(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】部分放電検出装置、部分放電検出方法および部分放電検出プログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/12 20200101AFI20240318BHJP
G01R 31/08 20200101ALI20240318BHJP
【FI】
G01R31/12 A
G01R31/08
(21)【出願番号】P 2020091421
(22)【出願日】2020-05-26
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】鷹箸 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】水出 隆
(72)【発明者】
【氏名】高橋 栄也
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-045459(JP,A)
【文献】特開2000-304837(JP,A)
【文献】特開2020-047476(JP,A)
【文献】特開2010-117298(JP,A)
【文献】特開2002-118912(JP,A)
【文献】特開平11-248783(JP,A)
【文献】特開2018-179598(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/12
G01R 31/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象の複数部位において検知された部分放電信号のそれぞれについて、信号波形に関する特徴量を取得する特徴量取得部と、
前記複数部位のそれぞれに関して前記特徴量の統計データを取得する統計処理部と、
前記複数部位に関して取得された統計データを比較することにより、検知された部分放電の発生源を特定する部分放電診断部と、
を備え
、
前記統計処理部は、前記部分放電信号の波高値および位相を前記特徴量として取得する、
部分放電検出装置。
【請求項2】
前記部分放電診断部は、前記複数部位のうちの隣接する部位について取得された統計データを比較することにより前記部分放電の発生源を特定する、
請求項1に記載の部分放電検出装置。
【請求項3】
前記部分放電診断部は、前記複数部位について取得された統計データのうち同じ間隔で離間する部位に関して取得された統計データをサンプリングし、サンプリングした統計データを比較することにより前記部分放電の発生源を特定する、
請求項1又は2に記載の部分放電検出装置。
【請求項4】
前記部分放電診断部は、前記位相の統計値が一致する部分放電信号は同じ部分放電によるものとして識別し、同じ部分放電によるものと識別された部分放電信号の波高値の大小関係により、前記複数部位のうち前記部分放電の発生源である部位を特定する、
請求項1から3のいずれか一項に記載の部分放電検出装置。
【請求項5】
前記検出対象の複数部位において検出された表面電位信号から高周波信号を抽出するハイパスフィルタと、
前記表面電位信号から低周波信号を抽出するローパスフィルタと、
をさらに備え、
前記特徴量取得部は、前記高周波信号および前記低周波信号に基づいて前記部分放電信号を検出する、
請求項1から
4のいずれか一項に記載の部分放電検出装置。
【請求項6】
前記特徴量取得部は、前記高周波信号又は前記低周波信号の波高値および位相を前記特徴量として取得する、
請求項5に記載の部分放電検出装置。
【請求項7】
検出対象の複数部位において検知された部分放電信号のそれぞれについて、信号波形に関する特徴量を取得する特徴量取得ステップと、
前記複数部位のそれぞれに関して前記特徴量の統計データを取得する統計処理ステップと、
前記複数部位に関して取得された統計データを比較することにより、検知された部分放電の発生源を特定する部分放電診断ステップと、
を有
し、
前記統計処理ステップでは、前記部分放電信号の波高値および位相を前記特徴量として取得する、
部分放電検出方法。
【請求項8】
検出対象の複数部位において検知された部分放電信号のそれぞれについて、信号波形に関する特徴量を取得する特徴量取得ステップと、
前記複数部位のそれぞれに関して前記特徴量の統計データを取得する統計処理ステップと、
前記複数部位に関して取得された統計データを比較することにより、検知された部分放電の発生源を特定する部分放電診断ステップと、
をコンピュータに実行させ
、
前記統計処理ステップでは、前記部分放電信号の波高値および位相を前記特徴量として取得する、
コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、部分放電検出装置、部分放電検出方法および部分放電検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力機器は、経年劣化によって、その表面または内部の絶縁体の絶縁性能が低下する。絶縁性能が低下すると、絶縁性能が低下した箇所で部分放電が発生する。絶縁性能の低下がさらに進行した場合、電力機器に絶縁破壊が起こる。絶縁破壊によって、地絡事故等の重大事故が発生する。このような重大事故の発生を防止するため、電力機器の維持・保守において、部分放電を検出することが行われている。
【0003】
従来、スイッチギヤのような箱体内に遮断器などを収納する電力機器においては、箱体に複数の部分放電センサーを取り付け、部分放電の発生位置を特定するものが知られている。部分放電センサーは、浮遊容量を介して伝搬する部分放電のパルス信号を検出するセンサである。この場合、部分放電のパルス信号が発生位置から部分放電センサーに到達するまでの時間差から三次元位置も特定することができる。
【0004】
また、主回路を構成する導体のような電気部材を絶縁材料でモールドしたスイッチギヤでは、複数の電極を有し、各電極間の電位差に基づいて部分放電を検出するものが知られている。具体的には、接地層の表面に表面電位を検出する複数の電極を設け、所定のものを基準電極とし、他のものを測定電極とし、基準電極から測定電極の表面電位を減算して電位差を求める。さらには、表面電位を検出する一対の電極の一方を接地層の表面に、他方を接地層と非接触に配置し、これらの出力の差分をとることによりS/N比(Signal to Noise Ratio)を向上させるものも知られている。
【0005】
部分放電を検出するこれらの従来手法では、複数のセンサで同時に複数部位の電位を測定し、検出信号を部分放電計測システムに一括入力して高速演算する必要があるため、装置が高価なものとなっていた。また実際の点検作業においても、隣接する箱体毎に点検員がセンサの取り付けと測定を繰り返し実行するという運用が一般的であり、複数のセンサでの同時測定を必要とする部分放電の検出方法は、実際の運用にそぐわない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-149896号公報
【文献】特開2012-220209号公報
【文献】特開2012-220208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、複数部位の電位の非同期測定により部分放電の発生部位を特定することができる部分放電検出装置、部分放電検出方法および部分放電検出プログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の部分放電検出装置は、特徴量取得部と、統計処理部と、部分放電診断部と、を持つ。特徴量取得部は、検出対象の複数部位において検知された部分放電信号のそれぞれについて、信号波形に関する特徴量を取得する。統計処理部は、前記複数部位のそれぞれに関して前記特徴量の統計データを取得する。部分放電診断部は、前記複数部位に関して取得された統計データを比較することにより、検知された部分放電の発生源を特定する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の部分放電検出装置の構成例を示す図。
【
図2】実施形態の部分放電検出装置における信号処理回路の構成例を示すブロック図。
【
図3】実施形態の部分放電検出装置が部分放電信号を検出する方法の具体例を示す第1の図。
【
図4】実施形態の部分放電検出装置が部分放電信号を検出する方法の具体例を示す第2の図。
【
図5】実施形態の部分放電検出装置が複数の箱体で構成される電源系統の部分放電を検出する処理の具体例を示すフローチャート。
【
図6】実施形態の部分放電検出装置が部分放電信号の統計データに基づいて部分放電が発生した箱体を特定する方法の具体例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態の部分放電検出装置、部分放電検出方法および部分放電検出プログラムを、図面を参照して説明する。
【0011】
図1は、実施形態の部分放電検出装置100の構成例を示す図である。部分放電検出装置100は複数の箱体1、複数の電極2、信号処理回路3を備える。
図1に示す部分放電検出装置100は、複数の箱体1の一例として第1~第n(nは1以上の整数)の箱体1(箱体1-1~1-n)を備えている。第1~第nの箱体1のそれぞれには遮断器や主回路導体などの電気機器が収容される。第1~第nの箱体1は略直線状に並べて配置され、所定の電源系統を構成する。また第1~第nの箱体1は、その下部に共通の接地母線5を有し、接地母線5を介して接地極6に接続されている。
【0012】
また
図1に示す部分放電検出装置100は、複数の電極2の一例として第1~第nの箱体1のそれぞれに1つずつ設けられる第1~第nの電極2(電極2-1~2-n)を備えている。第1~第nの電極2は、それぞれ、その一端が対応する箱体1に接触するように固定され、他端が信号処理回路3に接続される。ここで、「対応する箱体1」とは、第1~第nの電極2のそれぞれについて、各電極2が設置された箱体1を表す。例えば、電極2-1に対応する箱体1とは、電極2-1が設置された箱体1-1のことである。換言すれば、第N(1≦N≦n)の電極2に対応する箱体1は、第Nの箱体1(箱体1-N)ということができる。以下では、特に区別しない場合、第1~第nの箱体1をまとめて「箱体1」といい、第1~第nの電極2をまとめて「電極2」という場合がある。また、この場合、ある電極2が設置された箱体1を単に「電極2に対応する箱体1」という。
【0013】
電極2は、対応する箱体1に収容されている電気機器との間の浮遊容量を介して箱体1の表面に形成される電位に応じた信号(以下「表面電位信号」という。)を出力する機能を有する。電極2は、表面電位信号を信号処理回路3に出力する。信号処理回路3は、第1~第nの電極2から出力される表面電位信号から部分放電を示す微弱な信号(以下「部分放電信号」という。)を検出する機能を有する。
【0014】
ここで、第1~第nの箱体1は、正面板、天井板、背面板、床板、側面板で構成されており、いずれかの板面に第1~第nの電極2が接触するように固定される。例えば、
図1は箱体1の正面版に接触するように電極2が固定して設置され、箱体1の床板が接地母線5に接続された例を示している。以下では、これらの正面板、天井板、背面板、床板、側面板を総称して箱体1を構成する「構成板」と称する。
【0015】
図2は、本実施形態の部分放電検出装置における信号処理回路の構成例を示すブロック図である。例えば、信号処理回路3は、バスで接続されたCPU(Central Processing Unit)やメモリや補助記憶装置などを備え、プログラムを実行する。信号処理回路3は、プログラムの実行によって記憶部31、ハイパスフィルタ(HPF:High Pass Filter)32、ローパスフィルタ(LPF:Low Pass Filter)33、特徴量取得部34、統計処理部35、部分放電診断部36を備える装置として機能する。信号処理回路3は、第1~第nの電極2から表面電位信号を入力し、診断結果情報を出力する。診断結果情報は、第1~第nの箱体1によって構成される電源系統について部分放電の発生有無に関する診断結果を示す情報である。
【0016】
なお、信号処理回路3の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等のハードウェアを用いて実現されてもよい。プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置である。プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
【0017】
記憶部31は、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶装置やSSD(Solid State Drive)等の半導体記憶装置を用いて構成される。記憶部31には、信号処理回路3の動作に関する任意の情報を記録することができる。記憶部31には、信号処理回路3の動作に関する情報が予め記憶されていてもよい。
【0018】
ハイパスフィルタ32およびローパスフィルタ33は、入力信号から所定の周波数帯の信号成分を抽出する機能部である。ハイパスフィルタ32は比較的高い周波数帯の信号成分を抽出し、ローパスフィルタ33は比較的低い周波数帯の信号成分を抽出する。信号処理回路3には第1~第nの電極2からn系統の表面電位信号が入力される。信号処理回路3に入力されたn系統の表面電位信号は、ハイパスフィルタ32およびローパスフィルタ33により、高周波信号と低周波信号とに分解される。ハイパスフィルタ32およびローパスフィルタ33により分解されたn系統の高周波信号および低周波信号は、後段の特徴量取得部34に出力される。
【0019】
特徴量取得部34は、ハイパスフィルタ32およびローパスフィルタ33から表面電位信号が分解されたn系統の高周波信号および低周波信号を入力する。特徴量取得部34は、入力した高周波信号および低周波信号から部分放電信号の検出を試みる。特徴量取得部34は、部分放電信号が検出されるごとに、検出された部分放電信号の特徴量を計測し、その計測データ(以下「特徴量データ」という。)を統計処理部35に出力する。部分放電信号の検出及び特徴量の計測は、n系統の表面電位信号について任意のタイミングで行われてよい。
【0020】
統計処理部35は、n系統の箱体1について任意のタイミングで検出される部分放電信号の特徴量データを特徴量取得部34から入力して記憶部31に蓄積していくとともに、所定期間に取得された特徴量データに対する統計処理を繰り返し実行することにより、記憶部31に上記特徴量の統計データを時系列に蓄積していく機能を有する。なお、特徴量のばらつきを平準化することができれば、統計データの取得には任意の統計値が用いられてもよい。例えば、統計データの取得には、平均値や中央値、最頻値、最小値、最大値などの統計値を用いることができる。
【0021】
部分放電診断部36は、特徴量取得部34によって検出された部分放電の発生部位を、記憶部31に蓄積されている統計データに基づいて特定する機能を有する。以下、この機能を部分放電の診断機能という。部分放電診断部36は、部分放電の診断結果を示す診断結果情報を所定の態様で出力する。例えば、部分放電診断部36は、表示装置の入力形式に合わせて診断結果情報を出力することにより診断結果の内容を表示装置に表示させてもよいし、音声出力装置の入力形式に合わせて診断結果情報を出力することにより、診断結果の内容を示す音声を音声出力装置に出力させてもよい。また例えば部分放電診断部36は、診断結果情報を通信ネットワークを介して他の装置に送信するように構成されてもよい。
【0022】
図3および
図4は、本実施形態の部分放電検出装置100が部分放電信号を検出する方法を示す図である。
図3は、部分放電信号の周波数特性の具体例を示す図である。
図3に示されるように、部分放電が発生するとき、一般には、電極2により検出される表面電位信号において、数MHz~数10MHzの周波数帯域に主成分を持つ接地電流由来の低周波信号と、100MHz以上の周波数帯域に主成分を持つ電磁波由来の高周波信号とが同時に発生する。ここで、接地電流由来の低周波信号は、接地母線5を通じて伝搬され、接地フィールドにおける背景雑音(図中の破線)と競合するために検出感度は低い。一方、高周波信号は、接地フィールドの背景雑音に対して検出感度が高い。すなわち、低周波信号においてはS/N比が低く、高周波信号においてはS/Nが高くなる。
【0023】
そこで
図4に示すように、本実施形態の部分放電検出装置100は、高周波信号と低周波信号とで信号波形(振幅波形)のマッチングを行い、閾値以上の電位差が同じタイミングで発生している箇所を検出する構成を備えることにより、部分放電の発生タイミングを特定することが可能となる。
【0024】
図5は、本実施形態の部分放電検出装置100が複数の箱体1で構成される電源系統の部分放電を検出する処理の具体例を示すフローチャートである。まず、第1~第nの箱体1について測定された表面電位信号が信号処理回路3に入力される(ステップS101)。信号処理回路3に入力されるn系統の表面電位信号は、全系統について同じタイミングで測定されたものであってもよいし、一部の系統について異なるタイミングで測定されたものであってもよい。
【0025】
続いて、信号処理回路3では、ハイパスフィルタ32およびローパスフィルタ33が、n系統の入力信号のそれぞれについて高周波信号および低周波信号を抽出する(ステップS102)。ハイパスフィルタ32およびローパスフィルタ33は、検出された高周波信号および低周波信号を後段の特徴量取得部34に出力する。
【0026】
続いて、特徴量取得部34は、ハイパスフィルタ32およびローパスフィルタ33から高周波信号および低周波信号を入力し、入力した高周波信号および低周波信号から部分放電信号の検出を試みる(ステップS103)。一方、ステップS103において部分放電信号が検出されなかった場合(ステップS103-NO)、処理はステップS101に処理を戻される。一方、部分放電信号が検出された場合(ステップS103-YES)、特徴量取得部34は、検出された部分放電信号の特徴量を計測する(ステップS104)。特徴量取得部34は、特徴量の計測データ(以下「特徴量データ」という。)を統計処理部35に出力する。なお、部分放電信号の検出及び特徴量の計測は、n系統の表面電位信号について任意のタイミングで行われてよい。
【0027】
例えば、特徴量取得部34が、上記マッチングによって検出された部分放電信号の特徴量として、低周波信号の波高値と位相を計測する。この計測は、部分放電信号が検知されるごとに実施される。なお、箱体1の表面電位は電力系統の運転電圧に相関して変動し、一般には表面電位信号の位相と運転電圧の位相は同じであるため、低周波信号の位相は電力系統の運転電圧を参照して判定されるとよい。
【0028】
一般に、複数の箱体(以下では「盤」ともいう。)で構成された電力系統において部分放電が発生した盤を特定する場合、各盤に取り付けられた電極(以下では「センサ」ともいう。)により各盤の表面電位信号を同時に検知し、検知された表面電位信号の波高値の大小を異なる系統間で比較することが必要になるのに対し、本実施形態の部分放電検出装置100は、検出された部分放電信号そのものの蓄積に代えて(又は加えて)、部分放電信号の統計データを蓄積していくことにより、複数の箱体1の表面電位を非同期で測定した結果に基づいて部分放電の発生部位を特定することを可能にする。
【0029】
具体的には、統計処理部35が、各系統ごとに所定時間取得された特徴量データに対して統計処理を実施し、その処理結果である統計データを記憶部31に蓄積していく(ステップS105)とともに、部分放電診断部36が、蓄積された統計データに基づいて部分放電の発生箇所を特定する(ステップS106)。
【0030】
ここで、各系統について統計精度のばらつきが発生することを抑制するため、各箱体1の表面電位は同程度の測定周期で測定されることが望ましい。また、部分放電信号の傾向をより正確に把握するためには、各箱体1の表面電位は運転電圧の100周期分程度の測定がなされることが望ましい。
【0031】
このような統計処理部35および部分放電診断部36を備えることにより、本実施形態の部分放電検出装置100は、複数の箱体1の表面電位を同時に測定することなく、部分放電が発生した箱体1を特定することが可能となる。
【0032】
図6は、本実施形態の部分放電検出装置が部分放電信号の統計データに基づいて部分放電が発生した箱体1を特定する方法の具体例を示す図である。ここでは簡単のため、隣接する3つの箱体1の表面電位信号に基づいて部分放電の発生箇所を特定する場合について説明する。
図6(A)は、隣接する3つの箱体1-(k-1)、箱体1-k、箱体1-(k+1)がそれぞれ表面電位信号X(k-1)、X(k)、X(k+1)を信号処理回路3に出力している状況を表している。kは2以上かつ(n-1)以下の整数である。
【0033】
一方、
図6(B)は、表面電位信号Y(k-1)、Y(k)、Y(k+1)について取得された統計データX(k-1)、X(k)、X(k+1)の具体例を示している。上述したように、統計データは、表面電位信号から検出される部分放電信号の特徴量のばらつきを平準化したものである。この例の場合、部分放電診断部36は、隣り合う箱体1-(k-1)、箱体1-k、箱体1-(k+1)について部分放電が発生したときの信号の位相および波高値(放電電荷量Q)を比較することにより、以下の(診断1)及び(診断2)に示す事項を診断することができる。
【0034】
(診断1)
統計データX(k-1)およびX(k)が同じ部分放電を表し、その部分放電の発生源が統計データX(k)に対応する箱体1-kであること。
(診断2)
統計データX(k+1)は、統計データX(k-1)およびX(k)と異なる部分放電を表すこと。
【0035】
具体的には、(診断1)の内容については、統計データX(k-1)およびX(k)の位相φの分布が同等(つまり部分放電の検出タイミングが同じとみなせる)であり、かつ統計データX(k-1)よりもX(k)の方が波高値が大きいことを判定することにより診断することができる。一方(診断2)の内容については、統計データX(k)およびX(k+1)の位相φの分布が異なることを判定することにより診断することができる。
【0036】
従来の部分放電検出装置は、部分放電の発生源を特定するために必要となる各箱体1の表面電位信号が同時に入力される必要があった。このため、従来の部分放電検出装置で表面電位信号を非同期で取得しようとした場合、所定期間の表面電位信号を各系統ごとに保持しておくことができるだけの記憶容量が必要となり、装置が高価になってしまう可能性があった。
【0037】
これに対して、本実施形態の部分放電検出装置100は、電力系統を構成する複数の箱体1について測定された表面電位信号から部分放電信号を検出し、かつ検出した部分放電信号の特徴量を抽出する機能を有する。ここで部分放電信号は表面電位信号の一部であり、かつ部分放電信号から抽出される特徴量のデータ量は、抽出元の表面電位信号又は部分放電信号よりも小さくなることが多い。そのため、表面電位信号そのものを蓄積することに代えて、一部の部分放電信号を蓄積すること、さらには、部分放電信号の特徴量を蓄積することにより、より少ない記憶容量でより長い期間の情報を蓄積することが可能となる。このような構成を備えることにより、本実施形態の部分放電検出装置100は、複数部位の電位の非同期測定により部分放電の発生部位を特定することが可能となる。
【0038】
さらに本実施形態の部分放電検出装置100は、蓄積する部分放電信号の特徴量を所定期間の統計データとして取得する機能を有する。部分放電は同じ箇所で周期的に発生すると考えられるが、発生するタイミングや、発生する放電の強度は、その発生ごとにばらつきがあることが多い。そのため、本実施形態の部分放電検出装置100のように、部分放電の診断のために蓄積するデータとして、所定期間において発生した各部分放電信号の特徴量の統計データを取得することにより、部分放電の発生の傾向をより正確に把握することができる。このような構成を備えることにより、本実施形態の部分放電検出装置100は、部分放電の発生源をより正確に検出することが可能となる。
【0039】
<変形例>
上記実施形態の部分放電検出装置100は、部分放電の発生タイミングにおける低周波信号を部分放電信号とし、その低周波信号の波高値および位相を部分放電信号の特徴量として取得した。これに代えて、部分放電検出装置100は、部分放電の発生タイミングにおける高周波信号を部分放電信号とし、その高周波信号の波高値および位相を部分放電信号の特徴量として取得するように構成されてもよい。また、部分放電検出装置100は、部分放電の発生タイミングにおける低周波信号および高周波信号に基づいて取得される信号を部分放電信号とし、その信号の波高値および位相を部分放電信号の特徴量として取得するように構成されてもよい。
【0040】
上記実施形態の部分放電検出装置100は、隣り合う箱体1について取得された統計データを比較することにより部分放電の発生源を特定した。これに代えて、部分放電検出装置100は、同じ間隔で離間する箱体1について取得された統計データを比較することにより部分放電の発生源を特定するように構成されてもよい。例えば、複数の箱体1が、箱体1-1、1-2、…、1-nの順に隣接している場合(
図1参照)、部分放電検出装置100は、これらの統計データ群から1つおきに統計データをサンプリングし、サンプリングした統計データ群の中で隣り合う統計データを比較することにより部分放電の発生源を特定してもよい。より具体的には、この場合、部分放電検出装置100は、例えば箱体1-1、箱体1-3、箱体1-5、箱体1-7、…の統計データをサンプリングし、箱体1-1と箱体1-3、箱体1-3と箱体1-5、箱体1-5と箱体1-7のように隣り合う統計データを比較する。このように、同じ間隔で隣接する箱体1の統計データをサンプリングすることにより、部分放電の発生源を特定する際に扱うデータ量を削減し、部分放電の診断に要する時間を短縮することができる。
【0041】
上記実施形態の部分放電検出装置100は、従来と同様の方法で部分放電の発生源を特定する構成を備えてもよい。具体的には、部分放電検出装置100は、各箱体1の表面電位信号を同時に入力し、その波形の比較により部分放電の識別し、各部分放電の発生源を特定する構成を備えてもよい。
【0042】
部分放電検出装置100は、表面電位信号を入力とし、診断結果情報を出力とする装置として構成されてもよい。すなわち、部分放電検出装置100は、上記実施形態における信号処理回路3を備える装置として構成されればよく、必ずしも表面電位信号を測定するための電極2を一体に備えている必要はない。
【0043】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、検出対象の複数部位において検知された部分放電信号のそれぞれについて、信号波形に関する特徴量を取得する特徴量取得部と、前記複数部位のそれぞれに関して前記特徴量の統計データを取得する統計処理部と、前記複数部位に関して取得された統計データを比較することにより、検知された部分放電の発生源を特定する部分放電診断部と、を持つことにより、複数部位の電位の非同期測定により部分放電の発生部位を特定することができる。
【0044】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0045】
100…部分放電検出装置、1、1-1~1-n…箱体、2、2-1~2-n…電極、3…信号処理回路、31…記憶部、32…ハイパスフィルタ、33…ローパスフィルタ、34…特徴量取得部、35…統計処理部、36…部分放電診断部、5…接地母線、6…接地極。