(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】モールド真空バルブの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01H 33/662 20060101AFI20240318BHJP
C04B 41/86 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H01H33/662 F
C04B41/86 R
H01H33/662 R
(21)【出願番号】P 2020074868
(22)【出願日】2020-04-20
【審査請求日】2023-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小宮 玄
(72)【発明者】
【氏名】松岡 美佳
(72)【発明者】
【氏名】多賀谷 治
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-351852(JP,A)
【文献】特開2004-031628(JP,A)
【文献】特開2003-211578(JP,A)
【文献】特開2008-270209(JP,A)
【文献】特開2008-100378(JP,A)
【文献】国際公開第2012/035939(WO,A1)
【文献】特許第4159938(JP,B2)
【文献】特開昭55-130877(JP,A)
【文献】特開2013-089376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/60 - 33/68
B29C 39/00 - 39/24
39/38 - 39/44
43/00 - 43/34
43/44 - 43/48
43/52 - 43/58
C04B 41/80 - 41/91
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有し、一対の接点を収納するセラミックス容器、及び前記開口に封着された封着金具を有する真空バルブと、前記真空バルブの表面に設けられた絶縁層とを含むモールド真空バルブを製造する方法であって、
前記セラミックス容器の表面にシラン化合物を希釈溶剤で希釈したシラン化合物塗布液を塗布し、シラン化合物層を形成する工程と、
前記シラン化合物層を
120~180℃に加熱する工程と、
加熱された前記シラン化合物層を介して、前記真空バルブの表面に絶縁材料を適用し、絶縁層を形成する工程とを含むことを特徴とするモールド真空バルブの製造方法。
【請求項2】
前記絶縁材料はエポキシ樹脂である請求項1に記載のモールド真空バルブの製造方法。
【請求項3】
前記希釈溶剤は水を含み、前記水の含有量は、前記希釈溶剤の0.1~50重量%であることを特徴とする請求項1または2に記載のモールド真空バルブの製造方法。
【請求項4】
前記シラン化合物は、
官能基として、エポキシ基
を含むことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のモールド真空バルブの製造方法。
【請求項5】
前記シラン化合物は、下記化学式(1)で表され、
(RO)
3Si C
nH
2nX
…(1)
式中、Rはアルキル基、Xは官能基であり、
エポキシ基を含み、C
nH
2nは、スペーサー基であり、nが3以上であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のモールド真空バルブの製造方法。
【請求項6】
前記セラミックス容器は、その表面に、釉薬処理によって形成された釉薬層を含む請求項1ないし5のいずれか1項に記載のモールド真空バルブの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、モールド真空バルブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、真空バルブのセラミックス容器表面にシラン化合物を塗布した後、この真空バルブにエポキシ樹脂からなる絶縁層を注型することにより、モールド真空バルブを形成する方法がある。しかしながら、この方法を用いると、シラン化合物の塗布によるセラミックスと絶縁層間の接着が十分ではなく、シラン化合物とセラミックスの化学結合が脆弱になったり、セラミックス表面に対してシラン化合物の分布が不均一になるなどの問題があった。また、この場合、シラン化合物の結合が脆弱な部分では、エポキシ樹脂からなる絶縁層とセラミックスの間で剥離が発生しやすく、シラン化合物が不均一な部分では、微細な空隙が発生しやすくなった。さらに、これらの剥離や空隙からはコロナ放電が発生しやすくなり、エポキシ樹脂を侵食して地絡が発生する恐れがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4159938号公報
【文献】特許第3969344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、モールド真空バルブの絶縁層とセラミックスの間の接着を良好にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態によれば、開口を有し、一対の接点を収納するセラミックス容器、及び前記開口に封着された封着金具を有する真空バルブと、前記真空バルブの表面に設けられた絶縁層とを含むモールド真空バルブを製造する方法であって、
前記セラミックス容器の表面にシラン化合物を希釈溶剤で希釈したシラン化合物塗布液を塗布し、シラン化合物層を形成する工程と、
前記シラン化合物層を120~180℃に加熱する工程と、
加熱された前記シラン化合物層を介して、前記真空バルブの表面に絶縁材料を適用し、絶縁層を形成する工程とを含むことを特徴とするモールド真空バルブの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態に係るモールド真空バルブの製造方法を説明するフロー図である。
【
図2】実施形態により作成可能なモールド真空バルブの一例を表す概略的な断面図である。
【
図3】実施形態により作成可能なシラン化合物層の様子の一例を表すモデル図である。
【
図4】比較のシラン化合物層の様子の一例を表すモデル図である。
【
図5】実施形態により作成可能なシラン化合物層の様子の他の一例を表すモデル図である。
【
図6】実施形態により作成可能なシラン化合物層の様子の他の一例を表すモデル図である。
【
図7】実施形態に係るモールド真空バルブの製造方法を説明するフロー図である。
【
図8】接着強さの測定試験を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1に、実施形態に係るモールド真空バルブを製造する方法を説明するフロー図を示す。
実施形態に係るモールド真空バルブを製造する方法では、図示するように、まず、真空バルブを用意し、真空バルブのセラミックス容器の表面にシラン化合物塗布液を塗布してシラン化合物層を形成する(SA1)。次に、シラン化合物層を100℃以上に加熱する(SA2)。続いて、加熱されたシラン化合物層を介して、真空バルブの表面に絶縁材料を適用して絶縁層を形成し(SA3)、モールド真空バルブを得る。なお、ここで使用する真空バルブは、開口を有し、一対の接点を収納するセラミックス容器、及び開口に封着された封着金具を有する。
【0008】
図2に、実施形態により作成可能なモールド真空バルブの一例を表す概略的な断面図を示す。
図示するように、真空バルブ100は、両端に開口部を有し、例えばアルミナ磁器等よりなる筒状のセラミックス容器10と、一方の開口部に封着された固定側封着金具11と、他方の開口部に封着された可動側封着金具12とを備えており、真空バルブ100内は真空が維持されている。固定側封着金具11には中央開口部が設けられ、固定側通電軸13が貫通固定されている。固定側通電軸13のセラミックス容器10内の端部に固定側接点14が固着されている。固定側接点14に対向し、切離自在の一対の接点となる可動側接点15は、可動側封着金具12に設けられた中央開口部を移動自在に貫通する可動側通電軸16の端部に固着されている。この可動側通電軸16では、中央部分より可動側封着金具12側の部分がセラミックス容器10の外に導出される部分となっており、その部分に、気密封止のための伸縮自在の筒状のベローズ17が配設されている。ベローズ17の自由端101は可動側通電軸16の中央部分に封着され、固定端102は可動側封着金具12の中央開口部に封着されている。固定側接点14と可動側通電軸16の周囲には、筒状のアークシールド18が設けられている。これにより、真空バルブ100が構成されている。
【0009】
真空バルブ100の外周となる固定側封着金具11には、これを囲むように、例えば黄銅等からなる椀状の固定側電界緩和シールド19を設けることができる。可動側封着金具12にも、これを囲むように、椀状の可動側電界緩和シールド20を設けることができる。固定側電界緩和シールド19及び可動側電界緩和シールド20が設けられた真空バルブ100の周りに、絶縁層21が設けられる。絶縁材料として例えばエポキシ樹脂を用いることができる。ここで、絶縁層21と真空バルブ100のセラミックス容器10との間には、図示しないシラン化合物層が設けられている。シラン化合物層は、
図1に示すセラミックス容器10の表面にシラン化合物塗布液を塗布してシラン化合物層を形成し(SA1)、及びシラン化合物層を100℃以上に加熱する(SA2)により形成することができる。このシラン化合物層を介して、真空バルブ100の周囲に絶縁層21をモールドすることにより、絶縁層21と真空バルブ100との接着を良好にすることができる。
【0010】
絶縁層21の外周には、接地層23をさらに設けることができる。また、絶縁層21の固定側通電軸13側の端部、絶縁層21の可動側通電軸16の端部には、各々、界面接続部22a,22bを設けることが可能であり、同様の界面接続部と接続可能になっている。これにより、モールド真空バルブ105が構成される。
【0011】
実施形態の方法を用いると、シラン化合物層を100℃以上に加熱する(SA2)ことにより、シラン化合物層を高分子化することが可能である。シラン化合物層が高分子化すると、セラミックス容器表面に、均一かつ高分子化された強固な結合が得られる。これにより、接着性が良好で欠陥のないモールド真空バルブを提供することが可能となる
絶縁層の絶縁材料として、例えばエポキシ樹脂を使用することができる。
【0012】
以下、絶縁層の例として、エポキシ樹脂層を使用して説明する。
図3に、実施形態に係る方法を用いて製造されたモールド真空バルブのセラミックス容器と絶縁層間のシラン化合物層の様子の一例を表すモデル図を示す。
図示するように、モールド真空バルブ105では、シラン化合物層を100℃以上に加熱し、シラン化合物を高分子化することにより、セラミックス容器10とエポキシ樹脂層21との間に、シラン化合物の配列がより均一であり、強固なシラン化合物層110-1を形成して、良好な接着性を得ることができる。
【0013】
これに対し、シラン化合物層を100℃以上に加熱する(SA2)工程を省くと、高分子化されたシラン化合物層中のシラン化合物の配列が不均一となり、強固なシラン化合物層を得ることは難しくなる。
【0014】
図4に、比較として、100℃以上に加熱する(SA2)工程を省いた場合のモールド真空バルブのセラミックス容器とエポキシ樹脂層間のシラン化合物層の様子の一例を表すモデル図を示す。
図示するように、このモールド真空バルブ106では、シラン化合物層の100℃以上の温度での加熱工程を省くと、シラン化合物の高分子化が不十分となり、例えば領域113に示すような剥離、あるいは領域112に示すような空隙などの欠陥が生じ、放電を起こしやすいシラン化合物層110-2となる。
【0015】
シラン化合物塗布液は、希釈溶剤として、水と、水溶性の溶剤例えばメタノール、エタノール、アセトン、またはメチルエチルケトン等との組み合わせを使用することができる。希釈溶剤に水を添加することにより、シラン化合物を予め加水分解することができる。加水分解されたシラン化合物誘導体を用いると、シラン化合物を高分子化する際の脱水縮合反応を促進させることができる。
【0016】
希釈溶剤中の水の含有量は、0.1~50重量%にすることができる。水の含有量が0.1重量%未満であると、シラン化合物の加水分解が不十分となる傾向があり、50重量%を超えると、セラミックス表面に水分が残存し、これがエポキシ樹脂の硬化反応への阻害や絶縁性能の低下の要因となる傾向がある。希釈溶剤中の水の含有量は、さらには、3~20重量%の範囲にすることができる。
シラン化合物は、エポキシ基、またはアミン基のうち少なくとも1つの官能基を含むこができる。エポキシ基、またはアミン基は、100℃程度の加熱温度でも安定であり、反応基としての活性を保つことができる。
【0017】
シラン化合物として、例えば、下記化学式(1)で表わされるシランカップリング剤を使用することができる。
(RO)3SiCnH2nX…(1)
式中、Rはアルキル基、Xは官能基、CnH2nは、スペーサー基であり、nは3以上である。
アルキル基Rとしては、例えば、メチル基(CH3-)あるいはエチル基(CH3CH2-)を用いることができる。官能基Xとしては、エポキシ基、またはアミン基のうち少なくとも1つの官能基を含むことができる。
また、スペーサー基のnが3以上であると、シラン化合物を高分子化する際に、スペーサー部分(-CnH2n-)の疎水作用によりシラン化合物の配列がより密となり、均一に配列する傾向がある。
【0018】
図5に、スペーサー基のnが3以上である場合のモールド真空バルブのセラミックス容器とエポキシ樹脂層間のシラン化合物層の様子の一例を表すモデル図を示す。
ここでは、n=7のシラン化合物を使用する。図示するように、このモールド真空バルブ107では、シラン化合物の高分子化によりセラミックス容器10とエポキシ樹脂層21との間に形成されるシラン化合物層110-3は、そのスペーサー基の長さnが、
図3のシラン化合物層110-1のスペーサー基の長さnよりも長いので、疎水作用により、シラン化合物の配列がより密で、強固な層となる傾向がある。その結果、セラミックス容器とエポキシ樹脂層間の良好な接着性が得られる。
これに対し、nが2以下の場合には、セラミックス容器とエポキシ樹脂層間の接着性が低下する傾向がある。
【0019】
図6に、nが2以下である場合のモールド真空バルブのセラミックス容器とエポキシ樹脂層間の様子の一例を表すモデル図を示す。
図示するように、モールド真空バルブ108では、スペーサー基の長さに関わるnが2以下である場合には、nが3以上である場合と比較すると、シラン化合物の高分子化の際、シラン化合物の配列が不均一になりやすく、得られたシラン化合物層110-4に領域112に示すような空隙などの欠陥が生じて、放電を起こしやすくなる傾向がある。このため、セラミックス容器とエポキシ樹脂層間の接着性が低下する傾向がある。
【0020】
シラン化合物塗布液の塗布方法として、ハケ塗り、スプレー塗り、ウエス塗り、浸漬などの方法を使用できる。
シラン化合物層の加熱温度は、100℃以上、好ましくは120~180℃にすることができる。100℃未満であると、シラン化合物層の脱水縮合反応がほとんど起こらない。120℃未満であると、シラン化合物層の脱水縮合反応が起こりにくくなる傾向があり、180℃を超えると、シラン化合物中の官能基Xであるエポキシ基やアミン基が加熱劣化により変性し、エポキシ樹脂との架橋反応を阻害するとなる傾向がある。
【0021】
セラミックス容器として、表面を釉薬処理していないもの、あるいは釉薬処理によって形成された釉薬層を表面にさらに含むものを使用することができる。表面を釉薬処理していないセラミックス容器は、釉薬処理されたセラミックス容器と比較して防水性が劣るけれども、実施形態に係る方法によりシラン化合物層を高分子化させると、セラミックス容器表面に均一で、かつ高分子化された強固な結合が得られるため、良好な耐水性と接着性が得られる。また、表面を釉薬処理されたセラミックス容器は、表面にガラス質の釉薬層を有し、釉薬処理していないセラミックス容器と比較すると表面が滑りやすく、セラミックス容器と絶縁層の接着性が不十分になりやすいが、実施形態に係る方法によりシラン化合物層を高分子化させると、セラミックス容器表面に均一で、かつ高分子化された強固な結合が得られるため、接着性を向上させることができる。
【0022】
以下、実施例を示し、実施形態を具体的に説明する。
実施例
実施例1
部分放電開始電圧の測定
図2の真空バルブ100と同様の構成を有する直径80mmの真空バルブを用した。
シラン化合物として、信越シリコーン社製のシランカップリング剤 KBM403を用意した。これは、式(1)(RO)
3SiC
nH
2nXで表されるシランカップリング剤の一種であり、ROはメトキシ基、Xはエポキシ基、C
nH
2nスペーサー基のnは3に相当する。
【0023】
図7に、実施例1に係るモールド真空バルブの製造方法を示す。
図示するように、まず、このシラン化合物、エタノール、及び純水を、重量比で5:90:5の割合で混合し、シラン化合物塗布液を調製した(SB1)。シラン化合物塗布液中に水を加えることにより、シラン化合物塗布液中では、シラン化合物が水によって加水分解してシラン化合物誘導体が生成され得る。
【0024】
次に、シラン化合物塗布液を、真空バルブのセラミックス容器にウエス塗りにより塗布し、シラン化合物層を形成した(SB2)。
続いて、シラン化合物層が設けられた真空バルブを恒温槽に入れて100℃以上に加熱した(SB3)。ここでは、恒温槽の加熱温度を130℃に設定した。(SB3)の加熱工程により、シラン化合物誘導体がセラミックスのOH基と脱水縮合するだけでなく、シラン化合物誘導体同士が脱水縮合することにより、シラン化合物の高分子化が促進され、強固なシラン化合物層(シランカップリング層)を形成することが可能となる。
【0025】
その後、真空バルブの外周を液状のエポキシ樹脂でモールドした(SB4)。エポキシ樹脂でモールドされた真空バルブを、恒温槽で130℃で加熱して、エポキシ樹脂を加熱硬化し(SB5)、
図2のモールド真空バルブと同様の構成を有するモールド真空バルブを得た。
【0026】
次に、得られたモールド真空バルブについて、部分放電開始電圧を測定した。得られた部分放電開始電圧は、51.8kVであった。この部分放電開始電圧は、18kV以上であれば、コロナ放電が発生しにくく、欠陥が少ないと評価できる。このように、実施例1によれば、絶縁層とセラミックスの間の接着が良好であり、信頼性の高いモールド真空バルブが得られることがわかった。
【0027】
比較例1
(SB3)の加熱工程を省くこと以外は、実施例1と同様にして、モールド真空バルブのモデルを作製した。
実施例1と同様に部分放電開始電圧を測定した結果、13.5kVとなった。放電波形を調べたところ、測定範囲では、セラミックスとエポキシ樹脂層との界面で剥離が発生していることが明らかとなった。
【0028】
実施例2
引張接着強さの測定
図8に、引張接着強さの測定試験を説明するための図を示す。
セラミックスとエポキシ樹脂層間の接着強さを測定するため、
図8に示す試験片33を作製した。
試験片33は、セラミックス片31と、セラミックス片31の一表面31aと接着されたエポキシ樹脂片32とを有する。
【0029】
この試験片33を作成するために、まず、式(1)のシラン化合物(RO)3SiCnH2nX(R;アルキル基、X;官能基、n=3以上)と、エタノールと、純水とを重量比で5:90:5の割合で混合し、シラン化合物塗布液を調製した。
ここでは、シラン化合物として、CnH2nスペーサー基の長さに関わるnが異なる2種類のシランカップリング剤を使用した。シランカップリング剤の1つはKBM-403であり、もう一つは、信越シリコーン社製 KBM-4803である。KBM-4803は、式(1)において、ROがメトキシ基、官能基Xがエポキシ基、nが7に等しい場合に相当する。
【0030】
セラミックス片31として、実施例1の真空バルブと同様の素材(アルミナ92%、釉薬なし)を有する直径φが14mm、長さが50mmの棒状のセラミックス片を用意した。シラン化合物塗布液を不織布(旭化成 社製 ベンコットン)に染み込ませ、セラミックス片の一端の表面31aにシラン化合物塗布液をウエス塗布して、シラン化合物層を形成した。
【0031】
その後、シラン化合物層を130℃で加熱した。
このようにしてシラン化合物層が設けられたセラミックス片31を金型にセットし、エポキシ樹脂を注型した。続いて、エポキシ樹脂が注型されたセラミックス片31を80℃で16時間加熱し、エポキシ樹脂を1次硬化した。エポキシ樹脂が注型されたセラミックス片31を離型した後、150℃で15時間加熱し、エポキシ樹脂の2次硬化を行った。これにより、表面31a上に、シラン化合物層を介して、直径14mm、長さ100mmの棒状のエポキシ樹脂片32を形成し、試験片33を得た。
【0032】
引張接着強さ試験として、この試験片33のセラミックス片31を矢印34の方向へ,エポキシ樹脂片32を矢印34の方向とは反対側の矢印35の方向に引張り、引張接着強さを測定した。
引張接着強さ試験は、シランカップリング剤の種類ごとに4本ずつ行い、その平均を求めた。
n=3のKBM-403の場合、接着強さの平均38MPaとなった。一方、n=7のKBM-4803の場合、42MPaなりアルキル鎖の長いKBM-4803の方が高い接着力を示すことがわかった。この結果から、スペーサー基の長さがより長尺である方が引張接着強さが高くなることがわかった。
【0033】
実施例3
実施例1の真空バルブと同様の素材(アルミナ92%、釉薬なし)を有する直径φが14mm、長さが50mmの棒状のセラミックス片を用意し、この表面に釉薬処理を実施した。セラミックス表面に釉薬を使用したこと以外は実施例2と同様にして、KBM―403によりシラン化合物層を作製した。こうして得られた実施例2の「セラミックス+シランカップリング層」と実施例3の「セラミックス+釉薬+シランカップリング層」を、シラン化合物層を形成してから1か月以上放置した。放置後に実施例2と同様にして、エポキシ樹脂片を形成し、表面に釉薬処理を用いた試験片を得た。実施例2と同様に、引張接着強さ試験を行ったところ、釉薬を用いない実施例2では初期特性と比較して1か月以上放置した試験片では接着力が70%低下していた。一方、釉薬を形成した実施例3では接着力の低下は94%にとどまっていた。これにより、セラミックス表面に釉薬処理した後にシラン化合物層形成することでを1か月以上放置してもエポキシ樹脂を注型した際の接着力が低下することなく信頼性の高い注型品を得られることがわかった。これは、釉薬処理を行わない棒状のセラミックス片のアルミナに比べ、釉薬に用いるガラス成分は表面に水酸基を多く持つことから、シラン化合物層を形成してから、エポキシ樹脂を注型するまでの保存性が良好であるためと考えられる。
【0034】
上述のように、実施形態によれば、真空バルブ表面に絶縁層を形成する前に、少なくともセラミックス容器の表面にシラン化合物層塗付液を塗布し、シラン化合物層を形成した後、シラン化合物層を100℃以上に加熱することを加えることにより、シラン化合物を高分子化させて、絶縁層とセラミックス容器との間の接着をより強固にすることができる。
【0035】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
10…セラミックス容器、11,12…封着金具、21…絶縁層、100…真空バルブ、105…モールド真空バルブ、110-1,110-2,110-3,110-4シラン化合物層