(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】セラミックス組成物及び当該セラミックス組成物を用いた電子部品
(51)【国際特許分類】
C04B 35/22 20060101AFI20240318BHJP
C04B 35/462 20060101ALI20240318BHJP
H01B 3/12 20060101ALI20240318BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20240318BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C04B35/22
C04B35/462
H01B3/12 303
H01B3/12 336
H01B3/12 333
H01B3/12 335
H05K1/03 610D
H05K3/46 H
H05K3/46 T
(21)【出願番号】P 2019063380
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-03-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126572
【氏名又は名称】村越 智史
(72)【発明者】
【氏名】中島 啓之
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-278657(JP,A)
【文献】国際公開第2004/076380(WO,A1)
【文献】特開2006-273676(JP,A)
【文献】特開2012-148919(JP,A)
【文献】特開2004-115295(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/22
C04B 35/462
H01B 3/12
H05K 1/03
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaMgSi
2O
6で表される主相成分と、Li成分及びB成分を含有する添加成分と、を含むセラミックス組成物であって、
前記セラミックス組成物の断面の一部であり複数の単位観察領域に分割された観察視野において、前記添加成分の面積が0.5%以下の単位観察領域である主結晶領域が前記観察視野に対して占める主結晶領域占有率が30%以上であり、
前記観察視野は、50μm×40μmの領域であり、
前記単位観察領域は、5μm×5μm四方の領域であり、
前記セラミック
ス組成物は、前記主相成分100質量部に対し、B成分を酸化物換算で0.1~1質量部含有する、
セラミックス組成物。
【請求項2】
Ba
4(Re
(1-x),Bi
x)
9.33Ti
18O
54で表される主相成分と、Li成分及びB成分を含有する添加成分と、を含むセラミックス組成物であって、
前記セラミックス組成物の断面の一部であり複数の単位観察領域に分割された観察視野において、前記添加成分の面積が0.5%以下の単位観察領域である主結晶領域が前記観察視野に対して占める主結晶領域占有率が30%以上であり、
前記観察視野は、50μm×40μmの領域であり、
前記単位観察領域は、5μm×5μm四方の領域である、
セラミックス組成物。
【請求項3】
前記主結晶領域占有率が90%以下である、
請求項1又は請求項2に記載のセラミックス組成物。
【請求項4】
前記Li成分の酸化物換算での含有量は、前記B成分の酸化物換算での含有量よりも多い、
請求項1から請求項3のいずれかに記載のセラミックス組成物。
【請求項5】
前記主相成分100質量部に対し、Li成分を酸化物換算で0.3~1.5質量部含有し、
前記Li成分の酸化物換算での含有量が前記B成分の酸化物換算での含有量よりも多く、
前記Li成分及び前記B成分の含有量は合計で、酸化物換算で2.25質量部以下とされる、
請求項1、請求項3、又は請求項4のいずれか1項に記載のセラミックス組成物。
【請求項6】
前記主相成分100質量部に対し、SrTiO
3粉末を3.6~19質量部さらに含有する、
請求項5に記載のセラミックス組成物。
【請求項7】
前記主相成分100質量部に対し、Ag成分を酸化物換算で0~3質量部さらに含有する、
請求項5又は請求項6に記載のセラミックス組成物。
【請求項8】
前記主相成分100質量部に対し、Si成分を酸化物換算で0~1質量部さらに含有する、
請求項5から請求項7のいずれか1項に記載のセラミックス組成物。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のセラミックス組成物から成るセラミックス層と、
前記セラミックス層の表面及び/又は内部にあって、前記セラミックス組成物と同時焼成して得られた導体層と、
を備える電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、セラミックス組成物及び当該セラミックス組成物を用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信の高速化に伴い、高周波信号を損失なく伝送することが求められている。このため、情報通信機器の電子部品の内部導体用の材料として銅や銀などの低抵抗金属材料が使用される。電子部品の製造工程において、内部導体は、基板材料に塗布された導電ペーストを当該基板材料と同時に焼成することで形成される。焼成が高温で行われると低抵抗金属が基板材料中に拡散してしまうため、基板材料は、低温での焼結が可能であることが求められる。
【0003】
低温での焼結が可能なセラミックス材料として、CaMgSi2O6で表されるディオプサイドを主成分として含有するセラミックス組成物及びBa4(Re(1-x),Bix)9.33Ti18O54で表されるタングステンブロンズ型疑似固溶体を主相成分として含有するセラミックス組成物が知られている。ディオプサイド結晶を主結晶として含有するセラミックス組成物は、以下の特許文献1~特許文献8に開示されている。タングステンブロンズ型疑似固溶体を主成分として含有するセラミックス組成物は、以下の特許文献9に開示されている。これらの文献に記載されているように、ディオプサイド又はタングステンブロンズ型疑似固溶体を主相成分とする従来のセラミックス組成物は、Li酸化物やB酸化物を含有している。Li成分及びB成分は、セラミックス材料を焼結してセラミックス組成物の焼結体を得る際に焼結助剤として働く。Li成分及びB成分を含むセラミックス材料は低温での焼結が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-278657号公報
【文献】特開2003-286074号公報
【文献】国際公開第2004/076380号公報
【文献】特開2005-289701号公報
【文献】特開2006-273676号公報
【文献】特表2006-523602号公報
【文献】特開2010-037126号公報
【文献】特開2012-188339号公報
【文献】特開2012-148919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高周波回路において用いられる電子部品の基板材料は、誘電損失が少ないことが望まれる。ディオプサイド又はタングステンブロンズ型疑似固溶体を主相成分とし、焼結助剤としてLi酸化物やB酸化物を含有するセラミックス組成物においては、誘電損失のさらなる改善が求められている。
【0006】
本開示の目的の一つは、低温焼結が可能で、高周波領域での誘電損失が改善されたセラミックス組成物及び当該セラミックス組成物を用いた電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、ディオプサイド又はタングステンブロンズ型疑似固溶体の結晶を主結晶として含有するセラミックス材料の焼結に用いられているLi2OやB2O3等の焼結助剤が焼結時に主結晶の成長を阻害する要因となることを発見した。特に、焼結時において焼結助剤の液相の粘度が高いと、主結晶の成長が大きく阻害されることを発見した。
【0008】
焼結助剤は、大きく成長した主相の結晶の周囲や粒界に析出する。本発明者の研究の結果、液相の焼結助剤の粘度を低くすることにより、焼結中に焼結助剤が主相の結晶の周囲や粒界に流動しやすくなるので、焼結後のセラミックス組成物の焼結体において焼結助剤の析出物の偏りが大きくなることが分かった。そこで、本発明の一実施形態によるセラミックス組成物においては、焼結助剤成分を全く又はほとんど含まない主結晶領域の観察視野に対する占有率に着目し、誘電損失を改善する。具体的には、本発明の一実施形態によるセラミックス組成物は、CaMgSi2O6又はBa4(Re(1-x),Bix)9.33Ti18O54で表される主相成分と、Li成分及びB成分を含有する添加成分と、を含み、複数の単位観察領域に分割された観察視野において、前記添加成分の面積が0.5%以下の単位観察領域である主結晶領域が前記観察視野に対して占める主結晶領域占有率が30%以上とされる。これにより、主相の結晶を十分に成長させることができ、その結果、セラミックス組成物のQ値を改善することができる。
【0009】
本発明者はまた、焼結助剤の析出物は主相成分の結晶に比べて低強度であるため、焼結助剤の析出物の存在領域が偏り過ぎると、焼結後のセラミックス組成物の抗折強度が劣化することを発見した。そこで、本発明の一実施形態において、前記主結晶領域占有率は90%以下とされる。これにより、抗折強度の劣化が抑制される。
【0010】
本発明の一実施形態において、前記Li成分の酸化物換算での含有量は、前記B成分の酸化物換算での含有量よりも多い。Li成分の含有量が多くなると、焼結助剤の液相の粘度は低くなるため、Li成分の含有量をB成分の含有量よりも多くすることでQ値が改善される。
【0011】
本発明者は、また、焼結助剤の偏析物が特に高温環境下においてセラミックス組成物の絶縁性を低下させる原因となることを発見した。また、本発明者らは、焼結助剤におけるLi2Oの含有比率がB2O3の含有比率よりも低いと、焼結過程で液相として存在している焼結助剤へのディオプサイドの溶解が不十分となり、セラミックス組成物の焼結体が緻密にならないことを発見した。
【0012】
上記の知見に基づいて、一実施形態におけるセラミックス組成物は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、Li成分を酸化物換算で0.3~1.5質量部、B成分を酸化物換算で0.1~1質量部、含有する。上記実施形態において、前記Li成分の酸化物換算での含有量は、前記B成分の酸化物換算での含有量よりも多い。Li成分の下限が0.3質量部でありB成分の下限が0.1質量部であって、Li成分の含有量がB成分の含有量よりも多いことから、Li成分とB成分の合計での含有量は酸化物換算で0.4質量部よりも多くなる。上記実施形態において、前記Li成分及び前記B成分の合計での含有量は、酸化物換算で2.25質量部以下とされる。
【0013】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、前記ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、SrTiO3粉末を3.6~19質量部さらに含有する。
【0014】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、前記ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、Ag成分を酸化物換算で合計0~3質量部さらに含有する。
【0015】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、前記ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、Si成分を酸化物換算で0~1質量部さらに含有する。
【0016】
一実施形態における電子部品は、上記のセラミックス組成物を焼成して得られたセラミックス層と、前記セラミックス層の表面及び/又は内部にあって、前記セラミックス組成物と同時焼成して得られた導体層と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明の実施形態によれば、低温焼結が可能で、高周波領域での誘電損失が改善されたセラミックス組成物及び当該セラミックス組成物を用いた電子部品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態によるセラミックス組成物の断面に設定された観察視野AにおけるLi元素及びB元素の分布を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるセラミック組成物を用いた積層フィルタの断面を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態におけるセラミックス組成物について説明する。本発明の一実施形態におけるセラミックス組成物は、ディオプサイド結晶粉末又はタングステンブロンズ型疑似固溶体結晶粉末を主成分として含有する。
【0020】
ディオプサイド結晶粉末は、Si、Mg、Caの酸化物、炭酸塩等のガラスでない材料からなるセラミックス粉末を、ディオプサイドの化学量論比(Ca:Mg:Si=1:1:2)となるように混合し、融点以下で加熱し、固相反応法により焼結し、所定粒度に粉砕して製造される。上記セラミックス粉末を焼結して得られたディオプサイド結晶粉末は、Si、Mg、Caをそれらの酸化物、すなわちSiO2、MgO、CaOに換算した含有量が、好ましくは、SiO2が53.5~62質量%、MgOが12~22質量%、CaOが21~32質量%となるように調整し、より好ましくは、SiO2が56~59.5質量%、MgOが15~19質量%、CaOが23.5~29.5質量%となるように調整する。SiO2、MgO、CaOを上記範囲に調整することで、ディオプサイド結晶を析出させやすくなる。
【0021】
SiO2の含有量が62質量%を超えると、ウォラストナイト結晶が生成しやすくなり、誘電損失が大きくなって、強度も低下することがある。また、SiO2の含有量が53.5質量%未満であると、オーケルマナイト結晶が生成し易くなり、誘電損失が大きくなることがある。
【0022】
MgOの含有量が22質量%を超えると、フォルステライト結晶が生成し易くなり、強度が低下し易くなる。また、MgOの含有量が12質量%未満であると、ウォラストナイト結晶が生成し易くなり、誘電損失が大きくなり易い。
【0023】
CaOの含有量が32質量%を超えると、ウォラストナイト結晶や、オーケルマナイト結晶が生成し易くなり、誘電損失が大きくなり、強度が低下し易くなる。また、CaOの含有量が21質量%未満であると、フォルステライト結晶が生成し易くなり、強度が低下し易い。
【0024】
一実施形態において、ディオプサイド結晶粉末の平均粒径は、0.1~2μmの範囲とされる。ディオプサイド結晶粉末の平均粒径が0.1μm未満であると、当該粉末の比表面積(BET値)が大きくなるため、当該ディオプサイド結晶粉末を含むセラミックス材料から作成するグリーンシートの密度が小さくなり易い。このグリーンシートを焼成してセラミックス層を作成すると、得られるセラミックス層は、密度の低さに起因して大きく収縮してしまう。この結果、セラミックス層上に同時焼成により形成される導体層が、当該セラミックス層から剥離し易くなる。また、ディオプサイド結晶粉末の平均粒径が2μmを超えると、当該ディオプサイド結晶粉末を含有するセラミックス材料から薄いグリーンシートを作成することが難しくなる。ディオプサイド結晶粉末の平均粒径は、レーザ回折・散乱法による粒度分布測定の方法で測定した値を意味することができる。
【0025】
本発明の一実施形態によるセラミックス組成物は、SrTiO3粉末を含有してもよい。ディオプサイド結晶は、単独では共振周波数の温度係数τfが負の特性(およそ-65×10-6/℃)を示す。一方、SrTiO3結晶は、共振周波数の温度係数τfが1670×10-6/℃であり、単独では共振周波数の温度係数τfが正の特性を示す。このため、セラミックス組成物にSrTiO3粉末を加えることで、共振周波数の温度係数τfを調整してゼロに近づけることができる。
【0026】
SrTiO3粉末は、ディオプサイド結晶との焼結により、焼結後の結晶相として、SrTiO3単独で、またはSrTiO3にカルシウムが固溶して、(xCa、1-xSr)TiO3型ペロブスカイト化合物が生成される。このペロブスカイト化合物は、共振周波数の温度係数τfが正の値を示すので、SrTiO3粉末は、少量の添加量で、ディオプサイド結晶を含有するセラミックス組成物(焼結体)の共振周波数の温度係数τfを上昇させて、ゼロに近づけることができる。
【0027】
ここで、異種材料が複合したような組成物の共振周波数は、経験的に次の式(1)が成り立つことが知られている。
{複合体の共振周波数の温度係数τf=Σ(各成分の体積分率(vol%)×各成分の共振周波数の温度係数τf)} ・・・(1)
【0028】
また、異種材料が複合した組成物の誘電率についても、経験的に次の式(2)が成り立つことが知られている。
{log(複合体の誘電率ε)=Σ(各成分の体積分率(vol%)×log(各成分の誘電率ε)} ・・・(2)
【0029】
そして、SrTiO3の共振周波数の温度係数τf及び誘電率εは、τf=1670×10-6、ε=255である。よって、ディオプサイド結晶を主成分とするセラミックス材料にSrTiO3粉末を加え、このセラミックス材料を焼成してセラミックス組成物を得ることにより、当該セラミックス組成物の誘電率及び共振周波数の温度係数を調整することができる。
【0030】
本発明の一実施形態によるセラミックス組成物は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、SrTiO3粉末を4~19質量部含有する。SrTiO3粉末の含有量が上記範囲内であれば、高周波領域での誘電損失を低くしつつ、共振周波数の温度係数τfをゼロに近づくように調整することができる。
【0031】
本発明の一実施形態によるセラミックス組成物は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、SrTiO3粉末を6~10質量部含有する。SrTiO3粉末の含有量が上記範囲内であれば、共振周波数の温度係数τfをゼロに近い値に調整することができる。
【0032】
一実施形態において、SrTiO3粉末は、焼結により得られるセラミックス組成物(焼結体)の焼結性、強度、共振周波数の温度係数τfの適切な制御の観点から、その平均粒径が0.1~2μmとされる。一実施形態において、SrTiO3粉末は、ディオプサイド結晶粉末に対する分散性を向上させるために、その平均粒径が0.8~1.5μmとされる。SrTiO3粉末の平均粒径は、レーザ回折・散乱法による粒度分布測定の方法で測定した値を意味してもよい。
【0033】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、Li成分を含有する。Li成分としては、Liの酸化物(Li2O)が挙げられる。Li成分を含有するセラミックス組成物は、例えば、Liの酸化物が添加されたセラミックス材料を焼成することにより得られる。セラミックス材料にLi成分(例えば、Liの酸化物)を含有させることで、焼結時に液相が形成されるので、当該セラミックス材料の焼結温度を低下させることができる。つまり、Li成分は焼結助剤として働く。一実施形態におけるセラミックス組成物(焼結体)において、Li成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し酸化物(Li2O)換算で0.3~1.5質量部含有される。セラミックス組成物におけるLi成分の含有量が酸化物換算で0.3質量部未満であると、当該セラミックス組成物は、焼結性の低下により低温(例えば、900℃以下)では焼結しなくなる。また、セラミックス組成物におけるLiの含有量が1.5質量部を超えると、ディオプサイド結晶の周囲や粒界部に偏析するLi2Oが増えるため、高温環境下における絶縁性を低下させる。
【0034】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、B成分を含有する。B成分としては、Bの酸化物(B2O3)が挙げられる。B成分を含有するセラミックス組成物は、例えば、Bの酸化物が添加されたセラミックス材料を焼成することにより得られる。セラミックス材料にB成分(例えば、Bの酸化物)を含有させることで、焼結時に液相が形成されるので、当該セラミックス材料の焼結温度を低下させることができる。つまり、B成分は焼結助剤として働く。一実施形態におけるセラミックス組成物(焼結体)において、B成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、酸化物(B2O3)換算で0.1~1質量部含有される。セラミックス組成物におけるB成分の含有量が酸化物換算で0.1質量部未満であると、当該セラミックス組成物は、焼結性の低下により低温(例えば、900℃以下)では焼結しなくなる。また、セラミックス組成物におけるBの含有量が1質量部を超えると、ディオプサイド結晶の周囲や粒界部に偏析するB2O3が増えるため、高温環境下における絶縁性を低下させる。
【0035】
一実施形態におけるセラミックス組成物において、上記のLi成分及びB成分は必須成分である。一実施形態におけるセラミックス組成物は、上記Li成分の酸化物換算での含有量が上記B成分の酸化物換算での含有量よりも多くなるように、Li成分及びB成分を含有する。セラミックス組成物においてLi成分の含有量をB成分の含有量よりも多くすることで、緻密化過程でディオプサイドが液相として存在しているLiへ溶解しやすくなり、これにより緻密なセラミックス組成物の焼結体が得られる。また、上記のLi成分及びB成分の含有量は合計で、酸化物換算で2.25質量部以下とされる。Li成分及びB成分の合計での含有量が2.25質量部以上となると、ディオプサイド結晶の周囲や粒界部におけるLi2OやB2O3の偏析物の体積が増えて高温環境下での絶縁性が低下するためである。
【0036】
B成分は、ガラスネットワークフォーマーであり、Li成分は、ガラスネットワークモディファイヤーであることから、B成分に対するLi成分の比率を上げることにより、焼結時における焼結助剤の液相を低粘度化することができる。焼結時における焼結助剤の粘度が高いと、この焼結助剤により主成分の結晶の成長が阻害される。焼結助剤を低粘度化することにより、焼結助剤による主成分の結晶の成長の阻害を緩和することができる。焼結助剤の粘度が小さい場合には、主成分の結晶(主結晶)を大きく成長させることができ、その結果、焼結後のセラミックス組成物の品質係数(Q値)を大きくすることができる。
【0037】
焼結助剤は、焼結後のセラミックス組成物において主成分の結晶の周囲や粒界部に偏析する。焼結助剤の粘度が小さい場合には、主成分の結晶(主結晶)が大きく成長するため、焼結助剤は、焼結後のセラミックス組成物において偏った領域に析出する(つまり、偏析する)ことになる。よって、焼結後のセラミックス組成物において焼結助剤の偏析物の偏りが大きいときに主結晶は大きく成長しており、その結果、当該セラミックス組成物の品質係数(Q値)が大きくなる。
【0038】
セラミックス組成物における焼結助剤の偏析物が偏りは、当該セラミックス組成物の断面の一部を観察視野とし、この観察視野を複数の単位観察領域に分割した場合に、この観察視野内の全単位観察領域のうち助剤成分が全く又はほとんど存在しない主結晶領域が占める割合である主結晶領域占有率で表される。この主結晶領域占有率が大きいほど焼結助剤の析出領域が少なくなるから、主結晶領域占有率が大きいことは、セラミックス組成物における焼結助剤の偏りが大きいことを意味する。
【0039】
主結晶領域占有率は、例えば、以下のようにして算出される。まず主結晶領域占有率を算出するための観察視野を決定する。この観察視野は、セラミックス組成物の断面の一部の領域とすることができ、例えば50μmx40μmの領域とすることができる。この50μmx40μmの観察視野を横方向において10等分及び縦方向に8等分して5μm四方の単位観察領域を定め、この合計40個の単位観察領域の各々において、単位観察領域の面積に対して助剤成分(Li成分及びB成分を含有する添加成分)の占める面積が占める割合を求める。単位観察領域における助剤成分の占める面積は、電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)による観察にて、B元素の分布画像を得て、この分布画像においてB元素が含まれる領域とその他の領域との明度の差に基づいて求めることができる。ある単位観察領域の全面積に対するB成分の占める合計の面積が0%~0.5%のときに、当該単位観察領域には助剤成分(B成分)が全く又はほとんど存在しない主結晶領域であると判定される。EPMAではLi元素の識別が困難なため、単位観察領域に助剤成分が存在するか否かはB元素の占める面積に基づいて判定する。このようにして観察視野に含まれる各単位観察領域が主結晶領域か否かを判定し、主結晶領域と判定された単位観察領域が観察視野内における全単位観察領域に占める割合が主結晶領域占有率とされる。例えば、観察視野内における80個の単位観察領域のうち、20個の単位観察領域が主結晶領域と判定された場合には、25%(100×20/80)が主結晶領域占有率となる。
【0040】
本発明の一実施形態によるセラミックス組成物の断面における焼結助剤(Li成分及びB成分)の析出物の分布について、
図1を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるセラミックス組成物の断面に設定された観察視野AにおけるLi元素及びB元素の分布を模式的に示す図である。
図1には、本発明の一実施形態によるセラミックス組成物の断面の50μmx40μmを観察視野Aとし、この観察視野Aにおいて電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)による観察を行うことにより得られるLi元素及びB元素の分布画像が模式的に示されている。この分布画像においては、画像処理によりLi元素又はB元素が存在する焼結助剤析出物31が他の領域から識別されている。実際に作成したセラミックス組成物をEPMAによって観察するとLi元素が識別できない場合もある。図示のように、観察視野Aを横方向において10等分し縦方向に8等分して5μm四方の単位観察領域を定め、この単位観察領域の各々において焼結助剤析出物31の占める面積を求める。ある単位観察領域の面積に対する焼結助剤析出物31の占める合計の面積が単位観察領域の面積の0.5%よりも大きいときに、当該単位観察領域が焼結助剤領域A1と判定され、焼結助剤析出物31の占める合計の面積が単位観察領域の面積の0%~0.5%のときに当該単位観察領域が主結晶領域A2と判定される。図示の例においては、観察視野Aにおける80個の単位観察領域のうち34個が焼結助剤領域A1であり、残りの46個が主結晶領域A2である。具体的には、第1行の10個の単位観察領域のうち第3列、第4列、第7列、及び第8列が焼結助剤領域A1であり、第2行の10個の単位観察領域のうち第1列、第2列、第4列、第7列、第9列、及び第10列が焼結助剤領域A1であり、第3行の10個の単位観察領域のうち第1列、第2列、第7列、及び第9列が焼結助剤領域A1であり、第4行の10個の単位観察領域のうち第4列及び第6列~第9列が焼結助剤領域A1であり、第5行の10個の単位観察領域のうち第3列~第4列及び第9列~第10列が焼結助剤領域A1であり、第6行の10個の単位観察領域のうち第5列及び第10列が焼結助剤領域A1であり、第7行の10個の単位観察領域のうち第1列~第2列、第5列、第7列~第8列、及び第10列が焼結助剤領域A1であり、第8行の10個の単位観察領域のうち第3列及び第8列~第9列が焼結助剤領域A1である。第8行の第6列及び第7列のように、わずかに焼結助剤析出物31が存在していてもその存在割合が0.5%以下であるときには、当該単位観察領域は、主結晶領域A2に分類される。
図1においては、第1行と第8行の一部についてのみ、焼結助剤領域A1及び主結晶領域A2を記入し、残りについては図示の簡略化のために参照符号の記載を省略している。
【0041】
図示の例においては、観察視野Aにおける80個の単位観察領域のうち46個が主結晶領域A2であるから、観察視野Aに対して主結晶領域A2が占める主結晶領域占有率は、57.5%となる。本発明の一実施形態においては、このようにして定められる主結晶領域占有率が30%~90%とされる。
【0042】
セラミックス組成物において主結晶領域占有率が大きいことは、当該セラミックス組成物においては、主結晶が大きく成長し、それにより助剤成分の偏りが大きくなっていることを意味する。本発明の一実施形態において、セラミックス組成物の主結晶領域占有率は、30%以上とされる。主結晶領域占有率が30%以上であれば、主結晶が十分に成長しており、それにより高い品質係数が得られる。
【0043】
本発明の一実施形態において、主結晶領域占有率は90%以下とされる。主結晶領域占有率が大きい場合には、セラミックス組成物における助剤成分の偏りが大きいことを意味する。助剤成分の偏析物は強度が小さいことから、セラミックス組成物において助剤成分の偏りが大きすぎると、助剤成分が偏析している領域における強度が不足する。主結晶領域占有率を90%以下とすることにより、必要な強度を維持することができる。
【0044】
セラミックス組成物の主結晶領域占有率は、当該セラミックス組成物の断面のSEM写真における一つの観察視野について算出されてもよいし、複数の観察視野について算出した主結晶領域占有率の平均値を当該セラミックス組成物の主結晶領域占有率としてもよい。
【0045】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、Al成分を含有してもよい。Al成分としては、Alの酸化物、炭酸塩、及びこれら以外のAl成分を含有する化合物が挙げられる。Al成分を含有するセラミックス組成物は、例えば、Al成分が添加されたセラミックス材料を焼成することにより得られる。セラミックス材料にAl成分を含有させることで、焼結後のセラミックス組成物の粒界構造が強固となり、粒界の化学耐久性が向上する。このため、耐メッキ性に優れたセラミックス組成物が得られる。一実施形態におけるセラミックス組成物は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、Al成分を、酸化物(Al2O3)換算で0.05~3.5質量部含有してもよい。セラミックス組成物におけるAl成分の含有量が酸化物換算で0.05質量部未満であると、添加効果が乏しく、当該セラミックス組成物の焼結体では、優れた耐メッキ性が得られない。また、6質量部を超えると、セラミックス組成物の焼結性が低下し、低温(例えば、900℃以下)で焼結しなくなる。
【0046】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、Zn成分を含有してもよい。Zn成分としては、Znの酸化物、炭酸塩、及びこれら以外のZn成分を含有する化合物が挙げられる。Zn成分を含有するセラミックス組成物は、例えば、Zn成分が添加されたセラミックス材料を焼成することにより得られる。Zn成分を含有させることで、焼結時に液相が形成され、セラミックス組成物の焼結温度を低下させることができる。また、セラミックス組成物にZn成分を含有させることにより、当該セラミックス組成物の耐水性を向上させることができる。一実施形態におけるセラミックス組成物は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、Zn成分を、酸化物(ZnO)換算で0.05~5.1質量部含有してもよい。セラミックス組成物におけるZn成分の含有量が酸化物換算で3.2質量部未満であると、当該セラミックス組成物は、焼結性が低下し、低温(例えば、900℃以下)では焼結しなくなる。セラミックス組成物におけるZn成分の含有量が5.1質量部を超えると、当該セラミックス組成物において、Q×f値が低下し、誘電損失が大きくなる。
【0047】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、Cu成分及びAg成分を含有してもよい。Cu成分としては、Cuの酸化物、炭酸塩、及びこれら以外のCu成分を含有する化合物が挙げられる。Ag成分としては、Agの酸化物、炭酸塩、及びこれら以外のAg成分を含有する化合物が挙げられる。Cu成分を含有するセラミックス組成物は、例えば、Cu成分が添加されたセラミックス材料を焼成することにより得られる。Ag成分を含有するセラミックス組成物は、例えば、Ag成分が添加されたセラミックス材料を焼成することにより得られる。セラミックス材料にCu成分を含有させることで、導体金属の材料としてCuやCu合金を用いて当該セラミックス材料と当該導体金属とを同時焼成する際に、当該導体金属の当該セラミックス材料の液相への溶出を抑制することができる。セラミックス組成物にAg成分を含有させることで、導体金属の材料としてAgやAg合金を用いて当該セラミックス材料と当該導体金属とを同時焼成する際に、当該導体金属の当該セラミックス材料の液相への溶出を抑制できる。このように導体金属のセラミックス材料への溶出を抑制することにより、当該セラミックス組成物より構成される電子部品の焼結時における導体の消失を抑制することができる。一実施形態におけるセラミックス組成物は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、Cu成分及びAg成分を、それぞれの酸化物(CuO、Ag2O)換算で合計0~3質量部、好ましくは0.05~1.0質量部含有してもよい。セラミックス組成物におけるCu成分とAg成分の合計での含有量が酸化物換算で0.05質量部未満であると、かかるセラミックス組成物を得るためのセラミックス材料と導体金属と同時焼成した際に、当該導体金属の当該セラミックス材料物の液相への溶出を防止できないことがある。セラミックス組成物におけるCu成分の含有量が0.7質量部を超えると、焼結時に融着が起こり、当該セラミックス組成物(焼結体)は、形状の安定性及び絶縁性が劣化し易くなる。このため、セラミックス組成物におけるCu成分の含有量は0.7質量部未満とされてもよい。セラミックス組成物におけるAg成分の含有量が3質量部を超えると、耐メッキ性が低下する傾向にある。このため、セラミックス組成物におけるAg成分の含有量は3質量部未満とされてもよい。
【0048】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、Co成分を含有してもよい。Co成分としては、Coの酸化物、炭酸塩、及びこれら以外のCo成分を含有する化合物が挙げられる。Co成分を含有するセラミックス組成物は、例えば、Co成分が添加されたセラミックス材料を焼成することにより得られる。セラミックス組成物にCo成分を含有させることで、当該セラミックス組成物の焼結性を向上できる。一実施形態におけるセラミックス組成物は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、Co成分を酸化物(CoO)換算で0~4.5質量部含有でき、好ましくは0.05~4.5質量部含有できる。Co成分の含有量が酸化物換算で0.05質量部未満であると、添加効果が殆ど得られず、4.5質量部を超えると、焼結時に融着が生じ易くなる。
【0049】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、Zr成分を含有してもよい。Zr成分としては、Zrの酸化物、炭酸塩、及びこれら以外のZr成分を含有する化合物が挙げられる。Zr成分を含有するセラミックス組成物は、例えば、Zr成分が添加されたセラミックス材料を焼成することにより得られる。セラミックス組成物にZr成分を含有させることで耐めっき性を改善きる。一実施形態におけるセラミックス組成物は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、Zr成分を酸化物(ZrO2)換算で0.01~2質量部含有できる。
【0050】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、Bi成分を含有してもよい。Bi成分としては、Biの酸化物、炭酸塩、及びこれら以外のBi成分を含有する化合物が挙げられる。Bi成分を含有するセラミックス組成物は、例えば、Bi成分が添加されたセラミックス材料を焼成することにより得られる。セラミックス組成物にBi成分を含有させることで焼結性を改善できる。一実施形態におけるセラミックス組成物は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し、Bi成分を酸化物(Bi2O3)換算で0.05~4.5質量部含有できる。
【0051】
一実施形態におけるセラミックス組成物は、更に、Na成分、K成分、Ca成分、Mg成分、Ba成分、P成分等を含有してもよい。Na成分、K成分、Ca成分、Mg成分、Ba成分、及び/又はP成分を含有するセラミックス組成物は、例えば、Na成分、K成分、Ca成分、Mg成分、Ba成分、及び/又はP成分が添加されたセラミックス材料を焼成することにより得られる。
【0052】
セラミックス組成物にNa成分又はK成分を含有させることで、当該セラミックス組成物(焼結体)において、焼結性を大きく損なわずに、耐水性や耐酸性を向上できる。Na成分、K成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し酸化物(Na2O、K2O)換算で、合計量で0~2質量部含有できる。
【0053】
セラミックス材料にCa成分、Mg成分、Ba成分を添加することで、焼結時に液相を形成し、焼結温度を低下させることができる。Ca成分、Mg成分、Ba成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し酸化物(CaO、MgO、BaO)換算で、合計量で0~5質量部含有できる。
【0054】
また、セラミックス材料にP成分を添加することで、焼結時に液相を形成し、焼結温度を低下させることができる。P成分は、ディオプサイド結晶粉末100質量部に対し酸化物(P2O5)換算で、0~2質量部含有できる。
【0055】
次に、セラミックス組成物の主相がタングステンブロンズ型疑似固溶体である実施形態について説明する。上記のとおり、発明の一実施形態におけるセラミックス組成物は、以下の式(3)で表されるタングステンブロンズ型疑似固溶体を主成分として含有してもよい。
Ba4(Re(1-x),Bix)9.33Ti18O54・・・式(3)
【0056】
このタングステンブロンズ型疑似固溶体は、Ba、Ti、Bi、Re(希土類元素)のモル比が、式(3)に示される値となるように、Ba、Ti、Bi、Re(希土類元素)の酸化物、炭酸塩等の原料粉末を混合して混合物を作成し、この混合物を700~1200℃で仮焼し、その後本焼成することで得られる。
【0057】
式(3)において、Reは、希土類元素である。一実施形態において、Reは、Sm、Nd、Pr及びLaから選ばれる一種以上の希土類元素である。
【0058】
式(3)において、xは0~0.15であり、0.10~0.14が好ましい。xが0~0.15であれば、温度係数τfがゼロもしくは、その範囲外よりもゼロに近い。特にxが0.10~0.14の場合、温度係数τfがゼロもしくは、xが0~0.15の場合と同じか、よりゼロに近づけることができる。また、xが大きくなるに従って誘電率εが増大してQ×f値が減少し、xが小さくなるに従って誘電率εが減少してQ×f値が増大する。このため、誘電率εを大きくしたい場合は、xの値を上記範囲内で大きくし、Q×f値を大きくしたい場合は、xの値を上記範囲内で小さくすればよい。
【0059】
続いて、一実施形態におけるセラミックス組成物の製造方法について説明する。一実施形態におけるセラミックス組成物は、上記のディオプサイド結晶粉末、Li成分、及びB成分並びに必要に応じて任意成分(例えば、Al成分、Zn成分、Cu成分、Ag成分、Co成分、Zr成分、Bi成分、Na成分、K成分、Ca成分、Mg成分、Ba成分、P成分)を所定量配合したセラミックス材料を、ZrO2ボールなどを用いて、水などの湿式下で混合し、必要に応じて結合剤、可塑剤、溶剤等を添加し、所定形状に成形して、焼成することによって得られる。
【0060】
上記結合剤としては、例えばポリビニルブチラール樹脂、メタアクリル酸樹脂等が用いられ、可塑剤としては、例えばフタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル等が用いられ、溶剤としては、例えばトルエン、メチルエチルケトン等を使用することができる。
【0061】
成形は、各種の公知の成形方法、例えばプレス法、ドクターブレード法、射出成形法、テープ成形等により行われる。成形形状は、任意である。
【0062】
焼成は、例えば、大気中または酸素雰囲気中または窒素雰囲気等の非酸化性雰囲気において、850~1000℃で、0.5~3時間行われる。
【0063】
このようにして得られる一実施形態におけるセラミックス組成物(焼結体)は、ディオプサイト結晶粒の粒内、粒界及び三重点から選ばれるいずれかに、SrTiO3結晶が単独で存在していてもよい。SrTiO3結晶は、電子顕微鏡観察で確認できる。
【0064】
一実施形態における焼結後のセラミックス組成物は、誘電率ε及びQ×f値が高く、共振周波数の温度係数τfがゼロに近く、耐メッキ性に優れ、メッキプロセスによる基材侵食が少なく、耐水性、耐薬品性、及び機械強度に優れる。
【0065】
一実施形態における焼結後のセラミックス組成物は、その誘電率εが7~15の範囲の値を取る。一実施形態におけるセラミックス焼結体は、そのQ×f値が10000以上となる。一実施形態におけるセラミックス焼結体は、共振周波数の温度係数τfの絶対値が、30×10-6/℃以下である。
【0066】
一実施形態における焼結後のセラミックス組成物は、その共振周波数の温度係数τfの絶対値を30×10-6/℃以下とし、そのQ×f値を10000以上にできるので、例えば、回路基板、フィルタ、アンテナなどの高周波部品用の電子部品に好適に使用することができる。
【0067】
続いて、
図1を参照して、一実施形態における電子部品について説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるセラミック組成物を用いた積層フィルタ1の断面を模式的に示す断面図である。
【0068】
図示のように、積層フィルタ1は、少なくとも一部が上記セラミックス組成物から成るセラミックス基体2と、ストリップ線路3と、グランドプレーン4と、ビア導体5と、外部電極6と、内部導体パターン7と、を備える。セラミックス基体2は、セラミックス層21~23を備える。グランドプレーン4は、セラミックス層21とセラミックス層22との間に設けられている。ストリップ線路3及び内部導体パターン7は、セラミックス層22とセラミックス層23との間に設けられている。
【0069】
当該積層フィルタ1の製造方法の一例について説明する。上記のセラミックス材料に、結合剤、溶剤、可塑剤などを加えてスラリー状に調整し、ドクターブレード法等の方法で薄膜状に成形してグリーンシートを製造する。次に、このグリーンシートに、パンチングマシーンや金型プレスを用いてスルーホールを形成する。
【0070】
次いで、スルーホールが形成されたグリーンシート上に、Ag、Ag合金、Cu、Cu合金等の導体金属を含む導体ペーストを、スクリーン印刷法等により印刷し、所定パターンの未焼成内部導体層を形成する。また、スルーホール内に、当該導体ペーストが埋め込むことにより未焼成ビア導体を形成する。この内部導体層は、焼成後に、ストリップ線路3、グランドプレーン4、又は内部導体パターン7となり、スルーホールに埋め込まれた未焼成ビア導体がビア導体5となる。導体ペーストを構成する材料としては、低抵抗材料が好ましく、Ag、Ag合金、Cu、Cu合金がより好ましい。Ag合金としては、Ag-Pd合金、Ag-Pt合金等が挙げられる。Cu合金としては、Cu-Ca合金、Cu-Mg-Ca合金、Cu-Ni-Fe合金等が挙げられる。
【0071】
次いで、未焼成内部導体層及び未焼成ビア導体が形成された各グリーンシートを複数重ね合せ、圧着して未焼成積層体を製造する。
【0072】
次いで、未焼成積層体を脱バインダー処理し、所定形状に切断して、未焼成内部導体層を未焼成積層体の端部に露出させる。そして、未焼成積層体の端面に、導体金属を含む導体ペーストをスクリーン印刷法等の方法により印刷して、未焼成下地金属を形成する。
【0073】
次いで、未焼成下地金属が形成された未焼成積層体を、酸素雰囲気中又は非酸化性雰囲気において、870℃~930℃で0.5~3時間焼成し、未焼成積層体と未焼成下地金属とを同時焼成する。
【0074】
そして、未焼成下地金属を焼成して得られた下地金属の表面を、電解メッキ等の湿式メッキ処理を施してメッキ層を形成して外部電極6を形成する。以上により、セラミックス層2の層間にストリップ線路3、グランドプレーン4、及び内部導体パターン7が形成され、セラミックス層2の表面に外部電極6が形成された積層フィルタ1が得られる。このセラミックス層2は、上記のように、本発明の実施形態によるセラミックス組成物から成る。
【0075】
一実施形態における積層フィルタ1は、セラミックス層2の誘電率εが7~15、Q×f値が10000以上、-25~85℃の範囲における共振周波数の温度係数τfの絶対値が30×10-6/℃以下であり、高周波領域の誘電特性に優れている。また、セラミックス層2は、Ag、Ag合金、Cu、Cu合金などの低抵抗金属との同時焼成が可能な温度で焼結ができるので、導体金属として、これらの低抵抗金属を用いることができる。
【0076】
積層フィルタ1は、一実施形態における電子部品の例である。一実施形態における電子部品には、フィルタ以外に、単層基板、積層基板、コンデンサ、及びこれら以外の電子部品が含まれ得る。
【0077】
本明細書において、セラミックス組成物に含まれるLi成分及びB成分並びに任意成分であるAl成分、Zn成分、Cu成分、Ag成分、Co成分、Zr成分、Bi成分、Na成分、K成分、Ca成分、Mg成分、Ba成分、及びP成分の含有量は、これに反する言及がない限り、焼結後のセラミックス組成物における含有量(つまり、セラミックス組成物の焼結体における含有量)を意味する。この焼結後のセラミック組成物における各成分の含有量は、例えば、ICP(Inductive Coupled Plasma)質量分析、滴定分析、又はこれら以外の公知の方法により測定される。
【実施例】
【0078】
所定量のSiO2、CaO及びMgO粉末を15時間湿式混合後、120℃で乾燥し、乾燥した粉体を大気中1200℃で2時間仮焼し、得られた仮焼物を粉砕して、平均粒径1.1μmのディオプサイド結晶粉末を製造した。このディオプサイド結晶粉末に含まれるSiO2、CaO及びMgOの量をICPで測定したところ、SiO2の量は55質量%、MgOの量は18.8質量%、CaOの量は26.2質量%であった。このディオプサイド結晶粉末に、表1及び表2の組成欄に示す値となるように、Li2O粉末、B2O3粉末、CuO粉末、及びZnO粉末をそれぞれ秤量して添加し、15時間湿式混合後、150℃で乾燥した。この乾燥後の混合物にPVA系バインダーを適量添加し、造粒、プレス成形を行って厚さ10μmのシート状の未加熱成形体を得た。このプレス成形されたプレ成形体を、大気中で500℃において加熱して脱バインダー処理し、シート成形体を得た。このシート成形体の上面及び下面に、Agペーストを印刷し、当該シート成形体とAgペーストとを、大気中において900℃で2時間同時焼成して、試料No.1~33のセラミックス組成物(焼結体)を得た。このセラミックス組成物は、シート形状を有しており、その上面及び下面にAgペーストが焼成された導電層を有している。各試料に含まれるディオプサイド(CaMgSi2O6)、Li2O、及びB2O3の含有量をICP質量分析により測定した。この測定結果が表1及び表2に示されている。
【0079】
【0080】
【0081】
表1の各試料について、焼結性、Q値、高温信頼性を評価し、その評価結果を表1に示した。焼結性については、各試料について、アルキメデス法により相対密度を測定し、この測定された相対密度に基づいて評価した。すなわち、測定された相対密度が98%以上の試料について焼結性ありと評価し、相対密度が98%未満の試料について焼結性なしと評価した。表1において、焼結性ありと評価された試料については焼結性の列に「〇」を記入し、焼結性なしと評価された試料については焼結性の列に「×」を記入した。
【0082】
焼結性ありと評価された各試料について、JIS R1627に準拠し、10GHz~15GHzの共振周波数における誘電率及び誘電正接tanδを測定した。誘電正接tanδの逆数(1/tanδ)の値を計算し、この値を品質係数(Q)として表2に記載した。品質係数Qは10GHzでの値を示した。
【0083】
高温信頼性を評価する高温信頼性試験では、温度150℃の下で、各試料の上面及び下面にそれぞれ設けられた導電層間に、1V/μmの電界強度の電圧を印加し、ショートが発生した時点(絶縁抵抗が10-5Ωを下回った時点)を故障とみなし、この故障時間が1000時間を上回った試料を良品とし、故障時間が1000時間以下の試料については不良品とした。高温信頼性試験は、焼結性ありと評価された各試料について実施された。表1においては、高温信頼性試験において良品と判断された試料については高温信頼性の列に「〇」を記入し、不良品と判断された試料については高温信頼性の列に「×」を記入した。
【0084】
試料No.1~試料No.12の焼結性の評価結果より、ディオプサイド結晶(主成分)100質量部に対し、Li2O及びB2O3が合計で0.40質量部よりも多く含有されている場合に900℃で焼結し、Li2O及びB2O3の含有量が合計で0.40質量部以下の場合には900℃で焼結しないことが分かった。
【0085】
試料No.11及び試料No.12の高温信頼性試験の結果より、ディオプサイド結晶100質量部に対するLi2O及びB2O3の含有量が合計で2.25質量部より多くなると、高温信頼性に劣ることが分かった。これは、ディオプサイド結晶の周囲や粒界部に偏析するLi-B系の液相が冷却されることで形成されるガラス質相の体積が多くなるためと考えられる。
【0086】
試料No.13~試料No.20(ただし、試料No.17は欠番である。)の焼結性の評価結果より、B2O3がLi2Oよりも多く含まれていると、900℃で焼結しないことが確認された。これは、焼結時に発生するLi-B系の液相においてLiの比率が低くなると、ディオプサイド(CaMgSi2O6)の液相への溶解度が低下するためと考えられる。また、試料No.19及び試料No.20の焼結性の評価結果より、ディオプサイド結晶100質量部に対するB2O3の含有量が0.1質量部よりも少なくなると900℃で焼結しないことが確認された。これは、B2O3の含有量が0.1質量部よりも少なくなると、Li-B系の液相が生成されなくなるためと考えられる。
【0087】
試料No.21~試料No.24の高温信頼性試験の結果から、ディオプサイド結晶100質量部に対するB2O3の含有量が1質量部よりも多くなると、高温信頼性に劣ることが分かった。これは、ディオプサイド結晶の周囲や粒界部に偏析するBリッチのLi-B系の液相が冷却されることで形成されるガラス質の体積が多くなるためと考える。また、試料No.21~試料No.24の高温信頼性試験の結果から、ディオプサイド結晶100質量部に対するLi2Oの含有量が1.5質量部よりも多くなると、高温信頼性に劣ることが分かった。これは、ディオプサイド結晶の周囲や粒界部に偏析するLiリッチのLi-B系の液相が冷却されることで形成されるガラス質の体積が多くなるためと考える。
【0088】
試料No.25及び上記の試料No.4の焼結性の評価結果より、ディオプサイド結晶100質量部に対するLi2Oの含有量が0.3質量部よりも少なくなると900℃で焼結しないことが確認された。これは、Li2Oの含有量が0.3質量部よりも少なくなると、ディオプサイド(CaMgSi2O6)の液相への溶解度が低下するためと考えられる。また、試料No.26及び試料No.27の焼結性の評価結果より、ディオプサイド結晶100質量部に対するB2O3の含有量が0.1質量部よりも少なくなると900℃で焼結しないことが改めて確認された。
【0089】
試料No.28~試料No.30の高温信頼性試験の結果から、ディオプサイド結晶100質量部に対するB2O3の含有量が1質量部よりも多くなると、Li2Oの含有量にかかわらず、高温信頼性に劣ることが分かった。
【0090】
試料No.31~試料No.33の高温信頼性試験の結果から、ディオプサイド結晶100質量部に対するLi2Oの含有量が1.5質量部よりも多くなると、B2O3の含有量にかかわらず、高温信頼性に劣ることが分かった。
【0091】
表2の各試料について、主結晶領域占有率、Q値、抗折強度を評価し、その評価結果を表2に示した。主結晶領域占有率は、各試料の断面を露出させ、この断面において50μmx40μmの観察視野を設定し、この観察視野内の全単位観察領域のうち助剤成分が全く又はほとんど存在しない主結晶領域が占める割合を算出して主結晶領域占有率とした。単位観察領域は、観察視野を横方向において10等分及び縦方向に8等分した5μm四方の領域とした。この観察視野において電子線マイクロアナライザ(EPMA:Electron Probe Micro Analyzer)による観察を行い、B元素の分布画像を得て、この分布画像に基づいてこの観察視野内の単位観察領域の各々においてB元素が占める領域の面積を求め、この面積が単位観察領域の面積の0%~0.5%にある単位観察領域を主結晶領域と判定した。観察視野内の各々の単位観察領域について主結晶領域か否かを判定し、判定された単位観察領域が観察視野内における全単位観察領域に占める割合を主結晶領域占有率とした。このようにして求めた割合を四捨五入して表2及び表3に記載した。
【0092】
試料No.34~試料No.47については、作成したセラミックス組成物の焼結体から抗折試験片を切り出し、この抗折試験片に対してJIS R1601に準拠した抗折試験を行い、各試料について抗折強度を測定した。試料No.34~試料No.40については、試料No.34の抗折強度を基準としたときの抗折強度の変化率を求め、この抗折強度の変化率を表2に記載した。表中において抗折強度の変化率がマイナスとなっている試料は、基準となる試料No.34よりも抗折強度が小さくなっている。
【0093】
試料No.34~試料No.47のQ値の測定結果より、主結晶領域占有率が30%以上のときにQ値が大幅に大きくなることが分かった。これは、セラミックス材料の焼結時に焼結助剤の粘度が小さくなるときに主結晶が大きく成長し、この結果としてQ値が大きくなり、また主結晶の周囲や粒界部に析出する焼結助剤の偏りが大きくなったためと考えられる。
【0094】
試料No.34~試料No.47の抗折強度変化率から、主結晶領域占有率が90%を超えると、抗折強度が大きく劣化することが分かった。これは、セラミックス組成物において強度が低い焼結助剤の析出物の偏りが大きくなることにより、その焼結助剤が偏析している領域において当該セラミックス組成物が破断しやすくなるためと考えられる。
【0095】
Ba、Ti、Bi、Ndのモル比が、下式に示される値となるように、BaCO3粉末、TiO2粉末、Bi2O3粉末及びNd2O3粉末をそれぞれ秤量し、15時間湿式混合した後、120℃で乾燥し、乾燥した粉体を1100℃で2時間仮焼して、主相成分を調製した。
Ba4(Nd0.9,Bi0.1)9.33Ti18O54
【0096】
次に、この主相成分に、表3の組成欄に示す値となるように、Li2O粉末及びB2O3粉末をそれぞれ秤量して添加し、15時間湿式混合後、120℃で乾燥した。この乾燥物にPVA系バインダーを適量添加し、造粒、プレス成型後、大気中500℃に加熱して脱バインダー処理し、成型体を得た。この成型体を、大気中930℃で2時間焼成して、試料No.48~試料No.54の焼結体を得た。
【0097】
【0098】
表3の各試料について、主結晶領域占有率、Q値、抗折強度を表2の試料と同じ方法で評価し、その評価結果を表3に示した。表3に示されている評価結果により、主相がディオプサイドである場合と同様に、主相がタングステンブロンズ型疑似固溶体である場合にも、主結晶領域占有率が30%以上のときにQ値が大幅に大きくなり、また、主結晶領域占有率が90%を超えると、抗折強度が大きく劣化することが分かった。
【符号の説明】
【0099】
1 フィルタ
2 セラミックス基体
21,22,23 セラミックス層
3 ストリップ線路
4 グランドプレーン
5 ビア導体
6 外部電極
7 内部導体パターン
31 焼結助剤析出物
A1 焼結助剤領域
A2 主結晶領域