IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 独立行政法人物質・材料研究機構の特許一覧

特許7455431ウィルス核酸の測定方法、ウィルス核酸測定装置、プログラム、センサ、積層電極、及び、電極付き基板
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】ウィルス核酸の測定方法、ウィルス核酸測定装置、プログラム、センサ、積層電極、及び、電極付き基板
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/30 20060101AFI20240318BHJP
   G01N 27/28 20060101ALI20240318BHJP
   C12Q 1/70 20060101ALI20240318BHJP
   C12Q 1/68 20180101ALI20240318BHJP
   C12M 1/42 20060101ALI20240318BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240318BHJP
   G01N 27/48 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
G01N27/30 B
G01N27/28 301B
G01N27/28 H
G01N27/28 M
C12Q1/70
C12Q1/68
C12M1/42
C12M1/34 A
G01N27/48 311
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022557250
(86)(22)【出願日】2021-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2021031778
(87)【国際公開番号】W WO2022080023
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2023-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2020172265
(32)【優先日】2020-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、「レドックス環境応答能を持つ歯周病細菌由来の膜小胞」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】岡本 章玄
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-310977(JP,A)
【文献】特開2007-163224(JP,A)
【文献】特表2014-517281(JP,A)
【文献】WARNES, Sarah L. ほか,Inactivation of Murine Norovirus on a Range of Copper Alloy Surfaces Is Accompanied by Loss of Capsid Integrity,Applied and Environmental Microbiology,2015年,Vol.81, No.3,pp.1085-1091,
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
C12Q 1/00-3/00
C12M 1/00-3/10
G01N 27/33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素ドープダイヤモンド電極、及び、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極上に配置された銅被覆層を有する積層電極と、対電極と、を少なくとも含む、組合せ電極にウィルスを含む検体を接触させることと、
前記積層電極に定電位を印加して、前記銅被覆層を溶出させ、銅イオンを発生させて、前記ウィルスから、ウィルス核酸を放出させるとともに、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極を前記検体に晒すことと、
前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の電位を掃引し、前記ウィルス核酸に由来する電気化学的応答を測定することと、を含む、ウィルス核酸の測定方法。
【請求項2】
前記定電位を印加した際の応答電流を予め定めた閾値と比較し、前記応答電流が前記閾値以下となるまで、前記定電位の印加を継続することを含む、請求項1に記載のウィルス核酸の測定方法。
【請求項3】
前記ウィルス核酸に由来する電気化学的応答は、ピーク電流の大きさ、及び、電流ピーク面積からなる群より選択される少なくとも1種の値である、請求項1又は2に記載のウィルス核酸の測定方法。
【請求項4】
ピーク電位が前記定電位よりも正である、請求項3に記載のウィルス核酸の測定方法。
【請求項5】
前記電位の掃引は、リニアスイープボルタンメトリー法、微分パルスボルタンメトリー法、及び、サイクリックボルタンメトリー法からなる群より選択される少なくとも1種の方法により行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載のウィルス核酸の測定方法。
【請求項6】
更に、エアロゾルを捕集して前記検体を準備することを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載のウィルス核酸の測定方法。
【請求項7】
固体電解質の表面にウィルスを含むエアロゾルを収着させ、前記表面上に検体を準備して、前記表面を前記組合せ電極と接触させることにより、前記検体と前記組合せ電極とを接触させることを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載のウィルス核酸の測定方法。
【請求項8】
ホウ素ドープダイヤモンド電極、及び、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極上に配置された銅被覆層を有する積層電極と、対電極と、を少なくとも含む、組合せ電極にウィルスを含む検体を接触させるためのセンサ部と、
前記積層電極に定電位を印加し、前記銅被覆層を溶出させ、銅イオンを発生させるとともに、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極を前記検体に対して晒す定電位印加部と、
前記ホウ素ドープダイヤモンド電極に掃引電位を印加し、前記ウィルスに由来する電気化学的応答を測定する掃引電位印加部と、を有する、ウィルス核酸測定装置。
【請求項9】
前記定電位の印加による応答電流を予め定められた閾値と比較する比較部を有し、
前記比較の結果、前記応答電流が、前記閾値以下となるまで、前記定電位印加部が前記定電位の印加を継続する、請求項8に記載のウィルス核酸測定装置。
【請求項10】
前記センサ部は、
基板と、前記基板上に配置された前記組合せ電極と、
前記検体を表面に付着させ、前記検体が付着した前記表面を前記組合せ電極と接触させるための固体電解質と、
を含むセンサの前記組合せ電極を、前記定電位印加部、及び、前記掃引電位印加部と電気的に接続させるための接続具を含む、請求項8又は9に記載のウィルス核酸測定装置。
【請求項11】
前記センサ部は、
前記検体を収容するためのセルと、
前記検体と接触するように前記セル内に配置された前記組合せ電極と、を含む、請求項8~10のいずれか1項に記載のウィルス核酸測定装置。
【請求項12】
コンピュータにより、
ホウ素ドープダイヤモンド電極、及び、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極上に配置された銅被覆層を有する積層電極と、対電極と、を少なくとも含む、組合せ電極にウィルスを含む検体を接触させるためのセンサ部と、前記積層電極に定電位を印加し、前記銅被覆層を溶出させ、銅イオンを発生させるとともに、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極を前記検体に対して晒す定電位印加部と、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極に掃引電位を印加し、前記ウィルスに由来する電気化学的応答を測定する掃引電位印加部とを有するウィルス核酸測定装置に、
前記組合せ電極に対してウィルスを含む検体が接触した状態で、前記積層電極に定電位を印加する手順と、
前記定電位の印加によって前記銅被覆層が溶出し、前記検体に晒された前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の電位を掃引し、前記ウィルスのウィルス核酸に由来する電気化学的応答を測定する手順と、を実行させるプログラム。
【請求項13】
更に、前記定電位の印加による応答電流を予め定められた閾値と比較する手順と、
前記比較の結果、前記応答電流が前記閾値以下となるまで、前記定電位の印加を継続する手順と、を実行させる、請求項12に記載のプログラム。
【請求項14】
基板と、
前記基板上に配置された組合せ電極と、
ウィルスを含む検体を表面に付着させ、前記検体が付着した前記表面を前記組合せ電極と接触させるための固体電解質と、
を含むセンサであって、
前記組合せ電極は、ホウ素ドープダイヤモンド電極、及び、前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の表面に配置された銅被覆層を有する積層電極と、対電極と、を少なくとも含む、センサ。
【請求項15】
前記組合せ電極が参照電極を更に有する、請求項14に記載のセンサ。
【請求項16】
請求項1~7のいずれか1項に記載のウィルス核酸の測定方法に使用するための積層電極であって、
ホウ素ドープダイヤモンド電極と、
前記ホウ素ドープダイヤモンド電極の表面の全体に配置された銅被覆層と、を有する積層電極。
【請求項17】
基板と、前記基板上に配置された請求項16に記載の積層電極とを有する電極付き基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウィルス核酸の測定方法、ウィルス核酸測定装置、プログラム、センサ、積層電極、及び、電極付き基板に関する。
【背景技術】
【0002】
新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)感染の急速拡大を受け、手術室におけるエアロゾル、及び、サージカルスモーク等を介した医療従事者へのウィルス感染の可能性が指摘されている。
例えば、日本手術医学会の「新型コロナウイルス感染流行下での手術室管理・運営に関する提言」(http://jaom.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=102978、2020年7月22日インターネット検索)では、「新型コロナウイルスの感染拡大においてエアロゾル発生がひとつの因子となっており、手術操作や挿管においてその発生リスクが高まることは、一定の合意が得られている。」等とし、エアロゾルによるウィルス感染の可能性について指摘している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】「新型コロナウイルス感染流行下での手術室管理・運営に関する提言」、2020年4月24日,日本手術医学会、2020年7月22日検索、インターネット、<URL:http://jaom.kenkyuukai.jp/information/information_detail.asp?id=102978>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
エアロゾル中のウィルスを検知する方法としては、エアロゾル中のウィルスをフィルター等で補足し、定量PCR(Polymerase Chain Reaction)により検知する方法が知られているが、検出に時間が掛ること、及び、操作が煩雑で専門知識を必要とする点に課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、エアロゾル等から捕集した検体中のウィルス核酸を迅速に測定できる、ウィルス核酸の測定方法の提供を課題とする。
また、本発明は、プログラム、ウィルス核酸測定装置、センサ、積層電極、及び、電極付き基板の提供も課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を達成することができることを見出した。
【0007】
[1] ホウ素ドープダイヤモンド電極、及び、上記ホウ素ドープダイヤモンド電極上に配置された銅被覆層を有する積層電極と、対電極と、を少なくとも含む、組合せ電極にウィルスを含む検体を接触させることと、上記積層電極に定電位を印加して、上記銅被覆層を溶出させ、銅イオンを発生させて、上記ウィルスから、ウィルス核酸を放出させるとともに、上記ホウ素ドープダイヤモンド電極を上記検体に晒すことと、上記ホウ素ドープダイヤモンド電極の電位を掃引し、上記ウィルス核酸に由来する電気化学的応答を測定することと、を含む、ウィルス核酸の測定方法。
[2] 上記定電位を印加した際の応答電流を予め定めた閾値と比較し、上記応答電流が上記閾値以下となるまで、上記定電位の印加を継続することを含む、[1]に記載のウィルス核酸の測定方法。
[3] 上記ウィルス核酸に由来する電気化学的応答は、ピーク電流の大きさ、及び、電流ピーク面積からなる群より選択される少なくとも1種の値である、[1]又は[2]に記載のウィルス核酸の測定方法。
[4] ピーク電位が上記定電位よりも正である、[3]に記載のウィルス核酸の測定方法。
[5] 上記電位の掃引は、リニアスイープボルタンメトリー法、微分パルスボルタンメトリー法、及び、サイクリックボルタンメトリー法からなる群より選択される少なくとも1種の方法により行われる、[1]~[4]のいずれかに記載のウィルス核酸の測定方法。
[6] 更に、エアロゾルを捕集して上記検体を準備することを含む、[1]~[5]のいずれかに記載のウィルス核酸の測定方法。
[7] 固体電解質の表面にウィルスを含むエアロゾルを収着させ、上記表面上に検体を準備して、上記表面を上記組合せ電極と接触させることにより、上記検体と上記組合せ電極とを接触させることを含む、[1]~[6]のいずれかに記載のウィルス核酸の測定方法。
[8] ホウ素ドープダイヤモンド電極、及び、上記ホウ素ドープダイヤモンド電極上に配置された銅被覆層を有する積層電極と、対電極と、を少なくとも含む、組合せ電極にウィルスを含む検体を接触させるためのセンサ部と、上記積層電極に定電位を印加し、上記銅被覆層を溶出させ、銅イオンを発生させるとともに、上記ホウ素ドープダイヤモンド電極を上記検体に対して晒す定電位印加部と、上記ホウ素ドープダイヤモンド電極に掃引電位を印加し、上記ウィルスに由来する電気化学的応答を測定する掃引電位印加部とを有する、ウィルス核酸測定装置。
[9] 上記定電位の印加による応答電流を予め定められた閾値と比較する比較部を有し、上記比較の結果、上記応答電流が、上記閾値以下となるまで、上記定電位印加部が上記定電位の印加を継続する、[8]に記載のウィルス核酸測定装置。
[10] 上記センサ部は、基板と、上記基板上に配置された上記組合せ電極と、上記検体を表面に付着させ、上記検体が付着した上記表面を上記組合せ電極と接触させるための固体電解質と、を含むセンサの上記組合せ電極を、上記定電位印加部、及び、上記掃引電位印加部と電気的に接続させるための接続具を含む、[8]又は[9]に記載のウィルス核酸測定装置。
[11] 上記センサ部は、上記検体を収容するためのセルと、上記検体と接触するように上記セル内に配置された上記組合せ電極と、を含む、[8]~[10]のいずれかに記載のウィルス核酸測定装置。
[12]
コンピュータにより、ホウ素ドープダイヤモンド電極、及び、上記ホウ素ドープダイヤモンド電極上に配置された銅被覆層を有する積層電極と、対電極と、を少なくとも含む、組合せ電極にウィルスを含む検体を接触させるためのセンサ部、上記積層電極に定電位を印加し、上記銅被覆層を溶出させ、銅イオンを発生させるとともに、上記ホウ素ドープダイヤモンド電極を上記検体に対して晒す定電位印加部と、上記ホウ素ドープダイヤモンド電極に掃引電位を印加し、上記ウィルスに由来する電気化学的応答を測定する掃引電位印加部とを有するウィルス核酸測定装置に、上記組合せ電極に対してウィルスを含む検体が接触した状態で、上記積層電極に定電位を印加する手順と、上記定電位の印加によって上記銅被覆層が溶出し、上記検体に晒された上記ホウ素ドープダイヤモンド電極の電位を掃引し、上記ウィルスのウィルス核酸に由来する電気化学的応答を測定する手順と、を実行させるプログラム。
[13] 更に、上記定電位の印加による応答電流を予め定められた閾値と比較する手順と、上記比較の結果、上記応答電流が上記閾値以下となるまで、上記定電位の印加を継続する手順と、を実行させる、[12]に記載のプログラム。
[14] 基板と、上記基板上に配置された組合せ電極と、ウィルスを含む検体を表面に付着させ、上記検体が付着した上記表面を上記組合せ電極と接触させるための固体電解質と、を含むセンサであって、上記組合せ電極は、ホウ素ドープダイヤモンド電極、及び、上記ホウ素ドープダイヤモンド電極の表面に配置された銅被覆層を有する積層電極と、対電極と、を少なくとも含む、センサ。
[15] 上記組合せ電極が参照電極を更に有する、[14]に記載のセンサ。
[16] ホウ素ドープダイヤモンド電極と、上記ホウ素ドープダイヤモンド電極の表面の全体に配置された銅被覆層と、を有する積層電極。
[17] 基板と、上記基板上に配置された[16]に記載の積層電極とを有する電極付き基板。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、エアロゾル等から捕集した検体中のウィルス核酸を迅速に測定できる。
また、本発明によれば、プログラム、ウィルス核酸測定装置、センサ、積層電極、及び、電極付き基板も提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の実施例1によるウィルス核酸の測定方法を示すフローチャートである。
図2A】本発明の実施例1によるウィルス核酸の測定に用いるセンサの分解斜視図である。
図2B】本発明の実施例1によるウィルス核酸の測定に用いるセンサの斜視図である。
図2C図2Aの電極付き基板201におけるX-Y断面図である。
図3】本発明の実施例1によるウィルス核酸の測定方法の原理を示す模式図である。
図4】本発明の実施例1によるウィルス核酸の測定方法の原理を示す模式図である。
図5】本発明の実施例2によるウィルス核酸の測定装置のハードウェア構成図である。
図6A】本発明の実施例2によるウィルス核酸測定装置の斜視図である。
図6B】本発明の実施例2によるウィルス核酸測定装置の斜視図である。
図6C図6BのV-W断面図である。
図7】本発明の実施例2によるウィルス核酸測定装置の機能ブロック図である。
図8】本発明の実施例2によるウィルス核酸測定装置の制御部の動作を示すフローチャートである。
図9】本発明の実施例3によるウィルス核酸測定装置のハードウェア構成図である。
図10】本発明の実施例3によるウィルス核酸測定装置の模式図である。
図11A】本発明の実施例4によるセンサの分解斜視図である。
図11B】本発明の実施例4によるセンサの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を用いて本発明の実施例について説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
(用語の説明)
本明細書において「エアロゾル」とは、微粒子と気体との混合物を意味し、微粒子の直径としては、一般に、特に制限されないが、1nm~100μmが好ましく、1~100nmがより好ましい。この微粒子には、微粒子を含み、その周囲を水分が覆い、全体として粒子径が5μm以上である「飛沫」(droplets)と呼ばれるものと、典型的には上記水分が乾燥等によって除去された粒子径が5μm未満である「飛沫核」(droplet nuclei)と呼ばれる微粒子そのものとのいずれをも含む。なかでも、空気中における沈降速度がより小さい飛沫核は、エアロゾルによるウィルス感染の原因の一つと考えられており、飛沫核を含むエアロゾルから検体を捕集することが好ましい。
【実施例1】
【0012】
図1は本発明の実施例1によるウィルス核酸の測定方法を示すフローチャートである。
【0013】
ステップS11において、固体電解質の表面にウィルスを含むエアロゾルを収着させ、上記固体電解質の表面上にウィルスを集積させ、これを検体とする。本明細書では、上記を「固体電解質の表面上に検体を準備する」という。
固体電解質は、典型的には電解質を含む水で膨潤した高分子化合物を含むことが好ましい。高分子化合物としては、例えば、アガロース等であってよい。また、固体電解質は、寒天、アガー、及び、ゼラチン等と、電解質と、水とを含むヒドロゲルであってもよい。
固体電解質にエアロゾルが接触すると、固体電解質の表面上でエアロゾルの固形分が濃縮され、ウィルス核酸の検出がより容易になる。
【0014】
固体電解質としてはヒドロゲルが好ましい。ヒドロゲルとしては、例えば、寒天ゲル、及び、ゼラチンゲル等が挙げられる。固体電解質としては、高いイオン電導性を有するものが好ましく、より具体的には、その内部をイオン(例えば、水素イオン、及び、硫酸イオン等)が移動できるものが好ましい。固体電解質はより優れたイオン電導性を有する点で、硫酸塩等を含有していてもよい。
【0015】
なお、実施例1では、エアロゾルを固体電解質に収着させて、固体電解質の表面上でウィルスを濃縮して検体とするが、エアロゾルに含まれるウィルスに由来するウィルス核酸を検出対象とする場合であっても、固体電解質を用いずに検体を準備してもよい。そのような方法としては、例えば、エアロゾル中のウィルスをフィルター等で補足して、それを検体とする方法等がある。
また、本発明のウィルス核酸の測定方法は、エアロゾル以外に含まれるウィルスに由来するウィルス核酸を検出対象としてもよい。例えば、ウィルスを含む液体を検体としてもよい。
また、固体電解質上に固体表面からウィルスを移し取って(固体電解質を固体表面と接触させて)検体としてもよい。
【0016】
ステップS12において、ウィルスを含む検体を組合せ電極と接触させる。組合せ電極は、積層電極と対電極とを含む。積層電極は、ホウ素ドープダイヤモンド(Boron-doped Diamond;BDD電極)とBDD電極上に配置された銅被覆層とを有している。このため、本ステップにおいて、銅被覆層と検体とが接触することになる。
検体と組合せ電極とを接触させるには、その表面上に検体が準備された固体電解質を組合せ電極に押し付ければよい。
【0017】
図2Aは、実施例1における検体の採取、及び、ウィルス核酸の測定に用いるセンサの分解斜視図であり、図2Bは同センサの斜視図である。このセンサを使ってステップS11とステップS12を実施する方法を説明する。
【0018】
まず、図2Aに示されるように、センサ20は、大別して3つの部品から構成されている。3つの部品は、電極付き基板201、スペーサー26、及び、固体電解質付きカバー202である。
【0019】
ステップS11における検体の準備は、固体電解質付きカバー202を用いて行う。固体電解質付きカバー202は、カバー27と、カバー27の一方側の表面に配置された固体電解質25とを有しており、センサ20から取り外せる。
センサ20から固体電解質付きカバー202を取り外し、固体電解質25上にエアロゾルを収着させることで、検体が準備できる。
固体電解質付きカバー202はカバー27を有しているため、固体電解質25に触らずにエアロゾル中のウィルスを捕集できるので、意図しない汚染物質が検体中に混入するのを抑制できる。
【0020】
ステップS12における、検体と組合せ電極との接触は、固体電解質25を電極付き基板201の組合せ電極に押し付けることで実現できる。
電極付き基板201は、基板21と、上記基板21上に配置された作用電極(working electrode)である積層電極22と、対電極23(counter electrode)と、参照電極24(reference electrode)とを有している。
固体電解質25を、スペーサー26の切欠き部を介して積層電極22、対電極23、及び、参照電極24(組合せ電極;combination electrode)と接触させればよい。
【0021】
スペーサー26は、固体電解質25を組合せ電極との位置合わせのためのガイドの機能を有しており、これにより、一旦取り外した固体電解質付きカバー202を再度取り付けるのが容易になるという利点がある。しかし、センサはスペーサー26を含まなくてもよい。
【0022】
図2Cはセンサ20におけるX-Y断面図である。基板21上には、積層電極22、対電極23、及び、参照電極24が配置されている。これらの電極の間には、図中「SL」で表される封止部材(例えば、エポキシ樹脂)が配置されている。積層電極22は、BDD電極28と、BDD電極28上に配置された銅被覆層29とを有している。
なお、センサ20において、積層電極22は、対電極23、及び、参照電極24よりも厚み方向に沿って高くなっているが、各電極の高さは上記に制限されない。積層電極22は、対電極23、及び、参照電極24の表面に段差がない状態、及び、対電極23、及び、参照電極24のいずれか一方又は両方が、積層電極22よりも高くなった状態でもよい。
より優れた本発明の効果が得られる点では、積層電極22を構成するBDD電極28と、対電極23と、参照電極24との表面にそれぞれ略段差がないことが好ましい。
【0023】
BDD電極28の製造方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。なかでも、化学気相(CVD:Chemical Vapor Deposition)法で製造することが好ましい。CVD法の励起源としては、熱フィラメント、マイクロ波、高周波、直流グロー放電、直流アーク放電、及び、燃焼炎等が使用できる。また、これらを複数組み合わせて核生成密度を調整したり、大面積化したり、均一化したりすることもできる。
原料は、炭素が含まれている多くの種類の化合物が使用できる。例えば、気体としてCH、C、C、C1016、CO、及び、CF等;液体としてCHOH、COH、及び、(CHCO等;固体として黒鉛、及び、フラーレン等が挙げられる。
【0024】
ホウ素の添加は、例えば、ホウ素を含む物質を系内に導入して炭素気相にホウ素を導入する方法等が挙げられる。このようなホウ素を含む物質としては、ジボラン、トリメチルボラン、及び、トリメトキシボラン等が挙げられるが、取り扱いがより容易である点で、トリメトキシボランが好ましい。
ホウ素源としてトリメトキシボラン、これを溶解する溶媒としてアセトンを用いると、アセトンが炭素源も兼ねるため、更に取り扱いが容易となる。
【0025】
ダイヤモンドの成長速度がより速く、得られるダイヤモンド膜がより均一である点で、BDD電極はマイクロ波によるプラズマCVD法により形成されることがより好ましい。マイクロ波によって水素プラズマを発生させ、ここに原料ガスを導入すればダイヤモンド膜が形成できる。
【0026】
炭素源にホウ素を添加する場合、ホウ素の添加量としては、特に制限されないが、得られるBDD電極がより優れた導電性を有する点で、10~12,000ppmが好ましく、1,000~10,000ppmがより好ましい。
【0027】
基板21上に積層電極22、対電極23、及び、参照電極24を積層する方法としては特に制限されず、公知の方法が使用できる。このような方法としては、例えば、特開2006-10357号公報の0037~0050段落に記載の方法、及び、特開2020-33199号公報の0034~0057段落に記載の方法等が挙げられる。
【0028】
なお、センサ20は、積層電極22と、対電極23と、参照電極24とを有しているが、実施例1のウィルス核酸の測定方法に使用可能なセンサは上記に制限されず、積層電極と、対電極とを有していればよい。
また、センサ20における積層電極22、対電極23、及び、参照電極24の配置は、交換されてもよい。
【0029】
基板21は導電性基板でも絶縁性基板でもよいが、絶縁性基板が好ましい。基板としては、例えば、タングステン、ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、及び、ニオブ等が挙げられる。また、基板21は石英ガラス等であってもよい。基板の厚み及び大きさは、取り扱い性等の観点から適宜選択されればよく、典型的には、1μm~5mmが好ましい。
【0030】
BDD電極28の厚みは、成膜時間により調整できる。BDD電極28の厚みとしては、典型的には、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、5μm以上が更に好ましく、10μm以上が特に好ましい。なお、上限としては特に制限されないが、一般に、1mm以下が好ましい。
上記の厚みの範囲は、対電極23、及び、参照電極24についても同様である。
【0031】
対電極23の材料としては特に制限されず、対電極用として公知の材料が使用できる。このような材料としては、例えば、白金、炭素材料、ステンレス、及び、SnO等が挙げられる。参照電極24は、例えば、カロメル電極、及び、銀/塩化銀電極等であってよい。
【0032】
図1のフローチャートに戻り、ステップ13以降の手順を説明する。
ステップS13において、積層電極22に対して定電位が印加され、これにより銅被覆層29が固体電解質25側に溶出し(電気分解され)、銅イオンが発生する。このとき印加される電位は、特に制限されないが、一般に+0.4~0.5Vが好ましい。
銅イオンは、直接的関与、及び/又は、活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)の発生を触媒する等の間接的関与により、ウィルスのエンベロープ、及び、カプシドの少なくとも一部を破壊する。そのため、ウィルスの内部からウィルス核酸が放出される。
【0033】
図3は、実施例1のウィルス核酸の測定方法の原理を表す模式図である。検出系30は、BDD電極28と、BDD電極28上に形成された銅被覆層29と、固体電解質25からなり、固体電解質25の表面には、検出対象であるコロナウィルス31が配置されている。
【0034】
なお、図3においては、コロナウィルス31の構造が模式的に示されており、その直径(図3中、L1に対応する長さ)と、BDD電極28、銅被覆層29(合わせて、積層電極22)及び、固体電解質25の厚みとの関係は、実際に即していない。各部の大きさ、及び、厚み等はすでに説明したとおりであるため、ここでは説明を省略する。なお、上記は、後述する図4のL2についても同様である。
【0035】
コロナウィルス31の表面は、脂質膜32で覆われており、その中に、Nucleocapsid(N)蛋白に巻き付いたプラス鎖の一本鎖RNAゲノム33が配置されている。コロナウィルス31の表面には、Spike(S)蛋白、Envelope(E)蛋白、Membrane(M)蛋白が配置され、形状が王冠に類似している。
一般に、ウィルス核酸は膜(エンベロープ)、及び/又は、殻(カプシド)に包まれているため、ウィルス核酸を直接的に電気化学測定することは難しい。
【0036】
このとき、積層電極22に対して定電位が印加されると、銅被覆層29が固体電解質25側に溶出し、銅イオンが発生する。
銅イオンは、直接的関与、及び/又は、間接的関与によって、ウィルスのエンベロープ、及び、カプシドの少なくとも一部を破壊するため、これによってウィルスの内部からウィルス核酸(コロナウィルス31については、一本鎖RNAゲノム33)が放出される。
【0037】
次に、ステップS14において、積層電極22に定電位を印加した際の応答として得られた電流(以下「応答電流」ともいう。)を予め定めた閾値と比較する。この応答電流は銅被覆層29の溶出経過を反映する。実施例1のウィルス核酸の測定方法は、検体に対してBDD電極28の少なくとも一部(好ましくは全部)を晒す必要があるため、この応答電流をモニターして銅被覆層29が所望の程度溶出したこと(分解されたこと)を確認することが好ましい。
なお、応答電流のモニター以外の方法、例えば、定電位の印加時間によって、銅被覆層29の溶出量(分解量)を管理してもよい。その場合は、ステップS14及びステップS15を省略してもよい。
【0038】
閾値は、例えば、銅被覆層29がすべて溶出した際の応答電流に所定の裕度を考慮した値とすればよい。積層電極22に電位を印加している際に、その応答電流が上記閾値以下(閾値を超えない状態)となれば、銅被覆層29が所望の程度(例えば、すべて)溶出したと判断できる(ステップS15:False)。一方で、応答電流が閾値を超える場合(ステップS15:True)、銅被覆層29が所望の程度より多く残存しているため、定電位の印加、及び、応答電流のモニターを継続すればよい(ステップS13~S15)。
【0039】
図4は、積層電極に定電位を印加し、銅被覆層が溶出した後の検出系を表す模式図である。銅被覆層29が全て溶出した(分解された)ため、検出系40は、BDD電極28と、固体電解質25とからなり、固体電解質25の表面のコロナウィルス41は、エンベロープ、及び、カプシドが銅イオンの直接的関与、及び、間接的関与により破壊され、その内部からウィルス核酸が放出された状態となっている。
【0040】
検出系40においては、コロナウィルス41に対してBDD電極28が晒されている(暴露している)ため、このBDD電極28の電位を掃引することで、ウィルス核酸由来の電気化学的応答を取得することができる(ステップS16)。
このウィルス核酸由来の電気化学的応答は、ウィルス核酸の酸化電流であることが好ましく、ピーク形状の応答であること(電位対電流の測定結果に1つ以上の極大値が存在すること)がより好ましい。なお、本明細書では、このピークの最大電流値を「ピーク電流」といい、この「ピーク電流」を与える電位を「ピーク電位」といい、このピークの面積を「電流ピーク面積」という。
【0041】
BDD電極の電位を掃引する方法が、リニアスイープボルタンメトリー法、微分パルスボルタンメトリー法、及び、サイクリックボルタンメトリー法からなる群より選択される少なくとも1種の方法であると、上記のようなピーク形状の応答が得られやすい。
【0042】
ウィルス核酸の酸化電流のピーク電位は+1.0~1.5V(vs Ag/AgCl)の範囲に検出されることが多い。実施例1のウィルス核酸測定方法においては、銅被覆層29を溶出させて、BDD電極28を検体に対して晒したのちに、BDD電極28の電位を掃引するため、このウィルス核酸の酸化電流の測定が可能になる。
【0043】
一般的な電極部材、例えばグラッシーカーボン、金、及び、白金等を用いると、+1.3V(vs Ag/AgCl)程度で水分子の酸化による酸素の発生に伴い、電流値の増大が検出されてしまい、ウィルス核酸の酸化電流を正確に検出することは難しい。一方、BDD電極28は、表面がsp炭素からなり、分子が吸着できるサイトが少ないため、上記一般的な電極部材と比較して電位窓が広く、ウィルス核酸の酸化電流を検出することができる。
【0044】
ウィルス核酸の酸化電流は、ウィルス核酸を構成する核酸塩基の種類に起因して複数のピークが検出されることがある。その場合、各ピーク電流、又は、各ピーク面積を合計して測定値としてもよいし、単一のピーク電流、又は、ピーク面積を測定値としてもよい。
総量として評価する場合には、各ピーク電流、又は、各ピーク面積を合計した値を測定値とするのが好ましい。
実施例1の方法によれば、エアロゾルから捕集した検体中のウィルス核酸を迅速に測定できる。
【実施例2】
【0045】
図5は本発明の実施例2によるウィルス核酸測定装置のハードウェア構成図である。
【0046】
ウィルス核酸測定装置50は、プロセッサ51、記憶デバイス52、表示デバイス53、入力デバイス54、電気化学測定デバイス55、及び、接続具56を有している。プロセッサ51、記憶デバイス52、表示デバイス53、入力デバイス54、及び、電気化学測定デバイス55はバス(図中「BUS」と表記している)を介して相互にデータを交換できる。
【0047】
ウィルス核酸測定装置50には、接続具56を介してセンサ20が接続されている。構造は後述するが、センサ20はウィルス核酸測定装置50に対して取り外し可能であり、例えば、検体毎にセンサ20を交換できる。
なお、センサ20は図2A図2B、及び、図2Cで説明したとおりであるので、ここでは説明を省略する。
【0048】
プロセッサ51は、ウィルス核酸測定装置50の各部を制御して、ウィルス核酸測定装置の機能を実現する。
プロセッサ51は、例えば、マイクロプロセッサ、プロセッサコア、マルチプロセッサ、ASIC(application-specific integrated circuit)、FPGA(field programmable gate array)、及び、GPGPU(General-purpose computing on graphics processing units)等でよい。
【0049】
記憶デバイス52は、プログラム、及び、データを一時的に、及び/又は、非一時的に記憶する機能を有し、プロセッサ51の作業エリアを提供する。
記憶デバイス52は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ、及び、SSD(Solid State Drive)等でよい。
【0050】
表示デバイス53は、測定結果、積層電極(又はBBD電極)への電圧印加状況、検体名、及び、操作手順等を表示できる。表示デバイス53は、液晶ディスプレイ、及び、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等でよい。
また、表示デバイス53は、入力デバイス54と一体として構成されていてもよい。この場合、表示デバイス53がタッチパネルディスプレイであって、GUI(Graphical User Interface)を提供する形態が挙げられる。
【0051】
入力デバイス54は、組合せ電極への電圧印加条件、測定条件、及び、検体名等を入力できる。入力デバイス54は、キーボード、マウス、スキャナ、及び、タッチパネル等でよい。
【0052】
電気化学測定デバイス55により、接続具56を介して接続されたセンサ20の積層電極22に定電位を印加して、応答電流を測定できる。また、電気化学測定デバイス55により、銅被覆層29が溶出した後のBDD電極28に掃引電位を印加して、ウィルス核酸に由来する電気化学的応答を測定できる。電気化学測定デバイス55は、例えば、ポテンシオスタット等であってよい。
【0053】
接続具56は、電気化学測定デバイス55と、センサ20の組合せ電極(積層電極22、対電極23、及び、参照電極24)とを電気的に接続する。接続具56としては、例えば、端子と導線の組合せ等であってよい。
【0054】
図6Aは、実施例2のウィルス核酸測定装置の斜視図である。ウィルス核酸測定装置60は、本体61と、本体61の中央部に配置されたタッチパネルディスプレイ62とを有し、本体61内には、すでに説明した各ハードウェア(プロセッサ51、及び、電気化学測定デバイス55等)が搭載された回路基板が配置されている。
【0055】
ウィルス核酸測定装置60は、センサ20を挿入するための挿入口63を有している。図6Bは、センサ20を挿入した状態のウィルス核酸測定装置60の斜視図である。
【0056】
図6Cは、図6BのV-W断面図である。挿入口63に基板21を上側にして挿入されたセンサ20は、充填部材69で支持された本体61と、挿入口63の内部に配置されたバネ部材64によって挟持される。
基板21の表面に配置された組合せ電極(V-W断面では、参照電極24)は、基板21の反対側表面からバネ部材64に押し付けられて、端子65と密着する。端子65は導線66を介して、回路基板68の端子67と接続されている。端子67は、回路基板68上に配置された電気化学測定デバイス55と接続されている。これによって、電気化学測定デバイス55が、組合せ電極と接続される。
【0057】
図7は、実施例2のウィルス核酸測定装置の機能ブロック図である。ウィルス核酸測定装置70は、制御部71と、記憶部72と、表示部73と、入力部74と、比較部75と、定電位印加部76と、掃引電位印加部77と、センサ部78とを有する。
【0058】
制御部71は、プロセッサ51を含んで構成される。制御部71は、記憶部72、表示部73、入力部74、比較部75、定電位印加部76、及び、掃引電位印加部77のそれぞれを制御して、ウィルス核酸測定装置70の機能を実現する。
【0059】
記憶部72は、記憶デバイス52を含んで構成される。記憶部72により、プログラム、及び、閾値等が記憶され、測定データ等が記憶される。
【0060】
表示部73は、表示デバイス53を含んで構成される。また、入力部74は入力デバイス54を含んで構成される。制御部71が、これらを制御することで、ウィルス核酸測定装置70の使用者からの入力を受け付けてそれを記憶部72に記憶させたり、記憶部72に記憶された定電位印加部76、及び、掃引電位印加部77によって得られた測定データ(応答電流、及び、電気化学的応答)を装置の使用者に対して表示したりできる。
【0061】
比較部75は、記憶部72に記憶されたプログラムを制御部71が実行することによって実現される機能である。比較部75は、積層電極22への定電位の印加による応答電流と予め定められた閾値とを比較する。
なお、閾値は記憶部72に記憶されている。応答電流は、後述する定電位印加部76によって得られる。
【0062】
定電位印加部76は、電気化学測定デバイス55を含んで構成され、記憶部72に記憶されたプログラムを制御部71が実行し、電気化学測定デバイス55が制御されて実現される機能である。
定電位印加部76は、センサ部78に接続されたセンサの積層電極22に定電圧を印加し、その応答電流を測定する。
【0063】
掃引電位印加部77は、電気化学測定デバイス55を含んで構成され、記憶部72に記憶されたプログラムを制御部71が実行し、電気化学測定デバイス55が制御されて実現される機能である。
掃引電位印加部77は、センサ部78に接続され、検体に晒されたBDD電極28に掃引電圧を印加し、ウィルス核酸に由来する電気化学的応答を測定する。
【0064】
センサ部78は接続具56を含んで構成され、センサ20の各電極と、電気化学測定デバイス55とを電気的に接続する機能である。
【0065】
図8は、実施例2によるウィルス核酸測定装置の制御部71の動作を示すフローチャートである。
【0066】
ステップS81において、制御部71は定電位印加部76を制御して、ウィルスを含む検体と接触させた積層電極22に定電圧を印加させ、応答電流を測定させる。なお、積層電極22は、センサ20に含まれており、センサ20は、センサ部78を介して接続された定電位印加部76により制御される。
【0067】
ステップS82において、制御部71は、比較部75を制御して、積層電極22から得られる応答電流と、記憶部72に予め記憶されている閾値とを比較する。
この閾値は、銅被覆層29の好ましい溶出状態に対応するものとして予め定められ、記憶されている。実施例1のウィルス核酸の測定方法で説明したが、銅イオンによりウィルスのカプシド、及び、エンベロープを破壊した後は、ウィルス核酸の酸化電流をBDD電極で測定する必要がある。そのため、銅被覆層29が溶出し、検体に対してBDD電極が十分に露出していることが好ましく、銅被覆層29がすべて溶出していることがより好ましい。
【0068】
このような観点で定められた閾値について、応答電流がそれを超える場合(ステップS83:True)、BDD電極28上に配置された銅被覆層29は所望の程度溶出しきれていないことになる。
【0069】
この場合、ステップS84として、制御部71は定電位印加部76を制御して、積層電極22に定電位の印加を継続させる。
その後、再度、比較部75によって閾値の判定(ステップS82~ステップS83)が実行され、応答電流が閾値以下となるまで繰り返される。
【0070】
一方、比較部75による応答電流と閾値との比較の結果、応答電流が閾値以下であった場合(ステップS83:False)、制御部71は掃引電位印加部77を制御して、検体に晒されたBDD電極28に掃引電圧を印加させ、得られる電気化学的応答を測定させる(ステップS85)。
この電気化学的応答は、典型的には、積層電極22への定電位の印加によって生じた銅イオンの働きにより、ウィルスのカプシド、及び/又は、エンベロープの少なくとも一部が消滅し、放出されたウィルス核酸の酸化電流である。
【0071】
ウィルス核酸の酸化電流は、典型的には、電位対電流の曲線において、ピークを有する曲線として得られることが好ましい。このピーク電流、及び、電流ピーク面積は検体中のウィルス核酸の量に比例する。ピーク電流、及び、電流ピーク面積は、掃引電位印加部77によって記憶部72に格納され、入力部74に表示される。
【0072】
実施例2のウィルス核酸の測定装置によれば、エアロゾルから捕集した検体に含まれるウィルスに由来するウィルス核酸を迅速に測定できる。
【実施例3】
【0073】
図9は、本発明の実施例3によるウィルス核酸測定装置のハードウェア構成図である。
ウィルス核酸測定装置90は、プロセッサ51、記憶デバイス52、表示デバイス53、入力デバイス54、電気化学測定デバイス55、及び、電気化学測定デバイス55に接続されたセル91を有している。
【0074】
ウィルス核酸測定装置90は、電気化学測定デバイス55と接続されたセル91を有し、接続具を有しないことを除いては、ハードウェア構成として実施例2のウィルス核酸測定装置と類似の点が多く、以下、相違点を中心に説明する。
【0075】
セル91は、検体を収容できる容器であり、内部に積層電極22、対電極23、及び、参照電極24を有している。典型的には液状の検体をセル91に収容すると、収容された検体が、組合せ電極を構成する上記各電極と接触する。
積層電極22、対電極23、及び、参照電極24は、それぞれ電気化学測定デバイス55と電気的に接続され、電位、及び、電流を制御、及び、測定できる。
【0076】
図10は、実施例3によるウィルス核酸測定装置の模式図である。
ウィルス核酸測定装置100は、コンピュータ101と、コンピュータ101に接続されたポテンシオスタット102と、ポテンシオスタット102にそれぞれ接続された積層電極22、対電極23、及び、参照電極24を有している。積層電極22、対電極23、及び、参照電極24は、セル91内に収容され、セル91に同じく収容される検体と接触できる。なお、コンピュータ101はプロセッサ51、記憶デバイス52、表示デバイス53、及び、入力デバイス54を含み、ポテンシオスタット102は電気化学測定デバイス55を含む。
【0077】
実施例3のウィルス核酸測定装置は、実施例2のウィルス核酸測定装置において、センサが着脱式であるのに対して、組合せ電極を含むセルを内蔵しており、構成がより単純である点で優れている。なお、実施例3のウィルス核酸測定装置の機能、及び、動作は、実施例2のウィルス核酸測定装置と同様なので、説明を省略する。
【0078】
実施例3のウィルス核酸測定装置によれば、典型的には液体状の検体に含まれるウィルスに由来するウィルス核酸を迅速に測定できる。
【実施例4】
【0079】
図11Aは実施例4によるセンサ110の分解斜視図であり、図11Bは同センサの斜視図である。センサ110は、基板21と、上記基板21上に配置された積層電極22と、対電極23と、参照電極24とを有している。
また、スペーサー26と、スペーサー26を覆うカバー27とを有している。
なお、カバー27は凹欠部111を有している。
【0080】
典型的には液状の検体が、凹欠部111から導入され、基板21の上面、カバー27の下面、及び、スペーサー26の切欠き部の側面で隠される空間を濡らす。これにより、検体と組合せ電極とが接触し、測定ができる。
【0081】
なお、本センサ110は、すでに説明したセンサ20に代えて実施例2のウィルス核酸測定装置に挿入して使用することができる。使用方法は、センサ20と同様であるので、説明を省略する。
【0082】
実施例4のセンサは、ウィルス核酸測定装置に対して着脱可能なので、検体毎に取り替えることで、検体が互いに混入して測定結果に誤差の生ずるのを防ぐことができる。
【符号の説明】
【0083】
20:センサ、21:基板、22:積層電極、23:対電極、24:参照電極、25:固体電解質、26:スペーサー、27:カバー、28:BDD電極、29:銅被覆層、31、41:コロナウィルス、32:脂質膜、33:一本鎖RNAゲノム、50:ウィルス核酸測定装置、51:プロセッサ、52:記憶デバイス、53:表示デバイス、54:入力デバイス、55:電気化学測定デバイス、56:接続具、60:ウィルス核酸測定装置、61:本体、62:タッチパネルディスプレイ、63:挿入口、64:バネ部材、65:端子、66:導線、67:端子、68:回路基板、69:充填部材、70:ウィルス核酸測定装置、71:制御部、72:記憶部、73:表示部、74:入力部、75:比較部、76:定電位印加部、77:掃引電位印加部、78:センサ部、90:ウィルス核酸測定装置、91:セル、100:ウィルス核酸測定装置、101:コンピュータ、102:ポテンシオスタット、110:センサ、111:凹欠部、201:電極付き基板、202:固体電解質付きカバー
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B