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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】基準器の校正値の診断方法及び診断装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 5/00 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
G01B5/00 P
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021024543
(22)【出願日】2021-02-18
(65)【公開番号】P2022126458
(43)【公開日】2022-08-30
【審査請求日】2023-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121142
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 恭一
(72)【発明者】
【氏名】小島 拓也
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-138921(JP,A)
【文献】特開2010-169635(JP,A)
【文献】特開平05-187868(JP,A)
【文献】特開2007-101279(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 5/00ー 5/30
G01B 21/00-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2軸以上の並進軸と、複数の測定ポイントを有する基準器を設置可能なテーブルと、センサを取付可能な先端機器とを有し、前記先端機器に保持された前記センサが、前記並進軸により、前記基準器に対して並進2自由度以上の相対運動が可能である機械を用いて、前記基準器の校正値の誤差を診断する方法であって、
前記基準器を前記テーブルの所定の設置位置に設置する基準器設置ステップと、
前記センサを用いて、前記基準器の各前記測定ポイントを検出することで、各前記測定ポイントの相対的な位置に関する計測値を取得する計測ステップと、
予め取得した各前記測定ポイントの相対的な位置に関する校正値と、前記計測値とに基づいて誤差値を算出する誤差値算出ステップと、
を前記設置位置を変えて複数回実行した後、
各前記設置位置でのそれぞれの前記誤差値同士の類似度を計算する類似度算出ステップと、
前記類似度に基づいて前記校正値の誤差の有無を診断する診断ステップと、
を実行することを特徴とする基準器の校正値の診断方法。
【請求項2】
前記診断ステップでは、前記類似度算出ステップで算出された全ての前記類似度が、予め設定された閾値を超えるか否かを判別し、少なくとも1つの前記類似度が前記閾値を超えている場合に前記校正値に誤差が発生していると診断することを特徴とする請求項1に記載の基準器の校正値の診断方法。
【請求項3】
前記診断ステップで前記校正値の誤差が発生していると診断した場合、当該誤差の発生を報知する報知ステップをさらに実行することを特徴とする請求項1又は2に記載の基準器の校正値の診断方法。
【請求項4】
前記類似度算出ステップでは、複数の前記設置位置のうちの1つの前記設置位置で取得する前記誤差値と、他の前記設置位置で取得する前記誤差値とのユークリッド距離に基づいて前記類似度を計算することを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の基準器の校正値の診断方法。
【請求項5】
前記類似度算出ステップでは、複数の前記設置位置のうちの1つの前記設置位置で取得する前記誤差値と、他の前記設置位置で取得する前記誤差値とをそれぞれ鮮鋭化フィルタ処理を行ってから前記類似度を計算することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の基準器の校正値の診断方法。
【請求項6】
前記類似度算出ステップを実行する前に、各前記設置位置でそれぞれ算出した各前記誤差値の最大値と最小値との差分を計算し、前記差分が予め設定した差分閾値以上の場合に前記類似度算出ステップを実行することを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の基準器の校正値の診断方法。
【請求項7】
2軸以上の並進軸と、複数の測定ポイントを有する基準器を設置可能なテーブルと、センサを保持可能な先端機器とを有し、前記先端機器に保持された前記センサが、前記並進軸により、前記基準器に対して並進2自由度以上の相対運動が可能である機械を用いて、前記基準器の校正値の誤差を診断する装置であって、
前記センサを用いて、前記テーブルの所定の設置位置に設置された前記基準器の各前記測定ポイントを検出することで、各前記測定ポイントの相対的な位置に関する計測値を取得する計測手段と、
予め取得した各前記測定ポイントの相対的な位置に関する校正値と、前記計測値とに基づいて誤差値を算出する誤差値算出手段と、
を前記設置位置を変えて複数回実行可能であると共に、
各前記設置位置でのそれぞれの前記誤差値同士の類似度を計算する類似度算出手段と、
前記類似度に基づいて前記校正値の誤差の有無を診断する診断手段と、
を備えることを特徴とする基準器の校正値の診断装置。
【請求項8】
前記診断手段は、前記類似度算出手段で算出された全ての前記類似度が、予め設定された閾値を超えるか否かを判別し、少なくとも1つの前記類似度が前記閾値を超えている場合に前記校正値に誤差が発生していると診断することを特徴とする請求項7に記載の基準器の校正値の診断装置。
【請求項9】
前記診断手段で前記校正値の誤差が発生していると診断した場合、当該誤差の発生を報知する報知手段をさらに備えることを特徴とする請求項7又は8に記載の基準器の校正値の診断装置。
【請求項10】
前記類似度算出手段は、複数の前記設置位置のうちの1つの前記設置位置で取得する前記誤差値と、他の前記設置位置で取得する前記誤差値とのユークリッド距離に基づいて前記類似度を計算することを特徴とする請求項7乃至9の何れかに記載の基準器の校正値の診断装置。
【請求項11】
前記類似度算出手段は、複数の前記設置位置のうちの1つの前記設置位置で取得する前記誤差値と、他の前記設置位置で取得する前記誤差値とをそれぞれ鮮鋭化フィルタ処理を行ってから前記類似度を計算することを特徴とする請求項7乃至10の何れかに記載の基準器の校正値の診断装置。
【請求項12】
前記類似度算出手段を実行する前に、各前記設置位置でそれぞれ算出した各前記誤差値の最大値と最小値との差分を計算し、前記差分が予め設定した差分閾値以上の場合に前記類似度算出手段による前記類似度の算出を行うことを特徴とする請求項7乃至11の何れかに記載の基準器の校正値の診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械等の機械の運動誤差の補正制御に用いる基準器の校正値を診断する方法及び診断する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、3つの並進軸を有するマシニングセンタ1の模式図である。
主軸頭2は、並進軸であり互いに直交するY・Z軸によって並進2自由度の運動が可能である。テーブル3は、並進軸でありY・Z軸に直交するX軸により並進1自由度の運動が可能である。したがって、主軸頭2は、テーブル3に対して並進3自由度を有する。各軸は、数値制御装置により制御されるサーボモータにより駆動され、被加工物をテーブル3に固定し、主軸頭2に工具を装着して回転させ、被加工物を任意の形状に加工する。
【0003】
このような工作機械の運動誤差として、位置決め誤差や真直度といったものがある。これらの運動誤差は、被加工物の形状に転写され、被加工物の形状・寸法誤差の要因となる。運動誤差は、予めターゲットの相対位置が校正された基準器を用いて測定することができる。例えば、特許文献1には、プローブで基準器となるマスタブロックの直線部を直線補間送りによって測定し、マスタブロックの直線部形状に関する校正値と測定結果との偏差を元に、直線補間送りの誤差に対する補正パラメータを計算し、計算した補正パラメータを元に補正制御を行う方法が開示されている。
しかし、基準器の校正値に誤差がある場合、それが測定誤差となる。
これに対して、特許文献2には、チェックゲージの一側面の直動測定を行って第1のデータを取得した後、チェックゲージを軸心を中心に180°回転させて同一面の直動測定を行って第2のデータを取得し、両データの差を真直度誤差補正量とする発明が開示されている。このような反転法を用いることで、基準器の校正値と機械の運動誤差とを分離して測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-138921号公報
【文献】特開平5-187868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載されている反転法では、基準器をテーブル上の同一位置に設置して複数回計測を行う必要があるため、その分計測に時間を要する。また、1つの設置位置あたり一度しか計測しない場合には、校正値に誤差があっても気づくことができない。さらに、基準器のターゲットの間隔に関する校正値を診断することができない。
【0006】
そこで、本発明は、基準器の校正値の誤差の有無を診断することができる基準器の校正値の診断方法及び診断装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明のうち、第1の発明は、2軸以上の並進軸と、複数の測定ポイントを有する基準器を設置可能なテーブルと、センサを取付可能な先端機器とを有し、前記先端機器に保持された前記センサが、前記並進軸により、前記基準器に対して並進2自由度以上の相対運動が可能である機械を用いて、前記基準器の校正値の誤差を診断する方法であって、
前記基準器を前記テーブルの所定の設置位置に設置する基準器設置ステップと、
前記センサを用いて、前記基準器の各前記測定ポイントを検出することで、各前記測定ポイントの相対的な位置に関する計測値を取得する計測ステップと、
予め取得した各前記測定ポイントの相対的な位置に関する校正値と、前記計測値とに基づいて誤差値を算出する誤差値算出ステップと、
を前記設置位置を変えて複数回実行した後、
各前記設置位置でのそれぞれの前記誤差値同士の類似度を計算する類似度算出ステップと、
前記類似度に基づいて前記校正値の誤差の有無を診断する診断ステップと、
を実行することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記診断ステップでは、前記類似度算出ステップで算出された全ての前記類似度が、予め設定された閾値を超えるか否かを判別し、少なくとも1つの前記類似度が前記閾値を超えている場合に前記校正値に誤差が発生していると診断することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記診断ステップで前記校正値の誤差が発生していると診断した場合、当該誤差の発生を報知する報知ステップをさらに実行することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記類似度算出ステップでは、複数の前記設置位置のうちの1つの前記設置位置で取得する前記誤差値と、他の前記設置位置で取得する前記誤差値とのユークリッド距離に基づいて前記類似度を計算することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記類似度算出ステップでは、複数の前記設置位置のうちの1つの前記設置位置で取得する前記誤差値と、他の前記設置位置で取得する前記誤差値とをそれぞれ鮮鋭化フィルタ処理を行ってから前記類似度を計算することを特徴とする。
第1の発明の別の態様は、上記構成において、前記類似度算出ステップを実行する前に、各前記設置位置でそれぞれ算出した各前記誤差値の最大値と最小値との差分を計算し、前記差分が予め設定した差分閾値以上の場合に前記類似度算出ステップを実行することを特徴とする。
上記目的を達成するために、本発明のうち、第2の発明は、2軸以上の並進軸と、複数の測定ポイントを有する基準器を設置可能なテーブルと、センサを保持可能な先端機器とを有し、前記先端機器に保持された前記センサが、前記並進軸により、前記基準器に対して並進2自由度以上の相対運動が可能である機械を用いて、前記基準器の校正値の誤差を診断する装置であって、
前記センサを用いて、前記テーブルの所定の設置位置に設置された前記基準器の各前記測定ポイントを検出することで、各前記測定ポイントの相対的な位置に関する計測値を取得する計測手段と、
予め取得した各前記測定ポイントの相対的な位置に関する校正値と、前記計測値とに基づいて誤差値を算出する誤差値算出手段と、
を前記設置位置を変えて複数回実行可能であると共に、
各前記設置位置でのそれぞれの前記誤差値同士の類似度を計算する類似度算出手段と、
前記類似度に基づいて前記校正値の誤差の有無を診断する診断手段と、
を備えることを特徴とする。
第2の発明の別の態様は、上記構成において、前記診断手段は、前記類似度算出手段で算出された全ての前記類似度が、予め設定された閾値を超えるか否かを判別し、少なくとも1つの前記類似度が前記閾値を超えている場合に前記校正値に誤差が発生していると診断することを特徴とする。
第2の発明の別の態様は、上記構成において、前記診断手段で前記校正値の誤差が発生していると診断した場合、当該誤差の発生を報知する報知手段をさらに備えることを特徴とする。
第2の発明の別の態様は、上記構成において、前記類似度算出手段は、複数の前記設置位置のうちの1つの前記設置位置で取得する前記誤差値と、他の前記設置位置で取得する前記誤差値とのユークリッド距離に基づいて前記類似度を計算することを特徴とする。
第2の発明の別の態様は、上記構成において、前記類似度算出手段は、複数の前記設置位置のうちの1つの前記設置位置で取得する前記誤差値と、他の前記設置位置で取得する前記誤差値とをそれぞれ鮮鋭化フィルタ処理を行ってから前記類似度を計算することを特徴とする。
第2の発明の別の態様は、上記構成において、前記類似度算出手段を実行する前に、各前記設置位置でそれぞれ算出した各前記誤差値の最大値と最小値との差分を計算し、前記差分が予め設定した差分閾値以上の場合に前記類似度算出手段による前記類似度の算出を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、テーブル上で基準器の位置もしくは方向を変えて測定を行い、複数の計測結果の類似度を計算することで、基準器の校正値の誤差の有無を診断することができる。これにより、反転法のように同一位置で複数回計測を行う必要が無くなるため、計測に要する時間を削減することができる。また、1つの設置位置あたり一度しか計測しない場合においても、校正値の誤差が大きいまま測定を継続することが無くなるため、測定の信頼性を高めることができる。さらに、基準器のターゲットの間隔に関する校正値の誤差も診断することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】X軸、Y軸、Z軸の並進軸を有するマシニングセンタの模式図である。
図2】形態1における基準器の校正値の診断方法のフローチャートである。
図3】形態1における類似度を計算する方法のフローチャートである。
図4】形態1におけるマシニングセンタの制御機構を示すブロック図である。
図5】形態1におけるタッチプローブとテーブル上に設置された基準器との模式図である。
図6】形態1におけるタッチプローブと移動後の基準器との模式図である。
図7】形態1における基準器全体が変形している場合の誤差値の例である。
図8】形態1における7番目のターゲットに校正値の誤差がある誤差値の例である。
図9】形態1における計測再現のばらつきによるランダムな誤差値の例である。
図10】形態1における7番目のターゲットに校正値の誤差がある誤差値をフィルタ処理した例である。
図11】形態1におけるランダムな誤差値をフィルタ処理した例である。
図12】形態1における計算した類似度の説明図である。
図13】形態2におけるタッチプローブとテーブル上に設置された基準器との模式図である。
図14】形態2における基準器の校正値の診断方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[形態1]
本発明の一実施形態を、図2図3のフローチャートにもとづいて説明する。適用する機械としては、図1のマシニングセンタ1を例に説明する。
マシニングセンタ1は、図4の制御装置(NC装置)21により制御される。制御装置21は、X,Y,Zの各軸の並進用サーボモータの制御の他、本発明の基準器の校正値の診断装置として後述する校正値の診断方法を実行する。すなわち、計測手段26によりターゲットの位置を計測し、記憶手段23において計測結果などを記憶し、演算手段22において後述する誤差値及び類似度の算出といった各種演算処理を行う。よって、演算手段22は、本発明の誤差値算出手段、類似度算出手段、診断手段として機能する。
また、制御装置21は、基準器の校正値の入力などを行う入力手段24や、オペレータに情報を伝達する報知手段としての出力手段25を備える。
【0011】
本発明では、図5に示すように、センサとしてのタッチプローブ11を、先端機器としての主軸頭2に装着させ、測定対象となる基準器12をテーブル3の第1設置位置に設置し(S1:基準器設置ステップ)、基準器12上の複数個(ここでは10個)のターゲット球のZ方向の位置をタッチプローブ11で測定する(S2:計測ステップ)。各ターゲット球の相対的な位置関係は、高精度な測定器で予め測定され、測定結果が校正値として記録されている。
校正値から求められるターゲット球PとPi(i=1~10)の間隔をc(i)、間隔の計測結果をm1(i)とすると、第1誤差値δ1(i)は、下式で求められる(S3:誤差値算出ステップ)。
【0012】
【数1】
【0013】
次に、図6に示すように基準器12を第2設置位置に移動させ(S4:基準器移動(設置)ステップ)、移動前と同様の計測を行う(S5:計測ステップ)。なお、第2設置位置は、第1設置位置と同じ方向でなくてもよい。校正値から求められるターゲット球PとPj(j=1~10)の間隔をc(j)、間隔の計測結果をm2(j)とすると、第2誤差値δ2(j)は、下式で求められる(S6:誤差値算出ステップ)。
【0014】
【数2】
【0015】
続けて得られた第1誤差値と第2誤差値との類似度を計算する(S7:類似度算出ステップ)。本例では、図7の基準器全体の変形による凹形状の誤差値例1と、図8の7点目に校正値の誤差がある誤差値例2と、図9の計測の再現性による誤差が生じている誤差値例3とを例にして説明する。
得られた第1誤差値、第2誤差値について、図8のような特定のターゲットに生じている校正値の誤差を診断対象とする場合には、鮮鋭化フィルタによるフィルタ処理を行う(S7-1)。これにより、精度の高い診断を行うことができる。
例えば、下式のようにSavitzky-Golayフィルタを利用して誤差値のゆるやかな変化成分を抽出し、それを誤差値δ1, δ2から差し引くことで、誤差値の急な変化成分δ1’, δ2’を算出することができる。
【0016】
【数3】
【0017】
図8の誤差値例2と、図9の誤差値例3に対してフィルタ処理を行うと、図10図11のようになる。一方、図7のような緩やかに変化する誤差を診断対象とする場合、フィルタ処理は不要であり、δ1’(i)=δ1(i)、δ2’(i)=δ2(i)(i=1~10)とする。
続けて、基準長さを用いて誤差値を正規化する(S7-2)。本例では、第1誤差値と第2誤差値との各10個の誤差値を要素とした第1ベクトルと第2ベクトルとの2つの10次元ベクトルの長さL1,L2のうち、長いほうを基準長さLとする。ベクトルの長さは下式で計算する。
【0018】
【数4】
【0019】
基準長さLを用いて各ベクトルを下式のように正規化することで、長さ1以下の第1正規化ベクトルe1(i)と第2正規化ベクトルe2(i)とが得られる。
【0020】
【数5】
【0021】
次に、第1正規化ベクトルと第2正規化ベクトルとをもとに、下式のようにユークリッド距離|d|を計算する(S7-3)。
【0022】
【数6】
【0023】
第1正規化ベクトルと第2正規化ベクトルとは長さ1以下のベクトルであるため、ユークリッド距離|d|の取りうる範囲は0≦|d|≦2である。より扱いやすい数値とするため、ユークリッド距離|d|を用いて下式のように類似度Dを計算する(S7-4)。
【0024】
【数7】
【0025】
類似度Dは、-1≦D≦1となり、1に近いほど2つの誤差値の類似度が高くなる。
各誤差値例に対して類似度を計算すると、図12のような類似度となり、校正値に誤差がある誤差値例1と誤差値例2とにおいて、類似度が高くなる。一方、計測の再現性による誤差値である誤差値例3では類似度は低くなる。
【0026】
そして、S7で計算された全ての類似度が、予め設定された閾値以内か否かを判別する(S8:診断ステップ)。ここで少なくとも1つの類似度が閾値を超える場合は、出力手段25を用いて、基準器の校正値の誤差が発生している旨の警告メッセージを出力する(S9:報知ステップ)。よって、オペレータは、基準器を再校正する等の対策を講じることができる。
【0027】
上記形態1の基準器12の校正値の診断方法及び診断装置によれば、テーブル3上で基準器12の位置もしくは方向を変えて測定を行い、複数の計測結果の類似度を計算することで、基準器12の校正値の誤差の有無を診断することができる。これにより、反転法のように同一位置で複数回計測を行う必要が無くなるため、計測に要する時間を削減することができる。また、1つの設置位置あたり一度しか計測しない場合においても、校正値の誤差が大きいまま測定を継続することが無くなるため、測定の信頼性を高めることができる。さらに、基準器12のターゲット球の間隔に関する校正値の誤差も診断することが可能である。
【0028】
[形態2]
次に、本発明の他の形態を説明する。
マシニングセンタ1及び制御装置21の構成は先の形態1と同じであるが、ここでは図13に示すように、ターゲット球を備えない基準器12をテーブル3に設置し、基準器12の測定面となる上面に設定された複数の測定ポイントの位置をタッチプローブ11で測定する。基準器12の測定面は高い平面度で加工されており、測定面上の複数の測定ポイントの相対的な位置関係は、高精度な測定器で予め測定され、測定結果が校正値として記録されている。
【0029】
次に、形態2における基準器12の校正値の診断方法について、図14のフローチャートに基づいて説明する。
まず、S11から、基準器の設置位置ループを実行する。すなわち、設置位置sを変更して、S11~S17の処理を所定の回数繰り返す。設置位置については同一軸に平行な方向の別の位置でもよいし、別の軸に平行な方向に設置してもよい。本例ではX軸に平行な方向の別の位置に設置する例について説明する。
S12で、基準器12を設置位置sに設置する(基準器設置ステップ)。
S13で、基準器12のj番目の測定ポイントPjのZ方向の位置をタッチプローブ11で測定し、X軸の指令値Xcs,jにおける計測値Zms,jを得る(計測ステップ)。
S14で、計測値Zms,jと、基準器12の校正値Zcjとで差分をとって、誤差値dZms,jを算出する(dZms,j=Zms,j-Zcj)。特にここでは、基準器12の設置誤差による計測値の誤差を除去した誤差値dZs,jを計算する(誤差値算出ステップ)。この計算については後述する。
【0030】
S15で、設置位置ループが2回目以降かどうか判定する。2回目以降の場合のみS16~S17を行う。
S16で、類似度算出時に基準とする設置位置と設置位置sとにおいて、それぞれの設置位置における誤差値dZs,jの最大値と最小値との差(誤差幅)が、予め設定した差分閾値以上かどうか判定する。誤差幅が差分閾値を下回る場合は類似度を計算しない。
S16の判定で、誤差幅が差分閾値以上の場合は、S17で、ある設置位置の測定結果に対する設置位置sの測定結果の類似度を計算する(類似度算出ステップ)。詳細は後述する。
S18で、S17にて計算された全ての類似度が予め設定された閾値以内かどうか判定する(診断ステップ)。少なくとも1つの類似度が閾値を超える場合、S19で、出力手段25を用いて警告メッセージを出力する(報知ステップ)。
【0031】
次に、S14での誤差値dZs,jの計算方法について説明する。ここではX軸のZ方向成分真直度を測定する例をもとに説明する。
X軸の真直度の測定において、基準器12の測定面がX軸に対して傾いている場合、設置位置sにおける測定ポイントPjの測定において、基準器12の設置誤差による下式のZ方向誤差dZws,jが発生する。
【0032】
【数8】
【0033】
ここで、Xcs,jは、設置位置sにおいて、測定ポイントPjを測定する際のX軸指令値である。
数8のawsとbwsとは、最小二乗法などを用いて下式を解くことで求める。
なお、位置決め精度測定の場合には、aws=0となる。
【0034】
【数9】
【0035】
全測定ポイントに対して下式のように誤差値dZms,jからZ方向誤差dZws,jを差し引くことで、基準器12の設置誤差の影響を取り除いたZ方向成分の誤差値dZs,jを求めることができる。
【0036】
【数10】
【0037】
誤差値dZs,jには、X軸位置に依存する誤差dZa(Xcs,j)と、測定ポイントPjの校正値の誤差dZpsとが含まれる。このため、基準器12を設置位置sに設置して測定ポイントPjを測定したときの誤差値dZs,jを下式のように表すことができる。
【0038】
【数11】
【0039】
次に、S17の類似度の計算方法について説明する。ここでは設置位置1の測定結果に対する設置位置2の類似度を計算する例を説明する。
設置位置1で得られた誤差値dZ,jと設置位置2で得られた誤差値dZ,jとの差は、下式のように各誤差値のユークリッド距離||d||として表すことができる。
【0040】
【数12】
【0041】
数12に示すように、ユークリッド距離||d||は、X軸位置に依存する誤差dZa(Xcs,j)にのみ依存する。
一方、設置位置1と設置位置2との各N個の誤差値を要素としたN次元ベクトルの長さL,Lを、下式のようにして計算し、長い方を基準長さLとする。
【0042】
【数13】
【0043】
ユークリッド距離||d||と基準長さLとを用いて、類似度Dを下式のように定義する。
【0044】
【数14】
【0045】
設置位置1で得られた誤差値dZ,jと、設置位置2で得られた誤差値dZ,jとが同じである場合は、D=1、正反対(dZ,j=-dZ,j)の場合は、D=-1、半分(dZ,j=-dZ,j/2)の場合は、D=1/2となる。
特に、X軸位置に依存する誤差dZa(Xci,j)と比較して、測定ポイントPjの校正値の誤差dZpsが大きいほど、類似度Dは1に近くなる。
【0046】
上記形態2の基準器12の校正値の診断方法及び診断装置においても、テーブル3上で基準器12の位置もしくは方向を変えて測定を行い、複数の計測結果の類似度を計算することで、基準器12の校正値の誤差の有無を診断することができる。これにより、反転法のように同一位置で複数回計測を行う必要が無くなるため、計測に要する時間を削減することができる。また、1つの設置位置あたり一度しか計測しない場合においても、校正値の誤差が大きいまま測定を継続することが無くなるため、測定の信頼性を高めることができる。
【0047】
以下、本発明の変更例について説明する。
上記形態1,2は、X軸のZ方向成分真直度を測定する例で説明しているが、その他の軸、その他の成分の真直度や位置決め精度を測定する場合に対しても、本発明を実施することができる。
基準器の形状も上記形態1,2に限らず、適宜変更可能である。位置決め精度を測定する場合には、測定面間の距離を校正値として持つ基準器でもよい。
上記形態1,2では、マシニングセンタを例示して説明しているが、適用する機械としては、複合加工機や旋盤、研削盤等の他の工作機械でもよい。また、工作機械に限らず、産業機械やロボットでもよい。
【符号の説明】
【0048】
1・・マシニングセンタ、2・・主軸頭、3・・テーブル、11・・タッチプローブ、12・・基準器、21・・制御装置、22・・演算手段、23・・記憶手段、24・・入力手段、25・・出力手段。
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