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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】乗り物用シート
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/90 20180101AFI20240318BHJP
【FI】
B60N2/90
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020107180
(22)【出願日】2020-06-22
(65)【公開番号】P2022001477
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】弁理士法人航栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健二
【審査官】小林 睦
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-125121(JP,A)
【文献】特開平11-321414(JP,A)
【文献】実開昭50-052498(JP,U)
【文献】特開2005-184935(JP,A)
【文献】特開2004-081385(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0148550(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物の乗員が着座する乗り物用シートであって、
シートフレームを覆うカバーと、
前記カバーの内側に配索されるワイヤーハーネスと、
前記シートフレームに取り付けられ、且つ前記ワイヤーハーネスの一部を包被する可撓性の包被部材と、
を備え
前記包被部材は、離れて配置された第一スリット及び第二スリットを含むシート状の本体部を有し、且つ、前記第一スリットと前記第二スリットが重なる状態にて前記本体部が折り曲げられており、
前記シートフレームは、前記第一スリット及び前記第二スリットを貫通する貫通部を有し、
前記包被部材は、前記貫通部において前記シートフレームに支持されており、
折り曲げられた前記本体部の内側に、前記ワイヤーハーネスの一部、及び、前記シートフレームの一部、が配置されている乗り物用シート。
【請求項2】
乗り物の乗員が着座する乗り物用シートであって、
シートフレームを覆うカバーと、
前記カバーの内側に配索されるワイヤーハーネスと、
前記シートフレームに取り付けられ、且つ前記ワイヤーハーネスの一部を包被する可撓性の包被部材と、
を備え、
前記包被部材は、離れて配置された第一スリット及び第二スリットを含むシート状の本体部を有し、且つ、前記第一スリットと前記第二スリットが重なる状態にて前記本体部が折り曲げられており、
前記シートフレームは、前記第一スリット及び前記第二スリットを貫通する貫通部を有し、
前記包被部材は、前記貫通部において前記シートフレームに支持されており、
前記ワイヤーハーネスの一部は、折り曲げられた前記本体部の内側に配置され、
前記包被部材は、前記本体部の前記第一スリット側の端部における前記第一スリットの一端側から延びた第一延出部と、前記端部における前記第一スリットの他端側から延びた第二延出部と、を有し、
前記第一延出部と前記第二延出部は、それぞれ、折り曲げられた前記本体部の外面に係止可能に構成されている乗り物用シート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の乗り物用シートであって、
前記シートフレームは、シートバックの骨格をなすシートバックフレームである乗り物用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着座者の姿勢を保持する乗り物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの乗り物に搭載され着座者の姿勢を保持する乗り物用シートにおいて、ワイヤーハーネス等の配線を保持する構造のものが知られている(例えば特許文献1、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0003】
特許文献1には、ケーブルの露出部分を包被カバーで包被することにより、見栄えの低下を防止した車両用シートが記載されている。
【0004】
特許文献2には、外部に露出するワイヤーハーネスを布製のカバー部材で覆って保持する車両用シートが記載されている。
【0005】
特許文献3には、シートのシートバック内部のワイヤーハーネスが樹脂製のクリップによりバックボードに固定される車両用シートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-68779号公報
【文献】特開2012-40901号公報
【文献】特開2014-125188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3のように、シート内部において剛性の高い部材を用いてワイヤーハーネスの固定を行う構造の場合、内部突起に関する安全基準を満たすことが難しくなる場合がある。また、ワイヤーハーネスを固定する際にワイヤーハーネスを損傷させてしまう可能性もある。更には、ワイヤーハーネスの形状に合わせて固定のための部材を製造する必要がある。これらの理由から、シートの製造コストが増大する。特許文献1及び特許文献2は、シートの外観品質を向上させることを目的としており、シート内部でのワイヤーハーネス等の保持については考慮されていない。
【0008】
本発明の目的は、製造コストを下げることのできる乗り物用シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の乗り物用シートは、乗り物の乗員が着座する乗り物用シートであって、シートフレームを覆うカバーと、前記カバーの内側に配索されるワイヤーハーネスと、前記シートフレームに取り付けられ、且つ前記ワイヤーハーネスの一部を包被する可撓性の包被部材と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製造コストを下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の乗り物用シートの一実施形態である自動車用シートの概略構成を示す一部を破断した概略斜視図である。
図2図1に示す自動車用シートの内部構造をシート後方側から見た要部背面図である。
図3】(a)は、図2に示す包被部材の展開図であり、(b)は、図2に示す包被部材の展開状態の側面図である。
図4図2に示す包被部材の取り付けに際しての折り畳み状態を示す平面図である。
図5】包被部材を図4に示す折り畳んだ状態でサブフレームに取り付けるときの斜視図である。
図6】包被部材がサブフレームの貫通部に保持された状態の斜視図である。
図7】包被部材がサブフレームの貫通部に保持された状態において、第一延出部をサブフレームに巻き付ける操作を示す斜視図である。
図8】包被部材の第一延出部及び第二延出部がサブフレームに巻き付けられた状態を示す斜視図である。
図9】包被部材がワイヤーハーネスを保持する状態を示した斜視図である。
図10】自動車用シートの第1変形例において、包被部材のサブフレームへの取り付け状態を示す斜視図である。
図11図10に示す包被部材によるワイヤーハーネスの保持状態を示す斜視図である。
図12】自動車用シートの第2変形例において、包被部材のサブフレームへの取り付け途中の状態を示す斜視図である。
図13図12に示す包被部材によってワイヤーハーネスを保持する際の操作途中の状態を示す斜視図である。
図14】自動車用シートの第3変形例において、包被部材によるワイヤーハーネスの保持状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、本発明の乗り物用シートの一実施形態である自動車用シート1の概略構成を示す一部破断した斜視図である。図2は、自動車用シート1の内部構造をシート後方側から見た要部概略背面図である。
【0013】
なお、以下の向きの記載については、自動車用シート1に正規の姿勢にて座る乗員から見て、前方を前方側、後方を後方側と記載し、これらを併せて前後方向と記載する。また、前後方向に直交する方向(乗員の右方向及び左方向)を左右方向と記載する。また、前後方向及び左右方向に垂直な方向でヘッドレスト側から下に向かう方向を下方と記載し、下方の逆方向を上方と記載し、これらを併せて上下方向と記載する。
【0014】
図1に示すように、自動車用シート1は、自動車の前方側に配置され、一人の乗員が着座可能なフロントシートである。自動車用シート1は、車両のボディー(本体)に固定されており、正規の姿勢で着座した利用者(自動車用シート1が搭載される自動車の乗員)の臀部及び大腿部を支持するシートクッション20と、正規の姿勢で着座した乗員の腰部及び背部を支持するシートバック30と、正規の姿勢で着座した乗員の頭部を支持するヘッドレスト50と、を備える。
【0015】
シートクッション20は、シートクッション20の骨格(ベース)をなす金属等で構成されたクッションフレーム21を備える。クッションフレーム21は、ウレタンフォームなどの比較的軟質な樹脂発泡材からなるクッションパッド20pにより全体的に被覆される。クッションパッド20pとクッションフレーム21には、トリムカバー20Tが覆うように取り付けられる。すなわち、トリムカバー20Tは、シートクッション20の一部としてその外表面を構成している。また、クッションフレーム21には、クッションパッド20pを支えるシートスプリング28等が設けられている。
【0016】
シートバック30は、シートバック30の骨格をなす金属等で構成されたシートバックフレーム31を備える。シートバックフレーム31は、例えば、複数の部材から構成されている。具体的には、シートバックフレーム31は、左右方向に間隔を有して上下方向に延出された左右一対のサイドフレーム34(図2参照)と、一対のサイドフレーム34それぞれの上端部及び下端部同士を連結する上下一対のパイプフレーム33と、左右のサイドフレーム34間に左右方向に架け渡すように配置されたサブフレーム35と、を含んで構成される。
【0017】
シートバックフレーム31は、ウレタンフォームなどの比較的軟質な樹脂発泡材からなるクッションパッド30pにより全体的に被覆される。クッションパッド30pとシートバックフレーム31には、トリムカバー30Tが覆うように取り付けられる。すなわち、トリムカバー30Tは、シートバック30の一部としてその外表面を構成している。
【0018】
トリムカバー20Tとトリムカバー30Tは、それぞれ、複数のカバー部材が縫合されて形成された袋状のカバーである。カバー部材としては、例えば皮革(天然皮革、合成皮革)又は布帛(織物、編物、不織布)が用いられる。カバー部材は、皮革又は布帛の単層構造であってもよいし、皮革又は布帛を表地として、皮革又は布帛にワディング(例えば弾性変形可能な軟質ポリウレタンフォームなどの樹脂発泡体)が積層された多層構造であってもよい。
【0019】
図2に示すように、シートバックフレーム31において、左右のサイドフレーム34及び上下のパイプフレーム33により区画された領域には、金属製の複数のバックスプリング38がシートバック30の左右方向に延設されている。シートバックフレーム31の内側に配置されるバックスプリング38等は、シートバックフレーム31と共にトリムカバー30Tにより覆われている。
【0020】
ヘッドレスト50には、例えば、シート後方側から見えるモニター、内部スピーカー等の電気機器が内蔵されている。この電気機器の配線として、図1及び図2に示すように、ワイヤーハーネス60が、ヘッドレスト50から下方に延びてシートバック30内を経由して配索されている。ワイヤーハーネス60は、外部から見えないように、トリムカバー30Tの内側に配置される。図2の例では、ワイヤーハーネス60は、上方のパイプフレーム33の例えば前方側からシートバック30内に入り、左右方向に延びるサブフレーム35に沿って右側のサイドフレーム34に沿うように取り付けられ、更に、このサイドフレーム34に沿って下方に配索されている。
【0021】
シートバックフレーム31のサブフレーム35は、クッションパッド30pと、シート後方側を覆うトリムカバー30Tとの間の空間に配置されている。ワイヤーハーネス60は、このサブフレーム35に取り付けられた包被部材10によって保持されている。
【0022】
クッションフレーム21と、シートバックフレーム31と、これらのフレーム強度を補完する補助的フレーム等を総称してシートフレーム1Fと記載する。
【0023】
包被部材10は、後述するように、サブフレーム35に係止可能な可撓性を有する部材にて構成されており、図1及び図2に示すように、ワイヤーハーネス60を包被可能(覆うように包み込むことが可能)に構成されている。なお、包被部材10は、その材質については、剛性の高いものでなく可撓性を有していれば特に制限するものではない。例えば、布、合成皮革、柔軟性のある合成樹脂、合成樹脂及び布を貼り合せた構造など種々のものを用いることができる。
【0024】
以下、包被部材10について、図3及び図4を参照して詳細に説明する。図3は、包被部材10の展開状態を示す図である。図3(a)は、包被部材10の展開状態の平面図である。図3(b)は、包被部材10の展開状態の側面図である。図4は、包被部材10のサブフレーム35への取り付けに際しての折り畳み状態(曲げた状態)を示す平面図である。以下で説明する図3(a)における展開状態の包被部材10の上下の方向は、包被部材10がサブフレーム35に係止された状態において、前述した上下方向と一致する。また、図3(a)における展開状態の包被部材10の左右の方向は、包被部材10がサブフレーム35に取り付けられた取り付け状態において、前述した左右方向と一致する。
【0025】
包被部材10は、図3(a)及び(b)に示すように、シート状の部材である。包被部材10は、略矩形の本体部10bと、第一延出部18と、第二延出部19と、を有する外観形状とされている。第一延出部18は、本体部10bの上端10eの左側から延出された長方形状の部分である。第二延出部19は、本体部10bの上端10eの右側から延出された長方形状の部分である。
【0026】
本体部10bには、左右方向に平行に延びた上下一対の第一スリット11s及び第二スリット12sが形成されている。第一スリット11sは、本体部10bの上端10e側の端部における第一延出部18と第二延出部19の間に、上端10eに平行に延びて形成されている。第二スリット12sは、本体部10bの下端10d側の端部に、下端10dに沿って第一スリット11sと同じ長さに形成されている。
【0027】
第一スリット11sと第二スリット12sは、本体部10bの上下方向における中心線CLを中心にして対称な位置に設けられている。すなわち、第一スリット11sと第二スリット12sは、本体部10bを中心線CLの位置で折り畳む(折り曲げる)ようにしたときに(図4参照)、重なることができる構成となっている。
【0028】
本体部10bの上端10eには、第一延出部18及び第二延出部19の各々との境界位置に切り込み17が設けられている。切り込み17は、第一延出部18及び第二延出部19の両内側縁の延長線縁として切り込まれており、切り込みの終端が第一スリット11sの左右両端に接近している。また、本体部10bの下端10dにおいても、第二スリット12sの左右両端側に、上端10eと同じ位置に、同様の切り込み17が形成されている。
【0029】
包被部材10には、本体部10bによりワイヤーハーネス60を包被する際に、本体部10bの左右両端を係止するための係止部13,14が設けられている。係止部13は、第一延出部18及び第二延出部19の両先端部にそれぞれ設けられている。係止部13は、図1及び図2に示す包被部材10の取り付け状態において包被部材10の内側となる内面10isに、例えば面ファスナーとして設けられている。係止部13に対応する係止部14は、包被部材10の取り付け状態において包被部材10の外側となる外面10usに、係止部13と係合する面ファスナーとして設けられている。
【0030】
外面10usに設ける係止部14の位置は、第一延出部18及び第二延出部19の延出長さを考慮して適宜設定される。本実施形態では、包被部材10を図4に示すように本体部10bを中心線CLで折り畳むように折り曲げたときに、係止部14が手前側(図4において見える側)に位置するように、係止部14の位置が設定されている。換言すると、係止部14は、本体部10bにおける中心線CLよりも第二スリット12s側の外面10usに設けられている。このように本体部10bの折り畳み状態において、係止部14が手前側に見える位置に来ることで、係止部13と係止部14との係止操作性が向上する。
【0031】
以下、図5図9を参照して、包被部材10のサブフレーム35への取り付け及びワイヤーハーネス60の配索について詳細に説明する。
【0032】
図5は、包被部材10の本体部10bを折り畳んだ状態で、サブフレーム35に取り付けるときの装着初段の斜視図である。図6は、包被部材10が貫通部35dに保持された状態の斜視図である。図7は、包被部材10が貫通部35dに保持された状態において、第一延出部18をサブフレーム35に巻き付ける操作を示す斜視図である。図8は、包被部材10の第一延出部18及び第二延出部19がサブフレーム35に巻き付けられた状態を示す斜視図である。図9は、包被部材10がワイヤーハーネス60を保持する状態を示した斜視図である。
【0033】
包被部材10を取り付ける際には、先ず、本体部10bを中心線CL付近で二つ折りにするが、その時、第一スリット11sと第二スリット12sとを重ね合わせるようにして二つ折りにする(図4参照)。この二つ折りの状態で、図5に示すように、第一スリット11s及び第二スリット12sを、サブフレーム35における上方に屈曲及び突出した貫通部35dに対応させ、第一スリット11s及び第二スリット12sに貫通部35dを押し込む。このとき、第一スリット11s及び第二スリット12sの両側に切り込み17が設けられていることで、例えば、手先でスリット形成部分を曲げるようにでき、第一スリット11s及び第二スリット12sを貫通部35dに通しやすい。
【0034】
包被部材10は、貫通部35dへの押し込み操作により、図6に示すように、貫通部35dが第一スリット11s及び第二スリット12sを貫通して引っ掛かるように係止される。これにより、包被部材10は、サブフレーム35に左右方向にも位置規制され、且つ下端側が若干膨らむような状態となる(図7に示す保持スペースSPよりも若干狭い内側スペースが形成される)。このとき、外面10usに設けられた係止部14は、手前側(シート後方側)に見える状態となっている。
【0035】
次に、図7に示すように、第一延出部18及び第二延出部19をサブフレーム35に引っ掛けるようにする。すなわち、第一延出部18及び第二延出部19をサブフレーム35の後側から前方且つ上方に巻き付けるようにする。このとき、切り込み17が設けられていることで、第一延出部18及び第二延出部19の回し込みの操作がし易い。そして、第一延出部18及び第二延出部19を回し込み、これらの先端部の係止部13を下側に位置する係止部14に合わせるようにして接触させて係止する。これにより、包被部材10は、貫通部35dの左右におけるサブフレーム35の直線状部分を保持スペースSP内に収容した状態となる。
【0036】
このようにして、包被部材10は、図8に示すように、左右中央部分が貫通部35dにて係止され且つ左右両端側がサブフレーム35を巻き込むようにして固定される。この結果、包被部材10の内側には、左右方向に貫通する保持スペースSPが形成される。その後、例えば、保持スペースSPの一端側(図8中右側)からワイヤーハーネス60を挿入して他端側に引き出すようにする。
【0037】
保持スペースSPを挿通させたワイヤーハーネス60は、例えば先端のコネクターを、ヘッドレスト50側のコネクターに連結する。この結果、図9に示すように、ワイヤーハーネス60は、サブフレーム35に沿うように包被部材10にて保持された状態で、一端側がシート右側に延ばされ右側のサイドフレーム34に沿って下方に向かって配索され、他端側がヘッドレスト50に向かって上方に配策される。包被部材10は、上下方向に配策されるワイヤーハーネス60を、その重みを上下方向の途中で確りと受け止めて保持した状態となっている。ここで、包被部材10は、可撓性を有してサブフレーム35にぶら下がった状態であるので、前後方向に移動し易く衝撃を緩和し易い状態といえる。
【0038】
以上説明したように、自動車用シート1によれば、包被部材10によって、ワイヤーハーネス60がサブフレーム35と共に包被されるので、ワイヤーハーネス60の移動範囲が規制される。包被部材10は可撓性を有するので、包被部材10が配置された位置にトリムカバー30Tの外側から衝撃が加わった場合でも、包被部材10の可撓性によって衝撃を緩和でき、安全性を高めることができる。
【0039】
また、包被部材10は、可撓性を有しているため、様々な形状のワイヤーハーネス60を保持可能となる。つまり、自動車用シート1の種類によらずに同一の包被部材10を使用することができ、自動車用シート1の製造コストを下げることができる。また、包被部材10は、可撓性を有しているため、ワイヤーハーネス60を損傷することなく保持可能となる。
【0040】
また、自動車用シート1によれば、外部からの衝撃が特に加わりやすいシートバック30において、ワイヤーハーネス60を保持する部材として可撓性の包被部材10が用いられることで、内部突起に関する試験を容易にクリアすることができ、製造コストを抑えつつ、安全性を高めることができる。
【0041】
また、自動車用シート1によれば、包被部材10は、貫通部35dに貫通された状態でサブフレーム35に支持されるので、サブフレーム35に対して取り付け位置が動かないように確実に位置規制される。この結果、ワイヤーハーネス60を安定して保持することができる。また、包被部材10は、シート状の本体部10bに離れて配置された第一スリット11s及び第二スリット12sが重なるように曲げられた状態で、貫通部35dにて第一スリット11s及び第二スリット12sを貫通して支持される。このため、包被部材10は確りと保持されるだけでなく、包被部材10の曲げ状態で形成される保持スペースSPが安定維持される。更に、包被部材10は、その取り付け途中において貫通部35dにて第一スリット11s及び第二スリット12sを貫通支持されて仮止め状態にできるので、その取り付け操作性にも優れている。
【0042】
また、自動車用シート1によれば、第一延出部18及び第二延出部19は、折り曲げられてそれぞれの先端部に設けられた係止部13が本体部10bの外面10usの係止部14に係止可能に構成されている。これにより、第一延出部18と第二延出部19によって本体部10bの左右両端部を折り曲げた状態に維持できる。この結果、本体部10bは、その内側にワイヤーハーネス60を配置できる空間の形成及び維持が容易となり、ワイヤーハーネス60を包被部材10の内側に通す際の作業性を向上させることができる。
【0043】
また、自動車用シート1によれば、包被部材10は、ワイヤーハーネス60と共にサブフレーム35の一部も覆う構成となる。このため、包被部材10によるワイヤーハーネス60の保持がより確実になると共に、包被部材10の取り付け位置をより安定させることができる。
【0044】
次に、図10及び図11を参照して、自動車用シート1の第1変形例について説明する。図10は、自動車用シート1の第1変形例において、包被部材10が貫通部35dに保持された状態を示す斜視図である。図11は、包被部材10によってワイヤーハーネス60が保持された状態を示す斜視図である。なお、図10及び図11に示す変形例において、図9と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0045】
図10及び図11に示す第1変形例は、第一延出部18と第二延出部19がサブフレーム35を巻き込むように取り付けられていない点を除いては、図9の構成と同じである。第1変形例の場合、包被部材10は前述のものと全く同じ構成であるが、その装着形態が相違する。詳細には、包被部材10は、その取り付け時において、図6に示す状態から、第一延出部18及び第二延出部19を、サブフレーム35を巻き込まずに後方に曲げ、係止部13を係止部14に重ね合わせて係止する。この結果、図10に示すように、包被部材10は、その保持スペースSP内にサブフレーム35を収容しない状態で貫通部35dに係止されている。その後のワイヤーハーネス60の取り付け操作は、前掲の場合と同様であり、保持スペースSPにワイヤーハーネス60を挿通する。この結果、図11に示すように、保持スペースSPには、ワイヤーハーネス60のみが収容され保持される。
【0046】
第1変形例の場合、包被部材10の保持スペースSPを形成する際に、第一延出部18及び第二延出部19をサブフレーム35に掛けるようにする必要がなく、保持スペースSPの形成操作がより簡便になる。また、包被部材10は、ワイヤーハーネス60を保持したままの状態で、貫通部35dから外したり移動したりすることができる。
【0047】
次に、図12及び図13を参照して、自動車用シート1の第2変形例について説明する。図12は、自動車用シート1の第2変形例において、包被部材10が貫通部35dに取り付けられる途中の状態を示す斜視図である。図13は、図12に示す包被部材10によってワイヤーハーネス60を保持する際の操作中段の状態を示す斜視図である。図12及び図13に示す変形例において、図9と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
図12及び図13に示す第2変形例においては、包被部材10は、前掲の場合と全く同じ構成であるが、その装着手順が大きく相違する。詳細には、第2変形例では、ワイヤーハーネス60が予め接続された状態で、包被部材10を貫通部35dに挿通する。このとき、貫通部35dへの挿通は、図12に示すように、第一スリット11sのみを挿通し、ワイヤーハーネス60を包被部材10の後方に配置するようにする。その後、ワイヤーハーネス60を本体部10bで包み込むように下端10dを引き上げ、更に、図13に示すように、第二スリット12sを貫通部35dに挿通した状態にする。
【0049】
図13に示す状態から後の操作は、第一延出部18及び第二延出部19を、サブフレーム35に掛ける場合(図9に示す形態)とサブフレーム35に掛けない場合(第1変形例の場合)の何れも選択することができる。
【0050】
このように、第2変形例の場合、ワイヤーハーネス60が配線された後でも、ワイヤーハーネス60を保持することができる。しかもその保持形態を、必要に応じて自由に選択することが可能である。
【0051】
次に、図14を参照して、自動車用シート1の第3変形例について説明する。図14は、自動車用シート1の第3変形例において、包被部材10によってワイヤーハーネス60が保持される状態を示す斜視図である。図14に示す第3変形例において、図9と同じ構成については同一符号を付して説明を省略する。
【0052】
第3変形例は、包被部材10の構造が前掲の場合と異なる。詳細には、第3変形例の包被部材10は、その全体形状が四角形である。また、前掲における第一スリット11s及び第二スリット12sが設けられていない構成である。したがって、図14に示すように、シート状の部材の表裏に係止部13と係止部14が設けられたシンプルな構成である。すなわち、包被部材10の一端側の内面側には、係止部13が設けられる一方、外面側には、係止部14が設けられる構成である。なお、係止部13,14は、複数に分割された形状であっても良いが、図14に示すように、包被部材10の一辺に沿うような1つの長い形状であっても良い。
【0053】
このように第3変形例の包被部材10は、スリット構造がないことから、サブフレーム35として貫通部35dが設けられていない箇所への取り付けが可能となる。
【0054】
第3変形例においては、第一延出部18、第二延出部19、第一スリット11s、及び第二スリット12sを設ける必要がなく、形状がシンプルである。このことから、包被部材10は製造が極めて容易であり、更に、包被部材10はその取り付け場所を選ばず、汎用性の高い包被部材10を提供することができる。
【0055】
本発明は、上記実施形態とその変形例に示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。例えば、以上の説明では、包被部材10は、本体部10bにより形成される保持スペースSPにてワイヤーハーネス60を保持するようにしたが、これに限るものではない。本体部10bの外面と第一延出部18及び第二延出部19の内面によって挟まれる空間において、ワイヤーハーネス60を保持するようにしても良い。
【0056】
また、以上の説明では、シートバックフレーム31のうちのサブフレーム35に包被部材10を取り付けるように構成したが、シートバックフレーム31の他の箇所に包被部材10を取り付けるようにしても良い。
【0057】
また、係止部13,14としては、面ファスナーを用いたがこれに限るものではない。例えば衣類等の合わせ目を止める鉤状金具(通称「ホック」などと称されている部材)、相互に引っ掛けて係止する適宜フック形状の係止部材、又は粘着テープ等、種々の構造を採用することができる。
【0058】
ここまでの説明では、乗り物用シートの一実施形態として、自動車に搭載される自動車用シート1を例にした。しかし、本発明は、自動車に搭載されるシートに限らず、電車、航空機、及び船舶等の乗り物に搭載されるシートであれば適応可能である。また、包被部材10は、シートバック30に内蔵されるワイヤーハーネス60を保持する用途に限定されるものではなく、例えばシートクッション20に内蔵されるワイヤーハーネスを保持する用途にも適用可能である。
【0059】
以上説明してきたように、本明細書には以下の事項が開示されている。なお、括弧内には、上記した実施形態において対応する構成要素等を示しているが、これに限定されるものではない。
【0060】
(1)
乗り物の乗員が着座する乗り物用シート(自動車用シート1)であって、
シートフレーム(シートバックフレーム31)を覆うカバー(トリムカバー30T)と、
上記カバーの内側に配索されるワイヤーハーネス(ワイヤーハーネス60)と、
上記シートフレームに取り付けられ、且つ上記ワイヤーハーネスの一部を包被する可撓性の包被部材(包被部材10)と、を備える乗り物用シート。
【0061】
(2)
(1)記載の乗り物用シートであって、
上記シートフレームは、シートバック(シートバック30)の骨格をなすシートバックフレーム(シートバックフレーム31)である乗り物用シート。
【0062】
(3)
(1)又は(2)記載の乗り物用シートであって、
上記包被部材は、離れて配置された第一スリット(第一スリット11s)及び第二スリット(第二スリット12s)を含むシート状の本体部(本体部10b)を有し、且つ、上記第一スリットと上記第二スリットが重なる状態にて上記本体部が折り曲げられており、
上記シートフレームは、上記第一スリット及び上記第二スリットを貫通する貫通部(貫通部35d)を有し、
上記包被部材は、上記貫通部において上記シートフレームに支持されており、
上記ワイヤーハーネスの一部は、折り曲げられた上記本体部の内側に配置されている乗り物用シート。
【0063】
(4)
(3)記載の乗り物用シートであって、
上記包被部材は、上記本体部の上記第一スリット側の端部における上記第一スリットの一端側から延びた第一延出部(第一延出部18)と、上記端部における上記第一スリットの他端側から延びた第二延出部(第二延出部19)と、を有し、
上記第一延出部と上記第二延出部は、それぞれ、折り曲げられた上記本体部の外面に係止可能に構成されている乗り物用シート。
【0064】
(5)
(4)記載の乗り物用シートであって、
折り曲げられた上記本体部の内側に、上記シートフレームの一部が更に配置されている乗り物用シート。
【符号の説明】
【0065】
1 自動車用シート
1F シートフレーム
10 包被部材
10b 本体部
11s 第一スリット
12s 第二スリット
18 第一延出部
19 第二延出部
20T、30T トリムカバー
21 クッションフレーム
31 シートバックフレーム
33 パイプフレーム
34 サイドフレーム
35 サブフレーム
35d 貫通部
60 ワイヤーハーネス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図14