(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】傾斜板装置の洗浄方法及び沈殿設備
(51)【国際特許分類】
B01D 21/02 20060101AFI20240318BHJP
B01D 21/24 20060101ALI20240318BHJP
B01D 21/34 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
B01D21/02 H
B01D21/24 S
B01D21/24 Z
B01D21/34
(21)【出願番号】P 2020035956
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000001052
【氏名又は名称】株式会社クボタ
(74)【代理人】
【識別番号】100107478
【氏名又は名称】橋本 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100117972
【氏名又は名称】河崎 眞一
(72)【発明者】
【氏名】矢次 壮一郎
(72)【発明者】
【氏名】永江 信也
(72)【発明者】
【氏名】松林 由樹
(72)【発明者】
【氏名】竹田 惠
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】実開昭58-195603(JP,U)
【文献】特開2002-085907(JP,A)
【文献】特開昭62-079814(JP,A)
【文献】特開昭57-048309(JP,A)
【文献】実開昭59-048708(JP,U)
【文献】特開平02-284606(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2433194(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/00-9/00
B01D 61/00-71/82
B01D 21/00-21/34
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈殿池の水面下に配置された傾斜板装置を介して沈殿処理水に残留する懸濁粒子を捕捉し、前記傾斜板装置に対向配置された集水装置を用いて前記傾斜板装置を通過した処理水を集水する沈殿処理に用いられる傾斜板装置の洗浄方法であって、
前記沈殿池の水位を押し下げることにより前記傾斜板装置を水中から露出させる第1工程と、
前記第1工程で水中から露出した前記傾斜板装置を、前記傾斜板装置に対向配置された洗浄装置から吐出する洗浄水により洗浄する第2工程と、
を含む傾斜板装置の洗浄方法。
【請求項2】
前記第2工程で洗浄水を吐出する前記洗浄装置として前記集水装置が用いられ、前記集水装置から吐出される洗浄水により前記傾斜板装置を洗浄する請求項1記載の傾斜板装置の洗浄方法。
【請求項3】
前記集水装置は周面に複数の集水孔が分散配置された複数の集水管を備え、前記集水孔を介して前記傾斜板装置を通過した処理水を集水し、前記集水孔を介して洗浄水を吐出するように構成されている請求項2記載の傾斜板装置の洗浄方法。
【請求項4】
前記沈殿池は少なくとも上方が密閉空間に形成され、前記第1工程は前記密閉空間に気体を供給して、前記気体の圧力により前記沈殿池の水位を押し下げて前記傾斜板装置を水中から露出させる工程である請求項1から3の何れかに記載の傾斜板装置の洗浄方法。
【請求項5】
少なくとも上方が密閉空間に形成され被処理水中の懸濁粒子を沈降分離する沈殿池と、
前記沈殿池の水面下に配置され沈殿処理水に残留する懸濁粒子を捕捉する傾斜板装置と、
前記傾斜板装置に対向配置され前記傾斜板装置を通過した処理水を集水する集水装置と、
前記密閉空間に気体を供給して前記沈殿池の水位を下げることにより前記傾斜板装置を水中から露出させる給気装置と、
前記給気装置からの給気により水中から露出した前記傾斜板装置を洗浄する洗浄水を吐出する洗浄装置と、
を備えている沈殿設備。
【請求項6】
前記集水装置は前記洗浄装置と兼用され、平面視で前記傾斜板装置の設置領域に対応する領域に配置され周面に複数の集水孔が分散配置された複数の集水管を備え、前記集水孔を介して前記傾斜板装置を通過した処理水を集水するとともに、前記集水孔を介して洗浄水を吐出するように構成されている請求項5記載の沈殿設備。
【請求項7】
前記密閉空間は少なくとも前記傾斜板装置を覆うように前記沈殿池の天井壁と、前記天井壁から垂下する阻流壁及び前記沈殿池の側壁により形成されている請求項5または6記載の沈殿設備。
【請求項8】
前記密閉空間に供給された気体を外部に引き抜く脱気管を備えている請求項5から7の何れかに記載の沈殿設備。
【請求項9】
被処理水の流入側の天井壁から前記阻流壁に向けて前記阻流壁まで延出し、下流側が下方に傾斜するスカム排出案内壁を備えている請求項5から8の何れかに記載の沈殿設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜板装置の洗浄方法及び沈殿設備に関する。
【背景技術】
【0002】
老朽化により全面的に更新する必要がある下水処理設備が増加しており、その際に多くの下水処理設備で既設備の下水処理能力の増強が求められている。当該要望に応えるべく、最終沈殿池では特許文献1に記載されたような傾斜板装置の導入により処理能力の向上が図られつつある。
【0003】
また、地価が高く、十分な敷地面積が確保し難い大都市では、最終沈殿池のスペース削減のために沈殿池を上層と下層にそれぞれ構築する2層式沈殿池を採用するケースが増加している。同様の目的で2層以上の多層の沈殿池を採用する例もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した傾斜板装置を採用する場合には、3~6か月に一度は沈殿池に流入した処理水の水位を低下させて傾斜板装置を水面から上方に露出させて、傾斜板の上面に堆積した汚泥や繁殖した藻類を剥し取る作業が必要になる。そして、そのために沈殿池への処理水の流入を停止するとともに、沈殿池に流入した処理水の半分程度を引き抜いて生物処理槽に戻す作業が必要になる。
【0006】
2層式沈殿池に傾斜板装置を採用する場合には、下層の沈殿池に設置した傾斜板装置を洗浄するために、上層の沈殿池の処理水の全量を引き抜くとともに、下層の沈殿池の処理水の半分程度を引き抜く必要があり、引き抜いた処理水が戻された生物処理槽ではHRTの短縮、MLSS濃度の乱れが生じ、稼働中の他の最終沈殿池の水面積負荷の増加につながるという問題や、2水路分の稼働を停止することになるため、下水処理設備全体として稼働率が大きく低下するという問題もあった。
【0007】
また、下層の沈殿池は点検やメンテナンス作業が困難であるため、実質的に下層の沈殿槽に傾斜板装置を採用することはできなかった。
【0008】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、下層の沈殿池であっても傾斜板装置を設置することが可能となる傾斜板装置の洗浄方法及び沈殿設備を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明による傾斜板装置の洗浄方法の第一の特徴構成は、沈殿池の水面下に配置された傾斜板装置を介して沈殿処理水に残留する懸濁粒子を捕捉し、前記傾斜板装置に対向配置された集水装置を用いて前記傾斜板装置を通過した処理水を集水する沈殿処理に用いられる傾斜板装置の洗浄方法であって、前記沈殿池の水位を押し下げることにより前記傾斜板装置を水中から露出させる第1工程と、前記第1工程で水中から露出した前記傾斜板装置を、前記傾斜板装置に対向配置された洗浄装置から吐出する洗浄水により洗浄する第2工程と、を含む点にある。
【0010】
沈殿池の水位を押し下げて傾斜板装置を水中から露出させる第1工程の実行後に、傾斜板装置に対向配置された洗浄装置を用いて洗浄水を吐出して露出した傾斜板装置を洗浄する第2工程を実行することにより沈殿池の被処理水を引き抜くことなく傾斜板装置を洗浄することができる。
【0011】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記第2工程で洗浄水を吐出する前記洗浄装置として前記集水装置が用いられ、前記集水装置から吐出される洗浄水により前記傾斜板装置を洗浄する点にある。
【0012】
傾斜板装置を洗浄する洗浄装置として集水装置を用いると、別途の洗浄装置を設置する必要がなく、設備費を抑制することも可能になる。集水装置は、沈殿処理の際に傾斜板装置を通過した処理水を集水し、傾斜板装置の洗浄処理の際には集水装置から洗浄水を吐出させることで二つの機能を実現できる。
【0013】
同第三の特徴構成は、上述した第二の特徴構成に加えて、前記集水装置は周面に複数の集水孔が分散配置された複数の集水管を備え、前記集水孔を介して前記傾斜板装置を通過した処理水を集水し、前記集水孔を介して洗浄水を吐出するように構成されている点にある。
【0014】
集水装置として、周面に複数の集水孔が分散配置された複数の集水管を備えて構成することが好ましく、集水時には集水孔を介して傾斜板装置を通過した処理水を集水し、傾斜板装置の洗浄時には集水孔から吐出された洗浄水により傾斜板装置が洗浄される。
【0015】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記沈殿池は少なくとも上方が密閉空間に形成され、前記第1工程は前記密閉空間に気体を供給して、前記気体の圧力により前記沈殿池の水位を押し下げて前記傾斜板装置を水中から露出させる工程である点にある。
【0016】
第1工程で密閉空間に気体が供給されると、その圧力が処理水の液面に作用して処理水が下方に押し下げられる。その結果、沈殿池から大量の処理水を引き抜かなくても傾斜板装置を水中から露出させることができる。
【0017】
本発明による沈殿設備の第一の特徴構成は、少なくとも上方が密閉空間に形成され処理水中の懸濁粒子を沈降分離する沈殿池と、前記沈殿池の水面下に配置され沈殿処理水に残留する懸濁粒子を捕捉する傾斜板装置と、前記傾斜板装置に対向配置され前記傾斜板装置を通過した処理水を集水する集水装置と、前記密閉空間に気体を供給して前記沈殿池の水位を下げることにより前記傾斜板装置を水中から露出させる給気装置と、前記給気装置からの給気により水中から露出した前記傾斜板装置を洗浄する洗浄水を吐出する洗浄装置と、を備えている点にある。
【0018】
沈殿池に導水された被処理水中の大半の懸濁粒子は自由沈降及び/または界面沈降することで被処理水と分離されて底面に沈降する。そして、大半の懸濁粒子が沈降した後の沈殿処理水に残留する懸濁粒子は処理水が傾斜板装置を通過する際に傾斜板装置に捕捉され、懸濁粒子が捕捉された後の処理水が集水装置により集水される。傾斜板装置から沈殿池の底面に沈降せずに傾斜板装置に残留して堆積した懸濁粒子が増え、或いは傾斜板装置に藻類が繁殖し、傾斜板装置による懸濁粒子の捕捉効果が低下するような場合に、給気装置から密閉空間に気体を供給することで、処理水の水面を押し下げて処理水の水面から傾斜板装置を露出させることができ、洗浄装置から吐出する洗浄水で傾斜板装置を、人手を介さずに自動で洗浄することができる。
【0019】
同第二の特徴構成は、上述した第一の特徴構成に加えて、前記集水装置は前記洗浄装置と兼用され、平面視で前記傾斜板装置の設置領域に対応する領域に配置され周面に複数の集水孔が分散配置された複数の集水管を備え、前記集水孔を介して前記傾斜板装置を通過した処理水を集水するとともに、前記集水孔を介して洗浄水を吐出するように構成されている点にある。
【0020】
沈殿処理の際には、周面に複数の集水孔が分散配置された複数の集水管から上澄みが集水され、洗浄時には当該集水孔から洗浄水が吐出される。集水装置と洗浄装置が兼用されるので、設備費を低減できるようになる。
【0021】
同第三の特徴構成は、上述した第一または第二の特徴構成に加えて、前記密閉空間は少なくとも前記傾斜板装置を覆うように前記沈殿池の天井壁と、前記天井壁から垂下する阻流壁及び前記沈殿池の側壁により形成されている点にある。
【0022】
傾斜板装置を覆うように配された天井壁と天井壁から垂下する阻流壁及び沈殿池の側壁によって密閉空間が形成されるので、傾斜板装置を水中から露出させるために必要な気体の供給量を抑制でき、洗浄作業を効率的に行えるようになる。
【0023】
同第四の特徴構成は、上述した第一から第三の何れかの特徴構成に加えて、前記密閉空間に供給された気体を外部に引き抜く脱気管を備えている点にある。
【0024】
傾斜板装置の洗浄が終了した後に密閉空間に供給された気体は集水装置を介して外部に排気されることになるが、少なくとも集水装置が処理水に浸漬する程度の水位までしか排気することができないため、沈殿処理に際の集水量が低下する虞がある。そのような場合に備えて脱気管を設けておけば、密閉空間に供給された気体が残留することなく外部に排気することができる。
【0025】
同第五の特徴構成は、上述した第一から第四の何れかの特徴構成に加えて、被処理水の流入側の天井壁から前記阻流壁まで延出し、下流側が下方に傾斜するスカム排出案内壁を備えている点にある。
【0026】
処理水に混入する懸濁粒子が凝集したスカムが、処理水の水面に浮遊して処理水の流れの下流側ほど上方に傾斜した天井壁に固着して次第に成長すると、沈殿池の水を引き抜いて清掃する場合でも容易に除去できなくなる。そのような場合に備えて、処理水の流入側の天井壁から阻流壁まで延出し、下流側が下方に傾斜するスカム排出案内壁を設けることにより、処理水の流れとともにスカムをスカム排出案内壁に沿って浮上させることで天井壁への固着や蓄積を回避することができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明した通り、本発明によれば、下層の沈殿池であっても傾斜板装置を設置することが可能となる傾斜板装置の洗浄方法及び沈殿設備を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(a)は本発明による二層式沈殿池の断面視の説明図、(b)は集水装置の平面視の説明図、(c)は傾斜板装置の平面視の説明図
【
図2】(a)は集水装置の他の態様を示す平面視の説明図、(b)は集水装置のさらに他の態様を示す平面視の説明図、(c),(d),(e)は集水装置を構成する集水管の説明図
【
図3】二層式沈殿池を構成する上下の沈殿池が稼働状態にあるときの説明図
【
図4】(a)は上層の沈殿池に備えた傾斜板装置の洗浄時に処理水の一部を引き抜いた状態の説明図、(b)は洗浄装置により傾斜板装置を洗浄する状態の説明図
【
図5】(a)は下層の沈殿池に備えた傾斜板装置の洗浄時に処理水の水面が押し下げられた状態の説明図、(b)は集水装置を洗浄装置として用いて、傾斜板装置を洗浄する状態の説明図
【
図6】洗浄後の下層の沈殿池から空気を引き抜く状態の説明図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明による傾斜板装置の洗浄方法及び沈殿設備を、下水のような有機性排水を生物処理する水処理設備の最終沈殿池に適用する例を、図面に基づいて説明する。
【0030】
[沈殿設備の構造]
図1(a)に示すように、沈殿設備1は、コンクリート躯体で構成され上層と下層の其々に沈殿池2,3を備えた二層式の沈殿設備であり、沈殿池2,3の上流側に流入水路4と分流水路5を備え、分流水路5の下方に汚泥ピット6を備えている。
【0031】
水処理設備の生物処理槽からの被処理水が流入水路4に導かれ、分流水路5で上層の沈殿池2と下層の沈殿池3に分流される。流入水路4には被処理水の流入を許容し或いは停止するゲート4gが設けられている。図示していないが、分流水路5に形成された上層の沈殿池2の流入口2a、及び下層の沈殿池3の流入口3aにも各沈殿池2,3への被処理水の流入を許容し或いは停止するゲートが設けられている。
【0032】
各沈殿池2,3の底部2b,3bはともに被処理水の流入側が流出側よりも下方に傾斜する傾斜底に形成され、各沈殿池2,3のそれぞれに汚泥掻き寄せ装置10,11が設けられている。
【0033】
汚泥掻き寄せ装置11,12は、駆動用の支軸を含む複数の支軸間に巻回された一対の無端チェーン(図中、一点鎖線で示されている。)と、一対の無端チェーン間にわたって取り付けられた複数のフライト板と、無端チェーンの走行に伴って移動するフライト板を下方から支持する長尺のガイドレールなどを備えて構成され、沈殿池2,3の傾斜底に沈降し堆積した汚泥をフライト板で汚泥ピット6に向けて掻き寄せるように構成されている。汚泥ピット6に集積された汚泥は返送ポンプP1によって生物処理槽に返送される。
【0034】
各沈殿池2,3には処理水の流れを阻止する阻流壁13,14が設けられ、阻流壁13,14の下流側に傾斜板装置15,16が水面下に配置されている。阻流壁13,14の上流側で活性汚泥を含む懸濁粒子の沈降が進み、十分に沈降せず懸濁粒子が残存した被処理水(以下、「沈殿処理水」と記す。)であっても、阻流壁13,14の下方を通って傾斜板装置15,16の下方から上方に流れる過程で懸濁粒子が傾斜板装置15,16によって捕捉される。そうして上澄みが処理水として集水装置17,18により集水されて貯水槽20に排水される。
【0035】
図1(c)に平面視の傾斜板装置16が示されている。傾斜板装置15,16は、水平面に対して傾斜角度60度程度に傾斜した長さ1.0~1.5mの板状体が所定間隔(例えば、0.1m)間隔で配列された傾斜流路で構成されている。沈殿処理水が傾斜流路に沿って下方から上方に流れる際に懸濁粒子が板状体の表面で捕捉されることにより沈殿処理水から懸濁粒子が分離され、板状体の表面に堆積した懸濁粒子は板状体の表面から自重により滑り落ちるように構成されている。板状体の傾斜角度は小さいほど懸濁粒子の分離効果が高くなるが、堆積した懸濁粒子が滑り落ちるために傾斜角度θは60度程度が好ましい。なお、傾斜方向は下流側であっても上流側であってもよく、双方が交互に配されていてもよい。
【0036】
上層の沈殿池2の集水装置17は越流トラフで構成され、傾斜板装置15を通過した処理水は越流トラフから貯水槽20に流入する。
図1(b)には下層の沈殿池3に備えた集水装置18が示されている。下層の沈殿池3の集水装置18は傾斜板装置16の設置領域を覆うように傾斜板装置16に対向配置され、周面に複数の集水孔hが分散配置された複数の集水管18aを備えて構成されている。
【0037】
複数本の集水管18aが沈殿池3の側壁に水密に固定されたヘッダー管18bに接続され、ヘッダー管18bを介して沈殿池3の側壁近傍に配された揚水管22に接続されている。集水孔hから集水管18aに流入した処理水は、貯水槽20との水頭差により揚水管22を上昇して貯水槽20に揚水される。
【0038】
図1(b)には、下層の沈殿槽3における処理水の流れ方向と交差する方向に沿って複数本の集水管18aが配された集水装置18が例示されている。しかし、集水装置18の構成はこのような態様に限るものではなく、
図2(a)に示すように、主に処理水の流れ方向に沿って複数本の集水管18aが配されていてもよく、
図2(b)に示すように、沈殿槽3における処理水の流れ方向と交差する方向に沿って配された複数本の集水管18aを備え、集水管18aの一端側がヘッダー管18bに接続されるような構成であってもよい。少なくとも平面視で傾斜板装置16の全域に集水孔hが分散して配置されるように集水管18aが配置されていればよい。
【0039】
また、
図2(c)に示すように、集水孔hを集水管18aの上面に集水管18aの軸心に沿って配する態様以外に、
図2(d)に示すように、集水孔hを集水管18aの下面に集水管18aの軸心に沿って配する態様、
図2(e)に示すように、集水孔hを集水管18aの左右側面に沿って配する態様などを採用することができる。また、集水管18aは断面が円形の管形状以外に断面が矩形の管形状であってもよい。
【0040】
上層の沈殿槽2にはスカムスキマ19が設置され、被処理水の水面に浮遊するスカムが汚泥掻き寄せ装置11のフライト板によってスカムスキマ19に案内されて回収される。上層の沈殿池2の底部2b、即ち下層の沈殿槽3の天井壁には、被処理水の流入側から阻流壁14まで延出し、下流側が下方に傾斜するスカム排出案内壁21を備えている。
【0041】
スカム排出案内壁21を備えていない場合には、被処理水に混入するスカムが、処理水の水面に浮遊して処理水の流れの下流側ほど上方に傾斜した天井壁に固着して次第に成長し、沈殿池3の水を引き抜いて清掃する場合でも容易に除去できなくなる。そのような場合に備えて、被処理水の流入側の天井壁から阻流壁14まで延出し、下流側が下方に傾斜するスカム排出案内壁21を設けることにより、スカムをスカム排出案内壁21に沿って浮上させることで、天井壁への固着や蓄積が回避できる。このとき、浮上したスカムは、上層の沈殿池の水面まで到達した後、汚泥掻き寄せ装置10のフライト板によってスカムスキマ19に案内されて回収される。
【0042】
[稼働状態の沈殿池]
図3には、上層の沈殿池2及び下層の沈殿池3の双方が稼働状態である場合が示されている。流入水路4に流入した被処理水は分流水路5で分流され、一部が流入口2aから上層の沈殿池2に流入し、一部が流入口3aから下層の沈殿池3に流入すると、各沈殿槽2,3で懸濁粒子の沈降が進んで一部が直下の汚泥ピット6に沈降し、下流側で底部2b,3bに沈降した懸濁粒子は汚泥掻き寄せ装置10,11によって汚泥ピット6に掻き寄せられる。
【0043】
上層の沈殿槽2の水面に浮遊するスカムSは汚泥掻き寄せ装置10によってスカムスキマ19に回収され、下層の沈殿槽3の水面に浮遊するスカムSは汚泥掻き寄せ装置11によってスカム排出案内壁21に沿ってさらに下流側に搬送される。
【0044】
下流側に流下する処理水は、阻流壁13,14の下方を通って傾斜板装置15,16の下方から上方に流れ、懸濁粒子が傾斜板装置15,16によって捕捉される。
【0045】
傾斜板装置15,16の傾斜板に堆積した懸濁粒子は沈殿池2,3の底部に向けて滑り落ちるのであるが、稼働時間が長くなると次第に懸濁粒子が傾斜板に付着して厚く堆積し、また傾斜板に藻類が繁殖するようになり、懸濁粒子の除去性能が低下する。そのため、例えば3~6か月に一度は傾斜板装置15,16を清掃する必要がある。
【0046】
[上層の沈殿池に配した傾斜板装置の清掃]
上層の沈殿池2に備えた傾斜板装置15を清掃する際には、以下の手順で清掃作業を行なう。
図4(a)に示すように、先ず、分流水路5に形成された流入口2aを閉塞するとともに、返送ポンプP1を駆動して、傾斜板装置15が露出するように沈殿池2の水面を低下させる。必要に応じてゲート4gの開度を調整して処理水の流入量を抑制する。
【0047】
図4(b)に示すように、傾斜板装置15が水面から露出すると、その状態で傾斜板装置15に対向配置した洗浄装置30から洗浄水を吐出することで傾斜板装置15を洗浄する。洗浄装置30として、上述した集水装置19と同様の構成を採用することができ、洗浄水として貯水槽20に貯水された処理水を用いることができる。例えば、平面視で傾斜板装置15の設置領域を覆うように複数本の散水管を配し、各散水管の表面に散水用のノズルを形成すればよい。ポンプP2により各散水管に処理水を供給することにより各ノズルから吐出される洗浄水で傾斜板装置15に堆積した懸濁粒子や繁殖した藻類が洗い流される。
【0048】
その後、分流水路5に形成された流入口2aを開放して処理水を沈殿槽2に導くことにより稼働状態に復帰する。なお、
図4(a),(b)は、図面の煩雑さを回避するため、汚泥掻き寄せ装置10,11を省略している。
【0049】
[下層の沈殿池に配した傾斜板装置の清掃]
下層の沈殿池3に備えた傾斜板装置16を清掃するために、沈殿槽3の被処理水を引き抜いて傾斜板装置16が露出させる場合には、上層の沈殿池2の被処理水も引き抜く必要があり非常に効率が悪い。
【0050】
そこで、密閉空間に気体を供給して沈殿池の水位を下げることにより傾斜板装置16を水中から露出させる給気装置と、給気装置からの給気により水中から露出した傾斜板装置16を洗浄する洗浄水を吐出する洗浄装置を備えている。
【0051】
図1(a)に示すように、揚水管22に給気配管23を介して送風機Fを接続するとともに、揚水管22に洗浄水配管24を介して洗浄水ポンプP3を接続している。また、揚水管22にモータ駆動のバルブV1を配置し、給気配管23にモータ駆動のバルブV2を配置し、洗浄水配管24にモータ駆動のバルブV3を配置している。
【0052】
沈殿池3の稼働時には、バルブV2,V3を閉塞するとともにバルブV1を開放することにより、集水装置18を介して集水した処理水を貯水槽20に揚水する。
【0053】
図5(a)に示すように、傾斜板装置16を洗浄する際には、先ず分流水路5に形成された流入口3aを閉塞するとともに、必要に応じてゲート4gの開度を調整して処理水の流入量を抑制する。
【0054】
次にバルブV1を閉塞して揚水を停止した後にバルブV2を開放して、給気配管23を介して送風機Fからの空気を圧入する。下層の沈殿池3に配した傾斜板装置16の周囲空間は、上層の沈殿池2の底部2bつまり下層の沈殿池3の天井壁と、阻流壁14と、沈殿池3の三枚の流路壁(流路を構成する左右側壁と下流側壁)によって閉空間に形成されている。そのため、給気配管23から圧流される空気によって、沈殿池3の水位が押し下げられ、傾斜板装置16が水中から露出する。つまり、給気配管23、送風機F、バルブV2によって給気装置が構成されている。
【0055】
図5(b)に示すように、傾斜板装置16が水面から露出すると、バルブV2を閉塞するとともに送風機Fを停止し、バルブV3を開放してポンプP3を起動し、洗浄水配管24から集水装置18の集水管18a(
図1(b)参照。)に洗浄水を供給する。集水管18aから吐出する洗浄水によって傾斜板装置15に堆積した懸濁粒子や繁殖した藻類が洗い流される。すなわち、集水装置18が洗浄装置として機能するように構成されている。傾斜板装置16の洗浄が終了すると、バルブV3を閉塞するとともにポンプP3を停止し、その後に揚水管22のバルブV1を開放する。なお、
図5(a),(b)は、図面の煩雑さを回避するため、汚泥掻き寄せ装置10,11を省略している。
【0056】
図6に示すように、バルブV1を開放すると沈殿池3の水圧により集水管18aに形成された集水孔hから処理水が流入して揚水管22を介して貯水槽20に揚水される。密閉閉空間に圧入された空気は脱気管25および揚水管22を介して外部に脱気される。脱気管25は下流側壁にシール部材を介して設置され、一端が密閉閉空間の上部に開口し、他端が揚水管22に接続されている。
【0057】
その後、分流水路5に形成された流入口3aを開放して被処理水を沈殿槽3に導くことにより稼働状態に復帰する。なお、
図6は、図面の煩雑さを回避するため、汚泥掻き寄せ装置10,11を省略している。
【0058】
このように、本発明によれば、下層の沈殿池3を洗浄する際も、上層の沈殿池2の稼働状態を維持することができる。
【0059】
なお、下層の沈殿池3の傾斜板装置16の上方に集水装置18とともに専用の洗浄装置を設置することも可能である。
【0060】
上層の沈殿池2に設置された傾斜板装置15の上部空間を密閉状態とするように、阻流壁14と、三枚の流路壁(流路を構成する左右側壁と下流側壁)とに加えて天井壁を設けることにより、上層の沈殿池2に設置された傾斜板装置15を、下層に設けた傾斜板装置16と同様のプロセスで洗浄することも可能になる。
【0061】
上述した例では本発明を二層式沈殿装置の下層の沈殿池3に適用した態様を説明したが、三層式以上の多層式沈殿装置であっても本発明を適用することができる。
【0062】
以上説明したように、本発明による傾斜板装置の洗浄方法は、沈殿池の水面下に配置された傾斜板装置を介して沈殿処理水に残留する懸濁粒子を捕捉し、前記傾斜板装置に対向配置された集水装置を用いて前記傾斜板装置を通過した処理水を集水する沈殿処理に用いられる傾斜板装置の洗浄方法であって、前記沈殿池の水位を押し下げることにより前記傾斜板装置を水中から露出させる第1工程と、前記第1工程で水中から露出した前記傾斜板装置を、前記傾斜板装置に対向配置された洗浄装置から吐出する洗浄水により洗浄する第2工程と、を含む。
【0063】
また、前記第2工程で洗浄水を吐出する前記洗浄装置として前記集水装置が用いられ、前記集水装置から吐出される洗浄水により前記傾斜板装置を洗浄することが好ましい。
【0064】
前記集水装置は周面に複数の集水孔が分散配置された複数の集水管を備え、前記集水孔を介して前記傾斜板装置を通過した処理水を集水し、前記集水孔を介して洗浄水を吐出するように構成されていることが好ましい。
【0065】
前記沈殿池は少なくとも上方が密閉空間に形成され、前記第1工程は前記密閉空間に気体を供給して、前記気体の圧力により前記沈殿池の水位を押し下げて前記傾斜板装置を水中から露出させる工程である。
【0066】
また、本発明による沈殿設備は、少なくとも上方が密閉空間に形成され処理水中の懸濁粒子を沈降分離する沈殿池と、前記沈殿池の水面下に配置され沈殿処理水に残留する懸濁粒子を捕捉する傾斜板装置と、前記傾斜板装置に対向配置され前記傾斜板装置を通過した処理水を集水する集水装置と、前記密閉空間に気体を供給して前記沈殿池の水位を下げることにより前記傾斜板装置を水中から露出させる給気装置と、前記給気装置からの給気により水中から露出した前記傾斜板装置を洗浄する洗浄水を吐出する洗浄装置と、を備えている。
【0067】
前記集水装置は前記洗浄装置と兼用され、平面視で前記傾斜板装置の設置領域に対応する領域に配置され周面に複数の集水孔が分散配置された複数の集水管を備え、前記集水孔を介して前記傾斜板装置を通過した処理水を集水するとともに、前記集水孔を介して洗浄水を吐出するように構成されていることが好ましい。
【0068】
前記密閉空間は少なくとも前記傾斜板装置を覆うように前記沈殿池の天井壁と、前記天井壁から垂下する阻流壁及び前記沈殿池の側壁により形成されていることが好ましく、また、前記密閉空間に供給された気体を外部に引き抜く脱気管を備えていることが好ましい。さらに、処理水の流入側の天井壁から前記阻流壁に向けて前記阻流壁まで延出し、下流側が下方に傾斜するスカム排出案内壁を備えていることが好ましい。
【0069】
上述した実施形態は本発明の一態様であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0070】
1:沈殿設備
2:上層の沈殿池
3:下層の沈殿池
4:流入水路
5:分流水路
6:汚泥ピット
13,14:阻流壁
15,16:傾斜板装置
17:集水装置(越流トラフ)
18:集水装置
18a:集水管
h:集水孔
20:貯水槽
21:スカム排出案内壁
22:揚水管
23:給気配管
24:洗浄水配管
V1,V2,V3:バルブ
F:ファン
P3:ポンプ
100:有機性排水処理装置