(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】内燃機関、および、点火プラグ
(51)【国際特許分類】
H01T 13/08 20060101AFI20240318BHJP
H01T 13/20 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H01T13/08
H01T13/20 C
(21)【出願番号】P 2019095720
(22)【出願日】2019-05-22
【審査請求日】2021-12-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001058
【氏名又は名称】鳳国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伴 謙治
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 和人
(72)【発明者】
【氏名】野本 和彦
【合議体】
【審判長】中屋 裕一郎
【審判官】尾崎 和寛
【審判官】平城 俊雅
(56)【参考文献】
【文献】実開昭62-79948(JP,U)
【文献】特開2013-143263(JP,A)
【文献】特開2019-46661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01T 13/08
H01T 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付孔が形成されたエンジンヘッドと、前記取付孔に取り付けられた点火プラグと、を備える内燃機関であって、
前記エンジンヘッドは、前記取付孔を形成する内周面に雌ネジが形成され、
前記点火プラグは、
軸線の方向に延びる中心電極と、
前記軸線の方向に延びる軸孔を有し前記軸孔の先端側に前記中心電極が配置される絶縁体と、
外周面に雄ネジが形成され、前記絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、
一端が前記主体金具の先端部に接続され、他端部が前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極と、
を備え、
前記主体金具の前記雄ネジよりも先端側の部分は、前記取付孔の前記雌ネジよりも先端側の部分に圧入される圧入部を備えることを特徴とする、内燃機関。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関であって、
前記主体金具の前記雄ネジよりも先端側の部分は、前記取付孔内に配置され、前記取付孔に圧入されていない部分をさらに備えることを特徴とする、内燃機関。
【請求項3】
請求項2に記載の内燃機関であって、
前記圧入されていない部分は、前記圧入部の少なくとも一部よりも後端側に位置することを特徴とする、内燃機関。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関であって、
前記主体金具の先端は、前記取付孔の先端よりも先端側に位置し、少なくとも前記取付孔の先端に前記圧入部を備えることを特徴とする、内燃機関。
【請求項5】
請求項2~4のいずれかに記載の内燃機関であって、
前記主体金具は、前記圧入部において、前記圧入されていない部分よりも径方向の外側に突出した凸部を有し、
前記凸部の少なくとも一部は、前記主体金具の外周面に沿って螺旋状に形成されていることを特徴とする、内燃機関。
【請求項6】
請求項2~4のいずれかに記載の内燃機関であって、
前記主体金具は、前記雄ネジよりも先端側に、外周面に凹部と凸部とが所定のパターンで配置されるローレット形状部を有し、
前記ローレット形状部の前記凸部が前記取付孔の前記雌ネジよりも先端側の部分に圧入される前記圧入部であることを特徴とする、内燃機関。
【請求項7】
軸線の方向に延びる中心電極と、
前記軸線の方向に延びる軸孔を有し前記軸孔の先端側に前記中心電極が配置される絶縁体と、
外周面に雄ネジが形成され、前記絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、
一端が前記主体金具の先端部に接続され、他端部が前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極と、
を備え
、
内周面に雌ネジが形成された取付孔を有するエンジンヘッドに取り付けられる、点火プラグであって、
前記主体金具は、前記雄ネジよりも先端側に、大径部と、前記大径部よりも外径が小さな小径部と、を有し、
前記小径部は、前記雄ネジよりも先端側で、前記大径部の少なくとも一部よりも後端側に位置し、
前記主体金具は、先端側に向かって内径が小さくなる第1の縮内径部を有し、
前記絶縁体は、先端側に向かって外径が小さくなる第1の縮外径部を有し、
前記第1の縮内径部と前記第1の縮外径部とは、直接または他部材を介して接触し、
前記大径部が位置する軸線方向の範囲は、前記第1の縮内径部と前記第1の縮外径部とが接触する軸線方向の範囲の少なくとも一部を含
み、
前記大径部は、前記取付孔の前記雌ネジよりも先端側の部分に圧入されることを特徴とする、点火プラグ。
【請求項8】
軸線の方向に延びる中心電極と、
前記軸線の方向に延びる軸孔を有し前記軸孔の先端側に前記中心電極が配置される絶縁体と、
外周面に雄ネジが形成され、前記絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、
一端が前記主体金具の先端部に接続され、他端部が前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極と、
を備え
、
内周面に雌ネジが形成された取付孔を有するエンジンヘッドに取り付けられる、点火プラグであって、
前記主体金具は、前記雄ネジよりも先端側に、大径部と、前記大径部よりも外径が小さな小径部と、を有し、
前記小径部は、前記雄ネジよりも先端側で、前記大径部の少なくとも一部よりも後端側に位置し、
前記絶縁体は、先端側に向かって内径が小さくなる第2の縮内径部を有し、
前記中心電極は、先端側に向かって外径が小さくなる第2の縮外径部を有し、
前記第2の縮内径部と前記第2の縮外径部とは、直接または他部材を介して接触し、
前記大径部が位置する軸線方向の範囲は、前記第2の縮内径部と前記第2の縮外径部とが接触する軸線方向の範囲の少なくとも一部を含
み、
前記大径部は、前記取付孔の前記雌ネジよりも先端側の部分に圧入されることを特徴とする、点火プラグ。
【請求項9】
請求項7または8に記載の点火プラグであって、
前記大径部は、前記主体金具の外周面に沿って螺旋状に形成されていることを特徴とする、点火プラグ。
【請求項10】
請求項7または8に記載の点火プラグであって、
前記主体金具は、前記雄ネジよりも先端側に、外周面に凹部と凸部とが所定のパターンで配置されるローレット形状部を有し、
前記大径部は、前記ローレット形状部の前記凸部であり、
前記小径部は、前記ローレット形状部の前記凹部であることを特徴とする、点火プラグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関、および、内燃機関用の点火プラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ガソリンエンジンやガスエンジン等の内燃機関には点火プラグが用いられている。点火プラグは、雄ネジが形成された主体金具を備えている。該主体金具が内燃機関に形成された取付ネジ孔に螺合することによって、点火プラグは、内燃機関に取り付けられる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-94331号
【文献】特開2009-70580号
【文献】特開2007-109867号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記点火プラグでは、燃焼ガスに曝される絶縁体や接地電極が過度に高温になり、プレイグニッションが引き起こされる可能性があった。
【0005】
本発明の主な利点は、内燃機関、および、内燃機関用の点火プラグにおいて、プレイグニッションの発生を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の適用例または態様として実現することが可能である。
[態様1]
軸線の方向に延びる中心電極と、
前記軸線の方向に延びる軸孔を有し前記軸孔の先端側に前記中心電極が配置される絶縁体と、
外周面に雄ネジが形成され、前記絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、
一端が前記主体金具の先端部に接続され、他端部が前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極と、
を備え、
内周面に雌ネジが形成された取付孔を有するエンジンヘッドに取り付けられる、点火プラグであって、
前記主体金具は、前記雄ネジよりも先端側に、大径部と、前記大径部よりも外径が小さな小径部と、を有し、
前記小径部は、前記雄ネジよりも先端側で、前記大径部の少なくとも一部よりも後端側に位置し、
前記主体金具は、先端側に向かって内径が小さくなる第1の縮内径部を有し、
前記絶縁体は、先端側に向かって外径が小さくなる第1の縮外径部を有し、
前記第1の縮内径部と前記第1の縮外径部とは、直接または他部材を介して接触し、
前記大径部が位置する軸線方向の範囲は、前記第1の縮内径部と前記第1の縮外径部とが接触する軸線方向の範囲の少なくとも一部を含み、
前記大径部は、前記取付孔の前記雌ネジよりも先端側の部分に圧入されることを特徴とする、点火プラグ。
[態様2]
軸線の方向に延びる中心電極と、
前記軸線の方向に延びる軸孔を有し前記軸孔の先端側に前記中心電極が配置される絶縁体と、
外周面に雄ネジが形成され、前記絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、
一端が前記主体金具の先端部に接続され、他端部が前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極と、
を備え、
内周面に雌ネジが形成された取付孔を有するエンジンヘッドに取り付けられる、点火プラグであって、
前記主体金具は、前記雄ネジよりも先端側に、大径部と、前記大径部よりも外径が小さな小径部と、を有し、
前記小径部は、前記雄ネジよりも先端側で、前記大径部の少なくとも一部よりも後端側に位置し、
前記絶縁体は、先端側に向かって内径が小さくなる第2の縮内径部を有し、
前記中心電極は、先端側に向かって外径が小さくなる第2の縮外径部を有し、
前記第2の縮内径部と前記第2の縮外径部とは、直接または他部材を介して接触し、
前記大径部が位置する軸線方向の範囲は、前記第2の縮内径部と前記第2の縮外径部とが接触する軸線方向の範囲の少なくとも一部を含み、
前記大径部は、前記取付孔の前記雌ネジよりも先端側の部分に圧入されることを特徴とする、点火プラグ。
【0007】
[適用例1]取付孔が形成されたエンジンヘッドと、前記取付孔に取り付けられた点火プラグと、を備える内燃機関であって、
前記エンジンヘッドは、前記取付孔を形成する内周面に雌ネジが形成され、
前記点火プラグは、
軸線の方向に延びる中心電極と、
前記軸線の方向に延びる軸孔を有し前記軸孔の先端側に前記中心電極が配置される絶縁体と、
外周面に雄ネジが形成され、前記絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、
一端が前記主体金具の先端部に接続され、他端部が前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極と、
を備え、
前記主体金具の前記雄ネジよりも先端側の部分は、前記取付孔の前記雌ネジよりも先端側の部分に圧入される圧入部を備えることを特徴とする、内燃機関。
【0008】
上記構成によれば、点火プラグの主体金具は、取付孔の雌ネジよりも先端側の部分に圧入される圧入部を備える。この結果、圧入部によって主体金具からエンジンヘッドへの伝熱性を向上できるので、点火プラグは、主体金具の熱をエンジンヘッドに効率良く逃がすことができる。この結果、点火プラグにおいて、プレイグニッションの発生が抑制できる。
【0009】
[適用例2]適用例1に記載の内燃機関であって、
前記主体金具の前記雄ネジよりも先端側の部分は、前記取付孔内に配置され、前記取付孔に圧入されていない部分をさらに備えることを特徴とする、内燃機関。
【0010】
上記構成によれば、主体金具前記雄ネジよりも先端側の部分は、取付孔に圧入されていない部分を備えるので、主体金具と取付孔とが過度に強固に固定されることを抑制できるので、点火プラグの取り外しや取り付けが容易になる。
【0011】
[適用例3]適用例2に記載の内燃機関であって、
前記圧入されていない部分は、前記圧入部の少なくとも一部よりも後端側に位置することを特徴とする、内燃機関。
【0012】
上記構成によれば、圧入されていない部分に燃焼室内の高温のガスが浸入することを抑制できる。
【0013】
[適用例4]適用例3に記載の内燃機関であって、
前記主体金具の先端は、前記取付孔の先端よりも先端側に位置し、少なくとも前記取付孔の先端に前記圧入部を備えることを特徴とする、内燃機関。
【0014】
上記構成によれば、燃焼室内の高温のガスが取付孔内に浸入することを抑制できる。
【0015】
[適用例5]適用例2~4のいずれかに記載の内燃機関であって、
前記主体金具は、前記圧入部において、前記圧入されていない部分よりも径方向の外側に突出した凸部を有し、
前記凸部の少なくとも一部は、前記主体金具の外周面に沿って螺旋状に形成されていることを特徴とする、内燃機関。
【0016】
上記構成によれば、点火プラグの取り外しや取り付けがさらに容易になる。
【0017】
[適用例6]適用例2~4のいずれかに記載の内燃機関であって、
前記主体金具は、前記雄ネジよりも先端側に、外周面に凹部と凸部とが所定のパターンで配置されるローレット形状部を有し、
前記ローレット形状部の前記凸部が前記取付孔の前記雌ネジよりも先端側の部分に圧入される前記圧入部であることを特徴とする、内燃機関。
【0018】
上記構成によれば、点火プラグの取り外しや取り付けがさらに容易になる。
【0019】
[適用例7]軸線の方向に延びる中心電極と、
前記軸線の方向に延びる軸孔を有し前記軸孔の先端側に前記中心電極が配置される絶縁体と、
外周面に雄ネジが形成され、前記絶縁体の外周に配置される筒状の主体金具と、
一端が前記主体金具の先端部に接続され、他端部が前記中心電極との間に間隙を形成する接地電極と、
を備える、点火プラグであって、
前記主体金具は、前記雄ネジよりも先端側に、大径部と、前記大径部よりも外径が小さな小径部と、を有し、
前記小径部は、前記雄ネジよりも先端側で、前記大径部の少なくとも一部よりも後端側に位置することを特徴とする、点火プラグ。
【0020】
上記構成によれば、エンジンヘッドの取付孔の雌ネジよりも先端側の内径を、大径部の外径より小さく、かつ、小径部の外径よりも大きくすれば、主体金具の雄ネジを取付孔の雌ネジに螺合させた場合に、大径部は、取付孔に圧入される。この結果、主体金具からエンジンヘッドへの伝熱性を向上できるので、点火プラグは、主体金具の熱をエンジンヘッドに効率良く逃がすことができる。この結果、点火プラグにおいて、プレイグニッションの発生が抑制できる。
【0021】
[適用例8]適用例7に記載の点火プラグであって、
前記大径部は、前記主体金具の外周面に沿って螺旋状に形成されていることを特徴とする、点火プラグ。
【0022】
上記構成によれば、点火プラグの取り外しや取り付けがさらに容易になる。
【0023】
[適用例9]適用例7に記載の点火プラグであって、
前記主体金具は、前記雄ネジよりも先端側に、外周面に凹部と凸部とが所定のパターンで配置されるローレット形状部を有し、
前記大径部は、前記ローレット形状部の前記凸部であり、
前記小径部は、前記ローレット形状部の前記凹部であることを特徴とする、点火プラグ。
【0024】
上記構成によれば、点火プラグの取り外しや取り付けがさらに容易になる。
【0025】
[適用例10]適用例7~9のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記主体金具は、先端側に向かって内径が小さくなる第1の縮内径部を有し、
前記絶縁体は、先端側に向かって外径が小さくなる第1の縮外径部を有し、
前記第1の縮内径部と前記第1の縮外径部とは、直接または他部材を介して接触し、
前記大径部が位置する軸線方向の範囲は、前記第1の縮内径部と前記第1の縮外径部とが接触する軸線方向の範囲の少なくとも一部を含むことを特徴とする、点火プラグ。
【0026】
上記構成によれば、絶縁体を介して主体金具に伝わる熱を、主体金具からエンジンヘッドに効率良く逃がすことができる。
【0027】
[適用例11]適用例7~10のいずれかに記載の点火プラグであって、
前記絶縁体は、先端側に向かって内径が小さくなる第2の縮内径部を有し、
前記中心電極は、先端側に向かって外径が小さくなる第2の縮外径部を有し、
前記第2の縮内径部と前記第2の縮外径部とは、直接または他部材を介して接触し、
前記大径部が位置する軸線方向の範囲は、前記第2の縮内径部と前記第2の縮外径部とが接触する軸線方向の範囲の少なくとも一部を含むことを特徴とする、点火プラグ。
【0028】
上記構成によれば、中心電極から絶縁体を介して主体金具に伝わる熱を、主体金具からエンジンヘッドに効率良く逃がすことができる。
【0029】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、点火プラグや点火プラグを用いた点火装置、その点火プラグを搭載する内燃機関等の態様で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】点火プラグ100が取り付けられる内燃機関の一例を示す概略図である。
【
図2】第1実施形態の点火プラグ100の概略図である。
【
図3】主体金具50の取付ネジ部52および先端筒状部55の近傍の拡大図である。
【
図4】第2実施形態の点火プラグ100bの説明図である。
【
図5】変形例の点火プラグ100cの説明図である。
【0031】
A.第1実施形態:
A-1.内燃機関の構成
図1は、本実施形態の点火プラグ100が取り付けられる内燃機関の一例を示す概略図である。図中には、内燃機関700の複数(例えば、4個)の燃焼室(シリンダとも呼ばれる)のうちの1個の燃焼室790の概略断面図が示されている。内燃機関700は、エンジンヘッド710と、シリンダブロック720と、ピストン750と、点火プラグ100と、を含んでいる。
【0032】
シリンダブロック720の一方向側(
図1の上側)には、エンジンヘッド710が固定されている。エンジンヘッド710には、燃焼室790に連通する吸気ポート711と排気ポート713が形成されている。これらのポート711、713の燃焼室790と連通する開口は、バルブ730、740によって開閉可能である。エンジンヘッド710には、さらに、点火プラグ100を取り付けるための取付孔718が形成されている。燃焼室790は、ピストン750のエンジンヘッド710側の面759と、シリンダブロック720の内壁729と、エンジンヘッド710の内壁719と、に囲まれた空間である。点火プラグ100の先端部は、燃焼室790に露出している。図中の軸線AXは、点火プラグ100の軸線AXである。
【0033】
A-2.点火プラグの構成:
図2は本実施形態の点火プラグ100の概略図である。
図2の軸線AXより右側には、点火プラグ100の外観が図示され、軸線AXの左側には、軸線AXを含む面で切断した断面図が示されている。軸線AXと平行な方向(
図2の上下方向)を軸線方向とも呼ぶ。軸線AXを中心とし、軸線AXと垂直な面上の円の径方向を、単に「径方向」とも呼び、当該円の周方向を、単に「周方向」とも呼ぶ。
図2における下方向を先端方向FDと呼び、上方向を後端方向BDとも呼ぶ。
図2における下側を点火プラグ100の先端側と呼び、
図2における上側を点火プラグ100の後端側と呼ぶ。
【0034】
点火プラグ100は、上述したように取付孔718に取り付けられ、内燃機関700の燃焼室790内の燃料ガスに着火するために用いられる。点火プラグ100は、絶縁体10と、中心電極20と、接地電極30と、端子電極40と、主体金具50と、抵抗体70と、導電性のシール部材80A、80Bと、を備える。
【0035】
絶縁体10は、軸線AXの方向に延び、絶縁体10を貫通する貫通孔である軸孔12を有する略円筒状の部材である。絶縁体10は、例えば、アルミナ等のセラミックスを用いて形成されている。絶縁体10は、鍔部19と、後端側胴部18と、先端側胴部17と、縮外径部15と、脚長部13と、を備えている。
【0036】
鍔部19は、絶縁体10における軸線方向の略中央に位置する部分である。後端側胴部18は、鍔部19よりも後端側に位置し、鍔部19の外径よりも小さな外径を有している。先端側胴部17は、鍔部19よりも先端側に位置し、後端側胴部18の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13は、先端側胴部17よりも先端側に位置し、先端側胴部17の外径よりも小さな外径を有している。脚長部13の外径は、先端側ほど縮径されている。縮外径部15は、脚長部13と先端側胴部17との間に形成され、後端側から先端側に向かって外径が小さくなる(縮径する)部分である。
【0037】
絶縁体10は、内周側の構成の観点でみると、後端側に位置する大内径部12Lと、大内径部12Lよりも先端側に位置し、大内径部12Lよりも内径が小さな小内径部12Sと、縮内径部16と、を備えている。縮内径部16は、大内径部12Lと小内径部12Sとの間に形成され、後端側から先端側に向かって内径が小さくなる部分である。縮内径部16の軸線方向の位置は、本実施形態では、先端側胴部17の先端側の部分の位置である。
【0038】
主体金具50は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼材)で形成される円筒状の金具である。主体金具50には、軸線AXに沿って貫通する貫通孔59が形成されている。主体金具50は、絶縁体10の径方向の周囲(すなわち、外周)に配置されている。すなわち、主体金具50の貫通孔59内に、絶縁体10が挿入・保持されている。絶縁体10の先端は、主体金具50の先端よりも先端側に突出しており、絶縁体10の後端は、主体金具50の後端よりも後端側に突出している。
【0039】
主体金具50は、プラグレンチが係合する六角柱形状の工具係合部51と、内燃機関700の取付孔718に点火プラグ100を取り付けるための雄ネジ52nが外周面に形成された取付ネジ部52と、工具係合部51と取付ネジ部52との間に形成された鍔状の座部54と、取付ネジ部52よりも先端側の先端筒状部55と、を備えている。雄ネジ52nの呼び径は、例えば、M8~M18である。
【0040】
主体金具50の取付ネジ部52と座部54との間には、金属製の環状のガスケット5が嵌挿されている。ガスケット5は、点火プラグ100が内燃機関700に取り付けられた際に、点火プラグ100と内燃機関700(エンジンヘッド710)との隙間を封止する。
【0041】
主体金具50は、さらに、工具係合部51の後端側に設けられた薄肉の加締部53と、座部54と工具係合部51との間に設けられた薄肉の圧縮変形部58と、を備えている。主体金具50における工具係合部51から加締部53に至る部位の内周面と、絶縁体10の後端側胴部18の外周面と、の間に形成される環状の領域には、環状の線パッキン6、7が配置されている。当該領域における2つの線パッキン6、7の間には、タルク(滑石)9の粉末が充填されている。加締部53の後端は、径方向内側に折り曲げられて、絶縁体10の外周面に固定されている。
【0042】
主体金具50は、内周側の構成の観点で見ると、先端筒状部55の軸線方向の中央部に、径方向内側に突出する突出部56を備えている。突出部56は、後端側に縮内径部56aを有している。縮内径部56aは、後端側から先端側に向かって内径が小さくなる部分である。
【0043】
主体金具50の圧縮変形部58は、製造時において、絶縁体10の外周面に固定された加締部53が先端側に押圧されることにより、圧縮変形する。圧縮変形部58の圧縮変形によって、線パッキン6、7およびタルク9を介し、絶縁体10が主体金具50内で先端側に向け押圧される。そして、主体金具50の縮内径部56aは、環状の板パッキン8を介して、絶縁体10の縮外径部15に押圧される。この結果、内燃機関700の燃焼室内のガスが、主体金具50と絶縁体10との隙間から外部に漏れることが、板パッキン8によって防止される。このように、主体金具50の縮内径部56aと絶縁体10の縮外径部15とは、板パッキン8を介して接触している。
【0044】
中心電極20は、
図2に示すように、軸線方向の所定の位置に設けられた鍔部24と、鍔部24よりも後端側の部分である頭部23(電極頭部)と、鍔部24よりも先端側の部分である脚部25(電極脚部)と、を備えている。鍔部24は、後端側に、縮外径部26を有している。縮外径部26は、後端側から先端側に向かって外径が小さくなる部分である。縮外径部26は、絶縁体10の縮内径部16と接触している。すなわち、縮外径部26は、絶縁体10の縮内径部16によって、先端側から支持されている。このように、中心電極20の後端側は、軸孔12(小内径部12S)内に配置されている。中心電極20の先端側(脚部25の先端側)は、絶縁体10の先端よりも先端側に突出している。脚部25の先端面は、後述する間隙Gを形成する第1放電面20Sである。
【0045】
端子電極40は、軸線方向に延びる棒状の部材である。端子電極40は、絶縁体10の軸孔12に後端側から挿通され、軸孔12内において、中心電極20よりも後端側に位置している。端子電極40は、導電性の金属材料(例えば、低炭素鋼)で形成され、端子電極40の表面には、例えば、防食のために、Niなどのめっきが形成されている。
【0046】
端子電極40は、軸線方向の所定位置に形成された鍔部42(端子顎部)と、鍔部42よりも後端側に位置するキャップ装着部41と、鍔部42よりも先端側の脚部43(端子脚部)と、を備えている。端子電極40のキャップ装着部41は、絶縁体10よりも後端側に露出している。端子電極40の脚部43は、絶縁体10の軸孔12に挿入されている。キャップ装着部41には、高圧ケーブル(図示外)が接続されたプラグキャップが装着され、放電を発生するための高電圧が印加される。
【0047】
抵抗体70は、絶縁体10の軸孔12内において、端子電極40の先端と中心電極20の後端との間に、配置されている。抵抗体70は、例えば、1KΩ以上の抵抗値(例えば、5KΩ)を有し、火花発生時の電波ノイズを低減する機能を有する。抵抗体70は、例えば、主成分であるガラス粒子と、ガラス以外のセラミック粒子と、導電性材料と、を含む組成物で形成されている。
【0048】
軸孔12内における、抵抗体70と中心電極20との隙間は、導電性のシール部材80Aによって埋められている。抵抗体70と端子電極40との隙間は、シール部材80Bによって埋められている。すなわち、シール部材80Aは、中心電極20と抵抗体70とにそれぞれ接触し、中心電極20と抵抗体70とを離間している。シール部材80Bは、抵抗体70と端子電極40にそれぞれ接触し、抵抗体70と端子電極40とを離間している。このように、シール部材80A、80Bは、中心電極20と端子電極40とを、抵抗体70を介して、電気的、かつ、物理的に、接続している。シール部材80A、80Bは、導電性を有する材料、例えば、B2O3-SiO2系等のガラス粒子と金属粒子(Cu、Feなど)とを含む組成物で形成されている。
【0049】
接地電極30は、
図2に示すように、断面が四角形の棒状体である。接地電極30は、両端部として、接続端部32と、接続端部32の反対側に位置する自由端部31と、を有している。接続端部32は、主体金具50の先端部50sに、例えば、抵抗溶接によって、接合されている。これによって、主体金具50と接地電極30とは、電気的および物理的に接続される。接地電極30の接続端部32の近傍は、軸線AXの方向に延びており、自由端部31の近傍は、軸線AXと垂直な方向に延びている。棒状の接地電極30は、中央部分において、約90度だけ湾曲している。
【0050】
接地電極30は、耐腐食性と耐熱性が高い金属、NiまたはNiを主成分とする合金(例えば、NCF600、NCF601)を用いて形成されている。接地電極30は、中心電極20と同様に、母材と、母材よりも熱伝導性が高い金属(例えば、銅)を用いて形成され、母材に埋設された芯部と、を含む2層構造を有しても良い。自由端部31の後端側を向いた側面は、中心電極20の第1放電面20Sとの間に間隙Gを形成する第2放電面30Sである。第1放電面20Sと第2放電面30Sとは、軸線AXの方向に対向している。間隙Gは、放電が発生するいわゆる火花ギャップである。
【0051】
A-2.取付ネジ部52および先端筒状部55の近傍の構成
図3は、
図2の断面のうち、主体金具50の取付ネジ部52および先端筒状部55の近傍の拡大図である。
図3では、説明のために、内燃機関700(エンジンヘッド710)の取付孔718に点火プラグ100が取り付けられた状態が図示されている。エンジンヘッド710の取付孔718が形成された部分のうち、後端側の部分は、内周面に雌ネジ718nが形成されたネジ部7181である。エンジンヘッド710の取付孔718が形成された部分のうち、ネジ部7181よりも先端側の部分は、等径孔718hが形成された等径孔部7182である。内燃機関700に点火プラグ100が取り付けられた状態では、ネジ部7181の雌ネジ718nには、取付ネジ部52の雄ネジ52nが螺号している。内燃機関700に点火プラグ100が取り付けられた状態では、等径孔部7182には、先端筒状部55が嵌合している。
【0052】
先端筒状部55は、凸部551と、凹部552と、を備えている。凸部551は、凹部552よりも外径が大きい。凸部551は、凹部552よりも径方向の外側に突出している。凸部551は、先端筒状部55の外周面に沿って螺旋状に形成されている。凹部552も、凸部551と平行に、先端筒状部55の外周面に沿って螺旋状に形成されている。
【0053】
ただし、凸部551のうちの先端部分(先端凸部551sと呼ぶ)は、螺旋状ではなく、全周に亘って外径が大きな部分となっている。
【0054】
内燃機関700から点火プラグ100が取り外された状態で、凸部551の外径は、等径孔部7182(等径孔718h)の内径よりも大きい。そして、凹部552の外径は、等径孔部7182(等径孔718h)の内径よりも小さい。このために、内燃機関700に点火プラグ100が取り付けられた状態で、凸部551は、等径孔部7182に圧入されており、凹部552は、等径孔部7182に圧入されていない。したがって、内燃機関700に点火プラグ100が取り付けられた状態で、凸部551は、等径孔部7182の内周面に接触しており、凹部552は、等径孔部7182の内周面とは非接触である。
【0055】
ここで、圧入とは、JIS B 0401-1:2016に規定されたしまりばめ(interference fit)を意味する。JIS B 0401-1:2016では、「しまりばめは、はめ合わせたときに,穴と軸との間に常にしめしろができるはめあい。すなわち,穴の上の許容サイズが,軸の下の許容サイズ以下の場合。」と規定されている。このように、例えば、穴基準はめあい方式で、等径孔部7182の内径には、公差クラスとして「H7」が採用され、先端筒状部55の凸部551の外径には、公差クラスとして「p6」が採用される。これによって、先端筒状部55の凸部551は、等径孔部7182に対して適切に圧入される。
【0056】
ここで、等径孔部7182と凸部551とが重なる軸線方向の範囲、すなわち、凸部551と等径孔部7182とが圧入によって接触している範囲は、
図3に示す圧入範囲R1である。絶縁体10の縮外径部15と、主体金具50の縮内径部56aとが、板パッキン8を介して接触する軸線方向の範囲は、
図3に示す接触範囲R2である。中心電極20の縮外径部26と、絶縁体10の縮内径部16とが、直接に接触する軸線方向の範囲は、
図3に示す接触範囲R3である。
【0057】
ここで、絶縁体10の縮外径部15と主体金具50の縮内径部56aとの接触のように、縮外径部と縮内径部とが、他部材(例えば板パッキン8)を介して接触する場合には、接触範囲は、縮外径部と他部材との接触面の後端から、他部材と縮内径部との接触面の先端までの範囲である。例えば、
図3の接触範囲R2は、縮外径部15と板パッキン8との接触面の後端から、板パッキン8と縮内径部56aとの接触面の先端までの範囲である。
【0058】
中心電極20の縮外径部26と絶縁体10の縮内径部16との接触のように、縮外径部と縮内径部とが、他部材を介することなく、直接に接触する場合には、接触範囲は、縮外径部と縮内径部との接触面の後端から先端までの範囲である。例えば、
図3の接触範囲R3は、縮外径部26と縮内径部16との接触面の後端から先端までの範囲である。
【0059】
本実施形態では、先端筒状部55および外側圧入部65の軸線方向の長さ、すなわち、接触範囲R3の軸線方向の長さは、例えば、2mm以上である。
図3に示すように、接触範囲R3は、接触範囲R2と、接触範囲R3と、を含んでいる。
【0060】
先端筒状部55のうち、等径孔部7182に圧入されていない凹部552は、凸部551のうちの先端凸部551sよりも後端側に配置されている。
【0061】
図3の円ARに示すように、凸部551のうちの先端凸部551sの先端は、取付孔718の先端よりも先端側に位置している。これによって、先端凸部551sは、取付孔718の先端と全周に亘って接触している。すなわち、主体金具50の先端は、取付孔718の先端よりも先端側に位置し、主体金具50は、少なくとも取付孔718の先端に圧入される先端凸部551sを備えている。
【0062】
以上説明した本実施形態の内燃機関700によれば、主体金具50の雄ネジ52nよりも先端側の部分である先端筒状部55は、取付孔718の雌ネジ718nよりも先端側の部分である等径孔部7182に圧入される圧入部である凸部551を備える。この結果、凸部551によって主体金具50からエンジンヘッド710への伝熱性を向上できるので、点火プラグ100は、主体金具50の熱をエンジンヘッド710に効率良く逃がすことができる。この結果、点火プラグ100において、プレイグニッションの発生が抑制できる。
【0063】
例えば、点火プラグ100において、仮に、凸部551が存在せずに、エンジンヘッド710と主体金具50とが雌ネジ718nと雄ネジ52nとの間だけで接触しているとすれば、特に、主体金具50の先端部分において、エンジンヘッド710と主体金具50との間の熱抵抗を大きくなり、主体金具50からエンジンヘッド710への伝熱性が低くなる。主体金具50の先端部分は、接地電極30に接続されているとともに、放電が発生する間隙Gに近いために、高温になりやすい。このために、主体金具50の先端部分からエンジンヘッド710への伝熱性が低い場合には、主体金具50の先端の熱がエンジンヘッド710に効率良く伝わらないので、点火プラグ100の熱引き性能が低下する。この結果、主体金具50の先端部分、ひいては、点火プラグ100の先端が高温になり、プレイグニッションが発生しやすくなる。本実施形態では、雄ネジ52nよりも先端側に、エンジンヘッド710の等径孔部7182に圧入される凸部551が存在することで、主体金具50の雄ネジ52nよりも先端側で、等径孔部7182の内周面と主体金具50の外周面とが加圧された状態で接触する。この結果、主体金具50の先端部分において主体金具50とエンジンヘッド710との間の熱抵抗が小さくなり、主体金具50からエンジンヘッド710への伝熱性を向上できる。この結果、本実施形態の点火プラグ100によれば、点火プラグ100の先端が高温になることを抑制して、プレイグニッションの発生を抑制できる。
【0064】
さらに、本実施形態の内燃機関700では、主体金具50の雄ネジ52nよりも先端側の部分である先端筒状部55は、等径孔部7182(取付孔718)内に配置され、等径孔部7182(取付孔718)内に圧入されていない凹部552をさらに備える。この結果、先端筒状部55が凹部552を備えるので、主体金具50と等径孔部7182(取付孔718)とが過度に強固に固定されることを抑制できるので、点火プラグ100の取り外しや取り付けが容易になる。例えば、先端筒状部55の全体が等径孔部7182に圧入されていると、取り外しや取り付け時に先端筒状部55との間の摩擦抵抗が過度に大きくなり、取り外しや取り付けに過大な力が必要になる。本実施形態では、このような不都合を抑制できる。
【0065】
さらに、本実施形態の内燃機関700によれば、凹部552は、先端凸部551sよりも後端側に位置している。この結果、凹部552に燃焼室790内の高温のガスが浸入することを抑制できる。仮に凹部552内に高温のガスが浸入する場合には、取付ネジ部52まで高温のガスが浸入し得る。この結果、主体金具50の後端側まで高温のガスに曝されるため、主体金具50がより高温になる。本実施形態では、このような不都合を抑制することで、さらに、プレイグニッションの発生を抑制できる。
【0066】
さらに、本実施形態の内燃機関700によれば、主体金具50の先端(先端凸部551sの先端)は、取付孔718の先端よりも先端側に位置し、取付孔718の先端に圧入された先端凸部551sを備えている。この結果、先端凸部551sによって、燃焼室790内の高温のガスが取付孔718内に浸入することを抑制できる。仮に、取付孔718内に高温のガスが浸入すると、取付孔718内に高温のガスが浸入しない場合よりも、主体金具50が高温になるうえに、エンジンヘッド710もより高温になる。本実施形態では、このような不都合を抑制することで、さらに、プレイグニッションの発生を抑制できる。
【0067】
さらに、凸部551の一部は、主体金具50の外周面に沿って螺旋状に形成されている。この結果、先端筒状部55の全体に凸部551と凹部552とが分散して配置できる。したがって、先端筒状部55と等径孔部7182との間の摩擦抵抗が局所的に過大になることを抑制できるので、点火プラグ100の取り外しや取り付けがさらに容易になる。
【0068】
本実施例の凸部551は、大径部と言うことができ、凹部552は、大径部よりも外径が小さな小径部と言うことができる。すなわち、本実施例の点火プラグ100の主体金具50は、雄ネジ52nよりも先端側の先端筒状部55に、大径部としての凸部551と、小径部としての凹部552と、を有する。そして、小径部としての凹部552は、雄ネジ52nよりも先端側で、大径部としての凸部551の先端凸部551sよりも後端側に位置する。この結果、エンジンヘッド710の取付孔718の等径孔部7182の内径を、凸部551の外径より小さく、凹部552の外径よりも大きくすれば、主体金具50の雄ネジ52nを取付孔718の雌ネジ718nに螺合させた場合に、凸部551は、取付孔718(等径孔部7182)に圧入される。この結果、上述したように、主体金具50からエンジンヘッド710への伝熱性を向上できるので、点火プラグ100は、主体金具50の熱をエンジンヘッド710に効率良く逃がすことができる。この結果、点火プラグ100において、プレイグニッションの発生が抑制できる。
【0069】
さらに、本実施形態の点火プラグ100では、凸部551が位置する軸線方向の範囲、すなわち、圧入範囲R1は、縮内径部56aと縮外径部15とが接触する軸線方向の範囲、すなわち、接触範囲R2を含む(
図3)。
図3に矢印A1で示すように、中心電極20の先端部から絶縁体10に伝わった熱が主体金具50に伝わる主な経路は、縮内径部56aと縮外径部15との接触部分を通る経路である。このために、絶縁体10に伝わった熱を、主体金具50を介してエンジンヘッド710に効率良く伝えるために、圧入範囲R1が接触範囲R2の少なくとも一部を含むことが好ましい。本実施形態では、圧入範囲R1が接触範囲R2を含んでいるので、絶縁体10を介して主体金具50に伝わる熱を、主体金具50からエンジンヘッド710に効率良く逃がすことができる。
【0070】
さらに、本実施形態の点火プラグ100では、凸部551が位置する軸線方向の範囲、すなわち、圧入範囲R1は、縮内径部16と縮外径部26とが接触する軸線方向の範囲、すなわち、接触範囲R3を含む(
図3)。
図3に矢印A2で示すように、中心電極20の先端部の熱が絶縁体10に伝わる主な経路は、縮内径部16と縮外径部26との接触部分を通る経路である。このために、中心電極20から絶縁体10に伝わった熱を、主体金具50を介してエンジンヘッド710に効率良く伝えるために、圧入範囲R1が接触範囲R3の少なくとも一部を含むことが好ましい。本実施形態では、圧入範囲R1が接触範囲R3を含んでいるので、中心電極20から絶縁体10を介して主体金具50に伝わる熱を、主体金具50からエンジンヘッド710に効率良く逃がすことができる。
【0071】
以上の説明から解るように、凸部551は、圧入部および大径部の一例であり、凹部552は、圧入されていない部分および小径部の一例である。また、縮内径部56aは、第1の縮内径部の一例であり、絶縁体10の縮外径部15は、第1の縮外径部の一例であり、絶縁体10の縮内径部16は、第2の縮内径部の一例であり、中心電極20の縮外径部26は、第2の縮外径部の一例である。
【0072】
B.第2実施形態:
図4は、第2実施形態の点火プラグ100bの説明図である。点火プラグ100bは、
図2の点火プラグ100の主体金具50に代えて、主体金具50bを備えている。点火プラグ100bの主体金具50bを除いた構成は、
図2の点火プラグ100と同一である。
図4(A)には、点火プラグ100bの先端筒状部55bの近傍の拡大図が示されている。
図4(A)の軸線AXより右側には、点火プラグ100bの先端筒状部55bの近傍の外観が図示され、軸線AXの左側には、先端筒状部55bの近傍を、軸線AXを含む面で切断した断面図が示されている。
図4(B)には、
図4(A)の先端筒状部55bのA-A断面の一部が示されている。
【0073】
主体金具50bは、
図2の主体金具50の先端筒状部55に代えて、先端筒状部55bを備えている。先端筒状部55bの外周面は、複数個の凹部552bと複数個の凸部551bとが形成されている。これらの凹部552bと凸部551bとは、いわゆる平目のローレット形状を構成しており、公知のローレット加工によって形成される。具体的には、
図4(A)、
図4(B)に示すように、先端筒状部55bの外周面には、軸線AXと垂直な断面形状が三角形であり、軸線方向に沿って先端筒状部55の先端から後端まで延びる畝が、周方向の全周に亘って並んでいる。これらの複数個の畝の稜線部分が凸部551bを構成し、互いに隣合う2個の畝の間の谷部分が凹部552bを構成している。
【0074】
凸部551bの外径C1は、エンジンヘッド710の等径孔部7182の内径よりも大きく、凹部552bの外径C2は、等径孔部7182の内径よりも小さい。このために、内燃機関700に点火プラグ100が取り付けられた状態では、凸部551bは、等径孔部7182に圧入され、凹部552bは、等径孔部7182に圧入されない。したがって、内燃機関700に点火プラグ100が取り付けられた状態で、凸部551bは、等径孔部7182の内周面に接触しており、凹部552bは、等径孔部7182の内周面とは非接触である。
【0075】
以上説明した第2実施形態の点火プラグ100bでは、主体金具50bの先端筒状部55bは、凹部552bと凸部551bとが所定のパターンで配置されるローレット形状部である。この結果、先端筒状部55bの全体に凸部551bと凹部552bとが分散して配置できる。したがって、先端筒状部55bと等径孔部7182との間の摩擦抵抗が局所的に過大になることを抑制できるので、点火プラグ100bの取り外しや取り付けがさらに容易になる。
【0076】
なお、ローレット形状を構成する凹部552bと凸部551bとのパターンは、一例であり、これに限られない。例えば、凹部と凸部とのパターンは、いわゆるアヤ目のローレット形状を構成するパターンであっても良い。アヤ目のローレット形状は、互いに平行な複数本の溝状の第1の凹部と、互いに平行で第1の凹部と交差する複数本の溝状の第2の凹部と、これらの第1の凹部と第2の凹部との間に形成される菱形の凸部と、を含む。平目やアヤ目のローレット形状には、例えば、JIS B 0951:1962に規定されている形状を採用できる。
【0077】
C.変形例
(1)
図3、
図4の先端筒状部55、55bの態様は一例であり、これに限られない。
図5は変形例の点火プラグ100cの説明図である。点火プラグ100cは、
図2の点火プラグ100の主体金具50に代えて、主体金具50cを備えている。点火プラグ100cの主体金具50cを除いた構成は、
図2の点火プラグ100と同一である。
図5には、点火プラグ100cの先端筒状部55cの近傍の拡大図が示されている。
図5の主体金具50cは、2個の凸部551c1、551c2を有している。後端側の凸部551c1と先端側の凸部551c2との間には、凹部552cが形成されている。
【0078】
凸部551c1、551c2の外径は、エンジンヘッド710の等径孔部7182の内径よりも大きく、凹部552cの外径は、等径孔部7182の内径よりも小さい。このために、内燃機関700に点火プラグ100が取り付けられた状態では、凸部551c1、551c2は、等径孔部7182に圧入され、凹部552cは、等径孔部7182に圧入されない。したがって、内燃機関700に点火プラグ100が取り付けられた状態で、凸部551c1、551c2は、等径孔部7182の内周面に接触しており、凹部552cは、等径孔部7182の内周面とは非接触である。
【0079】
圧入範囲R1c1は、凸部551c1に対応する範囲であり、圧入範囲R1c2は、凸部551c2に対応する範囲である。このように、複数個の凸部は、軸線方向に離れて配置されていても良い。このように、凸部の個数(圧入範囲の個数)は、1個に限らず、複数個(例えば、2個や3個)であっても良い。
【0080】
さらに、
図4の圧入範囲R1c1の先端は、接触範囲R2の中央部に位置している。すなわち、圧入範囲R1c1は、接触範囲R2の全体を含んではいないものの、接触範囲R2の一部を含んでいる。このように、圧入範囲が接触範囲R2の一部だけを含んでいる場合でも、接触範囲R2を経由して絶縁体から主体金具に伝わる熱を効率良くエンジンヘッド710に逃がすことができると考えられる。
【0081】
図示や省略するが、圧入範囲は、接触範囲R3の一部だけを含んでいても良い。圧入範囲が接触範囲R3の一部だけを含んでいる場合でも、接触範囲R3を経由して絶縁体から主体金具に伝わる熱を効率良くエンジンヘッド710に逃がすことができると考えられる。
【0082】
また、
図5において、先端筒状部55cは、2個の凸部551c1、551c2のうち、後端側の凸部551c1のみを備え、他の部分は、凹部であっても良い。また、先端筒状部55cは、2個の凸部551c1、551c2のうち、先端側の凸部551c2のみを備え、他の部分は、凹部であっても良い。
【0083】
(2)上記実施形態の内燃機関700や点火プラグ100、100bの具体的な構成(
図1~
図4)は、一例であり、これに限られない。例えば、上記各実施形態では、主体金具50の縮内径部56aと、絶縁体10の縮内径部16とは、板パッキン8を介して接触している。これに代えて、縮内径部56aと縮内径部16とは、直接に接触していても良い。上記実施形態では、絶縁体10の縮外径部15と、中心電極20の縮外径部26とは、直接に接触している。これに代えて、縮外径部15と縮外径部26とは、他部材、例えば、パッキンを介して接触していても良い。
【0084】
また、点火プラグ100は、主体金具50の先端側の開口を覆うキャップを備えるいわゆるプレチャンバプラグであっても良い。プレチャンバプラグでは、キャップの内側に形成される副燃焼室に間隙Gが位置しており、副燃焼室内で燃焼ガスへの着火が行われる。副燃焼室内で着火により発生した火炎は、キャップに形成された貫通孔から内燃機関の燃焼室内に噴射される。プレチャンバプラグでは、キャップが高温になるため、プラグの先端部の熱引きが困難になりやすく、プレイグニッションが発生しやすい。このために、プレチャンバプラグでは、本願の発明を適用して、熱引き性能を向上させる効果が大きい。
【0085】
また、中心電極20、端子電極40、接地電極30、主体金具50などの材質、形状、寸法などは、様々に変更可能である。例えば、上記実施形態では、中心電極20や接地電極30は1個の材料で形成されている。これに代えて、中心電極は、中心電極本体と、中心電極本体の先端に溶接され、放電面を有する中心電極チップと、を備える構成であっても良い。また、接地電極30は、接地電極本体と、接地電極本体の自由端部に溶接され、放電面を有する接地電極チップと、を備える構成であっても良い。また、接地電極30を構成する棒状体の断面は、四角形とは異なる形状、例えば、円、楕円、半円であっても良い。中心電極チップや接地電極チップとは、例えば、電極本体(例えば、Ni合金)よりも放電に対する耐久性に優れる材料(例えば、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の貴金属、それらの金属から選択された少なくとも1種を含む合金)を用いて形成される。
【0086】
また、軸線方向に放電する縦放電型の点火プラグ100、100bに代えて、軸線方向と垂直な方向に放電する横放電型の点火プラグとして構成されても良い。また、内燃機関700の構成としては、上記の構成に限らず、他の種々の構成を採用可能である。例えば、1個の燃焼室790のバルブの総数は、2個よりも多くても良い。
【0087】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0088】
5…ガスケット、6…線パッキン、8…板パッキン、9…タルク、10…絶縁体、12…軸孔、12L…大内径部、12S…小内径部、13…脚長部、15…縮外径部、16…縮内径部、17…先端側胴部、18…後端側胴部、19…鍔部、20…中心電極、20S…第1放電面、23…頭部、24…鍔部、25…脚部、26…縮外径部、30…接地電極、30S…第2放電面、31…自由端部、32…接続端部、40…端子電極、41…キャップ装着部、42…鍔部、43…脚部、50、50b、50c…主体金具、51…工具係合部、52…取付ネジ部、52n…雄ネジ、53…加締部、54…座部、55、55b、55c…先端筒状部、56…突出部、56a…縮内径部、58…圧縮変形部、59…貫通孔、65…外側圧入部、70…抵抗体、80A、80B…シール部材、100、100b、100c…点火プラグ、551、551b、551c1、551c2…凸部、552、552b、552c…凹部、700…内燃機関、710…エンジンヘッド、711…吸気ポート、713…排気ポート、718…取付孔、718h…等径孔、718n…雌ネジ、719…内壁、720…シリンダブロック、729…内壁、730、740…バルブ、750…ピストン、790…燃焼室、7181…ネジ部、7182…等径孔部、G…間隙、R1、R1c1、R1c2…圧入範囲、R2、R2…接触範囲