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特許7455457筋萎縮性側索硬化症を治療するための方法と薬剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】筋萎縮性側索硬化症を治療するための方法と薬剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/48 20060101AFI20240318BHJP
   A61P 21/02 20060101ALI20240318BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240318BHJP
   C12N 9/68 20060101ALN20240318BHJP
【FI】
A61K38/48 100
A61P21/02 ZNA
A61P43/00 121
C12N9/68
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021566477
(86)(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-12
(86)【国際出願番号】 CN2020089632
(87)【国際公開番号】W WO2020228681
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】PCT/CN2019/086431
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518217305
【氏名又は名称】タレンゲン インターナショナル リミテッド
【氏名又は名称原語表記】TALENGEN INTERNATIONAL LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】李季男
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0104969(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0078804(US,A1)
【文献】特表2003-510351(JP,A)
【文献】Journal of Biomedicine and Biotechnology,2012年,Vol. 2012, Article ID 272148,p. 1-14,DOI: 10.1155/2012/272148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K、A61P、C12N
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患している被験者における、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療に使用するための医薬組成物であって、治療有効量のプラスミノーゲンをみ、前記プラスミノーゲンが、配列2と少なくとも90%の配列同一性を有し、且つプラスミノーゲン活性を有する、医薬組成物。
【請求項2】
前記プラスミノーゲンが、被験者の筋萎縮、筋力低下、けいれん、および/または線維束性収縮の症状を改善する、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項3】
前記プラスミノーゲンが、被験者の体重減少を軽減し、および/または生存期間を延長する、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項4】
前記プラスミノーゲンが、被験者の筋緊張を改善する、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項5】
前記プラスミノーゲンが、被験者の筋肉機能の回復を促進する、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項6】
前記プラスミノーゲンが、被験者の脊髄前角のニューロン損傷の修復を促進する、請求項1に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項7】
前記プラスミノーゲンが、1つ以上の他の薬剤および/または治療方法と組み合わせて投与される、請求項1~6のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項8】
前記プラスミノーゲンが、静脈内、皮下、筋肉内、髄腔内、鼻吸入、エアロゾル吸入、点鼻薬または点眼薬の投与によって投与される、請求項1~7のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項9】
前記プラスミノーゲンがGlu-プラスミノーゲン及びLys-プラスミノーゲンからなる群から選択されるものである、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【請求項10】
前記プラスミノーゲンが、天然または合成のヒトプラスミノーゲンである、請求項1~8のいずれか1項に記載の使用のための医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋萎縮性側索硬化症および関連障害に罹患している被験者に、有効量のプラスミノーゲンなどのフィブリンプラスミノーゲン活性化経路の成分またはその関連化合物を投与することで、損傷した神経を修復し、臨床症状および徴候を改善することを含む、筋萎縮性側索硬化症および関連障害を治療する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis,ALS)は、段階的凍結疾患としても知られ、主に錐体路、脳幹、脊髄の前角細胞に係る致命的な神経系変性疾患であり、臨床症状として、筋萎縮、アクラチア、および痙攣が徐々に悪化する。患者の60%以上が、この疾患の発症から3~5年後に呼吸筋麻痺で死亡した(Kiernan MC,Vucis S, Cheah BC, et al. Amyotrophic lateral sclerosis. Lancet, 2011, 377:942-955)。
【0003】
筋萎縮性側索硬化症の臨床症状は、主な症状と徴候として、上位運動ニューロン変性(主に腱反射亢進と筋緊張の増加を特徴とする)と下位運動ニューロン変性(筋萎縮、筋力低下、線維束性収縮、腱反射の喪失)である。一般に、症状は非対称であり、病変の位置から他の部位に徐々に進行するが、外眼筋と括約筋はほとんど関与していない。一部の患者は軽度の感覚症状を示す場合があるが、通常、感覚系は陰性として検査される。伝統的に、筋萎縮性側索硬化症の患者の認知機能はよく保存されていると考えられている。しかし、神経画像診断や神経心理学などの診断技術の発展に伴い、認知機能障害も筋萎縮性側索硬化症の一般的な特徴であることがわかっていた。
【0004】
この病気の有病率は約4~6/100,000である。現在、唯一の治療薬は興奮性アミノ酸拮抗薬であるRilutekであり、各国の薬規制当局によって承認されているが、病気の進行を遅らせることしかできない。
【発明の概要】
【0005】
本発明は研究によって、プラスミノーゲンなどのプラスミノーゲン経路活性化剤が、脊髄前角運動ニューロン損傷を有意に改善し、ALSを治療し、ALSの症状を改善することができることを見出した。
【0006】
本発明は下記のことに係る。
1、プラスミノーゲン活性化経路の成分、プラスミノーゲンを直接活性化し得るか、またはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによって間接的にプラスミノーゲンを活性化し得る化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミンの活性を模倣する化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミノーゲン活性化剤の発現をアップレギュレートすることができる化合物、プラスミノーゲン類似体、プラスミン類似体、tPAまたはuPA類似体および線維素溶解阻害剤の拮抗剤から選択される1つ以上の有効量のプラスミノーゲン経路活性剤を、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患している被験者に投与することを含む、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療する方法。
2、前記プラスミノーゲン活性化経路の成分が、プラスミノーゲン、組換えヒトプラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、Glu-プラスミノーゲン、プラスミン、プラスミノーゲンとプラスミンの1つ以上のkringleドメインおよびプロテアーゼドメインを含むプラスミノーゲンおよびプラスミン変異体並びに類似体、ミニプラスミノーゲン(mini-plasminogen)、ミニプラスミン(mini-plasmin)、マイクロプラスミノーゲン(micro-plasminogen)、マイクロプラスミン(micro-plasmin)、delta-プラスミノーゲン、delta-プラスミン(delta-plasmin)、プラスミノーゲン活性化剤、tPA、およびuPAから選択されるものである、項1に記載の方法。
3、前記線維素溶解阻害剤の拮抗剤は、PAI-1、補体C1阻害剤、α2抗プラスミンまたはα2マクログロブリンの拮抗剤、例えば、PAI-1、補体C1阻害剤、α2抗プラスミンまたはα2マクログロブリンの抗体である、項1に記載の方法。
4、前記筋萎縮性側索硬化症は、遺伝性および孤発性のALSを含む、項1~3のいずれか1項に記載の方法。
5、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が前記筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患している被験者に対して、寿命と生存期間の中央値の延伸、筋肉の萎縮と筋力の低下の遅延、体重減少の速度の緩和、脊髄の前角における細胞損傷、変性および壊死の低減、脊髄の前角におけるchATの合成の促進、コリン作動性ニューロン機能の回復の促進、脊髄の前角におけるシナプトフィジンの発現の促進、脊髄の前角におけるSMNタンパク質の発現の促進、脊髄の前角の炎症の修復の促進、およびシナプス損傷の修復の促進から選択される1つ以上の活性を有する、項1~4のいずれか1項に記載の方法。
6、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋萎縮、筋力低下、けいれん、および/または線維束性収縮の症状を改善する、項1~5のいずれか1項に記載の方法。
7、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の体重減少を軽減し、および/または生存期間を延長する、項1~6のいずれか1項に記載の方法。
8、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋緊張を改善する、項1~7のいずれか1項に記載の方法。
9、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋肉機能の回復を促進する、項1~8のいずれか1項に記載の方法。
10、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の脊髄前角のニューロン損傷の修復を促進する、項1~9のいずれか1項に記載の方法。
11、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、1つ以上の他の薬剤および/または治療方法と組み合わせて投与され、好ましくは、前記治療方法が、細胞治療(例えば、幹細胞治療)および遺伝子治療、アンチセンスRNA、小分子スプライシング修飾剤などを含む、項1~10のいずれか1項に記載の方法。
12、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、プラスミノーゲン活性化経路の成分、例えば、プラスミノーゲンである、項1~11のいずれか1項に記載の方法。
13、前記プラスミノゲンが、配列2、6、8、10または12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有する、項12に記載の方法。
14、前記プラスミノーゲンがプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性フラグメントを含み、且つ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有するタンパク質である、項12に記載の方法。
15、前記プラスミノーゲンがGlu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、delta-プラスミノーゲンまたはそれらの、プラスミノーゲン活性を保持した変異体から選択されるものである、項12に記載の方法。
16、前記プラスミノーゲンが、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、または依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を保持した変異体若しくはフラグメントである、項12に記載の方法。
17、前記プラスミノーゲンが、静脈内、筋肉内、髄腔内、鼻吸入、エアロゾル吸入、点鼻薬または点眼薬の投与によって投与される、項12に記載の方法。
【0007】
本願の上記いずれか1つの実施形態において、前記プラスミノゲンが配列2、6、8、10または12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有し得る。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、配列2、6、8、10または12に基づいて、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸を付加、欠失、および/または置換され、かつ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有するタンパク質である。
【0008】
一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性フラグメントを含有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有するタンパク質である。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、δ-プラスミノーゲンまたはそれらのプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を保持した変異体である。上記実施形態において、前記プラスミノーゲンは、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、または依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を保持した変異体若しくはフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、または依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を保持した変異体若しくはフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンのアミノ酸は配列2、6、8、10または12に示される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはヒト天然プラスミノーゲンである。
【0009】
一部の実施形態において、前記被験者はヒトである。一部の実施形態において、前記被験者はプラスミノーゲンが不足、または欠乏している。一部の実施形態において、前記不足または欠乏は、先天的、続発的及び/または局所的である。
【0010】
前記方法の一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは全身または局所にて投与される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、鼻吸入、エアロゾル吸入、点鼻薬または点眼薬の投与によって投与される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、静脈内、筋肉内、皮下、髄腔内注射によってプラスミノーゲンを投与することで治療する。前記方法の一部の実施形態において、前記プラスミノゲンは毎日0.0001~2000mg/kg、0.001~800mg/kg、0.01~600mg/kg、0.1~400mg/kg、1~200mg/kg、1~100mg/kg、10~100mg/kg(体重1キロあたりで計算)または0.0001~2000mg/cm、0.001~800mg/cm、0.01~600mg/cm、0.1~400mg/cm、1~200mg/cm、1~100mg/cm、10~100mg/cm(体表面積平方センチメートルあたりで計算)の用量で投与し、一回以上繰り返し、好ましくは少なくとも毎日、2日ごと、3日ごとに投与する。
【0011】
一部の実施形態において、本願は下記の実施形態に係る。
1、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患している被験者に治療有効量のプラスミノーゲン経路活性化剤を投与することを含む、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療する方法。
2、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が前記筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患している被験者に対して、寿命と生存期間の中央値の延伸、筋肉の萎縮と筋力の低下の遅延、体重減少の速度の緩和、脊髄の前角における細胞損傷、変性および壊死の低減、脊髄の前角におけるchATの合成の促進、コリン作動性ニューロン機能の回復の促進、脊髄の前角におけるシナプトフィジンの発現の促進、脊髄の前角におけるSMNタンパク質の発現の促進、脊髄の前角の炎症の修復の促進、およびシナプス損傷の修復の促進から選択される1つ以上の活性を有する、項1に記載の方法。
3、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋萎縮、筋力低下、けいれん、および/または線維束性収縮の症状を改善する、項1に記載の方法。
4、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の体重減少を軽減し、および/または生存期間を延長する、項1に記載の方法。
5、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋緊張を改善する、項1に記載の方法。
6、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋肉機能の回復を促進する、項1に記載の方法。
7、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の脊髄前角のニューロン損傷の修復を促進する、項1に記載の方法。
8、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、1つ以上の他の薬剤および/または治療方法と組み合わせて投与される、項1~7のいずれか1項に記載の方法。
9、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、静脈内、皮下、筋肉内、髄腔内、鼻吸入、エアロゾル吸入、点鼻薬または点眼薬の投与によって投与される、項1~8のいずれか1項に記載の方法。
10、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、プラスミノーゲン活性化経路の成分である、項1~9のいずれか1項に記載の方法。
11、前記プラスミノーゲン活性化経路の成分がプラスミノーゲンである、項10に記載の方法。
12、前記プラスミノゲンが、配列2、6、8、10または12と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性を有する、項11に記載の方法。
13、前記プラスミノーゲンがプラスミノーゲン活性フラグメントを含み、且つ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有するタンパク質である、項11に記載の方法。
14、前記プラスミノーゲンがGlu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、delta-プラスミノーゲンまたはそれらの、プラスミノーゲン活性を保持した変異体から選択されるものである、項11に記載の方法。
15、前記プラスミノーゲンが、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、または依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を保持した変異体若しくはフラグメントである、項11に記載の方法。
【0012】
本発明はまた、治療有効量のプラスミノーゲン経路活性化剤を含む、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療のための医薬組成物、薬剤、製剤、キット、および製品に関する。
【0013】
一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤は前記筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患している被験者に対して、寿命と生存期間の中央値の延伸、筋肉の萎縮と筋力の低下の遅延、体重減少の速度の緩和、脊髄の前角における細胞損傷、変性および壊死の低減、脊髄の前角におけるchATの合成の促進、コリン作動性ニューロン機能の回復の促進、脊髄の前角におけるシナプトフィジンの発現の促進、脊髄の前角におけるSMNタンパク質の発現の促進、脊髄の前角の炎症の修復の促進、およびシナプス損傷の修復の促進から選択される1つ以上の活性を有する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋萎縮、筋力低下、けいれん、および/または線維束性収縮の症状を改善する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の体重減少を軽減し、および/または生存期間を延長する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋緊張を改善する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋肉機能の回復を促進する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の脊髄前角のニューロン損傷の修復を促進する。
【0014】
一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、プラスミノーゲン活性化経路の成分である。一部の実施形態において、プラスミノーゲン活性化経路の成分がプラスミノーゲンである。一部の実施形態において、前記プラスミノゲンが、配列2、6、8、10または12と少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンがプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性フラグメントを含み、且つ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有するタンパク質である。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンがGlu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、delta-プラスミノーゲンまたはそれらの、プラスミノーゲン活性を保持した変異体から選択されるものである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンが、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、または依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を保持した変異体若しくはフラグメントである。
【0015】
一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、例えば、プラスミノーゲンなどのプラスミノーゲン活性化経路の成分が1つ以上の他の薬剤および/または治療方法と組み合わせて投与される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、例えば、プラスミノーゲンなどのプラスミノーゲン活性化経路の成分が静脈内、皮下、筋肉内、髄腔内、鼻吸入、エアロゾル吸入、点鼻薬または点眼薬の投与によって投与される。
【0016】
一部の実施形態において、前記医薬組成物、薬剤、製剤は、薬学的に許容される担体および、例えば、プラスミノーゲンなどのプラスミノーゲン活性化経路の成分のようなプラスミノーゲン経路活性化剤を含む。一部の実施形態において、前記キットおよび製品は、前記医薬組成物、薬剤または製剤を含む1つ以上の容器を含む。一部の実施形態において、前記キットまたは製品は、例えば、プラスミノーゲンのようなプラスミノーゲン活性化経路の成分などのプラスミノーゲン経路活性化剤の使用による筋萎縮性側索硬化症の治療方法を指示するラベルまたはプロトコルをさらに含む。
【0017】
一部の実施形態において、前記キットまたは製品は、他の薬剤を含む別の1つ以上の容器をさらに含む。
【0018】
本発明は、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を治療する医薬組成物、薬剤、製剤、キット、及び製品の調製における、治療有効量のプラスミノーゲン経路活性化剤の使用にも係る。
【0019】
一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤は前記筋萎縮性側索硬化症(ALS)に罹患している被験者に対して、寿命と生存期間の中央値の延伸、筋肉の萎縮と筋力の低下の遅延、体重減少の速度の緩和、脊髄の前角における細胞損傷、変性および壊死の低減、脊髄の前角におけるchATの合成の促進、コリン作動性ニューロン機能の回復の促進、脊髄の前角におけるシナプトフィジンの発現の促進、脊髄の前角におけるSMNタンパク質の発現の促進、脊髄の前角の炎症の修復の促進、およびシナプス損傷の修復の促進から選択される1つ以上の活性を有する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋萎縮、筋力低下、けいれん、および/または線維束性収縮の症状を改善する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の体重減少を軽減し、および/または生存期間を延長する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋緊張を改善する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の筋肉機能の回復を促進する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、被験者の脊髄前角のニューロン損傷の修復を促進する。
【0020】
一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、プラスミノーゲン活性化経路の成分である。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン活性化経路の成分がプラスミノーゲンである。一部の実施形態において、前記プラスミノゲンが、配列2、6、8、10または12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有する。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンがプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性フラグメントを含み、且つ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有するタンパク質である。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンがGlu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、delta-プラスミノーゲンまたはそれらの、プラスミノーゲン活性を保持した変異体から選択されるものである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンが、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、または依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を保持した変異体若しくはフラグメントである。
【0021】
一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、例えば、プラスミノーゲンなどのプラスミノーゲン活性化経路の成分が1つ以上の他の薬剤および/または治療方法と組み合わせて投与される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲン経路活性化剤が、例えば、プラスミノーゲンなどのプラスミノーゲン活性化経路の成分が静脈内、筋肉内、皮下、髄腔内、鼻吸入、エアロゾル吸入、点鼻薬または点眼薬の投与によって投与される。
【0022】
一部の実施形態において、前記医薬組成物、薬剤、製剤は、薬学的に許容される担体および、例えば、プラスミノーゲンなどのプラスミノーゲン活性化経路の成分のようなプラスミノーゲン経路活性化剤を含む。一部の実施形態において、前記キットおよび製品は、前記医薬組成物、薬剤または製剤を含む1つ以上の容器を含む。一部の実施形態において、前記キットまたは製品は、例えば、プラスミノーゲンのようなプラスミノーゲン活性化経路の成分などのプラスミノーゲン経路活性化剤の使用による筋萎縮性側索硬化症の治療方法を指示するラベルまたはプロトコルをさらに含む。
【0023】
一部の実施形態において、前記キットまたは製品は、他の薬剤を含む別の1つ以上の容器をさらに含む。
【0024】
本発明は、本発明の実施形態に属する技術的特徴のすべての組み合わせを明確にカバーし、これらの組み合わせ後の技術構成は、上記の技術構成が別個に明確に開示されたのと同様に、本出願において明確に開示された。さらに、本発明はまた、各実施形態とそれらの要素との間の組み合わせを明確にカバーし、組み合わせ後の技術構成は、本明細書に明確に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、プラスミノーゲン投与後のALSモデルマウスの寿命と生存期間の統計結果を示す図である。図1Aは寿命の統計結果を示し、図1Bは生存期間の統計結果を示す。その結果、プラスミノーゲン投与群のマウスの平均寿命は164±8.6日であり、溶媒対照群のマウスの平均寿命は153±0日であり、溶媒対照群と比べて、プラスミノーゲン投与群の寿命は約11日長かった。プラスミノーゲン投与群のマウスの生存期間の中央値は53±9日であり、溶媒対照群の生存期間の中央値は40±0日であり、溶媒対照群と比べて、プラスミノーゲン投与群の生存期間の中央値は約13日長く、約30%延長された。この結果は、プラスミノーゲンがALSマウスの寿命と生存期間の中央値を延長できることを示している。
図2】その結果、2つの群のマウスのサスペンション潜伏時間は投与期間中に減少したが、プラスミノーゲン投与群のマウスのサスペンション潜伏時間は常に溶媒対照群のマウスよりも長かく、しかも投与の6、21、および23日目に、溶媒群と比べて、プラスミノーゲン投与群のサスペンション潜伏時間は統計学的に有意または非常に有意であり、P値はそれぞれ0.03、0.02、および0.008であった。これは、プラスミノーゲンがALSマウスの筋力低下を遅らせることができることを示している。
図3図3は、プラスミノーゲン投与後のALSモデルマウスにおける2点神経行動が現れた時間を示す図である。その結果、プラスミノーゲン投与群のマウスの2点神経行動が現れた時点は、溶媒群より有意に遅く、統計学的差は有意であった(*はP<0.05を表す)。
図4図4は、プラスミノーゲン投与後、1日目の体重に対する正常マウスとALSモデルマウスの体重の割合の統計結果を示す図である。その結果、投与中、ブランク対照群のマウスの体重はあまり変動することなく徐々に上昇する傾向があり、溶媒対照群のマウスの体重は徐々に減少し、プラスミノーゲン投与群のマウスの体重は、最初の25日間で大きく変動していたが、ブランク対照群のマウスの体重に近いかわずかに多く、25日後に体重は徐々に減少していたが、溶媒対照群のマウスの体重よりも常に多く、溶媒対照群と比較して、P値は0.001を下回るか0.001に近かった。これは、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの体重減少率を有意に緩和し、ALSの悪化を遅らせることができることを示している。
図5図5は、プラスミノーゲン投与後の正常マウスおよびALSモデルマウスの脊髄前角のH&E染色における液胞面積の統計結果を示す図である。Aはブランク対照群、Bは溶媒群、Cは投与群、Dは液胞面積の統計結果を示す図である。その結果、ブランク対照群マウスの脊髄の前角に一定レベルの液胞面積が示され、溶媒群マウスの脊髄の前角の液胞面積がブランク対照群マウスのそれよりも有意に大きく(P<0.001)、投与群のマウスの脊髄前角の液胞面積は、溶媒群のマウスよりも有意に低く、しかも統計学的差は非常に有意である。これは、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの脊髄の前角の空胞面積を減少させ、脊髄の前角の運動ニューロンの死を減少させることができることを示唆している。
図6図6は、プラスミノーゲン投与後の正常マウスとALSモデルマウスの脊髄前角におけるchATの免疫組織化学的染色結果を示す図である。Aはブランク対照群、Bは溶媒群、Cは投与群、Dは平均光学密度の統計結果を示す図である。その結果、ブランク対照群マウスの脊髄前角で一定量のchATが発現し、溶媒群マウスのchAT発現レベルはブランク対照群マウスよりも有意に低く、投与群マウスの脊髄前角のchAT発現は溶媒群マウスよりも有意に高く、統計学的差は有意であった(P<0.05)。これは、プラスミノーゲンがSOD1-G93Aマウスの脊髄前角におけるchATの合成と発現を促進し、コリン作動性ニューロン機能の回復を促進できることを示している。
図7図7は、プラスミノーゲン投与後の正常マウスおよびALSモデルマウスの脊髄前角におけるシナプトフィジンの免疫組織化学的染色結果を示す図である。Aはブランク対照群、Bは溶媒群、Cは投与群、Dは平均光学密度の統計結果を示す図である。その結果、ブランク対照群マウスの脊髄前角で一定量のシナプトフィジンが発現し、溶媒群マウスのシナプトフィジンの発現レベルはブランク対照群マウスよりも有意に低く、投与群マウスの脊髄前角のシナプトフィジン発現は溶媒群マウスよりも有意に高く、統計学的差は有意であった(P<0.05)。これは、プラスミノーゲンがモデルマウスの脊髄前角におけるシナプトフィジンの発現を促進し、シナプス損傷の修復を促進できることを示している。
図8図8は、プラスミノーゲン投与後の正常マウスおよびALSモデルマウスの脊髄前角におけるIba-1の免疫組織化学的染色結果を示す図である。Aはブランク対照群、Bは溶媒群、Cは投与群、Dは平均光学密度の統計結果を示す図である。その結果、ブランク対照群マウスの脊髄前角で一定レベルのIba-1が発現し、投与群マウスの脊髄前角におけるIba-1の発現レベルは溶媒群とブランク対照群マウスよりも有意に高く、統計学的差は有意であった(P<0.05または0.01)。これは、プラスミノーゲンがモデルマウスの脊髄前角の炎症の修復を促進できることを示している。
図9図9は、プラスミノーゲン投与後の正常マウスおよびALSモデルマウスにおける腓腹筋のH&E染色の代表的な画像を示す図である。Aはブランク対照群、Bは溶媒群、Cは投与群である。その結果、ブランク対照群マウスの腓腹筋線維は構造が完全であり、形状とサイズが比較的に均一であるに対し、溶媒群の腓腹筋線維は、局所的な炎症性細胞浸潤(赤い矢印)および筋線維の真円度の変化を伴う重度の萎縮を示す。投与群の筋線維萎縮は、溶媒群よりも重症度は低いが、炎症性細胞浸潤もあった。これは、プラスミノーゲンがモデルマウスの筋萎縮を改善できることを示している。
図10図10は、プラスミノーゲン投与後の正常マウスおよびALSモデルマウスの臀筋のH&E染色の代表的な画像を示す図である。Aはブランク対照群、Bは溶媒群、Cは投与群である。その結果、ブランク対照群マウスの筋線維は構造が比較的に完全であり、形状とサイズが比較的に均一である。溶媒群マウスの臀筋の筋線維は、真円度の変化、異なるサイズ、重度の萎縮、および炎症性細胞の浸潤を示す。投与群のマウスの臀筋線維の構造及び形状は、溶媒群のそれと比較してある程度回復している。これは、プラスミノーゲンがモデルマウスの筋萎縮を改善できることを示している。
図11図11は、プラスミノーゲン投与後のALSモデルマウスの脊髄前角におけるSMNタンパク質の免疫組織化学的染色の代表的な画像を示す図である。Aはブランク対照群、Bは溶媒群、Cは投与群である。その結果、投与群マウスの脊髄前角におけるSMNタンパク質の発現レベルは、溶媒群よりも有意に高い。これは、プラスミノーゲンがモデルマウスの脊髄前角におけるSMNタンパク質の発現を促進できることを示している。
【発明の詳細な説明】
【0026】
本発明において、「筋萎縮性側索硬化症」は、運動ニューロン損傷によって引き起こされる一連の病理学的変化を指す。前記病理学的変化には、運動ニューロン変性、神経膠症(グリオーシス)、神経線維異常、皮質脊髄路および脊髄神経の前根における有髄線維の喪失が含まれる。延髄運動ニューロンの損傷の症状には、例えば、顔の筋肉、言語、嚥下機能障害などがある。脊髄運動ニューロンの損傷の症状には、筋肉のけいれん、筋力低下、筋萎縮、麻痺、および呼吸不全が含まれる。
【0027】
ALSは、下位運動ニューロンと上位運動ニューロンの機能障害の進行性の症状を特徴としている。下位運動ニューロンは、脳幹と脊髄を筋線維に接続し、それらの機能不全は、筋萎縮、けいれん、および線維束性収縮を引き起こす。上位運動ニューロンは、大脳皮質または脳幹の運動領域から発生し、標的筋肉を刺激するために直接応答する運動ニューロンに運動情報を伝達する。それらの機能不全は、けいれん(歩行、運動、および発話を妨げる継続的な筋収縮)および病理学的反射を引き起こす。ALSは、家族性の遺伝があるかどうかに応じて、孤発性ALS(sALS)と家族性ALS(fALS)に分けることができる。孤発性ALSにはALS家族歴はなく、家族性ALSの家族には複数のALS患者がいる。遺伝のさまざまな方法によって、家族性ALSは、常染色体優性遺伝、常染色体劣性遺伝、およびX染色体を伴う遺伝に分けることができる。
【0028】
運動神経は筋肉組織に栄養を与えることができる。運動神経を遮断した後、筋肉内でグリコーゲン合成が遅くなり、タンパク質の分解が加速し、筋肉が徐々に萎縮する。本出願は、プラスミノーゲンによる、運動神経損傷によって引き起こされる筋萎縮および関連する障害の治療にも係る。
【0029】
線維素溶解系(Fibrinolytic system)は、線維素溶解(線溶)の過程に関与する一連の化学物質からなる系であり、主にプラスミノーゲン(PLG)、プラスミン、プラスミノーゲン活性化因子、および線維素溶解阻害剤を含む。プラスミノーゲン活性化因子には、組織型プラスミノーゲン活性化因子(t-PA)、およびウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u-PA)が含まれる。t-PAはセリンプロテアーゼであり、血管内皮細胞によって合成される。t-PAはプラスミノーゲンを活性化し、このプロセスは主にフィブリンで行われる。ウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子(u-PA)は、尿細管上皮細胞と血管内皮細胞によって産生され、補因子としてフィブリンを必要とすることなくプラスミノーゲンを直接活性化することができる。プラスミノーゲン(PLG)は肝臓で合成される。血液が凝固すると、PLGはフィブリンネットに大量に吸着され、t-PAまたはu-PAの作用によりプラスミンに活性化されて線維素溶解を促進する。プラスミナーゼ(PL)はセリンプロテアーゼであり、フィブリンとフィブリノーゲンを分解し、様々な凝固因子V、VIII、X、VII、XI、IIなどを加水分解し、プラスミノーゲンをプラスミンに変換し、補体を加水分解するなどの作用がある。線維素溶解阻害剤には、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤(PAI)、およびα2-抗チプラスミン(α2-AP)が含まれる。PAIには主にPAI-1とPAI-2の2つの形態があり、t-PAに1:1の比率で特異的に結合し、それによってそれを不活性化すると同時にPLGを活性化することができる。α2-APは肝臓で合成され、PLと1:1の比率で結合して複合体を形成し、それによってPL活性を阻害する。FXIIIはα2-APをフィブリンと共有結合させ、それによってPLに対するフィブリンの感受性を弱める。インビボでの線維素溶解系の活性を阻害する物質としては、PAI-1、補体C1阻害剤、α2抗プラスミン、およびα2-マクログロブリンが挙げられる。
【0030】
本明細書で使用される「プラスミノーゲン経路活性化剤」または「フィブリンプラスミノーゲン経路活性化剤」という用語は、プラスミノーゲン活性化経路の成分、プラスミノーゲンを直接活性化できる、若しくはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによってプラスミノーゲンを間接に活性化できる化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミンの活性を模倣する化合物、プラスミノーゲンまたはプラスミノーゲン活性化剤の発現をアップレギュレートすることができる化合物、プラスミノーゲン類似体、プラスミン類似体、tPAまたはuPA類似体、および線維素溶解阻害剤の拮抗剤をカバーする。
【0031】
本明細書で使用される「プラスミノーゲン活性化経路の成分」または「フィブリンプラスミノーゲン活性化経路の成分」という用語は、
1、プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、Glu-プラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン(micro-plasminogen)、delta-プラスミノーゲン、それらの変異体または類似体;
2、プラスミンおよびそれらの変異体または類似体;および
3、プラスミノーゲン活性化剤、例えば、tPAおよびuPA、ならびにtPAまたはuPAの1つ以上のドメイン(1つ以上のkringleドメインおよびタンパク質加水分解ドメインなど)を含むtPAまたはuPA変異体および類似体をカバーする。
【0032】
「線維素溶解阻害剤の拮抗剤」という用語は、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンまたはα2-マクログロブリンの拮抗剤、例えば、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンまたはα2-マクログロブリンをカバーする。
【0033】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPAおよびuPAの「変異体」は、すべての天然に存在するヒトの遺伝的変異体およびこれらのタンパク質の他の哺乳動物型、並びに、例えば、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸を付加、欠失、および/または置換されてかつ依然としてプラスミノーゲン活性、プラスミン活性、tPAまたはuPA活性を有するタンパク質を含む。例えば、プラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAの「変異体」は、例えば、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個の保存的アミノ酸によって置換されて得られるこれらのタンパク質の突然変異体を含む。
【0034】
本発明の「プラスミノゲン変異体」は、配列2、6、8、10または12と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有するタンパク質をカバーする。例えば、本発明の「プラスミノーゲン変異体」は、配列2、6、8、10または12に基づいて、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸を付加、欠失、および/または置換し、且つ依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を有するタンパク質であり得る。具体的には、本発明のプラスミノーゲン変異体は、すべての天然に存在するヒトの遺伝的変異体およびこれらのタンパク質の他の哺乳動物型、並びに、例えば、1~100、1~90、1~80、1~70、1~60、1~50、1~45、1~40、1~35、1~30、1~25、1~20、1~15、1~10、1~5、1~4、1~3、1~2、1個のアミノ酸をの保存的置換によって得られるこれらのタンパク質の突然変異体を含む。
【0035】
本発明のプラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、または依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を保持した変異体、例えば、配列2、6、8、10または12に示されるプラスミノーゲン、例えば、配列2に示されるヒト天然プラスミノーゲンであり得る。
【0036】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPAおよびuPAの「類似体」はそれぞれ、プラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAと実質的に同様の効果を提供する化合物を含む。
【0037】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPAおよびuPAの「変異体」および「類似体」は、1つ以上のドメイン(例えば、1つ以上のkringleドメインおよびタンパク質加水分解ドメイン)を含むプラスミノーゲン、プラスミン、tPAおよびuPAの「変異体」および「類似体」をカバーする。例えば、プラスミノーゲンの「変異体」および「類似体」は、1つ以上のプラスミノーゲンドメイン(例えば、1つ以上のkringleドメインおよびタンパク質加水分解ドメイン)を含むプラスミノーゲン変異体および類似体、例えば、ミニプラスミノーゲン(mini-plasminogen)をカバーする。プラスミンの「変異体」および「類似体」は、1つ以上のプラスミンドメイン(例えば、1つまたは複数のkringleドメインおよびタンパク質加水分解ドメイン)を含むミニプラスミン(mini-plasmin)やδ-プラスミン(delta-plasmin)などのプラスミンの「変異体」および「類似体」をカバーする。
【0038】
上記プラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAの「変異体」または「類似体」がそれぞれプラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAの活性を有するかどうか、またはそれらがプラスミノーゲン、プラスミン、tPAまたはuPAと実質的に同様の効果をそれぞれ提供するかどうかは、当技術分野で知られている方法、例えば、エンザイモグラフィ(enzymography)、ELISA(酵素結合免疫吸着アッセイ)およびFACS(蛍光活性化細胞ソーティング法)を使用して、活性化されたプラスミン活性のレベルによって測定できる。例えば、次の文献に記載されている方法を参照して測定することができる。Ny,A.,Leonardsson,G.,Hagglund,A.C,Hagglof,P.,Ploplis,V.A.,Carmeliet,P. and Ny,T. (1999). Ovulation inplasminogen-deficient mice. Endocrinology 140,5030-5035;Silverstein RL, Leung LL, Harpel PC, Nachman RL (November 1984). “Complex formation of platelet thrombospondin with plasminogen. Modulation of activation by tissue activator”. J. Clin. Invest. 74 (5): 1625-33;Gravanis I, Tsirka SE (February 2008). “Tissue-type plasminogen activator as a therapeutic target in stroke”. Expert Opinion on Therapeutic Targets. 12 (2): 159-70;Geiger M, Huber K, Wojta J, Stingl L, Espana F, Griffin JH, Binder BR (Aug 1989). “Complex formation between urokinase and plasma protein C inhibitor in vitro and in vivo”. Blood. 74 (2): 722-8。
【0039】
本発明の一部の実施形態において、本発明の「プラスミノーゲン活性化経路の成分」はプラスミノーゲンであり、Glu-プラスミノーゲン、Lys-プラスミノーゲン、ミニプラスミノーゲン、マイクロプラスミノーゲン、δ-プラスミノーゲンまたはそれらのプラスミノーゲン活性を保持した変異体から選択される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、天然または合成のヒトプラスミノーゲン、または依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を保持した保存的突然変異体若しくはそのフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、霊長類動物またはげっ歯類動物に由来するヒトプラスミノーゲンのオルソログ、または依然としてプラスミノーゲン活性および/またはリジン結合活性を保持した保存的突然変異体若しくはそのフラグメントである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンのアミノ酸は配列2、6、8、10または12に示される。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはヒト天然プラスミノーゲンである。一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは配列2に示されるヒト天然プラスミノーゲンである。
【0040】
「プラスミノーゲンを直接活性化できる、若しくはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによってプラスミノーゲンを間接に活性化できる化合物」とは、プラスミノーゲンを直接活性化できる、若しくはプラスミノーゲン活性化経路の上流成分を活性化することによってプラスミノーゲンを間接に活性化できる任意の化合物を指し、例えば、tPA、uPA、ストレプトキナーゼ、サルプラーゼ、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、テネクテプラーゼ、アニストレプラーゼ、モンテプラーゼ、ラノテプラーゼ、パミテプラーゼ、およびスタフィロキナーゼが挙げられる。
【0041】
本発明の「線維素溶解阻害剤の拮抗薬」は、線維素溶解阻害剤の作用に拮抗し、その作用を弱め、遮断し、阻止する化合物である。前記線維素溶解阻害剤は、例えば、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミン、およびα2-マクログロブリンである。前記拮抗剤は、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンもしくはα2-マクログロブリンの抗体、または、例えばPAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンもしくはα2-マクログロブリンの発現を遮断またはダウンレギュレートするアンチセンスRNAもしくはミニRNA、または、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンまたはα2-マクログロブリンの結合部位を占めるが、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンまたはα2-マクログロブリンの機能を持たない化合物、または、PAI-1、補体C1阻害剤、α2-抗プラスミンもしくはα2-マクログロブリンの結合ドメインおよび/または活性ドメインをブロックする化合物である。
【0042】
プラスミンはプラスミノゲン活性化系(PA系)の重要な成分である。それは広スペクトルのプロテアーゼであり、細胞外マトリックス(ECM)の幾つかの成分を加水分解することができ、これらの成分はフィブリン、ゼラチン、フィブロネクチン、ラミニン及びプロテオグリカンを含む。また、プラスミンは一部のプロマトリックスメタロプロテアーゼ(pro-MMP)を活性化させて活性のあるマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)にすることができる。そのためプラスミンは細胞外タンパク加水分解作用の一つの重要な上流調節因子である。プラスミンはプラスミノゲンが二種類の生理性のPA:組織型プラスミノゲン活性化剤(tPA)またはウロキナーゼプラスミノゲン活性化剤(uPA)をタンパク質加水分解することで形成されるものである。プラスミノゲンは血漿及び他の体液中において、相対的レベルが比較的高く、従来的にはPA系の調節は主にPAの合成及び活性レベルよって実現されると考えられている。PA系成分の合成は例えばホルモン、成長因子及びサイトカインなどの異なる要素によって厳格な調節を受ける。また、この他に、プラスミンとPAsの特定の生理的阻害剤が存在する。プラスミンの主な阻害剤はα2-抗プラスミン(α2-antiplasmin)である。PAsの活性は、uPAとtPAのプラスミノーゲン活性化剤阻害剤-1(PAI-1)に同時に阻害され、uPAを主に阻害するプラスミノーゲン活性化剤阻害剤-2(PAI-2)によって調節される。一部の細胞表面には直接加水分解する活性のあるuPA特異性細胞表面受容体(uPAR)がある。
【0043】
プラスミノゲンは単一鎖の糖タンパクであり、791個のアミノ酸からなり、分子量は約92kDaである。プラスミノゲンは主に肝臓で合成され、大量に細胞外液に存在している。血漿中に含まれるプラスミノゲンの含有量は約2μMである。そのためプラスミノゲンは組織及び体液中のタンパク質加水分解活性の大きな潜在的な由来である。プラスミノゲンには二種類の分子の形が存在する:グルタミン酸-プラスミノゲン(Glu-plasminogen)及びリジン-プラスミノゲン(Lys-plasminogen)である。天然的に分泌され及び分解していない形のプラスミノゲンは一つのアミノ基末端(N-末端)グルタミン酸を有し、そのためグルタミン酸-プラスミノゲンと称される。しかし、プラスミンが存在する場合、グルタミン酸-プラスミノゲンはLys76-Lys77においてリジン-プラスミノゲンに加水分解される。グルタミン酸-プラスミノゲンと比較して、リジン-プラスミノゲンはフィブリンとより高い親和力を有し、さらにより高い速度でPAによって活性化されることができる。この二種類の形のプラスミノゲンのArg560-Val561ペプチド結合はuPAまたはtPAによって切断され、これによりジスルフィド結合によって接続された二重鎖プロテアーゼプラスミンの形成をもたらす。プラスミノゲンのアミノ基末端部分は五つの相同トリクル環(homologous tricyclic rings)を含み、即ちいわゆるkringlesであり、カルボキシル基末端部分はプロテアーゼドメインを含む。一部のKringlesはプラスミノゲンとフィブリン及びその阻害剤α2-APの特異的相互作用を介在するリジン結合部位を含む。最も新しく発見されたのは38kDaのフィブリンプラスミノゲンフラグメントであり、kringlel-4を含み、血管生成の有効的な阻害剤である。このフラグメントはアンギオスタチンと命名され、幾つかのプロテアーゼ加水分解プラスミノゲンから生成される。
【0044】
プラスミンの主な基質はフィブリンであり、フィブリンの溶解は病理性血栓の形成を予防するキーポイントである。プラスミンはさらにECMの幾つかの成分に対する基質特異性を有し、これらはラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカン及びゼラチンを含み、これはプラスミンがECM再建において重要な作用を有することを示している。間接的に、プラスミンはさらにいくつかのプロテアーゼ前駆体を活性プロテアーゼに変換することによりECMのその他の成分を分解し、MMP-1、MMP-2、MMP-3及びMMP-9を含む。そのため、以下のように提唱する人がいる。プラスミンは細胞外タンパク加水分解の重要な上流調節因子である。また、プラスミンはいくつかの潜在的な形の成長因子を活性化させる能力を有する。体外において、プラスミンはさらに補体系の成分を加水分解させて走化性の補体フラグメントを放出することができる。
【0045】
「プラスミン」は血液中に存在する非常に重要な酵素であり、フィブリン凝塊をフィブリン分解生成物及びD-二量体に加水分解する。
【0046】
「プラスミノーゲン」はプラスミンの酵素前駆体の形であり、swiss prot中の配列に基づいて、シグナルペプチドを含む天然ヒト由来プラスミノーゲンのアミノ酸配列(配列4)は計算によれば810個のアミノ酸からなり、分子量は約90kDであり、主に肝臓において合成され且つ血液中で循環できる糖タンパク質であり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列3に示される通りである。フルサイズのプラスミノーゲンは七つのドメインを含む:C末端に位置するセリンプロテアーゼドメイン、N末端に位置するPan Apple(PAp)ドメイン及び5つのKringleドメイン(Kringle1-5)を含む。swiss prot中の配列を参照すれば、そのシグナルペプチドは残基Met1-Gly19を含み、PApは残基Glu20-Val98を含み、Kringle1は残基Cys103-Cys181を含み、Kringle2は残基Glu184-Cys262を含み、Kringle3は残基Cys275-Cys352を含み、Kringle4は残基Cys377-Cys454を含み、Kringle5は残基Cys481-Cys560を含む。NCBIデータによれば、セリンプロテアーゼドメインは残基Val581-Arg804を含む。
【0047】
Glu-プラスミノーゲンは天然のフルサイズのプラスミノーゲンであり、791個のアミノ酸からなる(19個のアミノ酸からなるシグナルペプチドを含まない)。該配列をコードするcDNA配列は配列1に示される通りであり、そのアミノ酸配列は配列2に示される通りである。体内において、さらにGlu-プラスミノーゲンの第76-77位のアミノ酸の位置で加水分解することにより形成されたLys-プラスミノーゲンが存在し、例えば配列6に示されるものであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列5が示す通りである。Delta-プラスミノーゲン(δ-plasminogen)はフルサイズのプラスミノーゲンにKringle2-Kringle5構造の欠損が生じているフラグメントであり、Kringle1及びセリンプロテアーゼドメインしか含有せず、δ-プラスミノーゲンのアミノ酸配列(配列8)を報告している文献があり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は例えば配列7である。ミニプラスミノーゲン(Mini-plasminogen)はKringle5及びセリンプロテアーゼドメインからなり、残基Val443-Asn791(シグナルペプチドを含まないGlu-プラスミノーゲン配列のGlu残基を開始アミノ酸とする)について文献が報告しており、そのアミノ酸配列は配列10に示される通りであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列9が示す通りである。しかしマイクロプラスミノーゲン(Micro-plasminogen)はセリンプロテアーゼドメインのみ含有し、そのアミノ酸配列は残基Ala543-Asn791(シグナルペプチドを含まないGlu-プラスミノーゲン配列のGlu残基は開始アミノ酸である)と文献が報告し、特許文献CN102154253Aはそれが残基Lys531-Asn791を含むと開示し(シグナルペプチドを含まないGlu-プラスミノーゲン配列のGlu残基を開始アミノ酸とする)、本特許の配列は特許文献CN102154253Aを参照でき、そのアミノ酸配列は配列12に示される通りであり、該アミノ酸配列をコードするcDNA配列は配列11に示される通りである。
【0048】
本発明の「プラスミン」と「フィブリンプラスミン」、「繊維タンパクプラスミン」は互いに置き換えて使用でき、その意味は同じである。「プラスミノーゲン」と「フィブリンプラスミノーゲン」、「繊維タンパクプラスミノーゲン」は互いに置き換えて使用でき、その意味は同じである。
【0049】
本願において、前記プラスミノーゲンの「欠乏」とは、被験者体内のプラスミノーゲンの含有量または活性が正常な人より低く、前記被験者の正常な生理学的機能に影響を及ぼすのに十分に低いことをいう。前記プラスミノーゲンの「欠乏」の意味は、被験者体内のプラスミノーゲンの含有量または活性が正常な人より明らかに低く、活性または発現が極微量であり、外部供給によってのみ正常な生理学的機能を維持できることである。
【0050】
当業者は以下のように理解できる。本発明のプラスミノーゲンのすべての技術構成はプラスミンに適用でき、そのため、本発明に記載の技術構成はプラスミノーゲン及びプラスミンをカバーするものである。循環プロセスにおいて、プラスミノーゲンは閉鎖した非活性コンフォメーションであるが、血栓または細胞表面に結合した際、プラスミノーゲン活性化剤(plasminogen activator,PA)の介在下において、開放性のコンフォメーションを有する活性プラスミンとなる。活性を有するプラスミンはさらにフィブリン凝塊をフィブリン分解生成物及びD-二量体に加水分解させ、これにより血栓を溶解させる。そのうちプラスミノーゲンのPApドメインはプラスミノーゲンを非活性閉鎖コンフォメーションにする重要なエピトープであり、しかしKRドメインは受容体及び基質上のリジン残基と結合できるものである。プラスミノーゲン活性化剤としての酵素は、既に複数種類知られ、組織プラスミノーゲン活性化剤(tPA)、ウロキナーゼプラスミノーゲン活性化剤(uPA)、カリクレイン及び凝固因子XII(ハーゲマン因子)などを含む。
【0051】
本願において、「プラスミノーゲン活性フラグメント」は、1)プラスミノーゲンタンパク質において、基質中のターゲット配列と結合できる活性フラグメント、リジン結合フラグメントとも呼ばれ、例えば、Kringle 1、Kringle 2、Kringle 3、Kringle 4、及び/またはKringle 5を含むフラグメント(前記プラスミノーゲンの構造について、Aisina R B , Mukhametova L I . Structure and function of plasminogen/plasmin system[J]. Russian Journal of Bioorganic Chemistry, 2014, 40(6):590-605を参照されたい);2)プラスミノーゲンタンパク質においてタンパク質加水分解機能を発揮できる活性フラグメント、例えば、配列14に示されるプラスミノーゲン活性(タンパク質加水分解機能)を有するフラグメント;3)プラスミノーゲンタンパク質において、基質中のターゲット配列と結合する活性(リジン結合活性)とプラスミノーゲン活性(タンパク質加水分解機能)との両方を有するフラグメントを含む。本願の一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンは、配列14に示されるプラスミノーゲン活性フラグメントを含むタンパク質である。本願の一部の実施形態において、前記プラスミノーゲンはKringle 1、Kringle 2、Kringle 3、Kringle 4、及び/またはKringle 5のリジン結合フラグメントを含むタンパク質である。一部の実施形態において、本願のプラスミノーゲン活性フラグメントは配列14、配列14と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性のアミノ酸配列を含有するタンパク質を含む。そのため、本発明に記載のプラスミノーゲンは該プラスミノーゲン活性フラグメントを含み、且つ依然として該プラスミノーゲン活性を有するタンパク質を含む。一部の実施形態において、本願のプラスミノーゲンは、Kringle 1、Kringle 2、Kringle 3、Kringle 4、及び/またはKringle 5を含むか、またはKringle 1、Kringle 2、Kringle 3、Kringle 4、及び/またはKringle 5と少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有しながら依然としてリジン結合活性を有するタンパク質を含む。
【0052】
現在、血液中のプラスミノーゲン及びその活性測定方法は以下を含む:組織フィブリンプラスミノーゲン活性化剤の活性に対する測定(t-PAA)、血漿組織プラスミノーゲン活性化剤抗原に対する測定(t-PAAg)、血漿組織プラスミノーゲン活性に対する測定(plgA)、血漿組織プラスミノーゲン抗原に対する測定(plgAg)、血漿組織プラスミノーゲン活性化剤の阻害物活性に対する測定、血漿組織プラスミノーゲン活性化剤の阻害物抗原に対する測定、血漿プラスミン-抗プラスミン複合物に対する測定(PAP)。最もよく見られる測定方法は発色基質法である:測定対象(被験者)の血漿中にストレプトキナーゼ(SK)と発光基質を添加し、測定対象の血漿中のPLGはSKの作用下においてPLMとなり、後者は発光基質に作用し、それから分光光度計で測定し、吸光度の増加はプラスミノーゲンの活性と正比例の関係となる。この他にも免疫化学法、ゲル電気泳動法、免疫比濁法、放射免疫拡散法などを用いて血液中のフィブリンプラスミノーゲン活性に対して測定を行うことができる。
【0053】
「オーソロガス(orthologue)またはオルソログ(ortholog)」とは異なる種どうしのホモログであり、タンパク質の相同物もDNAの相同物も含み、オーソロガスホモログおよび垂直ホモログともいう。それは具体的に異なる種どうしの同じ祖先の遺伝子から進化して得られるタンパク質または遺伝子を言う。本発明のプラスミノーゲンはヒト天然プラスミノーゲンを含み、さらには異なる種に由来する、プラスミノーゲン活性を有するプラスミノーゲンオーソロガスまたはオルソログを含む。
【0054】
「保存的置換バリアント」とはそのうちの一つの指定されたアミノ酸残基が改変されたがタンパク質または酵素の全体のコンフォメーション及び機能を変えないものであり、これは類似の特性(例えば酸性、アルカリ性、疎水性など)のアミノ酸でペアレントタンパク質中のアミノ酸配列中のアミノ酸を置換するものを含むがこれらに限られない。類似の性質を有するアミノ酸は知られている通りである。例えば、アルギニン、ヒスチジン及びリジンは親水性のアルカリ性アミノ酸であり且つ互いに置き換えることができる。同じように、イソロイシンは疎水アミノ酸であり、ロイシン、メチオニンまたはバリンによって置換されることができる。そのため、機能の類似する二つのタンパク質またはアミノ酸配列の類似性は異なる可能性もある。例えば、MEGALIGNアルゴリズムに基づいて70%~99%の類似性(同一性)を有する。「保存的置換バリアント」はさらにBLASTまたはFASTAアルゴリズムに基づいて60%以上のアミノ酸同一性を有するポリペプチドまたは酵素を含み、75%以上に達すればさらによく、最も好ましくは85%以上に達し、さらには90%以上に達するのが最も好ましく、さらに天然またはペアレントタンパク質または酵素と比較して同じまたは基本的に類似する性質または機能を有する。
【0055】
「分離された」プラスミノーゲンとは天然環境から分離及び/または回収されたプラスミノーゲンタンパク質である。いくつかの実施形態において、前記プラスミノーゲンは(1)90%を超える、95%を超える、または98%を超える純度(重量で計算した場合)になるまで精製し、例えばLowry法によって決まるもので、例えば99%(重量で計算した場合)を超えるまで精製する、(2)少なくともスピニングカップ配列分析装置によりN末端または内部アミノ酸配列の少なくとも15個の残基が得られる程度になる精製する、または(3)同質性になるまで精製する。該同質性はクマシーブリリアントブルーまたは銀染色により還元性または非還元性条件下のドデシル硫酸ナトリウムーポリアクリルアミノゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって決まるものである。分離されたプラスミノーゲンはバイオエンジニアリング技術により組み換え細胞から製造することができ、さらに少なくとも一つの精製ステップで分離されたプラスミノーゲンを含む。
【0056】
用語の「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は本明細書において互いに置き換えて使用でき、いかなる長さのアミノ酸の重合体を指し、遺伝的にコードされた及び非遺伝的にコードされたアミノ酸、化学的または生化学的に修飾されまたは派生したアミノ酸、及び修飾されたペプチド主鎖を有するポリペプチドを含む。該用語は融合タンパク質を含み、異種性アミノ酸配列を有する融合タンパク質を含むがこれに限られず、異種性と同種性由来のリーダー配列(N端メチオニン残基を有するか有しない)を含む融合物;等々である。
【0057】
参照ペプチド配列の「アミノ酸配列同一性パーセンテージ(%)」の定義は、必要に応じてギャップを導入することで最大のパーセンテージ配列の同一性を実現した後、如何なる保存的な置換も配列同一性の一部として見なさない場合、候補配列中における参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同じアミノ酸残基のパーセンテージである。パーセンテージのアミノ酸配列の同一性を測定することを目的とした比較は本分野の技術範囲における複数種類の方式によって実現でき、例えば公衆が入手できるコンピュータソフトウエア、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウエアによって実現できる。当業者は配列をアライメントするための適切なパラメータを決めることができ、該パラメータが比較対象の配列のフルサイズに対して最大比較の要求を実現するための如何なるアルゴリズムも含む。しかし、本発明の目的のために、アミノ酸配列の同一性パーセンテージは配列比較コンピュータソフトウエアALIGN-2により得られるものである。
【0058】
ALIGN-2を用いることによりアミノ酸配列を比較する場合、所定のアミノ酸配列Aの所定のアミノ酸配列Bに対するアミノ酸配列同一性%(または所定のアミノ酸配列Bに対して、と、またはについてのあるアミノ酸配列と同一性を有する又は含む所定のアミノ酸配列Aともいう)は以下のように計算される:
分数X/Y×100
【0059】
そのうちXは配列アライメントプログラムALIGN-2において該プログラムのA及びBのアライメントにおいて同一でマッチングすると評価したアミノ酸残基の数であり、且つそのうちYはBにおけるアミノ酸残基の総数である。以下のように理解するべきである:アミノ酸配列Aの長さとアミノ酸配列Bの長さが等しくない場合、AのBに対するアミノ酸配列の同一性%は、BのAに対するアミノ酸配列同一性%とは異なる。特に断りのない限り、本文中において使用するすべてのアミノ酸配列同一性値%は前記の段落に記載の通りであり、ALIGN-2コンピュータプログラムによって得られるものである。
【0060】
本文において使用されているように、用語の「治療」は期待される薬理及び/または生理的効果が得られることを言う。前記効果は疾患またはその症状を完全または一部予防すること、及び/または疾患及び/またはその症状を一部または完全に治癒するものとすることができる。さらに以下を含む:(a)疾患が被験者の体内で発生することを予防し、前記被験者は疾患の要因を持っているが、該疾患を有すると診断されていない状況であること;(b)疾患を抑制し、その形成を阻害すること;及び(c)疾患及び/またはその症状を減軽し、即ち疾患及び/またはその症状を減退させること。
【0061】
用語の「個体」、「被験者」及び「患者」は本明細書中において互いに置き換えて使用でき、哺乳動物を指し、ネズミ(ラット、マウス)、ヒト以外の霊長類、ヒト、イヌ、ネコ、有蹄動物(例えばウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ)などを含むがこれらに限られない。
【0062】
「治療上有効量」または「有効量」とは、哺乳動物またはその他の被験者に投与して疾患の治療に用いられる際に疾患の前記予防及び/または治療を実現できるプラスミノーゲンの量である。「治療上有効量」は使用するプラスミノーゲン、治療しようとする被験者の疾患及び/または症状の重症度及び年齢、体重などに従って変化するものである。
【0063】
本発明のプラスミノーゲンの調製
プラスミノーゲンは治療の用途に用いられるために、自然界から分離及び精製されるものでもよく、標準的な化学ペプチド合成技術によって合成することでもよい。化学的手法によりポリペプチドを合成する際、液相または固相で合成を行うことができる。固相ポリペプチド合成(SPPS)(配列のC末端アミノ酸を不溶性支持体に附着させ、順番に配列中の残りのアミノ酸を添加する)はプラスミノーゲンの化学的合成に適したものである。各種形式のSPPS、例えばFmoc及びBocは、プラスミノーゲンの合成に用いることができる。固相合成に用いられる技術は以下に記載されている:Barany及びSolid-Phase Peptide Synthesis;3-284ページ、The Peptides:Analysis,Synthesis,Biology.第二巻:Special Methods in Peptide Synthesis,Part A.,Merrifield,tら J.Am.Chem.Soc.,85:2149-2156(1963);Stewartら,Solid Phase Peptide Synthesis,2nd ed.Pierce Chem.Co.,Rockford,Ill.(1984);及びGanesan A.2006Mini Rev.Med Chem.6:3-10及びCamarero JAら 2005Protein Pept Lett.12:723-8。簡単に言えば、その上にペプチド鎖が構築されている機能性ユニットにより小さい不溶性の多孔ビーズを処理する。カップリング/脱保護の繰り返し循環後に、附着した固相の遊離N末端アミンと単一のN保護を受けているアミノ酸ユニットをカップリングさせる。それから、該ユニットを脱保護し、他のアミノ酸と接続する新しいN末端アミンを露出させる。ペプチドを固相上に固定したままにし、それからそれを切除する。
【0064】
標準的な組み換え方法により本発明のプラスミノーゲンを生産する。例えば、プラスミノーゲンをコードする核酸を発現ベクター中に挿入し、それと発現ベクター中の制御配列を操作可能に接続させる。発現制御配列はプロモーター(例えば天然に関連されているプロモーター、または異種由来のプロモーター)、シグナル配列、エンハンサーエレメント及び転写終了配列を含むが、これらに限られない。発現の制御はベクター中の真核プロモーターシステムとすることができ、前記ベクターは真核宿主細胞(例えばCOSまたはCHO細胞)を形質転換またはトランスフェクションさせる。一旦ベクターを適切な宿主に導入すれば、ヌクレオチド配列の高レベル発現及びプラスミノーゲンの収集及び精製に適した条件下において宿主を維持する。
【0065】
適切な発現ベクターは通常宿主体内において附加体または宿主染色体DNAの整合部分として複製される。通常、発現ベクターは選択マーカー(例えばアンピシリン耐性、ハイグロマイシン耐性、テトラサイクリン耐性、カナマイシン耐性またはネオマイシン耐性)を含み、インビトロで所望のDNA配列によって形質転換されたそれらの細胞に対して測定を行うことに有用である。
【0066】
大腸菌(Escherichia coli)はターゲット抗体をコードするポリヌクレオチドをクローンする原核宿主細胞の例である。その他の使用に適した微生物宿主は桿菌を含み、例えばバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)及びその他の腸内細菌科(Enterobacteriaceae)、例えばサルモネラ属(Salmonella)、セラチア属(Serratia)、及び各種シュードモナス属(Pseudomonas)種である。これらの原核宿主において、発現ベクターを生成でき、通常は宿主細胞と相容する発現制御配列(例えば複製開始点)を含むものである。また、多くの公知のプロモーターが存在し、例えば乳糖プロモーターシステム、トリプトファン(trp)プロモーターシステム、β-ラクタマーゼプロモーターシステム、またはファージλ由来のプロモーターシステムである。プロモーターは一般的に発現を制御し、必要に応じて遺伝子配列を制御する場合に、転写及び翻訳を起動するために、さらにリボソームの結合位置配列を有してもよい。
【0067】
その他の微生物、例えば酵母も発現に用いることができる。酵母(例えばサッカロミセス(S.cerevisiae))及びピキア(Pichia)が適した酵母宿主細胞の例であり、そのうちの適切な担体は必要に応じて発現制御配列(例えばプロモーター)、複製開始点、終止配列など含む。典型的なプロモーターは3-ホスホグリセリン酸キナーゼ及びその他の糖分解酵素を含む。誘導型酵母プロモーターにはアルコール脱水素酵素、イソチトクロムC、及び麦芽糖とガラクトースの利用のための酵素のプロモーターを含む。
【0068】
微生物以外に、哺乳動物細胞(例えば体外細胞培養物中において培養された哺乳動物細胞)も本発明のプラスミノーゲンの発現および生成に用いることができる(例えばプラスミノーゲンをコードするポリヌクレオチド)。例えばWinnacker,From Genes to Clones,VCH Publishers,N.Y.,N.Y.(1987)参照。適した哺乳動物宿主細胞はCHO細胞系、各種Cos細胞系、HeLa細胞、骨髄腫細胞系、及び形質転換されたB細胞またはハイブリドーマを含む。これらの細胞に用いられる発現ベクターは発現制御配列、例えば複製開始点、プロモーター、及びエンハンサー(Queenら,Immunol.Rev.89:49(1986))、及び必要とされる加工情報サイト、例えばリボソームの結合サイト、RNAの切断サイト、ポリアデノシン酸化サイト、及び転写ターミネーター配列を含むことができる。適切な発現制御配列の例はウサギ免疫グロブリン遺伝子、SV40、アデノウイルス、ウシ乳頭腫ウィルス、サイトメガロウイルスなど由来のプロモーターである。Coら、J.Immunol.148:1149(1992)を参照すること。
【0069】
一旦合成(化学または組み換え的に)されれば、本分野の標準的な手順、例えば硫酸アンモニウム沈殿、アフィニテイカラム、カラムクロマトグラフィー、高速液相クロマトグラフィー(HPLC)、ゲル電気泳動などにより本発明に記載のプラスミノーゲンを精製することができる。該プラスミノーゲンは基本的に純粋なものであり、例えば少なくとも約80%から85%の純度で、少なくとも約85%~90%の純度で、少なくとも約90%~95%の純度で、または98%~99%の純度またはさらに純度が高いものであり、例えば汚染物を含まず、前記汚染物は例えば細胞破片、プラスミノーゲン以外の大分子などである。
【0070】
薬物配合剤
所望の純度のプラスミノーゲンと必要に応じた薬用担体、賦形剤、または安定化剤(Remington′s Pharmaceutical Sciences,第16版,Osol,A.ed.(1980))を混合して凍結乾燥製剤または水溶液を形成して治療用の配合剤を得る。許容可能な担体、賦形剤、安定化剤は所要の用量及び濃度下において被験者に対して毒性がなく、さらに例えばリン酸塩、クエン酸塩及びその他の有機酸などの緩衝剤を含む。抗酸化剤はアスコルビン酸和メチオニンを含む;防腐剤(例えばオクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;塩化ヘキサメチレンジアミン;塩化ベンザルコニウム(benzalkonium chloride)、ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブタノールまたはベンジルアルコール;アルキルパラヒドロキシ安息香酸エステル、例えばメチルまたはプロピルパラヒドロキシ安息香酸エステル;ピロカテコール;レソルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;m-クレゾール);低分子量ポリペプチド(少なくとも10個の残基を有するもの);タンパク質例えば血清アルブミン、ゼラチン、または免疫グロブリン;親水性重合体、例えばポリビニルピロリドン;アミノ酸、例えばグリシン、グルタミン、アスパラギン酸、ヒスチジン、アルギニンまたはリシンである;単糖、二糖及びその他の炭水化物はグルコース、マンノース、またはデキストリンを含む;キレート剤は例えばEDTAである;糖類は例えばショ糖、マンニトール、フコースまたはソルビトールである;塩形成対イオン、例えばナトリウム;金属複合体(例えば亜鉛-タンパク複合体);及び/または非イオン界面活性剤、例えばTWEENTM、PLURONICSTMまたはポリエチレングリコール(PEG)である。
【0071】
本発明の配合剤は治療を必要とする具体的な症状の必要とする一種類以上の活性化合物を含有してもよく、好ましくは活性が相補的で互いに副作用を有しないものである。例えば、血圧降下薬、抗不整脈薬、糖尿病治療薬等である。
【0072】
本発明のプラスミノーゲンは例えば凝集技術または界面重合によって作られるマイクロカプセル中に内包ことができ、例えば、膠質薬物輸送系(例えば、リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン剤、ナノ粒子及びナノカプセル)中に入れまたは粗エマルジョン状液中のヒドロキシメチルセルロースまたはゲルーマイクロカプセル及びポリ―(メタアクリル酸メチル)マイクロカプセル中に入れることができる。これらの技術はRemington′s Pharmaceutical Sciences 16th edition,Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。。
【0073】
体内に投与することに用いられる本発明のプラスミノーゲンは必ず無菌である必要がある。これは凍結乾燥及び再度配合する前または後に除菌濾過膜で濾過することで容易に実現できる。
【0074】
本発明のプラスミノーゲンは緩衝製剤を調製できる。緩衝製剤の適切な実例は一定の形状を有し且つ糖タンパクを含む固体の疎水性重合体の半透過マトリックスを含み、例えば膜またはマイクロカプセルである。緩衝基質の実例はポリエステル、水性ゲル(例えばポリ(2-ヒドロキシエチル-メタアクリル酸エステル)(Langerら,J.Biomed.Mater.Res.,15:167-277(1981);Langer,Chem.Tech.,12:98-105(1982))またはポリ(ビニールアルコール)、ポリラクチド(米国特許3773919,EP 58,481)、L-グルタミン酸とエチル-L-グルタミン酸の共重合体(Sidman,ら,Biopolymers 22:547(1983)),分解できないエチレン-ビニルアセテート(ethylene-vinyl acetate)(Langer,ら,出所は前記と同じ)、または分解可能な乳酸-ヒドロキシ酢酸共重合体、例えばLupron DepotTM(乳酸-ヒドロキシ酢酸共重合体及びリュープロレリン(leuprolide)酢酸エステルからなる注射可能なミクロスフェア体)、及びポリD-(-)-3-ヒドロキシ酪酸を含む。重合体、例えばエチレン-酢酸エチル及び乳酸-ヒドロキシ酢酸は、持続的に分子を100日間以上放出することができ、しかしいくつかの水性ゲルがタンパク質を放出する時間は比較的短い。関連のメカニズムに応じてタンパク質を安定化させる合理的なストラテジーにより設計できる。例えば、凝集のメカニズムが硫化ジスルフィド結合の交換によって分子間S-S結合を形成するであれば、メルカプト基残基を修飾することにより、酸性溶液中から凍結乾燥させ、湿度を制御し、適切な添加剤を用いて、及び特定の重合体基質組成物を開発することで安定化を実現できる。
【0075】
投与及び使用量
異なる方式、例えば静脈内、腹膜内、皮下、頭蓋骨内、髄腔内、動脈内(例えば頸動脈)、筋肉内により本発明の薬物組成物の投与を実現できる。
【0076】
胃腸外での投与に用いられる製造物は無菌水性または非水性溶液、懸濁液及び乳剤を含む。非水性溶媒の例はプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、例えばオリーブオイルのような植物油、及び注射可能な有機エステル、例えばオレイン酸エチルである。水性担体は水、アルコール性/水性溶液、乳剤または懸濁液を含み、食塩水及び緩衝媒介を含む。胃腸外媒介物は塩化ナトリウム溶液、リンガ―デキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、または固定油を含む。静脈内媒介物は液体及び栄養補充物、電気分解補充物などを含む。されには防腐剤及びその他の添加剤、例えば抗微生物製剤、抗酸化剤、キレート剤、不活性ガスなども存在してもよい。
【0077】
医療関係者は各種臨床的要素により用量案を決めることができる。例えば医学分野で公知のように、任意の患者の用量は複数の要素によって決められ、これらの要素は患者の体型、体表面積、年齢、投与される具体的な化合物、性別、投与回数及び経路、全体の健康度、及び同時に投与するその他の薬物を含む。本発明が含有するプラスミノーゲンの薬物組成物の用量の範囲は例えば被験者体重に対して毎日約0.0001~2000mg/kgであり、または約0.001~500mg/kg(例えば0.02mg/kg,0.25mg/kg,0.5mg/kg,0.75mg/kg,10mg/kg,50mg/kgなど)とすることができる。例えば、用量は1mg/kg体重または50mg/kg体重または1-50mg/kgの範囲とすることができ、または少なくとも1mg/kgである。この例示性の範囲より高いまたは低い用量もカバーされ、特に前記の要素を考慮した場合である。前記範囲中の中間用量も本発明の範囲内に含まれるものである。被験者は毎日、隔日、毎週または経験分析によって決められた任意のスケジュール表に従ってに従ってこのような用量を投与できる。例示的な用量のスケジュール表は連続数日1-10mg/kg投与することである。本発明の薬物の投与過程において治療効果及び安全性をリアルタイムに評価する必要がある。
【0078】
製品または薬物キット
本発明の一つの実施形態は製品または薬物キットに係るものであり、糖尿病に起因する心血管疾患および関連疾患を治療するための本発明のプラスミノーゲンまたはプラスミンを含有する。前記製品は好ましくは一つの容器、ラベルまたはプロトコルを含む。適切な容器はボトル、バイアル、注射器などである。容器は各種材料例えばガラスまたはプラスチックから作られることができる。前記容器は組成物を含有し、前記組成物は本発明の疾患または症状を有効に治療し且つ無菌の入口を有する(例えば前記容器は静脈輸液用パックまたはバイアルであり、皮下注射針によって貫通される栓を含む)。前記組成物中の少なくとも一種類の活性化剤がプラスミノーゲン/プラスミンである。前記容器上にあるまたは添付されているラベルは前記組成物を本発明の糖尿病に起因する心血管疾患および関連疾患の治療に用いられると説明するものである。前記製品はさらに薬用緩衝液を含有する第二容器を含み、前記薬用緩衝液は例えばリン酸塩緩衝の食塩水、リンガー溶液及びグルコース溶液を含む。さらには商業及び使用者の角度から見ると必要とされるその他の物質、即ちその他の緩衝液、希釈剤、濾過物、針及び注射器を含むことができる。また、前記製品は使用説明を有するプロトコルを含み、これは例えば前記組成物の使用者にプラスミノーゲン組成物及び疾患の治療に伴うその他の薬物を患者に投与することを指示するものである。
【実施例
【0079】
[実施例1]
実施例1は、プラスミノーゲンが筋萎縮性側索硬化症のモデルマウスの寿命と生存期間中央値を延長ことに関するものである。
本実施例に使用されているヒトプラスミノーゲンはドナー血漿に由来し、文献[1-3]に記載されている方法に基づいてプロセスを最適化し、精製して得られた。ヒトプラスミノーゲン単体の純度は95%を上回った。以下の実施例でも同じである。
トランスジェニック突然変異SOD1は、孤発性および家族性筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis、ALS)の臨床で観察される組織病理学的特徴を持っている。本願のALSモデルマウスはB6.Cg-Tg(SOD1-G93A)1Gur/Jトランスジェニックマウス(略してSOD1-G93A)であり、Jackson研究所から購入し、SPFレベルの環境で動物関連の実験を行った。SOD1-G93Aモデルマウスでは、約100日目に後肢振戦が現れ、その後急速に悪化し、50%生存率は157.1±9.3日であった[4]。現在、ALSのメカニズムの研究や新薬開発の前臨床試験研究に広く利用されている。
16週齢のオスSOD1-G93Aマウス9匹を取り、体重によってマウスをランダムに2群に分け、溶媒対照群で5匹、プラスミノーゲン投与群で4匹とした。溶媒対照群マウスに0.1ml/日で溶媒(PBS、pH7.4)を尾静脈注射により投与し、プラスミノーゲン投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、マウスの生存を毎日観察して記録した。
その結果、プラスミノーゲン投与群のマウスの平均寿命は164±8.6日であり、溶媒対照群のマウスの平均寿命は153±0日であり、溶媒対照群と比べて、プラスミノーゲン投与群の寿命は約11日長かった(図1A)。プラスミノーゲン投与群のマウスの生存期間の中央値は53±9日であり、溶媒対照群の生存期間の中央値は40±0日であり、溶媒対照群と比べて、プラスミノーゲン投与群の生存期間の中央値は約13日長く、約30%延長された(図1B)。この結果は、プラスミノーゲンがALSマウスの寿命と生存期間の中央値を延長できることを示している。
【0080】
[実施例2]
実施例2は、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの神経筋機能を改善することに関するものである。
16週齢のオスSOD1-G93Aマウス9匹を取り、体重によってマウスをランダムに2群に分け、溶媒対照群で5匹、プラスミノーゲン投与群で4匹とした。溶媒対照群マウスに0.1ml/日で溶媒(PBS、pH7.4)を尾静脈注射により投与し、プラスミノーゲン投与群マウスに1mg/0.1ml/匹/日でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、34日間連続して投与した。投与し始めた日を0日目とし、投与の6、8、12、16、21、23、27、30、34日目に次のようにサスペンショングリップ強度テストを行い、ALSモデルマウスの神経筋機能に対するプラスミノーゲンの効果を考察し、次のようにALSマウスの神経行動を統計分析した。
サスペンショングリップ強度テスト
サスペンション実験は、一般的にマウスの運動能力(筋力)を評価するために使用される。マウスケージの金属製のふたの上に1匹のマウスを置き、ふたを軽く振ってマウスにふたをつかませてから、ふたをひっくり返す。そして、マウスの後肢がふたを放すまでの潜伏時間を記録する[5]。各マウスに対して3回の実験を行ない、1回の実験の最長期間は90秒であり、各マウスの最長の潜伏時間を統計分析に使用する。
その結果、2つの群のマウスのサスペンション潜伏時間は投与期間中に減少したが、プラスミノーゲン投与群のマウスのサスペンション潜伏時間は常に溶媒対照群のマウスよりも長かく、しかも投与の6、21、および23日目に、溶媒群と比べて、プラスミノーゲン投与群のサスペンション潜伏時間は統計学的に有意または非常に有意であり、P値はそれぞれ0.03、0.02、および0.008であった(図2)。これは、プラスミノーゲンがALSマウスの筋力低下を遅らせることができることを示している。
ALSジスキネジア特性スコア、0点:運動機能障害の兆候なし。1点:尾懸垂中の後肢の著しい震え;2点:歩行異常、75cmの歩行中につま先が少なくとも2回カールするか、または足がケージの底に沿って引きずられる。3点:後肢が少なくとも1日間引きずられ、硬くて弱く(硬い麻痺)、脚を前方に動かすことができない。4点:マウスは仰臥位に置かれ、30秒以内に腹臥位に戻ることができない(死にかけている状態と判断される)[5]
その結果、プラスミノーゲン投与群のマウスの2点神経行動が現れた時点は、溶媒群より有意に遅く、統計学的差は有意であった(*はP<0.05を表す)(図3)。
上記の結果は、プラスミノーゲンがALS疾患の筋力低下を大幅に遅らせ、ALS疾患の進行を遅らせることができることを示している。
【0081】
実施例3は、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの体重減少を遅らせることに関するものである。
週齢の近い野生型マウス20匹、オスSOD1-G93Aマウス29匹、およびメスSOD1-G93Aマウス31匹を取り、野生型マウスをブランク対照群とし(何ら投与治療はない)、SOD1-G93Aマウスは14週目に後肢振戦が現れた時点から観察記録し、各マウスの発症時刻を記録し、発症から14日後に投与を始めた。発症状況によってすべてのマウスをランダムに溶媒対照群とプラスミノーゲン投与群に分け、溶媒対照群マウスが32匹であり、毎日0.1ml/匹で溶媒(10mMクエン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4)を尾静脈注射により投与し、プラスミノーゲン投与群で28匹、毎日1mg/0.1ml/匹でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、SPF環境下で35日間連続して投与した。投与し始めた日を0日目とし、投与期間中3日ごとに体重を1回測定し、ALSモデルマウスの体重減少に対するプラスミノーゲンの影響を調べた。
ALSは通常、大幅な体重減少が伴われ、ALSの主な特徴の1つである[5]。毎回体重測定の結果は、0日目の体重で標準化され、つまり、毎回体重測定値/0日目の体重*100で処理された。
その結果、投与中、ブランク対照群のマウスの体重はあまり変動することなく徐々に上昇する傾向があり、溶媒対照群のマウスの体重は徐々に減少し、プラスミノーゲン投与群のマウスの体重は、最初の25日間で大きく変動していたが、ブランク対照群のマウスの体重に近いかわずかに多く、25日後に体重は徐々に減少していたが、溶媒対照群のマウスの体重よりも常に多く、溶媒対照群と比較して、P値は0.001を下回るか0.001に近かった(図4)。これは、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの体重減少率を有意に緩和し、ALSの悪化を遅らせることができることを示している。
【0082】
[実施例4]
実施例4は、プラスミノーゲンがALSモデルマウス脊髄の前角の液胞面積を減少させることに関するものである。
週齢の近い野生型オスマウス5匹、およびオスSOD1-G93Aマウス9匹を取り、野生型マウスをブランク対照群とし、SOD1-G93Aマウスは14週目に後肢振戦が現れた時点から観察記録し、各マウスの発症時刻を記録し、発症から14日後に投与を始めた。発症状況によってすべてのマウスをランダムに溶媒対照群とプラスミノーゲン投与群に分け、溶媒対照群マウスが5匹であり、毎日0.1ml/匹で溶媒(10mMクエン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4)を尾静脈注射により投与し、プラスミノーゲン投与群で4匹、毎日1mg/0.1ml/匹でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、SPF環境下で連続して投与した。マウスが死にかけていたときに取材し、最長の投与は61日間であった。脊髄を採取し、ホルマリン固定液で固定した。固定後の組織をアルコールで段階的に脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ、さらに浸水して水で1回洗浄し、ヘマトキシリンで10分間染色させた後、流水で5分間流した。1%塩酸エタノールで10秒分別させ、流水で10分間流し、0.2%エオシンで10秒染色させ、さらに段階的に脱水させて透徹化して封入させた。切片を光学顕微鏡下で400倍にて観察した。
脊髄の前角における運動ニューロンの変性と死亡は、ALSの主な病理学的特徴の1つである[6]。その結果、ブランク対照群(図5A)マウスの脊髄の前角に一定レベルの液胞面積が示され、溶媒群(図5B)マウスの脊髄の前角の液胞面積がブランク対照群マウスのそれよりも有意に大きく(P<0.001)、投与群(図5C)のマウスの脊髄前角の液胞面積は、溶媒群のマウスよりも有意に低く、しかも統計学的差は非常に有意である(図5D)。これは、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの脊髄の前角の空胞面積を減少させ、脊髄の前角の運動ニューロンの死を減少させることができることを示唆している。
【0083】
[実施例5]
実施例5は、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの脊髄の前角におけるアセチルコリントランスフェラーゼの発現を促進することに関するものである。
週齢の近い野生型オスマウス5匹、およびオスSOD1-G93Aマウス9匹を取り、野生型マウスをブランク対照群とし、SOD1-G93Aマウスは14週目に後肢振戦が現れた時点から観察記録し、各マウスの発症時刻を記録し、発症から14日後に投与を始めた。発症状況によってすべてのマウスをランダムに溶媒対照群とプラスミノーゲン投与群に分け、溶媒対照群マウスが5匹であり、毎日0.1ml/匹で溶媒(10mMクエン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4)を尾静脈注射により投与し、プラスミノーゲン投与群で4匹、毎日1mg/0.1ml/匹でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、SPF環境下で連続して投与した。マウスが死にかけていたときに取材し、最長の投与は61日間であった。脊髄を採取し、ホルマリン固定液で固定した。固定後の組織をアルコールで段階的に脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織の切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ、さらに浸水して水で1回洗浄した。PAPペンで組織を丸で囲み、3%過酸化水素水で15分間インキュベーションし、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。5%の健常ヒツジ血清液(Vector laboratories,Inc.,USA)で30分間ブロッキングした;時間になった後、ヒツジ血清液を廃棄し、ウサギ抗アセチルコリントランスフェラーゼ抗体(ab178850、Abcam)を滴加して4℃で一晩インキュベーションした後、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。ヤギ抗ウサギIgG(HRP)抗体(Abcam)の二次抗体を室温で1時間インキュベーションし、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。DABキット(Vector laboratories,Inc.,USA)で呈色させ、水で3回洗浄した後にヘマトキシリンで30秒対比染色して、流水で5分間流した。アルコールで段階的に脱水させてキシレンで透徹にし、中性ゴムに封入させ、切片を光学顕微鏡下で400倍にて観察した。
アセチルコリントランスフェラーゼ(chAT)は、コリン作動性ニューロンのマーカー酵素であり、神経細胞で合成される。研究によると、ALS動物モデルの動物脊髄の運動ニューロンおよび患者のchATレベルが低下していることが示されている[7,8]
その結果、ブランク対照群(図6A)マウスの脊髄前角で一定量のchATが発現し、溶媒群(図6B)マウスのchAT発現レベルはブランク対照群マウスよりも有意に低く、投与群(図6C)マウスの脊髄前角のchAT発現は溶媒群マウスよりも有意に高く、統計学的差は有意であった(P<0.05)(図6D)。これは、TP01HN106がSOD1-G93Aマウスの脊髄前角におけるchATの合成と発現を促進し、コリン作動性ニューロン機能の回復を促進できることを示している。
【0084】
[実施例6]
実施例6は、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの脊髄の前角におけるシナプトフィジンの発現を促進することに関するものである。
週齢の近い野生型オスマウス5匹、およびオスSOD1-G93Aマウス9匹を取り、野生型マウスをブランク対照群とし、SOD1-G93Aマウスは14週目に後肢振戦が現れた時点から観察記録し、各マウスの発症時刻を記録し、発症から14日後に投与を始めた。発症状況によってすべてのマウスをランダムに溶媒対照群とプラスミノーゲン投与群に分け、溶媒対照群マウスが5匹であり、毎日0.1ml/匹で溶媒(10mMクエン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4)を尾静脈注射により投与し、プラスミノーゲン投与群で4匹、毎日1mg/0.1ml/匹でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、SPF環境下で連続して投与した。マウスが死にかけていたときに取材し、最長の投与は61日間であった。脊髄を採取し、ホルマリン固定液で固定した。固定後の組織をアルコールで段階的に脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織の切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ、さらに浸水して水で1回洗浄した。PAPペンで組織を丸で囲み、3%過酸化水素水で15分間インキュベーションし、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。5%の健常ヒツジ血清液(Vector laboratories,Inc.,USA)で30分間ブロッキングした;時間になった後、ヒツジ血清液を廃棄し、ウサギ抗シナプシン抗体(17785-1-AP、Proteintech)をを滴加して4℃で一晩インキュベーションした後、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。ヤギ抗ウサギIgG(HRP)抗体(Abcam)の二次抗体を室温で1時間インキュベーションし、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。DABキット(Vector laboratories,Inc.,USA)で呈色させ、水で3回洗浄した後にヘマトキシリンで30秒対比染色して、流水で5分間流した。アルコールで段階的に脱水させてキシレンで透徹にし、中性ゴムに封入させ、切片を光学顕微鏡下で400倍にて観察した。
シナプトフィジン(synaptophysin)は、軸索の成長とシナプス形成のマーカーとして、シナプス前膜上のリン酸化タンパク質であり、シナプスの柔軟性と密接に関連している。ALSモデルマウスは、臨床症状が現れる前に、明らかなシナプス変性と運動ニューロン細胞体の喪失を示す[9]
その結果、ブランク対照群(図7A)マウスの脊髄前角で一定量のシナプトフィジンが発現し、溶媒群(図7B)マウスのシナプトフィジンの発現レベルはブランク対照群マウスよりも有意に低く、投与群(図7C)マウスの脊髄前角のシナプトフィジン発現は溶媒群マウスよりも有意に高く、統計学的差は有意であった(P<0.05)(図7D)。これは、プラスミノーゲンがモデルマウスの脊髄前角におけるシナプトフィジンの発現を促進し、シナプス損傷の修復を促進できることを示している。
【0085】
[実施例7]
実施例7は、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの脊髄の前角の炎症の修復を促進することに関するものである。
週齢の近い野生型オスマウス5匹、およびオスSOD1-G93Aマウス9匹を取り、野生型マウスをブランク対照群とし、SOD1-G93Aマウスは14週目に後肢振戦が現れた時点から観察記録し、各マウスの発症時刻を記録し、発症から14日後に投与を始めた。発症状況によってすべてのマウスをランダムに溶媒対照群とプラスミノーゲン投与群に分け、溶媒対照群マウスが5匹であり、毎日0.1ml/匹で溶媒(10mMクエン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4)を尾静脈注射により投与し、プラスミノーゲン投与群で4匹、毎日1mg/0.1ml/匹でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、SPF環境下で連続して投与した。マウスが死にかけていたときに取材し、最長の投与は61日間であった。脊髄を採取し、ホルマリン固定液で固定した。固定後の組織をアルコールで段階的に脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織の切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ、さらに浸水して水で1回洗浄した。PAPペンで組織を丸で囲み、3%過酸化水素水で15分間インキュベーションし、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。5%の健常ヒツジ血清液(Vector laboratories,Inc.,USA)で30分間ブロッキングした;時間になった後、ヒツジ血清液を廃棄し、ウサギ抗Iba-1(ab178847、Abcam)を滴加して4℃で一晩インキュベーションした後、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。ヤギ抗ウサギIgG(HRP)抗体(Abcam)の二次抗体を室温で1時間インキュベーションし、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。DABキット(Vector laboratories,Inc.,USA)で呈色させ、水で3回洗浄した後にヘマトキシリンで30秒対比染色して、流水で5分間流した。アルコールで段階的に脱水させてキシレンで透徹にし、中性ゴムに封入させ、切片を光学顕微鏡下で400倍にて観察した。
イオン化カルシウム結合アダプター分子-1(Ionized calcium binding adaptor molecule-1、Iba-1)は、中枢神経系のミクログリアの表面マーカーである。中枢神経系の免疫細胞として、ミクログリアは、その病変または損傷した時に神経障害をすばやく感知して活性化される。活性化されたミクログリアは、数と形態に大きな変化があり、損傷部位に移動して、死細胞の食作用や炎症性サイトカインの産生の増加など、さまざまな機能を発揮する[10]
その結果、ブランク対照群(図8A)マウスの脊髄前角で一定レベルのIba-1が発現し、投与群(図8C)マウスの脊髄前角におけるIba-1の発現レベルは溶媒群(図8B)とブランク対照群マウスよりも有意に高く、統計学的差は有意であった(P<0.05または0.01)(図8D)。これは、プラスミノーゲンがモデルマウスの脊髄前角の炎症の修復を促進できることを示している。
【0086】
[実施例8]
実施例8は、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの筋萎縮を改善することに関するものである。
週齢の近い野生型オスマウス5匹、およびオスSOD1-G93Aマウス9匹を取り、野生型マウスをブランク対照群とし、SOD1-G93Aマウスは14週目に後肢振戦が現れた時点から観察記録し、各マウスの発症時刻を記録し、発症から14日後に投与を始めた。発症状況によってすべてのマウスをランダムに溶媒対照群とプラスミノーゲン投与群に分け、溶媒対照群マウスが5匹であり、毎日0.1ml/匹で溶媒(10mMクエン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4)を尾静脈注射により投与し、プラスミノーゲン投与群で4匹、毎日1mg/0.1ml/匹でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、SPF環境下で連続して投与した。マウスが死にかけていたときに取材し、最長の投与は61日間であった。腓腹筋を採取し、ホルマリン固定液で固定した。固定後の組織をアルコールで段階的に脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ、さらに浸水して水で1回洗浄し、ヘマトキシリンで10分間染色させた後、流水で5分間流した。1%塩酸エタノールで10秒分別させ、流水で10分間流し、0.2%エオシンで10秒染色させ、さらに段階的に脱水させて透徹化して封入させた。切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
その結果、ブランク対照群(図9A)マウスの腓腹筋線維は構造が完全であり、形状とサイズが比較的に均一であるに対し、溶媒群(図9B)の腓腹筋線維は、局所的な炎症性細胞浸潤(赤い矢印)および筋線維の真円度の変化を伴う重度の萎縮を示す。投与群(図9C)の筋線維萎縮は、溶媒群よりも重症度は低いが、炎症性細胞浸潤もあった。これは、プラスミノーゲンがモデルマウスの筋萎縮を改善できることを示している。
【0087】
[実施例9]
実施例9は、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの筋萎縮を改善することに関するものである。
週齢の近い野生型オスマウス5匹、およびオスSOD1-G93Aマウス9匹を取り、野生型マウスをブランク対照群とし、SOD1-G93Aマウスは14週目に後肢振戦が現れた時点から観察記録し、各マウスの発症時刻を記録し、発症から14日後に投与を始めた。発症状況によってすべてのマウスをランダムに溶媒対照群とプラスミノーゲン投与群に分け、溶媒対照群マウスが5匹であり、毎日0.1ml/匹で溶媒(10mMクエン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4)を尾静脈注射により投与し、プラスミノーゲン投与群で4匹、毎日1mg/0.1ml/匹でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、SPF環境下で連続して投与した。マウスが死にかけていたときに取材し、最長の投与は61日間であった。臀筋を採取し、ホルマリン固定液で固定した。固定後の組織をアルコールで段階的に脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ、さらに浸水して水で1回洗浄し、ヘマトキシリンで10分間染色させた後、流水で5分間流した。1%塩酸エタノールで10秒分別させ、流水で10分間流し、0.2%エオシンで10秒染色させ、さらに段階的に脱水させて透徹化して封入させた。切片を光学顕微鏡下で200倍にて観察した。
その結果、ブランク対照群(図10A)マウスの筋線維は構造が比較的に完全であり、形状とサイズが比較的に均一である。溶媒群(図10B)マウスの臀筋の筋線維は、真円度の変化、異なるサイズ、重度の萎縮、および炎症性細胞の浸潤を示しす。投与群(図10C)のマウスの臀筋線維の構造及び形状は、溶媒群のそれと比較してある程度回復している。これは、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの筋萎縮を改善できることを示している。
【0088】
[実施例10]
実施例10は、プラスミノーゲンがALSモデルマウスの脊髄の前角におけるSMNタンパク質の発現を促進することに関するものである。
週齢の近い野生型オスマウス5匹、およびオスSOD1-G93Aマウス9匹を取り、SOD1-G93Aマウスは14週目に後肢振戦が現れた時点から観察記録し、各マウスの発症時刻を記録し、発症から14日後に投与を始めた。発症状況によってすべてのマウスをランダムに溶媒対照群とプラスミノーゲン投与群に分け、溶媒対照群マウスが5匹であり、毎日0.1ml/匹で溶媒(10mMクエン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4)を尾静脈注射により投与し、プラスミノーゲン投与群で4匹、毎日1mg/0.1ml/匹でプラスミノーゲンを尾静脈注射により投与し、SPF環境下で連続して投与した。マウスが死にかけていたときに取材し、最長の投与は61日間であった。脊髄を採取し、ホルマリン固定液で固定した。固定後の組織をアルコールで段階的に脱水させ、キシレンで透徹化処理した後にパラフィンで包埋した。組織の切片の厚みは3μmであり、切片を脱パラフィンさせ、さらに浸水して水で1回洗浄した。PAPペンで組織を丸で囲み、3%過酸化水素水で15分間インキュベーションし、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。5%の健常ヒツジ血清液(Vector laboratories,Inc.,USA)で30分間ブロッキングした;時間になった後、ヒツジ血清液を廃棄し、ウサギ抗SMN抗体(Abcam)を滴加して4℃で一晩インキュベーションした後、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。ヤギ抗ウサギIgG(HRP)抗体(Abcam)の二次抗体を室温で1時間インキュベーションし、0.01M PBSで2回洗い、毎回5分間であった。DABキット(Vector laboratories,Inc.,USA)で呈色させ、水で3回洗浄した後にヘマトキシリンで30秒対比染色して、流水で5分間流した。アルコールで段階的に脱水させてキシレンで透徹にし、中性ゴムに封入させ、切片を光学顕微鏡下で400倍にて観察した。
生存運動ニューロン(Survival Motor Neuron、SMN)タンパク質に関する研究は、SOD1-ALSモデルの生存運動ニューロン(Survival Motor Neuron、SMN)タンパク質のレベルが低下し、SMNタンパク質の増加が疾患の表現型を改善できることを示している[11]
その結果、投与群(図11B)マウスの脊髄前角におけるSMNタンパク質の発現レベルは、溶媒群(図11A)よりも有意に高い。これは、プラスミノーゲンがモデルマウスの脊髄前角におけるSMNタンパク質の発現を促進できることを示している。

参考文献:
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図1
図2
図3
図4
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図6
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図8
図9
図10
図11
【配列表】
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