(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】燃料電池用酸化防止剤及びこれを含む燃料電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/1051 20160101AFI20240318BHJP
H01M 8/10 20160101ALI20240318BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20240318BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H01M8/1051
H01M8/10 101
H01M4/86 B
H01M4/88 Z
(21)【出願番号】P 2020023435
(22)【出願日】2020-02-14
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】10-2019-0036420
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(73)【特許権者】
【識別番号】500518050
【氏名又は名称】起亞株式会社
【氏名又は名称原語表記】KIA CORPORATION
【住所又は居所原語表記】12, Heolleung-ro, Seocho-gu, Seoul, Republic of Korea
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(72)【発明者】
【氏名】パク、インユ
(72)【発明者】
【氏名】コ、ジェジュン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、ボキ
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-076909(JP,A)
【文献】国際公開第2013/042746(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/157389(WO,A1)
【文献】特開2009-211830(JP,A)
【文献】特開2005-166640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/10
H01M 4/86
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サマリウムドーピングセリウム酸化物(Sm-Doped Cerium Oxide)を準備する段階と、
前記サマリウムドーピングセリウム酸化物に対して1次熱処理を実施する段階と、
1次熱処理の結果物に対して2次熱処理を実施して酸化防止剤を得る段階とを含み、
前記2次熱処理は前記1次熱処理と同等又はそれより低い温度で実施する、燃料電池用酸化防止剤の製造方法
であって、
前記1次熱処理は大気雰囲気(Ambient Atmosphere)で実施し、前記2次熱処理は水素を含むガス雰囲気(Atmosphere Containing Hydrogen)で実施する、燃料電池用酸化防止剤の製造方法。
【請求項2】
前記サマリウムドーピングセリウム酸化物は下記の化学式1で表現される、請求項1に記載の燃料電池用酸化防止剤の製造方法。
[化学式1]
Sm
xCe
1-xO
2-δ
ここで、0<x≦0.5であり、前記δは前記式1の前記
サマリウムドーピングセリウム酸化物を電気的中性にする酸素空孔値である。
【請求項3】
前記1次熱処理は100℃~1,000℃の温度で実施し、前記2次熱処理は前記1次熱処理と同等又はそれ低い温度で実施する、請求項1に記載の燃料電池用酸化防止剤の製造方法。
【請求項4】
前記1次熱処理及び2次熱処理はそれぞれ10分~10時間実施する、請求項1に記載の燃料電池用酸化防止剤の製造方法。
【請求項5】
2次熱処理によって得た酸化防止剤は、1次熱処理された結果物に比べ、553cm
-1及び600cm
-1でのラマンピーク強度が高い、請求項1に記載の燃料電池用酸化防止剤の製造方法。
【請求項6】
電解質膜及び前記電解質膜の両面に形成された一対の電極を含む膜電極接合体と、
ガス拡散層と、
分離板とを含み、
前記電解質膜、電極及びガス拡散層の少なくとも一つに酸化防止剤が含まれ、
前記酸化防止剤は
、請求項1に記載の方法で製造されたものであ
り、サマリウムドーピングセリウム酸化物に由来するものであり、XRDスペクトラムの2Θ=28±1.0°、32±1.0°、47±1.0°及び56±1.0°で主要回折ピークを有する燃料電池。
【請求項7】
前記サマリウムドーピングセリウム酸化物(Sm-Doped Cerium Oxide)は下記の化学式1で表現される、請求項
6に記載の燃料電池。
[化学式1]
Sm
xCe
1-xO
2-δ
ここで、0<x≦0.5であり、前記δは前記化学式1の前記
サマリウムドーピングセリウム酸化物を電気的中性にする酸素空孔値である。
【請求項8】
前記酸化防止剤は結晶の大きさが5nm~50nmである、請求項
6に記載の燃料電池。
【請求項9】
前記酸化防止剤はBET表面積が10m
2/g~200m
2/gである、請求項
6に記載の燃料。
【請求項10】
前記電解質膜は過フッ素化スルホン酸イオノマー及び酸化防止剤を含み、前記酸化防止剤を前記過フッ素化スルホン酸イオノマーの総含量を基準に100ppm~100,000ppm含む、請求項
6に記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化防止性が向上した燃料電池用酸化防止剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用高分子電解質膜燃料電池は水素と空気中の酸素の電気化学反応(Electrochemical Reaction)によって電気を生産する電気発生装置であり、発電効率が高く、水以外の排出物がない環境に優しい次世代エネルギー源としてよく知られている。また、高分子電解質膜燃料電池は、一般的に95℃以下の温度で作動し、高出力密度を得ることができる。
【0003】
前記燃料電池の電気生成のための反応は、過フッ素化スルホン酸イオノマー系電解質膜(Perfluorinated Sulfonic Acid Ionomer-Based Membrane)とアノード(Anode)/カソード(Cathode)の電極から構成された膜電極接合体(MEA:Membrane-Electrode Assembly)によって発生する。燃料電池の酸化極であるアノードに供給された水素が水素イオン(Proton)と電子(Electron)に分離された後、水素イオンは膜を通して還元極であるカソード側に移動し、電子は外部回路を介してカソードに移動することになり、前記カソードで酸素分子、水素イオン及び電子がともに反応して電気と熱を生成するとともに反応副産物として水(H2O)を生成することになる。
【0004】
一般に、燃料電池の反応気体である水素及び空気のうち、酸素は電解質膜を通して交差移動(Crossover)して過酸化水素(Hydrogen Peroxide:HOOH)の生成を促進する。このような過酸化水素がヒドロキシル(Hydroxyl)ラジカル(・OH)及びヒドロペロキシル(Hydroperoxyl)ラジカル(・OOH)などの酸素含有ラジカル(Oxygen-Containing Radicals)を生成することになる。このようなラジカルは過フッ素化スルホン酸系電解質膜を攻撃して膜の化学的劣化(Chemical Degradation)を引き起こし、結局燃料電池の耐久性を落とす悪影響を及ぼすことになる。
【0005】
従来、このような電解質膜の化学的劣化を緩和(Mitigation)させるための技術として、多様な種類の酸化防止剤(Antioxidants)を電解質膜に添加する方法が提案されて来た。
【0006】
前記酸化防止剤は、ラジカル捕捉剤(Radical Scavenger)機能を有する一次酸化防止剤(Primary Antioxidant)、過酸化水素分解剤(Hydrogen Peroxide Decomposer)機能を有する二次酸化防止剤(Secondary Antioxidant)に区分される。
【0007】
一次酸化防止剤としては、セリウム酸化物(Cerium Oxide)、六水和硝酸セリウム(Cerium(III) Nitrate Hexahydrate)などのセリウム系酸化防止剤、テレフタル酸系酸化防止剤などがある。二次酸化防止剤としては、酸化マンガン(Manganese Oxide)などのマンガン系酸化防止剤がある。
【0008】
しかし、S. Schlick et al., J. Phys. Chem. C, 120, 6885 - 6890(2016), S. Deshpande et al., Appl. Phys. Lett., 8, 133113 (2005)によれば、一般的にセリウム酸化物は酸化防止性と長期安全性が互いに反比例する問題があると知られている。
【0009】
したがって、優れた酸化防止性及び耐酸性を同時に確保するためには、セリウム系酸化物の微細構造的特性(Microstructural Characteristics)を最適に制御することが必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】S. Schlick et al., J. Phys. Chem. C, 120, 6885 - 6890(2016)
【文献】S. Deshpande et al., Appl. Phys. Lett., 8, 133113 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこのような従来の問題点を解決するために、耐酸性(Resistance to Acid)に優れたセリウム系酸化物にセリウム還元反応熱処理工程(Cerium Reduction Reaction Annealing Process)を実施してセリウム系酸化物の結晶構造(Crystal Structure)を精密に制御することによって酸化防止性が数等向上した酸化防止剤を製造することができる方法を提案しようとする。
【0012】
本発明の目的は以上で言及した目的に制限されない。本発明の目的は以下の説明によってより明らかになるものであり、特許請求範囲に記載された手段及びその組合せによって実現可能であろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による燃料電池用酸化防止剤の製造方法は、サマリウムドーピングセリウム酸化物(Sm-Doped Cerium Oxide)を準備する段階と、前記サマリウムドーピングセリウム酸化物に対して1次熱処理を実施する段階と、1次熱処理の結果物に対して2次熱処理を実施して酸化防止剤を得る段階とを含み、前記2次熱処理は前記1次熱処理と同等又はそれより低い温度で実施する。
【0014】
前記サマリウムドーピングセリウム酸化物は下記の化学式1で表現されるものであってもよい。
[化学式1]
SmxCe1-xO2-δ
ここで、0<x≦0.5であり、前記δは前記式1の前記化合物を電気的中性にする酸素空孔値である。
【0015】
前記1次熱処理は100℃~1,000℃の温度で実施してもよく、前記2次熱処理は前記1次熱処理と同等又はそれ低い温度で実施してもよい。
【0016】
前記1次熱処理及び2次熱処理はそれぞれ10分~10時間実施してもよい。
【0017】
前記1次熱処理は大気雰囲気(Ambient Atmosphere)で実施してもよく、前記2次熱処理は水素を含むガス雰囲気(Atmosphere Containing Hydrogen)で実施してもよい。
【0018】
2次熱処理によって得た酸化防止剤は、1次熱処理された結果物に比べ、553cm-1及び600cm-1でのラマンピーク強度が高くてもよい。
【0019】
本発明による燃料電池は、電解質膜及び前記電解質膜の両面に形成された一対の電極を含む膜電極接合体と、ガス拡散層と、分離板とを含み、前記電解質膜、電極及びガス拡散層の少なくとも一つに酸化防止剤が含まれる。
【0020】
前記酸化防止剤はXRDスペクトラムの2Θ=28±1.0°、32±1.0°、47±1.0°及び56±1.0°で主要回折ピークを有するものであってもよい。
【0021】
前記酸化防止剤は結晶の大きさが5nm~50nmであってもよく、BET表面積が10m2/g~200m2/gであってもよい。
前記電解質膜は前記酸化防止剤を前記過フッ素化スルホン酸イオノマーの総含量を基準に100ppm~100,000ppm含んでもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明による酸化防止剤は自動車用高分子電解質膜燃料電池の酸性雰囲気の下で酸化防止性及び耐酸性の両者に優れた特性を発現する。
【0023】
本発明の効果は以上で言及した効果に限定されない。本発明の効果は以下の説明から推論可能な全ての効果を含むものに理解されなければならないであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明による膜電極接合体を簡略に示す断面図である。
【
図2】本発明による電解質膜の一形態を示す断面図である。
【
図3】本発明による電解質膜の他の形態を示す断面図である。
【
図4】本発明による酸化防止剤の製造方法を示すフローチャートである。
【
図5】実施例及び比較例による酸化防止剤のX線回折分析の結果を示す図である。
【
図6】実施例及び比較例による酸化防止剤の酸化防止性をメチルバイオレット(Methyl Violet)技法で測定した結果を示す図である。
【
図7a】比較例A、実施例A-1及び実施例A-2による酸化防止剤の酸化防止性を紫外可視分光法で測定した結果を示す図である。
【
図7b】比較例B、実施例B-1及び実施例B-2による酸化防止剤の酸化防止性を紫外可視分光法で測定した結果を示す図である。
【
図8a】比較例A、実施例A-1及び実施例A-2による酸化防止剤の酸素空孔濃度の変化をラマン分光法で測定した結果を示す図である。
【
図8b】比較例B、実施例B-1及び実施例B-2による酸化防止剤の酸素空孔濃度の変化をラマン分光法で測定した結果を示す図である。
【
図9】比較例B、実施例B-1及び実施例B-2による酸化防止剤の耐酸性を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以上の本発明の目的、他の目的、特徴及び利点は添付図面に基づく以下の好適な実施例によって易しく理解可能であろう。しかし、本発明はここで説明する実施例に限定されず、他の形態に具体化することもできる。むしろ、ここで紹介する実施例は開示の内容が徹底的で完全になるように、かつ通常の技術者に本発明の思想が充分に伝達されるようにするために提供するものである。
【0026】
この明細書で、“含む”又は“有する”などの用語は明細書上に記載した特徴、数字、段階、動作、構成要素、部品又はこれらを組み合わせたものが存在することを指定しようとするものであり、一つ又はそれ以上の他の特徴、数字、段階、動作、構成要素、部分品又はこれらを組み合わせたものなどの存在又は付加の可能性を予め排除しないものと理解されなければならない。
【0027】
また、層、膜、領域、板などの部分が他の部分“上に”あると言う場合、これは他の部分の“すぐ上に”ある場合だけではなく、その中間に他の部分がある場合も含む。反対に、層、膜、領域、板などの部分が他の部分の“下に”あると言う場合、これは他の部分の“すぐ下に”ある場合だけではなく、その中間に他の部分がある場合も含む。
【0028】
他に明示しない限り、この明細書で使用した成分、反応条件、ポリマー組成物及び配合物の量を表現する全ての数字、値及び/又は表現は、このような数字が本質的に他のものの中でこのような値を得るのに発生する測定の多様な不確実性が反映された近似値であるので、全ての場合に“約”という用語で修飾されるものと理解されなければならない。また、以下の記載で数値範囲を開示する場合、このような範囲は連続的であり、他に指示しない限り、このような範囲の最小値から最大値が含まれた前記最大値までの全ての値を含む。さらに、このような範囲が整数を指示する場合、他に指示しない限り、最小値から最大値が含まれた前記最大値までを含む全ての整数が含まれる。
【0029】
図1は本発明による膜電極接合体1を簡略に示す断面図である。これを参照すると、前記膜電極接合体1は、電解質膜10及び前記電解質膜10の両面に形成された一対の電極20を含む。ここで、‘一対の電極’はアノードとカソードを意味し、互いに電解質膜を基準に対向して位置する。
【0030】
本発明による燃料電池は、前記膜電極接合体1、ガス拡散層及び分離板を含む。
【0031】
前記電解質膜10及び一対の電極20の少なくとも一つが酸化防止剤を含む。
【0032】
図2は前記電解質膜10の一形態を示す断面図である。これを参照すると、前記電解質膜10は過フッ素化スルホン酸イオノマーと酸化防止剤の混合物11からなる単一膜形態のものであってもよい。
【0033】
図3は前記電解質膜10の他の形態を示す断面図である。これを参照すると、前記電解質膜10は機械的剛性の増大のための強化層12をさらに含み、過フッ素化スルホン酸イオノマーと酸化防止剤の混合物11が前記強化層12に含浸されて3層構造を成しているものであってもよい。
【0034】
前記強化層12は発泡ポリテトラフルオロエチレン(Expanded-Polytetrafluoroethylene、e-PTFE)からなり、幾多の気孔を持っている多孔性膜であってもよい。
【0035】
ただ、本発明による電解質膜10の形態が
図2及び
図3に限定されるものではなく、イオン伝導のための過フッ素化スルホン酸イオノマー及び酸化防止剤を含んでいればどの形態も可能であると解釈されなければならない。
【0036】
前記電解質膜10は、前記過フッ素化スルホン酸イオノマーの含量を基準に、前記酸化防止剤を前記過フッ素化スルホン酸イオノマーの総含量を基準に100ppm~100,000ppm含むことができる。前記酸化防止剤の含量が100ppm未満であれば酸化防止性がとても低くて電解質膜の化学的耐久性の向上程度が小さいことがある。一方、100,000ppmを超えれば電解質膜のプロトン伝導性(Proton Conductivity)が大きく減少し、脆性(Brittleness)が増加することがある。
【0037】
前記過フッ素化スルホン酸イオノマーはナフィオン(Nafion)であってもよい。
【0038】
前記酸化防止剤は熱処理されたサマリウムドーピングセリウム酸化物(Sm-Doped Cerium Oxide)であってもよい。
【0039】
図4は前記酸化防止剤を製造する方法を示すフローチャートである。これを参照すると、前記酸化防止剤は、サマリウムドーピングセリウム酸化物(Sm-Doped Cerium Oxide、以下‘SDC’という)を準備する段階(S1)、前記サマリウムドーピングセリウム酸化物に対して1次熱処理を実施する段階(S2)、及び1次熱処理されたサマリウムドーピングセリウム酸化物に対して2次熱処理を実施する段階(S3)を含む方法によって製造されることができる。
【0040】
前記サマリウムドーピングセリウム酸化物(SDC)は、蛍石構造を有するセリウム酸化物(CeO2)においてセリウム4価イオン(Ce4+)の一部をサマリウム3価イオン(Sm3+)に置換して酸素空孔を増加させることによってセリウムイオンのレドックス(Redox)反応特性を向上させたものである。
【0041】
前記サマリウムドーピングセリウム酸化物(SDC)は下記の式1で表現されるものであってもよい。
[化学式1]
SmxCe1-xO2-δ
ここで、0<x≦0.5であり、前記δは前記式1の前記化合物を電気的中性にする酸素空孔値であり、例えば0<δ≦0.25であってもよい。
【0042】
前記xが0.5を超えればセリウム酸化物固有の構造的特性が落ちることがあるので、前記数値範囲を満たすことが好ましい。
【0043】
本発明による酸化防止剤において、前記サマリウムドーピングセリウム酸化物(SDC)は酸化防止基材(Base Material for Antioxidant)であってもよい。この明細書で、“酸化防止基材”は熱処理などの何の処理も加えなかった原形(Pristine)のものを意味するものであってもよい。
【0044】
前記サマリウムドーピングセリウム酸化物(SDC)を準備する段階(S1)で、前記サマリウムドーピングセリウム酸化物(SDC)は水熱合成法(Hydrothermal Synthesis Method)、火炎加水分解蒸着法(Flame Hydrolysis Deposition Method)及びゾルゲル自動燃焼法(Sol-Gel Auto Combustion Method)などの多様な合成法で準備することができ、特定の合成法に限定されない。
【0045】
自動車用高分子電解質膜燃料電池の酸性雰囲気の下で酸化防止剤の優れた酸化防止性及び耐酸性を同時に確保するためには、サマリウムドーピングセリウム酸化物(SDC)の結晶の大きさ及び表面積などの微細構造的特性を最適に制御することが必要である。
【0046】
このために、本発明は、前記サマリウムドーピングセリウム酸化物(SDC)を特定の条件で1次熱処理(Primary Annealing)して結晶の大きさ及び表面積を優先的に制御し、その後、1次熱処理された結果物を2次熱処理(Secondary Annealing)して酸化防止性及び耐酸性を確保する製造方法を提案する。
【0047】
具体的に、本発明は、前記2次熱処理(S3)が前記1次熱処理(S2)と同等又はそれより低い温度で実施することを特徴とする。前記1次熱処理(S2)は100℃~1,000℃の温度で実施し、前記2次熱処理(S3)は前記1次熱処理(S2)と同等又はそれより低い温度で実施することができる。この明細書で、“同等な温度”とは同一であるか、ちょっと高いか、ちょっと低い程度のいずれも意味する。例えば、基準となる数値において±5、±10、±15、±20などの範囲のいずれも含むものに解釈される。
【0048】
前記1次熱処理(S2)を100℃未満で実施すれば熱処理の効果が低くて酸化防止性は高いが耐酸性が低くなることがあり、1,000℃を超える温度で実施すれば熱処理の効果が過度に高くて耐酸性は高いが酸化防止性が低くなることがある。また、2次熱処理(S3)を前記1次熱処理(S2)より高い温度で実施すれば酸化防止剤の結晶の大きさがさらに増加して酸化防止性が大きく低下することがある。
【0049】
前記1次熱処理(S2)及び2次熱処理(S3)はそれぞれ10分~10時間、好ましくは30分~4時間実施することができる。熱処理の時間が10分未満であれば熱処理の効果が低く、10時間を超えれば工程サイクル時間が過渡に増加する欠点がある。
【0050】
前記1次熱処理(S2)は大気雰囲気の下で実施することができ、前記2次熱処理(S3)は水素を含むガス雰囲気の下で実施することができる。前記2次熱処理(S3)を水素を含むガス雰囲気で実施すれば、サマリウムドーピングセリウム酸化物表面を円滑に還元させて酸化防止性をもっと向上させることができる。また、水素を含むガスにおいて水素の比率が高いほどセリウム酸化物の還元のための時間を縮めることができ、その効果も増大する。
【0051】
前記1次熱処理(S2)及び2次熱処理(S3)は連続的に又は断続的に実施することができる。
【0052】
前記1次熱処理(S2)及び2次熱処理(S3)を連続的に実施する場合には、一定の形状及び大きさのチャンバーで前記サマリウムドーピングセリウム酸化物(SDC)を1次熱処理(S2)し、同じチャンバーでその温度を維持するか下げた後に直ぐ2次熱処理(S3)を実施することができる。
【0053】
一方、前記1次熱処理(S2)及び2次熱処理(S3)を断続的に実施する場合には、特定の温度で維持されているいずれか一チャンバーで前記サマリウムドーピングセリウム酸化物(SDC)を1次熱処理(S2)した後、1次熱処理(S2)したチャンバーと同一又はそれより低い温度で維持されている他のチャンバーに前記1次熱処理(S2)の結果物を提供して前記他のチャンバーで2次熱処理(S3)を実施することができる。
【0054】
ただ、熱処理の方法が前述したような方法に限定されるものではなく、目的とすることを達成することができれば、どの手段でも実施することができる。
以下、本発明による酸化防止剤について実施例に基づいてより具体的に説明する。
【0055】
酸化防止剤の準備
以下の表1に表示した条件で実施例及び比較例による酸化防止剤を準備した。
【表1】
【0056】
前記実施例及び比較例による酸化防止剤の結晶の大きさ、酸化防止性、酸素空孔濃度の変化及び耐酸性を下記のように測定した。
【0057】
結晶の大きさ
一般に、結晶の大きさはガス収着法(Gas Sorption)及びX線回折法(XRD:X-Ray Diffraction)などの多くの技術を用いて測定することができるが、同じ物質であっても測定方法によってその結晶の大きさ値が非常に違うことがある。したがって、本発明ではより一般的な技術であるX線回折法(X’Pert Pro,Panalytical Co.,Netherlands)を用いて前記酸化防止剤の結晶構造を分析した後、デバイシェラー(Debye-Scherrer)式を用いて結晶の大きさを算出した。
【0058】
図5は前記実施例及び比較例による酸化防止剤のX線回折分析の結果を示し、表2は前記酸化防止剤の結晶の大きさを記載したものである。
【表2】
【0059】
図5を参照すると、前記酸化防止剤はXRDスペクトラムの2Θ=28±1.0°、32±1.0°、47±1.0°及び56±1.0°で強度の高い主要回折ピークを示すことが分かる。表2を参照すると、比較例A、実施例A-1及びA-2の場合、その結晶の大きさは2次熱処理の実施有無に関係なく測定誤差範囲内で互いに大きな差がなかった。
【0060】
一方、比較例A及びB、実施例A-1及びB-1、実施例A-2及びB-2の結果を参照すると、1次熱処理の温度を600℃から800℃に高めた場合は、
図5に示すように酸化防止剤の結晶特性ピークがより明らかに発達して、デバイシェラー式で算出した結晶の大きさが平均的に約7~8nm増加したことが分かる。
【0061】
比較例B、実施例B-1及びB-3の場合も同様に、その結晶の大きさは2次熱処理の実施有無に関係なく測定誤差範囲内で互いに大きな差がなかった。一方、比較例B-1及び比較例B-2の場合のように2次熱処理温度が1次熱処理温度を大きく超える場合(約100℃以上)、その結晶の大きさが急激に増加したことが分かる。これから、1次熱処理の実施後の結晶の大きさの変化を最小化するために、2次熱処理温度は1次熱処理温度と同等に又はその以下に設定することが好ましい。
【0062】
酸化防止性
1)メチルバイオレット(Methyl Violet)技法による酸化防止性測定
メチルバイオレット技法は、メチルバイオレットを鉄硫酸塩七水和物(Iron(II) Sulfate Heptahydrate:FeSO4・7H2O)、過酸化水素、脱イオン水(De-Ionized Water)及び酸化防止剤などとともに混合してその色の変化を観察することである。
【0063】
酸化防止剤の酸化防止性が高いほどメチルバイオレットの元の色である紫色をよく維持し、酸化防止性が低いほど紫色が徐々に薄くなり、結局無色に変わる。
【0064】
本発明では、前記実施例及び比較例による酸化防止剤の酸化防止性を評価するために、メチルバイオレット水溶液:鉄硫酸塩七水和物:過酸化水素をそれぞれ1:40:40のモル比(mol ratio)で混合してメチルバイオレット試験溶液を製造し、前記試験溶液に前記実施例及び比較例による酸化防止剤をそれぞれ約3mg添加した。その結果は
図6のようである。
【0065】
図6を参照すると、比較例A及び比較例Bは最初のメチルバイオレット原液に比べて紫色の濃度が大きく薄くなったことが分かる。1次熱処理の温度がもっと高い比較例Bの濃度がもっと薄いことを見れば、1次熱処理の温度が高いほど酸化防止性が減少することが分かる。
【0066】
実施例A-1及び実施例A-2と実施例B-1及び実施例B-2の結果を参照すると、2次熱処理を実施することによって紫色の維持程度が向上したことが分かる。特に、2次熱処理を600℃で実施した実施例A-2及び実施例B-2はそれぞれ1次熱処理のみ実施した比較例A及び比較例Bに比べて紫色維持特性が大きく向上したことが肉眼で分かる。これから、2次熱処理を実施することによって酸化防止性を大きく向上させることができることを確認することができる。
【0067】
2)紫外可視分光法(UV-Visible Spectroscopy)による酸化防止性測定
前記のようなメチルバイオレット試験溶液の吸光強度(Absorbance Intensity)を紫外可視分光器(UV-3600、Shimadzu Corporation,Japan)で測定及び比較してより精密に酸化防止性を評価した。その結果は
図7a及び
図7bの通りである。
図7aは比較例A、実施例A-1及び実施例A-2による酸化防止剤に対する測定結果であり、
図7bは比較例B、実施例B-1及び実施例B-2による酸化防止剤に対する測定結果である。
【0068】
酸化防止剤の酸化防止性が高い場合はメチルバイオレットの固有吸光波長である約580nmで高い吸光強度を有する反面、酸化防止性が低い場合は低い吸光強度を有する。
【0069】
図7aを参照すると、比較例Aに比べて実施例A-1及び実施例A-2の紫外可視吸光強度が徐々に増加することが分かる。
【0070】
また、
図7bを参照すると、比較例Bに比べて実施例B-1及び実施例B-2の紫外可視吸光強度が徐々に増加することが分かる。
【0071】
これから、2次熱処理を実施すれば酸化防止性が向上することが分かる。
一方、1次熱処理の温度が800℃、2次熱処理の温度が600℃である実施例B-2の場合、比較例Bに比べて紫外可視吸光強度が非常に大幅に増加したことが分かる。
【0072】
酸素空孔(Oxygen Vacancy)濃度の変化
前記実施例及び比較例による酸化防止剤の酸素空孔濃度の変化を検証するためにラマン分光法(Raman Spectroscopy)分析を実施した。その結果は
図8a及び
図8bの通りである。
図8aは比較例A、実施例A-1及び実施例A-2による酸化防止剤に対する測定結果、
図8bは比較例B、実施例B-1及び実施例B-2による酸化防止剤に対する測定結果である。
【0073】
図8a及び
図8bの結果を参照すると、2次熱処理を実施する場合、酸素空孔濃度の変化に対する特性ピークである553cm
-1及び600cm
-1でピーク強度が徐々に増加することが分かる。これから、本発明で2次熱処理によって酸化防止剤の酸化防止性を向上させることができた原因は酸化防止剤の結晶構造内に存在する酸素空孔濃度の増加に起因したものであると判断することができる。
【0074】
耐酸性
前記実施例B-1、B-2及び比較例Bによる酸化防止剤の耐酸性を比較するために、実際の高分子電解質膜燃料電池の運転条件を模倣した酸性雰囲気の下で耐酸性試験(Acid Resistance Test)を実施した。まず、酸化防止剤を2M硫酸(Sulfuric Acid:H2SO4)溶液内で48時間浸漬させた後、その溶液に対する吸光強度を前記紫外可視分光法で測定することによって酸化防止剤の耐酸性を比較した。
【0075】
酸化防止剤の硫酸に対する耐酸性が低いほど酸化防止剤が硫酸溶液内に多く溶解してその吸光強度が増加する反面、耐酸性が高いほど吸光強度は減少する。したがって、紫外可視分光法の吸光波長のうち酸化防止剤に含まれたCe4+イオンの特性値である波長320nmでの吸光強度の変化を観察すれば酸化防止剤の耐酸性が分かる。
【0076】
吸光強度の測定の際には硫酸溶液内に酸化防止剤が溶解した溶液を脱イオン水に1:0.75の体積比で希釈させて実施した。その結果は
図9の通りである。
【0077】
図9を参照すると、2次熱処理を実施する場合、紫外可視吸光強度は同等又は少し上昇した水準の値を示すことが分かる。
【0078】
結果的に、1次熱処理及び2次熱処理によって得た酸化防止剤は酸化防止性及び耐酸性が共に優れることが分かる。
【0079】
以上、添付図面に基づいて本発明の実施例を説明したが、本発明が属する技術分野で通常の知識を有する者は本発明がその技術的思想又は必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に実施することができることが理解可能であろう。したがって、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なもので、限定的なものではないことを理解しなければならない。
【符号の説明】
【0080】
1 膜電極接合体
10 電解質膜
20 電極
11 イオノマー酸化防止剤の混合物
12 強化層