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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】無線受信装置
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/38 20060101AFI20240318BHJP
   H04B 7/005 20060101ALI20240318BHJP
   H03L 7/107 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H04L27/38 100
H04B7/005
H03L7/107
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020005496
(22)【出願日】2020-01-16
(65)【公開番号】P2021114664
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141678
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】加藤 賢晃
(72)【発明者】
【氏名】田中 康英
【審査官】大野 友輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-217054(JP,A)
【文献】特開2019-220942(JP,A)
【文献】特開2007-124474(JP,A)
【文献】特開2011-101177(JP,A)
【文献】特表2002-515205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/38
H04B 7/005
H03L 7/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信した無線フレームの電力を監視して前記電力の変動の有無を判断する電力低下検出部と、
前記無線フレームの位相状態を監視して位相スリップの有無を判断する位相スリップ検出部と、を有するとともに、
前記無線フレームの位相を回転する位相回転器へと位相回転制御信号を出力する数値制御発振器および前記数値制御発振器へと位相誤差信号を出力するループフィルタを含むキャリア再生部と、
前記キャリア再生部へと供給するパラメータを切替え可能なスイッチと、を有し、
前記電力低下検出部が前記無線フレームの前記電力の変動を検出した場合、または、前記位相スリップ検出部が前記無線フレームの前記位相スリップを検出した場合に、
前記スイッチが前記キャリア再生部へと供給する前記パラメータを切替える、
ことを特徴とする無線受信装置。
【請求項2】
前記パラメータが、前記ループフィルタへと供給される、複素平面上における位相誤差検出範囲が所定の範囲に設定されて検出された位相誤差である、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線受信装置。
【請求項3】
前記パラメータが、前記ループフィルタへと供給される、PLLのループ帯域幅を示すループフィルタ係数である、
ことを特徴とする請求項1に記載の無線受信装置。
【請求項4】
前記無線フレームの変調方式が直角位相振幅変調である、
ことを特徴とする請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の無線受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線受信装置に関し、特に、無線通信装置における受信に纏わる機序としての無線受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信装置に関する技術として、例えば、任意の多値変調方式で変調された主信号とこの主信号の多値変調の相数と同じかまたはそれより少ない相数の変調方式で変調された補助信号を時分割多重してなり、各フレーム先頭の複数の連続シンボルに補助信号を配置し、それに続いて主信号を配置し、さらに主信号中に一定間隔で分散して補助信号を配置してなるデジタル変調波を入力し、このデジタル変調波を再生キャリア信号を用いて周波数変換することにより生成された周波数変換信号の位相誤差を検出し、位相誤差が減少するように再生キャリアの周波数及び位相を制御することによりキャリア再生を行うキャリア再生回路において、デジタル変調波のフレーム先頭を検出するフレーム検出手段と、この手段で検出されたフレーム検出タイミングに基づいてフレーム先頭の複数の連続シンボルの補助信号から再生キャリアの第1の位相誤差を求める第1の位相誤差検出手段と、フレーム検出手段で検出されたフレーム検出タイミングに基づいて主信号中に分散配置された補助信号から再生キャリアの第2の位相誤差を求める第2の位相誤差検出手段とを具備し、第1の位相誤差検出手段で求めた第1の位相誤差により再生キャリアの周波数引き込みを行い、第2の位相誤差検出手段で求めた第2の位相誤差により再生キャリアの位相引き込みを行う、ものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3926945号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、無線通信装置では、機器の電源供給の変動や振動といった原因で送受信に関係するアンプ系(例えば、プリアンプ、パワーアンプ)が瞬間的にレベル低下を起こしたり、機器の振動によって周波数変換のためのキャリア位相/ローカル位相が瞬間的にスリップ(言い換えると、回転)したりすることがある。しかしながら、従来の無線通信装置では、キャリア再生方式については起動時に安定した初期引き込みを行うことを目的としており、機器の瞬間的な異常に対して安定動作を保証するようにはしていない。このため、従来の無線通信装置では、前記のような、送受信に関係するアンプ系が瞬間的にレベル低下を起こしたり、周波数変換のためのキャリア位相/ローカル位相が瞬間的にスリップしたりすることには対応できない、という問題が発生する。
【0005】
そこで本発明は、送受信に関係するアンプ系のレベルの瞬時変動やキャリア位相/ローカル位相のスリップの検出結果に基づいてキャリア再生のループの状態を制御してキャリア再生のループを安定して動作させることが可能な無線受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、受信した無線フレームの電力を監視して前記電力の変動の有無を判断する電力低下検出部と、前記無線フレームの位相状態を監視して位相スリップの有無を判断する位相スリップ検出部と、を有するとともに、前記無線フレームの位相を回転する位相回転器へと位相回転制御信号を出力する数値制御発振器および前記数値制御発振器へと位相誤差信号を出力するループフィルタを含むキャリア再生部と、前記キャリア再生部へと供給するパラメータを切替え可能なスイッチと、を有し、前記電力低下検出部が前記無線フレームの前記電力の変動を検出した場合、または、前記位相スリップ検出部が前記無線フレームの前記位相スリップを検出した場合に、前記スイッチが前記キャリア再生部へと供給する前記パラメータを切替える、ことを特徴とする無線受信装置である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の無線受信装置において、前記パラメータが、前記ループフィルタへと供給される、複素平面上における位相誤差検出範囲が所定の範囲に設定されて検出された位相誤差である、ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の無線受信装置において、前記パラメータが、前記ループフィルタへと供給される、PLLのループ帯域幅を示すループフィルタ係数である、ことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3に記載の無線受信装置において、前記無線フレームの変調方式が直角位相振幅変調である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、無線フレームの電力の変動や位相スリップを検出した場合にキャリア再生部へと供給するパラメータを切替えるようにしているので、機器の瞬時異常によるキャリア再生の誤動作(具体的には、同期外れ)を防ぐことができ、キャリア再生部を安定的に動作させて良好な復調性能(別言すると、ビット誤り率)を実現することが可能となる。
【0011】
請求項2に記載の発明によれば、複素平面上における位相誤差検出範囲を調整することによって所定の特性を備える位相誤差をパラメータとして設定することができ、前記位相誤差をパラメータとして用いてキャリアの再生処理を制御することにより、機器の瞬時異常によるキャリア再生の誤動作(具体的には、同期外れ)を的確に防ぐことが可能となる。
【0012】
請求項3に記載の発明によれば、PLLのループ帯域幅を調整することによって所定の特性を備えるループフィルタ係数をパラメータとして設定することができ、前記ループフィルタ係数をパラメータとして用いてキャリアの再生処理を制御することにより、機器の瞬時異常によるキャリア再生の誤動作(具体的には、同期外れ)を的確に防ぐことが可能となる。
【0013】
請求項4に記載の発明によれば、直角位相振幅変調方式が用いられて行われる無線通信において上記の効果を奏することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の実施の形態における無線通信システムの概略構成を示す図である。
図2】この発明の実施の形態1に係る無線受信装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図3】受信部から出力される無線フレーム(受信信号)のコンスタレーションの例を示す図であり、無線フレーム(受信信号)の電力および位相が正常な状態を説明する図である。
図4図3のコンスタレーションについて、無線フレームの電力が低下している状態を説明する図である。
図5図3のコンスタレーションについて、無線フレームの位相がスリップしている状態を説明する図である。
図6図3のコンスタレーションについて、無線フレームの位相が安定している状態を説明する図である。
図7図2の無線受信装置の全信号点検出部の検出方法を示す概念図である。
図8図2の無線受信装置の特定範囲検出部の検出方法を示す概念図である。
図9図2の無線受信装置の動作を説明する図である。
図10】この発明の実施の形態2に係る無線受信装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図11図10の無線受信装置の動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。なお、以下では、この発明の特徴的な構成について説明し、無線通信を行う際の従来と同様の仕組みについては説明を省略する。
【0016】
図1は、この発明の実施の形態における無線通信システム100の概略構成を示す図である。図1では、無線通信システム100の概略構成を示す(図1の上側)とともに、無線通信の送受信局のそれぞれに配置される無線通信装置101の概略構成の機能ブロックを示す(図1の下側)。
【0017】
無線通信システム100を構成する無線通信の送受信局のそれぞれに、無線通信装置101およびアンテナ102が配置される(図1の上側参照)。無線通信装置101同士は、アンテナ102を介して無線回線103によって相互に接続される。
【0018】
まず、この実施の形態において無線受信装置1が適用されるベースの構成としての無線通信装置101の概略構成を説明する。
【0019】
無線通信装置101は、送信用として、変調部120および送信部130を備えるとともに、受信用として、受信部150および復調部160を備え、さらに、インターフェース部110を備える(図1の下側参照)。
【0020】
ここで、無線通信装置101は、送信用の機序と受信用の機序とを備えて送受信を行う装置であるところ、以下の説明では、送信用の機序を用いて送信に纏わる処理を行う場合の無線通信装置101のことを「送信側」と称し、受信用の機序を用いて受信に纏わる処理を行う場合の無線通信装置101のことを「受信側」と称する。
【0021】
インターフェース部110は、主として、データ回線終端装置111(データ通信装置やデータ回線装置と呼ばれる機器を含む)を備える。インターフェース部110は、通信対象の伝送データの入力を受け、前記伝送データを、データ回線終端装置111を介して、変調部120へと出力する。
【0022】
変調部120は、インターフェース部110から出力される伝送データの入力を受け、前記伝送データにフレーム同期信号を挿入して無線フレーム(送信信号)を生成し、さらに、前記無線フレーム(送信信号)に所定の周波数の搬送波信号を重畳させてデジタル変調して出力する。変調部120は、前記無線フレームに、例えば400MHz程度の周波数の搬送波信号を重畳させてデジタル変調を行う。なお、無線通信システム100において用いられる変調方式は、特定の方式に限定されるものではないものの、例えば直角位相振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation の略)が用いられる。
【0023】
送信部130は、変調部120から出力されるデジタル変調された無線フレーム(送信信号)の入力を受け、前記デジタル変調された無線フレーム(送信信号)を、D/A変換器でデジタル-アナログ変換した上で、局部発振器および混合器によって前記所定の周波数(例えば、400MHz程度)よりも高周波の信号(送信波信号)に変換する。送信部130は、前記デジタル変調された無線フレームを、周波数が例えば10GHz程度の信号に変換する。
【0024】
送信部130は、また、前記周波数変換した無線フレーム(送信波信号)を、所定の周波数帯域の信号のみを通過させる送信フィルタを通過させるとともにパワーアンプで増幅した上で出力する。
【0025】
そして、変調部120においてデジタル変調されるとともに送信部130において周波数変換された無線フレーム(送信波信号)は、送信部130から分波器140を介してアンテナ102へと導かれ、アンテナ102から無線回線103を介して他方の(言い換えると、この通信では受信側になる)無線通信装置101のアンテナ102へと、電波として送信される。
【0026】
また、他方の(言い換えると、この通信では送信側になる)無線通信装置101のアンテナ102から無線回線103を介して無線フレームが当該の(言い換えると、この通信では受信側になる)無線通信装置101のアンテナ102へと電波として送信されると、アンテナ102は、受信した無線フレームを電気信号(受信波信号)へと変換して出力する。
【0027】
アンテナ102から出力される、電気信号に変換された無線フレーム(受信波信号)は、分波器140を介して受信部150へと導かれる。
【0028】
受信部150は、無線フレーム(受信波信号)の入力を受け、前記無線フレーム(受信波信号)を、所定の周波数帯域の信号のみを通過させる受信フィルタを通過させるとともにプリアンプで増幅した上で、局部発振器および混合器によって前記高周波(例えば、10GHz程度)よりも低い周波数(例えば、400MHz程度)の信号に変換する。
【0029】
受信部150は、さらに、前記周波数変換した信号を、パワーアンプで増幅するとともにA/D変換器でアナログ-デジタル変換して、デジタル信号(無線フレーム(受信信号))を出力する。
【0030】
なお、受信部150では無線フレーム(受信波信号)に対して直交検波処理が施されて位相が相互に直交する同相成分(Ich)のベースバンド信号と直交成分(Qch)のベースバンド信号とが生成されるが、以降の説明では同相成分と直交成分との各々別々に着目する必要がある場合を除いて同相成分と直交成分とを特に区別することなくどちらにも共通する内容として説明し、また、図面では同相成分の信号と直交成分の信号とを1つの信号線で表す。
【0031】
復調部160は、受信部150から出力される無線フレーム(受信信号)の入力を受け、前記無線フレーム(受信信号)を復調するとともに、前記復調した無線フレーム(受信信号)に挿入されているフレーム同期信号に基づいて無線フレーム(受信信号)から伝送データを取り出し、取り出した伝送データをインターフェース部110へと出力する。
【0032】
上記の無線通信システム100では、送信部130や受信部150の局部発振器において、機器の振動により、周波数変換のためのキャリア位相/ローカル位相の瞬間的なスリップ(言い換えると、回転)が発生するという問題が生じる。上記の無線通信システム100では、また、送信部130のパワーアンプならびに受信部150のプリアンプやパワーアンプにおいて、機器の電源供給の変動(「瞬断」とも呼ばれる)や振動により、瞬間的なレベルの低下が発生してコンスタレーションが収縮するという問題が生じる。
【0033】
そこで、この発明に係る無線受信装置1は、電力の瞬時変動やキャリア位相/ローカル位相のスリップ(言い換えると、回転)を検出するとともに前記検出の結果に基づいてキャリア再生に纏わる動作を制御して機器の振動や電力の瞬時変動によるキャリア再生の誤動作(具体的には、同期外れ)を防いでキャリア再生に纏わる処理を安定して行うための仕組みを備えるようにしている。
【0034】
(実施の形態1)
図2は、この発明の実施の形態1に係る無線受信装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。なお、図2は、上記で説明した無線通信システム100における無線通信装置101のような構成(図1参照)をベースとしつつ、この発明の特徴的な構成を分かり易く示すことを考慮して、無線通信装置101の構成のうちの一部を省略している。図2は、具体的には、上記で説明した無線通信装置101の受信部150とインターフェース部110との間の復調部160に相当する構成に対して適用される特徴的な構成を、特に受信に纏わる機序としての無線受信装置1として示している。
【0035】
この実施の形態に係る無線受信装置1は、受信した無線フレームの電力を監視して電力の変動の有無を判断する電力低下検出部2と、無線フレームの位相状態を監視して位相スリップの有無を判断する位相スリップ検出部3と、を有するとともに、無線フレームの位相を回転する位相回転器11へと位相回転制御信号を出力する数値制御発振器13および数値制御発振器13へと位相誤差信号を出力するループフィルタ12を含むキャリア再生部10と、キャリア再生部10へと供給するパラメータを切替え可能なキャリア再生制御スイッチ20と、を有し、電力低下検出部2が無線フレームの電力の変動を検出した場合、または、位相スリップ検出部3が無線フレームの位相スリップを検出した場合に、キャリア再生制御スイッチ20がキャリア再生部10へと供給するパラメータを切替える、ようにしている。
【0036】
この実施の形態に係る無線受信装置1は、さらに、上記パラメータが、ループフィルタへ12と供給される、複素平面上における位相誤差検出範囲が所定の範囲に設定されて検出された位相誤差である、ようにしている。
【0037】
この実施の形態に係る無線受信装置1は、デジタル無線伝送において搬送波(キャリア)の再生処理を行う回路であり、主として、電力低下検出部2と、位相スリップ検出部3と、キャリア再生部10と、キャリア再生制御スイッチ20とを含む機序として構成される。
【0038】
キャリア再生部10は、位相回転器11、ループフィルタ12、および数値制御発振器13を備える。無線受信装置1において、位相回転器11、シンボル判定部4、誤差計算部5、ループフィルタ12、および数値制御発振器13は、PLL(Phase Locked Loop の略)であるキャリア再生ループを構成する。
【0039】
位相回転器11は、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)の位相を回転する機能を備える。位相回転器11は、具体的には、前記無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される位相回転制御信号としての正弦波や余弦波に基づいて位相回転を行うことによって位相誤差補償を行い、位相誤差補償が施された信号を生成して出力する。
【0040】
ループフィルタ12は、キャリア再生制御スイッチ20から出力される位相誤差信号の高周波成分を、所定のループ帯域幅に応じて除去するフィルタである。ループフィルタ12は、具体的には、所定のループフィルタ係数が設定された上で、前記位相誤差信号の入力を受け、前記位相誤差信号のうちの不要な高周波成分を取り除き、高周波成分除去後の位相誤差信号を数値制御発振器13の周波数制御端子に対して出力する。
【0041】
数値制御発振器13(「NCO(Numerical Controlled Oscillator の略)」とも呼ばれる)は、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の位相誤差信号に基づいて、位相回転による位相誤差補償を行うための位相回転制御信号を生成する機能を備える。数値制御発振器13は、具体的には、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成し、生成した位相回転制御信号としての正弦波信号や余弦波信号を位相回転器11へと出力する。位相回転器11による位相回転は、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される。
【0042】
電力低下検出部2は、キャリア再生部10の位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)の電力(別言すると、信号強度)を監視し、機器の誤動作の原因となり得る程度の電力の変動の有無を判断する。
【0043】
電力の変動の有無の判断は、例えば、無線通信システム100において用いられる変調方式が多値の直角位相振幅変調(多値QAM;具体的には、16QAM,64QAM,256QAM)である場合には、電力が正常な状態である場合に対応する多値QAMの矩形の枠に対する、コンスタレーションの収縮の程度に基づいて行われることが考えられる(図3および図4参照)。なお、図3図6において、横軸は、複素平面のI軸であり、直交検波処理後の同相成分(Ich)に対応し、また、縦軸は、複素平面のQ軸であり、直交検波処理後の直交成分(Qch)に対応する。
【0044】
電力の変動の有無の判断は、所定の時間長さにおける電力の平均値に基づいて行われるようにしてもよく、或いは、電力が所定の値未満であるシンボルが連続する回数(具体的には例えば、2~10回程度)に基づいて行われるようにしてもよい。
【0045】
電力低下検出部2は、機器の誤動作の原因となり得る程度の電力の変動を検出したときは、電力の変動が発生したことを通知するための電力変動通知信号をキャリア再生制御スイッチ20に対して出力する。電力低下検出部2は、また、電力の変動を検出した後に、電力の変動がおさまって電力が正常に戻ったことを検出したときは、電力が正常に戻ったことを通知するための電力回復通知信号をキャリア再生制御スイッチ20に対して出力する。
【0046】
位相スリップ検出部3は、キャリア再生部10の位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)について、位相状態を監視し、位相スリップの有無を判断する。位相スリップの有無の判断は、送信側の無線通信装置101において伝送データに対して挿入された既知のパターン信号が利用されて行われる。例えば、無線通信システム100において用いられる変調方式が多値の直角位相振幅変調(多値QAM;具体的には、16QAM,64QAM,256QAM)である場合には、位相が回転することにより、位相が正常な状態であるときの多値QAMの矩形の枠の外側へとはみ出した信号点の割合の多寡に基づいて位相スリップの有無を判断することが考えられる(図3および図5参照)。位相スリップであるか否かを判断するための前記信号点の割合は、特定の値に限定されるものではなく、例えば通信機器や変調方式の特性が考慮されるなどした上で、適当な値に適宜設定される。
【0047】
なお、位相スリップの場合には、位相状態が定まらず、信号点の分布が、位相が正常な状態であるときの多値QAMの矩形の枠に対して遅れたり進んだりして揺れ動いて、前記多値QAMの矩形の枠の周囲のあらゆるエリアに信号点がはみ出す(図5参照)。一方、位相スリップがおさまって位相が安定している場合には、位相が正常な状態であるときの多値QAMの矩形の枠の外側へとはみ出した信号点の分布が、前記多値QAMの矩形の枠に対して遅れるか進むかのどちらかで一定して、前記多値QAMの矩形の枠の外側の特定のエリアに偏る(図6参照;なお、図6において、エリア1が、位相が進みの向きに回転している場合に信号点がはみ出す領域であり、エリア2が、位相が遅れの向きに回転している場合に信号点がはみ出す領域である)。そこで、多値QAMの矩形の枠の外側へとはみ出した信号点の分布状況を加味して、位相スリップの有無を判断することが考えられる。
【0048】
位相スリップ検出部3は、位相スリップを検出したときは、位相スリップが発生したことを通知するためのスリップ通知信号をキャリア再生制御スイッチ20に対して出力する。位相スリップ検出部3は、また、位相スリップを検出した後に、位相スリップがおさまって位相状態が正常に戻ったことを検出したときは、位相状態が正常に戻ったことを通知するための位相回復通知信号をキャリア再生制御スイッチ20に対して出力する。
【0049】
シンボル判定部4は、キャリア再生部10の位相回転器11から出力される、位相回転器11によって位相が回転されて位相誤差補償が施された信号について、シンボル判定を行う。
【0050】
誤差計算部5は、シンボル判定部4から出力される信号について、理想シンボルと受信シンボルとの間の位相誤差を計算する。誤差計算部5は、具体的には減算器によって構成される。
【0051】
復号部6は、シンボル判定部4から出力される信号の入力を受け、前記信号に対して誤り訂正復号処理を施し、復号処理によって生成した伝送データをインターフェース部110へと出力する。
【0052】
キャリア再生制御スイッチ20は、全信号点検出部21、ホールド出力部22、および特定範囲検出部23の各々から出力される信号のうちのいずれかを選択してループフィルタ12へと供給する機能を備える。キャリア再生制御スイッチ20は、電力低下検出部2や位相スリップ検出部3から出力される信号に従って全信号点検出部21、ホールド出力部22、および特定範囲検出部23のうちのいずれかとの接続を切り替える。
【0053】
キャリア再生制御スイッチ20は、通常時は、複素平面上の全信号点について位相誤差を検出する全信号点検出部21と接続して、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して(延いては、数値制御発振器13に対して)、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして全信号点に関する位相誤差(全信号点に関する位相誤差を電圧値で表した信号のことを「全範囲位相誤差信号」と呼ぶ)を供給する。
【0054】
この場合、ループフィルタ12は、キャリア再生制御スイッチ20を介して全信号点検出部21から供給される全範囲位相誤差信号のうちの不要な高周波成分を取り除き、高周波成分除去後の全範囲位相誤差信号を数値制御発振器13の周波数制御端子に対して出力する。そして、数値制御発振器13は、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の全範囲位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成して位相回転制御信号として出力し、位相回転器11は、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される位相回転を行う。つまり、キャリア再生部10は、全信号点検出部21から供給される全範囲位相誤差信号を用いてキャリアの再生処理を行う。
【0055】
全信号点検出部21は、図7に示すように、複素平面上の全信号点S2について、これら信号点S2の各々に対応する基準点S1を中心とする所定範囲(「位相誤差検出範囲W1」と呼ぶ)内における位相誤差を検出する機能を備える。なお、基準点は理想点とも呼ばれる。
【0056】
すなわち、複素平面上に、予め、等間隔に縦横に複数の基準点S1が配置されるとともに、各基準点S1間を等間隔に縦横に区切るように、各基準点S1を中心とする四角形の位相誤差検出範囲W1が密に設定される(図7参照)。そして、全信号点検出部21は、それぞれの位相誤差検出範囲W1において、基準点S1に対して信号点S2が進みの向きまたは遅れの向きにどの程度ずれているか、という位相誤差を算出して検出する。なお、位相誤差がない場合には、基準点S1と信号点S2とが相互に重なる。ここで、位相誤差検出範囲W1内に位置する信号点S2についてのみ検出を行い、位相誤差検出範囲W1外に位置する信号点S2については検出を行わない。
【0057】
このような全信号点検出部21では、複素平面上の全信号点S2について位相誤差を検出するため、精度高く位相誤差を検出できるものの、高多値化に伴って位相誤差検出範囲W1が狭くなると、電力の変動や位相スリップなどの機器の瞬間的な異常による不安定動作が生じ、キャリア再生の同期外れに至る可能性がある。
【0058】
キャリア再生制御スイッチ20は、また、全信号点検出部21と接続してループフィルタ12に対して(延いては、数値制御発振器13に対して)全範囲位相誤差信号を供給している状態で、電力低下検出部2から出力される電力変動通知信号が入力されると、または、位相スリップ検出部3から出力されるスリップ通知信号が入力されると、再生ホールド信号が予め記憶されているホールド出力部22との接続へと切替わって、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして再生ホールド信号を出力する。
【0059】
なお、キャリア再生制御スイッチ20は、ホールド出力部22と接続してループフィルタ12に対して再生ホールド信号を出力した後に、電力低下検出部2から出力される電力変動通知信号がさらに入力されたり、または、位相スリップ検出部3から出力されるスリップ通知信号がさらに入力されたりした場合には、ホールド出力部22と接続したまま、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして再生ホールド信号を出力する。
【0060】
再生ホールド信号は、キャリア再生部10におけるキャリア再生ループを一時的にホールドするための信号であり、ループフィルタ12における高周波成分の除去動作および出力動作の一時的な停止を指示する内容の信号であるようにしてもよく、或いは、ループフィルタ12におけるPLLのループ帯域幅を極端に狭く設定する内容の信号であるようにしてもよい。
【0061】
ループフィルタ12は、キャリア再生制御スイッチ20を介してホールド出力部22から出力される再生ホールド信号が入力されると、位相誤差信号の高周波成分の除去動作および出力動作を停止したり、或いは、PLLのループ帯域幅を極端に狭くしながら位相誤差信号の所定の周波数成分の除去処理を行ったりする。なお、ループフィルタ12による高周波成分の除去処理において用いるPLLのループ帯域幅を極端に狭く設定することにより、PLLのロック時間(即ち、同期をとるまでの時間)を長くして、キャリア再生部10におけるキャリア再生ループを擬似的にホールドさせることができる。
【0062】
キャリア再生制御スイッチ20は、さらに、ホールド出力部22と接続してループフィルタ12に対して再生ホールド信号を出力した後に、電力低下検出部2から出力される電力回復通知信号が入力されると、または、位相スリップ検出部3から出力される位相回復通知信号が入力されると、複素平面上の特定の範囲内に位置する信号点について位相誤差を検出する特定範囲検出部23との接続へと切替わって、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して(延いては、数値制御発振器13に対して)、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして特定の範囲内に位置する信号点に関する位相誤差(特定の範囲内に位置する信号点に関する位相誤差を電圧値で表した信号のことを「特定範囲位相誤差信号」と呼ぶ)を供給する。
【0063】
特定範囲検出部23は、図8に示すように、複素平面上の原点(即ち、I軸とQ軸との交点)を中心とする第1の半径C1の領域の外側に位置する信号点S2と、複素平面上の原点を中心とする第1の半径C1よりも小さい第2の半径C2の領域内に位置する信号点S2と、のうちの少なくとも一方の信号点S2について移相誤差を検出する機能を備える。
【0064】
すなわち、等間隔に縦横に複数の基準点S1が予め配置された複素平面上において、原点を中心とする第1の半径C1の領域の外側では、基準点S1およびこれに対応する信号点S2の数(例えば、図8では3点)が少ない。同様に、等間隔に縦横に複数の基準点S1が予め配置された複素平面上において、原点を中心とする第2の半径C2(尚、C2≪C1)の領域内では、基準点S1およびこれに対応する信号点S2の数(例えば、図8では3点)が少ない。換言すると、このような少ない基準点S1および信号点S2が検出対象となり、不安定動作が生じないように半径C1や半径C2の大きさが設定される。
【0065】
そして、このように基準点S1および信号点S2が少ない領域では、位相誤差検出範囲(言い換えると、検出可能範囲)が広いため、電力の変動や位相スリップなどの機器の瞬間的な異常による不安定動作が生じにくく、キャリア再生の同期外れに至る事態を防止・抑制することができる。つまり、傾斜角45度の基準線Lに対する信号点S2のずれ方向を判別することで、進みの向きに位相が回転しているのか、遅れの向きに位相が回転しているのかを確実に検出することができ、また、基準線Lからの信号点S2のずれ量・回転量を算出することで位相誤差量を確実に検出することが可能となる。一方で、少ない信号点S2についてのみ位相誤差を検出するため、位相誤差の検出精度は低い。
【0066】
なお、第1の半径C1の領域の外側に位置する信号点S2のみで位相誤差を検出するか、第2の半径C2の領域内に位置する信号点S2のみで位相誤差を検出するか、あるいは、双方の信号点S2で位相誤差を検出するかは、要求精度や予測される位相誤差量などに基づいて設定される。
【0067】
また、全信号点検出部21と特定範囲検出部23との各々による位相誤差の検出が常時並行して行われ、キャリア再生制御スイッチ20に対して全信号点検出部21から全範囲位相誤差信号が常時供給されるとともに特定範囲検出部23から特定範囲位相誤差信号が常時供給される。
【0068】
ループフィルタ12は、キャリア再生制御スイッチ20を介して特定範囲検出部23から供給される特定範囲位相誤差信号のうちの不要な高周波成分を取り除き、高周波成分除去後の特定範囲位相誤差信号を数値制御発振器13の周波数制御端子に対して出力する。そして、数値制御発振器13は、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の特定範囲位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成して位相回転制御信号として出力し、位相回転器11は、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される位相回転を行う。つまり、キャリア再生部10は、特定範囲検出部23から供給される特定範囲位相誤差信号を用いてキャリアの再生処理を行う。
【0069】
キャリア再生制御スイッチ20は、特定範囲検出部23と接続してループフィルタ12に対して(延いては、数値制御発振器13に対して)特定範囲位相誤差信号を供給している状態で、電力低下検出部2から出力される電力回復通知信号が入力されてから所定の時間が経過し(但し、電力回復通知信号が入力されていない場合を除く)、且つ、位相スリップ検出部3から出力される位相回復通知信号が入力されてから所定の時間が経過した(但し、位相回復通知信号が入力されていない場合を除く)ときに、通常時のキャリア再生として、全信号点検出部21との接続へと切替わって、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して(延いては、数値制御発振器13に対して)、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして全範囲位相誤差信号を供給する。
【0070】
なお、特定範囲検出部23から出力される特定範囲位相誤差が所定の閾値未満になったときに、キャリア再生制御スイッチ20が、全信号点検出部21との接続へと切替わって、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して(延いては、数値制御発振器13に対して)、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして全範囲位相誤差信号を供給するようにしてもよい。
【0071】
また、キャリア再生制御スイッチ20は、特定範囲検出部23と接続してループフィルタ12に対して(延いては、数値制御発振器13に対して)特定範囲位相誤差信号を供給している状態で、電力低下検出部2から出力される電力変動通知信号が入力されたり、または、位相スリップ検出部3から出力されるスリップ通知信号が入力されたりした場合には、ホールド出力部22との接続へと切替わって、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして再生ホールド信号を出力する。
【0072】
次に、このような構成の無線受信装置1の動作や作用などについて、図9も参照しながら説明する。
【0073】
まず、他の無線通信装置101(この通信において送信側の無線通信装置101)から無線回線103を介して送信された無線フレームを当該の無線通信装置101(この通信において受信側の無線通信装置101)が受信している。この際、通常時として、受信側の無線通信装置101のキャリア再生制御スイッチ20が、全信号点検出部21と接続してキャリア再生部10のループフィルタ12に対して(延いては、数値制御発振器13に対して)全範囲位相誤差信号を供給し、そして、ループフィルタ12が、キャリア再生制御スイッチ20から供給される全範囲位相誤差信号の高周波成分を取り除いて出力する。さらに、数値制御発振器13が、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の全範囲位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成して位相回転制御信号として出力し、位相回転器11が、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される位相回転を行っている。つまり、キャリア再生部10が、全信号点検出部21から供給される全範囲位相誤差信号を用いてキャリアの再生処理を行っている(ステップS0)。
【0074】
送信側の無線通信装置101から無線回線103を介して送信された無線フレームを受信側の無線通信装置101が受信すると、受信側の無線通信装置101の受信部150が、周波数変換するとともにアナログ-デジタル変換した無線フレーム(受信信号)を出力する。また、位相回転器11が、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して位相誤差補償を施した信号を生成して出力する(ステップS1)。
【0075】
そして、電力低下検出部2が、位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)について、機器の誤動作の原因となり得る程度の電力の変動を検出すると(ステップS2a)、キャリア再生制御スイッチ20に対して電力変動通知信号を出力する(ステップS3a)。あるいは、位相スリップ検出部3が、位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)について、位相スリップを検出すると(ステップS2b)、キャリア再生制御スイッチ20に対してスリップ通知信号を出力する(ステップS3b)。
【0076】
続いて、電力変動通知信号またはスリップ通知信号が入力されたキャリア再生制御スイッチ20が、ホールド出力部22との接続へと切替わり、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して再生ホールド信号を出力する(ステップS4)。そして、再生ホールド信号が入力されたループフィルタ12が、位相誤差信号の高周波成分の除去動作および出力動作を停止したり、或いは、PLLのループ帯域幅を極端に狭くしながら位相誤差信号の所定の周波数成分の除去処理を行ったりする(つまり、キャリア再生部10におけるキャリア再生ループをホールドする;ステップS5)。
【0077】
次に、電力変動通知信号を出力した電力低下検出部2が、位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)について、電力の変動がおさまって電力が正常に戻ったことを検出すると(ステップS6a)、キャリア再生制御スイッチ20に対して電力回復通知信号を出力する(ステップS7a)。あるいは、スリップ通知信号を出力した位相スリップ検出部3が、位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)について、位相状態が正常に戻ったことを検出すると(ステップS6b)、キャリア再生制御スイッチ20に対して位相回復通知信号を出力する(ステップS7b)。
【0078】
電力回復通知信号または位相回復通知信号が入力されたキャリア再生制御スイッチ20が、特定範囲検出部23との接続へと切替わり、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して特定範囲位相誤差信号を供給する(ステップS8)。そして、ループフィルタ12が、キャリア再生制御スイッチ20から供給される特定範囲位相誤差信号の高周波成分を取り除いて出力する。さらに、数値制御発振器13が、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の特定範囲位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成して位相回転制御信号として出力し、位相回転器11が、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される位相回転を行ってキャリア再生を再開する。つまり、キャリア再生部10が、特定範囲検出部23から供給される特定範囲位相誤差信号を用いて位相誤差補償を行ってキャリアの再生処理を再開する(ステップS9)。
【0079】
ここで、全信号点検出部21では、複素平面上の全信号点S2について位相誤差を検出するため、精度高く位相誤差を検出できるものの、電力の変動や位相スリップなどの機器の瞬間的な異常による不安定動作が生じると、キャリア再生部10におけるキャリア再生の同期外れに至る可能性がある。これに対して、特定範囲検出部23では、複素平面上の原点から遠い外側または近い内側の信号点S2についてのみ位相誤差を検出するため、位相誤差の検出精度は低いものの、これらの信号点S2の検出可能範囲が広いため、機器の瞬間的な異常が発生しても不安定動作が生じにくく、キャリア再生部10におけるキャリア再生の同期外れに至る事態を防止・抑制することができる。したがって、キャリア再生部10におけるキャリアの再生処理を再開する際に、再開当初の位相誤差検出範囲(検出可能範囲)として通常時よりも広い位相誤差検出範囲(検出可能範囲)を用いることにより、キャリアの再生処理が不安定になりがちになる再開当初においてキャリアの再生処理(言い換えると、キャリア再生の同期処理)を円滑に行うことが可能となる。
【0080】
続いて、キャリア再生制御スイッチ20が、特定範囲検出部23と接続してループフィルタ12に対して(延いては、数値制御発振器13に対して)特定範囲位相誤差信号を供給している状態で、電力低下検出部2から出力される電力回復通知信号が入力されてから所定の時間が経過し(但し、電力回復通知信号が入力されていない場合を除く)、且つ、位相スリップ検出部3から出力される位相回復通知信号が入力されてから所定の時間が経過した(但し、位相回復通知信号が入力されていない場合を除く)ら、通常時のキャリア再生として、全信号点検出部21との接続へと切替わってキャリア再生部10のループフィルタ12に対して(延いては、数値制御発振器13に対して)全範囲位相誤差信号を供給する。そして、ループフィルタ12が、キャリア再生制御スイッチ20から供給される全範囲位相誤差信号の高周波成分を取り除いて出力する。さらに、数値制御発振器13が、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の全範囲位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成して位相回転制御信号として出力し、位相回転器11が、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される位相回転を行う。つまり、キャリア再生部10が、全信号点検出部21から供給される全範囲位相誤差信号を用いてキャリアの再生処理を行う(ステップS10)。
【0081】
この実施の形態に係る無線受信装置1によれば、無線フレームの電力の変動や位相スリップを検出した場合にキャリア再生部10へと供給するパラメータを切替えるようにしているので、機器の瞬時異常によるキャリア再生の誤動作(具体的には、同期外れ)を防ぐことができ、キャリア再生部10を安定的に動作させて良好な復調性能(別言すると、ビット誤り率)を実現することが可能となる。
【0082】
この実施の形態に係る無線受信装置1によれば、さらに、複素平面上における位相誤差検出範囲を調整することによって所定の特性を備える位相誤差をパラメータとして設定することができ、前記位相誤差をパラメータとして用いてキャリアの再生処理を制御することにより、機器の瞬時異常によるキャリア再生の誤動作(具体的には、同期外れ)を的確に防ぐことが可能となる。
【0083】
(実施の形態2)
図10は、この発明の実施の形態2に係る無線受信装置1の概略構成を示す機能ブロック図である。なお、図10は、上記で説明した無線通信システム100における無線通信装置101のような構成(図1参照)をベースとしつつ、この発明の特徴的な構成を分かり易く示すことを考慮して、無線通信装置101の構成のうちの一部を省略している。図10は、具体的には、上記で説明した無線通信装置101の受信部150とインターフェース部110との間の復調部160に相当する構成に対して適用される特徴的な構成を、特に受信に纏わる機序としての無線受信装置1として示している。
【0084】
この実施の形態に係る無線受信装置1は、受信した無線フレームの電力を監視して電力の変動の有無を判断する電力低下検出部2と、無線フレームの位相状態を監視して位相スリップの有無を判断する位相スリップ検出部3と、を有するとともに、無線フレームの位相を回転する位相回転器11へと位相回転制御信号を出力する数値制御発振器13および数値制御発振器13へと位相誤差信号を出力するループフィルタ12を含むキャリア再生部10と、キャリア再生部10へと供給するパラメータを切替え可能なキャリア再生制御スイッチ30と、を有し、電力低下検出部2が無線フレームの電力の変動を検出した場合、または、位相スリップ検出部3が無線フレームの位相スリップを検出した場合に、キャリア再生制御スイッチ30がキャリア再生部10へと供給するパラメータを切替える、ようにしている。
【0085】
この実施の形態に係る無線受信装置1は、さらに、上記パラメータが、ループフィルタ12へと供給される、PLLのループ帯域幅を示すループフィルタ係数である、ようにしている。
【0086】
この実施の形態に係る無線受信装置1は、デジタル無線伝送において搬送波(キャリア)の再生処理を行う回路であり、主として、電力低下検出部2と、位相スリップ検出部3と、位相誤差検出部7と、キャリア再生部10と、キャリア再生制御スイッチ30とを含む機序として構成される。
【0087】
キャリア再生部10は、位相回転器11、ループフィルタ12、および数値制御発振器13を備える。無線受信装置1において、位相回転器11、シンボル判定部4、誤差計算部5、ループフィルタ12、および数値制御発振器13は、PLL(Phase Locked Loop の略)であるキャリア再生ループを構成する。
【0088】
位相回転器11は、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)の位相を回転する機能を備える。位相回転器11は、具体的には、前記無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される位相回転制御信号としての正弦波や余弦波に基づいて位相回転を行うことによって位相誤差補償を行い、位相誤差補償が施された信号を生成して出力する。
【0089】
ループフィルタ12は、位相誤差検出部7から出力される位相誤差信号の高周波成分を、所定のループ帯域幅に応じて除去するフィルタである。ループフィルタ12は、具体的には、前記位相誤差信号の入力を受けるとともに、キャリア再生制御スイッチ30から出力されるループフィルタ係数の入力を受け、前記位相誤差信号のうちの不要な高周波成分を取り除き、高周波成分除去後の位相誤差信号を数値制御発振器13の周波数制御端子に対して出力する。
【0090】
数値制御発振器13(「NCO(Numerical Controlled Oscillator の略)」とも呼ばれる)は、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の位相誤差信号に基づいて、位相回転による位相誤差補償を行うための位相回転制御信号を生成する機能を備える。数値制御発振器13は、具体的には、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成し、生成した位相回転制御信号としての正弦波信号や余弦波信号を位相回転器11へと出力する。位相回転器11による位相回転は、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される。
【0091】
電力低下検出部2は、キャリア再生部10の位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)の電力(別言すると、信号強度)を監視し、機器の誤動作の原因となり得る程度の電力の変動の有無を判断する。
【0092】
電力の変動の有無の判断は、例えば、無線通信システム100において用いられる変調方式が多値の直角位相振幅変調(多値QAM;具体的には、16QAM,64QAM,256QAM)である場合には、電力が正常な状態である場合に対応する多値QAMの矩形の枠に対する、コンスタレーションの収縮の程度に基づいて行われることが考えられる(図3および図4参照)。なお、図3図6において、横軸は、複素平面のI軸であり、直交検波処理後の同相成分(Ich)に対応し、また、縦軸は、複素平面のQ軸であり、直交検波処理後の直交成分(Qch)に対応する。
【0093】
電力の変動の有無の判断は、所定の時間長さにおける電力の平均値に基づいて行われるようにしてもよく、或いは、電力が所定の値未満であるシンボルが連続する回数(具体的には例えば、2~10回程度)に基づいて行われるようにしてもよい。
【0094】
電力低下検出部2は、機器の誤動作の原因となり得る程度の電力の変動を検出したときは、電力の変動が発生したことを通知するための電力変動通知信号をキャリア再生制御スイッチ30に対して出力する。電力低下検出部2は、また、電力の変動を検出した後に、電力の変動がおさまって電力が正常に戻ったことを検出したときは、電力が正常に戻ったことを通知するための電力回復通知信号をキャリア再生制御スイッチ30に対して出力する。
【0095】
位相スリップ検出部3は、キャリア再生部10の位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)について、位相状態を監視し、位相スリップの有無を判断する。位相スリップの有無の判断は、送信側の無線通信装置101において伝送データに対して挿入された既知のパターン信号が利用されて行われる。例えば、無線通信システム100において用いられる変調方式が多値の直角位相振幅変調(多値QAM;具体的には、16QAM,64QAM,256QAM)である場合には、位相が回転することにより、位相が正常な状態であるときの多値QAMの矩形の枠の外側へとはみ出した信号点の割合の多寡に基づいて位相スリップの有無を判断することが考えられる(図3および図5参照)。位相スリップであるか否かを判断するための前記信号点の割合は、特定の値に限定されるものではなく、例えば通信機器や変調方式の特性が考慮されるなどした上で、適当な値に適宜設定される。
【0096】
なお、位相スリップの場合には、位相状態が定まらず、信号点の分布が、位相が正常な状態であるときの多値QAMの矩形の枠に対して遅れたり進んだりして揺れ動いて、前記多値QAMの矩形の枠の周囲のあらゆるエリアに信号点がはみ出す(図5参照)。一方、位相スリップがおさまって位相が安定している場合には、位相が正常な状態であるときの多値QAMの矩形の枠の外側へとはみ出した信号点の分布が、前記多値QAMの矩形の枠に対して遅れるか進むかのどちらかで一定して、前記多値QAMの矩形の枠の外側の特定のエリアに偏る(図6参照;なお、図6において、エリア1が、位相が進みの向きに回転している場合に信号点がはみ出す領域であり、エリア2が、位相が遅れの向きに回転している場合に信号点がはみ出す領域である)。そこで、多値QAMの矩形の枠の外側へとはみ出した信号点の分布状況を加味して、位相スリップの有無を判断することが考えられる。
【0097】
位相スリップ検出部3は、位相スリップを検出したときは、位相スリップが発生したことを通知するためのスリップ通知信号をキャリア再生制御スイッチ30に対して出力する。位相スリップ検出部3は、また、位相スリップを検出した後に、位相スリップがおさまって位相状態が正常に戻ったことを検出したときは、位相状態が正常に戻ったことを通知するための位相回復通知信号をキャリア再生制御スイッチ30に対して出力する。
【0098】
シンボル判定部4は、キャリア再生部10の位相回転器11から出力される、位相回転器11によって位相が回転されて位相誤差補償が施された信号について、シンボル判定を行う。
【0099】
誤差計算部5は、シンボル判定部4から出力される信号について、理想シンボルと受信シンボルとの間の位相誤差を計算する。誤差計算部5は、具体的には減算器によって構成される。
【0100】
復号部6は、シンボル判定部4から出力される信号の入力を受け、前記信号に対して誤り訂正復号処理を施し、復号処理によって生成した伝送データをインターフェース部110へと出力する。
【0101】
位相誤差検出部7は、誤差計算部5と協働して位相の誤差成分を検出し、検出した位相の誤差成分に対応する位相誤差信号(具体的には、位相誤差を電圧値で表した信号)をループフィルタ12に対して出力する。
【0102】
キャリア再生制御スイッチ30は、通常係数出力部31、狭帯域係数出力部32、および広帯域係数出力部33の各々から出力される信号のうちのいずれかを選択してループフィルタ12へと供給する機能を備える。キャリア再生制御スイッチ30は、電力低下検出部2や位相スリップ検出部3から出力される信号に従って通常係数出力部31、狭帯域係数出力部32、および広帯域係数出力部33のうちのいずれかとの接続を切り替える。
【0103】
キャリア再生制御スイッチ30は、通常時は、通常時のループフィルタ係数が予め記憶されている通常係数出力部31と接続して、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして、通常のループ帯域幅を示すループフィルタ係数(「通常時係数」と呼ぶ)を供給する。
【0104】
この場合、ループフィルタ12は、キャリア再生制御スイッチ30を介して通常係数出力部31から供給される通常時係数を用いて、位相誤差検出部7から出力される位相誤差信号のうちの不要な高周波成分を取り除き、高周波成分除去後の位相誤差信号を数値制御発振器13の周波数制御端子に対して出力する。そして、数値制御発振器13は、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成して位相回転制御信号として出力し、位相回転器11は、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される位相回転を行う。つまり、キャリア再生部10は、通常係数出力部31から供給される通常時係数を用いてキャリアの再生処理を行う。
【0105】
キャリア再生制御スイッチ30は、また、通常係数出力部31と接続してループフィルタ12に対して通常時係数を供給している状態で、電力低下検出部2から出力される電力変動通知信号が入力されると、または、位相スリップ検出部3から出力されるスリップ通知信号が入力されると、狭帯域のループフィルタ係数が予め記憶されている狭帯域係数出力部32との接続へと切替わって、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして、狭帯域のループ帯域幅を示すループフィルタ係数(「狭帯域係数」と呼ぶ)を供給する。
【0106】
なお、キャリア再生制御スイッチ30は、狭帯域係数出力部32と接続してループフィルタ12に対して狭帯域係数を供給した後に、電力低下検出部2から出力される電力変動通知信号がさらに入力されたり、または、位相スリップ検出部3から出力されるスリップ通知信号がさらに入力されたりした場合には、狭帯域係数出力部32と接続したまま、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして狭帯域係数を供給する。
【0107】
狭帯域係数は、ループフィルタ12による高周波成分の除去処理において用いるループ帯域幅を極端に狭く設定する内容の信号とされる。
【0108】
ループフィルタ12は、キャリア再生制御スイッチ30を介して狭帯域係数出力部32から出力される狭帯域係数が供給されると、前記狭帯域係数を用いて、PLLのループ帯域幅を極端に狭くしながら、位相誤差検出部7から出力される位相誤差信号のうちの所定の周波数成分を取り除く処理を行う。
【0109】
狭帯域係数としては、通常時係数よりも狭いループ帯域幅の値が設定される。狭帯域係数としてのループ帯域幅は、特定の値に限定されるものではないが、ループフィルタ12による高周波成分の除去処理において用いるループ帯域幅を極端に狭くし、PLLのロック時間(即ち、同期をとるまでの時間)を長くして、キャリア再生部10におけるキャリア再生ループを擬似的にホールドさせることができる値に設定される。
【0110】
キャリア再生制御スイッチ30は、さらに、狭帯域係数出力部32と接続してループフィルタ12に対して狭帯域係数を出力した後に、電力低下検出部2から出力される電力回復通知信号が入力されると、または、位相スリップ検出部3から出力される位相回復通知信号が入力されると、広帯域のループフィルタ係数が予め記憶されている広帯域係数出力部33との接続へと切替わって、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして、広帯域のループ帯域幅を示すループフィルタ係数(「広帯域係数」と呼ぶ)を供給する。
【0111】
広帯域係数としては、通常時係数よりも広いループ帯域幅の値が設定される。広帯域係数としてのループ帯域幅は、特定の値に限定されるものではなく、無線フレーム(受信信号)の電力の変動や位相スリップが検出される前の通常時において発生した検出誤差などによって増大している位相誤差を適切に取り除くことやPLLのロック時間(即ち、同期をとるまでの時間)を短くすることが考慮されるなどした上で、適当な値に適宜設置される。なお、キャリア再生制御スイッチ30に対して、電力低下検出部2から電力変動通知信号が出力された後に電力回復通知信号が出力された場合(即ち、電力の変動が発生して回復した場合)と、位相スリップ検出部3からスリップ通知信号が出力された後に位相回復通知信号が出力された場合(即ち、位相スリップが発生して回復した場合)とで、広帯域係数が異なるようにしてもよい。また、広帯域係数は、ユーザが適宜設定可能であるようにされてもよい。
【0112】
ループフィルタ12は、キャリア再生制御スイッチ30を介して広帯域係数出力部33から供給される広帯域係数を用いて、位相誤差検出部7から出力される位相誤差信号のうちの所定の周波数成分を取り除き、所定の周波数成分除去後の位相誤差信号を数値制御発振器13の周波数制御端子に対して出力する。そして、数値制御発振器13は、ループフィルタ12から出力される所定の周波数成分除去後の位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成して位相回転制御信号として出力し、位相回転器11は、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される位相回転を行う。つまり、キャリア再生部10は、広帯域係数出力部33から供給される広帯域係数を用いてキャリアの再生処理を行う。
【0113】
キャリア再生制御スイッチ30は、広帯域係数出力部33と接続してループフィルタ12に対して広帯域係数を供給している状態で、電力低下検出部2から出力される電力回復通知信号が入力されてから所定の時間が経過し(但し、電力回復通知信号が入力されていない場合を除く)、且つ、位相スリップ検出部3から出力される位相回復通知信号が入力されてから所定の時間が経過した(但し、位相回復通知信号が入力されていない場合を除く)ときに、通常時のキャリア再生として、通常係数出力部31との接続へと切替わって、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして通常時係数を供給する。
【0114】
なお、広帯域係数出力部33は、キャリア再生制御スイッチ30に対して、延いてはループフィルタ12に対して出力・供給する広帯域係数としての広帯域のループ帯域幅を示すループフィルタ係数を、所定時の時間をかけて、前記広帯域係数から通常時係数としての通常のループ帯域幅を示すループフィルタ係数と同じになるまで次第に小さくしながら出力・供給するようにしてもよい。
【0115】
また、キャリア再生制御スイッチ30は、広帯域係数出力部33と接続してループフィルタ12に対して広帯域係数を供給している状態で、電力低下検出部2から出力される電力変動通知信号が入力されたり、または、位相スリップ検出部3から出力されるスリップ通知信号が入力されたりした場合には、狭帯域係数出力部32との接続へと切替わって、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して、キャリア再生部10へと供給するパラメータとして狭帯域係数を出力する。
【0116】
次に、このような構成の無線受信装置1の動作や作用などについて、図11も参照しながら説明する。
【0117】
まず、他の無線通信装置101(この通信において送信側の無線通信装置101)から無線回線103を介して送信された無線フレームを当該の無線通信装置101(この通信において受信側の無線通信装置101)が受信している。この際、通常時として、受信側の無線通信装置101のキャリア再生制御スイッチ30が、通常係数出力部31と接続してキャリア再生部10のループフィルタ12に対して通常時係数を供給し、そして、ループフィルタ12が、キャリア再生制御スイッチ30から供給される通常時係数を用いて、位相誤差検出部7から出力される位相誤差信号の高周波成分を取り除いて出力する。さらに、数値制御発振器13が、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成して位相回転制御信号として出力し、位相回転器11が、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される位相回転を行っている。つまり、キャリア再生部10が、通常係数出力部31から供給される通常時係数を用いてキャリアの再生処理を行っている(ステップS0)。
【0118】
送信側の無線通信装置101から無線回線103を介して送信された無線フレームを受信側の無線通信装置101が受信すると、受信側の無線通信装置101の受信部150が、周波数変換するとともにアナログ-デジタル変換した無線フレーム(受信信号)を出力する。また、位相回転器11が、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して位相誤差補償を施した信号を生成して出力する(ステップS1)。
【0119】
そして、電力低下検出部2が、位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)について、機器の誤動作の原因となり得る程度の電力の変動を検出すると(ステップS2a)、キャリア再生制御スイッチ30に対して電力変動通知信号を出力する(ステップS3a)。あるいは、位相スリップ検出部3が、位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)について、位相スリップを検出すると(ステップS2b)、キャリア再生制御スイッチ30に対してスリップ通知信号を出力する(ステップS3b)。
【0120】
続いて、電力変動通知信号またはスリップ通知信号が入力されたキャリア再生制御スイッチ30が、狭帯域係数出力部32との接続へと切替わり、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して狭帯域係数を供給する(ステップS4)。そして、狭帯域係数が供給されたループフィルタ12が、前記狭帯域係数を用いて、PLLのループ帯域幅を極端に狭くしながら、位相誤差検出部7から出力される位相誤差信号のうちの所定の周波数成分を取り除く処理を行う。この場合、ループフィルタ12による高周波成分の除去処理において用いるループ帯域幅が極端に狭いので、PLLのロック時間(即ち、同期をとるまでの時間)が長くなり、キャリア再生部10におけるキャリア再生ループが擬似的にホールドされる(ステップS5)。
【0121】
次に、電力変動通知信号を出力した電力低下検出部2が、位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)について、電力の変動がおさまって電力が正常に戻ったことを検出すると(ステップS6a)、キャリア再生制御スイッチ30に対して電力回復通知信号を出力する(ステップS7a)。あるいは、スリップ通知信号を出力した位相スリップ検出部3が、位相回転器11から出力される無線フレーム(受信信号)について、位相状態が正常に戻ったことを検出すると(ステップS6b)、キャリア再生制御スイッチ30に対して位相回復通知信号を出力する(ステップS7b)。
【0122】
電力回復通知信号または位相回復通知信号が入力されたキャリア再生制御スイッチ30が、広帯域係数出力部33との接続へと切替わり、キャリア再生部10のループフィルタ12に対して広帯域係数を供給する(ステップS8)。そして、ループフィルタ12が、キャリア再生制御スイッチ30から供給される広帯域係数を用いて、位相誤差検出部7から出力される位相誤差信号のうちの所定の周波数成分を取り除いて出力する。さらに、数値制御発振器13が、ループフィルタ12から出力される所定の周波数成分除去後の位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成して位相回転制御信号として出力し、位相回転器11が、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される位相回転を行ってキャリア再生を再開する。つまり、キャリア再生部10が、広帯域係数出力部33から供給される広帯域係数を用いて位相誤差補償を行ってキャリアの再生処理を再開する(ステップS9)。
【0123】
ここで、通常係数出力部31から出力される通常時係数は、PLLのロック時間(言い換えると、位相の変化に対するキャリア再生ループの追従性)と位相雑音値(「C/N値」とも呼ばれる)との間の7が適切になるように設定され、通常時においては良好な位相雑音値を確保することができるものの、電力の変動や位相スリップなどの機器の瞬間的な異常による不安定動作が生じると、PLLのロック時間が長くなってキャリア再生ループが位相の変化に十分に追従することができずに位相雑音値が大幅に低下する可能性がある。これに対して、広帯域係数出力部33から出力される広帯域係数では、通常時係数よりも広いループ帯域幅の値が設定されるため、位相誤差検出部7から出力される位相誤差信号の高周波成分を除去できないので位相雑音値がやや低下するものの、PLLのロック時間が短くなって位相の変化への追従性が向上するため、機器の瞬間的な異常が発生しても不安定動作が生じにくく、PLLのロック時間が短くなってキャリア再生ループが位相の変化に十分に追従することができる。したがって、キャリア再生部10におけるキャリアの再生処理を再開する際に、再開当初のループ帯域幅として通常時よりも広いループ帯域幅を用いることにより、キャリアの再生処理が不安定になりがちになる再開当初においてキャリアの再生処理(言い換えると、キャリア再生の同期処理)を円滑に行うことが可能となる。
【0124】
続いて、キャリア再生制御スイッチ30が、広帯域係数出力部33と接続してループフィルタ12に対して広帯域係数を供給している状態で、電力低下検出部2から出力される電力回復通知信号が入力されてから所定の時間が経過し(但し、電力回復通知信号が入力されていない場合を除く)、且つ、位相スリップ検出部3から出力される位相回復通知信号が入力されてから所定の時間が経過した(但し、位相回復通知信号が入力されていない場合を除く)ら、通常時のキャリア再生として、通常係数出力部31との接続へと切替わってキャリア再生部10のループフィルタ12に対して通常時係数を供給する。そして、ループフィルタ12が、キャリア再生制御スイッチ30から供給される通常時係数を用いて、位相誤差検出部7から出力される位相誤差信号の高周波成分を取り除いて出力する。さらに、数値制御発振器13が、ループフィルタ12から出力される高周波成分除去後の位相誤差信号に基づいて逆位相の正弦波信号や余弦波信号を生成して位相回転制御信号として出力し、位相回転器11が、受信部150から出力されるアナログ-デジタル変換された無線フレーム(受信信号)に対して、数値制御発振器13から出力される前記位相回転制御信号によって制御される位相回転を行う。つまり、キャリア再生部10が、通常係数出力部31から供給される通常時係数を用いてキャリアの再生処理を行う(ステップS10)。
【0125】
この実施の形態に係る無線受信装置1によれば、無線フレームの電力の変動や位相スリップを検出した場合にキャリア再生部10へと供給するパラメータを切替えるようにしているので、機器の瞬時異常によるキャリア再生の誤動作(具体的には、同期外れ)を防ぐことができ、キャリア再生部10を安定的に動作させて良好な復調性能(別言すると、ビット誤り率)を実現することが可能となる。
【0126】
この実施の形態に係る無線受信装置1によれば、さらに、PLLのループ帯域幅を調整することによって所定の特性を備えるループフィルタ係数をパラメータとして設定することができ、前記ループフィルタ係数をパラメータとして用いてキャリアの再生処理を制御することにより、機器の瞬時異常によるキャリア再生の誤動作(具体的には、同期外れ)を的確に防ぐことが可能となる。
【0127】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。具体的には、上記の実施の形態ではこの発明に係る無線受信装置1が適用されるベースの構成として図1に示す無線通信装置101を挙げたが、この発明が適用され得る無線通信装置の構成は、図1に示す無線通信装置101に限定されるものではなく、上記で説明したような無線受信装置1の構成が受信に纏わる機序として適用することができる(言い換えると、受信に纏わる機序に組込むことができる)無線通信装置であればどのような構成でもよい。具体的には例えば、上記の実施の形態におけるキャリア再生部10に相当する構成を含む無線通信装置であればどのような構成でもよい。
【0128】
また、上記の実施の形態では電力低下検出部2と位相スリップ検出部3との両方を備えるようにしているが、これら2つを備えることはこの発明において必須の構成ではなく、電力低下検出部2と位相スリップ検出部3とのうちの少なくとも一方を備えるようにすればよい。
【符号の説明】
【0129】
1 無線受信装置
2 電力低下検出部
3 位相スリップ検出部
4 シンボル判定部
5 誤差計算部
6 復号部
7 位相誤差検出部
10 キャリア再生部
11 位相回転器
12 ループフィルタ
13 数値制御発振器
20 キャリア再生制御スイッチ(実施の形態1)
21 全信号点検出部
22 ホールド出力部
23 特定範囲検出部
30 キャリア再生制御スイッチ(実施の形態2)
31 通常係数出力部
32 狭帯域係数出力部
33 広帯域係数出力部
100 無線通信システム
101 無線通信装置
102 アンテナ
103 無線回線
110 インターフェース部
111 データ回線終端装置
120 変調部
130 送信部
140 分波器
150 受信部
160 復調部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11