(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】焙じ茶エキスの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23F 3/42 20060101AFI20240318BHJP
A23F 3/16 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
A23F3/42
A23F3/16
(21)【出願番号】P 2020069208
(22)【出願日】2020-04-07
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(72)【発明者】
【氏名】上本 倉平
(72)【発明者】
【氏名】小林 真一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 直史
(72)【発明者】
【氏名】塚本 頌太
(72)【発明者】
【氏名】石松 篤積
(72)【発明者】
【氏名】喜多 諒
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-207116(JP,A)
【文献】特開2017-079674(JP,A)
【文献】特開2010-259364(JP,A)
【文献】特開2011-182673(JP,A)
【文献】特開2007-167005(JP,A)
【文献】特開2012-000088(JP,A)
【文献】特開2015-204754(JP,A)
【文献】特開2015-208286(JP,A)
【文献】特開2017-006020(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F 3/42
A23F 3/16
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙じ茶エキスを製造する方法であって、
(a)気液向流接触抽出法により焙じ茶葉スラリーを水蒸気抽出して、溜出液である焙じ茶アロマを回収する工程、
(b)工程aで水蒸気抽出した後の溜出残渣を活性炭と接触させてから活性炭を除去して活性炭処理エキスを得る工程、及び、
(c)工程aの焙じ茶アロマと工程bの活性炭処理エキスを混合し、焙じ茶エキスを得る工程、
を含み、工程bにおいて、溜出残渣の可溶性固形分に対して10重量%以上の活性炭を接触させる、上記方法。
【請求項2】
請求項1の方法で得られた焙じ茶エキスを配合する工程を含む、茶飲料の製造方法。
【請求項3】
茶飲料が緑茶飲料である、請求項2に記載の茶飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焙じ茶エキスを製造する技術に関する。詳細には、常温で長期保存可能な容器詰飲料の保存劣化臭を抑制することが可能な、焙じ茶エキスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、缶、ガラス瓶、PETボトル等の密封容器に充填された常温かつ長期間保存される容器詰茶飲料の市場が拡大している。容器詰茶飲料は、通常、茶葉を熱水又は温水抽出して得られる緑茶抽出液に、酸化防止剤であるアスコルビン酸又はその塩と、重曹等のpH調整剤とを添加し、殺菌・容器充填するという工程により製造される。
【0003】
茶飲料の殺菌には、通常、容器の材質に適合した加熱殺菌が行われているが、この加熱殺菌により茶の良質な香味が著しく損なわれているのが現状である。茶飲料は、品質として味や香りといった香味が重要視される飲料であるが、前記アスコルビン酸等の添加だけでは、加熱殺菌における香味の変質を十分に抑制することができないことから、各種茶エキスを用いて殺菌処理後にも風味が豊かな茶飲料を製造する方法が種々提案されている。このような茶エキスとしては、茶葉等の嗜好飲料原料を温水抽出して抽出液を回収した後、抽出残渣を水蒸気抽出して溜出液を回収し、前記抽出液と溜出液を混合して得られる嗜好飲料用エキス(特許文献1)、茶葉を温水で浸漬もしくは湿潤させる工程1、工程1の茶葉を水蒸気抽出し、溜出液を回収する工程2、工程2の溜出残渣を水で抽出し、抽出液を回収する工程3、工程2の溜出液と工程3の抽出液とを混合する工程4とを含む方法により得られる、殺菌工程後にも優れた香りや風味を有する茶エキス(特許文献2)、などがある。また、容器詰ウーロン茶飲料において、焙じウーロン茶の抽出液を用いることにより、加熱殺菌処理後の加熱臭を低減し、長期保存における風味劣化(酸化劣化臭)を低減することも報告されている(特許文献3)。さらに、L値が52以下の焙煎茶葉の粉砕物を用いて茶飲料の高温保存時における劣化を抑制することも報告されている(特許文献4)。
【0004】
容器詰茶飲料は、製造時の熱だけでなく、流通、保存等の各段階でも、酸素や光といった外部要因により経時的に劣化する。具体的には、香味が消失したり、劣化による異味異臭(本明細書中、「劣化臭」ともいう)が発生したりする。このような光等による保存中の香味劣化を抑制する方法として、半発酵茶葉の溶媒抽出物を用いる方法(特許文献5)が報告されている。
【0005】
一方、飲食品に茶の香味を付与・増強するための茶エキスが提案されている。例えば、抹茶を温水にてスラリーとし、該スラリーを向流接触装置(SCC)で処理し、フレーバーを回収する第1の工程と、別途茶葉を温水抽出し、固形物を除去してから活性炭処理を行い、次いで濾過により活性炭を除去して茶抽出液を得る第2の工程と、第1の工程により得られたフレーバーと第2の工程で得られた茶抽出液とを混合する第3の工程とを含む方法により得られる、抹茶のまったりとした甘味を与える茶エキス(特許文献6)、焙煎茶葉を水蒸気蒸留して留出液を得る工程1、水蒸気蒸留後の茶葉残渣に水性媒体を加えて抽出液を得る工程2、工程1の留出液と工程2の抽出液の一部または全量を混合し、混合液のBrixを0.5~7%に調整する工程3とを含む方法により得られる、自然な焙煎香を賦与することができる焙煎茶エキス(特許文献7)、などがある。また、茶抽出物の活性炭処理物を添加することを特徴とする茶飲料への甘味増強方法(特許文献8)も報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-135059号公報
【文献】特開2008-92817号公報
【文献】特開2010-268765号公報
【文献】特開2010-63432号公報
【文献】特開2004-16061号公報
【文献】特開2007-167005号公報
【文献】特開2015-208286号公報
【文献】特開2007-167004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
茶飲料は、品質として香味が重要視される飲料である。加熱による香味劣化を抑制する方法は種々提案されているが、長期保存に伴う劣化臭を抑制する方法としては、必ずしも満足しうるものがない。
【0008】
本発明の課題は、経時変化により発生する劣化臭をマスキング(低減)することが可能な茶エキスの製造方法、ならびに、前記茶エキスを用いた茶飲料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
天然物由来の成分を用いて劣化臭を抑制する方法は、安全性の観点から高く推奨される。そこで本発明者らは、天然物由来、特に茶由来の成分を用いて上記課題を解決するための検討を行った。その結果、焙じ茶葉から気液向流接触装置にて回収した焙じ茶アロマと、この溜出残渣から固形物を除去した後に活性炭処理して得られる液とを混合して得られる焙じ茶エキスが、飲食品(特に、緑茶飲料)の保存時の劣化臭を効果的にマスキングできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、これに限定されるものではないが、以下の態様を包含する。
[1] (a)気液向流接触抽出法により焙じ茶葉スラリーを水蒸気抽出して溜出液である焙じ茶アロマを回収する工程、(b)工程aで水蒸気抽出した後の溜出残渣を活性炭と接触させて活性炭処理エキスを得る工程、及び、(c)工程aの焙じ茶アロマを工程bの活性炭処理エキスと混合して焙じ茶エキスを得する工程、を含む、焙じ茶エキスの製造方法。
[2] [1]の方法で得られた焙じ茶エキスを配合する工程を含む、茶飲料の製造方法。
[3] 茶飲料が緑茶飲料である、[2]に記載の茶飲料の製造方法。
[4] [1]の方法で得られた焙じ茶エキスを配合した茶飲料。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、飲食品そのものの味や香りに悪影響を与えずに、保存時の劣化臭をマスキングできる茶エキスを提供することが可能となる。また、常温で長期保存しても香味変化が少ない、すなわち保存安定性を有する容器詰緑茶飲料を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の焙じ茶エキスの製造方法は、一つの態様において、焙じ茶葉を気液向流接触抽出法による水蒸気抽出して溜出液である焙じ茶アロマを回収する工程、水蒸気抽出の溜出残渣に活性炭を混合して活性炭処理エキスを得る工程、焙じ茶アロマと活性炭処理エキスとを混合する工程、を含有する。以下、それぞれの工程について詳述する。
【0013】
焙じ茶アロマを回収する工程(工程a)
本発明の焙じ茶エキスの製造に用いる原料茶葉は、茶樹(学名:Camellia sinensis)の主に葉や茎を用いて製造された茶葉を焙煎して得られる焙じ茶葉である。例えば、煎茶、番茶、茎茶などの不発酵茶を焙煎した焙じ茶の他、烏龍茶などの半発酵茶や紅茶などの発酵茶を焙煎したものが挙げられる。本発明の効果の顕著さから、不発酵茶を焙煎した焙じ茶が好適に用いられる。
【0014】
焙煎の程度は、火入れによる香り成分(2,5-ジメチルピラジン、トリメチルピラジン等)が生成される条件であれば、特に制限されないが、L値が35~55程度の焙煎であることが好ましく、40~52であることがより好ましく、45~50程度であることがさらに好ましい。ここで、L値とは、茶葉の明度を色差計で測定した値であり、黒をL値0、白をL値100として表される値である。なお、茶葉のL値は、茶葉を石臼等で10μm程度の大きさになるまで微粉砕した粉砕物を色差計専用の丸形セルに7mlを秤り入れて、色差計によって測定される。色差計としては、例えば、Spectro Color Meter SE2000(日本電色工業)を好適に使用できる。
【0015】
茶葉を焙煎する焙煎方式も特に制限されないが、直火式、熱風式、半熱風式、遠赤外線式などで回転ドラムを有している形式のものが好ましい。焙煎条件(焙煎温度、焙煎時間)なども特に制限はなく、原料の質(例えば、水分含量等)と投入量等を勘案して、上記のL値になるような焙煎条件を設定すればよい。一般的には、100~350℃(好ましくは120~250℃)の焙煎温度、1~30分(好ましくは3~15分)の焙煎時間を例示できる。
【0016】
本発明の焙じ茶エキスの製造では、上記の焙じ茶葉を気液向流接触抽出法による水蒸気抽出して、溜出液である焙じ茶アロマを回収する(工程a)。より詳細には、焙じ茶を気液向流接触抽出装置に供給してストリッピング(揮発性成分の拡散)処理を行って、焙じ茶アロマを分離する。ここで、本発明に適用する気液向流接触抽出法は既存技術の一つであり、用いる装置としては、抽出用原料である焙じ茶のスラリーと水蒸気等の気体を向流的に接触させ、抽出用原料に含まれる焙じ茶の香気成分を水蒸気で気相中に拡散させる仕組みの装置であれば特に制限はない。特開昭61-274705号公報に記載されている水蒸気蒸留装置の一種であるスピニングコーンカラム(SCC)装置を用いた抽出は、連続操作ができるなどの作業性の面から好ましい。一つの態様においてSCC装置は、原料供給流量:300~800L/時、水蒸気供給量:6~120kg/時、アロマ回収量:4~100kg/時、原料供給温度:50~100℃の条件で処理することができる。
【0017】
SCC装置に供給される焙じ茶のスラリーとは、焙じ茶葉と水とを混合した液状又はペースト状のものをいう。焙じ茶葉と水の割合は任意に選択すればよいが、通常、スラリー全重量に対して焙じ茶葉が3~20重量%、好ましくは3~15重量%、より好ましくは5~10重量%程度である。なお、焙じ茶のスラリーとして、焙じ茶葉から水(温水)を用いて抽出した抽出液を使用してもよい。
【0018】
活性炭処理エキスを得る工程(工程b)
前記SCC抽出の溜出残渣は、抽出液を含むスラリー状となっている。水蒸気抽出後の溜出残渣から、固形物である焙じ茶葉を除去した後(この固形分を除去した溜出残渣を、本明細書中、「溜出残渣液」と表記することもある)、活性炭処理を行って活性炭処理エキスを得る。溜出残渣からの焙じ茶葉除去には、ろ過、遠心分離等の公知の固液分離手段が用いられる。
【0019】
本発明の製造方法で使用される「活性炭」は、多孔性炭素質吸着材として知られているものを使用することができる。本発明に用いる活性炭の形状は特に限定されるものではなく、粒状、粉末状、繊維状、板状、ハニカム状の形状が挙げられるが、粒状、粉末状が好適に用いられる。本発明の製造方法では、活性炭処理を行うことにより、溜出残渣液(すなわち、脱アロマ焙じ茶の抽出液)中に存在する味や香りに影響を及ぼす成分を選択的に吸着除去し、劣化臭のマスキングに寄与する成分のみを回収する。
【0020】
活性炭の由来原料は特に制限されるものではなく、オガコ、石炭、ヤシ殻等が挙げられる。また、水蒸気等のガスにより賦活した活性炭を用いてもよい。このような活性炭の市販品としては、白鷺WP―Z、白鷺WH2c(以上、大阪ガスケミカル)、太閣CW(二村化学工業)、クラレコールGW、クラレコールGW-H(以上、クラレケミカル)等を挙げることができる。活性炭の平均細孔半径は、例えば、3~30Åとしてもよく、5~25Åとしてもよい。また、活性炭の平均粒径(質量平均粒径)は、例えば、0.01~2mmとしてもよく、0.05~1.5mmとしてもよい。
【0021】
活性炭の使用量は、用いる活性炭の種類を勘案して適宜設定することができるが、溜出残渣液の可溶性固形分に対して、10~500重量%が好ましく、20~400重量%がより好ましく、25~300重量%がさらに好ましい。ここで、抽出液の可溶性固形分とは、20℃においてブリックス計で測定して得られる値をいう。脱アロマ焙じ茶の抽出液と活性炭の接触温度は、一つの態様において1~90℃であり、好ましくは5~80℃である。また活性炭処理時間は、作業性の観点から好ましくは1分~24時間、より好ましくは1分~2時間である。
【0022】
活性炭処理は、バッチ式及び連続式のいずれで行うことも可能である。バッチ式としては、焙じ茶葉スラリーの水蒸気抽出後の溜出残渣液に活性炭を加えて撹拌した後、活性炭を除去すればよい。また、連続式としては、カラム内に活性炭を充填し、溜出残渣液をカラム下部又は上部から通液させ、他方から排出させればよい。活性炭による処理後は、ろ過、遠心分離等の公知の固液分離手段によって活性炭を除去して所望の植物抽出物を取得することができる。
【0023】
劣化臭のマスキングに寄与する成分を回収するための活性炭処理条件は、430nmにおける吸光度(20℃)を指標に行うことができる。具体的には、測定された430nmにおける吸光度を活性炭処理エキスのBx(ブリックス)で除した値の変化率が、90%以下となるような処理が好ましく、70%以下となるような処理がより好ましく、50%以下となるような処理がさらに好ましい。ここで、変化率とは、次式で算出される値をいう。
[変化率(%)]=[(An/Bn)/(A0/B0)]×100
An:活性炭処理エキスの430nmにおける吸光度
Bn:活性炭処理エキスのBrix
(nは同一の活性炭処理条件であることを意味する)
A0:比較用エキスの430nmにおける吸光度
B0:比較用エキスのBrix
なお、活性炭処理を効率よく行うために、溜出残渣液を濃縮してから活性炭処理に供してもよい。また、活性炭処理後の活性炭処理エキスを濃縮してもよい。濃縮方法としては、常圧濃縮、減圧濃縮、膜濃縮等を挙げることができる。
【0024】
活性炭処理した後、ろ過、遠心分離などの公知の固液分離方法によって、活性炭を除去することができる。
焙じ茶アロマと活性炭処理エキスを混合する工程(工程c)
本発明の製造方法では、工程aで得られた焙じ茶アロマと、工程bで得られた活性炭処理エキスの一部又は全量を混合して、本発明の焙じ茶エキスを得る。焙じ茶エキスのBxは、0.1~20であることが好ましく、0.3~10であることがより好ましい。本発明の焙じ茶エキスは、必要に応じて加熱殺菌処理を行ってもよい。
【0025】
なお、本発明の製造方法における工程)は、飲食品に焙じ茶アロマと、活性炭処理エキスとをそれぞれ配合し、飲食品中で混合エキスの態様となっているものも含まれるものとする。
【0026】
本発明によって得られる焙じ茶エキスは、容器詰茶飲料を長期保存した際に生じる劣化臭を効果的に抑制することができる。すなわち、従来の天然物由来の成分は、劣化臭抑制効果を奏するためにはある程度多量に使用する必要があり、その結果、劣化臭抑制成分自体が有している味や匂いが茶飲料等の被添加食品そのものの味や香りに悪影響を及ぼすなど実用性に欠けることがあった。しかし、本発明の製造方法により得られる焙じ茶エキスは、優れた劣化臭のマスキング効果があることから少量の使用で済む。また、多量に使用した場合にも、被添加食品の味や香りに悪影響を及ぼすことがないという利点がある。この特徴から、本発明により得られる焙じ茶エキスは、品質として香味が重要視される茶飲料に添加して好適に用いられる。
【0027】
本発明は、一つの態様において茶飲料の製造方法であり、上記工程a~cにより得られた焙じ茶エキスを茶飲料に添加する工程を含む。ここで、茶飲料とは、茶葉の抽出物を主成分として含有する飲料をいう。好ましい態様において、本発明に係る茶飲料は、茶葉の抽出物、酸化防止剤(アスコルビン酸)、pH調整剤を含む。
【0028】
茶葉の抽出物とは、Camellia属、例えばC.sinensis、C.assamica、やぶきた種及びそれらの雑種から得られる茶葉から製茶された茶葉から水や熱水、抽出助剤を添加した水溶液で抽出した抽出物をいう。茶葉の抽出物は、抽出液の形態で用いることもできるし、濃縮物(乾燥物を含む)の形態で用いることもできる。製茶された茶葉としては、緑茶などの不発酵茶類、烏龍茶などの半発酵茶、紅茶などの発酵茶類があるが、いずれの茶葉抽出物を用いてもよい。茶葉抽出物の原料となる茶葉は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、2種以上の茶葉抽出物を組み合わせて使用することもできる。
【0029】
茶飲料の中でも、緑茶飲料は、特に香気(香り)が重要視される飲料であり、本発明の劣化臭抑制(マスキング)効果が顕著に知覚される飲料であることから、本発明の茶飲料として緑茶飲料は好適な態様である。ここで、緑茶としては煎茶、番茶、玉露、かぶせ茶、碾茶などが挙げられる。なお、通常、焙じ茶、番茶も緑茶に分類されるが、本発明では便宜的に除外される。本発明で得られる焙じ茶エキスを、緑茶抽出物(焙じ茶、番茶を含まない)に添加して緑茶飲料を製造することは、効果の顕著さから、本発明の茶飲料の製造方法の最も好適な態様である。
【0030】
茶飲料は、茶葉の抽出物に、酸化防止剤であるアスコルビン酸又はその塩と、重曹等のpH調整剤とを添加し、殺菌・容器充填するという工程により製造される。本発明の茶飲料の製造方法では、殺菌・容器充填する前に、茶飲料に焙じ茶エキスを添加する工程を含む。この場合、茶飲料中に焙じ茶エキスを固形分換算で、通常は0.0001~1質量%となるように添加する。本発明の効果を十分に発揮するには、焙じ茶エキス固形分換算で0.0005~0.1質量%となるように添加することが好ましく、0.001~0.01質量%となるように添加することがより好ましい。
【0031】
茶葉の抽出物は、通常の抽出条件で製造される。すなわち、原料茶葉を抽出溶媒にて抽出し、その抽出液から抽出残渣を取り除くことにより得ることができる。抽出は、ニーダー等の抽出装置を用いた公知の方法で行うことができる。本発明では、純水(硬水、軟水、イオン交換水を含む)を抽出溶媒として得られる緑茶葉抽出物を用いることが好ましい。この場合の抽出条件は、例えば、水の温度:60~100℃(好ましくは、70~90℃)、水の量:茶葉の重量に対して5~100倍量(好ましくは20~60倍量)、抽出時間:約1分~40分(好ましくは1~20分間)である。必要に応じて1回~数回攪拌して、常圧又は加圧下で抽出できる。
【0032】
茶飲料の殺菌条件は、食品衛生法に定められた条件と同等の効果が得られる方法を選択することができ、具体的には、例えば、60~150℃、好ましくは90~150℃、より好ましくは110~150℃で、1秒間~60分間、好ましくは1秒間~30分間とすることができる。容器として耐熱性容器(金属缶、ガラス等)を使用する場合には、レトルト殺菌(110~140℃、1~数十分間)を行えばよい。また、容器として非耐熱性容器(PETボトル、紙容器等)を用いる場合は、例えば、茶飲料を予めプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌(UHT殺菌:110~150℃、1~数十秒間)し、一定の温度まで冷却した後、容器に充填することができる。
【0033】
本発明の製造方法で得られる茶飲料は、保存時の劣化臭が抑制された茶飲料である。酸素透過性を有する透明容器は、保存時の劣化が著しいことから、本発明の効果を享受しやすい。すなわち、透明PETボトル入りの茶飲料は本発明の好適な態様の一例である。
【0034】
また、抹茶等の粉砕茶葉を含有する茶飲料は、その不溶性固形分が熱や光による影響を受けやすい。本発明の効果を享受しやすい観点から、粉砕茶葉を含有する茶飲料も本発明の好適な態様の一例である。
【実施例】
【0035】
以下、実験例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、本明細書において、特に記載しない限り、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0036】
1.焙じ茶エキスの製造
焙じ茶葉として、L値が47.2の焙じ茶葉(焙じ煎茶)を使用した。焙じ茶葉と純水を気液向流接触抽出法の材料として用いて、スピニングコーンカラム(SCC)装置によって溜出液(焙じ茶アロマ)及び溜出残渣を得た。SCC装置に供給するスラリーの流量は400L/時とし、全体の供給量に対して焙じ茶葉が5重量%となるように焙じ茶葉および純水供給量を調整した。SCC装置に供給する水蒸気供給量は90kg/時とし、アロマ回収量が16kg/時となるように調整した。スラリー供給温度は58℃とした。
【0037】
上述のSCC処理後の溜出残渣を、デカンタ(アルファ・ラバル、Foodec100型)によって固液分離し、重量及びBrix値を測定して、固液分離後の溜出残渣の可溶性固形分量(%)を次式に基づき算出した。
[可溶性固形分量(%)]=[溜出残渣の重量]×[溜出残渣のBrix値]/100
得られた溜出残渣に、溜出残渣の可溶性固形分量に対して表1に示す割合(重量比率)の活性炭を混合し、攪拌子によって攪拌しながら、表1に示す温度条件および反応時間で活性炭処理を行った。活性炭には、大阪ガスケミカルの白鷺WH2cを用いた。活性炭処理後、遠心分離機(KUBOTA、8420)により3300rpmで15分間遠心分離し、得られた清澄液を、孔径が0.45μmのフィルターと0.20μmのフィルターによって濾過して、活性炭処理エキスを得た。得られたエキスについて、Brix値(Bn)及び430nmにおける吸光度(An)を測定した。Brix値にはデジタル屈折計(アタゴ、RX-5000α)を、吸光度測定には紫外可視分光光度計(島津製作所、UV-1800)を用いた。
【0038】
次に、比較用エキスとして、活性炭処理を行わないこと以外は同様にしたものを調製した。すなわち、上述のSCC処理後の溜出残渣を、デカンタ(アルファ・ラバル、Foodec100型)によよって固液分離し、遠心分離機(KUBOTA、8420)により3300rpmで15分間遠心分離し、得られた清澄液をフィルター(孔径:0.45μmおよび0.20μm)によって濾過して、焙じ茶アロマを混合して比較用エキスを調製した。この比較用エキスについて、Brix値(B0)及び430nmにおける吸光度(A0)を測定したところ、A0は1.79、B0は1.19であった。
【0039】
活性炭処理エキスにおける活性炭の処理の程度について、活性炭処理エキス及び比較用エキスの吸光度、Brixを用い、次式で表される変化率を求めた。表1に算出結果を示す。
[変化率(%)]=[(An/Bn)/(A0/B0)]×100
An:活性炭処理エキスの430nmにおける吸光度
Bn:活性炭処理エキスのBrix
(nは同一の活性炭処理条件であることを意味する)
A0:比較用エキスの430nmにおける吸光度
B0:比較用エキスのBrix
【0040】
【0041】
表1から明らかなように、活性炭処理の度合いを表す変化率は、1分~120分の処理時間ではほとんど変化がなかった。一方、変化率は、活性炭の添加量に依存して大きくなり、処理温度に依存して大きくなった。
【0042】
次いで、この活性炭処理エキスと焙じ茶アロマを混合して、無色透明の焙じ茶エキスを製造した。活性炭処理エキスと焙じ茶アロマの混合割合は、SCC装置にてストリッピング処理して得られる焙じ茶アロマの固形分量と活性炭処理エキスの固形分量の比率と、固形分量比が同じとなるように混合した。
【0043】
2.焙じ茶エキスを配合した緑茶飲料の製造
煎茶葉(一番茶を中心とした弱火煎茶)の乾燥重量1重量部に対して、抽出溶媒として30重量部の水を加えて、60℃にて5分間抽出した(開始から30秒間は攪拌あり)。次いで、茶葉を分離し、さらに遠心分離処理(6000rpm、10分)により粗大な粉砕茶組織や茶葉粒子などの固形分を除去して、Brix0.3となるように水で希釈して緑茶葉抽出液を得た。これに碾茶を石臼で挽いて製造された抹茶(90%積算粒子径が20μmのもの)を0.05重量%添加した。この抹茶入り緑茶抽出液に、30mg/100mlのアスコルビン酸を添加し、炭酸水素ナトリウムを混合してpH6.4の緑茶飲料を製造した(試料1、試料2)。また、この緑茶飲料に、焙じ茶エキス(表1のサンプル25から得られた焙じ茶エキス)を、下表に示す濃度で添加した飲料を調製した(試料3、試料4)。
【0044】
これらの緑茶飲料を、125℃で7分間加熱殺菌処理し、PET容器(500mL)に充填して容器詰緑茶飲料を製造した。
得られた容器詰緑茶飲料について、6ヶ月保存した場合の劣化臭の強度を、専門パネル7名が、下記の基準に基づいて評価し、各パネルの評点から平均値を算出した。
■官能評価基準(保存劣化臭の強さ)
5点:保存劣化臭を全く感じない(製造直後と同等)
4点:ほとんど感じない
3点:わずかに感じるが問題ない
2点:やや感じる
1点:強く感じる
【0045】
【0046】
表2に評価結果を示す。焙じ茶からSCC装置によりストリッピング処理して得られた焙じ茶アロマと溜出残渣の活性炭処理エキスの混合エキス(焙じ茶エキス)を少量添加することにより、抹茶入り緑茶飲料の風味に影響を及ぼすことなく、長期間で常温保存した際に発生する保存劣化臭を効果的に抑制することができた。