(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】クランプ式接地抵抗測定装置
(51)【国際特許分類】
G01R 1/22 20060101AFI20240318BHJP
G01R 15/18 20060101ALI20240318BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20240318BHJP
【FI】
G01R1/22 A
G01R1/22 D
G01R15/18 D
G01R31/52
(21)【出願番号】P 2021150340
(22)【出願日】2021-09-15
【審査請求日】2023-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】390025623
【氏名又は名称】共立電気計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】弓山 直樹
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開昭53-96428(JP,A)
【文献】特開2020-204524(JP,A)
【文献】特開2012-194151(JP,A)
【文献】特開2010-96652(JP,A)
【文献】特開平09-269337(JP,A)
【文献】特開2009-2819(JP,A)
【文献】特開平6-213946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 1/22
G01R 15/18
G01R 31/50
G01R 27/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多重接地環境の接地極に接続した被測定接地線に、電源周波数とは異なる周波数の計測用交流電圧を、円環状の電圧重畳用コアに巻回されたコイルへの通電により重畳するクランプ式の電圧重畳用変圧器と、
前記電圧重畳用変圧器により前記計測用交流電圧が重畳された前記被測定接地線に流れる電流を、円環状の重畳電流検出用コアに巻回したコイルに誘導された検出電流に基づいて測定するクランプ式の重畳電流検出用変流器と、
前記重畳電流検出用変流器により検出された前記検出電流に基づいて、前記電圧重畳用変圧器で重畳した前記計測用交流電圧の周波数成分に対応する重畳電流の情報を取得する重畳電流情報取得部と、
前記重畳電流情報取得部により取得した重畳電流情報と、前記電圧重畳用変圧器により重畳した計測用交流電圧値とから、接地抵抗値を求める演算制御部と、
を含むクランプ式接地抵抗測定装置であって、
前記重畳電流検出用変流器は、コア中心を通る分割ラインで等分されたm個(mは2以上の自然数)の分割コアの端面同士を対向させて円環状とした前記重畳電流検出用コアを備えると共に、巻回方向とターン数が同じである2つの重畳電流検出用コイルを直列に接続した重畳電流検出用コイル対をn組(nはm以上の自然数)備え、前記分割コアの何れかに巻回されるn組全ての前記重畳電流検出用コイル対は、前記コア中心を挟んで2つの前記重畳電流検出用コイルが対向するように配置され、
前記重畳電流情報取得部は、n組の前記重畳電流検出用コイル対ごとに検出された重畳電流を電圧に変換し総計した重畳電流換算電圧値を前記重畳電流情報とし、
前記演算制御部は、前記重畳電流情報取得部からの前記重畳電流換算電圧値と、前記計測用交流電圧値とに基づいて前記接地抵抗値を求め
、
前記重畳電流情報取得部は、
n組全ての前記重畳電流検出用コイル対に対応させてn個設けられ、各重畳電流検出用コイル対により検出された前記検出電流を対応する検出電圧に変換して出力する電流電圧変換手段と、
n個の前記電流電圧変換手段から出力された前記検出電圧を全て加算して得た重畳電流換算電圧を出力する加算手段と、
を含み、
さらに、前記重畳電流情報取得部は、n組の前記重畳電流検出用コイル対に各々対応させたn組の電流電圧変換手段ごとに電流電圧変換率が異なる電流電圧変換手段セットをp種類備え、前記重畳電流検出用コイル対により検出された前記検出電流の入力先としてp種類の前記電流電圧変換手段セットの何れか1つを選択して前記加算手段へ入力させる選択手段を備える、
ことを特徴とするクランプ式接地抵抗測定装置。
【請求項2】
前記電流電圧変換手段セットは、
前記重畳電流検出用コイル対における2つの端子間の検出電流を対応する前記検出電圧に変換して増減し、出力するオペアンプを備える第1電流電圧変換手段と、
前記重畳電流検出用コイル対における2つの端子間にシャント抵抗を設けて、前記検出電流に対応する前記検出電圧に変換する第2電流電圧変換手段と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載のクランプ式接地抵抗測定装置。
【請求項3】
前記重畳電流検出用コイル対は2組設けられ、前記選択手段によって、2つの前記第1電流電圧変換手段からの前記検出電圧または2つの前記第2電流電圧変換手段からの前記検出電圧を選択的に前記加算手段へ入力させるものとし、
前記加算手段は、2つの前記第1電流電圧変換手段または2つの前記第2電流電圧変換手段から入力される2つの前記検出電圧を加算して増減する非反転加算回路を備えることを特徴とする請求項2に記載のクランプ式接地抵抗測定装置。
【請求項4】
前記加算手段は、入力される前記検出電圧の利得を加減することで前記検出電圧のアンバランスを調整可能なバランス調整手段を備えることを特徴とする
請求項1~請求項3の何れか1項に記載のクランプ式接地抵抗測定装置。
【請求項5】
前記電圧重畳用変圧器と前記重畳電流検出用変流器を単一のクランプ筐体に収納したことを特徴とする
請求項1~請求項4
の何れか1項に記載のクランプ式接地抵抗測定装置
。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重接地している環境の接地線にクランプすることで接地抵抗測定を簡易に行えるクランプ式接地抵抗測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般家庭用では、電気製品の故障などにより漏電や過電圧の状態が電気製品に生じた場合、機器の破壊、火災および感電による死亡などの被害を防ぐため、感電防止用の保安用接地(保護接地)が広く用いられている。大規模な施設では、さらに異なる用途で複数の接地を行う場合が増えており、例えば通信機器や弱電機器の安定動作用、避雷設備用、避雷針用、静電気防止用、保護継電器の基準電位用などがある。これらの接地は、本来の接地線とは別に、建物の構造体等にも接地している場合が多くみられ、結果的に多重接地の状態に成ることが多々ある。
【0003】
多重接地環境として代表的なものに電柱のB種接地がある。電柱に変圧器や遮断器などを施設する場合には、万が一故障して高圧の電気が低圧線に流れ込まないように、電柱に接地線を取り付けて地中に埋設した接地極(銅被覆接地棒など)に接続するB種接地を行う。この時、用途の異なる複数の柱上物が電柱にある場合には、経済産業省の「電気設備の技術基準」に定められているように、電力用の接地線と通信用の接地線とを共用で接地できないため、個別に接地を行う必要がある。
【0004】
このように、異なる接地状態で用途別に設けた多重接地環境でのB種接地の点検は、工事を行った施工会社、配電を行った電力会社、保守点検を行う管理会社などによって実施されている。点検に際しては、電気事業法に基づき一定周期で接地抵抗値を測定して、正しく接地できているか否かの判断を行う。接地抵抗値の測定方法として、接地箇所に対して個別に補助接地棒を地面に打ち込み、接地を一旦開放する測定方法(三極法測定)が知られている。しかし、三極法測定は作業性および効率が悪いために、測定箇所が非常に多い場合は、補助接地棒を必要とせず、接地線を接地極に結線した状態のまま容易に接地抵抗を測定できるクランプ式接地抵抗測定方法が使われている(例えば、特許文献1を参照)。
【0005】
特許文献1に記載の方法によれば、接地極に接続された接地線に、クランプ式の電圧重畳用変圧器で交流電圧を注入し、接地線に流れる電流をクランプ式の電流検出用変流器で検出し、注入電圧と検出電流から接地抵抗値を求められるので、作業効率が非常に良い。そのため、このような現場では、特許文献1に記載のクランプ式接地抵抗測定方法を用いたクランプ式接地抵抗測定装置が普及している。なお、特許文献1に記載の接地抵抗測定方法が適用できるのは、多重接地環境において共同接地線で並列接続された接地極の並列合成抵抗値が無視できる程度に小さい場合に限られる。
【0006】
しかし、従来のクランプ式接地抵抗測定装置は、クランプ可能な測定対象物として直径φ10mm程度の接地線を対象としており、比較的小口径のクランプを有したクランプ式接地抵抗測定装置が一般的である。例えば、矩形で幅の広いアースバー(接地用銅バー)を用いたような接地環境では、一般的なクランプ式接地抵抗測定装置で測定対象物をクランプすることができないため、クランプ式接地抵抗測定装置による接地抵抗測定を実施できないのである。
【0007】
このような測定環境に対応するために、クランプ式接地抵抗測定装置の電圧重畳用変圧器と電流検出用変流器のコア径を共に大きくして、測定対象物をクランプ可能なサイズにする改善策が考えられる。しかし、電圧重畳用変圧器と電流検出用変流器のコア径を大きくすると、検出感度が悪くなるため、計測精度を落とさずに電流検出用変流器のコア径を大きくすることは困難である。仮に、電圧重畳用変圧器で接地線に重畳する交流電圧を9mVrmsとし、測定対象の接地抵抗値を10Ωとすると、重畳電流検出用変流器で測定する電流は、「9mV÷10Ω=0.9mA」となる。このように微少な交流電流を、内径を大きく広げた重畳電流検出用コアで高精度に測定することは困難である。
【0008】
また、電流検出用変流器の構造は、円環状コアを二分割して一対の分割コアとし、一対の分割コアの端面を対向させて円環状とし、この円環状コアにコイルを巻回したもので、コアの分割面が問題となる。すなわち、クランプ式接地抵抗測定装置は、電流検出用変流器の各コイルから得られた検出値を、所定の回路を経て出力するものであるから、コア径を大きくして内径を広げるほどコア分割面の磁気的結合バランスのずれ量が大きくなり、重畳電流検出用変流器に必要とされる、以下の特性が悪化してしまう。
【0009】
(1)測定導体位置の影響
クランプ式接地抵抗測定装置で測定対象の接地線をクランプした際に、接地線が重畳電流検出用コア内のどの位置にあっても、常に同じ測定値を表示しなければならない。しかし、コア内における電流(接地線)の位置が異なると、本来なら打ち消し合って流れないはずの残留電流を検出する場合がある。
【0010】
(2)外部磁界の影響
クランプ式接地抵抗測定装置の外部に大きな電流(例えば100A程度の大電流)が流れていても、その外部電流により起こる磁界の影響を受けてはならない。しかし、クランプした接地線に流れる電流がゼロであったとしても外部磁界の影響から、測定値がゼロにならない場合がある。
【0011】
このように、重畳電流検出用変流器のコアを大きくして内径を広げるには、測定導体位置の影響と、外部磁界の影響とを除去することが重要であり、上記(1)、(2)はどちらもコアの磁気特性の非対称性に関連するため、これを改善する必要がある。
【0012】
特許文献2には、(1)測定導体位置の影響に着目して残留電流の誤差を改善する漏洩電流測定用クランプテスタの技術が開示されている。特許文献2における分割型漏れ電流測定器の構成を
図12に示す。この漏れ電流測定器は、一対のコア10A,10Bの端面を対向させて円環状とした端面近傍に、それぞれコイルA,Bおよび、コイルC,Dを配設して、端面近傍のコイルA,B直列接続の出力と、コイルC,D直列接続の出力を、それぞれアンプ1,3で増幅するとともに位相調整器2,4により位相を調整する。そして、位相調整器2,4からの各位相調整出力を加算器5で加算し、加算器5の出力を表示器6で表示する。この分割型漏れ電流測定器では、各位相調整器2,4とアンプ1,3によって、それぞれ位相とゲインを調整可能となっており、コア分割面の磁気的結合バランスを補正し、残留電流を小さくするのである。
【0013】
一方、特許文献3には、(1)測定導体位置の影響および(2)外部磁界の影響に着目して、残留電流の誤差と外部磁界の影響を共に改善するクランプテスタの技術が開示されている。特許文献3におけるクランプテスタの構成を
図13に示す。このクランプテスタは、一対のコア1a,1bの分割端面11a,11bを対向させて円環状とし、コア1aには半固定抵抗3aを介して直列に接続したコイル2aとコイル2bを配設し、コア1bには半固定抵抗3bを介して直列に接続したコイル2cとコイル2dを配設する。各半固定抵抗3a,3bは調整端子同士を接続して、磁気回路の非対称性を調整し、コイル2a,2bからの出力とコイル2c,2dからの出力を加算器8で加算して、出力端子10より出力する。すなわち、半固定抵抗3a,3bによって各コア1a,1bにある磁気回路の非対称性を調整することで、外部磁界の影響を抑制すると共に、残留電流を小さくするのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2001-242206号公報
【文献】特開平09-269337号公報
【文献】特開2000-131343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献2に記載された分割型漏れ電流測定器は、一対のコアの端面近傍それぞれに、直列接続した2組のコイルを分けて配設した構造であるために、各端面近傍の外部に大きな電流が流れる導体を近づけると、近接導体の強い外部磁界が各コイルに独立して作用するため、各コイルには個別に電流が流れることとなる。そのために、各コイルに接続している各アンプのダイナミックレンジを確保できなくなり、正確な測定ができないという問題がある。
【0016】
また、特許文献3に記載されたクランプテスタでは、各コアに巻回された複数のコイルと、複数の半固定抵抗および比較的抵抗値の大きい固定抵抗を接続することで、一つの調整回路として構成されているため、各回路の負荷抵抗が大きくなってしまう。このように、回路中の負荷抵抗が大きくなると、測定回路とは関係しない他の内部抵抗等に流れる漏れ電流によって信号に電圧降下が生じてしまうので、これが誤差要因となり、正確な測定値を得られないという問題がある。しかも、このような調整回路では、単一の半固定抵抗のみを調整しても、調整回路の全体に、その影響が及ぶことになり、調整バランスを最適化するためには多くの時間を要し、効率的に調整できないという問題もある。
【0017】
そこで、本発明は、多種多様化した多重接地環境での接地抵抗測定に適用可能で、測定導体位置の影響および外部磁界の影響を軽減して、効率よく正確な接地抵抗値の測定を行えるクランプ式接地抵抗測定装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の課題を解決するために、多重接地環境の接地極に接続した被測定接地線に、電源周波数とは異なる周波数の計測用交流電圧を、円環状の電圧重畳用コアに巻回されたコイルへの通電により重畳するクランプ式の電圧重畳用変圧器と、前記電圧重畳用変圧器により前記計測用交流電圧が重畳された前記被測定接地線に流れる電流を、円環状の重畳電流検出用コアに巻回したコイルに誘導された検出電流に基づいて測定するクランプ式の重畳電流検出用変流器と、前記重畳電流検出用変流器により検出された前記検出電流に基づいて、前記電圧重畳用変圧器で重畳した前記計測用交流電圧の周波数成分に対応する重畳電流の情報を取得する重畳電流情報取得部と、前記重畳電流情報取得部により取得した重畳電流情報と、前記電圧重畳用変圧器により重畳した計測用交流電圧値とから、接地抵抗値を求める演算制御部と、を含むクランプ式接地抵抗測定装置であって、前記重畳電流検出用変流器は、コア中心を通る分割ラインで等分されたm個(mは2以上の自然数)の分割コアの端面同士を対向させて円環状とした前記重畳電流検出用コアを備えると共に、巻回方向とターン数が同じである2つの重畳電流検出用コイルを直列に接続した重畳電流検出用コイル対をn組(nはm以上の自然数)備え、前記分割コアの何れかに巻回されるn組全ての前記重畳電流検出用コイル対は、前記コア中心を挟んで2つの前記重畳電流検出用コイルが対向するように配置され、前記重畳電流情報取得部は、n組の前記重畳電流検出用コイル対ごとに検出された重畳電流を電圧に変換し総計した重畳電流換算電圧値を前記重畳電流情報とし、前記演算制御部は、前記重畳電流情報取得部からの前記重畳電流換算電圧値と、前記計測用交流電圧値とに基づいて前記接地抵抗値を求める、ことを特徴とする。
【0019】
また、前記構成において、前記重畳電流情報取得部は、n組全ての前記重畳電流検出用コイル対に対応させてn個設けられ、各重畳電流検出用コイル対により検出された前記検出電流を対応する検出電圧に変換して出力する電流電圧変換手段と、n個の前記電流電圧変換手段から出力された前記検出電圧を全て加算して得た重畳電流換算電圧を出力する加算手段と、を含んでもよい。
【0020】
また、前記構成において、前記電流電圧変換手段は、前記重畳電流検出用コイル対における2つの端子間の前記検出電流を対応する前記検出電圧に変換して増減し、出力するオペアンプを備えてもよい。
【0021】
また、前記構成において、前記電流電圧変換手段は、前記重畳電流検出用コイル対における2つの端子間にシャント抵抗を設けて、前記検出電流に対応する前記検出電圧に変換してもよい。
【0022】
また、前記構成において、前記重畳電流検出用コイル対は2組設けられ、2つの前記電流電圧変換手段から前記検出電圧をそれぞれ出力するものとし、前記加算手段は、2つの前記電流電圧変換手段からそれぞれ入力される2つの前記検出電圧を加算して増減する非反転加算回路を備えてもよい。
【0023】
また、前記構成において、前記重畳電流情報取得部は、n組の前記重畳電流検出用コイル対に各々対応させたn組の電流電圧変換手段ごとに電流電圧変換率が異なる電流電圧変換手段セットをp種類備え、前記重畳電流検出用コイル対により検出された前記検出電流の入力先としてp種類の前記電流電圧変換手段セットの何れか1つを選択して前記加算手段へ入力させる選択手段を備えてもよい。
【0024】
また、前記構成において、前記電流電圧変換手段セットは、前記重畳電流検出用コイル対における2つの端子間の検出電流を対応する前記検出電圧に変換して増減し、出力するオペアンプを備える第1電流電圧変換手段と、前記重畳電流検出用コイル対における2つの端子間にシャント抵抗を設けて、前記検出電流に対応する前記検出電圧に変換する第2電流電圧変換手段と、を含んでもよい。
【0025】
また、前記構成において、前記重畳電流検出用コイル対は2組設けられ、前記選択手段によって、2つの前記第1電流電圧変換手段からの前記検出電圧または2つの前記第2電流電圧変換手段からの前記検出電圧を選択的に前記加算手段へ入力させるものとし、前記加算手段は、2つの前記第1電流電圧変換手段または2つの前記第2電流電圧変換手段から入力される2つの前記検出電圧を加算して増減する非反転加算回路を備えてもよい。
【0026】
また、前記構成において、前記加算手段は、入力される前記検出電圧の利得を加減することで前記検出電圧のアンバランスを調整可能なバランス調整手段を備えてもよい。
【0027】
また、前記構成において、前記電圧重畳用変圧器と前記重畳電流検出用変流器を単一のクランプ筐体に収納してもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るクランプ式接地抵抗測定装置によれば、コア中心を挟んで2つの重畳電流検出用コイルが対向するように配置した重畳電流検出用コイル対をn組備える重畳電流検出用変流器によって、電圧重畳用変圧器で重畳した電圧により接地線に流れる電流を検出するので、被測定導体位置の影響および外部磁界の影響を軽減できる。よって、多種多様化した多重接地環境に対応できる大口径のクランプ構造を採用することが可能となる。また、重畳電流情報取得部の電流電圧変換手段としてオペアンプまたはシャント抵抗を用いれば、各回路の負荷抵抗が小さくなるので、内部抵抗に流れる漏れ電流等で生ずる信号の電圧降下に起因した誤差要因を抑制できる。よって、重畳電流情報取得部から適正な重畳電流情報を供給された演算制御部は、重畳電流換算電圧値と計測用交流電圧値とに基づいて正確な接地抵抗値を求めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】多重接地式交流配電線路における接地線の接地抵抗値を本実施形態のクランプ式接地抵抗測定装置によって計測する手法と測定原理の概略説明図である。
【
図2】第1実施形態に係るクランプ式接地抵抗測定装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図3】重畳電流取得部における第1,第2電流電圧変換手段と加算手段の第1構成例を示す回路図である。
【
図4】
図3に示した第1構成例の第1,第2電流電圧変換手段および加算手段の第1改変例を示す回路図である。
【
図5】
図3に示した第1構成例の第1,第2電流電圧変換手段の第2改変例を示す回路図である。
【
図6】一つの重畳電流検出用コイルで重畳電流検出用変流器を構成した従来のクランプ式接地抵抗測定装置が近接導体の外部磁界による影響を受けた状態の説明図である。
【
図7】二つの重畳電流検出用コイルで重畳電流検出用変流器を構成した従来のクランプ式接地抵抗測定装置が近接導体の外部磁界による影響を受けた状態の説明図である。
【
図8】本実施形態に係るクランプ式接地抵抗測定装置が近接導体の外部磁界による影響を受けた状態の説明図である。
【
図9】重畳電流取得部における第1,第2電流電圧変換手段の第2構成例を示す回路図である。
【
図10】
図9に示した第2構成例の第1,第2電流電圧変換手段の改変例を示す回路図である。
【
図11】第2実施形態に係るクランプ式接地抵抗測定装置の要部を示す回路図である。
【
図12】従来技術である特許文献2に記載された分割型漏れ電流測定器のブロック構成図である。
【
図13】従来技術である特許文献3に記載されたクランプテスタの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係るクランプ式接地抵抗測定装置の実施形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。
【0031】
図1は、多重接地環境の一例である多重接地式交流配電線路100の接地抵抗値を、本実施形態に係るクランプ式接地抵抗測定装置1によって計測する手法と測定原理の概略説明図である。多重接地式交流配電線路100は、多数の電柱101に架設された電線102を介して各所へ配電するもので、共同接地線103に接続された接地線104が電柱101ごとに設けられ、地中に埋設された接地極105と接続される。この接地線104に対してクランプ式接地抵抗測定装置1を用いれば、接地抵抗値を求めることができる。
【0032】
多重接地式交流配電線路100においては、計測対象の接地極105の接地抵抗Rxと、これに並列接続された複数の接地抵抗R1~Rnが並列抵抗ループを形成するので、並列抵抗ループR1,R2・・・Rnの合成接地抵抗値(インピーダンス値)をRsとすると、「Rs=1/(1/R1+1/R2+・・・1/Rn)」とみなすことができる。計測対象の接地線104に接続した接地極105の接地抵抗値Rxと他の抵抗並列ループの合成接地抵抗値Rsとの相対関係として、「Rs<<Rx」が成立する場合、接地抵抗値Rxに対して並列抵抗ループの合成接地抵抗値Rsは無視できる微少値とみなせる。これを踏まえると、測定対象の接地線104に接続された接地極105の接地抵抗値をクランプ式接地抵抗測定装置1によって得た値は、接地抵抗値Rxに全並列抵抗ループの合成接地抵抗値Rsを加算したものであるから、結果的に、接地抵抗値Rxのみをクランプ式接地抵抗測定装置1によって求めることができる。
【0033】
クランプ式接地抵抗測定装置1は、電圧重畳用変圧器(後に詳述)を内包する電圧重畳用クランプ11と、重畳電流検出用変流器(後に詳述)を内包する電流検出用クランプ12を備え、接地線104を保護する樹脂等の保護カバー106ごとクランプして計測を行う。なお、本実施形態のクランプ式接地抵抗測定装置1では、電圧重畳用クランプ11と電流検出用クランプ12を異なるクランプ筐体で構成し、電流検出用クランプ12を本体13に取り付け、電圧重畳用クランプ11は接続線14を介して本体13と接続するものとした。しかしながら、電圧重畳用変圧器と重畳電流検出用変流器を単一のクランプ筐体に収納した構成とし、電圧重畳用変圧器と重畳電流検出用変流器で同時に接地線104をクランプできるようにしても構わない。なお、電流検出用クランプ12は、電圧重畳用クランプ11と土壌との間に配置しておくことが望ましい。
【0034】
上述したように、クランプ式接地抵抗測定装置1の電圧重畳用クランプ11と電流検出用クランプ12により接地線104をクランプした状態で、電圧重畳用変圧器から既知の電圧(電源周波数とは異なる周波数の計測用交流電圧)を重畳する。その結果、重畳した電圧に応じた電流が、測定対象の接地線104および接地極105を介して地中へ流れるので、この電流(計測用交流電圧の周波数成分に対応する重畳電流)を重畳電流検出用変流器によって検出すれば、重畳した電圧値と検出された電流値とから、接地抵抗値を求めることができる。なお、注入電圧を一定に保つ機能や接地抵抗値を演算する機能などは本体13内に設けられ、図示を省略したスイッチ等を利用者が操作することにより、自動で計測が実行され、計測値等が表示パネル13aに表示される。
【0035】
図2は、第1実施形態に係るクランプ式接地抵抗測定装置1の詳細機能を示す。電圧重畳用変圧器2が電圧重畳用クランプ11に内包される。重畳電流検出用変流器3が電流検出用クランプ12に内包される。電圧重畳用変圧器2への給電制御を行う注入電圧制御部4、重畳電流検出用変流器3からの検出電流を重畳電流情報として取得する重畳電流情報取得部5、重畳電圧と重畳電流情報に基づいて接地抵抗値を演算する演算制御部6は、本体13に内包される。なお、表示パネル13aに対応する表示部7は、演算結果である接地抵抗値を表示する機能だけでなく、その他の情報を表示できるようにしても良いし、タッチパネル式の表示装置を用いて設定入力等を行える操作手段としての機能を備えるものでも良い。
【0036】
電圧重畳用変圧器2への給電制御を行う注入電圧制御部4は、交流電圧検出手段41と交流電圧出力手段42と一定電圧制御手段43を備える。重畳電流検出用変流器3からの検出電流を重畳電流情報として取得する重畳電流情報取得部5は、第1電流電圧変換手段51、第2電流電圧変換手段52、加算手段53、A/D変換手段54を備える。重畳電圧と重畳電流情報に基づいて接地抵抗値を演算する演算制御部6は、少なくとも接地抵抗値算出手段61を備える。
【0037】
電圧重畳用変圧器2は、円環状の電圧重畳用コア21と電圧重畳用コイル22と重畳電圧検出用コイル23を備える。電圧重畳用コア21は、その中心を通る分割ラインDL2a,DL2bで2等分された第1分割コア211と第2分割コア212の端面同士(例えば、端面211aと端面212a、端面211bと端面212b)を対向させて円環状とする。分割ラインDL2a,DL2bで第1分割コア211と第2分割コア212を離隔させることで、接地線104をコア内に招じ入れ、第1分割コア211と第2分割コア212を再び連結することで、接地線104を電圧重畳用コア21で囲むことができる。電圧重畳用コア21には、電圧重畳用コイル22と重畳電圧検出用コイル23を巻回してあり、電源周波数とは異なる周波数の計測用交流電圧を電圧重畳用コイル22から接地線104へ注入し、その注入電圧を重畳電圧検出用コイル23によって検出する。
【0038】
上記のように構成した電圧重畳用変圧器2の電圧重畳用コイル22と重畳電圧検出用コイル23は、注入電圧制御部4に接続される。電圧重畳用コイル22は交流電圧出力手段42に接続され、一定電圧制御手段43からの指示に基づいて交流電圧出力手段42が所要の起電力を電圧重畳用コイル22に与えることで、電圧重畳用コイル22による重畳電圧を制御する。一方、重畳電圧検出用コイル23は交流電圧検出手段41に接続され、重畳電圧検出用コイル23に生じた電圧を交流電圧検出手段41が検出し、一定電圧制御手段43へ出力する。一定電圧制御手段43は、基準交流電圧値を記憶しており、交流電圧検出手段41により検出された検出電圧値と基準交流電圧値との差に応じた交流電圧出力指示を交流電圧出力手段42に対して行う。また、一定電圧制御手段43は、交流電圧検出手段41により検出された交流電圧検出値を、電圧重畳用コイル22によって実際に重畳した計測用交流電圧値として、演算制御部6の接地抵抗値算出手段61へ出力する。
【0039】
注入電圧制御部4の交流電圧検出手段41と交流電圧出力手段42を、公知既存の電気回路にて構成する一例を示す。交流電圧検出手段41は、例えば、オペアンプ(差動増幅回路)およびA/D変換器で構成でき、差動増幅回路が重畳電圧検出用コイル23に生じた電圧信号を増減してA/D変換器に出力すると、A/D変換器が電圧信号をデジタルの電圧値に変換して一定電圧制御手段43に送ることができる。交流電圧出力手段42は、例えば、D/A変換器、ローパスフィルタ、D級パワーアンプで構成できる。一定電圧制御手段43からデジタル値で送られる交流電圧出力指示値を、D/A変換器がアナログ信号に変換し、ローパスフィルタを介してD級パワーアンプに出力する。D級パワーアンプは、アナログ信号を増幅して電圧重畳用コイル22に出力することで、交流電圧出力指示値に対応した所定の交流電圧を測定対象の接地線104に重畳する。これにより、電圧重畳用変圧器2によって注入する電圧が基準交流電圧値に保持されるように自動補正される。なお、一定電圧制御手段43は、デジタルICなどで構成でき、交流電圧検出手段41からの検出電圧値をデジタルの電圧信号で受信すると共に、交流電圧出力手段42への交流電圧出力指示値もデジタル信号で送信する。また、一定電圧制御手段43から接地抵抗値算出手段61へ出力する計測用交流電圧値もデジタル信号である。
【0040】
一方、重畳電流検出用変流器3は、円環状の重畳電流検出用コア31と第1重畳電流検出用コイル対321と第2重畳電流検出用コイル対322を備える。重畳電流検出用コア31は、コア中心COを通る分割ラインDL3a,DL3bで2等分された第1分割コア311と第2分割コア312の端面同士(例えば、端面311aと端面312a、端面311bと端面312b)を対向させて円環状とする。分割ラインDL3a,DL3bで第1分割コア311と第2分割コア312を離隔させることで、接地線104をコア内に招じ入れ、第1分割コア311と第2分割コア312を再び連結することで、接地線104を重畳電流検出用コア31で囲むことができる。
【0041】
第1重畳電流検出用コイル対321は、巻回方向とターン数が同じである2つの重畳電流検出用コイル(第1重畳電流検出用コイル321aおよび第2重畳電流検出用コイル321b)を直列に接続したものである。そして、第1重畳電流検出用コイル対321は、コア中心COを挟んで第1重畳電流検出用コイル321aと第2重畳電流検出用コイル321bが対向するように配置される。例えば、第1重畳電流検出用コイル321aを第1分割コア311の開放端側(分割ラインDL3aで分割された側)に配置すると、第2重畳電流検出用コイル321bは第2分割コア312の基端側(分割ラインDL3bで分割された側)に配置され、対向状となる。
【0042】
同様に、第2重畳電流検出用コイル対322は、巻回方向とターン数が同じである2つの重畳電流検出用コイル(第1重畳電流検出用コイル322aおよび第2重畳電流検出用コイル322b)を直列に接続したものである。そして、第2重畳電流検出用コイル対322は、コア中心COを挟んで第1重畳電流検出用コイル322aと第2重畳電流検出用コイル322bが対向するように配置される。例えば、第1重畳電流検出用コイル322aを第2分割コア312の開放端側(分割ラインDL3aで分割された側)に配置すると、第2重畳電流検出用コイル322bは第1分割コア311の基端側(分割ラインDL3bで分割された側)に配置され、対向状となる。
【0043】
また、第1重畳電流検出用コイル対321の第1重畳電流検出用コイル321aと第2重畳電流検出用コイル321b、第2重畳電流検出用コイル対322の第1重畳電流検出用コイル322aと第2重畳電流検出用コイル322bは、重畳電流検出用コア31に対して均等に配置する。さらに、第1重畳電流検出用コイル対321の第1重畳電流検出用コイル321aと第2重畳電流検出用コイル321bを直列に接続することで、重畳電流検出用コア31内にある接地線104を流れる接地電流に応じた検出電流は、加算される極性となる。同様に、第2重畳電流検出用コイル対322の第1重畳電流検出用コイル322aと第2重畳電流検出用コイル322bを直列に接続することで、重畳電流検出用コア31内にある接地線104を流れる接地電流に応じた検出電流は、加算される極性となる。
【0044】
上記のように、第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322を重畳電流検出用コア31に配置すれば、測定導体である接地線104の位置に影響されない重畳電流検出を行える。コア中心CO付近に接地線104が有る場合は、第1重畳電流検出用コイル対321の第1,第2重畳電流検出用コイル321a,321bおよび第2重畳電流検出用コイル対322の第1,第2重畳電流検出用コイル322a,322bには、ほぼ均等な検出電流が流れるので、当然ながら第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322の出力バランスは良好である。
【0045】
一方、接地線104がコア中心COからずれており、第1重畳電流検出用コイル対321の第1重畳電流検出用コイル321aおよび第2重畳電流検出用コイル対322の第1重畳電流検出用コイル322aに近接しているような場合、コイルごとの検出電流にはバラツキが生じてしまう。しかしながら、第1重畳電流検出用コイル対321について考えると、接地線104が近接して強磁界が作用する第1重畳電流検出用コイル321aには大きな検出電流が生じる反面、接地線104から遠ざかっている第2重畳電流検出用コイル321bに生じる検出電流は小さくなる。同様に、第2重畳電流検出用コイル対322について考えると、接地線104が近接して強磁界が作用する第1重畳電流検出用コイル322aには大きな検出電流が生じる反面、接地線104から遠ざかっている第2重畳電流検出用コイル322bに生じる検出電流は小さくなる。
【0046】
すなわち、第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322は、それぞれ対向配置した2つのコイルが相補的に作用するので、第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322全体の出力としてみると、双方の出力電流に不均衡は生じ難いのである。なお、第1分割コア311と第2分割コア312の端面結合状態や第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322の第1,第2重畳電流検出用コイル321a,321b,322a,322bの配置ずれなどに起因して出力バランスに不均衡が生ずる場合もあるので、後述するように、アンバランスを調整する機能を設けることも有用である。
【0047】
上述した重畳電流検出用変流器3における第1重畳電流検出用コイル対321の検出電流は、重畳電流情報取得部5の第1電流電圧変換手段51に入力され、第2重畳電流検出用コイル対322の検出電流は、第2電流電圧変換手段52に入力される。重畳電流情報取得部5における第1,第2電流電圧変換手段51,52は、重畳電流検出用変流器3に設けた第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322にそれぞれ対応しており、入力された検出電流を対応する検出電圧に変換(I/V変換)すると共に増減して加算手段53へ出力する。加算手段53は、第1,第2電流電圧変換手段51,52からそれぞれ出力された検出電圧を全て加算して得た重畳電流換算電圧をA/D変換手段54へ出力する。A/D変換手段54は、加算手段53にて得た重畳電流換算電圧をデジタルの電圧値(重畳電流換算電圧値)に変換して、演算制御部6の接地抵抗値算出手段61に送る。
【0048】
接地抵抗値算出手段61は、一定電圧制御手段43から送信された計測用交流電圧値と、A/D変換手段54から送信された重畳電流換算電圧値と、に基づいて接地抵抗値を計算し、求めた接地抵抗値を表示部7に表示させる。なお、接地抵抗値算出手段61が行う接地抵抗算出式は、第1,第2電流電圧変換手段51,52の電流電圧変換率等に基づいて予め設定しておけば良い。また、演算制御部6は、所要のプログラムをCPUにロードさせたコンピュータ構成で実現できるので、様々なデータ処理を行えるようにしても良い。例えば、A/D変換手段54から取得した重畳電流換算電圧値から、測定対象の接地線104に流れる電流値を求め、重畳電流値として表示部7に表示することもできる。また、コンピュータ構成の演算制御部6とすれば、不図示の外部インターフェース回路を介して諸情報(各測定値や測定条件等)を外部装置に送信して記憶させることもでき、効率的なデータ管理が可能となる。
【0049】
ここで、重畳電流情報取得部5における第1,第2電流電圧変換手段51,52および加算手段53の構成例について、
図3を参照して説明する。
【0050】
図3に示す第1構成例の第1電流電圧変換手段51Aは、二つの入力端子間の電流を電圧に変換して増減するオペアンプ511と、オペアンプ511の増幅率を決める負帰還用の固定抵抗素子512とを備える。固定抵抗素子512は、第1電流電圧変換手段51Aから出力される検出電圧を増減する増幅率を決める帰還抵抗素子であり、その抵抗値は、重畳電流情報取得部5の評価検討を行うことで適宜な値に設定する。オペアンプ511の反転入力端子(-)には、第1重畳電流検出用コイル対321の一端(例えば、第1重畳電流検出用コイル321aの一端)である第1コイル対第1端子321e1と固定抵抗素子512の一端とが接続される。なお、固定抵抗素子512の他端はオペアンプ511の出力端子に接続される。また、オペアンプ511の非反転入力端子(+)には、第1重畳電流検出用コイル対321の他端(例えば、第2重畳電流検出用コイル321bの一端)である第1コイル対第2端子321e2と基準電位を供給するためのアース(接地)線が接続される。
【0051】
第1構成例の第2電流電圧変換手段52Aは、二つの入力端子間の電流を電圧に変換して増減するオペアンプ521と、オペアンプ521の増幅率を決める負帰還用の固定抵抗素子522とを備える。固定抵抗素子522は、第2電流電圧変換手段52Aから出力される検出電圧を増減する増幅率を決める帰還抵抗素子であり、その抵抗値は、重畳電流情報取得部5の評価検討を行うことで適宜な値に設定する。オペアンプ521の反転入力端子(-)には、第2重畳電流検出用コイル対322の一端(例えば、第1重畳電流検出用コイル322aの一端)である第2コイル対第1端子322e1と固定抵抗素子522の一端とが接続される。なお、固定抵抗素子522の他端はオペアンプ521の出力端子に接続される。また、オペアンプ521の非反転入力端子(+)には、第2重畳電流検出用コイル対322の他端(例えば、第2重畳電流検出用コイル322bの一端)である第2コイル対第2端子322e2と基準電位を供給するためのアース(接地)線が接続される。
【0052】
第1構成例の第1,第2電流電圧変換手段51A,52Aは、第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322よりそれぞれ入力された検出電流の振幅に応じた電圧に変換するとともに増減して加算手段53へ出力する。この加算手段53は、例えばアナログ加算回路(非反転加算回路)によって構成できる。加算手段53を非反転加算回路で構成すれば、反転加算回路によって構成する場合に比べて、加算手段53における電圧の信号振幅を小さくした状態で制御できるため、容易にダイナミックレンジを確保できる。加えて、第1,第2電流電圧変換手段51A,52Aから加算手段53への入力を高入力インピーダンスにできるため、加算手段53の入力インピーダンスによる影響を無視できる。無論、測定精度を保証できる範囲内であれば、一般的な反転加算回路を用いて加算手段43を構成してもよい。
【0053】
加算手段53は、二つの入力端子間の電位差を増減するオペアンプ531と、オペアンプ531の増幅率を調整するための固定抵抗素子532および固定抵抗素子533と、合成対象である第1,第2電流電圧変換手段51A,52Aの検出電圧の入力バランスを調整するためのバランス調整手段534を備える。固定抵抗素子532は、オペアンプ531の帰還抵抗素子である。また、バランス調整手段534は、第1電流電圧変換手段51Aの出力端子とオペアンプ531の非反転入力端子(+)との間に設けられる固定抵抗素子5341と、第2電流電圧変換手段52Aの出力端子とオペアンプ531の非反転入力端子(+)との間に設けられる固定抵抗素子5342と、からなる。固定抵抗素子5341および固定抵抗素子5342は、第1電流電圧変換手段51Aおよび第2電流電圧変換手段52Aの各検出電圧との差分が小さくなるように、予め抵抗値が定められた固定抵抗器である。このように、加算手段53を固定抵抗素子のみで構成すれば、全体を簡素な構成にすることができる。また、固定抵抗素子5341および固定抵抗素子5342の各抵抗値と、固定抵抗素子532および固定抵抗素子533の各抵抗値は、重畳電流情報取得部5の試験結果またはシミュレーション結果に応じて、第1電流電圧変換手段51Aおよび第2電流電圧変換手段52Aからの各検出電圧が適正に加算されるような値に設定しておく。
【0054】
また、加算手段53においては、固定抵抗素子5341の一端が第1電流電圧変換手段51の出力端子に接続されるとともに、固定抵抗素子5342の一端が第2電流電圧変換手段52の出力端子に接続される。そして固定抵抗素子5341の他端と固定抵抗素子5342の他端とがともにオペアンプ531の非反転入力端子(+)に接続される。一方、オペアンプ531の反転入力端子(-)には固定抵抗素子532および固定抵抗素子533の一端がともに接続される。固定抵抗素子532の他端はオペアンプ531の出力端子に接続され、固定抵抗素子533の他端はアース(接地)線に接続される。
【0055】
上記のように構成した加算手段53における固定抵抗素子5341と固定抵抗素子5342の何れか一方もしくは両方の抵抗値を適宜な値に調整することで、重畳電流検出用コア31の非対称性に起因する第1電流電圧変換手段51Aおよび第2電流電圧変換手段52Aの検出電圧のアンバランスが抑制される。バランス調整手段534による適切な調整を行った加算手段53は、第1電流電圧変換手段51Aおよび第2電流電圧変換手段52Aの各々から出力される検出電圧を加算するとともに増減した合成信号を生成し、適正な重畳電流の情報をA/D変換手段54へ供給できる。そして、A/D変換手段54にてデジタル値に変換した重畳電流換算電圧値(測定対象の接地線104に流れる電流換算の電圧値)を接地抵抗値算出手段61に送るのである。
【0056】
なお、
図3に示す構成例では、第1電流電圧変換手段51Aの増幅率を決める固定抵抗素子512と、第2電流電圧変換手段52Aの増幅率を決める固定抵抗素子222と、加算手段53における固定抵抗素子5341および固定抵抗素子5342とを、固定抵抗素子で構成したが、これに限定されるものではない。これらを可変抵抗器で構成した改変例を
図4に示す。
【0057】
図4における第1電流電圧変換手段51A′は、固定抵抗器で構成した固定抵抗素子512に代えて、抵抗値を変更可能な可変抵抗器513を備えている。第2電流電圧変換手段52A′も、固定抵抗器で構成した固定抵抗素子222に代えて、抵抗値を変更可能な可変抵抗器523を備えている。加えて、加算手段53′のバランス調整手段534′は、固定抵抗器で構成した固定抵抗素子5341および固定抵抗素子5342に代えて、抵抗値を変更可能な可変抵抗器5343を備えている。第1,第2電流電圧変換手段51A′,52A′および加算手段53′を備える重畳電流情報取得部5においては、例えば、基準となる被測定接地線の抵抗を実際に測定しながら、可変抵抗器513、可変抵抗器523、可変抵抗器5343の各抵抗値を微調整できる。このように、重畳電流情報取得部5からの出力値を実測しながら確定公知を微調整すれば、第1,第2電流電圧変換手段51A′,52A′双方の検出電圧の増幅率を調整できると共に、第1,第2電流電圧変換手段51A′,52A′の双方の検出電圧のアンバランスを一層効果的に抑制できる。
【0058】
なお、第1,第2電流電圧変換手段51A′,52A′双方の検出電圧を調整するために、三つの可変抵抗器513,523,5343を設けるものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、三つの可変抵抗器513,523,5343の何れか1つあるいは2つのみを用いた微調整で、第1電流電圧変換手段51Aおよび第2電流電圧変換手段52Aの検出電圧のアンバランスを抑えられるようであれば、調整対象外となる可変抵抗器を固定抵抗素子としてもよい。
【0059】
上述した第1,第2電流電圧変換手段51A,52A,51A′,52A′では、単一の計測レンジに固定されており、多様な計測環境に対応できない可能性がある。そこで、
図5に示す第2改変例の第1,第2電流電圧変換手段51A″,52A″では、レンジ切替手段514,524を設けることにより、レンジ切り替えを可能にした。
【0060】
例えば、レンジ切替手段514は、1つの入力信号を複数の出力先に切り替える入力スイッチ5141と、複数の入力先を切り替えて1つの出力信号にする出力スイッチ5142を備える。入力スイッチ5141は、第1選択端子5141aと第2選択端子5141bの一方を共通端子5141cに接続するもので、共通端子5141cが入力側となる。出力スイッチ5142は、第1選択端子5142aと第2選択端子5142bの一方を共通端子5142cに接続するもので、共通端子5142cが出力側となる。検出電流が流れる第1重畳電流検出用コイル対321の一端に接続される第1コイル対第1端子321e1と入力スイッチ5141の共通端子5141cを接続し、出力スイッチ5142の共通端子5142cをオペアンプ511の反転入力端子(-)に接続する。また、入力スイッチ5141の第1選択端子5141aは、第1選択固定抵抗素子5151の一端および出力スイッチ5142の第1選択端子5142aと接続する。入力スイッチ5141の第2選択端子5141bは、第2選択固定抵抗素子5152の一端および出力スイッチ5142の第2選択端子5142bと接続する。なお、第1選択固定抵抗素子5151および第2選択固定抵抗素子5152の他端は、オペアンプ511の出力端子と接続される。
【0061】
また、レンジ切替手段514の入力スイッチ5141と出力スイッチ5142は連動して動作することにより、第1選択端子5141aおよび第1選択端子5142a、もしくは第2選択端子5141bおよび第2選択端子5142bが同時に選択される。第1選択端子5141aおよび第1選択端子5142aが同時に選択された場合は、第1選択固定抵抗素子5151が帰還抵抗として選択された状態となり、第2選択端子5141bおよび第2選択端子5142bが同時に選択された場合は、第2選択固定抵抗素子5152が帰還抵抗として選択された状態となる。
【0062】
一方、レンジ切替手段524は、1つの入力信号を複数の出力先に切り替える入力スイッチ5241と、複数の入力先を切り替えて1つの出力信号にする出力スイッチ5242を備える。入力スイッチ5241は、第1選択端子5241aと第2選択端子5241bの一方を共通端子5241cに接続するもので、共通端子5241cが入力側となる。出力スイッチ5242は、第1選択端子5242aと第2選択端子5242bの一方を共通端子5242cに接続するもので、共通端子5242cが出力側となる。検出電流が流れる第2重畳電流検出用コイル対322の一端に接続される第2コイル対第1端子322e1と入力スイッチ5241の共通端子5241cを接続し、出力スイッチ5242の共通端子5242cをオペアンプ521の反転入力端子(-)に接続する。また、入力スイッチ5241の第1選択端子5241aは、第1選択固定抵抗素子5251の一端および出力スイッチ5242の第1選択端子5242aと接続する。入力スイッチ5241の第2選択端子5241bは、第2選択固定抵抗素子5252の一端および出力スイッチ5242の第2選択端子5242bと接続する。なお、第1選択固定抵抗素子5251および第2選択固定抵抗素子5252の他端は、オペアンプ521の出力端子と接続される。
【0063】
また、レンジ切替手段524の入力スイッチ5241と出力スイッチ5242は連動して動作することにより、第1選択端子5241aおよび第1選択端子5242a、もしくは第2選択端子5241bおよび第2選択端子5242bが同時に選択される。第1選択端子5241aおよび第1選択端子5242aが同時に選択された場合は、第1選択固定抵抗素子5251が帰還抵抗として選択された状態となり、第2選択端子5241bおよび第2選択端子5242bが同時に選択された場合は、第2選択固定抵抗素子5252が帰還抵抗として選択された状態となる。
【0064】
更に、第1電流電圧変換手段51A″に設けたレンジ切替手段514および第2電流電圧変換手段52A″に設けたレンジ切替手段524も連動して動作する。例えば、第1電流電圧変換手段51A″に設けたレンジ切替手段514によって第1選択固定抵抗素子5151が帰還抵抗に選択された場合には、第2電流電圧変換手段52A″に設けたレンジ切替手段524によって第1選択固定抵抗素子5251が帰還抵抗として選択される。逆に、第1電流電圧変換手段51A″に設けたレンジ切替手段514によって第2選択固定抵抗素子5152が帰還抵抗に選択された場合には、第2電流電圧変換手段52A″に設けたレンジ切替手段524によって第2選択固定抵抗素子5252が帰還抵抗として選択される。加えて、第1電流電圧変換手段51A″における第1選択固定抵抗素子5151の抵抗値と第2電流電圧変換手段52A″における第1選択固定抵抗素子5251の抵抗値を同レンジに対応させ、第1電流電圧変換手段51A″における第2選択固定抵抗素子5152の抵抗値と第2電流電圧変換手段52A″における第2選択固定抵抗素子5252の抵抗値を同レンジに対応させておく。
【0065】
上記のように構成した第1,第2電流電圧変換手段51A″,52A″を備える重畳電流情報取得部5においては、レンジ切替手段514,524の連係動作によって、第1電流電圧変換手段51A″の出力ゲインと第2電流電圧変換手段52A″の出力ゲインを簡便に切り替えることが可能となる。しかも、レンジ切替手段514,524の入力には、第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322を直列に接続しているため、入力スイッチ5141,5241のオン抵抗は検出電流に影響しない。加えて、レンジ切替手段514,524による検出電圧の出力先は、高入力インピーダンスであるオペアンプ511,521の反転入力端子(-)であることから、出力スイッチ5142,5242のオン抵抗が無視できるので、検出精度が犠牲になることはない。なお、レンジ切替手段514,524による切替レンジは2種類に限らず、3種類以上のレンジを切替可能な構成にしても良い。その場合、一般的なマルチプレクサおよびデマルチプレクサを使用すれば、複数のレンジに対応した増幅率の切替構造を簡易に実現できる。
【0066】
本実施形態に係るクランプ式接地抵抗測定装置1は、簡易な構造で、被測定導体(測定対象である接地線104)のコア内位置に起因した磁気回路の不均衡を抑制できると共に、外部磁界による影響を軽減できる。外部磁界に対するクランプ式接地抵抗測定装置1の有用性を説明するに先立ち、既存のクランプ式接地抵抗測定装置が受ける外部磁界による影響と、その解消技術についていくつか説明する。
【0067】
図6は、従来のクランプ式接地抵抗測定装置200における重畳電流検出用変流器203と電流電圧変換回路205を抽出して示した構成図である。円環状の重畳電流検出用コア2031は、分割ラインDL203a,DL203bにより第1分割コア20311と第2分割コア20312に分割され、開閉可能なクランプ筐体に収納され、被測定接地線をコア内に挿通できる構造である。重畳電流検出用コア2031には、一つの重畳電流検出用コイル2032を配置し、電流電圧変換回路205の入力端子に接続される。
【0068】
仮に、重畳電流検出用コア2031の第1分割コア20311と第2分割コア20312における各分割面の磁気的結合バランスが互いに揃っていれば、大きな電流が流れる近接導体107を近づけても、重畳電流検出用変流器203からの検出出力に顕著な影響はない。
図6に示すように、重畳電流検出用コア2031の分割ラインDL203a(或いは分割ラインDL203b)近傍に、大きな電流が流れる近接導体107を近づけても、近接導体107による外部磁界EMFの影響は重畳電流検出用コイル2032内で磁束が打ち消される方向に働くためである。
【0069】
しかしながら、重畳電流検出用コア2031の第1分割コア20311と第2分割コア20312における各分割面の磁気的結合バランスにずれが生じることは周知の事実であり、この特性は、コアを大きくして内径を広げるほどに悪化する。本来なら、重畳電流検出用コイル2032内で打ち消し合って流れないはずの残留電流を検出してしまい、電圧重畳用変圧器で印加した電圧に応じた検出電流に残留電流が重畳され、誤差を生じさせるからである。よって、第1分割コア20311と第2分割コア20312における各分割面の磁気的結合バランスのずれを調整する機能を備えていないと、外部磁界EMFの影響が電流電圧変換回路205からの検出電圧に大きく影響する。
【0070】
図7は、従来のクランプ式接地抵抗測定装置300における重畳電流検出用変流器303と第1電流電圧変換回路3051と第2電流電圧変換回路3052を抽出して示した構成図である。上述した
図6のクランプ式接地抵抗測定装置200と異なり、2つの重畳電流検出用コイルを備える。
【0071】
円環状の重畳電流検出用コア3031は、分割ラインDL303a,DL303bにより第1分割コア30311と第2分割コア30312に分割され、開閉可能なクランプ筐体に収納され、被測定接地線をコア内に挿通できる構造である。重畳電流検出用コア3031には、第1重畳電流検出用コイル30321および第2重畳電流検出用コイル30322を配置し、それぞれ第1,第2電流電圧変換回路3051,3052の入力端子に接続される。具体的には、重畳電流検出用コア3031の開放端側(分割ラインDL303aで分割された側)に第1重畳電流検出用コイル30321を、重畳電流検出用コア3031の基端側(分割ラインDL303bで分割された側)に第2重畳電流検出用コイル30322を、それぞれ配置する。
【0072】
そして、重畳電流検出用コア3031は、第1,第2分割コア30311,30312の分割ラインDL303a(或いは分割ラインDL303b)の近傍に、大きな電流が流れる近接導体107を近づけると、外部磁界EMFの影響が、第1重畳電流検出用コイル30321と第2重畳電流検出用コイル30322とに、大きく生じてしまう。これは、第1重畳電流検出用コイル30321に外部磁界EMFが作用する影響と、第2重畳電流検出用コイル30322に外部磁界EMFが作用する影響とが、それぞれ一方向にのみ生じるためである。具体的には、第1重畳電流検出用コイル30321には、近接導体107の外部磁界EMFが反時計方向(
図7中、濃い矢印方向)に作用することとなる。一方、第2重畳電流検出用コイル30322には、近接導体107の外部磁界EMFが時計方向(
図7中、薄い矢印方向)に作用する。
【0073】
つまり、第1重畳電流検出用コイル30321と第2重畳電流検出用コイル30322に、近接導体107による外部磁界EMFの影響が独立して大きく作用するために、第1,第2重畳電流検出用コイル30321,30322のそれぞれからは、外部磁界EMFの影響による残留電流を含む大きな検出電流が出力されてしまう。このように、大きな検出電流が出力されると、第1,第2電流電圧変換回路3051,3052のダイナミックレンジを確保できなくなり、第1,第2電流電圧変換回路3051,3052から出力する検出電圧が飽和して、測定不能となる事態が起こり得る。
【0074】
上述したように、従来のクランプ式接地抵抗測定装置200,300では、コア分割面の磁気的結合バランスのずれと、第1,第2電流電圧変換回路3051,3052のダイナミックレンジ確保と、の問題から外部磁界EMFの影響を受けることとなるため、特許文献3に記載された漏洩電流測定用クランプテスタのように、磁気的結合バランスのずれを調整する機能を備えていれば有用である。以下、特許文献3に記載された漏洩電流測定用クランプテスタの構成を示す
図13に基づいて、コア分割面の磁気的結合バランスの調整機能について説明する。
【0075】
図13に示すクランプテスタは、コア1aにコイル2a,2bを、コア1bにコイル2c,2dをそれぞれ配置し、コイル2aとコイル2bの間に半固定抵抗3aを、コイル2cとコイル2dの間に半固定抵抗3bをそれぞれ設けてある。すなわち、コイル2aとコイル2b、コイル2cとコイル2dは、それぞれ検出電流が加算されるように直列接続されている。そして、半固定抵抗3aと半固定抵抗3bとの摺動子につながる端子を短絡し、半固定抵抗3aと半固定抵抗3bを用いて、分割端面11a,11bの磁気的結合バランスのずれを調整可能となっている。
【0076】
コイル2aとコイル2cの半固定抵抗3a,3bに接続されていない他端は、それぞれゼロ電位(アース)に接続されている。コイル2dの半固定抵抗3bに接続していない他端は、半固定抵抗4a、固定抵抗5aおよび固定抵抗7aに接続され、コイル2bの半固定抵抗3aに接続していない他端は、半固定抵抗4b、固定抵抗5bおよび半固定抵抗7bに接続されている。半固定抵抗4a,4bの他端は、それぞれゼロ電位(アース)に接続されている。固定抵抗5a,5bは、それぞれに接続されたスイッチ6a,6bを介してゼロ電位(アース)に接続されている。これら半固定抵抗4a,4bおよび固定抵抗5a,5bは、測定電流を電圧に変換する際の増幅率および変換バランスを調整するために用いる。
【0077】
加算器8を構成する演算増幅器8aの非反転入力端子(+)は、ゼロ電位(アース)に接続され、反転入力端子(-)には、固定抵抗7a、半固定抵抗7b、半固定抵抗9の一端がともに接続される。半固定抵抗9の他端は、演算増幅器8aの出力端子に接続され、加算器8の全体の増幅率を決めるための帰還抵抗となる。また、半固定抵抗7bは、半固定抵抗9との比により、コア1a,1bの分割端面11a,11bの磁気的結合バランスのずれにより生じる入力電圧の差を調整可能である。演算増幅器8aの出力端子10からは、測定電流換算電圧の信号が出力される。
【0078】
上記構成のクランプテスタの各コイル2a~2dには、複数の固定抵抗5a,5bおよび半固定抵抗3a,3b,4a,4b、スイッチ6a,6bが直列に接続されており、結果として各コイル2a~2dの負荷抵抗値が大きくなってしまう。例えば、小型で消費電流の少ないクランプ式接地抵抗測定装置で比較的大きな接地抵抗値を測定しようと試みたケースとして、1kΩの接地抵抗値を10mVの重畳電圧で測定する場合を想定する。コア1a,1bで測定する電流は、「10mV÷1kΩ=10μA」となり、各コイル2a~2dの合計ターン数を100と仮定すると、「10μA÷100=0.1μA」が電流電圧変換抵抗(シャント抵抗)に直接流れる検出電流となる。コイル2aとコイル2b、コイル2cとコイル2dは、それぞれ検出電流が加算されるように直列接続されて、独立した2回路に分かれているため、各コイルに接続されている半固定抵抗4a,4b(シャント抵抗)のそれぞれには、0.1μAの半分である0.05μAの検出電流が流れる。この電流値を一般的な回路電圧5Vまで増幅するには、単純計算で「5V÷0.05μA=100MΩ」の半固定抵抗4a,4bが必要となる。これに加えて、半固定抵抗3a,3bが直列に接続されると、各コイル2a~2dの負荷抵抗値は、より一層大きくなってしまう。
【0079】
さらに、特許文献3に記載されたクランプテスタに限らず、クランプ式接地抵抗測定装置の測定回路には、回路全体に寄生する多くの内部抵抗(並列抵抗)があり、これには意図しない微量の漏れ電流が常に流れている。具体的には、検出部品を保持するための成形品、基板ならびに回路接続のためのアダプタ、ケーブルなどの絶縁抵抗に流れる漏れ電流と、スイッチ6a,6bの漏れ電流(リーク電流)とが同時に流れている。このような漏れ電流は、各コイルの負荷抵抗値が大きくなるにつれて大きく影響するため、信号に不安定な電圧降下が生じることとなり、正確な測定を困難にする。
【0080】
なお、固定抵抗5aおよびスイッチ6aと、固定抵抗5bおよびスイッチ6bは、比較的大きな電流を測定する回路として用いるため、半固定抵抗4a,4bに比べると、その抵抗値は小さいものである。しかしながら、スイッチ6a,6bを一般的なマルチプレクサで実現した場合は、温度特性により抵抗値が変化するマルチプレクサ内のオン抵抗が、固定抵抗5aおよび固定抵抗5bに直列に接続された状態と等価になるため、測定時の雰囲気温度の変化に起因して、スイッチ6a,6bのオン抵抗が変化し、加算器8に入力される電圧が変動してしまうので、正確な測定ができないという問題がある。
【0081】
また、演算増幅器8aはオペアンプを使用した反転加算回路であるため、その反転入力端子(-)の電位は非反転入力端子(+)のゼロ電位と等しくなる。つまり、演算増幅器8aの反転入力端子(-)には、固定抵抗5a,5b,7aおよび半固定抵抗3a,3b,4a,4b,7bおよびスイッチ6a,6bが直列または並列に接続された状態であるため、これらの合成抵抗値と半固定抵抗9の抵抗値との比によって加算器8全体のゲインが定まる。したがって、加算器8のゲイン調整のために半固定抵抗4a,4b,7b,9のいずれか一つを調整すると、その影響は各コイル2a~2dに接続している半固定抵抗3a,3bの調整にもおよび、分割端面11a,11bによる磁気的結合バランスの調整にずれが生じてしまう。逆に、分割端面11a,11bによる磁気的結合バランスのずれを調整するために、半固定抵抗3a,3bを調整すると、その影響は固定抵抗5a,5b,7aおよび半固定抵抗4a,4b,7b,9全ての調整に大きな影響を与える。そのため、半固定抵抗3a,3b,4a,4b,7bのいずれか一つの調整を行うごとに、他の調整結果を見直す必要があり、各調整の最適化に多くの時間を要するため、効率的に調整できない点に大きな問題がある。
【0082】
上述した従来のクランプ式接地抵抗測定装置200,300や特許文献3に記載された漏洩電流測定用クランプテスタと異なり、本実施形態に係るクランプ式接地抵抗測定装置1は、簡易な構造で、コア分割面の磁気的結合バランスを好適に保持できる。
【0083】
図8は、本実施形態に係るクランプ式接地抵抗測定装置1における重畳電流検出用変流器3と第1電流電圧変換手段51と第2電流電圧変換手段52を抽出して示した構成図である。前述したように、重畳電流検出用変流器3は、コア中心を通る分割ラインDL3a,DL3bで等分された2個の分割コア(第1分割コア311と第2分割コア312)の端面同士を対向させて円環状とした重畳電流検出用コア31を備える。そして、重畳電流検出用コア31には、2組のコイル対として第1重畳電流検出用コイル対321と第2重畳電流検出用コイル対322を配置する。第1重畳電流検出用コイル対321は、巻回方向とターン数が同じである第1重畳電流検出用コイル321aと第2重畳電流検出用コイル321bを直列に接続したもので、コア中心を挟んで第1重畳電流検出用コイル321aと第2重畳電流検出用コイル321bが対向する配置である。第2重畳電流検出用コイル対322は、巻回方向とターン数が同じである第1重畳電流検出用コイル322aと第2重畳電流検出用コイル322bを直列に接続したもので、コア中心を挟んで第1重畳電流検出用コイル322aと第2重畳電流検出用コイル322bが対向する配置である。
【0084】
クランプ式接地抵抗測定装置1における重畳電流検出用変流器3の重畳電流検出用コア31は、第1,第2分割コア311,312の分割ラインDL3a(或いは分割ラインDL3b)の近傍に、大きな電流が流れる近接導体107を近づけても、外部磁界EMFの影響をほとんど受けない。先ず、第1重畳電流検出用コイル対321に着目すると、第1重畳電流検出用コイル321aには反時計方向(
図8中に薄い矢印で示す)の磁束が作用するのに対して、第2重畳電流検出用コイル321bには時計方向(
図8中に薄い矢印で示す)の磁束が作用する。すなわち、第1重畳電流検出用コイル321aと第2重畳電流検出用コイル321bには、互いに逆方向の磁束が働くため、第1重畳電流検出用コイル対321としては、近接導体107による外部磁界EMFの影響が打ち消されることになる。次いで、第2重畳電流検出用コイル対322に着目すると、第1重畳電流検出用コイル322aには反時計方向(
図8中に濃い矢印で示す)の磁束が作用するのに対して、第2重畳電流検出用コイル322bには時計方向(
図8中に濃い矢印で示す)の磁束が作用する。すなわち、第1重畳電流検出用コイル322aと第2重畳電流検出用コイル322bには、互いに逆方向の磁束が働くため、第2重畳電流検出用コイル対322としては、近接導体107による外部磁界EMFの影響が打ち消されることになる。
【0085】
このように、第1重畳電流検出用コイル対321および第2重畳電流検出用コイル対322は、近接導体107による外部磁界EMFの影響が、第1重畳電流検出用コイル321aと第2重畳電流検出用コイル321b内および第1重畳電流検出用コイル322aと第2重畳電流検出用コイル322b内で、それぞれ打ち消される。このように、第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322から外部磁界EMFの影響が打ち消された検出電流を受ける第1,第2電流電圧変換手段51,52は、電流電圧変換および増減に外部磁界EMFの影響を受けることなく、コア分割面の磁気的結合バランスを調整し、適正な重畳電流検出情報を得ることができる。したがって、本実施形態のクランプ式接地抵抗測定装置1においては、
図13に示した従来のクランプテスタのように、磁気的結合バランスを調整するために多数の半固定抵抗や固定抵抗を設ける必要がない。
【0086】
また、第1電流電圧変換手段51A,51A′,51A″および第2電流電圧変換手段52A,52A′,52A″は、オペアンプを使用して第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322からの検出電流を対応する検出電圧に変換するので、電流検出用の半固定抵抗や固定抵抗を必要としない。すなわち、オペアンプを使用した第1電流電圧変換手段51A,51A′,51A″および第2電流電圧変換手段52A,52A′,52A″では、第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322からオペアンプ511,521の反転入力端子(-)までの間の電気抵抗はないに等しい。よって、オペアンプを使用した第1電流電圧変換手段51A,51A′,51A″および第2電流電圧変換手段52A,52A′,52A″を備えるクランプ式接地抵抗測定装置1は、回路全体に寄生する多くの内部抵抗(並列抵抗)に流れる漏れ電流の影響をほとんど受けない。
【0087】
しかも、第1,第2電流電圧変換手段51A,52Aからの検出電圧を高入力インピーダンスで非反転入力端子(+)に入力できる非反転加算回路によって加算手段53を構成すれば、バランス調整が容易である。例えば、
図3に示した第1,第2電流電圧変換手段51A,52Aにおいては、負帰還用の固定抵抗素子512,522の抵抗値のみを調整すれば、重畳電流検出用コア31の分割に起因する第1電流電圧変換手段51Aおよび第2電流電圧変換手段52Aの検出電圧のアンバランスを取り除くことができる。或いは、バランス調整手段534としての固定抵抗素子5341,5342の抵抗値を調整することで、重畳電流検出用コア31の分割に起因する第1電流電圧変換手段51Aおよび第2電流電圧変換手段52Aの検出電圧のアンバランスを取り除くことができる。また、
図4に示した第1,第2電流電圧変換手段51A′,52A′においては、抵抗値の調整に適した可変抵抗器513,523を備えているので、コア分割面の磁気特性のアンバランスに起因する第1,第2電流電圧変換手段51A′,52A′の検出電圧のアンバランスを容易に取り除くことができる。或いは、バランス調整手段534′としての可変抵抗器5343の抵抗値を調整することで、重畳電流検出用コア31の分割に起因する第1電流電圧変換手段51Aおよび第2電流電圧変換手段52Aの検出電圧のアンバランスを容易に取り除くことができる。
【0088】
なお、本実施形態のクランプ式接地抵抗測定装置1では、重畳電流検出用コア31を2等分して第1分割コア311と第2分割コア312で構成したが、2等分に限定されるものではなく、コア中心を通る分割ラインでm個(mは2以上の自然数)に等分されていれば良い。また、本実施形態のクランプ式接地抵抗測定装置1では、2組の第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322で構成したが、2組に限定されるものではなく、n組(nはm以上の自然数)備えるものでも良い。そして重畳電流検出用コイル対をn組設けた場合は、各重畳電流検出用コイル対に生じる電流をn個の電流電圧変換手段にてそれぞれ電圧に変換して増減すれば良い。n個の電流電圧変換手段よりそれぞれ出力された検出電圧を加算手段53により合成してA/D変換手段54によりデジタル値に変換して演算制御部6に送れば、接地抵抗値を求められる。ただし、各重畳電流検出用コイル対の各分割コイルがコア中心を挟んで対向配置されたときに、重畳電流検出用コアの分割ラインに跨がっていると、コアの分割動作を妨げるので、重畳電流検出用コイル対の数nは重畳電流検出用コイルの分割数mの自然数倍に設定することが望ましい。また、加算手段53を非反転加算回路で構成したが、これに限定されるものではなく、測定精度を保証できる範囲内であれば一般的な反転加算回路を用いてもよい。
【0089】
上述した重畳電流情報取得部5においては、オペアンプ構成の第1電流電圧変換手段51A,51A′,51A″および第2電流電圧変換手段52A,52A′,52A″を備えることで、電流電圧変換機能を実現したが、これに限定されるものではない。
図9に示す第2構成例の第1電流電圧変換手段51Bおよび第2電流電圧変換手段52Bは、シャント抵抗516,526を用いることで、電流電圧変換機能を実現した。
【0090】
第1電流電圧変換手段51Bとして用いるシャント抵抗516は、各端子間に流れる電流により生じる端子間の電位差を求めるための抵抗素子であり、重畳電流情報取得部5の試験結果またはシミュレーション結果に応じて設定された抵抗値の固定抵抗素子である。シャント抵抗516の一端には、第1重畳電流検出用コイル対321の第1コイル対第1端子321e1と固定抵抗素子5341の一端とが接続され、シャント抵抗516の他端は、第1重畳電流検出用コイル対321の第1コイル対第2端子321e2とアース(接地)とが接続される。
【0091】
同様に、第2電流電圧変換手段52Bとして用いるシャント抵抗526は、各端子間に流れる電流により生じる端子間の電位差を求めるための抵抗素子であり、重畳電流情報取得部5の試験結果またはシミュレーション結果に応じて設定された抵抗値の固定抵抗素子である。シャント抵抗526の一端には、第2重畳電流検出用コイル対322の第2コイル対第1端子322e1と固定抵抗素子5342の一端とが接続され、シャント抵抗526の他端は、第2重畳電流検出用コイル対322の第2コイル対第2端子322e2とアース(接地)とが接続される。
【0092】
第1電流電圧変換手段51Bのシャント抵抗516には、第1重畳電流検出用コイル対321の第1コイル対第1端子321e1と、アース(接地)接続された第1重畳電流検出用コイル対321の第1コイル対第2端子321e2との間の検出電流に対応する電位差が生じる。同様に、第2電流電圧変換手段52Bのシャント抵抗526には、第2重畳電流検出用コイル対322の第2コイル対第1端子322e1と、アース(接地)接続された第2重畳電流検出用コイル対322の第2コイル対第2端子322e2との間の検出電流に対応する電位差が生じる。この電位差が検出電圧として、第1,第2電流電圧変換手段51B,52Bより出力されるのである。
【0093】
第1,第2電流電圧変換手段51B,52Bの検出電圧は、前述した第1構成例の加算手段53に入力される。第1電流電圧変換手段51Bの検出電圧は、バランス調整手段534の固定抵抗素子5341を介して、高入力インピーダンスのオペアンプ531の非反転入力端子(+)に入力される。第2電流電圧変換手段52Bの検出電圧は、バランス調整手段534の固定抵抗素子5342を介して、高入力インピーダンスのオペアンプ531の非反転入力端子(+)に入力される。そして、加算手段53は、第1電流電圧変換手段51Bおよび第2電流電圧変換手段52Bの各々から出力される検出電圧を加算するとともに増減した合成信号を生成し、図示を省略したA/D変換手段54へ供給する。その後、A/D変換手段54からデジタル信号として出力された重畳電流換算電圧値を用いて、演算制御部6が接地抵抗値を求めるのは、前述した通りである。
【0094】
このように、第1,第2電流電圧変換手段51B,52Bにおいては、シャント抵抗516,526を用いる簡素な構成で電流電圧変換を行えるので、抵抗値を変えるだけで電流電圧変換率を変えることができる。したがって、コア分割面の磁気的結合バランスのずれが生じていても、シャント抵抗516,526の抵抗値を調整することで、第1,第2電流電圧変換手段51B,52Bの検出電圧のアンバランスを容易に取り除くことができる。しかも、シャント抵抗516を用いた第2構成例の第1,第2電流電圧変換手段51B,52Bでは、オペアンプ構成である第1構成例の第1,第2電流電圧変換手段51A,52A等に比べて回路を簡略化できるため、部品原価を低減して安価に作成することが可能になる。
【0095】
なお、一般的な抵抗素子は、抵抗値の精度に多少のバラツキがあると共に、経年劣化等に起因した抵抗値変化もあるので、固定抵抗素子を用いたシャント抵抗516,526を備える第1,第2電流電圧変換手段51B,52Bの検出電圧に誤差が混入する可能性もある。そこで、第1,第2電流電圧変換手段51B,52Bの改変例として
図10に示す第1,第2電流電圧変換手段51B′,52B′では、可変抵抗器517,527を用いた。併せて、第1,第2電流電圧変換手段51B′,52B′からの検出電圧が入力される加算手段53′には、可変抵抗器5343を用いたバランス調整手段534′を設ける。
【0096】
これにより、例えば、基準となる被測定接地線の抵抗を実際に測定しながら可変抵抗器517,527で各検出電圧の増幅率を調整し、可変抵抗器5343によって第1,第2電流電圧変換手段51B′,52B′からの各検出電圧のアンバランスをさらに精度よく簡単に抑制することができる。なお、本構成例では第1,第2電流電圧変換手段51B′,52B′双方の検出電圧を調整するために、可変抵抗器517,527および可変抵抗器5343を設けたが、これに限定されるものではない。例えば、三つの可変抵抗器517,527,5343の何れか1つあるいは2つのみを用いた微調整で、第1電流電圧変換手段51B′および第2電流電圧変換手段52B′の検出電圧のアンバランスを抑えられるようであれば、調整対象外となる可変抵抗器を固定抵抗素子としてもよい。
【0097】
上述した実施形態のクランプ式接地抵抗測定装置1では、単一種類の電流電圧変換手段を重畳電流検出用コイル対の数だけ設けて、単一種類の電流電圧変換手段と重畳電流検出用コイル対が1対1で対応するものとした。しかしながら、計測環境などに応じて複数種類の電流電圧変換手段を使い分けることも可能である。一例を、
図11に示す第2実施形態のクランプ式接地抵抗測定装置1′に基づいて説明する。
【0098】
第2実施形態のクランプ式接地抵抗測定装置1′における重畳電流情報取得部5′は、第1重畳電流検出用コイル対321に対応した第1電流電圧変換手段セット51Sと、第2重畳電流検出用コイル対322に対応した第2電流電圧変換手段セット52Sと、選択手段55と、加算手段53″と、図示を省略したA/D変換手段54を備える。第1電流電圧変換手段セット51Sは、オペアンプ構成の第1電流電圧変換手段51Aと、シャント抵抗で構成した第1電流電圧変換手段51Bの2種類で1組のセットであり、第1電流電圧変換手段51Aと第1電流電圧変換手段51Bは電流電圧変換率が異なる。同様に、第2電流電圧変換手段セット52Sは、オペアンプ構成の第2電流電圧変換手段52Aと、シャント抵抗で構成した第2電流電圧変換手段52Bの2種類で1組のセットであり、第2電流電圧変換手段52Aと第2電流電圧変換手段52Bは電流電圧変換率が異なる。
【0099】
選択手段55は、第1電流電圧変換手段セット51Sに対応した第1選択スイッチ551と、第2電流電圧変換手段セット52Sに対応した第2選択スイッチ552と、加算手段53″におけるオペアンプ531の非反転入力(+)への入力先を選択する第3選択スイッチ553よりなる。加算手段53″は、第1,第2電流電圧変換手段セット51S,52Sに対応したバランス調整手段534′を備える。そして、バランス調整手段534′は、第1,第2電流電圧変換手段51A,52Aの入力調整用の固定抵抗素子534a1,534a2と、第1,第2電流電圧変換手段51B,52Bの入力調整用の固定抵抗素子534b1,534b2を備える。
【0100】
第1選択スイッチ551は2状態選択式スイッチで、その共通端子には第1重畳電流検出用コイル対321の第1コイル対第1端子321e1が接続され、第1選択端子(
図11中、下側の選択端子)にはオペアンプ511の反転入力端子(-)および固定抵抗素子512の一端が接続され、第2選択端子(
図11中、上側の選択端子)にはシャント抵抗516の一端と固定抵抗素子534b1の一端が接続される。第2選択スイッチ552も同様の2状態選択式スイッチで、その共通端子には第2重畳電流検出用コイル対322の第2コイル対第1端子322e1が接続され、第1選択端子(
図11中、下方の選択端子)にはオペアンプ521の反転入力端子(-)および固定抵抗素子522の一端が接続され、第2選択端子(
図11中、上方の選択端子)にはシャント抵抗526の一端と固定抵抗素子534b2の一端が接続される。第3選択スイッチ553も同様の2状態選択式スイッチで、第2選択端子(
図11中、上方の選択端子)には固定抵抗素子534b1および固定抵抗素子534b2の一端が接続され、第1選択端子(
図11中、下方の選択端子)には固定抵抗素子534a1および固定抵抗素子534a2の一端が接続され、共通端子には高入力インピーダンスであるオペアンプ531の非反転入力端子(+)が接続される。なお、固定抵抗素子534a1の他端には固定抵抗素子512の他端およびオペアンプ511の出力端子が接続され、固定抵抗素子534a2の他端には固定抵抗素子522の他端およびオペアンプ521の出力端子が接続される。
【0101】
そして、第1~第3選択スイッチ551~553は、連動して選択先を切り替える。第1選択スイッチ551が第1選択端子に切り換わるときには、第2選択スイッチ552および第3選択スイッチ553も第1選択端子に切り換わり、第1,第2電流電圧変換手段51A,52Aの検出電圧が加算手段53″のオペアンプ531へ供給される。一方、第1選択スイッチ551が第2選択端子に切り換わるときには、第2選択スイッチ552および第3選択スイッチ553も第2選択端子に切り換わり、第1,第2電流電圧変換手段51B,52Bの検出電圧が加算手段53″のオペアンプ531へ供給される。また、第1,第2電流電圧変換手段51A,52Aの電流電圧変換率と、第1,第2電流電圧変換手段51B,52Bの電流電圧変換率が異なるように設定しておく。これにより、第1,第2重畳電流検出用コイル対321,322の検出電流が大きく異なっていても、第1,第2電流電圧変換手段51A,52Aより得られる検出電圧と、第1,第2電流電圧変換手段51B,52Bより得られる検出電圧とを、同じにできる。したがって、選択手段55によって第1,第2電流電圧変換手段セット51S,52Sから第1,第2電流電圧変換手段51A,52A,52A,52Bの組み合わせを選択することは、入力レンジを切り替える機能として利用できる。このように、n組の重畳電流検出用コイル対により検出された検出電流の入力先として、n組の電流電圧変換手段セットから検出電圧が同じになる電流電圧変換手段をそれぞれ選択し、加算手段へ入力させる選択手段55は、入力レンジ切替スイッチとして利用できる。
【0102】
ここで、重畳電流情報取得部5′の動作として、先ず、第1~第3選択スイッチ551~553で第2選択端子が選択された場合を説明する。第1重畳電流検出用コイル対321の第1コイル対第1端子321e1から第1選択スイッチ551を経由して、第1電流電圧変換手段51Bのシャント抵抗516へ至るルートが閉じる。このとき、シャント抵抗516からアースまでの間には、その間の各部品が持つオン抵抗および固有の抵抗値に関係なく一定の電流が流れる。そのため、第1選択スイッチ551および固定抵抗素子534b1と接続したシャント抵抗516の一端には、第1選択スイッチ551のオン抵抗に影響されることなく、検出電流に対応する正確な検出電圧が生成される。同様に、第2重畳電流検出用コイル対322の第2コイル対第1端子322e1から第2選択スイッチ552を経由して、第2電流電圧変換手段52Bのシャント抵抗526へ至るルートが閉じる。このとき、シャント抵抗526からアースまでの間には、その間の各部品が持つオン抵抗および固有の抵抗値に関係なく一定の電流が流れる。そのため、第2選択スイッチ552および固定抵抗素子534b2と接続したシャント抵抗526の一端には、第1選択スイッチ551のオン抵抗に影響されることなく、検出電流に対応する正確な検出電圧が生成される。そして、第1電流電圧変換手段51Bにより生成された検出電圧と第2電流電圧変換手段52Bにより生成された検出電圧が、固定抵抗素子534b1,534b2を経由して平均され、第3選択スイッチ553を経由して高入力インピーダンスであるオペアンプ531の非反転入力端子(+)に印加されるので、検出電圧の加算値に第3選択スイッチ553のオン抵抗は影響しない。
【0103】
次に、重畳電流情報取得部5′の動作として、第1~第3選択スイッチ551~553で第1選択端子が選択された場合を説明する。第1重畳電流検出用コイル対321の第1コイル対第1端子321e1から第1選択スイッチ551を経由して、固定抵抗素子512と接続されたオペアンプ511の反転入力端子(-)へ至るルートが閉じる。このとき、オペアンプ511の反転入力端子(-)は、非反転入力端子(+)と同じアースの電位となり、オペアンプ511の出力からのフィードバック電圧によって反転入力端子(-)までに流れている電流と同じ電流が固定抵抗素子512に流れる。そのため、第1選択スイッチ551のオン抵抗に影響されることなく、オペアンプ511からは検出電流に対応する正確な検出電圧が出力される。同様に、第2重畳電流検出用コイル対322の第2コイル対第1端子322e1から第2選択スイッチ552を経由して、固定抵抗素子522と接続されたオペアンプ521の反転入力端子(-)へ至るルートが閉じる。このとき、オペアンプ521の反転入力端子(-)は、非反転入力端子(+)と同じアースの電位となり、オペアンプ521の出力からのフィードバック電圧によって反転入力端子(-)までに流れている電流と同じ電流が固定抵抗素子522に流れる。そのため、第1選択スイッチ551のオン抵抗に影響されることなく、オペアンプ511からは検出電流に対応する正確な検出電圧が出力される。そして、第1電流電圧変換手段51Aにより生成された検出電圧と第2電流電圧変換手段52Aにより生成された検出電圧が、固定抵抗素子534a1,534a2を経由して平均され、第3選択スイッチ553を経由して高入力インピーダンスであるオペアンプ531の非反転入力端子(+)に印加されるので、検出電圧の加算値に第3選択スイッチ553のオン抵抗は影響しない。
【0104】
さらに、加算手段53″には、バランス調整手段534′を設けてあるので、第1電流電圧変換手段セット51Sの検出電圧と第2電流電圧変換手段セット52Sの検出電圧とのバランス調整を行うことができる。第1電流電圧変換手段51Aの検出電圧と第2電流電圧変換手段52Aの検出電圧とのバランス調整を行う場合には、固定抵抗素子534a1もしくは固定抵抗素子534a2の抵抗値を調整すれば良い。第1電流電圧変換手段51Bの検出電圧と第2電流電圧変換手段52Bの検出電圧とのバランス調整を行う場合には、固定抵抗素子534b1もしくは固定抵抗素子534b2の抵抗値を調整すれば良い。
【0105】
上述した重畳電流情報取得部5′では、2種類の電流電圧変換手段で1組の電流電圧変換手段セットを構成したが、これに限定されるものではなく、p種類(pは2以上の自然数)としてもよい。p種類の電流電圧変換手段を含む電流電圧変換手段セットであれば、p種類のレンジ切り替えが可能なクランプ式接地抵抗測定装置1′として利用できる。ただし、選択手段55には、p種類以上の選択機能を備えるものを用いる必要がある。また、重畳電流検出用コイル対が2以上のn個あれば、悪重畳電流検出用コイル対に対応させて、電流電圧変換手段セットもnセット設けておく必要がある。なお、p種類の重畳電流電圧変換手段は、それぞれ電流電圧変換率が異なっていれば良いので、全てオペアンプ式の電流電圧変換手段で揃えても良いし、全てシャント抵抗式の電流電圧変換手段で揃えても良いし、その他の手法の電流電圧変換手段を用いても良い。また、加算手段53″を非反転加算回路で構成したが、これに限定されるものではなく、測定精度を保証できる範囲内であれば一般的な反転加算回路を用いてもよい。
【0106】
以上、本発明に係るクランプ式接地抵抗測定装置の実施形態を添付図面に基づいて説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない範囲で、公知既存の等価な技術手段を転用することにより実施しても構わない。
【符号の説明】
【0107】
1 クランプ式接地抵抗測定装置
2 電圧重畳用変圧器
21 電圧重畳用コア
22 電圧重畳用コイル
3 重畳電流検出用変流器
31 重畳電流検出用コア
311 第1分割コア
311a,311b 端面
312 第2分割コア
312a,312b 端面
321 第1重畳電流検出用コイル対
321a 第1重畳電流検出用コイル
321b 第2重畳電流検出用コイル
322 第2重畳電流検出用コイル対
322a 第1重畳電流検出用コイル
322b 第2重畳電流検出用コイル
DL3a,DL3b 分割ライン
CO コア中心
4 注入電圧制御部
5 重畳電流情報取得部
6 演算制御部
7 表示部
104 接地線