(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】くり貫き冶具およびくり貫き方法
(51)【国際特許分類】
B28D 1/14 20060101AFI20240318BHJP
G01N 1/08 20060101ALI20240318BHJP
B23B 51/04 20060101ALN20240318BHJP
【FI】
B28D1/14
G01N1/08 Z
B23B51/04 A
(21)【出願番号】P 2020068714
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】390020215
【氏名又は名称】株式会社西部技研
(72)【発明者】
【氏名】田中 早紀
(72)【発明者】
【氏名】山本 和人
(72)【発明者】
【氏名】鍋内 豊
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-054619(JP,U)
【文献】特表平11-514302(JP,A)
【文献】中国実用新案第208547493(CN,U)
【文献】英国特許出願公告第00127215(GB,A)
【文献】米国特許第01994516(US,A)
【文献】特開2005-315897(JP,A)
【文献】国際公開第2015/094199(WO,A1)
【文献】特開2009-095919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/14
G01N 1/08
B23B 51/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハニカムロータの吸着素子を
φ15~30mmの小さな径でくり貫くための円筒状のくり貫き冶具であって、片端にジグザグ形状の刃先を有し、少なくとも1箇所以上の対向する孔
が設けられ、前記くり貫き冶具を前記吸着素子の端面に固定するための固定具と、手動で前記吸着素子をくり貫くための手動くり貫き用ハンドルと、電動ドライバーに取り付けるための電動ドライバー用アタッチメントと、前記くり貫き冶具を前記電動ドライバーに固定するためのロックピンとを備えていることを特徴とする
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き冶具。
【請求項2】
前記
吸着素子を前記くり貫き冶具から押し出すための取り出し棒を備えていることを特徴とする請求項
1に記載の
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き冶具。
【請求項3】
前記くり貫き冶具を用いてくり貫いたくり貫き素子を輸送するためのくり貫き素子用容器を備えていることを特徴とする請求項1
または2に記載の
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き冶具。
【請求項4】
請求項1に記載のハニカムロータの吸着素子のくり貫き冶具を用いて、ハニカムロータの吸着素子の端面のくり貫き対象箇所に
前記くり貫き冶具を押し当て、
前記手動くり貫き用ハンドルを前記くり貫き冶具の対向する孔に挿し込んで左右に動かし、または回転させてくり貫き素子をくり貫くことを特徴とする
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き方法。
【請求項5】
請求項1に記載のハニカムロータの吸着素子のくり貫き冶具を用いて、前記電動ドライバーに
前記電動ドライバー用アタッチメントを取り付け、
前記ロックピンをくり貫き冶具の対向する孔に通し、前記電動ドライバー用アタッチメントの窪み部分に前記ロックピンを嵌め込むことによって前記くり貫き冶具を前記電動ドライバーに固定し、前記電動ドライバーのスイッチを入れ、前記くり貫き冶具を回転させてくり貫き素子をくり貫くことを特徴とする
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き方法。
【請求項6】
請求項
4または
5に記載の
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き方法において、前記くり貫き冶具が前記
吸着素子を貫通した後、手前に引き出すことで、
前記くり貫き素子が前記くり貫き冶具の内部に保持された状態で取り出されることを特徴とする
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き方法。
【請求項7】
請求項
4から
6のいずれか一項に記載の
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き方法において、前記
吸着素子の端面のくり貫き対象箇所に固定具を固定し、前記固定具に前記くり貫き冶具を挿し込むことを特徴とする
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き方法。
【請求項8】
前記くり貫き素子は、
請求項2に記載の取り出し棒で押し出すことによって得られる工程を含むことを特徴とする、請求項
4から
7のいずれか一項に記載の
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き方法。
【請求項9】
くり貫き孔を埋戻しパイプで埋め戻すことを特徴とする請求項
4から
8のいずれか一項に記載の
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き方法。
【請求項10】
くり貫き孔の開口部をコーキングで塞ぐことを特徴とする請求項
4から
9のいずれか一項に記載の
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き方法。
【請求項11】
前記くり貫き素子を
請求項3に記載のくり貫き
素子用容器に入れ
て輸送することを特徴とする請求項
4から
10のいずれか一項に記載の
ハニカムロータの吸着素子のくり貫き方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤濃縮装置やデシカント除湿機などのハニカムロータにおける、長期使用などによる性能低下や劣化の進行度を判定する調査(以下、「劣化判定調査」という)のための吸着素子などのくり貫き冶具およびくり貫き方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハニカムロータは例えばセラミック繊維紙やガラス繊維紙などをハニカム(蜂の巣)状に成形し、これにゼオライトやシリカゲル、活性炭などの吸着材がシリカゾルやアルミナゾルなどの無機系バインダーを用いて担持されている。ハニカムロータは表面積が大きく、圧力損失が少なく、軽量でありながら強度が高いため、VOC(揮発性有機化合物、Volatile Organic Compounds、以下 「VOC」という)濃縮装置やデシカント除湿機などに用いられている。ハニカムロータは処理ゾーンと脱着ゾーンなどに分割されており、温度差によって処理対象ガスを吸脱着し、ハニカムロータが回転することで連続的に処理対象ガスを分離除去することができる(サーマルスイング法(Thermal Swing Adsorption))。
【0003】
ハニカムロータは吸脱着を繰り返して使用することが可能であるが、長期使用やガス処理条件などにより劣化が進行し、性能が徐々に低下する。このため、ハニカムロータの吸着素子の一部をくり貫いてサンプリングし、性能低下の原因や現在の吸着状態を調査して劣化の進行度を判定する劣化判定調査が知られている(非特許文献1)
【0004】
ハニカムロータの劣化判定調査における従来の吸着素子のくり貫き方法は、
図1のように、直径φ55mm程度のくり貫き素子を手作業でくり貫く必要があった。くり貫き作業の際は装置を停止させる必要があるので、ユーザーにおける装置の定期的なメンテナンス作業と共に行われることが多い。
【0005】
円筒状のくり貫き冶具1の片端はジグザグ形状の刃先を有しており、この刃先をハニカムロータ3の端面に垂直に押し当て固定し、もう一端は対向する孔が一箇所空いており、この孔にハンドル2を挿入して、左右に小刻みに動かし、または回転させて、ハニカムロータ3をくり貫く。くり貫き冶具1がハニカムロータを貫通した後、ゆっくりと手前に引き出すことで、くり貫き素子4を得る。くり貫き冶具1内のくり貫き素子4は、先端に緩衝材のついた取り出し棒(図示せず)で、数回突いて押し出すことによって取り出される。
【0006】
くり貫き作業前には、ハニカムロータ端面のキズ防止のため、ハニカムロータくり貫き対象端面部位に保護テープを貼ったり、くり貫きとともに切り屑などの粉塵が発生して、ハニカムロータ収容部や装置、周辺環境などを汚してしまうため、周囲をビニルなどで覆って粉塵発生拡散防止のために養生するなど、事前準備を十分に行った上でくり貫き作業を開始する。
【0007】
くり貫き素子径が大きいほどモーメントが大きく、くり貫きの時間と手間がかかり、作業者の負担が大きくなる。例えば、直径φ55mm×ロータ厚み400mmの場合、くり貫き作業のみで熟練作業者でも30分はかかる。ハニカムロータ収容部(点検作業用スペース)は狭くて暗く、特に夏期は非常につらい作業となる。
【0008】
さらに、くり貫き後のハニカムロータをそのままにすると、リークが生じて性能低下の原因となることから、くり貫き素子と同等サイズの埋戻し素子をコーキングなどで埋め戻す作業が必要である。素子の埋戻し作業もくり貫き径が大きいほど、時間と手間がかかり、コーキングの使用量も多くなる。当然ながら、ロータ厚みが長いほど時間も手間もかかる。このように、くり貫き作業前の事前準備、くり貫き作業、くり貫き後の清掃作業、素子の埋戻し作業を含めると、少なくとも1時間はかかる。定期的なメンテナンス作業に加え、劣化判断調査のためのくり貫き作業がある場合には、その分装置を停止する時間が長くなり、ユーザーの生産ラインの停止時間も長くなってしまう。
【0009】
くり貫き素子4は劣化判断調査のため、ユーザーの現場から分析拠点まで輸送する必要がある。この際、劣化したハニカムロータだと触るだけで脆く崩れてしまう。また、ハニカムロータ厚み方向(処理空気流れ方向)の劣化進行度を検討するため、処理空気流れ方向に沿って、処理入口側5から処理出口側6への向きが重要である。切り屑をくり貫き素子から除去し、くり貫き素子にテープなどで「処理入口」、「処理出口」と表示した後、輸送時の外部からの衝撃を防ぐため、エアー緩衝材でくり貫き素子を丁寧に厳重に包み、輸送用の段ボール箱に入れた後、その周辺にも緩衝材を十分に入れるなどの対策を行った上で、梱包する必要がある。くり貫き素子の形状に合わせて段ボール箱も細長いものを用意する必要があるが、この形状に合う箱が無く、やむを得ず大きな箱に入れることが多い。このため、緩衝材を過剰に入れたり、輸送費が高くなるという問題がある。さらに、分析拠点でくり貫き素子を開封して取り出す際、大量の緩衝材と、幾重にも包まれたエアー緩衝材を取り除く作業に時間と労力を費やし、段ボール箱や緩衝材はごみとして捨てることが多く、輸送による無駄が多かった。
【0010】
ここで、特許文献1のように、劣化判定調査を簡略化できる方法が提案された。特許文献1に記載の劣化判定調査方法によると、くり貫き素子は直径φ15~30mm程度と小さい径でくり貫くことができる。従来の劣化判定調査方法においても、直径約φ55mmの素子でなくとも、約φ30mm程度の径であれば、サンプル量として十分であることが多い。従来、このような小さい径においても、前述のように手作業でくり貫いていた。
【0011】
一般的なくり貫き工具・冶具として、例えば特許文献2や3に記載のものが挙げられる。
特許文献2に記載のものは、天井面や壁面に所要の直径の丸孔をくり貫くのに使用され、くり貫く丸孔の直径に合わせて切断径を調整するときに、回転軸に対して左右の各基台が連動して同方向に同距離だけ移動するため、両刃の回転軸からの距離が常に等しくなり、切断径を簡単に調整することができる。
【0012】
特許文献3に記載のものは、金属、モルタル、木材などを穿孔するための円筒状穿孔工具であり、本体切れ刃を先端部に有する円筒状穿孔工具本体の回転中心軸線と略平行に延びるように、複数のロッドを備えている。これにより穿孔工具が被削材を貫通後、被削材を穿孔する距離を制限して、本体切れ刃やセンタードリルが被削材の裏方(内方)に配設された配管材や電気配線などを誤って傷つけることを防止することができる。また、ロッドは伸縮自在で、円筒状穿孔工具本体の先端部とロッド先端部との距離を被削材の厚さに適宜対応して被削材を穿孔する距離を制限することができるので、複数のロッドの先端部が被削材の表面に当接して、穿孔完了間際の安定性を確保することができる。
【0013】
また、くり貫いたサンプリング試料を採取する技術として、地盤の地質や岩盤の状態を解明するために、地盤を掘削して地盤試料となるコアを採取するボーリング調査がある。特許文献4に記載のように、ボーリング装置のスピンドルにロッドを連結し、このロッドの下端に取り付けたビットによって地盤を掘削しつつ掘削孔内に送水することにより、ロッドの下部に設けたサンプラー内に円柱状のコアを充填させて採取するものである。特許文献4は送水圧、送水流量、掘削速度、ロッドの回転数、ビットの先端荷重を1つのモニタでリアルタイムに確認できるので、ビットの先端荷重が急激に高くなるなどの現象が生じた際に容易に掘削状況を把握して、調整することができる方法を提案するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特願2019-226067号
【文献】実開平5-28602号公報
【文献】特開2008-093804号公報
【文献】特許第6666278号公報
【非特許文献】
【0015】
【文献】「VOC吸着濃縮ロータの劣化現象とその評価」、分離技術会年会2018技術・研究発表講演要旨集、p.33
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
特許文献2、3に記載のものは、センタードリル(ドリルビット)を有するため、筒状にハニカムロータをくり貫くことはできても、ハニカムロータの端面を傷つけてしまう。また、被削材がハニカムロータのように約400~600mmと厚みのある場合には適していない。
【0017】
特許文献2、3に記載のような一般的なくり貫き工具や冶具を直径φ55mm程度のハニカムロータのくり貫き作業に応用する場合、通常の電動ドライバーではくり貫くことが困難で、駆動力の大きな電動ドライバーが必要である。しかも、このような電動ドライバーは比較的大型なので、狭い作業用スペースでは作業性に欠ける。使えたとしても回転力が大きく、回転スピードが速いので、ハニカムロータの吸着素子が破壊され、上手くサンプリングできない。また、電動ドライバー用の電源供給手段をユーザーの現場で得るには困難な場合もあり得る。さらに、特許文献4のような地盤のボーリング調査とハニカムロータではくり貫き方法の適用分野が異なり、ボーリング調査をハニカムロータのくり貫きに応用することは難しい。従って、ハニカムロータに合わせたくり貫き冶具およびくり貫き方法が必要である。
【0018】
上記の実情に鑑み、本発明の主たる課題は、劣化判定調査に用いるハニカムロータの吸着素子などを小さな径でくり貫く場合において、本発明に係るくり貫き冶具によって手作業ではなく電動ドライバーを用いることできるので、くり貫き作業が省力化され、従来のくり貫き方法よりも簡便かつ短時間で効率良くくり貫くことができるくり貫き冶具およびくり貫き方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明に係るくり貫き冶具は円筒状で、片端にジグザグ形状の刃先を有し、間隔の空いた少なくとも1箇所以上の対向する孔を有する。ハニカムロータの吸着素子などをφ15~30mm程度の小さな径でくり貫く際に、本発明に係るくり貫き冶具を電動ドライバーに固定して使用する。
【発明の効果】
【0020】
本発明による吸着素子などのくり貫き冶具およびくり貫き方法を用いれば、従来よりも簡便かつ短時間でハニカムロータなどをくり貫くことができ、作業効率が良くなる。また、素子の埋戻しやくり貫き素子の輸送の梱包などに係る手間や時間も省くことができるので、くり貫き作業における作業者の負担を軽減することができる。本発明のくり貫き冶具は、尖った先端を有するセンタードリル(ドリルビット)を使用しないので、くり貫き素子の端面を傷つけることもない。さらに、付属のくり貫き素子用容器にくり貫き素子を入れて輸送することで、余計な梱包の手間や緩衝材などの過剰な使用を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は従来の吸着素子のくり貫き冶具およびくり貫き方法を示す図である。
【
図2】
図2は本発明の吸着素子のくり貫き冶具一式を示す図である。
【
図3A】
図3Aは本発明の実施例1にかかる吸着素子のくり貫き方法において、手動で吸着素子をくり貫く様子を示す図である。
【
図3B】
図3Bは本発明の実施例1にかかる吸着素子のくり貫き方法において、電動ドライバーを用いて吸着素子をくり貫く様子を示す図である。
【
図3C】
図3Cは本発明の実施例1にかかる吸着素子のくり貫き方法において、くり貫き冶具内部のくり貫き素子を取り出し棒で押し出す様子を示す図である。
【
図4】
図4は本発明の実施例1にかかる吸着素子のくり貫き方法において、輸送用のくり貫き素子用容器にくり貫き素子を入れた状態を示す図である。
【
図5】
図5は本発明の実施例2にかかるカートリッジ式のハニカムロータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0022】
本発明に係るくり貫き冶具一式を
図2に示す。7は円筒状のくり貫き冶具であり、
図1のくり貫き冶具1(直径φ55mm程度)に比べて、φ15~30mm程度の小さい直径を有する。この片端はジグザグ形状の刃先を有しており、この刃先をハニカムロータの端面に垂直に押し当て固定する。くり貫き冶具7には、対向する孔が4箇所、間隔を空けて設けられており、この孔に手動くり貫き用ハンドル8やロックピン10(電動ドライバー使用時)を挿入して固定する。くり貫き冶具7の長さは、くり貫くハニカムロータの厚みに応じて、ハニカムロータ厚みより長めに設定してある。12はくり貫き素子の取り出し棒で先端にゴムなどの緩衝材が付いており、これを吸着素子くり貫き後のくり貫き冶具7に挿し込んで軽く突いて内部のくり貫き素子を押し出して、くり貫き素子を取り出すことができる。
【0023】
本発明にかかるハニカムロータのくり貫き方法を
図3に示す。くり貫き方法は、次の(A)~(C)の工程からなる。
(A)11は固定具であり、
図3Aのようにハニカムロータ端面のくり貫き対象箇所にテープ13などで固定する。くり貫き冶具7を固定具11に挿し込み押し当て、ジグザグ形状の刃先に最も近い孔に手動くり貫き用ハンドル8を挿し込み、左右に小刻みに動かし、または回転させて、ハニカムロータ厚み方向に50mm程度挿入する。
(B)次に、手動くり貫き用ハンドル8を取り外し、
図3Bのように、電動ドライバー14に電動ドライバー用アタッチメント9を取り付ける。また、ロックピン10をくり貫き冶具7のジグザグ形状の刃先を有しない方の片端側の対向する孔に通し、電動ドライバー用アタッチメント9の窪み部分にロックピン10を嵌め込むことによって、くり貫き冶具7を電動ドライバー14に固定する。電動ドライバー14のスイッチを入れ、くり貫き冶具7を回転させ、ハニカムロータ厚み方向にくり貫く。くり貫き冶具7がハニカムロータを貫通した後、ゆっくりと手前に引き出すことで、くり貫き素子4はくり貫き冶具7の内部に保持された状態で取り出される。
(C)くり貫き冶具7内部のくり貫き素子4は、
図3Cのように、先端に緩衝材のついた取り出し棒12で数回突いて押し出すことによって得られる。
【0024】
電動ドライバーを用いることができない場合は、工程(B)を省いて手動くり貫き用ハンドル8で、くり貫き冶具7を手動で左右に小刻みに動かすか、または回転させることにより、くり貫き素子4をくり貫く。この場合、手動で注意しながら手動くり貫き用ハンドル8を操作することができるようであれば、固定具11は使わなくてもよい。
【0025】
なお、くり貫き冶具を貫通させてハニカムロータ厚み方向全体を貫き取らなくとも、処理入口側および処理出口側の両端からそれぞれハニカムロータ厚み方向中心部に向かって、必要とする部分のみ、例えば厚み方向20~100mm程度だけ貫き取るようにしてもよい。この際、工程(A)あるいは工程(B)のいずれか一方または両方を用いてくり貫く。この場合、ロータ厚み方向中央部が残存するので、コーキングなどで塞ぐ必要がない。これにより若干偏流は生じるが、影響はごくわずかであり、ハニカムロータ全体の通気には問題ない。処理入口側のみ又は処理出口側のみの劣化の進行度を調査する場合は、いずれか一端から必要とする部分のみをくり貫くようにしてもよい。
【0026】
くり貫き冶具の径はφ15~30mmとしたが、これに限らず、一般的な電動ドライバーを用いることができれば、これより小さな、または大きな径でもよい。ただし、径が小さすぎると、くり貫き素子が途中で折れたり、従来のφ55mmのように大きい径では、電動ドライバーの回転力不足となったり、上手くくり貫けないなどの問題が生じる可能性がある。発明者らの知見と経験によれば、φ15~30mmの場合、作業性が良い。
【0027】
くり貫き冶具7は本実施例1ではSUS304(ステンレス鋼、Steel Use Stainless、以下「SUS」という)を用いたが、これに限るものではなく、アルミなど他の金属やハニカムロータのくり貫きに耐え得る強度を有する材料を用いてもよい。また、対向する孔は4箇所としたが、これに限らず、1箇所でもよく、2箇所以上でもよい。
【0028】
φ15~30mm程度でくり貫く場合、埋戻し素子でくり貫き部分を埋め戻す必要はなく、ハニカムロータ強度維持のため、くり貫き冶具と同等の径を有する埋戻しパイプを埋め戻すようにしてもよい。埋戻しパイプの長さはハニカムロータ厚みより長いと、ハニカムロータが回転摺動した時にシール部を傷つけるので、ハニカムロータ厚みより若干短くするとよい。埋め戻す前に、くり貫き孔には切り屑など粉塵が残っているため、埋戻し用パイプを掃除機のノズルに取り付け、吸い取ることもできる。ハニカムロータ端面のくり貫き孔周辺部をマスキングテープなどで養生した後、埋戻しパイプ周囲にコーキングを塗り、くり貫き孔に押し込んでいく。その後、くり貫き孔の開口部をコーキングで埋めて塞ぐ。
【0029】
埋戻しパイプには、例えばSUSパイプやアルミパイプのような金属パイプを用いるが、ハニカムロータの強度を維持でき、例えば80℃以上などのハニカムロータの脱着(再生)温度に耐え得る材料であれば、樹脂製などのパイプを用いてもよい。
【0030】
このように、本発明のくり貫き方法によれば、くり貫き素子と同等サイズの埋戻し素子をコーキングなどで埋め戻す従来のくり貫き方法に比べて簡便であり、時間も手間もかからないので、作業者のくり貫き作業の負担を軽減することができる。また、埋戻し素子を製作する手間も省くことができる。本発明のくり貫き方法では、くり貫き準備、くり貫き作業、くり貫き後の掃除作業までの時間を含めても約15分に短縮することができ、さらに埋め戻す作業を含めても30分もかからず、熟練度によるくり貫きレベルの違いも少ない。なお、埋戻し用パイプを埋め戻さずとも、ハニカムロータ径が大きいなどハニカムロータ強度を保つことができる場合は、コーキングのみでくり貫き孔の開口部を塞ぐようにしてもよい。
【0031】
くり貫き冶具は切り屑などの粉塵を吸引できる集塵機構を備えるようにしてもよい。あるいは、電動ドライバーにハニカムロータに形成したくり貫き孔と電動ドライバーとの隙間から切り屑をくり貫き孔の外へ排出するために、中空部を有し、この中空部を介して先端の流出口からエアーを流出する、あるいは切り屑を吸引するような構成にしてもよい。
【0032】
図4は本発明のくり貫き方法における輸送用のくり貫き素子用容器にくり貫き素子を入れた状態を示す図である。くり貫き素子用容器15は市販されている塩化ビニルパイプを所定の長さに切り出し、同じく市販されている塩化ビニルキャップをしたものである。塩化ビニルに限らず、くり貫き素子を入れてキャップをすることができ、外部からの衝撃からくり貫き素子を保護できる材料を用いるようにしてもよい。パイプ部分には透明のものを用いると、くり貫き素子が見えやすい。切り屑をくり貫き素子から除去した後、この容器にくり貫き素子を入れて輸送する。「処理入口」、「処理出口」の表示は容器に予め記載しておくと、くり貫き素子に表示する手間を省くことができる。このため、従来のように、くり貫き素子にテープなどで「処理入口」、「処理出口」と表示した上で、エアー緩衝材で素子を丁寧に幾重にも包む必要がない。また、くり貫き素子用容器15は外部からの衝撃にも比較的強いので、輸送用の袋にそのまま入れることもできる。これにより、梱包の時間と手間を省くことができ、箱や緩衝材などの過剰な使用を低減することができる。
【実施例2】
【0033】
劣化判定調査は定期的に行う必要があり、そのたびにくり貫き素子をくり貫くのは手間がかかる。ハニカムロータ部分に取り外し(脱着)や取り付け、あるいは交換が容易なように、予めくり貫き素子を耐熱性のある例えば金属のパイプなどに嵌めたもの(以下、「カートリッジ」という)をハニカムロータ3に
図5のように、空気流で飛ばされない強度で挿入固定しておき、劣化判定の度に引き貫く「カートリッジ式」としてもよい。この場合、カートリッジ16を引き貫いた際に生じる孔はコーキングや金属パイプで埋めるか、あるいは新しいカートリッジと交換してもよい。
【0034】
以上、本発明の実施例では、ハニカムロータの吸着素子の例を用いたが、これに限定されるものではなく、吸収や収着など使って目的物質を除去するような素子や触媒反応を使って目的物質を分解するような素子(以下、これらを「機能性素子」という)のくり貫きにも使用できる。また、ハニカムロータのみではなく、本発明のくり貫き冶具で物理的にくり貫き可能な素材のハニカムブロックや各種フィルタなどのくり貫きにも使用できる。さらに、機能性素子の継時変化などによる劣化判定調査の用途のみではなく、例えば、何らかの装置トラブルによる機能性素子の焼損や機能性素子が水、溶剤、オイルなどから直接被った物理的損傷などの機能異常調査などの用途にも使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の吸着素子などのくり貫き冶具およびくり貫き方法によれば、従来より小さな径でハニカムロータの吸着素子などをくり貫く際に、電動ドライバーを用いることができるので、従来のくり貫き方法に比べて、時間と手間を省くことができ、作業効率が良くなり、作業者の負担も低減することが可能となる。また、輸送のための梱包にかかる手間や時間、梱包材も減らすことが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 くり貫き冶具
2 ハンドル
3 ハニカムロータ
4 くり貫き素子
5 処理入口側
6 処理出口側
7 くり貫き冶具
8 手動くり貫き用ハンドル
9 電動ドライバー用アタッチメント
10 ロックピン
11 固定具
12 取り出し棒
13 テープ
14 電動ドライバー
15 くり貫き素子用容器
16 カートリッジ