(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】スピーカ
(51)【国際特許分類】
H04R 9/00 20060101AFI20240318BHJP
H04R 7/12 20060101ALI20240318BHJP
H04R 7/24 20060101ALI20240318BHJP
H04R 7/26 20060101ALI20240318BHJP
H04R 9/02 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H04R9/00 B
H04R7/12 Z
H04R7/24
H04R7/26
H04R9/02 102D
H04R9/02 103Z
(21)【出願番号】P 2020089026
(22)【出願日】2020-05-21
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亮
【審査官】中嶋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-078079(JP,A)
【文献】特開昭54-134416(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 9/00
H04R 7/12
H04R 7/24
H04R 7/26
H04R 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性の振動シートと、前記振動シートのシート表面で複数の細幅の導体層が平行に配置されたコイル領域と、前記コイル領域に磁界を与える磁界発生部と、が設けられたスピーカにおいて、
上面が前記振動シートに固定され前記上面とは逆側の下面が前記磁界発生部に固定された弾性変形可能な支持部材が設けられ、
前記磁界発生部に、一対の磁気ギャップが間隔を空けて設けられて、前記振動シートのシート表面に、一対の前記コイル領域が間隔を空けて設けられ、
前記振動シートが曲げられて、それぞれの前記コイル領域がそれぞれの前記磁気ギャップ内に挿入されて、前記振動シートは、
前記磁界発生部上で前記支持部材
のみによって振動自在に支持されており、
それぞれの前記コイル領域に作用する駆動力によって、前記振動シートが振動させられることを特徴とするスピーカ。
【請求項2】
前記磁界発生部に、一対の前記磁気ギャップが互いに平行に延びており、
前記支持部材の前記上面が、一方の前記磁気ギャップから他方の前記磁気ギャップに向く方向にのみ突状に湾曲し、自由状態で平坦な前記振動シート
が、前記上面に接着固定されて、一方の前記コイル領域から他方の前記コイル領域に向く方向
にのみ湾曲している請求項1記載のスピーカ。
【請求項3】
前記支持部材
が、発泡材料で形成されて
いる請求項1または2記載のスピーカ。
【請求項4】
前記振動シートの内面と前記支持部材との間に
、複数の空隙部が
、前記磁気ギャップの延びる方向へ間隔を空けて設けられている
請求項2記載のスピーカ。
【請求項5】
前記振動シートは平面形状が長方形であり、前記コイル領域が前記振動シートのそれぞれの長辺に沿って設けられ、一対の前記コイル領域の両端部どうしを繋ぐ配線領域が短辺に沿って設けられており、
前記導体層は、一方の前記コイル領域から一方の前記配線領域を通過し、その後他方の前記コイル領域から他方の前記配線領域を通過するように、四角形の螺旋状に形成されている
請求項2または4記載のスピーカ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可撓性の振動シートを振動させて音圧を発生するスピーカに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、可撓性樹脂シートで形成された振動板を備えた電磁変換器に関する発明が記載されている。
この電磁変換器は、振動板が熱可塑性樹脂シートで形成されている。
図6と
図7に示されるように、振動板は、前記熱可塑性樹脂シートを熱プレス成形したものであり、天面および天面の4辺から垂れ下がる4側面を有する立体構造とされて剛性が高められている。熱可塑性樹脂シートの表面の導体箔がエッチングされて、振動板の長手方向の2つの側面にボイスコイルパターンが形成されている。
【0003】
電磁変換器は、上部フレームと下部フレームを有し、下部フレームの底部上面に永久磁石が固定され、永久磁石の上にプレートが固定されて磁気回路が構成されている。上部フレームの上に上側ガスケットが固定され、下部フレームの内側に下側ガスケットが固定されている。振動板は、ボイスコイルパターンを有する側面が、磁気回路のプレートと下部フレームの間に位置している。振動板を囲む枠形状のエッジが設けられて、振動板がこのエッジを介して上側ガスケットに支持されている。エッジよりも下側に、振動板を囲む枠形状のダンパが設けられ、振動板がこのダンパを介して下側ガスケットに支持されている。
【0004】
この電磁変換器は、2つの側面に設けられたボイスコイルパターンに電流が与えられると、磁気回路においてプレートと下部フレームとの開口部においてボイスコイルパターンを横断する磁束と、ボイスコイルパターンに流れる電流とで、駆動力が発生する。この駆動力によって、エッジとダンパが変形して立体構造の振動板が上下にピストン運動し、音圧を発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された電磁変換器は、立体構造の振動板が、その外側に位置する枠形状のエッジとダンパとで上下にピストン運動できるように支持されているが、この枠形状のエッジとダンパを設けることにより、電磁変換器の平面形状が大きくなっている。そのため、例えば自動車のフロントピラー内などの狭い場所に設置するのが困難である。
【0007】
また、振動板は熱プレスによって立体構造に成形されて、振動板は変形すること無くその全体がピストン運動して音圧が発生する。この構造では、音圧の周波数特性が、ほぼ剛体である振動板の全体としてのピストン運動の振動特性にのみ依存することになり、広い周波数帯域で発音させるのが困難である。
【0008】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、全体を小型または細い形に構成でき、また振動シートが柔軟に変形して発音動作を行うことができるスピーカを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、可撓性の振動シートと、前記振動シートのシート表面で複数の細幅の導体層が平行に配置されたコイル領域と、前記コイル領域に磁界を与える磁界発生部と、が設けられたスピーカにおいて、
上面が前記振動シートに固定され前記上面とは逆側の下面が前記磁界発生部に固定された弾性変形可能な支持部材が設けられ、
前記磁界発生部に、一対の磁気ギャップが間隔を空けて設けられて、前記振動シートのシート表面に、一対の前記コイル領域が間隔を空けて設けられ、
前記振動シートが曲げられて、それぞれの前記コイル領域がそれぞれの前記磁気ギャップ内に挿入されて、前記振動シートは、前記磁界発生部上で前記支持部材のみによって振動自在に支持されており、
それぞれの前記コイル領域に作用する駆動力によって、前記振動シートが振動させられることを特徴とするものである。
【0010】
本発明のスピーカは、前記磁界発生部に、一対の前記磁気ギャップが互いに平行に延びており、
前記支持部材の前記上面が、一方の前記磁気ギャップから他方の前記磁気ギャップに向く方向にのみ突状に湾曲し、自由状態で平坦な前記振動シートが、前記上面に接着固定されて、一方の前記コイル領域から他方の前記コイル領域に向く方向にのみ湾曲しているものとして構成できる。
【0011】
本発明のスピーカは、前記支持部材が、発泡材料で形成されていることが好ましい。
【0012】
さらに本発明のスピーカは、前記振動シートの内面と前記支持部材との間に空隙部が設けられていることが好ましい。
【0013】
本発明のスピーカは、前記振動シートの平面形状が長方形であり、前記コイル領域が前記振動シートのそれぞれの長辺に沿って設けられ、一対の前記コイル領域の両端部どうしを繋ぐ配線領域が短辺に沿って設けられており、
前記導体層は、一方の前記コイル領域から一方の前記配線領域を通過し、その後他方の前記コイル領域から他方の前記配線領域を通過するように、四角形の螺旋状に形成されているものとして構成できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のスピーカは、振動シートが曲げられて、一対のコイル領域が一対の磁気ギャップ内に挿入されている。振動シートは一対のコイル領域の間で支持部材によって支持されているため、スピーカ全体の平面形状を小さくでき、例えば細長く形成して、自動車のフロントピラーの内部に配置したり、電子機器の狭い領域内に配置することなどが可能になる。
【0015】
また、湾曲した振動シートの両側部に振動力が作用するため、振動シートは全体が振動すると共に振動シート自体が変形して振動することも可能になる。そのため、振動シートの共振周波数が限定されることなく広い周波数領域で振動して音圧を発生することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図1に示したスピーカを長手方向に延びる切断面で切断した断面図、
【
図3】
図1に示したスピーカを横方向に延びる切断面で切断した断面図、
【
図4】
図1に示したスピーカの振動シートを展開した状態で示す平面図、
【
図5】振動シートのコイル領域と配線領域での細幅の導体層の配線構造を示す模式図、
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態のスピーカ1は、Y1-Y2方向が縦方向で長手方向、X1-X2方向が横方向で左右方向、Z1-Z2方向が上下方向である。
図1ないし
図3に示されるスピーカ1は、磁界発生部10と振動シート20および支持部材30で構成されている。
【0018】
図1と
図2に示されるように、磁界発生部10は、下から上に向かって、下部ヨーク11と磁石12および上部ヨーク13が重ねられて構成されている。下部ヨーク11は、左側(X1側)に左側壁11aが上方に向けられて形成され、右側(X2側)に右側壁11bが上方に向けられて形成されている。下部ヨーク11の左側壁11aと、上部ヨーク13の左端面13aとの対向部に磁気ギャップG1が形成され、下部ヨーク11の右側壁11bと、上部ヨーク13の右端面13bとの間に磁気ギャップG2が形成されている。
【0019】
図1と
図2に示されるように、スピーカ1および磁界発生部10は、X1-X2方向の幅寸法よりもY1-Y2方向の長さ寸法が十分に大きい長尺の長方形状である。磁気ギャップG1と磁気ギャップG2は、内幅寸法が微小なギャップ空間が共にY-Z平面に沿って延びている。すなわち、前記左側壁11aの対向面と左端面13aはY-Z平面と平行で、前記右側壁11bの対向面と右端面13bもY-Z平面と平行である。また、磁気ギャップG1と磁気ギャップG2は、ギャップ空間が互いに平行でY1-Y2方向に延びている。
【0020】
図3に示されるように、左側の磁気ギャップG1を横断する磁束f1の向きと、右側の磁気ギャップG2を横断する磁束f2の向きは、幅方向(X1-X2方向)において、互いに相反する向きである。
【0021】
図4に示されるように、振動シート20は自由状態では平坦である。振動シート20は長方形であり、Y1-Y2方向に延びて互いに平行な長辺20a,20bと、X1-X2方向に延びて互いに平行な短辺20c、20dを有している。振動シート20は、長方形の外観を形成するシート基材21を有している。シート基材21は、ポリイミド樹脂やPET樹脂で形成された可撓性で弾性を有する樹脂シートである。振動シート20は、シート基材21の表面に金属膜として銅箔層が積層されたいわゆるフレキシブル回路基板(FPC)で構成されている。
【0022】
図4には、振動シート20の上側(Z1側)に向く表面が現れている。振動シート20の上側の表面では、この表面に設けられた金属膜である銅箔層がエッチングで残されて、コイル領域22a,22bと配線領域23a,23bおよび補強領域24が設けられている。コイル領域22aは振動シート20の長辺20aに沿って延び、コイル領域22bは長辺20bに沿って延びている。配線領域23aは、コイル領域22a,22bのY1側の端部を繋いでおり、配線領域23aは短辺20cに沿って延び、配線領域23bは短辺20dに沿って延びている。
【0023】
コイル領域22a,22bと配線領域23a,23bには、銅箔層がエッチングで残された細幅の線状の導体層25が形成されている。
図5には、コイル領域22a,22bと配線領域23a,23bでの導体層25の螺旋状の配線構造が模式的に示されている。
図4と
図5に示されるように、シート基材21の表面には端子部26,27が形成されている。導体層25の配線構造を、端子部26を起点として説明すると、導体層25は、端子部26から右側(X2側)のコイル領域22bにおいて長辺20bと平行にY2方向に延び、その後に配線領域23bにおいて短辺20dに沿ってX1方向へ直線的に延びる。さらに、コイル領域22aにおいて長辺20aに沿ってY1方向に直線的に延び、その後、配線領域23aにおいて短辺20cに沿ってX2方向へ直線的に延びる。そして、最内周の導体層25が端子部27に至る。
【0024】
コイル領域22a,22bと配線領域23a,23bにおいて、細幅で線状の導体層25が四角形の螺旋形状に周回している。
図5に示される模式図では、導体層25の螺旋が3ターンであるが、実際には、多くのターン数となるように周回している。コイル領域22a,22bと配線領域23a,23bでは、複数の細幅の導体層が直線的に平行に延びている。コイル領域22aを通過する多数本の導体層25と、コイル領域22bを通過する多数本の導体層25とがボイスコイルとして機能する。
【0025】
コイル領域22a,22bと配線領域23a,23bは、シート基材21の片側のシート表面のみに形成されていてもよいし、両側のシート表面に形成されていてもよい。コイル領域22a,22bと配線領域23a,23bが、シート基材21の両側のシート表面に形成される場合には、例えば、端子部27を介して、表裏両面の導体層25が直列に接続される。表裏両面の導体層25にボイス電流が与えられると、長辺20aに沿う表裏両面のコイル領域22aで電流が同じ方向に流れ、長辺20bに沿う表裏両面のコイル領域22bで電流が同じ方向に流れる。また、長辺20aに沿うコイル領域22aと長辺20bに沿うコイル領域22bとでは、電流方向がY1-Y2方向において互いに逆向きである。
【0026】
図4に示されるように、振動シート20のZ1側の表面では、コイル領域22a,22bと配線領域23a,23bで囲まれた補強領域24に銅箔層の一部が残されている。この補強領域24を設けることで、振動シート20の全体の剛性を高め、振動を広い範囲に伝搬できるようになる。なお、補強領域24は、振動シート20の一方のシート表面にのみ設けられていてもよいし、両側のシート表面に設けられていてもよい。
【0027】
自由状態の振動シート20は、
図4に示される平面状態を維持する。
図1と
図3に示されるように、振動シート20は、幅方向(X1-X2方向)のみが曲率方向となるように弾性的に湾曲させられて、コイル領域22aが磁界発生部10のX1側の磁気ギャップG1内に挿入され、コイル領域22bがX2側の磁気ギャップG2内に挿入されている。磁気ギャップG1,G2内には磁気粘性流体やグリスなどの粘性流体が介在している。これら粘性流体の存在により、コイル領域22a,22bに設けられた導体層25が、下部ヨーク11の左側壁11aの内面や右側壁11bの内面、または上部ヨーク13の左端面13aや右端面13bに擦れて損傷するのを防止できるようになっている。
【0028】
振動シート20は、X1側のコイル領域22aとX2側のコイル領域22bとの間で、支持部材30によって支持されている。この支持部材30の支持構造により、振動シート20が、磁界発生部10からZ1方向へ離れないように支持され、コイル領域22a,22bが磁気ギャップG1,G2内から抜け出ないようになっている。支持部材30は、体積が収縮する方向と拡張する方向とへ弾性変形可能であり、天然ゴムや合成ゴムなどのゴム材料、発泡ニトリルゴムなどの発泡ゴム材料、または発泡ポリウレタンなどの発泡樹脂材料で形成されている。
【0029】
図1と
図2および
図3に示されるように、支持部材30は、磁界発生部10を構成している上部ヨーク13の上面13cと、振動シート20の磁界発生部10に向く内面20eとの間に位置している。支持部材30は、上部ヨーク13の上面13cと振動シート20の内面20eのそれぞれに接着されて固定されている。なお、磁界発生部10の上面すなわち上部ヨーク13の上面13cの上に磁性材料や非磁性材料の追加部材が固定されており、この追加部材の上面に支持部材30が接着されて固定されていてもよい。
【0030】
図1と
図3に示されるように、支持部材30の上面31は、幅方向(X1-X2方向)にのみ曲率を有する湾曲面であり、この湾曲面は、円筒面の一部にほぼ一致している。
図3の断面図においては、上面31aが、ほぼ円弧軌跡に沿う形状である。振動シート20を磁界発生部10に組み付けるときには、まず、振動シート20を湾曲させて、振動シート20の内面20eに支持部材30の上面31を接着固定し、振動シート20を湾曲形状に維持できるようにする。その後、振動シート20のコイル領域22aを磁気ギャップG1に挿入し、コイル領域22bを磁気ギャップG2に挿入して、磁界発生部10の上面に支持部材30を接着固定する。このように組立てることで、剛性と弾性を有する振動シート20を、湾曲形状に維持させながら、磁界発生部10に容易に組み込むことができる。
【0031】
図2に示されるように、振動シート20の内面20eと支持部材30との間に空隙部32が形成されている。空隙部32は、縦方向(Y1-Y2方向)に間隔を空けて複数個所に形成されている。空隙部32の数は、支持部材30の縦方向(Y1-Y2方向)の長さに応じて決められ、空隙部32は最少で1か所である。振動シート20のY1側の端辺28と磁界発生部10との間には空隙部が形成されておらず、端辺28と磁界発生部10との間には、支持部材30の端壁部33が設けられている。また、振動シート20のY2側の端辺29と磁界発生部10との間にも空隙部が形成されておらず、端辺29と磁界発生部10との間には、支持部材30の端壁部34が設けられている。すなわち、振動シート20の内面20eと支持部材30との間に形成される空隙部32は、Y1方向とY2方向に向けて解放されておらず、スピーカ1のY1方向の端部とY2側の端部で、前記空隙部32が塞がれている。
【0032】
次に、スピーカ1の発音動作を説明する。
図3に示されるように、磁界発生部10では、X1側の磁気ギャップG1では、上部ヨーク13の左端面13aと下部ヨーク11の左側壁11aとの間を磁束f1が横断し、X2側の磁気ギャップG2では、上部ヨーク13の右端面13bと下部ヨーク11の右側壁11bとの間を磁束f2が横断する。磁束f1と磁束f2は幅方向(X1-X2方向)で互いに逆向きである。振動シート20のX1側のコイル領域22aとX2側のコイル領域22bでは、ボイス電流がY1-Y2方向において互いに逆向きに流れる。X1側のコイル領域22aの導体層25を流れるボイス電流と前記磁束f1とによって、コイル領域22aにZ1-Z2への振動力F1が作用し、X2側のコイル領域22bの導体層25を流れるボイス電流と前記磁束f2とによって、コイル領域22bにZ1-Z2への振動力F2が作用する。ボイス電流によってX1側に作用する振動力F1と、X2側に作用する振動力F2は、常にZ1-Z2方向で同じ向きに作用する。
【0033】
前記振動力F1,F2によって、湾曲している振動シート20は全体がZ1-Z2方向へ移動するように振動する。さらに、振動シート20は可撓性シートであり、その湾曲方向の曲率がX1-X2方向のみであるため、前記振動力F1,F2によって、振動シート20が波打ち変形するなどシート自体の撓みが発生する。振動シート20の全体としてのZ1―Z2方向への移動振動と、振動シート20の多様で多次の変形振動とにより、振動シート20が振動するときの固有振動数が多様に且つ広範囲に点在することになる。そのため、スピーカ1で発音できる音圧の周波数帯域を広くでき、高音域だけでなく中音域でも大きな音圧で発音できるようになる。
【0034】
振動シート20が振動するときに、振動シート20と磁界発生部10との間の支持部材30が弾性変形する。そのため、振動シート20は、湾曲形状を維持し、コイル領域22a,22bが磁気ギャップG1,G2内に挿入された状態を維持したまま、振動することができる。支持部材30が発泡材料で形成されていると、支持部材30が柔軟に変形することができる。
【0035】
図2に示されるように、実施形態のスピーカ1は、支持部材30に空隙部32が形成されている。この空隙部32の存在により、振動シート20の振動によって、振動シート20と磁界発生部10との間に発生する背圧が、空隙部32の空間圧力の変化として吸収されることになり、振動シート20の振動に対する抵抗力を軽減できる。また、振動シート20の端辺28,29と磁界発生部10との間に、支持部材30の端壁部33,34が配置されているので、背圧がY1-Y2方向の外部に逃げにくい。
【0036】
スピーカ1は、平面形状が、磁界発生部10の下部ヨークのX1-X2方向の幅寸法と、Y1-Y2方向の縦方向の範囲で決められるため、小型である。実施形態のスピーカ1は、X1-X2方向の幅寸法が小さく、Y1-Y2方向の寸法が長く、細長い形状であるので、例えば自動車のフロントピラーの内部に設置でき、また電子機器の狭い範囲内にスピーカ1を配置することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 スピーカ
10 磁界発生部
11 下部ヨーク
12 磁石
13 上部ヨーク
20 振動シート
20e 内面
21 シート基材
22a,22b コイル領域
23a,23b 配線領域
25 導体層
30 支持部材
32 空隙部
G1,G2 磁気ギャップ