(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】搬送装置
(51)【国際特許分類】
B29D 30/26 20060101AFI20240318BHJP
B29D 30/30 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B29D30/26
B29D30/30
(21)【出願番号】P 2020030207
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2022-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】井柳 智
(72)【発明者】
【氏名】船山 幸多
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-138404(JP,A)
【文献】特開平01-190438(JP,A)
【文献】特開2014-145670(JP,A)
【文献】特開2012-035605(JP,A)
【文献】特開2011-161812(JP,A)
【文献】特開2003-112375(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0314543(US,A1)
【文献】特開2013-146914(JP,A)
【文献】特開2011-042156(JP,A)
【文献】特開2011-143606(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29D30/00-30/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒体の周面と対向し、前記周面の一部範囲と吸着可能な吸着面を有する吸着体を備えた搬送装置であって、
前記吸着面は、
前記円筒体の幅方向に沿って複数形成され、前記周面に沿って弧状に形成された溝と、
各溝により区画された複数の陸部と、
を有することを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記溝内に、吸引手段と連通する孔が形成され、前記溝内は、前記円筒体の周面が前記陸部と接した状態における前記吸引手段の動作により、負圧となることを特徴とする
請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記孔の孔径が前記吸着面の幅方向において異なることを特徴とする
請求項2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記吸着体は、少なくとも前記吸着面を構成する材質の硬さとは異なる硬さを有する材質が積層されてなることを特徴とする請求項1乃至
請求項3いずれかに記載の搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置に関し、特に円筒体の搬送に好適な搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの製造現場においては、インナーライナーやカーカスプライと言ったシート状の部材が環状や円筒状に形成され、これらの部材を成型ドラムに搬送し、成型ドラム上において加硫前の所謂グリーンタイヤを成型する工程が存在する。特許文献1には、円筒体を搬送可能な搬送装置として円筒体の周方向に沿って環状に配設され、円筒体の表面に対して拡縮可能に構成されたセグメントを備え、当該セグメントに複数の吸着パッドが設けられた搬送装置が開示されている。当該搬送装置によれば、複数の吸着パッドによって円筒体の表面を安定的に吸着できる点で有用であるが、カップ状を呈しているため、負圧によってパッド自体に極端な圧縮力が生じパッドの破損や表面の剥離等の故障を生じ易いと言う懸念がある。また、これらの故障の有無を複数の吸着パッドについて個別に検査、監視する必要があるため、メンテナンス性に欠けると言う懸念もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであって、搬送に必要な吸着力を適切に確保しつつ、故障発生の低減化及びメンテナンス性を向上可能な搬送装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の課題を解決するための構成として、円筒体の周面と対向し、周面の一部範囲と吸着可能な吸着面を有する吸着体を備えた搬送装置であって、吸着面は、円筒体の幅方向に沿って複数形成され、周面に沿って弧状に形成された溝と、各溝により区画された複数の陸部とを有する構成とした。
本構成によれば、円筒体の一部範囲が、円筒体の幅方向に沿って延長すると共に、円筒体の周面に沿って弧状に延長する吸着面によって全体的に吸着されるため、吸着体及び円筒体に過度な圧縮力が生じず、故障発生の低減化、メンテナンス性の向上を図ることができる。
また、溝内に、吸引手段と連通する孔を形成し、溝内が、円筒体の周面が陸部と接した状態における吸引手段の動作により、負圧となる構成としても良い。
また、孔の孔径が吸着面の幅方向において異なる構成としても良い。
また、吸着体を少なくとも吸着面を構成する材質の硬さとは異なる硬さを有する材質が積層されてなる構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を詳説するが、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明される特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0008】
図1に示すように、搬送装置1は、一対のレール3上において移動可能とされた環状のフレーム10と、フレーム10の周方向に沿って均等配置されたシリンダ12と、シリンダ12と連結され、シリンダ12の進退動作に応じてフレーム10の径方向に拡縮可能な複数のセグメント20と、各セグメント20に取り付けられた複数(図示の例では6個)の吸着体30とを備える。フレーム10の脚部14とレール3との間にはレール3と摺動可能な図外のスライドベアリングが介在している。フレーム10は、レール3の間に設けられたラックと、当該ラックと噛み合い、図外のモータ等の駆動源によって正逆方向に回転可能なピニオン等の移動手段によってレール3上を自在に摺動可能であり、対象となる円筒体Kを次工程(例えば成型ドラム)に搬送可能である。
【0009】
具体的には、
図1に示すように、環状のフレーム10の内径側に設置された円筒状のドラムDの周囲に架け渡された円筒体Kの表面を取り囲むようにシリンダ12の駆動によって吸着体30を近接,密着させ、図外の吸引装置の駆動によって吸着体30に吸着力を発生させる。吸着体30の吸着力によって吸着された円筒体Kは、環状を保持したままレール3に沿って搬送され、搬送先の成型ドラム上において吸着力が解除され、成型ドラム上への搬送が完了する。なお、吸着,搬送対象となる円筒体Kとしては、完成後のタイヤ自体、或いは、タイヤを構成するインナーライナー、カーカスプライ、スチールベルト、トレッドゴム等の環状、或いは円筒を呈する部材が挙げられる。なお、本明細書において幅方向とは、ドラムDの回転軸の延長方向と一致する方向であり、周方向とは、前記回転軸を中心とする円周方向と一致する方向であるものとする。
【0010】
次に、
図2を参照しつつ、吸着体30の詳細について説明する。同図に示すように、吸着体30は、径方向外側から内側に向かって取付部としての台座部32と、台座部32上に突設された一対の柱部40;40と、柱部40;40に支持された吸着本体50とを備える。吸着体30は、部位に応じて異なる硬さを有するゴムが積層されてなり、後述の台座部32に形成された複数の取付孔38に挿通される固定手段としてのボルト等を介してセグメント20側に強固に取り付けられる。
【0011】
[台座部について]
台座部32は、吸着本体50の土台となる基部34と、当該基部34の表面に対応して配設されたパッキン36とから構成され、周方向に沿った長辺を有する略矩形の板状体である。基部34は、その硬さがショアD85以上であるゴムにより成形されており、吸着体30を構成するゴム層の中で最も硬い。基部34の周方向の両端側には、幅方向沿って延長する肉厚部34a;34aが形成されており、当該肉厚部34a;34a上には、柱部40;40が突設される。パッキン36は、セグメント20の表面と接する取り付け面36aを有する薄板状であり、例えばゴム又は金属により形成され、基部34と一体化される。基部34の肉厚部34a;34aには、それぞれ幅方向に離間する複数の取付孔38が基部34及びパッキン36を貫通するように形成される。
【0012】
[柱部について]
柱部40:40は、台座部32の周方向に隔てて設けられると共に、台座部32の幅方向に沿って連続して延長する断面矩形の柱状体であって、その硬さがショアA30程度のゴムにより形成される。このように、互いに周方向に離間する肉厚部34a;34a上に突設された柱部40;40によって吸着本体50が弾性的に支持されることにより、吸着本体50によって吸着される円筒体Kの半径(表面の曲率)が異なる場合であっても、柱部40;40の柔軟性によって吸着本体50の変形を吸収,許容することができ、異なる半径を有する円筒体Kを適切に吸着することが可能となる。また、柱部40;40が、肉厚部34a;34aの間の薄肉部34bを跨ぐように突設されているため、薄肉部34bの一定程度の形状変化によっても吸着本体50の変形を吸収,許容することができる。
【0013】
[吸着本体について]
吸着本体50は、前述の柱部40;40を介して台座部32上に支持され、幅方向に沿って直線的に延長し、周方向に沿って単一の曲率を有する断面弧状に形成された厚さが5mm前後の部材である。吸着本体50は、柱部40;40との接続部52;52が形成された下層の基礎層60と、基礎層60よりも薄肉であって、基礎層60の上層に位置し、円筒体Kと接する吸着面を有する吸着層70との二層構造である。同図に示すように、基礎層60と吸着層70の周方向端部は、外側に向けて僅かに薄肉に形成されている。同図に示すように、接続部52;52は、柱部40;40の離間距離と対応するように、基礎層60の周方向に隔てて柱部40;40側に突出する突部として形成されており、柱部40;40の柱頭と一体化される。基礎層60は、その硬さが柱部40;40よりも硬いショアD80程度のゴムにより形成されており、吸着層70に加わる荷重が支持層としての柱部40;40側に伝達される。
【0014】
吸着層70は、基礎層60の全域に対応するように一体化され、厚さが2mm前後に形成された薄層であって、吸着対象となる円筒体Kの周面と対向する表面が吸着面72として形成される。吸着層70は、その硬さが柱部40と同等のショアA30程度のゴムにより形成されており、吸着対象となる円筒体Kの表面形状(曲率や凹凸)の違いに対応可能な柔軟性と変形性が付与されている。
【0015】
同図に示すように、吸着面72は、幅方向に沿って複数形成され、周方向に沿って連続して弧状に延在する吸着溝72aと、隣り合う吸着溝72a;72a間に形成された複数の陸部72bにより形成される。吸着溝72aの溝幅は例えば2mm程度に設定され、幅方向沿って2mm程度の間隔を有して形成される。
図3に示すように、各吸着溝72aの内部には、溝内に臨む複数の吸着孔74が形成される。吸着孔74は、吸着溝72aの溝底や溝壁に形成される円孔であって、例えば吸着溝72aの周方向に隔てた2か所に形成される。吸着孔74は、吸着層70、基礎層60、柱部40、台座部32の内部に連続して延長し、フレーム10側に設けられた図外の吸引手段と連通する内部流路と連通しており、吸引装置の吸引動作に応じて吸着溝72a内に負圧を発生させる。また、吸着孔74の孔径は吸着溝72aの幅方向位置によって異なるように設定されている。
【0016】
具体的には、幅方向中心に位置する吸着溝72aを含む中央領域R1の範囲の吸着溝72aに形成された吸着孔74の孔径は、中央領域R1よりも幅方向外側に位置する外側領域R2;R2の範囲の吸着溝72aに形成された吸着孔74の孔径よりも大径に設定されている。なお、吸着孔74の孔径の大小関係によって生じる作用の詳細については後述する。
【0017】
図3に示すように、複数の陸部72bは、円筒体K(K1,K2)の表面と直接的に接する面であり、シリンダ12の伸長動作によって陸部72bが円筒体Kの表面と密着してシール状態となり、陸部72b;72b間の吸着溝72aが気密状態となる。そして、当該気密状態下において吸引装置を駆動させることにより、吸着溝72a内の空気が吸着孔74を介して吸引されて内部が負圧状態となり、円筒体Kの表面を吸引可能な吸引力が発生する。そして、円筒体Kの周囲を取り囲むように配置された全ての吸着体30を同期して径方向内側に動作させて密着させ、吸引動作を開始させることにより、円筒体KがドラムDより引き剥がされ、搬送可能な状態となる。
【0018】
このとき、上記吸着体30の吸着本体50は、円筒体Kの外周面の一部の全面と対応するように吸着するため、外周面に対して吸着カップが点在して設けられた従来の構成との比較において、円筒体Kの外周面に局所的な吸引力が生じることなく、吸着面72と対応する範囲に吸引力が均一に加わるため、円筒体Kに変形が生じることなく、安定的に搬送することが可能となる。また、吸着本体50は、円筒体Kの表面と直接接する吸着面72を有する吸着層70が相対的に柔らかいゴムにより形成され、下層の基礎層60が相対的に硬く、さらにこれを支持する柱部40;40が柔らかいゴムにより形成されているため、吸着層70の形状変化吸着体30全体で吸収することが可能となる。
【0019】
次に
図3を参照しつつ、吸着孔74の大小関係によって生じる作用について説明する。同図に示すように、吸着体30によって吸着される対象となる円筒体K1;K2の幅方向寸法W1;W2は、その対象(部材)ごとに異なっており、吸着体30の幅方向寸法Wと実質的に同一な寸法を有するものや、これよりも広幅な寸法を有するもの、或いは、これよりも狭幅な寸法を有するもの等、多様な幅寸法が存在する。そして、図示の如く、吸着体30の幅方向寸法W以上の寸法を有する円筒体K1(W1)が吸着体30によって吸着される場合、上述の中央領域R1、外側領域R2;R2内の全ての陸部72bが円筒体K1の表面と密着してシール状態を形成するため、幅方向に渡る全ての吸着溝72aが気密状態となる。
【0020】
一方、吸着体30の幅方向寸法W未満の寸法を有する円筒体K2(W2)が吸着体30によって吸着される場合、図示のように円筒体K2の幅方向寸法によっては、例えば中央領域R1の陸部72bのみが円筒体K2の表面と密着してシール状態を形成し、外側領域R2;R2の陸部72bが円筒体K2の表面と接することなく、当該外側領域R2;R2の吸着溝72aがリークした状態となり得る。しかし、本実施形態に係る吸着溝72aに形成された吸着孔74の孔径は、外側領域R2;R2が小であり、中央領域R1が大の関係を有しているため、リーク状態にある外側領域R2;R2の吸着孔74からの空気の流入量が小となり、流入量が大である吸着孔74を有する中央領域R1の吸着溝72aの吸引力の低下を大幅に抑制可能となる。即ち、吸着孔74の孔径を幅方向の領域ごと変化させることにより、吸着,搬送対象となる円筒体Kの幅方向寸法の変化に柔軟に対応することが可能となる。なお、幅方向寸法Wに対する中央領域R1及び外側領域R;R2の範囲は任意に設定可能であり、吸着,搬送対象となる円筒体Kの種類に応じて決定すれば良い。
【0021】
以上説明した通り、本実施形態に係る搬送装置によれば、吸着面72が円筒体Kの幅方向に沿って延長し、かつ、円筒体Kの周方向に沿って弧状に延長することから、円筒体Kの周面の一部範囲を均一に吸着することが可能となる。また、吸着溝72aが周方向に沿って延長して形成され、各吸着溝72aにより区画された複数の陸部72bが円筒体Kの周面と密着するため、吸着溝72aの負圧によって円筒体Kを適切に吸着可能となる。また、吸着体30を少なくとも吸着面72を構成する材質の硬さとは異なる硬さを有する材質を積層して構成することにより、吸着面72の変形を吸収することが可能となり、より多様な円筒体Kを吸着,搬送可能となる。
【符号の説明】
【0022】
1 搬送装置,10 フレーム,12 シリンダ,20 セグメント,30 吸着体,
32 台座部,40 柱部,50 吸着本体,70 吸着層,72 吸着面,
72a 吸着溝,72b 陸部,74 吸着孔