(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】新規アデノ随伴ウイルス(AAV)クレードFベクター及びその用途
(51)【国際特許分類】
C12N 15/864 20060101AFI20240318BHJP
C12N 7/01 20060101ALI20240318BHJP
C12N 15/35 20060101ALI20240318BHJP
C12N 15/85 20060101ALI20240318BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
C12N7/01 ZNA
C12N15/35
C12N15/85 Z
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2019547088
(86)(22)【出願日】2018-02-27
(86)【国際出願番号】 US2018019992
(87)【国際公開番号】W WO2018160582
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-22
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-01-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502409813
【氏名又は名称】ザ・トラステイーズ・オブ・ザ・ユニバーシテイ・オブ・ペンシルベニア
(74)【代理人】
【識別番号】110000741
【氏名又は名称】弁理士法人小田島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウイルソン,ジェームス・エム
(72)【発明者】
【氏名】ワン,チャン
(72)【発明者】
【氏名】ジャイルズ,エイプリル
(72)【発明者】
【氏名】ターナー,ケビン
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/049230(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/164757(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00 - 15/90
C12N 7/00 - 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
(1)配列番号2の1~736のアミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生される、AAVhu68 vp1タンパク質、AAVhu68 vp2タンパク質およびAAVhu68 vp3タンパク質の異種集団、または
(2)配列番号2の1~736のアミノ酸配列をコードし配列番号1と少なくとも70%同一である核酸配列からの発現によって産生される、AAVhu68 vp1タンパク質、AAVhu68 vp2タンパク質およびAAVhu68 vp3タンパク質の異種集団、または
(3)配列番号1のヌクレオチド1~2211を含む配列から産生されるAAVhu68 vp1タンパク質、AAVhu68 vp2タンパク質およびAAVhu68 vp3タンパク質の異種集団、
を含み、
前記(1)、(2)及び(3)のAAVhu68 vp1、AAVhu68 vp2およびAAVhu68 vp3タンパク質の異種集団が、質量分析を用いて決定した場合に配列番号2の位置N57、N329,N452又はN512において少なくとも2つの高度に脱アミド化されたアスパラギン(N)を含むアミノ酸修飾を有する亜集団を含有するものであり、かつ他の脱アミド化アミノ酸を含む亜集団をさらに含むものであり、
前記AAVhu68 vp1タンパク質、AAVhu68 vp2タンパク質およびAAVhu68 vp3タンパク質の異種集団が、アスパラギン酸、イソアスパラギン酸、相互変換されるアスパラギン酸/イソアスパラギン酸対またはそれらの組み合わせに脱アミド化されたアスパラギンを含み、前記AAVhu68 vp1及びAAVhu68 vp2タンパク質の少なくとも1つの亜集団が、配列番号2のAAVhu68 vp1カプシドの付番に基づいて、位置157にバリンを及び位置67にグルタミン酸を含むものである、
AAVhu68カプシド;ならびに
(B)前記AAVhu68カプシド内のベクターゲノムであって、AAV末端逆位反復配列と、産物をコードしており
哺乳動物標的細胞における前記産物の発現を促す配列に機能可能に繋げられている非AAV核酸配列とを含む核酸分子を含んでいる前記ベクターゲノム
を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【請求項2】
(A)配列番号2のvp1タンパク質の付番に基づく位置67にグルタミン酸を及び位置157にバリン
を有する、配列番号2のアミノ酸1~736を含んでいるAAVhu68 vp1タンパク質の異種集団、配列番号2のvp1カプシドの付番に基づく位置157にバリン
を含む、配列番号2のアミノ酸138~736を含んでいるAAVhu68 vp2タンパク質の異種集団、及び配列番号2の
アミノ酸203~736を含んでいるAAVhu68 vp3タンパク質の異種集団を含む、AAVhu68 vp1、AAVhu68 vp2およびAAVhu68 vp3タンパク質の異種集団を含み、
前記AAVhu68 vp1、AAVhu68 vp2およびAAVhu68 vp3タンパク質の異種集団が、
さらに、アスパラギン酸、イソアスパラギン酸、相互変換されるアスパラギン酸/イソアスパラギン酸対またはそれらの組み合わせに脱アミド化された50%~100%のアスパラギンを
配列番号2の位置N57、N329,N452又はN512に
含むものである、
AAVhu68カプシド;ならびに
(B)前記AAVhu68カプシド内のベクターゲノムであって、AAV末端逆位反復配列と、産物をコードしており
哺乳動物標的細胞における前記産物の発現を促す配列に機能可能に繋げられている非AAV核酸配列とを含む核酸分子を含んでいる前記ベクターゲノム
を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)。
【請求項3】
前記AAVhu68カプシドが、
(i)(a)質量分析を用いて決定した場合に配列番号2の付番に基づいて前記AAVhu68 vp1タンパク質の位置57に位置するアスパラギン-グリシン対のアスパラギン(N)の少なくとも65%が脱アミド化されていること;
(b)質量分析を用いて決定した場合に配列番号2のアミノ酸配列の残基付番に基づいて前記AAVhu68 vp1、AAVhu68 vp2及びAAVhu68 vp3タンパク質の位置329にあるアスパラギン-グリシン対のNの少なくとも75%が脱アミド化されていること、
(c)質量分析を用いて決定した場合に配列番号2のアミノ酸配列の残基付番に基づいて前記AAVhu68 vp1、AAVhu68 vp2及びAAVhu68 vp3タンパク質の位置452にあるアスパラギン-グリシン対のNの少なくとも50%が脱アミド化されていること;及び/または
(d)質量分析を用いて決定した場合に配列番号2のアミノ酸配列の残基付番に基づいて前記AAVhu68 vp1、AAVhu68 vp2及びAAVhu68 vp3タンパク質の位置512にあるアスパラギン-グリシン対のNの少なくとも75%が脱アミド化されていること
のうちの1つ以上を有する亜集団を含むか;
(ii)質量分析を用いて決定した場合に前記vp1タンパク質の位置57にあるNの75~100%が脱アミド化されているAAVhu68 vp1の亜集団を含むか;
(iii)質量分析を用いて決定した場合に配列番号2の付番に基づく位置329にあるNの75~100%が脱アミド化されているAAVhu68 vp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含むか;
(iv)質量分析を用いて決定した場合に配列番号2の付番に基づく位置452にあるNの75~100%が脱アミド化されているAAVhu68 vp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含むか;
(v)質量分析を用いて決定した場合に配列番号2の付番に基づく位置512にあるNの75~100%が脱アミド化されているAAVhu68 vp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含むか;
(vi)質量分析を用いて決定した場合に
(a)配列番号2の位置N94、N113、N252、N253、Q259、N270、N303、N304、N305、N319、N328、N336、N409、N410、N477、N515、N598、Q599、N628、N651、N663、N709またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つ以上における1%
~40%の脱アミド化;または
(b)アセチル化リジン、リン酸化セリン及び/またはスレオニン、異性化アスパラギン酸、酸化トリプトファン及び/またはメチオニン、またはアミド化アミノ酸のうちの1つ以上における1つ以上の修飾から選択される1つ以上の修飾;をさらに含む、
AAVhu68 vp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含むか、及び/または
(vii)質量分析を用いて決定した場合にN57、329、452
及び51
2のうちの
3つ以上における少なくと
も50~100%の脱アミド化を含む配列番号2からのアミノ酸修飾を有している、AAVhu68 vp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の少なくとも亜集団をさらに含む、
請求項1または2に記載のrAAV。
【請求項4】
前記タンパク質をコードする前記核酸配列が、
配列番号1、または
配列番号2のアミノ酸配列をコードし配列番号1と少なくとも80%~少なくとも99%同一である配列
である、請求項1または2に記載のrAAV。
【請求項5】
前記AAVhu68カプシドが、位置N57、329、452及び512のそれぞれにおける少なくとも
の50~100%の脱アミド化を含む配列番号2からのアミノ酸修飾を有するAAVhu68vp1、AAVhu68vp2及び/又はAAVhu68vp3タンパク質の亜集団を含み、脱アミド化されたアスパラギンは、質量分析を用いて決定した場合にアスパラギン酸、イソアスパラギン酸、相互変換されるアスパラギン酸/イソアスパラギン酸対、またはそれらの組み合わせに脱アミド化され、改変されたAAVhu68vp1及びvp2タンパク質は、配列番号2のvp1カプシドの付番に基づいて位置157にバリンを及び位置67にグルタミン酸を含み;および
前記カプシドは、質量分析を用いて決定した場合に、更に位置N94、N113、N252、N253、Q259、N270、N303、N304、N305、N319、N328、N336、N409、N410、N477、N515、N598、Q599、N628、N651、N663、N709またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つ以上における1%
~40%の脱アミド化から選択される1つ以上のさらなる修飾か;及び/又はアセチル化リジン、リン酸化セリン及び/またはスレオニン、異性化アスパラギン酸、酸化トリプトファン及び/またはメチオニンオまたはアミド化アミノ酸の1つ以上の修飾を含む、AAVhu68vp1、vp2及びvp3タンパク質の亜集団をさらに含む、
請求項1または2に記載のrAAV。
【請求項6】
組換えアデノ随伴ウイルスhu68(rAAVhu68)の混合集団を含み、前記rAAVhu68の各々が独立して請求項1~5のいずれか1項に記載のrAAVから選択される、組成物。
【請求項7】
前記AAVのITR配列がAAV2からの5’ITR及び3’ITRである、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が
(i)クモ膜下腔内送達のために製剤化され、且つ、前記ベクターゲノムが、中枢神経系への送達のための産物をコードする核酸配列を含むか;
(ii)静脈内送達のために製剤化されるか;または
(iii)鼻腔内または筋肉内送達のために製剤化される
請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
治療に用いられるための請求項6~8のいずれか1項に記載の組成物であって、さらに水溶液、緩衝液および/または保存剤を含んでなり、任意に前記治療が遺伝子治療である、前記組成物。
【請求項10】
請求項1または2に記載の組換えAAVhu68を生産するために有用となるrAAV産生システムであって、
(a)配列番号2のアミノ酸配列をコードするAAVhu68カプシド核酸配列を含む核酸分子;
(b)前記AAVhu68カプシド内へのパッケージングに適した核酸分子であって、少なくとも1つのAAV末端逆位反復配列(ITR)と、遺伝子産物をコードしており宿主細胞における前記産物の発現を促す配列に機能可能に繋げられている非AAV核酸配列とを含む前記核酸分子;ならびに
(c)組換えAAVhu68カプシド内への核酸分子のパッケージングを可能にするに足るAAV rep機能及びヘルパー機能
を含む、前記産生システム。
【請求項11】
(i)(a)の前記核酸配列が少なくとも、 配列番号1か、または配列番号2のアミノ酸配列をコードし配列番号1と少なくとも70%~少なくとも99%同一である配列を含むか;及び/または
(ii)前記システムがさらに、配列番号2のアミノ酸203~アミノ酸736の前記AAVhu68 vp3をコードする配列番号1のヌクレオチド607~ヌクレオチド2211の核酸分子を含む、
請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
細胞培養物がヒト胚性腎臓293細胞を含む、請求項10または11に記載のシステム。
【請求項13】
前記AAV repが、
(i)AAV2からのものであるか;
(ii)配列番号4のアミノ酸配列によって特徴付けられるAAVhu68repであるか;または
(iii)前記AAV repが配列番号3の核酸配列によってコードされる
請求項10~12のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項14】
前記AAV repコード配列及びcap遺伝子が同じ核酸分子上にあり、任意に前記rep配列と前記cap遺伝子との間にスペーサーが存在し;任意に前記スペーサーがatgacttaaaccaggt 配列番号9である、請求項10~13のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項15】
AAVhu68 repタンパク質をコードし宿主細胞におけるその発現を促す外来調節制御配列の制御下にある核酸配列を含み、前記repタンパク質が配列番号4のアミノ酸配列を有する、核酸分子。
【請求項16】
配列番号2をコードする核酸配列を含むパッケージング宿主細胞。
【請求項17】
配列番号2をコードする核酸配列を含むプラスミド。
【請求項18】
前記核酸配列が配列番号1であるか又はそれと99%同一であり配列番号2をコードする、請求項16に記載の宿主細胞または請求項17に記載のプラスミド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本願は、米国国防高等研究計画局(DARPA)によってW911NF-13-2-0036の下に支援された研究を含んでいる。米国政府は本発明に一定の権利を有し得る。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、パルボウイルス科のメンバーであり、長さ約4.7キロ塩基(kb)の一本鎖直鎖DNA(ssDNA)ゲノムを有する小さい無エンベロープ二十面体ウイルスである。野生型ゲノムは、DNA鎖の両端部にある末端逆位反復配列(ITR)ならびに2つのオープンリーディングフレーム(ORF):rep及びcapを含む。Repは、AAV生活環に必要なrepタンパク質をコードする4つの重複遺伝子からなり、capは、自己組織化して二十面体対称性のカプシドを形成するカプシドタンパク質の重複ヌクレオチド配列:VP1、VP2及びVP3を含有する。
【0003】
AAVは、精製アデノウイルス材料中の混入物としてウイルスが発見されたことから、Dependovirus属に帰属される。AAVの生活環は、感染後にAAVゲノムが部位特異的に宿主染色体中に組み込まれる潜伏期と、アデノウイルスか単純ヘルペスウイルスかのどちらかへの感染に続いて組み込まれていたゲノムが後に救出され複製され感染性ウイルス内にパッケージングされる感染期とを含む。非病原性、非分裂細胞を含む広い宿主範囲の感染力、及び潜在的に部位特異的な染色体組込みの特性はAAVを遺伝子移入のための魅力的なツールにする。
【0004】
増殖能欠損型ヒトパルボウイルスに由来する組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターは遺伝子送達のための好適なビヒクルとして表されてきた。典型的には、機能性rep遺伝子及びcap遺伝子がベクターから除去されて複製不能ベクターとなっている。これらの機能は、ベクター産生システムの間は提供されているが、最終ベクターには存在していない。
【0005】
現在までに、ヒトまたは非ヒト霊長類(NHP)から単離され十分に特性評価されたいくつかの異なるAAVがある。異なる血清型のAAVは、異なるトランスフェクション効率を呈し、異なる細胞または組織への向性を呈することが分かっている。WO2005/033321には、この中でAAV9とAAVhu31とAAVhu32との3つのメンバーだけを有するものとして同定されているクレードFを含めて、多くの異なるAAVクレードが記載されている。AAV9の構造解析はM.A.DiMattia et al,J.Virol.(June 2012)vol.86 no.12 6947-6958に提供されている。この論文は、AAV9が、cap遺伝子によってコードされ重複配列を有する3つの可変タンパク質(vp)を(合計で)60コピー有する ことを報告している。これらはVP1(87kDa)、VP2(73kDa)及びVP3(62kDa)を含み、これらがそれぞれ1:1:10の予測比で存在している。VP3の配列全体はVP2中に含まれており、VP2の全てがVP1中に含まれている。VP1は固有のN末端ドメインを有する。RCSB PDBデータベースから受託番号3UX1の下に精密な座標及び構造係数を入手することができる。
【0006】
いくつかの異なるAAV9変異型は、種々の組織を非標的化または標的化すべく操作されている。例えば、N.Pulicheria,“Engineering Liver-detargeted AAV9 Vectors for Cardiac and
Musculoskeletal Gene Transfer”,Molecula
r Therapy,Vol,19,no.6,p.1070-1078(June 2011)を参照されたい。血液脳関門を越えて遺伝子を送達するためのAAV9変異型の開発も報告されている。例えば、(2016年2月1日にオンライン公開された)B.E.Deverman et al,Nature Biotech,Vol.34,No.2,p204-211、及びCaltechプレスリリースであるA.Wetherstonの2016年5月10日アクセスのwww.neurology-central.com/2016/02/10/successful-delivery-of-genes-through-the-blood-brain-barrier/を参照されたい。また、WO2016/0492301及びUS8,734,809も参照されたい。
【0007】
望ましいとされるのは、異種分子の送達のためのAAVに基づく構築物である。
【発明の概要】
【0008】
製造、及び宿主細胞に核酸分子を送達するためのベクターに有用となる、新規AAVhu68カプシド及びrep配列を記載する。特定の実施形態では、配列番号1の核酸配列、または配列番号2のアミノ酸配列をコードし配列番号1と少なくとも70%同一、配列番号1と少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%もしくは少なくとも99%同一である核酸配列によってコードされるAAVhu68カプシドを有する組換えAAVが提供される。
【0009】
一実施形態では、(A)(1)配列番号2の1~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp1タンパク質、配列番号1から産生されるvp1タンパク質、もしくは配列番号2の1~736の予測アミノ酸配列をコードし配列番号1と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp1タンパク質、配列番号2の少なくとも約アミノ酸138~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp2タンパク質、配列番号1の少なくともヌクレオチド412~2211を含む配列から産生されるvp2タンパク質、もしくは配列番号2の少なくとも約アミノ酸138~736の予測アミノ酸配列をコードし配列番号1の少なくともヌクレオチド412~2211と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp2タンパク質、配列番号2の少なくとも約アミノ酸203~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp3タンパク質、配列番号1の少なくともヌクレオチド607~2211を含む配列から産生されるvp3タンパク質、もしくは配列番号2の少なくとも約アミノ酸203~736の予測アミノ酸配列をコードし配列番号1の少なくともヌクレオチド607~2211と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp3タンパク質を含む、AAVhu68カプシドタンパク質;及び/または(2)位置157のバリン及び/または位置67のグルタミン酸を場合によって含んでいるvp1タンパク質の異種集団、位置157に場合によってバリンを含んでいるvp2タンパク質の異種集団、及びvp3タンパク質の異種集団を含み、少なくともvp1及びvp2タンパク質の亜集団が、配列番号2のvp1カプシドの付番に基づく位置157にバリンを含むものでありかつ場合によってはさらに位置67にグルタミン酸を含むものである、AAVカプシドタンパク質;及び/または(3)配列番号2のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp1タンパク質の異種集団、配列番号2の少なくとも約アミノ酸138~736のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp2タンパク質の異種集団、及び配列番号2の少なくともアミノ酸203~736をコードする核酸配列の産物であるvp3タンパク質の異種集団のうち、1つ以上を含み、vp1、vp2及びvp3タンパク質が、配列番号2のアスパラギン-グリシン対において少なくとも2つの高度に脱アミド化されたアスパラギン(N)を含むアミノ酸修飾を有する亜集団を含有するものでありかつ場合によっては他の脱アミド化アミノ酸を含む亜集団をさらに含むものであり、脱アミド化がアミノ酸変化をもたらしている、AAV68カプシド;ならびに(B)AAVhu68カプシド内のベクターゲノムであって、AAV末端逆位反復配列と、産物をコードしており宿主における当該産物の発現を促す配列に機能可能に繋げられている非AAV核酸配列とを含む核酸分子を含んでいる当該ベクターゲノムを含む、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)が提供される。例えば、4つの残基(N57、N329、N452、N512)は通例、高レベルの脱アミド化を呈する。さらなる残基(N94、N253、N270、N304、N409、N477及びQ599)も様々なロットにわたって約20%以下の脱アミド化レベルを呈する。
【0010】
特定の実施形態では、脱アミド化アスパラギンは、脱アミド化されてアスパラギン酸、イソアスパラギン酸、相互変換されるアスパラギン酸/イソアスパラギン酸対、またはそれらの組み合わせとなっている。特定の実施形態では、脱アミド化グルタミン(複数可)は、脱アミド化されて(α)-グルタミン酸、γ-グルタミン酸、相互変換される(α)-グルタミン酸/γ-グルタミン酸対、またはそれらの組み合わせになっている。
【0011】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、(a)配列番号2の付番に基づいてvp1タンパク質の位置57に位置するアスパラギン-グリシン対のアスパラギン(N)の少なくとも65%が脱アミド化されていること;(b)配列番号2のアミノ酸配列の残基付番に基づいてvp1、v2及びvp3タンパク質の位置329にあるアスパラギン-グリシン対のNの少なくとも75%が脱アミド化されていること;(c)配列番号2のアミノ酸配列の残基付番に基づいてvp1、v2及びvp3タンパク質の位置452にあるアスパラギン-グリシン対のNの少なくとも50%が脱アミド化されていること;及び/または(d)配列番号2のアミノ酸配列の残基付番に基づいてvp1、v2及びvp3タンパク質の位置512にあるアスパラギン-グリシン対のNの少なくとも75%が脱アミド化されていることのうちの1つ以上を有する亜集団を含む。特定の実施形態では、hu68カプシドは、質量分析を用いて決定した場合にvp1タンパク質の位置57にあるNの75~100%が脱アミド化されているvp1の亜集団を含む。特定の実施形態では、hu68カプシドは、質量分析を用いて決定した場合に配列番号2の付番に基づく位置329にあるNの75~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む。特定の実施形態では、hu68カプシドは、質量分析を用いて決定した場合に配列番号2の付番に基づく位置452にあるNの75~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む。特定の実施形態では、hu68カプシドは、配列番号2の付番に基づく位置512にあるNの75~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む。特定の実施形態では、タンパク質をコードする核酸配列は、配列番号1、または配列番号2のアミノ酸配列をコードし配列番号1と少なくとも80%~少なくとも90%同一である配列である。特定の実施形態では、配列は配列番号1と少なくとも80%~97%同一である。特定の実施形態では、rAAVhu68カプシドはさらに、N57、329、452、512またはそれらの組み合わせのうちの1つ以上から選択される少なくとも4つの位置における少なくとも約50~100%の脱アミド化を含む配列番号2からのアミノ酸修飾を有しているvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の少なくとも亜集団を含む。特定の実施形態では、hu68カプシドは、位置N94、N113、N252、N253、Q259、N270、N303、N304、N305、N319、N328、N336、N409、N410、N477、N515、N598、Q599、N628、N651、N663、N709またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つ以上における1%~約40%の脱アミド化をさらに含むvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む。特定の実施形態では、hu68カプシドは、以下のうちの1つ以上における1つ以上の修飾から選択される1つ以上の修飾をさらに含むvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む:アセチル化リジン、リン酸化セリン及び/またはスレオニン、異性化アスパラギン酸、酸化トリプトファン及び/またはメチオニン、またはアミド化アミノ酸。特定の実施形態では、rAAVhu68は、合計約60個のカプシドタンパク質をvp1対vp2対vp3タンパク質の約1対約1~1.5対3~10の比で含む。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、合計約60個のカプシドタンパク質をvp1対vp2対vp3タンパク質の約1対約1対3~9の比で含む。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、AAVhu68以外のAAV源からのAAV ITR配列を含む。
【0012】
特定の実施形態では、組換えアデノ随伴ウイルスhu68(rAAVhu68)の混合集団を含む組成物が提供され、当該rAAVhu68の各々は独立して、本明細書に記載のrAAVhu68から選択されるものである。特定の実施形態では、平均的なAAVhu68カプシドは、合計約60個のカプシドタンパク質をvp1対vp2対vp3タンパク質の約1対約1~1.5対3~10の比で含む。特定の実施形態では、平均的なAAVhu68カプシドは、合計約60個のカプシドタンパク質をvp1対vp2対vp3タンパク質の約1対約1対3~6の比で含む。特定の実施形態では、組成物はクモ膜下腔内送達のために製剤化され、ベクターゲノムは、中枢神経系への送達のための産物をコードする核酸配列を含む。特定の実施形態では、組成物は静脈内送達のために製剤化される。特定の実施形態では、ベクターゲノムは抗HER2抗体をコードする核酸配列を含む。特定の実施形態では、組成物は鼻腔内または筋肉内送達のために製剤化される。特定の実施形態では、組成物は少なくとも、rAAVhu68ベクター材料ならびに、任意選択の担体、賦形剤及び/または保存剤を含む。
【0013】
特定の実施形態では、所望の遺伝子産物を、それを必要とする対象に送達するための、本明細書に記載のrAAVhu68または組成物の用途が提供される。
【0014】
特定の実施形態では、組換えAAVhu68を生産するために有用となるrAAV産生システムが提供される。産生システムは、(a)配列番号2のアミノ酸配列をコードするAAVhu68カプシド核酸配列;(b)AAVhu68カプシド内へのパッケージングに適した核酸分子であって、少なくとも1つのAAV末端逆位反復配列(ITR)と、遺伝子産物をコードしており宿主細胞における当該産物の発現を促す配列に機能可能に繋げられている非AAV核酸配列とを含む当該核酸分子;ならびに(c)組換えAAVhu68カプシド内への核酸分子のパッケージングを可能にするに足るAAV rep機能及びヘルパー機能を含む。特定の実施形態では、(a)の核酸配列は少なくとも、配列番号1、または配列番号2のアミノ酸配列をコードし配列番号1と少なくとも70%~少なくとも99%同一である配列を含む。特定の実施形態では、システムは場合によってさらに、配列番号2の約aa203~約アミノ酸736のAAVhu68 vp3をコードする配列番号1の約nt607~約nt2211の核酸配列を含む。特定の実施形態では、システムはヒト胚性腎臓293細胞またはバキュロウイルスシステムを含む。
【0015】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドの脱アミド化を減少させる方法が提供される。方法は、改変されたAAVhu68 vpコドンを含有する核酸配列からAAVhu68カプシドを産生させることを含み、当該核酸配列は、配列番号2の位置58、330、453及び/または513に位置するアルギニン-グリシン対の1つ~3つにおいて独立して、グリシン以外のアミノ酸をコードするような改変されたグリシンコドンを含むものである。特定の実施形態では、方法は、改変されたAAVhu68 vpコドンを含有する核酸配列からAAVhu68カプシドを産生させることを含み、当該核酸配列は、配列番号2の位置57、329、452及び/または512に位置するアルギニン-グリシン対の1つ~3つにおいて独立して、アルギニン以外のアミノ酸をコードするような改変されたアルギニンコドンを含むものである。特定の実施形態では、改変された各コドンは異なるアミノ酸をコードする。特定の実施形態では、2つ以上の改変されたコドンが、同じアミノ酸をコードする。特定の実施形態では、本明細書に記載の突然変異AAVhu68カプシドは、アルギニン-グリシン対において、グリシンがアラニンまたはセリンに変化しているような突然変異を含有する。突然変異AAVhu68カプシドは、基準AAVhu68が本来4つのNG対を含有するものである場合、1つ、2つまたは3つの突然変異体を含有し得る。特定の実施形態では、突然変異AAVhu68カプシドは、NG対における突然変異をたった1つだけ含有する。特定の実施形態では、突然変異AAVカプシドは、2つの異なるNG対において突然変異を含有する。特定の実施形態では、突然変異AAVhu68カプシドは、AAVhu68カプシド中の構造的に離れた場所に位置する2つの異なるNG対において突然変異を含有する。特定の実施形態では、突然変異はVP1固有領域の中にはない。特定の実施形態では、突然変異の1つがVP1固有領域の中にある。場合によって、突然変異AAVhu6カプシドは、NG対には修飾を含有していないが、NG対の外側に位置する1つ以上のアスパラギンまたはグルタミンにおいて脱アミド化を最小限にするかまたはなくす突然変異を含有している。
【0016】
特定の実施形態では、本明細書に記載の方法を用いて生産され、非改変型AAVhu68カプシドに比べて脱アミド化が低減された改変型rAAVhu68カプシドを含む、突然変異rAAVhu68が提供される。
【0017】
さらに他の態様では、組換えアデノ随伴(rAAV)ベクターの収率及び/またはパッケージング効率を向上させる方法が提供される。アミノ酸残基の付番がAAVhu68[配列番号2]の完全長vp1に基づいており、アミノ酸位置157においてValであるvp1タンパク質を発現するようにAAVカプシド遺伝子を操作することを含む、方法。特定の実施形態では、配列番号2の付番に基づくアミノ酸位置67にグルタミン酸(GluまたはE)を有するクレードF rAAVが提供される。
【0018】
さらに他の実施形態では、この方法に従って提供される操作型rAAVが提供される。
【0019】
さらなる実施形態では、HER2+がんの治療及び/または予防のために有用である抗HER2抗体を発現するAAVhu68粒子が提供される。
【0020】
さらに他の実施形態では、AAVhu68 repタンパク質またはその機能性断片をコードし宿主細胞におけるその発現を促す外来調節制御配列の制御下にある核酸配列を含む核酸分子が提供される。一実施形態では、repタンパク質は配列番号4のアミノ酸配列またはその機能性断片を有する。
【0021】
本発明のこれら及びその他の態様は、本発明の以下の詳細な説明から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】AAVhu68のvp1カプシドタンパク質のアミノ酸配列[配列番号16](アラインメントにhu.68.vp1と標記してある)をAAV9[配列番号6]、AAVhu31(アラインメントにhu.31と標記してある)[配列番号10]及びAAVhu32(アラインメントにhu.32と標記してある)[配列番号11]と共に示したアラインメントを示す。AAV9、AAVhu31及びAAVhu32に比べてAAVhu68では2つの突然変異(A67E及びA157V)が必須であると見出され、図中で丸で囲まれている。
【
図2】A~Cは、AAV9、AAVhu31[配列番号12]及びAAVhu32[配列番号13]と共に、AAVhu68のvp1カプシドタンパク質をコードする核酸配列のアラインメントを示す。
【
図3】A~Bは、AAVhu.68の収率をAAV9のそれと比較して示しているグラフを示す。実験は実施例2に記載のとおりに実施した。n=6。P値を算出して図に示した。Aは全溶解物からのAAVhu.68及びAAV9の収率を示す。P値は0.4173と算出され、有意ではないと判定された。Bは培養物上清からのAAVhu.68及びAAV9の収率を示す。上清中のAAVhu.68の収率はAAV9のそれに比べて有意に高く、p値が0.0003である。
【
図4】A~Cは、5×10
11GCのAAVhu68.CB7.nLacZを投与したマウスからの様々な臓器(心臓、肝臓、肺及び筋肉)の免疫組織化学染色を示す。試料は実施例3に記載のとおりに準備及び処理した。赤色で示されるエオジンで試料を対比染色した。青色で示されるLacZの陽性染色はAAVhu68の形質導入の成功を示唆している。Aは、5×10
11GCのAAVhu68.CB7.nLacZを静脈内(IV)投与したマウスからの様々な臓器(心臓、肝臓、肺及び筋肉)の免疫組織化学染色を示す。試験した全ての臓器はAAVhu68形質導入を示したが、肺及び筋肉よりも心臓及び肝臓を好む向性が認められた。Bは、5×10
11GCのAAVhu68.CB7.nLacZを筋肉内(IM)投与したマウスからの様々な臓器(心臓、肝臓、肺及び筋肉)の免疫組織化学染色を示す。心臓、肝臓及び筋肉がAAVhu68の高い形質導入率を示した一方、肺における検出可能な形質導入は認められなかった。Cは、5×10
11GCのAAVhu68.CB7.nLacZを鼻腔内(IN)投与したマウスからの様々な臓器(心臓、肝臓、肺及び筋肉)の免疫組織化学染色を示す。心臓、肝臓、筋肉及び肺において散在する形質導入が認められた。
【
図5】A~Cは、AAVhu68.GFPまたはAAV9.GFPを1×10
10GCまたは1×10
11GCの用量で投与したマウスからの様々な脳領域(海馬、
図5A;運動野、
図5B;及び小脳、
図5C)の蛍光顕微鏡画像を示す。試料は実施例4に記載のとおりに準備及び処理した。緑色で示されるGFPからの陽性信号はAAVベクターの形質導入の成功を示唆している。Aは、AAVhu68.GFPまたはAAV9.GFPを1×10
10GCまたは1×10
11GCの用量で投与したマウスからの海馬スライドの蛍光顕微鏡画像を示す。青色で示される核酸染料で染色した未処置マウスからの対応する試料を陰性対照として提供した。1×10
10GCのAAV9.GFPを注射したマウスからのものを除く全ての試験試料において、AAVベクターの形質導入が認められた。Bは、AAVhu68.GFPまたはAAV9.GFPを1×10
10GCまたは1×10
11GCの用量で投与したマウスからの運動野の蛍光顕微鏡画像を示す。AAVhu68.GFPの形質導入はAAV9のそれに比べてより良好であることが認められた。Cは、AAVhu68.GFPまたはAAV9.GFPを1×10
10GCまたは1×10
11GCの用量で投与したマウスからの小脳スライドの蛍光顕微鏡画像を示す。AAVhu68.GFPの形質導入は、マウスに1×10
11GCのベクターを注射した場合に好結果であることが認められた。
【
図6】A~Dは、 AAVhu68.GFPを静脈内投与したマウスからの様々な臓器(肝臓、腎臓、心臓及び膵臓)の顕微鏡画像を示す。試料は実施例4に記載のとおりに準備及び処理した。緑色で示されるGFPからの陽性信号は上記AAVベクターの形質導入の成功を示唆している。白黒で示される明視野画像は臓器形態学のために提供した一方、対応する赤色の蛍光チャンネルは適用可能な場合の陰性対照として提供した。Aは、AAVhu68.GFPを静脈内投与したマウスからの代表的な肝臓切片の顕微鏡画像を示す。緑色で示される陽性信号が観察された。Bは、AAVhu68.GFPを静脈内投与したマウスからの代表的な腎臓切片の顕微鏡画像を示す。緑色で示される陽性信号が観察された。Cは、AAVhu68.GFPを静脈内投与したマウスからの代表的な心臓切片の顕微鏡画像を示す。緑色で示される陽性信号が観察された。Dは、AAVhu68.GFPを静脈内投与したマウスからの代表的な膵臓切片の顕微鏡画像を示す。緑色で示される陽性信号が観察された。
【
図7】10ccベクターシリンジ、10cc充填済み洗浄シリンジ、T字形コネクタ延長セット、22G×5インチ脊髄穿刺針、任意選択の18G×3.5インチ誘導針を備えた、共軸挿入法のための任意選択の誘導針を含む脳槽内送達用の機器の画像である。
【
図8】A~Bは、小規模(
図8A)及び非常に大きい規模(巨大、
図8B)で作製した2つの異なるAAVhu68ベクターの生産収率を、異なるカプシドを有するベクターと比較して示す。小規模ベクター調製品のデータは、AAVhu68、AAV9、AAV8またはAAV8tripleカプシドを有しサイトメガロウイルスプロモーター(CMV)、ホタルルシフェラーゼコード配列及びSV40ポリA(CMV.ffLuciferase.SV40)を含むベクターゲノムを有するベクターを使用して生成された。巨大規模調製品は、CMVプロモーター、イントロン、イムノアドヘシンコード配列(201IgIA)及びSV40ポリAを有するベクターゲノムを有するAAVhu68、AAV9、AAV8またはAAV8tripleベクターを使用して評価された。
【
図9】巨大規模で作製されたAAVhu68ベクターの生産純度を、AAV8triple、AAV9及びAAV8を含めた異なるカプシドを有するベクターと比較して示す。調製品は、CMVプロモーター、イントロン、イムノアドヘシンコード配列(201IgIA)及びSV40ポリAを含むベクターゲノムを有するAAVhu68、AAV9、AAV8またはAAV8tripleベクターを使用して評価された。
【
図10】A~Bは、3×10
11GC/マウス(
図10A)か3×10
10GC/マウス(
図10B)かのどちらかのベクターを筋肉内注射した雄のRAG KOマウス(n=5/群)におけるAAVhu68ベクターの導入遺伝子発現レベルを、AAV8triple、AAV9及びAAV8を含めた異なるカプシドを有するベクターのそれと比較して示す。rAAVベクターによって発現する導入遺伝子はイムノアドヘシンコード配列(201IgIA)である。実験は実施例8に詳しく記載されるとおりに実施した。
【
図11】A~Bは、3×10
11GC/マウスのベクターを筋肉内注射した雄のC57BL/6Jマウス(n=5/群)の肝臓(
図11A)か筋肉(
図11B)かのどちらかにおけるAAVhu68ベクターの導入遺伝子発現レベルを、AAV8triple、AAV9及びAAV8を含めた異なるカプシドを有するベクターのそれと比較して示す。rAAVベクターによって発現する導入遺伝子はホタルルシフェラーゼである。実験は実施例9に詳しく記載されるとおりに実施した。
【
図12】1×10
13GC/kg体重のベクターを筋肉内注射した雄及び雌のカニクイザルにおけるAAVhu68ベクターの導入遺伝子発現レベルを、AAV8triple、AAV9及びAAV8を含めた異なるカプシドを有するベクターのそれと比較して示す。rAAVベクターによって発現する導入遺伝子はイムノアドヘシンコード配列(201IgIA)である。実験は実施例10に詳しく記載されるとおりに実施した。
【発明を実施するための形態】
【0023】
クレードF内にあり本明細書中でAAVhu68と呼称される新規に単離されたアデノ随伴ウイルス(AAV)の核酸配列及びアミノ酸を本明細書に提供する。(以前に本明細書中でAAV3G2と呼称される)AAVhu68は、配列番号2のvp1の位置67及び157にコードする2つのアミノ酸が、別のクレードFウイルス AAV9(配列番号5)とは異なっている。対照的に、他のクレードF AAV(AAV9、hu31、hu31)は位置67のAla及び位置157のAlaを有する。提供するのは、配列番号2の付番に基づく位置157にバリン(ValまたはV)を有しかつ場合によっては位置67にグルタミン酸(GluまたはE)を有する新規AAVhu68カプシド及び/または操作型AAVカプシドである。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドのvp3タンパク質のvp1及びvp2タンパク質に対する比率は、AAV9及びその他のクレードF AAVのカプシドについて以前に教示されたものよりも低い。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、vp1:vp2:vp3の約1:1~約1.5:3~約10の比でAAVhu68 vp1タンパク質、AAVhu68 vp2タンパク質、及びAAVhu68 vp3タンパク質からなる。特定の実施形態では、rAAVhu68ウイルス材料またはrAAVhu68の集団は、AAVhu68カプシド中にvp1:vp2:vp3の約1:約1:約3~6の平均比で存在する合計約60個のvp1、vp2及びvp3タンパク質を有する組成物である。本明細書に記載のこれらのAAVカプシドは、良好な収率及び/またはパッケージング効率を提供する組換えAAV(rAAV)ベクターを生み出すこと、ならびに種々様々な細胞及び組織種に形質導入するために有用となるrAAVベクターを提供することに役立つ。そのような細胞及び組織種には、限定されないが、肺、心臓、筋肉、肝臓、膵臓、腎臓、脳、海馬、運動野、小脳、鼻腔上皮細胞、心臓筋肉細胞すなわち心筋細胞、肝細胞、肺内皮細胞、筋細胞、肺上皮細胞、膵島細胞、腺房細胞、腎細胞及び運動ニューロンが含まれ得る。
【0024】
「組換えAAV」または「rAAV」は、AAVカプシドと、AAVカプシド内にパッケージングされた非AAVコード配列を少なくとも含有するベクターゲノムとの2つの要素を含有するDNアーゼ耐性ウイルス粒子である。特に明記しない限り、この用語は「rAAVベクター」という語句と交換可能に使用され得る。rAAVは、いかなる機能性AAV rep遺伝子または機能性AAV cap遺伝子も欠き、子孫を生み出すことができないことから、「増殖能欠損型ウイルス」または「ウイルスベクター」である。特定の実施形態では、AAV末端逆位反復配列(ITR)が唯一のAAV配列であり、これは、ITR間に位置する遺伝子及び調節配列をAAVカプシド内にパッケージングするのを可能にするためにベクターゲノムの最遠の5’及び3’端部に位置していることが典型的である。
【0025】
本明細書中で使用する場合、「ベクターゲノム」は、ウイルス粒子を形成するrAAVカプシドの内部にパッケージングされる核酸配列を指す。そのような核酸配列は、AAV末端逆位反復配列(ITR)を含有する。本明細書中の例では、ベクターゲノムは、5’から3’へと、最低でもAAV 5’ITR、コード配列(複数可)及びAAV 3’ITRを含有する。カプシドとは異なるAAV源であるAAV2からのITRを選択してもよいし、または完全長ITR以外のITRを選択してもよい。特定の実施形態では、ITRは、生産中にrep機能を提供するAAVまたは相互補完的なAAVと同じAAV源からのものである。さらに、他のITRを使用してもよい。さらに、ベクターゲノムは、遺伝子産物の発現を促す調節配列を含有する。ベクターゲノムの好適な構成要素については本明細書中でより詳しく述べる。
【0026】
rAAVhu68はAAVhu68カプシド及びベクターゲノムからなる。AAVhu68カプシドは、vp1の異種集団、vp2の異種集団及びvp3タンパク質の異種集団の集合体である。本明細書中で使用する「異種」という用語またはその任意の文法的変化形は、vpカプシドタンパク質に言及するために使用される場合、同じでない要素、例えば、異なる修飾アミノ酸配列を有するvp1、vp2またはvp3単量体(タンパク質)を有している要素からなる集団を指す。配列番号2は、コードされているAAVhu68
vp1タンパク質のアミノ酸配列を提供する。
【0027】
AAVhu68カプシドは、配列番号2の予測アミノ酸残基からの修飾を有するvp1タンパク質内、vp2タンパク質内及びvp3タンパク質内の亜集団を含有する。これらの亜集団は、最低でも、特定の脱アミド化アスパラギン(NまたはAsn)残基を含む。例えば、特定の亜集団は少なくとも1つ、2つ、3つまたは4つの高度に脱アミド化されたアスパラギン(N)位置を配列番号2のアスパラギン-グリシン対に含んでおり、場合によってはさらに他の脱アミド化アミノ酸を含んでおり、脱アミド化がアミノ酸変化及びその他の任意選択の修飾をもたらしている。配列番号14は改変型AAVhu68カプシドのアミノ酸配列を示し、いくらかの百分率の脱アミド化あるいは修飾されたアミノ酸を有し得る位置を例示する。これら及びその他の修飾の様々な組み合わせが本明細書中に記載されている。
【0028】
本明細書中で使用する場合、vpタンパク質の「亜集団」は、特に明記しない限り、共通して少なくとも1つの定義された特質を有しかつ、基準となる群の少なくとも1つの群メンバー~全メンバー未満からなる、vpタンパク質の群を指す。例えば、vp1タンパ
ク質の「亜集団」は、特に明記しない限り、組織化AAVカプシド中の少なくとも1つのvp1タンパク質でありかつ全vp1タンパク質未満である。vp3タンパク質の「亜集団」は、特に明記しない限り、組織化AAVカプシド中の1つのvp3タンパク質~全vp3タンパク質未満であり得る。例えば、vp1タンパク質はvpタンパク質の亜集団であり得、vp2タンパク質はvpタンパク質の別の亜集団であり得、vp3は組織化AAVカプシド中のvpタンパク質のさらに別の亜集団である。別の例では、vp1、vp2及びvp3タンパク質は、異なる修飾、例えば、少なくとも1つ、2つ、3つまたは4つの高度に脱アミド化されたアスパラギン、例えばアスパラギン-グリシン対を有する亜集団を含有し得る。
【0029】
特に明記しない限り、高度に脱アミド化されているとは、基準アミノ酸位置の予測アミノ酸配列と比較して基準アミノ酸位置において少なくとも45%脱アミド化されていること、少なくとも50%脱アミド化されていること、少なくとも60%脱アミド化されていること、少なくとも65%脱アミド化されていること、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、97%、99%、約100%以下が脱アミド化されていることを指す(例えば、全vp1タンパク質を基準として配列番号2のアミノ酸57のアスパラギンの少なくとも80%が脱アミド化されていてもよいし、またはvp1、vp2及びvp3タンパク質の全てを基準として配列番号2のアミノ酸409のアスパラギンの20%が脱アミド化されていてもよい)。そのような百分率は、2Dゲル、質量分析技術または他の好適な技術を用いて決定され得る。
【0030】
理論に拘泥することは望まないが、少なくとも、AAVhu68カプシド中のvpタンパク質中の高度に脱アミド化された残基の脱アミド化は、選択されたアスパラギン残基の脱アミド化及びより低い程度でのグルタミン残基の脱アミド化をするカプシドタンパク質中の官能基によって引き起こされるため、主として非酵素的な性質のものであると考えられる。大半の脱アミド化vp1タンパク質の効率的なカプシド組織化は、これらの事象がカプシド組織化の後に起こるか、または個々の単量体(vp1、vp2またはvp3)での脱アミド化が構造的に十分な耐性を有しかつ組織化動態に概して影響を及ぼさないかのどちらかであることを暗示する。細胞進入前には内部に位置していると一般に考えられているVP1固有(VP1-u)領域(約aa1~137)での広範囲に及ぶ脱アミド化は、VP脱アミド化がカプシド組織化に先立って起こっている可能性があることを示唆している。
【0031】
理論に拘泥することは望まないが、Nの脱アミド化は、そのC末端残基の主鎖窒素原子がAsnの側鎖アミド基炭素原子に求核攻撃を行うことによって起こり得る。中間体の閉環スクシンイミド残基が形成すると考えられている。スクシンイミド残基はその後、速い加水分解を行って最終生成物であるアスパラギン酸(Asp)またはイソアスパラギン酸(IsoAsp)をもたらす。したがって、特定の実施形態では、アスパラギン(NまたはAsn)の脱アミド化はAspまたはIsoAspをもたらすが、これらはスクシンイミド中間体を介して例えば以下に例示するように相互変換され得る。
【化1】
本明細書中で提供される場合、配列番号2の各脱アミド化Nは、独立してアスパラギン酸(Asp)、イソアスパラギン酸(isoAsp)、アスパルテート及び/または、AspとisoAspとの相互変換ブレンド、またはそれらの組み合わせであり得る。α-及びイソアスパラギン酸がいかなる好適な比で存在していてもよい。例えば、特定の実施形態では、比は10:1~1:10のアスパラギン酸対イソアスパラギン酸、約50:50のアスパラギン酸:イソアスパラギン酸、または約1:3のアスパラギン酸:イソアスパラギン酸、または別の選択された比であり得る。
【0032】
特定の実施形態では、配列番号2中の1つ以上のグルタミン(Q)は脱アミド化してグルタミン酸(Glu)、すなわち、α-グルタミン酸、γ-グルタミン酸(Glu)または、共通のグルタルイミド(glutarinimide)中間体を介して相互変換され得るα-及びγ-グルタミン酸のブレンドとなる。α-及びγ-グルタミン酸はいかなる好適な比で存在していてもよい。例えば、特定の実施形態では、比は10:1~1:10のα対γ、約50:50のα:γ、または約1:3のα:γ、または別の選択された比であり得る。
【化2】
【0033】
したがって、rAAVhu68は、脱アミド化アミノ酸を有するvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の、rAAVhu68カプシドの中の亜集団を含み、これは、最低でも、少なくとも1つの高度に脱アミド化されたアスパラギンを含んでいる少なくとも1つの亜集団を含む。加えて、他の修飾は異性化を含み得、詳しくは、選択されたアスパラギン酸(DまたはAsp)残基位置に含み得る。さらに他の実施形態では、修飾はAsp位置でのアミド化を含み得る。
【0034】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、少なくとも4個~少なくとも約25個の脱アミド化アミノ酸残基位置を有するvp1、vp2及びvp3の亜集団を含有しているが、このうちの少なくとも1~10%が、コードされる配列番号2のアミノ酸配列と比較して脱アミド化されている。これらの大部分はN残基であり得る。しかしながら、Q残基も脱アミド化されていることがある。
【0035】
特定の実施形態では、AAV68カプシドは、下記のうちの1つ以上によってさらに特徴付けられる。AAVhu68カプシドタンパク質は、配列番号2の1~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp1タンパク質、配列番号1から産生されるvp1タンパク質、もしくは配列番号2の1~736の予測アミノ酸配列をコードし配列番号1と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp1タンパク質;配列番号2の少なくとも約アミノ酸138~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp2タンパク質、配列番号1の少なくともヌクレオチド412~2211を含む配列から産生されるvp2タンパク質、もしくは配列番号2の少なくとも約アミノ酸138~736の予測アミノ酸配列をコードし配列番号1の少なくともヌクレオチド412~2211と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp2タンパク質、及び/または、配列番号2の少なくとも約アミノ酸203~736の予測アミノ酸配列をコードする核酸配列からの発現によって産生されるAAVhu68 vp3タンパク質、配列番号1の少なくともヌクレオチド607~2211を含む配列から産生されるvp3タンパク質、もしくは配列番号2の少なくとも約アミノ酸203~736の予測アミノ酸配列をコードし配列番号1の少なくともヌクレオチド607~2211と少なくとも70%同一である核酸配列から産生されるvp3タンパク質を含む。
【0036】
さらに、またはあるいは、位置157にバリンを場合によって含んでいるvp1タンパク質の異種集団、位置157にバリンを場合によって含んでいるvp2タンパク質の異種集団、及びvp3タンパク質の異種集団を含み、少なくともvp1及びvp2タンパク質の亜集団が、配列番号2のvp1カプシドの付番に基づく位置157にバリンを含むものでありかつ場合によってはさらに位置67にグルタミン酸を含むものである、AAVカプシドを提供する。さらに、またはあるいは、配列番号2のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp1タンパク質の異種集団、配列番号2の少なくとも約アミノ酸138~736のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp2タンパク質の異種集団、及び配列番号2の少なくともアミノ酸203~736をコードする核酸配列の産物であるvp3タンパク質の異種集団を含み、vp1、vp2及びvp3タンパク質が、アミノ酸修飾を有する亜集団を含有するものである、AAVhu68カプシドを提供する。
【0037】
AAVhu68 vp1、vp2及びvp3タンパク質は典型的には、配列番号2の完全長vp1アミノ酸配列(アミノ酸1~736)をコードする同じ核酸配列によってコードされる代替スプライシング変異型として発現する。場合によってvp1コード配列は、vp1、vp2及びvp3タンパク質を発現すべく単独で使用される。あるいは、この配列と、vp1固有領域(約aa1~約aa137)及び/またはvp2固有領域(約aa1~約aa202)を含まずに配列番号2のAAVhu68 vp3アミノ酸配列(約aa203~736)をコードする核酸配列もしくはそれに相補的な鎖、対応するmRNA
もしくはtRNA(配列番号1の約nt607~約nt2211)、または配列番号2のaa203~736をコードし配列番号1と少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一である配列のうちの1つ以上とを共発現させてもよい。さらに、またはあるいは、vp1コード及び/またはvp2コード配列と、vp1固有領域(約aa1~約aa137)を含まずに配列番号2のAAVhu68 vp2アミノ酸配列(約aa138~736)をコードする核酸配列もしくはそれに相補的な鎖、対応するmRNAもしくはtRNA(配列番号1のnt412~22121)、または配列番号2の約aa138~736をコードし配列番号1と少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一である配列とを共発現させてもよい。
【0038】
本明細書中に記載するように、rAAVhu68は、配列番号2のvp1アミノ酸配列をコードするAAVhu68核酸から、及び場合によっては例えばvp1及び/またはvp2固有領域を含まずにvp3タンパク質をコードする追加の核酸配列からカプシドを発現する産生システムで産生される、rAAVhu68カプシドを有する。単一の核酸配列vp1を使用した産生の結果として得られるrAAVhu68は、vp1タンパク質、vp2タンパク質及びvp3タンパク質の異種集団を産生する。より詳しくは、AAVhu68カプシドは、配列番号2の予測アミノ酸残基からの修飾を有するvp1タンパク質内、vp2タンパク質内及びvp3タンパク質内の亜集団を含有する。これらの亜集団は最低でも脱アミド化アスパラギン(NまたはAsn)残基を含む。例えば、アスパラギン-グリシン対のアスパラギンが高度に脱アミド化されている。
【0039】
一実施形態において、AAVhu68 vp1核酸配列は、配列番号1の配列またはそれに相補的な鎖、例えば対応するmRNAまたはtRNAを有する。さらに、またはあるいは、特定の実施形態ではvp2及び/またはvp3タンパク質をvp1とは異なる核酸配列から発現させて例えば選択された発現系におけるvpタンパク質の比を変化させてもよい。特定の実施形態ではさらに、vp1固有領域(約aa1~約aa137)及び/またはvp2固有領域(約aa1~約aa202)を含まずに配列番号2のAAVhu68
vp3アミノ酸配列(約aa203~736)をコードする核酸配列またはそれに相補的な鎖、対応するmRNAまたはtRNA(配列番号1の約nt607~約nt2211)も提供される。特定の実施形態ではさらに、vp1固有領域(約aa1~約aa137)を含まずに配列番号2のAAVhu68 vp2アミノ酸配列(約aa138~736)をコードする核酸配列またはそれに相補的な鎖、対応するmRNAまたはtRNA(配列番号1のnt412~2211)も提供される。
【0040】
しかしながら、配列番号2のアミノ酸配列をコードする他の核酸配列を、rAAVhu68カプシドの生産に使用するために選択してもよい。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号1の核酸配列、または配列番号2をコードする配列番号1と少なくとも70%~99%同一である、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一である配列を有する。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号1の核酸配列、または配列番号2のvp2カプシドタンパク質(約aa138~736)をコードする配列番号1の約nt412~約nt2211と少なくとも70%~99%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一である配列を有する。特定の実施形態では、核酸配列は、配列番号1の約nt607~約nt2211の核酸配列、または配列番号2のvp3カプシドタンパク質(約aa203~736)をコードするnt配列番号1と少なくとも70%~99%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくと
も95%、少なくとも97%、少なくとも99%同一である配列を有する。
【0041】
このAAVhu68カプシドをコードするDNA(ゲノムまたはcDNA)またはRNA(例えばmRNA)を含めた核酸配列を設計することは当技術分野における技量の範囲内である。特定の実施形態では、AAVhu68 vp1カプシドタンパク質をコードする核酸配列は配列番号1に示される。
図1B~Dも参照されたい。他の実施形態では、AAVhu68カプシドタンパク質を発現させるために配列番号1との70~99.9%の同一性を有する核酸配列が選択され得る。他の特定の実施形態では、核酸配列は配列番号1と少なくとも約75%同一、少なくとも80%同一、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%同一、または少なくとも99%~99.9%同一である。そのような核酸配列は、選択されたシステム(例えば細胞種)における発現のためにコドン最適化されてもよく、様々な方法によって設計され得る。この最適化は、オンライン入手可能な方法(例えばGeneArt)、公開されている方法、またはコドン最適化サービスを提供する会社、例えばDNA2.0(Menlo Park,CA)を用いて実施され得る。1つのコドン最適化方法は例えば米国の国際特許公開第WO2015/012924号に記載されており、参照によりこの全体を本明細書に援用する。また、例えば米国特許公開第2014/0032186号及び米国特許公開第2006/0136184号も参照されたい。産物のためのオープンリーディングフレーム(ORF)の完全長を改変することが好適である。しかしながら、いくつかの実施形態ではORFの一部のみが変更されていてもよい。これらの方法のうちの1つを用いることによって、頻度を任意の所与のポリペプチド配列に適用することができ、ポリペプチドをコードするコドン最適化コード領域の核酸断片を産生させることができる。コドンに対する実際の変更を実施するためまたは本明細書に記載されているとおりに設計されたコドン最適化コード領域を合成するために、多くの選択肢が利用可能である。そのような改変または合成は、当業者によく知られている標準的及び慣例的な分子生物学的操作を用いて実施され得る。1つの手法では、長さが各々80~90ヌクレオチドであり所望の配列の長さにまたがる一連の相補的オリゴヌクレオチド対は、標準的な方法によって合成される。これらのオリゴヌクレオチド対は、それらがアニーリング時に付着末端を含有する80~90塩基対の二本鎖断片を形成するように合成され、例えば、対の各オリゴヌクレオチドは、対のもう一方のオリゴヌクレオチドに相補的な領域を越えて3、4、5、6、7、8、9、10個またはそれより多い塩基を延出させるように合成される。各対のオリゴヌクレオチドの一本鎖端部は、別の対のオリゴヌクレオチドの一本鎖端部とアニーリングするように設計される。オリゴヌクレオチド対をアニーリングさせ、その後、これらの二本鎖断片のおよそ5~6個を付着一本鎖端部を介してアニーリングさせ、その後、それらをライゲートし合わせ、標準的な細菌クローニングベクター、例えば、Invitrogen Corporation,Carlsbad,Califから入手することができるTOPO(登録商標)ベクターにクローニングする。その後、構築物の配列決定を標準的な方法で行う。ライゲートされ合った5~6断片の80~90塩基対断片、すなわち約500塩基対の断片からなるこれらの構築物のいくつかは、所望の配列の全体が一連のプラスミド構築物として表されるように作製される。その後、これらのプラスミドのインサートを適切な制限酵素で切断し、ライゲートし合わせて最終構築物を形成する。その後、最終構築物を標準的な細菌クローニングベクターにクローニングし、配列決定する。さらなる方法は当業者であればすぐに分かるであろう。加えて、遺伝子合成は商業的に容易に入手することができる。
【0042】
特定の実施形態では、AAVhu68 vp1、vp2及びvp3タンパク質中のN-G対のアスパラギン(N)が高度に脱アミド化されている。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、AAVhu68カプシドタンパク質中の高度に脱アミド化された少なくとも4つのアスパラギン(N)位置を有するAAV vp1、vp2及び/またはvp3カプシドタンパク質の亜集団を含有する。特定の実施形態では、N-N対(N-N-
N三つ組を除く)の約20~50%は脱アミド化を示す。特定の実施形態では、最初のNが脱アミド化されている。特定の実施形態では、2つ目のNが脱アミド化されている。特定の実施形態では、脱アミド化は約15%~約25%の脱アミド化である。配列番号2の位置259にあるQにおける脱アミド化は、AAVhu68タンパク質のAAVhu68
vp1、vp2及びvp3カプシドタンパク質の約8%~約42%である。
【0043】
特定の実施形態では、rAAVhu68カプシドは、vp1、vp2及びvp3タンパク質のD297におけるアミド化によってさらに特徴付けられる。特定の実施形態では、配列番号2の付番に基づいて、AAVhu68カプシド中のvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の位置297にあるDの約70%~約75%がアミド化されている。
【0044】
特定の実施形態では、カプシドのvp1、vp2及び/またはvp3において少なくとも1つのAspがD-Aspに異性化している。そのような異性体は通常、配列番号2の付番に基づく残基位置97、107、384のうちの1つ以上にあるAspの約1%未満の量で存在する。
【0045】
特定の実施形態では、rAAVhu68は、以下の表に示す位置にある1つ、2つ、3つ、4つまたはそれ以上の脱アミド化残基の組み合わせを含む亜集団を有するvp1、vp2及びvp3タンパク質を有しているAAVhu68カプシドを有する。rAAVにおける脱アミド化は、2Dゲル電気泳動及び/または質量分析及び/またはタンパク質モデリング技術を用いて決定され得る。Acclaim PepMapカラム、及びNanoFlexソースを備えたQ Exactive HF(Thermo Fisher Scientific)と連結したThermo UltiMate3000RSLCシステム(Thermo Fisher Scientific)を用いてオンラインクロマトグラフィーを実施してもよい。MSデータは、検査スキャン(200~2000m/z)から最も豊富な配列未決定の前駆体イオンを動的に選択する、Q Exactive HFのためのデータ依存的上位20位法を用いて取得される。配列決定は、予測自動ゲイン制御を用いて決定される目標値を1e5イオンとする高エネルギー衝突解離フラグメンテーションによって実施し、前駆体の単離は余裕枠を4m/zとして実施した。検査スキャンは、m/z200で120,000の分解能で取得した。HCDスペクトルの分解能は、最大イオン注入時間を50msとし正規化衝突エネルギーを30としてm/z200で30,000に設定され得る。S-レンズRFレベルは、消化物からのペプチドが占有するm/z領域の透過を最適化するために50に設定され得る。前駆体イオンは、単一の未帰属の、または6つ以上の荷電状態によってフラグメンテーション選択から除外され得る。取得データの解析のためにBiioPharma Finder 1.0ソフトウェア(Thermo Fischer Scientific)が使用され得る。ペプチドマッピングのためには単一入力タンパク質FASTAデータベースを使用し、カルバミドメチル化を固定の修飾に設定し、酸化、脱アミド化及びリン酸化を可変の修飾に設定し、質量精度を10ppmとし、高いプロテアーゼ特異性とし、信頼度レベルをMS/MSスペクトルのために0.8として、検索を実施する。好適なプロテアーゼの例には、例えばトリプシンまたはキモトリプシンが含まれ得る。脱アミド化は未処理の分子の質量に+0.984Da(-OH基と-NH
2基との質量差)だけ足すので、質量分析による脱アミド化ペプチドの同定は比較的平易である。特定のペプチドの脱アミド化パーセントは、脱アミド化ペプチドの決定された質量面積を脱アミド化ペプチドと元のペプチドとの合計面積で割ったものである。脱アミド化可能な部位の数を考える場合、異なる部位で脱アミド化されている同重体種同士は、寄り合って1本のピークとなり得る。結果として、複数の潜在的脱アミド化部位を有するペプチドから発生するフラグメントイオンを用いて脱アミド化の複数の部位を突き止める、または区別することができる。これらの場合には、観察された同位体パターンの相対強度を用いて種々の脱アミド化ペプチド異性体の相対存在量を具体的に決定することができる。この方法は、全ての異性体種についてフラグメンテーション効率が同じであり脱アミド化の部位に無関係であることを仮定している。当業者であれば、これらの例示的方法に対する多くの変更を用いることができることを理解するであろう。例えば、好適な質量分析装置としては、Waters XevoもしくはAgilent 6530などの四重極型飛行時間質量分析装置(QTOF)または、Orbitrap FusionもしくはOrbitrap Velos(Thermo Fisher)などのオービトラップ型装置が挙げられ得る。好適な液体クロマトグラフィーシステムとしては、例えば、WatersからのAcquity UPLCシステム、またはAgilentシステム(シリーズ1100または1200)が挙げられる。好適なデータ解析ソフトウェアは、例えば、MassLynx(Waters)、Pinpoint and Pepfinder(Thermo Fischer Scientific)、Mascot(Matrix Science)、Peaks DB(Bioinformatics Solutions)を含み得る。さらに他の技術は、例えば、2017年6月16日にオンライン公開されたX.Jin et al,Hu Gene Therapy Methods,Vol.28,No.5,pp.255-267に記載されている可能性がある。
【表1-1】
【表1-2】
【0046】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、配列番号2のアミノ酸配列の付番に基づく位置N57、N329、N452及び/またはN512のうちの少なくとも1つにおいてN残基の少なくとも45%が脱アミド化されているカプシドタンパク質を有することによって特徴付けられる。特定の実施形態では、これらのN-G位置(すなわち、配列番号2のアミノ酸配列の付番に基づいてN57、N329、N452及び/またはN512)のうちの1つ以上にあるN残基の少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%または少なくとも90%が脱アミド化されている。これら及びその他の実施形態では、AAVhu68カプシドは、配列番号2のアミノ酸配列の付番に基づく位置N94、N253、N270、N304、N409、N477及び/またはQ599のうちの1つ以上においてN残基の約1%~約20%が脱アミド化を有しているタンパク質の集団を有することによってさらに特徴付けられる。特定の実施形態では、AAVhu68は少なくとも、配列番号2のアミノ酸配列の付番に基づく位置N35、N57、N66、N94、N113、N252、N253、Q259、N270、N303、N304、N305、N319、N328、N329、N336、N409、N410、N452、N477、N515、N598、Q599、N628、N651、N663、N709、N735のうちの1つ以上またはその組み合わせにおいて脱アミド化されているvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む。特定の実施形態では、カプシドタンパク質は1つ以上のアミド化アミノ酸を有し得る。
【0047】
さらに他の修飾が認められるが、そのほとんどは、あるアミノ酸から別のアミノ酸残基への変換をもたらさない。場合によってはカプシドのvp1、vp2及びvp3の少なくとも1つのLysがアセチル化されている。場合によってはカプシドのvp1、vp2及び/またはvp3の少なくとも1つのAspがD-Aspに異性化している。場合によってはカプシドのvp1、vp2及び/またはvp3の少なくとも1つのS(Ser、セリン)がリン酸化されている。場合によってはカプシドのvp1、vp2及び/またはvp3の少なくとも1つのT(Thr、スレオニン)がリン酸化されている。場合によってはカプシドのvp1、vp2及び/またはvp3の少なくとも1つのW(trp、トリプトファン)が酸化されている。場合によってはカプシドのvp1、vp2及び/またはvp3の少なくとも1つのM(Met、メチオニン)が酸化されている。特定の実施形態では、カプシドタンパク質は1つ以上のリン酸化を有する。例えば、特定のvp1カプシドタンパク質が位置149においてリン酸化されている場合がある。
【0048】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、配列番号2のアミノ酸配列をコードする核酸配列の産物であるvp1タンパク質であって位置67のグルタミン酸(Glu)及び/または位置157のバリン(Val)を含んでいる当該vp1タンパク質の異種集団;位置157に場合によってバリン(Val)を含んでいるvp2タンパク質の異種集
団;ならびにvp3タンパク質の異種集団を含む。AAVhu68カプシドは、配列番号2のアミノ酸配列の残基付番に基づいてvp1タンパク質の位置57に位置するアスパラギン-グリシン対のアスパラギン(N)の少なくとも65%、ならびにvp1、v2及びvp3タンパク質の位置329、452及び/または512にあるアスパラギン-グリシン対のアスパラギン(N)の少なくとも70%が脱アミド化されており、脱アミド化がアミノ酸変化をもたらしている、少なくとも1つの亜集団を含有する。
【0049】
本明細書中でより詳しく述べるように、脱アミド化アスパラギンは、脱アミド化されてアスパラギン酸、イソアスパラギン酸、相互変換されるアスパラギン酸/イソアスパラギン酸対、またはそれらの組み合わせとなったものであり得る。特定の実施形態では、rAAVhu68は、(a)vp2タンパク質の各々が独立して、少なくとも配列番号2のvp2タンパク質をコードする核酸配列の産物であること;(b)vp3タンパク質の各々が独立して、少なくとも配列番号2のvp3タンパク質をコードする核酸配列の産物であること;(c)vp1タンパク質をコードする核酸配列が配列番号1、または配列番号2のアミノ酸配列をコードし配列番号1と少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%)同一である配列であることのうちの1つ以上によってさらに特徴付けられる。場合によってはその配列を単独で使用してvp1、vp2及びvp3タンパク質を発現させる。あるいは、この配列と、vp1固有領域(約aa1~約aa137)及び/またはvp2固有領域(約aa1~約aa202)を含まずに配列番号2のAAVhu68 vp3アミノ酸配列(約aa203~736)をコードする核酸配列もしくはそれに相補的な鎖、対応するmRNAもしくはtRNA(配列番号1の約nt607~約nt2211)、または配列番号2のaa203~736をコードし配列番号1と少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一である配列のうちの1つ以上とを共発現させてもよい。さらに、またはあるいは、vp1コード及び/またはvp2コード配列と、vp1固有領域(約aa1~約aa137)を含まずに配列番号2のAAVhu68 vp2アミノ酸配列(約aa138~736)をコードする核酸配列もしくはそれに相補的な鎖、対応するmRNAもしくはtRNA(配列番号1のnt412~2211)、または配列番号2の約aa138~736をコードし配列番号1と少なくとも70%~少なくとも99%(例えば、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%)同一である配列とを共発現させてもよい。
【0050】
さらに、またはあるいは、rAAVhu68カプシドは少なくとも、配列番号2の付番に基づく位置N57、N66、N94、N113、N252、N253、Q259、N270、N303、N304、N305、N319、N328、N329、N336、N409、N410、N452、N477、N512、N515、N598、Q599、N628、N651、N663、N709のうちの1つ以上またはその組み合わせにおいて脱アミド化されているvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む;(e)rAAVhu68カプシドは、配列番号2の付番に基づく位置N66、N94、N113、N252、N253、Q259、N270、N303、N304、N305、N319、N328、N336、N409、N410、N477、N515、N598、Q599、N628、N651、N663、N709のうちの1つ以上またはその組み合わせにおいて1~20%の脱アミド化を含むvp1、vp2及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む;(f)rAAVhu68カプシドは、配列番号2の付番に基づいてvp1タンパク質の位置57にあるNの65~100%が脱アミド化されているvp1の亜集団を含む;(g)rAAVhu68カプシドは、vp1タンパク質の位置57にあるNの75~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質の亜集団を含む;(h)rAAVhu68カプシドは、配列番号2の付番に基づく位置329にあるNの80~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む;(i)rAAVhu68カプシドは、配列番号2の付番に基づく位置452にあるNの80~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む;(j)rAAVhu68カプシドは、配列番号2の付番に基づく位置512にあるNの80~100%が脱アミド化されているvp1タンパク質、vp2タンパク質及び/またはvp3タンパク質の亜集団を含む;(k)rAAVは、合計約60個のカプシドタンパク質をvp1対vp2対vp3タンパク質の約1対約1~1.5対3~10の比で含む;(l)rAAVは、合計約60個のカプシドタンパク質をvp1対vp2対vp3タンパク質の約1対約1対3~9の比で含む。
【0051】
特定の実施形態では、AAVhu68は、脱アミド化を減少させるべくアスパラギン-グリシン対のグリシンを変化させるように改変される。他の実施形態では、アスパラギンを、より遅い速度で脱アミド化される別のアミノ酸、例えばグルタミン;またはアミド基(例えば、グルタミン及びアスパラギンはアミド基を含有する)を欠くアミノ酸;及び/またはアミン基(例えば、リジン、アルギニン及びヒスチジンはアミド基を含有する)を欠くアミノ酸に変化させる。本明細書中で使用する場合、アミドまたはアミン側基を欠くアミノ酸は、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、シスチン、フェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファン及び/またはプロリンを指す。記載しているような改変は、コードされるAAVhu68アミノ酸配列にみられるアスパラギン-グリシン対のうちの1つ、2つまたは3つにおいてなされ得る。特定の実施形態では、4つ全てのアスパラギン-グリシン対においてそのような改変がなされるわけではない。このように、脱アミド化速度がより低い、AAVhu68及び/または操作型AAVhu68変異型の脱アミド化を減少させる方法。さらに、またはあるいは、他の1つ以上のアミドアミノ酸を非アミドアミノ酸に変えてAAVhu68の脱アミド化を減少させてもよい。
【0052】
これらのアミノ酸修飾は従来の遺伝子操作技術によってなされ得る。例えば、配列番号2の位置58、330、453及び/または513においてグリシン(アルギニン-グリシン対)をコードするコドンの1つ~3つが改変されてグリシン以外のアミノ酸をコードしている改変されたAAVhu68 vpコドンを含有する核酸配列が生み出され得る。特定の実施形態では、改変されたアルギニンコドンを含有する核酸配列は、配列番号2の位置57、329、452及び/または512に位置するアルギニン-グリシン対の1つ~3つにおいて、改変されたコドンがアルギニン以外のアミノ酸をコードするように操作されていてもよい。改変された各コドンは、異なるアミノ酸をコードしていてもよい。あるいは、変更したコドンの1つ以上が同じアミノ酸をコードしていてもよい。特定の実施形態では、これらの改変型AAVhu68核酸配列は、天然hu68カプシドよりも低い脱アミド化を有するカプシドを有している突然変異rAAVhu68を生み出すために使用され得る。そのような突然変異rAAVhu68は、低減された免疫原性を有し得、及び/または貯蔵時、特に懸濁液形態での貯蔵時の安定性を向上させ得る。本明細書中で使用する場合、「コドン」は、配列中のアミノ酸をコードする3つのヌクレオチドを指す。
【0053】
本明細書中で使用する場合、「コードされるアミノ酸配列」とは、アミノ酸に翻訳される基準核酸配列の既知DNAコドンの翻訳に基づいて予測されるアミノ酸を指す。以下の表はDNAコドン及び20個の一般的なアミノ酸を示し、一文字コード(SLC)及び三文字コード(3LC)を両方とも示す。
【表2】
【0054】
AAVhu68カプシドは特定の実施形態に有用であり得る。例えば、そのようなカプシドは、モノクローナル抗体を生成する際、及び/または遺伝子療法患者のAAVhu68濃度レベルを追跡評価するためのアッセイにおいて有用となる試薬を生成する際に使用され得る。有用な抗AAVhu68抗体を生み出す技術、そのような抗体または空のカプシドの標識付け、及び好適なアッセイ構成は当業者に知られている。
【0055】
特定の実施形態では、配列番号1の核酸配列、または本明細書に記載の修飾(例えば脱アミド化アミノ酸)を有する配列番号2のvp1アミノ酸配列をコードし少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%である配列が提供される。特定の実施形態では、vp1アミノ酸配列は配列番号14で再現される。
【0056】
本明細書中で使用する、AAVの群に関する「クレード」という用語は、AAV vp1アミノ酸配列のアラインメントに基づいて(少なくとも1000個の複製物の)少なくとも75%のブートストラップ値及び0.05以下のポアソン補正距離測定値による近接結合アルゴリズムを用いて判定した場合に系統学的に互いに関連し合っているAAVの群を指す。近接結合アルゴリズムは文献に記載されている。例えば、M.Nei and S.Kumar,Molecular Evolution and Phylogenetics(Oxford University Press,New York(2000)を参照されたい。このアルゴリズムを実行するために使用することができるコンピュータプログラムは入手可能である。例えば、MEGA v2.1プログラムは改変Nei-Gojobori法を実装している。これらの技術及びコンピュータプログラムならびにAAV vp1カプシドタンパク質の配列を用いて当業者は、選択されたAAVが本明細書で特定されるクレードの1つに含まれているか、別のクレードに含まれているか、またはこれらのクレードから外れるかについて容易に判定することができる。例えば、クレードA、B、C、D、E及びFを同定し新規AAV、GenBank受託番号AY530553~AY530629の核酸配列を提供しているG Gao,et al,J Virol,2004 Jun;78(10:6381-6388を参照されたい。また、WO2005/033321も参照されたい。
【0057】
一実施形態では、本発明は、スペーサー配列をAAVhu68 vp1コード配列とAAVhu68 repコード配列との間に含んでいる操作された分子を提供する。このコード配列は、atgacttaaaccaggt、配列番号9である。AAVhu68のrep52のコード配列は配列番号3で再現される。rep52タンパク質配列は配列番号4で再現される。
【0058】
一実施形態では、rAAVの収率を向上させる、したがって細胞溶解の前に、またはそれを必要とせずに、上清中に存在するrAAVの量を増加させる方法が提供される。この方法は、AAV VP1カプシド遺伝子を操作して、AAVhu68 vp1カプシドタンパク質のアミノ酸付番を有するアラインメントに基づく位置67にGluを有しかつ位置157にValを有さないカプシドタンパク質を発現させることを含む。他の実施形態では、方法は、AAVhu68 VP1カプシド遺伝子を操作して、位置157にValを有しかつ位置67にGluを有さないカプシドタンパク質を発現させることを含む。そのような他のAAVは、他のクレードF AAV、またはクレードA、B、C、DもしくはEのAAVから容易に選択され得る。特定の実施形態では、AAVは、クレードC、D、EまたはFから選択される。他の実施形態では、AAVはクレードC、DまたはEから選択される。
【0059】
他の実施形態では、方法は、rAAVの収率を向上させる、したがって細胞溶解の前に、またはそれを必要とせずに、上清中に存在するrAAVの量を増加させることを含む。この方法は、AAV VP1カプシド遺伝子を操作して、AAVhu68 vp1カプシドタンパク質のアミノ酸付番を有するアラインメントに基づく位置67のGlu、位置157のValまたは両方ともを有するカプシドタンパク質を発現させることを含む。他の実施形態では、方法は、VP2カプシド遺伝子を操作して、位置157にValを有するカプシドタンパク質を発現させることを含む。さらに他の実施形態では、rAAVは、位置67においてGluであり位置157においてValであるvp1及びvp2カプシドタンパク質の両方を含む改変型カプシドを有する。
【0060】
さらに他の実施形態では、AAVhu68は、vp1付番[配列番号2]を基準として位置67にSer、Gly、SerまたはThrを有すると同時に位置157ではValを保持するように、操作され得る。さらに他の実施形態では、AAVhu68は、vp1付番[配列番号2]を基準として位置157にIleまたはLeuを有するように操作され得る。さらに別の実施形態では、AAVhu68は、vp1付番[配列番号2]を基準として位置67のSer、Gly、SerまたはThr、及び位置157のIleまたはLeuを有するように操作され得る。
【0061】
さらなる実施形態では、AAV9と比較してパッケージングされるベクターの収率の少なくとも15%の増加をもたらす、クレードF AAVの中に導入遺伝子をパッケージングする方法は、宿主細胞培養物を好適な条件によって培養することを含む。特定の実施形態では、増加は収率の少なくとも90%の増加である。他の実施形態では、増加は収率の少なくとも200%の増加である。
【0062】
AAVhu68とAAVrh10とを比較した場合、脳室内投与後に低用量(例えば約1×109)でAAVhu68はAAVrh10よりも良好な形質導入効率をもたらすことが見出された。さらにAAVhu68とAAV9とを比較した場合、脳室内投与後に小脳、運動野及び脳の海馬において(例えば約1×1011GCで)AAVhu68はAAV9よりも良好な形質導入効率をもたらすことが見出された。
【0063】
特定の実施形態では、本発明は、HER2受容体を指向する抗体を発現するベクターゲノムを含むAAVhu68ベクターを提供する。そのようなベクターはがんの治療及び/または予防に有用である。
【0064】
本明細書中で使用する場合、「AAV9カプシド」は、複数のAAV9 vpタンパク質からなる自己組織化AAVカプシドである。AAV9 vpタンパク質は典型的には、配列番号5の核酸配列、またはそれに対して少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも99%であり配列番号6(GenBank受託:AAS99264)のvp1アミノ酸配列をコードする配列によってコードされる、代替スプライシング変異型として発現する。これらのスプライシング変異型は、配列番号6の様々な長さのタンパク質となる。特定の実施形態では、「AAV9カプシド」は、AAS99264と99%同一であるかまたは配列番号6と99%同一であるアミノ酸配列を有するAAVを含む。US7906111及びWO2005/033321も参照されたい。本明細書中で使用する「AAV9変異型」には、例えばWO2016/049230、US8,927,514、US2015/0344911及びUS8,734,809に記載されているものが含まれる。
【0065】
カプシドを生み出す方法、そのためのコード配列、及びrAAVウイルスベクターを生産する方法については教示がなされている。例えば、Gao,et al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100(10),6081-6086(2003)及びUS2013/0045186A1を参照されたい。
【0066】
核酸またはその断片に言及する場合、「実質的な相同性」または「実質的な類似性」という用語は、適切なヌクレオチド挿入または欠失を伴って別の核酸(またはその相補鎖)との最適なアラインメントをしたときに、アラインメントされた配列の少なくとも約95~99%にヌクレオチド配列同一性があることを表す。相同性は、完全長配列またはそのオープンリーディングフレーム、または長さが少なくとも15ヌクレオチドである別の好適な断片にわたっていることが好ましい。好適な断片の例は本明細書に記載されている。
【0067】
核酸配列に関する「配列同一性」、「配列同一性パーセント」または「パーセント同一」という用語は、最大限に対応させるためにアラインメントしたときに同一である、2つの配列の中の残基を指す。配列同一性比較の長さは、ゲノムの完全長、遺伝子コード配列の完全長に及び得、または少なくとも約500~5000ヌクレオチドの断片が望まれる。しかしながら、より小さい、例えば少なくとも約9ヌクレオチド、通常少なくとも約20~24ヌクレオチド、少なくとも約28~32ヌクレオチド、少なくとも約36またはそれより多いヌクレオチドの断片の同一性が望まれることもある。同様に、「配列同一性パーセント」は、アミノ酸配列に対してタンパク質の完全長またはその断片にわたって容易に決定され得る。好適な断片は長さが少なくとも約8アミノ酸であり、約700アミノ酸以下であり得る。好適な断片の例は本明細書に記載されている。
【0068】
アミノ酸またはその断片に言及する場合、「実質的な相同性」または「実質的な類似性」という用語は、適切なアミノ酸挿入または欠失を伴って別のアミノ酸(またはその相補鎖)との最適なアラインメントをしたときに、アラインメントされた配列の少なくとも約95~99%にアミノ酸配列同一性があることを表す。相同性は、完全長配列またはそのタンパク質、例えば、capタンパク質、repタンパク質、または長さが少なくとも8アミノ酸もしくはより好ましくは少なくとも15アミノ酸であるその断片にわたっていることが好ましい。好適な断片の例は本明細書に記載されている。
【0069】
「高度に保存された」という用語は、少なくとも80%の同一性、好ましくは少なくとも90%の同一性、より好ましくは97%を上回る同一性を意味する。同一性は、当業者に知られているアルゴリズム及びコンピュータプログラムを利用することで当業者によって容易に決定される。
【0070】
一般に、2つの異なるアデノ随伴ウイルス同士の「同一性」、「相同性」または「類似性」に言及する場合、「同一性」、「相同性」または「類似性」は、「アラインメントされた」配列に関して決定される。「アラインメントされた」配列、または「アラインメント」とは、基準配列に比べて欠落しているかまたは追加されている塩基またはアミノ酸の補正をしばしば含有する複数の核酸配列またはタンパク質(アミノ酸)配列を指す。例では、公開されているAAV9配列を基準点として使用してAAVアラインメントを実施する。アラインメントは、公的または商業的に入手することができる様々な多重配列アラインメントプログラムのいずれかを使用して実施される。そのようなプログラムの例としては、「Clustal Omega」、「Clustal W」、「CAP Sequence Assembly」、「MAP」及び「MEME」が挙げられ、これらはインターネット上のウェブサービスを通じて入手可能である。そのようなプログラムの他の提供元は当業者に知られている。あるいは、ベクターNTIユーティリティーも使用される。また、上記プログラムの中に含まれているものを含めて、ヌクレオチド配列同一性を測定するために使用することができる当技術分野で知られている多くのアルゴリズムが存在する。別の例として、GCG バージョン6.1の中のプログラムであるFasta(商標)を使用してポリヌクレオチド配列を比較することができる。Fasta(商標)は、クエリー配列と検索配列との間で最もよく重複している領域のアラインメント及び配列同一性パーセントを提供する。例えば、参照により本明細書に援用するGCG バージョン6.1において提供されるようなデフォルトパラメータ(6のワードサイズ、スコア行列のためのNOPAM係数)でFasta(商標)を使用して核酸配列同士の配列同一性パーセントを決定することができる。また、複数の配列アラインメントプログラム、例えば、「Clustal Omega」、「Clustal X」、「MAP」、「PIMA」、「MSA」、「BLOCKMAKER」、「MEME」及び「Match-Box」プログラムがアミノ酸配列に対しても利用可能である。一般的にはこれらのプログラムのいずれかをデフォルト設定で使用するが、当業者であればこれらの設定を必要に応じて変更することができる。あるいは、当業者であれば、もたらされる同一性またはアラインメントのレベルが基準アルゴリズム及びプログラムによってもたらされるそのレベルと少なくとも同程度である別のアルゴリズムまたはコンピュータプログラムを利用することができる。例えば、J.D.Thomson et al,Nucl.Acids.Res.,“A comprehensive comparison of multiple sequence alignments”,27(13):2682-2690(1999)を参照されたい。
【0071】
I.rAAVベクター
上に示したとおり、新規AAVhu68配列及びタンパク質は、rAAVの生産において有用であり、アンチセンス送達ベクター、遺伝子療法ベクターまたはワクチンベクターであり得る組換えAAVベクターにおいても有用である。さらに、本明細書に記載の操作型AAVカプシド、例えば配列番号2のvp1カプシドタンパク質の付番に関する位置67、157または両方に突然変異アミノ酸を有するものは、多くの好適な核酸分子の標的細胞及び組織への送達のためにrAAVベクターを操作するために使用され得る。
【0072】
AAVカプシド内にパッケージングされ宿主細胞に送達されるゲノム配列は、典型的には、最低でも、導入遺伝子及びその調節配列、ならびにAAV末端逆位反復配列(ITR)からなる。一本鎖AAV及び自己相補性(sc)AAVはどちらもrAAVに包含される。導入遺伝子は、ベクター配列にとって異種である核酸コード配列であるが、これは、関心対象のポリペプチド、タンパク質、機能性RNA分子(例えば、miRNA、miRNA阻害薬)またはその他の遺伝子産物をコードするものである。核酸コード配列は、標的組織の細胞における導入遺伝子の転写、翻訳及び/または発現を可能にするように調節性構成要素に機能的に繋げられる。
【0073】
ベクターのAAV配列は典型的には、シス作用性5’及び3’末端逆位反復配列を含む(例えば、B.J.Carter,in“Handbook of Parvoviruses”,ed.,P.Tijsser,CRC Press,pp.155 168(1990)を参照のこと)。ITR配列は長さが約145bpである。ITRをコードする配列の実質的に全体が分子に使用されることが好ましいが、これらの配列のある程度の小さな改変は容認される。これらのITR配列を改変する能力は当業者の技量範囲内である(例えば、Sambrook et al,“Molecular Cloning.A Laboratory Manual”,2d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,New York(1989)、及びK. Fisher et al.,J.Virol.,70:520 532(1996)を参照のこと)。本発明において採用されるそのような分子の一例は、選択された導入遺伝子配列と関連する調節エレメントとが5’及び3’AAV ITR配列に挟まれた、導入遺伝子を含有する「シス作用性」プラスミドである。一実施形態では、ITRは、カプシドを供給しているものとは異なるAAVからのものである。一実施形態では、ITR配列はAAV2からのものである。ΔITRと呼ばれる、D-配列及び末端分解部位(trs)が欠失している5’ITRの短縮形態について教示がなされている。他の実施形態では、完全長のAAV 5’及び3’ITRが使用される。しかしながら、他のAAV源からのITRを選択してもよい。ITRの供給源がAAV2でありAAVカプシドが別のAAV源からのものである場合、結果として得られるベクターは、偽型化されていると呼称され得る。しかしながら、これらの要素の他の配置が好適である場合がある。
【0074】
組換えAAVベクターに関して上に特定した主要な要素に加えて、ベクターはさらに、本発明によって生産されプラスミドベクターがトランスフェクトされているかまたはウイルスに感染している細胞における導入遺伝子の転写、翻訳及び/または発現を可能にするように導入遺伝子に機能可能に繋げられた必要な一般的制御エレメントも含む。本明細書中で使用する場合、「機能可能に繋げられている」配列には、関心対象遺伝子と連続している発現制御配列と、トランスで、または遠くで作用して関心対象遺伝子を制御する発現制御配列との両方が含まれる。
【0075】
調節制御エレメントは典型的には、例えば選択された5’ITR配列とコード配列との間に位置する、発現制御配列の一部としてのプロモーター配列を含有する。恒常的プロモーター、調節可能なプロモーター[例えば、WO2011/126808及びWO2013/04943を参照のこと]、組織特異的プロモーター、または生理学的合図に応答するプロモーターを本明細書に記載のベクターに使用、利用してもよい。プロモーター(複数可)は種々の供給源、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)即時早期エンハンサー/プロモーター、SV40早期エンハンサー/プロモーター、JCポリオーマウイルス(polymovirus)プロモーター、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)またはグリア線維酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、単純ヘルペスウイルス(HSV-1)潜伏関連プロモーター(LAP)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)長鎖末端反復配列(LTR)プロモーター、神経特異的プロモーター(NSE)、血小板由来増殖因子(PDGF)プロモーター、hSYN、メラニン凝集ホルモン(MCH)プロモーター、CBA、マトリックスメタロプロテインプロモーター(MPP)及びニワトリβ-アクチンプロモーターから選択することができる。プロモーターに加えて、ベクターは、1つ以上の他の適切な転写開始、転写終結、エンハンサー配列、効率的RNAプロセシングシグナル、例えば、スプライシング及びポリアデニル化(ポリA)シグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列、例えばWPRE;翻訳効率を向上させる配列(すなわち、コザック共通配列);タンパク質安定性を向上させる配列;ならびに、所望により、コード産物の分泌を増進する配列を含有していてもよい。好適なエンハンサーの一例はCMVエンハンサーである。その他の好適なエンハンサーには、所望の標的組織兆候に適するものが含まれる。一実施形態では、発現カセットは1つ以上の発現エンハンサーを含む。一実施形態では、発現カセットは2つ以上の発現エンハンサーを含む。これらのエンハンサーは、同じであってもよいし、または互いに異なっていてもよい。例えば、エンハンサーはCMV即時早期エンハンサーを含み得る。このエンハンサーは、互いに隣接して位置する2コピーとして存在していてもよい。あるいは、エンハンサーの二重コピーは1つ以上の配列によって互いに隔てられていてもよい。さらに別の実施形態では、発現カセットはさらにイントロン、例えばニワトリベータアクチンイントロンを含有する。他の好適なイントロンとしては、当技術分野で知られているもの、例えば、WO2011/126808に記載されているものなどが挙げられる。好適なポリA配列の例としては、例えば、SV40、SV50、ウシ成長ホルモン(bGH)、ヒト成長ホルモン、及び合成ポリAが挙げられる。場合によって、mRNAを安定化させるために1つ以上の配列を選択してもよい。そのような配列の一例は改変型WPRE配列であるが、これは、ポリA配列の上流及びコード配列の下流において操作されたものであり得る[例えば、MA Zanta-Boussif,et al,Gene Therapy(2009)16:605-619を参照のこと]。
【0076】
これらのrAAVは、治療目的のための遺伝子送達、及び防御免疫性を誘導することを含めた免疫化に特によく適している。さらに、本発明の組成物を試験管内での所望の遺伝子産物の生産のために使用してもよい。試験管内生産の場合、所望の産物をコードする分子を含有するrAAVによる宿主細胞のトランスフェクション、及び発現を可能にする条件下での細胞培養物の培養の後に、所望の培養物から所望の産物(例えばタンパク質)が得られ得る。発現する産物はその後、所望により精製及び単離され得る。トランスフェクション、細胞培養、精製及び単離のための好適な技術は当業者に知られている。
【0077】
特定の実施形態では、本明細書において提供されるrAAVまたは組成物は抗インフルエンザ抗体または免疫グロブリン構築物を含有しない。特定の実施形態では、本明細書において提供されるrAAVまたは組成物はSMNコード配列を含有しない。
【0078】
治療用遺伝子及び遺伝子産物
導入遺伝子によってコードされる有用な産物には、欠乏もしくは欠損遺伝子を置き換えるか、望ましくない高レベルで発現している遺伝子の発現を不活性化もしくは「ノックアウト」させる、または「ノックダウン」もしくは減少させるか、または所望の治療効果を有する遺伝子産物を送達する、様々な遺伝子産物が含まれる。ほとんどの実施形態において治療は「体細胞遺伝子療法」、すなわち精子または卵子を産生しない身体細胞への遺伝子の移入であろう。特定の実施形態では、タンパク質を発現する導入遺伝子は天然ヒト配列の配列を有する。しかしながら、他の実施形態では、合成タンパク質が発現される。そのようなタンパク質は、ヒトの治療のために意図され得、他の実施形態ではイヌもしくはネコ集団などの愛玩動物を含めた動物の治療のために、または家畜、もしくはヒト集団と接触するその他の動物の治療のために、設計され得る。
【0079】
好適な遺伝子産物の例には、家族性高コレステロール血症、筋ジストロフィー、嚢胞性線維症、及び希少疾患またはオーファン疾患に関連するものが含まれ得る。そのような希少疾患の例には、数ある中でも、脊髄性筋萎縮症(SMA)、ハンチントン病、レット症候群(例えば、メチル-CpG結合タンパク質2(MeCP2);UniProtKB-P51608)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、フリードライヒ運動失調症(例えばフラタキシン)、プログラニュリン(PRGN)(前頭側頭型認知症(FTD)、進行性非流暢性失語(PNFA)及び意味性認知症を含めた非アルツハイマー型脳変性症に関連する)が含まれ得る。例えば、www.orpha.net/consor/cgi-bin/Disease_Search_List.php;rarediseases.info.nih.gov/diseasesを参照されたい。
【0080】
好適な遺伝子の例には、限定されないが例えばインスリン、グルカゴン、グルカゴン様ペプチド-1(GLP1)、成長ホルモン(GH)、副甲状腺ホルモン(PTH)、成長ホルモン放出因子(GRF)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、血管内皮成長因子(VEGF)、アンジオポエチン、アンジオスタチン、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、エリスロポエチン(EPO)(例えば、ヒト、イヌまたはネコのepoを含む)、結合組織成長因子(CTGF)、神経栄養因子、例えば、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン成長因子I及びII(IGF-I及びIGF-II)、形質転換増殖因子αのいずれか1つ、例えば、TGFα、アクチビン、インヒビン、または骨形成タンパク質(BMP)(BMP1~15のいずれか、成長因子のヘレグリン(heregluin)/ニューレグリン/ARIA/neu分化因子(NDF)ファミリーのいずれか1つ、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィンNT-3及びNT-4/5、毛様体神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、アグリン、セマフォリン/コラプシンのファミリーのいずれか1つ、ネトリン-1及びネトリン-2、肝細胞成長因子(HGF)、エフリン、ノギン、ソニックヘッジホッグならびにチロシン水酸化酵素を含めたホルモンならびに成長及び分化因子が含まれ得る。
【0081】
その他の有用な導入遺伝子産物には、免疫系を調節するタンパク質が含まれ、これには、限定されないが、サイトカイン及びリンフォカイン、例えばトロンボポエチン(TPO)、インターロイキン(IL)IL-1~IL-36(例えば、ヒトインターロイキンIL-1、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-6、IL-8、IL-12、IL-11、IL-12、IL-13、IL-18、IL-31、IL-35を含む)、単球走化性タンパク質、白血病抑制因子、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子、Fasリガンド、腫瘍壊死因子α及びβ、インターフェロンα、β及びγ、幹細胞因子、flk-2/flt3リガンドが含まれる。免疫系によって産生される遺伝子産物も本発明において有用である。これらとしては、限定されないが、免疫グロブリンIgG、IgM、IgA、IgD及びIgE、キメラ免疫グロブリン、ヒト化抗体、一本鎖抗体、T細胞受容体、キメラT細胞受容体、一本鎖T細胞受容体、クラスI及びクラスII MHC分子、ならびに操作型免疫グロブリン及びMHC分子が挙げられる。例えば、特定の実施形態では、rAAV抗体は、イヌまたはネコの抗体、例えば抗IgE、抗IL31、抗CD20、抗NGF、抗GnRHなどを送達するように設計され得る。有用な遺伝子産物には、補体調節タンパク質、例えば、補体調節タンパク質、膜補助因子タンパク質(MCP)、崩壊促進因子(DAF)、CR1、CF2、CD59及びC1エステラーゼ阻害薬(C1-INH)も含まれる。
【0082】
さらに他の有用な遺伝子産物は、ホルモン、成長因子、サイトカイン、リンフォカイン
、調節タンパク質及び免疫系タンパク質の受容体のいずれか1つを含む。本発明は、コレステロール調節及び/または脂質調整のための受容体、例えば、低比重リポタンパク質(LDL)受容体、高比重リポタンパク質(HDL)受容体、超低比重リポタンパク質(VLDL)受容体、及びスカベンジャー受容体を包含する。本発明はさらに、グルココルチコイド受容体及びエストロゲン受容体を含めたステロイドホルモン受容体スーパーファミリーのメンバー、ビタミンD受容体ならびにその他の核内受容体などの遺伝子産物も包含する。加えて、有用な遺伝子産物には、転写因子、例えば、jun、fos、max、mad、血清応答因子(SRF)、AP-1、AP2、myb、MyoD及びmyogenin、ETSボックス含有タンパク質、TFE3、E2F、ATF1、ATF2、ATF3、ATF4、ZF5、NFAT、CREB、HNF-4、C/EBP、SP1、CCAATボックス結合タンパク質、インターフェロン調節因子(IRF-1)、ウィルムス腫瘍タンパク質、ETS結合タンパク質、STAT、GATAボックス結合タンパク質、例えばGATA-3、ならびに翼状らせんタンパク質のフォークヘッドファミリーが含まれる。
【0083】
他の有用な遺伝子産物としては、カルバモイル合成酵素I、オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)、アルギノコハク酸合成酵素、アルギノコハク酸リアーゼ欠損症の治療のためのアルギノコハク酸リアーゼ(ASL)、アルギナーゼ、フマリルアセト酢酸加水分解酵素、フェニルアラニン水酸化酵素、α1アンチトリプシン、アカゲザルαフェトタンパク質(AFP)、アカゲザル絨毛性ゴナドトロフィン(CG)、グルコース-6-ホスファターゼ、ポルフォビリノーゲンデアミナーゼ、シスタチオンβ合成酵素、分岐鎖ケト酸脱炭酸酵素、アルブミン、イソ吉草酸CoA脱水素酵素、プロピオン酸CoAカルボキシラーゼ、メチルマロニルCoAムターゼ、グルタル酸CoA脱水素酵素、インスリン、β-グルコシダーゼ、ピルビン酸カルボキシラーゼ、肝ホスホリラーゼ、ホスホリラーゼキナーゼ、グリシン脱炭酸酵素、H-タンパク質、T-タンパク質、嚢胞性線維症膜通過制御(CFTR)配列、及びジストロフィン遺伝子産物[例えば、ミニまたはマイクロジストロフィン]が挙げられる。さらに他の有用な遺伝子産物には、酵素活性の欠乏に起因する様々な症状に有用な酵素、例えば酵素補充療法において有用となり得るものが含まれる。例えば、マンノース-6-ホスフェートを含有する酵素はリソソーム蓄積疾患のための療法に利用され得る(例えば、好適な遺伝子にはβ-グルクロニダーゼ(GUSB)をコードするものが含まれる)。
【0084】
特定の実施形態では、rAAVは遺伝子編集システムにおいて使用され得、このシステムは、1つのrAAV、または複数のrAAV材料の共投与を含むものであり得る。例えば、rAAVは、SpCas9、SaCas9、ARCUS、Cpf1及びその他の好適な遺伝子編集構築物を送達するように操作されていてもよい。
【0085】
さらに他の有用な遺伝子産物としては、血友病B(第IX因子を含む)及び血友病A(第VIII因子及びその変異型、例えば異種二量体の軽鎖及び重鎖ならびにB欠失ドメインを含む;米国特許第6,200,560号及び米国特許第6,221,349号)を含めた血友病の治療のために使用されるものが挙げられる。いくつかの実施形態では、ミニ遺伝子は10アミノ酸シグナル配列とヒト成長ホルモン(hGH)ポリアデニル化配列とをコードする第VIII因子重鎖の最初の57塩基対を含む。代替実施形態では、ミニ遺伝子はさらに、A1及びA2ドメイン、ならびにBドメインのN末端からの5アミノ酸、及び/またはBドメインのC末端の85アミノ酸、ならびにA3、C1及びC2ドメインを含む。さらに他の実施形態では、第VIII因子重鎖及び軽鎖をコードする核酸が、Bドメインの14アミノ酸をコードする42核酸によって隔てられて単一のミニ遺伝子として提供される[米国特許第6,200,560号]。
【0086】
他の有用な遺伝子産物としては、非天然由来ポリペプチド、例えば、挿入、欠失または
アミノ酸置換を含んでいる非天然由来アミノ酸配列を有するキメラまたはハイブリッドポリペプチドが挙げられる。例えば、一本鎖操作型免疫グロブリンは特定の免疫不全患者に有用となり得る。他のタイプの非天然由来遺伝子配列としては、標的の過剰発現を軽減するために使用され得るアンチセンス分子及び触媒核酸、例えばリボザイムが挙げられる。
【0087】
遺伝子の発現の軽減及び/または調節は、がん及び乾癬のように過剰増殖細胞によって特徴付けられる過剰増殖性の症状を治療するために特に望ましい。標的ポリペプチドには、正常細胞に比べて過剰増殖細胞で専ら、またはより高いレベルで産生されるポリペプチドが含まれる。標的抗原としては、myb、myc、fyn、及び転座遺伝子bcr/abl、ras、src、P53、neu、trk及びEGRFなどのがん遺伝子によってコードされるポリペプチドが挙げられる。標的抗原としてのがん遺伝子産物に加えて、抗がん治療及び保護的養生法のための標的ポリペプチドとしては、いくつかの実施形態において自己免疫疾患のための標的抗原としても使用される、B細胞リンパ腫によって作られる抗体の可変領域及びT細胞リンパ腫のT細胞受容体の可変領域が挙げられる。他の腫瘍関連ポリペプチドは、モノクローナル抗体17-1Aによって認識されるポリペプチド、及び葉酸結合ポリペプチドを含めて、腫瘍細胞においてより高いレベルでみられるポリペプチドなどの標的ポリペプチドとして使用され得る。
【0088】
他の好適な治療用ポリペプチド及びタンパク質としては、細胞受容体及び「自己」指向性抗体を産生する細胞を含めた自己免疫性に関連する標的に対する幅広い防御免疫応答を付与することによって自己免疫疾患及び障害に罹患している個体を治療するために有用となり得るものが挙げられる。T細胞媒介性自己免疫疾患としては、関節リウマチ(RA)、多発性硬化症(MS)、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、インスリン依存型真性糖尿病(IDDM)、自己免疫性甲状腺炎、反応性関節炎、強直性脊椎炎、強皮症、多発性筋炎、皮膚筋炎、乾癬、血管炎、ウェゲナー肉芽腫症、クローン病及び潰瘍性大腸炎が挙げられる。これらの疾患の各々は、内因性抗原に結合して自己免疫疾患に関連する炎症カスケードを開始するT細胞受容体(TCR)によって特徴付けられる。
【0089】
rAAVによって送達され得る遺伝子のさらなる例としては、限定されないが、グリコーゲン蓄積病または欠損症1A型(GSD1)に関連するグルコース-6-ホスファターゼ、PEPCK欠損症に関連するホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK);てんかん及び重度の神経発達障害に関連するセリン/スレオニンキナーゼ9(STK9)としても知られるサイクリン依存性キナーゼ様5(CDKL5);ガラクトース血症に関連するガラクトース-1リン酸ウリジルトランスフェラーゼ;フェニルケトン尿症(PKU)に関連するフェニルアラニン水酸化酵素;メープルシロップ尿症に関連する分岐鎖α-ケト酸脱水素脱水素酵素;チロシン血症1型に関連するフマリルアセト酢酸加水分解酵素;メチルマロン酸血症に関連するメチルマロニルCoAムターゼ;中鎖アセチルCoA欠損症に関連する中鎖アシルCoA脱水素酵素;オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症に関連するオルニチントランスカルバミラーゼ(OTC);シトルリン血症に関連するアルギニノコハク酸合成酵素(ASS1);レシチン-コレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症;メチルマロン酸血症(MMA);ニーマン・ピック病C1型);プロピオン酸血症(PA);家族性高コレステロール血症(FH)に関連する低比重リポタンパク質受容体(LDLR)タンパク質;クリグラー・ナジャー病に関連するUDP-グルクロン酸転移酵素;重症複合免疫不全疾患に関連するアデノシンデアミナーゼ;痛風及びレッシュ・ナイハン症候群に関連するヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ;ビオチミダーゼ欠損症に関連するビオチミダーゼ;ファブリー病に関連するα-ガラクトシダーゼA(a-Gal A);ウィルソン病に関連するATP7B;ゴーシェ病2型及び3型に関連するβ-グルコセレブロシダーゼ;ツェルベーガー症候群に関連するペルオキシソーム膜タンパク質70kDa;異染性白質ジストロフィーに関連するアリールスルファターゼA(ARSA)、クラッベ病に関連するガラクトセレブロシダーゼ(GALC)酵素、ポンペ病に関連するα-グルコシダーゼ(GAA);ニーマン・ピック病A型に関連するスフィンゴミエリナーゼ(SMPD1)遺伝子;成人発症II型シトルリン血症(CTLN2)に関連するアルギニノコハク酸合成酵素;尿素サイクル異常症に関連するカルバモイルリン酸合成酵素1(CPS1);脊髄性筋萎縮症に関連する運動神経細胞生存(SMN)タンパク質;ファーバー脂肪性肉芽腫症に関連するセラミダーゼ;GM2ガングリオシドーシス及びテイ・サックス病及びサンドホフ病に関連するb-ヘキソサミニダーゼ;アスパルチル-グルコサミン尿症に関連するアスパルチルグルコサミニダーゼ;フコシドーシスに関連するa-フコシダーゼ;α-マンノシドーシスに関連するα-マンノシダーゼ;急性間欠性ポルフィリン症(AIP)に関連するポルフォビリノーゲンデアミナーゼ;α-1アンチトリプシン欠損症(気腫)の治療のためのα-1アンチトリプシン;サラセミアまたは腎不全による貧血の治療のためのエリスロポエチン;虚血性疾患の治療のための血管内皮成長因子、アンジオポエチン-1及び線維芽細胞増殖因子;例えばアテローム性動脈硬化、血栓症または塞栓にみられるような閉塞血管の治療のためのトロンボモジュリン及び組織因子経路阻害薬;パーキンソン病の治療のための芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)及びチロシン水酸化酵素(TH);鬱血性心不全の治療のためのβアドレナリン受容体、ホスホランバンに対するアンチセンスまたは突然変異体形態、(筋)小胞体アデノシントリホスファターゼ-2(SERCA2)及び心臓型アデニル酸シクラーゼ;様々ながんの治療のためのp53などの腫瘍抑制遺伝子;炎症性及び免疫障害ならびにがんの治療のためのサイトカイン、例えば様々なインターロイキンのうちの1つ;筋ジストロフィーの治療のためのジストロフィンまたはミニジストロフィン及びユートロフィンまたはミニユートロフィン;ならびに糖尿病の治療のためのインスリンまたはGLP-1が挙げられる。
【0090】
関心対象となるさらなる遺伝子及び疾患としては、例えば、ジストニン遺伝子関係の疾患、例えば、遺伝性感覚自律神経ニューロパチーVI型(DST遺伝子はジストニンをコードする;タンパク質の大きさ(約7570aa)ゆえに二重にAAVベクターが必要とされる場合がある;機能喪失突然変異体が痛覚を感じる能力の欠如を招き機能獲得突然変異体が痛覚症状を招くSCN9A関係の疾患、例えば肢端紅痛症が挙げられる。もう1つの症状は、変わりやすい臨床的及び電気生理学的発現を伴う進行性の末梢運動感覚ニューロパチーによって特徴付けられる、NEFL遺伝子(ニューロフィラメント軽鎖)の突然変異に起因するシャルコー・マリー・トゥース病1F型及び2E型である。
【0091】
特定の実施形態では、本明細書に記載のrAAVはムコ多糖症(MPS)障害の治療に使用され得る。そのようなrAAVは、MPS I(ハーラー、ハーラー・シャイエ及びシャイエ症候群)を治療するためのα-L-イズロニダーゼ(IDUA)をコードする核酸配列;MPS II(ハーラー症候群)を治療するためのイズロン酸-2-スルファターゼ(IDS)をコードする核酸配列;MPSIII A、B、C及びD(サンフィリポ症候群)を治療するためのスルファミダーゼ(SGSH)をコードする核酸配列;MPS IV A及びB(モルキオ症候群)を治療するためのN-アセチルガラクトサミン-6-スルフェートスルファターゼ(GALNS)をコードする核酸配列;MPS VI(マロト-・ラミー症候群)を治療するためのアリールスルファターゼB(ARSB)をコードする核酸配列;MPSI IX(ヒアルロニダーゼ欠損症)を治療するためのヒアルロニダーゼをコードする核酸配列;ならびにMPS VII(スライ症候群)を治療するためのβ-グルクロニダーゼをコードする核酸配列を含有し保有し得る。
【0092】
免疫原性導入遺伝子
いくつかの実施形態では、がんに関連する遺伝子産物(例えば腫瘍抑制因子)をコードする核酸を含むrAAVベクターは、がんを有する対象にrAAVベクターを内包するrAAVを投与することによってがんを治療するために使用され得る。いくつかの実施形態では、がんに関連する遺伝子産物(がん遺伝子)の発現を阻害する低分子干渉核酸(例え
ば、shRNA、miRNA)をコードする核酸を含むrAAVベクターは、がんを有する対象にrAAVベクターを内包するrAAVを投与することによってがんを治療するために使用され得る。いくつかの実施形態では、がんに関連する遺伝子産物をコードする核酸(またはがんに関連する遺伝子の発現を阻害する機能性RNA)を含むrAAVベクターは、研究目的のために、例えばがんを研究するまたはがんを治療する療法を特定するために、使用され得る。がんの発症に関連することが知られている遺伝子(例えばがん遺伝子及び腫瘍抑制因子)の非限定的な例を以下に列挙する:AARS、ABCB1、ABCC4、ABI2、ABL1、ABL2、ACK1、ACP2、ACY1、ADSL、AK1、AKR1C2、AKT1、ALB、ANPEP、ANXA5、ANXA7、AP2M1、APC、ARHGAP5、ARHGEF5、ARID4A、ASNS、ATF4、ATM、ATP5B、ATP5O、AXL、BARD1、BAX、BCL2、BHLHB2、BLMH、BRAF、BRCA1、BRCA2、BTK、CANX、CAP1、CAPN1、CAPNS1、CAV1、CBFB、CBLB、CCL2、CCND1、CCND2、CCND3、CCNE1、CCT5、CCYR61、CD24、CD44、CD59、CDC20、CDC25、CDC25A、CDC25B、CDC2L5、CDK10、CDK4、CDK5、CDK9、CDKL1、CDKN1A、CDKN1B、CDKN1C、CDKN2A、CDKN2B、CDKN2D、CEBPG、CENPC1、CGRRF1、CHAF1A、CIB1、CKMT1、CLK1、CLK2、CLK3、CLNS1A、CLTC、COL1A1、COL6A3、COX6C、COX7A2、CRAT、CRHR1、CSF1R、CSK、CSNK1G2、CTNNA1、CTNNB1、CTPS、CTSC、CTSD、CUL1、CYR61、DCC、DCN、DDX10、DEK、DHCR7、DHRS2、DHX8、DLG3、DVL1、DVL3、E2F1、E2F3、E2F5、EGFR、EGR1、EIF5、EPHA2、ERBB2、ERBB3、ERBB4、ERCC3、ETV1、ETV3、ETV6、F2R、FASTK、FBN1、FBN2、FES、FGFR1、FGR、FKBP8、FN1、FOS、FOSL1、FOSL2、FOXG1A、FOXO1A、FRAP1、FRZB、FTL、FZD2、FZD5、FZD9、G22P1、GAS6、GCN5L2、GDF15、GNA13、GNAS、GNB2、GNB2L1、GPR39、GRB2、GSK3A、GSPT1、GTF2I、HDAC1、HDGF、HMMR、HPRT1、HRB、HSPA4、HSPA5、HSPA8、HSPB1、HSPH1、HYAL1、HYOU1、ICAM1、ID1、ID2、IDUA、IER3、IFITM1、IGF1R、IGF2R、IGFBP3、IGFBP4、IGFBP5、IL1B、ILK、ING1、IRF3、ITGA3、ITGA6、ITGB4、JAK1、JARID1A、JUN、JUNB、JUND、K-ALPHA-1、KIT、KITLG、KLK10、KPNA2、KRAS2、KRT18、KRT2A、KRT9、LAMB1、LAMP2、LCK、LCN2、LEP、LITAF、LRPAP1、LTF、LYN、LZTR1、MADH1、MAP2K2、MAP3K8、MAPK12、MAPK13、MAPKAPK3、MAPRE1、MARS、MAS1、MCC、MCM2、MCM4、MDM2、MDM4、MET、MGST1、MICB、MLLT3、MME、MMP1、MMP14、MMP17、MMP2、MNDA、MSH2、MSH6、MT3、MYB、MYBL1、MYBL2、MYC、MYCL1、MYCN、MYD88、MYL9、MYLK、NEO1、NF1、NF2、NFKB1、NFKB2、NFSF7、NID、NINE、NMBR、NME1、NME2、NME3、NOTCH1、NOTCH2、NOTCH4、NPM1、NQO1、NR1D1、NR2F1、NR2F6、NRAS、NRG1、NSEP1、OSM、PA2G4、PABPC1、PCNA、PCTK1、PCTK2、PCTK3、PDGFA、PDGFB、PDGFRA、PDPK1、PEA15、PFDN4、PFDN5、PGAM1、PHB、PIK3CA、PIK3CB、PIK3CG、PIM1、PKM2、PKMYT1、PLK2、PPARD、PPARG、PPIH、PPP1CA、PPP2R5A、PRDX2、PRDX4、PRKAR1A、PRKCBP1、PRNP、PRSS15、PSMA1、PTCH、PTEN、PTGS1、PTMA、PTN、PTPRN、R
AB5A、RAC1、RAD50、RAF1、RALBP1、RAP1A、RARA、RARB、RASGRF1、RB1、RBBP4、RBL2、REA、REL、RELA、RELB、RET、RFC2、RGS19、RHOA、RHOB、RHOC、RHOD、RIPK1、RPN2、RPS6 KB1、RRM1、SARS、SELENBP1、SEMA3C、SEMA4D、SEPP1、SERPINH1、SFN、SFPQ、SFRS7、SHB、SHH、SIAH2、SIVA、SIVA TP53、SKI、SKIL、SLC16A1、SLC1A4、SLC20A1、SMO、スフィンゴミエリンホスホジエステラーゼ1(SMPD1)、SNAI2、SND1、SNRPB2、SOCS1、SOCS3、SOD1、SORT1、SPINT2、SPRY2、SRC、SRPX、STAT1、STAT2、STAT3、STAT5B、STC1、TAF1、TBL3、TBRG4、TCF1、TCF7L2、TFAP2C、TFDP1、TFDP2、TGFA、TGFB1、TGFBI、TGFBR2、TGFBR3、THBS1、TIE、TIMP1、TIMP3、TJP1、TK1、TLE1、TNF、TNFRSF10A、TNFRSF10B、TNFRSF1A、TNFRSF1B、TNFRSF6、TNFSF7、TNK1、TOB1、TP53、TP53BP2、TP5313、TP73、TPBG、TPT1、TRADD、TRAM1、TRRAP、TSG101、TUFM、TXNRD1、TYRO3、UBC、UBE2L6、UCHL1、USP7、VDAC1、VEGF、VHL、VIL2、WEE1、WNT1、WNT2、WNT2B、WNT3、WNT5A、WT1、XRCC1、YES1、YWHAB、YWHAZ、ZAP70及びZNF9。
【0093】
rAAVベクターは、アポトーシスを調節するタンパク質または機能性RNAをコードする核酸を導入遺伝子として含み得る。アポトーシスに関連する遺伝子を以下に非限定的に列挙するが、これらの遺伝子及びそれらの相同体の産物をコードするならびにこれらの遺伝子及びそれらの相同体の発現を阻害する低分子干渉核酸(例えば、shRNA、miRNA)をコードする核酸は、本発明の特定の実施形態において導入遺伝子として有用である:RPS27A、ABL1、AKT1、APAF1、BAD、BAG1、BAG3、BAG4、BAK1、BAX、BCL10、BCL2、BCL2A1、BCL2L1、BCL2L10、BCL2L11、BCL2L12、BCL2L13、BCL2L2、BCLAF1、BFAR、BID、BIK、NAIP、BIRC2、BIRC3、XIAP、BIRC5、BIRC6、BIRC7、BIRC8、BNIP1、BNIP2、BNIP3、BNIP3L、BOK、BRAF、CARD10、CARD11、NLRC4、CARD14、NOD2、NOD1、CARD6、CARDS、CARDS、CASP1、CASP10、CASP14、CASP2、CASP3、CASP4、CASP5、CASP6、CASP7、CASP8、CASP9、CFLAR、CIDEA、CIDEB、CRADD、DAPK1、DAPK2、DFFA、DFFB、FADD、GADD45A、GDNF、HRK、IGF1R、LTA、LTBR、MCL1、NOL3、PYCARD、RIPK1、RIPK2、TNF、TNFRSF10A、TNFRSF10B、TNFRSF10C、TNFRSF10D、TNFRSF11B、TNFRSF12A、TNFRSF14、TNFRSF19、TNFRSF1A、TNFRSF1B、TNFRSF21、TNFRSF25、CD40、FAS、TNFRSF6B、CD27、TNFRSF9、TNFSF10、TNFSF14、TNFSF18、CD40LG、FASLG、CD70、TNFSF8、TNFSF9、TP53、TP53BP2、TP73、TP63、TRADD、TRAF1、TRAF2、TRAF3、TRAF4及びTRAF5。
【0094】
有用な遺伝子産物にはmiRNAも含まれる。miRNA及びその他の低分子干渉核酸は、標的RNA転写産物切断/分解または標的伝令RNA(mRNA)の翻訳抑制によって遺伝子発現を調節する。miRNAは、典型的には最終的に19~25非翻訳RNA産物として、天然に発現する。miRNAはその活性を標的mRNAの3’非翻訳領域(UTR)との配列特異的相互作用によって発揮する。これらの内因的に発現するmiRNA
は、後にプロセシングされてmiRNA二本鎖となりさらには「成熟」一本鎖miRNA分子となるヘアピン前駆体を形成する。この成熟miRNAは、標的mRNAの例えば3’UTR領域にある標的部位を成熟miRNAとの相補性に基づいて認識するものである多重タンパク質複合体miRISCを導く。
【0095】
以下に非限定的に列挙するmiRNA遺伝子及びそれらの相同体は、方法の特定の実施形態において遺伝子として、または遺伝子によってコードされる低分子干渉核酸(例えば、miRNA、スポンジ、アンチセンスオリゴヌクレオチド、TuD RNA)の標的として、有用である:hsa-let-7a、hsa-let-7a*、hsa-let-7b、hsa-let-7b*、hsa-let-7c、hsa-let-7c*、hsa-let-7d、hsa-let-7d*、hsa-let-7e、hsa-let-7e*、hsa-let-7f、hsa-let-7f-1*、hsa-let-7f-2*、hsa-let-7g、hsa-let-7g*、hsa-let-71、hsa-let-71*、hsa-miR-1、hsa-miR-100、hsa-miR-100*、hsa-miR-101、hsa-miR-101*、hsa-miR-103、hsa-miR-105、hsa-miR-105*、hsa-miR-106a、hsa-miR-106a*、hsa-miR-106b、hsa-miR-106b*、hsa-miR-107、hsa-miR-10a、hsa-miR-10a*、hsa-miR-10b、hsa-miR-10b*、hsa-miR-1178、hsa-miR-1179、hsa-miR-1180、hsa-miR-1181、hsa-miR-1182、hsa-miR-1183、hsa-miR-1184、hsa-miR-1185、hsa-miR-1197、hsa-miR-1200、hsa-miR-1201、hsa-miR-1202、hsa-miR-1203、hsa-miR-1204、hsa-miR-1205、hsa-miR-1206、hsa-miR-1207-3p、hsa-miR-1207-5p、hsa-miR-1208、hsa-miR-122、hsa-miR-122*、hsa-miR-1224-3p、hsa-miR-1224-5p、hsa-miR-1225-3p、hsa-miR-1225-5p、hsa-miR-1226、hsa-miR-1226*、hsa-miR-1227、hsa-miR-1228、hsa-miR-1228*、hsa-miR-1229、hsa-miR-1231、hsa-miR-1233、hsa-miR-1234、hsa-miR-1236、hsa-miR-1237、hsa-miR-1238、hsa-miR-124、hsa-miR-124*、hsa-miR-1243、hsa-miR-1244、hsa-miR-1245、hsa-miR-1246、hsa-miR-1247、hsa-miR-1248、hsa-miR-1249、hsa-miR-1250、hsa-miR-1251、hsa-miR-1252、hsa-miR-1253、hsa-miR-1254、hsa-miR-1255a、hsa-miR-1255b、hsa-miR-1256、hsa-miR-1257、hsa-miR-1258、hsa-miR-1259、hsa-miR-125a-3p、hsa-miR-125a-5p、hsa-miR-125b、hsa-miR-125b-1*、hsa-miR-125b-2*、hsa-miR-126、hsa-miR-126*、hsa-miR-1260、hsa-miR-1261、hsa-miR-1262、hsa-miR-1263、hsa-miR-1264、hsa-miR-1265、hsa-miR-1266、hsa-miR-1267、hsa-miR-1268、hsa-miR-1269、hsa-miR-1270、hsa-miR-1271、hsa-miR-1272、hsa-miR-1273、hsa-miR-127-3p、hsa-miR-1274a、hsa-miR-1274b、hsa-miR-1275、hsa-miR-127-5p、hsa-miR-1276、hsa-miR-1277、hsa-miR-1278、hsa-miR-1279、hsa-miR-128、hsa-miR-1280、hsa-miR-1281、hsa-miR-1282、hsa-miR-1283、hsa-miR-1284、hsa-miR-1285、
hsa-miR-1286、hsa-miR-1287、hsa-miR-1288、hsa-miR-1289、hsa-miR-129*、hsa-miR-1290、hsa-miR-1291、hsa-miR-1292、hsa-miR-1293、hsa-miR-129-3p、hsa-miR-1294、hsa-miR-1295、hsa-miR-129-5p、hsa-miR-1296、hsa-miR-1297、hsa-miR-1298、hsa-miR-1299、hsa-miR-1300、hsa-miR-1301、hsa-miR-1302、hsa-miR-1303、hsa-miR-1304、hsa-miR-1305、hsa-miR-1306、hsa-miR-1307、hsa-miR-1308、hsa-miR-130a、hsa-miR-130a*、hsa-miR-130b、hsa-miR-130b*、hsa-miR-132、hsa-miR-132*、hsa-miR-1321、hsa-miR-1322、hsa-miR-1323、hsa-miR-1324、hsa-miR-133a、hsa-miR-133b、hsa-miR-134、hsa-miR-135a、hsa-miR-135a*、hsa-miR-135b、hsa-miR-135b*、hsa-miR-136、hsa-miR-136*、hsa-miR-137、hsa-miR-138、hsa-miR-138-1*、hsa-miR-138-2*、hsa-miR-139-3p、hsa-miR-139-5p、hsa-miR-140-3p、hsa-miR-140-5p、hsa-miR-141、hsa-miR-141*、hsa-miR-142-3p、hsa-miR-142-5p、hsa-miR-143、hsa-miR-143*、hsa-miR-144、hsa-miR-144*、hsa-miR-145、hsa-miR-145*、hsa-miR-146a、hsa-miR-146a*、hsa-miR-146b-3p、hsa-miR-146b-5p、hsa-miR-147、hsa-miR-147b、hsa-miR-148a、hsa-miR-148a*、hsa-miR-148b、hsa-miR-148b*、hsa-miR-149、hsa-miR-149*、hsa-miR-150、hsa-miR-150*、hsa-miR-151-3p、hsa-miR-151-5p、hsa-miR-152、hsa-miR-153、hsa-miR-154、hsa-miR-154*、hsa-miR-155、hsa-miR-155*、hsa-miR-15a、hsa-miR-15a*、hsa-miR-15b、hsa-miR-15b*、hsa-miR-16、hsa-miR-16-1*、hsa-miR-16-2*、hsa-miR-17、hsa-miR-17*、hsa-miR-181a、hsa-miR-181a*、hsa-miR-181a-2*、hsa-miR-181b、hsa-miR-181c、hsa-miR-181c*、hsa-miR-181d、hsa-miR-182、hsa-miR-182*、hsa-miR-1825、hsa-miR-1826、hsa-miR-1827、hsa-miR-183、hsa-miR-183*、hsa-miR-184、hsa-miR-185、hsa-miR-185*、hsa-miR-186、hsa-miR-186*、hsa-miR-187、hsa-miR-187*、hsa-miR-188-3p、hsa-miR-188-5p、hsa-miR-18a、hsa-miR-18a*、hsa-miR-18b、hsa-miR-18b*、hsa-miR-190、hsa-miR-190b、hsa-miR-191、hsa-miR-191*、hsa-miR-192、hsa-miR-192*、hsa-miR-193a-3p、hsa-miR-193a-5p、hsa-miR-193b、hsa-miR-193b*、hsa-miR-194、hsa-miR-194*、hsa-miR-195、hsa-miR-195*、hsa-miR-196a、hsa-miR-196a*、hsa-miR-196b、hsa-miR-197、hsa-miR-198、hsa-miR-199a-3p、hsa-miR-199a-5p、hsa-miR-199b-5p、hsa-miR-19a、hsa-miR-19a*、hsa-miR-19b、hsa-miR-19b-1*、hsa-miR-19b-2*、hsa-miR-200a、hsa-miR-200a*、hsa-miR-200b、hsa-miR
-200b*、hsa-miR-200c、hsa-miR-200c*、hsa-miR-202、hsa-miR-202*、hsa-miR-203、hsa-miR-204、hsa-miR-205、hsa-miR-206、hsa-miR-208a、hsa-miR-208b、hsa-miR-20a、hsa-miR-20a*、hsa-miR-20b、hsa-miR-20b*、hsa-miR-21、hsa-miR-21*、hsa-miR-210、hsa-miR-211、hsa-miR-212、hsa-miR-214、hsa-miR-214*、hsa-miR-215、hsa-miR-216a、hsa-miR-216b、hsa-miR-217、hsa-miR-218、hsa-miR-218-1*、hsa-miR-218-2*、hsa-miR-219-l-3p、hsa-miR-219-2-3p、hsa-miR-219-5p、hsa-miR-22、hsa-miR-22*、hsa-miR-220a、hsa-miR-220b、hsa-miR-220c、hsa-miR-221、hsa-miR-221*、hsa-miR-222、hsa-miR-222*、hsa-miR-223、hsa-miR-223*、hsa-miR-224、hsa-miR-23a、hsa-miR-23a*、hsa-miR-23b、hsa-miR-23b*、hsa-miR-24、hsa-miR-24-1*、hsa-miR-24-2*、hsa-miR-25、hsa-miR-25*、hsa-miR-26a、hsa-miR-26a-l*、hsa-miR-26a-2*、hsa-miR-26b、hsa-miR-26b*、hsa-miR-27a、hsa-miR-27a*、hsa-miR-27b、hsa-miR-27b*、hsa-miR-28-3p、hsa-miR-28-5p、hsa-miR-296-3p、hsa-miR-296-5p、hsa-miR-297、hsa-miR-298、hsa-miR-299-3p、hsa-miR-299-5p、hsa-miR-29a、hsa-miR-29a*、hsa-miR-29b、hsa-miR-296-1*、hsa-miR-296-2*、hsa-miR-29c、hsa-miR-29c*、hsa-miR-300、hsa-nuR-301a、hsa-miR-301b、hsa-miR-302a、hsa-miR-302a*、hsa-miR-302b、hsa-miR-302b*、hsa-miR-302c、hsa-miR-302c*、hsa-miR-302d、hsa-miR-302d*、hsa-miR-302e、hsa-miR-302f、hsa-miR-30a、hsa-miR-30a*、hsa-miR-30b、hsa-miR-30b*、hsa-miR-30c、hsa-miR-30c-l*、hsa-miR-30c-2*、hsa-miR-30d、hsa-miR-30d*、hsa-miR-30e、hsa-miR-30e*、hsa-miR-31、hsa-miR-31*、hsa-miR-32、hsa-miR-32*、hsa-miR-320a、hsa-miR-320b、hsa-miR-320c、hsa-miR-320d、hsa-miR-323-3p、hsa-miR-323-5p、hsa-miR-324-3p、hsa-miR-324-5p、hsa-miR-325、hsa-miR-326、hsa-miR-328、hsa-miR-329、hsa-miR-330-3p、hsa-miR-330-5p、hsa-miR-331-3p、hsa-miR-331-5p、hsa-miR-335、hsa-miR-335*、hsa-miR-337-3p、hsa-miR-337-5p、hsa-miR-338-3p、hsa-miR-338-5p、hsa-miR-339-3p、hsa-miR-339-5p、hsa-miR-33a、hsa-nuR-33a*、hsa-miR-33b、hsa-miR-33b*、hsa-miR-340、hsa-miR-340*、hsa-miR-342-3p、hsa-miR-342-5p、hsa-miR-345、hsa-miR-346、hsa-miR-34a、hsa-miR-34a*、hsa-miR-34b、hsa-miR-34b*、hsa-miR-34c-3p、hsa-miR-34c-5p、hsa-miR-361-3p、hsa-miR-361-5p、hsa-miR-362-3p、hsa-miR-362-5p、hsa-miR-363、hsa-miR-363*、hsa-miR-365、hsa-miR-3
67、hsa-miR-367*、hsa-miR-369-3p、hsa-miR-369-5p、hsa-miR-370、hsa-miR-371-3p、hsa-miR-371-5p、hsa-miR-372、hsa-miR-373、hsa-miR-373*、hsa-miR-374a、hsa-miR-374a*、hsa-miR-374b、hsa-miR-374b*、hsa-miR-375、hsa-miR-376a、hsa-miR-376a*、hsa-miR-376b、hsa-miR-376c、hsa-miR-377、hsa-miR-377*、hsa-miR-378、hsa-miR-378*、hsa-miR-379、hsa-miR-379*、hsa-miR-380、hsa-miR-380*、hsa-miR-381、hsa-miR-382、hsa-miR-383、hsa-miR-384、hsa-miR-409-3p、hsa-miR-409-5p、hsa-miR-410、hsa-miR-411、hsa-miR-411*、hsa-miR-412、hsa-miR-421、hsa-miR-422a、hsa-miR-423-3p、hsa-miR-423-5p、hsa-miR-424、hsa-miR-424*、hsa-miR-425、hsa-miR-425*、hsa-miR-429、hsa-miR-431、hsa-miR-431*、hsa-miR-432、hsa-miR-432*、hsa-miR-433、hsa-miR-448、hsa-miR-449a、hsa-miR-449b、hsa-miR-450a、hsa-miR-450b-3p、hsa-miR-450b-5p、hsa-miR-451、hsa-miR-452、hsa-miR-452*、hsa-miR-453、hsa-miR-454、hsa-miR-454*、hsa-miR-455-3p、hsa-miR-455-5p、hsa-miR-483-3p、hsa-miR-483-5p、hsa-miR-484、hsa-miR-485-3p、hsa-miR-485-5p、hsa-miR-486-3p、hsa-miR-486-5p、hsa-miR-487a、hsa-miR-487b、hsa-miR-488、hsa-miR-488*、hsa-miR-489、hsa-miR-490-3p、hsa-miR-490-5p、hsa-miR-491-3p、hsa-miR-491-5p、hsa-miR-492、hsa-miR-493、hsa-miR-493*、hsa-miR-494、hsa-miR-495、hsa-miR-496、hsa-miR-497、hsa-miR-497*、hsa-miR-498、hsa-miR-499-3p、hsa-miR-499-5p、hsa-miR-500、hsa-miR-500*、hsa-miR-501-3p、hsa-miR-501-5p、hsa-miR-502-3p、hsa-miR-502-5p、hsa-miR-503、hsa-miR-504、hsa-miR-505、hsa-miR-505*、hsa-miR-506、hsa-miR-507、hsa-miR-508-3p、hsa-miR-508-5p、hsa-miR-509-3-5p、hsa-miR-509-3p、hsa-miR-509-5p、hsa-miR-510、hsa-miR-511、hsa-miR-512-3p、hsa-miR-512-5p、hsa-miR-513a-3p、hsa-miR-513a-5p、hsa-miR-513b、hsa-miR-513c、hsa-miR-514、hsa-miR-515-3p、hsa-miR-515-5p、hsa-miR-516a-3p、hsa-miR-516a-5p、hsa-miR-516b、hsa-miR-517*、hsa-miR-517a、hsa-miR-517b、hsa-miR-517c、hsa-miR-518a-3p、hsa-miR-518a-5p、hsa-miR-518b、hsa-miR-518c、hsa-miR-518c*、hsa-miR-518d-3p、hsa-miR-518d-5p、hsa-miR-518e、hsa-miR-518e*、hsa-miR-518f、hsa-miR-518f*、hsa-miR-519a、hsa-miR-519b-3p、hsa-miR-519c-3p、hsa-miR-519d、hsa-miR-519e、hsa-miR-519e*、hsa-miR-520a-3p、hsa-miR-520a-5p、hsa-miR-520b、hsa-miR-520c-3p、hsa-miR-
520d-3p、hsa-miR-520d-5p、hsa-miR-520e、hsa-miR-520f、hsa-miR-520g、hsa-miR-520h、hsa-miR-521、hsa-miR-522、hsa-miR-523、hsa-miR-524-3p、hsa-miR-524-5p、hsa-miR-525-3p、hsa-miR-525-5p、hsa-miR-526b、hsa-miR-526b*、hsa-miR-532-3p、hsa-miR-532-5p、hsa-miR-539、hsa-miR-541、hsa-miR-541*、hsa-miR-542-3p、hsa-miR-542-5p、hsa-miR-543、hsa-miR-544、hsa-miR-545、hsa-miR-545*.hsa-miR-548a-3p、hsa-miR-548a-5p、hsa-miR-548b-3p、hsa-miR-5486-5p、hsa-miR-548c-3p、hsa-miR-548c-5p、hsa-miR-548d-3p、hsa-miR-548d-5p、hsa-miR-548e、hsa-miR-548f、hsa-miR-548g、hsa-miR-548h、hsa-miR-548i、hsa-miR-548j、hsa-miR-548k、hsa-miR-5481、hsa-miR-548m、hsa-miR-548n、hsa-miR-548o、hsa-miR-548p、hsa-miR-549、hsa-miR-550、hsa-miR-550*、hsa-miR-55la、hsa-miR-551b、hsa-miR-551b*.hsa-miR-552、hsa-miR-553、hsa-miR-554、hsa-miR-555、hsa-miR-556-3p、hsa-miR-556-5p、hsa-miR-557、hsa-miR-558、hsa-miR-559、hsa-miR-561、hsa-miR-562、hsa-miR-563、hsa-miR-564、hsa-miR-566、hsa-miR-567、hsa-miR-568、hsa-miR-569、hsa-miR-570、hsa-miR-571、hsa-miR-572、hsa-miR-573、hsa-miR-574-3p、hsa-miR-574-5p、hsa-miR-575、hsa-miR-576-3p、hsa-miR-576-5p、hsa-miR-577、hsa-miR-578、hsa-miR-579、hsa-miR-580、hsa-miR-581、hsa-miR-582-3p、hsa-miR-582-5p、hsa-miR-583、hsa-miR-584、hsa-miR-585、hsa-miR-586、hsa-miR-587、hsa-miR-588、hsa-miR-589、hsa-miR-589*、hsa-miR-590-3p、hsa-miR-590-5p、hsa-miR-591、hsa-miR-592、hsa-miR-593、hsa-miR-593*、hsa-miR-595、hsa-miR-596、hsa-miR-597、hsa-miR-598、hsa-miR-599、hsa-miR-600、hsa-miR-601、hsa-miR-602、hsa-miR-603、hsa-miR-604、hsa-miR-605、hsa-miR-606、hsa-miR-607、hsa-miR-608、hsa-miR-609、hsa-miR-610、hsa-miR-611、hsa-miR-612、hsa-miR-613、hsa-miR-614、hsa-miR-615-3p、hsa-miR-615-5p、hsa-miR-616、hsa-miR-616*、hsa-miR-617、hsa-miR-618、hsa-miR-619、hsa-miR-620、hsa-miR-621、hsa-miR-622、hsa-miR-623、hsa-miR-624、hsa-miR-624*、hsa-miR-625、hsa-miR-625*、hsa-miR-626、hsa-miR-627、hsa-miR-628-3p、hsa-miR-628-5p、hsa-miR-629、hsa-miR-629*、hsa-miR-630、hsa-miR-631、hsa-miR-632、hsa-miR-633、hsa-miR-634、hsa-miR-635、hsa-miR-636、hsa-miR-637、hsa-miR-638、hsa-miR-639、hsa-miR-640、hsa-miR-641、hsa-miR-642、hsa-miR-643、hsa-miR-644、hsa-miR-64
5、hsa-miR-646、hsa-miR-647、hsa-miR-648、hsa-miR-649、hsa-miR-650、hsa-miR-651、hsa-miR-652、hsa-miR-653、hsa-miR-654-3p、hsa-miR-654-5p、hsa-miR-655、hsa-miR-656、hsa-miR-657、hsa-miR-658、hsa-miR-659、hsa-miR-660、hsa-miR-661、hsa-miR-662、hsa-miR-663、hsa-miR-663b、hsa-miR-664、hsa-miR-664*、hsa-miR-665、hsa-miR-668、hsa-miR-671-3p、hsa-miR-671-5p、hsa-miR-675、hsa-miR-7、hsa-miR-708、hsa-miR-708*、hsa-miR-7-1*、hsa-miR-7-2*、hsa-miR-720、hsa-miR-744、hsa-miR-744*、hsa-miR-758、hsa-miR-760、hsa-miR-765、hsa-miR-766、hsa-miR-767-3p、hsa-miR-767-5p、hsa-miR-768-3p、hsa-miR-768-5p、hsa-miR-769-3p、hsa-miR-769-5p、hsa-miR-770-5p、hsa-miR-802、hsa-miR-873、hsa-miR-874、hsa-miR-875-3p、hsa-miR-875-5p、hsa-miR-876-3p、hsa-miR-876-5p、hsa-miR-877、hsa-miR-877*、hsa-miR-885-3p、hsa-miR-885-5p、hsa-miR-886-3p、hsa-miR-886-5p、hsa-miR-887、hsa-miR-888、hsa-miR-888*、hsa-miR-889、hsa-miR-890、hsa-miR-891a、hsa-miR-891b、hsa-miR-892a、hsa-miR-892b、hsa-miR-9、hsa-miR-9*、hsa-miR-920、hsa-miR-921、hsa-miR-922、hsa-miR-923、hsa-miR-924、hsa-miR-92a、hsa-miR-92a-1*、hsa-miR-92a-2*、hsa-miR-92b、hsa-miR-92b*、hsa-miR-93、hsa-miR-93*、hsa-miR-933、hsa-miR-934、hsa-miR-935、hsa-miR-936、hsa-miR-937、hsa-miR-938、hsa-miR-939、hsa-miR-940、hsa-miR-941、hsa-miR-942、hsa-miR-943、hsa-miR-944、hsa-miR-95、hsa-miR-96、hsa-miR-96*、hsa-miR-98、hsa-miR-99a、hsa-miR-99a*、hsa-miR-99b、及びhsa-miR-99b*。例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に関連するスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)を発現する8番染色体オープンリーディングフレーム72(C9orf72)を標的とするmiRNAは関心対象となり得る。
【0096】
miRNAは、その標的となるmRNAの機能を阻害し、その結果、mRNAによってコードされるポリペプチドの発現を阻害する。したがって、miRNAの活性を(部分的または完全に)遮断すること(miRNAをサイレンシングすること)で、発現が阻害されているポリペプチドの発現を効果的に誘導または回復する(ポリペプチドの抑制解除をする)ことができる。一実施形態では、miRNAのmRNA標的によってコードされるポリペプチドの抑制解除は、様々な方法のうちのいずれか1つによって細胞におけるmiRNA活性を阻害することによって成し遂げられる。例えば、miRNAの活性を遮断することは、miRNAに相補的または実質的に相補的な低分子干渉核酸(例えば、アンチセンスオリゴヌクレオチド、miRNAスポンジ、TuD RNA)によるハイブリダイゼーションを行いそれによってmiRNAとその標的mRNAとの相互作用を遮断することによって成し遂げられ得る。本明細書中で使用する場合、miRNAに実質的に相補的な低分子干渉核酸とは、miRNAとハイブリダイズしてmiRNAの活性を遮断することができるもののことである。いくつかの実施形態では、miRNAに実質的に相補的な低分子干渉核酸は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、1
4、15、16、17または18個の塩基を除く全てにおいてmiRNAと相補的である低分子干渉核酸である。「miRNA阻害薬」は、miRNAの機能、発現及び/またはプロセシングを遮断する薬剤である。例えば、これらの分子としては、限定されないが、マイクロRNA特異的アンチセンス、マイクロRNAスポンジ、タフデコイRNA(TuD RNA)、及びmiRNAとDrosha複合体との相互作用を阻害するマイクロRNAオリゴヌクレオチド(二本鎖ヘアピンの短いオリゴヌクレオチド)が挙げられる。
【0097】
さらに他の有用な遺伝子には、病原体に受動免疫を付与する免疫グロブリンをコードするものが含まれ得る。「免疫グロブリン分子」は、共有結合的に連結され合った免疫グロブリン重鎖及び免疫グロブリン軽鎖の免疫学的活性部分を含有し抗原に特異的に結合するタンパク質である。免疫グロブリン分子は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)またはサブクラスのものである。「抗体」及び「免疫グロブリン」という用語は、本明細書において交換可能に使用され得る。
【0098】
「免疫グロブリン重鎖」は、免疫グロブリンの抗原結合ドメインの少なくとも一部と、免疫グロブリン重鎖の可変領域の少なくとも一部または免疫グロブリン重鎖の定常領域の少なくとも一部とを含有するポリペプチドである。したがって、免疫グロブリン由来重鎖は、免疫グロブリン遺伝子スーパーファミリーのメンバーとのアミノ酸配列相同性を有する重要な領域を有する。例えば、Fab断片中の重鎖は免疫グロブリン由来重鎖である。
【0099】
「免疫グロブリン軽鎖」は、免疫グロブリンの抗原結合ドメインの少なくとも一部と、免疫グロブリン軽鎖の可変領域の少なくとも一部または定常領域の少なくとも一部とを含有するポリペプチドである。したがって、免疫グロブリン由来軽鎖は、免疫グロブリン遺伝子スーパーファミリーのメンバーとのアミノ酸相同性を有する重要な領域を有する。
【0100】
「イムノアドヘシン」は、大抵において受容体、リガンドまたは細胞接着分子である結合タンパク質の機能性ドメインと、ヒンジ及びFc領域を大抵含んでいる免疫グロブリン定常ドメインとを結合させる、キメラ抗体様分子である。
【0101】
「抗原結合性断片」(Fab)断片」は、抗原に結合する抗体上の領域である。それは、重軽鎖の各々の1つの定常ドメイン及び1つの可変ドメインからなる。
【0102】
抗病原体構築物は、防御が探究されている疾患の原因物質(病原体)に基づいて選択される。これらの病原体は、ウイルス、細菌または真菌に由来するものであり得、ヒト疾患に抗してヒトにおいて、または獣医学的疾患を予防するために非ヒト哺乳動物もしくはその他の動物において、感染を防止するために使用され得る。
【0103】
rAAVは、抗体、詳しくはウイルス性病原体に対する中和抗体をコードする遺伝子を含み得る。そのような抗ウイルス抗体には、インフルエンザA、インフルエンザB及びインフルエンザCのうちの1つ以上を指向する抗インフルエンザ抗体が含まれ得る。A型ウイルスは、最も毒性の強いヒト病原体である。流行病に関連付けられたインフルエンザAの血清型としては、1918年のスペイン風邪及び2009年の豚インフルエンザを引き起こしたH1N1;1957年にアジア風邪を引き起こしたH2N2;1968年に香港風邪を引き起こしたH3N2;2004年に鳥インフルエンザを引き起こしたH5N1;H7N7;H1N2;H9N2;H7N2;H7N3及びH10N7が挙げられる。その他の標的病原体ウイルスとしては、アレナウイルス(フニン、マチュポ及びラッサを含む)、フィロウイルス(マールブルグ及びエボラを含む)、ハンタウイルス、ピコルナウイルス科(ライノウイルス、エコーウイルスを含む)、コロナウイルス、パラミクソウイルス、モルビリウイルス、呼吸器合胞体ウイルス、トガウイルス、コクサッキーウイルス、
JCウイルス、パルボウイルスB19、パラインフルエンザ、アデノウイルス、レオウイルス、ポックスウイルス科由来の痘瘡(大痘瘡(天然痘))及びワクチニア(牛痘)、ならびに水痘帯状疱疹(仮性狂犬病)が挙げられる。ウイルス性出血熱はアレナウイルス科(この科はリンパ球性脈絡髄膜炎(LCM)との関連もある)のメンバー(ラッサ熱)、フィロウイルス(エボラウイルス)及びハンタウイルス(プーマラ(puremala))によって引き起こされる。ピコルナウイルス(ライノウイルスの亜科)のメンバーは、ヒトにおける一般的な風邪に関連している。コロナウイルス科は、感染性気管支炎ウイルス(家禽)、豚伝染性胃腸炎ウイルス(ブタ)、豚血液凝集性脳脊髄炎ウイルス(ブタ)、猫感染性腹膜炎ウイルス(ネコ)、猫腸コロナウイルス(ネコ)、犬コロナウイルス(イヌ)などの多くの非ヒトウイルスを含む。ヒト呼吸器コロナウイルスは、推定上は一般的な風邪、A、BまたはC型でない肝炎、及び突発性急性呼吸器症候群(SARS)に関連付けられている。パラミクソウイルス科は、パラインフルエンザウイルス1型、パラインフルエンザウイルス3型、ウシパラインフルエンザウイルス3型、ルブラウイルス(おたふく風邪ウイルス、パラインフルエンザウイルス2型、パラインフルエンザウイルス4型、ニューカッスル病ウイルス(ニワトリ)、牛疫、モルビリウイルス(麻疹及び犬ジステンパーを含む)、及びニューモウイルス(呼吸器合胞体ウイルス(RSV)を含む)を含む。パルボウイルス科は、猫パルボウイルス(猫腸炎)、猫汎白血球減少症ウイルス、犬パルボウイルス及び豚パルボウイルスを含む。アデノウイルス科は、呼吸器疾患を引き起こすウイルス(EX、AD7、ARD、O.B.)を含む。かくして、特定の実施形態では、本明細書に記載のrAAVベクターは、抗エボラ抗体、例えば、2G4、4G7、13C6、抗インフルエンザ抗体、例えば、FI6、CF8033、及び抗RSV抗体、例えば、パリビズマブ、モタビズマブを発現するように操作され得る。
【0104】
また、細菌性病原体に対する中和抗体構築物を本発明における使用のために選択してもよい。一実施形態では、中和抗体構築物は細菌自体を指向する。別の実施形態では、中和抗体構築物は細菌によって産生される毒素を指向する。空気感染性細菌性病原体の例としては、例えば、Neisseria meningitidis(髄膜炎)、Klebsiella pneumonia(肺炎)、Pseudomonas aeruginosa(肺炎)、Pseudomonas pseudomallei(肺炎)、Pseudomonas mallei(肺炎)、Acinetobacter(肺炎)、Moraxella catarrhalis、Moraxella lacunata、Alkaligenes、Cardiobacterium、Haemophilus influenzae(風邪)、Haemophilus parainfluenzae、Bordetella pertussis(百日咳)、Francisella tularensis(肺炎/熱)、Legionella pneumonia(レジオネラ病)、Chlamydia psittaci(肺炎)、Chlamydia pneumoniae(肺炎)、Mycobacterium tuberculosis(結核(TB))、Mycobacterium kansasii(TB)、Mycobacterium avium(肺炎)、Nocardia asteroides(肺炎)、Bacillus anthracis(炭疽病)、Staphylococcus
aureus(肺炎)、Streptococcus pyogenes(猩紅熱)、Streptococcus pneumoniae(肺炎)、Corynebacteria diphtheria(ジフテリア)、Mycoplasma pneumoniae(肺炎)が挙げられる。
【0105】
rAAVは、抗体、詳しくは、炭疽病の原因物質、Bacillius anthracisによって産生される毒素などの細菌性病原体に対する中和抗体をコードする遺伝子を含み得る。類毒素を形成する3つのペプチドのうちの1つである防御物質(PA)に対する中和抗体についての教示はなされている。その他の2つのポリペプチドは、致死因子(LF)及び浮腫因子(EF)を構成する。抗PA中和抗体は、炭疽病に対する受動免疫
化において有効であることが教示されている。例えば、米国特許第7,442,373号、R.Sawada-Hirai et al,J Immune Based Ther Vaccines.2004;2:5(オンラインで2004年5月12日)を参照されたい。さらに他の抗炭疽病毒素中和抗体は教示がなされている、及び/または作り出される可能性がある。同様に、他の細菌及び/または細菌性毒素に対する中和抗体を使用して本明細書に記載のAAV送達される抗病原体構築物が作り出され得る。
【0106】
感染性疾患に対する抗体は、寄生虫または真菌、例えば、Aspergillus種、Absidia corymbifera、Rhixpus stolonifer、Mucor plumbeaus、Cryptococcus neoformans、Histoplasm capsulatum、Blastomyces dermatitidis、Coccidioides immitis、Penicillium種、Micropolyspora faeni、Thermoactinomyces vulgaris、Alternaria alternate、Cladosporium種、Helminthosporium、及びStachybotrys種によって引き起こされる得る。
【0107】
rAAVは、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、GBA-パーキンソン病、関節リウマチ(RA)、過敏性腸症候群(IBS)、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、がん、腫瘍、全身性強皮症、喘息及びその他の疾患などの疾患の病原性因子に対する抗体、詳しくは中和抗体をコードする遺伝子を含み得る。そのような抗体は、限定されないが例えば、α-シヌクレイン、抗血管内皮成長因子(VEGF)(抗VEGF)、抗VEGFA、抗PD-1、抗PDL1、抗CTLA-4、抗TNFα、抗IL-17、抗IL-23、抗IL-21、抗IL-6、抗IL-6受容体、抗IL-5、抗IL-7、抗第XII因子、抗IL-2、抗HIV、抗IgE、抗腫瘍壊死因子受容体-1(TNFR1)、抗notch2/3、抗notch1、抗OX40、抗erb-b2受容体チロシンキナーゼ3(ErbB3)、抗ErbB2、抗β細胞成熟抗原、抗Bリンパ球刺激因子、抗CD20、抗HER2、抗顆粒球マクロファージコロニー刺激因子、抗オンコスタチンM(OSM)、抗リンパ球活性化遺伝子3(LAG3)タンパク質、抗CCL20、抗血清アミロイドP成分(SAP)、抗プロリン水酸化酵素阻害物質、抗CD38、抗糖タンパク質IIb/IIIa、抗CD52、抗CD30、抗IL-1β、抗上皮成長因子受容体、抗CD25、抗RANKリガンド、抗補体系タンパク質C5、抗CD11a、抗CD3受容体、抗アルファ-4(α4)インテグリン、抗RSV Fタンパク質、及び抗インテグリンα4β7であり得る。さらに他の病原体及び疾患は当業者に明らかであろう。他の好適な抗体には、アルツハイマー病を治療するために有用なもの、例えば、数ある中でも、抗βアミロイド(例えば、クレネズマブ、ソラネズマブ、アデュカヌマブ)、抗βアミロイド線維、抗βアミロイド斑、抗tau、バピネオズマブなどが含まれ得る。様々な兆候を治療するための他の好適な抗体には、例えば、2016年10月27日に出願されWO2017/075119A1として公開されたPCT/US2016/058968に記載されているものが含まれる。
【0108】
II.rAAVベクター生産
AAVウイルスベクター(例えば組換え(r)AAV)の生産に使用するためには、発現カセットは、パッケージング宿主細胞へ送達される任意の好適なベクター、例えばプラスミドに保有され得る。本発明に有用なプラスミドは、数ある中でも原核細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞における試験管内での複製及びパッケージングに適するように操作され得る。好適なトランスフェクション技術及びパッケージング宿主細胞は知られている、及び/または当業者によって容易に設計され得る。
【0109】
ベクターとしての用途に適するAAVを生成及び単離する方法は当技術分野で知られて
いる。例えば、Grieger &Samulski,2005,“Adeno-associated virus as a gene therapy vector:Vector development,production and clinical applications,”Adv.Biochem.Engin/Biotechnol.99:119-145、Buning et al.,2008,“Recent developments in adeno-associated virus vector technology,”J.Gene Med.10:717-733、及び以下で引用する参考文献を全体的に参照されたく、参照によりこれらの各々の全体を本明細書に援用する。遺伝子をビリオン内にパッケージングするためには、ITRは、発現カセット(複数可)を含有する核酸分子と同じ構築物においてシスで必要とされる唯一のAAV成分である。cap及びrep遺伝子はトランスで供給され得る。
【0110】
一実施形態では、本明細書に記載の発現カセットは、それが保有している免疫グロブリン構築物配列をウイルスベクター産生のためのパッケージング宿主細胞の中に移入させる遺伝要素(例えばシャトルプラスミド)となるように操作される。一実施形態では、選択された遺伝要素は、トランスフェクション、電気穿孔、リポソーム送達、膜融合技術、高速DNA被覆ペレット、ウイルス感染及びプロトプラスト融合を含めた任意の好適な方法によってAAVパッケージング細胞へ送達され得る。安定なAAVパッケージング細胞を作ることもできる。あるいは、AAV以外のウイルスベクターを生み出すために、または試験管内で抗体の混合物を産生させるために、発現カセットを使用してもよい。そのような構築物を作るために用いる方法は、核酸操作の技量を有する者に知られており、これには遺伝子操作、組換え操作及び合成技術が含まれる。例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,ed.Green and Sambrook,Cold Spring Harbor Press,Cold Spring Harbor,NY(2012)を参照されたい。
【0111】
「AAV中間体」または「AAVベクター中間体」という用語は、中にパッケージングされる所望のゲノム配列を欠いている組織化rAAVカプシドを指す。これらは、「空」カプシドとも呼称され得る。そのようなカプシドは、検出可能な発現カセットのゲノム配列を含有し得ないかまたは、遺伝子産物の発現を達成するには不十分な部分的にのみパッケージングされたゲノム配列を含有し得る。これらの空カプシドは、関心対象の遺伝子を宿主細胞に移入させるには非機能的である。
【0112】
本明細書に記載の組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)は、既知の技術を用いて生成され得る。例えば、WO2003/042397、WO2005/033321、WO2006/110689、US7588772B2を参照されたい。そのような方法は、AAVカプシドタンパク質をコードする核酸配列;機能性rep遺伝子;最低でもAAV末端逆位反復配列(ITR)と導入遺伝子とからなる発現カセット;及びAAVカプシドタンパク質内への発現カセットのパッケージングを可能にするに足るヘルパー機能を含有する宿主細胞を培養することを含む。カプシドを生成する方法、そのためのコード配列、及びrAAVウイルスベクターを生産するための方法については教示がなされている。例えば、Gao,et al,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.100(10),6081-6086(2003)及びUS2013/0045186A1を参照されたい。
【0113】
一実施形態では、組換えAAVhu68を生産するために有用となる生産細胞培養物が提供される。そのような細胞培養物は、宿主細胞においてAAVhu68カプシドタンパク質を発現する核酸;AAVhu68カプシド内へのパッケージングに適した核酸分子、例えば、AAV ITRと、遺伝子産物をコードしており宿主細胞における当該産物の発現を促す配列に機能可能に繋げられている非AAV核酸配列とを含有するベクターゲノム
;ならびに組換えAAVhu68カプシド内への核酸分子のパッケージングを可能にするに足るAAV rep機能及びアデノウイルスヘルパー機能を含有する。一実施形態では、細胞培養物は、哺乳動物細胞(例えば、数ある中でもヒト胚性腎臓293細胞)または昆虫細胞(例えばバキュロウイルス)からなる。
【0114】
場合によって、rep機能はhu68以外のAAVによって提供される。特定の実施形態では、rep機能の少なくとも一部はAAVhu68からのものである。例えば、rep配列が配列番号4のrepタンパク質またはその機能性断片をコードすることを参照されたい。AAV repは配列番号3の核酸配列によってコードされてもよい。別の実施形態では、repタンパク質は、AAVhu68rep以外の異種repタンパク質、例えば、限定されないが、AAV1 repタンパク質、AAV2 repタンパク質、AAV3 repタンパク質、AAV4 repタンパク質、AAV5 repタンパク質、AAV6 repタンパク質、AAV7 repタンパク質、AAV8 repタンパク質;またはrep78、rep68、rep52、rep40、rep68/78、及びrep40/52;またはその断片;または別の供給源である。場合によって、rep及びcap配列は細胞培養物中で同じ遺伝要素上にある。rep配列とcap遺伝子との間にスペーサーがあってもよい。場合によって、スペーサーは、atgacttaaaccaggt、配列番号9である。これらのAAVhu68または突然変異AAVカプシド配列のいずれかが、宿主細胞におけるその発現を促す外来調節制御配列の制御下にあり得る。
【0115】
一実施形態では、細胞は、好適な細胞培養(例えばHEK293)細胞で製造される。本明細書に記載の遺伝子療法ベクターを製造する方法には、当技術分野でよく知られている方法、例えば、遺伝子療法ベクターの生産のために使用するプラスミドDNAの生成、ベクターの生成、及びベクターの精製が含まれる。いくつかの実施形態では、遺伝子療法ベクターはAAVベクターであり、生成されるプラスミドは、AAVゲノム及び関心対象の遺伝子をコードするAAVシスプラスミド、AAV rep及びcap遺伝子を含有するAAVトランスプラスミド、ならびにアデノウイルスヘルパープラスミドである。ベクター生成プロセスは、細胞培養の開始、細胞の継代、細胞の播種、プラスミドDNAによる細胞のトランスフェクション、トランスフェクション後の無血清培地との培地交換、ならびにベクター含有細胞及び培養培地の採集などの方法ステップを含み得る。採集されたベクター含有細胞及び培養培地のことを本明細書では粗細胞採集物と呼ぶ。さらに別のシステムでは、バキュロウイルス系ベクターによる感染によって昆虫細胞内に遺伝子療法ベクターを導入する。これらの産生システムに関する総説については例えばZhang et al.,2009,“Adenovirus-adeno-associated virus hybrid for large-scale recombinant
adeno-associated virus production,”Human Gene Therapy 20:922-929を全体的に参照されたく、参照によりこれらの各々の内容全体を本明細書に援用する。さらに、これら及びその他のAAV産生システムを作り使用する方法は以下の米国特許に記載されており、参照によりこれらの各々の内容全体を本明細書に援用する:第5,139,941号、第5,741,683号、第6,057,152号、第6,204,059号、第6,268,213号、第6,491,907号、第6,660,514号、第6,951,753号、第7,094,604号、第7,172,893号、第7,201,898号、第7,229,823号及び第7,439,065号。
【0116】
その後、粗細胞採集物を、ベクター採集物の濃縮、ベクター採集物の透析濾過、ベクター採集物の微小流動化、ベクター採集物のヌクレアーゼ消化、微小流動化中間物の濾過、クロマトグラフィーによる粗精製、超遠心分離による粗精製、タンジェンシャルフロー濾過による緩衝液交換、及び/または、一まとまりのベクターを調製するための製剤化及び
濾過などの方法ステップに供する。
【0117】
高塩濃度での2ステップの親和性クロマトグラフィー精製及びそれに続くアニオン交換樹脂クロマトグラフィーを用いてベクター薬製品を精製し、空カプシドを除去する。これらの方法は、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US2016/065970号ならびにその優先権文書である2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,071号及び「Scalable Purification Method for AAV9」と題して2015年12月11日に出願された米国特許出願第62/226,357号に記載されており、参照によりこれを本明細書に援用する。AAV8の精製方法については、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US2016/065976号ならびにその優先権文書である2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,098号及び2015年12月11日に出願された米国特許出願第62/266,341号に記載されており、rh10については、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US16/66013号ならびにその優先権文書である2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,055号及び「Scalable Purification Method for AAVrh10」と題しさらに2015年12月11日に出願された米国特許出願第62/266,347号に記載されており、AAV1については、2016年12月9日に出願された国際特許出願第PCT/US2016/065974号ならびにその優先権文書である2016年4月13日に出願された米国特許出願第62/322,083号及び2015年12月11日に出願された「Scalable Purification Method for AAV1」の米国特許出願第62/26,351号に記載されており、参照により全てを本明細書に援用する。
【0118】
空及び充満粒子の含有量を算出するために、選択された試料(例えば、本明細書中の例ではイオジキサノール勾配精製されたGC数=粒子数の調製物)のVP3バンド体積を、投入したGC粒子に対してプロットする。結果として得た線形方程式(y=mx+c)を使用して試験物品ピークのバンド体積中の粒子の数を算出する。その後、投入量20μLあたりの粒子の数(pt)に50を掛けて粒子(pt)/mLを得る。Pt/mLをGC/mLで割ることで、粒子対ゲノムコピー(pt/GC)の比率が得られる。Pt/mL-GC/mLによって空pt/mLが得られる。空pt/mLをpt/mLで割って100を掛けることによって空粒子の百分率が得られる。
【0119】
一般に、空カプシド、及びパッケージングされたゲノムを含んでいるAAVベクター粒子を検査する方法は当技術分野で知られている。例えば、Grimm et al.,Gene Therapy(1999)6:1322-1330、Sommer et al.,Molec.Ther.(2003)7:122-128を参照されたい。変性カプシドを試験するために、方法は、処理したAAV材料を、3つのカプシドタンパク質を分離することができる任意のゲル、例えば緩衝液中3~8%のトリス-酢酸を含有する勾配ゲルからなるSDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供し、その後、試料材料が分離するまでゲルを流し、ゲルをナイロン製またはニトロセルロース製、好ましくはナイロン製の膜にブロッティングすることを含む。その後、抗AAVカプシド抗体、好ましくは抗AAVカプシドモノクローナル抗体、最も好ましくはB1抗AAV-2モノクローナル抗体を、変性カプシドタンパク質に結合する一次抗体として使用する(Wobus et
al.,J.Virol.(2000)74:9281-9293)。その後、一次抗体との結合を検出するための手段を含有し一次抗体に結合する二次抗体、より好ましくは、検出分子を含有しそれと共有結合的に結合している抗IgG抗体、最も好ましくは西洋ワサビペルオキシダーゼに供給結合的に繋げられたヒツジ抗マウスIgG抗体を使用する。結合を検出する方法を用いて半定量的に一次抗体と二次抗体との結合を決定するが、検出方法は、放射性同位体放射、電磁波または比色変化を検出できることが好ましく、最も
好ましくは化学発光検出キットである。例えば、SDS-PAGEのために試料はカラム画分から採取され得、還元剤(例えばDTT)を含有するSDS-PAGE装填用緩衝液中で加熱され得るが、カプシドタンパク質はプレキャスト勾配ポリアクリルアミドゲル(例えばNovex)で分離された。SilverXpress(Invitrogen,CA)を製造者の使用説明書に従って使用して銀染色を実施してもよいし、他の好適な染色方法、すなわちSYPROルビーまたはクーマシー染色剤を使用してもよい。一実施形態では、カラム画分中のAAVベクターゲノム(vg)の濃度は定量的リアルタイムPCR(Q-PCR)によって測定することができる。試料を希釈し、DNアーゼI(または別の好適なヌクレアーゼ)で消化して外来DNAを除去する。ヌクレアーゼを不活性化させた後、試料をさらに希釈し、プライマーと、プライマー間のDNA配列に特異的なTaqMan(商標)発蛍光プローブとを使用して増幅する。定義されたレベルの蛍光に達するのに必要とされるサイクル数(閾値サイクル、Ct)を各試料についてApplied
Biosystems Prism 7700配列検出システムで測定する。AAVベクターが含有しているのと同一である配列を含有するプラスミドDNAを採用してQ-PCR反応の標準曲線を生成する。試料から得られたサイクル閾(Ct)値を使用して、それをプラスミド標準曲線のCt値に対して正規化することによってベクターゲノム力価を決定する。デジタルPCRに基づく終点分析法を用いることもできる。
【0120】
一態様では、広範なセリンプロテアーゼ、例えばプロテイナーゼK(Qiagenから市販されているものなど)を理おうする最適化q-PCR法を用いる。より詳しくは、最適化qPCRゲノム力価アッセイは、DNアーゼI消化後に試料をプロテイナーゼK緩衝液で希釈し、プロテイナーゼKで処理し、その後に熱不活性化させることを別とすれば、標準的アッセイに類似している。試料は試料サイズに等しい量のプロテイナーゼK緩衝液で希釈することが好適である。プロテイナーゼK緩衝液は2倍以上に濃縮され得る。典型的には、プロテイナーゼK処理は約0.2mg/mLであるが、0.1mg/mL~約1mg/mLに変更してもよい。処理ステップは大抵約55℃で約15分間行われるが、より低い温度(例えば約37℃~約50℃)でより長い期間(例えば約20分~約30分)にわたって、またはより高い温度(例えば約60℃以下)でより短い期間(例えば約5~10分)にわたって実施してもよい。同様に、熱不活性化は大抵約95℃で約15分間であるが、温度を下げ(例えば約70~約90℃)、時間を延長してもよい(例えば約20分~約30分)。その後、試料を(例えば1000倍)希釈し、標準的アッセイにおいて記載したようなTaqMan分析に供する。
【0121】
さらに、またはあるいは、液滴デジタルPCR(ddPCR)を用いてもよい。例えば、一本鎖及び自己相補性AAVベクターゲノム力価をddPCRによって決定する方法は教示がなされている。例えば、M.Lock et al,Hu Gene Therapy Methods,Hum Gene Ther Methods.2014 Apr;25(2):115-25.doi:10.1089/hgtb.2013.131.Epub 2014 Feb 14を参照されたい。
【0122】
手短に述べると、パッケージングされたゲノム配列を有するrAAVhu68粒子をゲノム欠如AAVhu68中間体から分離する方法は、組換えAAVhu68ウイルス粒子とAAVhu689カプシド中間体とを含む懸濁液を高速液体クロマトグラフィーに供することを含み、ここで、AAVhu68ウイルス粒子及びAAVhu68中間体は、10.2のpHに平衡させた強力なアニオン交換樹脂に結合するものであり、溶出液に約260及び約280の紫外線吸光度があるかどうか監視しつつ、塩勾配に供される。rAAV9hu68には最適未満であるものの、pHは約10.0~10.4の範囲であり得る。この方法では、AAVhu68充満カプシドは、A260/A280の比率が変曲点に到達する時に溶出する画分から回収される。一例において、透析濾過された生成物は、親和性クロマトグラフィーステップのために、AAV2/hu68血清型を効率的に捕捉する
Capture Select(商標)Poros-AAV2/9親和性樹脂(Life
Technologies)に塗布され得る。これらのイオン性条件下では、かなりの百分率の残留細胞性DNA及びタンパク質がカラムを流れる一方、AAV粒子は効率的に捕捉される。
【0123】
III.組成物及び用途
本明細書において提供するのは、少なくとも1つのrAAV材料(例えば、rAAVhu68材料または突然変異rAAV材料)ならびに任意選択の担体、賦形剤及び/または保存剤を含有する組成物である。rAAV材料とは、例えば濃度及び投薬量単位についての記述において以下に記載する量などが同じである、複数のrAAVベクターを指す。
【0124】
本明細書中で使用する場合、「担体」には、ありとあらゆる溶媒、分散媒体、ビヒクル、コーティング剤、希釈剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤、緩衝液、担体溶液、懸濁液、コロイドなどが含まれる。医薬活性物質のためのそのような媒体及び薬剤の用途は当技術分野でよく知られている。補助的活性原料を組成物に組み込むこともできる。「薬学的に許容できる」という語句は、宿主に投与されたときにアレルギー性または類似する望ましくない反応を生まない分子実体及び組成物を指す。送達ビヒクル、例えば、リポソーム、ナノカプセル、微粒子、マイクロスフェア、脂質粒子、小胞などは、本発明の組成物を好適な宿主細胞の中に導入するために使用され得る。詳しくは、rAAVベクターで送達するベクターゲノムは、脂質粒子、リポソーム、小胞、ナノスフェアまたはナノ粒子などのいずれかの中に封入された状態で送達のために製剤化され得る。
【0125】
一実施形態では、組成物は、対象への送達に適した最終製剤であり、例えば、生理学的に適合するpH及び塩濃度に緩衝された水性液体懸濁液である。場合によって、1つ以上の界面活性剤が製剤中に存在する。別の実施形態では、組成物は、対象への投与のために希釈される濃縮物として輸送され得る。他の実施形態では、組成物は、凍結乾燥され得、投与時に再構成され得る。
【0126】
好適な界面活性剤または界面活性剤の組み合わせは非毒性の非イオン性界面活性剤の中から選択され得る。一実施形態では、第一級ヒドロキシル基で終結している二官能性ブロックコポリマー界面活性剤、例えば、中性pHを有しており平均分子量が8400であるポロキサマー188としても知られるプルロニック(登録商標)F68[BASF]などが選択される。他の界面活性剤及び他のポロキサマー、すなわち、2つのポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の親水性鎖に挟まれた中央のポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の疎水性鎖からなる非イオン性トリブロックコポリマー、SOLUTOL HS 15(Macrogol-15ヒドロキシステアレート)、LABRASOL(ポリオキシカプリル酸グリセリド)、ポリオキシ10オレイルエーテル、TWEEN(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、エタノール及びポリエチレングリコールを選択してもよい。一実施形態では、製剤はポロキサマーを含有する。これらのコポリマーには共通して(ポロキサマーの)「P」の文字とそれに続く3つの数字で名前が付けられ、最初の2つの数字に100を掛けるとポリオキシプロピレンコアのおおよその分子量が得られ、最後の数字に10を掛けると百分率で表したポリオキシエチレン含有量が得られる。一実施形態ではポロキサマー188が選択される。界面活性剤は最大で懸濁液の約0.0005%~約0.001%の量で存在し得る。
【0127】
ベクターは、過度の有害作用を伴わないかまたは医学的に許容できる生理学的効果を伴って治療的利益をもたらすべく細胞にトランスフェクトしかつ十分なレベルの遺伝子移入及び発現をもたらすのに十分な量で投与されるが、この量は医学分野において技量を有する者であれば決定することができる。一般的な、及び薬学的に許容できる投与経路としては、限定されないが、所望の臓器(例えば、(場合によって肝動脈を介して)肝臓、肺、
心臓、眼、腎臓)への直接送達、経口、吸入、鼻腔内、クモ膜下腔内、気管内、動脈内、眼内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内及びその他の非経口的投与経路が挙げられる。投与経路は所望により組み合わせてもよい。
【0128】
ウイルスベクターの投薬量は、主として患者の治療症状、年齢、体重及び健康状態などの因子に依存するであろうし、それゆえに患者間で異なり得る。例えば、ウイルスベクターの治療的に有効なヒト投薬量は大抵、約1×109~1×1016ゲノムウイルスベクターの濃度を含有する約25~約1000マイクロリットル~約100mLの範囲の溶液である。投薬量は、治療的利益と任意の副作用との釣り合いをとるように調節されることになり、そのような投薬量は、組換えベクターを採用する治療的用途に応じて様々であり得る。導入遺伝子産物の発現レベルは、ミニ遺伝子を含有するウイルスベクター、好ましくはAAVベクターをもたらす投薬頻度を決定すべく追跡され得る。場合によっては、治療目的のために記載されているものに類似する投薬計画を、本発明の組成物を使用する免疫化のために利用してもよい。
【0129】
増殖能欠損型ウイルス組成物は、(70kgの体重の平均的対象を処置するために)約1.0×109GC~約1.0×1016GCの範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて当該範囲内に入る量、好ましくは1.0×1012~1.0×1014GCの範囲内に入る量の増殖能欠損型ウイルスを含有する投薬量単位でヒト患者のために製剤化され得る。一実施形態では、組成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×109、2×109、3×109、4×109、5×109、6×109、7×109、8×109または9×109GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1010、2×1010、3×1010、4×1010、5×1010、6×1010、7×1010、8×1010または9×1010GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1011、2×1011、3×1011、4×1011、5×1011、6×1011、7×1011、8×1011または9×1011GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1012、2×1012、3×1012、4×1012、5×1012、6×1012、7×1012、8×1012または9×1012GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1013、2×1013、3×1013、4×1013、5×1013、6×1013、7×1013、8×1013または9×1013GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1014、2×1014、3×1014、4×1014、5×1014、6×1014、7×1014、8×1014または9×1014GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。別の実施形態では、組成物は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて少なくとも1×1015、2×1015、3×1015、4×1015、5×1015、6×1015、7×1015、8×1015または9×1015GCを1用量あたりに含有するように製剤化される。一実施形態において、ヒトに適用する場合、用量の範囲は、範囲内のあらゆる整数または分数量を含めて1×1010~約1×1012GCであり得る。
【0130】
これらの上記用量は、処置面積の大きさ、用いるウイルス力価、投与経路及び方法の所望の効果に応じて、範囲内のあらゆる数を含めた約25~約1000マイクロリットルの範囲またはそれより多い体積の様々な量の担体、賦形剤または緩衝液製剤の中に入って投与され得る。一実施形態では、担体、賦形剤または緩衝液の体積は少なくとも約25μLである。一実施形態では、体積は約50μLである。別の実施形態では、体積は約75μLである。別の実施形態では、体積は約100μLである。別の実施形態では、体積は約
125μLである。別の実施形態では、体積は約150μLである。別の実施形態では、体積は約175μLである。さらに別の実施形態では、体積は約200μLである。別の実施形態では、体積は約225μLである。さらに別の実施形態では、体積は約250μLである。さらに別の実施形態では、体積は約275μLである。さらに別の実施形態では、体積は約300μLである。さらに別の実施形態では、体積は約325μLである。別の実施形態では、体積は約350μLである。別の実施形態では、体積は約375μLである。別の実施形態では、体積は約400μLである。別の実施形態では、体積は約450μLである。別の実施形態では、体積は約500μLである。別の実施形態では、体積は約550μLである。別の実施形態では、体積は約600μLである。別の実施形態では、体積は約650μLである。別の実施形態では、体積は約700μLである。別の実施形態では、体積は約700~1000μLである。
【0131】
特定の実施形態では、用量は約1×109GC/g脳質量~約1×1012GC/g脳質量の範囲内であり得る。特定の実施形態では、用量は約3×1010GC/g脳質量~約3×1011GC/g脳質量の範囲内であり得る。特定の実施形態では、用量は約5×1010GC/g脳質量~約1.85×1011GC/g脳質量の範囲内であり得る。
【0132】
一実施形態では、ウイルス構築物は、少なくとも約1×109GC~約1×1015、または約1×1011~5×1013GCの用量で送達され得る。これらの用量及び濃度を送達するのに適する体積は当業者によって決定され得る。例えば、約1μL~150mLの体積が選択され得、成人に対しては高い方の体積が選択される。典型的には、新生児に適する体積は約0.5mL~約10mLであり、より高い年齢の乳児に対しては約0.5mL~約15mLが選択され得る。幼児に対しては約0.5mL~約20mLの体積が選択され得る。子供に対しては約30mL以下の体積が選択され得る。プレティーン及びティーンエイジャーに対しては約50mL以下の体積が選択され得る。さらに他の実施形態では、患者のクモ膜下腔内に約5mL~約15mL、または約7.5mL~約10mLの体積の投与が与えられ得る。その他の好適な体積及び投薬量を決めてもよい。投薬量は、治療的利益と任意の副作用との釣り合いをとるように調節されることになり、そのような投薬量は、組換えベクターを採用する治療用途によって様々であり得る。
【0133】
上記組換えベクターは、公開されている方法に従って宿主細胞に送達され得る。rAAVは、好ましくは生理学的に適合する担体の中に懸濁して、ヒト患者または非ヒト哺乳動物に投与され得る。特定の実施形態では、ヒト患者への投与のために、生理食塩水、界面活性剤、及び生理学的に適合する塩または塩の混合物を含有する水溶液の中にrAAVを懸濁させることが好適である。製剤は、生理学的に許容できるpH、例えばpH6~9またはpH6.5~7.5、pH7.0~7.7またはpH7.2~7.8の範囲に調節されていることが好適である。脳脊髄液のpHは約7.28~約7.32であることから、クモ膜下腔内送達のためにはこの範囲に入るpHが望まれ得る一方、静脈内送達のためには約6.8~約7.2のpHが望まれ得る。しかしながら、最も広い範囲及びこれらの小範囲の中に入る他のpHを他の送達経路のために選択してもよい。
【0134】
別の実施形態では、組成物は、担体、希釈剤、賦形剤及び/または佐剤を含む。当業者であれば、移入ウイルスが対象としている適応症を考慮して好適な担体を容易に選択し得る。例えば、ある好適な担体は生理食塩水を含み、これは様々な緩衝溶液(例えばリン酸緩衝生理食塩水)と共に製剤化され得る。他の例示的な担体としては、無菌生理食塩水、ラクトース、スクロース、リン酸カルシウム、ゼラチン、デキストラン、寒天、ペクチン、ピーナッツ油、ゴマ油及び水が挙げられる。緩衝液/担体は、rAAVが輸注管類に付着するのを防止するが生体内でのrAAV結合活性を妨害しない成分を含むべきである。好適な界面活性剤または界面活性剤の組み合わせは非毒性の非イオン性界面活性剤の中から選択され得る。一実施形態では、第一級ヒドロキシル基で終結している二官能性ブロッ
クコポリマー界面活性剤、例えば、中性pHを有しており平均分子量が8400であるポロキサマー188としても知られるプルロニック(登録商標)F68[BASF]などが選択される。他の界面活性剤及び他のポロキサマー、すなわち、2つのポリオキシエチレン(ポリ(エチレンオキシド))の親水性鎖に挟まれた中央のポリオキシプロピレン(ポリ(プロピレンオキシド))の疎水性鎖からなる非イオン性トリブロックコポリマー、SOLUTOL HS 15(Macrogol-15ヒドロキシステアレート)、LABRASOL(ポリオキシカプリル酸グリセリド)、ポリオキシ-オレイルエーテル、TWEEN(ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、エタノール及びポリエチレングリコールを選択してもよい。一実施形態では、製剤はポロキサマーを含有する。これらのコポリマーには共通して(ポロキサマーの)「P」の文字とそれに続く3つの数字で名前が付けられ、最初の2つの数字に100を掛けるとポリオキシプロピレンコアのおおよその分子量が得られ、最後の数字に10を掛けると百分率で表したポリオキシエチレン含有量が得られる。一実施形態ではポロキサマー188が選択される。界面活性剤は最大で懸濁液の約0.0005%~約0.001%の量で存在し得る。一例において、製剤は、例えば、塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、デキストロース、硫酸マグネシウム(例えば、硫酸マグネシウム・7H2O)、塩化カリウム、塩化カルシウム(例えば、塩化カルシウム・2H2O)、二塩基性リン酸ナトリウム及びそれらの混合物のうちの1つ以上を水中に含む緩衝生理食塩水溶液を含有し得る。クモ膜下腔内送達のためには浸透圧が、脳脊髄液に適合する範囲に入っていることが好適であり(例えば約275~約290)、例えば、emedicine.medscape.com/article/2093316-overviewを参照されたい。場合によっては、クモ膜下腔内送達のために市販の希釈剤を懸濁化剤として、または別の懸濁化剤及びその他の任意選択の賦形剤と組み合わせて使用してもよい。例えば、エリオットB(登録商標)溶液[Lukare Medical]を参照されたい。他の実施形態では、製剤は、1つ以上の浸透促進剤を含有し得る。好適な浸透促進剤の例には、例えば、マンニトール、グリココール酸ナトリウム、タウロコール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、カプリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、またはEDTAが含まれ得る。
【0135】
場合によって本発明の組成物は、rAAV及び担体(複数可)以外にも他の一般的な医薬原料、例えば保存剤または化学安定剤を含有し得る。好適な保存剤の例としては、クロロブタノール、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸、二酸化硫黄、没食子酸プロピル、パラベン、エチルバニリン、グリセリン、フェノール及びパラクロロフェノールが挙げられる。好適な化学安定剤としてはゼラチン及びアルブミンが挙げられる。
【0136】
本発明に係る組成物は、上に定義したものなどの薬学的に許容できる担体を含み得る。本明細書に記載の組成物は、薬学的に適する担体の中に懸濁させた、及び/または注射、浸透圧ポンプ、クモ膜下腔内カテーテルによる対象への送達のためまたは別の装置もしくは経路による送達のために設計された好適な賦形剤と混合した、1つ以上のAAVを有効量含むことが好適である。一例において、組成物は、クモ膜下腔内送達のために製剤化される。
【0137】
本明細書中で使用する場合、「クモ膜下腔内送達」または「クモ膜下腔内投与」という用語は、薬物が脳脊髄液(CSF)に到達するようにそれを脊柱管内、より具体的にはクモ膜下腔内への注射によって投与する経路を指す。クモ膜下腔内送達は腰椎穿刺、脳室内(intraventricular)(脳室内(intracerebroventricular)(ICV)を含む)、後頭下/脳槽内、及び/またはC1-2穿刺を含み得る。例えば、材料を腰椎穿刺によってクモ膜下腔全体にわたる拡散のために導入してもよい。別の例では大槽内に注射を行ってもよい。
【0138】
本明細書中で使用する場合、「脳槽内送達」または「脳槽内投与」という用語は、大槽小脳延髄槽の脳脊髄液の中に、より具体的には後頭下穿刺によって、または大槽内への直接注射によって、または永久配置された管を介して、薬物を直接投与する経路を指す。
【0139】
IV.脳脊髄液中への医薬組成物の送達のための機器及び方法
一態様において、本明細書に提供するベクターは、この節において提供され
図7においてさらに説明される方法及び/または装置によってクモ膜下腔内に投与され得る。あるいは、他の装置及び方法を選択してもよい。方法は、患者の大槽の中へと脊椎穿刺針を前進させるステップと、ある長さの可撓性管類を脊椎穿刺針の近位ハブに連結し、可撓性管類の近位端に弁の排出ポートを連結するステップと、上記前進及び連結ステップの後であって管類を患者の脳脊髄液で初回自給させた後に、ある量の等張溶液が入った第1容器を弁の洗浄入口ポートに連結し、その後、ある量の医薬組成物が入った第2容器を弁のベクター入口ポートに連結するステップとを含む。第1及び第2容器を弁に連結した後、弁のベクター入口ポートと出口ポートとの間の流体流路を開き、医薬組成物を脊椎穿刺針に通して患者の中へと注入し、医薬組成物の注入後、弁の洗浄入口ポートと出口ポートとを通る流体流路を開き、等張溶液を脊椎穿刺針内へ注入して医薬組成物を患者の中に流し込む。
【0140】
別の態様では、医薬組成物の脳槽内送達のための装置が提供される。装置は、ある量の医薬組成物が入った第1容器、等張溶液が入った第2容器及び、装置から患者の大槽内の脳脊髄液中へと直接吐出され得る医薬組成物が通る脊椎穿刺針を含む。装置はさらに、第1容器に相互連結された第1入口ポートと、第2容器に相互連結された第2入口ポートと、脊椎穿刺針に相互連結された出口ポートと、脊髄穿刺針を通る医薬組成物及び等張溶液の流れを制御するためのルアーロックとを有する弁を含む。
【0141】
本明細書中で使用する場合、コンピュータ断層撮影(CT)という用語は、軸に沿って作られた一連の平面断面画像からコンピュータによって身体構造の三次元画像を構築するX線撮影を指す。
【0142】
図7に示す機器または医療装置10は、弁16を介して相互連結した1つ以上の容器12及び14を備える。容器12及び14はそれぞれ、医薬組成物、薬物、ベクターまたは類似する物質の新鮮な供給源、及び生理食塩水などの等張溶液の新鮮な供給源を提供する。容器12及び14は、患者の中への流体の注入を可能にするいかなる形態の医療装置であってもよい。
【0143】
例として、各容器12及び14は、シリンジ、カニューレまたは類似するものの形態で提供され得る。例えば、図示されている実施形態において容器12は、ある量の医薬組成物が入った別個のシリンジとして提供されており、本明細書中では「ベクターシリンジ」と呼ばれる。単に例示のために記すが、容器12には、医薬組成物または類似するものが約10cc収容され得る。
【0144】
同様に、容器14は、ある量の生理食塩水溶液が入った別個のシリンジ、カニューレまたは類似するものの形態で提供され得、「洗浄シリンジ」と呼ばれ得る。単に例示のために記すが、容器14には約10ccの生理食塩水溶液が収容され得る。
【0145】
代わりに、容器12及び14をシリンジ以外の形態で提供してもよく、単一の装置の中に組み込んでもよく、例えば一体化医療用注射装置は一対の別々になったチャンバを有し、1つは医薬組成物のためのものであり、1つは生理食塩水溶液のためのものである。さらに、チャンバまたは容器の大きさは、流体の所望の量を収容する必要に応じて提供され得る。
【0146】
図示されている実施形態において、弁16は、スイベル式オスルアーロック18を有する四方活栓として提供されている。弁16は、容器12と容器14と(すなわち、図示されている実施形態のベクターシリンジと洗浄シリンジと)を相互連結させ、スイベル式オスルアーロックは弁16の中を通る通路を容器12及び14の各々に対して開閉することを可能にする。このようにして、弁16の中を通る通路をベクターシリンジ及び洗浄シリンジの両方に対して閉じてもよいし、またはベクターシリンジ及び洗浄シリンジのうち選択された1つに対して開いてもよい。四方活栓の代わりに弁は三方活栓であってもよいし、または流体制御装置であってもよい。
【0147】
図示されている実施形態において、弁16は、延長管類20または類似する流体用導管の長さの一端に連結されている。管類20は、所望の長さまたは内部容積に基づいて選択され得る。単に例として記すが、管類の長さは約6~7インチであり得る。
【0148】
図示されている実施形態において、管類12の反対側の端部22はT字形コネクタ延長セット24に連結されており、これが今度は脊髄穿刺針26に連結されている。例として、針26は、5インチ、22または25ゲージの脊椎穿刺針であり得る。さらに、任意選択で、脊椎穿刺針26を誘導針28、例えば3.5インチ、18ゲージの誘導針に連結してもよい。
【0149】
使用時、脊椎穿刺針26及び/または任意選択の誘導針28を患者の中へ大槽に向かって前進させ得る。針を前進させた後、針26及び/または28ならびに関係する軟組織(例えば、傍脊柱筋、骨、脳幹及び脊髄)の可視化を可能にするコンピュータ断層撮影(CT)画像が取得され得る。針の正確な配置は針ハブ内の脳脊髄液(CSF)の観察及び大槽内の針先端部の可視化によって確認される。その後、挿入された脊椎穿刺針26に比較的短い延長管類20が取り付けられ得、その後、管類20の反対側の端部に四方活栓16が取り付けられ得る。
【0150】
上記組立体を患者のCSFで「初回自給」させる。その後、充填済み生理食塩水洗浄シリンジ14を四方活栓16の洗浄入口ポートに取り付け、その後、医薬組成物が入ったベクターシリンジ12を四方活栓16のベクター入口ポートに取り付ける。その後、活栓16の排出ポートをベクターシリンジ12に対して開き、ベクターシリンジの内容物は、弁16及び組立済み機器を通り抜けて患者の中へとある期間を掛けてゆっくりと注入され得る。単に例示のために記すが、この期間はおよそ1~2分及び/またはその他の任意の所望の時間であり得る。
【0151】
ベクターシリンジ12の内容物を注入した後、取り付けられている充填済み洗浄シリンジ14を使用して活栓16及び針組立体を所望の量の生理食塩水で洗浄することができるように活栓16上のスイベル式ロック18を第2位置まで回す。単なる例を記せば1~2ccの生理食塩水が使用され得るが、より多いまたはより少ない量を必要に応じて用いてもよい。生理食塩水は、医薬組成物の全てまたはほとんどが組立済み装置を通り抜けて患者の中へと注入されるように促されその結果として医薬組成物が組立済み装置内にほとんどまたは全く残らないことを確保する。
【0152】
組立済み装置に生理食塩水を流した後、組立済み装置は針(複数可)、延長管類、活栓及びシリンジを含むその全体がゆっくりと対象から取り外されてバイオハザード廃棄物用の入れ物または(例えば針(複数可)のための)硬質容器の中への破棄のために外科用トレイ上に置かれる。
【0153】
最終的に脳槽内(IC)手技に至り得るスクリーニングプロセスは、研究責任者によって引き受けられ得る。研究責任者は、対象(または指名された介護人)に十分な情報を与
えるべくプロセス、手技、投与手順自体、及び起こり得るあらゆる安全性リスクについて説明し得る。医療歴、併用薬、身体検査、バイタルサイン、心電図(ECG)、及び実験室検査結果が得られ、または実施され、そしてIC手技のための対象の適格性のスクリーニング評価に使用するために神経放射線科医、神経外科医及び麻酔専門医に提供される。
【0154】
適格性を再検討する十分な時間を可能にするために、第1スクリーニング訪問から試験訪問の1週間前までの任意の時に以下の手順が実施され得る。例えば、「0日目」には、ガドリニウム(すなわち、eGFR>30mL/分/1.73m2)を伴うかまたは伴わずに頭部/頚部磁気共鳴画像(MRI)が取得され得る。頭部/頚部MRIに加えて研究者は屈曲/伸張試験によって頚部に関する何らかのさらなる評価の必要性を判断し得る。MRIプロトコールは、T1、T2、DTI、FLAIR及びCINEプロトコール画像を含み得る。
【0155】
さらに、CSF流の十分な評価、及びあり得るCSF空間同士の連通の遮断または欠如の同定を可能にする頭部/頚部MRA/MRVが、施設プロトコールに従って取得され得る(つまり、硬膜内/経硬膜手術歴を有する対象は除外され得るかまたはさらなる検査(例えば放射性ヌクレオチド脳槽造影)が必要とされ得る)。
【0156】
神経放射線科医、神経外科医及び麻酔専門医は、利用可能なあらゆる情報(スキャン、医療歴、身体検査、研究など)に基づいてIC手技に対する各対象の適格性を最終的に議論及び判断する。MPS対象の特別な生理学的必要性を念頭に置いて、「-28日目」~「1日目」まで、気道、(短い/厚い)頚部、及び頭部可動域(頚部屈曲の度合い)の詳細な評価を提供する麻酔の術前評価も取得され得る。
【0157】
IC手技に先立って、CT室に以下の装備及び医薬が存在することを確認することになる:別個の薬事マニュアルに従って準備されCT/手術室(OR)に搬入される、成人用腰椎穿刺(LP)キット(施設によって供給される);BD(Becton Dickinson)22または25ゲージ×3~7インチ脊椎穿刺針(Quincke bevel);介入施与者の裁量で(脊椎穿刺針の導入のために)使用される共軸誘導針;スイベル(スピン)式オスルアーロックを備えた四方小孔活栓;メスルアーロックアダプタを備えた長さおよそ6.7インチのT字形コネクタ延長セット(管類);クモ膜下腔内投与のためのOmnipaque180(イオヘキソール);静脈内(IV)投与のためのヨウ素化造影剤;(成人用LPキットに備わっていない場合の)注射用1%リドカイン溶液;充填済み10cc生理食塩水(無菌)洗浄シリンジ;放射線不透過性マーカー(複数可);外科準備用装備/剃毛用カミソリ;挿管される対象の適切な配置を可能にする枕/支持台;気管内挿管用装備、全身麻酔機及び機械式人工呼吸器;術中神経生理学的モニタリング(IONM)装備(及び必要な人員);ならびにベクター入り10ccシリンジ。
【0158】
手技のためのインフォームドコンセントを確認し、医療記録及び/または研究ファイルに載録する。放射線科及び麻酔学従事者による手技についての別個の同意を施設の要件に従って取得する。対象は、施設ガイドラインに従って適切な病院介護室内で静脈内へのアクセスが配備される(例えば、2つのIVアクセス部位)。静脈内用流体は麻酔専門医の裁量で投与される。麻酔専門医の裁量で、及び施設ガイドラインに従って、適切な患者介護室、待機場または外科/CT手技室の中で全身麻酔の施与と共に気管内挿管が対象に導入及び施与され得る。
【0159】
腰椎穿刺を実施して、まず5ccの脳脊髄液(CSF)を除去し、次いで、大槽の可視化に役立つ造影剤(Omnipaque 180)をクモ膜下腔内に注射する。大槽内への造影剤の拡散を促進するために適切な対象配置操作が実施され得る。
【0160】
術中神経生理学的モニタリング(IONM)装備を対象に取り付ける。対象をCTスキャナ台上に腹臥位または側臥位で配置する。搬送中及び配置中の対象の安全性を保障するためには適任の従事者が存在していなければならない。適切とみなされる場合には対象を、配置後に正常な神経モニタリング信号が記録され術前評価中に安全であると判断される程度に頚部屈曲をもたらすように配置してもよい。
【0161】
以下の従事者の存在が確認され得、現場で識別され得る:手技を実施する介入施与者/神経外科医;麻酔専門医及び呼吸器専門技術者(複数可);看護師及び医師助手;CT(またはOR)技術者;神経生理学専門技術者;及び現場取りまとめ役。正確な対象、手順、部位、配置、及び室内で必要となる全ての装備の存在を確認するための「タイムアウト」が合同審査会/院内プロトコールに従って完遂され得る。その後、先導現場研究者は従事者と共に、彼/彼女が対象の準備を進めてもよいことを確認し得る。
【0162】
対象の頭蓋骨より下の皮膚を適切に剃毛する。標的位置を突き止め脈管構造を撮像する必要があると介入施与者によってみなされる場合には、CTスカウト像を実施し、続いて、IV用造影剤によるCTを計画する前手順を実施する。標的部位(大槽)が特定され針軌道が計画された後、施設ガイドラインに従って無菌技術を用いて皮膚の準備を整え覆布を掛ける。介入施与者が指示するとおりに放射線不透過性マーカーを標的皮膚位置に配置する。マーカーの下の皮膚に、1%リドカインの浸潤によって麻酔を掛ける。その後、共軸誘導針を場合によって使用して22Gまたは25Gの脊椎穿刺針を大槽に向かって前進させる。
【0163】
針前進後、施設装備を使用して実現可能な最も薄いCTスライス厚み(理想的には2.5mm以下)を用いてCT画像を取得する。針及び関係する軟組織(例えば、傍脊柱筋、骨、脳幹及び脊髄)の十分な可視化の余地がある可能な最低放射線線量を用いて連続CT画像を取得する。針の正確な配置は、針ハブ内のCSFの観察及び大槽内の針先端部の可視化によって確認される。
【0164】
介入施与者は、ベクターシリンジが無菌場の近くにではあるがその外側に配置されていることを確認する。ベクターシリンジ内の医薬組成物の取扱いまたは投与に先立ってグローブ、マスク及び目保護が無菌場内での手技を手伝う従事者によってなされる。
【0165】
挿入された脊椎穿刺針に延長管類を取り付け、次いでそれに四方活栓を取り付ける。機器が対象のCSFで「初回自給」された時点で10cc予備充填生理食塩水洗浄シリンジを四方活栓の洗浄入口ポートに取り付ける。その後、ベクターシリンジが介入施与者に提供され、四方活栓のベクター入口ポートに取り付けられる。
【0166】
活栓のスイベル式ロックを第1位置に配置することによって活栓の出口ポートをベクターシリンジに対して開いた後、注入中にシリンジのプランジャに過度の力が印加されないように配慮しながらベクターシリンジの内容物をゆっくりと(およそ1~2分掛けて)注入する。ベクターシリンジの内容物が注入された後、取り付けられている充填済み洗浄シリンジを使用して1~2ccの生理食塩水で活栓及び針組立体を洗浄することができるように活栓のスイベル式ロックを第2位置まで回す。
【0167】
準備が整うと介入施与者は次に従事者に彼/彼女が機器を対象から除去することを通告する。1回の動作で針、延長管類、活栓及びシリンジを対象からゆっくりと取り外し、バイオハザード廃棄物用の入れ物または(針のための)硬質容器の中への破棄のために外科用トレイ上に置く。
【0168】
針挿入部位に出血またはCSF漏出の兆候がないかを調べ、研究者に指示されたとおり
に処置する。ガーゼ、外科用テープ及び/またはテガダーム被覆材を指示されるとおりに使用して部位を保護する。その後、対象をCTスキャナから移動させて担架に仰臥位で載せる。搬送中及び配置中の対象の安全性を保障するために適任の従事者が存在する。
【0169】
麻酔を中止し、対象を麻酔後介護についての施設ガイドラインに従って介護する。神経生理学的監視装置を対象から取り外す。回復の間、対象が横たわっている担架の頭側はわずかに(おおよそ30度)高くするべきである。施設ガイドラインに従って対象を好適な麻酔後介護室へ搬送する。対象は、意識が十分に回復して安定な状態になった後、プロトコールが定める評価のための適切な階/部屋に受け入れられることになる。神経学的評価はプロトコールに従って見守られることになり、主任研究者は病院及び研究の従事者と協力して対象の介護を監督する。
【0170】
一実施形態では、本明細書において提供される組成物を送達する方法は、患者の大槽の中へと脊椎穿刺針を前進させるステップと、ある長さの可撓性管類を脊椎穿刺針の近位ハブに連結し、可撓性管類の近位端に弁の排出ポートを連結するステップと、上記前進及び連結ステップの後であって管類を患者の脳脊髄液で初回自給させた後に、ある量の等張溶液が入った第1容器を弁の洗浄入口ポートに連結し、その後、ある量の医薬組成物が入った第2容器を弁のベクター入口ポートに連結するステップと、上記第1及び第2容器を弁に連結した後、弁のベクター入口ポートと出口ポートとの間の流体流路を開き、医薬組成物を脊椎穿刺針に通して患者の中へと注入するステップと、医薬組成物の注入後、弁の洗浄入口ポートと出口ポートとを通る流体流路を開き、等張溶液を脊椎穿刺針内へ注入して医薬組成物を患者の中に流し込むステップとを含む。特定の実施形態では、方法はさらに、管類及び弁を脊椎穿刺針のハブに連結する前に脊椎穿刺針の遠位先端部の大槽内での適切な配置を確認することを含む。特定の実施形態では、確認ステップは、コンピュータ断層撮影(CT)を行うことによって大槽内の脊椎穿刺針の遠位先端部を可視化することを含む。特定の実施形態では、確認ステップは、脊椎穿刺針のハブ内での患者の脳脊髄液の存在を観察することを含む。
【0171】
上記方法において、弁は、スイベルで第1位置まで回転してベクター入口ポートから出口ポートへの流れを可能にすると同時に洗浄入口ポートを通る流れを遮断すること、及びスイベルで第2位置まで回転して洗浄入口ポートから出口ポートへの流れを可能にすると同時にベクター入口ポートを通る流れを遮断することに適合したスイベル式ルアーロックを備えた活栓であり得、スイベル式ルアーロックは、上記医薬組成物を患者に注射するときには上記第1位置に配置され、上記医薬組成物を等張溶液で上記患者の中に流し込んでいるときには上記第2位置に配置される。特定の実施形態では、等張溶液を脊椎穿刺針の中に注入して医薬組成物を患者の中に流し込んだ後、脊椎穿刺針をそれが組立体として管類、弁ならびに第1及び第2容器に連結されている状態で患者から引き抜く。特定の実施形態では、弁は、スイベル式オスルアーロックを備えた四方活栓である。特定の実施形態では、第1及び第2容器は別個のシリンジである。特定の実施形態では、T字形コネクタは、脊椎穿刺針のハブに配置され、管類と脊椎穿刺針とを相互連結させる。場合によって脊椎穿刺針は脊椎穿刺針の遠位端に誘導針を含む。脊椎穿刺針は5インチ、22または24ゲージの脊椎穿刺針であり得る。特定の実施形態では、誘導針は3.5インチ、18ゲージの誘導針である。
【0172】
特定の態様では、方法は、最低でも、ある量の医薬組成物を収容するための第1容器;等張溶液を収容するための第2容器;医薬組成物が装置から直接患者の大槽内の脳脊髄液中へと吐出され得るときに通る脊椎穿刺針;ならびに第1容器に相互連結された第1入口ポートと、第2容器に相互連結された第2入口ポートと、脊椎穿刺針に相互連結された出口ポートと、脊髄穿刺針を通る医薬組成物及び等張溶液の流れを制御するためのルアーロックとを有する弁からなる装置を利用する。特定の実施形態では、弁は、スイベルで第1
位置まで回転して第1入口ポートから出口ポートへの流れを可能にすると同時に第2入口ポートを通る流れを遮断すること、及びスイベルで第2位置まで回転して第2入口ポートから出口ポートへの流れを可能にすると同時に第1入口ポートを通る流れを遮断することに適合したスイベル式ルアーロックを備えた活栓である。場合によって、弁は、スイベル式オスルアーロックを備えた四方活栓である。特定の実施形態では、第1及び第2容器は別個のシリンジである。特定の実施形態では、脊椎穿刺針は、ある長さの可撓性管類を介して弁に相互連結される。T字形コネクタは管類と脊椎穿刺針とを相互連結させ得る。特定の実施形態では、脊椎穿刺針は5インチ、22または24ゲージの脊椎穿刺針であり得る。特定の実施形態では、装置はさらに、脊椎穿刺針の遠位端に連結された誘導針を含む。場合によって誘導針は3.5インチ、18ゲージの誘導針である。
【0173】
この方法及びこの装置は各々場合によって、本明細書において提供される組成物のクモ膜下腔内送達のために用いられ得る。あるいは、他の方法及び装置をそのようなクモ膜下腔内送達のために用いてもよい。
【0174】
特定の実施形態では、AAVベクターが免疫グロブリン構築物をコードする核酸発現カセットと選択された細胞におけるその免疫グロブリンの発現を促す調節配列とを保有するようにrAAVhu68.抗HER2抗体を含む組成物が提供される。CNS中へのベクターの投与後に、ベクターはCNSに発現カセットを送達し、タンパク質性免疫グロブリン構築物を生体内で発現する。抗新生物方法における本明細書に記載の組成物の使用は、抗新生物薬投薬計画におけるこれらの組成物の使用と同様に教示されるが、場合によって1つ以上の他の抗新生物薬または他の活性剤の送達を含んでもよい。
【0175】
組成物は、抗新生物免疫グロブリン構築物を生体内で送達するための発現カセットを含有する本明細書に記載のAAVhu68ベクターを1種類含有していてもよい。あるいは、組成物は、各々が中に異なる発現カセットをパッケージングしている2つ以上の異なるAAVベクターを含有していてもよい。例えば、2つ以上の異なるAAVは、生体内で組織化して単一の機能性免疫グロブリン構築物を形成する免疫グロブリンポリペプチドを発現する、異なる発現カセットを有し得る。別の例では、2つ以上のAAVは、異なる標的に対する免疫グロブリンポリペプチドを発現する異なる発現カセットを有し得、例えば2つは、2つの機能性免疫グロブリン構築物(例えば、抗Her2免疫グロブリン構築物と、もう1つの抗新生物免疫グロブリン構築物)を提供する。さらに別の代替形態では、2つ以上の異なるAAVは同じ標的を指向する免疫グロブリン構築物を発現し得、免疫グロブリン構築物の1つはFcRn結合を切断するように改変されており、もう1つの免疫グロブリン構築物は、その能力を保持するか、またはFcRnに結合する向上した能力を有する。そのような組成物は、脳領域における保持が増加した抗体と免疫グロブリン構築物の全身送達のための抗体とを同時に提供するために有用となり得る。
【0176】
場合によってこれらの免疫グロブリン構築物の片方または両方ともが、増強されたADCC活性を有する。本明細書に記載の療法計画は、本明細書に記載の組み合わせの1つ以上に加えて、抗新生物バイオ医薬品、抗新生物小分子薬、化学療法剤、免疫増強薬、放射線、外科手術などのうちの1つ以上とのさらなる組み合わせを含み得る。本明細書に記載のバイオ医薬品は、ペプチド、ポリペプチド、タンパク質、酵素、核酸分子、ベクター(ウイルスベクターを含む)または同様のものに基づく
【0177】
本明細書に記載の組成物は、注射、浸透圧ポンプ、クモ膜下腔内カテーテルによる対象への送達のために、または別の装置もしくは経路による送達のために設計された、薬学的に適する担体の中に懸濁した抗新生物有効量の1つ以上のAAVhu68を含むことが好適である。一例では、組成物はクモ膜下腔内送達のために製剤化される。本明細書中で使用する場合、クモ膜下腔内送達は、脊柱管内、より具体的にはクモ膜下腔内への注射を包
含する。しかしながら、数ある好適な直接または全身経路の中でも例えば頭蓋内、鼻腔内、脳槽内、脳脊髄液中への送達すなわちオンマヤリザーバーを含めて他の送達経路、及びAAV組成物のための薬学的に許容できる担体を選択してもよい。
【0178】
組成物は、(体重70kgの平均的対象を処置するために)約1×109ゲノムコピー(GC)~約5×1013GCの範囲内の量のAAVを含有する投薬量単位で製剤化され得る。一実施形態では、約15mL(またはそれ未満)~約40mLのCSFを取り出し、ベクターをCSFと混合し、及び/または適合する担体の中に懸濁させ、対象に送達する、脊椎穿刺を実施する。一例では、ベクター濃度は約3×1013GCであるが、その他の量としては例えば、約1×109GC、約5×109GC、約1×1010GC、約5×1010GC、約1×1011GC、約5×1011GC、約1×1012GC、約5×1012GCまたは約1.0×1013GCが挙げられる。
【0179】
一実施形態では、本明細書に記載の組成物は、腫瘍の増殖を遅延させる方法において使用される。さらに別の実施形態では、本明細書に記載の組成物は、対象の腫瘍サイズを減少させるのに有用である。さらなる実施形態では、本明細書に記載の組成物は、非固形腫瘍癌のがん細胞の数を減少させるのに有用である。別の実施形態では、本明細書に記載の組成物は、患者の全生存率及び/または無増悪生存率を向上させる方法に使用される。抗新生物免疫グロブリン構築物は、治療する新生物を考慮して選択される。例えば、脳における転移乳癌の治療のためには、抗HER抗体の発現カセットを操作して本明細書に記載の組換えrAAVとしてもよい。場合によって、本明細書に記載のAAV組成物を、追加の外来性の薬剤もしくは化学剤または他の物理的な血液脳関門妨害の非存在下で投与する。併用療法では、本明細書に記載のAAV送達される免疫グロブリン構築物は、別の薬剤との療法を開始する前、間または後に、及びそれらの組み合わせで、つまり、抗新生物剤療法を開始する前及び間、前及び後、間及び後、または前、間及び後に投与される。例えば、AAVは、放射線療法の開始の1~30日前、好ましくは3~20日前、より好ましくは5~12日前に投与され得る。本発明の別の実施形態では、AAV媒介免疫グロブリン(抗体)療法と同時進行で、より好ましくはその次に化学療法を施す。さらに他の実施形態では、本発明の組成物は、他の生物製剤、例えば組換えモノクローナル抗体薬、抗体-薬物複合体、または同様のものと組み合わせられ得る。さらに、上に述べたような異なるAAV送達免疫グロブリン構築物の組み合わせをそのような療法計画に使用してもよい。いかなる好適な方法または経路を用いて本明細書に記載のAAVhu68.抗Her2含有組成物を投与することができ、場合によっては、抗新生物剤及び/または他の受容体の拮抗薬を共投与することができる。本発明に従って利用される抗新生物剤投薬計画は、患者の新生物症状の治療に最適であると考えられる任意の投薬計画を含む。種々の悪性腫瘍は特異的な抗腫瘍抗体及び特異的抗新生物剤の使用を必要とし得るが、これは患者ごとに決定されることになる。投与形態としては、例えば、全身、経口、静脈内、腹腔内、皮下または筋肉内投与が挙げられる。投与する拮抗薬の用量は、例えば、拮抗薬の種類、治療する腫瘍の種類及び重症度、ならびに拮抗薬の投与経路を含めた数々の因子に依存する。
【0180】
「a」または「an」という用語が1つ以上を指すことに留意されたい。したがって、「a」(または「an」)、「1つ以上」及び「少なくとも1つ」という用語は本明細書中で交換可能に使用される。
【0181】
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」及び「含んでいる」という語は、排他的にではなく包括的に解釈されるべきである。「からなる」、「からなっている」という語及びその変化形は、包括的にではなく排他的に解釈されるべきである。明細書中の様々な実施形態が「含んでいる」表現を用いて表されているが、他の状況の下では関係する実施形態が「からなる」または「から本質的になる」表現を用いて解釈及
び説明されることも意図される。
【0182】
本明細書中で使用する場合、「約」という用語は、特に指定がない限り、所与の基準からの10%(±10%)の変動を意味する。
【0183】
本明細書中で使用する場合、「疾患」、「障害」及び「症状」は、対象の異常な状態を指して交換可能に使用される。
【0184】
本明細書中の他のどこかで定義していない限り、本明細書中で使用する科学技術用語は、当業者によって、及び本願で使用する用語の多くに対する一般的手引きを当業者に提供するものである公開文を参照することによって通常理解されるのと同じ意味を有する。
【0185】
「発現」という用語は、本明細書中ではその最も広い意味で使用され、RNAの産生、またはRNAとタンパク質との産生を含む。RNAに関して「発現」または「翻訳」という用語は、詳しくは、ペプチドまたはタンパク質の産生に関する。発現は一過的である場合もあるし、または安定的である場合もある。
【0186】
本明細書中で使用する場合、「NAb力価」という用語は、標的とするエピトープ(例えばAAV)の生理学的作用を中和する中和抗体(例えば抗AAV Nab)がどれくらい多く産生されるかについての測定結果である。抗AAV NAb力価は、例えば、Calcedo,R.,et al.,Worldwide Epidemiology of Neutralizing Antibodies to Adeno-Associated Viruses.Journal of Infectious Diseases,2009.199(3):p.381-390に記載されているように測定され得る。
【0187】
本明細書中で使用する場合、「発現カセット」は、コード配列、プロモーター、を含む核酸分子を指し、そのための他の調節配列を含み得る。特定の実施形態では、ベクターゲノムは、2つ以上の発現カセットを含有し得る。他の実施形態では、「導入遺伝子」という用語は、「発現カセット」と交換可能に使用され得る。典型的には、ウイルスベクターを生成するためのそのような発現カセットは、ウイルスゲノムのパッケージングシグナルと、他の発現制御配列、例えば本明細書中に記載されているものとに挟まれた、本明細書に記載の遺伝子産物のためのコード配列を含有する。
【0188】
「sc」という略語は自己相補性を指す。「自己相補性AAV」は、組換えAAV核酸配列が有するコード領域が分子内二本鎖DNA鋳型を形成するように設計されている構築物を指す。感染時には、第2の鎖の細胞媒介合成を待つことなくscAAVの相補的な両半分が会合して、即時複製及び転写の準備が整った1つの二本鎖DNA(dsDNA)単位を形成することになる。例えば、D M McCarty et al,“Self-complementary recombinant adeno-associated virus(scAAV)vectors promote efficient
transduction independently of DNA synthesis”,Gene Therapy,(August 2001),Vol 8,Number 16,Pages 1248-1254を参照されたい。自己相補性AAVは、例えば、米国特許第6,596,535号、第7,125,717号及び第7,456,683号に記載されており、参照によりこれらの各々の全体を本明細書に援用する。
【0189】
本明細書中で使用する場合、「機能可能に繋げられている」という用語は、関心対象の遺伝子と連続している発現制御配列を指すだけでなく、トランスで、または遠くで作用して関心対象の遺伝子を制御する発現制御配列も指す。
【0190】
「異種」という用語は、タンパク質または核酸に関して使用する場合、タンパク質または核酸が、互いに同じ関係性では天然に見つからない2つ以上の配列または小配列を含むことを表す。例えば、核酸は典型的には組換え的に生産され、無関係の遺伝子からの2つ以上の配列が配置されて新たな機能性核酸を作っている。例えば、一実施形態において核酸は、ある遺伝子からのプロモーターが別の遺伝子からのコード配列の発現を促すように配置されている。かくして、コード配列に関してプロモーターは異種である。
【0191】
「増殖能欠損型ウイルス」または「ウイルスベクター」とは、関心対象の遺伝子を含有している発現カセットがウイルスカプシドまたはエンベロープの中にパッケージングされており、ウイルスカプシドまたはエンベロープの中に同じくパッケージングされている任意のウイルスゲノム配列が増殖能欠損型である、つまりそれらが子孫ビリオンを生み出すことができないが標的細胞に影響を与える能力を保持している、合成または人工のウイルス粒子を指す。一実施形態では、ウイルスベクターのゲノムは、複製するのに必要とされる酵素をコードする遺伝子を含まない(ゲノムは、人工ゲノムの増幅及びパッケージングに必要とされるシグナルに挟まれた関心対象の遺伝子のみを含有して「ガットレス」になるように操作され得る)が、これらの遺伝子は生産中に供給され得るものである。したがってそれは、複製のために必要とされるウイルス酵素の存在下にある場合以外はウイルス酵素の子孫ビリオンによる複製及び感染が起こり得ないことから、遺伝子療法に使用するために安全であるとみなされる。
【0192】
多くの場合、rAAV粒子はDNアーゼ耐性と呼ばれる。しかしながら、このエンドヌクレアーゼ(DNアーゼ)に加えて他のエンド-及びエキソ-ヌクレアーゼを本明細書に記載の精製ステップに使用して混入核酸を除去してもよい。そのようなヌクレアーゼは、一本鎖DNA及び/または二本鎖DNAならびにRNAを分解するように選択され得る。そのようなステップは、単一のヌクレアーゼまたは、異なる標的を指向するエンドヌクレアーゼもしくはエキソヌクレアーゼであり得るヌクレアーゼの混合物を含有し得る。
【0193】
「ヌクレアーゼ耐性」という用語は、AAVカプシドが、宿主細胞に遺伝子を送達するように設計された発現カセットの周囲で完全に組織化し、生産プロセスゆえに存在している可能性がある汚染核酸を除去することを意図したヌクレアーゼインキュベーションステップの間これらのパッケージングされたゲノム配列を分解(消化)から保護する、ということを示す。
【0194】
本明細書中で使用する場合、「有効量」とは、ベクターゲノムからある量の遺伝子産物を標的細胞に送達及び発現するrAAV組成物の量を指す。有効量は、ヒト患者ではなく動物モデルに基づいて決定され得る。好適なマウスモデルの例は本明細書中に記載されている。
【0195】
特定の実施形態では、本明細書において提供されるrAAVまたは組成物は、抗インフルエンザ抗体または免疫グロブリン構築物を除外する。特定の実施形態では、本明細書において提供されるrAAVまたは組成物は、脊髄性筋萎縮症(SMA)遺伝子またはSMNコード配列を除外する。
【0196】
本発明との関連において、「翻訳」という用語は、mRNA鎖がアミノ酸配列の組立てを制御してタンパク質またはペプチドを生成する、リボソームにおけるプロセスに関する。
【0197】
本明細書及び特許請求の範囲の全体を通して使用する「含む(comprising)」、「含有する」、「含む(including)」という用語、及びその変化形は、他
の成分、要素、整数、ステップ及び同様のものに対して包括的である。反対に、「からなる」という用語及びその変化形は、他の成分、要素、整数、ステップ及び同様のものに対して排他的である。
【0198】
「a」または「an」という用語が1つ以上を指すことに留意されたく、例えば、「エンハンサー(an enhancer)」は1つ以上のエンハンサー(複数可)を表すものと理解される。このように、「a」(または「an」)、「1つ以上」及び「少なくとも1つ」という用語は本明細書中で交換可能に使用される。
【0199】
上記のとおり、数値を修飾する場合に使用する「約」という用語は、特に指定がない限り、±10%の変動を意味する。
【0200】
以下の実施例は例示に過ぎず、本発明を限定することは意図されない。
【実施例】
【0201】
特定の実施形態では、AAVhu68カプシドは、同じくクレードF内に入るAAV9よりも良好な収率を有することが認められた。位置67にあるグルタミン酸(Glu)及び位置157にあるバリン(Val)の片方または両方のアミノ酸変化がこの収率増加を付与する可能性がある。特定の実施形態では、AAVhu68カプシドを有するベクターは、AAV9に基づくベクターと比較して、パッケージングされたベクターの収率の少なくとも15%の増加をもたらす。AAVhu68とAAVrh10とを比較すると、AAVhu68は、低用量(例えば約1×109)で脳室内投与後にAAVrh10よりも良好な形質導入効率をもたらすことが判明した。
【0202】
実施例1
A.AAVhu68の同定
以下の改変を伴ってQIAampカラム(Qiagen)を製造者の推奨に従って使用してヒト組織試料からPCR鋳型としての組織DNAを抽出した。Gao,et al[Proc Natl Acad Sci USA,2002 Sep 3,99(18):11854-11859(電子公開2002年8月21日)]によって記載されているようにQ5DNAポリメラーゼ(Q5(登録商標)Hot Start High-Fidelity 2X Master Mix,NEB)を、試料中の潜在的AAVの完全長VP1遺伝子を回収するその高い忠実度及び堅牢な効率ゆえに選択し、以下のとおりに改変されたプライマー組を使用した:AV1NSの代わりにGCTGCGYCAACTGGACCAATGAGAACプライマーprm504[配列番号7]を使用し、逆方向プライマーAV2CASの代わりにprm505:CGCAGAGACCAAGTTCAACTGAAACGA[配列番号8]を使用した。PCR条件を以下のとおりに改変した。
【表3】
PCRプログラム
【表4】
【0203】
PCRからの約3kbのバンドをゲルから切り出し、QIAquickゲル抽出キット(Qiagen)を使用してDNAを抽出し、Zero Blunt(登録商標)TOPO(登録商標)PCRクローニングキット(Thermo Fisher Scientific)にクローニングした。プラスミドを配列決定してAAV VP1遺伝子の完全長を得た。試料の大部分について少なくとも3つのプラスミドが完全に配列決定され、その試料の最終AAV配列としての共通配列が導き出された。
【0204】
AAVhu68のvp1カプシドタンパク質をコードする得られた核酸配列を配列番号1に示す。
図2A~Cも参照されたい。AAVhu68のvp1アミノ酸配列を
図1及び配列番号2に示す。AAV9、AAVhu31及びAAVhu32と比較してAAVhu68では2つの突然変異(A67E及びA157V)が必須であると同定された(
図1中に丸で囲って示す)。
【0205】
この増幅方法は、vp1コード配列とrepコード配列との間にスペーサー配列も設けた。このコード配列は、atgacttaaaccaggt、配列番号9である。AAVhu68のrep52のコード配列は配列番号3で再現される。また、rep52タンパク質配列は配列番号4で再現される。
【0206】
その後、パッケージング効率、収率及び形質導入特性を評価するために、pAAV2/9主鎖のAAV9 VP1遺伝子の場所にhu68のVP1遺伝子を搭載することによってpAAV2/hu68トランスプラスミドを作った。pAAV2/9プラスミドは、カプシド遺伝子を挟んでAAV2の5’及び3’ITRを含有し、Penn Vector
Core[University of Pennsylvania,Phila,PA US,pennvectorcore.med.upenn.edu]から入手することができる。
【0207】
B.AAVhu68の特性評価
この現象はアデノ随伴ウイルスカプシドにおいて以前に観察または記載されたことがないが、他のタンパク質及びペプチドは試験管内だけでなく生体内でも様々な化学修飾に影響され易いことが見出されたことがある。最も頻度の高い修飾は、自発的な非酵素的反応であるアスパラギンの脱アミド化である。概して、生理学的条件下(pH7.4、37℃)でのアスパラギニル脱アミド化の半減期は約1~1000日の間で変動する。類似する一連の反応がグルタミンにおいて起こってグルタメート残基となるが、これらの反応はそれらのアスパラギン対応物の反応よりも遅い。
【0208】
短鎖ペプチドでは、環状中間体の形成は一次配列によって制御されるが、タンパク質では二次、三次及び四次構造がさらなる影響を与える。したがって、各タンパク質アミドの脱アミド化速度は固有に決まる。脱アミド化ペプチドの質量分析による同定は比較的簡単である、というのも、脱アミド化は完全分子の質量に+0.984Da(-OHと-NH2基との質量差)を足すからである。脱アミド化は気相において安定な修飾であるため、
MS/MSスペクトルはいくつかの潜在的脱アミド化部位が存在している場合でさえ脱アミド化の位置を明らかにすることができる。
【0209】
この研究に関係のない4つのベクターゲノムのうちの1つを使用して4つのAAVhu68ベクターを、293細胞において各々従来の三重トランスフェクション法を用いて生産した。これらの技術の概要については、例えば、Bell CL,et al.,“The AAV9 receptor and its modification to
improve in vivo lung gene transfer in mice.”,J Clin Invest.2011;121:2427-2435を参照されたい。手短に述べると、AAV2末端逆位反復配列に挟まれたパッケージングされる配列(ニワトリβ-アクチンプロモーター、イントロン及び成長ホルモンポリAから発現される遺伝子産物)をコードするプラスミドを、AAV2 rep遺伝子及びAAVhu68 cap遺伝子をコードするプラスミドならびにアデノウイルスヘルパープラスミド(pAdΔF6)と共にHEK293細胞の三重トランスフェクションによってパッケージングした。結果として得られるAAVウイルス粒子は、CsCl勾配遠心分離を用いて精製され得、濃縮され得、後の使用のために冷凍され得る。
【0210】
変性及びアルキル化:解凍したウイルス調製物(タンパク質溶液)100μgに2μlの1Mのジチオスレイトール(DTT)及び2μlの8Mのグアニジン塩酸塩(GndHCl)を添加し、90℃で10分間インキュベートする。溶液を室温まで冷えさせ、その後、新たに調製した1Mのヨードアセタミド(IAM)5μlを添加し、暗所にて室温で30分間インキュベートする。30分後、1μlの1MのDTTの添加によってアルキル化反応を停止させる。
【0211】
消化:変性タンパク質溶液にpH7.5~8の20mMの重炭酸アンモニウムを、最終GndHCl濃度を希釈して800mMになる体積で添加する。プロテアーゼ溶液(トリプシンまたはキモトリプシン)をプロテアーゼ対タンパク質の1:20の比で添加し、37℃で一晩インキュベートする。消化後、TFAを最終的に0.5%になるまで添加して消化反応を停止させる。
【0212】
質量分析:合わせた消化混合物のおよそ1マイクログラムをUHPLC-MS/MSで分析する。LCはUltiMate3000RSLCnanoシステム(Thermo Scientific)で実施する。移動相Aは0.1%のギ酸を含むMilliQ水である。移動相Bは0.1%のギ酸を含むアセトニトリルである。LC勾配は4%のBから6%のBまでを15分間にわたって流し、その後、10%のBを25分間(合計40分)流し、その後30%のBを46分間(合計86分)流す。試料はカラムに直接装填する。カラムサイズは75cm×内径15umであり、2ミクロンのC18媒体(Acclaim PepMap)を充填する。LCは、ソースを使用するnanoflex電子スプレーイオン化を介して四重極オービトラップ型質量分析装置(Q-Exactive HF、Thermo Scientific)とインターフェースで接続される。カラムは35℃に加熱され、2.2kVの電子スプレー電圧が印加される。質量分析は、上位20位までのイオンからのタンデム質量分析スペクトルを取得するようにプログラムされる。最大限のMS分解能は120,000まで、MS/MS分解能は30,000までである。規格化された衝突エネルギーは30に設定し、自動ゲイン制御は1e5に設定し、最大充満MSは100msに設定し、最大充満MS/MSは50ms似設定する。
【0213】
データ処理:質量分析装置の生データファイルをBioPharma Finder 1.0(Thermo Scientific)で解析した。手短に述べると、全ての検索は10ppmの前駆体質量許容誤差、5ppmのフラグメント質量許容誤差、トリプシン切断、1つまでの切断不足、システインアルキル化の固定修飾、メチオニン/トリプト
ファン酸化の可変の改変、アスパラギン/グルタミン脱アミド化、リン酸化、メチル化、及びアミド化を必要とした。
【0214】
以下の表の中でTはトリプシンを指し、Cはキモトリプシンを指す。
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【0215】
AAVhu68カプシドタンパク質の場合、4つの残基(N57、N329、N452、N512)は通例高レベルの脱アミド化を呈し、大抵は様々なロットにわたって90%を上回る。さらなるアスパラギン残基(N94、N253、N270、N304、N409、N477)及びQ599)も様々なロットにわたっておよそ20%以下のレベルの脱
アミド化を呈する。脱アミド化レベルは最初はトリプシン消化を用いて同定し、そしてキモトリプシン消化を用いて確認した。
【0216】
実施例2-AAVhu68ベクターの収率
GFP及びLacZなどの様々なタグを保有しているAAVhu68及びAAV9ベクターを生成及び評価した。Gao et al[Gao,Guang-Ping,et al.“Novel adeno-associated viruses from rhesus monkeys as vectors for human gene
therapy.”Proceedings of the National Academy of Sciences 99.18(2002):11854-11859]によって記載されているように293細胞において三重トランスフェクションを用いてベクターの各々を生成した。
【0217】
A.pAAVhu68トランスプラスミドの生産
vp1カプシドタンパク質をコードする核酸配列を配列番号1に示す。
パッケージング効率、収率及び形質導入特性を評価するために、pAAV2/9主鎖のAAV9 VP1遺伝子の場所にhu68のVP1遺伝子を搭載することによってpAAV2/hu68トランスプラスミドを作った。pAAV2/9プラスミドは、カプシド遺伝子を挟んでAAV2の5’及び3’ITRを含有し、Penn Vector Core[University of Pennsylvania,Phila,PA US,pennvectorcore.med.upenn.edu]から入手することができる。
【0218】
B.AAVhu68ベクターの収率
10%のウシ胎仔血清を補充し4.5g/Lのグルコース、L-グルタミン及びピルビン酸ナトリウムを含む1XのDMEM(イーグル最小必須培地のダルベッコ改変)中で293細胞を5%のCO2の雰囲気下、37℃で培養及び維持した。トランスフェクションは、ベクタープラスミドをpAAV2/hu68またはpAAV2/9で置き換えてGao et al[Gao,Guang-Ping,et al.“Novel adeno-associated viruses from rhesus monkeys
as vectors for human gene therapy.”Proceedings of the National Academy of Sciences 99.18(2002):11854-11859]によって記載されているように実施された。利用した導入遺伝子(発現カセット)はCB7.CI.ffLuciferase.RBGであった。トランスフェクトした細胞をさらに6ウェルプレートで培養した。Gao et al[Gao,Guangping,et al.“Purification of recombinant adeno-associated virus vectors by column chromatography and its performance in vivo.”Human gene therapy 11.15(2000):2079-2091.]に記載されているように導入遺伝子(発現カセット)のウサギベータ-グロビンポリA領域を標的とするプローブ及びプライマーを使用することによるTaqMan(Applied Biosystems)分析によってウイルス定量を行うために、細胞の全溶解物及び上清を回収した。上清の力価と全溶解物の力価との両方に関して6つのpAAV2/9プラスミド及び6つのpAAV2/hu.68プラスミドの収率を6ウェルプレートで直接比較した。各プラスミドは個々の細菌コロニーから得たものであった。
【0219】
全溶解物に関してAAVhu68の収率は、AAV9のそれと類似していることが分かった(
図3A、n=6、p=0.42)。しかしながら、上清ではAAVhu68の収率がAAV9のそれよりも有意に高かった(
図3B、n=6、p=0.0003)。したが
って、生産の観点からAAVhu68はAAV9に比べてより良好なベクターであることが実証された、というのも、セルスタック規模及びウイルス生産の最中には上清が採集されるからである。
【0220】
実施例3-AAVhu68.LacZの生体内形質導入
核局在性細菌β-ガラクトシダーゼ(nLacZ)をコードする配列を挿入することによってAAVhu68.CB7.nLacZ(AAVhu68.LacZとも呼ぶ)を生成し、その後、実施例2に記載するように生産した。パッケージング効率、収率、形質導入特性、形質導入効率、及びAAVhu68の生体内での向性を評価するために、様々な投与方法、例えば、静脈内、筋肉内及び鼻腔内投与によってマウスに5×10
11ゲノムコピーのAAVhu68.LacZベクターを注射した。ベクター投与から2週間後にマウスを屠殺した後、筋肉、肺、肝臓及び心臓を採取した。各臓器の凍結切片を作製し、加工し、LacZ遺伝子発現を検出する従来のプロトコールとして分析した[Bell,Peter,et al.“An optimized protocol for detection of E.coli β-galactosidase in lung tissue following gene transfer.”Histochemistry and cell biology 124.1(2005):77-85.]。青色で示されるLacZの陽性染色(
図4A~C)は、AAVhu68の形質導入の成功を示唆している。
【0221】
図4Aに示すように、静脈内注射(IV)によってマウスにベクターを導入した後、全ての臓器(心臓、肝臓、肺及び筋肉)はAAVhu68の形質導入を実証したが、肺及び筋肉よりも心臓及び肝臓を好む向性が認められた。筋肉内注射(IM)によってマウスにベクターを導入した後、心臓、肝臓及び筋肉がAAVhu68の高い形質導入率を実証した一方、肺における検出可能な形質導入は認められなかった。鼻腔内投与を実施した場合、心臓、肝臓、筋肉及び肺において散在する形質導入が観察された。
【0222】
これらの結果は、AAVhu68が高い形質導入効率と広い組織/臓器向性を実証したことを明らかにした。
【0223】
実施例4-AAV9.GFPと比較されるAAVhu68.GFPの生体内形質導入
遺伝子として緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子を挿入することによってAAVhu68.GFP及びAAV9.GFPを生成し、その後、実施例2に記載するようにこの遺伝子を生産した。パッケージング効率、収率、形質導入特性、形質導入効率、ならびにAAVhu68及びAAV9の生体内での向性を評価するために、マウスに1×10
10GCまたは1×10
11GCの用量でAAVhu68.GFPまたはAAV9.GFPを投与した。ベクター投与から2週間後にマウスを屠殺した後、脳、筋肉、肺、肝臓及び心臓を採取した。Wang et al[Wang L,et al.,Hum
Gene Ther.2011 Nov;22(11):1389-401、Wang
L,et al.,Mol Ther.2010 Jan;18(1):126-34]によって記載されているように各臓器の凍結切片を作製及び加工してGFP発現を可視化した。緑色で示されるGFPの陽性染色(
図5A~C及び
図6A~D)は、試験したベクターの形質導入の成功を示唆している。
【0224】
ベクターを脳室内に投与されたマウスの様々な脳領域(海馬、運動野及び小脳)からの切片を調査した。1×1010GCのAAV9.GFPを注射されたマウスからのものを除いて、試験した全ての海馬試料においてAAVベクターの形質導入が認められた。運動野では、AAVhu68.GFPの形質導入がAAV9のそれよりも良好であることが認められた。さらに、小脳におけるAAVhu68.GFPの形質導入は、マウスに1×1011GCのベクターを注射した場合にのみ認められた。したがって、AAVhu68は
AAV9に比べてより高い形質導入効率及びより広い向性を脳において呈した。
【0225】
さらなる実験において、AAVhu68.GFPを静脈内に投与されたマウスからの様々な臓器、例えば、肝臓、腎臓、心臓及び膵臓を準備し、Wang et al[Wang L,Calcedo R,Bell P,Lin J,Grant RL,Siegel DL,Wilson JM,Hum Gene Ther.2011 Nov;22(11):1389-401、Wang L,Calcedo R,Wang H,Bell P,Grant R,Vandenberghe LH,Sanmiguel J,Morizono H,Batshaw ML,Wilson JM,Mol Ther.2010 Jan;18(1):126-34]によって記載されているように加工した。緑色で示されるGFPの陽性シグナルは、上記AAVベクターの形質導入の成功を示唆している。白黒で示される明視野画像は臓器形態学のために提供した一方、対応する赤色の蛍光チャンネルは陰性対照として提供した。
【0226】
肝臓では緑色で示す強い陽性信号が観察されたが、腎臓、心臓及び膵臓は上記ベクターの形質導入も示し、AAVhu68ベクターの広い組織/臓器向性が示された。
【0227】
実施例5-A67E及びA157V突然変異を有するAAVベクターの収率及び生体内での形質導入
組換えアデノ随伴(rAAV)ベクターの収率及び/またはパッケージング効率を向上させるために、アミノ酸位置67のGlu及び/またはアミノ酸位置157のValを有するvp1タンパク質を発現するAAVカプシド遺伝子をAAVベクター、例えば、AAV9、AAVhu31及びAAVhu32に対して操作するが、ここでのアミノ酸残基の付番はAAVhu68[配列番号5]に基づくものである。
【0228】
上記AAVベクターを生産し、実施例2に従って各ベクターについて収率を評価する。従来の方法、例えば実施例3に示す方法によって生体内での形質導入効率及び組織/臓器/領域向性をさらに評価する。
【0229】
実施例6-ヒトHER2+ 乳癌脳転移癌の予防のためのクモ膜下腔内AAVhu68.CMV.PI.htrastuzumab.SV40
【表6】
【0230】
A.概要
この研究の目的は、ヒトHER2+ 乳癌脳転移癌の予防のための、トラスツズマブ発現カセットを含有する血清型AAVhu68の組換えアデノ随伴ウイルスであるAAVhu68.CMV.PI.htrastuzumab.SV40(AAVhu68.trastuzumab)の治療有効性を、異種移植マウスモデルにおいて試験することであった。トラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標)、Roche)は、全身性HER2+疾患を治療する化学療法と共に静脈内に使用した場合に患者の生存期間を延ばす、HER2を指向するヒト化モノクローナル抗体(mAb)である。しかしながら、血液脳関門は、静脈内に投与されるハーセプチン(登録商標)が中枢神経系に入ることを遮り、HER2+乳癌脳転移癌を効果的に治療することをできなくする。いくつかの症例報告は、クモ膜下腔内投与されたハーセプチン(登録商標)が、HER2+ 軟髄膜疾患を有する患者の生存期間を増加させること、またはHER2+ 局所転移癌の進行を停止させることができることを示している[J.C.Bendell,et al,Central nervous system metastases in women who receive trastuzumab-based therapy for metastatic breast carcinoma.Cancer.97,2972-2977(2003)、D.J.Slamon,et al.,Use of Chemotherapy plus a Monoclonal Antibody against
HER2 for Metastatic Breast Cancer That Overexpresses HER2.N.Engl.J.Med.344,783-792(2001),M.A.Cobleigh,et al,Multinational study of the efficacy and safety of humanized anti-HER2 monoclonal antibody in women who have HER2-overexpressing metastatic breast cancer that has progressed after chemotherapy for metastatic disease.J.Clin.Oncol.17,2639-2648(1999),Zagouri F,et al,(2013).Intrathecal administration of trastuzumab for the treatment of meningeal carcinomatosis in HER2-positive metastatic breast cancer:a systematic review and pooled analysis.Breast Cancer Res Treat,139(1):13-22.,Bousquet G,et
al.(2016).Intrathecal Trastuzumab Halts
Progression of CNS Metastases in Breast
Cancer.J Clin Oncol.34(16):e151-155]。しかしながら、CSFは急速に変化し、その結果、大きく変動するCSF薬理動態プロファイルのためにITハーセプチン(登録商標)の治療効果が弱まる可能性がある。AAVhu68.trastuzumab処置の目的は、AAVhu68.trastuzumabの脳実質自体において局在化された長期発現を提供することによって発生を防止し、増殖を遅延させ、生存率を改善し、またはHER2+ BCBMに関連する臨床的生活の質の大きさを増加させることである
【0231】
4つの異なる用量(1.00×1010、3.00×1010、1.00×1011、及び3.00×1011GC/動物)のAAVhu68.trastuzumabを6~9週齢のRAG1-/-マウスに頭蓋脳室内注射(ICV)によって投与した。HER2+ ヒト管癌腫細胞株に由来するBT474.M1.ffluc細胞を少なくとも21日後に移植した。マウスを毎日観察し、試験の終点で安楽死させた。腫瘍体積を測定するために剖検時に脳組織を採取した。HER2+ 乳癌脳転移癌のRAG1-/-異種移植モデルにおけるAAVhu68.CMV.PI.htrastuzumab.SV40の予防的ICV投与は、この実験の全ての用量試験において有意に減少した腫瘍体積をもたら
したと結論付けられた。まとめると、これらの結果は、HER2+ BCBMを有する患者の生存率を改善するAAVhu68.trastuzumabの潜在的な治療有効性を実証した。
【0232】
B.この研究の目的は、HER2+ BCBMのRAG1-/-異種移植モデルにおいて腫瘍体積を試験することによって腫瘍予防のためのAAVhu68.trastuzumabの最小必須用量(MED)を調査することであった。ベクターはAAVhu68.CMV.PI.htrastuzumab.SV40またはAAVhu68.trastuzumabである。
ddPCR力価:7.38×1013GC/ml
内毒素:2.0EU/ml未満
純度:100%
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(処置対照なし)
【0233】
腫瘍予防をもたらすAAVhu68.trastuzumabの能力を、HER2+ BCBMのRAG1
-/-マウス異種移植モデルを使用して評価した。免疫不全マウスモデルは、マウス免疫系による拒絶反応なしでマウスにおけるヒト由来の同所性腫瘍の増殖を可能にする。さらに、RAG1
-/-マウスは固有のIgGを有しておらず、トラスツズマブをプロテインA ELISAによって定量することが可能である。
表:研究設計
【表7】
【0234】
試験品及び陰性対照を無菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で希釈して適切な濃度にした。ベクターを左側脳室内にICV投与した。
【0235】
CSFアクセスのための様々な経路を使用してクモ膜下腔内AAV送達を実施することができる。ICV経路を選択した、というのも、それはマウスにおいて(頚部の皮膚及び筋肉の切開を必要とする大槽経路と比較して)侵襲性が最も小さく外科手技を必要としないからである。以前に本発明者らの実験室にて及び他の者によって、マウスにおいても大型動物において脳脊髄液(ICVまたは大槽)中へのAAV9ベクターの単回注射が脳全体のニューロンを指向することが実証された[Dirren at al.(2014).Intracerebroventricular Injection Of Ad
eno-Associated Virus 6 And 9 Vectors For
Cell Type-Specific Transgene Expression
In The Spinal Cord.Hum.Gene.Therapy 25,109-120,Snyder et al.(2011).Comparison Of Adeno-Associated Viral Vector Serotypes For Spinal Cord And Motor Neuron Gene Delivery.Hum.Gene Ther 22,1129-1135,Bucher et al.(2014).Intracistemal Delivery Of AAV9 Results In Oligodendrocyte And Motor Neuron Transduction In The Whole Central Nervous System Of Cats.Gene Therapy
21,522-528,Hinderer et al.(2014).Intrathecal Gene Therapy Corrects CNS Pathology In A Feline Model Of Mucopolysaccharidosis I.Mol Ther:22,2018-2027]。
【0236】
C.RAG1-/-マウスにおける腫瘍細胞移植
HER2+ BCBMのマウス異種移植モデルを作出するために、ホタルルシフェラーゼBT474-M1.fflucを形質導入したヒトHER2+ 管細胞癌腫細胞株を採用した。注射手技のためにマウスをケタミン/キシラジンで麻酔した。頭皮及び首にある毛は剃毛した。時間放出17-βエストラジオールペレット(1.7mg、90日放出、Innovative Research of America)を首の背の皮下に埋植し、研究の間90日ごとに再投与した。マウスを定位固定装置に固定した。露出した皮膚をポビドンヨウ素及び70%エタノールで浄化した。頭蓋頂部に1cmの前後切開を行った。ブレグマを同定した。空圧式ドリルをブレグマに配置し、その後、頭蓋に穿頭孔を空ける場所でブレグマの0.8mm後方及び2.2mm左側に動かした。25μLのハミルトンシリンジに5μLの腫瘍細胞懸濁液(MatriGel(登録商標):PBSが50:50の合計100,000細胞)を装填した。針をブレグマに持ってきて上に示した座標に動かした後、脳実質中に4.0mm突き刺した。その後、針の軌跡において針を1.0mm戻し上げて、腫瘍細胞を注入する穴を作り出した。針を位置一定のまま5分間置いた。次に、モニター化注入装置を使用して5μLの細胞懸濁液を10分掛けて注入した。注入終了後、針を位置一定のまま5分間置き、その後、ゆっくりと取り除いた。頭蓋にわたる切開部を4.0vicrylで縫合し、無菌PBS中15mg/kgのエンロフロキサシン(Bayer)と併せて無菌PBS中0.3mg/kgのブプレノルフィンをどちらもマウスの皮下に与えた。
【0237】
マウスを毎日監視した。瀕死になった場合はマウスをCO2の過剰曝露とそれに続く頚部脱臼によって安楽死させた。剖検時に脳を単離し、腫瘍注射針軌跡に沿って冠状に切断した。
【0238】
腫瘍体積:35日目の腫瘍直径の測定を、デジタル副尺ノギス(Thermo-Fisher)を使用して実施した。剖検時に脳を採取した。腫瘍注射針軌跡における鈍的切開を用いて腫瘍を周囲の脳組織から単離した。その後、腫瘍直径を三次元(x、y及びz)に測定し、腫瘍体積を楕円の体積4/3*π*x/2*y/2*z/2として算出した。ベクター注射及び腫瘍埋植の対側半球である右脳半球をホルマリン中に貯蔵した。切開した腫瘍を用量コホートごとにまとめ合わせてホルマリン中に貯蔵した。GraphPad
Prism7でマン・ホイットニー検定を用いて腫瘍体積比較を行った
【0239】
D.結果
腫瘍体積:IT AAVhu68.trastuzumab腫瘍予防が腫瘍成長を遅延
させるか否かを判定するために、本発明者らは、埋植後35日目に腫瘍直径を測定した。最高用量のAAVhu68.trastuzumab腫瘍予防を受けた群からの腫瘍体積中央値(0.4mm
3、n=10)は、処置を受けなかったマウスの場合(26.1mm
3、n=9)よりも有意に小さかった。より低い用量のAAVhu68.trastuzumabを受けたマウスはどれも無処置に比べて有意に腫瘍がより小さかった。1.00×10
10GC/マウスを与えたマウスの腫瘍体積中央値は、3.00×10
10GC/マウスを与えたマウスの腫瘍体積中央値と統計学的に同じであると算出された(p=0.6029)。留意すべきこととして、群1中の2匹のマウス、群2中の1匹のマウス、群3中の3匹のマウス、及び群4中の3匹のマウスは切開時に肉眼的に明らかな腫瘍を有していなかった。
【表8】
【0240】
HER2+ BT474.M1ヒト管癌腫細胞株を使用するHER2+ BCBMのRAG1-/-マウス異種移植モデルに予防的に投与する場合、全ての用量において、AAVhu68.trastuzumabのIT投与は腫瘍埋植後D35に有意により小さい腫瘍体積中央値につながった。この研究で測定されたAAVhu68.trastuzumab MEDは1.00×1010GC/マウスであった。
【0241】
実施例7-AAVhu68ベクターの生産収率及び純度
異なるカプシドを有する組換えアデノ随伴(rAAV)ベクターの生産収率及び/または純度を比較するために、AAVhu68、AAV8triple、AAV8及びAAV9を含めて異なるカプシドを有する2つの異なるベクター組を生成及び作製した。
【0242】
手短に述べると、示されているカプシドと、サイトメガロウイルスプロモーター(CMV)、ホタルルシフェラーゼコード配列及びSV40ポリAを含むベクターゲノム(CMV.ffLuciferase.SV40)とを有する1つのベクター組を小規模で生産し、各ベクターの収率を評価した。結果は、AAV9ベクターが最高収率を示した一方でAAVhu68ベクターが2番手として続いたことを示している(
図8A)。AAV8及びAAV8tripleベクターも4×10
13GCを上回る収率を示した(
図8A)。
【0243】
示されているカプシドと、CMVプロモーター、イントロン、イムノアドヘシンコード配列(201IgIA)及びSV40ポリAを含むベクターゲノム(CMV.PI.201IgIA.SV40)とを有する他のベクター組を従来の方法に従って巨大規模で生産し、各ベクターの収率及び純度を評価した。結果を
図8B及び
図9に示す。
【0244】
小規模作製の収率に類似してAAV9ベクターが約5.7×10
14GCで最高収率を
示した一方でAAVhu68ベクターは約3.8×10
14GCで2番手として続いた(
図8B)。AAV8ベクターは約3.6×10
14GCの収率を示し、AAV8tripleは約1.8×10
14GCの収率を示した(
図8B)。試験した調製物の純度は同程度であり、約97.4%~約98.6%の範囲であった。
【0245】
実施例8-雄のRAG KOマウスでのrAAVベクター。
AAVhu68、AAV8triple、AAV8及びAAV9を含めて異なるカプシドを有し分泌性導入遺伝子産物201IgIAを発現するrAAVベクターを使用して遺伝子発現を生体内で試験した。
【0246】
6~8週齢の雄のRAG KOマウス(n=5/群)の腓腹筋にハミルトンシリンジを使用して3×1011GC/マウスまたは3×1010GC/マウスの試験ベクターを筋肉内に導入した。分泌性タンパク質を発現するベクターを投与したマウスから血清を顎下出血によって血清採取管内に毎週採取した。Greig et al.,Intramuscular Injection of AAV8 in Mice and Macaques Is Associated with Substantial Hepatic Targeting and Transgene Expression,PLoS One.2014 Nov 13;9(1l):e112268.doi:10.1371/journal.pone.0112268.eCollection 2014に記載されているように血清における導入遺伝子発現レベルをELISAによって測定した。
【0247】
図10A及び
図10Bに示すように、マウスのIM注射の後、AAVhu68、AAV8及びAAV9ベクターが導入遺伝子を類似するレベルで発現した一方でAAV8tripleベクターはより良好に発現する。試験した最低用量(すなわち3×10
10GC/マウス)ではAAV8tripleとの発現差はかなりのものである。
【0248】
実施例9-雄のC57BL/6JマウスにおけるrAAVベクターの導入遺伝子発現。
AAVhu68、AAV8triple、AAV8及びAAV9を含めて異なるカプシドを有しホタルルシフェラーゼ(ffLuc)を導入遺伝子として発現するrAAVベクターを使用して生体内での肝臓及び筋肉における発現を試験した。
【0249】
6~8週齢の雄のC57BL/6Jマウス(n=5/群)の腓腹筋にハミルトンシリンジを使用して3×1011GC/マウスの試験ベクターを筋肉内に導入した。以前に教示(上に引用したGreig et al.,PLos One 2014)されているとおりに全身生物発光イメージングによってffLuc発現を毎週可視化した。
【0250】
図11A及び
図11Bに示されているように、AAVhu68、AAV8及びAAV9ベクターが筋肉でも肝臓でも類似するレベルで発現された一方、AAV8tripleベクターは肝臓では発現が減少し、筋肉では発現が増進している。
【0251】
実施例10-雄及び雌のカニクイザルでのrAAVベクター。
AAVhu68、AAV8triple、AAV8及びAAV9を含めて異なるカプシドを有し分泌性導入遺伝子201IgIAを発現するrAAVベクターを使用してカニクイザルにおける導入遺伝子発現を試験した。
【0252】
ベクター生体内分布試験のために、試験開始時にNAb力価が注射ベクターに対して1:5に満たない雄及び雌のカニクイザルに、4つのベクターカプシド(AAV8triple、AAVhu68、AAV9またはAAV8)のうちの1つからの201IgIAを発現するベクターを1013GC/kg体重の用量で体重1kgあたり1mlの注射(1
013GC/mlのベクター濃度)として左右両方の脚の外側広筋に筋肉内投与した。試験前に、及び試験の間毎週、大腿静脈の静脈穿刺によって血液試料を採取した。以前に教示(上に引用したGreig et al.,PLos One 2014)されているとおりに血清中の導入遺伝子発現レベルをELISAによって測定した
【0253】
図12に示すように、IM注射後にAAVhu68及びAAV8tripleはAAV9及びAAV8ベクターに比べてより良好に発現する。
【0254】
本明細書中で引用する全ての文書を、2018年1月5日に出願された米国仮特許出願第62/614,002号、2017年11月27日に出願された米国仮特許出願第62/591,001号、及び2017年2月28日に出願された米国仮特許出願第62/464,748号と同様に参照により本明細書に援用する。「17-7986 Seq Listing_ST25.txt」と名付けて本明細書と共に提出される配列表ならびにその中の配列及びテキストを参照により援用する。本発明を特定の実施形態に関して記載してきたが、本発明の趣旨から逸脱することなく改変を行うことができることは認識されよう。そのような改変は別記の請求項の範囲に入ることが意図される。
【0255】
(配列表フリーテキスト)
以下の情報は数字識別子<223>の下でフリーテキストを含んでいる配列のために提供される。
【表9-1】
【表9-2】
【表9-3】
【表9-4】
【表9-5】
【表9-6】
【表9-7】
【表9-8】
【表9-9】
【表9-10】
【表9-11】
【配列表】