(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】電源装置及びレーザ装置
(51)【国際特許分類】
H02M 3/155 20060101AFI20240318BHJP
H01S 3/097 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H02M3/155 H
H01S3/097 A
(21)【出願番号】P 2019231735
(22)【出願日】2019-12-23
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田坂 泰久
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-085835(JP,A)
【文献】特開2019-126197(JP,A)
【文献】国際公開第2017/149712(WO,A1)
【文献】特開平09-085474(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 3/155
H01S 3/00
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間欠動作する負荷の動作に同期して、間欠動作する負荷が接続されるコンデンサの端子間電圧を電圧目標値に近づける充電動作を行う充電電源を有し、
前記充電電源は、
前記コンデンサの端子間電圧が第1電圧許容範囲から外れたら、前記コンデンサの端子間電圧を前記電圧目標値に近づける補助充放電動作を行う第1動作モードと、
前記コンデンサの端子間電圧が前記第1電圧許容範囲よりも狭い第2電圧許容範囲から外れたら、前記補助充放電動作を行う第2動作モードと
を切り替える機能を備えた電源装置。
【請求項2】
さらに、前記第1電圧許容範囲及び前記第2電圧許容範囲を特定する情報が入力される入力装置を有し、
前記充電電源は、前記入力装置に入力された前記第1電圧許容範囲及び前記第2電圧許容範囲を特定する情報に基づいて、前記第1動作モード及び前記第2動作モードの一方の前記補助充放電動作を行う請求項1に記載の電源装置。
【請求項3】
前記充電電源は、
ローサイドスイッチング素子を備えたスイッチングコンバータを含み、前記ローサイドスイッチング素子のスイッチングを行うことにより前記充電動作を行い、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間に応じた電流を前記コンデンサに供給し、
前記電圧目標値からの前記コンデンサの端子間電圧の偏差、及び前記ローサイドスイッチング素子のオン時間設定値に基づいて、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間を決定して前記充電動作を行う機能を持ち、
前記負荷の動作時における前記ローサイドスイッチング素子のオン時間の実際の値に基づいて、前記オン時間設定値を再設定する請求項1または2に記載の電源装置。
【請求項4】
前記負荷は、1回の動作サイクルの消費電力が異なる複数の動作条件で動作し、
前記充電電源は、前記負荷の動作条件ごとに前記オン時間設定値を記憶する請求項3に記載の電源装置。
【請求項5】
前記充電電源は、前記電圧目標値からの前記コンデンサの端子間電圧の偏差、及び予め決定されているオン時間固定値に基づいて、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間を決定して前記充電動作を行うオン時間固定モードと、前記ローサイドスイッチング素子の前記オン時間設定値に基づいて、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間を決定して前記充電動作を行うオン時間可変モードとの切り替えを行う機能を持つ請求項3または4に記載の電源装置。
【請求項6】
前記充電電源は、前記オン時間可変モード及び前記オン時間固定モードのいずれのモードで動作するかの指令を、ユーザに入力させる機能を有する請求項5に記載の電源装置。
【請求項7】
少なくとも2つの異なる動作条件で間欠動作する負荷が接続されるコンデンサと、
前記負荷の動作に同期して、前記コンデンサの端子間電圧を電圧目標値に近づける充電動作を行う充電電源と
を有し、
前記充電電源は、
ローサイドスイッチング素子を備えたスイッチングコンバータを含み、前記ローサイドスイッチング素子のスイッチングを行うことにより前記充電動作を行い、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間に応じた電流を前記コンデンサに供給し、
前記負荷が1つの動作条件で動作を開始するとき、前記電圧目標値からの前記コンデンサの端子間電圧の偏差、及び前記負荷の
動作開始後の動作条件と同一の動作条件での動作時における前記ローサイドスイッチング素子のオン時間の
最終の実際の値に基づいて、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間を決定する機能を備えた電源装置。
【請求項8】
放電電極を備え、パルス発振するレーザ発振器と、
トリガ信号に同期して直流電力を交流電力に変換して前記放電電極にパルス的に供給する高周波電源と、
前記高周波電源に直流電力を供給する電源装置と
を有し、
前記電源装置は、
前記高周波電源に供給する直流電力を蓄積するコンデンサと、
前記トリガ信号に同期して、前記コンデンサの端子間電圧を電圧目標値に近づける充電動作を行う充電電源と
を有し、
前記充電電源は、
前記コンデンサの端子間電圧が第1電圧許容範囲から外れたら、前記コンデンサの端子間電圧を前記電圧目標値に近づける補助充放電動作を行う第1動作モードと、
前記コンデンサの端子間電圧が前記第1電圧許容範囲よりも狭い第2電圧許容範囲から外れたら、前記補助充放電動作を行う第2動作モードと
を切り替える機能を備えたレーザ装置。
【請求項9】
放電電極を備え、パルス発振するレーザ発振器と、
トリガ信号に同期して前記放電電極に交流電力をパルス的に供給する高周波電源と、
前記高周波電源に直流電力を供給する電源装置と
を有し、
前記高周波電源は、少なくとも2つの異なる動作条件で間欠動作し、
前記電源装置は、
前記高周波電源に供給する直流電力を蓄積するコンデンサと、
前記トリガ信号に同期して、前記コンデンサの端子間電圧を電圧目標値に近づける充電動作を行う充電電源と
を有し、
前記充電電源は、
ローサイドスイッチング素子を備えたスイッチングコンバータを含み、前記ローサイドスイッチング素子のスイッチングを行うことにより前記充電動作を行い、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間に応じた電流を前記コンデンサに供給し、
前記
高周波電源が1つの動作条件で動作を開始するとき、前記電圧目標値からの前記コンデンサの端子間電圧の偏差、及び前記高周波電源の動作開始後の動作条件と同一の動作条件で前記充電動作を行ったときの前記ローサイドスイッチング素子のオン時間の最終の実際の値に基づいて、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間を決定する機能を備えたレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置及びレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用の加工ツールとして、レーザ加工装置が広く普及している(例えば、特許文献1)。レーザ加工装置は、例えば、炭酸ガスレーザ発振器等のパルスレーザ発振器、高周波電源、及び電源装置を含む。電源装置は高周波電源に直流電力を供給し、高周波電源は、直流電力を交流電力に変換して、レーザ発振器の放電電極に供給する。
【0003】
電源装置はコンデンサを有し、このコンデンサに高周波電源等の負荷が接続される。コンデンサに直流電力が蓄積され、コンデンサから負荷に直流電力が供給される。負荷によって電力が消費されるとコンデンサの端子間電圧が低下する。電源装置は、コンデンサの端子間電圧(電源装置の出力電圧)を目標値に近付けるフィードバック制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
負荷が待機状態のとき、すなわち負荷によってほとんど電力が消費されない状態のときも、自然放電や、待機時のわずかな電力消費によって、出力電圧が徐々に低下する。出力電圧が低下して電圧許容範囲から外れると、出力電圧を目標値に戻すフィードバック制御を行う。
【0006】
出力電圧が電圧許容範囲の下限値近傍のときに負荷が動作を開始すると、負荷の動作によって電源装置の出力電圧が低下して電圧許容範囲から大きく逸脱してしまう場合がある。出力電圧が電圧許容範囲から大きく外れると、負荷へ供給される電力が減少し、負荷の動作の安定性が低下してしまう。
【0007】
本発明の目的は、負荷の動作開始時点から、負荷を安定して動作させることが可能な電源装置を提供することである。本発明の他の目的は、この電源装置を搭載したレーザ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一観点によると、
間欠動作する負荷の動作に同期して、間欠動作する負荷が接続されるコンデンサの端子間電圧を電圧目標値に近づける充電動作を行う充電電源を有し、
前記充電電源は、
前記コンデンサの端子間電圧が第1電圧許容範囲から外れたら、前記コンデンサの端子間電圧を前記電圧目標値に近づける補助充放電動作を行う第1動作モードと、
前記コンデンサの端子間電圧が前記第1電圧許容範囲よりも狭い第2電圧許容範囲から外れたら、前記補助充放電動作を行う第2動作モードと
を切り替える機能を備えた電源装置が提供される。
【0009】
本発明の他の観点によると、
少なくとも2つの異なる動作条件で間欠動作する負荷が接続されるコンデンサと、
前記負荷の動作に同期して、前記コンデンサの端子間電圧を電圧目標値に近づける充電動作を行う充電電源と
を有し、
前記充電電源は、
ローサイドスイッチング素子を備えたスイッチングコンバータを含み、前記ローサイドスイッチング素子のスイッチングを行うことにより前記充電動作を行い、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間に応じた電流を前記コンデンサに供給し、
前記負荷が1つの動作条件で動作を開始するとき、前記電圧目標値からの前記コンデンサの端子間電圧の偏差、及び前記負荷の動作開始後の動作条件と同一の動作条件での動作時における前記ローサイドスイッチング素子のオン時間の最終の実際の値に基づいて、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間を決定する機能を備えた電源装置が提供される。
【0010】
本発明のさらに他の観点によると、
放電電極を備え、パルス発振するレーザ発振器と、
トリガ信号に同期して直流電力を交流電力に変換して前記放電電極にパルス的に供給する高周波電源と、
前記高周波電源に直流電力を供給する電源装置と
を有し、
前記電源装置は、
前記高周波電源に供給する直流電力を蓄積するコンデンサと、
前記トリガ信号に同期して、前記コンデンサの端子間電圧を電圧目標値に近づける充電動作を行う充電電源と
を有し、
前記充電電源は、
前記コンデンサの端子間電圧が第1電圧許容範囲から外れたら、前記コンデンサの端子間電圧を前記電圧目標値に近づける補助充放電動作を行う第1動作モードと、
前記コンデンサの端子間電圧が前記第1電圧許容範囲よりも狭い第2電圧許容範囲から外れたら、前記補助充放電動作を行う第2動作モードと
を切り替える機能を備えたレーザ装置が提供される。
【0011】
本発明のさらに他の観点によると、
放電電極を備え、パルス発振するレーザ発振器と、
トリガ信号に同期して前記放電電極に交流電力をパルス的に供給する高周波電源と、
前記高周波電源に直流電力を供給する電源装置と
を有し、
前記高周波電源は、少なくとも2つの異なる動作条件で間欠動作し、
前記電源装置は、
前記高周波電源に供給する直流電力を蓄積するコンデンサと、
前記トリガ信号に同期して、前記コンデンサの端子間電圧を電圧目標値に近づける充電動作を行う充電電源と
を有し、
前記充電電源は、
ローサイドスイッチング素子を備えたスイッチングコンバータを含み、前記ローサイドスイッチング素子のスイッチングを行うことにより前記充電動作を行い、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間に応じた電流を前記コンデンサに供給し、
前記高周波電源が1つの動作条件で動作を開始するとき、前記電圧目標値からの前記コンデンサの端子間電圧の偏差、及び前記高周波電源の動作開始後の動作条件と同一の動作条件で前記充電動作を行ったときの前記ローサイドスイッチング素子のオン時間の最終の実際の値に基づいて、前記ローサイドスイッチング素子のオン時間を決定する機能を備えたレーザ装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
第2動作モードが第1動作モードに切り替えられた時点で、コンデンサの端子間電圧は相対的に狭い第2許容範囲に収まっている。コンデンサの端子間電圧が、より広い第1電圧許容範囲内で変動している場合と比べて、第1動作モードの開始時点から、負荷を安定して動作させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例による電源装置の一部を等価回路で示した電源装置のブロック図、及び電源装置の負荷のブロック図である。
【
図2】
図2は、トリガ信号、ローサイドスイッチング素子のオンオフ状態、リアクトルを流れる電流、コンデンサを流れる電流、及びコンデンサの端子間電圧の時間変化を示すグラフである。
【
図3】
図3は、コンバータコントローラのフィードバック制御の機能を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、主充電制御部の制御による充電後の出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1の下限値を下回っている場合の、トリガ信号Trg、出力電圧VC、ローサイドスイッチング素子Q1のオンオフ状態、及びコンデンサを流れる電流ICの時間変化を示すグラフである。
【
図5】
図5は、主充電制御部の制御による充電後の出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1の上限値を上回っている場合の、トリガ信号Trg、出力電圧VC、ローサイドスイッチング素子Q1のオンオフ状態、ハイサイドスイッチング素子Q2のオンオフ状態、及びコンデンサ40を流れる電流ICの時間変化を示すグラフである。
【
図6】
図6Aは、負荷が待機中から稼働中に切り替わる時点の前後の期間の出力電圧VCの変化を示すグラフであり、
図6Bは、比較例によるフィードバック制御方法を適用する場合に、負荷が待機中から稼働中に切り替わる時点の前後の期間の出力電圧VCの変化を示すグラフである。
【
図7】
図7は、他の実施例による電源装置に搭載されたコンバータコントローラのフィードバック制御の機能を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、オン時間設定部に記憶されるオン時間最終値TonLを記憶するテーブルを示す図表である。
【
図9】
図9Aは、負荷の動作条件と、加算器に与えられるオン時間設定値TonSとの時間変化の一例を示す図であり、
図9Bは、動作条件がID00、ID01の間で切り替わる場合の、負荷の動作条件と、加算器に与えられるオン時間設定値TonSとの時間変化の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、さらに他の実施例によるレーザ装置のブロック図である。
【
図11】
図11は、出力装置に表示された画像の一例を示す図である。
【
図12】
図12は、現時点のオン時間最終値TonLが出力装置に表示された状態の画像の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1~
図6Bを参照して、実施例による電源装置について説明する。
図1は、実施例による電源装置の一部を等価回路で示した電源装置のブロック図、及び電源装置の負荷のブロック図である。電源装置10が、充電電源20及びコンデンサ40を含む。充電電源20に外部電源70から電圧Vinの直流電力が供給される。充電電源20は、電圧Vinを昇圧してコンデンサ40を充電する。コンデンサ40の端子間電圧が電源装置10の出力電圧VCとなる。
【0015】
コンデンサ40に負荷50が接続されている。負荷50は、上位コントローラ60からのトリガ信号Trgに基づいて間欠動作する。負荷50は、高周波電源51及びレーザ発振器52を含む。レーザ発振器52は、例えば炭酸ガスレーザ発振器等のガスレーザ発振器であり、一対の放電電極53を備えている。高周波電源51は、上位コントローラ60からのトリガ信号Trgに基づいて、電源装置10から供給された直流電力を交流電力に変換してレーザ発振器52の放電電極53に供給する。高周波電源51として、例えばインバータが用いられる。コンデンサ40は、それ単体で負荷50に電力を供給する蓄電デバイスのような直流電源と把握することができる。このようなコンデンサは、バンクコンデンサと呼ばれる場合がある。
【0016】
充電電源20は、スイッチングコンバータ25、及びコンバータコントローラ30を含む。コンデンサ40は、負荷50の1回の動作サイクルの放電過程においても、出力電圧VCが許容範囲の下限値を下回らないような大きな静電容量を持つ。充電電源20は、トリガ信号Trgに同期して、コンデンサ40を充電する充電動作を行う
【0017】
スイッチングコンバータ25は、昇圧コンバータのトポロジを有する。具体的には、スイッチングコンバータ25は、ローサイドスイッチング素子Q1、ハイサイドスイッチング素子Q2、フリーホイールダイオードD1、D2、及びリアクトルLを含む。ローサイドスイッチング素子Q1及びハイサイドスイッチング素子Q2として、電界効果トランジスタ(FET)、バイポーラトランジスタ、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等を用いることができる。コンバータコントローラ30は、ローサイドスイッチング素子Q1及びハイサイドスイッチング素子Q2のオンオフを制御する。
【0018】
外部電源70、リアクトルL、及びローサイドスイッチング素子Q1によって、1つの閉回路が構成される。ローサイドスイッチング素子Q1にフリーホイールダイオードD1が接続されている。さらに、外部電源70、リアクトルL、ハイサイドスイッチング素子Q2、及びコンデンサ40によって、他の1つの閉回路が構成される。ハイサイドスイッチング素子Q2にフリーホイールダイオードD2が接続されている。
【0019】
ローサイドスイッチング素子Q1をオン状態にし、その後オフ状態に戻すと、電圧Vinが昇圧されてコンデンサ40の充電が行われ、出力電圧VCが上昇する。スイッチング素子をオン状態にし、その後オフ状態に戻す制御を、スイッチングという。ハイサイドスイッチング素子Q2のスイッチングを行うと、コンデンサ40から外部電源70に電力が戻され、コンデンサ40の出力電圧VCが低下する。
【0020】
上位コントローラ60が、コンバータコントローラ30及び高周波電源51に、トリガ信号Trgを与える。高周波電源51は、トリガ信号Trgに同期して、数kHz程度の繰り返し周波数、デューティ比5%程度で間欠動作する。高周波電源51の動作により、コンデンサ40が放電されて放電電極53に交流電力が供給される。これにより、放電電極53の間の空間に放電が生じ、1ショットのパルスレーザビームが出力される。例えば、トリガ信号Trgはハイレベルとローレベルとの2値を取り、トリガ信号Trgがハイレベルの期間、高周波電源51が放電電極53に交流電力を供給する。
【0021】
コンバータコントローラ30は、トリガ信号Trgに同期して、スイッチングコンバータ25を動作させ、コンデンサ40の充電を行う。このときの充電電力量は、トリガ信号Trgの1回分のコンデンサ40の放電電力量に相当するように設定される。
【0022】
次に、
図2を参照して、トリガ信号Trgの1回分に相当するローサイドスイッチング素子Q1のスイッチングを行うときのスイッチングコンバータ25の動作について説明する。
【0023】
図2は、トリガ信号Trg、ローサイドスイッチング素子Q1のオンオフ状態、リアクトルLを流れる電流IL、コンデンサ40を流れる電流IC、及び出力電圧VCの時間変化を示すグラフである。時刻t0においてトリガ信号Trgが立ち上がり、励振期間Pexが経過した時点(時刻t1)で立ち下がる。トリガ信号Trgの立ち上がり時点(時刻t0)において、出力電圧VCは電圧許容範囲Var内に収まっている。
【0024】
トリガ信号Trgが立ち上がると、励振期間Pexの間、負荷50が動作する。負荷50の動作によってコンデンサ40の電荷が放電され、出力電圧VCが低下幅ΔVだけ低下する。コンデンサ40の容量が放電量に比べて十分に大きいため、出力電圧VCは電圧許容範囲Varの下限値を下回らない。
【0025】
コンバータコントローラ30は、トリガ信号Trgに同期してローサイドスイッチング素子Q1をスイッチングする。例えば、コンバータコントローラ30は、トリガ信号Trgの立ち上がりと同時に、ローサイドスイッチング素子Q1をオン状態にする。その後、コンバータコントローラ30は、ローサイドスイッチング素子Q1をオン状態にした時点からオン時間Ton1が経過した時点(時刻t2)にオフ状態に戻す。オン時間Ton1は励振期間Pexより長い。
【0026】
ローサイドスイッチング素子Q1がオン状態になっている期間、リアクトルLに流れる電流ILが増加する。このとき、電流ILはローサイドスイッチング素子Q1に流れるため、コンデンサ40に流れ込む電流ICはゼロである。このため、トリガ信号Trgが立ち下がった時点(時刻t1)からローサイドスイッチング素子Q1がオフ状態になる時点(時刻t2)までの期間は、コンデンサ40の出力電圧VCはほぼ一定である。
【0027】
時刻t2においてローサイドスイッチング素子Q1がオフ状態になると、リアクトルLを流れていた電流ILがフリーホイールダイオードD2を介してコンデンサ40に流れ始める。これにより、コンデンサ40を流れる電流ICが立ち上がり、出力電圧VCが上昇し始める。リアクトルLを流れる電流IL及びコンデンサ40を流れる電流ICは、時間の経過とともに減少し、時刻t3においてほぼゼロになる。
【0028】
時刻t2から時刻t3までの出力電圧VCの上昇幅は、オン時間Ton1に依存する。オン時間Ton1は、出力電圧VCの上昇幅が負荷50の1回の動作サイクルによるコンデンサ40の出力電圧の低下幅ΔVにほぼ等しくなるように設定されている。このため、出力電圧VCは、時刻t3においてほぼ元の電圧レベルまで回復する。
【0029】
オン時間Ton1を固定値にすると、負荷変動や入力電圧変動等に起因して、出力電圧VCの上昇幅が低下幅ΔVと等しくない場合が生じ得る。出力電圧VCの上昇幅と低下幅ΔVとが等しくない状態が継続すると、出力電圧VCが電圧許容範囲Varから外れてしまう。本実施例では、コンバータコントローラ30は、出力電圧VCを電圧目標値Vrefに近付けるようなフィードバック制御を行う。
【0030】
図3は、コンバータコントローラ30のフィードバック制御の機能を示すブロック図である。コンバータコントローラ30のフィードバック制御機能の主要部は、ソフトウェアプログラムとそれを実行するプロセッサとの組み合わせで実現してもよいし、ハードウェアで実現してもよい。
【0031】
コンバータコントローラ30は、フィードバック制御部31及びパルス幅変調器32を含む。フィードバック制御部31は、主充電制御部313、補助充放電制御部314、動作モード切替部318、及び有効制御部選択部317を含む。有効制御部選択部317は、主充電制御部313及び補助充放電制御部314のうち一方を有効にする。動作モード切替部318に設定されている動作モードによって、主充電制御部313が有効な状態から補助充放電制御部314が有効な状態に切り替える条件が異なる。有効にされた制御部によってフィードバック制御が行われる。
【0032】
まず、主充電制御部313が有効になっているときの制御について説明する。ある動作サイクルの充電後の出力電圧VCがADコンバータ35によってデジタル値に変換される。減算器311が、電圧目標値Vrefから出力電圧VCを減算することにより、電圧目標値Vrefからの出力電圧VCの偏差Verrを生成する。主充電制御部313は、偏差Verrがゼロに近づくように、次の動作サイクルのオン時間補正値ΔTon1を生成する。主充電制御部313では、PID制御またはPI制御が採用される。
【0033】
加算器315によって、オン時間固定値TonFとオン時間補正値ΔTon1とが加算され、次の動作サイクルのオン時間Ton1が決定される。決定されたオン時間Ton1に基づいて、パルス幅変調器32がスイッチングコンバータ25を制御する。これにより、出力電圧VCが電圧目標値Vrefに近づくようにフィードバック制御が行われる
【0034】
次に、補助充放電制御部314が有効になっているときの制御について説明する。補助充放電制御部314は、出力電圧VCが電圧許容範囲Var(
図2)から外れたときに、有効制御部選択部317によって有効にされる。補助充放電制御部314では、P制御、PI制御、またはPID制御が採用される。補助充放電制御部314は、偏差Verrがゼロに近づくように、オン時間Ton2を生成する。パルス幅変調器32は、オン時間Ton2に基づいて、スイッチングコンバータ25を制御する。出力電圧VCが電圧許容範囲Var(
図2)から外れたときに、補助充放電制御部314を有効にし、スイッチングコンバータ25を制御する動作を、補助充放電動作という。
【0035】
動作モード切替部318は、上位コントローラ60から間欠的にトリガ信号Trgが出力されているか否かに基づいて、充電電源20(
図1)の動作モードを切り替える。上位コントローラ60が負荷50を間欠動作させている期間(以下、稼働中という。)は、充電電源20の動作モードを第1動作モードに設定しておく。上位コントローラ60が負荷50を稼働させておらず、負荷50が待機中のときは、充電電源20の動作モードを第2動作モードに設定する。このように、動作モード切替部318は、第1動作モードと第2動作モードとの切り替えを行う。
【0036】
充電電源20の動作モードが第1動作モードのときと第2動作モードのときとで、電圧許容範囲Var(
図2)が異なる。第1動作モードのときの電圧許容範囲を第1電圧許容範囲Var1といい、第2動作モードのときの電圧許容範囲を第2電圧許容範囲Var2ということとする。第1電圧許容範囲Var1及び第2電圧許容範囲Var2の大きさを特定する情報は、動作モード切替部318に記憶されている。
【0037】
次に、
図4及び
図5を参照して、充電電源20の動作モードが第1動作モードであるときの制御について説明する。充電電源20の動作モードが第1動作モードのとき、上位コントローラ60が高周波電源51(
図1)及びコンバータコントローラ30(
図1)に間欠的にトリガ信号Trgを供給することにより、負荷50を稼働させる。
【0038】
図4は、主充電制御部313の制御による充電後の出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1の下限値を下回っている場合の、トリガ信号Trg、出力電圧VC、ローサイドスイッチング素子Q1のオンオフ状態、及びコンデンサ40を流れる電流ICの時間変化を示すグラフである。時刻t0でトリガ信号Trgが立ち上がるとともに、ローサイドスイッチング素子Q1がオン状態になる。時刻t1でトリガ信号Trgが立ち下がり、時刻t2でローサイドスイッチング素子Q1がオフ状態になる。ローサイドスイッチング素子Q1のオン時間Ton1は、主充電制御部313(
図1)により生成されたオン時間補正値ΔTon1と、オン時間固定値TonFとを合計することにより決定される。
【0039】
ローサイドスイッチング素子Q1がオフ状態になると、コンデンサ40を充電する電流ICが立ち上がり、出力電圧VCが上昇し始める。コンデンサ40を充電する電流ICがほぼゼロになった時刻t3において、出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1の下限値まで達していない。このような状況は、例えば、トリガ信号Trgの立ち上がり時刻t0における出力電圧VCが、第1電圧許容範囲Var1の下限値に近く、負荷50(
図1)の1回の動作サイクルによる消費電力が想定値より大きかった場合に生じ得る。
【0040】
有効制御部選択部317(
図3)は、出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1の下限値より低いことを検知すると、補助充放電制御部314を有効にする。第1電圧許容範囲Var1の下限値及び上限値を特定する情報は、動作モード切替部318から有効制御部選択部317に与えられる。補助充放電制御部314は、出力電圧VCが電圧目標値Vrefに近づくように、オン時間Ton2を生成する。
【0041】
パルス幅変調器32は、オン時間Ton2だけローサイドスイッチング素子Q1をオン状態にする。ローサイドスイッチング素子Q1がオン状態からオフ状態に切り替わった時刻t4の後、コンデンサ40を充電する電流ICが流れ、出力電圧VCが上昇する。出力電圧VCの上昇幅はオン時間Ton2に依存し、オン時間Ton2は、電圧目標値Vrefからの出力電圧VCの偏差Verrがゼロに近づくように決定されているため、出力電圧VCは電圧目標値Vrefに近づく。これにより、出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1内に収まる。
【0042】
図5は、主充電制御部313の制御による充電後の出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1の上限値を上回っている場合の、トリガ信号Trg、出力電圧VC、ローサイドスイッチング素子Q1のオンオフ状態、ハイサイドスイッチング素子Q2のオンオフ状態、及びコンデンサ40を流れる電流ICの時間変化を示すグラフである。1回の動作サイクル後、コンデンサ40を充電する電流ICがほぼゼロになった時刻t3において、出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1の上限値を超えている。このような状況は、例えば、トリガ信号Trgの立ち上がり時刻t0における出力電圧VCが、第1電圧許容範囲Var1の上限値に近く、負荷50(
図1)の1回の動作サイクルによる消費電力が想定値より小さかった場合に生じ得る。
【0043】
有効制御部選択部317(
図3)は、出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1の上限値を上回っていることを検知すると、補助充放電制御部314を有効にする。補助充放電制御部314は、出力電圧VCが電圧目標値Vrefに近づくように、オン時間Ton2を生成する。現時点の出力電圧VCが電圧目標値Vrefより高い場合には、オン時間Ton2として負の値を生成する。
【0044】
パルス幅変調器32は、オン時間Ton2が負のとき、オン時間Ton2の絶対値に相当する時間だけハイサイドスイッチング素子Q2をオン状態にする。ハイサイドスイッチング素子Q2がオン状態の間、コンデンサ40を放電する電流ICが流れ、出力電圧VCが低下する。出力電圧VCの低下幅はオン時間Ton2の絶対値に依存し、オン時間Ton2は、電圧目標値Vrefからの出力電圧VCの偏差Verrがゼロに近づくように決定されているため、出力電圧VCは電圧目標値Vrefに近づく。これにより、出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1内に収まる。
【0045】
図4及び
図5に示したように、充電電源20の動作モードが第1動作モードのとき、出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1から外れると、第1電圧許容範囲Var1に収まるようにフィードバック制御される。
【0046】
次に、
図6Aを参照して、充電電源20の動作モードが第2動作モードのときのフィードバック制御について説明する。
【0047】
図6Aは、負荷50が待機中から稼働中(間欠動作状態)に切り替わる時点の前後の期間の出力電圧VCの変化を示すグラフである。第2電圧許容範囲Var2は、第1電圧許容範囲Var1より狭く、第1電圧許容範囲Var1に包含されている。
【0048】
充電電源20の動作モードが第2動作モードのとき、負荷50の間欠動作は行われないが、種々の原因によりコンデンサ40の出力電圧VCが徐々に低下する。例えば、コンデンサ40が自然放電することにより出力電圧VCが低下する。また、レーザ発振器52(
図1)からパルスレーザビームが出力されていない待機中の時にも、レーザ発振が生じない程度の短時間、放電電極53(
図1)に高周波電力を供給する場合がある。このように、レーザ発振が生じない程度の短時間供給される高周波電力のパルスはシマーパルスといわれる。放電電極53にシマーパルスを供給することによって、出力電圧VCが低下する。
【0049】
充電電源20の動作モードが第2動作モードの期間に、出力電圧VCが第2電圧許容範囲Var2の下限値未満になると、有効制御部選択部317(
図3)が補助充放電制御部314を有効にする。これにより、オン時間Ton2(
図3)に応じてコンデンサ40が充電され、出力電圧VCが上昇して電圧目標値Vrefに近づく。その結果、負荷50が待機中の期間、出力電圧VCがほぼ第2電圧許容範囲Var2内に収まるように制御される。
【0050】
負荷50が稼働中になると、充電電源20は第2動作モードから第1動作モードに切り替わる。これにより、出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1に収まるように制御される。
【0051】
次に、
図6Bに示した比較例と比較しながら、本実施例の優れた効果について説明する。
図6Bは、比較例によるフィードバック制御方法を適用する場合に、負荷50が待機中から稼働中に切り替わる時点の前後の期間の出力電圧VCの変化を示すグラフである。比較例では、待機中の電圧許容範囲と稼働中の電圧許容範囲とが同一である。例えば、比較例おける電圧許容範囲を、
図6Aの第1電圧許容範囲Var1と同一とする。
【0052】
負荷50が待機中のときに、出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1に収まるようにフィードバック制御される。出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1の下限値近傍に位置する時点で負荷50が稼働中になると、初回の動作サイクルにおいて出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1から大きく外れてしまう。出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1から大きく外れると、負荷50に供給される交流電力が低下する。このため、レーザ発振器52(
図1)から出力されるパルスレーザビームの1パルス当たりのエネルギ(以下、パルスエネルギという。)が目標値より低下してしまう。その結果、レーザ加工の品質が低下する。
【0053】
これに対して
図6Aに示した実施例においては、待機中における出力電圧VCが、第1電圧許容範囲Var1よりも狭い第2電圧許容範囲Var2に収まるようにフィードバック制御される。このため、稼働中になった初回の動作サイクル時点における出力電圧VCのばらつきが小さくなる。その結果、初回の動作サイクルから、安定した交流電力を負荷50に供給することができる。これにより、レーザ加工品質の低下を抑制することができる。
【0054】
負荷50が稼働中になった後の初回の動作サイクルの時の出力電圧VCのばらつきを抑制する十分な効果を得るために、第2電圧許容範囲Var2の大きさを、第1電圧許容範囲Var1の大きさの1/5以下にすることが好ましい。さらに、初回の動作サイクルにおいて低下した出力電圧VCが第1電圧許容範囲Var1内に収まるように、第2電圧許容範囲Var2の下限値を、第1電圧許容範囲Var1の中央値以上にすることが好ましい。
【0055】
上記実施例による充電電源20は、
図1に示した高周波電源51に電力を供給するコンデンサ40以外の他のコンデンサを充電するための充電電源として用いることも可能である。例えば、上記実施例による充電電源20は、間欠動作する負荷に接続されて、この負荷に電力を供給するコンデンサを充電するための充電電源に適用することができる。
【0056】
次に、
図7~
図9Bを参照して、他の実施例による電源装置について説明する。以下、
図1~
図6Aに示した実施例による電源装置と共通の構成については説明を省略する。
【0057】
図7は、本実施例による電源装置に搭載されたコンバータコントローラ30のフィードバック制御の機能を示すブロック図である。
図3に示した実施例では、加算器315への入力パラメータが、一定のオン時間固定値TonFである。これに対して本実施例では、オン時間設定部316からオン時間設定値TonSが、加算器315に入力される。
【0058】
次に、オン時間設定部316の機能について説明する。上位コントローラ60からオン時間設定部316に、動作条件識別情報ID及びトリガ信号Trgが入力される。動作条件識別情報IDは、負荷50の動作条件を特定するための情報である。例えば、レーザ発振器52(
図1)は、パルスエネルギ、パルス幅等の種々の動作条件に基づいてパルスレーザビームを出力する。動作条件識別情報IDによって、これらの動作条件が特定される。負荷50の動作条件が異なると、一般に1回の動作サイクルの消費電力が異なる。このため、動作条件が異なれば、1回の動作サイクルにおける出力電圧VCの低下幅ΔV(
図2)も異なる。
【0059】
図8は、オン時間設定部316に記憶されるオン時間最終値TonLを記憶するテーブルを示す図表である。オン時間最終値TonLが、負荷50の動作条件ごとに記憶される。オン時間設定部316は、負荷50の動作サイクルごとに、トリガ信号Trgに同期して、加算器315で生成されるオン時間Ton1を取得し、現時点の動作条件識別情報IDと関連付けて、オン時間最終値TonLとして記憶する。すなわち、オン時間設定部316は、
図8に示したテーブルのオン時間最終値TonLを、最新のオン時間Ton1の値に書き換える。
【0060】
負荷50が待機中から稼働中に切り替わると、オン時間設定部316は、現時点の動作条件識別情報IDに対応するオン時間最終値TonLを
図8に示したテーブルから読み出し、オン時間設定値TonSをオン時間最終値TonLの値に設定する。同一動作条件での稼働中は、このオン時間設定値TonSが加算器315に与えられる。動作条件が変更になった場合、または待機中から稼働中に切り替わった場合、オン時間設定値TonSが、対応する動作条件のオン時間最終値TonLの値に再設定する。
【0061】
図9Aは、負荷50の動作条件と、加算器315に与えられるオン時間設定値TonSとの時間変化の一例を示す図である。
図9Aでは、負荷50の動作条件がID00で不変である例を示している。本実施例による電源装置10に接続された負荷50(
図1)の電源が投入されると、まず動作条件ID00で暖機運転を行う。その後、負荷50は、待機状態の期間を挟みながら動作条件ID00で動作する。
【0062】
暖機運転中、1回の動作サイクルごとに、すなわちトリガ信号Trgが出力されるごとに、オン時間Ton1の値がオン時間最終値TonLとして設定される。なお、暖機運転中のオン時間設定値TonSとして、例えば、
図3に示したオン時間固定値TonFを使用する。暖機運転が終了した時点で、最終のオン時間Ton1の値が、オン時間最終値TonLとして設定される。
【0063】
待機状態後に動作条件ID00で負荷50を動作させるときに、現時点のオン時間最終値TonLをオン時間設定値TonSに設定する。負荷50が動作条件ID00で動作している期間は、設定されたオン時間設定値TonSを使用する。また、動作条件ID00で動作している期間中、動作サイクルごとに、すなわちトリガ信号Trgが出力されるごとに、オン時間Ton1の値がオン時間最終値TonLとして設定される。
【0064】
図9Bは、動作条件がID00、ID01の間で切り替わる場合の、負荷50の動作条件と、加算器315に与えられるオン時間設定値TonSとの時間変化の一例を示す図である。動作条件ID00で動作した後、動作条件ID01で動作し、その後、動作条件ID00で動作する。動作条件ID01から動作条件ID00に切り替わったとき、動作条件ID00のオン時間最終値TonLを、オン時間設定値TonSとして設定する。
【0065】
動作条件ID01で動作を開始する場合には、同一の動作条件ID01で動作している時に最後に適用されたオン時間Ton1であるオン時間最終値TonLを、オン時間設定値TonSとして設定する。
【0066】
このように、待機中から稼働中に移行するときに、現在の動作条件と同一の動作条件で稼働していた期間における最終の動作サイクルで適用されたオン時間Ton1の値が、オン時間設定値TonSとして設定される。
【0067】
次に、
図7~
図9Bに示した実施例の優れた効果について説明する。
図3に示した実施例のように、加算器315に入力されるパラメータとしてオン時間固定値TonFを用いる場合、オン時間固定値TonFは、負荷50の1回の動作サイクルにおける出力電圧VCの低下幅ΔV(
図2)の想定値に基づいて設定される。加算器315に入力されるパラメータとしてオン時間固定値TonFを用いるモードを、オン時間固定モードということとする。これに対して加算器315に入力されるパラメータとしてオン時間設定値TonSを用いるモードを、オン時間可変モードということとする。
【0068】
種々の要因で1回の動作サイクルにおける出力電圧VCの低下幅ΔVが想定値から大きく外れる場合がある。出力電圧VCの低下幅ΔVが想定値から大きく外れる種々の要因として、例えば、外部電源70(
図1)から供給されている電圧Vinの変動、レーザ発振器52の励振条件の変動等が挙げられる。
【0069】
負荷50の1回の動作サイクルにおける出力電圧VCの低下幅ΔVが、想定値から大きく外れた場合、
図3に示したオン時間補正値ΔTon1を変化させるフィードバック制御を行うことによって、オン時間Ton1を適正値に設定することができる。ところが、オン時間Ton1が適正値に収束するまでには、負荷50の動作サイクルを何回か繰り返さなければならない。オン時間Ton1が適正値に収束し、出力電圧VCが安定するまでは、レーザ発振器52(
図1)から出力されるパルスレーザビームのパルスエネルギが安定しない。パルスエネルギが安定しない期間のパルスレーザビームは、レーザ加工に使用することができない。このため、電源装置10及び負荷50の動作開始から、パルスエネルギが安定するまで実際のレーザ加工を待たなければならない。
【0070】
これに対して本実施例では、
図9Aに示した暖機運転を行っている期間に、オン時間最終値TonLに現時点の実際のオン時間Ton1の値が設定される。実際のレーザ加工を行うために負荷50を稼働させるときに、暖機運転中の最後の動作サイクルに適用されたオン時間Ton1の値が、オン時間設定値TonSに設定される。このため、最初の動作サイクルからオン時間設定値TonSとして適切な値を用いて、負荷50を稼働させることができる。
【0071】
また、動作条件が切り替わった時にも、切り替わり後の動作条件と同一の動作条件で稼働していたときの最終の動作サイクルに適用されたオン時間Ton1の値が、オン時間設定値TonSとして設定される。このため、動作条件変更後に、オン時間設定値TonSとして適切な値を用いて負荷50を稼働させることができる。
【0072】
このため、暖機運転の後、及び動作条件が切り替わった直後の最初の動作サイクルから、パルスエネルギを安定させることが可能になる。これにより、直ちにレーザ加工を行うことが可能になり、レーザ加工装置の処理能力が高まるという優れた効果が得られる。
【0073】
また、本実施例では、負荷50を稼働させている期間、オン時間Ton1が決定されるごとに、新しいオン時間Ton1の値でオン時間最終値TonLを更新している。このため、負荷50の稼働が終了した時点で、オン時間最終値TonLには、常に最新のオン時間Ton1の値が設定されていることになる。これにより、同一動作条件での負荷50の稼働再開時に、オン時間設定値TonSとして適切な値を使用して負荷50を稼働させることができる。
【0074】
次に、
図7~
図9Bに示した実施例の変形例について説明する。
図7~
図9Bに示した実施例では、負荷50の稼働し始めたときに、同一の動作条件で負荷50を稼働させているときに適用されたオン時間Ton1の最終の値を、オン時間設定値TonSとして使用する。オン時間設定値TonSとして使用する値は、必ずしもオン時間Ton1の最終の値である必要はなく、過去に同一の動作条件で稼働していたときに適用されたオン時間Ton1の値を、オン時間設定値TonSとして使用してもよい。その他に、複数のオン時間Ton1の値の統計的代表値、例えば平均値、最頻値、中央値等を、オン時間設定値TonSとして使用してもよい。
【0075】
図9Aでは、暖機運転の期間と、動作条件ID00で稼働する期間との間に、待機状態の期間を挿入し、動作条件が異なる2つの稼働期間の間に待機状態の期間を挿入しているが、待機状態の期間を無くしてもよい。
【0076】
次に、
図10~
図12を参照して、さらに他の実施例によるレーザ装置について説明する。以下、
図1~
図6Bに示した実施例、
図7~
図9Bに示した実施例と共通の構成については説明を省略する。
【0077】
図10は、本実施例によるレーザ装置のブロック図である。本実施例によるレーザ装置は、プリント基板等の加工対象物58に穴明け加工を行う。電源装置10、高周波電源51、レーザ発振器52、及び上位コントローラ60の構成は、
図1に示した構成と同一である。入力装置61から上位コントローラ60に、電源装置10を動作させるために必要な種々の情報や、動作指令等が入力される。入力装置61として、例えばキーボード、ポインティングデバイス、リムーバブルメディアのリーダ等が用いられる。上位コントローラ60は、出力装置62に種々の情報を出力する。出力装置62として、例えばディスプレイが用いられる。入力装置61及び出力装置62として、両者を兼ねるタッチパネルを用いてもよい。
【0078】
可動ステージ56に、プリント基板等の加工対象物58が保持されている。レーザ発振器52から出力されたパルスレーザビームが、光学系55を通って加工対象物58に入射する。光学系55は、ビームエキスパンダ、アパーチャ、ビーム走査器、集光レンズ等を含む。
【0079】
上位コントローラ60が、電源装置10にトリガ信号Trg及び動作条件識別情報IDを供給し、高周波電源51にトリガ信号Trgを供給する。上位コントローラ60は、さらに、光学系55のビーム走査器を制御することにより、加工対象物58の表面上でパルスレーザビームの入射位置を移動させる。また、上位コントローラ60は、可動ステージ56を制御することにより、加工対象物58をその表面に平行で、相互に直交する二方向に移動させる。
【0080】
パルスレーザビームを加工対象物58に入射させることにより、穴明け加工が行われる。高品質の穴を形成するために、パルスレーザビームのパルス幅、ピーク強度等の制御を行う。例えば、パルス幅の調整は、トリガ信号Trgがハイレベルになる時間Pex(
図2)を変化させることにより行われる。ピーク強度の調整は、高周波電源51のインバータのデューティ比を変化させることにより行われる。
【0081】
図11は、出力装置62に表示された画像の一例を示す図である。出力装置62に、第1電圧許容範囲Var1(
図4、
図6、
図6A)を特定する情報、及び第2電圧許容範囲Var2(
図6A)を特定する情報をユーザに入力させるための入力ウィンドウが表示される。さらに、この入力ウィンドウには、オン時間Ton1を決定する基礎となる情報として、オン時間設定値TonS(
図7)を使用するか、オン時間固定値TonF(
図3)を使用するかをユーザに選択させるためのラジオボタンが含まれる。第1電圧許容範囲Var1及び第2電圧許容範囲Var2を特定する情報として、例えば電圧許容範囲の上限値と下限値が採用される。
【0082】
ユーザは、キーボードやポインティングデバイス等の入力装置61を操作して、第1電圧許容範囲Var1を特定する情報、第2電圧許容範囲Var2を特定する情報を入力することができる。さらに、オン時間Ton1を決定する基礎となる情報として、オン時間設定値TonS(
図7)を使用するか、オン時間固定値TonF(
図3)を使用するかを選択することができる。
【0083】
オン時間Ton1を決定する基礎となる情報としてオン時間設定値TonSが選択された場合には、コンバータコントローラ30はオン時間可変モードで充電電源20を動作させる。オン時間Ton1を決定する基礎となる情報としてオン時間固定値TonFが選択された場合には、コンバータコントローラ30はオン時間固定モードで充電電源20を動作させる。
【0084】
コンバータコントローラ30は、現時点のオン時間最終値TonLを動作条件と対応付けて出力装置62に出力する機能を有する。
【0085】
図12は、現時点のオン時間最終値TonLが出力装置62に表示された状態の画像の一例を示す図である。オン時間最終値TonLの値が、動作条件識別情報IDと関連付けて表示されている。
【0086】
次に、
図10~
図12に示した実施例の優れた効果について説明する。
レーザ装置の電源装置10に、
図3または
図7に示したコンバータコントローラ30を用いることにより、レーザ発振器52のパルスレーザビーム出力開始時点におけるパルスエネルギの不安定性を軽減することができる。これにより、パルスレーザビーム出力開始時点からレーザ加工を行うことが可能になる。
【0087】
ユーザは、第1電圧許容範囲Var1、及び第2電圧許容範囲Var2を設定することができるため、レーザ装置の運転状態や、加工品質を評価して、第1電圧許容範囲Var1及び第2電圧許容範囲Var2を最適化することができる。さらに、ユーザは、出力装置62に出力されたオン時間最終値TonLの値を確認することにより、レーザ装置の状態を推測することができる。
【0088】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0089】
10 電源装置
20 充電電源
25 スイッチングコンバータ
30 コンバータコントローラ
31 フィードバック制御部
311 減算器
313 主充電制御部
314 補助充放電制御部
315 加算器
316 オン時間設定部
317 有効制御部選択部
318 動作モード切替部
32 パルス幅変調器
35 ADコンバータ
40 コンデンサ
50 負荷
51 高周波電源
52 レーザ発振器
53 放電電極
55 光学系
56 可動ステージ
58 加工対象物
60 上位コントローラ
61 入力装置
62 出力装置
70 外部電源
D1、D2 フリーホイールダイオード
L リアクトル
Q1 ローサイドスイッチング素子
Q2 ハイサイドスイッチング素子