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特許7455591一次電池の寿命判断システム、寿命判断方法、及び寿命判断プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】一次電池の寿命判断システム、寿命判断方法、及び寿命判断プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/392 20190101AFI20240318BHJP
   G01R 31/382 20190101ALI20240318BHJP
   G01R 31/385 20190101ALI20240318BHJP
   G01R 31/387 20190101ALI20240318BHJP
   G01R 31/388 20190101ALI20240318BHJP
   G01R 31/367 20190101ALI20240318BHJP
【FI】
G01R31/392
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/388
G01R31/367
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020006545
(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2021113742
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【弁理士】
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100132506
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 哲文
(72)【発明者】
【氏名】川邊 啓祐
(72)【発明者】
【氏名】山田 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 孝史
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-141665(JP,A)
【文献】特開2004-198298(JP,A)
【文献】特開平11-223666(JP,A)
【文献】特開平09-065014(JP,A)
【文献】特開2004-144642(JP,A)
【文献】特開2007-280935(JP,A)
【文献】特開平10-172583(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/36-31/396
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器に使用している一次電池の開路電圧を示すデータを取得する取得部と、
前記一次電池の想定される使用開始から使用終了までの前記一次電池の開路電圧と放電深度との関係を示す第1基準データを用いて、前記取得した一次電池の開路電圧に対応する放電深度が、前記想定される使用開始から使用終了までの全放電深度に対して占める量を示す第1推定値を決定する推定部と、
前記一次電池の実使用時間が、予め決められた前記一次電池の想定使用時間に対して占める量を示す評価値と、前記第1推定値とを比較する、或いは、前記第1推定値で示される放電深度と実使用時間から、想定される全放電深度に達するまでの時間を推定することにより、前記一次電池の使用可能時間を判断する判断部と、
前記判断部による判断結果を出力する出力部と、を備える、一次電池の寿命判断システム。
【請求項2】
請求項1に記載の一次電池の寿命判断システムであって、
前記取得部は、前記一次電池の閉路電圧をさらに取得し、
前記推定部は、前記一次電池の想定される使用開始から使用終了までの複数の時点における前記一次電池の閉路電圧と放電深度との対応関係を複数の経過時間について示す第2基準データを用いて、前記取得した一次電池の閉路電圧及び前記実使用時間に対応する放電深度が前記全放電深度に対して占める量を示す第2推定値をさらに決定し、
前記判断部は、前記一次電池の実使用時間が、予め決められた前記一次電池の想定使用時間に対して占める量を示す評価値と、前記第2推定値とを比較する、或いは、前記第2推定値で示される放電深度と実使用時間から、想定される全放電深度に達するまでの時間を推定することにより、前記一次電池の使用可能時間を判断する、一次電池の寿命判断システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の一次電池の寿命判断システムであって、
前記取得部は、前記一次電池の温度をさらに取得し、
前記判断部は、前記温度をさらに用いて、前記一次電池の使用可能時間を判断する、一次電池の寿命判断システム。
【請求項4】
コンピュータにより実行される一次電池の寿命判断方法であって、
機器に使用している一次電池の開路電圧を示すデータを取得する工程と、
前記一次電池の想定される使用開始から使用終了までの前記一次電池の開路電圧と放電深度との関係を示す第1基準データを用いて、前記取得した一次電池の開路電圧に対応する放電深度が、前記想定される使用開始から使用終了までの全放電深度に対して占める量を示す第1推定値を決定する工程と、
前記一次電池の実使用時間が、予め決められた前記一次電池の想定使用時間に対して占める量を示す評価値と、前記第1推定値とを比較する、或いは、前記第1推定値で示される放電深度と実使用時間から、想定される全放電深度に達するまでの時間を推定することにより、前記一次電池の使用可能時間を判断する工程と、
前記判断による判断結果を出力する工程と、を有する、一次電池の寿命判断方法。
【請求項5】
機器に使用している一次電池の開路電圧を示すデータを取得する取得処理と、
前記一次電池の想定される使用開始から使用終了までの前記一次電池の開路電圧と放電深度との関係を示す第1基準データを用いて、前記取得した一次電池の開路電圧に対応する放電深度が、前記想定される使用開始から使用終了までの全放電深度に対して占める量を示す第1推定値を決定する推定処理と、
前記一次電池の実使用時間が、予め決められた前記一次電池の想定使用時間に対して占める量を示す評価値と、前記第1推定値とを比較する、或いは、前記第1推定値で示される放電深度と実使用時間から、想定される全放電深度に達するまでの時間を推定することにより、前記一次電池の使用可能時間を判断する判断処理と、
前記判断処理による判断結果を出力する出力処理と、をコンピュータに実行させる、一次電池の寿命判断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次電池の寿命を判断するシステム、方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ガスメータ、水道メータ、通信装置等の機器には、電源として一次電池が使用される。このように機器に使用される電池の状態を監視し、電池の異常を検出するための種々のシステムが提案されている。例えば、特開平9-65014号公報(下記特許文献1)では、ガスの検針値や水道水の使用量をセンターへ自動的に通報する自動通報装置が開示されている。この自動通報装置では、電池電圧検出部で検出した電池電圧が予め設定した判定電圧以下の時に電池電圧が異常と判定してセンターへ通報する。
【0003】
また、特開2004-144642号公報(下記特許文献2)は、使用環境温度が適正な温度範囲を逸脱した場合にはそれを自動的に判定し、その判定に基づいて、警報の出力、ガスの遮断、及び、流量計測の停止を自動的に行うガスメータが開示されている。このガスメータは、流量や温度計測のための電力を供給する電池の端子間電圧を最低しきい値電圧と比較して、電池の起電力低下を検知する検知手段を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-65014号公報
【文献】特開2004-144642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、ガスメータ等の機器に使用される一次電池は、10年に1回交換するといったように、使用期間が予め決められていることがある。このような場合、機器に使用する一次電池は、少なくとも予定された使用期間は使用できるように設計される。一次電池の使用可能期間すなわち寿命は、温度等の使用環境によって変わる。そのため、一次電池の寿命は、予定された使用期間より長めに設計される。しかし、機器に使用する一次電池の寿命が、その使用環境によってどの程度変動するか予測するのが難しいことが多い。この場合、予定された使用期間に対して、寿命が大幅に長くなるよう、大幅な余裕を持って設計せざるを得なくなる。
【0006】
そこで、発明者らは、機器に使用中の一次電池の残り寿命すなわち残りの使用可能時間を、使用中の任意の時に判断するための方法を検討した。上記従来技術では、一次電池の異常を検出できるが、一次電池の使用中の任意の時に、使用環境に応じて変動する一次電池の使用可能期間を推測することは難しい。
【0007】
本願は、使用環境に応じて変動し得る一次電池の使用可能時間を、一次電池の使用中の任意の時に判断できる一次電池の寿命判断システム、方法、及びプログラムを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態における一次電池の寿命判断システムは、機器に使用している一次電池の開路電圧を示すデータを取得する取得部と、前記一次電池の想定される使用開始から使用終了までの前記一次電池の開路電圧と放電深度との関係を示す第1基準データを用いて、前記取得した一次電池の開路電圧に対応する放電深度が、前記想定される使用開始から使用終了までの全放電深度に対して占める量を示す第1推定値を決定する推定部と、前記第1推定値及び前記一次電池の実使用時間に基づいて、前記一次電池の使用可能時間を判断する判断部と、前記判断部による判断結果を出力する出力部と、を備える。。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、使用環境に応じて変動し得る一次電池の使用可能時間を、一次電池の使用中の任意の時に判断できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施形態の寿命判断システムの構成例を示す図である。
図2図2は、第1基準データの例を示すグラフである。
図3図3は、第2基準データの例を示すグラフである。
図4図4は、第2基準データの補間例を示すグラフである。
図5図5は、第2基準データの補間データ例を示すグラフである。
図6図6は、寿命判断システムの動作例を示すフローチャートである。
図7図7は、計算例で用いられる第1基準データを示すグラフである。
図8図8は、計算例で用いられる第2基準データを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(構成1)
本発明の実施形態における一次電池の寿命判断システムは、機器に使用している一次電池の開路電圧を示すデータを取得する取得部と、前記一次電池の想定される使用開始から使用終了までの前記一次電池の開路電圧と放電深度との関係を示す第1基準データを用いて、前記取得した一次電池の開路電圧に対応する放電深度が、前記想定される使用開始から使用終了までの全放電深度に対して占める量を示す第1推定値を決定する推定部と、前記第1推定値及び前記一次電池の実使用時間に基づいて、前記一次電池の使用可能時間を判断する判断部と、前記判断部による判断結果を出力する出力部と、を備える。
【0012】
上記構成1によれば、機器に使用中の一次電池の開路電圧を取得し、その取得した開路電圧に対応する放電深度の想定される全放電深度に対して占める量を示す第1推定値が決定される。第1推定値の決定には、一次電池の想定される使用開始から使用終了までの開路電圧と放電深度との関係を示す第1基準データが用いられる。これにより、使用中の一次電池の開路電圧に対応する放電深度が、想定される全放電深度に対して占める量を推定できる。すなわち、放電深度が、想定される使用開始から使用終了までの全放電深度において、どの程度進んでいるかを推定できる。この推定により得られる第1推定値と、一次電池の使用開始からの経過時間である実使用時間とに基づいて、使用可能時間が判断される。これにより、一次電池の開路電圧から推定される放電深度の進行度合い及び一次電池の実使用時間に基づいて使用可能時間が判断される。そのため、使用環境に応じて変動し得る一次電池の使用可能時間を、使用中の任意の時に判断することができる。
【0013】
ここで、第1基準データにおける放電深度及び第1推定値における放電深度は、放電深度に基づく物理量を示す値であってもよい。例えば、放電深度の値の他、放電深度を使用期間に換算した値、又は、放電深度を残容量に換算した値を、第1基準データの放電深度及び第1推定値の放電深度としてもよい。
【0014】
なお、第1基準データにおける想定される使用開始から使用終了までの期間は、一次電池の仕様に応じて適宜設定されてもよい。例えば、どの程度の電気量を放電した場合に使用終了とするかを、仕様に応じて予め決めることができる。
【0015】
一例として、判断部は、一次電池の実使用時間が、予め決められた一次電池の想定使用時間に対して占める量を示す評価値と、第1推定値とを比較することにより、一次電池の使用可能時間を判断することができる。例えば、判断部は、第1推定値で示される放電深度の全放電深度に占める量が、実使用時間の想定使用時間に占める量に対してどのように異なるかを判断してもよい。これにより、一次電池の使用可能時間の想定からのずれを判断することができる。
【0016】
また、他の例として、判断部は、第1推定値で示される放電深度と実使用時間から、想定される全放電深度に達するまでの時間、すなわち使用可能時間を推定することもできる。推定された使用可能時間が、判断結果として出力されてもよい。また、推定された使用可能時間と想定使用時間との比較結果が、判断結果として出力されてもよい。
【0017】
判断結果として、例えば、使用可能時間が想定使用時間に対して長いか又は短いか、或いは、どの程度異なるかを示す情報が出力される。なお、この判断結果は、放電深度が、想定放電深度より深いか浅いか、或いは、どの程度異なるかと同義である。このように、判断部は、一次電池の使用可能時間(寿命)の想定からずれを判断してもよい。
【0018】
(構成2)
上記構成1において、前記取得部は、前記一次電池の閉路電圧をさらに取得してもよい。前記推定部は、前記一次電池の想定される使用開始から使用終了までの前記一次電池の閉路電圧と放電深度との関係の経時変化を示す第2基準データを用いて、前記取得した一次電池の閉路電圧及び前記実使用時間に対応する放電深度が前記全放電深度に対して占める量を示す第2推定値をさらに決定してもよい。前記判断部は、前記第2推定値と、前記一次電池の実使用時間とに基づいて、前記一次電池の使用可能時間を判断してもよい。
【0019】
上記構成2によれば、推定部は、一次電池の想定される使用開始から使用終了までの前記一次電池の閉路電圧と放電深度との関係の経時変化を示す第2基準データを用いて、第2推定値を決定する。第2推定値は、取得した一次電池の閉路電圧及び実使用時間に対応する放電深度が全放電深度に対して占める量を示す値である。ここで、閉路電圧と放電深度との関係は、一次電池の劣化に伴い経時変化する。そのため、第2推定値は、一次電池の劣化度合いを反映したものとなる。すなわち、第2推定値は、劣化度合いを反映した放電深度が、想定される使用開始から使用終了までの全放電深度において、どの程度進んでいるかを示す値と言える。この第2推定値と、一次電池の実際の使用時間である実使用時間とに基づいて、使用可能時間が判断される。これにより、使用中の一次電池の劣化度合いを考慮した使用可能時間の判断ができる。
【0020】
なお、第2基準データ及び第2推定値における放電深度は、放電深度の値、その換算値、又は、その他の放電深度に基づく物理量を示す値であってもよい。また、第2基準データにおける使用開始から使用終了までの期間は、一次電池の仕様に応じて適宜設定されてもよい。
【0021】
(構成3)
上記構成1又は2において、前記取得部は、前記一次電池の温度をさらに取得してもよい。前記判断部は、前記温度をさらに用いて、前記一次電池の使用可能時間を判断してもよい。これにより、温度を考慮した一次電池の寿命判断が可能になる。
【0022】
本発明の実施形態における一次電池の寿命判断方法は、コンピュータにより実行される一次電池の寿命判断方法である。前記寿命判断方法は、機器に使用している一次電池の開路電圧を示すデータを取得する工程と、前記一次電池の想定される使用開始から使用終了までの前記一次電池の開路電圧と放電深度との関係を示す第1基準データを用いて、前記取得した一次電池の開路電圧に対応する放電深度が、前記想定される使用開始から使用終了までの全放電深度に対して占める量を示す第1推定値を決定する工程と、前記第1推定値及び前記一次電池の実使用時間に基づいて、前記一次電池の使用可能時間を判断する工程と、前記判断結果を出力する工程と、を有する
【0023】
本発明の実施形態における一次電池の寿命判断プログラムは、機器に使用している一次電池の開路電圧を示すデータを取得する取得処理と、前記一次電池の想定される使用開始から使用終了までの前記一次電池の開路電圧と放電深度との関係を示す第1基準データを用いて、前記取得した一次電池の開路電圧に対応する放電深度が、前記想定される使用開始から使用終了までの全放電深度に対して占める量を示す第1推定値を決定する推定処理と、前記第1推定値及び前記一次電池の実使用時間に基づいて、前記一次電池の使用可能時間を判断する判断処理と、前記判断処理による判断結果を出力する出力処理と、をコンピュータに実行させる。
【0024】
[実施形態]
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。図中同一及び相当する構成については同一の符号を付し、同じ説明を繰り返さない。なお、説明を分かりやすくするために、以下で参照する図面においては、構成が簡略化または模式化して示されたり、一部の構成部材が省略されたりしている。
【0025】
(システム構成例)
図1は、本実施形態における一次電池の寿命判断システムの構成例を示す図である。図1に示す例では、寿命判断システム10は、機器1に使用中の一次電池2から電圧等の情報を取得し、記録部3に記録されたデータを用いて、一次電池2の寿命すなわち使用可能時間を判断するシステムである。寿命判断システム10は、記録部4にアクセス可能である。記録部4には、一次電池2に関するデータが記録される。寿命判断システム10は、取得部11、推定部12、判断部13及び出力部14を備える。一次電池2は、機器1に電力を提供する。一次電池2が、機器1に接続され、機器1に電力を提供可能な状態になった時に、機器1に対する一次電池2の使用が開始される。
【0026】
図1に示す例では、測定部3は、一次電池2の開路電圧(open circuit voltage)(以下、OCVと称する)、閉路電圧(closed circuit voltage)(以下、CCVと称する)、及び温度を測定する。測定部3は、例えば、開路電圧検出回路、閉路電圧検出回路、及び温度センサを含んでもよい。測定部3は、寿命判断システム10と通信可能である。測定部3と寿命判断システム10は、ネットワークを介して通信可能であってもよい。
【0027】
取得部11は、機器1に使用中の一次電池2のOCV、CCV及び温度を取得する。例えば、取得部11は、測定されたOCV、CCV及び温度を測定部3から受信する。取得部11は、測定部3に対してOCV、CCV及び温度の測定を指示し、その測定結果を受信してもよい。或いは、測定部3から自動的にOCV、CCV及び温度を受信してもよい。測定部3は、例えば、予め決められた周期で、OCV、CCV及び温度を測定し、寿命判断システム10へ送信してもよい。或いは、予め決められた条件を満たす場合に、OCV,OCC及び温度の測定及び送信をしてもよい。なお、取得部11は、OCV、CCV及び温度に限らず、他の一次電池2に関する情報を、測定部3又は他の装置から取得してもよいし、OCV、CCV及び温度の少なくとも1つを取得してもよい。
【0028】
取得部11は、例えば、OCV、CCV及び温度を取得した時点を記録しておいてもよい。この場合、機器1に対する一次電池2の使用の開始から上記取得の時点までの時間を、一次電池2の実使用時間とすることができる。一次電池2の実使用時間は、一次電池2の実際の使用時間であり、機器1に対する一次電池2の使用開始からの経過時間である。一次電池2の実使用時間は、時分秒まで厳密に特定しなくてもよく、例えば、時間単位又は日単位で特定されてもよい。なお、一次電池2の実使用時間を示す情報を、取得部11が、OCV、CCV、温度とともに測定部3から取得してもよい。この場合、取得部11は、例えば、OCV、CCV及び温度が測定された時を示す情報を取得し、一次電池2の使用開始からOCV、CCV及び温度が測定された時までの時間を、実使用時間とすることができる。或いは、一次電池2の使用開始時を示すデータを記録しておき、使用開始から現在までの時間を、一次電池2の実使用時間として算出することもできる。一次電池2の使用開始時又は実使用時間を示すデータは、例えば、記録部4に記録される。取得部11は、測定部3から、機器1に対する一次電池2の使用が開始されたこと、又は開始時を示すデータを取得してもよい。
【0029】
記録部4には、例えば、一次電池2に関する情報を含むデータベースが記録される。データベースは、例えば、第1基準データ、第2基準データ、一次電池2の想定使用時間、及び、一次電池2の実使用時間を示すデータを含む。
【0030】
第1基準データは、一次電池2の想定される使用開始から使用終了までの、OCVと放電深度(depth of discharge、以下DODと称する)の関係(OCV-DOD)を示すデータである。例えば、第1基準データは、一次電池2の想定される使用開始から使用終了までの開路電圧の変化に対するDODの変化を示すデータであってもよい。第1基準データは、OCVとDODの対応関係を示す。また、第1基準データは、OCV及びDODに加えて、温度その他使用環境を示す値との関係を示すデータであってもよい。
【0031】
第2基準データは、一次電池2の想定される使用開始から使用終了までの、CCVとDODの関係(CCV-DOD)の経時変化を示すデータである。例えば、一次電池2の想定される使用開始から使用終了までの複数の時点におけるCCVとDODの対応関係(CCV-DOD)を複数の経過時間について示すデータが第2基準データに含まれる。また、第2基準データは、CCV及びDODに加えて、温度その他使用環境を示す値との関係を示すデータであってもよい。例えば、第2基準データとして、複数の経過時間におけるCCVとDODの対応関係が、複数の温度について記録されてもよい。
【0032】
第1基準データ及び第2基準データのデータ形式は、特に限定されないが、例えば、テーブル、マップデータ、関数、又は、プログラム等の形式であってもよい。第1基準データ及び第2基準データは、例えば、一次電池2と同じ電池で複数のDODの段階で測定されたOCVを基に作成することができる。第1基準データ及び第2基準データの作成例については、後述する。
【0033】
推定部12は、第1基準データを用いて、取得部11が取得した一次電池2のOCVに対応するDODの、想定される使用開始から使用終了までの全DODに対する量を示す第1推定値を決定する。例えば、推定部12は、第1基準データから、取得したOCVに対応するDODの値を抽出し、抽出した値を、第1推定値とすることができる。
【0034】
推定部12は、第2基準データを用いて、取得部11が取得した一次電池2のCCV及び一次電池2の実使用時間に対応するDODの、想定される使用開始から使用終了までの全DODに対する量を示す第2推定値を決定する。例えば、推定部12は、第2基準データから、取得したCCV及び実使用時間に対応するDODの値を抽出し、抽出した値を、第2推定値とすることができる。
【0035】
図2は、第1基準データの例を示すグラフである。図2に示す例では、0~100%のDODに対応するOCVの値が第1基準データとして記録される。ここで、想定される使用終了時のDODは、任意に設定できる。すなわち、想定される使用開始から使用終了までの全DOD(以下、「想定終了時DOD」と称する)を0~100%の間の任意の値に設定してもよい。想定終了時DODを示すデータが、第1基準データに含まれてもよい。なお、第1基準データは、例えば、グラフの曲線を示す関数であってもよいし、離散値の集合であってもよい。
【0036】
推定部12は、例えば、第1基準データで示される、取得部11が取得したOCVに対応するDODの値を、第1推定値とすることができる。或いは、推定部12は、取得したOCVに対応するDODの値を使用時間に変換した値を、第1推定値としてもよい。例えば、下記式により、OCVに対応するDODの値を、使用時間に変換することができる。
使用時間=(想定使用時間)×(OCVに対応するDODの値)/(想定終了時DOD)
【0037】
第1基準データは、例えば、以下のように作成することができる。まず、20℃の温度環境下で複数の一次電池を定電流で放電させてDODが異なる複数の電池(例えば、DOD=3%、15%、30%、50%、70%、80%、90%、100%の電池)を用意し、それぞれの電池のOCVを測定する。或いは、1本の一次電池を定電流で放電させて、複数の異なるDODの段階で、OCVを測定してもよい。これらの測定値から、一次電池のDOD(或いはDODを使用期間に換算した値)と、OCVとの関係に関するデータベースを作成する。なお、DOD=100%となる条件は、適宜設定することができる。すなわち、必ずしも、規格で決められている一次電池の容量を放電した状態を、DOD=100%とする必要はない。例えば、放電により電池電圧(CCV)が設定された電圧値まで低下した時の放電容量をDOD=100%の放電容量として、設定することができる。
【0038】
図3は、第2基準データの例を示すグラフである。図3に示す例では、0~100%のDODに対応するCCVの値が、複数の経過時間(0年、5年及び10年)及び複数の温度(-20℃、0℃、20℃、60℃)について、記録される。ここで、第1基準データの想定終了時DODとは異なる想定終了時DODが、第2基準データについて設定されてもよい。想定終了時DODを示すデータが、第2基準データに含まれてもよい。図3に示す例では、経過時間が0年、5年及び10年のCCV-DODが第2基準データに含まれるが、これらの間の経過時間におけるCCV-DODが補間により計算されてもよい。例えば、0年~10年までの各年についてのCCV-DODが第2基準データに含まれてもよい。第2基準データは、例えば、グラフの曲線を示す関数であってもよいし、離散値の集合であってもよい。
【0039】
推定部12は、例えば、取得部11が取得したOCV及び一次電池2の実使用時間に対応するDODの値を、第2基準データから抽出して、第2推定値とすることができる。或いは、推定部12は、取得したOCV及び実使用時間に対応するDODの値を使用時間に変換した値を、第2推定値としてもよい。例えば、下記式により、OCVに対応するDODの値を、使用時間に変換することができる。
使用時間=(想定使用時間)×(CCV及び実使用時間に対応するDODの値)/(想定終了時DOD)
【0040】
第2基準データは、例えば、以下のように作成することができる。まず、20℃の温度環境下で複数の一次電池を定電流で放電させてDODが異なる複数の電池を用意する。次に、それぞれの電池を高温の温度環境下で貯蔵して電池に経時変化を生じさせ、20℃において一定期間(例えば、5年及び10年)貯蔵されたものと同じ状態の電池とする(加速試験)。電池の想定使用期間が比較的短い場合は、高温での加速試験でなく、20℃で所定期間貯蔵し電池に経時変化を生じさせるのであってもよい。加速試験の貯蔵期間は、20℃で貯蔵した場合の貯蔵期間に換算して求める。また、加速試験での貯蔵温度は、加速の程度に応じて適宜設定することができる。
【0041】
貯蔵期間が異なる複数の一次電池を用意し、さらに、それぞれについて、複数の測定温度環境下において、パルス放電を行ったときの電池のCCVを測定する。これにより、経時変化の状態および温度環境が異なる一次電池について、電池のDOD(あるいは使用期間)と、CCVとの関係に関するデータベースを作成する。なお、パルス放電の電流値などの条件は、電池の設計容量などに応じて適宜設定することができる。
【0042】
第1基準データ、及び第2基準データにおいて、各測定値の間の値を補完してもよい。図4は、0年経過相当の電池のCCVの測定値、5年経過相当の電池のCCVの測定値の間の3年経過相当の電池のCCVの値の補間値の例を示すグラフである。グラフにおいて、0年経過相当のCCVの測定値と、5年経過相当のCCVの測定値とを結ぶ線と、使用期間=3年の線との交点のCCVの値が3年経過相当の補間値となる。図5は、図4で示す使用時間3年の補間値を基に作成されたCCV-DODの対応関係を示すグラフである。
【0043】
このように、第2基準データは、複数の温度及び複数の経過時間についてのCCV-DODの対応関係が含まれる。推定部12は、一次電池2の実使用時間に対応する経過時間のCCV-DODの対応関係であって、取得部11が取得した温度に対応するCCV-DODの対応関係を示すデータから、取得部11が取得したCCVに対応するDODを抽出し、これを第2推定値とすることができる。
【0044】
判断部13は、第1推定値、第2推定値、及び一次電池2の実使用時間に基づいて、一次電池の使用可能時間を判断する。判断部13は、第1推定値及び実使用時間に基づく判断と、第2推定値及び実使用時間に基づく判断とを、それぞれ実行することができる。
【0045】
判断部13は、第1推定値が、DODで表される値である場合、一次電池2の実使用時間に対応する想定DODと第1推定値を比較することにより、使用可能時間を判断できる。想定DODは、想定使用時間で使用した場合に実使用時間の時点で想定されるDODである。例えば、想定される使用開始から使用終了までの想定全DODに、想定使用時間に対する実使用時間の割合をかけた値(想定全DOD×(実使用時間/想定使用時間))を基に計算することができる。第2推定値が、DODを示す値である場合も、同様に、想定DODと第2推定値とを比較することで、使用可能時間を判断できる。この場合、判断部13は、OCV又はCCVから得られるDODが想定より深いか浅いのか、或いは、どの程度想定から離れているかを判断する。
【0046】
判断部13は、第1推定値が、OCVに対応するDODの想定全DODに対する量を使用時間で表した値である場合、第1推定値と実使用時間を比較することにより、使用可能時間を判断できる。この場合、第1推定値は、例えば、想定使用時間×(OCVに対応するDOD/想定全DOD)の値を基に決定される。第2推定値が、CCVに対応するDODの想定全DODに対する量を使用時間で表した値である場合も、同様に、第2推定値と実使用時間を比較することにより、使用可能時間を判断できる。この場合、判断部13は、OCV又はCCVから得られるDODに基づく使用時間が、想定より長いか短いか、或いは、どの程度想定から離れているかを判断する。
【0047】
判断部13は、第1推定値及び実使用時間を用いて、使用可能時間の推定値を計算してもよい。例えば、第1推定値が、(OCVに対応するDOD/想定全DOD)である場合は、推定値は、実使用時間/(OCVに対応するDOD/想定全DOD)で計算することができる。判断部13は、同様に、第2推定値及び実使用時間を用いて、使用可能時間の推定値を計算してもよい。例えば、第2推定値が、(CCVに対応するDOD/想定全DOD)である場合は、使用可能時間の推定値は、実使用時間/(CCVに対応するDOD/想定全DOD)で計算することができる。判断部13は、使用可能時間の推定値を判断結果としてもよい。
【0048】
また、判断部13は、使用可能時間の推定値と想定使用時間との比較結果を、判断結果としてもよい。この場合、判断部13は、推定される使用可能時間が、想定使用時間より長いか短いか、或いは、どの程度想定から離れているかを判断する。
【0049】
なお、判断部13の判断結果は、上記例に限られない。例えば、判断結果に、一次電池2の残容量が含まれてもよい。残容量は、DODから計算することができる。
【0050】
出力部14は、判断部13による判断結果を出力する。出力部14の出力形態は、特に限定されないが、判断結果は、例えば、ディスプレイへの表示、音声出力、データ送信、データ保存その他の形態で出力される。判断結果には、一次電池の使用可能時間すなわち寿命に関する情報が含まれる。例えば、使用可能時間の想定からのずれを示す情報、又は、使用可能時間を示す情報が判断結果に含まれてもよい。判断結果は、第1推定値に基づく判断結果と第2推定値に基づく判断結果の両方が含まれてもよいし、第1推定値に基づく判断結果と第2推定値に基づく判断結果を総合した判断結果が含まれもよい。
【0051】
寿命判断システム10は、1又は複数のコンピュータにより構成することができる。例えば、コンピュータが備えるプロセッサが、メモリに格納された所定のプログラムを実行することで、取得部11、推定部12、判断部13及び出力部14の機能を実現することができる。コンピュータに、取得部11、推定部12、判断部13及び出力部14の機能を実行させるプログラム、及びこのようなプログラムを記録した非一時的(non-transitory)な記録媒体も、本発明の実施形態に含まれる。記録部4は、寿命判断システム10を構成するコンピュータがアクセス可能な記録装置で構成することができる。
【0052】
寿命判断システム10は、例えば、測定部3とネットワークを介して接続されたサーバのコンピュータで構成されてもよい。また、取得部11、推定部12、判断部13及び出力部14の少なくとも一部は、例えば、測定部3と同様、一次電池2に接続される回路で構成されてもよい。或いは、測定部3は、寿命判断システム10に含まれてもよい。
【0053】
寿命判断システム10は、複数の一次電池の使用可能時間を判断する構成であってもよい。取得部11は、複数の機器にそれぞれ使用される複数の一次電池から、OCV、CCV及び温度の少なくとも1つを取得してもよい。この場合、例えば、取得部11は、OCV、CCV、温度とともに、一次電池を特定する電池特定情報(例えば、識別子、アドレス等)を取得してもよい。記録部4には、複数の一次電池それぞれの電池特定情報が、各一次電池に関するデータ(例えば、第1基準データ、第2基準データ、想定使用時間、実使用時間等)と対応付けて記録されてもよい。推定部12は、取得した電池特定情報に対応付けられた第1基準データ、第2基準データを基に、第1推定値、第2推定値を決定することができる。判断部13は、電池特定情報に対応する想定使用時間、実使用時間(又は使用開始時を示すデータ)を用いて使用可能時間を判断することができる。これにより、異なる機器1の複数の一次電池のそれぞれについて、使用可能時間を判断することができる。
【0054】
(動作例)
図6は、寿命判断システム10の動作例を示すフローチャートである。図6に示す例では、まず、取得部11が、測定部3で測定された一次電池2のOCV、CCV、温度T1を取得する(S1)。
【0055】
測定部3は、電池の使用開始後に、予め決められたタイミングで、電池のOCV、CCV、および温度を測定し、外部(寿命判断システム10)に伝達する。測定するタイミングは、特に限定はされが、例えば、あらかじめ決められた周期(例えば、1ヶ月ごとなど)に測定を行うことができる。或いは、機器の使用状況に応じて測定することもできる。例えば、機器1が、ガスメータの場合は、ガスの使用量が一定量に達するごとに測定が行われてもよい。
【0056】
OCVは、一次電池に実質的に電流が流れていない無負荷の状態で測定される。一次電池が放電された場合、放電終了後に電池の構成物が平衡状態になって電圧が一定値に落ち着くまでに多少時間がかかる場合がある。そのため、測定部3は、一次電池の放電が終了した後、無負荷の状態になる前の電流値や温度などの条件に応じて一定以上の時間が経過した後にOCVの測定を行うことが望ましい。
【0057】
CCVの測定は、一次電池を放電させた際に得られる一次電池の電圧を測定することで行われる。CCV測定時の放電条件は、予め決めておくことができる。CCV測定時の放電条件及び測定条件は、特に限定はされないが、例えば、パルス放電を1回行い、その際に変化する電池電圧の値の最小値をCCVとすることが好ましい。これにより、測定による電池容量の減少などの影響をできるだけ抑えることができる。なお、CCV測定時の放電条件(例えば、パルス放電の電流値等)は、一次電池の設計容量などに応じて適宜設定することができる。
【0058】
測定部3による温度の測定は、一次電池の表面の温度を測定するのであってもよく、電池の周囲の環境温度を測定するのであってもよい。
【0059】
取得部11は、OCV、CCV及び温度T1を取得した際に、実使用時間tを決定する(S2)。実使用時間tは、例えば、記録部4に記録された一次電池2の機器1への使用開始時から現時点までの経過時間としてもよい。決定した実使用時間tは、後の処理で、取得したOCV、CCV及び温度T1に基づいて使用可能時間を判断する際に用いられる。なお、取得部11は、測定部3から、OCV、CCV及び温度T1の測定時刻を取得し、使用開始時と測定時刻に基づいて、実使用時間tを決定してもよい。
【0060】
推定部12は、OCV、第1基準データを用いて、第1推定値を決定する(S3)。推定部12は、一次電池のDODとOCVとの関係を示す第1基準データを用いて、使用中の一次電池2について測定したOCVの値に対応するDOD(以下、これを、x(%)とする)を決定する。このDOD:x(%)を第1推定値とする。推定部12は、xの値から、一次電池の残容量の推定値を算出してもよい。なお、本実施形態では、OCVは温度が変化してもほとんど値が変わらない前提であるため、温度によるDODの推定値の補正は不要である。温度によるOCVの変化が無視できない場合は、第1基準データとして、複数の温度についてOCV-DODの関係を示すデータを準備しておく事が好ましい。これにより、温度T1に応じたOCV-DODの関係が示すデータを用いて、温度の影響を考慮したDODを決定することができる。
【0061】
判断部13は、第1推定値(OCVに対応するDOD:x(%))に基づいて一次電池2の使用可能時間を判断する(S4)。判断部13は、予定通りに電池が使用された場合に実使用時間tにおいて想定される一次電池2の想定DOD:s(%)を求める。想定DOD:sは、例えば、機器1で予定されている一次電池2の使用開始から使用終了までの想定使用期間:Tと、一次電池2の使用終了時において想定される想定終了時DOD:z(%)と、を用いて、例えば、以下の式より求めることができる。
s = z×t/T×100(%)
【0062】
判断部13は、一次電池2のOCVの測定値に基づくDOD:x(%)が、実使用時間tに基づく想定DOD:s(%)と等しい場合(x=z)は、想定通りに電池が使用されていると判断できる。x>sの場合には、想定よりも一次電池の使用が多い(電池の残容量が少ない)と判断できる。x<sの場合には、想定よりも一次電池の使用が少ない(電池の残容量が多い)と判断できる。また、その差:x-sは、実際の電池の使用状態が、想定された電池の使用状態からどの程度ずれているかを表す。判断部13による判断結果は、例えば、一次電池2の使用が想定より多いか少ないか、及び、一次電池2の使用の想定からずれの程度(x―s)を表すデータを含む。
【0063】
この判断結果に基づいて、例えば、一次電池(あるいは機器)が設置されている外部環境や、一次電池の放熱構造、一次電池の配置等の設計事項が適切かどうかを、一次電池の使用途中に確認することができる。また、一次電池の使用想定期間が満了する前に、一次電池を交換する必要があるかどうか、又は一次電池の本数を減らすことが可能か否か、を判断することもできる。このような、判断結果に基づく外部環境又は設計事項の評価、又は、電池容量の過不足の判定を、寿命判断システム10で実行してもよい。
【0064】
推定部12は、CCV、実使用時間t、第2基準データを用いて、第2推定値を決定する(S5)。第2基準データは、電池の使用開始からの経過時間および温度が異なる種々の条件における、一次電池のCCVとDODとの関係を示す。第2基準データから、使用中の一次電池2について測定したCCVの値、温度T1及び一次電池2の実使用時間tに対応するDOD(これを、y(%)とする)を導き出し、これを第2推定値とする。yの値から、電池の劣化の程度が推定される。
【0065】
判断部13は、第2推定値(OCVに対応するDOD:y(%))に基づいて一次電池2の使用可能時間を判断する(S6)。判断部13は、電池のDOD:y(%)が、上記想定DOD:s(%)と等しい場合(y=s)は、想定通りに電池が経時変化(劣化)していると判断できる。y>sの場合には、想定よりも電池の劣化が進行していると判断できる。y<sの場合には、想定よりも電池の劣化が少ないと判断できる。また、その差:y-sは、実際の電池の劣化の程度が、想定された電池の劣化状態からどの程度ずれているかを表す。判断部13による判断結果は、例えば、一次電池2の劣化が想定より多いか少ないか、及び、劣化度合いの想定からずれの程度|y―s|を表すデータを含む。
【0066】
この判断結果に基づいて、例えば、電池の設計容量や、組電池の場合の本数などの設計事項が適切か否かを、電池の使用途中に確認することができる。また、電池の使用想定期間が満了する前に、電池を交換する必要があるかどうか、電池の本数を減らすことが可能か否かを判断することもできる。このような、判断結果に基づく外部環境又は設計事項の評価、又は、電池容量の過不足の判定を、寿命判断システム10で実行してもよい。
【0067】
判断部13は、S4で決定された第1推定値と、S6で決定された第2推定値の比較結果に応じて、電池設計の指針となる情報を生成し、判断結果に含めてもよい。例えば、第1推定値xと第2推定値yの差の絶対値が、閾値を超える場合、x、yの大小関係に応じた設計指針データを生成することができる。例えば、x>yの場合には、一次電池の劣化よりも残容量の減少の方が早く進行しているため、一次電池の放電容量を重視した電池設計を提案する情報が生成される。x<yの場合には、一次電池の残容量の減少よりも劣化の方が早く進行しているため、一次電池の貯蔵特性を重視した電池設計を提案する情報が生成される。
【0068】
出力部14は、判断部13による判断結果を出力する(S7)。出力部14は、S4における第1推定値に基づく判断結果、及びS6における第2推定値に基づく判断結果のいずれか一方又は両方を出力する。また、これらの判断結果から生成される総合判断結果が出力されてもよい。また、使用可能時間に関する判断結果に基づく外部環境又は設計事項の評価結果、電池容量の過不足の判定結果、及び、第1推定値及び第2推定値に基づく設計指針データが出力されてもよい。出力部14から出力される情報を、例えば、機器1のメーカーに提供することで、機器1の設計に貢献できる。
【0069】
(処理例)
次に、以下の条件で、一次電池の使用可能時間の判断処理を実行する例を説明する。本例では、図2に示す第1基準データ及び図5に示す第2基準データを用いた場合の処理例を説明する。条件として、一時電池の使用期間は7年とする。機器設計として、一次電池を、放電深度が92%(想定終了時DOD:z=92%)になるまで使用する設計とされた場合を想定する。一次電池は5本を並列接続して使用する設計である。3年使用した段階での一次電池の状態を評価する。すなわち、実使用時間は3年とする。一次電池の使用開始から3年経過時に検出された状態は、OCV:3.042(V)、温度0℃、CCVは、2.945(V)とする。CCVは、50mA×1秒 パルス放電での最低電圧とする。
【0070】
図2に示す第1基準データのOCV-DODの関係から、OCV:3.042(V)に対応するDOD:xは、31.2%である(図7参照)。この場合、一次電池の残容量は、約70%であると判断できる。
【0071】
実使用時間tが3年、想定使用時間が7年であることから、機器設計で予定されている3年使用時の一次電池の想定DOD:sは、92% × 3年/7年 = 39.4%である。x-s=31.2%-39.4%=-8.2%なので、判断部13は、機器設計の想定よりも、8.2%だけ一次電池の使用が少ないと判断する。
【0072】
判断部13は、さらに、想定使用時間である7年使用した段階での一次電池のDODの推定値を、72.8%(31.2% × 7年/3年)と計算する。これにより、7年で、機器設計で想定された一次電池の想定全DODの79%(72.8/92)しか使用しないと推定される。これにより、一次電池の容量を80%にしてもよいと判断できる。これにより、判断部13は、一次電池の使用本数を5本から4本に減らすことが可能であると判断する。出力部14は、この判断結果を出力する。
【0073】
図5に示す第2基準データのCCV-DOD(3年経過相当、0℃におけるCCD-DOD)の関係から、CCV:2.945(V)に対応するDOD(ここでは、劣化率):yは、45.3%と決定される(図8参照)。yは、3年使用時の一次電池の想定DOD:s=39.4%よりも、4.9%大きな値となっている(y-s=4.9%)。判断部13は、当初の想定より劣化が進んでいると判断する。判断部13は、電池の劣化を促進させる機器側の要因(設置されている外部環境、電池の放熱構造、機器内での電池の配置等)の検討が必要とする判断結果を生成する。
【0074】
判断部13は、さらに、想定使用時間である7年使用した段階での一次電池の劣化率を、105.7%(45.3% × 7年/3年)と計算する。判断部13は、7年使用時の劣化率の推定値は、所定の条件(本例では、100%)を超えると判断する。この場合、判断部13は、電池交換の提案を含む判断結果を生成する。
【0075】
上記例では、第1推定値x:31.2%に比べて、第2推定値y:45%が大きくなっている。判断部13は、第1推定値と第2推定値の比較結果に応じて、電池設計の指針となる情報を生成することができる。例えば、x<yの場合、一次電池の設計の面から、貯蔵特性を重視した電池設計を提案する情報を生成することができる。
【0076】
上記例のように、判断部13は、第1推定値に基づく判断結果として得られる一次電池の使用の想定からずれの量が、予め設定された条件を満たす場合に、機器環境又は電池設計に関する提案を含む情報を生成し、判断結果に含めることができる。また、一次電池の使用の想定からずれの量に基づいて、使用中の一次電池の容量の減少又は交換を提案する情報を生成することができる。例えば、判断部13は、一次電池の使用可能時間が、想定使用時間に対して所定時間以上長いと判断される場合は、一次電池容量の減少を提案する情報を生成し、一次電池の使用可能時間が、想定使用時間に対して所定時間以上短いと判断される場合は、一次電池容量の交換を提案する情報を生成することができる。出力部14は、判断結果として、機器環境又は電池設計に関する提案を含む情報、又は、一次電池の容量の減少又は交換を提案する情報を、出力することができる。
【0077】
同様に、判断部13は、第2推定値に基づく判断結果として得られる一次電池の劣化度合いの想定からずれの量が、予め設定された条件を満たす場合に、機器環境又は電池設計に関する提案を含む情報を生成し、判断結果に含めることができる。また、一次電池の劣化度合いの想定からずれの量に基づいて、使用中の一次電池の容量の減少又は交換を提案する情報を生成することができる。
【0078】
本実施形態において、一次電池を使用する機器は、特定のものに限られないが、例えば、ガスメータとすることができる。ガスメータのように、予め一次電池の想定使用時間(交換時期)が決められている機器に、本実施形態の寿命判断システムを好適に適用することができる。寿命判断システムにより、一次電池の使用可能時間(寿命)の想定に対するずれを、使用中に把握することができる。この寿命判断システムで出力される情報により、例えば、使用中の一次電池の容量節約、又は早期交換、等が可能になる。また、上記情報により、例えば、機器に使用する一次電池の環境や設計を改善することが可能になる。
【0079】
本実施形態の寿命判断システムが対象とする一次電池は、これに限定されないが、例えば、リチウム一次電池としてもよい。リチウム一次電池は、正極、負極、及び、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータを含む。一例として、正極が、正極活物質として二酸化マンガンを含むリチウム一次電池(二酸化マンガンリチウム電池)が、寿命判断システムの対象の一次電池であってもよい。二酸化マンガンリチウム電池は、放電末期の電圧低下が緩やかな特性を有する。そのため、寿命判断システムによって、より正確に使用可能時間の判断ができる。寿命判断システムの判断の対象となる一次電池の電池の電圧は特に限定されない。例えば、公称電圧が、3.4~3.8Vの範囲の一次電池、又は、公称電圧が、2.7V~3.3Vの範囲の一次電池を、寿命判断システムの判断の対象としてもよい。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られない。
【符号の説明】
【0081】
1 機器
2 一次電池
3 測定部
4 記録部
10 寿命判断システム
11 取得部
12 推定部
13 判断部
14 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8