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特許7455565信号処理装置、信号処理方法および信号処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】信号処理装置、信号処理方法および信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/14 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
H04L27/14 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019222173
(22)【出願日】2019-12-09
(65)【公開番号】P2021093596
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】江本 英晃
(72)【発明者】
【氏名】白江 光行
【審査官】原田 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-536310(JP,A)
【文献】特表2016-522593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1周波数または前記第1周波数よりも高い第2周波数を持つ周波数信号を処理する信号処理装置であって、
前記周波数信号に対応する信号波形データを取得するよう構成された取得部と、
前記第1周波数と前記第2周波数との間の検波周波数を持つ検波波形データの正弦波および余弦波を生成するよう構成された生成部と、
第1時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第1時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第1位相を算出するよう構成された第1位相算出部と、
前記第1時刻よりも前記検波周波数の1周期未満の規定時間間隔だけ進んだ第2時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第2時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第2位相を算出するよう構成された第2位相算出部と、
前記第1位相および前記第2位相の比較に基づいて、取得された前記周波数信号の信号値を出力するよう構成された変換部と、
前記変換部から出力される前記周波数信号の信号値の有効性を判定するよう構成された判定部と、
前記判定部による判定の結果、有効と判定された前記周波数信号の信号値を外部に出力するよう構成された出力部と、を備え、
前記判定部は、前記第2位相を算出する過程で算出される第2同相成分および第2直交位相成分によって算出される二乗和が、規定の閾値よりも大きい場合には、前記周波数信号の信号値を有効と判定する信号処理装置。
【請求項2】
前記第1位相および前記第2位相は、前記検波波形データに対する前記信号波形データの位相差であり、
前記変換部は、前記第2位相が前記第1位相よりも大きい場合には前記第2周波数が割り当てられたデジタル値を出力し、前記第2位相が前記第1位相よりも小さい場合には前記第1周波数が割り当てられたデジタル値を出力する請求項1に記載の信号処理装置。
【請求項3】
前記第1時刻は、前記検波波形データの正弦波の位相が0°となる時刻であり、
前記規定時間間隔は、前記検波波形データの周期の1/4に相当する時間を有する請求項1または2に記載の信号処理装置。
【請求項4】
前記周波数信号は、直流信号に前記周波数信号が重畳されたハイブリッド信号から取り出された信号である請求項1~のいずれか1項に記載の信号処理装置。
【請求項5】
第1周波数または前記第1周波数よりも高い第2周波数を持つ周波数信号を処理する信号処理方法であって、
前記周波数信号に対応する信号波形データを取得するステップと、
前記第1周波数と前記第2周波数との間の検波周波数を持つ検波波形データの正弦波および余弦波を生成するステップと、
第1時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第1時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第1位相を算出するステップと、
前記第1時刻よりも前記検波周波数の1周期未満の規定時間間隔だけ進んだ第2時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第2時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第2位相を算出するステップと、
前記第1位相および前記第2位相の比較に基づいて、取得された前記周波数信号の信号値を出力するステップと、
前記周波数信号の信号値の有効性を判定するステップと、
前記周波数信号の信号値の有効性の判定の結果、有効と判定された前記周波数信号の信号値を外部に出力するステップと、を備え、
前記周波数信号の信号値の有効性を判定するステップは、前記第2位相を算出する過程で算出される第2同相成分および第2直交位相成分によって算出される二乗和が、規定の閾値よりも大きい場合には、前記周波数信号の信号値を有効と判定する信号処理方法。
【請求項6】
第1周波数または前記第1周波数よりも高い第2周波数を持つ周波数信号を処理する信号処理プログラムであって、
コンピュータに、
前記周波数信号に対応する信号波形データを取得するよう構成された取得部と、
前記第1周波数と前記第2周波数との間の検波周波数を持つ検波波形データの正弦波および余弦波を生成するよう構成された生成部と、
第1時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第1時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第1位相を算出するよう構成された第1位相算出部と、
前記第1時刻よりも前記検波周波数の1周期未満の規定時間間隔だけ進んだ第2時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第2時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第2位相を算出するよう構成された第2位相算出部と、
前記第1位相および前記第2位相の比較に基づいて、取得された前記周波数信号の信号値を出力するよう構成された変換部と、
前記変換部から出力される前記周波数信号の信号値の有効性を判定するよう構成された判定部であって、前記第2位相を算出する過程で算出される第2同相成分および第2直交位相成分によって算出される二乗和が、規定の閾値よりも大きい場合には、前記周波数信号の信号値を有効と判定する判定部と、
前記判定部による判定の結果、有効と判定された前記周波数信号の信号値を外部に出力するよう構成された出力部と、を実現させるための信号処理プログラム。
【請求項7】
前記出力部は、前記判定部による判定の結果、有効と判定された前記周波数信号の信号値を信号線によって接続されている通信相手に出力するよう構成され、
前記判定部は、前記信号線に前記周波数信号が流れているか否かを検知するよう構成されている請求項1から4の何れか一項に記載の信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、HART通信などのハイブリッド通信(スマート通信)に対応した機器の実現方式に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、HART(Highway Addressable Remote Transducer)通信方式など、4mA~20mAのアナログ信号(直流信号)にデジタル信号を重畳することで、複数の信号を同時に伝送するハイブリッド通信(スマート通信)方式が知られている(例えば特許文献1~4)。具体的には、HART通信では、例えば送信機器から受信機器に伝送される計測値や制御値に対応した直流のアナログ信号を、モデムを用いて、0値、1値の2値に対応する周波数でそれぞれ変調することによってデジタル信号を重畳し、信号線に送り出す。そして、受信側では、モデムを用いて、信号線から受信した上記の重畳信号の周波数成分から、デジタル信号を再生する。他方、アナログ信号については、フィルタを用いて上記の重畳信号から周波数成分をカットし、アナログ信号を取り出す。
【0003】
このようなハイブリッド通信は、例えばプラントのプロセス計装において、ハイブリッド通信対応機器間で行われる。プラントには、差圧変換器や温度変換器などの発信器(計測器)や、調節弁といった操作端などとなるフィールド機器が多数設置されている。また、各フィールド機器と制御装置とが個別の信号線でそれぞれ接続されることにより、各計測器によって計測された温度、流量、圧力などの計測値や、操作端への弁開度などの指令値を通信するためのアナログ信号が各信号線を伝送される。そして、フィールド機器と制御装置との通信にハイブリッド通信を適用することにより、信号線に伝送するアナログ信号(測定信号、制御信号)に、例えば保守情報などの機器情報に対応したデジタル信号を重畳させることで、計測値等と機器情報等とを同時に通信することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-149256号公報
【文献】特開2011-50102号公報
【文献】特開2014-178754号公報
【文献】特開2012-199779号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
HART通信などのハイブリッド通信に、例えばフィールド機器や制御装置などの機器を対応させるためには、直流信号に重畳されている交流信号(周波数信号)の周波数に基づいて、周波数に割り当てられた信号値(0値または1値)を判別する機能を機器に実装する必要がある。このために、例えば上述したモデムなどのハードウェアを機器に実装する場合には、その分のコストを要する。例えばプラントには多数のフィールド機器が設置されるが、ハイブリッド通信に対応させる機器が多いほど、コストが増大する。
【0006】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、より安価に製造可能な、周波数信号をデジタル値に変換する信号処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の少なくとも一実施形態に係る信号処理装置は、
第1周波数または前記第1周波数よりも高い第2周波数を持つ周波数信号を処理する信号処理装置であって、
前記周波数信号に対応する信号波形データを取得するよう構成された取得部と、
前記第1周波数と前記第2周波数との間の検波周波数を持つ検波波形データの正弦波および余弦波を生成するよう構成された生成部と、
第1時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第1時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第1位相を算出するよう構成された第1位相算出部と、
前記第1時刻よりも前記検波周波数の1周期未満の規定時間間隔だけ進んだ第2時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第2時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第2位相を算出するよう構成された第2位相算出部と、
前記第1位相および前記第2位相の比較に基づいて、取得された前記周波数信号の信号値を出力するよう構成された変換部と、を備える。
【0008】
本発明の少なくとも一実施形態に係る信号処理方法は、
第1周波数または前記第1周波数よりも高い第2周波数を持つ周波数信号を処理する信号処理方法であって、
前記周波数信号に対応する信号波形データを取得するステップと、
前記第1周波数と前記第2周波数との間の検波周波数を持つ検波波形データの正弦波および余弦波を生成するステップと、
第1時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第1時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第1位相を算出するステップと、
前記第1時刻よりも前記検波周波数の1周期未満の規定時間間隔だけ進んだ第2時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第2時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第2位相を算出するステップと、
前記第1位相および前記第2位相の比較に基づいて、取得された前記周波数信号の信号値を出力するステップと、を備える。
【0009】
本発明の少なくとも一実施形態に係る信号処理プログラムは、
第1周波数または前記第1周波数よりも高い第2周波数を持つ周波数信号を処理する信号処理プログラムであって、
コンピュータに、
前記周波数信号に対応する信号波形データを取得するよう構成された取得部と、
前記第1周波数と前記第2周波数との間の検波周波数を持つ検波波形データの正弦波および余弦波を生成するよう構成された生成部と、
第1時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第1時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第1位相を算出するよう構成された第1位相算出部と、
前記第1時刻よりも前記検波周波数の1周期未満の規定時間間隔だけ進んだ第2時刻における前記信号波形データと前記正弦波との乗算結果、および前記第2時刻における前記信号波形データと前記余弦波との乗算結果に基づいて第2位相を算出するよう構成された第2位相算出部と、
前記第1位相および前記第2位相の比較に基づいて、取得された前記周波数信号の信号値を出力するよう構成された変換部と、を実現させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、より安価に製造可能な、周波数信号をデジタル値に変換する信号処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッド通信を処理する制御装置の入出力モジュールの構成を概略的に示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る信号処理装置の構成を概略的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係る直流信号の例を示す図である。
図4】本発明の一実施形態に係る周波数信号の例を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係るHART信号の例を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に信号処理方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「具える」、「具備する」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッド通信を処理する制御装置の入出力モジュール7の構成を概略的に示す図である。図2は、本発明の一実施形態に係る信号処理装置1の構成を概略的に示す図である。図3は、本発明の一実施形態に係る直流信号Hcの例を示す図である。図4は、本発明の一実施形態に係る周波数信号Haの例を示す図である。図5は、本発明の一実施形態に係るHART信号の例を示す図である。
【0014】
図1に示すように、ハイブリッド通信が可能な機器9(図1では制御装置の入出力モジュール7)は、後述する信号処理装置1を備える。この信号処理装置1は、機器9が受信したハイブリッド信号Hに含まれる周波数信号Haをデジタル値に変換する装置である。ハイブリッド信号H(図5参照)は、直流(DC)を用いて伝送されるアナログ信号(直流信号Hc)を、通信するデジタル信号に応じて0値および1値に対してそれぞれ定められた2つの周波数で周波数変調することによって生成される信号であり、直流の直流信号Hc(図3参照)にデジタル信号に対応する周波数信号Ha(図4参照)が重畳された信号である。
【0015】
ハイブリッド通信を行う各機器9は、機器9間を接続する信号線Lから通信相手の機器9が送信したハイブリッド信号Hを受信すると、そのハイブリッド信号Hから周波数成分(周波数信号Ha)を取り出し、上記の信号処理装置1を用いて周波数信号Haをデジタル値に変換する。また、このハイブリッド信号Hの周波数成分(周波数信号Ha)を除去することにより直流信号Hcを得る。
【0016】
より具体的には、例えばハイブリッド通信を行う機器9は、プラントに設置されたフィールド機器91である。プラントには、温度、流量、圧力などを計測する各種の計測器(センサ)や、調節弁(バルブ)といった操作端などであるフィールド機器91が多数設置される。また、各フィールド機器91は、分散制御システム(DCS:Distributed Control System)などのプラントを制御する制御装置に対して、個別の信号線Lで接続される。そして、上述したアナログ信号は、計測器から制御装置に送信される計測値や、制御装置から操作端に送信される指令値(バルブに対して送信される弁開度指令値など)の情報(以下、アナログ主情報Da)の通信に用いられる。より具体的には、例えば4mAの電流が0%、20mAの電流が100%というように、アナログ信号の4mA~20mAの電流値にアナログ主情報Daを対応付け(マッピングし)、アナログ主情報Daをアナログ信号に載せて通信する。
【0017】
他方、デジタル信号は、計測値を計測した計測器を識別するための番号など、デジタル信号の送信元機器に関する機器情報やプロセス値などの情報(以下、デジタル付加情報Dd)の通信に用いられる。具体的には、デジタル付加情報Ddを示すビット列bを構成する各ビットのビット値を、デジタル値の種類(0値または1値)の各々に対して予め異なる周波数(後述する第1周波数Faおよび第2周波数Fb)を割り当てておき、デジタル付加情報Ddを示すビット列bを構成する各ビットのビット値に応じた周波数信号Haを生成することで(図4参照)、デジタル付加情報Ddの各ビットを周波数信号Haに載せて通信する。
【0018】
図1に示す実施形態では、信号処理装置1は、ハイブリッド通信の一種であるHART通信を行うように構成されている。HART通信では、デジタル値の0を2.2kHz、1値を1.2kHzとして、デジタル付加情報Ddの各ビットの並びに従って、4mA~20mAの直流(DC)のアナログ信号を変調したハイブリッド信号H(HART信号)が信号線Lに伝送される。
【0019】
また、図1に示す実施形態では、信号処理装置1は、プラントの制御装置を構成するモジュール(入出力モジュール)に組み込まれている。この入出力モジュール7は、送受信部71により上記の信号線Lに接続されており、HART通信の通信相手となるフィールド機器91から信号線Lに出力されたハイブリッド信号Hは、送受信部71により入出力モジュール7に入力されるようになっている。送受信部71は、例えばトランス(変圧器)で構成しても良い。
【0020】
この送受信部71は、入出力モジュール7の内部において、送信処理部72および受信処理部73に接続されている。送信処理部72は、上位機能から入力(要求)されたアナログ主情報Daおよびデジタル付加情報Ddを取得し、ハイブリッド信号Hを生成するよう構成された機能部である。本実施形態では、上位機能は、制御装置(DCS)のCPUモジュール(不図示)である。CPUモジュール(不図示)は、制御装置の全体の演算機能を担っており、その演算部において複数の入出力モジュール7の各々からの1以上の入力に基づいて出力を演算し、その演算結果を対象となる入出力モジュール7などに出力する。
【0021】
上記の送信処理部72は、例えば、上位機能から入力されたアナログ主情報Daに応じた直流信号Hcを電気的に生成(電流または電圧)する機能部と、同じく上位機能から入力されたデジタル付加情報Ddを重畳する周波数信号Haを電気的に生成する機能部と、これらの2つの機能部に接続され、直流信号Hcと周波数信号Haを電気的に重畳し、その合成波(ハイブリッド信号H)を出力するマルチプレクサとで構成しても良い。マルチプレクサが上記の送受信部71に接続される。あるいは、周波数信号Haを直流信号Hcに変換するDAコンバータの出力に従って直流信号Hcをモデムで変調して、4mA~20mAの直流信号Hcに変調波形を合成したハイブリッド信号Hしても良い。
【0022】
一方、上記の受信処理部73は、入力されたハイブリッド信号Hで通信されたアナログ主情報Daおよびデジタル付加情報Ddを取得し、上位機能に転送するよう構成された機能部である。受信処理部73は、ハイブリッド信号Hからアナログ主情報Daを再生するための構成として、ハイブリッド信号Hの直流成分となる直流信号Hcを抽出するローパスフィルタ74と、このローパスフィルタ74に接続された第1AD変換部75(AD:Analog to Digital Convert)と、を備えている。
【0023】
また、受信処理部73は、ハイブリッド信号Hからデジタル付加情報Ddを再生するための構成として、ハイブリッド信号Hの交流成分となる周波数信号Haを抽出するハイパスフィルタ76と、このハイパスフィルタ76に接続された信号処理装置1と、を備えている。そして、ハイパスフィルタ76は信号処理装置1に接続されており、入力された周波数信号Haを信号処理装置1に対して逐次出力するようになっている。
【0024】
以下、上記の信号処理装置1について、この信号処理装置1が搭載された機器9である制御装置と、通信相手の機器9であるフィールド機器91と間でHART通信を行う場合を例に図2を用いて説明する。
【0025】
信号処理装置1は、HART通信などのハイブリッド通信で通信される周波数信号Haなど、デジタル値の1値が割り当てられた1.2kHz(以下、第1周波数Fa)またはデジタル値の0値が割り当てられた第1周波数よりも高い2.2kHz(以下、第2周波数Fb)を持つ規定周期分(図2では1周期分)の周波数信号Haの信号値を判定し、デジタル値(2進数の1値または0値)に変換する装置である。図2に示すように、信号処理装置1は、取得部2と、生成部3と、第1位相算出部41、第2位相算出部42と、変換部5と、を備える。
これらの信号処理装置1が備える機能部について、それぞれ説明する。
【0026】
なお、上記の信号処理装置1は、下記説明では、制御装置が信号処理装置1を備えているが、制御装置またはフィールド機器91の少なくとも一方が備える。フィールド機器91が備える信号処理装置1が備える場合には、制御装置をフィールド機器91と読み替えれば良い。また、信号処理装置1は、例えばMCUや、FPGA(Field-Programmable Gate Array)といったPLD(Programmable Logic Device)などの設計者が任意の論理回路を構成可能な集積回路を用いて実現しても良い。例えば、FPGA上に図示しないCPU(プロセッサ)や、ROMやRAMといったメモリを形成し、メモリにロードされたプログラム(信号処理プログラム)の命令に従ってCPUが動作(データの演算など)することで、信号処理装置1が備える上記の各機能部を実現しても良い。
【0027】
取得部2は、機器9が受信したハイブリッド信号Hから分離された周波数信号Haに対応する信号波形データSを取得するよう構成された機能部である。信号波形データSは、周波数信号Haの任意の時刻における振幅値のAD変換後の値の少なくとも1つで構成されるデータであり、複数の時刻におけるAD変換後の値を時系列で並べることで波形が得られる。図2に示す実施形態では、取得部2は、第2AD変換部21と、バンドパスフィルタ部22(BPF)と、で構成されている。また、第2AD変換部21は、上述したハイパスフィルタ76(図1参照)に接続されており、ハイパスフィルタ76から逐次入力される周波数信号Haを順次AD変換し、バンドパスフィルタ部22に入力するようになっている。
【0028】
生成部3は、上記の第1周波数Faと第2周波数Fbとの間の検波周波数Fr(Fa<Fr<Fb)を持つ検波波形データRの正弦波Rsおよび余弦波Rcを生成するよう構成された機能部である。図2に示す実施形態では、検波周波数Frは、2.2kHzである第1周波数Faと1.2kHである第2周波数Fbの中間程度の値を有する例えば1.6kHzとしている。また、上記の余弦波Rcは、検波波形データRの正弦波(sin)の位相を90°シフトさせることで生成している。
【0029】
第1位相算出部41は、任意の時刻となる第1時刻Taにおける信号波形データS(以下、第1信号波形データSa)と、上記の検波波形データRの正弦波Rsとの乗算結果、および、この第1時刻Taにおける上記の第1信号波形データSaと、上記の検波波形データRの余弦波Rcとの乗算結果に基づいて第1位相φaを算出するよう構成された機能部である。
同様に、第2位相算出部42は、第1時刻Taよりも検波周波数Frの1周期未満の規定時間間隔B(B=Tb-Ta。0<B<1/Fr)だけ進んだ第2時刻Tb(Tb>Ta)における信号波形データS(以下、第2信号波形データSb)と、上記の検波波形データRの正弦波Rsとの乗算結果、および第2時刻Tbにおける上記の第2信号波形データSbと、上記の検波波形データRの余弦波Rcとの乗算結果に基づいて第2位相φbを算出するよう構成された機能部である。
【0030】
上記の規定時間間隔Bは、例えば、検波波形データRの周期の1/N(Nは整数)であっても良い。図2に示す実施形態では、規定時間間隔Bは、検波波形データRの1/4周期(B=1/4×1/Fr)となっている。より詳細には、上記の第1時刻Taは、第1周波数Faまたは第2周波数Fbを持つことになる信号波形データSの位相が0°となる時刻であり、第2時刻Tbは、その信号波形データSの位相が90°となる時刻となっている。なお、上記の乗算とは乗算に相当する演算結果を得ることであり、実際には加算により乗算に相当する演算結果を得るように構成しても良い。
【0031】
ここで、同期検波など、入力信号(図2では信号波形データS)に対して、リファレンス信号(図2では検波波形データR)の正弦波Rsおよび余弦波Rcをそれぞれ乗算することで得られる2つの乗算結果をそれぞれローパスフィルタで処理することで、入力信号の同相成分Iと直交位相成分Qに比例する低周波の信号を取り出せることが知られている。そして、上記の同相成分Iと直交位相成分Qとの二乗和の平方根を単に算出することで、入力信号の振幅が得られる(振幅=√{Q+I})。また、tan-1(Q/I)を算出することで、リファレンス信号と入力信号との間の位相差が得られる。
【0032】
よって、第1位相算出部41は、第2位相算出部42に入力される第2信号波形データSbに対して規定時間間隔Bだけ遅延された第1信号波形データSaと検波波形データRの正弦波Rsおよび余弦波Rcに基づいて、第1時刻Taにおける、例えば検波波形データRに対する第1信号波形データSaの位相差を第1位相φaとして算出する。第2位相算出部42は、第1位相算出部41に入力される第1信号波形データSaに対して規定時間間隔Bだけ進んだ第2信号波形データSbと検波波形データRの正弦波Rsおよび余弦波Rcに基づいて、第2時刻Tbにおける、例えば検波波形データRに対する第2信号波形データSbの位相差を第2位相φbとして算出する。
【0033】
変換部5は、上述した第1位相算出部41および第2位相算出部42によってそれぞれ算出された第1位相φaおよび第2位相φbに基づいて、周波数信号Haの信号値(0値または1値)を判定するよう構成された機能部である。詳述すると、第1位相φaおよび第2位相φbは、規定時間間隔Bだけ離れた2つの時刻の各々における検波波形データRに対する信号波形データSの位相差である。仮に信号波形データSが検波周波数Frを持つとした場合には第2位相φbは0となるはずであるが、実際の信号波形データSの周波数は第1周波数Faまたは第2周波数Fbであり、検波周波数Frよりも高いか低いかのいずれかである。このように信号波形データSと検波波形データRとは周波数が異なるので、規定時間間隔Bだけ離れた2つの時刻における上記の位相差は、信号波形データSの周波数と検波周波数Frとの大小関係に応じた値になる。
【0034】
すなわち、取得時の信号波形データSの周波数(以下、現周波数Fc)が検波周波数Frよりも高い第2周波数Fbである場合(Fc>Fr)には、それが第1周波数Faの場合に比べて信号波形データSの位相が早く進む。よって、第2時刻Tbにおける位相差(第2位相φb)は第1時刻Taにおける位相差(第1位相φa)よりも大きくなので、Fc>Frの時はφa<φbの関係が成り立つ。逆に、信号波形データSの現周波数Fcが検波周波数Frよりも低い第1周波数Faである場合(Fc<Fr)には、それが第2周波数Fbの場合に比べて信号波形データSの位相がより遅く進む。よって、第2時刻Tbにおける位相差(第2位相φb)は第1時刻Taにおける位相差(第1位相φa)よりも値策なるので、Fc<Frの時はφa>φbの関係が成り立つ。
【0035】
つまり、φa<φbの場合には、信号波形データSの現周波数Fcは第2周波数Fb(本実施形態では2.2kHz)を持つことを意味し、φa>φbの場合には、信号波形データSの現周波数Fcは第1周波数Fa(本実施形態では1.2kHz)を持つことを意味する。よって、第1時刻Taにおける第1位相φaと、第2時刻Tbにおける第2位相φbとを比較することで、信号波形データSの現周波数Fcが第1周波数Faであるか、第2周波数Fbであるかを判別することが可能となる。
【0036】
図2に示す実施形態では、取得部2が取得した信号波形データS(Sb)の値は、遅延部40によって規定時間間隔Bだけ遅延された後、第1位相算出部41に入力されるようになっている(Sa)。また、第2位相算出部42へは、取得部2が取得した信号波形データS(Sb)に対して、遅延されることなく、そのまま入力されるようになっている。また、第2位相算出部42に入力される信号波形データS(Sb)に同期した検波波形データRの正弦波Rsおよび余弦波Rcが、第1位相算出部41および第2位相算出部42に入力されるようになっている。
【0037】
そして、第1位相算出部41は、入力された第1信号波形データSaの1周期分を処理対象に、生成部3からそれぞれ入力される検波波形データRの正弦波Rsおよび余弦波Rcをそれぞれ乗算することで、その同相成分I(第1同相成分Ia)および直交位相成分Q(第1直交位相成分Qa)をそれぞれ算出する。また、この算出結果のtan-1(Qa/Ia)を算出(arctan)することで第1位相φaを算出する。同様に、第2位相算出部42は、入力された第2信号波形データSbの一周期分を処理対象に、生成部3からそれぞれ入力される検波波形データRの正弦波Rsおよび余弦波Rcをそれぞれ乗算することで、同相成分I(第2同相成分Ib)および直交位相成分Q(第2直交位相成分Qb)をそれぞれ算出する。また、この算出結果のtan-1(Qb/Ib)を算出(arctan)することで第2位相φbを算出する。
【0038】
そして、変換部5は、第1位相算出部41から入力される第1位相φaと、第2位相算出部42から入力される第2位相φbを比較し、φa>φbであれば1値を出力することで、φa<φbであれば0値が出力されるように構成されている。つまり、変換部5は、第2位相φbが第1位相φaよりも大きい場合(φa>φb)には第1周波数Faが割り当てられたデジタル値(1値)を出力し、第2位相φbが第1位相φaよりも小さい場合(φa<φb)には第2周波数Fbが割り当てられたデジタル値(0値)を出力する。これによって、第1位相φaと第2位相φbとの比較に基づいて、周波数信号Haをデジタル値に適切に変換することができる。
【0039】
上記の構成によれば、信号処理装置1は、ハイブリッド信号Hから取り出された周波数信号Haを0値または1値のデジタル値に変換する。具体的には、デジタル値の0値および1値の各々に割り当てられた2つの周波数(第1周波数Fa、第2周波数Fb)の間の周波数(検波周波数Fr)を持つ検波波形データRの正弦波Rsおよび余弦波Rc(正弦波Rsを90°シフトした波)を用意し、上記の周波数信号HaのAD変換後のデータ(信号波形データS)に乗算する。そして、これによって得られる、規定時間間隔Bを開けた2つの時刻(第1時刻Ta、第2時刻Tb)における位相(位相差)を算出し、算出した位相に基づいて上記の周波数信号Haが0値を示すか1値を示すかを判定する。
【0040】
これによって、上述した第1位相φaおよび第2位相φbに基づいて、周波数信号Haをデジタル値に変換することができる。また、このようなソフト的な手法によれば、比較的高価なモデムを用いることなく、例えばHART通信などのハイブリッド通信のデジタル信号を再生することができる。
【0041】
また、幾つかの実施形態では、図2に示すように、信号処理装置1は、上述した変換部5から出力される周波数信号Haの信号値の有効性を判定するよう構成された判定部61と、この判定部61による判定の結果、有効と判定された周波数信号Haの信号値を外部(後段)に出力する出力部62と、をさらに備えても良い。図2に示す実施形態では、変換部5は、出力部62に接続されており、出力部62から上位機能にデジタル付加情報Ddが出力されるようになっている。
【0042】
この際、上述した機器9間を接続する信号線Lにはノイズなどによってハイブリッド通信を行っていない場合に交流信号が流れる場合が想定される。そして、このような場合には、信号処理装置1が上位機能に対してデジタル付加情報Ddを出力するような誤動作を防止する必要がある。そこで、出力部62からの出力が、ハイブリッド通信により受信された周波数信号Haに対する処理結果となるように、出力部62は判定部61によって有効と判定された場合のデジタル付加情報Ddを出力する。
【0043】
この際、例えば変換部5が1値の場合以外は0値を出力するように構成されている場合には、通信相手の機器9が信号線L用いてハイブリッド通信を実行していない場合にも0値を出力する場合がある。このような場合には、ハイブリッド通信が実際には行われていない場合にも、0値に対応する周波数信号Haが信号線Lを通信されていると判定される結果、誤動作が生じ得るため、変換部5からの出力の有効性を判定した上で、有効な場合に外部へのデジタル付加情報Ddの出力を行う。
【0044】
図2に示す実施形態では、判定部61は、通信相手となる機器9(図1では例えばフィールド機器91)と接続するための上述した信号線Lに周波数信号Haが流れているか否かを検知する。換言すれば、判定部61は、信号線Lに周波数信号Ha(ハイブリッド信号H)が流れているか否かを検知(キャリアディテクション)することで、通信相手の機器9がハイブリッド通信を実行中であるか否かを検知する。
【0045】
具体的には、判定部61には、第2位相算出部42が第2位相φbを算出する過程で算出される第2同相成分Ibと第2直交位相成分Qbとが入力されるようになっており、その二乗和(√{Qb+Ib})を算出する。そして、判定部61は、上記の二乗和の算出結果(以下、パワーP)が規定の閾値Vよりも大きい場合(P>L)には、変換部5から出力部62に入力された信号値は、ハイブリッド通信によるハイブリッド信号Hの周波数信号Haを処理した結果であり、有効と判定する。逆に、判定部61は、上記のパワーPが規定の閾値V以下の場合(P≦L)には、変換部5から出力部62に入力された信号値は無効と判定する。上記の閾値Vは、ノイズと周波数信号Haとを区別可能な値に設定される。そして、判定部61は、有効、無効に応じた通知(信号)を出力部62に入力することで、出力部62はこの入力に基づいて有効性を判定する。
【0046】
上記の構成によれば、機器9間でハイブリッド通信(図2ではHART通信)が実際には行われておらず、機器9間を接続する信号線Lにハイブリッド信号Hが流れていない場合に、ノイズ等の影響により信号処理装置1が誤って処理結果を出力するような誤動作を防止することができる。
【0047】
以下、上述した構成(機能)を備える信号処理装置1が行う処理に対応する信号処理方法について、図6を用いて説明する。図6は、本発明の一実施形態に信号処理方法を示す図である。
【0048】
信号処理方法は、HART通信などのハイブリッド通信で通信される周波数信号Haなど、デジタル値の0値または1値が割り当てられる上述した第1周波数Faまたは第2周波数Fbを持つ周波数信号Haの信号値を判定し、デジタル値に変換する方法である。図6に示すように、信号処理方法は、取得ステップと、生成ステップと、第1位相算出ステップ、第2位相算出ステップと、変換ステップと、を備える。
これらのステップについて、図6のステップ順に説明する。
【0049】
図6のステップS1において、取得ステップを実行する。取得ステップは、機器9が受信したハイブリッド信号Hから分離された周波数信号Haに対応する信号波形データSを取得するステップである。取得ステップは、既に説明した取得部2が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0050】
ステップS2において、生成ステップを実行する。生成ステップは、上記の第1周波数Faと第2周波数Fbとの間の検波周波数Fr(Fa<Fr<Fb)を持つ検波波形データRの正弦波Rsおよび余弦波Rcを生成するステップである。生成ステップは、既に説明した生成部3が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0051】
ステップS3において、第1位相算出ステップを実行する。第1位相算出ステップは、上記の第1時刻Taにおける第1信号波形データSaと上記の検波波形データRの正弦波Rsとの乗算結果、および、この第1時刻Taにおける第1信号波形データSaと上記の検波波形データRの余弦波Rcとの乗算結果に基づいて第1位相φaを算出するステップである。第1位相算出ステップは、既に説明した第1位相算出部41が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0052】
ステップS4において、第2位相算出ステップを実行する。第2位相算出ステップは、第1時刻Taよりも上記の規定時間間隔Bだけ進んだ第2時刻Tbにおける第2信号波形データSbと上記の検波波形データRの正弦波Rsとの乗算結果、および第2時刻Tbにおける上記の第2信号波形データSbと上記の検波波形データRの余弦波Rcとの乗算結果に基づいて第2位相φbを算出するステップである。第2位相算出ステップは、既に説明した第2位相算出部42が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。
【0053】
ステップS5において、変換ステップを実行する。変換ステップは、上述した第1位相算出ステップおよび第2位相算出ステップによってそれぞれ算出された第1位相φaおよび第2位相φbに基づいて、周波数信号Haの信号値(0値または1値)を判定するステップである。変換ステップは、既に説明した変換部5が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略するが、第2位相φbが第1位相φaよりも大きい場合(φa>φb)には第1周波数Faが割り当てられたデジタル値(1値)に変換し、第2位相φbが第1位相φaよりも小さい場合(φa<φb)には第2周波数Fbが割り当てられたデジタル値(0値)に変換しても良い。これによって、第1位相φaと第2位相φbとの比較に基づいて、周波数信号Haをデジタル値に適切に変換することができる。
【0054】
なお、取得ステップと生成ステップとの順序、第1位相算出ステップと第2位相算出ステップとの順序は、それぞれ逆であっても良いし、例えば図2の例のようなど並列に行っても良い。また、図6のフローは、周波数信号Ha(信号波形データS)の一周期毎に繰返し行われる。
【0055】
また、幾つかの実施形態では、上述した変換ステップによって得られる周波数信号Haの信号値の有効性を判定する判定ステップと、この判定ステップによる判定の結果、有効と判定された周波数信号Haの信号値を出力(採用)する出力ステップと、をさらに備えても良い。判定ステップ、出力ステップは、それぞれ、既に説明した判定部61、出力部62が実行する処理内容と同様であるため、詳細は省略する。図6に示す実施形態では、ステップS6において判定ステップの判定結果を確認し、判定結果が有効である場合に、ステップS7において出力ステップを実行するようになっている。逆に、ステップS6において判定ステップによる判定結果が無効である場合には、出力ステップを実行しないようになっている。なお、判定ステップは、上記の取得ステップ(図6のS1)で取得した信号波形データSの有効性を判定するものなので、上記のステップS1~S5の各ステップの前後のいずれで行っても良いし、これらのステップと並行に行っても良い。
【0056】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
(付記)
【0057】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る信号処理装置(1)は、
第1周波数(Fa)または前記第1周波数(Fa)よりも高い第2周波数(Fb)を持つ周波数信号(Ha)を処理する信号処理装置(1)であって、
前記周波数信号(Ha)に対応する信号波形データ(S)を取得するよう構成された取得部(2)と、
前記第1周波数(Fa)と前記第2周波数(Fb)との間の検波周波数(Fr)を持つ検波波形データ(R)の正弦波および余弦波を生成するよう構成された生成部(3)と、
第1時刻(Ta)における前記信号波形データ(S)と前記正弦波との乗算結果、および前記第1時刻(Ta)における前記信号波形データ(S)と前記余弦波との乗算結果に基づいて第1位相を算出するよう構成された第1位相算出部(41)と、
前記第1時刻(Ta)よりも前記検波周波数(Fr)の1周期未満の規定時間間隔(B)だけ進んだ第2時刻(Tb)における前記信号波形データ(S)と前記正弦波との乗算結果、および前記第2時刻(Tb)における前記信号波形データ(S)と前記余弦波との乗算結果に基づいて第2位相を算出するよう構成された第2位相算出部(42)と、
前記第1位相および前記第2位相の比較に基づいて、取得された前記周波数信号(Ha)の信号値を出力するよう構成された変換部(5)と、を備える。
【0058】
上記(1)の構成によれば、信号処理装置(1)は、ハイブリッド信号(H)から取り出された周波数信号(Ha)を0値または1値のデジタル値に変換する。具体的には、デジタル値の0値および1値の各々に割り当てられた2つの周波数(第1周波数Fa、第2周波数Fb)の間の周波数(検波周波数Fr)を持つ検波波形データ(R)の正弦波および余弦波(正弦波を90°シフトした波)を用意し、上記の周波数信号(Ha)のAD変換後のデータ(信号波形データS)に乗算する。そして、これによって得られる、検波波形データ(R)の周期(例えば1/4周期)などを開けた2つの時刻(第1時刻Ta、第2時刻Tb)における位相(位相差)を算出し、算出した位相に基づいて上記の周波数信号(Ha)が0値を示すか1値を示すかを判定する。
【0059】
例えば、上記の乗算により得られる、上記の規定時間間隔(B)の前後における2つの位相(第1位相φa、第2位相φb)は、それぞれ検波周波数(Fr)に対する信号周波数の位相差となる。仮に信号波形データ(S)が検波周波数(Fr)を持つとした場合には第2位相は0となるはずであるが、実際の検波波形データ(R)の周波数は検波周波数(Fr)よりも高いか低いかのいずれかである。このように信号波形データ(S)と検波波形データ(R)とは周波数が異なるので、規定時間間隔(B)だけ離れた2つの時刻における上記の位相差は、信号波形データ(S)Sの周波数と検波周波数(Fr)との大小関係に応じた値になる。
【0060】
したがって、上述した第1位相および第2位相に基づいて、周波数信号(Ha)をデジタル値に変換することができる。また、このようなソフト的な手法によれば、比較的高価なモデムを用いることなく、例えばHART通信などのハイブリッド通信のデジタル信号を再生することができる。
【0061】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記第1位相および前記第2位相は、前記検波波形データ(R)に対する前記信号波形データ(S)の位相差であり、
前記変換部(5)は、前記第2位相が前記第1位相よりも大きい場合には前記第2周波数(Fb)が割り当てられたデジタル値を出力し、前記第2位相が前記第1位相よりも小さい場合には前記第1周波数(Fa)が割り当てられたデジタル値を出力する。
【0062】
上記(2)の構成によれば、第1位相と第2位相との比較に基づいて、周波数信号(Ha)をデジタル値に適切に変換することができる。
【0063】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)~(2)の構成において、
前記第1時刻(Ta)は、前記検波波形データ(R)の正弦波の位相が0°となる時刻であり、
前記規定時間間隔(B)は、前記検波波形データ(R)の周期の1/4に相当する時間を有する。
上記(3)の構成によれば、上記の周波数信号(Ha)が0値を示すか1値を示すかを適切に判定することができ、位相算出部の構成をシンプルにすることができる。
【0064】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)~(3)の構成において、
前記変換部(5)から出力される前記周波数信号(Ha)の信号値の有効性を判定するよう構成された判定部(61)と、
前記判定部(61)による判定の結果、有効と判定された前記周波数信号(Ha)の信号値を外部に出力するよう構成された出力部(62)と、をさらに備えても良い。
【0065】
上記(4)の構成によれば、機器(9)間でハイブリッド通信が実際には行われておらず、機器(9)間を接続する信号線(L)にハイブリッド信号(H)が流れていない場合に、ノイズ等の影響により信号処理装置(1)が誤って処理結果を出力するような誤動作を防止することができる。
【0066】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)~(4)の構成において、
前記周波数信号(Ha)は、直流信号(Hc)に前記周波数信号(Ha)が重畳されたハイブリッド信号(H)から取り出された信号である。
上記(5)の構成によれば、HART通信などのハイブリッド通信により通信された通信情報を適切に再生することができる。
【0067】
(6)本発明の少なくとも一実施形態に係る信号処理方法は、
第1周波数(Fa)または前記第1周波数(Fa)よりも高い第2周波数(Fb)を持つ周波数信号(Ha)を処理する信号処理方法であって、
前記周波数信号(Ha)に対応する信号波形データ(S)を取得するステップと、
前記第1周波数(Fa)と前記第2周波数(Fb)との間の検波周波数(Fr)を持つ検波波形データ(R)の正弦波および余弦波を生成するステップと、
第1時刻(Ta)における前記信号波形データ(S)と前記正弦波との乗算結果、および前記第1時刻(Ta)における前記信号波形データ(S)と前記余弦波との乗算結果に基づいて第1位相を算出するステップと、
前記第1時刻(Ta)よりも前記検波周波数(Fr)の1周期未満の規定時間間隔(B)だけ進んだ第2時刻(Tb)における前記信号波形データ(S)と前記正弦波との乗算結果、および前記第2時刻(Tb)における前記信号波形データ(S)と前記余弦波との乗算結果に基づいて第2位相を算出するステップと、
前記第1位相および前記第2位相の比較に基づいて、取得された前記周波数信号(Ha)の信号値を出力するステップと、を備える。
上記(6)の構成によれば、上記(1)と同様の効果を奏する。
【0068】
(7)本発明の少なくとも一実施形態に係る信号処理プログラムは、
第1周波数(Fa)または前記第1周波数(Fa)よりも高い第2周波数(Fb)を持つ周波数信号(Ha)を処理する信号処理プログラムであって、
コンピュータに、
前記周波数信号(Ha)に対応する信号波形データ(S)を取得するよう構成された取得部(2)と、
前記第1周波数(Fa)と前記第2周波数(Fb)との間の検波周波数(Fr)を持つ検波波形データ(R)の正弦波および余弦波を生成するよう構成された生成部(3)と、
第1時刻(Ta)における前記信号波形データ(S)と前記正弦波との乗算結果、および前記第1時刻(Ta)における前記信号波形データ(S)と前記余弦波との乗算結果に基づいて第1位相を算出するよう構成された第1位相算出部(41)と、
前記第1時刻(Ta)よりも前記検波周波数(Fr)の1周期未満の規定時間間隔(B)だけ進んだ第2時刻(Tb)における前記信号波形データ(S)と前記正弦波との乗算結果、および前記第2時刻(Tb)における前記信号波形データ(S)と前記余弦波との乗算結果に基づいて第2位相を算出するよう構成された第2位相算出部(42)と、
前記第1位相および前記第2位相の比較に基づいて、取得された前記周波数信号(Ha)の信号値を出力するよう構成された変換部(5)と、を実現させるためのプログラムである。
上記(7)の構成によれば、上記(1)と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0069】
1 信号処理装置
2 取得部
21 第2AD変換部
22 バンドパスフィルタ部
3 生成部
40 遅延部
41 第1位相算出部
42 第2位相算出部
5 変換部
61 判定部
62 出力部
7 入出力モジュール
71 送受信部
72 送信処理部
73 受信処理部
74 ローパスフィルタ
75 第1AD変換部
76 ハイパスフィルタ
9 機器
91 フィールド機器
L 信号線
H ハイブリッド信号
Hc 直流信号
Ha 周波数信号(交流信号)
Fa 第1周波数
Fb 第2周波数
R 検波波形データ
Fr 検波周波数
Rc 検波波形データの余弦波
Rs 検波波形データの正弦波
S 信号波形データ
Sa 第1信号波形データ
Sb 第2信号波形データ
Ta 第1時刻
Tb 第2時刻
B 規定時間間隔
Ia 第1同相成分
Ib 第2同相成分
Qa 第1直交位相成分
Qb 第2直交位相成分
Da アナログ主情報
Dd デジタル付加情報
b ビット列
P パワー
V 閾値
図1
図2
図3
図4
図5
図6