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特許7455655二次電池の電解液量の減少を判定する判定装置及び判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】二次電池の電解液量の減少を判定する判定装置及び判定方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20240318BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240318BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20240318BHJP
   H01M 10/44 20060101ALI20240318BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20240318BHJP
【FI】
H01M10/48 101
H01M4/587
H01M10/0525
H01M10/48 P
H01M10/44 P
H01M10/0566
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020086675
(22)【出願日】2020-05-18
(65)【公開番号】P2021182474
(43)【公開日】2021-11-25
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青木 哲也
【審査官】辻丸 詔
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-073755(JP,A)
【文献】特開2009-252381(JP,A)
【文献】特開2013-247003(JP,A)
【文献】特開2012-181976(JP,A)
【文献】特開平05-190211(JP,A)
【文献】特開2021-163627(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H01M 4/587
H01M 10/0525
H01M 10/44
H01M 10/0566
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極にグラファイトを使用している二次電池の電解液量の減少を判定する判定装置であって、
前記二次電池の電圧及び/又は電流を検出するセンサと、
コントローラとを備え、
前記コントローラは、
前記センサにより検出された値に基づき、前記二次電池の充電状態を演算し、
前記二次電池の充電中又は放電中に、前記充電状態の変化量に対する前記二次電池の電圧の変化量の割合(dV/dSOC)と前記充電状態より得られる電池特性から、前記割合(dV/dSOC)のピークを複数特定し、
特定された複数の前記ピーク間の前記充電状態の差が所定値以下である場合に、前記二次電池の電解液量が減少していると判定する判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の判定装置であって、
前記電池特性は、前記充電状態の特定範囲内で前記ピークを有し、
前記コントローラは、前記充電状態が前記特定範囲外である場合には、前記二次電池の充電又は放電の電流を所定電流より高くする判定装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の判定装置であって、
前記判定装置による判定結果の後の前記二次電池の使用用途に応じて、判定時の充電と放電を切り替える判定装置。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の判定装置であって、
前記所定値は、初期のピーク間充電状態の差に対して92%以上から94%以下の範囲内に設定されており、
前記初期のピーク間充電状態の差は、初期状態の前記二次電池における前記割合(dV/dSOC)のピーク間の前記充電状態の差である判定装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の判定装置であって、
前記コントローラは、前記二次電池の電解液量が減少していると判定した場合には、ユーザに対して、前記二次電池の状態を通知する判定装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の判定装置であって、
前記コントローラは、前記二次電池の電解液量が減少していると判定した場合には、前記二次電池の使用に制限を加えるための制限制御を実行する判定装置。
【請求項7】
請求項6記載の判定装置であって、
前記制限制御は、前記二次電池の上限電圧を下げる、前記二次電池の下限電圧を上げる、及び、充放電電流の上限値を下げる、のうち少なくともいずれか1つを実行するための制御である判定装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の判定装置であって、
前記電池特性は、
前記二次電池に含まれる正極材料を要因として表れる前記ピークと、前記グラファイトを要因として表れる前記ピークを有し、
前記コントローラは、前記正極材料を要因として表れる前記ピークを用いずに、前記グラファイトを要因として表れる前記ピークを用いて、前記二次電池の電解液量が減少しているか否かを判定する判定装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載の判定装置であって、
前記コントローラは、前記二次電池の充電中に、前記二次電池の電解液量が減少しているか否かを判定する判定装置。
【請求項10】
負極にグラファイトを使用している二次電池の電解液量の減少を判定する判定方法であって、
前記二次電池の電圧及び/又は電流を検出するセンサから、検出値を取得し、
前記検出値に基づき、前記二次電池の充電状態を演算し、
前記二次電池の充電中又は放電中に、前記充電状態の変化量に対する前記二次電池の電圧の変化量の割合(dV/dSOC)で表される値と前記充電状態から得られる電池特性から、前記割合(dV/dSOC)のピークを複数特定し、
特定された複数の前記ピーク間の前記充電状態の差が所定値以下である場合に、前記二次電池の電解液量が減少していると判定する判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の電解液量の減少を判定する判定装置及び判定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電解液を追加的に注液することによって二次電池セルの性能低下を緩和させる電池システムが知られている(特許文献1)。特許文献1記載の電池システムでは、第1電解液と電極組立体が電池ケースに内蔵された状態で、電池ケースが密封された構造を有した二次電池セルに対して、二次電池の最大容量が20%から60%低下した場合に、第1電解液と組成が異なる第2電解液を、電池ケース内部に追加で注液する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/217646号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の電池システムは、電池の最大容量が大きく低下した後の対処方法であって、電池容量の大きな低下を事前に検知できないという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、電解液量の減少を原因とした電池容量の大きな低下を事前に検知できる判定装置及び判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、負極にグラファイトを使用している二次電池の充電状態を演算し、二次電池の充電又は放電中に、充電状態の変化量に対する二次電池の電圧の変化量の割合と充電状態より得られる電池特性から、割合(dV/dSOC)のピークを複数特定し、特定された複数のピーク間の充電状態の差が所定の判定閾値以下の場合に、二次電池の電解液量が減少していると判定することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電解液量の減少を起因とした電池容量の大きな低下を事前に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態に係る二次電池の判定システムを示すブロック図である。
図2図2は、二次電池の耐久試験の分析結果を示したグラフである。
図3図3は、dV/dSOC電池特性を示すグラフである。
図4図4は、サイクル数に対するピーク間の充電状態の差の特性を示すグラフである。
図5図5は、サイクル数に対するピーク間の充電状態の差の特性を示すグラフである。
図6図6は、二次電池の電解液量の減少を判定するシステムにおける判定処理の手順を示すフローチャートである。
図7図7は、二次電池の電解液量の減少を判定するシステムにおける判定処理の手順を示すフローチャートである。
図8図8(а)はSOCに対する正極電圧の特性を示したグラフであり、(b)はSOCに対する負極電圧の特性を示したグラフである。
図9図9(а)は二次電池のdV/dSOC電池特性のグラフであり、(b)はSOCに対する負極電圧の特性を示したグラフである。
図10図10は二次電池の放電特性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
≪第1実施形態≫
本発明に係る二次電池の電解液量の減少を判定する判定装置及び判定方法の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る判定装置の一実施の形態を含む判定システムを示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態に係る判定システムは、二次電池2の充放電を制御し、二次電池2の電解液量が減少しているか否かを判定することで、電解液量の減少を起因として電池容量が大きく低下する可能性があることを、電池容量が大きく低下する前に通知するためのシステムである。判定システムは、判定装置1と二次電池2とを備える。なお、判定装置1は、図1には図示されていない充電装置等を含んでいてもよい。
【0010】
判定装置1は、コントローラ10、電圧センサ11、電流センサ12、DCDCコンバータ13、及びディスプレイ14を備えている。コントローラ10は、バッテリーコントロールユニット(BCU)である。コントローラ10は、電圧センサ11により検出された検出電圧、及び/又は、電流センサ12により検出された検出電流に基づき、二次電池2の状態を管理しつつ、電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を起因として電池容量が大きく低下する可能性を事前に検知している。コントローラ10は、ROM又はRAMなどのメモリ、及び、CPUなどのプロセッサ等により構成されている。
【0011】
電圧センサ11は、二次電池2の端子間の電圧を検出するためのセンサである。二次電池2の正極と負極に接続された配線の間に接続されている。電流センサ12は、二次電池2の入出力電流を検出するためのセンサである。電流センサ12は、二次電池2の正極又は負極に接続された配線に接続されている。電圧センサ11及び電流センサ12は電池の状態を検出しており、検出した値をコントローラ10に出力する。
【0012】
DCDCコンバータ13は、二次電池2から入力される電圧を、所定の電圧に変換し、モータ等の負荷に電力を出力する電力変換装置である。また、DCDCコンバータ13は、モータ等の負荷又は充電装置から入力される電圧を、所定の電圧に変換し、二次電池2に電力を出力する電力変換装置でもある。DCDCコンバータ13は、コントローラ10により制御される。
【0013】
ディスプレイ14は、二次電池2の状態をユーザに通知するための表示装置である。ディスプレイ14は、コントローラ10により制御される。コントローラ10は、二次電池2の電解液量が減少していると判定した場合には、電池容量が大きく低下する可能性があることを知らせるための表示画面を、電池容量が大きく低下する前に、ディスプレイ14に表示させることで、ユーザに対して二次電池2の状態を通知する。
【0014】
二次電池2は、たとえばリチウムイオン二次電池である。この種の二次電池2は、負極活物質として、リチウムイオンの挿入・脱離に伴って充放電電位が段階的に変化する複数の充放電領域を有する活物質を用いたものを例示することができる。このようなリチウムイオンの挿入・脱離に伴って充放電電位が段階的に変化する複数の充放電領域を有する活物質として、グラファイト構造を含有するグラファイト系活物質が好適である。そのため、以下に示す実施形態では、負極にグラファイトを使用したリチウムイオン二次電池を例示して本発明を説明する。正極活物質としては、特に限定されず、リチウム-遷移金属複合酸化物などのリチウムイオン二次電池用の正極活物質として公知のものを用いることができる。二次電池2は、正極及び負極の他に、電解液、セパレータ、タブを有している。
【0015】
二次電池2は、充電装置に電気的に接続されている。二次電池2に接続されている充電装置は、たとえば、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載された二次電池2への充電を行なうための装置である。車載された二次電池2への充電は、充電装置の充電ケーブルを取り出し、車両の充電ポートのコネクタに充電ケーブル先端の充電ガンを装着したのち、充電開始スイッチを操作することで行われる。コントローラ10は、二次電池2の充電状態(State of Charge:SOC)を管理しつつ、二次電池2の充電状態が目標となる充電状態になるように、DCDCコンバータ13及び充電装置をそれぞれ制御する。
【0016】
二次電池2は、モータ等の負荷に電気的に接続されている。負荷は、二次電池2の電力を使用して動作する装置であって、車両の駆動源となるモータや、エアーコンディショナーやライトなどの補器類等である。二次電池2の放電は、外部からの電力要求により、コントローラ10の制御の下、実行される。例えば、車両の走行開始時に車室内が適温になるようタイマー設定で車両走行前にエアーコンディショナーを動作させるなど、車両が走行を開始するまでの時間を把握できる場合に、二次電池2の放電制御が実行される。ユーザ要求等に応じて予め設定された車両利用開始時刻に対して、所定時間前になると、コントローラ10は、車両のメインコントローラ(図示しない)から、二次電池2を放電する放電指令信号を受信し、放電指令信号で示されている要求電力になるよう、DCDCコンバータ13を制御して、二次電池2を放電させる。
【0017】
ここで、二次電池2の利用形態について説明する。二次電池2は、通常の使われ方を想定して、電解液を余剰に充填することで二次電池2の電解液量が減少しても許容できるように設計されている。その一方で、昨今では、自動車用の電池をリユースして有効活用することが行われている。特に、自動車用の二次電池2に対して要求される性能がハイスペックなため、二次電池2が車両用として使用できなくても、蓄電装置やソーラーシステムなど、車両以外の装置やシステムに使用される民生電池としては有効に活用できる。さらには、車両の二次電池2を、他の車両に搭載して再利用することも可能性としては考えられる。このようなリユースは、二次電池2の設計段階では考慮されていないことが多い。そのため、二次電池2が、設計段階では想定されていない形態で利用され、電解液量の減少により容量が大きく低下した場合には、二次電池2を搭載したシステムが機能不全に陥る可能性もある。リチウムイオン電池の電解液量が減少すると、電池容量の低下が早くなるため、現時点では電池容量が十分あるとシステムにより判定されたとしても、電池が短時間で使用不能になることもある。
【0018】
このような電池の容量低下に伴うシステムの機能不全等を防ぐために、本実施形態に係るシステムは、電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を判定している。そして、電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を判定することで、以下のような利点もある。二次電池2がシステム(リユース先のシステム)に搭載される前(いわゆるオフボード)には、例えばリユースの対象となる電池が適切か不適切化を仕分けることもできる。また、二次電池2がシステム(リユース先のシステム)に搭載された後(いわゆる、オンボード)には、二次電池2の電池容量が大きく低下する前に、電池交換等を行うことができる。
【0019】
次に、電解液量の減少により二次電池2の電池容量が低下した際の電池特性について、図2を用いて説明する。図2は、二次電池2の耐久試験の分析結果を示したグラフである。図2の縦軸は二次電池2の放電容量(Discharge Capacity)の変化量に対する二次電池2の電圧の変化量の割合(dV/dQ)を示しており、横軸は二次電池2の放電容量を示している。図2の(а)は、サイクル数(ゼロ)の時の電池特性を示すグラフであり、図2(b)~(e)は、それぞれ、サイクル数250、500、750、1000の順で電池特性を示すグラフである。耐久試験に使用した二次電池2は、本実施形態に係るシステムに含まれる電池と同様に、負極にグラファイトを使用し電解液を含んだリチウムイオン電池である。ただし、耐久試験に使用した二次電池2は、初期状態で電解液量を少なくした電池であって、図2の電池特性を得るにあたって、電解液量が減少する影響が出やすい電池を試作して使用している。なお、以下の説明において、二次電池2の放電容量の変化量に対する二次電池2の電圧の変化量の割合を、単にdV/dQとも称すこととする。
【0020】
二次電池2の負極にグラファイトを使用した場合には、電池の充放電中、ステージ構造が切り替わったときに負極の電位が変動する。そして、この電位変動が、dV/dQのピークとして表れる。二次電池2の初期状態(サイクル数=0)では、図2(а)に示すように、放電容量が13.3mAhと30.2mAhの時に、dV/dQのピークが表れている。図2(b)~図2(d)に示すように、二次電池2のサイクル数が250、500、750である場合も、dV/dQのピークが表れている。そして、dV/dQのピーク間の放電容量の差は、初期状態(サイクル数=0)では、Δ16.9[mAh](=30.2‐13.3)である。また、二次電池2のサイクル数が250、500、750である場合に、dV/dQのピーク間の放電容量の差は、Δ16.0[mAh](=27.2‐11.2)、Δ15.6[mAh](=25.3‐9.7)、Δ14.8[mAh](=23.6‐8.8)である。つまり、サイクル数が増加し、電池容量が低下すると、dV/dQのピーク間の放電容量の差は徐々に減少する。すなわち、dV/dQのピーク間の放電容量の差に相当する間隔(以下、単にピーク間容量とも称す)が徐々に狭くなっている。そして、サイクル数が、さらに増加し、1000サイクルになると、図2(e)に示すように、dV/dQのピークはなくなる。
【0021】
発明者の知見によると、図2(а)~(e)に示すような電池特性の変化は、次のように説明できる。サイクル数の増加に伴う電池容量の低下は、主には負極と電解液の界面に主に充電時に形成される被膜(Solid Electrolyte Interphase:SEI)により、リチウムの稼働が減少することで生じる。そして、dV/dQのピーク形状がブロードになるのは電解液量の減少によって電極内のSOCに分布がつくことで発生すると考えられる。また、ピーク間容量が低下するのは、電解液量の減少によって電極内の一部の活物質が孤立することで発生すると考えられる。
【0022】
ピーク間容量が狭くなった二次電池2に対して、電解液を再注入すると、ピーク間容量は初期状態に近い状態となり、dV/dQのピーク形状も初期状態に近い状態となる。この点から、図2(а)~図2(e)に示すような電池特性の変化の起因は電解液量の減少であることが、確認できる。
【0023】
また発明者の知見によると、電解液量が減少しているか否かを判定することで、電池容量が大きく低下することを事前に検知できる理由は、以下のように説明できる。電解液量が減少していくと、電極内では一部の活物質が孤立する。活物質への経路が細くても残ってさえいれば、充放電は可能なため、電池容量の大きな低下は発生していない。そして、電解液量の減少が更に進行して多くの活物質に繋がる経路が完全に途切れると、電池容量が大きく低下する。dV/dQの電池特性において、電解液量の減少を起因として一部の活物質が孤立したことは、ピーク間容量に反映される。また、一部の活物質が孤立した場合に、充放電に寄与しない活物質の分だけ電極の容量が小さくなるため、dV/dQの電池特性は左右方向(図2の横軸に沿う方向)に縮小する。その結果、ピーク間容量が縮小する。また、dV/dQの電池特性において、電解液量の減少を起因として、活物質への経路が細くなりSOC分布がつくと、dV/dQのピーク形状がブロードになる。そのため、ピーク間容量に基づき、電解液量が減少しているか否かを判定でき、また電解液量が減少しているか否かを判定することで、電池容量が大きく低下することを事前に検知できる。
【0024】
すなわち、dV/dQのピークで表される電池特性の変化から、二次電池2の電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を起因として電池容量が大きく低下する可能性があることを検知できる。本実施形態は、このような電池特性を用いて、電解液量の減少を判定し、電解液量の減少を起因として二次電池2の容量が大きく低下する可能性があることを事前に検知するものであり、図1に示す判定装置1に含まれるコントローラ10は、dV/dQのピークを複数特定し、特定された複数のピーク間の充電状態の差と所定の判定閾値とを比較することで、二次電池の電解液量が減少しているか否かを判定している。
【0025】
ここで、dV/dQとdV/dSOCについて説明する。dV/dSOCは、二次電池2の充電状態の変化量に対する二次電池2の電圧の変化量の割合を示している。電池容量の大きさによって二次電池2のセル電圧(端子間電圧)と電荷量の関係が変わる。例えば、ある二次電池2に対して、電池容量が10倍である電池と比較した場合に、セル電圧を同じにするためには、電池容量10倍の電池を10倍充電する必要がある。一方、充電状態は、電池容量に対する現在の電荷量(残充電容量)の割合で表される。そこで、本実施形態では、電池容量の異なる電池で電池特性を共通化するために、dV/dSOCが用いられている。なお、dV/dQのピークと同じように、電池の充放電中に、dV/dSOCのピークが表れる。また、電解液が減少し、電池容量が低下すると、dV/dSOCのピーク形状は変化し、dV/dSOCのピーク間のSOCの差は徐々に低下する。
【0026】
コントローラ10によるdV/dSOC(dV/dQ)のピーク間の充電状態の差の演算方法について、説明する。コントローラ10は、二次電池2が満充電の状態又は満充電に近い状態から、二次電池2を放電する。コントローラ10は、二次電池2の放電中、電圧センサ11及び/又は電流センサ12から検出値を取得し、検出値に基づき二次電池2の充電状態を演算する。コントローラ10は、二次電池2の放電電流を積算し、二次電池2の電池容量(満充電時の容量)から電流積算値を減算することで、二次電池2の現在の電荷量を演算する。そして、コントローラ10は、現在の電荷量(Q)を二次電池2の電池容量で割ることで、充電状態を演算する。コントローラ10は、所定の制御周期に合わせて、二次電池2のセル電圧の測定と、SOCの演算を行っている。
【0027】
次に、コントローラ10は、制御周期に合わせて、下記式(1)によりdV/dSOCを演算する。
【数1】
ただし、tは時間を示し、t-1は、時間(t)に対して1制御周期前の時間を表す。
【0028】
コントローラ10は、ノイズの影響をより抑えるために、複数の測定点を用いて近似直線の傾きからdV/dSOCを演算してもよい。コントローラ10は、下記式(2)を用いて、最小二乗法により傾きを求めることで、dV/dSOCを演算してもよい。
【数2】
なお、nはノイズの影響や測定精度等に合わせて実験的に設定すればよい。
【0029】
なお、充電状態は、SOC-OCV(開放電圧)の特性を利用して演算することも可能であるが、SOC-OCVの特性から演算した充電状態の変化が制御周期に対して小さい場合には、電流積算等を利用して、充電状態を求めればよい。
【0030】
コントローラ10は、二次電池2の放電中、制御周期に合わせてdV/dSOCを演算する。コントローラ10は、充電状態とdV/dSOCから得られる電池特性(以下、SOCに対するdV/dSOCで表すことができる電池特性を、dV/dSOC電池特性とも称す)を演算する。図3は、dV/dSOC電池特性を示すグラフである。図3の縦軸はdV/dSOCを示し、横軸は放電深度(Depth of Discharge:DOD)を示している。なお、図3の例では、放電終了時の放電深度が100%未満になっているが、横軸のDODは、初期状態の電池容量を基準としてSOCに換算した値で表しているため、放電終了時の放電深度は電池の劣化分だけ100%より低い値になっている。
【0031】
コントローラ10は、演算により、時系列で得たdV/dSOC-SOCのデータを用いて、図3に示すようなdV/dSOC電池特性を取得する。図3に示すように、dV/dSOC電池特性は、dV/dSOCのピークを含み、ピークの値を頂点とした急峻な形のグラフで表される。図3の例では、dV/dSOCのピークが2つあるため、dV/dSOC電池特性は、dV/dSOCのピークを頂点とした2つの凸形状となっている。コントローラ10は、dV/dSOC電池特性を取得した後、dV/dSOCのピークを複数特定する。コントローラ10は、dV/dSOCのピークを特定するために、二次電池2の放電中、制御周期あたりのdV/dSOCの変化量を演算して、dV/dSOCが増加している区間、dV/dSOCが減少している区間を特定する。なお、図3に示すように、dV/dSOCが短時間で増減を繰り返しながら推移する場合には、所定時間あたりのdV/dSOCの平均値を用いて、dV/dSOCの変化量を演算すればよい。そして、コントローラ10はdV/dSOCが増加から減少に反転した点の値を、dV/dSOCのピークとして特定する。なお、dV/dSOCのピークを特定する方法は、他の方法でもよい。また、コントローラ10は、必ずしも放電開始から終了までのdV/dSOC電池特性を得る必要はなく、dV/dSOCの演算中に、dV/dSOCの変化量を時系列で演算し、演算結果に基づいて、dV/dSOCのピークを特定してもよい。
【0032】
次に、コントローラ10は、図3に示すようなdV/dSOC電池特性において、dV/dSOCの複数のピーク間の充電状態の差(以下、単にピーク間SOCと称す)を演算する。図3の例では、コントローラ10は、頂点PをとるdV/dSOCのピークと、頂点PをとるdV/dSOCのピークをそれぞれ特定し、頂点PにおけるDODと、頂点PにおけるDODとの差(ΔDOD=DOD-DOD)を、ピーク間SOCとして演算する。
【0033】
コントローラ10は、ピーク間SOCを演算した後、演算されたピーク間SOCと所定の判定閾値とを比較し、比較結果に応じて、二次電池2の電解液量が減少しているか否かを判定する。演算されたピーク間SOCが所定の判定閾値以下である場合には、コントローラ10は、電解液量が減少していると判定する。演算されたピーク間SOCが所定の判定閾値より高い場合には、コントローラ10は電解液量が減少していないと判定する。
【0034】
図4及び図5を参照し、判定閾値の設定方法について説明する。図4は、サイクル数に対するピーク間SOC(ΔSOC)の特性を示すグラフである。図4において、横軸はサイクル数を示し、縦軸はピーク間SOC(ΔSOC)を示す。
【0035】
ある二次電池2について、評価実験を行い、実験データから、初期状態から1000サイクルまで250サイクル毎に、dV/dSOC電池特性が得られ、dV/dSOC電池特性において、dV/dSOCのピークが複数特定されたとする。そして、250サイクル毎に観察しつつピーク間の充電状態の差を演算すると、ピーク間SOCは、図4に示すように推移する。
【0036】
初期状態の二次電池2では、ピーク間SOCは約46.7[%]となる。サイクル数が増えるとピーク間SOCは徐々に小さくなり、ピーク間SOCはサイクル数(250)で約45.0[%]となり、サイクル数(500)で約43.9[%]となり、サイクル数(750)で約43.1[%]となる。
【0037】
例えば、判定閾値が、43[%]から44[%]の間に設定された場合には、図4の例で用いた二次電池2のサイクル数が500~750程度を超えたときに、ピーク間SOC(ΔSOC)が判定閾値より低くなるため、コントローラ10は、電解液量が減少していると判定する。
【0038】
図5のグラフは、初期状態の二次電池2におけるピーク間SOC(以下、初期ピーク間SOCとも称す)を100%とした時に、初期ピーク間SOCに対するピーク間SOCの割合を、250サイクル毎に示したものである。
【0039】
初期ピーク間SOCに対するdV/dSOCのピーク間SOCの割合は、サイクル数の増加に伴い、徐々に小さくなる。判定閾値は、初期ピーク間SOCに対して92%以上から94%以下の範囲に設定されることが好ましい。図5において、初期ピーク間SOCに対して92%以上から94%以上の範囲は、点線Tth_L以上で点線Tth_H以下の範囲である。判定閾値が初期ピーク間SOCに対して92%以上から94%以上の範囲に設定された場合には、二次電池2のサイクル数が500~750程度を超えたときに、dV/dSOCのピーク間SOCが判定閾値より低くなるため、コントローラ10は、電解液量が減少していると判定する。
【0040】
図6を参照し、二次電池2の電解液量の減少を判定するための判定フローを説明する。図6に示す制御フローは、オフボード時に、電解液量の減少があるか否かを判定するための制御フローである。コントローラ10は、任意のタイミングで電解液量が減少しているか否かを判定するための制御フローを実行できる。
【0041】
ステップS1にて、コントローラ10は、二次電池2が充電された状態で判定フローを終了させるか否か判定する。後述するように、電解液量の減少の判定は充電時も放電時も行うことができるため、例えば判定後の二次電池2のニーズに応じて、二次電池2が充電された状態で判定フローを終了させるか、二次電池2が放電された状態で判定フローを終了させるか、適宜、選択できる。例えば、判定終了後に二次電池2を使用する場合には、充電された状態で判定フローを終えた方が、すぐに二次電池2を使用できる。一方、判定終了後に二次電池2を保管する場合には、放電された状態で保管した方が二次電池の劣化を抑制できる。判定終了後に二次電池2を充電された状態にするか放電された状態にするかの選択は、ユーザにより予め決められている。二次電池2が放電された状態で判定フローを終了させる場合には、ステップS1の判定フローは「NO」に進み、二次電池2が充電された状態で判定フローを終了させる場合には、ステップS1の判定フローは「YES」に進む。
【0042】
ステップS2にて、コントローラ10は、二次電池2を満充電になるまで充電する。ステップS3にて、コントローラ10は、2つ目のdV/dSOCのピークを計測するまで、第1放電Cレートで二次電池2を放電し、dV/dSOC電池特性を取得する。具体的には、以下の方法で、dV/dSOC電池特性を取得する。コントローラ10は、二次電池2が満充電の状態から放電を開始する。コントローラ10は、第1放電Cレートで二次電池2を放電する。第1放電Cレートについて、Cレートは高すぎると電池内でのSOCのばらつきが大きくなるため、dV/dSOCのピークを特定する際の演算精度が低くなる。逆に、Cレートは低すぎると判定に時間がかかる。そのため、第1放電Cレートは実験等で最適な値が設定され、例えば0.1C程度に設定すればよい。
【0043】
二次電池2の放電中、コントローラ10は、電圧センサ11及び電流センサ12で検出された、二次電池2の検出電圧及び検出電流を、所定の制御周期で取得する。コントローラ10は、電圧センサ11及び/又は電流センサ12の検出値に基づき、所定の制御周期で、二次電池2の電荷量及び充電状態を演算する。コントローラ10は、前回制御周期の時に演算された電荷量の前回値に、放電電流に1制御周期分の時間を乗算した値を加算することで、電荷量を演算する。なお、電荷量(Q)の初期値はゼロである。また、コントローラ10は、下記式(3)を用いて、充電状態を演算する。
【数3】
ただし、Qは二次電池2の電池容量(満充電時の電荷量)を示す。
【0044】
コントローラ10は、dV/dSOCを演算しつつ、各SOCに対するセル電圧(V)の値をそれぞれメモリに保存する。また、コントローラ10は、dV/dSOCの演算結果からdV/dSOCのピークを特定する。コントローラ10は、dV/dSOCの演算結果から、2つの目のdV/dSOCのピークを特定できた場合に、dV/dSOCの演算等の処理を停止する。これにより、dV/dSOC電池特性を取得できる。
【0045】
ステップS4にて、コントローラ10は、充電状態がゼロになるまで、第2放電Cレートで二次電池2を放電する。第2放電Cレートは第1放電Cレートよりも高いレートである。
【0046】
ステップS2の判定フローで「YES」に進んだ場合には、ステップS5にて、コントローラ10は、二次電池2の充電状態がゼロになるまで、二次電池2を放電する。ステップS6にて、コントローラ10は、2つ目のdV/dSOCのピークを計測するまで、第1充電Cレートで二次電池2を充電し、dV/dSOC電池特性を取得する。dV/dSOC電池特性を取得するための演算処理は、ステップS3の演算処理うち、充電状態の演算方法を二次電池2の充電に合わせて変更した上で、ステップS3の演算処理と同様にすればよい。なお、第1充電レートは、第1放電Cレートと同様に、dV/dSOCのピークを特定するために最適な値に設定され、例えば0.1C程度に設定すればよい。
【0047】
ステップS7にて、コントローラ10は、二次電池2を満充電になるまで、第2充電Cレートで二次電池2を充電する。第2充電Cレートは第1充電Cレートよりも高いレートである。
【0048】
ステップS4の制御フローの後、又は、ステップS7の制御フローの後、コントローラ10は、取得されたdV/dSOC電池特性からピーク間SOCを演算し、ピーク間SOCと判定閾値を比較する(ステップS8)。ピーク間SOCが判定閾値より高い場合には、ステップS9にて、コントローラ10は電解液量の減少無しと判定する。ピーク間SOCが判定閾値以下である場合には、ステップS10にて、コントローラ10は、電解液量の減少有りと判定する。そして、ステップS8の判定フローは二次電池2の電池容量が大きく低下する前に行われるため、コントローラ10は、二次電池2の電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を起因として電池容量が大きく低下する可能性があることを検知できる。
【0049】
ステップS11にて、コントローラ10は、二次電池2を保護するために制限制御を実行する。制限制御は、例えば、二次電池2の上限電圧を下げる、二次電池の下限電圧を上げる、充放電電流の上限値を下げる等である。なお、各種制限制御は、複数の制御を組み合わせてもよい。また、コントローラ10は、制限制御と合わせて、現在の電池の状態をユーザに通してもよい。ユーザへの通知は、例えば二次電池2の交換をユーザに要求するための通知である。そして、コントローラ10は、図6に示す制御フローを終了する。
【0050】
ここで、第1放電Cレートと第2放電Cレートについて、図3を参照して、説明する。二次電池2の放電中に、dV/dSOC電池特性を取得する際には、二次電池が満充電の状態から放電を開始する。二次電池2は第1放電Cレートで充電される。dV/dSOC電池特性は、DODの低い側からDODの高い側に向かってプロットされる。二次電池2の放電中、放電深度が、DODになった時に、1つ目のdV/dSOCのピークが特定される。さらに、二次電池2の放電が進み、放電深度が、DODになった時に、2つ目のdV/dSOCのピークが特定される。そして、2つ目のdV/dSOCのピークが特定された後、二次電池20は第2放電レートで放電される。つまり、ピーク間SOCを取得するために必要なDODの範囲では、放電電流が抑制され、それ以外の範囲では放電電流は抑制されない。これにより、判定時間を短縮化できる。
【0051】
また第1充電Cレートと第2充電Cレートについて、図3を参照して、説明する。なお、図3の横軸は放電深度(DOD)で表されているが、充電状態(SOC)に置き換えた上で説明する(例えば、DOD70%はSOC30%に対応する)。二次電池2の充電状態がゼロである状態から充電を開始する。二次電池2は第1充電Cレートで放電される。dV/dSOC電池特性は、SOCの低い側(図3では、高DOD側)からSOCの高い側(図3では、低DOD側)に向かってプロットされる。二次電池2の充電中、充電状態が、DODに対応するSOCになった時に、1つ目のdV/dSOCのピークが特定される。さらに、二次電池2の充電が進み、充電状態が、DODに対応するSOCになった時に、2つ目のdV/dSOCのピークが特定される。そして、2つ目のdV/dSOCのピークが特定された後、二次電池20は第2充電レートで充電される。つまり、ピーク間SOCを取得するために必要な充電状態の範囲では、充電電流が抑制され、それ以外の範囲では充電電流は抑制されない。これにより、判定時間を短縮化できる。
【0052】
次に、図7を参照し、オンボード時に、電解液量の減少があるか否かを判定するための制御フローを説明する。
【0053】
ステップS71にて、コントローラ10は、電圧センサ11及び電流センサ12を用いて、二次電池2の電圧と電流を測定する。ステップS72にて、コントローラ10は二次電池2の充電状態(SOC)を演算する。コントローラ10は、二次電池2の開放電圧と充電状態との相関性を示すマップを参照し、測定された電池電圧に対応する充電状態を演算する。また、コントローラ10は、電流積算から充電状態を演算してもよい。ステップS73にて、コントローラ10は、二次電池2が充電中であるか否か判定する。二次電池2が充電中ではない場合には、ステップS74にて、コントローラ10は電解液量が減少しているか否かの判定を行わずに、図7の制御フローを終了する。
【0054】
二次電池2の充電中である場合には、ステップS75にて、コントローラ10は、現在の充電状態が所定の充電状態未満であるか否かを判定する。dV/dSOC電池特性において、2つのdV/dSOCのピークを特定するためには、2つのdV/dSOCのピークのうち、低SOC側のピークが現れる充電状態よりも、低い充電状態から充電を開始する必要がある。そのため、本実施形態では、所定の充電状態は、低SOC側のピークが現れる充電状態よりも低い充電状態に設定されている。現在の充電状態が所定の充電状態以上である場合には、判定フローは「NO」に進む。
【0055】
現在の充電状態が所定の充電状態未満である場合には、ステップS76にて、コントローラ10は、車両の走行開始予定時刻までに、電解液量の減少があるか否かの判定フローを終了させることができるか否か判定する。走行開始予定時刻は、例えばユーザによるタイマー設定、又は、タイマー設定で車両走行前にエアーコンディショナーを動作させる時のエアーコンディショナーの動作終了時刻等で決まる。判定フローに必要な時間はCレートから演算で予測できる。例えば、充電Cレート(1C)でSOC(0%)からSOC(50%)まで充電する場合には、判定時間は30分となる。車両の走行開始予定時刻までに、判定フローを終了させることができない場合には、判定フローは「NO」に進む。
【0056】
車両の走行開始予定時刻までに、判定フローを終了させることができる場合には、ステップS77にて、コントローラ10は、電解液量の減少があるか否かの判定フローを開始し、dV/dSOC電池特性を取得する。dV/dSOC電池特性を取得の方法は、オフボード時、二次電池2の充電中に取得した方法、すなわち図6のステップS6における方法と同様である。電解液量の減少があるか否かを判定するためには、2つのdV/dSOCのピークを特定する必要がある。そのため、二次電池2の充電状態が、2つのdV/dSOCのピークのうち、高SOC側のピークが現れる充電状態よりも高い充電状態になるまで、dV/dSOC電池特性を取得する。
【0057】
ステップS78にて、コントローラ10は、dV/dSOC電池特性において、dV/dSOCのピークがあるか否かを判定する。図2(e)に示すように、充放電サイクルが多くなり、電解液量の減少を起因として電池容量が大きく低下すると、dV/dSOC電池特性において、dV/dSOCのピークがなくなる。このような場合には、判定フローは「YES」に進み、ステップS81の制御処理が実行される。
【0058】
dV/dSOCのピークがある場合には、ステップS79にて、コントローラ10は、dV/dSOC電池特性からピーク間SOCを演算し、ピーク間SOCと判定閾値を比較する。ピーク間SOCが判定閾値より高い場合には、ステップS80にて、コントローラ10は電解液量の減少無しと判定する。ピーク間SOCが判定閾値以下である場合には、ステップS81にて、コントローラ10は、電解液量の減少有りと判定する。そして、ステップS79の判定フローは二次電池2の電池容量が大きく低下する前に行われるため、コントローラ10は、二次電池2の電池容量が大きく低下する前に、電解液量の減少を起因として電池容量が大きく低下する可能性があることを検知できる。
【0059】
ステップS82にて、コントローラ10は、二次電池2を保護するために制限制御を実行する。制限制御は、ステップS9の制御処理における制限制御と同様である。また、コントローラ10は、制限制御と合わせて、現在の電池の状態をユーザに通してもよい。ユーザへの通知は、例えば二次電池2の交換をユーザに要求するための通知である。そして、コントローラ10は、図7に示す制御フローを終了する。
【0060】
なお、ステップS77にて、dV/dSOC電池特性を取得するために、二次電池2を充電する際には、オフボード時の充電と同様に、ピーク間SOCを取得するために必要な充電状態の範囲では、充電Cレートを低くし、それ以外の範囲では充電Cレートを高くしてもよい。
【0061】
上記のように本実施形態では、電圧センサ11及び/又は電流センサ12により検出された値に基づき二次電池2の充電状態を演算し、二次電池2の充電中又は放電中に、充電状態の変化量に対する二次電池の電圧の変化量の割合(dV/dSOC)と充電状態より得られる電池特性から、割合(dV/dSOC)のピークを複数特定し、特定された複数のピーク間の充電状態の差が所定値(判定閾値)以下である場合に、二次電池の電解液量が減少していると判定する。負極にグラファイトを用いる場合は、dV/dSOC電池特性において、dV/dSOCのピークが2つ現れる。このピークはどちらもグラファイトが特定の充電状態になった際の構造変化に起因するものなので、電解液量が減少して負極の活物質の一部が電池容量に寄与できなくなると、この二つのピーク間の容量も減少する。電池の主な劣化原因であるSEI等の被膜形成にLiが消費される場合ではピーク間容量は変わらないため電解液減少以外による容量劣化と区別して判定することができる。本実施形態では、このような二次電池2の性質を利用して、電解液量が減少しているか否かを判定している。これにより、電解液量が減少することで生じる二次電池の容量低下を、電池容量が大きく低下する前に検知できる。
【0062】
また本実施形態では、dV/dSOC電池特性は、充電状態の特定範囲内でピークを有し、コントローラ10は、充電状態が特定範囲外である場合には、二次電池の充電又は放電の電流を所定電流より高くする。例えば、ステップS3の制御フローにおいて、放電を開始して、2つ目のdV/dSOCのピークが特定されるまでのDODが特定範囲に相当する。また、例えば、ステップS6の制御フローにおいて、充電を開始して、2つ目のdV/dSOCのピークが特定されるまでの充電状態が特定範囲に相当する。これにより、必要なデータはピークの特定に使う部分だけなので、その部分だけ電流を小さく抑えてデータを取得すれば計測時間を短くできて、かつ必要なデータを取得することができる。
【0063】
また本実施形態では、コントローラ10は、判定結果の後の二次電池2の使用用途に応じて、判定時の充電と放電を切り替える。上記のとおり、電解液量の減少の判定は充電時でも放電時でも実施できるので、どちらを選ぶかを適宜、選択すればよい。これにより、判定後の使用用途に合わせて判定後の電池を充電状態にするか放電状態にするか選択することで、無駄な充放電を防止することができる。
【0064】
また本実施形態では、所定値(判定閾値)は、初期のピーク間充電状態の差に対して92%以上から94%以下の範囲内に設定されている。これにより、ノイズや個体ばらつきによる誤判定を防止し、電解液量の減少によって電池容量が大きく低下することを事前に検知できる。
【0065】
また本実施形態では、コントローラ10は、二次電池2の電解液量が減少していると判定した場合には、ユーザに対して、二次電池2の状態を通知する。電解液量が減少した場合は、電解液を注入するなど電池に加工を加える手段以外で、電池を回復させることは難しい。電解液が減少した場合には、特殊な電池を除けば基本的には別の電池と交換をすることになる。そのため、ユーザに二次電池2の状態を通知することで、電池容量が大きく低下する前に交換するように促すことができる。
【0066】
また本実施形態では、コントローラ10は、二次電池2の電解液量が減少していると判定した場合には、二次電池2の使用に制限を加えるための制限制御を実行する。これにより、電解液量が減少した場合に、これ以上の電解液量の減少を抑制するように電池の使用を制限できる。
【0067】
また本実施形態では、コントローラ10は、制限制御として、二次電池2の上限電圧を下げる、二次電池2の下限電圧を上げる、及び、充放電電流の上限値を下げる、のうち少なくともいずれか1つを実行する。電解液量が減少した場合は電極内の活物質が部分的に使用できない状態となっている。そのため、電池全体で想定している充電状態や電流と、実際の活物質の充電状態や活物質に流れる電流との間に、乖離が発生する。そこで、本実施形態のような二次電池20の使用に制限をかけることで、更なる電池の劣化や電解液消費を抑制できる。
【0068】
また本実施形態では、コントローラ10は、二次電池2の充電中に、二次電池2の電解液量が減少しているか否かを判定する。これにより、二次電池2の通常の充電に加えて、電解液量の減少の判定を合わせて行うことができるため、判定のためだけに二次電池2を充電又は放電することを防ぎ、判定の時間を別途設ける必要がない。
【0069】
≪第2実施形態≫
次に、第2実施形態に係る判定システムについて説明する。第2実施形態では、dV/dSOCピークが、負極に含まれるグラファイトを起因とした場合だけでなく、正極材料を起因として表れる場合に対応できるようなシステムになっている。なお、以下に説明する点において第1実施形態に係る判定システムと異なること以外は、第1実施形態と同様の構成を有し、第1実施形態と同様の制御を実施し、第1実施形態と同様に動作するものであって、第1実施形態の記載を適宜、援用する。
【0070】
図8は、SOCに対する各極の電圧の特性を示したグラフであり、(а)は正極特性を示し、(b)は負極特性を示す。縦軸は電圧を横軸はSOCを示す。なお、SOCを同じにして、図8(а)のグラフ上の正極電圧と、図8(b)のグラフ上の負極電圧との差が、二次電池2のセル電圧(端子間電圧)に相当する。
【0071】
図8(b)に示す電池特性のグラフと二次電池2のdV/dSOC電池特性のグラフを並べて図示したものが図9である。図9(а)は二次電池2のdV/dSOC電池特性を示し、図9(b)は、図8(b)に示す電池特性の高電圧側をカットしたグラフである。図9(а)の縦軸はdV/dQを示し、横軸はSOCを示す。図9のグラフのような電池特性をもつ二次電池2の正極は、図8(а)のグラフのような特性を有しており、負極は図8(b)のグラフのような特性を有している。
【0072】
図9に示すように、dV/dQピークをもつ充電状態と、負極電圧の変化点をもつ充電状態が対応している(図9の矢印で示された部分を参照)。すなわち、負極のグラファイトが特定の充電状態になった際の構造変化が、dV/dQピークに表れている。図9の例のように、dV/dQピークが、正極要因ではなく、負極に含まれるグラファイトを起因として表れるものであれば、特定されたdV/dQピークを用いて、電解液量の減少を判定すればよい。
【0073】
一方、負極のグラファイト起因としたdV/dQピークが、正極のピークと重なる場合には、判定対象となるdV/dSOCピークの選択によって、電解液量の減少の判定精度が低くなる可能性がある。
【0074】
図10は、二次電池2の放電曲線を示すグラフである。図10において、グラフаはセルの特性を、bはカソード(正極)の特性を、cはアノード(負極)を示す。図10の縦軸はdV/dQを示し、横軸はSOCを示す。なお、二次電池2はリチウムイオン電池であり、正極にはスピネル型マンガン酸リチウムと三元系層状岩塩型酸化物の混合系(0.25 Li1-xMn、0.75Li1-yNi0.5Co0.2Mn0.3)を使用し、負極にはグラファイトを使用している。
【0075】
図10を参照し、「A」と「C」は正極を起因としたピークであり、「B」と「D」は負極を起因としたピークとなる。図10の例では、「B」のピークは、両隣のピーク「A」及び「C」と近い。「D」のピークは、正極要因のピーク「A」及び「C」から離れたところに位置する。ピーク間SOCを演算する際に、「D」のピークは、正極要因のピーク「A」及び「C」から離れたところに位置するため問題なく使用できる。一方、「B」のピークは、正極要因のピーク「A」及び「C」に近い位置にあるため、「B」のピークを用いる際に、正極要因のピークと切り分けることができれば、「B」及び「D」のピークを用いて、ピーク間SOCを演算できる。正極要因のピークと切り分けることができなければ、「B」及び「D」のピークを用いて、ピーク間SOCを演算することは難しくなる。
【0076】
本実施形態に係る判定システムでは、dV/dSOC電池特性が正極要因のピークと、グラファイト要因のピークをそれぞれ含んでいる場合には、正極要因のピークを用いずに、グラファイト要因のピークを用いて、二次電池2の電解液量が減少しているか否かを判定する。これにより、正極要因のピークの影響で誤判定することを防止できる。
【0077】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【符号の説明】
【0078】
1…判定装置
2…二次電池
10…コントローラ
11…電圧センサ
12…電流センサ
13…DCDCコンバータ
14…ディスプレイ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10