(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】均質混合気供給装置
(51)【国際特許分類】
F02M 35/10 20060101AFI20240318BHJP
G01N 21/64 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
F02M35/10 101Z
G01N21/64 Z
(21)【出願番号】P 2020183381
(22)【出願日】2020-11-01
【審査請求日】2023-08-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 開催日 : 令和 2年 9月24日 集会名 : 第48回 可視化情報シンポジウム 開催場所 : 新型コロナウィルス感染症の影響に伴い、当該シンポジウムはWeb開催として、インターネット上で行われた。オンライン講演及び講演論文集にアクセスするためのアドレスはそれぞれ、以下の通り(但し、アクセス権限即ちID及びパスワードを有している者のみがアクセスできる)。 https://vsj-symp2020.webex.com/vsj-symp2020-jp/onstage/g.php?MTID=e171c19ff17f255da7521f706c5d6da32(イベント番号:170 960 6927) https://shunkosha1.sakura.ne.jp/vsj2020/ 公開者 : ダイハツ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】島 祐太
(72)【発明者】
【氏名】草塲 耕佑
(72)【発明者】
【氏名】吉田 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】北畠 智融
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-085631(JP,A)
【文献】特開2006-242172(JP,A)
【文献】特開平11-094828(JP,A)
【文献】特開2007-170934(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0256330(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 35/10
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光剤を添加した燃料と吸気との混合気を気筒に吸引させこれにレーザ光を照射して蛍光剤を蛍光させて観測するレーザ誘起蛍光法を用いるにあたり、その蛍光輝度と実際の空燃比との関係を求めるキャリブレーションを行うために使用できる均質混合気供給装置であって、
気筒に連なり気筒に吸入される吸気が流通する吸気管路と、この吸気管路に流入する吸気に対して燃料を加える燃料供給装置とを具備し、
前記吸気管路における、前記燃料供給装置から
当該燃料供給装置の下流かつ気筒の上流にある絞りまたはスロットルバルブまでの管路長Lを、燃料供給装置から吸気に加えられる燃料が吸気管路内で気化するのに要する時間Tと、気筒に吸入される吸気の単位時間あたりの流量Vとを基に、L>T×Vとなるように設定した均質混合気供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所望の空燃比に調整した高度に均質な混合気を供給することのできる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の気筒における混合気の燃焼やノッキングの発生等の事象を分析、探求する目的で、レーザ誘起蛍光法(Laser Induced Fluorescence)により気筒に吸入された混合気の分布の挙動を観測することが試みられている。
【0003】
LIFでは、予め蛍光剤(例えば、トルエン)を添加した燃料を吸気に噴射して混合気を得、その混合気を透明なガラスシリンダに吸入させ、かつその混合気に対してレーザ光を照射して蛍光剤を蛍光発光させる。そして、状況を高速度カメラにより撮影する。混合気中の蛍光剤の密度が高くなると、蛍光強度即ち輝度が高くなる。よって、撮影画像上の輝度の濃淡から、筒内の燃料の分布を知得することができる。輝度の高い箇所は燃料が濃く、輝度の低い箇所は燃料が薄いということになる(以上、下記先行技術文献を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】田村 雅之、田井 秀男“レーザー誘起蛍光による濃度・温度測定”、学会誌「ながれ」、一般社団法人日本流体力学会、平成11年、第18巻、第4号、p.222-227
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
吸気が流通する吸気管路に燃料供給装置であるインジェクタから燃料を噴射し、しかる後気筒に吸入される混合気は、全体的に均質なものではなく、空気(そして、それに含まれる酸素)の濃度にしても燃料(及び、蛍光剤)の濃度にしても局所的なむらが生じる。このことは、車両等に搭載され実際に運用されている内燃機関でも同じである。
【0007】
それ故、上述のLIFを用いたとしても、筒内の各所における混合気の空燃比の値を精確に知ることは困難である。把握できるのはあくまでも、ある箇所の燃料及び蛍光剤の密度が他の箇所のそれよりも相対的に濃い、または薄いといった定性的なことに限られる。筒内の各所の空燃比の値が明らかでない以上、CAE(Computer Aided Engineering)による解析、計算によっても、燃焼やノッキングの発生等を高い精度で予測することはできない。
【0008】
本発明は、以上の問題に着目してなされたものであり、所望の空燃比に調整した高度に均質な混合気を気筒に供給できる混合気供給装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、気蛍光剤を添加した燃料と吸気との混合気を気筒に吸引させこれにレーザ光を照射して蛍光剤を蛍光させて観測するLIFを用いるにあたり、その蛍光輝度と実際の空燃比との関係を求めるキャリブレーションを行うために使用できる均質混合気供給装置であって、気筒に連なり気筒に吸入される吸気が流通する吸気管路と、この吸気管路に流入する吸気に対して燃料を加える燃料供給装置とを具備し、前記吸気管路における、前記燃料供給装置から当該燃料供給装置の下流かつ気筒の上流にある絞りまたはスロットルバルブまでの管路長Lを、燃料供給装置から吸気に加えられる燃料が吸気管路内で気化するのに要する時間Tと、気筒に吸入される吸気の単位時間あたりの流量Vとを基に、L>T×Vとなるように設定した均質混合気供給装置を構成した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、所望の空燃比に調整した高度に均質な混合気を気筒に供給できる混合気供給装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態の均質混合気供給装置を示す図。
【
図2】LIFを用いた気筒内の混合気の濃度分布の計測の模様を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に示す本実施形態の均質混合気供給装置0は、吸気が流入しその吸気を気筒4まで導く吸気管路1と、吸気管路1の中途で当該吸気管路1を流通する吸気に対して燃料を加える燃料供給装置2と、吸気管路1における燃料供給装置2の上流及び下流にそれぞれ配設したヒータ31、32と、吸気管路1における燃料供給装置2の上流及び燃料供給装置2の近傍に敷設した油水恒温装置33と、吸気管路1における燃料供給装置2の下流で吸気の流路断面積を縮小させる絞り(オリフィス)12とを備えている。
【0013】
燃料供給装置2は、普遍的な内燃機関にも実装される、吸気に対して燃料を噴射するインジェクタである。燃料には、予め蛍光剤、例えばトルエン等が添加されており、この蛍光剤と燃料とをともに吸気に向けて噴射することになる。なお、燃料供給装置2として、キャブレタ(気化器)を採用することを妨げない。
【0014】
燃料供給装置2の上流のヒータ31は、吸気管路1に流入する吸気を予め加温し、以て燃料の気化及び混合を促進するものである。
【0015】
油水恒温装置33は、吸気管路1の最上流部のエアクリーナ11、吸気管路1及び燃料供給装置2の近傍に流体を流し、かつその流体を適宜の温度に調温してその温度を維持するべく熱交換を行うものである。油水恒温装置33は、ヒータ31とともに、燃料供給装置2から燃料が加えられる吸気の温度、圧力及び湿度を所望の状態に保つために働く。
【0016】
燃料供給装置2の下流のヒータ32は、例えば、吸気管路1の外周に巻き付けられるリボンヒータ(または、テープヒータ)であり、燃料が加えられた吸気を再び加温して燃料の気化及び混合を促進するものである。
【0017】
絞り12は、吸気管路1の終端近傍の部位、スロットルバルブ13の直上流にあって、燃料が加えられた吸気即ち混合気の均質性をより一層向上させるために設けられている。吸気管路1の内径が例えば40mmであれば、絞り12の内径は例えば10mmに設定する。スロットルバルブ13の下流には、気筒4が所在する。
【0018】
しかして、本実施形態では、吸気管路1における、燃料供給装置2から絞り12またはスロットルバルブ13までの管路長Lを、燃料供給装置2から加えられた燃料が完全に蒸発し吸気と十分に混ざり合うような長さに設定している。詳述すると、燃料供給装置2から吸気に加えられる燃料が吸気管路1内で気化するのに要する時間Tと、吸気管路1を流通して気筒4に吸入される吸気の単位時間あたりの流量Vとに基づき、L>T×Vとなるように管路長Lを決定する。
【0019】
具体例を挙げると、燃料供給装置2たるインジェクタから噴射される燃料の液滴の平均粒子径(特に、体表面積平均径(Sauter Mean Diameter))より10%以上大きい、直径0.05mmの燃料液滴が、60℃の環境条件下で蒸発する時間Tを求めると、0.27秒となる(参考文献:嶽間沢 秀孝“高温壁面上における燃料の蒸発特性”、近畿大学工学部研究報告、平成23年、No.45、p.99-102)。他方、吸気管路1内での吸気の平均流速Vを熱線流速計で計測した結果が3.16m/秒であったとすると、管路長Lは0.85m以上必要であるということになる。
【0020】
図2は、LIFを用いた気筒4内の混合気の濃度分布の計測システムの概要である。内燃機関の気筒4に相当する透明なガラスシリンダの吸気ポートに、本実施形態の均質混合気供給装置0が生成した、所望の空燃比に調整した均質な混合気を供給し、これをガラスシリンダ4に吸入させる。
【0021】
そして、ガラスシリンダ4に対してレーザ光を照射し、シリンダ4内の混合気に含まれる蛍光剤を蛍光発光させ、その様相を高速度カメラ7により撮影、観測する。レーザ発振器5は、蛍光剤が吸収して蛍光することのできる波長帯のレーザを出力する。一例として、蛍光剤がトルエンである場合、レーザ発振器5は波長266nmのレーザ光を出力するNd:YAGレーザであり、そのレーザ光をミラー61及びシリンドリカルレンズ62を介してシート光化した上で、シリンダ4に入射させる。
【0022】
本実施形態では、蛍光剤を添加した燃料と吸気との混合気を気筒4に吸引させこれにレーザ光を照射して蛍光剤を蛍光させて観測するLIFを用いるにあたり、その蛍光輝度と実際の空燃比との関係を求めるキャリブレーションを行うために使用できる均質混合気供給装置0であって、気筒4に連なり気筒4に吸入される吸気が流通する吸気管路1と、この吸気管路1に流入する吸気に対して燃料を加える燃料供給装置2とを具備し、前記吸気管路1における、前記燃料供給装置2から絞り12または気筒4の上流のスロットルバルブ13までの管路長Lを、燃料供給装置2から吸気に加えられる燃料が吸気管路1内で気化するのに要する時間Tと、気筒4に吸入される吸気の単位時間あたりの流量Vとを基に、L>T×Vとなるように設定した均質混合気供給装置0を構成した。
【0023】
本実施形態によれば、所望の空燃比に調整した、そして高度に均質なむらのない混合気を気筒4に供給することができる。これを利用して、上述のLIFにおける、高速度カメラ7により撮影した画像の輝度(画素値)と、その輝度に対応する実際の空燃比の値との関係を知ることができ、LIFシステムのキャリブレーションを行うことが可能となる。
【0024】
このようなキャリブレーションを実行した後、LIFにより実際の内燃機関に近い(本実施形態の均質混合気供給装置0を使用しない、実機に近い吸気系及び燃料噴射により生成した混合気を気筒4に吸入させた)状態での筒内流動を撮影すれば、筒内の混合気の空燃比の分布をより精確に確認することが可能となり、燃焼やノッキングの発生の予測精度の向上を見込める。
【0025】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。各部の具体的構成は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0026】
0…均質混合気供給装置
1…吸気管路
13…スロットルバルブ
2…燃料供給装置
4…気筒
L…管路長