過膜が、前記第2の出口と前記第2のマイクロ流体チャネルとの間に挿入されている。
【0014】
[0014]別の実施形態において、マイクロ流体組織解離濾過デバイスは、上流位置で第1のマイクロ流体チャネルに結合された入口を具え、当該第1のマイクロ流体チャネルは下流位置で第1の出口に結合されており、前記第1のマイクロ流体チャネルは前記マイクロ流体組織解離濾過デバイスの第1の層に配置されている。第2のマイクロ流体チャネルが前記マイクロ流体デバイスの第2の層内に配置され、第1の濾過膜が、前記第1のマイクロ流体チャネルと前記第2のマイクロ流体チャネルとの間に挿入され、ここで前記第2のマイクロ流体チャネルは、前記第1の濾過膜を有する接続通路によって前記第1のマイクロ流体チャネルと流体連通している。このデバイスは、前記第2のマイクロ流体チャネルの下流位置に結合された第2の出口と、当該第2の出口と前記第2のマイクロ流体チャネルとの間に挿入された第2の濾過膜とを具える。このデバイスはさらに、前記マイクロ流体組織解離濾過デバイスの異なる層に配置された1つまたは複数の更なるマイクロ流体チャネルを具え、当該1つまたは複数の更なるマイクロ流体チャネルのそれぞれは、自身に結合されたそれぞれの出口と、隣接するマイクロ流体チャネル間に挿入されたそれぞれの濾過膜とを有する。この実施形態では、前記マイクロ流体組織解離濾過デバイスは、合計3、4、5、6、7、8、9、10などの濾過膜を具え得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】[0015]
図1Aは、直列に2つのフィルタを具える一実施形態に係るマイクロ流体組織解離濾過デバイスの断面図を示す。
【
図1B】[0016]
図1Bは、1つのフィルタを具える一実施形態に係るマイクロ流体組織解離濾過デバイスの断面図を示す。
【
図1C】[0017]
図1Cは、直列に3つのフィルタを具える一実施形態に係るマイクロ流体組織解離濾過デバイスの断面図を示す。
【
図1D】[0018]
図1Dは、単一のフィルタを用いたマイクロ流体組織解離デバイスの部分断面斜視図を示す。
【
図1F】[0020]
図1Fは、単一のフィルタを用いたマイクロ流体組織解離デバイスの上面図と、マイクロ流体組織解離デバイスを形成するために用いられる様々な基板/層を示す分解図を示す。
【
図1G】[0021]
図1Gは、2つのフィルタを用いたマイクロ流体組織解離デバイスの部分断面斜視図を示す。
【
図1H】[0022]
図1Hは、
図1Gのマイクロ流体組織解離デバイスを構成するのに用いられる様々な基板/層を示す分解図を示す。
【
図2】[0023]
図2は、ナイロン(商標名)メッシュ膜の顕微鏡写真を示し、高い細孔密度および均一性を備えた格子ネットワークを示す。細孔径は(左から右へ)直径50、25、15、10、および5μmである。
【
図3A】[0024]
図3Aは、単一の細胞、クラスタ、および凝集体が、顕微鏡写真から定量化され、表示された細孔径を有する1つの膜を具える濾過デバイスを通過する前(対照)および通過後の総集団のパーセントとしてプロットされたグラフを示す。デバイスは、12.5mL/分の流量で直接濾過モードで運用された。凝集体とクラスタが取り除かれ、これは細孔径が小さくなるにつれて効率が上がり、単一細胞が30%未満から始まり最大85%に達するまで行われた。
【
図3B】[0025]
図3Bは、細胞カウンタを用いて定量化され、対照によって正規化された単一細胞数のグラフを示す。5、10、および15μmの細孔径で濾過した後に単一細胞の回収が有意に多くなり、凝集体が単一細胞へと解離したことを示している。
【
図3C】[0026]
図3Cは、細孔径の関数としての生存率のグラフを示す。生存率はヨウ化プロピジウム排除アッセイによって決定され、細孔径とともに減少している。
【
図3D】[0027]
図3Dは、低流速(膜を通る直接流)での細孔径の関数としての正規化された単一細胞数のグラフを示し、これは一般に、より少ない単一細胞数となった。
【
図3E】[0028]
図3Eは、低流速(膜を通る直接流)での細孔径の関数としての生存率のグラフを示し、変化はわずかであったが、一般により高い生存率となった。
【
図3F】[0029]
図3Fは、異なるクロスフロー比(40~80%)を用いたタンジェンシャル濾過実験の細孔径の関数としての正規化された単一細胞数のグラフを示し、その結果12.5mL/分での直接流実験よりも単一細胞数が大幅に減少した。
図3A~3Fすべてにおいて、エラーバーは、少なくとも3つの独立した実験からの標準誤差を表す。*は、コントロールに対してp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【
図4A】[0030]
図4Aは、5、10、および15μmの濾過膜(直列に組み合わされた)の様々な組み合わせについての細孔径の関数としての集団割合のグラフを示す。デバイスはチューブで接続され、12.5mL/分の流量で直接濾過モードで運用された。大小の凝集体母集団が、すべてのフィルタデバイスの組み合わせから取り除かれた。
【
図4B】[0031]
図4Bは、細孔径の関数としての単一細胞(正規化)(単一細胞回収)のグラフを示す。
【
図4C】[0032]
図4Cは、細孔径の関数としての生存率のグラフを示す。単一細胞の回収率と生存率は、一般に、5および10μmの膜のみの単一フィルタによる直接濾過実験と同様であった。15-15膜デバイスの組み合わせは、15μm細孔膜のみよりも単一細胞数が多かった。
【
図4D-F】[0033]
図4D~4Fは、60%のクロスフローおよび12.5mL/分の総流量で、25または50μmの膜、続いて10または15μmの膜を使用したタンジェンシャル濾過実験の結果を示す。
図4Dの結果は単一細胞、クラスタ、および凝集体を示す。
図4Eは単一細胞の回収を示し、
図4Fは、生存率がすべて、主に第2の膜の細孔径によって決定されることを示している。エラーバーは、少なくとも3回の独立試行からの標準誤差を表す。*は、コントロールに対してp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【
図5】[0034]
図5A~5Eは、細かく切り刻み、コラゲナーゼで消化した新たに採取された腎臓組織を、直列結合された2つの濾過デバイスに通した結果を示す。
図5Aおよび5Bは、直接またはタンジェンシャル(60%クロスフロー)濾過モード下で実施された、10または15μmの膜と組み合わされた25または50μmの膜の評価を示す。単一細胞数は、細胞カウンタを用いて特定された。
図5Aに見られるように、15分の消化後、デバイス処理により、すべての膜の組み合わせと濾過モードで単一細胞の回収率が2~4倍増加した。挿入画像は、細孔径50μmの膜で捕捉された組織を示す。
図5Bは、デバイス処理により、30分の消化後、すべてのケースで単一細胞の回収を5倍以上増加させたことを示す。結果は全体として第2の膜の細孔径に基づいており、第1の膜の細孔径や濾過モードによって大きく変化しなかった。
図5C~5Eは、フローサイトメトリを用いた50-10および50-15の組み合わせの調査結果を示す。
図5Cは、50-15および50-10の膜の組み合わせから回収された単一組織細胞数が、15分および30分の消化時間で対照を5倍から10倍上回ったことを示している。60分の消化後、50-15μmの組み合わせにより、単一組織細胞の回収が2.5倍向上した。
図5Dは、15分および30分の消化時間ですべての条件で生存率が~90%であったが、60分の消化後にコントロールで~80%、50-15μmフィルタの組み合わせで75%に減少したことを示す。
図5Eは、散乱情報を用いて定量化された凝集体およびクラスタ数を示し、単一細胞との相対的な関係が示されている。凝集体は、コントロールについて消化時間とともに増加し、50-15膜の組み合わせを用いても同じままとなったが、50-10膜の組み合わせで減少した。エラーバーは、少なくとも3回の独立試行からの標準誤差を表す。*は、同じ消化時間でのコントロールと比較して、p<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【
図6】[0035]
図6A~6Fは、マウスの肝臓(
図6A~6C)および乳腺腫瘍組織サンプル(
図6D~6F)を用いた統合型二重膜濾過デバイスの検証結果を示す。新たに採取したマウスの肝臓と乳房腫瘍組織を細かく切り刻み、コラゲナーゼで消化してから、50および15μmの膜を具えるマイクロ流体フィルタデバイスに通した。
図6Aに示されるように、デバイス処理により、15分および30分の消化後に、単一の肝臓組織細胞がそれぞれ5倍および2倍増加した。酵素消化により細胞が完全に遊離したため、デバイスにおいて60分後に単一の肝臓組織細胞のさらなる増加はなかった。
図6Bを参照すると、生存率は、対照およびデバイス条件について90%を超えたままであった。
図6Cに見られるように、凝集体は、すべての消化時間で対照について~1%で存在し、一般にデバイス処理によって減少した。
図6Dでは、デバイス処理により、すべての消化時間で単一の上皮細胞が3倍増加した。
図6Eに示すように、細胞生存率は、腫瘍について40~50%と有意に低かったが、消化時間やデバイス処理によって有意の変化はなかった。凝集体は、すべての条件で細胞懸濁液の約15~20%を構成した(
図6F)。エラーバーは、少なくとも3回の独立試行からの標準誤差を示す。*は、同じ消化時間でのコントロールと比較してp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【
図7】[0036]
図7A~7Eは、MCF-7細胞を使用した単一フィルタデバイスの実験を示す。
図7Aは、直接濾過モードで流速12.5mL/分で実行された実験の生細胞数を示している。値は、5、10、および15μmの各細孔径の対照よりも~40%高かった。
図7Bは、0.25、1、および4mL/分の流速での直接濾過実験について得られた細胞集団を示す。
図6C~6Eは、12.5mL/分の総流量およびクロスフロー比80%(
図7C)、60%(
図7D)、および40%(
図7E)を用いたタンジェンシャル濾過実験について得られた細胞集団を示す。エラーバーは、少なくとも3回の独立試行からの標準誤差を表する。*は、コントロールに対してp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【
図8】[0037]
図8A~8Fは、MCF-7細胞を使用した二重フィルタデバイスの実験を示す。
図8Aは、直接濾過モードで12.5mL/分の流速下で実施された二重フィルタデバイス実験における単一の生細胞数を示す。値は、細孔径5μmを有するすべての組み合わせの膜で最低であった。
図8Bは、タンジェンシャル濾過モード、総流量12.5mL/分、およびクロスフロー比60%で実行された二重フィルタデバイス実験の単一生細胞数を示す。値はすべての場合で対照より2倍近く大きかった。
図8C~8Fは、タンジェンシャル濾過モード、12.5mL/分の総流量、およびクロスフロー比80%の下で実施された二重フィルタデバイス実験の結果を示す。細胞集団(
図8C)、単一細胞回収(
図8D)、生存率(
図8E)、および単一生細胞回収(
図8F)の結果は、クロスフロー比60%の実験と同様であった。エラーバーは、少なくとも3回の独立試行からの標準誤差を表す。*は、コントロールに対してp<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【
図9】[0038]
図9A~9Dは、マウスの腎臓組織を用いた濾過デバイスの最適化を示している。
図9A、9Bは、直列接続された2つの単一膜濾過デバイスを用いて実行された実験を示す。回収率は
図9Aが赤血球、
図9Bが白血球について示され、
図5Cの単一組織細胞の回収と一致する態様で消化時間およびデバイス処理の両方で増加した。
図9C、9Dは、60分間消化された腎臓組織について統合型二重膜フィルタデバイスを用いて実施された実験を示す。単一組織細胞数は、対照と比較して、デバイス処理後に~60%増加した(
図9C)。生存率は、対照と同様に、>85%を維持した(
図9D)。エラーバーは、少なくとも3回の独立試行からの標準誤差を表す。*は、同じ消化時間でのコントロールと比較して、p<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【
図10】[0039]
図10A~10Dは、マウスの肝臓および腫瘍組織サンプルの赤血球および白血球の回収を示す。結果は、肝臓(
図10A、10B)および乳腺腫瘍細胞(
図10C、10D)懸濁液について示されている。赤血球と白血球の数は、すべての場合において消化時間とデバイス処理の両方で増加した。
図6A~6F単一組織/上皮細胞の結果と一致する様式で、消化時間およびデバイス処理とともに回収率が増加した。エラーバーは、少なくとも3回の独立試行からの標準誤差を表する。*は、同じ消化時間でのコントロールと比較して、p<0.05を示し、**はp<0.01を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[0040]
図1Aは、一実施形態に係るマイクロ流体組織解離濾過デバイス10の断面図を示す。マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、
図1D、1E、1F、1G、および1Hに最もよく示されるように、1つまたは複数の基板または層12に形成される。これらの基板または層12は、一実施形態に係る最終的なマイクロ流体組織解離濾過デバイス10を形成するために一緒に積層または他の方法で結合される、その中に形成された様々な特徴を含むポリマーまたはプラスチック材料から形成され得る。基板または層12に形成された様々な構造は、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10の運用時に流体が流れるチャネルおよび流体通路(以下に詳述する)を含む。
【0017】
[0041]マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、流体が当該マイクロ流体組織解離濾過デバイス10に流入するための入口14を具える。入口14は、組織を含んだ流体をマイクロ流体組織解離濾過デバイス10に送達するために使用されるチューブまたは他の導管に接続可能な、図示するような棘状端部40または類似物を含み得る。入口14は、第1のマイクロ流体チャネル16に上流位置で流体結合されている(矢印は流体の流れる方向を示す)。第1のマイクロ流体チャネル16はまた、下流位置に位置する第1の出口18に結合されている。第1の出口18は、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10から細胞および細胞凝集体を含む流体を取り出すのに用いられるチューブまたは他の導管に接続可能な、図示のような棘状端部40または類似物を含み得る。第1のマイクロ流体チャネル16は、少なくとも部分的に1つまたは複数の基板または層12に規定されている。例えば、第1のマイクロ流体チャネル16の表面(上面、底面、側面)は、1つまたは複数の基板または層12に規定され得る。第1のマイクロ流体チャネル16の典型的な断面寸法は、約200μm~約1mmの高さおよび約1mm~約1cmの幅を有し得る。第1のマイクロ流体チャネル16の長さ(端から端まで)は、数センチメートルから数十センチメートル、さらには数百センチメートル(例えば、一例では約5cmから約100cm)まで変化し得る。これらの寸法は例示的なものであることを理解されたい。
【0018】
[0042]
図1Aを参照すると、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、第2のマイクロ流体チャネル20を具える。第2のマイクロ流体チャネル20は、一実施形態では、
図1D、1E、1F、1G、および1Hに見られるように、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10の異なる基板または層12に配置される。これに関して、第2のマイクロ流体チャネル20は、第1のマイクロ流体チャネル16とは異なる面に配置されている。例えば、第2のマイクロ流体チャネル20は、第1のマイクロ流体チャネル16よりも低い面に配置され得る。第1のマイクロ流体チャネル16と同様に、第2のマイクロ流体チャネル20は、1つまたは複数の基板または層12に規定することができる。第2のマイクロ流体チャネル20の典型的な断面寸法は、約200μm~約1mmの高さおよび約1mm~約1cmの幅を有し得る。第2のマイクロ流体チャネル20の長さ(端から端まで)は、数センチメートル~数十センチメートル、さらには数百センチメートル(例えば、一例では約5cm~約100cm)まで変化し得る。これらの寸法は例示的なものであることを理解されたい。
【0019】
[0043]第2のマイクロ流体チャネル20は、流体通路22によって第1のマイクロ流体チャネル16に流体接続されている。第2のマイクロ流体チャネル20を第1のマイクロ流体チャネル16に接続する流体通路22は、第1のマイクロ流体チャネル16と第2のマイクロ流体チャネル20との間に延びるビア、穴、または開口を有し得る。流体通路22は、第1のマイクロ流体チャネル16と第2のマイクロ流体チャネル20とを形成する層12の間に位置する1つまたは複数の層12で形成または規定することができる。第1の濾過膜24が、流体通路22内またはそれを横切って配置され、第1のマイクロ流体チャネル16と第2のマイクロ流体チャネル20との間に挿入される。例えば、第1の濾過膜24は、2つの隣接する層12の間に挟まれ、流体通路22を横切って延びる単層の織メッシュポリマー糸として構成することができる。一実施形態では、第1の濾過膜24に使用される糸は、ポリアミド糸(例えば、ナイロン(商標名))である。第1の濾過膜24を構成する細孔径は、一実施形態では、約1μm~約100μmであり得る。この文脈での細孔径は、特定の濾過膜の公称または平均細孔径を意味する。別の実施形態では、第1の濾過膜24は、約5μm~約50μmの細孔径を有し得る。
【0020】
[0044]
図1Aを参照すると、第2のマイクロ流体チャネル20は、第1のマイクロ流体チャネル16から離間されており、流体は、流体通路22に入り、次に第1の濾過膜24を通過することによって第2のマイクロ流体チャネル20に入る(矢印は流れ方向を示す)。これに関して、第2のマイクロ流体チャネル20は、第1のマイクロ流体チャネル16と流体連通している。
図1Aに示すように、第2の出口26は、第2のマイクロ流体チャネル20の下流位置に結合されている。第2の出口26は、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10から単一細胞および流体を除去するために使用される管または他の導管に接続可能な、図示のような棘状端部40または類似物を有し得る。第2の濾過膜28が、第2のマイクロ流体チャネル20を第2の出口26に結合する流体通路30内または流体通路30を横切って配置される。流体通路30は、第2のマイクロ流体チャネル20と第2の出口26との間に延びるビア、穴、または開口を有し得る。流体通路30は、第2のマイクロ流体チャネル20を形成する層12と、第2の出口26を有する最上層12との間に位置する1つまたは複数の層12に形成または規定され得る。第2の濾過膜28は、流体通路30内または流体通路30を横切って配置され、第2のマイクロ流体チャネル20と第2の出口26との間に挿入される。第1の濾過膜24と同様に、第2の濾過膜28は、2つの隣接する層12の間に挟まれ、流体通路30を横切って延びる、織りメッシュポリマー糸の単層として形成され得る。
【0021】
[0045]第2の濾過膜28は、第1の濾過膜24よりも小さい孔径ではあるが、同様の材料から作製することができ、同様の細孔を有することができる。本明細書で説明するように、第1の濾過膜24と第2の濾過膜28は、ポリマー繊維の単層の織メッシュを使用して形成することができるが、微細加工膜またはトラックエッチング膜を使用して形成することもできる。トラックエッチング膜は、ポリカーボネートやポリエステルなどの膜材料を荷電粒子にさらすことによって形成される。荷電粒子は膜材料を通り、脆弱点を形成する。次に、エッチング液を使用して、荷電粒子によって形成されたトラックに沿ってポリマー材料を侵食する。このエッチング液が、トラックを規定されたサイズの細孔に広げる。微細加工膜は、ポリマー材料のフォトリソグラフィパターニング(ポジティブまたはネガティブパターニングのいずれか)を用いて形成することができる。どのように作られるかに拘わらず、それぞれの濾過膜24、28は、その中に規定された細孔を有する。それぞれの細孔のサイズは、濾過膜の公知の製造技術を使用して明確に規定される。典型的には、細孔のサイズは、約1μm~約100μmであり、より好ましくは約5μm~約50μmである。一実施形態では、第1の濾過膜24は直径d1を有する細孔を有し、第2の濾過膜28は直径d2を有する細孔を有し、ここでd1>d2である。これにより、細胞凝集体および細胞の濾過を徐々に小さくすることができる。
【0022】
[0046]
図1Aに示すように、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、1つの入口14と2つの出口18、26とを具える。第1の出口18はタンジェンシャルな排出流を回収し、第2の出口26は、第1の濾過膜24と第2の濾過膜28を通過する直接流の流出物を回収する。本書で説明するように、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、好ましい一実施形態では、基板または層12が接着剤および圧力積層を使用してレーザーエッチングされ接着される薄いアクリルシートである商業的な積層プロセスを使用して製造される。いくつかの実施形態では、
図1D、1E、1F、1G、1Hに示されるように、合計7枚のプラスチック層12が用いられ、それぞれの流体通路22、30内の層12間に1~100μmの範囲で明確に規定された細孔径を有するNylon(商標名)メッシュ濾過膜24、28が配置される。例えば、本明細書の実施例で説明されているように、メッシュ濾過膜24、28は、5、10、15、25、および50μmの細孔径で試験された。第1のマイクロ流体チャネル16は、デバイス入口14を第1の濾過膜24に接続し、タンジェンシャル流出口18を介して第1の濾過膜24を横切るクロスフローを収集する。第2のマイクロ流体チャネル20は、第1の濾過膜24を通る流れを収集し、流れを第2の濾過膜28を通して第2の出口26に向ける。いくつかの実施形態では、第1の出口18は、完全に塞がれるか省略されてもよいことに留意されたい。
【0023】
[0047]
図1B、1D、1E、および1Fは、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10の別の実施形態を示している。前の実施形態のように、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、1つの入口14と2つの出口18、26とを具える。第1の出口18はタンジェンシャル排出流を収集し、第2の出口26は、濾過膜24を通過する直接流の流出物を収集する。この実施形態では、単一の濾過膜24のみが使用される。マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、薄いアクリルシートがレーザーエッチングされ、接着剤および圧力積層を用いて結合される商業的な積層プロセスを用いて製造される。膜が、第1のマイクロ流体チャネル14と第2のマイクロ流体チャネル20との間に挿入される、5、10、15、25、および50μmの範囲の明確に規定された細孔径サイズを有するメッシュ(例えば、ナイロン(商標名))濾過膜18を含み得る。2枚の濾過膜24、28を用いると性能が向上するが、いくつかの実施形態では単一の濾過膜24のみが必要とされる。さらに、いくつかの実施形態では、第1の出口18を完全に塞ぐか省略することができ、その場合、第1の膜はタンジェンシャル流のない直接流モードで動作する。
【0024】
[0048]
図1Cは、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10のさらに別の実施形態を示す。この実施形態は、第1の濾過膜24、第2の濾過膜28、および第3の濾過膜32を用いるデバイス10を示す。
図1Aおよび1Bに開示された実施形態と同じ要素は、同じ符号を有する。この実施形態では、第2の濾過膜28はタンジェンシャル流で運用され、第1の濾過膜24を通過した大きな凝集体が第2の出口26から外に向けられるようにする。小さな凝集体は第2の濾過膜28を通過し、第3のマイクロ流体チャネル34に入り、第3の濾過膜32へと導かれる。第3の濾過膜32は、第3のマイクロ流体チャネル34を第3の出口38に結合する流体通路36に配置されている。流体通路36は、第3のマイクロ流体チャネル34と第3の出口38との間に延びるビア、穴、または開口を有し得る。流体通路36は、第3のマイクロ流体チャネル34を形成する層12と第3の出口38を有する最上層12との間に位置する1つまたは複数の層12で形成または規定され得る。第3の濾過膜32は、流体通路36内または流体通路36を横切って配置され、第3のマイクロ流体チャネル34と第3の出口38との間に挿入される。第1の濾過膜24と同様に、第3の濾過膜32は2つの隣接する層12の間に挟まれ、流体通路36を横切って延びる単層の織りメッシュポリマー糸として形成することができる。
【0025】
[0049]いずれかのマイクロ流体組織解離濾過デバイス10を使用する場合、処理される材料を含むサンプル溶液が、例えば、1つまたは複数のポンプ(図示せず)を用いてデバイス10を通して流される。装置10を通して材料を押したり、あるいは引いたりするためにポンプを設けてもよい。したがって、ポンプを、チューブまたは同様の導管を介して、入口14または出口18、26、38に流体的に接続することができる。いくつかの実施形態では、出口(例えば、出口18、26)を出る流体が入口14に再循環して戻され、処理される材料がマイクロ流体組織解離濾過デバイス10を複数回通過するようにする。デバイス10を使用して、多くの生物学的材料を処理することができる。これには、例として、組織、組織断片、消化された組織、未消化の組織、および細胞凝集体が含まれる。組織は、健康な組織または罹患した組織であり得る。いくつかの実施形態では、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、上流端または下流端で他のデバイスに連結されてもよい。例えば、ハイドロミンチングまたは分岐マイクロ流体デバイスなどの組織解離デバイスがデバイス10の上流に連結され、処理された組織が入口14に導かれてもよい。出口18、26、38は、解離した細胞のさらなる処理または分析のために、1つまたは複数の下流のデバイスに連結することができる。
【0026】
[0050]結果と考察
[0051]デバイス設計
[0052]マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、標準的な酵素消化処理または同等のマイクロ流体処理によって生成された組織断片および細胞凝集体を除去するように設計された。これにより、下流の診断アプリケーションにおける単一細胞の純度が向上し、残った凝集体をさらに処理して、全体的な細胞の回収率を高めることができる。実験に使用されたデバイス10の概略図が
図1Aに示されている。試料が入口14を介して導入され、微孔性濾過膜24と接触される。濾過膜24、28を通過する試料は、流出物出口を通って出る。試料の一部はまた、膜24の表面に沿って案内され、クロスフロー出口18を通って出ることができる。この構成は、直接濾過モードまたはタンジェンシャル濾過モードでの運用を可能にすることにより、デバイスの可用性を最大化するために選択されたものである。直接濾過では、すべての試料が膜を通過して、試料の回収率と処理速度が最大となる。タンジェンシャル流では、クロスフローが大きな組織片と細胞凝集体を膜表面から一掃して目詰まりが防がれる。ただし、すべての試料が濾過されるわけではなく、試料全体を回収するには複数の経路が必要となる。
【0027】
[0053]マイクロ流体組織解離濾過デバイス10が、商業的なラミネートアプローチを用いて製造され、チャネル構造(チャネル、ビア、または穴を含む)は、硬質プラスチック(ポリエチレンテレフタレート、PET)にレーザ微細加工された。これにより、フォトリソグラフィやポリジメチルシロキサン(PDMS)のキャスティングなど、他の製造方法よりも堅牢なデバイスが提供されるため、組織の迅速な濾過に必要な高い流量と圧力がより適切にサポートされる。
図1D~1Hに示すように、2つのチャネル層l2b、l2f、3つのビア層l2c、l2d、l2e、およびデバイスをシールする2つの層12a、l2gを含む、合計7つのPET層12が使用された。
図1A、1G、1Hの二重濾過膜の実施例の薄い微孔性濾過膜24、28を取り付けるための2つの箇所が含められた。第1の箇所はビア層l2c、l2dの間に挟まれたデバイス10の中心にあり、この濾過膜24は、大きな組織断片および細胞凝集体のタンジェンシャルまたは直接濾過のいずれかに使用される。より小さな細孔を有する第2の濾過膜28が、単一細胞の純度を最大化するのを担保し得ると仮定されている。この第2の濾過膜28は(
図1A、1G、1Hに示すように用いられる実施形態では)、流出出口26のすぐ上流に配置され、底部チャネル12fとビア層12eの間に挟まれ、より小さな凝集体とクラスタの濾過を実現する。ホースバーブ40が、デバイスの入口14および出口18、26として機能するように最上層12aに設けられた。レーザー微細加工の後、デバイス10は、接着剤を使用して様々な層12および膜24、28を一緒に積み重ねることによって組み立てられ、次いで、圧力ラミネート加工を用いて堅固に結合された。チャネルの高さは~300μmであり、これにはプラスチック(250μm)と接着剤(~50μm)からの寄与が含まれる。
【0028】
[0054]微孔性濾過膜24、28には、単層の織ナイロン(商標名)メッシュが用いられた。これらは、所望サイズにカットできる安価ですぐに使用できるシートとして、多くのベンダーから5μmまでの細孔径で市販されている。ナイロン(商標名)の糸は、高い細孔密度と均一性を備えたしっかりした格子ネットワークを形成し、背圧が限定されており、高流量の膜の通過を可能にする。本明細書に記載の実験で使用されたナイロン(商標名)メッシュ膜の顕微鏡写真を
図2に示す。さらに、ナイロン(商標名)糸の狭い断面と丸みを帯びた形状は、凝集体をより小さなクラスタまたは単一細胞に分離するのに理想的であると仮定された。凝集体が細孔よりわずかに大きい場合に、解離メカニズムが最も蔓延すると予想される。これは、多くの細孔にまたがる凝集体が、従来の濾過と同様の方法で捕捉される可能性が高いためである。トラックエッチング膜も、安価で使いやすく、単一細胞および凝集体の濾過研究で広く使用されているため、検討された。しかしながら、細孔がランダムに配置されるため、高い多孔度で重なる傾向がある。微細加工膜は、細孔のサイズ、形状、および位置を正確に制御することができ、細胞濾過と区画化に用いられている。しかしながら、カスタム製造はコストと複雑さが加算されるとともに、膜は高い多孔性でそれほど耐久性がない場合がある。したがって、ナイロン(商標名)メッシュ膜が、コストと性能特性の最適な組み合わせを提供すると同時に、凝集体の解離ポテンシャルも提供すると結論付けられた。
【0029】
[0055]細胞株凝集体の濾過
[0056]単一細胞の回収率と生存率が、最初に細孔径5、10、15、25、または50μmのナイロン(商標名)メッシュ膜について調査された。交絡効果を排除するために、最初に第1の膜24のみを備える製造済デバイス10が使用された。この第1の膜24は、タンジェンシャル流モードではなく直接流モードで用いられた。実験は、強く凝集し、標準的な組織培養から多数の凝集体を提供するMCF-7ヒト乳がん細胞を使用して実施された。MCF-7細胞は、直径20μmまでと非常に大きいことに留意されたい。シリンジポンプを使用して細胞懸濁液をデバイスに通し、12.5mL/分の直接濾過で最初の試験を行った。デバイス流出物を回収し、位相差顕微鏡下で画像化して、単一細胞、細胞2~3個のクラスタ、細胞4~10個の小凝集体、および細胞>10の大凝集体を特定した。各母集団の回収結果が
図3Aにプロットされている。大小の凝集体は、対照母集団のそれぞれ10%と15%を構成した。これらのパーセンテージは濾過後に、細孔径に応じて、細孔径5および10μmで0.5%未満まで減少した。単一細胞は最初は30%未満で存在し、細孔径が小さくなるにつれて徐々に増え、最大85%に達した。クラスタは、5および10μmを除くすべての細孔径で約40~45%のままで、その場合でもクラスタはかなりのレベルで存在していた。
【0030】
[0057]細胞カウンタを使用して単一細胞数を定量化し、対照による正規化後に結果を
図3Bにプロットした。細孔径が50μmの場合に単一細胞の~15%が失われ、これはおそらくデバイス10内のホールドアップまたは非特異的接着が原因である。他のすべての細孔径では、濾過後にさらに多くの単一細胞が回収され、凝集体および/またはクラスタ集団の結構な割合が単一細胞へと解離したことを示唆している。解離は、細孔径が小さくなるにつれてより顕著になり、細孔径5μmで単一細胞が5倍以上増加した。しかしながら、小さな細孔を通して細胞を押し出すと生存率が損なわれることが、ヨウ化プロピジウム排除アッセイを用いたフローサイトメトリによって特定された(
図3C)。具体的には、生存率の損失は単一細胞の回収率に反比例する。結果として、5、10、および15μmの細孔径について、回収される生存可能な単一細胞の数は一定のままで、対照よりも約40%多い(
図7A~7E参照)。
【0031】
[0058]直接濾過モードを用いながら、流量の影響を調べた。流速を0.25mL/分まで下げると、一般に単一細胞数が少なくなり生存率が高くなるという傾向が見られたが、これらの変化は顕著ではなかった(
図3D~3E)。凝集体、クラスタ、および単一細胞のパーセンテージも、各流量で類似していた(
図7A~7E参照)。最後に、吸引モードで運用された2つのシリンジポンプを使用して、クロスフロー出口18と流出出口26の間でサンプルを分流させることによってタンジェンシャル濾過モードが調査された。直接濾過実験と同様に総流量は12.5mL/分で一定に保たれ、一方でクロスフローを40~80%で変化させた。その後、クロスフロー出口から収集された試料が、12.5mL/分の直接濾過モードで濾過膜に通され、両方の流出液を組み合わせて分析した。単一細胞数はすべてのクロスフロー比で同様であり(
図3F)、12.5mL/分での直接濾過実験よりも有意に低かった(
図3Bと比較)。実際、すべてのタンジェンシャル実験が高い膜通過速度(>2.5mL/分)で実行されたとしても、タンジェンシャル濾過下の単一細胞数は0.25mL/分での直接濾過と同様であった。タンジェンシャル濾過は、細孔径50μmでより効果的に大きな凝集体を除去することが見出された(
図7A~7E参照)。まとめると、圧力駆動流の下では、凝集体とクラスタの解離は主に膜の細孔径とクロスフローが存在するかどうかに依存し、膜を通過する流速にはあまり依存しないと結論付けられた。
【0032】
[0059]2つの膜を用いた凝集体の解離の改善
[0060]これらの結果に基づいて、試料を2つのナイロン(商標名)膜に直列に通すことにより、凝集体の解離を促進できると仮定された。これは、第1の膜が凝集体のサイズを縮小し、第2の膜が単一細胞をよりよく解離できるためである。したがって、2つの単一膜濾過デバイスを配管を用いて直列結合し、12.5mL/分で直接濾過実験を行った。解離が焦点であったため、より小さな細孔径の膜をさまざまな組み合わせで試験した。MCF-7懸濁液を2つの濾過デバイスに通すと、15μmの細孔径であっても、ほぼすべての凝集体が排除されることが見出された(
図4A)。クラスタも、単一濾過実験と比較して減少し(
図3Aと比較)、5-5膜の組み合わせで9%の低さに達した。単一細胞数および生存率の結果を
図4Bおよび
図4Cにそれぞれ示す。試料はすでに十分に解離しているため、単一細胞の収量は、単回濾過の場合と比較して、5-5および10-5膜の組み合わせでは変わらなかった(
図3Bと比較)。
【0033】
[0061]しかしながら、15-5膜の組み合わせでは単一細胞がより少なくなった。これは15μm膜が凝集体を捕捉し、5μm膜が単一細胞に解離することができたことを示唆している。10μmの膜では、単一細胞数は単一濾過デバイス実験と二重濾過デバイス実験で同様であった。2つの膜の使用が有益であった唯一のケースは、15-15の膜の組み合わせであり、単一細胞数が対照よりも50%~150%増加した。細胞生存率は主に第2の小孔径の膜によって決定され、その値は単一濾過デバイスの実験と同様であることがわかった(
図3Cと比較)。生存率は一般に単一細胞数と相関することが観察されたが、生存する単一細胞数は5μm膜を用いた場合に最も低かった(
図8A~8F参照)。したがって、少なくともこれらの~20μmMCF-7細胞では、5μmの細孔は小さすぎると見られた。10-10、15-10、および15-15の膜の組み合わせでは、生存単一細胞の回収率は対照よりも~60%高かった。文脈上、このレベルの解離は、同じMCF-7セルモデルの分岐チャネル解離デバイスの最良版に匹敵する。
【0034】
[0062]次に、10および15μmの膜について、より大きな25および50μmの膜と組み合わせて調査した。2つの濾過デバイス10が前述のように直列に結合されたが、今回の実験はタンジェンシャル濾過の下で行われた。単一濾過デバイス10の実験と同様に、総流量は12.5mL/分で一定に保たれ、クロスフロー出口から回収された試料が直接濾過モードで両方のデバイスに通された。60%のクロスフローを用いると、単一細胞、クラスタ、および凝集体の集団は、同じ10および15μmの膜を利用した直接フロー実験と同様であることが分かった(
図4D)。しかしながら、50-15膜の組み合わせから少数の凝集体が回収された。単一細胞の回収および生存率の結果もまた、一般に、第2の小孔径の膜によって決定された(
図4Eおよび4F)。そのため、細孔径10μmの単一細胞数は、1つまたは2つの濾過デバイスを使用した直接フロー実験と同様であった。細孔径15μmでは、単一細胞数は直接濾過下での15-15膜の組み合わせと同様であったが、生存率は大幅に高く対照と同等であった。この変化が、上流の濾過デバイスで大きな細孔径を使用すること、タンジェンシャル方向の濾過モード、または両方の組み合わせに関連するかどうかは不明であった。合計で、生存単一細胞数は、25-15の組み合わせを除いてすべて対照よりも~2倍多かった(
図8A~8F参照)。80%クロスフローを使用して実行されたタンジェンシャル濾過実験でほぼ同じ結果が得られたことに留意されたい(
図8A~8F参照)。MCF-7細胞凝集体モデルで得られた複合結果に基づいて、第2の膜が、細孔径が小さく直接濾過モードを一貫して用いるため、主に単一細胞の回収率と生存率を決定したと結論付けることができる。第2の膜を上流側に配置すると、場合によっては特に15μmの膜で結果が改善されたが、第1の膜の細孔径と操作モードはそれほど重要ではなかった。
【0035】
[0063]マウスの腎臓組織を使用した最適化
[0064]最終的な目標は複雑な組織に濾過デバイスを用いることであるため、マウスの腎臓組織サンプルを使用してパフォーマンスを評価した。直列の2つのマイクロ流体組織解離濾過デバイス10が用いられ、具体的には、大きな25または50μmの細孔径の後に、小さな10または15μmの細孔径が使用された。第1の濾過は、直接またはタンジェンシャル(60%クロスフロー)モードで、総流量12.5mL/分で実行された。新鮮な腎臓を採取し、メスで組織学的に同等の切片にスライスし、~1mm
3の断片に切り刻み、重量を測定した。次に、試料をコラゲナーゼで消化し、通常の手順に従って、ボルテックスとピペッティングによって機械的に処理した。デバイスの性能が、最初はコラゲナーゼで短時間消化された組織サンプルを使用して評価された。これは、膜の目詰まりと解離力の最も厳しいテストであると証明されるためである。15分間の消化後、デバイス処理は、すべての膜の組み合わせおよび濾過モードについて、単一細胞数を少なくとも2倍増加させた(
図5A)。最大の結果が、直接濾過下の両方25μmの細孔径の組み合わせと、タンジェンシャル濾過下の両方50μmの細孔径の組み合わせとで得られ、これは対照よりも約4倍多かった。消化時間を30分に増やすと、すべてのデバイス条件で単一細胞の回収が向上し、対照よりも少なくとも5倍高くなった(
図5B)。結果は、第1の膜のサイズや操作モードに関係なく、15μmの細孔の組み合わせが総じて多くなり、これはMCF-7凝集体モデルの結果と一致していた。15分と30分の消化時間の両方で、大きな組織片が第1の膜に捕捉されたことが観察されたが(
図5A)、比較的小さい組織サンプル(<100mg)を用いたため、膜のファウリングは直接またはタンジェンシャル濾過モードのどちらでも問題とならなかった。
【0036】
[0065]これらの予備的な結果に基づいて、フローサイトメトリを用いて細胞懸濁液をさらに評価することが決定された。具体的には、染色パネルを使用して、細胞の生存率を評価し、赤血球と白血球を特定した。また、最初のデバイスでは、多孔性が高く直接濾過モードのため高速で実行が簡単なことから、50μmの細孔径のみが使用された。mg組織あたりの回収された単一組織細胞数を
図5Cに示す。15分および30分の消化時間での結果は、
図5Aおよび5Bの細胞カウンタのデータと同様であり、50-10および50-15の両方の膜の組み合わせにより、対照よりも5~10倍多くの単一細胞が得られる。60分間の消化により、単一組織細胞数が劇的に増加し、約20,000/mgになった。50-10の膜の組み合わせは対照と同様であったが、50-15の膜の組み合わせでは回収率が2.5倍向上した。特に、50-15の膜の組み合わせでも、15分間消化後に、60分間消化した対照と同様の数の単一組織細胞が得られた。細胞生存率は、15分および30分の消化時点ですべての条件で~90%であった(
図5D)。ただし、60分の消化により、生存率は対照で~80%、50-15μmフィルタの組み合わせで~75%に減少した。単一細胞に対する凝集体の割合を定量化するために散乱情報も使用された(
図5E)。サイトメータの目詰まりを防ぐために、分析前にサンプルを35μmのセルストレーナーに通したので、結果は細胞クラスタのみを反映している可能性が高いことに留意されたい。凝集体の割合は、対照では、消化時間とともに3%から11%まで徐々に増加した。これは、従来の解離法では組織を単一細胞まで解離させるのに効果的ではないことを示している。凝集体の割合は50-15の膜の組み合わせでは変化しなかったが、50-10の膜の組み合わせでは、30分と60分の消化時点で凝集体が約半分に減少した。赤血球および白血球の回収率が
図9A~9Dに示されており、
図5Cの単一組織細胞の回復結果を厳密に反映している。
【0037】
[0066]マウスの臓器と腫瘍組織を使用した濾過デバイスの統合と検証
[0067]腎臓サンプルから回収された単一組織細胞に関する50-15膜の組み合わせの優れた性能に基づいて、
図1A、1G、1Hに示すように、両方の膜24、28を備える単一のマイクロ流体組織解離濾過デバイス10を作製した。この二重膜デバイス10を、まず60分間消化されたマウス腎臓サンプルを使用して検証し、単一組織細胞の回収および生存率に関する性能は、直列結合された2つの単一フィルタデバイスで得られた以前の結果と同等であった(
図9A~9D参照)。新たに切除されたマウス肝臓サンプルが試験され、これは一般に酵素消化が容易であるが、肝細胞も壊れやすいことが知られている。短時間の15分間の消化後、対照の肝臓組織1mgあたり約2,500個の単一組織細胞が得られ、これは濾過デバイスの処理によって5倍に増大した(
図6A)。30分で、単一組織細胞は対照の2倍に増加したが、デバイス処理は静的なままで、より控えめな2倍の改善をもたらした。対照とデバイスの両方の条件は60分消化後に両方ともはるかに高く、約40,000個の単一組織細胞/mgとなり、肝臓組織が酵素消化によって完全に分解されたことを示している。生存率はすべての条件で90%を超えており(
図6B)、肝細胞の脆弱性を考慮すると非常に有望であった。凝集体は、すべての消化時間で対照に対して約1%で存在し、デバイス処理によって全体的に減少したが有意な差はなかった(
図6C)。最終評価として、MMTV-PyMTトランスジェニックマウスで自然発生する乳腺腫瘍を使用した。腫瘍は一般に、細胞外マトリックスの組成異常により、解離するのが最も難しい上皮組織の1つと考えられている。これらの試験では、フローサイトメトリ検出パネルが、一般的な上皮マーカーのEpCAMに特異的な抗体を追加することによって変更された。これにより、上皮組織細胞の確実な識別が可能になったが、これには正常細胞と癌細胞の両方が含まれる。対照条件は、15分および30分の消化時点の両方で腫瘍組織1mgあたり~1,000個の単一上皮細胞をもたらし、これは60分の消化後にたった~2,000細胞/mg増加した(
図6D)。デバイス処理により、すべての時点における単一細胞の回収が約3倍向上した。上皮細胞の生存率は、すべての条件でわずか約40~50%であり(
図6E)、腫瘍サンプルが壊死した領域を多く含んでいたことを示唆している。相当数の凝集体がすべての条件で存在し、回収された総集団の15~20%の範囲であった(
図6F)。これは、すべての細胞を腫瘍から効果的に放つために、より多くの解離力が必要になることを示唆している。肝臓と腫瘍の両サンプルについて、赤血球と白血球の回収率は、単一の肝臓組織細胞と単一の上皮細胞のデータと同様の傾向となっている(
図10A~10Dを参照)。
【0038】
[0068]単純で安価だが、消化された組織サンプルから得られる単一細胞懸濁液の品質を迅速かつ効果的に改善することもできる、新規なマイクロ流体組織解離濾過デバイス10が開示されている。これは、同時に大きな組織断片を濾過し小さな凝集体を単一の細胞に解離させる、明確に規定されたミクロンスケールの細孔を有するナイロン(商標名)メッシュ膜を使用して達成される。具体的には、25~50μmの大きな孔径を有する第1の濾過膜24の後に、10~15μmの小さな孔径を有する第2の濾過膜28の2つのナイロン(商標名)メッシュ膜を使用すると、凝集体を次第に小さいサイズに解離し、最終的には単一細胞の回収へと促進することが実証された。この解離効果は、流体力学的せん断力と、ナイロン(商標名)糸との物理的相互作用との組み合わせによるものと思われる。これは効果的であるが、特に異なるサイズの細胞を含み得る複雑な組織では、細胞の損傷を防ぐために注意を払う必要がある。それぞれの濾過膜24、28に細孔径50および15μmの最終的な二重膜マイクロ流体組織解離濾過デバイス10を使用すると、細かく刻まれ消化されたマウスの腎臓、肝臓、および腫瘍組織サンプルから回収された単一細胞の数が少なくとも3倍、場合によっては10倍以上に向上した。さらに、短い15分の消化と濾過デバイス処理によって、完全な60分消化に匹敵する単一細胞数を得られることが示された。これは、組織処理の作業フローを加速し、細胞の自然な表現型の状態を維持する刺激的な可能性を秘めている。重要なことに、細胞の生存率は、脆弱な肝細胞であっても、すべての組織タイプと操作条件で維持された。
【0039】
[0069]この設計には、(例えば、濾過膜24を使用して)タンジェンシャルモードで最初の濾過を実行する選択肢も含まれるが、これは単一細胞を生成するにあたり必須ではない。タンジェンシャル濾過では単一細胞をより生成し得る可能性があることに留意されたい。組織サイズが100mgを超えてスケールアップされた場合、タンジェンシャル濾過がより重要になる可能性があることに留意されたい。また、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2019/0070605号に開示されているようなハイドロミンチ消化装置と統合して、cmスケールの組織サンプルの自動処理を実現することができる。マイクロ流体組織解離濾過デバイス10はまた、単一細胞数と純度を最大化するために、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第9,580,678号に開示されるような分岐チャネル解離デバイスと同様に統合することができる。この統合されたプラットフォームは、組織サンプル全体から単一細胞の高い純度の懸濁液までを、迅速かつ効率的に処理することができる。さらに、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、下流の技術と統合することにより、単一細胞のオンチップ選別および分析を実現し、組織サンプルについてのポイントオブケア診断プラットフォームを作成することができる。
【0040】
[0070]また、本発明は必ずしも2つの濾過膜24、28を有する場合に限定されないことも理解されたい。いくつかの実施形態では、単一の濾過膜24のみを必要としてもよい。さらに、デバイス10が複数の濾過膜(例えば、24、28、32)を有する場合でも、デバイス10に設けられた1以上の濾過膜をシャントするように流体を分流させてもよい。これは、いずれかの出口18、26、38で流れを塞ぐか遮断することによって達成することができる。同様に、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10の他の実施形態では、
図1Cに示す実施形態のように3以上のフィルタを有してもよい。
【0041】
[0071]実施例
[0072]デバイス製造:
マイクロ流体デバイスが、ALine,Inc(カリフォルニア州ランチョドミンゲス)によって製造された。大まかには、CO2レーザを用いて流体チャネル、ビア、および膜とホースバーブ用の開口部をポリエチレンテレフタレート(PET)層にエッチングした。ナイロン(商標名)メッシュ膜を、Amazon Small Parts(細孔径10、15、25、および50μm;ワシントン州シアトル)またはEMD Millipore(5μm;マサチューセッツ州バーリントン)から大きなシートとして購入し、C02レーザを用いて所望サイズにカットした。次に、デバイス層、ナイロン(商標名)メッシュ膜、およびホースバーブを組み立て、粘着剤で接着し、圧力ラミネートして単一のモノリシックデバイス10を形成した。
【0042】
[0073]細胞培養凝集体モデルおよびマウス組織サンプル:
MCF-7ヒト乳がん細胞株を、ATCC(バージニア州マナッサス)から購入した。10%FBS、非必須アミノ酸、1mMピルビン酸ナトリウム、2mML-グルタミン、100μg/mLストレプトマイシン、100U/mLペニシリン、および44U/LノボリンRインスリン(Thermo Fisher、マサチューセッツ州ウォルサム)を含むDMEM培地を用いて、組織培養フラスコ内で37℃、5%CO2で細胞を培養した。実験に先立ち、コンフルエント単層をトリプシン-EDTAで5分間短時間消化し、これにより、相当数の凝集体を含む細胞が放出された。次に、細胞懸濁液を遠心分離し、1%BSAを含むPBS(PBS+)に再懸濁した。腎臓と肝臓は、カリフォルニア大学アーバイン校の動物実験委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)に承認された調査研究から廃棄物であると判断された、新たに犠牲にされたBALB/cまたはC57B/6マウス(メイン州バーハーバーのジャクソンラボラトリ)から採取された(Dr. Angela G. Fleischmanの提供)。乳腺腫瘍は、新たに犠牲にされたMMTV-PyMTマウス(ジャクソンラボラトリ、メイン州バーハーバー)から採取された。腎臓については、メスを使用して、長さ約1cm×直径約1mmの組織片を作成し、各細片には髄質と皮質の組織学的に同等部分が含まれている。次に、各組織片をメスでさらに約1mm3片に細かく刻んだ。肝臓と乳腺腫瘍は、メスで均一に約1mm3片に細かく刻んだ。次に、刻んだ組織サンプルを秤量し、300μLの0.25%コラゲナーゼI型(Stemcell Technologies、ブリティッシュコロンビア州バンクーバー)とともにマイクロ遠心チューブ内に置き、振盪インキュベータ内で15、30、または60分間穏やかに攪拌しながら37℃で消化させ、ピペッティングとボルテックスを反復して機械的に分解した。最後に、細胞懸濁液を100ユニットのDNase I(Roche、インディアナ州インディアナポリス)で37℃で10分間処理し、PBS+で遠心分離して洗浄した。
【0043】
[0074]解離と濾過の研究:
マイクロ流体フィルタデバイスが、0.05インチIDチューブ(Saint-Gobain、ペンシルベニア州マルバーン)をデバイスの入口と出口のホースバーブに取り付けることによって準備された。実験に先立ち、膜やチャネル壁への細胞の非特異的結合を減らすためにデバイスをSuperBlock(PBS)ブロッキングバッファ(Thermo Fisher Scientific、マサチューセッツ州ウォルサム)と室温で15分間インキュベートし、PBS+で洗浄した。MCF-7細胞または消化されたマウス組織サンプルをシリンジに充填し、シリンジポンプ(Harvard Apparatus、マサチューセッツ州ホリストン)を使用して0.25~12.5mL/分の総流量でデバイスに通した。タンジェンシャル濾過実験では、2つのシリンジポンプを吸引モードで使用し、1つずつクロスフロー出口と排水出口に接続した。総流量を常に12.5mL/分に維持しながら、所定のクロスフロー速度を達成するように回収速度を調整した。最初に通した後に、クロスフロー出口から回収されたサンプルは、12.5mL/分で膜に直接通され、流出出口から回収された。すべての実験の後、デバイスを1mLPBS+で洗浄して残りの細胞を洗い流し、すべての流出液を1つの試料にまとめた。Moxi Z自動細胞カウンタとタイプSカセット(Orflo、インディアナ州ヘイリー)を使用して細胞数を取得した。
【0044】
[0075]顕微鏡による細胞凝集体の定量化:
単一細胞と凝集体を顕微鏡で評価した。簡単に説明すると、MCF-7細胞懸濁液をホフマン位相差顕微鏡と4倍の対物レンズで画像化した。次に、MATLABを使用して生の画像をバイナリに変換し、ImageJを使用して、隣接するすべての細胞ユニットの面積を識別、輪郭付け、および計算した。次に、各ユニットを面積に基づいて、単一細胞(20~80ピクセル2または75~300μm2)、クラスタ(80~200ピクセル2または300~750μm2)、小凝集体(200~300ピクセル2または750~1120μm2)、または大凝集体(>300ピクセル2または>1120μm2)として分類した。顕微鏡写真を戻ると、これはクラスタの場合で細胞約2~3個、小凝集体の場合で細胞約4~10個、大凝集体の場合で細胞>10個に相当する。
【0045】
[0076]フローサイトメトリ:
組織懸濁液用に以前に開発されたフローサイトメトリプロトコルに従った。簡単に説明すると、細胞懸濁液を2.5μg/mL抗マウスCD45-PEモノクローナル抗体(クローン30-F11、BioLegend、カリフォルニア州サンディエゴ)および0.5XCellMask Green(Thermo Fisher、マサチューセッツ州ウォルサム)で20分間37°Cで共染色した。次に、サンプルを遠心分離によりPBS+を使用して2回洗浄し、5μg/mL7-AAD(BD Biosciences、カリフォルニア州サンノゼ)および12.5μM DRAQ5(BioLegend)で氷上で少なくとも15分間共染色し、AccuriC6フローサイトメータ(BD Biosciences)で分析した。フローサイトメトリデータは、FlowJoソフトウェア(FlowJo、オレゴン州アシュランド)を使用して補正および分析され、シーケンシャルゲーティングスキームを使用して、白血球、赤血球、非細胞破片、および細胞凝集体から生存および死んだ単一組織細胞が特定された。
【0046】
[0077]統計:
データは平均±標準誤差として表される。エラーバーは、少なくとも3回の独立試行からの標準誤差を表す。スチューデントのt検定を使用した少なくとも3つの独立試行からP値が計算された。
【0047】
[0078]本発明の実施形態を図示し説明したが、本発明の範囲から逸脱することなく、様々な修正を行うことができる。例えば、マイクロ流体組織解離濾過デバイス10は、1つ、2つ、または3つの濾過膜24、28、32を含むものとして示されている。他の実施形態では、さらなる濾過膜を使用することができる(例えば、4、5、6、7、8、9、10など)。同様に、別の代替実施例では、クロスフロー溶液を回収するために使用される(濾過膜を直接通過しない)出口16は、他の実施形態では閉じるか、は完全に省略してもよい。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物を除いて、限定されるべきではない。