(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】コンクリートの劣化の診断または予測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20240318BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20240318BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20240318BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20240318BHJP
G01N 21/88 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
G01N33/38
G06N20/00
G06T7/00 350B
G06T7/00 610C
G01N17/00
G01N21/88 J
(21)【出願番号】P 2020089349
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2023-04-14
(31)【優先権主張番号】P 2019133998
(32)【優先日】2019-07-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第74回セメント技術大会 講演要旨 2020、発行日:2020年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103539
【氏名又は名称】衡田 直行
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100162145
【氏名又は名称】村地 俊弥
(72)【発明者】
【氏名】小池 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】落合 昴雄
(72)【発明者】
【氏名】工藤 正智
(72)【発明者】
【氏名】早野 博幸
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-155023(JP,A)
【文献】特開2016-065809(JP,A)
【文献】特開2019-074339(JP,A)
【文献】特開2012-002617(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0249788(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(A)
~(C)、(d-1)~(d-5)、及び(E)を行うことで、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成することを特徴とするコンクリートの劣化の予測モデル作成方法。
(A) 学習用サンプルとして、コンクリート試験体を作製する、試験体作製工程
(B) 上記試験体の表面の初期画像を取得する、試験体の初期画像取得工程
(C) 表面ひずみが顕在化した上記試験体の表面の表面ひずみ画像を取得する、試験体の表面ひずみ画像取得工程
(d-1) デジタル画像相関法を用いて、上記初期画像及び上記表面ひずみ画像から、上記試験体の表面の各座標におけるひずみ数値を算出して、複数のひずみ数値データを得る、ひずみ数値データ作成工程
(d-2) 工程(d-1)で得られた複数のひずみ数値データを、ひずみ数値に基づいて昇順に並び替えた後、
並び替えられた上記複数のひずみ数値データのうち、ひずみ数値が最小値であるデータから数えて、上記複数のひずみ数値データの総数の15~30%に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を減算した数値を、ひずみ数値の下限値とし、かつ、
上記複数のひずみ数値データの総数の70~85%に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を加算した数値を、ひずみ数値の上限値とする、数値範囲設定工程
(d-3) 上記複数のひずみ数値データから、上記下限値以上、上記上限値以下のひずみ数値を有するひずみ数値データを選択する、ひずみ数値データ選択工程
(d-4) 工程(d-3)で選択されたひずみ数値データを正規化して、階調を有する1枚の画像データを得る、画像データ正規化工程
(d-5) 上記1枚の画像データから、複数の画像データを切り出して、画像データからなる上記試験体表面のひずみ分布のデータを複数得る、ひずみ分布のデータ作成工程
(E) 上記ひずみ分布のデータを含む学習用入力データとコンクリートの劣化に関するデータを含む学習用出力データの組み合わせである学習データを用いた機械学習によって、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成する、機械学習工程
【請求項2】
上記工程(B)と上記工程(C)の間に、以下の工程(B-1)を行う、請求項
1に記載のコンクリートの劣化の予測モデル作成方法。
(B-1) 初期画像を取得した上記試験体に対して、上記試験体の表面に表面ひずみを顕在化させるための処理を行い、上記試験体の表面に表面ひずみを顕在化させる、試験体の顕在化処理工程
【請求項3】
請求項1
又は2に記載のコンクリートの劣化の予測モデル作成方法によって得られた予測モデルを用いて、以下の工程(F)
~(G)、(h-1)~(h-5)、及び(I)を行うことで、対象コンクリートの劣化を診断または予測する、コンクリートの劣化の診断または予測方法。
(F) 診断または予測の対象となるコンクリートの表面の初期画像を取得する、対象コンクリートの初期画像取得工程
(G) 表面ひずみが顕在化した上記コンクリートの表面の表面ひずみ画像を取得する、対象コンクリートの表面ひずみ画像取得工程
(h-1) デジタル画像相関法を用いて、上記初期画像及び上記表面ひずみ画像から、上記試験体の表面の各座標におけるひずみ数値を算出して、複数のひずみ数値データを得る、ひずみ数値データ作成工程
(h-2) 工程(h-1)で得られた複数のひずみ数値データを、ひずみ数値に基づいて昇順に並び替えた後、
並び替えられた上記複数のひずみ数値データのうち、ひずみ数値が最小値であるデータから数えて、上記複数のひずみ数値データの総数の15~30%に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を減算した数値を、ひずみ数値の下限値とし、かつ、
上記複数のひずみ数値データの総数の70~85%に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を加算した数値を、ひずみ数値の上限値とする、数値範囲設定工程
(h-3) 上記複数のひずみ数値データから、上記下限値以上、上記上限値以下のひずみ数値を有するひずみ数値データを選択する、ひずみ数値データ選択工程
(h-4) 工程(h-3)で選択されたひずみ数値データを正規化して、階調を有する1枚の画像データを得る、画像データ正規化工程
(h-5) 上記1枚の画像データから、複数の画像データを切り出して、画像データからなる上記コンクリート表面のひずみ分布のデータを複数得る、ひずみ分布のデータ作成工程
(I) 上記ひずみ分布のデータを含む診断用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルからコンクリートの劣化に関するデータを含む診断用出力データを出力して、コンクリートの劣化を診断または予測する、診断または予測工程
【請求項4】
上記工程(F)と上記工程(G)の間に、以下の工程(F-1)を行う、請求項
3に記載のコンクリートの劣化の診断または予測方法。
(F-1) 初期画像を取得した上記コンクリートに対して、上記コンクリートの表面に表面ひずみを顕在化させるための処理を行い、上記コンクリートの表面に表面ひずみを顕 在化させる、対象コンクリートの顕在化処理工程
【請求項5】
上記診断または予測工程において出力されるコンクリートの劣化に関するデータが、対象コンクリートの劣化の種別に関するデータを含み、該データに基づいて、コンクリートの劣化の種別を診断または予測する請求項
4に記載のコンクリートの劣化の診断または予測方法。
【請求項6】
上記診断または予測工程において出力されるコンクリートの劣化に関するデータが、対象コンクリートの劣化の進展に関するデータを含み、該データに基づいて、対象コンクリートの劣化の進展を診断または予測する請求項4
又は5に記載のコンクリートの劣化の診断または予測方法。
【請求項7】
上記診断または予測工程において出力されるコンクリートの劣化に関するデータが、対象コンクリートの劣化に対する補修方法に関するデータを含み、該データに基づいて、対象コンクリートの劣化に対する最適な補修方法を診断または予測する請求項4
又は5に記載のコンクリートの劣化の診断または予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの劣化の診断または予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国土交通省の通達による、社会インフラの定期点検の法制度化に伴い、社会インフラの維持管理に関する社会的関心が高まっている。これに関連して、コンクリート構造物の診断技術の重要性も高まっている。
コンクリート構造物の劣化の原因は、アルカリ骨材反応(ASR)や、塩害や、中性化による鉄筋腐食等、多岐にわたる。いずれの種類の劣化であっても、早期に原因を診断し、予防、補修することによって、コンクリート構造物の維持管理にかかる費用を削減することができる。
【0003】
コンクリート構造物の劣化の診断方法は、診断の対象となる劣化の種別に応じて、多岐にわたる。しかし、診断を行っていても、定期点検時にコンクリートの剥落等を発見することによって、はじめて劣化の進行に気付く場合も多い。
また、コンクリート構造物のひび割れの発生や、錆汁の有無を確認することで、簡易にコンクリートの劣化の種別を診断することはできるが、劣化の種別ごとの特徴が、外観の変状として表れるには時間がかかる。また、外観の変状が表れる時期を定量することは困難である。さらに、実際にコンクリートにひび割れが発生した場合、コンクリート構造物の耐荷力の低下等を招く場合もある。
そのため、早期にコンクリートの劣化の種別を診断して、対策を講じることが必要である。
【0004】
コンクリートの劣化を早期に検知する方法として、特許文献1には、下記(A)工程および(B)工程を経て得た最大主ひずみの分布の像に現れた模様を用いてコンクリートの劣化を検知する、コンクリートの劣化の早期検知方法が記載されている。
(A)コンクリートの取得対象面のデジタル画像を経時的に取得する、画像取得工程
(B)前記デジタル画像に基づきデジタル画像相関法を用いてひずみを算出し、該ひずみに基づき最大主ひずみの分布を得る、最大主ひずみ分布取得工程
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、コンクリートの劣化の診断または予測をすることができる予測モデルの作成とそれに基づき実構造物の劣化の診断または予測できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、試験体を作製する工程と、試験体の表面の初期画像を取得する工程と、試験体の表面の表面ひずみ画像を取得する工程と、デジタル画像相関法を用いて試験体表面のひずみ分布を作成する工程と、ひずみ分布のデータを含む学習用入力データとコンクリートの劣化に関するデータを含む学習用出力データの組み合わせである学習データを用いた機械学習によってコンクリートの劣化を診断または予測するための予測モデルを作成する工程を含むコンクリートの劣化の予測モデル作成方法によれば、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[14]を提供するものである。
【0008】
[1] 以下の工程(A)~(E)を行うことで、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成することを特徴とするコンクリートの劣化の予測モデル作成方法。
(A) 学習用サンプルとして、コンクリート試験体を作製する、試験体作製工程
(B) 上記試験体の表面の初期画像を取得する、試験体の初期画像取得工程
(C) 表面ひずみが顕在化した上記試験体の表面の表面ひずみ画像を取得する、試験体の表面ひずみ画像取得工程
(D) デジタル画像相関法を用いて、上記初期画像及び上記表面ひずみ画像から、上記試験体表面のひずみ分布のデータを作成する、試験体のひずみ分布作成工程
(E) 上記ひずみ分布のデータを含む学習用入力データとコンクリートの劣化に関するデータを含む学習用出力データの組み合わせである学習データを用いた機械学習によって、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成する、機械学習工程
【0009】
[2] 上記工程(D)において、以下の工程(d-1)~(d-5)を行うことで、画像データからなるひずみ分布のデータを複数得る、前記[1]に記載のコンクリートの劣化の予測モデル作成方法。
(d-1)デジタル画像相関法を用いて、上記初期画像及び上記表面ひずみ画像から、上記試験体の表面の各座標におけるひずみ数値を算出して、複数のひずみ数値データを得る、ひずみ数値データ作成工程
(d-2)工程(d-1)で得られた複数のひずみ数値データを、ひずみ数値に基づいて昇順に並び替えた後、並び替えられた上記複数のひずみ数値データのうち、ひずみ数値が最小値であるデータから数えて、上記複数のひずみ数値データの総数の10~30%に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を減算した数値を、ひずみ数値の下限値とし、かつ、上記複数のひずみ数値データの総数の70~90%に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を加算した数値を、ひずみ数値の上限値とする、数値範囲設定工程
(d-3) 上記複数のひずみ数値データから、上記下限値以上、上記上限値以下のひずみ数値を有するひずみ数値データを選択する、ひずみ数値データ選択工程
(d-4) 工程(d-3)で選択されたひずみ数値データを正規化して、階調を有する1枚の画像データを得る、画像データ正規化工程
(d-5) 上記1枚の画像データから、複数の画像データを切り出して、画像データからなるひずみ分布のデータを複数得る、ひずみ分布のデータ作成工程
[3] 上記工程(B)と上記工程(C)の間に、以下の工程(B-1)を行う、前記[1]又は[2]に記載のコンクリートの劣化の予測モデル作成方法。
(B-1) 初期画像を取得した上記試験体に対して、上記試験体の表面に表面ひずみを顕在化させるための処理を行い、上記試験体の表面に表面ひずみを顕在化させる、試験体の顕在化処理工程
【0010】
[4] 前記[1]~[3]のいずれかに記載のコンクリートの劣化の予測モデル作成方法によって得られた予測モデルを用いて、以下の工程(F)~(I)を行うことで、対象コンクリートの劣化を診断または予測する、コンクリートの劣化の診断または予測方法。
(F) 診断または予測の対象となるコンクリートの表面の初期画像を取得する、対象コンクリートの初期画像取得工程
(G) 表面ひずみが顕在化した上記コンクリートの表面の表面ひずみ画像を取得する、対象コンクリートの表面ひずみ画像取得工程
(H) デジタル画像相関法を用いて、上記初期画像及び上記表面ひずみ画像から、上記コンクリート表面のひずみ分布のデータを作成する、対象コンクリートのひずみ分布作成工程
(I) 上記ひずみ分布のデータを含む診断用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルからコンクリートの劣化に関するデータを含む診断用出力データを出力して、コンクリートの劣化を診断または予測する、診断または予測工程
【0011】
[5] 上記工程(H)において、以下の工程(h-1)~(h-5)を行うことで、画像データからなるひずみ分布のデータを複数得る、前記[4]に記載のコンクリートの劣化の予測モデル作成方法。
(h-1)デジタル画像相関法を用いて、上記初期画像及び上記表面ひずみ画像から、上記試験体の表面の各座標におけるひずみ数値を算出して、複数のひずみ数値データを得る、ひずみ数値データ作成工程
(h-2)工程(h-1)で得られた複数のひずみ数値データを、ひずみ数値に基づいて昇順に並び替えた後、並び替えられた上記複数のひずみ数値データのうち、ひずみ数値が最小値であるデータから数えて、上記複数のひずみ数値データの総数の10~30%に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を減算した数値を、ひずみ数値の下限値とし、かつ、上記複数のひずみ数値データの総数の70~90%に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を加算した数値を、ひずみ数値の上限値とする、数値範囲設定工程
(h-3) 上記複数のひずみ数値データから、上記下限値以上、上記上限値以下のひずみ数値を有するひずみ数値データを選択する、ひずみ数値データ選択工程
(h-4) 工程(h-3)で選択されたひずみ数値データを正規化して、階調を有する1枚の画像データを得る、画像データ正規化工程
(h-5) 上記1枚の画像データから、複数の画像データを切り出して、画像データからなるひずみ分布のデータを複数得る、ひずみ分布のデータ作成工程
[6] 上記工程(F)と上記工程(G)の間に、以下の工程(F-1)を行う、前記[4]又は[5]に記載のコンクリートの劣化の診断または予測方法。
(F-1) 初期画像を取得した上記コンクリートに対して、上記コンクリートの表面に表面ひずみを顕在化させるための処理を行い、上記コンクリートの表面に表面ひずみを顕在化させる、対象コンクリートの顕在化処理工程
【0012】
[7] 上記診断または予測工程において出力されるコンクリートの劣化に関するデータが、対象コンクリートの劣化の種別に関するデータを含み、該データに基づいて、コンクリートの劣化の種別を診断または予測する前記[4]~[6]のいずれかに記載のコンクリートの劣化の診断または予測方法。
[8] 上記診断または予測工程において出力されるコンクリートの劣化に関するデータが、対象コンクリートの劣化の進展に関するデータを含み、該データに基づいて、対象コンクリートの劣化の進展を診断または予測する前記[4]~[6]のいずれかに記載のコンクリートの劣化の診断または予測方法。
[9] 上記診断または予測工程において出力されるコンクリートの劣化に関するデータが、対象コンクリートの劣化に対する補修方法に関するデータを含み、該データに基づいて、対象コンクリートの劣化に対する最適な補修方法を診断または予測する前記[4]~[6]のいずれかに記載のコンクリートの劣化の診断または予測方法。
【0013】
[10] 以下の工程(J)~(L)を行うことで、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成することを特徴とするコンクリートの劣化の予測モデル作成方法。
(J) 学習用サンプルとして、コンクリート試験体を作製する、試験体作製工程
(K) 表面ひび割れが顕在化した上記試験体の表面の表面ひび割れ画像を取得する、試験体の表面ひび割れ画像取得工程
(L) 上記表面ひび割れ画像のデータを含む学習用入力データとコンクリートの劣化に関するデータを含む学習用出力データの組み合わせである学習データを用いた機械学習によって、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成する、機械学習工程
[11] 前記[10]に記載のコンクリートの劣化の予測モデル作成方法によって得られた予測モデルを用いて、以下の工程(M)~(N)を行うことで、対象コンクリートの劣化を診断または予測する、コンクリートの劣化の診断または予測方法。
(M) 表面ひび割れが顕在化した、診断または予測の対象となるコンクリートの表面の表面ひび割れ画像を取得する、対象コンクリートの表面ひび割れ画像取得工程
(N) 上記表面ひび割れ画像のデータを含む診断用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルからコンクリートの劣化に関するデータを含む診断用出力データを出力して、コンクリートの劣化を診断または予測する、診断または予測工程
【0014】
[12] 上記診断または予測工程において出力されるコンクリートの劣化に関するデータが、対象コンクリートの劣化の種別に関するデータを含み、該データに基づいて、コンクリートの劣化の種別を診断または予測する前記[11]に記載のコンクリートの劣化の診断または予測方法。
[13] 上記診断または予測工程において出力されるコンクリートの劣化に関するデータが、対象コンクリートの劣化の進展に関するデータを含み、該データに基づいて、対象コンクリートの劣化の進展を診断または予測する前記[11]に記載のコンクリートの劣化の診断または予測方法。
[14] 上記診断または予測工程において出力されるコンクリートの劣化に関するデータが、対象コンクリートの劣化に対する補修方法に関するデータを含み、該データに基づいて、対象コンクリートの劣化に対する最適な補修方法を診断または予測する前記[11]に記載のコンクリートの劣化の診断方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のコンクリートの劣化の予測モデル作成方法によれば、コンクリートの劣化を早期に診断または予測することができる予測モデルを作成し、コンクリート(例えば、コンクリート構造物)の劣化を診断または予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例1において作製された試験体Aのひずみ分布の画像である。
【
図2】実施例1において作製された試験体Bのひずみ分布の画像である。
【
図3】実施例1において診断の対象となるコンクリートのひずみ分布の画像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のコンクリートの劣化の予測モデル作成方法は、以下の工程(A)~(E)を行うことで、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成する方法である。
(A) 学習用サンプルとして、コンクリート試験体を作製する、試験体作製工程
(B) 上記試験体の表面の初期画像を取得する、試験体の初期画像取得工程
(C) 表面ひずみが顕在化した上記試験体の表面の表面ひずみ画像を取得する、試験体の表面ひずみ画像取得工程
(D) デジタル画像相関法を用いて、上記初期画像及び上記表面ひずみ画像から、上記試験体表面のひずみ分布のデータを作成する、試験体のひずみ分布作成工程
(E) 上記ひずみ分布のデータを含む学習用入力データとコンクリートの劣化に関するデータを含む学習用出力データの組み合わせである学習データを用いた機械学習によって、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成する、機械学習工程
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0018】
[(A)試験体作製工程]
本工程は、学習用サンプルとして、コンクリート試験体を作製する工程である。
コンクリート試験体は、後述の機械学習工程(工程(E))で使用される学習データを得るために用いられるものである。上記試験体は、既にコンクリートの劣化が起きているものでもよく、コンクリートの劣化が起きていないものであってもよい。
上記試験体は、目的とする劣化が起こりやすくなるように、上記試験体の、材料の配合、製造方法、養生条件、供用条件等を適宜調整したうえで作製されてもよい。
また、材料の配合、製造方法、養生条件、供用条件等が異なる試験体や、劣化の進展の程度が異なる試験体や、劣化が発生した後、各種補修方法によって、発生した劣化を補修してなる試験体等の様々な条件の試験体を作製することが好ましい。
さらに、一つのコンクリート試験体に起こっている劣化は、一種類であっても二種類以上であってもよい。
コンクリート試験体は、劣化要因(劣化原因)が不明であるものでもよいが、より高い精度で、様々な種類のコンクリートの劣化を予測することができる観点から、劣化要因が明らかであるもの、あるいは、各種分析によって、劣化要因が特定されたものが好適である。
また、供用中のコンクリート構造物からコアを採取し、該コアを上記コンクリート試験体として用いてもよい。また、コンクリート試験体として用いる前に、上記コアを分析等することで劣化要因を特定することが好ましい。
【0019】
上記試験体は、様々な種類のコンクリートの劣化に関する学習データ(後述)を得ることで、より高い精度の予測モデルを作成する観点から、アルカリ骨材反応(ASR)、エトリンガイトの遅延生成(DEF)、凍害、火害、塩害、中性化による鉄筋腐食等の、コンクリートの劣化種別ごとに複数作製することが好ましい。
上記試験体の形状は特に限定されるものではなく、実際に製造されるコンクリート構造物の形状を模したものであってもよい。
上記試験体は、学習データを得るために作製されたものでもよいが、実際に製造されたコンクリート構造物の一部(コア部分)または全部を試験体として用いてもよい。
【0020】
コンクリートとしては、特に限定されず、普通コンクリート、水密コンクリート、暑中コンクリート、寒中コンクリート、マスコンクリート、流動化コンクリート、高流動コンクリート、高強度コンクリート、低発熱コンクリート、膨張コンクリート、低収縮コンクリート、繊維補強コンクリート、軽量コンクリート、及びポリマーコンクリート等が挙げられる。また、前記コンクリートは、無筋コンクリート、鉄筋コンクリート、及びプレストレストコンクリートであってもよい。
【0021】
[(B)試験体の初期画像取得工程]
本工程は、工程(A)において作製されたコンクリート試験体の表面の初期画像(通常、デジタル画像)を取得する工程である。
初期画像の取得手段としては、特に限定されないが、例えば、ラインセンサスキャナ等が挙げられる。また、取得手段によっては、後述の試験体の表面ひずみ画像取得工程において、表面ひずみをより顕在化させて、デジタル画像相関法による解析をより高い精度で行うことができるようにする観点から、コンクリート試験体の表面部分に、スプレー等を用いて幾何学的なパターン(マーカー)を描画してもよい。
また、良好な画像を取得する目的で、コンクリート試験体の表面部分を予め研磨してもよい。なお、コンクリート試験体の表面部分に幾何学的なパターンを描画する場合、上記研磨は、幾何学的なパターン(マーカー)を描画する前に行うことが好ましい。
【0022】
[(B-1)試験体の顕在化処理工程]
本工程(B-1)は、任意に追加可能な工程であり、工程(B)と工程(C)の間に行われる工程である。
本工程は、工程(B)において表面の初期画像を取得したコンクリート試験体に対して、上記試験体の表面に表面ひずみを顕在化させるための処理(以下、「顕在化処理」ともいう。)を行い、上記試験体の表面に表面ひずみを顕在化させる工程である。
本工程を行うことによって、表面ひずみの顕在化の程度が小さい(表面ひずみが明確に発生していない)コンクリート試験体の表面に表面ひずみを顕在化させる、あるいは、表面ひずみが顕在化したコンクリート試験体の表面ひずみの顕在化の程度をより大きくすることで、より高い精度でコンクリートの劣化を予測することができる予測モデルを作成することができる。
また、コンクリート試験体を作製した後、短期間で予測モデルを作成することができる。
顕在化処理は、コンクリート試験体の表面に現れるひずみ(表面ひずみ)を、より大きくして顕在化することができる方法であれば、特に限定されるものではないが、例えば、ヒートガン等の加熱手段を用いて試験体に温度変化(温度履歴)を与える方法や、物理的な手段によって試験体に応力を加える方法や、試験体の劣化が促進される環境下で試験体を静置する方法等が挙げられる。
顕在化処理は、コンクリート試験体の表面が破壊される(例えば、数千μm程度の大きさの表面ひずみが生じる)ような過度の処理を行う必要はなく、通常、コンクリート試験体の表面が破壊されない程度の大きさで行えばよい。
【0023】
[(C)試験体の表面ひずみ画像取得工程]
本工程は、表面ひずみが顕在化した(発生した)コンクリート試験体の表面の表面ひずみ画像を取得する工程である。
なお、表面ひずみの顕在化(発生)の有無は、デジタル画像相関法を用いて、コンクリート試験体表面のひずみ分布のデータを作成することによって判断することができる。
表面ひずみが顕在化したコンクリート試験体とは、工程(A)において作製された既に表面ひずみが顕在化したコンクリート試験体(例えば、供用中の、表面ひずみが顕在化したコンクリート構造物から採取されたコンクリート試験体)、工程(A)において作製されたコンクリート試験体(表面ひずみが顕在化していないもの)に、経年劣化等によって、自然に表面ひずみが顕在化した試験体、あるいは、工程(B-1)において、顕在化処理を行い、該試験体の表面に表面ひずみが顕在化した試験体である。
表面ひずみ画像の取得手段は、初期画像の取得において使用されるものと同様である。また、表面ひずみ画像は、表面ひずみが顕在化した範囲を含み、かつ、初期画像を取得した場所と同一の範囲から取得される。
【0024】
[(D)試験体のひずみ分布作成工程]
本工程は、デジタル画像相関法を用いて、工程(B)で得られた初期画像、及び、工程(C)で得られた表面ひずみ画像から、コンクリート試験体表面のひずみ分布のデータを作成する工程である。
デジタル画像相関法は、表面ひずみが顕在化する前後に取得したデジタル画像(初期画像及び表面ひずみ画像)の輝度値の分布に基づいて、試験体上の各位置の移動量を算出し、ひずみ数値(最大主ひずみ)に変換する方法である。
【0025】
具体的には、以下の(i)~(ii)の計算過程を経てひずみ数値を算出する。
(i)初期画像において、任意の位置を中心とするサブセット内の輝度値分布を求める。
(ii)表面ひずみ画像の輝度値分布と最も相関性の高い輝度値分布を有する、初期画像のサブセットを探索し、その中心点を着目点が変位した後の位置として捉えて、着目点から該中心点へ変位した量を算出し、さらに該変位した量をひずみ数値に変換する。なお、顕在化処理前後のサブセットの相関性は、下記式(1)の相関係数Rを用いて表される。
【数1】
(式(1)中、Mはサブセットのx,y方向の画素数、f(x,y)は顕在化処理前の初期画像の座標(x,y)におけるサブセット内の輝度値、g(x
*,y
*)は顕在化処理後の表面ひずみ画像の座標(x
*,y
*)におけるサブセット内の輝度値を示す。)
【0026】
ただし、実際は、矩形に設定した顕在化処理前のサブセットに対し、顕在化処理後の表面ひずみ画像そのものが変形しているため、サブセットが矩形にならない場合がある。この場合、これを補正するため、サブセット内部における変位勾配が一定であると仮定して、顕在化処理前後の座標(x,y)および(x
*,y
*)には下記式(2)を用いる。
【数2】
(上記式(2)中、uおよびvはサブセット画像の中心における変位部分であり、Δx,Δyはサブセットの中心から点(x,y)までの距離である。)
以上の計算は、市販の画像解析用ソフトウェア(例えば、digital:Correlated solutions社製)を用いて行うことができる。
デジタル画像相関法によって得られたひずみ数値を、各座標にプロットすることで、各座標と該座標のひずみ数値を含むデータを、ひずみ分布のデータとして作成することができる。
【0027】
また、工程(D)において、以下の工程(d-1)~(d-5)を行うことで、画像データからなるひずみ分布のデータを、複数得ることができる。
なお、ひずみ分布のデータは、ひずみ数値を含むデータ、及び、ひずみ数値を基にして作成された画像データを含むものとする。
[(d-1)ひずみ数値データ作成工程]
本工程は、デジタル画像相関法を用いて、工程(B)で得られた初期画像及び工程(C)で得られた表面ひずみ画像から、コンクリート試験体の表面の各座標におけるひずみ数値を算出して、複数のひずみ数値データを得る工程である。
ここで、「ひずみ数値データ」とは、コンクリート試験体の表面の座標と、該座標におけるひずみ数値からなるデータである。
また、ひずみ数値を算出する座標の数は、通常、初期画像および表面ひずみ画像の解像度の数値であり、ひずみ数値は、画像の1ピクセル毎に算出される。
【0028】
[(d-2)数値範囲設定工程]
本工程は、工程(d-1)で得られた複数のひずみ数値データを、ひずみ数値に基づいて昇順に並び替えた後、並び替えられた複数のひずみ数値データのうち、ひずみ数値が最小値であるデータから数えて、複数のひずみ数値データの総数の10~30%(好ましくは15~25%、より好ましくは25%)に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を減算した数値を、ひずみ数値の下限値とし、かつ、複数のひずみ数値データの総数の70~90%(好ましくは75~85%、より好ましくは75%)に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を加算した数値を、ひずみ数値の上限値とする工程である。
ここで、「ひずみ数値が最小値であるデータから数えて、複数のひずみ数値データの総数の10~30%に位置する(又は、70~90%に位置する)ひずみ数値データ」とは、昇順に並び替えられた複数のひずみ数値データのうち、最初のデータ(ひずみ数値が最小値であるデータ)から、最後のデータ(ひずみ数値が最大値であるデータ)に向かって、上記総数に0.1(又は0.7)を乗じた数(端数は切り捨て又は切り上げる)~上記総数に0.3(又は0.9)を乗じた数(端数は切り捨て又は切り上げる)番目に位置するひずみ数値データを意味する。
例えば、ひずみ数値データが100個ある場合、複数のひずみ数値データの総数の10~30%に位置するひずみ数値データとは、ひずみ数値が最小値であるひずみ数値データから数えて10~30番目に位置するデータである。
また、「四分位範囲」とは、第3四分位数から第1四分位数を引いた値である。なお、データを大きさの順に並べた場合に、下から25%に位置する値(ここでは、ひずみ数値)を第1四分位数、50%に位置する値を第2四分位数、75%に位置する値を第3四分位数)という。
【0029】
[(d-3)ひずみ数値データ選択工程]
本工程は、複数のひずみ数値データから、上記下限値(工程(d-2)で定めたもの)以上、上記上限値(工程(d-2)で定めたもの)以下のひずみ数値を有するひずみ数値データを選択する工程である。
本工程で、複数のひずみ数値データから、上記下限値未満のひずみ数値を有するデータ、及び、上記上限値を超えるひずみ数値を有するデータを除外することで、より高い精度の予測モデルを作成することができる。
ここで、「下限値以上」及び「上限値以下」の各語は、特定の値を基準にして、2つの区分に分けるために便宜上、用いたものであるので、本発明において、各々、「下限値を超える」及び「上限値未満」の語に置き換えることができるものとする。
【0030】
[(d-4)画像データ正規化工程]
本工程は、工程(d-3)で選択されたひずみ数値データを正規化して、階調を有する1枚の画像データを得る工程である。
例えば、選択されたひずみ数値データに含まれるひずみ数値を、数値の大きさから256段階(0~255)の輝度に変換し、ひずみ数値が得られた座標に輝度に応じた色彩をプロットすることで、コンクリート試験体表面の1枚の画像データを得ることができる。
【0031】
[(d-5)ひずみ分布のデータ作成工程]
本工程は、工程(d-4)で得られた1枚の画像データから、複数の画像データを切り出して、画像データからなるひずみ分布のデータを複数得る工程である。
1枚の画像データから、複数の画像データを切り出す方法の一例としては、一枚の画像データの特定の範囲(例えば、一辺が10~100ピクセルの方形の範囲)の画像を切り出した後、該画像を切り出した位置から、上下左右の少なくとも一つの方向に、好ましくは1~50ピクセル移動した位置の範囲を切り出すことを繰り返す方法が挙げられる。
1枚の画像データから切り出される画像データの数は、より高い精度を有する予測モデルを作成する観点からは、好ましくは10以上、より好ましくは100以上、特に好ましくは500以上である。また、上記数は、画像の解像度や処理能力の観点から、好ましくは5,000以下、より好ましくは3,000以下、特に好ましくは2,000以下である。
1枚の画像データから、複数の画像データを切り出して、画像データの各々をひずみ分布のデータとすることで、一つのコンクリート試験体から複数の学習データを得ることができ、より高い精度を有する予測モデルを作成することができる。
【0032】
[(E)機械学習工程]
本工程は、工程(D)で得られたコンクリート試験体表面のひずみ分布のデータを含む学習用入力データとコンクリートの劣化に関するデータを含む学習用出力データの組み合わせである学習データを用いた機械学習によって、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成する工程である。
学習用入力データは、上述したひずみ分布のデータの他に、上記試験体から得られた、コンクリートの基本情報に関するデータ、コンクリートの供用環境に関するデータ、コンクリート構造物に関するデータ等を含んでいてもよい。
コンクリートの基本情報に関するデータとしては、コンクリートの供用時期(コンクリートを現場に設置した時期)、セメントに関するデータ(種類、品質等)、骨材に関するデータ(種類、品質等)、セメント及び骨材以外の使用材料に関するデータ、コンクリートの使用材料の配合(単位量、含有率)、使用材料の混練に関するデータ、設計図面に関するデータ(コンクリート試験体の寸法、形状等)、使用されている部材に関するデータ(部材の使用箇所、形状、材質、寸法等)、呼び強度等が挙げられる。
【0033】
コンクリートの供用環境に関するデータとしては、コンクリートの設置場所における日射条件や雨掛かりの有無、年間の温度に関するデータ、年間の湿度に関するデータ、凍結防止剤の年間散布量等が挙げられる。
コンクリート構造物に関するデータとしては、地震の発生等によってコンクリート内部に発生した残留ひずみに関するデータ、過去に行われた補修内容に関するデータ(補修方法の種類、補修の際に使用した材料に関するデータ、補修面積等)、ひび割れの面積等が挙げられる。
これらのデータは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
学習用出力データとして用いられるコンクリートの劣化に関するデータとしては、コンクリートの劣化の種別に関するデータ、コンクリートの劣化の進展に関するデータ、コンクリートの劣化に対する補修方法に関するデータ等が挙げられる。
コンクリートの劣化の種別に関するデータとしては、コンクリートの劣化の種類(例えば、アルカリ骨材反応(ASR)、エトリンガイトの遅延生成(DEF)、凍害、火害、疲労、乾燥収縮、温度変化の繰り返し、化学的侵食、地震、塩害、または中性化による鉄筋腐食等を原因とする劣化)等のコンクリートの劣化と、これらのコンクリートの劣化の程度(劣化の大きさ(範囲)、ひずみの量、ひび割れ面積等)等が挙げられる。コンクリート試験体に複数の種類の劣化が生じている場合には、コンクリートの劣化の種別に関するデータとして、各劣化の種類、試験体に発生している劣化全体中の各劣化の割合、各劣化の程度が挙げられる。
コンクリートの劣化の進展に関するデータとしては、コンクリートの劣化の進展の程度(どの段階まで、劣化が進んでいるか)等が挙げられる。
コンクリートの劣化に対する補修方法に関するデータとしては、ひび割れ補修工法、断面修復工法、表面被覆工法、表面含浸工法、剥落防止工法、電気化学的補修工法、及び構造物の更新等の、コンクリートの劣化に適する補修方法が挙げられる。
これらのデータは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0035】
機械学習は、上述した学習用入力データと学習用出力データの組み合わせである学習データを用いて、従来知られている一般的な機械学習の方法に従って行われる。
機械学習に用いられる学習方法の例としては、ニューラルネットワーク、線形回帰、決定木、サポートベクター回帰、アンサンブル法、サポートベクターマシン、判別分析、単純ベイズ法、最近傍法等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
中でも、より高い精度で予測することができる観点から、ニューラルネットワークが好ましい。ニューラルネットワークは、より高い精度で予測することができる観点から、入力層と出力層の間に一つ以上の中間層を有する階層型のニューラルネットワークが好適である。中でも、画像認識の分野において優れた性能を有する、畳み込みニューラルネットワーク(中間層として、畳み込み層やプーリング層等を有するニューラルネットワーク)がより好適である。
また、複数の学習データの一部(例えば、20~30%)を、得られた予測モデルの信頼性を確認するためのテストデータとして用いて交差検証(例えば、層化k分割交差検証)を行ってもよい。
機械学習は、学習データとして使用されるデータの種類、学習データの個数、及び学習回数等を適宜変更しながら行われ、信頼性に優れた予測モデルが得られるまで行われる。
なお、本明細書中、「機械学習」とは、人間による思考を介さずに、機械(特に、コンピュータ)のみによって学習することをいう。
【0036】
上述の方法で作成された予測モデルを用いて、以下の工程(F)~(I)を行うことで、診断の対象となるコンクリートの劣化を診断または予測することができる。
以下、工程ごとに詳しく説明する。
[(F)対象コンクリートの初期画像取得工程]
本工程は診断の対象となるコンクリートの表面の初期画像を取得する工程である。
[(F-1)対象コンクリートの顕在化処理工程]
本工程は、任意に追加可能な工程であり、工程(F)と工程(G)の間に行われる工程である。
本工程は、工程(F)において表面の初期画像を取得したコンクリートに対して、コンクリートの表面に表面ひずみを顕在化させるための処理を行い、コンクリートの表面に表面ひずみを顕在化させる工程である。
[(G)対象コンクリートの表面ひずみ画像取得工程]
本工程は、表面ひずみが顕在化したコンクリートの表面の表面ひずみ画像を取得する、工程である。
[(H)対象コンクリートのひずみ分布作成工程]
本工程は、デジタル画像相関法を用いて、工程(F)で得られた初期画像、及び、工程(G)で得られた表面ひずみ画像から、コンクリート表面のひずみ分布のデータを作成する工程である。
【0037】
また、工程(H)において、以下の工程(h-1)~(h-5)を行うことで、画像データからなるひずみ分布のデータを、複数得ることができる。
(h-1)デジタル画像相関法を用いて、上記初期画像及び上記表面ひずみ画像から、上記試験体の表面の各座標におけるひずみ数値を算出して、複数のひずみ数値データを得る、ひずみ数値データ作成工程
(h-2)工程(h-1)で得られた複数のひずみ数値データを、ひずみ数値に基づいて昇順に並び替えた後、並び替えられた上記複数のひずみ数値データのうち、ひずみ数値が最小値であるデータから数えて、上記複数のひずみ数値データの総数の10~30%に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を減算した数値を、ひずみ数値の下限値とし、かつ、上記複数のひずみ数値データの総数の70~90%に位置するひずみ数値データから一つのひずみ数値データを任意に選択し、選択されたひずみ数値データのひずみ数値に、四分位範囲に1.5を乗じた数値を加算した数値を、ひずみ数値の上限値とする、数値範囲設定工程
(h-3) 上記複数のひずみ数値データから、上記下限値以上、上記上限値以下のひずみ数値を有するひずみ数値データを選択する、ひずみ数値データ選択工程
(h-4) 工程(h-3)で選択されたひずみ数値データを正規化して、階調を有する1枚の画像データを得る、画像データ正規化工程
(h-5) 上記1枚の画像データから、複数の画像データを切り出して、画像データからなるひずみ分布のデータを複数得る、ひずみ分布のデータ作成工程
工程(F)~(H)、(F-1)、(h-1)~(h-5)は、コンクリート試験体の代わりに、診断の対象となるコンクリートを使用する以外は、上述した工程(B)~(D)、(B-1)、(d-1)~(d-5)と各々同様である。
【0038】
[(I)診断または予測工程]
本工程は、ひずみ分布のデータを含む診断用入力データを、工程(E)において作成された予測モデルに入力し、該予測モデルからコンクリートの劣化に関するデータを含む診断用出力データを出力して、コンクリートの劣化を診断または予測する工程である。
診断用入力データは、上述した学習用入力データとして用いられるものと同様である。
また、診断用出力データは、上述した学習用出力データとして挙げられているものと同様である。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
診断用入力データは、一つであってもよく、複数であってもよい。例えば、上述した工程(h-5)において、画像データからなるひずみ分布のデータを複数得た場合において、複数のひずみ分布のデータの各々について、ひずみ分布のデータを含む診断用入力データを予測モデルに入力し、該予測モデルから診断用出力データを出力することで、複数の診断用出力データを得てもよい。また、複数の診断用出力データを得た場合、例えば、最も頻度が多かった種類の診断用出力データを用いて、コンクリートの劣化を診断または予測してもよい。
【0039】
上述したコンクリートの劣化の診断方法(工程(F)~(I))によれば、診断の対象となるコンクリート(例えば、既存のコンクリート構造物)に関する、ひずみ分布のデータを含む診断用入力データを、予測モデルに入力することで得られる、コンクリートの劣化に関するデータを含む診断用出力データから、対象となるコンクリートの劣化を診断または予測することができる。
例えば、コンクリートの劣化に関するデータとして、コンクリートの劣化の種別に関するデータを出力し、該データに基づいて、診断の対象となるコンクリートに発生している劣化の種類(例えば、アルカリ骨材反応(ASR)、エトリンガイトの遅延生成(DEF)、凍害、火害、塩害、または中性化による鉄筋腐食等を原因とする劣化)や、コンクリートの劣化の程度(劣化の大きさ)を診断または予測することができる。
診断の対象となるコンクリートに複数の種類の劣化が生じている場合には、各劣化の種類、各劣化の程度、及び、各劣化の程度からコンクリートの劣化における主な原因(要因)を診断することができる。各劣化の種類、及び、各劣化の程度は、各劣化に起因するひずみの量の絶対値から判定することができる。
【0040】
また、コンクリートの劣化に関するデータとして、診断の対象となるコンクリートの劣化の進展に関するデータを出力し、該データに基づいて、診断の対象となるコンクリートに発生している劣化の進展を診断または予測することができる。劣化の進展とは、現在、発生している劣化の進展の程度だけではなく、将来的なコンクリートの劣化の進展の予測も含まれる。
将来的なコンクリートの劣化の進展の予測を行う場合には、診断用入力データとして、コンクリートの供用環境に関するデータを使用することが好ましい。コンクリートの供用環境に関するデータ(コンクリートの設置場所における日射条件や雨掛かりの有無、年間の温度に関するデータ、年間の湿度に関するデータ、凍結防止剤の年間散布量等のデータ)としては、コンクリートが設置されてから現在に至るまでの過去のデータだけではなく、現在から予測をしたい時点までの、コンクリートの供用環境に関するデータ(予想されるデータ)が使用される。また、より高い精度で診断または予測する観点から、診断用入力データとして、上述したコンクリートの基本情報に関するデータを用いることが好ましい。
【0041】
また、コンクリートの劣化に関するデータとして、診断の対象となるコンクリートの劣化に対する補修方法に関するデータを出力し、該データに基づいて、対象コンクリートの劣化に対する最適な補修方法を診断(最適な補修方法を選定)することができる。
補修方法の例としては、ひび割れ補修工法、断面修復工法、表面被覆工法、表面含浸工法、剥落防止工法、電気化学的補修工法、及び構造物の更新等が挙げられる。
【0042】
また、上述したコンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成する方法(上記工程(A)~(E))の他に、本発明のコンクリートの劣化の予測モデル作成方法としては、以下の工程(J)~(L)を行うことで、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成する方法が挙げられる。
(J) 学習用サンプルとして、コンクリート試験体を作製する、試験体作製工程
(K) 表面ひび割れが顕在化した上記試験体の表面の表面ひび割れ画像を取得する、試験体の表面ひび割れの画像取得工程
(L) 上記表面ひび割れ画像のデータを含む学習用入力データとコンクリートの劣化に関するデータを含む学習用出力データの組み合わせである学習データを用いた機械学習によって、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成する、機械学習工程
以下、工程ごとに詳しく説明する。
【0043】
[(J)試験体作製工程]
本工程は、学習用サンプルとして、コンクリート試験体を作製する工程である。
コンクリート試験体は、後述の機械学習工程(工程(L))で使用される学習データを得るために用いられるものである。上記試験体は、既にコンクリートの劣化の進展により表面ひび割れが顕在化した(発生した)ものがよく、コンクリートの劣化が進展していないものでもよい。
上記試験体は、目的とする劣化が起こりやすくなるように、上記試験体の、材料の配合、製造方法、養生条件、供用条件等を適宜調整したうえで作製されてもよい。
また、材料の配合、製造方法、養生条件、供用条件等が異なる試験体や、劣化の進展の程度が異なる試験体や、劣化が発生した後、各種補修方法によって、発生した劣化を補修してなる試験体等の様々な条件の試験体を作製することが好ましい。
さらに、一つのコンクリート試験体に起こっている劣化は、一種類であっても二種類以上であってもよい。
コンクリート試験体は、劣化要因(劣化原因)が不明であるものでもよいが、より高い精度で、様々な種類のコンクリートの劣化を予測することができる観点から、劣化要因が明らかであるもの、あるいは、各種分析によって、劣化要因が特定されたものが好適である。
また、供用中のコンクリート構造物(実構造物)からコアを採取し、該コアを上記コンクリート試験体として用いてもよい。また、コンクリート試験体として用いる前に、上記コアを分析等することで劣化要因を特定することが好ましい。
【0044】
上記試験体は、様々な種類のコンクリートの劣化に関する学習データ(後述)を得ることで、より高い精度の予測モデルを作成する観点から、アルカリ骨材反応(ASR)、エトリンガイトの遅延生成(DEF)、凍害、火害、塩害、中性化による鉄筋腐食等の、コンクリートの劣化種別ごとに複数作製することが好ましい。
上記試験体の形状は特に限定されるものではなく、実際に製造されるコンクリート構造物の形状を模したものであってもよい。
上記試験体は、学習データを得るために作製されたものでもよいが、実際に製造されたコンクリート構造物の一部(コア部分)または全部を試験体として用いてもよい。
コンクリートとしては、特に限定されず、上述した工程(A)におけるコンクリートと同様である。
【0045】
[(K)試験体の表面ひび割れ画像取得工程]
本工程は、表面ひび割れが顕在化したコンクリート試験体の表面の表面ひび割れ画像を取得する工程である。
なお、本明細書中、「表面ひび割れが顕在化した」とは、表面ひび割れが発生している(生じている)こと、好ましくは、表面ひび割れが明確に(目視できる程度に)発生している(生じている)ことをいう。
表面ひび割れが顕在化したコンクリート試験体とは、工程(J)において作製された、既に表面ひび割れが顕在化したコンクリート試験体(例えば、供用中の、表面ひび割れが顕在化したコンクリート構造物から採取されたコンクリート試験体)、工程(J)において作製されたコンクリート試験体(表面ひび割れが顕在化していないもの)に、経年劣化等によって、自然に表面ひび割れが生じたコンクリート試験体、あるいは、工程(J)において作製されたコンクリート試験体(表面ひび割れが顕在化していないもの)に対して、ヒートガン等の加熱手段を用いて試験体に温度変化(温度履歴)を与える方法や、物理的な手段によって試験体に応力を加える方法や、試験体の劣化が促進される環境下で試験体を静置する方法等を行い、意図的に表面ひび割れを生じさせたコンクリート試験体である。
表面ひび割れ画像の取得手段は、表面に発生したひび割れの分布状況が認識できるものであればよく、例えば、デジタルカメラが挙げられる。
また、表面ひび割れ画像は、表面ひび割れが分布している(発生している)範囲により取得する。
【0046】
[(L)機械学習工程]
本工程は、工程(K)で得られた表面ひび割れ画像のデータを含む学習用入力データとコンクリートの劣化に関するデータを含む学習用出力データの組み合わせである学習データを用いた機械学習によって、コンクリートの劣化を予測するための予測モデルを作成する工程である。
表面ひび割れ画像のデータは、工程(K)で取得した画像全体のデータであってもよく、工程(K)で取得した画像から、特定の範囲を切り出してなる(選択してなる)画像のデータであってもよい。画像を切り出す際に、複数の画像を切り出して、複数の画像データとしてもよい。複数の画像を切り出す方法の一例としては、工程(d-5)に記載された1枚の画像データから、複数の画像データを切り出す方法と同様の方法が挙げられる。
学習用入力データは、上述した表面ひび割れ画像のデータの他に、上記試験体から得られた、コンクリートの基本情報に関するデータ、コンクリートの供用環境に関するデータ、コンクリート構造物に関するデータ等を含んでいてもよい。
コンクリートの基本情報に関するデータ、コンクリートの供用環境に関するデータ、コンクリート構造物に関するデータとしては、上述した工程(E)における、コンクリートの基本情報に関するデータ等と同様のものが挙げられる。
これらのデータは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
学習用出力データとして用いられるコンクリートの劣化に関するデータとしては、上述した工程(E)における、学習用出力データとして用いられるコンクリートの劣化に関するデータと同様のものが挙げられる。
機械学習は、上述した学習用入力データと学習用出力データの組み合わせである学習データを用いて、従来知られている一般的な機械学習の方法に従って行われる。
機械学習に用いられる学習方法としては、上述した工程(E)における、学習用出力データとして用いられるコンクリートの劣化に関するデータと同様のものが挙げられる。
【0048】
工程(J)~(L)によって得られた予測モデルを用いて、以下の工程(M)~(N)を行うことで、診断の対象となるコンクリートの劣化を診断または予測することができる。
(M) 表面ひび割れが顕在化した、診断または予測の対象となるコンクリートの表面の表面ひび割れ画像を取得する、対象コンクリートの表面ひび割れの画像取得工程
(N) 上記表面ひび割れ画像のデータを含む診断用入力データを、上記予測モデルに入力し、上記予測モデルからコンクリートの劣化に関するデータを含む診断用出力データを出力して、コンクリートの劣化を診断または予測する、診断または予測工程
工程(M)は、コンクリート試験体の代わりに、診断の対象となるコンクリートを使用する以外は、上述した工程(K)と同様である。
【0049】
[(N)診断または予測工程]
本工程は、工程(M)で得られた表面ひび割れ画像のデータを含む診断用入力データを、工程(L)において作成された予測モデルに入力し、該予測モデルからコンクリートの劣化に関するデータを含む診断用出力データを出力して、コンクリートの劣化を診断または予測する工程である。
診断用入力データは、上述した学習用入力データとして用いられるものと同様である。
表面ひび割れ画像のデータは、工程(M)で取得した画像全体のデータであってもよく、工程(M)で取得した画像から、特定の範囲を切り出してなる(選択してなる)画像のデータであってもよい。画像を切り出す際に、複数の画像を切り出して、複数の画像データとしてもよい。複数の画像を切り出す方法の一例としては、工程(d-5)に記載された1枚の画像データから、複数の画像データを切り出す方法と同様の方法が挙げられる。
【0050】
診断用入力データは、一つであってもよいが、複数であってもよい。例えば、工程(M)で取得した表面ひび割れ画像から、複数の表面ひび割れ画像を得た場合において、複数の表面ひび割れ画像のデータの各々について、表面ひび割れ画像のデータを含む診断用入力データを予測モデルに入力し、予測モデルから診断用出力データを出力することで、複数の診断用出力データを得てもよい。また、複数の診断用出力データを得た場合、最も頻度が多かった種類の診断用出力データを用いて、コンクリートの劣化を診断または予測すればよい。
また、診断用出力データは、上述した学習用出力データとして挙げられているものと同様である。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
上述したコンクリートの劣化の診断方法(工程(M)~(N))によれば、診断の対象となるコンクリート(例えば、既存のコンクリート構造物)に関する、表面ひび割れ画像のデータを含む診断用入力データを、予測モデルに入力することで得られる、コンクリートの劣化に関するデータを含む診断用出力データから、対象となるコンクリートの劣化を診断または予測することができる。
例えば、コンクリートの劣化に関するデータとして、コンクリートの劣化の種別に関するデータを出力し、該データに基づいて、診断の対象となるコンクリートに発生している劣化の種類(例えば、アルカリ骨材反応(ASR)、エトリンガイトの遅延生成(DEF)、凍害、火害、塩害、または中性化による鉄筋腐食等を原因とする劣化)や、コンクリートの劣化の程度(劣化の大きさ)を診断または予測することができる。
診断の対象となるコンクリートに複数の種類の劣化が生じている場合には、各劣化の種類、各劣化の程度、及び、各劣化の程度からコンクリートの劣化における主な原因(要因)を診断または予測することができる。各劣化の種類、及び、各劣化の程度は、各劣化に起因するひび割れの量の絶対値から判定することができる。
【0052】
また、コンクリートの劣化に関するデータとして、診断の対象となるコンクリートの劣化の進展に関するデータを出力し、該データに基づいて、診断の対象となるコンクリートに発生している劣化の進展を診断または予測することができる。劣化の進展とは、現在、発生している劣化の進展の程度だけではなく、将来的なコンクリートの劣化の進展の予測も含まれる。
将来的なコンクリートの劣化の進展の予測を行う場合には、診断用入力データとして、コンクリートの供用環境に関するデータを使用することが好ましい。コンクリートの供用環境に関するデータ(コンクリートの設置場所における日射条件や雨掛かりの有無、年間の温度に関するデータ、年間の湿度に関するデータ、凍結防止剤の年間散布量等のデータ)としては、コンクリートが設置されてから現在に至るまでの過去のデータだけではなく、現在から予測をしたい時点までの、コンクリートの供用環境に関するデータ(予想されるデータ)が使用される。また、より高い精度で診断または予測する観点から、診断用入力データとして、上述したコンクリートの基本情報に関するデータを用いることが好ましい。
【0053】
また、コンクリートの劣化に関するデータとして、診断の対象となるコンクリートの劣化に対する補修方法に関するデータを出力し、該データに基づいて、対象コンクリートの劣化に対する最適な補修方法を診断(最適な補修方法を選定)することができる。
補修方法の例としては、ひび割れ補修工法、断面修復工法、表面被覆工法、表面含浸工法、剥落防止工法、電気化学的補修工法、及び構造物の更新等が挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
試験体Aとして、アルカリ骨材反応(ASR)による劣化を起こさせる目的で、原料を混練する際に、セメント中のNa
2Oeq(全アルカリ)の量が1.2質量%となるように、1mol/リットルの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を添加したコンクリートを硬化してなる横400mm×縦400mm×厚さ50mmの平板を作製した。
ラインセンサスキャナを用いて、試験体Aの上面の初期画像を取得した後、試験体Aを、40±2℃、相対湿度95%以上の環境下で5週間、静置した。これは、アルカリ骨材反応(ASR)を促進して、アルカリ骨材反応による劣化に起因する表面ひずみを顕在化するための処理である。
ラインセンサスキャナを用いて、表面ひずみが顕在化した試験体Aの表面ひずみ画像を取得した。
次いで、デジタル画像相関法を用いて、初期画像及び表面ひずみ画像から、試験体Aのひずみ分布のデータを作成した。得られたひずみ分布のデータを
図1に示す。
試験体Aから作成されたひずみ分布のデータ(画像)のうち、画像全体の面積に対して、10%となる面積のひずみ分布のデータを学習用入力データとし、コンクリートの劣化に関するデータ(劣化の種類:アルカリ骨材反応(ASR)による劣化)を、学習用出力データとした。
【0055】
また、試験体Bとして、水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を添加しない以外は試験体Aと同様にして横400mm×縦400mm×厚さ50mmの平板を作製し、試験体Bに乾燥収縮を発生させた。
ラインセンサスキャナを用いて、試験体Bの上面の初期画像を取得した後、試験体Bの表面を、ヒーターを用いて加熱をおこない、表面ひずみの顕在化処理を行った。加熱は、20℃で4時間加熱した後、1時間に20℃の昇温速度で90℃になるまで昇温し、次いで、90℃を12時間維持した。その後、1時間で8.75℃の降温速度で常温になるまで降温した。
ラインセンサスキャナを用いて、表面ひずみが顕在化した試験体Bの表面ひずみ画像を取得した。
次いで、デジタル画像相関法を用いて、初期画像及び表面ひずみ画像から、試験体Bのひずみ分布のデータを作成した。得られたひずみ分布のデータを
図2に示す。
試験体Bから作成されたひずみ分布のデータ(画像)のうち、画像全体の面積に対して、10%となる面積のひずみ分布のデータを学習用入力データとし、コンクリートの劣化に関するデータ(劣化の種類:乾燥収縮による劣化)を、学習用出力データとした。
畳み込みニューラルネットワーク、及び、試験体A~Bから得られた学習データ(学習用入力データと学習用出力データの組み合わせ)を用いて機械学習を行い、予測モデルを作成した。
【0056】
予測の対象となるコンクリートとして、アルカリ骨材反応(ASR)による劣化を模擬した、横400mm×縦400mm×厚さ50mmの平板を作製した。
ラインセンサスキャナを用いて、上記コンクリートの上面の初期画像を取得した後、コンクリートの表面を、ヒーターを用いて加熱をおこない、表面ひずみの顕在化処理を行った。具体的には、20℃で4時間前置き養生した後、1時間に20℃の昇温速度で90℃になるまで昇温し、次いで、90℃を12時間維持して、さらに、1時間で8.75℃の降温速度で常温になるまで降温することで顕在化処理を行った。
ラインセンサスキャナを用いて、表面ひずみが顕在化したコンクリートの表面ひずみ画像を取得した。
次いで、デジタル画像相関法を用いて、初期画像及び表面ひずみ画像から、コンクリートのひずみ分布を作成した。得られたひずみ分布を
図3に示す。
コンクリートから作成されたひずみ分布のデータ(画像)のうち、画像全体の面積に対して、10%となる面積のひずみ分布のデータを診断用入力データとし、該データを予測モデルに入力して、予測モデルからコンクリートの劣化に関するデータを含む診断用出力データを出力して、コンクリートの劣化を診断したところ、乾燥収縮とアルカリ骨材反応(ASR)による複合劣化が発生しており、アルカリ骨材反応を主要因とするものと診断された。
【0057】
[実施例2]
上記試験体Aを、40±2℃、相対湿度95%以上の環境下で6週間、静置した。これは、アルカリ骨材反応(ASR)を促進して、アルカリ骨材反応による劣化に起因する表面ひび割れを顕在化するための処理である。
目視により表面ひび割れが広く分布している箇所を選択し、該箇所を含む表面ひび割れ画像を取得した。
試験体Aから取得した表面ひび割れ画像のうち、該画像全体の面積に対して、10%となる面積の範囲の画像データ(表面ひび割れ画像のデータ)を学習用入力データとし、コンクリートの劣化に関するデータ(劣化の種類:アルカリ骨材反応(ASR)による劣化)を、学習用出力データとした。
畳み込みニューラルネットワーク、及び、試験体Aから得られた学習データ(学習用入力データと学習用出力データの組み合わせ)を用いて機械学習を行い、予測モデルを作成した。
予測の対象となるコンクリートとして、アルカリ骨材反応(ASR)による劣化を模擬した、横400mm×縦400mm×厚さ50mmの平板を作製した。
目視により表面ひび割れが広く分布している箇所を選択し、該箇所を含む表面ひび割れ画像を取得した。得られた表面ひび割れ画像を
図4に示す。
コンクリートから作成された表面ひび割れ画像のうち、該画像全体の面積に対して、10%となる面積の範囲の画像データ(表面ひび割れ画像のデータ)を診断用入力データとし、該データを予測モデルに入力して、予測モデルからコンクリートの劣化に関するデータを含む診断用出力データを出力して、コンクリートの劣化を診断したところ、アルカリ骨材反応(ASR)を主要因とするものと診断された。
【0058】
[実施例3]
実施例1の試験体Aで使用したコンクリートを用いて、2本の鉄筋(D10)を、試験体の内部に間隔をあけて平行に配筋してなる、横400mm×縦400mm×厚さ50mmの試験体C-1を作製した。
また、上記コンクリートを用いて、2本の鉄筋(D16)を、試験体の内部に間隔をあけて平行に配筋してなる、横400mm×縦400mm×厚さ50mmの試験体C-2、4本の鉄筋(D10)を、試験体の内部に井の字の形状に、すなわち間隔をあけて2本ずつ平行にかつ縦横に配筋してなる、横400mm×縦400mm×厚さ50mmの試験体C-3、および、鉄筋を使用しない横400mm×縦400mm×厚さ50mmの試験体C-4を、各々、作製した。
それぞれの試験体について、ラインセンサスキャナを用いて、上面の初期画像を取得した後、各試験体を、40±2℃、相対湿度95%以上の環境下で静置した。
ラインセンサスキャナを用いて、3週間経過後、5週間経過後、7週間経過後、及び9週間経過後の表面ひずみが顕在化した試験体の表面ひずみ画像を、各々、取得した。
次いで、デジタル画像相関法を用いて、初期画像及び表面ひずみ画像から、各座標のひずみ数値を1ピクセル毎に算出した。
得られたひずみ数値データ(187×342の行列データ)を、ひずみ数値の大きさで昇順に並べ替えた後、ひずみ数値の最小値から25%に位置するひずみ数値から、四分位範囲に1.5を乗じた数値を減算した数値を算出し、算出した数値をひずみ数値の下限値とした。
また、ひずみ数値の最小値から75%に位置するひずみ数値から、四分位範囲に1.5を乗じた数値を加算した数値を算出し、算出した数値をひずみ数値の上限値とした。
次いで、得られたひずみ数値データのうち、該データに含まれるひずみ数値が、上記下限値未満、及び、上記上限値を超えるデータを除外し、残ったひずみ数値データを正規化して、ひずみ数値データを256段階(0~255)の輝度で表される画像データに変換した。
上記画像データから、64×64ピクセルの画像を切り出した。該画像の位置を基準として、縦7ピクセル、横5ピクセルずつ移動させながら、合計1,000枚の画像を切り出すことで、一つの表面ひずみ画像から、1,000個のひずみ分布のデータを得た。
すなわち、一つの試験体から4,000個のひずみ分布のデータを得ることで、合計16,000個のひずみ分布のデータを得た。
【0059】
実施例1の試験体Bで使用したコンクリートを用いて、2本の鉄筋(D10)を、試験体の内部に間隔をあけて平行に配筋してなる、横400mm×縦400mm×厚さ50mmの試験体D-1を作製した。
また、上記コンクリートを用いて、2本の鉄筋(D16)を、試験体の内部に間隔をあけて平行に配筋してなる、横400mm×縦400mm×厚さ50mmの試験体D-2、4本の鉄筋(D10)を、試験体の内部に井の字の形状に、すなわち間隔をあけて2本ずつ平行にかつ縦横に配筋してなる、横400mm×縦400mm×厚さ50mmの試験体D-3、および、鉄筋を使用しない横400mm×縦400mm×厚さ50mmの試験体D-4を、各々、作製した。
それぞれの試験体について、ラインセンサスキャナを用いて、上面の初期画像を取得した後、各試験体を、実施例1の試験体Bと同様にして乾燥収縮を発生させて、表面ひずみの顕在化処理を行った。
ラインセンサスキャナを用いて、1週間経過後、2週間経過後、4週間経過後、及び6週間経過後の表面ひずみが顕在化した試験体の表面ひずみ画像を、各々、取得した。
上述した試験体C-1~C-4と同様にして、一つの表面ひずみ画像から、1,000個のひずみ分布のデータを得た。
すなわち、一つの試験体から4,000個のひずみ分布のデータを得ることで、合計16,000個のひずみ分布のデータを得た。
【0060】
また、エトリンガイトの遅延生成による劣化を起こさせる目的で、原料を混練する際に、 セメントの質量(100質量%)に対して、SO3換算で2質量%となる量の硫酸カリウム(K2SO4)を添加した以外は、上述した試験体C-1~C-4と同様にして、試験体E-1~E-4を作製した。
それぞれの試験体について、ラインセンサスキャナを用いて、上面の初期画像を取得した後、各試験体を、40±2℃、相対湿度95%以上の環境下で静置した。
ラインセンサスキャナを用いて、1週間経過後、3週間経過後、5週間経過後、7週間経過後(ただし、鉄筋を使用しない試験体は除く。)、及び9週間経過後の表面ひずみが顕在化した試験体の表面ひずみ画像を、各々、取得した。
上述した試験体C-1~C-4と同様にして、一つの表面ひずみ画像から、1,000個のひずみ分布のデータを得た。
すなわち、一つの試験体から5,000個、または、4,000個(鉄筋を使用しない試験体から得られたもの)のひずみ分布のデータを得ることで、合計19,000個のひずみ分布のデータを得た。
【0061】
上述した合計51,000個のひずみ分布のデータを用いて、機械学習を行い、予測モデルを作成した。
なお、試験体C-1~C-4(アルカリ骨材反応(ASR)による劣化が発生したもの)から得られた12,000個のひずみデータ、試験体D-1~D-4(乾燥収縮による劣化が発生したもの)から得られた12,000個のひずみデータ、及び、試験体E-1~E-4(エトリンガイトの遅延生成による劣化が発生したもの)から得られた14,000個のひずみデータを、学習用入力データとして使用し、残りのデータ(試験体C-1~C-4から得られた4,000個のひずみデータ、試験体D-1~D-4から得られた4,000個のひずみデータ、及び、試験体E-1~E-4から得られた5,000個のひずみデータ)を、検証用のデータとして使用することで、機械学習を行った。
【0062】
予測の対象となるコンクリートとして、アルカリ骨材反応(ASR)による劣化を模擬した、横400mm×縦400mm×厚さ50mmの平板を作製した。
ラインセンサスキャナを用いて、上記コンクリートの上面の初期画像を取得した後、40±2℃、相対湿度95%以上の環境下で9週間、静置した。
ラインセンサスキャナを用いて、3、5、7、9週間経過後の表面ひずみが顕在化したコンクリートの表面ひずみ画像を、各々、取得した。
次いで、上記試験体Aと同様にして、3、5、7、9週間経過後の試験体から、各々、1,000個のひずみ分布のデータを得た。
1,000個のひずみ分布のデータの各々について、ひずみ分布のデータを診断用入力データとして予測モデルに入力して、予測モデルからコンクリートの劣化に関するデータを含む診断用出力データを出力し、1,000個のコンクリートの劣化に関するデータ(劣化の種別)を得た。該データの正解率を算出した。
【0063】
また、予測の対象となるコンクリートとして、乾燥収縮を模擬した、横400mm×縦400mm×厚さ50mmの平板を使用する以外は、アルカリ骨材反応(ASR)による劣化を模擬した平板と同様にして、1,000個のコンクリートの劣化に関するデータを得た後、正解率を算出した。
さらに、予測の対象となるコンクリートとして、エトリンガイトの遅延生成による劣化を模擬した、横400mm×縦400mm×厚さ50mmの平板を使用する以外は、アルカリ骨材反応(ASR)による劣化を模擬した平板と同様にして、1,000個のコンクリートの劣化に関するデータを得た後、正解率を算出した。
結果を表1に示す。
【0064】
[実施例4]
ひずみ数値の最小値から10%に位置するひずみ数値から、四分位範囲に1.5を乗じた数値を減算した数値を算出し、算出した数値をひずみ数値の下限値とし、ひずみ数値の最小値から90%に位置するひずみ数値から、四分位範囲に1.5を乗じた数値を加算した数値を算出し、算出した数値をひずみ数値の上限値とする以外は、実施例3と同様にして、予測モデルを作成し、該予測モデルを用いて、アルカリ骨材反応(ASR)による劣化を模擬した平板、乾燥収縮を模擬した平板、エトリンガイトの遅延生成による劣化を模擬した平板について、コンクリートの劣化に関するデータを出力して、その正解率を算出した。結果を表1に示す。
【0065】
【0066】
表1から、実施例3(工程(d-2)において、ひずみ数値の最小値から25%に位置するひずみ数値、及び、75%に位置するひずみ数値を選択したもの)の正解率は、実施例4の(工程(d-2)において、ひずみ数値の最小値から10%に位置するひずみ数値、及び、90%に位置するひずみ数値を選択したもの)の正解率よりも大きいことがわかる。