(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】舗装取替方法
(51)【国際特許分類】
E01D 19/08 20060101AFI20240318BHJP
E01D 19/12 20060101ALI20240318BHJP
E01C 7/18 20060101ALI20240318BHJP
E01C 23/00 20060101ALI20240318BHJP
E01D 22/00 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
E01D19/08
E01D19/12
E01C7/18
E01C23/00 A
E01D22/00 A
(21)【出願番号】P 2020070613
(22)【出願日】2020-04-09
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000103769
【氏名又は名称】オリエンタル白石株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【氏名又は名称】安彦 元
(74)【代理人】
【識別番号】100198214
【氏名又は名称】眞榮城 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】正司 明夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 謙一
(72)【発明者】
【氏名】渡瀬 博
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-019658(JP,A)
【文献】特開2019-183425(JP,A)
【文献】特開昭63-067302(JP,A)
【文献】特開2016-013960(JP,A)
【文献】特開2006-112189(JP,A)
【文献】特開2009-256505(JP,A)
【文献】特開2012-021315(JP,A)
【文献】特開2015-129393(JP,A)
【文献】特開平07-119262(JP,A)
【文献】特開昭61-266701(JP,A)
【文献】特開2019-126991(JP,A)
【文献】特開2008-196112(JP,A)
【文献】特開2017-082403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/08
E01D 19/12
E01C 7/18
E01C 23/00
E01D 22/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
打ち継ぎ目を有するコンクリート製の上部構造物の上面に設けられるとともに少なくともセメント系材料で構成されるセメント系材料層を含む防水層と、前記防水層の上面に設けられるとともにアスファルト系材料で構成される表層と、を備えた舗装構造の舗装を取り替える舗装取替方法であって、
前記防水層の前記セメント系材料層を残置して前記表層を切削する切削工程と、
前記切削工程で残置した前記セメント系材料層を含む前記防水層の上面に、アスファルト系材料で構成される新たな表層を設ける設置工程とを備えること
を特徴とする舗装取替方法。
【請求項2】
前記防水層は、前記セメント系材料層の上側に設けられる樹脂系材料層を含み、
前記切削工程は
、前記樹脂系材料層を残置して前記表層を切削すること
を特徴とする請求項1記載の舗装取替方法。
【請求項3】
前記防水層は、前記セメント系材料層の上側に設けられる樹脂系材料層を含み、
前記切削工程は
、前記樹脂系材料層と前記表層とを切削すること
を特徴とする請求項1記載の舗装取替方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舗装取替方法に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁は、橋脚、橋台等の下部構造物に橋桁、床版等の上部構造物が設けられ、上部構造物の上部には、車両等が走行する舗装が設けられる。従来の舗装方法は、上部構造物の上面に樹脂系の防水材を塗布し、塗布した防水材の上面にアスファルト系材料の基層を設け、基層の上面にアスファルト系材料の表層を設けることで構築される。
【0003】
しかしながら、このような従来の舗装方法は、基層を設けた後に、表層を設ける必要があり、施工に時間を要するという問題点があった。また、従来の舗装方法は、防水材を施工した際にエアー溜が発生する虞があり、防水材と上部構造物との付着が確保できず、上部構造物に水分が浸透する虞があった。特に、打ち継ぎ目を有するコンクリート製の上部構造物においては、水分が浸透することで、打ち継ぎ目から漏水が発生する虞があった。
【0004】
また、従来の舗装方法により構築される舗装は、アスファルト系材料が用いられる基層と表層とを適宜取り替える必要がある。このとき、上部構造物の上面に設けられた基層と表層とを切削することで、上部構造物の上面に塗布された防水材や上部構造物自体も切削されてしまい、上部構造物に必要な防水性能を発揮できないばかりか、上部構造物自体が損傷する虞があった。
【0005】
従来、コンクリート床版への水の浸入をより確実に抑制できるものとして、特許文献1に開示されたコンクリート構造の施工方法が提案されている。
【0006】
特許文献1に開示されたコンクリート構造の施工方法は、コンクリート床版の上部に舗装層を備えたコンクリート構造の施工方法であって、コンクリート床版の上面にエポキシ系樹脂の接着剤を塗布して接着剤層を形成する工程と、接着剤層の上面に繊維補強セメント複合材料層を形成する工程と、繊維補強セメント複合材料層の上面に舗装層としてアスファルト層を形成する工程を備える。このとき、特許文献1に開示されたコンクリート構造の施工方法は、コンクリート床版の上に、防水層を設置することなく、繊維補強セメント複合材料層を形成し、この繊維補強セメント複合材料層がコンクリート床版への透水を防止することができるとされている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたコンクリート構造の施工方法は、あくまでコンクリート床版に適用されるものであって、打ち継ぎ目を有する上部構造物に適用することにつき、何ら開示も示唆もされていない。また、特許文献1に開示されたコンクリート構造の施工方法は、繊維補強セメント複合材料層の上に舗装層としてアスファルト層を形成する工程を有するものの、当該アスファルト層が基層と表層がどのような関係にあるか不明であり、施工時間を短縮させるものでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、施工時間を短縮することが可能となり、打ち継ぎ目から漏水を抑制することができ、舗装の取り替え時において上部構造物の損傷を防止することが可能となる舗装取替方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明に係る舗装取替方法は、打ち継ぎ目を有するコンクリート製の上部構造物の上面に設けられるとともに少なくともセメント系材料で構成されるセメント系材料層を含む防水層と、前記防水層の上面に設けられるとともにアスファルト系材料で構成される表層と、を備えた舗装構造の舗装を取り替える舗装取替方法であって、前記防水層の前記セメント系材料層を残置して前記表層を切削する切削工程と、前記切削工程で残置した前記セメント系材料層を含む前記防水層の上面に、アスファルト系材料で構成される新たな表層を設ける設置工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、従来のような表層の下側にアスファルト系材料で構成される基層が設けられることなく、表層工程においてセメント系材料層の上面にアスファルト系材料の表層が設けられる。このため、本発明によれば、従来のような基層を設ける工程を省略することができ、施工時間を短縮することが可能となる。
【0022】
本発明によれば、セメント系材料層を含む防水層の上面に表層が設けられる。このため、本発明によれば、雪や雨等により表層から水分が浸透するものの、表層よりも密実なコンクリート等のセメント系材料層が水分の浸透を抑制することができる。その結果、上部構造物まで水分が浸透するのを抑制し、ひいては上部構造物の打ち継ぎ目からの漏水を抑制することが可能となる。
【0023】
本発明によれば、舗装の取り替え時において表層を切削機等で切削する際に、セメント系材料層が残置された状態となっているため、上部構造物が損傷するのを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明を適用した舗装構造の施工方法が実施される上部構造物を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明を適用した舗装構造の施工方法により施工される舗装構造を示す正面図である。
【
図4】
図4は、本発明を適用した舗装構造の施工方法の防水工程において接着剤を塗布する手順を説明するための図である。
【
図5】
図5は、本発明を適用した舗装構造の施工方法の防水工程において防水層を設ける手順を説明するための図である。
【
図6】
図6は、舗装構造の表層を切削する手順を説明するための図である。
【
図7】
図7は、本発明を適用した舗装構造の施工方法により施工される舗装構造がコンクリート箱桁材が用いられる上部構造物に設けられる形態を示す斜視図である。
【
図9】
図9(a)は、切削工程において、表層と樹脂系材料層とを切削した舗装構造を示す拡大正面図であり、
図9(b)は、設置工程において、セメント系材料層の上面に表層を設けた舗装構造を示す拡大正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を適用した舗装構造の施工方法を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0026】
図1は、本発明を適用した舗装構造の施工方法が実施される上部構造物Aを示す斜視図である。
図2は、本発明を適用した舗装構造の施工方法により施工される舗装構造1を示す正面図である。
図3は、
図2の舗装構造の拡大正面図である。
【0027】
本発明を適用した舗装構造の施工方法は、例えば、コンクリート桁材7同士の間に間詰めコンクリート8が打設されて構築された上部構造物Aに適用される。
【0028】
上部構造物Aは、
図1に示すように、橋軸方向Xに延びて設けられ、橋軸直交方向Yに間隔を空けて設けられる複数のコンクリート桁材7と、隣り合うコンクリート桁材7同士の間に打設される間詰めコンクリート8で構成される。上部構造物Aは、コンクリート桁材7と間詰めコンクリート8との間に打ち継ぎ目Jを有する。この打ち継ぎ目Jは、橋軸方向Xに向けて延びて形成される。ここで、橋軸方向Xは、上部構造物Aの長手方向とし、橋軸直交方向Yは、橋軸方向Xに直交する方向とし、高さ方向Zとする。
【0029】
上部構造物Aは、
図2に示すように、橋軸直交方向Yの両端部にコンクリート製の壁高欄9等が設けられる。上部構造物Aは、図示しない橋脚、橋台等の下部構造物の上側に設けられる。コンクリート桁材7は、断面略T字状等のコンクリート桁材であり、コンクリート内部には鉄筋、緊張材等の鋼材79が埋設されている。コンクリート桁材7は、これに限らず、如何なる断面形状のコンクリート桁材が用いられてもよい。
【0030】
図3に示すように、上部構造物Aの上面には舗装構造1が設けられる。舗装構造1は、上部構造物Aの上面に設けられる接着剤4と、接着剤4の上面に設けられる防水層2と、防水層2の上面に設けられる表層3とを備える。舗装構造1は、表層3の上面に車両等を走行させることができる。
【0031】
防水層2は、セメント系材料で構成されるセメント系材料層21と、ウレタン樹脂等の樹脂系材料で構成される樹脂系材料層22とを有する。防水層2は、上部構造物Aの打ち継ぎ目Jを被覆するように設けられる。
【0032】
セメント系材料層21は、セメント系材料に水を練り混ぜて硬化させたモルタル、コンクリート等であり、後述する表層3よりも密実なものとなる。セメント系材料層21は、カルシウムアルミネートの1種であるCaO・2AL2O3を含有したセメント系材料が用いられてもよい。セメント系材料層21は、セメント系材料として硬化後の乾燥収縮を低減できる無収縮系のセメント系材料が用いられてもよい。セメント系材料層21は、鋼繊維、ガラス繊維、炭素繊維、有機系繊維等の繊維が含まれていてもよい。セメント系材料層21は、例えば、3cm~20cm程度の所定の厚みを有しており、上面に上部構造物Aの橋軸直交方向Yの両端部に向けて傾斜させた勾配Pが形成される。なお、セメント系材料層21は、20cm以上の厚みを有していてもよい。
【0033】
セメント系材料層21は、鉄筋及び繊維の何れか一方又は両方により補強されるものであってもよい。また、セメント系材料層21は、プレキャスト版であってもよい。また、セメント系材料層21は、プレストレスが導入されて補強されるものであってもよい。
【0034】
樹脂系材料層22は、例えば、防水性能を有するアスファルトウレタン等の樹脂系材料で構成される。樹脂系材料層22は、例えば、株式会社高速道路総合技術研究所発行の構造物施工管理要領(平成27年7月版)の要求性能(グレードII)を満たすものが用いられる。樹脂系材料層22は、鋼繊維、ガラス繊維、炭素繊維、有機系繊維等の繊維が含有されていてもよい。また、樹脂系材料層22は、シート状のものが用いられてもよいし、液体状等のセメント系材料層21に塗布できるものが用いられてもよい。
【0035】
防水層2は、樹脂系材料層22が省略されてもよく、このとき、防水層2は、セメント系材料層21となる。なお、本発明においては、防水層2は、少なくともセメント系材料層21を含むものであればよい。また、防水層2は、セメント系材料層21と樹脂系材料層22との間に、必要に応じて、接着剤、砕石等が設けられてもよい。
【0036】
表層3は、アスファルト系材料で構成され、砕石、砂、石粉、アスファルト等を所定の割合で配合した混合材料である。表層3は、樹脂系材料層22の上面に、橋軸直交方向Yで略等しい厚みで設けられる。表層3は、例えば、厚みが3cm~15cm程度の厚みを有するが、これに限らず、所定の厚みを有していれば如何なる厚みであってもよい。表層3は、上面に上部構造物Aの橋軸直交方向Yの両端部に向けて傾斜させた勾配が形成される。
【0037】
接着剤4は、エポキシ樹脂系の接着剤が用いられるが、これに限らず、アクリル樹脂系の接着剤等、如何なる材質の接着剤が用いられてもよい。
【0038】
なお、舗装構造1は、接着剤4が省略されてもよく、このとき、舗装構造1は、上部構造物Aの上面に設けられる防水層2と、防水層2の上面に設けられる表層3とを備えるものとなる。
【0039】
次に、本発明を適用した舗装構造の施工方法について説明する。本発明を適用した舗装構造の施工方法は、上部構造物Aの上面に防水層2を設ける防水工程と、防水工程で設けた防水層2の上面に表層3を設ける表層工程とを備える。
【0040】
図4は、本発明を適用した舗装構造の施工方法の防水工程において接着剤を塗布する手順を説明するための図であり、
図4(a)は、上部構造物Aの上面に接着剤4を塗布する前の状態を示す図であり、
図4(b)は、接着剤4を塗布した後の状態を示す図である。
【0041】
本発明を適用した舗装構造の施工方法は、
図4(a)に示すように、コンクリート桁材7同士の間に間詰めコンクリート8が打設された上部構造物Aが構築された状態からスタートする。防水工程では、
図4(b)に示すように、コンクリート桁材7と間詰めコンクリート8とで構成される上部構造物Aの上面に接着剤4を塗布する。このとき、上部構造物Aの打ち継ぎ目Jが接着剤4に被覆されることとなる。
【0042】
図5は、本発明を適用した舗装構造の施工方法の防水工程において防水層を設ける手順を説明するための図であり、
図5(a)は、セメント系材料層21を設ける図であり、
図5(b)は、樹脂系材料層22を設ける図である。
【0043】
防水工程では、
図5に示すように、塗布した接着剤4を介して上部構造物Aの上面にに防水層2を付着させる。これにより、防水層2が上部構造物Aに強固に固定されるものとなり、上部構造物Aから剥離しにくいものとなる。
【0044】
詳細には、防水工程では、
図5(a)に示すように、塗布した接着剤4を介して上部構造物Aの上面に、セメント系材料層21を付着させる。セメント系材料層21を設ける際には、上部構造物Aの上面に水等を練り混ぜたセメント系材料を打設して、硬化させる。また、セメント系材料層21の上面に橋軸直交方向Yの両端部に向けて傾斜させた勾配Pを形成する。
【0045】
そして、防水工程では、
図5(b)に示すように、セメント系材料層21の上面に、橋軸直交方向Yで略等しい厚みで樹脂系材料層22を設ける。これにより、樹脂系材料層22の上面に上部構造物Aの橋軸直交方向Yの両端部に向けて傾斜させた勾配が形成されることとなる。樹脂系材料層22がシート状に形成される場合には、シート状の樹脂系材料層22を展張等して、セメント系材料層21の上面に設けることで、樹脂系材料層22を簡易に施工することが可能となる。また、樹脂系材料層22がセメント系材料層21に塗布可能なものが用いられる場合には、セメント系材料層21の上面にこの樹脂系材料層22を塗布することにより、設けることとなる。
【0046】
なお、防水工程では、接着剤4の塗布を省略することができる。このとき、防水工程では、上部構造物Aの上面に防水層2を設けることとなる。
【0047】
次に、表層工程では、
図2に示すように、樹脂系材料層22の上面に、橋軸直交方向Yで略等しい厚みで表層3を設ける。表層工程では、橋軸直交方向Yの両端部に向けて傾斜させた勾配Pが形成されたセメント系材料層21を含む防水層2の上面に、橋軸直交方向Yで略等しい厚みで表層3を設けることで、表層3の上面に上部構造物Aの橋軸直交方向Yの両端部に向けて傾斜させた勾配が形成されることとなる。このようにして、本発明を適用した舗装構造の施工方法では、舗装構造1が施工されて完了する。
【0048】
本発明を適用した舗装構造の施工方法では、従来のような表層の下側にアスファルト系材料で構成される基層が設けられることなく、表層工程においてセメント系材料層21を含む防水層2の上面にアスファルト系材料の表層3が設けられる。このため、本発明を適用した舗装構造の施工方法では、従来のような基層を設ける工程を省略することができ、施工時間を短縮することが可能となる。
【0049】
本発明を適用した舗装構造の施工方法では、セメント系材料層21を含む防水層2の上面に表層3が設けられる。このため、本発明を適用した舗装構造の施工方法では、雪や雨等により表層3から水分が浸透するものの、表層3よりも密実なコンクリート等のセメント系材料層21が水分の浸透を抑制することができる。その結果、上部構造物Aまで水分が浸透するのを抑制し、ひいては上部構造物Aの打ち継ぎ目Jからの漏水を抑制することが可能となる。
【0050】
また、本発明を適用した舗装構造の施工方法では、表層3に融雪剤や凍結防止剤として、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等が大量に散布される場合には、雪や雨等にこれらの薬剤が溶け出すこととなり、塩化物イオンが溶出した水分が表層3に浸透する。このときであっても、本発明を適用した舗装構造の施工方法では、セメント系材料層22を含む防水層2の上面に表層3が設けられるため、塩化物イオンが溶出した水分が上部構造物Aの打ち継ぎ目Jまで浸透するのを抑制することが可能となる。このように、本発明を適用した舗装構造の施工方法では、セメント系材料層22を含む防水層2の上面に表層3が設けられるため、コンクリート桁材7に埋設された鉄筋、緊張材等の鋼材79の不働態皮膜が破壊される原因となる塩化物イオンが溶出した水分の浸透を抑制することができる。その結果、塩化物イオンが溶出した水分が上部構造物Aまで浸透するのを抑制し、コンクリート桁材7に埋設された鉄筋等の鋼材の腐食を抑制することが可能となる。
【0051】
また、本発明を適用した舗装構造の施工方法は、
図6(a)に示すように、防水工程で設けたセメント系材料層21を含む防水層2の上面に、アスファルト系材料で構成される表層3を設ける表層工程を備える。このため、本発明を適用した舗装構造の施工方法では、アスファルト系材料の表層3を取り替える際には、
図6(b)に示すように、セメント系材料層21を残置して、表層3を切削機等で切削することとなる。このとき、本発明を適用した舗装構造の施工方法では、表層3を切削機等で切削する際に、セメント系材料層21の上面が損傷する可能性があるものの、セメント系材料層21が残置された状態となっているため、上部構造物Aが損傷するのを防止することが可能となる。
【0052】
本発明を適用した舗装構造の施工方法では、防水工程においてカルシウムアルミネートの一種であるCaO・2AL2O3(CA2)を含有したセメント系材料で構成されるセメント系材料層21を含む防水層2が設けられる。
【0053】
ここで、CA2の腐食抑制効果である塩化物固定化メカニズムについて説明する。CA2(CaO・2Al2O3)を含有する粉末を混和することにより、次式に示す化学反応を起こし、ハイドロカルマイト(3CaO・Al2O3・Ca(OH)2・12H2O)が多量に生成される。
【0054】
7Ca(OH)2+CaO・2Al2O3+19H2O→2(3CaO・Al2O3・Ca(OH)2・12H2O)
【0055】
このハイドロカルマイトは、塩化物イオンが水中に遊離している状態で、次式に示すように、塩化物イオンをフリーデル氏塩(3CaO・Al2O3・CaCl2・11H2O)に固定化する。
【0056】
3CaO・Al2O3・Ca(OH)2・12H2O+2Cl-→3CaO・Al2O3・CaCl2・11H2O+2OH-
【0057】
このように、セメント系材料層21にCA2が含有されることで、可溶性の塩化物イオンがフリーデル氏塩として固定化され、水中に遊離し易い可溶性の塩化物イオンが減少し、塩化物イオンによる不動態皮膜の損傷を抑制する効果を発揮する。このため、腐食抑制効果を長期的に発揮し続けることができる。
【0058】
本発明を適用した舗装構造の施工方法は、防水工程において無収縮系のセメント系材料で構成されるセメント系材料層21を含む防水層2を設ける。これにより、本発明を適用した舗装構造の施工方法は、セメント系材料層21の硬化後の乾燥収縮が抑制され、上部構造物Aの上面との付着をより強固に保つことが可能となる。また、本発明を適用した舗装構造の施工方法は、セメント系材料層21の硬化後の乾燥収縮が抑制されることにより、セメント系材料層21の上面に設けられる樹脂系材料層22又は表層3との付着をより強固に保つことが可能となる。
【0059】
本発明を適用した舗装構造の施工方法は、防水工程において上部構造物Aの上面にセメント系材料層21を設け、セメント系材料層21上面に樹脂系材料層22を設ける。これにより、本発明を適用した舗装構造の施工方法は、セメント系材料層21と樹脂系材料層22とにより、上部構造物Aに水分が浸透するのを抑制する効果を一層向上させることが可能となる。
【0060】
本発明を適用した舗装構造の施工方法は、防水工程においてセメント系材料層21の上面に勾配Pを形成し、セメント系材料層21を含む防水層2の上面に表層3を設ける。このため、本発明を適用した舗装構造の施工方法では、表層3を設ける際に橋軸直交方向Yで略等しい厚みとなるように設けることで、表層3の上面にも勾配を形成することが可能となる。即ち、本発明を適用した舗装構造の施工方法は、表層工程において橋軸直交方向Yで表層3の厚みを異ならせることなく、橋軸直交方向Yで略等しい厚みの表層3を設けることで、表層3の上面にも勾配を形成することが可能となる。このため、本発明を適用した舗装構造の施工方法は、橋軸直交方向Yで表層3の厚みを調整する必要が無く、表層3の施工性を向上させることができ、その結果、施工時間を短縮することが可能となる。
【0061】
本発明を適用した舗装構造の施工方法は、防水工程では、鉄筋及び繊維の何れか一方又は両方により補強されるセメント系材料層21を含む防水層2を設ける。これにより、セメント系材料層21のひび割れを抑制することができる。このため、セメント系材料層21からの水分の浸透を抑制することができる。
【0062】
本発明を適用した舗装構造の施工方法は、防水工程では、プレキャスト版であるセメント系材料層21を含む防水層2を設ける。これにより、セメント系材料層21を現場で容易に行うことができる。このため、施工時間を短縮することが可能となる。
【0063】
本発明を適用した舗装構造の施工方法は、防水工程では、プレストレスにより補強されるセメント系材料層21を含む防水層2を設ける。これにより、セメント系材料層21のひび割れを抑制することができる。このため、セメント系材料層21からの水分の浸透を抑制することができる。
【0064】
図7は、本発明を適用した舗装構造の施工方法が実施される上部構造物の他の形態を示す斜視図である。
図8は、
図7の拡大正面図である。
【0065】
本発明を適用した舗装構造の施工方法は、
図7に示すように、コンクリート桁材7としてコンクリート箱桁材が用いられる上部構造物Aに適用されてもよい。この上部構造物Aは、例えば、コンクリート箱桁材としてのコンクリート桁材7を橋軸方向Xに順次並べることにより設けられる、いわゆる張り出し施工等により設けられることとなる。この上部構造物Aは、橋軸方向Xで隣り合うコンクリート桁材7同士の間に橋軸直交方向Yに向けて延びて形成される打ち継ぎ目Jを有する。そして、上部構造物Aの打ち継ぎ目Jには、防水層2が被覆される。
【0066】
図8に示すように、コンクリート箱桁材であるコンクリート桁材7の側壁71には、コンクリート桁材7のせん断変形に抵抗させるための鋼棒等の鋼材79が埋設されてもよい。この鋼材79は、高さ方向Zの延びて形成される。
【0067】
このとき、側壁71に埋設される鋼材79は、上部構造物Aの上面には防水層2が設けられる。この防水層2は、セメント系材料層21と、セメント系材料層21の上面に繊維を含有した樹脂系材料で構成されるシート状の樹脂系材料層22とを含むものが好ましい。これにより、鋼材79が上部構造物Aの上面から突出するのを、セメント系材料層21と樹脂系材料層22とで強固に防止することが可能となる。
【0068】
次に、本発明を適用した舗装取替方法について説明する。
【0069】
本発明を適用した舗装取替方法は、
図6に示すように、本発明を適用した舗装構造の施工方法により施工された舗装構造1に適用される。本発明を適用した舗装取替方法は、本発明を適用した舗装構造の施工方法により施工された舗装構造1のセメント系材料層21を含む防水層2を残置して表層3を切削機等で切削する切削工程と、切削工程で残置したセメント系材料層21を含む防水層2の上面に、アスファルト系材料で構成される新たな表層3を設ける設置工程とを備える。
【0070】
即ち、本発明を適用した舗装取替工法は、打ち継ぎ目Jを有する上部構造物Aの上面に設けられた少なくともセメント系材料で構成されるセメント系材料層21を含む防水層2と、防水層2の上面にアスファルト系材料で構成される表層3とを有する舗装構造1のセメント系材料層21を含む防水層2を残置して表層3を切削機等で切削する切削工程と、切削工程で残置したセメント系材料層21を含む防水層2の上面に、アスファルト系材料で構成される新たな表層3を設ける設置工程とを備える。
【0071】
なお、本発明を適用した舗装取替方法では、
図6(b)に示すように、セメント系材料層21の上面に樹脂系材料層22が設けられる場合には、切削工程において、少なくともセメント系材料層21が残置されていれば、表層3を切削する際に防水層2の樹脂系材料層22を残置してもよい。
【0072】
本発明を適用した舗装取替方法では、表層3を切削する際に防水層2の樹脂系材料層22を残置した場合、設置工程において、樹脂系材料層22の上面に、新たな表層3を設けることとなる。
【0073】
本発明を適用した舗装取替方法では、切削工程においてセメント系材料層21を含む防水層2を残置して、表層3を切削機等で切削することとなる。このとき、本発明を適用した舗装取替方法では、表層3を切削機等で切削する際に、セメント系材料層21の上面が損傷する可能性があるものの、表層3の下部にセメント系材料層21が設けられた状態となっているため、上部構造物Aが損傷するのを防止することが可能となる。
【0074】
また、本発明を適用した舗装取替方法では、従来のような表層の下側にアスファルト系材料で構成される基層が設けられることなく、切削工程において表層3を切削するだけでよく、切削すべきアスファルト系材料が減少するため、切削に要する施工時間を短縮することが可能となる。
【0075】
また、本発明を適用した舗装取替方法では、従来のような表層の下側にアスファルト系材料で構成される基層が設けられることなく、設置工程において切削工程で残置したセメント系材料層21を含む防水層2の上面にアスファルト系材料の新たな表層3が設けられる。このため、本発明を適用した舗装構造の施工方法では、従来のような基層を設ける工程を省略することができ、施工時間を短縮することが可能となる。
【0076】
本発明を適用した舗装取替方法では、セメント系材料層22を含む防水層2の上面に新たな表層3が設けられる。このため、本発明を適用した舗装構造の施工方法では、雪や雨等により表層3から水分が浸透するものの、表層3よりも密実なコンクリート等のセメント系材料層22が水分の浸透を抑制することができる。その結果、上部構造物Aまで水分が浸透するのを抑制し、ひいては上部構造物Aの打ち継ぎ目Jからの漏水を抑制することが可能となる。
【0077】
本発明を適用した舗装取替方法では、
図9(a)に示すように、切削工程において、表層3とともに樹脂系材料層22を切削してもよい。表層3とともに樹脂系材料層22を切削した場合、設置工程において、
図9(b)に示すように、残置したセメント系材料層21の上面に、新たな表層3を設けてもよい。
【0078】
また、図示は省略するが、本発明を適用した舗装取替方法では、切削工程において、表層3とともに樹脂系材料層22を切削した場合、設置工程において、残置したセメント系材料層21の上面に、新たな樹脂系材料層22を設けた上で、新たな樹脂系材料層22の上面に、新たな表層3を設けてもよい。このときであっても、防水層2の上面に新たな表層3が設けられることとなる。
【0079】
なお、本発明を適用した舗装取替方法では、断面略T字形状のコンクリート桁材7と間詰めコンクリート8とが用いられる上部構造物Aを例示して説明したが、コンクリート桁材7としてコンクリート箱桁材が用いられる上部構造物Aに適用されてもよい。
【0080】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、上述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【符号の説明】
【0081】
1 :舗装構造
2 :防水層
3 :表層
4 :接着剤
7 :コンクリート桁材
8 :間詰めコンクリート
9 :壁高欄
21 :セメント系材料層
22 :樹脂系材料層
A :上部構造物
P :勾配
X :橋軸方向
Y :橋軸直交方向