(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】車載用電気式温度管理装置
(51)【国際特許分類】
B60H 1/32 20060101AFI20240318BHJP
F25D 11/00 20060101ALN20240318BHJP
【FI】
B60H1/32 614B
F25D11/00 101F
(21)【出願番号】P 2021055352
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】598070865
【氏名又は名称】株式会社日章冷凍
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 一光
(72)【発明者】
【氏名】高畑 光男
(72)【発明者】
【氏名】畑中 広二
【審査官】石田 佳久
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-209777(JP,A)
【文献】特開2009-202773(JP,A)
【文献】特開2019-107969(JP,A)
【文献】実開昭61-001415(JP,U)
【文献】特開平06-255349(JP,A)
【文献】特開2001-219734(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0232759(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/32
F25D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動コンプレッサー、エバポレーター、膨張弁及びコンデンサーと、
車両の車室内に設置され、前記電動コンプレッサー、前記エバポレーター、前記膨張弁及び前記コンデンサーが収容される内部空間を有したキャビネットと、
前記キャビネットの内部空間に収容され、前記キャビネットの外から前記キャビネットの内部空間に流れ込むとともに前記エバポレーターを経由して前記キャビネットの外へ流れ出る気流を発生させるエバポレーターファンと、
前記キャビネットの内部空間に収容され、前記キャビネットの外から前記キャビネットの内部空間に流れ込むとともに前記コンデンサーを経由して前記キャビネットの外へ流れ出る気流を発生させるコンデンサーファンと、
前記キャビネットの内部空間に設けられ、前記キャビネットの内部空間を冷却室と放熱室に区切る隔壁と、
を備え
、
前記キャビネットが前記車両の運転席及び助手席の後ろのフロア上に据え付けられ、
前記コンデンサー、前記エバポレーター及び前記電動コンプレッサーが前記車両の幅方向に配列され、
前記電動コンプレッサー、前記エバポレーター及び前記エバポレーターファンが前記冷却室に収容され、前記エバポレーターファンが前記エバポレーターに取り付けられ、第1吸込口及び吹出口が前記冷却室に通じるよう前記キャビネットに形成され、
前記コンデンサー及び前記コンデンサーファンが前記放熱室に収容され、前記コンデンサーファンが前記コンデンサーに取り付けられ、第2吸込口及び排気口が前記放熱室に通じるよう前記キャビネットに形成される車載用電気式温度管理装置。
【請求項2】
前記車室内から前記車室外に通じるよう前記車両に既設された通気ダクトと前記キャビネットの内部空間との間に連結される排熱ダクトを更に備える
請求項1に記載の車載用電気式温度管理装置。
【請求項3】
前記キャビネットの内部空間に収容され、前記コンデンサーから前記排熱ダクトまでの流路を形成する内部ダクトを更に備える請求項2に記載の車載用電気式温度管理装置。
【請求項4】
前記エバポレーターから前記キャビネットの外へ突き出る吹出ダクトを更に備え、
前記キャビネットが前記車室内のフロア上に据え付けられ、前記吹出ダクトが前記キャビネットの上面に対して立てられた状態に設けられ、前記吹出ダクトの上端に吹出口が形成されている
請求項1から
3の何れか一項に記載の車載用電気式温度管理装置。
【請求項5】
前記キャビネットが前記車両の運転席及び助手席の後ろのフロア上に据え付けられ、前記吹出ダクトが前記運転席と前記助手席との間の位置の後ろに配置されている
請求項
4に記載の車載用電気式温度管理装置。
【請求項6】
前記エバポレーターファンによる気流の経路に設けられた電気式ヒーターを更に備える
請求項1から
5の何れか一項に記載の車載用電気式温度管理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の温度を管理する車載用電気式温度管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、冷媒をコンプレッサーで圧縮し、高圧冷媒をコンデンサーで凝縮し、液化した冷媒の圧力を膨張弁で低下させ、低温低圧な冷媒をエバポレーターで気化させることによって吸熱する冷凍サイクルが開示されている。特許文献1に開示された冷凍サイクルは、自動車の冷凍コンテナを冷却する冷凍装置として利用される。また、冷凍サイクルは、車室内の冷房にも利用される。冷凍サイクルを利用した冷房装置は上述のようなエバポレーター、コンデンサー、コンプレッサー及び膨張弁などから構成される。エバポレーターは一般的に車室内に配置される。コンデンサーは大気との熱交換が必要なことから一般的に車室外に配置される。コンプレッサーの配置場所は一般的にエンジンの脇である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、冷凍サイクルの冷媒配管工事を行える者は、フロンガスを大気中に放出しないように法規上の有資格者に限定されるため、無資格者が完成車に冷房装置を設置することができない。無資格者でも冷房装置を完成車に設置できるよう、コンプレッサー、コンデンサー、膨張弁、エバポレーター及び冷媒配管等が予め組み込まれた冷房装置が望まれている。
また、冷房装置が車外に設置されると、車両の車長、車高或いは車幅が冷房装置によって拡張される虞があり、そのような車両が公道で走行することは法規上認められない。
【0005】
そこで、本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、車両の車長、車高及び車幅を拡張することなく、冷媒取り扱いの有資格者のみならず無資格でも完成車に後付けができる車載用電気式温度管理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決するために、車載用電気式温度管理装置が、電動コンプレッサー、エ
バポレーター、膨張弁及びコンデンサーと、車両の車室内に設置され、前記電動コンプレ
ッサー、前記エバポレーター、前記膨張弁及び前記コンデンサーが収容される内部空間を
有したキャビネットと、前記内部空間に収容され、前記キャビネットの外から前記内部空
間に流れ込むとともに前記エバポレーターを経由して前記キャビネットの外へ流れ出る気
流を発生させるエバポレーターファンと、前記内部空間に収容され、前記キャビネットの
外から前記キャビネットの内部空間に流れ込むとともに前記コンデンサーを経由して前記
キャビネットの外へ流れ出る気流を発生させるコンデンサーファンと、前記キャビネットの内部空間に設けられ、前記キャビネットの内部空間を冷却室と放熱室に区切る隔壁と、を備え、前記キャビネットが前記車両の運転席及び助手席の後ろのフロア上に据え付けられ、前記コンデンサー、前記エバポレーター及び前記電動コンプレッサーが前記車両の幅方向に配列され、前記電動コンプレッサー、前記エバポレーター及び前記エバポレーターファンが前記冷却室に収容され、前記エバポレーターファンが前記エバポレーターに取り付けられ、第1吸込口及び吹出口が前記冷却室に通じるよう前記キャビネットに形成され、前記コンデンサー及び前記コンデンサーファンが前記放熱室に収容され、前記コンデンサーファンが前記コンデンサーに取り付けられ、第2吸込口及び排気口が前記放熱室に通じるよう前記キャビネットに形成される。
【0007】
以上によれば、電動コンプレッサーが電力により駆動されることから、電動コンプレッサーを車両のエンジンの近傍に設置せずとも済み、車載用電気式温度管理装置を車室内に設置することができる。
電動コンプレッサー、エバポレーター、膨張弁及びコンデンサーがキャビネットの内部空間に収容されているため、冷媒取り扱いの有資格者のみならず無資格でも車載用電気式温度管理装置を車両に後付けすることができる。
電動コンプレッサー、エバポレーター、膨張弁及びコンデンサーが収容されたキャビネットが車室内に設置されることから、車載用電気式温度管理装置が車両の外観的形状に影響を及ばさない。車載用電気式温度管理装置が搭載された車両の車長、車高及び車幅は、拡張されることはない。
【0008】
前記車載用電気式温度管理装置が、前記車室内から前記車室外に通じるよう前記車両に既設された通気ダクトと前記キャビネットの内部空間との間に連結される排熱ダクトを更に備える。
【0009】
以上によれば、コンデンサーファンの気流によってコンデンサーが空冷され、その気流が排熱ダクト及び通気ダクトを通じて、車室外に排出される。通気ダクトが車両に既設であることから、車載用電気式温度管理装置を車両に設置する際に車両の加工を最小限に抑えられる。
【0010】
前記車載用電気式温度管理装置が、前記キャビネットの内部空間に収容され、前記コンデンサーから前記排熱ダクトまでの流路を形成する内部ダクトを更に備える。
【0011】
以上によれば、コンデンサーファンの気流がコンデンサーから内部ダクトを通って排熱ダクトに流れ、その気流が不要な箇所に回り込むことがない。それゆえ、コンデンサーファンの気流が効率よく排出され、排熱効率がよい。
【0012】
前記キャビネットが前記車両の運転席及び助手席の後ろのフロア上に据え付けられ、前記コンデンサー、前記エバポレーター及び前記電動コンプレッサーが前記車両の幅方向に配列されている。
【0013】
以上によれば、コンデンサー、エバポレーター及び電動コンプレッサーが車幅方向に配列されているため、車幅方向におけるキャビネットの寸法を長くして、車高方向および車長方向におけるキャビネットの寸法を短くすることができる。そのため、運転席及び助手席の後ろ下のスペースを有効活用して、そのスペースに車載用電気式温度管理装置を設置することができる上、車載用電気式温度管理装置が乗員に圧迫感を与えにくい。
【0014】
前記車載用電気式温度管理装置が、前記エバポレーターから前記キャビネットの外へ突き出る吹出ダクトを更に備え、前記キャビネットが前記車室内のフロア上に据え付けられ、前記吹出ダクトが前記キャビネットの上面に対して立てられた状態に設けられ、前記吹出ダクトの上端に吹出口が形成されている。
【0015】
以上によれば、吹出口が吹出ダクトの上端に形成されているため、冷却空気が車室内に広がって拡散しやすい。よって、車室内の温度ムラを抑えられる。
【0016】
前記キャビネットが前記車両の運転席及び助手席の後ろのフロア上に据え付けられ、前記吹出ダクトが前記運転席と前記助手席との間の位置の後ろに配置されている。
【0017】
以上によれば、運転席又は助手席の背もたれが後傾しても、背もたれが吹出筒に当たらない。
【0018】
前記車載用電気式温度管理装置が、前記エバポレーターファンによる気流の経路に設けられた電気式ヒーターを更に備える。
【0019】
以上によれば、車室の温度が低くなった時に、電気式ヒーターを発熱させることで、車室内の温度を設定温度に保つことができる。
【0020】
前記車載用電気式温度管理装置が、前記キャビネットの内部空間に設けられ、前記キャビネットの内部空間を冷却室と放熱室に区切る隔壁を更に備え、前記エバポレーター及び前記エバポレーターファンが前記冷却室に収容され、前記エバポレーターファンが前記エバポレーターに取り付けられ、第1吸込口及び吹出口が前記冷却室に通じるよう前記キャビネットに形成され、前記コンデンサー及び前記コンデンサーファンが前記放熱室に収容され、前記コンデンサーファンが前記コンデンサーに取り付けられ、第2吸込口及び排気口が前記放熱室に通じるよう前記キャビネットに形成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の実施の形態によれば、電動コンプレッサーを車両のエンジンの近傍に設置せずとも済み、車載用電気式温度管理装置を車室内に設置することができる。
冷媒取り扱いの有資格者のみならず無資格者でも車載用電気式温度管理装置を車両に後付けすることができる。
車載用電気式温度管理装置が車両の外観的形状に影響を及ばさず、車載用電気式温度管理装置が搭載された車両の車長、車高及び車幅が拡張されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】運転席、助手席及び車載用電気式温度管理装置を後ろ斜め上から俯瞰した斜視図である。
【
図3】車載用電気式温度管理装置の外観斜視図である。
【
図4】車載用電気式温度管理装置の外観斜視図である。
【
図5】車載用電気式温度管理装置の内部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0024】
[1] 車載用電気式温度管理装置の概要及び設置箇所
図1は、車両90の概略側面図であり、
図2は、前部座席94及び車載用電気式温度管理装置1を後ろ斜め上から俯瞰した斜視図である。
【0025】
市販された完成車に予め搭載された空調装置では車室内を十分に冷房できないことがある。そのような場合でも車室内を十分に冷房できるようにするべく、車室内の温度を調整して管理する車載用電気式温度管理装置1が完成車に後付けされる。車載用電気式温度管理装置1は、簡単な加工で完成車に搭載できるようにするべく、ユニット化・モジュール化されている。車載用電気式温度管理装置1が搭載される完成車は、バン等の箱型貨物自動車を想定しているが、ワンボックス車、ステーションワゴン車、ミニバン等のワゴン車であってもよい。
【0026】
車載用電気式温度管理装置1を動作させるための電力は、完成車に予め搭載されたメインバッテリーとは別のサブバッテリーから供給される。サブバッテリーは車室の内又は外において完成車に後付けされ、例えば車室内の既設の収納スペース又は車載用電気式温度管理装置1の脇に設置される。エンジンの稼働中には、エンジンによって駆動されるオルタネーターによって発電された電力がアイソレーターによってメインバッテリー及びサブバッテリーに分配されて、メインバッテリー及びサブバッテリーが充電される。エンジンの停止中には、商用電源等に接続された充電器がサブバッテリーに電力を供給して、サブバッテリーが充電される。サブバッテリーがオルタネーター又は充電器から充電される際にも、サブバッテリーから車載用電気式温度管理装置1に電力が供給可能である。また、サブバッテリーがオルタネーター及び充電器から充電されない際には、サブバッテリー蓄電残量がゼロになるまで、サブバッテリーから車載用電気式温度管理装置1に供給される電力によって車載用電気式温度管理装置1を作動させることができる。
【0027】
車載用電気式温度管理装置1は室外機と室内機に分離されたものではなく、車載用電気式温度管理装置1の設置箇所は完成車の車室内である。車室の内側と外側を跨いだ配管作業及び冷媒充填作業を必要としないから、車載用電気式温度管理装置1を完成車に後付けしやすい。車室内に設置された車載用電気式温度管理装置1は、完成車の外形形状に影響を及ぼさず、完成車の法規上の車長、車高及び車幅の拡張要因とならない。例えば、車載用電気式温度管理装置1は車長制限、車高制限又は車幅制限の違反要因にならない。
【0028】
図1及び
図2に示すように、車載用電気式温度管理装置1が搭載される車両90は箱型貨物自動車である。車載用電気式温度管理装置1が車両90の車室内、特に荷室91のフロア93上に設置される。そのため、車室内のルーフ又はサイドパネルに設置される冷房装置と比較して、最小限の加工で車載用電気式温度管理装置1を車両90に搭載することができるため、車載用電気式温度管理装置1の設置作業が容易となる。また、作業者が荷室91で作業する際に、足下の車載用電気式温度管理装置1に注意するだけで済み、また作業者の頭部が車載用電気式温度管理装置1に当たらないことから安全性を確保できる。
【0029】
前部座席94は、車室内の前部のフロア93上に据え付けられる。2体の前部座席94のうち一方が運転席であり、他方が助手席である。車室のうち前部座席94の後方は荷室91となり、それよりも前側は運転室92となる。カーテンレール97は、前部座席94のすぐ後ろのルーフ96において車幅方向に延びて設置されている。カーテン98は、そのカーテンレール97が吊されている。カーテン98によって荷室91が運転室92から仕切られ、荷室91と運転室92との間の断熱が図られている。後部座席95は、前部座席94の後ろにおいて荷室91のフロア93上に据え付けられている。後部座席95は折り畳み式又は着脱式であってもよいし、設置されていなくてもよい。
本実施形態において、車載用電気式温度管理装置1は、後部座席95の前のフロア93上に据え付けられている。
【0030】
車載用電気式温度管理装置1は、荷室91内の空気を吸い込んで、吸い込んだ空気を冷却し、冷却後の空気を荷室91内に吹き出す。これにより、荷室91内が車載用電気式温度管理装置1によって冷房され、荷室91内の温度が設定温度に管理されて調整される。また、冷房時に、車載用電気式温度管理装置1は、荷室91内の空気を吸い込んで、吸い込んだ空気に放熱して、熱交換により温度上昇した空気を車室外に吹き出す。
また、荷室91内の温度が設定温度未満である際、車載用電気式温度管理装置1は、荷室91内の空気を吸い込んで、吸い込んだ空気を加熱して、加熱された空気を車室内に吹き出す。これにより、荷室91内の温度が設定温度に戻るよう管理されて調整される。
【0031】
図3及び
図4は、車載用電気式温度管理装置1の外観斜視図である。
図5は、車載用電気式温度管理装置1の内部を示す斜視図である。
図3~
図5に示すように、車載用電気式温度管理装置1はキャビネット10、隔壁16、第1内部ダクト19、吹出筒20、第2内部ダクト22、排熱ダクト25、冷凍サイクル30、コンデンサーファン35、エバポレーターファン36、空冷ファン37、電気式ヒーター50及び制御ユニット55を備える。冷凍サイクル30は、電動コンプレッサー31、コンデンサー32、膨張弁33及びエバポレーター34を有する。
【0032】
[2] キャビネット、隔壁、内部ダクト、排熱ダクト及び吹出筒
キャビネット10は、直方体型の箱体であって、内部空間を有する。キャビネット10は、その長手方向が車幅方向と平行となり、且つその奥行き方向が車長方向と平行となるようにフロア93上に据え付けられている。
図2に示すように、キャビネット10は、前部座席94のすぐ後ろの下の位置に配置されている。ここで、キャビネット10の六面のうち前面は車両90の前進方向に向く面であり、後面は車両90の後進方向に向く面であり、左側面は車両90の左折方向に向く面であり、キャビネット10の右側面は車両90の右折方向に向く面である。
【0033】
図3及び
図4に示すように、キャビネット10の後面の中央には、第1吸込口11が形成されている。キャビネット10の後面の左部には、第2吸込口12が形成されている。キャビネット10の右側面には、第3吸込口13が形成されている。キャビネット10の上面の中央前部には、吹出口14が形成されている。キャビネット10の左側面には、排気口15が形成されている。
【0034】
図5に示すように、キャビネット10の内側には、キャビネット10の側面に対して平行な隔壁16が設けられており、キャビネット10の内部空間が隔壁16によって左右の空間17,18に区切られている。以下、キャビネット10の内部空間のうち隔壁16の右側の空間17を冷却室17といい、隔壁16の左側の空間18を放熱室18という。第1吸込口11、第3吸込口13及び吹出口14は冷却室17に通じ、第2吸込口12及び排気口15は放熱室18に通じている。
【0035】
排気口15には、排熱ダクト25が連結されている。排熱ダクト25は、車両90に既設の通気ダクト99(
図1参照)に連結されている。通気ダクト99は、例えば換気又は気圧調整に用いられるものである。
【0036】
放熱室18内の上部には、中空を有した箱型又は管型の第1内部ダクト19が設けられている。放熱室18は、第1内部ダクト19によって第1内部ダクト19の中空と外側に区画されている。排気口15は、第1内部ダクト19の内側において開口している。排熱ダクト25は、排気口15を介して第1内部ダクト19に連結されている。第1内部ダクト19の下面には開口19aが形成されている。開口19aによって第1内部ダクト19の内外が通じている。第1内部ダクト19の中空は、後述のコンデンサー32から排熱ダクト25までの流路となる。
【0037】
冷却室17内の前部には、中空を有した箱型又は管型の第2内部ダクト22が設けられている。第2内部ダクト22は、吹出筒20の下端に連結されている。このような第2内部ダクト22が吹出筒20に連結されたものが、吹出ダクト23である。吹出ダクト23の中空は、後述のエバポレーター34から車室内までの流路となる。
図2に示すように、吹出筒20はキャビネット10の上面の吹出口14を通ってキャビネット10の上方に突き出ている。吹出筒20は、キャビネット10の上面に対して立てられた状態に設けられている。吹出筒20が前部座席94の間の位置のすぐ後ろに配置されているため、前部座席94の背もたれを後傾した場合であっても、吹出筒20に当たらない。
【0038】
吹出筒20の上端の先端面が後ろ斜め上に向けられ、その先端面には上部吹出口21が形成されている。
【0039】
[3] 冷凍サイクル、コンデンサーファン及びエバポレーターファン
図5に図示の電動コンプレッサー31の駆動電力はサブバッテリーから供給されるため、車両90のエンジンの停止中であっても電動コンプレッサー31を作動させることができる。また、電動コンプレッサー31が電動式であるからこそ、車両90のエンジンの動力を伝動機構等によって電動コンプレッサー31に伝達する必要がなく、車載用電気式温度管理装置1を車室内に設置することが出来る。
【0040】
稼働中の電動コンプレッサー31が冷媒を圧縮すると、冷媒がパイプによって電動コンプレッサー31、コンデンサー32、膨張弁33、エバポレーター34の順に循環する。循環する冷媒は以下のように電動コンプレッサー31、コンデンサー32、膨張弁33及びエバポレーター34から作用を受けて、状態変化する。まず、電動コンプレッサー31がエバポレーター34から送られた低温低圧な気体状の冷媒を圧縮することによって、冷媒が高温高圧の気液混合状態となる。コンデンサー32が電動コンプレッサー31から送られた高温高圧の冷媒とコンデンサー32の外側の空気との間で熱交換させることによって、冷媒が低温高圧な液体に凝縮され、外側の空気に放熱される。膨張弁33がコンデンサー32から送られた低温高圧な冷媒を断熱膨張させることによって、冷媒が低温低圧な霧状になって気化しやすい状態になる。エバポレーター34が膨張弁33から送られた低温低圧な冷媒とエバポレーター34の外側の空気との間で熱交換させることによって、冷媒が熱を吸収して気化し、空気が冷却される。低温低圧な気体状の冷媒がエバポレーター34から電動コンプレッサー31に送られる。
【0041】
電動コンプレッサー31、コンデンサー32、膨張弁33、エバポレーター34及びパイプはキャビネット10内に収容され、これらが一体となってユニット化されている。それゆえ、車載用電気式温度管理装置1を車室内に設置するに際しては、冷媒用の配管作業及び冷媒充填作業が不要となる。よって、フロン等の冷媒を法規上取り扱えない者でも、車載用電気式温度管理装置1を車室内に設置することができる。
【0042】
右から左に向かって順に、電動コンプレッサー31、エバポレーター34及びコンデンサー32が車幅方向に配列されている。そのため、キャビネット10を横長な形状にすることができ、前部座席94の後ろ下のスペースを有効活用して、そのスペースに車載用電気式温度管理装置1を設置することができる。ここで、横長とは、車幅方向に沿うキャビネット10の寸法が車長方向に沿うキャビネット10の寸法及び車高方向に沿うキャビネット10の寸法よりも長いことをいう。また、車載用電気式温度管理装置1が荷室91の前端のフロア93に設置されることから、荷室91における作業の際に車載用電気式温度管理装置1が邪魔にならない上、車載用電気式温度管理装置1が後部座席95に座る者に圧迫感を与えることもない。
【0043】
電動コンプレッサー31及びエバポレーター34は冷却室17に収容されている。電動コンプレッサー31は、冷却室17のうちキャビネット10の右側面に寄って配置されて、キャビネット10の長手方向(車幅方向)において第3吸込口13に対向している。キャビネット10内の第3吸込口13に臨む位置には、プロペラファン等の空冷ファン37が取り付けられている。空冷ファン37は、第3吸込口13を通じてキャビネット10の外の空気、つまり荷室91内の空気を吸い込んで、その空気を電動コンプレッサー31に吹き付ける。そのため、電動コンプレッサー31が空冷される。電動コンプレッサー31を通過した空気は、エバポレーター34へ流れる。そのような空気の流れは、空冷ファン37によって生じた差圧のみならず、後述のエバポレーターファン36によって生じた差圧によっても生じる。なお、空冷ファン37の駆動電力はサブバッテリーから供給される。
【0044】
エバポレーター34は、冷却室17内において隔壁16に寄って配置されて、キャビネット10の奥行き方向において第1吸込口11に対向する。エバポレーター34の前部には、第2内部ダクト22が連結されている。エバポレーター34の後部には、遠心ファン等のエバポレーターファン36が取り付けられている。
【0045】
エバポレーターファン36の駆動電力はサブバッテリーから供給され、これによりエバポレーターファン36が作動して、気流を発生させる。その気流の空気は、キャビネット10の外から第1吸込口11を通って冷却室17に流れ込むとともに、エバポレーター34を経由して第2内部ダクト22、吹出口14、吹出筒20及び上部吹出口21を通って荷室91に流れ出る。ここで、その気流の空気はエバポレーター34によって冷却され、冷却空気が吹出筒20の上部吹出口21から荷室91に吹き出る。この上部吹出口21が吹出筒20の上端において後ろ斜め上に向けられているため、冷却空気が荷室91内に広がって拡散しやすい。よって、荷室91内の温度ムラを抑えられる。
【0046】
コンデンサー32は、放熱室18内の第1内部ダクト19の下側に収容されるとともに、キャビネット10の奥行き方向において第2吸込口12に対向する。コンデンサー32の上部には、例えばプロペラファン等のコンデンサーファン35が第1内部ダクト19の開口19aに臨むように取り付けられている。コンデンサーファン35の駆動電力はサブバッテリーから供給され、これによりコンデンサーファン35が作動して、気流が発生する。その気流の空気は、キャビネット10の外から第2吸込口12を通って放熱室18に流れ込み、コンデンサー32を通過する。その気流の空気とコンデンサー32内の冷媒がコンデンサー32によって熱交換され、その気流の空気が第1内部ダクト19、排気口15、排熱ダクト25及び通気ダクト99を通って車外に排出される。そのため、車外への排熱が実現される。車両90に既設の通気ダクト99を利用して排熱を行うことから、車載用電気式温度管理装置1を車両90に設置する際に車両90の加工を最小限に抑えられる。
【0047】
コンデンサーファン35が第1内部ダクト19の開口19aに設けられているため、コンデンサー32によって排熱された空気が不要な箇所に回り込むことなく、効率的に排熱ダクト25に送られる。それゆえ、排熱効率がよい。
【0048】
[4] 電気式ヒーター
電気式ヒーター50は、エバポレーターファン36による気流の経路に設けられ、具体的には吹出筒20内の下部に設けられている。電気式ヒーター50は例えばPTC(Positive Temperature Coefficient:正温度特性)ヒーターからなる。電気式ヒーター50の駆動電力はサブバッテリーから供給される。電気式ヒーター50に電流が流れると、電気式ヒーター50が正温度特性により一定温度を保つように発熱する。
【0049】
電気式ヒーター50と電動コンプレッサー31は選択的に駆動される。冷凍サイクル30の稼働中、つまり電動コンプレッサー31によって冷媒が循環している際には、電気式ヒーター50には電流が流れず、電気式ヒーター50が発熱しない。一方、荷室91の温度が設定温度未満であると、電動コンプレッサー31が停止された上で、電気式ヒーター50に電流が流れて、電気式ヒーター50が発熱する。この際、エバポレーターファン36は停止せずに作動する。第1吸込口11から電気式ヒーター50を経由して吹出筒20に流れる気流の空気が電気式ヒーター50によって加熱され、温められた空気が上部吹出口21から吹き出る。よって、荷室91が速く温められ、荷室91の温度が設定温度に到達するとともに設定温度に保たれる。
【0050】
[5] 制御ユニット
制御ユニット55は、冷却室17内のエバポレーター34と電動コンプレッサー31との間に設けられている。制御ユニット55は、荷室91内の温度を検出する不図示の温度センサから検出温度の信号を入力する。制御ユニット55は、温度センサから入力した検出温度に基づいて、電動コンプレッサー31、コンデンサーファン35、エバポレーターファン36、空冷ファン37及び電気式ヒーター50を制御し、これにより荷室91の温度が設定温度に保たれる。
【0051】
例えば、温度センサの検出温度が設定温度を超える場合には、制御ユニット55が電動コンプレッサー31、コンデンサーファン35、エバポレーターファン36及び空冷ファン37を高電力で作動させるとともに、電気式ヒーター50の電力を遮断する。温度センサの検出温度が設定温度である場合には、制御ユニット55が電動コンプレッサー31、コンデンサーファン35、エバポレーターファン36及び空冷ファン37を低電力で作動させるともに、電気式ヒーター50の電力を遮断する。温度センサの検出温度が設定温度未満である場合、制御ユニット55が電動コンプレッサー31、コンデンサーファン35及び空冷ファン37を停止させ、エバポレーターファン36を作動させ、電気式ヒーター50に通電する。
【0052】
[6] 有利な効果
(1) 電動コンプレッサー31が電動式であるからこそ、電動コンプレッサー31をエンジンから切り離して、車載用電気式温度管理装置1を車室内に設置することができる。
【0053】
(2) 予め冷凍サイクル30が構築されてキャビネット10内に収容されているため、冷媒取り扱いの有資格者のみならず通常の車両整備資格者でも車載用電気式温度管理装置1を車室に後付けすることができる。
【0054】
(3) 車載用電気式温度管理装置1が車室内に設置されることから、車両90の車長、車高及び車幅が拡張されず、車両90が車長制限、車高制限及び車幅制限を受けない。
【0055】
(4) コンデンサー32によって熱交換された高温な空気が排熱ダクト25及び通気ダクト99を通って車外に排出される。その通気ダクト99が車両に既設であることから、車載用電気式温度管理装置1を車両90に設置する際に車両90の加工を最小限に抑えられる。
【0056】
(5) コンデンサー32から排熱ダクト25までの流路が第1内部ダクト19によって形成されるため、コンデンサー32を通過した放熱室18内の空気が不要な箇所に回り込むことがない。それゆえ、コンデンサー32を通過した空気による排熱の効率がよい。
【0057】
(6) コンデンサー32、エバポレーター34及び電動コンプレッサー31が車幅方向に配列されているため、車幅方向におけるキャビネット10の寸法を長くして、車高方向および車長方向におけるキャビネット10の寸法を短くすることができる。そのため、前部座席94の後ろ下のスペースに車載用電気式温度管理装置1を設置しても、車載用電気式温度管理装置1が乗員に圧迫感を与えない。
【0058】
(7) 吹出筒20が立った状態に設けられ、上部吹出口21が吹出筒20の上端に形成されているため、冷却空気が荷室91内に広がりやすい。
【0059】
(8) 吹出筒20が前部座席94の間の位置の後ろに配置されているため、前部座席94の背もたれが後傾しても、背もたれが吹出筒20に当たらない。
【0060】
(9) 荷室91の温度が低い時に、電気式ヒーター50が発熱することで、荷室91を設定温度に保つことができる。
【符号の説明】
【0061】
1…車載用電気式温度管理装置
10…キャビネット
11…第1吸込口
12…第2吸込口
13…第3吸込口
14…吹出口
15…排気口
16…隔壁
17…冷却室
18…放熱室
19…第1内部ダクト
20…吹出筒
21…上部吹出口
23…吹出ダクト
25…排熱ダクト
30…冷凍サイクル
31…電動コンプレッサー
32…コンデンサー
33…膨張弁
34…エバポレーター
35…コンデンサーファン
36…エバポレーターファン
50…電気式ヒーター
90…車両
91…荷室
94…前部座席
99…通気ダクト