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特許7455433DNAを回復する及びDNA損傷を防止する組成物及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】DNAを回復する及びDNA損傷を防止する組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20240318BHJP
   A61K 31/7088 20060101ALI20240318BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20240318BHJP
   C07K 14/47 20060101ALN20240318BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240318BHJP
   C12N 15/85 20060101ALN20240318BHJP
【FI】
A61K38/17
A61K31/7088
A61K47/64
C07K14/47 ZNA
C12N15/12
C12N15/85 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022560900
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-05-25
(86)【国際出願番号】 TH2020000026
(87)【国際公開番号】W WO2021242180
(87)【国際公開日】2021-12-02
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】505456104
【氏名又は名称】チュラーロンコーン ユニバーシティー
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100170900
【弁理士】
【氏名又は名称】大西 渉
(72)【発明者】
【氏名】ムティラングラ,アピワット
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/126097(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/147470(WO,A1)
【文献】特表2006-517537(JP,A)
【文献】特開2007-320919(JP,A)
【文献】特表2004-523579(JP,A)
【文献】Ju Ho YOUN et al.,The Journal of Immunology,2006年,Vol. 177, No. 11,pp. 7889-7897
【文献】Tetsuya TAKAHASHI et al.,JACC: Basic to Translational Science,2019年,Vol. 4, No. 2,pp. 234-247
【文献】Tatsuro KITAHARA et al.,Cardiovascular Research,2008年,Vol. 80,pp. 40-46
【文献】Sabine S. LANGE et al.,PNAS,2008年,Vol. 105, No. 30,pp. 10320-10325
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
Google/Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物細胞におけるDNAの回復及び/又はDNA損傷の防止のための医薬組成物であって、
列番号3のペプチド、又は該ペプチドをコードする配列番号1のポリヌクレオチド配列を含むベクターのうちの1つの生物学的成分をむ、医薬組成物。
【請求項2】
前記細胞に前記生物学的成分を接触させる際に前記生物学的成分の細胞内への導入を促進するために、前記生物学的成分に化学的に結合されたキャリアシステムをさらに含み、
前記キャリアシステムは、細胞透過性ペプチド又はナノエマルジョンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、細胞内においてDNAを回復する及びDNA損傷を防止するための組成物及び方法に関する。より詳細には、開示された組成物及び方法は、細胞内、好ましくは核内の1つ以上の生物学的複合体の形成を促進して、核内におけるDNA損傷因子に対する耐性につながる又はDNA損傷を制限する顕著なDNAの安定性を生成する。上述の生物学的複合体は、一般に高齢者において加齢により減少される。また、本開示は、核内におけるHMGB1ペプチドのボックスAの産生又は核内へのHMGB1のボックスAの輸送を促進して、宿主ゲノムにDNA損傷に対する増強された耐性を与える生理的複製に依存しない内因性DNA二本鎖切断(Phy-RIND-EDSB)又は若年関連ゲノム安定化DNAギャップ(Youth-DNA-GAP)を生成する人工手段のいずれかを含む。
【背景技術】
【0002】
エピジェネティックマークの欠損に関する内因性DNA損傷は、高齢者及び多くの非感染性疾患(NCD)患者における健康状態の悪化を引き起こすと考えられている(1)。さらに、DNA損傷は、熱、紫外線、フリーラジカル、メチル化剤及び他の変異性化合物等の外部及び内部に存在する種々の因子によっても引き起こされ得る。DNA損傷は、発癌又は先天性異常の原因となる変異を引き起こし得る。突然変異を防ぐために、細胞はDNA損傷を検出し、シグナルを送り、増殖を止め、及び/又は細胞のDNA損傷を修復するための細胞のDNA損傷応答(DDR)を有する。しかし、DDRからの過度の干渉は、細胞を代謝異常、成長不良、老化及び死を含む細胞老化、又はアポトーシスに追いやる可能性がある(2、3)。
【0003】
多くの研究が、細胞内のDNA修復の操作を介して種々の疾患を治療することを目的として、世界中で行われている。例えば、米国特許第9359605号は、DNA二本鎖切断修復タンパク質であるBRCA2及びRAD51を阻害することにより、固形癌の肺癌を治療する方法を教示する。同様に、国際出願第PCT/EP2014/057904号は、癌の治療においてポリ-(ADP-リボース)ポリメラーゼ(PARP)機構を阻害することができるポリヌクレオチドに基づく分子を記載している。さらに、Adamらは、国際出願第PCT/US2014/015110号において、Elaeis属の果実の抽出物を投与することにより、ヒト対象におけるミトコンドリア機能不全を防止できる可能性を示唆する。
【0004】
細胞におけるゲノムの不安定性はエピゲノム修飾の減少によっても引き起こされ得る(1)ことを考慮すると、細胞内にエピゲノムマークを加えるようなエピゲノム編集を促進する試みは、DNA損傷を低減し得る。適切なエピジェネティック修飾により、細胞機能の低下を回復し得る(1)。DNA損傷に対して有効であると知られているエピジェネティックマークの1つは、Phy-RIND-EDSB又はYouth-DNA-GAPである(1、4)。従って、Youth-DNA-GAPの形成を促進する方法を見出す必要性があり、それにより、生物学的老化DNA及び/又はDNA損傷の蓄積に関連する疾患の病態を必然的に改善できると考えられる。
【発明の概要】
【0005】
本開示は、細胞を若返らせる及び/又は細胞内DNAの損傷を防止することができる組成物を提供することを目的とする。より詳細には、開示された組成物は、開示された組成物を投与された細胞におけるHMGB1タンパク質のボックスAの発現又はトランスフェクションを促進して、改善されたゲノム安定化効果を達成する。
【0006】
本開示の更なる目的は、生物学的老化細胞を若返らせ、熱傷等の潜在的DNA損傷に苦しむ、又は高齢者や糖尿病(DM)患者を含むYouth-DNA-GAPのレベルが低い対象の細胞増殖及び治癒プロセスを回復させるための組成物に向けられる。
【0007】
本開示のさらに別の目的は、細胞の核のDNA損傷を防止するための方法を提供することである。より詳細には、その方法は、1つ以上のYouth-DNA-GAPがゲノム内に形成されてDNA損傷形成に対する耐性を有するように、分子設計されたHMGB1タンパク質、特にボックスAドメインの発現及び/又は提示を含む。
【0008】
本開示の一態様は、ペプチドをコードする配列番号1又は配列番号2に記載のポリヌクレオチド配列を含む細胞の核におけるDNAの損傷を防止するための、細胞内でペプチドを発現できるベクターに関する。
【0009】
本開示の主要な一態様は、配列番号3に記載のペプチドを含む試薬、及び/又は該ペプチドをコードする配列番号1若しくは配列番号2に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクターを、細胞にトランスフェクションすることを含む、細胞の核内におけるDNA損傷を防止するためのYouth-DNA-GAPを生成する方法に関する。好ましくは、ベクターは、コードされたペプチドが細胞の核におけるDNA損傷を防止できる細胞内のYouth-DNA-GAPを含む1つ以上の複合体を形成するトランスフェクションステップの後に、細胞内でコードされたペプチドを発現するように構成されている。
【0010】
従って、開示された方法は、トランスフェクションされたベクターに存在するポリヌクレオチド配列によってコードされたペプチドを過剰発現させることをさらに含んでもよい。
【0011】
開示された方法の更なる実施形態によると、DNA損傷の防止は、DNA損傷応答を抑制する方法によって得られる。
【0012】
いくつかの実施形態において、DNA損傷の防止は、DNA損傷因子に対する細胞抵抗性を増大させる方法により得られる。
【0013】
本開示の他の態様は、配列番号3に記載されたペプチドを含む試薬、及び/又は該ペプチドをコードする配列番号1に記載されたポリヌクレオチド配列を含むベクターを、複数の細胞からなる創傷組織に接触させるステップと、前記ペプチド及び/又はベクターを創傷組織の細胞にトランスフェクションするステップとを含む、対象の創傷組織の治癒を改善する方法に関し、前記ベクターは、トランスフェクションステップの後に細胞内でコードされたペプチドを発現するように構成され、前記コードされたペプチドは、細胞内で細胞増殖を増強することによって創傷組織の治癒を改善できる1つ以上の複合体を形成する。
【0014】
多くの実施形態において、対象はDM患者であり、一般に、細胞内に形成されるYouth-DNA-GAPが低い傾向にあり、このため、創傷組織の治癒速度が低下していることに苦しんでいる。開示された方法は、Youth-DNA-GAPを形成することにより、これらの対象における創傷組織の治癒速度を向上する。
【0015】
より多くの実施形態において、創傷組織は火傷によるものである。
【0016】
本開示の更なる態様は、DNA損傷を抑制するために、DNAを回復するための局所又は全身に適用可能な医薬組成物に向けられる。その組成物は、一般に、ペプチドをコードする配列番号1又は配列番号2に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクターを含む。
【0017】
本開示の他の態様によると、老化細胞を若返らせる、DNA損傷を防止する、及び哺乳動物の治癒プロセスを増強する方法が開示される。好ましくは、その方法は、ペプチドをコードする配列番号1又は配列番号2に記載のポリヌクレオチド配列を含む発現ベクターを有する試薬を局所又は全身に投与することを含む。標的細胞による発現ベクターの挿入又は取り込みを増強するために、発現ベクターは、細胞透過性ペプチド、ナノエマルジョン等のキャリアに結合されてもよい。
【0018】
本開示の多くの態様は、(i)ペプチドをコードする配列番号1若しくは配列番号2に記載の発現可能なポリヌクレオチド配列を含むベクター、又は(ii)配列番号3に記載のペプチドのうちの1つである生物学的成分と、組成物を細胞に接触させたときに前記生物学的成分が細胞内に入ることを促進するために前記生物学的成分に化学的に結合されたキャリアシステムとを含む、哺乳細胞内のDNAを回復する及び/又はDNA損傷を抑制するための医薬組成物を含み、前記キャリアシステムは、細胞透過性ペプチド、ナノエマルジョン等である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、高齢者及び生物学的に老化した細胞、例えばDM患者の細胞における低レベルのYouth-DNA-GAP、EDSBを示すグラフであり、(A)はEDSBと年齢との間の相関を示し、(B)はDMがない個体とDMがある個体とのそれぞれのEDSBのレベルを示し、(C)はDMがない(正常)個体とDMがある個体との間で年齢及び性別のマッチングの対でEDSBのレベルを示し、EDSBの平均レベルがSEMを示すエラーバーと共にヒストグラムで示されている。
図2図2は、HMGB1の制限酵素活性によるDSB生成の結果であるYouth-DNA-GAPを生成するHMGB1のボックスAを説明する図である。(A)は、T4ポリメラーゼの存在下又は非存在下で種々の割合でHMGB1と反応されたHeLaのDNAのEDSB割合の増大を示すグラフである。(B)は、HMGB1により生成したEDSBに反応されたHK2及びHeLa細胞のHMDNAを示すグラフであり、HMGB1と共にインキュベートされたDNAにおいてより多くのEDSBが生成されている。実験は、トリプリケートで行われ、スケールバーは標準誤差を示す。
図3図3は、Youth-DNA-GAPを生成するHMGB1のボックスAを示す写真である。HK-2細胞の電子顕微鏡写真は、DNA損傷インサイチュライゲーション後の近接ライゲーションアッセイ(DI-PLA)の結果を示し、(A)HMGB1及び(B)ボックスAをトランスフェクションした細胞は陽性シグナルを発し、(C)ボックスBをトランスフェクションした、(D)ボックスBCをトランスフェクションした、(E)スクランブル配列のコントロールプラスミドをトランスフェクションした、及び(F)何もトランスフェクションしない場合のいずれの細胞もシグナルを示さない。
図4図4は、HMGB1のボックスAを介したHMGB1によるYouth-DNA-GAPの生成を示すグラフであり、DNA免疫沈降(DIP)におけるEDSBインプットの割合に関する結果を示し、(A)は8-ヒドロキシ-2’-デオキシグアノシン(8-OHdG)の存在下でのHEK293及びHeLa細胞株に関し、(B)は8-OHdGの存在下でボックスA、HMGB1及びコントロールプラスミドをトランスフェクションされたHEK293細胞に関し、また、(C)は7-メチルグアノシンの存在下でボックスA、HMGB1及びコントロールプラスミドをトランスフェクションされたHEK293細胞に関し、値は箱ひげ図で示され、箱は四分位範囲(25~75%)、中央線は50%(ひげは最小値及び最大値を表す。P<0.05、**P<0.01、***P<0.0001)。
図5図5は、HMGB1のボックスAのDNA損傷の抑制への適用可能性を示すグラフであり、HMGB1及びボックスAを過剰発現させたHEK293及びHK-2細胞(それぞれn=9)における8-OHdGレベル(8-OHdGs ng/ml)及びアプリニック/アピリミジニックサイト(APサイト)レベル(APサイト/100000bp)に関する結果を示し、HMGB1及びボックスAの過剰発現細胞において(A)は8-OHdG、及び(B)はAPサイトを過剰発現させた細胞に関する結果をそれぞれ示す(P<0.05、**P<0.01、***P<0.0001)。
図6図6は、抑制下のHMGB1のボックスAの結果を示し、(A)はHMGB1、ボックスA又はPCを2500ng/μlで48時間処理したHK2細胞のp-ATM(Ser1981)、p53、p21、p16INK4A及びγH2AXの発現レベルをそれぞれ示すウエスタンブロットのゲル写真であり(ブロットはβ-アクチンで再プローブし、サンプルローディングが同じことを確認した)、(B)は(A)に対応する結果を示すグラフであり、タンパク質の種類は相対的なタンパク質レベルに対してプロットした(データは、一元配置分散分析及びダネットの多重比較検定で比較した、P値<0.05、**P値<0.01、***P値<0.001)。
図7図7は、ボックスA及び/又はHMGB1の存在下におけるDNA損傷因子に対する細胞耐性を促進するHMGB1のボックスAに関する結果を示すグラフであり、(A)はHで24時間処理したスクランブルプラスミド、ボックスA及びHMGB1でトランスフェクションされた細胞について得られた結果であり、(B)はMMSで24時間処理したスクランブルプラスミド、ボックスA及びHMGB1でトランスフェクションされた細胞について得られた結果であり、値は12回の独立したアッセイの平均値±SDである。値は、一元配置分散分析及びダネットの多重比較検定で比較した(P値<0.05、**P値<0.01、***P値<0.001)。
図8図8は、細胞増殖促進におけるHMGB1のボックスAの効果についての結果を示し、(A)、(B)、(C)及び(D)のそれぞれのグラフは、HEK293細胞におけるボックスA、HEK293細胞におけるHMGB1、HK-2細胞におけるボックスA、及びHK-2細胞におけるHMGB1(各n=9)の過剰発現下での4日間のMTTアッセイによる細胞増殖についてのデータを示す(P<0.05、**P<0.01、***P<0.0001)。
図9図9は、糖尿病のラットを群に分け、創傷閉鎖の治癒促進におけるHMGB1のボックスAの効果についての結果を示す(A)写真及び(B)グラフであり、各群の創傷領域は3、5、7、10及び14日目にNIHのImageJ分析ツールを用いて測定し、0日目に得られた測定値と比較し、HMGB1のボックスAプラスミド処理群ではプラスミドコントロール処理群又はNSS処理したコントロール群と比較して、創傷閉鎖率が顕著に増強された(P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、各群n=8)。
図10図10は、II度熱傷からの傷の治癒及び収縮を促進するHMGB1のボックスAの効果についての結果を示し、(A)はHMGB1のボックスAで毎日処理されたラット、及び通常の生理食塩水で処理されたコントロールラットのII度熱傷の画像であり、HMGB1のボックスA処理された傷は、コントロール群よりも大きな収縮及び少ない炎症を示し、(B)はコントロール群と比較して処理群のII度熱傷に対するHMGB1のボックスAの治癒効果がさらに顕著に増強されることを示すグラフである。P<0.0001、P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、各群n=8である。
図11図11は、HMGB1のボックスAが老化プロセスを逆転させる効果についての結果を示し、HK-2細胞は2.5μMのエトポシドによる72時間の前処理で細胞老化が誘導され、その後にボックスA及びスクランブルのコントロールプラスミドをトランスフェクションし、48時間インキュベートした。(A)は細胞の形態及び密度を示すために捕捉した明視野画像(スケールバー=50μm)であり、(B)は異なる前処理がなされたHK-2細胞におけるp16INK4A及びγH2AXの発現レベルを示すウエスタンブロットのゲル写真であり、β-アクチンが等しいサンプルローディングを確認するための再プローブに用いられた。
図12図12は、DNA損傷因子、Hに曝露されたHK-2細胞の結果を示すグラフであり、細胞透過性ペプチドのIMT-P8-ボックスAペプチド及びコントロールで処理した場合の結果であり、IMT-P8-ボックスAがDNA損傷因子に対する細胞耐性を向上し、H誘導性DNA損傷を防止することを示す。HK-2細胞は、IMT-P8-ボックスAペプチドで前処理した後、Hで24時間インキュベートし、48時間後にMTTアッセイで生存率を評価し、一元配置分散分析、ダネットの多重比較検定で比較した(P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。
図13図13は、HMGB1のボックスAのDNA配列の配列番号1、HMGB1のDNA配列の配列番号2、及びHMGB1のボックスAのペプチド配列の配列番号3を示す。
図14図14は、DNAの回復及びDNA損傷の防止のための開示された方法の一実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示は、本明細書に広く記載され、以下で請求されるようなその構造、方法又は他の本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で具体化され得る。記載された実施形態は、全ての点で単に例示として考慮され、限定的なものではない。従って、本開示の範囲は、上記説明によってではなく、添付の特許請求の範囲により示される。特許請求の範囲の意味及び均等の範囲内に入る全ての変更は、その範囲内に包含される。
【0021】
本明細書で用いられる「ポリヌクレオチド」又は「核酸」の用語は、mRNA、RNA、cRNA、cDNA又はDNAを示す。その用語は、通常、30ヌクレオチド残基の長さよりも大きいオリゴヌクレオチドを意味する。
【0022】
本明細書で用いられる「遺伝子」の用語は、機能的な意味をもつDNA配列を意味し得る。それは、ネガティブ核酸配列、又は天然起源若しくは合成コンストラクトに由来する組換え核酸配列であり得る。「遺伝子」の用語は、例えば、以下に限定されないが、ゲノムDNA配列に直接的又は間接的にコードされた又は由来するcDNA及び/又はmRNAを指すためにも用いられ得る。
【0023】
「複合体」、「生物学的複合体」及び「Youth-DNA-GAP」の用語は、他に言及しない限り、ゲノム安定性のためのエピジェネティックバイオマーカーを示し、本明細書を通じて互換的に用いられる。
【0024】
本明細書で用いられる「老化細胞」及び「複数の老化細胞」の用語は、加齢プロセス、老化誘導又はDNA損傷による機能的特性が低下した細胞を指し得る。より具体的には、「老化細胞」及び「複数の老化細胞」は、Youth-DNA-GAPがコントロールの0.3%EDSB PCRよりも低い、及び/又は老化関連β-ガラクトシダーゼ細胞の蓄積が50%よりも多い細胞、及び/又はγ-H2AX foci/cellが3.5よりも大きい若しくは8-OHdG/10dGが7よりも大きい細胞を意味する。
【0025】
本開示の一態様によると、細胞の核内のDNA損傷を防止するための方法が開示される。好ましくは、本方法は、ペプチドをコードする配列番号1又は配列番号2に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクターを有する試薬を細胞に投与するステップであって、そのベクターは細胞内でコードされたペプチドを発現するように構成されているステップと、細胞内でコードされたペプチドを過剰発現させるステップとを含む。好ましくは、過剰発現されたペプチドは、細胞内で、細胞の核内におけるDNAの損傷を防止できる1つ以上の複合体(又はYouth-DNA-GAP)を形成する。より具体的には、配列番号1又は配列番号2によりそれぞれコードされたペプチドは、HMGB1タンパク質のボックスA及びHMGB1タンパク質である。関連分野の1つは、配列番号1及び配列番号2に記載のポリヌクレオチド配列がより良好な発現の増強又は特定の宿主細胞タイプとの適合性の向上のためにさらに改変され得るという事実が理解され得る。これらの改変は、配列番号1及び配列番号2に記載された配列の70~90%程度のみを保持する改変ポリヌクレオチド配列となり得る。好ましくは、そのような改変は、DNA損傷の防止、外傷の治癒の促進、対象におけるYouth-DNA-GAPの低収量に関する非感染性疾患の治療等のための、HMGB1のボックスA及び/若しくはHMGB1ベースの組成物、方法又は試薬に関する本開示がカバーする範囲から逸脱してはならない。
【0026】
多くの実施形態において、投与ステップは、局所、経腸及び/又は非経口経路を介して対象に試薬を適用することを意味し得るが、局所適用は侵襲性が低いためより好ましい。本開示の試薬は、所望の結果を達成するために投与経路に応じて異なる形態に適応し得る。試薬が局所投与されるこれらの実施形態において、試薬は、HMGB1タンパク質のボックスAのペプチド又はHMGB1タンパク質をそれぞれコードする配列番号1又は配列番号2に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクターを含む。特に、用いられる発現プラスミドに関して、そのベクターは、外傷周辺の細胞又は組織への吸着を容易にするために、ナノエマルジョンの形態に名のコーティングされることが好ましく、これにより、細胞内のベクターを介してHMGB1タンパク質のボックスA又はHMGB1タンパク質を発現し、その後、DNA損傷を防止できる複合体を形成する。より具体的には、本開示は、HMGB1又はHMGB1のボックスAが、細胞内にYouth-DNA-GAPを生成でき、広範囲のDNA損傷因子に対して大きな耐性を細胞に与えることを発見した。既知のHMGB1タンパク質のデオキシリボースリン酸リアーゼ活性及びDNAを曲げる能力は、Youth-DNA-GAPの生成において役割を果たし得る。HMGB1遺伝子は、2つのDNA結合ドメイン(ボックスA及びボックスB)と酸性テイルを含む。このように、本開示は、ボックスAタンパク質又はボックスAドメインを有するHMGB1タンパク質がDNA損傷因子に対する耐性を細胞に付与し、DNA損傷を制限する能力を有すると考えられることを単に見出した。従って、細胞の核内のDNA損傷を防止する開示された方法に用いられるベクターは、配列番号1又は配列番号2と作動可能な1つ以上の調節配列を含み得る。多くの実施形態において、細胞透過性ペプチド等のペプチドトランスフェクションシステムは、細胞内へのベクターの輸送のためによく用いられ得る。
【0027】
本開示の更なる態様によると、細胞の核内のDNA損傷を防止するための方法が開示される。その方法は、配列番号3に記載されるペプチド、及び/又はそのペプチドをコードする配列番号1又は配列番号2に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクターを含む試薬を細胞にトランスフェクションするステップを本質的に含む。好ましくは、ベクターは、トランスフェクションステップの後に、コードされたペプチドを細胞内で発現するように構成されている。より好ましくは、コードされたペプチドは、細胞の核内におけるDNA損傷を防止できる、すなわちYouth-DNA-GAPを含む1つ以上の複合体を細胞内で形成する。いくつかの実施形態において、ベクターは、ペプチドの発現が所定の時間、期間、レベル及び/又は特定の組織の細胞で制御され得るように、促進物質の存在下でコードされたペプチドの転写及び翻訳を単に開始するプロモーター領域を有し得る。
【0028】
多くの実施形態において、DNA損傷を防止する方法は、所定数の発現ベクターを細胞にトランスフェクションすることによってコードされたペプチドを過剰発現すること、又は所定濃度の促進物質を用いてペプチドの発現をアップレギュレートすることをさらに含み得る。また、いくつかの実施形態において、DNA損傷の防止及びDNA損傷応答の抑制は、以下に示すいくつかの実施例に示されるように、Youth-DNA-GAPを生成する方法によって得られる。あるいは、DNA損傷因子に対する細胞耐性の増大も、Youth-DNA-GAPの産生によって促進され得る。
【0029】
他の態様において、本開示は、配列番号3に記載のペプチド、及び/又は該ペプチドをコードする配列番号1若しくは配列番号2に記載のポリヌクレオチド配列を含むベクターを含む試薬を複数の細胞からなる創傷組織に接触させるステップと、前記ペプチド及び/又は前記ベクターを創傷組織の細胞にトランスフェクションするステップとを含む、対象の創傷組織の治癒を改善するための方法に関する。同様に、ベクターは、トランスフェクションステップの後に、コードされたペプチドを細胞内で発現するように構成されている。特に、コードされたペプチドは、DNA損傷細胞又は生物学的老化細胞における治癒の遅延を正す方法によって、創傷組織の治癒を改善できる1つ以上の複合体を細胞内で形成する。この開示された方法は、対象が糖尿病哺乳動物又はDM患者である場合、傷ついた対象の治癒速度を顕著に向上できる。いくつかの実施形態において、創傷組織は熱傷によって生じたものである。
【0030】
本開示の更なる態様に従い、DNA損傷を防止するための医薬組成物が開示される。その組成物は、ボックスAタンパク質又はHMGB1をコードする配列番号1又は配列番号2に記載鎖r多ポリヌクレオチド配列を含むベクターを含む。そのベクターには、コードされたタンパク質の発現を制御するための調節配列又は領域が組み込まれ得る。そのベクターは、該ベクターを細胞内に効率的に輸送するための細胞透過性ペプチド又はナノエマルジョン等のキャリアシステムでカプセル化又は結合され得る。本組成物は、適応される実施形態に依存して局所又は全身のいずれかに投与され得る。本開示は、Youth-DNA-GAPと、生物学的に老化DNAを有することが共に知られている高齢者又はDM患者との間に顕著な逆相関があることを見出した。そして、DNA損傷は、加齢に関連する非感染性疾患(NCD)において一般的に見られる。具体的に、Youth-DNA-GAPはDNA損傷を防ぐ。高齢者及び糖尿病対象におけるYouth-DNA-GAPの低減に伴い、これらの対象は、内因性DNA損傷の増大及びDDRの上昇を被り、不健康な細胞機能をもたらす。開示された組成物は、細胞内でYouth-DNA-GAPを生成するための手段であることが見出されたHMGB1タンパク質のボックスA及び/又はHMGB1タンパク質を発現する、又は好ましくは過剰発現するためのプラスミド又はベクターを導入する。
【0031】
さらに、本開示は、HMGB1のボックスAがHMGB1よりもヒトゲノムを安定化させることを実証する。本開示の発明者らは、HMGB1のボックスAペプチドが核内に入り、そのYouth-DNA-GAPを形成できると考えている。HMGB1のボックスAペプチドは、Youth-DNA-GAPの形成に必要なHMGB1の既知の役割を全て有する。核への侵入及びYouth-DNA-GAPの生成に加えて、HMGB1は、ボックスAにおいて、細胞外及び細胞内の種々の酵素及び成分と相互作用する役割が知られている。本開示は、HMGB1タンパク質の分割された役割が複合体又はYouth-DNA-GAPの生成効率の低下をもたらしたと仮定する。これに関連して、本開示の種々の態様のいくつかの実施形態はk、HMGB1タンパク質のボックスC及びC末端の発現を意図的に除外し、むしろHMGB1タンパク質のボックスAの細胞外の役割に加えてDNA損傷及び/又は損傷細胞の若返りにHMGB1のボックスAを特に利用する。
【0032】
上述の説明のように、本発明者らは、さらに、形成された複合体が多くの疾患状態における健康悪化の原因であるゲノムの不安定性のモニタリング及び防止に利用できることを明らかにした。従って、本開示の更なる態様は、ペプチドをコードする配列番号1又は配列番号2に記載されたポリヌクレオチド配列を含むベクターを有する試薬を局所又は全身に投与することを含む、生物学的に老化した対象における細胞の若返り及び創傷治癒速度を向上する方法について記載される。好ましくは、試薬は、生物学的に老化した細胞においてコードされたペプチドの過剰発現を開始し、過剰発現されたペプチドは、その後にYouth-DNA-GAP又は複合体の形成を引き起こし、影響を受けた細胞におけるゲノム安定性を改善し、少なくとも1つ以上のDDR酵素反応を阻害する。特に、Phy-RIND-EDSB又はYouth-DNA-GAPは、高齢者及びDM患者において徐々に低減するヒトにおいて特有のエピゲノムマーカーである。本開示は、HMGB1又はHMGB1のボックスAが細胞内でYouth-DNA-GAPを生成する有効なツールであることを明らかにした。Youth-DNA-GAPの形成に伴い、局所適用組成物は、長距離シスにおけるDNA鎖の安定性を向上でき、内因性DNA損傷及びDDRを抑制し、DNA損傷因子に対する細胞耐性を改善できる。このように、開示された組成物は、HMGB1のボックスA及び/又はHMGB1を過剰発現することにより、生物学的に老化した対象における細胞を若返らせ、創傷の治癒を促進する。好ましくは、対象は生物学的に老化した哺乳動物である。開示された組成物は、高齢者及び糖尿病の対象を含む加齢関連NCDにおける細胞増殖不良、細胞老化及び治癒遅延に関する健康問題に対処するために用いられ得る。
【0033】
本開示の発明者らは、HMGB1タンパク質又はHMGB1タンパク質のボックスAの存在下で潜在的に形成されるゲノム安定化バイオマーカー、Youth-DNA-GAP又は複合体を発見した。Youth-DNA-GAPはエピジェネティックマークであり、DNA損傷でないことに留意することが重要である。エピジェネティックマークは、細胞内の酵素活性により生成される。Youth-DNA-GAP等のエピジェネティックマークは、創傷細胞及び/又は老化細胞に有益であることが以下の実施例により示される。開示された実施例は、HMGB1又はHMGB1のボックスAによって生成されるYouth-DNA-GAPがゲノムを安定化することも実証し、従って、Youth-DNA-GAPはエピジェネティックマークである。
【0034】
さらに、本開示の他の態様は、哺乳動物において、DNA損傷を防止する、DNA損傷に対する耐性を増大する、細胞増殖を向上する、創傷組織の治癒を改善する、内因性DNA損傷を抑制する及び/又はDNA損傷応答を抑制するYouth-DNA-GAPを生成するための医薬組成物について開示される。その組成物は、配列番号3に記載のアミノ酸配列の少なくとも70%を含むペプチドと、該ペプチドに化学的に結合され、該結合ペプチドを哺乳動物の所定の組織型の細胞にもたらして、設定に記載の哺乳動物に対する有益な結果を達成するように構成されたキャリアを含む。キャリアは、発現ベクターを用いる他の開示された実施形態と比較して、開示された組成物と接触させた細胞において、結合されたペプチドが即時又はほぼ即時の様式で上述の1つ以上の有益な結果を発揮することができる細胞透過性ペプチド、ナノエマルジョン等であってもよい。
【0035】
以下の実施例は、本開示をさらに説明するためのものであり、本開示がそこに記載された特定の実施形態に限定されることを意図するものではない。
【実施例
【0036】
実施例1
低レベルのYouth-DNA-GAPは、生物学的に加齢した個人、高齢者及びDM患者において報告されている。特に、ヘモグロビンA1C(HbA1C)レベルを、非DM(80サンプル)及びDM(40サンプル)群に分類した120人の患者で評価した。全ての対象は、2015年から2016年においてタイのNakhon Si ThammaratのTambon Health Promoting Hospital serviceで募集された。参加者の年齢は15~80歳であった。全ての対象は、研究に自発的に参加した。本研究は、タイのNakhon Si ThammaratにおけるWalailak大学のヒト対象の研究の人権に関する倫理クリアランス委員会により審査及び承認された。各参加者から書面のインフォームドコンセントを得た。酵母において、Youth-DNA-GAPは老化した酵母では経時的に減少し、Youth-DNA-GAPの減少は生物学的老化プロセスを促進する(4)。本開示では、高齢の参加者においてYouth-DNA-GAPレベルが低いことを発見した(r=-0.4726、P<0.0001)(図1A)。糖尿病患者は、細胞の老化プロセスが加速することが知られていた(5)。また、本開示は、糖尿病患者のWBCでは、非糖尿病患者のWBCよりもYouth-DNA-GAPレベルが低いことを見出した(図1B及び性別と年齢の調整済みの図1C)。従って、ヒトにおけるYouth-DNA-GAPレベルの低減は、DNAの生物学的老化を有することが知られている群で見られた。これらのデータから、本開示では、酵母と同様に、Youth-DNA-GAPレベルの減少はDNA損傷及びそれに続く細胞機能の劣化を促進するという仮説を立てた。
【0037】
実施例2
本開示は、HMGB1タンパク質がリアーゼ活性を有するため、HMGB1がYouth-DNA-GAPを生成することを見出した。HMGB1タンパク質を生成するために、pRSET Aベクター(Thermo Fisher Scientific,MA,USA)内のHMGB1 cDNA(NM_001313893.1)を生成した(6)。ベクター構築は、GeneArt Gene Synthesis(Thermo Fisher Scientific,MA,USA)により行った。配列の忠実度は、サンガーシークエンスで確認した。HMGB1ベクターは、タンパク質産生のために、BL21(DE3)pLysSコンピテントセル(Promega,WI,USA)に形質転換された。
【0038】
2種類のヒト不死化腎臓細胞株であるHEK29及びHK-2、並びに子宮頸がん細胞株であるHeLa細胞のDNAを、2μgのHMGB1タンパク質を含む1×CutSmart(登録商標)バッファー(New England Biolabs,MA,USA)中において、総量50μlで37℃16時間、インキュベートした。精製EGFPタンパク質又はAluI(New England Biolabs)とともにインキュベートされた2μgのHeLaのDNAをコントロールとして用いた。さらに、DNAとHMGB1タンパク質との比率を5:1、4:1、3:1、2:1及び1:1と変化させた。
【0039】
HMGB1リアーゼ活性により生じるPhy-RIND-EDSB又はYouth-DNA-GAPを測定するために、EDSB PCRを以前に記載したように行った(7)。本開示は、精製HMGB1タンパク質が用量依存的にDNAを切断できることを見出した(図2A~D)。HMGB1が生成したDSBの末端の大部分は、平滑であった(図2C)。
【0040】
実施例3
本開示は、HMGB1のボックスAがYouth-DNA-GAPを生成し、その結果、Youth-DNA-GAPと共局在化することを見出した。本開示は、Youth-DNA-GAPとDI-PLAを含む発現プラスミドからのタンパク質との共局在を決定した(8)。本研究において、全長ヒトHMGB1、ボックスA、ボックスB、ボックスBC及びスクランブル配列コントロール(PC)の発現プラスミドを用いた。本開示では、市販のpcDNA3.1Flagインサート発現ベクター(Invitrogen,Carlsbad,U.S.A.)を大腸菌(DH5α)宿主細胞へ形質転換させた。プラスミドDNAの単離は、Qiagen Plasmid Miniprepキット(Qiagen,Switzerland)を用いて、製造者の説明書に従って行った。Lipofectamine3000(トランスフェクション試薬)(Invitrogen,Carlsbad,U.S.A.)を用いて、細胞にプラスミドをトランスフェクションし(プラスミドの最終濃度が2500ng/ml)、細胞をインキュベーターで24~48時間インキュベートした。
【0041】
さらに、本開示では、以前に記載したようにFlagとDSBとの間のDI-PLAを行った(8)。DI-PLAは、Duolink In Situ Orange Starter Kit Mouse/Rabbit(DUO92102)(Sigma-Aldrich,Missouri,USA)により、製造者のプロトコールに従って行った。サンプルを20倍及び40倍の対物レンズを用いた蛍光顕微鏡又は共焦点顕微鏡で分析する前に、室温で15分間インキュベートした。
【0042】
DSBにおけるプラスミドタンパク質の局在を、DI-PLA技術を用いて各赤色スポットで観察した(図3)。DI-PLAの結果、HMGB1及びボックスAはそれぞれのYouth-DNA-GAP付近のDNAに結合したが、ボックスB及びボックスBC分子は結合しないことを示した(図3A)。HMGB1(図3A)及びボックスA(図3B)プラスミドを含む細胞は、陽性シグナルが観察された。ボックスB(図3C)、ボックスBC(図3D)、コントロールプラスミド(図3E)をトランスフェクションした細胞及び非トランスフェクション細胞(図3F)では、DI-PLAシグナルは見られなかった。
【0043】
実施例4
本開示は、HMGB1のボックスAがYouth-DNA-GAPを生成してDNA損傷を防止することを結論付ける。Youth-DNA-GAPがDNA損傷を防止するのであれば、Youth-DNA-GAP及びDNA損傷が共存することはほぼ無いはずである。本開示では、DNA損傷に対する抗体を用いたDIP(9)を行い、DIP DNAのEDSBの濃度をインプットDNAの濃度と比較した。まず、完全長ヒトHMGB1、ボックスA、ボックスB、ボックスBC及びPC発現プラスミドをトランスフェクションした細胞からHMWDNAを調製した。次に、EDSBリンカーとライゲーションされたHMWDNAを、以前に記載したように調製した(7)。次に、DIP DNAのEDSBを、以前に記載したようにEDSBPCRプロトコールを用いてインプットDNAと比較した(7)。図4Aは、HeLa及びHEK293細胞株のインプットの%EDSBPCRを示す。そして、本開示では、HMGB1のボックスA及びHMGB1の発現プラスミド並びに陰性コントロールプラスミドをトランスフェクションされた細胞の8-OHdG又は7-メチルグアノシンとEDSBとの間のシスでの共存を測定した(図4B及びC)。試験した全ての細胞のDNA損傷を含むゲノムはEDSBを顕著に欠いていたが、HMGB1のボックスA及びHMGB1をトランスフェクションされた細胞のDNA損傷を含むゲノムは、陰性コントロールプラスミドをトランスフェクションされた細胞のDNA損傷を含むゲノムよりもEDSBが少なかった(図4B及びC)。従って、HMGB1のボックスA及びHMGB1の発現プラスミドは、細胞内のYouth-DNA-GAPの割合を増加させた。
【0044】
実施例5
本開示は、HMGB1のボックスAが内因性DNA損傷を低減できることを発見した。具体的に、全長ヒトHMGB1、ボックスA及びPC発現プラスミドをトランスフェクションされた細胞からのDNAをフェノールクロロホルム法により抽出し、滅菌されたdHOに再懸濁した。その後、DNA中の8-OHdGレベルを、OxiSelect Oxidative DNA Damage ELISAキット(Cell Bio Labs,Inc.,San Diego,U.S.A.)を用いて測定した。APサイトレベルを、OxiSelect Oxidative DNA Damage Quantitationキット(Cell Bio Labs,Inc.,San Diego,U.S.A.)により測定した。本開示では、HEK293及びHK-2細胞株にHMGB1及びボックスA発現プラスミドをトランスフェクションし、両プラスミドが8-OHdG及びAPサイトを含むいくつかの型の内因性DNA損傷の低減を引き起こすことを見出した(図5A~4D)。従って、HMGB1の内因性DNA損傷抑制の役割は、ボックスAドメインに属する。
【0045】
実施例6
本開示は、HMGB1のボックスAがDDRを減少することを見出した。特に、全長ヒトHMGB1、ボックスA及びPC発現プラスミドをトランスフェクションされた細胞からのタンパク質ライセートを、RIPAバッファー(Sigma Chemical,St.Louis,MO,USA)及びプロテアーゼ阻害剤混合物(Pierce Biotechnology,Rockford,IL,USA)を用いて調製し、Pierce Biotechnology(Rockford,IL,USA)からのBCAタンパク質測定キットにより分析した。標準ウエスタンブロットを調製し、p-ATM(Ser1981)、p53、p21、p16INK4A、蛍光体-γ-H2AX(Ser139)及びβ-アクチンに対する特異的一次抗体と共に一晩インキュベートした。免疫複合体を、Immobilon Western Chemiluminescent HRP Substrate(Merck,DA,Germany)によって検出し、Azure c300 imaging system(Azure Biosystems,CA,USA)によって露光した。
【0046】
DNA損傷に対する細胞応答は、DDRネットワーク内のリン酸化を促進するタンパク質キナーゼカスケードからなるDDRシグナル伝達経路により制御されている(10)。HMGB1及びボックスAプラスミドのDDRにおける影響を決定するために、本開示では、γH2AX、p-ATM(Ser1981)、p53、p21及びp16INK4Aのタンパク質発現レベルを評価した(11、12)。本開示は、DDRシグナル伝達経路タンパク質の発現レベルが、HMGB1及びボックスAをトランスフェクションされた細胞で低減していることを見出した(図6)。
【0047】
実施例7
本開示は、HMGB1のボックスAが細胞増殖を促進することを明らかにした。HMGB1及びボックスAプラスミドをトランスフェクションした後の細胞増殖を調べるために、トランスフェクションされた細胞株を、4日間毎日播種後にMTT試薬(5mg/ml)(Sigma-Aldrich,Missouri,USA)を用いて評価し、マイクロプレートリーダー(Bio-Rad,Hercules,CA,USA)を用いて570nmで測定した。HMGB1及びボックスAを過剰発現させたHEK293及びHK-2細胞では、コントロール細胞よりも優位に高い細胞増殖率が観察された(図7)。
【0048】
実施例8
また、本開示は、ボックスA及びHMGB1遺伝子の過剰発現がDNA損傷に対する細胞の耐性を増大させるであろうという仮説を立てた。この可能性を証明するために、HMGB1のボックスA、HMGB1及びスクランブルプラスミドをトランスフェクションされた細胞を、H及びメチルメタンスルホン酸(MMS)を含むDNA損傷剤で処理した。特に、DNA損傷剤処理下での細胞生存率を評価するために、MTTアッセイを用いた。細胞は、96ウェルプレートに100μlで4000個(40000cell/ml)播種した。24時間後にプラスミドをトランスフェクションした後、細胞をCOインキュベーターにおいて、濃度を上げたMMS(Sigma-Aldrich,Missouri,USA)(0~2mM)を含む培地で1時間処理し、過酸化水素(H)(Sigma-Aldrich,Missouri,USA)(0~250μM)で24時間処理した。その後、MMS又はHを含む培地を、通常の作業用培地に交換した。細胞増殖は、処理後48時間目にMTTアッセイで測定した。データは、コントロール(DNA損傷剤を含まない培地)の生存率を任意に100%とし、細胞生存率で示した。DNA損傷剤での細胞の処理は、ボックスA及びHMGB1を過剰発現した細胞の細胞生存率がスクランブル細胞の生存率よりも顕著に高いことを示した(図7A~B)。興味深いことに、ボックスAの過剰発現は、HMGB1よりも細胞を保護した(図7A~B)。さらに、MTT及び細胞カウンティングアッセイは、HMGB1のボックスAの細胞内での発現の増大がDNA損傷の防止の効果的且つ安全な方法であることを示唆した。
【0049】
実施例9
本開示は、ボックスA及びHMGB1遺伝子の過剰発現がDM患者等の加速された生物学的老化に苦しむ個体の治癒プロセスを改善するであろうという仮説を立てた。動物使用プロトコールは、チュラーロンコーン大学医学部のInstitutional Animal Care and Use Committee(IACUC)により承認された(承認番号:006/2561、2018年9月)。Wistar系雄ラット(6週齢、150~180g)を無作為に2群に分け、50mMクエン酸ナトリウムバッファー(Alfa Aesar,USA)に溶解されたSTZ(Sigma-Aldrich,Missouri,USA-Aldrich,USA)を65mg/kg体重の単回用量で、及び50mMクエン酸ナトリウムバッファー(2mL/kg体重)を腹腔内投与した(13)。STZ誘導7日後、FBSが250mg/dLを超えたSTZ誘導ラットを糖尿病群とし、FBSが150mg/dL以下のラットを非糖尿病群とした。
【0050】
8mmの生検パンチを用いて、ラットの背部に2対の全層切除創を作り、シリコンリングで固定した(14)。糖尿病及び非糖尿病ラットをさらに3群に分け、ナノコーティングされたHMGB1のボックスAプラスミド、ナノコーティングされたPC、及びNSSで処理した。ナノコーティングされたpcDNA3.1(+)プラスミドコントロールを非処理コントロールとして用い、NSSをこの研究における標準的な創傷被覆材として示した。非糖尿病患者及び糖尿病患者の創傷に毎日被覆材を施し、14日間それぞれの型の介入を行った。投与後0、3、5、7及び14日目に創傷の面積を測定し、式:創傷閉鎖率=[(創傷面積0日目-創傷面積n日目)/創傷面積0日目]×100(n日目は3、5、7又は14日目を表す)を用いて、創傷閉鎖率%で示した。完全治癒過程の14日後、全てのラットを犠牲にし、創傷の領域を切除し、すぐに10%ホルマリンバッファー内に採取し、組織学的及び免疫組織化学的な8-OHdGの測定を行った。
【0051】
創傷の採取後、創傷を10%中性緩衝ホルマリンで少なくとも48時間固定した。その後、組織を脱水し、パラフィン包埋し、ミクロトームにより3μm厚の組織切片を作製した。その後、組織切片をH&E及びギムザで染色し、それぞれ組織病理学的評価及び免疫細胞浸潤の評価を行った。病理組織学的評価は、2名の病理医により盲検で行われ、判断された。組織の肉芽形成及び再上皮化は、治癒した創傷の観察領域で調べられ、1=正常組織、2=成熟線維芽細胞、3=未熟線維芽細胞、4=軽い炎症、及び5=肉芽組織を含む総合組織学スコアとして示した。
【0052】
3μmのパラフィン包埋切片を脱パラフィンし、プロテイナーゼK(DAKO、CA)で2分間インキュベートすることにより抗原賦活を行った。組織切片を1:8000希釈したポリクローナルヤギ抗8-OHdG(Merck Millipore)で処理し、次いでHRPコンジュゲート抗ヤギ二次抗体(DAKO、CA)で処理した。また、創傷切片をヘマトキシリンで対比染色した。本開示は、マウスDM創傷モデルの治癒プロセスの促進におけるHMGB1のボックスAプラスミド封入Ca-Pナノ粒子の効果を試験した。マウスDMの試験結果を以下の表1に示す。
【0053】
糖尿病性創傷の閉鎖に対するHMGB1のボックスAプラスミド/Ca-Pの効果を調べるために、固定した8mm切除創をHMGB1のボックスAプラスミド、PC又はNSSのいずれかで14日間毎日1回、局所的処理をした。プラスミドを標的細胞に送達するために、Zhaoらの以前の研究(2014)で行われたように、局所投与前に、各タイプのプラスミドをナノ粒子溶液でコーティングした(15)。トランスフェクションに最も効果的なプラスミドとナノ粒子溶液との比率は、10μlのナノ粒子溶液に5μgのプラスミドを入れたものであった。簡単に説明すると、0.5M塩化カルシウム(CaCl)溶液(Merck Millipore,USA)と5μgのプラスミドDNAとの混合溶液50μlからなるCa-Pナノ粒子溶液、及び0.01M炭酸ナトリウム(NaCO)溶液(Merck Millipore,USA)と0.01Mリン酸二水素ナトリウム一水和物(NaHPO・HO)溶液(Merck Millipore,USA)との混合溶液50μlを調製した。3モル比のCO 2-/PO(31:1)を用いた。まず、16μlのCaCl溶液とプラスミドDNAを混合し、滅菌dHOを用いて最終容量を50μlに調整し、プラスミドDNA-カルシウム複合体を調製した。次に、プラスミドDNA-カルシウム複合体を、NaCO及びNaHPO・HO溶液(16μl)と滅菌dHO(34μl)の混合液50μlに添加した。ナノ粒子コーティングされたプラスミド溶液は、使用前に調製した。
【0054】
【表1】
【0055】
創傷後0、3、5、7、10及び14日目の糖尿病創傷の代表的な画像は、PC又はNSS処理の何れかと比較して、HMGB1のボックスAプラスミドで処理した後の糖尿病創傷の面積がより小さいことを示した(図9A)。コントロール処理群と比較して、HMGB1のボックスAプラスミド処理は、特に5~7日目に創傷閉鎖の増大を示した(P<0.0001)(図9B)。HMGB1のボックスA処理では、成熟した線維芽細胞の数が多く、炎症が少なく(全体的等級付け)、PC処理又はNSS処理のレベルと比較して糖尿病創傷切片の免疫組織化学染色による8-OHdGレベルが著しく低く(P<0.001)(表2)、平均組織学スコアを改善した。これらの試験は、HMGB1のボックスAがYouth-DNA-GAPのレベルが低いDM患者に特異的に創傷治癒を促進することを支持する。
【0056】
【表2】
【0057】
実施例10
本開示は、ボックスA及びHMGB1遺伝子の過剰発現が、過剰な熱等のDNA損傷因子に曝露された個体の治癒プロセスを改善すると仮定している。動物実験プロトコールは、National Institutes of Health Guide for the Care and Use of Laboratory animals(NIH Publications No.8023,改訂1978)により発行されたGuide for the Care and Use of Laboratory Animalsに従った。すべての動物実験は、チュラロンコン大学のAnimal Care and Use Committee(承認番号:03/2019における003/2562)に従って行った。この研究では、サンプルサイズの算出にプログラムG*Power3.1による一元配置分散分析(One-way ANOVA)を用い、α誤差=0.05、パワー=0.95、エフェクトサイズf=1、群数=4とし、結果を、実験に用いた16匹のラットからの約32の創傷とした(16)。16匹の雄の8週齢Wistarラット(150~180g)を、Namura Laboratory Animal Center (Bangkok, Thailand)から入手した。ラットは、12時間の明暗周期で制御された環境下で7日間馴化され、標準的な餌と水を自由摂取させた。II度熱傷の形成のために、ラットをイソフルランで麻酔し、背部皮膚を剃った。100℃に加熱した幅10mmのアルミニウム棒を用いて、各ラットの背中に2つのII度熱傷を形成した。さらに、ラットを4群に分け、創傷に毎日、正常生理食塩水(NSS)、スクランブル-flagプラスミド処理群(プラスミドコントロール群)、リン酸カルシウムナノ粒子処理群(コントロール群)、及びボックスAプラスミド処理群で処理した。ナノコーティングpcDNA3.1(+)(スクランブル)プラスミドコントロール及びリン酸カルシウムナノ粒子群は、非処理コントロールとして用い、NSSは本試験における標準創傷被覆材として示される。創傷面積は、NIH ImageJ分析ツールを用いて、創傷後0、7、14、21及び28日目に測定し、0日目に対する創傷収縮率として示した。全てのラットを28日後に安楽死させ、創傷組織を切除し、更なる評価のために直ちに10%ホルマリンバッファーに回収した。HMGB1のボックスAタンパク質の群において、創傷後7日目から28日目に、正常生理食塩水、スクランブルプラスミド及びリン酸カルシウムナノ粒子処理群と比較して、有意な熱傷の閉鎖率を示し、特に10~21日目に顕著な閉鎖率(P<0.001)を示した。一方、プラスミドコントロール処理された創傷、リン酸カルシウムナノ粒子処理された創傷及び正常生理食塩水処理された創傷の間では、各時点において顕著な差は見られなかった。
【0058】
実施例11
本開示は、2.5μMのエトポシドにより誘導された細胞の細胞老化に対するボックスAの若返り効果を示すことによって、生物学的老化細胞を若返らせるHMGB1のボックスAの効果を示した。HK2細胞に対して2.5μMのエトポシドで72時間の前処理を行った。エトポシドを用いて以前に記載されているように(17)、細胞老化を誘導した。72時間後、リポフェクタミン3000を用いて、HMGB1のボックスA又はPCプラスミド(プラスミドの最終濃度、2500ng/ml)を細胞にトランスフェクションし、48時間インキュベートした。エトポシドの前処理が、コントロール、スクランブル及びボックスAのトランスフェクション群と比較して、細胞形状の肥大化及び扁平化、増殖能の低下等の老化細胞の特徴をもつ細胞密度に影響を与えることが代表的な細胞画像から示された。β-ガラクトシダーゼ(SA-β-gal)は、製造者の指示に従って、SA-β-gal染色キット(Cell Signaling Technology,Beverly,MA,USA)を用いて、以前に記載されているように評価した(18)。SA-β-gal陽性染色細胞は、ボックスAプラスミドをトランスフェクションすると顕著に低減したが、β-gal陽性細胞はスクランブルプラスミドで逆転させると高いレベルを維持した(図11A)。
【0059】
さらに、本開示は、HK2細胞において、老化関連細胞周期阻害因子であるp16INK4A及びγH2AXのタンパク質発現を試験した(19)。その結果、2.5μMエトポシドは、PC、HMGB1のボックスAをトランスフェクションした細胞、及びコントロールと比較して、p16INK4A及びγH2AXの発現を増大させることを示した。エトポシド処理後にHMGB1のボックスAを受けた細胞のp16INK4A及びγH2AXのレベルは、エトポシド処理群よりも有意に低かった(図11B)。
【0060】
実施例12
HMGB1のボックスAペプチドのゲノム安定化の役割を、細胞透過性ペプチド等のペプチド導入システムで実現した(20)。ここで、IMT-P8は細胞透過性ペプチドである(21)。IMT-P8-ボックスAペプチド(Genscript,Piscataway,NJ,USA)の効果を評価するために、細胞を0.25μMの濃度のIMT-P8-ボックスAペプチドを含む培地で2時間処理した。その後、1×PBSで洗浄し、過酸化水素(H)(Sigma Chemical,St.Louis,MO,USA)で24時間処理した。その後、通常の培地に交換し、細胞を37℃で48時間インキュベートした。最後に、細胞生存率をマイクロプレートリーダー(Thermo Fisher Scientific,Waltham,MA,USA)を用いて測定した。図19は、IMT-P8-ボックスAペプチドで処理された細胞がコントロール細胞よりもHとのインキュベート後の細胞生存率を増大させることを示す。
【0061】
本開示では、多くの病態で健康悪化を引き起こすゲノム不安定性のモニタリング及び防止に有望な初めてのゲノム安定化バイオマーカーであるYouth-DNA-GAPと、医薬品であるHMGB1のボックスAとを報告した。まず、Phy-RIND-EDSB又はYouth-DNA-GAPが高齢者及びDM患者で減少するヒト特有のエピゲノムマーカーであることを報告した。第二に、我々は、HMGB1がYouth-DNA-GAPを生成することを証明した。第三に、Youth-DNA-GAPはDNA鎖の長距離シスでの安定性を増大するため、HMGB1のボックスAが内因性DNA損傷及びDDRを低減でき、DNA損傷因子に対する細胞耐性を増大できる。HMGB1のボックスAは、DMラット及び熱傷における創傷治癒の遅延を修正するために用いられた。最後に、HMGB1のボックスAは、老化細胞を若返らせるために使用された。
【0062】
以前の研究で、Youth-DNA-GAPと生物学的老化との間の逆相関が酵母において非常に強いことが示された(4)。ここで、ヒトにおいても、生物学的老化DNAを有することが知られている高齢者及びDM患者において、強い相関が証明された。DNA損傷は、高齢者や加齢に伴うNCDに共通して見られる(22、23)。従って、Youth-DNA-GAPは、NCD患者の生物学的年齢を決定するための有効なバイオマーカーとなり得る。ここで、本開示は、HMGB1のゲノム安定化機能がYouth-DNA-GAPによって媒介されることを示した。HMGB1は、DNAを曲げ、二本鎖DNAを変性に対して安定化させる能力を有している(24)。これらの2つの性質は、Youth-DNA-GAPがHMGB1によって生成されるという本開示の知見を支持するものであった。さらに、トポイソメラーゼによって生成されるEDSBと同様に、Youth-DNA-GAPはねじれ力を緩和することにより真核生物のゲノムを安定化し、その結果、二本鎖DNAを変性に対して安定化させ得る。HMGB1のボックスAは、内因性DNA損傷を低減するだけでなく、DNA損傷因子に対する細胞耐性を向上する。Youth-DNA-GAPのギャップ構造によってねじれ力を緩和することで、DNAの安定性を向上するはずである。ボックスAがHMGB1タンパク質全体よりも効率よくゲノムを安定化することは興味深い。一つの可能性として、HMGB1が核内と細胞外の両方で多機能なタンパク質であることが挙げられる(26)。ボックスB及びCの末端の存在は、炎症等の他の役割を果たすように分子が分離するはずである。それでも、ボックスB及びCの末端の除外は、ゲノム安定化に対するHMGB1のボックスAの役割を特定する助けとなった。
【0063】
Youth-DNA-GAPは、DSB誘導イベント後、グローバルDSB修復により減少することが知られている(4)。従って、DNA損傷因子に曝露された細胞の遅延ゲノム不安定化機構は、Youth-DNA-GAPの減少が関与する可能性があり、これがHMGB1のボックスAが熱傷治癒を促進する理由を説明できる可能性がある。本開示は、分子設計されたHMGB1のボックスAがYouth-DNA-GAPの生成を介して真核生物のゲノムを安定化できることを示した。本開示は、HMGB1のボックスAのゲノムを安定化特性が内因性DNA損傷の低減、DDRの低減、DNA損傷因子に対する細胞耐性の増大、細胞増殖の促進、DM患者の組織治癒プロセスの促進、熱傷の組織治癒プロセスの促進、及び老化細胞の若返りを含む多くの応用につながることを実証した。Youth-DNA-GAPの低レベルにより引き起こされる他のNCDの場合、本開示は、そのようなNCDを治療するためのゲノム安定化分子としてHMGB1のボックスAを使用できる可能性がある。
【0064】
本開示は、他の特定の形態で具体化されてもよく、上述の唯一の実施形態に限定されないことが理解される。しかしながら、当業者が容易に想到するような開示された概念の変更及び均等物は、添付される特許請求の範囲内に含まれることが意図される。
【0065】
図1
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【配列表】
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