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特許7455526ダブルフリース編地および染め糸を生産する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】ダブルフリース編地および染め糸を生産する方法
(51)【国際特許分類】
   D04B 1/00 20060101AFI20240318BHJP
   D04B 1/18 20060101ALI20240318BHJP
   D06M 15/256 20060101ALI20240318BHJP
   D06M 13/335 20060101ALI20240318BHJP
   D01F 6/92 20060101ALI20240318BHJP
   D06P 3/54 20060101ALN20240318BHJP
【FI】
D04B1/00 C
D04B1/18
D04B1/00 B
D06M15/256
D06M13/335
D01F6/92 301S
D01F6/92 303A
D06P3/54 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019131155
(22)【出願日】2019-07-16
(65)【公開番号】P2021014662
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】519087697
【氏名又は名称】株式会社ノリタケ
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 三郎
(72)【発明者】
【氏名】金城 秀侑
(72)【発明者】
【氏名】那須 竜太
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-117965(JP,A)
【文献】特開2010-024607(JP,A)
【文献】特表2017-532459(JP,A)
【文献】特開2008-088564(JP,A)
【文献】特表2017-515009(JP,A)
【文献】実開昭61-147204(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B1/00-1/28、21/00-21/20、
D04B3/00-19/00、23/00-39/08、
D06M13/00-15/715、
D06P1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウラメの面とオモテメの面とを有する緯編み組織を呈するように編まれた状態のタイイン糸によって構成される第1の組織と、
ウラメの面とオモテメの面とを有する緯編み組織を呈するように編まれた状態のインレー糸によって構成され、かつ、その緯編み組織におけるオモテメの面が前記第1の組織におけるウラメの面に重ねられた第2の組織と、
前記第2の組織と前記第1の組織とを、当該第1の組織におけるオモテメの面に他の組織があらわれない状態でつなぎ合わせるニットイン糸を含んでなる第3の組織と、
を有するダブルフリース編地において、
前記ニットイン糸は、前記第1の組織の緯編み組織におけるコースに沿って配設されて、このコースが延びる方向の伸長に抗する弾発力を発揮する弾性糸であり、
前記タイイン糸は、当該タイイン糸の表面が塗膜によって覆われた状態で、前記第1の組織の緯編み組織を呈するように編まれるものであり、
前記塗膜は、空気中にて水に接触したときの接触角の大きさが、前記タイイン糸が空気中にて水に接触したときの接触角の大きさ、および、90°のいずれよりも大きくなる物質によって構成されている、
ダブルフリース編地。
【請求項2】
ウラメの面とオモテメの面とを有する緯編み組織を呈するように編まれた状態のタイイン糸によって構成される第1の組織と、
ウラメの面とオモテメの面とを有する緯編み組織を呈するように編まれた状態のインレー糸によって構成され、かつ、その緯編み組織におけるオモテメの面が前記第1の組織におけるウラメの面に重ねられた第2の組織と、
前記第2の組織と前記第1の組織とを、当該第1の組織におけるオモテメの面に他の組織があらわれない状態でつなぎ合わせるニットイン糸を含んでなる第3の組織と、
を有するダブルフリース編地において、
前記ニットイン糸は、前記第1の組織の緯編み組織におけるコースに沿って配設されて、このコースが延びる方向の伸長に抗する弾発力を発揮する弾性糸であり、
結晶部分および非結晶部分の両方を有する結晶性プラスチックの状態のポリエステルからなる糸であり、かつ、分散染料で染色された糸である染め糸を含んで構成される組織を有し、
前記染め糸の前記非結晶部分をなすポリエステルの分子の間には、ポリエステルからなる糸を生産する際にこの糸の中に不可避的に入り込む物質と、分散染料と、抗菌剤として機能することが可能な物質と、が入り込んでいる、
ダブルフリース編地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダブルフリース編地、および、このダブルフリース編地に用いられる染め糸を生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダブルフリース編地とは、それぞれがウラメの面とオモテメの面とを有する緯編み組織をなす第1の組織および第2の組織を、この第2の組織におけるオモテメの面が第1の組織におけるウラメの面に重ねられた状態で、これら第1の組織および第2の組織とは別の第3の組織により、第1の組織におけるオモテメの面に他の組織があらわれない状態につなぎ合わせてなる組織のことをいう。このダブルフリース編地は、例えば下記の特許文献1に開示のある公知の組織である。なお、ダブルフリース編地において、上記第1の組織をなす糸は「タイイン糸」、上記第2の組織をなす糸は「インレー糸」、上記第3の組織をなす糸は「ニットイン糸」と呼ばれることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実用新案公告第5794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1に開示のあるダブルフリース編地は、その組織が伸長によって崩れることに対する抵抗力が弱く、それゆえに使用によって伸びたままの状態となってしまうものであった。
【0005】
本発明は、伸びた状態から縮んで元の状態に戻るもしくは元の状態に近づくことが可能なダブルフリース編地を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明における1つの特徴によると、第1の組織と、第2の組織と、第3の組織と、を有するダブルフリース編地が提供される。ここで、第1の組織は、ウラメの面とオモテメの面とを有する緯編み組織を呈するように編まれた状態のタイイン糸によって構成される。また、第2の組織は、ウラメの面とオモテメの面とを有する緯編み組織を呈するように編まれた状態のインレー糸によって構成され、かつ、その緯編み組織におけるオモテメの面が第1の組織におけるウラメの面に重ねられる。また、第3の組織は、第2の組織と第1の組織とを、この第1の組織におけるオモテメの面に他の組織があらわれない状態でつなぎ合わせるニットイン糸を含んでなる。このニットイン糸は、第1の組織の緯編み組織におけるコースに沿って配設されて、このコースが延びる方向の伸長に抗する弾発力を発揮する弾性糸である。
【0007】
ウラメの面とオモテメの面とを有する緯編み組織は、そのウェールが延びる方向よりも、そのコースが延びる方向に組織が伸びやすいという性質を有する。ここで、上記のダブルフリース編地は、その第1の組織におけるコースが延びる方向の伸長に対し、この伸長に抗する弾発力を第3の組織の弾性糸に発揮させる。したがって、上記のダブルフリース編地は、第1の組織が伸長によって崩れることに対する抵抗力を第3の組織の弾性糸によって補い、もって伸びた状態から縮んで元の状態に戻るもしくは元の状態に近づくことが可能となる。
【0008】
上記のダブルフリース編地においては、タイイン糸は、このタイイン糸の表面が塗膜によって覆われた状態で、第1の組織の緯編み組織を呈するように編まれるものが好ましい。この場合において、上記塗膜は、この塗膜が空気中にて水に接触したときの接触角の大きさが、タイイン糸が空気中にて水に接触したときの接触角の大きさ、および、90[°]のいずれよりも大きくなる物質によって構成されている。
【0009】
この場合、ダブルフリース編地における一方側の面が、表面が塗膜によって覆われたタイイン糸によって構成される第1の組織におけるオモテメの面のみがあらわれた状態とされる。ここで、上記第1の組織は、微細な凹凸構造である編み目を有する緯編み組織であるがゆえに、空気中ではその内部に空気が含まれるものである。また、上記第1の組織は、そのコースが延びる方向の伸長が第3の組織の弾性糸によって抑えられることで、このコースが延びる方向の編み目が密に保たれる。また、上記塗膜は、第1の組織を構成するタイイン糸の表面を覆うことで、第1の組織におけるオモテメの面が空気中にて水に接触したときの接触角を大きくして90[°]よりも大きな値にする。したがって、上記のダブルフリース編地は、その一方側の面において超はっ水(空気中にて水に接触したときの接触角の大きさが90[°]よりも大きい対象物の表面に空気を含む微細な凹凸構造が存在する場合に、この凹凸構造が対象物の表面をより濡れにくくする現象)を発生させやすくし、もって上記一方側の面のはっ水性を向上させることができる。
【0010】
また、上記のダブルフリース編地においては、結晶部分および非結晶部分の両方を有する結晶性プラスチックの状態のポリエステルからなる糸であり、かつ、分散染料で染色された糸である染め糸を含んで構成される組織を有するものが好ましい。この場合において、染め糸の非結晶部分をなすポリエステルの分子の間には、ポリエステルからなる糸を生産する際にこの糸の中に不可避的に入り込む物質と、分散染料と、抗菌剤として機能することが可能な物質と、が入り込んでいる。
【0011】
ポリエステルからなる糸を生産する際には、例えばポリエステルの原料となるモノマーが繊維の体をなさないほど低い重合度で重合した物質などの不純物が、生産された糸の中に不可避的に入り込む。この不純物は、糸をなすポリエステルが結晶部分および非結晶部分の両方を有する結晶性プラスチックの状態である場合には、糸において非結晶部分をなすポリエステルの分子の間に入り込む。
【0012】
一方で、結晶部分および非結晶部分の両方を有する結晶性プラスチックの状態のポリエステルからなる糸を染色する際には、一般に、この糸において非結晶部分をなすポリエステルの分子間の間隙を広げる膨潤を行い、この膨潤により広げられた間隙に分散染料を入り込ませる手法が採用される。ここで、結晶部分および非結晶部分の両方を有する結晶性プラスチックの状態のポリエステルからなる糸において、その非結晶部分をなすポリエステルの分子の間に入り込んだ物質は、時を経て糸の表面に移動し、この表面に付着した粉末の態様を取る。このため、結晶性プラスチックの状態のポリエステルからなる糸を上記手法により染色した場合、この糸においては、分散染料による色がついた粉末が、時を経て表面に付着した状態となる。
【0013】
したがって、上記のダブルフリース編地は、抗菌剤として機能することが可能な物質を染め糸の表面に付着した状態とすることで、この物質による抗菌作用を発揮させることができる。また、上記のダブルフリース編地においては、染め糸の非結晶部分をなすポリエステルの分子の間に入り込んだ物質が、分散染料による色がついた粉末の態様で染め糸の表面に付着した状態となるため、この物質を視認可能である。
【0014】
また、上記染め糸を生産する、染め糸を生産する方法の発明も提供される。この染め糸を生産する方法は、第1の手順と第2の手順とを有している。第1の手順では、ポリエステルからなる糸を膨潤させる。第2の手順では、第1の手順を経ることで膨潤された状態となった糸を、抗菌剤および分散染料の両方を含有する分散系によって染色し、もってこの糸を染め糸に加工する。
【0015】
ポリエステルは、その構造の緻密さおよび結晶化度の高さにより、後加工で内部に抗菌剤を入り込ませることが困難な物質である。このため、ポリエステル製の糸に抗菌作用を発揮させる場合、一般には、結合剤を介して糸の表面に抗菌剤をくっつける手法、あるいは、ポリエステルを分散媒として抗菌剤を分散質とした分散系を原料として糸を生産する手法が採用される。これらの手法のうち、前者の手法には、使用により抗菌剤が糸からはがれ落ちて抗菌作用が弱まるという課題がある。また、後者の手法には、抗菌作用を発揮する糸の生産に際して特別な分散系を原料とする必要があるという課題がある。
【0016】
ここで、上記の染め糸を生産する方法によれば、ポリエステルからなる糸を材料として、この糸の内部に抗菌剤および分散染料の両方が入り込んだ、ポリエステル製の染め糸を、特別な手順を追加することなく得ることができる。そして、この染め糸をダブルフリース編地に用いることで、このダブルフリース編地を分散染料による着色がなされたものにすることと、このダブルフリース編地に抗菌剤による抗菌作用を発揮させることとができる。ここで、ダブルフリース編地の抗菌作用は、染め糸の内部に入り込んだ抗菌剤によって実現されるため、抗菌剤が糸からはがれ落ちて抗菌作用が弱まる可能性を低くすることができる。さらに、抗菌作用を発揮する糸の生産に際して、特別な分散系を原料とする必要をなくすことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のダブルフリース編地は、伸びた状態から縮んで元の状態に戻るもしくは元の状態に近づくことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態にかかるダブルフリース編地の要部拡大図である。
図2図1のインレー糸を表した模式図である。
図3】本発明の一実施形態にかかる染め糸を生産する方法における第1の手順を表した説明図である。
図4】本発明の一実施形態にかかる染め糸を生産する方法における第2の手順を表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を用いて、本発明の一実施形態にかかるダブルフリース編地1について説明する。このダブルフリース編地1は、緯編みの編地であり、それ自体公知のダブルフリース編機を使用して製造することができる、このようなダブルフリース編機としては、例えば、カネキチ工業株式会社製造の吊機が挙げられる。この吊機は、丸編みの編地(緯編みの編地のうち、この編地をなすコースを折り返すことなくつるまき線をなすように連ねることで、巨視的な形状が筒状となる編地)を製造するものである。このため、本実施形態のダブルフリース編地1は、巨視的に見て筒状となる丸編みの編地(図示せず)となる。
【0020】
ダブルフリース編地1は、図1に示すように、タイイン糸11を編んで構成される第1の組織10と、インレー糸21を編んで構成される第2の組織20とを、ニットイン糸31を含んでなる第3の組織30によってつなぎ合わせた交編の構成を有する。なお、本実施形態のダブルフリース編地1においては、その筒の外側に第1の組織10が配され、内側に第2の組織20が配される(図示せず)。
【0021】
第1の組織10および第2の組織20は、図1に示すように、それぞれ、ウラメの面とオモテメの面とを有する緯編み組織を呈するように編まれた組織である。ここで、「ウラメの面」とは、編地において、表面に表れる編み目がすべてウラメの編み目となる面のことをいう。また、「オモテメの面」とは、編地において、表面に表れる編み目がすべてオモテメの編み目となる面のことをいう。したがって、編地がウラメの面を有する場合、この編地の組織においてウラメの面とは反対側となる面は必ずオモテメの面となり、その逆もまた同様である。
【0022】
また、第2の組織20は、その緯編み組織におけるオモテメの面(図1では紙面奥側の面)が第1の組織10におけるウラメの面(図1では紙面手前側の面)に重ねられた状態とされる。本実施形態においては、第2の組織20におけるコース20Aおよびウェール20Bが、それぞれ、第1の組織10におけるコース10Aおよびウェール10Bに重ねられた状態とされる。
【0023】
第3の組織30は、そのニットイン糸31により、第2の組織20と第1の組織10とを、この第1の組織10におけるオモテメの面に他の組織があらわれない状態でつなぎ合わせる。このニットイン糸31は、伸長に抗する弾発力を発揮する弾性糸とされて、第1の組織10の緯編み組織におけるコース10Aに沿って配設されることで、このコース10Aが延びる方向(図1では左右方向)の伸長に抗する弾発力を発揮する。本実施形態においては、ニットイン糸31は天然ゴム糸であるが、この天然ゴム糸は、パラゴムノキから採取したラテックスによって作られる天然ゴムからなるものであっても、化学合成された天然ゴムからなるものであってもよい。
【0024】
また、タイイン糸11は、このタイイン糸11の表面が塗膜11Aによって覆われた状態で、第1の組織10の緯編み組織を呈するように編まれている。この塗膜11Aは、ポリテトラフルオロエチレンを含有した物質によって構成されている。この物質は、空気中にて水に接触したときの接触角の大きさが、90[°]よりも大きな値(一般的には100[°]~120[°]程度)をとる。
【0025】
ここで、塗膜11Aに覆われるタイイン糸11は、その混用率が綿100[%]となる(すなわち、全体に対する綿の質量割合が99[%]以上である)糸であり、空気中にて水に接触したときの接触角の大きさが、40[°]~60[°]程度の値をとるものである。したがって、塗膜11Aを構成する物質は、空気中にて水に接触したときの接触角の大きさが、タイイン糸11が空気中にて水に接触したときの接触角の大きさよりも大きくなる物質であるといえる。
【0026】
インレー糸21は、図2に示すように、その混用率がポリエステル100[%]となる(すなわち、全体に対するポリエステルの質量割合が99[%]以上である)糸を分散染料90Bで染色した構成を有する染め糸である。ここで、上記ポリエステルは、結晶部分22Aおよび非結晶部分22Bの両方を有する結晶性プラスチックの状態のポリエチレンテレフタラート(下記の構造式1を参照)である。
【0027】
【化1】
【0028】
また、インレー糸21において非結晶部分22Bをなすポリエステルの分子22の間には、不純物22Cと、分散染料90Bと、抗菌剤90Aとが入り込んでいる。ここで、不純物22Cは、例えばポリエステルの原料となるモノマーが繊維の体をなさないほど低い重合度で重合した物質などの、ポリエステルからなる糸を生産する際にこの糸の中に不可避的に入り込む物質である。また、分散染料90Bは、例えば1-(メチルアミノ)-4-(2-ヒドロキシエチルアミノ)アントラキノン(下記の構造式2を参照)であり、インレー糸21をヒトの目には青っぽく見える色に染色する。また、抗菌剤90Aは、それ自体は公知である、繊維加工用の抗菌剤とすることができるものである。このような繊維加工用の抗菌剤としては、例えば大阪化成株式会社製のマルカサイドYP-DP(マルカサイドは登録商標)が挙げられる。
【0029】
【化2】
【0030】
続いて、上述したインレー糸21を製造する方法の例について説明する。この方法の例においては、まず、結晶部分22Aおよび非結晶部分22Bの両方を有する結晶性プラスチックの状態のポリエステルからなる糸21A(図3の実線を参照)を生産する。この糸21Aにおいては、ポリエステルの原料となるモノマーが繊維の体をなさないほど低い重合度で重合した物質などの不純物22Cが、非結晶部分22Bをなすポリエステルの分子22の間に入り込んでいる。本実施形態においては、糸21Aとして、そのポリエステルの分子22の向きが概ね糸21Aの長手方向(図3では左右方向)に揃った一軸延伸糸を生産する。
【0031】
ついで、水分の存在する環境下で糸21Aを加熱し、もってこの糸21Aを膨潤させる。この手順は、本発明における「第1の手順」に相当する。ここで、膨潤された糸21Aにおいては、図3に仮想線で示すように、そのポリエステルの分子22の向きにおけるばらつきの度合いが大きくなり、さらに、非結晶部分22Bをなすポリエステルの分子22の分子間隔が広がる。ただし、結晶部分22Aをなすポリエステルの分子22については、その分子間隔はほとんど変化しない。なお、糸21Aを加熱して膨潤させるに際し、この糸21Aを膨潤させやすくする薬剤であるキャリヤーは、使用しても使用しなくてもよい。
【0032】
そして、図4に示すように、膨潤された状態となった糸21Aを抗菌剤90Aおよび分散染料90Bの両方を含有する分散系90に入れる。ここで、分散系90は、水および抗菌剤90Aを含有する溶液を分散媒とし、この分散媒に分散染料90Bが分散質として分散されたものであってよい。あるいは、分散系90は、水または水溶液を分散媒とし、この分散媒に抗菌剤90Aおよび分散染料90Bが分散質として分散されたものであってよい。
【0033】
このとき、分散系90に含有される抗菌剤90Aおよび分散染料90Bは、糸21Aにおいて結晶部分22Aをなすポリエステルの分子22の間にはほとんど入り込まない一方で、同じく非結晶部分22Bをなすポリエステルの分子22の間に入り込むことで、糸21Aを染色する。これにより、ポリエステルからなる糸21Aを染色加工し、もってインレー糸21として使用可能な染め糸を製造することができる。すなわち、上記手順は、本発明における「第2の手順」に相当する。
【0034】
上述したダブルフリース編地1は、その第1の組織10におけるコース10Aが延びる方向の伸長に対し、この伸長に抗する弾発力を第3の組織30のニットイン糸31に発揮させる。したがって、上記のダブルフリース編地1は、第1の組織10が伸長によって崩れることに対する抵抗力を第3の組織30のニットイン糸31によって補い、もって伸びた状態から縮んで元の状態に戻るもしくは元の状態に近づくことができる。
【0035】
また、上述したダブルフリース編地1は、その一方側の面が、表面が塗膜11Aによって覆われたタイイン糸11によって構成される第1の組織10におけるオモテメの面のみがあらわれた状態とされる。ここで、第1の組織10は、微細な凹凸構造である編み目を有する緯編み組織であるがゆえに、空気中ではその内部に空気が含まれる。また、第1の組織10は、そのコース10Aが延びる方向(図1では左右方向)の伸長が第3の組織30のニットイン糸31によって抑えられることで、このコース10Aが延びる方向の編み目が密に保たれる。また、塗膜11Aは、第1の組織10を構成するタイイン糸11の表面を覆うことで、第1の組織10におけるオモテメの面が空気中にて水に接触したときの接触角を大きくして90[°]よりも大きな値にする。したがって、ダブルフリース編地1は、その一方側の面において超はっ水を発生させやすくし、もってこの一方側の面のはっ水性を向上させることができる。
【0036】
また、上述したダブルフリース編地1によれば、インレー糸21において非結晶部分22Bをなすポリエステルの分子22の間に入り込んだ抗菌剤90Aが時を経てインレー糸21の表面に付着した状態となることで、この抗菌剤90Aによる抗菌作用を発揮することができる。さらに、インレー糸21において非結晶部分22Bをなすポリエステルの分子22の間に入り込んだ物質が時を経てインレー糸21の表面に付着した状態となる際には、この物質は分散染料90Bによる色がついた粉末の態様をとるため、これを視認することができる。
【0037】
また、上述したインレー糸21を製造する方法の例によれば、ポリエステルからなる糸21Aを材料として、この糸21Aの内部に抗菌剤90Aおよび分散染料90Bの両方が入り込んだポリエステル製の染め糸(図2のインレー糸21を参照)を、特別な手順を追加することなく得ることができる。そして、この染め糸をダブルフリース編地1のインレー糸21として用いることで、このダブルフリース編地1を分散染料90Bによる着色がなされたものにすることと、このダブルフリース編地1に抗菌剤90Aによる抗菌作用を発揮させることとができる。ここで、ダブルフリース編地1の抗菌作用は、インレー糸21の内部に入り込んだ後にその表面に移動した抗菌剤90Aによって実現されるため、この抗菌剤90Aがインレー糸21からはがれ落ちて抗菌作用が弱まる可能性を低くすることができる。さらに、抗菌作用を発揮するインレー糸21の生産に際して、ポリエステルを分散媒として抗菌剤を分散質とした特別な分散系を原料とする必要をなくすことができる。
【0038】
なお、本発明者は、上述したダブルフリース編地1の性能を評価するはっ水度試験および抗菌性試験を行った。
【0039】
上記はっ水度試験は、それぞれ劣化の程度が異なる第1の試験片、第2の試験片、および、第3の試験片を3つずつ用意し、これら試験片に対して、JIS L 1092:2009に規定されるはっ水度試験(スプレー試験)を1回ずつ行ったものである。ここで、第1の試験片は、製造直後のダブルフリース編地1を、1辺が200[mm]の正方形形状に切り取って採取したものである。また、第2の試験片は、製造後に水洗いを5回行った状態のダブルフリース編地1を、1辺が200[mm]の正方形形状に切り取って採取したものである。また、第3の試験片は、製造後にドライクリーニング処理を3回行った状態のダブルフリース編地1を、1辺が200[mm]の正方形形状に切り取って採取したものである。これら第1の試験片、第2の試験片、および、第3の試験片は、それぞれ、第1の組織におけるオモテメの面が表側(水が散布される側)となる状態で試験片保持枠に取り付けられた。
【0040】
また、第2の試験片が採取されるダブルフリース編地1に対して行われた水洗いは、JIS L 0217-1995の付表1にて番号103で規定される方法にのっとって行われ、この方法において選択可能な干し方としてはつり干しを選択した。また、第3の試験片が採取されるダブルフリース編地1に対して行われたドライクリーニング処理は、JIS L 1092:2009に規定されるB法(石油系法)にのっとって行われ、この方法において選択可能な乾燥の手法としてはスクリーン乾燥を選択した。
【0041】
上記はっ水度試験において、第1の試験片は、3つの試験片のすべてが、4級(表面に湿潤しないが、小さな水滴の付着を示す)であると判定された。また、第2の試験片は、3つの試験片のすべてが、2級(表面の半分に湿潤を示し、小さな個々の湿潤が布を浸透する状態を示す)であると判定された。また、第3の試験片は、3つの試験片のすべてが、3級(表面に小さな個々の水滴状の湿潤を示す)であると判定された。ただし、上記各試験片においては、いずれも、その裏面(第2の組織および第3の組織が位置される側の面)に漏水が認められた。ここから、上述したダブルフリース編地1は、その第1の組織10におけるオモテメの面のはっ水性が向上されたものであり、その効果は洗濯を経ても残留されるといえる。
【0042】
上記抗菌性試験は、それぞれ劣化の程度が異なる第1の検体および第2の検体、ならびに、対照資料となる第3の検体に対して、JIS L 1902:2015に規定される菌液吸収法を行ったものである。ここで、第1の検体は、製造直後のダブルフリース編地1を裁断して採取したものである。また、第2の検体は、製造後に洗濯を10回行った状態のダブルフリース編地1を裁断して採取したものである。また、第3の検体は、JIS L 1902:2015に規定される菌液吸収法にて対照資料が入手できない場合に使用される、綿100%の添付白布に所定の処理を施したものである。
【0043】
また、第2の検体が採取されるダブルフリース編地1に対して行われた洗濯は、一般社団法人繊維評価技術協議会の「SEKマーク繊維製品の洗濯方法」にかかる標準洗濯法にのっとって行われた。また、上記菌液吸収法において使用される試験接種菌液としては、界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(Tween 80)が添加された、黄色ブドウ球菌の試験菌懸濁液を使用した。ここで、上記黄色ブドウ球菌としては、コアグラーゼ陽性ブドウ球菌(Staphylococcus aureus subsp. aureus)のNBRC 12732株を使用した。
【0044】
上記抗菌性試験において、第3の検体は、菌液の接種直後の洗い出しにて検出された生菌数が、常用対数で表して4.51で、その最大最小差が0.1であった。また、第3の検体は、菌液の接種後に18時間の培養時間を経た状態の洗い出しにて検出された生菌数が、常用対数で表して7.02で、その最大最小差が0.1であった。ここから、対照資料である第3の検体における増殖値Fは2.5と計算される。
【0045】
これに対し、第1の検体は、菌液の接種直後の洗い出しにて検出された生菌数が、常用対数で表して4.44で、その最大最小差が0.1であった。また、第1の検体は、菌液の接種後に18時間の培養時間を経た状態の洗い出しにて検出された生菌数が、常用対数で表して1.30で、その最大最小差が0.0であった。ここから、第1の検体における抗菌活性値Aは5.7と計算される。これは、第1の検体(すなわち、製造直後のダブルフリース編地1)に105.7個(約50万個)の生きた黄色ブドウ球菌が付着し、これら黄色ブドウ球菌の増殖がないとしたときに、この黄色ブドウ球菌の生菌数が18時間後には1個になる程度の強さの抗菌性を、第1の検体が有していることを意味する。
【0046】
また、第2の検体は、菌液の接種直後の洗い出しにて検出された生菌数が、常用対数で表して4.47で、その最大最小差が0.1であった。また、第2の検体は、菌液の接種後に18時間の培養時間を経た状態の洗い出しにて検出された生菌数が、常用対数で表して3.27で、その最大最小差が1.4であった。ここから、第2の検体における抗菌活性値Aは3.7と計算される。これは、第2の検体(すなわち、製造後に洗濯を10回行った状態のダブルフリース編地1)に103.7個(約5000個)の生きた黄色ブドウ球菌が付着し、これら黄色ブドウ球菌の増殖がないとしたときに、この黄色ブドウ球菌の生菌数が18時間後には1個になる程度の強さの抗菌性を、第2の検体が有していることを意味する。
【0047】
本発明は、上述した一実施形態で説明した外観、構成に限定されず、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更、追加、削除が可能である。例えば、以下のような各種の形態を実施することができる。
【0048】
(1)本発明のダブルフリース編地は、巨視的に見て筒状となる丸編みの編地である必要はなく、横編みの編地(緯編みの編地のうち、この編地をなすコースを折り返しながら段をなして連ねることで、巨視的な形状が帯状となる編地)であってもよい。
【0049】
(2)本発明のダブルフリース編地において、第1の組織を構成するタイイン糸の素材は適宜変更することができ、このタイイン糸の表面を覆う塗膜は適宜省略することができる。ここで、タイイン糸をポリエステルからなる糸とし、このタイイン糸の表面を覆う塗膜を省略する場合には、このタイイン糸を、第2の組織を構成するインレー糸と同様の、非結晶部分をなすポリエステルの分子の間に不純物と分散染料と抗菌剤とが入り込んだ染め糸にすることができる。
【0050】
(3)本発明のダブルフリース編地において、第2の組織を構成するインレー糸は、非結晶部分をなすポリエステルの分子の間に不純物と分散染料と抗菌剤とが入り込んだ染め糸に限定されず、適宜に設定される素材からなる糸に変更することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 ダブルフリース編地
10 第1の組織
10A コース
10B ウェール
11 タイイン糸
11A 塗膜
20 第2の組織
20A コース
20B ウェール
21 インレー糸(染め糸)
21A 糸
22 ポリエステルの分子
22A 結晶部分
22B 非結晶部分
22C 不純物
30 第3の組織
31 ニットイン糸
90 分散系
90A 抗菌剤
90B 分散染料
図1
図2
図3
図4