(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】記録装置および記録方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240318BHJP
B41J 2/205 20060101ALI20240318BHJP
B41J 2/15 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B41J2/01 203
B41J2/01 305
B41J2/01 213
B41J2/01 451
B41J2/205
B41J2/15
(21)【出願番号】P 2019213563
(22)【出願日】2019-11-26
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】栗山 恵司
(72)【発明者】
【氏名】川藤 洋志
(72)【発明者】
【氏名】和田 聡
(72)【発明者】
【氏名】神田 英彦
(72)【発明者】
【氏名】下古立 祐未
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-144637(JP,A)
【文献】特開2001-54956(JP,A)
【文献】特開2015-39772(JP,A)
【文献】特開2012-997(JP,A)
【文献】特開2016-215476(JP,A)
【文献】特開2010-234701(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103029431(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の方向に配列した複数の吐出口を有し、画像データに基づいて前記吐出口から記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを前記所定の方向とは交差する方向に移動させる移動手段と、
記録媒体を前記所定の方向に搬送する複数のローラと、
を備え、前記移動手段によって前記記録ヘッドを移動しながら前記記録媒体にインクを吐出する動作と、少なくとも1つの前記ローラによって前記記録媒体を所定の距離搬送する動作とを交互に行い、前記記録媒体上の同じ領域に複数回に分けてインクを吐出してドットを形成することにより前記記録媒体に画像を記録する記録装置であって、
前記記録媒体を搬送する前記ローラの組み合わせが変わる搬送の後の記録ヘッドの移動において記録される領域を含む前記記録媒体の一部の所定の領域の画像データを取得する取得手段と、
前記取得手段が取得した前記画像データに基づいて、前記画像データの値が中間調に対応する場合には第1のモードで画像の記録を行い、前記画像データの値が前記中間調よりも高い階調に対応する場合には第2のモードで画像の記録を行うように、複数のモードから当該画像データに従って記録を行うモードを決定する決定手段と、
をさらに備え、
前記複数のモードは少なくとも第1のモードと第2のモードとを有し、入力データが同じであるとして比較した場合には、前記第1のモードの方が前記第2のモードよりも前記記録ヘッドの1回の移動での記録によって前記所定の方向に記録されるドットの連続数の平均値が大き
く、
前記記録ヘッドは複数の色のインクを吐出可能であり、
前記決定手段は、前記取得手段が取得した前記所定の領域の画像データの、前記複数のインク色毎のドットの割合の合計に基づいて前記モードを決定することを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記複数のローラは、前記記録媒体の搬送方向において前記記録ヘッドよりも上流側のローラと、前記記録ヘッドよりも下流側のローラを含み、
前記記録媒体を搬送する前記ローラの組み合わせが変わる搬送の後に記録される領域は、前記上流側のローラを用い、前記下流側
のローラを用いずに行っていた搬送から、前記上流側のローラと前記下流側のローラとによる搬送に切り替わった後に記録する領域であることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記複数のローラは、前記記録媒体の搬送方向において前記記録ヘッドよりも上流側のローラと、前記記録ヘッドよりも下流側のローラとを含み、
前記記録媒体を搬送する前記ローラの組み合わせが変わる搬送の後に記録される領域は、前記上流側のローラと前記下流側のローラとによる搬送から、前記上流側のローラを用いずに前記下流側のローラを用いて行う搬送に切り替わった後に記録する領域であることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項4】
前記複数の色のインクは、濃度が異なる複数の色のインクであり、
前記複数のインク色毎のドットの割合の合計は、前記複数の色のインクの中で濃度が濃い色のインクのドットの割合の合計であることを特徴とする請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項5】
前記決定手段は、前記画像データの値が前記中間調よりも低い階調に対応する場合には第2のモードで画像の記録を行うように決定することを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項6】
前記画像データを処理することにより、前記記録ヘッドがインクを吐出するための記録データを生成する処理手段を有し、
前記処理手段は、前記決定手段が決定したモードによって、前記記録媒体の前記同じ領域に記録する前記画像データを前記複数回の前記記録ヘッドの移動による記録のためのデータに分けるための、前記記録媒体に記録する画素毎にドットの記録の許容あるいは非許容が定められたマスクパターンを切り替えて前記画像データを処理し、
前記第1のモードの方が前記第2のモードよりも使用するマスクパターンの前記所定の方向におけるドットの記録を許容する連続数の平均値が大きいことを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項7】
多値の前記画像データを、前記多値の前記画像データの各画素に対して閾値が設定されている量子化パターンを用いて処理することにより、前記記録ヘッドがインクを吐出するための2値の記録データを生成する処理手段を有し、
前記処理手段は、前記決定手段が決定したモードによって前記量子化パターンを切り替えて処理を行い、前記画像データの値が、対応する前記量子化パターンの画素の前記閾値を超える場合にはドットの記録を決定し、前記閾値を超えない場合にはドットの非記録を決定することによって2値データを生成し、
前記第1のモードの方が前記第2のモードよりも前記量子化パターンの閾値は前記所定
の方向において連続して低い値が設定されていることを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項8】
前記複数のモードは第3のモードを有し、
前記画像データの値が、前記中間調よりも高く、前記中間調よりも高い階調よりも低い階調の場合には前記第3のモードで画像の記録を行い、
入力データが同じであるとして比較した場合には、前記第1のモードの方が前記第3のモードよりも前記記録ヘッドの1回の移動での記録によって前記所定の方向に記録されるドットの連続数の平均値が大きく、前記第3のモードの方が前記第2のモードよりも前記記録ヘッドの1回の移動での記録によって前記所定の方向に記録されるドットの連続数の平均値が大きいことを特徴とする請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項9】
所定の方向に配列した複数の吐出口を有し、画像データに基づいて前記吐出口から記録媒体にインクを吐出し、複数の大きさのインク滴を吐出可能な記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを前記所定の方向とは交差する方向に移動させる移動手段と、
記録媒体を前記所定の方向に搬送する複数のローラと、
を備え、前記移動手段によって前記記録ヘッドを移動しながら前記記録媒体にインクを吐出する動作と、少なくとも1つの前記ローラによって前記記録媒体を所定の距離搬送する動作とを交互に行い、前記記録媒体上の同じ領域に複数回に分けてインクを吐出してドットを形成することにより前記記録媒体に画像を記録する記録装置であって、
前記記録媒体を搬送する前記ローラの組み合わせが変わる搬送の後に記録される領域を含む前記記録媒体の所定の領域の画像データを取得する取得手段と、
前記取得手段が取得した前記画像データに基づいて、前記画像データの値が中間調に対応する場合には第1のモードで画像の記録を行い、前記画像データの値が前記中間調よりも高い階調に対応する場合には第2のモードで画像の記録を行うように、複数のモードから当該画像データに従って記録を行うモードを決定する決定手段と、
をさらに備え、
前記第1のモードの方が前記第2のモードよりも大きいインク滴によって記録を行うことを特徴とする記録装置。
【請求項10】
前記決定手段は、前記画像データの値が前記中間調よりも低い階調に対応する場合には第2のモードで画像の記録を行うように決定することを特徴とする請求項
9に記載の記録装置。
【請求項11】
所定の方向に配列した複数の吐出口を有
し、複数の色のインクを吐出可能である記録ヘッドを、前記所定の方向とは交差する方向に移動させながら画像データに基づいて前記吐出口から記録媒体にインクを吐出する動作と、少なくとも1つのローラによって前記記録媒体を所定の距離搬送する動作を交互に行い、前記記録媒体上の同じ領域に複数回に分けてインクを吐出してドットを形成することにより前記記録媒体に画像を記録する記録方法であって、
前記記録媒体を搬送する前記ローラの組み合わせが変わる搬送の後に記録される領域を含む前記記録媒体の所定の領域の画像データを取得する取得工程と、
前記取得工程で取得した前記画像データに基づいて、前記画像データの値が中間調に対応する場合に
は第1のモードで画像の記録を行い、前記画像データの値が前記中間調よりも高い階調に対応する場合には第2のモードで画像の記録を行うように、複数のモードから当該画像データに従って記録を行うモードを決定する決定工程と、
を有し、
前記複数のモードは少なくとも
前記第1のモードと
前記第2のモードとを有し、入力データが同じであるとして比較した場合には、前記第1のモードの方が前記第2のモードよりも前記記録ヘッドの1回の移動での記録によって前記所定の方向に記録されるドットの連続数の平均値が大き
く、
前記決定工程において、前記取得工程で取得した前記所定の領域の画像データの、前記複数のインク色毎のドットの割合の合計に基づいて前記モードを決定することを特徴とする記録方法。
【請求項12】
前記決定工程は、前記画像データの値が前記中間調よりも低い階調に対応する場合には第2のモードで画像の記録を行うように決定することを特徴とする請求項1
1に記載の記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録装置及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドが走査しながら記録媒体にインクを吐出し、走査方向と交差する方向へ記録媒体を搬送することで記録を行う記録装置が知られている。また、そのような記録装置において記録ヘッドによって記録を行う位置に記録媒体を搬送するために、記録ヘッドを挟んで記録媒体の搬送方向に上流側と下流側に搬送ローラを設けることが知られている。
【0003】
特許文献1には、記録を行う位置で記録媒体がたわむことを防ぐために、下流側の搬送ローラを上流側の搬送ローラより僅かに高い速度で回転させることにより記録媒体に張力を作用させることが開示されている。また、搬送が進み、上流側の搬送ローラを外れる際に回転速度の違いにより搬送量がずれることも開示されている。
【0004】
特許文献2には、記録媒体の搬送量のずれによる濃度むらを抑制するためにマスクパターンのクラスタサイズを大きくし、近接する複数ドットを同一走査で記録することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2002-321412号公報
【文献】特開2008-229864号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、しかしながら、特許文献2の方法は複数ドドットが集合して一度に記録されるため、画像によっては粒状感が目立ってしまうことが考えられる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、搬送量のずれがある場合にも濃度むらと粒状感を、状況に応じてバランスよく制御することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、所定の方向に配列した複数の吐出口を有し、画像データに基づいて前記吐出口から記録媒体にインクを吐出する記録ヘッドと、前記記録ヘッドを前記所定の方向とは交差する方向に移動させる移動手段と、記録媒体を前記所定の方向に搬送する複数のローラと、を備え、前記移動手段によって前記記録ヘッドを移動しながら前記記録媒体にインクを吐出する動作と、少なくとも1つの前記ローラによって前記記録媒体を所定の距離搬送する動作とを交互に行い、前記記録媒体上の同じ領域に複数回に分けてインクを吐出してドットを形成することにより前記記録媒体に画像を記録する記録装置であって、前記記録媒体を搬送する前記ローラの組み合わせが変わる搬送の後の記録ヘッドの移動において記録される領域を含む前記記録媒体の一部の所定の領域の画像データを取得する取得手段と、前記取得手段が取得した前記画像データに基づいて、前記画像データの値が中間調に対応する場合には第1のモードで画像の記録を行い、前記画像データの値が前記中間調よりも高い階調に対応する場合には第2のモードで画像の記録を行うように、複数のモードから当該画像データに従って記録を行うモードを決定する決定手段と、をさらに備え、前記複数のモードは少なくとも第1のモードと第2のモードとを有し、入力データが同じであるとして比較した場合には、前記第1のモードの方が前記第2のモードよりも前記記録ヘッドの1回の移動での記録によって前記所定の方向に記録されるドットの連続数の平均値が大きく、前記記録ヘッドは複数の色のインクを吐出可能であり、前記決定手段は、前記取得手段が取得した前記所定の領域の画像データの、前記複数のインク色毎のドットの割合の合計に基づいて前記モードを決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、搬送量のずれが生じた後に記録を行う領域に記録する画像に応じて画像処理の方法を変えることにより、搬送量のずれがある場合にも濃度むらと粒状感を、状況に応じてバランスよく抑制することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る記録装置の構成を示す斜視図である。
【
図2】第1の実施形態に吐出口の構成を示す図である。
【
図3】第1の実施形態における記録媒体の搬送を説明する図である。
【
図4】第1の実施形態における記録装置の制御系のブロック構成を示す図である。
【
図5】第1の実施形態における画像処理のフローチャートである。
【
図6】第1の実施形態におけるマスクパターンを示す図である。
【
図7】第1の実施形態における搬送ずれの有無による記録状態を説明するための図である。
【
図8】第1の実施形態における搬送ずれの有無による記録状態を説明するための図である。
【
図9】第1の実施形態における搬送ずれの有無による記録状態を説明するための図である。
【
図10】第1の実施形態における搬送ずれが生じる虞のある位置を示す図である。
【
図11】第1の実施形態における判定領域を示す図である。
【
図12】第1の実施形態における濃度むらと記録率の合計の関係を示す表である。
【
図13】第1の実施形態におけるマスクパターン決定処理を示すフローチャートである。
【
図14】第2の実施形態におけるマスクパターンを示す図である。
【
図15】第2の実施形態における濃度むらと記録率の合計の関係を示す表である。
【
図16】第2の実施形態におけるマスクパターン決定処理を示すフローチャートである。
【
図17】第3の実施形態における量子化パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
[記録装置構成]
図1は、記録装置100の構成を示す斜視図であり、キャスターおよび排紙のためのバスケットが取り付けられている。
図1(a)は全体の外観を示し、
図1(b)は上部カバーを開けて内部構造が見える状態を示す。本実施形態における記録装置100は、インクジェット記録方式により、記録媒体上に記録材としてインク滴を付与することにより記録を行う。記録媒体PはY方向を搬送方向として搬送される。そして、記録ヘッド102を搭載したキャリッジ101はY方向と交差するX方向に往復移動して記録を行う、いわゆるシリアル型記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置について説明する。記録ヘッドは複数色のインクを吐出可能である。また、記録機能だけでなく、スキャン機能やFAX機能、送信機能等が一体化された多機能型周辺装置(MFP)でもよい。また、記録材として粉末トナーを用いる電子写真方式の記録装置でもよい。本実施形態では、後述する使用する記録媒体の決定処理を行うための情報処理装置の機能は記録装置100に搭載されている。
【0012】
記録装置100の上部に操作部406を備える。操作部406は操作パネルであり、ディスプレイにインク残量や記録媒体の種類の候補を表示し、ユーザーはキーを操作することにより記録媒体の種類を選択したり記録の設定を行ったりすることができる。
【0013】
キャリッジ101は、インクを吐出する吐出口が設けられた吐出口面が形成された記録ヘッド102とインクを貯留するインクタンク108を有する。インクタンク108はブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ライトシアン(Lc)、ライトマゼンタ(Lm)の6色のインクがそれぞれ貯留されており、それぞれキャリッジ101から着脱可能なように装着されている。キャリッジ101は、キャリッジモータ418(
図4)の駆動により、キャリッジベルト103を介してシャフト104に沿ってX方向(キャリッジの移動方向)に往復移動可能に構成されている。
【0014】
ロール紙等の記録媒体Pは、給送ローラ105(
図3)によりプラテン106上をY方向に搬送される。給送ローラ105及び搬送ローラ107(
図3)によりプラテン106上に搬送された記録媒体P上をキャリッジ101がX方向に移動しながら、記録ヘッド102からインク滴を吐出することで記録動作が行われる。キャリッジ101が記録媒体P上の記録領域の端まで移動すると、給送ローラ105及び搬送ローラ107は記録媒体Pを一定量搬送し、次の記録走査を行う領域を記録ヘッド102が記録可能な位置に移動させる。以上の動作の繰り返しにより画像の記録が行われる。本実施形態において、給送ローラ105と搬送ローラ107は搬送速度が同じになるように回転している。プラテン106上で記録媒体がたわむことを防ぐために、搬送ローラ107の搬送量を給送ローラ105の搬送量よりもわずかに大きくするようにしてもよい。
【0015】
図2に記録ヘッド102に設けられた吐出口面と吐出口を-Z方向から見た模式図である。図中のn1~n768はそれぞれの吐出口の番号を示す。本実施形態においては搬送方向上流側(-Y方向側)から順に番号を付している。吐出口201はY方向に複数配列されており、本実施形態では、吐出口の中心と隣の吐出口の中心との距離が1/1200インチとなるように配列されている吐出口が768個設けられている。各インク吐出口からのインク滴の大きさは約4(pl)であり、記録媒体に着弾したドット径は約30μmである。各インク吐出口には、それぞれに対応した発熱体が1個ずつ設けられている。また、これらの吐出量のインク滴を安定して吐出するための吐出周波数は21KHz、吐出速度は約18m/秒とする。更に、このような記録ヘッド102を搭載したキャリッジ101の主走査方向(X方向)への速度は、17.5インチ/秒であり、これにより主走査方向には1200dpiの記録密度で画像が形成される。また、記録ヘッド102は、1/600インチの間隔で配置された吐出口列が2列、X方向に1/1200インチずつずれるように配置することで1/1200インチ間隔に吐出口が並ぶようにしてもよい。
【0016】
図3は、記録媒体Pの搬送時の記録装置100の内部をX方向から見た断面模式図である。
図3(a)は図中左方向から+Y方向に給送ローラ105によってプラテン106上を記録媒体Pが搬送される様子を示す図である。このとき記録媒体Pは給送ローラ105によって搬送されており、搬送ローラ107は搬送に使用されない。記録媒体Pを記録ヘッド102と対向する位置に搬送すると、記録ヘッド102がX方向に操作しながら記録媒体Pにインクを吐出することによって記録媒体Pに画像を記録する。1走査分の記録が完了すると、給送ローラ105は記録媒体Pを所定の距離搬送し、その後記録ヘッド102によって記録媒体Pに画像が記録される。
【0017】
図3(b)は
図3(a)から更に記録媒体Pが搬送され、記録媒体Pが給送ローラ105と搬送ローラ107によって搬送されている様子を示す図である。
図3(c)は
図3(b)から更に記録媒体Pが搬送され、記録媒体Pの後端が給送ローラ105から外れ、搬送ローラ107によって記録媒体Pが搬送されている様子を示す図である。
図3(c)以降は搬送ローラ107のみによって記録媒体Pは搬送され、排出される。ここで、
図3(b)の状態から
図3(c)の状態になる際には給送ローラ105を外れ、搬送ローラ107のみによって搬送されるようになる。ここで、ローラは全く同じの寸法に作ることは難しく、多少のばらつきがある。そのため、給送ローラ105と搬送ローラ107の両方によって搬送が行われている状態(
図3(b))から、給送ローラ105を外れ、搬送ローラ107のみによって搬送が行われる状態(
図3(c))になる場合に搬送ずれが起こりやすい。また、搬送ローラ107の方が搬送量を大きくしている記録装置の場合には、搬送ずれが起こりやすい傾向にある。この搬送ずれが起こった直後の記録走査で記録されるバンドが濃度ムラの要因となり得る。
【0018】
図4は、記録装置100の制御系のブロック構成を示す図である。ブロック図において、ソフト系処理手段と、ハード系処理手段とに大別される。ソフト系処理手段は、メインバスライン405に対して夫々アクセスする画像入力部403、それに対応する画像信号処理部404、中央制御部であるCPU400である。ハード系処理手段は、操作部406、回復系制御回路407、ヘッド温度制御回路414、ヘッド駆動制御回路415、主走査方向へのキャリッジ駆動制御回路416、Y方向への搬送制御回路417である。CPU400は、ROM401とランダムメモリ(RAM)402を有する。ROM401は、不揮発性メモリであり、例えば記録装置100を制御するための制御プログラムや、本実施形態の動作を実現させるためのプログラムや、記録装置100の電源がオフとされても保持しておくべきデータが記憶されている。本実施形態の動作は、例えば、CPU400がROM401に記憶されたプログラムをRAM402に読み出して実行することによって実現される。RAM402は、CPU400のワーキングメモリとしても用いられる。
【0019】
操作部406はユーザーからの電源投入の指示や、記録実行の指示、各種機能の設定の指示を受け付ける。出力部は省電力モード等の各種装置情報や、記録装置100が実行可能な各種機能の設定画面を表示する。本実施形態では操作部406は記録装置100に備えられた操作パネルであり、メインバスライン405とデータの送受信が可能なように接続されている。ユーザーが操作部406を操作して入力した情報はメインバスライン405を介してRAM402に入力され、CPU400によって設定等を変更する。
【0020】
他にも、情報の入力は外部のホストコンピュータのキーボードでもよく、外部のホストコンピュータからユーザーの指示を受付可能としてもよい。ユーザーに情報を通知するパネルはLEDディスプレイやLCDディスプレイ、ホスト装置と接続されているディスプレイでもよい。また、操作部406がタッチパネルである場合には、ソフトウェアキーによりユーザーからの指示を受付可能である。また、操作部406はスピーカーとマイクであって、ユーザーからの入力を音声入力、ユーザーへの通知を音声出力としてもよい。
【0021】
画像入力部403はコンピュータなどのホスト装置から送信された画像データを格納する。画像信号処理部404はCPU400によって画像入力部403に格納された画像データが入力され、入力されたデータに対して種々の画像処理を行うことで記録ヘッド102によって記録可能な記録データに変換される。
【0022】
ヘッド駆動制御回路415は、記録ヘッド102に搭載されセレクタやスイッチを含むノズル駆動回路に対して、記録データに応じた駆動信号を供給し、ノズルの駆動順序等、記録ヘッド102の記録動作の制御を行う。例えば、画像信号処理部404によって変換された記録データに基づいて、記録ヘッド102を駆動する。その際、搬送制御回路417は、記録データのバンド幅等に基づいて各モータを駆動し、各モータと接続されている給送ローラ105、搬送ローラ107等のローラを回転することにより記録媒体を搬送する。キャリッジ駆動制御回路416は、キャリッジベルト103と接続するキャリッジモータを駆動することにより、キャリッジベルト103を介してキャリッジ101を走査させる。
【0023】
回復系制御回路407は、ROM401に格納されている回復のためのプログラムによってCPU400に制御される。回復系制御回路407は回復系モータ408を駆動し、各回復系モータ408と接続するブレード409、キャップ410、ポンプ411を駆動することで記録ヘッド102の吐出性能を回復するための回復動作を行う。
【0024】
保温ヒータ413は記録ヘッド102に設けられており、記録ヘッド102内のインクを加熱することができる。サーミスタ412は記録ヘッド102の温度を計測する。ヘッド温度制御回路414はCPU400による制御とサーミスタ412が計測した温度に基づいて保温ヒータ413の駆動を制御する。サーミスタ412は記録ヘッド102内に設けられていても、記録ヘッド102の外部に設けられていてもよい。
【0025】
図5は、画像信号処理部404にて行われる画像処理の流れを示すフローチャートである。画像信号処理部404は、画像入力部403に格納されたRGB8ビットデータを読み出し、まず、色調整処理を行う(ステップS501)。色調整処理によってホスト装置用のRGBデータから、記録用の多値RGBデータを取得する。
【0026】
次に、ステップS502にて、色変換処理(S502)によって、画像データを記録媒体上の記録に用いる各インク量に対応するインク色データに変換する色変換処理を実行する。本実施例ではCMYKLcLm6色のデータであるが、それ以外のインク色数のデータであってもよい。色変換処理により、入力されたRGB各値8bitの情報で構成される元画像データから、CMYKLcLm各値8ビットの情報で構成されるインク色データが生成される。インク色データは、1200dpi×1200dpiのデータ解像度の各画素に対し、0~255の256値のいずれかを示している。色変換処理は3次元のルックアップテーブルや演算式による手法が用いられ、予め、ROM401に保持されているものを用いて処理がされる。
【0027】
次に、ステップS503にてガンマ補正処理を行い、記録媒体に付与する各インクの量を調整する。ある一色についてのデータ入力に対して変換されたデータを出力する。本実施形態では、1次元のルックアップテーブルを用いてガンマ補正処理が行われ、ルックアップテーブルのデータは予めROM401に保持されているものを用いる。
【0028】
ステップS504にて量子化処理を行い、2値データを取得する。量子化処理は量子化パターンを用いて行われる。量子化パターンは、各画素に閾値が設定してあるパターンであり、入力データの値が閾値を超える場合にはドットの記録を決定し、閾値を超えない場合にはドットの非記録を決定する。
【0029】
そして、ステップS505で、複数回の走査に応じたデータとするために、マスクパターンを用いてマスク処理が行われる。
【0030】
以上の処理により、ホスト装置から入力された画像データは、記録ヘッド102で記録可能な記録データに変換される。
【0031】
本実施形態の記録方法は、同じ領域に対して複数回インクを吐出して画像を記録するマルチパス記録とする。以下の説明では、2回分の走査でインクを吐出することにより画像を記録する2パス記録とする。本実施形態の2パス記録について以下に説明する。まず、768個の吐出口のうち、半分のn1~n384の吐出口から記録媒体にインクを吐出する。吐出が完了するとn1~n384で記録した分の距離搬送し、次はn385~n768の吐出口から記録媒体にインクを吐出することによってその領域の画像の記録が完了する。
【0032】
図6に本実施形態で使用する8画素×8画素サイズに対応したマスクパターンを示す。マスクパターンは、ドットの記録の許容あるいは非許容を定めるためのパターンである。
図6(a)は、粒状性を重視したマスクパターンである。クラスタサイズが大きく分散性が低いと個々のクラスタが視覚的に認識されるようになり、画像の粒状性が悪化する。そのため、
図6(a)は分散性が高くなるように、ドットの記録を許容するクラスタサイズが1画素×1画素となるようなマスクパターン(第1のマスクパターン)である。
図6(a-1)と
図6(a-2)は補完関係にある。
図6(b)は、記録媒体の搬送誤差による濃度むらの抑制を重視したマスクパターンである。ドットの記録を許容するクラスタサイズが1画素(X方向)×4画素(Y方向)であり、Y方向にクラスタサイズが大きくなるよう構成されたマスクパターン(第2のマスクパターン)である。
図6(b-1)と
図6(b-2)は補完関係にある。
【0033】
図7は、記録媒体の搬送ずれの発生の有無によるマスクパターンによる記録状況を示す。
【0034】
図7(a)は、記録率100%の記録データで、搬送ずれが発生していない状態での記録状況を示す。本実施形態において記録率100%とは、1画素に対応する領域の大きさが1/1200インチ×1/1200インチであって、その全ての画素に4plのインク滴が1ドットずつ記録された状態を指す。本実施形態では画像データの入力値が全て最大階調のときに記録率200%となる。搬送誤差が発生していない場合にはどちらのマスクパターンを使用しても1画素の範囲に1ドット記録され、均一な濃度の画像が記録される。
【0035】
図7(b)は、
図6(a-1)と
図6(a-2)の第1のマスクパターン使用時に搬送方向である+Y方向に1/2画素ずれた状態での記録状況を示す。
図7(c)は、
図6(b-1)と
図6(b-2)の第2のマスクパターン使用時に搬送方向である+Y方向に1/2画素ずれた状態での記録状況を示す。
図6(a)の粒状性を重視した第1のマスクパターンを使用した
図7(b)に対して、
図6(b)の濃度むらの抑制を重視した第2のマスクパターンを使用した
図7(c)の方が、空白箇所、重複箇所の数が少なく、搬送ずれが発生していない状況での記録状況と近い。そのため、
図6(a)の第1のマスクパターンよりも
図6(c)の第2のマスクパターンを使用した方が搬送ずれによる濃度むらが発生し難いことがわかる。
【0036】
図8は、記録媒体へ記録率25%の記録データを第1のマスクパターンによって記録した場合について説明するための図である。
【0037】
図8(a)は記録率25%のデータを第1のマスクパターンによって2パスに分けたときの記録データを示す。
図8(a-1)が1パス目で記録されるデータであり、
図8(a-2)が2パス目で記録されるデータである。
図8(b)は搬送ずれがない状態で記録媒体へ記録した際の記録状況を示す。
図8(c)は搬送が+Y方向に1/2画素ずれた状態で記録した際の記録状況を示す。
図8(b)および
図8(c)ではドットの重複箇所がなく、記録媒体の搬送ずれによる濃度むらは発生していない。以上のように、記録率が低い記録データを記録する場合には記録媒体の搬送ずれによる濃度むらが発生し難いことがわかる。
【0038】
図9は記録媒体への記録率175%の記録データを第1のマスクパターンによって記録した場合について説明するための図である。
【0039】
図9(a)は記録率175%のデータを第1のマスクパターンによって2パスに分けたときの記録データを示す。
図9(a-1)が1パス目で記録されるデータであり、
図9(a-2)が2パス目で記録されるデータである。
図9(b)は搬送ずれがない状態で記録媒体へした際の記録状況を示す。
図9(c)は搬送が+Y方向に1/2画素ずれた状態で記録した際の記録状況を示す。
図9(b)および
図9(c)は重複箇所の数が同数であるため、記録媒体の搬送ずれによる濃度むらは発生していない。以上のように、記録率が高い記録データを記録する場合には記録媒体の搬送ずれによる濃度むらが発生し難いことがわかる。
【0040】
図7~
図9を用いて説明したように、記録率25%および175%の記録データの方が記録率100%の記録データを記録する場合より記録媒体の搬送ずれに対して濃度むらが発生し難い。これは、搬送量がずれることによって重なるドット数が大きく変わる中間階調においては濃度むらが発生しやすいが、搬送量がずれることによって重なるドットの数が大きく変わらない低階調及び高階調においては濃度むらが発生し難いということである。そのため、本実施形態では記録媒体の所定の領域に記録する記録データの全ての色の記録率の合計が40%以上150%未満の場合には濃度むらの抑制を重視する第2のマスクパターンを使用して記録データを生成する。また、記録率の合計が40%未満または150%以上の場合は粒状性を重視する第1のマスクパターンを使用して記録データを生成する。所定の領域は、記録媒体の搬送ずれに起因する記録画像の濃度むらが発生しやすい位置である。濃度むらが発生しやすい位置としては、
図3を用いて説明したように、給送ローラ105を外れるときである。給送ローラ105を外れるときに記録を行う可能性のある領域に記録する記録データの記録率によって使用するマスクパターンを決定する。
【0041】
図10に記録媒体Pの搬送において給送ローラ105を外れる位置を示す図である。
図10において、記録媒体Pの+Y側の先端から位置Y3までの距離Dは、距離Dまでの領域が記録ヘッド102と対向する位置にある場合には、記録媒体Pが給送ローラ105によって搬送されている距離である。本実施形態において、記録媒体Pは384個の吐出口によって記録する距離である384画素ずつ搬送する。そのため、位置Y3から384画素+Y側の位置Y1からY3までの領域が記録ヘッド102と対向している場合には、記録媒体Pは給送ローラ105を外れる直前の位置にある。また、位置Y3から384画素-Y側の位置Y2からY3までの領域が記録ヘッド102と対向する位置にある場合には、給送ローラ105を外れた直後の位置にある。そのため、位置Y1から位置Y2までの768画素分の記録媒体Pの領域は搬送ずれに起因する記録画像の濃度むらが起きやすい領域である。この領域の記録率をマスクパターンの決定に使用する領域とする。
【0042】
図11は、
図10で説明した記録率をマスクパターンの決定に使用する領域を示す。このY方向の768画素の領域を、X方向に384画素ずつに区切って判定領域1、判定領域2・・・判定領域nに分ける。区切った判定領域ごとの記録率を取得し、それぞれの判定領域の全ての色の記録率の合計が、濃度むらが視認しやすくなる第1の割合以上、第2の割合未満であるか否かを判定する。本実施形態では、第1の割合を40%、第2の割合を150%未満とする。記録率の合計が40%以上150%未満である判定領域が1つ以上ある場合には、濃度むらが視認しやすいと判定し、濃度むらの抑制を重視する第2のマスクパターンを使用することを決定する。搬送ずれ量、記録媒体の特性、記録媒体サイズ、インクの特性、インク色の組み合わせ等に応じて、搬送ずれによって濃度むらが目立つ領域が異なるため。判定領域は384画素×768画素に限定されない。例えば、X方向に1画素ごとに区切った領域を判定領域に設定してもよい。
【0043】
図12に、濃度むらが発生しやすい領域において、1200dpiで判定領域384画素×768画素の画像サイズに対して濃度むらが目立たない記録率、目立つ記録率を示した表を示す。上述したように、判定領域における全ての色の記録率の合計が40%以上150%未満の場合には濃度むらが目立ち、40%未満または150%以上の場合には濃度むらが目立たない。本実施形態では、濃度むらが目立つ記録率として、40%以上150%未満としたがこれに限られない。搬送ずれ量、吐出量、インクの特性、記録媒体の特性、インク色の組み合わせ等に応じて濃度むらの目立つ記録媒体への記録率が異なる。そのため、使用するインク等に合わせた記録率を設定することが好ましい。
【0044】
図13は記録データを生成するために使用するマスクパターンを決定するマスクパターン決定処理のフローチャートである。マスクパターン決定処理は、例えば、ROM401に格納されたプログラムをCPU400がRAM402に読み出して実行することによって行われる。
図13の処理は、ホスト装置から記録の指示と、画像データが記録装置100に送られることで開始する。ホスト装置は、画像データと共に、記録する記録媒体のサイズ情報などの記録情報も送信し、画像入力部403は画像データと共に記録情報も格納する。
【0045】
まず、ステップS901では、記録媒体の搬送方向の長さを取得する。長さの取得は、CPU400が画像入力部403から記録媒体のサイズ情報を読み出すことによって行う。
【0046】
次にステップS902において、ステップS901で取得したサイズ情報から記録媒体の搬送位置が
図8(b)の状態になるY方向の位置Y1および
図8(c)の状態になるY方向の位置Y2を算出する。上述したように、位置Y1、位置Y2は記録媒体の後端が給送ローラ105を外れる位置であるY3からY方向に384画素分の位置である。
【0047】
ステップS903では、使用するマスクパターンを決定するために用いる判定領域に対応する画像データを画像入力部403から取得し、画像信号処理部404にて色調整処理を行い、記録用の8ビットのRGBデータを取得する。
【0048】
ステップS904において、判定領域のRデータ、Gデータ、Bデータのそれぞれの平均値を算出する。そして、ステップS905で、ステップS904で算出したRデータ、Gデータ、Bデータの平均値に対して色変換処理を行い、それぞれのインク色毎(本実施形態ではK、C、M、Y、Lc、Lm)に256値のインク色データを算出する。判定領域に対して一様なインク色データであるとしてガンマ処理、量子化処理を行う。これにより、各色について2値データが生成される。生成された2値データに基づいて、判定領域内の画素数に対する記録率を算出する。
【0049】
次に、ステップS906では、まず、ステップS905で算出した判定領域の各インク色の記録率を合計した記録率の合計を算出する。次に、記録率の合計が40%以上150%未満か否かの判定を行う。記録媒体への記録率の合計が40%以上150%未満の場合は濃度むらの抑制を重視するモードであるステップS909に進み、同一ページの画像データは第2のマスクパターンを用いて
図5に示す画像処理を行うことを決定する。一方、記録媒体への記録率の合計が40%未満または150%以上の場合にはステップS907に進み、全ての判定領域の判定を終えたかを判断する。全ての判定領域の判定を終えていない場合は、判定の対象を次の判定領域に移行してステップS903から処理を行う。全ての判定領域の判定を終えた場合は、粒状性を重視するモードであるステップS908に進み、同一ページの画像データは第1のマスクパターンを用いて
図5に示す画像処理を行うことを決定する。
【0050】
以上説明したように、搬送ずれに起因する濃度むらが発生する虞がある領域に記録を行うデータが、濃度むらが目立たないデータの場合には粒状性を重視した高分散なマスクパターンを用い、濃度むらが発生する虞のある領域に対しても粒状性を抑制することができる。また、濃度むらが目立つデータの場合には濃度むらが発生し難い、Y方向にクラスタサイズの大きいマスクパターンを用いることで濃度むらが発生する虞のある領域に対しても濃度むらを抑制することができる。尚、粒状性を重視した第1のマスクパターンが有するY方向のドットの許容数の平均値が、濃度むらの抑制を重視した第2のマスクパターンが有するY方向のドットの許容数の平均値よりも小さければよい。
【0051】
本実施形態では、搬送方向において上流側のローラである給送ローラ105と下流側のローラである搬送ローラ107の両方による搬送から、下流側のローラのみによる搬送に切り替わる際に搬送ずれが発生しやすいとしたが、これに限られない。例えば、記録媒体が上流側のローラによって搬送されているときから、上流側と下流側の両方のローラによって搬送するように切り替わるときに搬送ずれが起きやすい場合もある。搬送ずれの発生位置は、記録装置の構成などによって異なる。搬送ずれに起因する濃度むらが発生しやすい領域であればモードの判定を行うことで好適な画像が得られる。また、複数の搬送ずれに起因する濃度むらが発生する領域がある場合には、各領域で記録モードの判定を行う。いずれかの領域において濃度むらの抑制を重視するモードである第2のマスクパターンを使用すると判定した場合は、第2のマスクパターンにおいて画像処理を行う。
【0052】
また、本実施形態では、搬送ずれに起因する濃度むらが発生する虞のある領域である判定領域の画像データを通常領域の画像データより先に送る方が好ましい。
【0053】
本実施形態では判定領域の1200dpiで384画素×768画素の画像サイズの画像データに対して、濃度むらが目立つ/目立たないを判別し、画像処理のモードを選択する。しかし、必ずしも1回目立つと判定されたからといって濃度むらの抑制を重視するモードに決定しなくてもよい。例えば、濃度むらが目立つ/目立たないを判定し、目立つ場合は1、目立たない場合は0の1bitのフラグを準備する。全ての判定領域を判定したときの1のフラグと0のフラグの比率や数でモードを決定してもよい。
【0054】
ステップS903では色調整処理を行ったRGBデータを取得したが、画像入力部403に格納されたRGBデータを取得してその後の処理を行ってもよい。また、色変換処理がなされたインク色データや、ガンマ補正処理が施されたインク色データを取得してその後の処理を行ってもよい。
【0055】
ステップS904、S905では、判定領域のRGBデータのそれぞれの平均値から各インク色の記録媒体への記録率を算出した。他にも例えば、判定領域の384画素×768画素の画像サイズの1画素毎にRGBデータに対して濃度むらの抑制を重視するか否かを判定し、重視する場合は1、重視しない場合は0の1bitのフラグを準備する。判定領域内の1と0の比率または数でモードを判定してもよい。
【0056】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では粒状性を重視した高分散な第1のマスクパターンと濃度むらの抑制を重視したY方向にクラスタサイズの大きい第2のマスクパターンの2種類のマスクパターンの選択方法を説明した。本実施形態ではY方向のクラスタサイズが第1のマスクパターンと第2のマスクパターンの間の第3のマスクパターンも含む3種類のマスクパターンからマスクパターンを選択する方法について説明する。第1の実施形態と同様の部分については省略する。
【0057】
図14に本実施形態で使用する8画素×8画素サイズに対応した第3のマスクパターンを示す。
図14(c)に中間サイズのY方向に連続する連続数がN=2個のクラスタからなる1画素×2画素で構成されたマスクパターン(第3のマスクパターン)を示す。
図14(a-1)と
図14(a-2)は補完関係にある。
【0058】
図15に、搬送ずれが発生しやすい領域において、1200dpiで判定領域384画素×768画素の画像サイズに対して濃度むらが目立たない記録率、目立つ記録率を示した表を示す。本実施形態では、判定領域の記録率が60%以上120%未満の場合には濃度むらが目立つとする。そのため、濃度むらの抑制を重視する第2のマスクパターンを使用して画像処理を行う。また、判定領域の記録率が40%以上60%未満、或いは120%以上150%未満である場合には濃度むらはやや目立つとする。そのため、濃度むらの抑制をやや重視する中間モードの第3のマスクパターンを使用して画像処理を行う。判定領域の記録率が40%未満、或いは150%以上の場合には、濃度むらは目立たないとする。そのため、粒状性を重視する第1のマスクパターンを使用して画像処理を行う。
【0059】
図16は記録データを生成するために使用するマスクパターンを決定するマスクパターン決定処理のフローチャートである。マスクパターン決定処理は、例えば、ROM401に格納されたプログラムをCPU400がRAM402に読み出して実行することによって行われる。
図16の処理は、ホスト装置から記録の指示と、画像データが記録装置100に送られることで開始する。ホスト装置は、画像データと共に、記録する記録媒体のサイズ情報などの記録情報も送信し、画像入力部403は画像データと共に記録情報も格納する。
【0060】
ステップS1701~S1705は第1の実施形態の
図13のステップS901~S905と同様の処理を行う。
【0061】
ステップS1706では、判定領域の各インク色の記録媒体への記録率の合計が40%以上150%未満か否かの判定を行う。記録媒体への記録率の合計が40%以上150%未満の場合はステップS1707に進む。一方、記録媒体への記録率の合計が40%未満または150%以上の場合にはステップS1708に進み、むらフラグ無とする。むらフラグ無の場合には「無」であることをRAM402に記憶する。
【0062】
ステップS1707に進んだ場合には、判定領域の各インク色の記録媒体への記録率の合計が60%以上120%未満か否かを判定する。記録率の合計が60%以上120%未満の場合には濃度むらの抑制を重視するモードであるステップS1714に進み同一ページの画像データは第2のマスクパターンを使用して
図5に示す画像処理を行うことを決定し、処理を終了する。記録率の合計が60%未満または120%以上の場合には、ステップS1709においてむらフラグ有とする。むらフラグ有の場合には「有」であることをRAM402に記憶する。
【0063】
ステップS1708、S1709が完了すると、ステップS1710に進み、全ての判定領域の判定を終えたかを否かを判断する。全ての判定領域の判定を終えていない場合は、判定の対象を次の判定領域に移行してステップS1703から処理を行う。全ての判定領域の判定を終えた場合は、ステップS1711にて、全ての判定領域のむらフラグが「無」であるか否かを判定する。全て「無」である場合には、粒状性を重視するモードであるステップS1712進み、同一ページの画像データは第1のマスクパターンを用いて
図5に示す画像処理を行うことを決定する。むらフラグ「有」がある場合には、中間モードであるステップS1713に進み、同一ページの画像データは第3のマスクパターンを用いて
図5に示す画像処理を行うことを決定する。
【0064】
以上説明したように、搬送ずれが発生する虞のある領域に対して、濃度むらが目立たない画像データの場合には粒状性を重視した高分散なマスクパターンを用いることで粒状感を抑制した画像を記録することができる。また、濃度むらが目立つ画像データの場合には濃度むらの抑制を重視したY方向のクラスタサイズの大きいマスクパターンを用いることで濃度むらが目立たない画像を記録することができる。また、濃度むらがやや目立つ画像データの場合には濃度むらをやや抑制しつつ粒状感もやや抑制できるY方向のクラスタサイズが中間サイズのマスクパターンを用いることで濃度むらと粒状感を抑制した画像を記録することができる。
【0065】
本実施形態では、3種類のマスクパターンの選択方法を説明したが、3種類以上の種類のマスクパターンを用意してもよい。
【0066】
(第3の実施形態)
第1の実施形態及び第2の実施形態ではマスクパターンの決定方法を示したが、本実施形態では量子化パターンの決定方法について説明する。上述の実施形態と同様の内容は省略する。
【0067】
図17は、本実施形態で使用する1200dpiの4画素×4画素サイズに対応した量子化パターンを示す。
【0068】
図17(a-1)は粒状性を重視した第1の量子化パターンである。
図17(b-1)は濃度むらの抑制を重視した第2の量子化パターンを示す。
図17(a-1)と(b-1)は各インク色の8ビット256値の画像データにおける入力信号値に対する閾値を示している。画像データの入力信号値が閾値を超えた場合には記録、超えていない場合には非記録を決定する。
図17(a-2)と(b-2)は画像データの入力信号値が127である場合にそれぞれの量子化パターンを用いて量子化した際の各画素の記録、非記録を示す図である。(a-2)は高分散な1画素×1画素で構成されており、(b-2)は記録媒体搬送方向にN=4個のクラスタ化された1画素×4画素で構成されている。そのため、
図17(b-1)の量子化パターンの方が
図17(a-1)より濃度むらの発生を抑制できることが分かる。
【0069】
図12の表に基づいて量子化パターンを決定すると、判定領域における全ての色の記録率の合計が40%以上150%未満の場合には濃度むらが目立つため、
図17(b)の第2の量子化パターンを使用して画像処理を行う。また、判定領域における全ての色の記録率の合計が40%未満または150%以上の場合には濃度むらが目立たないため、
図17(a)の第1の量子化パターンを使用して画像処理を行う。
【0070】
以上のように、量子化パターンを切り替えることによっても濃度むらが目立つ場合には濃度むらを抑制し、濃度むらが目立たない場合には粒状感を抑制することができる。
【0071】
(その他の実施形態)
本実施形態に適用したインク滴を4plとしたが、インク滴が大きい方が記録媒体の搬送誤差が大きくなる領域においても濃度むらによる画像劣化が目立ち難い。そのため、濃度むらが目立つと判断した場合には、大きいインク滴を吐出するようにし、粒状性を重視した高分散なマスクパターンまたは量子化パターンを用いても良い。例えば、4plと8plのインク滴が吐出可能な吐出口を有し、濃度むらが目立たない場合には粒状性重視した4plの吐出口で記録する第1の記録モード、目立つ場合にはむら重視した8plの吐出口で記録する第2の記録モードを選択するようにしてもよい。
【0072】
吐出量8plの場合は、記録用インク吐出数を吐出量4plの記録用インク吐出数の半数に設定して、記録メディアに記録される吐出量を合わせる手段も用いても良い。
【0073】
インク濃度の薄いイエローなどのインクや淡インク(例えばライトシアン、ライトマゼンタ)においては、記録媒体の搬送誤差でずれが生じた状態においてもインク濃度が薄いため濃度の変動量が小さく抑えられ、インク濃度の濃い濃インクより濃度むらは発生しづらい。そのため、インク濃度の薄いインクの記録率はマスクパターンや量子化パターンを決定するときの合計の記録率に含めないようにしてもよい。例えば、記録率の合計はブラック、マゼンタ、シアンの記録率の合計としてもよい。
【0074】
本実施形態に適用したマスクパターンまたは量子化パターンのサイズは、8画素×8画素サイズのマスクパターンを繰り返し適用する場合について説明したが、これに限定させることは無い。マルチパス記録時の記録媒体の搬送量と同じ384画素や192画素として8画素×8画素サイズと異なる大きなサイズとしても良い。
【0075】
また、
図13のマスクパターン決定処理のステップS905では、RGBデータから生成した2値データに基づいて記録率を算出したが、多値のインク色データから記録率を求めてもよい。多値のインク色データと記録率との対応関係を表すテーブル或いは式等を保存しておくことでインク色データから記録率を求めることができる。
【符号の説明】
【0076】
100 記録装置
102 記録ヘッド
105 給送ローラ
107 搬送ローラ
400 CPU
401 ROM
402 RAM
P 記録媒体