(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】撮像装置とその空間安定化方法
(51)【国際特許分類】
G03B 5/00 20210101AFI20240318BHJP
G03B 15/00 20210101ALI20240318BHJP
G03B 17/56 20210101ALI20240318BHJP
G05D 3/12 20060101ALI20240318BHJP
H04N 5/222 20060101ALI20240318BHJP
H04N 23/68 20230101ALI20240318BHJP
【FI】
G03B5/00 J
G03B15/00 U
G03B15/00 P
G03B17/56 B
G05D3/12 306Z
G05D3/12 K
H04N5/222 100
H04N23/68
(21)【出願番号】P 2019215471
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒岩 正
【審査官】門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-134190(JP,A)
【文献】特開2009-033342(JP,A)
【文献】特開2019-009751(JP,A)
【文献】特開2016-099856(JP,A)
【文献】特開2019-223549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00 - 5/08
G03B 15/00
G03B 17/56
G05D 3/12
H04N 5/222- 5/257
H04N 23/00
H04N 23/40 -23/76
H04N 23/90 -23/959
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラ及びレンズを含み、視軸方向を撮像して画像を取り込む光学装置と、
一重構造で方位軸及び仰角軸の2軸回転機構をもち、被搭載体に装着され、前記光学装置を方位軸回り及び仰角軸回りに回転駆動して前記光学装置の視軸方向を指示方向に向け、装置に印加される動揺による方位角及び仰角の角速度変化を検出して、画像のぶれを解消するジンバル装置と
を具備し、
前記ジンバル装置は、
底面が前記被搭載体に固定され、装置全体を支持する基部と、
前記基部が鉛直方向に配置された状態で、その上部で方位軸回りに回転自在に支持される方位回転部と、
前記光学装置を収容し、前記方位回転部に、仰角軸回りに回転自在に支持される仰角回転部と、
前記基部に配置され、前記基部の方位軸と直交し、互いに平行でない2軸回りの慣性空間における角速度
を計測する基部角速度計測器及び前記基部に作用する加速度を計測する基部加速度計測器と、
前記基部に連結される前記方位回転部を前記方位軸回りに回転駆動する方位軸回転駆動部と、
前記方位軸回りの回転角度及び角速度を計測する方位軸角度計測器及び方位軸角速度計測器と、
前記方位回転部に連結される前記仰角回転部を前記仰角軸回りに回転駆動する仰角軸回転駆動部と、
前記仰角軸の回転駆動による仰角軸回りの角度及び角速度を計測する仰角軸角度計測器及び仰角軸角速度計測器と、
前記仰角回転部に配置され、前記光学装置が前記基部の方位軸と直交する方向を向いたときに前記方位軸と平行となる軸回りの慣性空間における角速度計測する仰角回転部角速度計測器及び前記仰角回転部に作用する加速度を計測する仰角回転部加速度計測器と、
前記基部角速度計測器及び前記基部加速度計測器、前記方位軸角度計測器及び前記方位軸角速度計測器、前記仰角軸角度計測器及び前記仰角軸角速度計測器、前記仰角回転部角速度計測器及び前記仰角回転部加速度計測器のそれぞれの計測結果に基づいて、前記光学装置の視軸方向が指示方向に向くように、前記方位軸回転駆動部及び仰角軸回転駆動部を駆動制御する制御部と
を具備し、
前記制御部は、
前記光学装置の視軸方向を指示する方位軸角速度指令を入力し、入力した方位軸角速度指令から前記方位軸回りを回転駆動するための制御信号を算出し、当該制御信号により前記方位軸回転駆動部を駆動制御して前記方位回転部を回転させて前記光学装置の視軸の方位軸角度を制御し、目標とする方位軸角度を前記方位軸角速度が積分された物理量として出力する方位軸速度制御系と、
前記方位軸角速度計測器で
計測される前記方位軸に生じる角速度と前記基部角速度計測器で
計測される前記方位軸に印加される動揺の角速度を入力して前記方位軸角速度指令の指定値から減算する方位軸フィードバック制御系と、
前記仰角回転部角速度計測器及び前記仰角回転部加速度計測器のそれぞれの計測結果から、前記光学装置の画面に垂直な視軸回りの角速度を求め、前記光学装置から前記光学装置に印加される動揺の回転中心までの長さを推定し、前記視軸回りの角速度と前記動揺の回転中心までの長さと前記光学装置から目標までの距離との関係から、前記光学装置で得られる画像のぶれ角速度を算出し、算出された画像のぶれ角速度から画像ぶれ角速度のゲインを推定して、その推定ゲインに基づいて前記方位軸角速度指令の指令値を補正する角速度を求め、方位軸角速度指令に加算する仰角制御系と
を備える
撮像装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記光学装置で時間間隔を空けて同じ方向を撮像した複数の画像間のずれを検出し、前記複数の画像間のずれ検出結果から
前記慣性空間の角速度を計測する前記基部角速度計測器のドリフトを推定し、そのドリフト分を打ち消す補正信号を前記
基部角速度計測器で計測される角速度に印加する請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
カメラ及びレンズを含み、視軸方向を撮像して画像を取り込む光学装置と、
一重構造で方位軸及び仰角軸の2軸回転機構をもち、被搭載体に装着され、前記光学装置を方位軸回り及び仰角軸回りに回転駆動して前記光学装置の視軸方向を指示方向に向け、装置に印加される動揺による方位角及び仰角の角速度変化を検出して、画像のぶれを解消するジンバル装置と
を具備し、
前記ジンバル装置は、
底面が前記被搭載体に固定され、装置全体を支持する基部と、
前記基部が鉛直方向に配置された状態で、その上部で方位軸回りに回転自在に支持される方位回転部と、
前記光学装置を収容し、前記方位回転部に、仰角軸回りに回転自在に支持される仰角回転部と、
前記基部に配置され、前記基部の方位軸と直交し、互いに平行でない2軸回りの慣性空間における角速度
を計測する基部角速度計測器及び前記基部に作用する加速度を計測する基部加速度計測器と、
前記基部に連結される前記方位回転部を前記方位軸回りに回転駆動する方位軸回転駆動部と、
前記方位軸回りの回転角度及び角速度を計測する方位軸角度計測器及び方位軸角速度計測器と、
前記方位回転部に連結される前記仰角回転部を前記仰角軸回りに回転駆動する仰角軸回転駆動部と、
前記仰角軸の回転駆動による仰角軸回りの角度及び角速度を計測する仰角軸角度計測器及び仰角軸角速度計測器と、
前記仰角回転部に配置され、前記光学装置が前記基部の方位軸と直交する方向を向いたときに前記方位軸と平行となる軸回りの慣性空間における角速度計測する仰角回転部角速度計測器及び前記仰角回転部に作用する加速度を計測する仰角回転部加速度計測器と、
前記基部角速度計測器及び前記基部加速度計測器、前記方位軸角度計測器及び前記方位軸角速度計測器、前記仰角軸角度計測器及び前記仰角軸角速度計測器、前記仰角回転部角速度計測器及び前記仰角回転部加速度計測器のそれぞれの計測結果に基づいて、前記光学装置の視軸方向が指示方向に向くように、前記方位軸回転駆動部及び仰角軸回転駆動部を駆動制御する制御部と
を具備する撮像装置に用いられ、
前記光学装置の視軸方向を指示する方位軸角速度指令を入力し、入力した方位軸角速度指令から前記方位軸回りを回転駆動するための制御信号を算出し、当該制御信号により前記方位軸回転駆動部を駆動制御して前記方位回転部を回転させて前記光学装置の視軸の方位軸角度を制御し、目標とする方位軸角度を前記方位軸角速度が積分された物理量として出力し、
前記方位軸角速度計測器で
計測される前記方位軸に生じる角速度と前記基部角速度計測器で
計測される前記方位軸に印加される動揺の角速度を入力して前記方位軸角速度指令の指定値から減算し、
前記仰角回転部角速度計測器及び前記仰角回転部加速度計測器のそれぞれの計測結果から、前記光学装置の画面に垂直な視軸回りの角速度を求め、前記光学装置から前記光学装置に印加される動揺の回転中心までの長さを推定し、前記視軸回りの角速度と前記動揺の回転中心までの長さと前記光学装置から目標までの距離との関係から、前記光学装置で得られる画像のぶれ角速度を算出し、算出された画像のぶれ角速度から画像ぶれ角速度のゲインを推定して、その推定ゲインに基づいて前記方位軸角速度指令の指令値を補正する角速度を求め、方位軸角速度指令に加算する
撮像装置の空間安定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像装置とその空間安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学装置(カメラ等)によって周囲を捜索・監視する撮像装置は、地上設置型の他、船舶搭載型や航空機搭載型が実用化されているが、船舶搭載型、航空機搭載型の撮像装置は、いずれも光学装置の空間安定化を図るジンバル装置が二重構造となっている。例えば、船舶搭載型では、外側が2軸回転機構、内側が3軸回転機構の5軸ジンバル装置、航空機搭載型では、外側が2軸回転機構、内側が2軸回転機構の4軸ジンバル装置が採用されている。
【0003】
ここで、想定される動揺外乱は、主として、撮像装置が搭載される船舶や航空機自体の傾きによる動揺である。これに対して、上記二重構造のジンバル装置では、光学装置の動揺外乱に対する空間安定化機能を担うのは、主として内側のジンバル機構となっている。また、二重構造のジンバル装置では、一般的に駆動軸が3軸以上となっており、ほぼ任意の軸回りの動揺外乱に対して動揺補正制御を行うことができる。このため、大振幅や高角速度の動揺が印加された場合に、良好な空間安定性(光学装置の視線光軸が振れる角度が小さい)が得られる。但し、装置全体が大型化・複雑化してしまう。
【0004】
一方、小型のジンバル装置では、一重構造で2軸回転機構をもつ構成(以下、一重2回転軸構成と記す)である場合が多い。この小型ジンバル装置は、例えば、壁面、天井等に取り付けて周囲を捜索・監視する撮像装置に近年多用されてきている。このような、壁面、天井等に取り付ける方式や、地上設置型の撮像装置では、通常は、ジンバル装置の基部自体に動揺が印加されることは想定されていない。ところが、船舶や航空機等の移動体に搭載される撮像装置において、小型化を図るために一重2回転軸構成のジンバル装置を採用した場合には、その基部に動揺が印加されたとき、印加された動揺を打ち消す動揺補正制御を行うことが困難な方向、すなわち特異姿勢が存在する。この特異姿勢となる状況は、基部に印加される動揺の回転軸が、ジンバル装置の2回転軸のいずれとも直交する場合に生じる。このため、船舶や航空機等の移動体に一重2回転軸構成のジンバル装置を持つ撮像装置を搭載する場合には、撮影中は特異姿勢の回避が要求され、被搭載移動体側の運動が制限されてしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】新製品紹介-船舶用カメラ安定装置、川崎重工技報、第147号、2001年8月(https://www.khi.co.jp/rd/magazine/147/nj147ts02.html参照)
【文献】カメラ安定装置(5軸コントロール)、川崎重工業 産業機械用油圧装置、カタログhttps://www.khi.co.jp/industrial_equipment/hydraulic/applications/industrial_equipment/pdf/sanki_JE_150427a.pdf, p.17.
【文献】技術紹介-カメラスタビライザACE-LX3の開発、航空電子技報No.30、2007年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、従来の移動体搭載用の撮像装置では、二重構造のジンバル装置を採用すると大型化・複雑化する問題があり、一重構造で2軸回転機構をもつ小型のジンバル装置を採用すると、ジンバル装置の基部に印加される動揺の打消しが困難な特異姿勢が存在する問題があった。
【0008】
本実施形態の課題は、一重構造で2軸回転機構をもつジンバル装置であっても、ジンバル装置の基部に印加される動揺を打ち消し不能な特異姿勢による影響を極力低減し、被搭載移動体の姿勢によらず、撮影中の映像のぶれを抑圧することのできる撮像装置とその空間安定化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本実施形態に係る撮像装置は、光学装置と、ジンバル装置とを備える。光学装置は、カメラ及びレンズを含み、視軸方向を撮像して画像を取り込む。ジンバル装置は、一重構造で方位軸及び仰角軸の2軸回転機構をもち、被搭載体に装着され、前記光学装置を方位軸回り及び仰角軸回りに回転駆動して前記光学装置の視軸方向を指示方向に向け、装置に印加される動揺による方位角及び仰角の角速度変化を検出して、画像のぶれを解消する。前記ジンバル装置は、基部と、方位回転部と、仰角回転部と、基部角速度計測器及び基部加速度計測器と、方位軸回転駆動部と、方位軸角度計測器及び方位軸角速度計測器と、仰角軸回転駆動部と、仰角軸角度計測器及び仰角軸角速度計測器と、仰角回転部角速度計測器及び仰角回転部加速度計測器と、制御部とを備える。前記基部は、底面が前記被搭載体に固定され、装置全体を支持する。前記方位回転部は、前記基部が鉛直方向に配置された状態で、その上部で方位軸回りに回転自在に支持される。前記仰角回転部は、前記光学装置を収容し、前記方位回転部に、仰角軸回りに回転自在に支持される。前記基部角速度計測器は、前記基部に配置され、前記基部の方位軸と直交し、互いに平行でない2軸回りの慣性空間における角速度計測する。前記基部加速度計測器は、前記基部に作用する加速度を計測する。前記方位軸回転駆動部は、前記基部に連結される前記方位回転部を前記方位軸回りに回転駆動する。前記方位軸角度計測器は、前記方位軸回りの回転角度を計測し、前記方位軸角速度計測器は、前記方位軸回りの角速度を計測する。前記仰角軸回転駆動部は、前記方位回転部に連結される前記仰角回転部を前記仰角軸回りに回転駆動する。前記仰角軸角度計測器は、前記仰角軸の回転駆動による仰角軸回りの角度を計測し、前記仰角軸角速度計測器は、前記仰角の回転駆動による仰角軸回りの角速度を計測する。前記仰角回転部角速度計測器は、前記仰角回転部に配置され、前記光学装置が前記基部の方位軸と直交する方向を向いたときに前記方位軸と平行となる軸回りの慣性空間における角速度を計測する。前記仰角回転部加速度計測器は、前記仰角回転部に作用する加速度を計測する。前記制御部は、前記基部角速度計測器及び前記基部加速度計測器、前記方位軸角度計測器及び前記方位軸角速度計測器、前記仰角軸角度計測器及び前記仰角軸角速度計測器、前記仰角回転部角速度計測器及び前記仰角回転部加速度計測器のそれぞれの計測結果に基づいて、前記光学装置の視軸方向が指示方向に向くように、前記方位軸回転駆動部及び仰角軸回転駆動部を駆動制御する。前記制御部は、方位軸速度制御系と、方位軸フィードバック制御系と、仰角制御系とを備える。前記方位軸速度制御系は、前記光学装置の視軸方向を指示する方位軸角速度指令を入力し、入力した方位軸角速度指令から前記方位軸回りを回転駆動するための制御信号を算出し、当該制御信号により前記方位軸回転駆動部を駆動制御して前記方位回転部を回転させて前記光学装置の視軸の方位軸角度を制御し、目標とする方位軸角度を前記方位軸角速度が積分された物理量として出力する。前記方位軸フィードバック制御系は、前記方位軸角速度計測器で計測される前記方位軸に生じる角速度と前記基部角速度計測器で計測される前記方位軸に印加される動揺の角速度を入力して前記方位軸角速度指令の指定値から減算する。前記仰角制御部は、前記仰角回転部角速度計測器及び前記仰角回転部加速度計測器のそれぞれの計測結果から、前記光学装置の画面に垂直な視軸回りの角速度を求め、前記光学装置から前記光学装置に印加される動揺の回転中心までの長さを推定し、前記視軸回りの角速度と前記動揺の回転中心までの長さと前記光学装置から目標までの距離との関係から、前記光学装置で得られる画像のぶれ角速度を算出し、算出された画像のぶれ角速度から画像ぶれ角速度のゲインを推定して、その推定ゲインに基づいて前記方位軸角速度指令の指令値を補正する角速度を求め、方位軸角速度指令に加算する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る、周囲捜索・監視用の撮像装置の概略構成を示す正面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す撮像装置が被搭載移動体に固定された状態で動揺を印加された例を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す撮像装置が
図2に示す動揺を印加された場合の映像例を示す図である。
【
図4】
図4は、
図1に示す撮像装置を移動車両の低剛性構造物に装着した場合に動揺を印加された例を示す模式図である。
【
図5】
図5は、
図4に示す撮像装置で基部に動揺を印加された場合の映像例を示す図である。
【
図6】
図6は、
図1に示す撮像装置の駆動系及び制御系の構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、
図1に示す撮像装置で、実施形態の光学装置の視軸補正後の視軸方向速度の変化を示す図である。
【
図8】
図8は、
図1に示す撮像装置で、画像ぶれを抑圧する空間安定化制御系を示す制御ブロック図である。
【
図9】
図9は、
図8に示す空間安定制御系の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、他の実施形態に係る周囲捜索・監視用の撮像装置の駆動系及び制御系の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は本実施形態に係る、周囲捜索・監視用の撮像装置100の概略構成を示す正面図である。
図1において、110はカメラ及びレンズを含む光学装置、120は一重構造で2軸回転機構をもつジンバル装置である。ジンバル装置120は、装置全体を支持する基部121と、基部121が鉛直方向に配置された状態で、その上部で方位軸回りに回転自在に支持される方位回転部122と、光学装置110を収容し、方位回転部122に仰角軸回りに回転自在に支持される仰角回転部123とを備え、図示しないが、方位軸、仰角軸において、それぞれの軸回りの回転を駆動するためのセンサ及び駆動系装置、制御系装置を備えている。
【0013】
図2は、
図1に示す撮像装置100が被搭載移動体200に固定された状態で動揺を印加された例を示す模式図、
図3は
図1に示す撮像装置100が
図2に示す動揺を印加された場合の映像例を示す図である。まず、撮像装置100が、
図2に示すように、被搭載移動体200にジンバル装置120の基部121の底面が固定された状態で、被搭載移動体200に水平面と平行する面から傾斜する動揺を印加されたとする。このとき、方位回転部122、仰角回転部123では、その傾斜発生による方位方向及び仰角角度の動揺を検出し、その検出結果に基づいて方位角及び仰角を逆方向に駆動制御する。このような駆動制御では、水平方向回りで光学装置110の視軸(カメラ光軸)回りの動揺(角速度)となる外乱が印加された場合に特異姿勢となる。このとき、光学装置110で撮像される画像は、
図3に示すように、視軸となる撮像画像の中心点回りに円弧状に動くが、この動きは画像処理によって解消することができる。
【0014】
図4は、
図1に示す撮像装置100を移動車両300の低剛性構造物に装着された状態で動揺を印加された例を示す模式図、
図5は、
図1に示す撮像装置100が
図4に示す動揺を印加された場合の映像例を示す図である。ここでは、外部から伝達する動揺に加えて、撮像装置自体の動作の反動による発生する動揺も考慮する。まず、
図4に示す移動車両300は、車体301と、車体301に伝わる路面からの振動を軽減するためのサスペンション及びタイヤ302と、車体301に撮像装置100を装着する低剛性構造物303とを備える。撮影装置100は、基部121の底部が低剛性構造部303の端部に装着される。この例の場合、路面から受けるサスペンション及びタイヤ302からの角速度外乱による動揺が加わり、この動揺が低剛性構造物303を通じて撮像装置100の基部121に印加される。このとき、基部121が受ける動揺により、光学装置110の視軸が振られ、
図5に示すように、画像全体が大きな像流れを生じることになる。すなわち、光学装置110では、角速度外乱の印加位置からのオフセットが長くなるため、光学装置110の撮影画像において速度成分が支配的となる。このため、角速度に換算した値を指令値として角速度追従制御を行うことによって、動揺外乱による影響の低減が見込める。本実施形態では、この角速度追従制御に着目し、方位角及び仰角の角速度変化を検出して、画像のぶれを解消する。
【0015】
図6は、
図1に示す撮像装置100の駆動系及び制御系の構成を示すブロック図である。
図6において、ジンバル装置120は、基部121と2軸以上(ここでは方位軸、仰角)の回転軸及び駆動機構(モータ、軸受等)をもつ方位回転部(ジンバル機構部)122及び仰角回転部(ジンバル可動部)123を備える。
【0016】
上記基部121には、角速度センサ124及び加速度センサ125が配置される。角速度センサ124は、基部121の方位軸と直交し、互いに平行でない2軸回りの慣性空間における角速度を計測する。加速度センサ125は、基部121に作用する加速度を計測する。
【0017】
基部121と方位回転部122とを連結して方位軸回りに回転駆動するジンバル駆動機構には、方位軸回りに軸受を通じて回転駆動するためのモータ126と、方位軸回りの回転角度を検出する角度センサ127と、方位軸回りの回転角速度を検出する角速度センサ(角度センサ127で検出される方位軸回りの回転角度の時間変化率を計算して角速度を算出する角速度計測器でもよい)128とを備える。
【0018】
また、方位回転部122と仰角回転部123とを連結して仰角軸回りに回転駆動するジンバル駆動機構には、仰角軸回りに軸受を通じて回転駆動するためのモータ129と、仰角軸回りの回転角度を検出する角度センサ12Aと、仰角軸回りの回転角速度を検出する角速度センサ(角度センサ12Aで検出される仰角軸回りの回転角度の時間変化率を計算して角速度を算出する角速度計測器でもよい)12Bとを備える。
【0019】
また、仰角回転部123は、光学装置110を搭載すると共に、角速度センサ12C及び加速度センサ12Dを備える。角速度センサ12Cは、ジンバル駆動機構の駆動軸回りと、光学装置110が基部121の方位軸と直交する方向を向いたときに方位軸と平行となる軸回りの慣性空間における角速度を計測する。加速度センサ12Dは、仰角回転部123に作用する加速度を計測する。
【0020】
上記センサ124,125,127,128,12A,12B,12C,12Dのセンサ出力は駆動制御器12Eに送られる。駆動制御器12Eは、各角度センサ及び角速度センサで検出された方位軸回り及び仰角軸回りの回転角度、角速度を算出し、指示方向指令に基づいて方位軸モータ126及び仰角軸モータ129を駆動制御して、光学装置110の視軸を指示方向に向ける。
【0021】
上記構成において、以下にその駆動系、制御系の処理について説明する。
【0022】
上記角速度追従制御について、
図7乃至
図9を参照して説明する。
図7は、
図1に示す撮像装置100において、光学装置の実施形態の光学装置の視軸補正後の視軸方向速度の変化を示す図、
図8は、
図1に示す撮像装置で、画像ぶれを抑圧する空間安定化制御系を示す制御ブロック図、
図9は、
図8に示す空間安定制御系の処理の流れを示すフローチャートである。
【0023】
図7において、光学装置(カメラ等)110に印加される動揺の回転中心をO、目標をTとし、光学装置110から動揺の回転中心Oまでの長さをL、光学装置110を搭載する仰角回転部123の動揺による水平方向の速度をV
2、仰角回転部123の光学装置110の画面(画像センサ)に垂直な軸回りの角速度をω
2、目標Tまでの距離をRとし、動揺による画像ぶれ角速度をω
dとする。
【0024】
車両が停止している場合、基部121の水平方向の速度v1はゼロとみなすことができるので、光学装置110を搭載する仰角回転部123の水平方向の速度をv2について、次式が成り立つ。
v2=L・ω2 (1)
v2=R・ωd (2)
式(1)の両辺を時間tで微分すると、次式が得られる。
dv2/dt=L・dω2/dt (3)
ここで、仰角回転部123の水平方向の加速度をa2とすると、これは速度の時間微分であるから、次式で表される。
a2=dv2/dt (4)
式(4)を式(3)に代入し、Lについて解くと次式が得られる。
L=a2/(dω2/dt) (5)
式(5)に基づき、加速度a2と角速度ω2の時間微分との比から、動揺の回転中心までの長さLが推定できる。
【0025】
次に、式(1)及び(2)からv2を消去し、画像ぶれ角速度ωdについて解くと次式が得られる。
ωd=(L/R)・ω2 (6)
光学装置110を駆動するジンバルの制御系として速度フィードバック制御系を用いている場合(空間安定制御では、速度フィードバック制御系を用いている場合が多い)、本補正制御を行わせるためには、式(6)に基づいて推定した画像ぶれ角速度を速度フィードバック制御系の指令値に加算すればよい。したがって、本補正制御による角速度指令値の加算分をΔωr、画像ぶれ角速度推定ゲインをGb(>0)とすると、制御則は次式で表される。
Δωr=-Gb・ω2 (7)
Gb≒L/R (8)
なお、本補正制御による角速度指令値の加算分の大きさは、画像ぶれ角速度ωdの大きさとしているので、画像ぶれによる像流れの画素数Nbは、光学装置(カメラ等)の感光時間をτ、光学装置の画像センサの1画素あたりの視野をθiとすると、次式で表される。
Nb=ωd・τ/θi (9)
画像ぶれによる像流れの画素数Nbが微小とみなせるしきい値N(例えば1画素)以下であれば、Δωr=0として本補正制御を行わないとしてもよい。
【0026】
図8に示す空間安定化制御系を示す制御ブロック図を参照して、方位軸角速度指令に応じて視軸の方位軸角度が制御される空間安定制御系について説明する。まず、方位軸角速度指令が入力されると、加算器401、減算器402を介して方位軸速度制御系403に入力される。この方位軸速度制御系403は、入力した方位軸角速度指令から方位軸を駆動するための制御信号を算出し、それを基に駆動回路、モータ、ジンバル機構が動作して方位回転部が回転し、方位軸に角速度が生じる。この方位軸角速度は、方位軸の角速度センサ128で検出され、方位軸フィードバック制御系404に入力され減算器402に送られる。また、方位軸に印加される動揺の角速度は、基部の角速度センサ124が慣性角速度センサの場合にはそれによって検出され、減算器402に送られることによって方位軸角速度指令の値から方位軸に印加される動揺の角速度成分が減算される。なお、目標とする方位軸角度は、方位軸角速度が積分された物理量として表される。
【0027】
一方、仰角回転部123において、光学装置110の画面に垂直な軸回りの角速度ω2が与えられたとする。この角速度ω2は、仰角制御系406において、角速度センサ12Cで検出され、画像ぶれ角速度推定部407に入力される。この画像ぶれ角速度推定部407は、入力角速度ω2から画像ぶれ角速度の推定ゲイン(-Gb)に基づいて角速度指令値を補正する角速度Δωrを求める。この角速度Δωrは、加算器401に送られ、方位軸角速度指令に加算される。これにより、光学装置110に垂直な軸回りの角速度が安定化され、画像ぶれを抑圧することができる。
【0028】
具体的には、
図9に示すように、方位軸角速度指令が与えられると、角速度センサ12Cで仰角回転部123の角速度(光学装置110の画面(カメラの画像センサ)に垂直な軸回りの角速度)(ω
2)を計測し(ステップS11)、加速度センサ12Dで仰角回転部123の加速度(光学装置110の画面(画像センサ)の水平方向)(a
2)を計測し(ステップS12)、同様の回転中心Oまでの長さLを推定し、L≒a
2とω
2の時間微分との比を算出し(ステップS13)、目標Tまでの距離を設定し(ステップS14)、画像ぶれ角速度推定ゲインG
b≒L/Rを算出し(ステップS15)、画像ぶれ角速度ω
d=G
b・ω
2を算出する(ステップS16)。続いて、カメラの感光時間τを設定し(ステップS17)、光学装置110の画像センサの1画素当たりの視野θ
i(既知)を与え(ステップS18)、画像ぶれ画素数N
b=ω
d・τ/θ
iを推定する(ステップS19)。ここで、画像ぶれ許容画素数を設定し(ステップS20)、動揺外乱水平速度成分について、補正制御の要・不要をN
b≧Nより判定し(ステップS21)、必要な場合には、補正角速度Δω
r=-ω
d=-G
b・ω
2を算出して一連の処理を終了する。不要な場合には、補正角速度Δω
r=0として一連の処理を終了する。
【0029】
以上のように、本実施形態に係る撮像装置によれば、柔軟構造物上やサスペンションを有する車両の上部に搭載されているような搭載形態において、撮像時の角速度制御時には、指向方向を変更する際のジンバル加減速駆動の反力によるジンバル機構全体の揺れによるカメラ撮像時のぶれを低減させ、鮮明な画像を得ることができる。また、目標の捜索時等のうち、ジンバル駆動は行わないで光学装置による撮像を行う時の角速度制御と、指向方向を変更する際に光学装置のカメラ視野角程度を移動させる時の角度制御を速やかに切り替えることによって、ぶれを低減させた鮮明な周囲画像の撮像と、高速指向による捜索時間の短縮を両立させことができる。
【0030】
図10は、他の実施形態に係る周囲捜索・監視用の撮像装置の駆動系及び制御系の構成を示すブロック図である。
図10において、
図6と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは重複する説明を省略する。
【0031】
上記実施形態の構成では、ジンバル可動部に搭載された光学装置で撮像した画像から得られる情報を用いた画像追随制御を行うわけではないので、慣性空間の角速度を計測する角速度センサのドリフトが誤差の原因となる。しかしながら、他の実施形態として、
図10に示すように、光学装置110の出力を用いて画像処理器111によって画像処理を行う構成のシステムである場合(画像追随機能を備える場合にはこのような形態をとることが多い)、時間間隔を空けて同じ方向を撮像した複数の画像(例えば、方位方向に一周捜索した場合の最初と最後)間のずれを画像処理や相互相関関数を用いて検出し、この複数の画像間のずれ検出結果から慣性角速度を計測する角速度センサのドリフトを推定し、そのドリフト分を打ち消す補正信号を印加することによって以降のセンサ計測値を補正する。これによって、慣性空間の角速度を計測する角速度センサのドリフトによる誤差を低減することができる。
【0032】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0033】
100…撮像装置、110…光学装置、111…画像処理器、120…ジンバル装置、121…基部、122…方位回転部、123…仰角回転部、124…角速度センサ、125…加速度センサ、126…モータ、127…角度センサ、128…角速度センサ、129…モータ、12A…角度センサ、12B…角速度センサ、12C…角速度センサ、12D…加速度センサ、12E…駆動制御器、
200…被搭載移動体、
300…移動車両、301…車体、302…サスペンション及びタイヤ、303…低剛性構造物、
401…加算器、402…減算器、403…方位軸速度制御系、404…方位軸フィードバック制御系、405…積分器、406…仰角制御系、407…画像ぶれ角速度推定部。