(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】腫瘍診断治療一体型のホウ素担体、その調製方法及び用途
(51)【国際特許分類】
C07F 5/02 20060101AFI20240318BHJP
C07F 5/04 20060101ALI20240318BHJP
A61K 31/69 20060101ALI20240318BHJP
A61K 51/00 20060101ALI20240318BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C07F5/02 C CSP
C07F5/02 B
C07F5/04 C
A61K31/69
A61K51/00 100
A61K51/00 200
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2022552571
(86)(22)【出願日】2021-03-01
(86)【国際出願番号】 CN2021078438
(87)【国際公開番号】W WO2021175183
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】202010137553.7
(32)【優先日】2020-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】507232478
【氏名又は名称】北京大学
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.5, Yiheyuan Road, Haidian District, Beijing 100871, China
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ 志博
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 俊▲芸▼
【審査官】中村 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-510564(JP,A)
【文献】国際公開第2020/035011(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109053781(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 5/00
A61K 31/00
A61K 41/00
A61K 51/00
A61P 35/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iによって表される化合物において、
【化1】
R基は、水素又はアルキルであり
、
前記アルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、又はペンチルであるである、化合物。
【請求項2】
ベンゼン環に結合したホウ素原子は
10B又は天然ホウ素であり、
-BF
3
-において、少なくとも1つのフッ素原子が放射性標識であり、
-BF
3
-において、ホウ素原子が天然ホウ素である、
請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記アルキルはメチルである、
請求項1又は2に記載の化合物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の1つ又は複数の化合物及び薬学的に許容される担体を含む、
ホウ素担体組成物。
【請求項5】
フルクトース、ウンデカヒドロメルカプトドデカルボリド二ナトリウム及びその二量体、ホウ素化デンドリマー-EGFバイオコンジュゲート、EGFRモノクローナル抗体-ホウ素ボロン酸塩コンジュゲート、FR標的ホウ素含有リポソーム、FR標的ホウ素含有ナノ粒子、及びホウ酸塩ポルフィリンの中の1つ又は複数をさらに含む、
請求項
4に記載のホウ素担体組成物。
【請求項6】
化合物7
【化2】
にKHF溶液添加し、塩酸を添加してpH<0になるようにし、ビス-三フッ化ホウ素含有中間体
【化3】
を生成し、次いで酸性度をpH1.5~4
に増加させることにより、請求項1又は2に記載の化合物を得るステップ、を含む、
請求項1又は2に記載の化合物の調製方法。
【請求項7】
前記酸性度をpH2~2.5に増加させることにより、請求項1又は2に記載の化合物を得る、
請求項6に記載の化合物の調製方法。
【請求項8】
化合物6
【化4】
にNaOH溶液を添加して最終濃度が0.4~0.6Mになるようにし、室温で20~40分間撹拌し、次いで濃塩酸を添加して中和することにより、化合物7を得る、
請求項
6に記載の化合物の調製方法。
【請求項9】
化合物2
【化5】
にN-メチルイミノ酢酸を添加することにより化合物3
【化6】
を得るステップを含む、
請求項
6に記載の方法。
【請求項10】
(1) p-ブロモフェネチルアルコール
【化7】
を化合物2
【化8】
に変換するステップ、
(2) N-メチルイミノ酢酸を添加して、化合物2を化合物3
【化9】
に変換するステップ、
(3) 化合物3を化合物4
【化10】
に変換するステップ、
(4) 化合物4を化合物5
【化11】
に変換するステップ、
(5) 化合物5を化合物6
【化12】
に変換するステップ、
(6) 化合物7を化合物8
【化13】
に変換するステップ、及び
(7) 任意的に化合物8を
【化14】
に変換するステップ、を含む、請求項
6に記載の方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載の化合物、又は請求項3又は4に記載のホウ素担体組成物
を使用して、癌の治療又は診断するための前記薬剤を調製する方法。
【請求項12】
前記薬剤が、腫瘍診断治療の一体型又はホウ素中性子捕捉
療法に使用されるホウ素担体である、
請求項
11に記載の
方法。
【請求項13】
前記癌は、扁平上皮がん、肺がん、腹膜がん、肝細胞がん、胃がん、膵臓がん、メラノーマ、膠芽細胞腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝腫瘍、乳がん、結腸がん、結腸直腸がん、子宮がん、唾液腺がん、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝臓がん、頭頸部がん、B細胞リンパ腫又は白血病から選択される、請求項
11又は
12に記載の
方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2020年3月3日に出願された、出願番号が202010137553.7であり、発明の名称が「腫瘍診断治療一体型のホウ素担体、その調製方法及び用途」である中国発明特許出願を優先権として主張する。
【0002】
本発明は、一般に放射性薬剤及び核医学の分野に関し、特に、ホウ素中性子捕捉療法及び腫瘍診断に使用される腫瘍診断治療一体型のホウ素担体に関する。
【背景技術】
【0003】
ホウ素中性子捕捉療法(Boron neutron capture therapy、BNCT)は、バイナリター標的放射線精密医療技術である。先ずは患者に腫瘍細胞に蓄積可能なホウ素担体を投与し、次に患者に熱中性子又は熱外中性子の照射を行う。その原理は、高度に標的化されたホウ素含有薬を患者に適用し、癌細胞において蓄積することであり、熱中性子に対する10Bの捕獲断面積は、人体組成の通常の要素に比べて非常に高く、熱中性子と10B原子との捕獲反応により、生成された高エネルギーのα粒子及びLi粒子のエネルギーは、約10μmの癌細胞にのみ作用し、細胞の構造に不可逆的な損傷を引き起こし、細胞を修復不能にしてアポトーシスを引き起こす。該治療法を悪性腫瘍治療に使用すると、腫瘍組織を殺すと同時に、患部周囲の正常組織及び機能を最大限に維持することができ、これにより治療後の患者の生活の質及び生存期間を改善することが可能である。4-ボロノ-L-フェニルアラニン(4-L- boronophenylalanine、BPA)は、FDAによって承認されたBNCTに最も一般的に使用されるホウ素担体薬である。しかし、BNCTはホウ素担体の薬剤動態結果に基づいて治療戦略を計画する必要があるため、如何に腫瘍及びその他の組織器官中のBPA濃度を効果的に取得するかは、各研究における重要な課題の1つとなっている。
【0004】
陽電子放出断層撮影法(PET)は、放射性分子プローブに基づく分子イメージング技術であり、分子プローブ及び医学画像化技術を結合し、細胞及び分子レベルで生体内病理、生理過程の定性的及び定量的研究を行うことができる。11C、18Fなどの陽電子崩壊同位体から放出された陽電子は、周囲の広く分布している陰電子と衝突して急速に消滅し、且つ、エネルギーを2つの反対方向の511keVのエネルギーを持つ光子に変換する。2つの光子が、機器内で向かい合っている2つのプローブによって同時に検出されると、2つのプローブの連結線で消滅が発生したことを示す。したがって、PETは体内の放射性の分布を正確に特定して定量化することができる。そして、コンピュータにより再構築すると、人体の3次元PET画像を取得できる。PETは、体内薬剤の分布を研究するための最も効果的な手段の1つである。
【0005】
PETイメージングに基づいて治療コンポーネントを組み合わせることは、腫瘍イメージングと治療との一体型を実現するための技術開発の方向性である。2-フルオロ-4-ボロノ-L-フェニルアラニン(2-fluoro-4-L-boronophenylalanine、FBPA)は、ベンゼン環の2位フッ素原子で置換されたBPAである。このフッ素原子は放射性18Fであってもよく、その場合、該分子はBPAの体内分布状況をシミュレートするためのPETプローブとして機能することができる。 [18F]-FBPAをプローブとして使用するPETイメージング技術は、現在すでにBNCTの治療前診断に適用されており、患者体内におけるBPAの動的分布情報を理解するのに役立っている(Ishiwata K、et al. Melanoma Research、1992. PMID:1450671)。ただし、FBPAとBPAとの間には分子構造的違いがあり、プローブ用量でのFBPAは、治療用量でのBPAの体内分布状況を表すことができず、FBPA-PET技術は成熟していないため、診断治療一体型を実現可能な新薬分子の開発が急務である。
【発明の概要】
【0006】
BNCT療法は、腫瘍部位でのホウ素担体の高度な蓄積に依存し、その蓄積の状況に基づいて治療計画をカスタマイズする必要があり、これは、ホウ素担体の体内濃度分布に対してリアルタイムでモニタリングする必要がある。BPAは、現在承認されている唯一のBNCT薬として、その体内分布を研究することは特に重要である。そのうち、重要な方法は、PET分子イメージングによって、BPAのベンゼン環に放射性
18Fを導入することによって[
18F]FBPAを取得することである。[
18F]FBPAによってBPAの体内分布をシミュレートし、さらにBNCTを計画する。ただし、化学構造上、ベンゼン環のH原子をF原子に置換すると、その化学的特性及び生物学的特性がBPAと依然として同じであることを保証するのは難しく、この違いはBNCTにより大きな不確実性をもたらす。
【化1】
【0007】
従来のFBPA-PETがBNCTの体内分布状況を正確、且つ効率的に反映できず、BNCTを正確、効率的に実現できないという問題について、本発明は、診断治療一体型の新型ホウ素担体BF
3 -BPAを提供することによって、便利な放射性標識を行い、標識の前後で同じ化学構造を有し、体内分布を正確に反映して、体内の典型的ホウ素担体のリアルタイム分布予測が不明確という問題を解決し、より高効率的なBNCT計画を提供し、且つ分子内の2つのホウ素原子を介して、より高効率的なBNCTを実現する。
【化2】
【0008】
本発明の概念は以下のとおりである:ボロン酸は、天然アミノ酸のカルボキシル基を三フッ化ホウ素で置換することによって開発されたアミノ酸誘導体のクラスである。18F-19F同位体交換反応により、18Fを放射性標識に使用して放射性プローブを構築し、PETイメージングを実現することができる。本発明者らは、三フッ化ホウ素基及びカルボン酸基が電気的特性において高度の類似性を示すことを研究で発見した。したがって、ボロン酸及びその対応する天然アミノ酸は生物学的認識及び輸送において類似性を示す。これに基づいて、出願人は、BPAのカルボキシレート基を三フッ化ホウ素基で置換し、BF3-BPAを構築することにより、腫瘍領域で高度に蓄積を達成できることを発見した。一方、BF3 -BPAをF-18で標識して、体内の分子濃度分布分析を行うことができる。もう一方、BNCTのホウ素担体として直接使用することも可能であり、BF3-BPAは放射性標識前後で完全に一致した化学構造を有するため、[ 18F ]BF3-BPAによりBF3 -BPAの体内分布を正確に反映することができ、BNCT治療法の実施に重要な根拠を提供する。さらに重要なことは、BF3-BPAには2つのホウ素原子があり、より強力なホウ素担体能力を有し、より高効率的なホウ素の供給を実現する。
【0009】
本発明の分子は、調製過程において2つのボロン酸を有する中間体を生成するため、三フッ化ホウ素酸化が間違った位置で実行される場合、素ホウ素酸基が有する負電荷は、分子の化学的及び薬学的特性に深刻な影響を及ぼし、最終的にその治療効果に影響を与える。BF3 -BPA合成の過程において、芳香環の三フッ化ホウ素酸化の生成を回避するために、選択的にα-アミノボロン酸に対して選択的な三フッ化ホウ素酸化を実行する必要がある。ベンゼン環とα-アミノ基との化学的性質の違いにより、フッ素化過程中に芳香族三フッ化ホウ素が優先的に生成され、目的の三フッ化ホウ素酸化生成物BF3 -BPAを得ることができない。合成研究の過程で、出願人は、α-アミノ三フッ化ホウ素と芳香族三フッ化ホウ素との加水分解速度に差があり、後者は前者に比べて10 2~10 3倍高いということを発見し、これはBF3 - BPA合成に可能性を与えてくれた。本発明は、さらにBF3-BPAを調製するための新規な方法を提供し、一般的な三フッ化ホウ素酸化条件下でビス-ボロントリフルオリドを含む中間体を取得し、次に加水分解条件下で加水分解を行い、ベンゼンと結合されている三フッ化ホウ素を加水分解することにより、BF3 -BPA目標生成物を得る。
【0010】
一態様において、本発明は、式Iによって表される化合物を提供する:
【化3】
、
そのうち、R基は、水素又はアルキルである。
一実施形態では、ベンゼン環に結合したホウ素原子は
10B又は天然ホウ素である。一実施形態では、-BF
3
-中の少なくとも1つのフッ素原子は放射性標識である。
一実施形態では、アルキルはメチルである。
一実施形態では、-BF
3
-中のホウ素原子は天然ホウ素である。
もう一方、本発明は、1つ又は複数の本発明による式I によって表される化合物及び薬学的に許容される担体を含むホウ素担体組成物を提供する。
一実施形態では、ホウ素担体組成物は、フルクトース、ウンデカヒドロメルカプトドデカルボリド二ナトリウム及びその二量体、ホウ素化デンドリマー-EGFバイオコンジュゲート、EGFRモノクローナル抗体-ホウ素ボロン酸塩コンジュゲート、FR標的ホウ素含有リポソーム、FR標的ホウ素含有ナノ粒子、及びホウ酸塩ポルフィリンの中の1つ又は複数をさらに含む。
【0011】
もう一方、本発明は、以下のステップを含む本発明による化合物の調製方法を提供する: 化合物7
【化4】
にKHF溶液を添加し、塩酸を添加してpH<0になるようにし、ビス-三フッ化ホウ素含有中間体
【化5】
を生成し、次いで、酸性度をpH1.5~4まで増加させるが、好ましくはpH2~2.5に増加させる。
一実施形態では、化合物6
【化6】
にNaOH溶液を添加して最終濃度が0.4~0.6Mになるようにし、室温で20~40分間撹拌し、次いで濃塩酸を添加して中和することにより、化合物7を得る。
一実施形態では、調製方法は、化合物2
【化7】
にN-メチルイミノ酢酸を添加することにより化合物3
【化8】
を得るステップを含む。
【0012】
一実施形態では、調製方法は、以下のステップを含む:
(1) p-ブロモフェネチルアルコール
【化9】
を化合物2
【化10】
に変換するステップ、
(2) N-メチルイミノ酢酸を添加して、化合物2を化合物3
【化11】
に変換するステップ、
(3) 化合物3を化合物4
【化12】
に変換するステップ、
(4) 化合物4を化合物5
【化13】
に変換するステップ、
(5) 化合物5を化合物6
【化14】
に変換するステップ、
(6) 化合物7を化合物8
【化15】
に変換するステップ、及び
(7) 任意的に化合物8を
【化16】
に変換するステップ。
【0013】
又もう一方、本発明は、癌の治療又は診断に使用される薬剤の調製における本発明による化合物の用途を提供する。
一実施形態では、薬剤は、腫瘍診断治療の一体型又はホウ素中性子捕捉療法に使用されるホウ素担体である。
一実施形態では、癌は、扁平上皮がん、肺がん、腹膜がん、肝細胞がん、胃がん、膵臓がん、メラノーマ、膠芽細胞腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝腫瘍、乳がん、結腸がん、結腸直腸がん、子宮がん、唾液腺がん、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝臓がん、頭頸部がん、B細胞リンパ腫又は白血病から選択される。
【0014】
本発明の利点は以下を含む:
(1)本発明は、
18F標識の前後で同じ化学構造を有するBF
3-BPA及び[
18F] BF
3-BPA、腫瘍診断及びBNCT治療に使用可能な診断治療一体型薬剤を使用し、その一致した化学構造によって信頼できる薬剤の体内分布結果を提供する。
【化17】
(2)構造内に2つのB原子があり、より高いBの伝達効率を有する。
(3)本発明の方法によると、単一のホウ素のフッ素化を実現する。
(4)本発明による化合物は、腫瘍での摂取量が高い。
(5)本発明は、診断治療一体型の新型ホウ素担体BF
3-BPAを提供し、ホウ素担体の動的分布を得るために使用され、BNCT前の治療計画を実行するために使用され、又、BNCTに直接使用されることが可能である。
(6)本発明は、本発明による化合物を調製する為の新規な方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1は、BF
3 -BPAと[
18F ]BF
3 - BPAとの合成経路である。
図2A-
図2Bは、化合物8(BF
3-BPA)のHPLC-MS結果である。
図3は、[
18 F] BF
3 -
BPA radio-HPLC結果である。
図4は、化合物9のHPLC-MS[MH]-質量スペクトル結果である。
図5は、化合物7のHPLC-MS[MH]-質量スペクトル結果である。
図6は、化合物7及び副生成物の高速液体クロマトグラムである。
図7は、化合物10のHPLC-MS [M +H]+質量スペクトルである。
図8は、化合物11のHPLC-MS[M-H]-質量スペクトルである。
図9は、[
18 F] BF
3 - BPAが担癌マウスの尾静脈に注射された小動物PET/CTイメージングである。
図10は、BNCT腫瘍治療に使用されるBF
3 - BPAの腫瘍増殖曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、式Iによって表される化合物を提供する:
【化18】
【0017】
式(I)において、Rは独立して水素又はアルキルである。 「アルキル」は、飽和した線状炭化水素基を指す。例えば、アルキル基は、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルなどであってもよい。好ましくは、R基はメチルである。
式(I)において、-BF 3
-の少なくとも1つのフッ素原子は放射性標識されている。例えば、1、2、又は3個のフッ素原子は18Fである。-BF 3
-のホウ素原子は天然ホウ素であってもよい。
式(I)において、ベンゼン環に結合しているホウ素原子は10B又は天然ホウ素である。
本発明は、さらに本発明の化合物及び薬学的に許容される担体を含むホウ素担体組成物を提供する。ホウ素担体組成物は、さらにフルーツ酸を含んでもよく、又は他のホウ素担体を含んでもよい。例えば、ウンデカヒドロメルカプトドデカルボリド二ナトリウム及びその二量体、ホウ素化デンドリマー-EGFバイオコンジュゲート、EGFRモノクローナル抗体-ホウ素ボロン酸塩コンジュゲート、FR標的ホウ素含有リポソーム、FR標的ホウ素含有ナノ粒子、及びホウ酸塩ポルフィリンの中の1つ又は複数を含んでもよい。
【0018】
本発明による調製方法は、以下のステップを含む:
(1) PCy
3・HBF
4をトルエンに添加し、その後CuSO
4・5H
2O溶液及び脱イオン水を添加し、室温で激しく攪拌した後、窒素保護下でベンジルアミンを添加して紺色の触媒を形成した;トルエンを添加した後、化合物5及びB2pin2を添加した;その後、反応系を反応物が完全に消失するまで室温で反応させた;飽和EDTA反応混合物を添加してから、飽和ブラインで洗浄した;有機相を混合した後、無水Na
2SO
4で乾燥させ、且つ真空で有機溶媒を除去して、黄色油性液体を得たステップ;及び
(2)アセトニトリルに溶解させ、NaOH溶液を添加し、室温で撹拌してから、濃塩酸を添加して中和反応を行い、反応混合物を得たステップ。
(3)KHF
2溶液を反応混合物に添加してから、濃塩酸を滴下してpH<0になるようにし、室温で2時間反応させた;減圧下で蒸発させてHClを除去し、酸性度をpH~2にまで低下させ、30分間反応させてから、アセトニトリルを添加して共沸乾燥させ、アセトニトリル抽出で固体を洗浄し、不溶物を廃棄し、アセトニトリル相を精製して化合物8:BF
3-BPAを得た。
【化19】
【0019】
図1は本発明による調製方法を示し、以下のステップを含む。
p-ブロモフェネチルアルコール(化合物1)を無水テトラヒドロフランに溶解し、-90~-70℃(例えば:-78℃)に冷却した;n-ブチルリチウム/ヘキサン溶液を滴下して、溶液が徐々に黄色に変わり、その後ベージュ色のペースト状になり、-90~-70℃(例えば:-78℃)で攪拌を続けた(例えば:15分間)。
次に、ホウ酸トリイソプロピルを滴下し、溶液が透明になり、-90~-70℃ (例えば、-78℃)で反応させた(例えば、20分間)。その後、室温まで温め、塩酸を加え、室温で撹拌した(例えば、15分間)。分液し、水相を酢酸エチルで抽出し、有機相を混合し、飽和塩化ナトリウムで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を真空で除去して、白色の固体の化合物2を得た。化合物はさらに精製することなく次の反応に使用した。化合物2:1H NMR(400 MHz、Methanol-d4)δ7.60-6.94(m、4H)、3.75(t、J = 7.1 Hz、2H)、2.82(t、J = 7.1 Hz、2H)。
化合物2をトルエンに溶解し、DMSOを添加した後、N-メチルイミノ酢酸を添加した。還流させ、トルエンで満たされた水分離器を設置し、約2時間(例えば、1.5~3時間)後に反応を停止する。有機溶媒を真空で除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離によって、白色結晶の化合物3を得た。化合物3:1H NMR(400MHz、Methanol-d4)δ7.53-7.10(m、4H)、4.35-3.96(m、4H)、3.75(t、J = 7.0Hz、2H)、3.31(s、3H) 、2.82(t、J = 7.1Hz、2H)。
化合物3を無水ジクロロメタンと無水テトラヒドロフランとの混合溶媒に溶解し、DMP酸化剤を添加した後、重曹粉末を添加し、室温で反応(例えば、1時間)させた。飽和チオ硫酸ナトリウム溶液及び飽和重炭酸ナトリウム溶液を加え、攪拌(例えば、15分)した。不溶物を濾過により除去し、有機相を分離し、水相を酢酸エチルで抽出し、有機相を混合し、飽和塩化ナトリウム(例えば、30ml×2)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させてから、溶媒を真空で除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離によって、白色固体の化合物4を得た。化合物4:1H NMR(400MHz、Acetone-d6)δ9.74(s、1H)、7.41(dd、J = 100.7、7.9 Hz、4H)、4.48-4.07(m、4H)、2.75(s、3H)。
化合物4を無水テトラヒドロフランに溶解し、tert-ブチルスルフィンアミドを添加し、チタン酸テトラエチルを滴下し、室温で撹拌(例えば、2時間)した。水を加えて反応をクエンチし、攪拌し、濾過して不溶性物質を除去し、有機相を分離し、水相を酢酸エチル(例えば、20ml×3)で抽出し、有機相を混合し、飽和塩化ナトリウム(例えば、30ml×2 )で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を真空で除去した。例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離によって、黄色結晶の化合物5(490mg、66%)を得た。化合物5:1H NMR(400MHz、Acetone-d6)δ8.07(s、1H)、7.43(dd、J= 83.2、7.9Hz、4H)、4.51-4.03(m、4H)、3.91(d、J= 5.1Hz、2H)、2.73(s、3H)、1.12(s、9H)。
PCy3・HBF4をトルエンに添加してから、CuSO4・5H2O溶液及び脱イオン水を加え、室温で激しく攪拌した。その後窒素保護下でベンジルアミンを添加すると、すぐに紺色の触媒が形成された。トルエンを添加し、反応系を0~4℃ (例えば、0℃)に維持し、化合物5及びB2pin2を添加した。その後、反応系を室温に戻し、TLCに反応物が完全に消失したことが示されるまで反応を実施(例えば、1時間)た。飽和EDTAで反応混合物を洗浄した後、飽和ブラインで洗浄した。有機相を混合した後、無水Na
2SO
4で乾燥させ、有機溶媒を真空で除去して、黄色の油性液体の化合物6を得た。粗生成物を精製せずに次の反応に直接使用した。
化合物6をアセトニトリルに溶解し、NaOH溶液を添加し、撹拌した(例えば、室温で30分間撹拌した)。次に、濃塩酸を添加して中和し、化合物7含有反応混合物を得て、それを次のステップで直接使用した。
化合物7含有反応混合物に、KHF
2溶液を加えた後、濃塩酸4.7ml滴下してpH<0になるようにし、室温で2時間反応させた。減圧下で蒸発させてHClを除去し、酸性度をpH~2に下げ、30分間反応させた。アセトニトリルを添加して共沸乾燥させ、アセトニトリルで固体を抽出及び洗浄し、不溶性物質を廃棄し、アセトニトリル相を精製(例えば、pre-HPLCによる精製)して、BF
3-BPA(化合物8)を得た。 HPLC-MSの結果は
図2Bに示すとおりである。
BF3-
BPA(化合物8)をDMFに溶解した後、ピリダジン-HClバッファーを加え、次に水18F-水溶液を添加した。混合物を反応させ、例えば、85℃で15分間反応させた後、生理食塩水で反応をクエンチし、遊離フッ化物イオンを除去して(例えば、Sep-Pak アルミナライトカートリッジ(Alumina Light cartridge)を使用して)、最終生成物[
18F] BF
3 - BPAを得た。Radio-HPLCの結果は
図3に示すとおりである。
【0020】
本発明は、癌の治療又は診断に使用される薬剤の調製におけるホウ素担体組成物の用途を提供する。薬剤は、腫瘍診断治療の一体型又はホウ素中性子捕捉療法のために用いられるホウ素担体であってもよい。
「癌」及び「癌性」という用語は、無秩序な細胞増殖を特徴とすることが多い哺乳動物の生理学的状態を指し、又は説明する。癌の例には、癌腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病が含まれるが、これらに限定されない。そのような癌のより具体的な例は以下のとおりである:扁平上皮がん、肺がん(小細胞肺がん、非小細胞肺がん、肺腺がん、及び肺扁平上皮がんを含む)、腹膜がん、肝細胞がん、胃がん(胃腸がんを含む)、メラノーマ、膵臓がん、神経膠芽細胞腫、子宮頸がん、卵巣がん、肝臓がん、膀胱がん、肝臓腫瘍、乳がん、結腸がん、結腸直腸がん、子宮内膜又は子宮がん、唾液腺がん、腎臓がん、肝臓がん、前立腺がん、外陰がん、甲状腺がん、肝臓がん、及び様々な種類の頭頸部がん、及びB細胞リンパ腫(低等級/濾胞性非ホジキンリンパ腫(NHL)、小リンパ球(SL)NHL、中等級/濾胞性NHL、中等級びまん性NHL、高等級免疫芽細胞NHL、高等級リンパ芽球性NHL、高等級小型非分割細胞NHL、貯蔵病NHL、マントル細胞リンパ腫、AIDS関連リンパ腫、及びワルデンストレームマクログロブリン血症を含む);慢性リンパ球性白血病(CLL);急性リンパ芽球性白血病(ALL);毛細胞白血病;慢性骨髄芽球性白血病;及び移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)、及びケロイド、浮腫(脳腫瘍に関連するものなど)、メイグス(Meigs)症候群に関連する異常な血管増殖。
以下の例示的な実施形態を提供して、本発明をさらに説明する。これらの実施形態は単に例示的なものであり、限定的なものではなく、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ制限されることを理解されたい。
【実施例】
【0021】
[実施例1: 本発明の化合物の調製方法]
図1に示すように、化合物2~8は、開始化合物として市販のp-ブロモフェネチルアルコール(化合物1)を利用して合成できる。
p-ブロモフェネチルアルコール(5mmol、0.7ml、化合物1)を、50mlの無水テトラヒドロフランに溶解し、-78℃まで冷却した。N-ブチルリチウム/ヘキサン溶液(12mmol、2.4eq)を滴下し、溶液が徐々に黄色に変わり、次にベージュ色のペースト状に変わり、-78℃に維持しながら、15分間撹拌した。その後、ホウ酸トリイソプロピル(15mol、3.5ml、3eq)を滴下し、溶液が透明になり、-78℃で20分間反応させた。次に、室温に温め、50mlの10%塩酸を添加し、混合物を室温で15分間攪拌した。分液し、水相を酢酸エチル(20mlx3)で抽出し、有機相を混合し、飽和塩化ナトリウム(30mlx2)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、溶媒を真空で除去して白色固体の化合物2(0.66g、80%)を得た。化合物はさらに精製することなく、次の反応に直接使用した。化合物2:1H NMR(400 MHz、Methanol-d4)δ7.60-6.94(m、4H)、3.75(t、J = 7.1 Hz、2H)、2.82(t、J = 7.1 Hz、2H)。
化合物2(0.66g、4mmol)を、トルエン16mlに溶解し、1.6mlのDMSOを加えた後、N-メチルイミノ酢酸(647mg、4.4mmol、1.1eq)を添加した。還流させ、トルエンで満たされた水分離器を設置し、約2時間後に反応を停止させた。有機溶媒を真空で除去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離によって、白色結晶の化合物3(650mg、59%)を得た。化合物3:1H NMR(400MHz、Methanol-d4)δ7.53-7.10(m、4H)、4.35-3.96(m、4H)、3.75(t、J = 7.0Hz、2H)、3.31(s、3H)、 2.82(t、J = 7.1 Hz、2H)。
化合物3(1.1g、4mmol)を、40mlの無水ジクロロメタンと40mlの無水テトラヒドロフランとの混合溶媒に溶解し、DMP酸化剤(1.7g、4mmol、1eq)を加え、さらに重曹粉末(3.36g、40mmol、10eq)を添加した。反応は室温で1時間実施した。40mlの飽和チオ硫酸ナトリウム溶液及び40mlの飽和重炭酸ナトリウム溶液を加え、15分間撹拌した。不溶物を濾過により除去し、有機相を分離し、水相を酢酸エチル(20ml x 3)で抽出し、有機相を混合し、飽和塩化ナトリウム(30ml x 2)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空で溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離によって、白色固体の化合物4(541mg、49%)を得た。化合物4:1H NMR(400MHz、Acetone-d6)δ9.74(s、1H)、7.41(dd、J = 100.7、7.9 Hz、4H)、4.48-4.07(m、4H)、2.75(s、3H)。
化合物4(541mg、1.97mmol)を、20mlの無水テトラヒドロフランに溶解し、tert-ブチルスルフィンアミド(477mg、 3.94mmol 、2eq)を添加し、チタン酸テトラエチル(3.94mmol、840μl、2eq)を滴下し、室温で2時間撹拌した。水20mlを加えて反応をクエンチし、10分間撹拌した。不溶物を濾過により除去し、有機相を分離し、水相を酢酸エチル(20ml×3)で抽出し、有機相を混合し、飽和塩化ナトリウム(30ml×2)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、真空で溶媒を除去した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分離によって、黄色結晶の化合物5(490 mg、66%)を得た。化合物5:1H NMR(400 MHz、Acetone-d6)δ8.07(s、1H)、7.43(dd、J = 83.2、7.9 Hz、4H)、4.51-4.03(m、4H)、3.91(d、J = 5.1Hz、2H)、2.73(s、3H)、1.12(s、9H)。
PCy
3・HBF
4(124 mg、6 mol%)を、10 mlのトルエンに添加し、次にCuSO
4・5H
2O溶液(82mg、6
mol%)及び脱イオン水(6mL)を加え、室温で10分間激しく撹拌した。その後、窒素下でベンジルアミン(153μL、0.25eq)を添加すると、すぐに紺色の触媒が形成された。さらに50mlのトルエンを添加し、反応系を0℃に維持し、化合物5(2.2g、5.7mmol)及びB
2pin
2(2.8g、2.0eq)を添加した。その後、反応系を室温に戻し、TLCに反応物が完全に消失したことが示されるまで、反応を1時間実施した。反応混合物を飽和EDTA(2×50mL)で洗浄し、さらに飽和ブライン(50mL)で洗浄した。有機相を混合した後に、無水Na2SO4で乾燥させ、真空で有機溶媒を除去して、黄色の油性液体の化合物6(3.0g)を得た。粗生成物を精製せずに次の反応に直接使用した。
化合物6(3.0g、5.7mmol)を、50mlのアセトニトリルに溶解し、57mlの1M NaOH溶液を添加し、混合物を室温で30分間撹拌した。続いて、濃塩酸4.7mlを加えて反応を中和し、化合物7含有反応混合物を得て、次の反応に直接使用した。
化合物7含有反応混合物に、3MのKHF
2溶液(10eq)14.25mlを加えた後、濃塩酸4.7mlを滴下してpH<0になるようにし、室温で2時間反応させた。30 ℃で、HClを減圧下で蒸発させて酸性度をpH~2に低下させ、30分間反応させた。アセトニトリルを添加して共沸乾燥させ、固体をアセトニトリルで洗浄し、不溶物を廃棄し、pre-HPLCを用いてアセトニトリル相を精製(相A:アセトニトリル、相B:水/0.1% TFA;0-2min:5%A、2-11min:5%A-50%A、残りB)し、BF3-
BPA(化合物8)を得た。 HPLC-MSの結果は
図2Bに示すとおりである。
【0022】
[討論]
本化合物の調製の難しさは、選択的な保護基の除去及びボロン酸のフッ素化にある。本方法において、初めてN-メチルイミノ酢酸(MIDA)という保護基を使用して、BF3-BPAの前駆体化合物6を得た。そのアミノ基はtert-ブチルスルフィミドによって保護され、α-アミノボロン酸はボロン酸ピナコールエステルによって保護され、フェニルボロン酸はMIDAによって保護される。
【化20】
本発明者らは、一段階フッ素分解法によって、3MのKHF2(10eq)/ HCl(pH <0、室温で2時間)を使用して、化合物6と反応させ、標的生成物BF3-BPAを直接得た。該方法により、最終的に、フェニルボロン酸がMIDAによって保護された三フッ化ホウ素アミノ酸化合物
【化21】
化合物9を得た。
図4は、化合物9の[M-H]
- 質量スペクトルの結果を示す。
フェニルボロン酸MIDAは、希NaOH溶液中での加水分解によって除去する必要があるため、NaOH水溶液を用いて化合物7を加水分解すると、アミノ基が保護された二重ボロン酸化合物10
【化22】
を得ることができる(
図7)。
図5は、化合物7の[M+H]+質量スペクトル結果を示す。ただし、水酸化ナトリウムの加水分解時間は長すぎてはならず、且つ濃度も高すぎてはならない(NaOH溶液の最終濃度は0.4~0.6Mにし、室温で30分間撹拌する)。そうしないと、フェニルボロン酸が酸化されてフェノール及びその他の予測不可能な副産物が生成される。
図6の高速液体クロマトグラフィー(A相:アセトニトリル、B相:水/0.1%TFA; 0-2分間:5%A、2-15分間:5%A-100%A、残りはB)に示されるように、フェニルボロン酸が部分的に酸化されてフェノール構造になっていることが分かる。
アミノ基が保護されたビスボロン酸化合物を得た後、前ステップで加水分解に使用したNaOHを濃塩酸で中和し、KHF2/HClによってフッ素化するとともにアミノ保護基を除去した。注意すべきなのは、従来のα-アミノボロントリフルオリドの調製では、pH~2のKHF2 / HCl溶液を使用しているが、本実施例では、フェニルボロン酸が存在するため、pH> 0の場合、三フッ化ホウ素化合物を得ることができず、両方のホウ素はいずれもホウ酸の形
【化23】
で存在する。標的化合物を得るには、KHF2/HCl、pH<0の条件下である必要があり、二重三フッ化ホウ素構造
【化24】
(化合物11、
図8)を得ることができる。二重三フッ化ホウ素構造を得た上で、減圧下での蒸発により酸性度をpH~2まで低下させると、最終的に標的生成物BF3-BPAを得ることができ、α-アミノボロントリフルオリド及び芳香族ボロントリフルオリドがこれらの条件での加水分解速度には差があり、標的生成物BF3-BPAの調製に利用できることが示されている。
図2A~
図2Bに示すように、本発明の方法によって標的生成物BF3-BPA(HPLC法、相A:アセトニトリル、相B:水/0.1%TFA; 20%A、残りのB)が調製されている。
【0023】
[実施例2: 放射化学的標識]
BF
3 - BPA(化合物8、250 nmol)を、5μLのDMFに溶解し、5μlのピリダジン-HCl緩衝液(1.0 M、pH~2.0)を加え、続いて水
18F-水溶液( 30μl、370 MBq)を添加した。反応混合物を85℃で15分間反応させた後、0.5mlの生理食塩水でクエンチし、Sep-Pak アルミナライトカートリッジ(Alumina Light cartridge)で遊離フッ化物イオンを除去して、最終生成物[
18 F] BF
3 - BPA(~55MBq、RCY 15%)を得た。 Radio-HPLCの結果は
図3(HPLC法、相A:アセトニトリル、相B:水/0.1% TFA; 20%A、残りB)に示すとおりである。
【0024】
[実施例3: PET小動物イメージング]
腫瘍モデル動物の樹立:腫瘍細胞(BGC823ヒト胃がん細胞及びB16-F10マウス黒色腫)を5%CO
2インキュベーターにおいて適切な規模で培養した。4~6週齢のマウスを選択し、右肩の毛を剃り、約10
6個の腫瘍細胞を50μLのPBSに懸濁し、マウスの右肩に注射した。無菌環境で1~2週間飼育し、腫瘍の体積が特定の体積に達すると、腫瘍モデルが完成する。
200μCiの標識化合物[
18F
]BF
3 -BPAを0.15mlの生理食塩水に溶解し、肩に腫瘍のあるマウスに尾静脈注射を行い、注射の1時間後に15分間のPET/CT収集を行い、且つ画像再構成を行い、結果は
図9に示すとおりである。[
18 F] BF
3 -BPAは腫瘍部位で高度に蓄積され、画像上で明確なコントラストを示し、腫瘍診断に応用でき、且つ良好な結果が得られることが明らかになった。
【0025】
[実施例4: ボロン中性子捕捉療法実験]
天然ホウ素含有BPA、BF
3 -BPA及びBF3-Pheを、生理食塩水に500mg/kgの用量で溶解し、上記肩に腫瘍を移植した担癌マウスに尾静脈から注射し、1時間後にBNCTを実施し、その後の21日間、腫瘍サイズを測定し、且つBPA、BF3-Phe、を注射したグループと単純に中性子ビーム照射のみを実施したグループとをそれぞれ比較した。
図10に示すように、BF
3 -BPAと中性子ビームとを組み合わせてBNCTに使用すると、優れた腫瘍抑制効果が得られ、優れたBNCT薬剤となることが分かる。BNCT比較試験では、従来のBNCT薬剤BPA、三フッ化ホウ素戦略に基づいて開発されたホウ素含有アミノ酸BF3-Pheと本出願のBF3-BPAとを、同じ条件で行ったBNCT試験の効果を比較した。結果によると、BF
3-BPAは分子構造に2つのホウ素原子が含まれているため、分子構造に1つのホウ素原子のみが含まれているBPA及びBF3-Pheに比べて、BF
3-BPAは同じ実験条件下でより高いホウ素伝達効率を有し、BNCT治療効果を効果的に向上させることが可能である。これは、治療期間の短縮、薬剤投与量の減少、放射線量及び患者の費用の減少、合併症及び副作用の減少のために非常に重要である。
本発明は、その特定の実施形態を参照して説明されているが、当業者は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、様々な変更を行うことができ、同等物を置き換えることができることを理解すべきである。更に、特定の状況、材料、組成、方法、1つ又は複数の方法のステップが本発明の目的、精神及び範囲に適合するように、多くの変更を行うことが可能である。そのようなすべての変更は、添付の特許請求の範囲内にあることを意図している。