(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】移動体の制御方法及び移動体制御システム
(51)【国際特許分類】
H02P 25/064 20160101AFI20240318BHJP
B65G 54/02 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H02P25/064
B65G54/02
(21)【出願番号】P 2020128057
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】110000992
【氏名又は名称】弁理士法人ネクスト
(74)【代理人】
【識別番号】100162237
【氏名又は名称】深津 泰隆
(74)【代理人】
【識別番号】100191433
【氏名又は名称】片岡 友希
(72)【発明者】
【氏名】城戸 隆志
(72)【発明者】
【氏名】川島 大貴
(72)【発明者】
【氏名】野村 壮志
(72)【発明者】
【氏名】加藤 進一
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-065676(JP,A)
【文献】特開2010-172136(JP,A)
【文献】特開2011-220874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G54/00-54/02
H02P7/02-7/025
25/032-25/034
25/06-25/066
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールに沿って移動する移動体の制御方法であって、
前記レールは、
固定子と、
被位置情報読取部が設置された第1設置区間と、
前記被位置情報読取部が設置されていない区間を有する非設置区間と、
前記第1設置区間と前記非設置区間との間に設置され、前記被位置情報読取部が設置された第2設置区間と、
を備え、
前記移動体は、
前記固定子により生じる磁力を利用して推力を発生させる可動子と、
前記被位置情報読取部から位置情報を読み取る位置情報読取部と、
を備え、
前記第1設置区間において、前記被位置情報読取部から前記位置情報読取部により読み取った前記位置情報が示す読取位置に基づいて前記移動体の移動を制御する第1制御工程と、
前記非設置区間において、前記移動体の位置を推定した推定位置に基づいて前記移動体の移動をセンサレスベクトル制御する第2制御工程と、
前記第2設置区間において、前記読取位置に基づく前記移動体の制御と、前記推定位置に基づく前記移動体の制御との両方の制御を実行しつつ、前記第1制御工程と前記第2制御工程の切り替えを実行する切替工程と、
を含む、移動体の制御方法。
【請求項2】
前記切替工程は、
前記第2設置区間において、前記読取位置に基づく制御と、前記推定位置に基づくセンサレスベクトル制御を段階的に切り替える制御を実行する、請求項1に記載の移動体の制御方法。
【請求項3】
前記切替工程は、
前記読取位置の値に第1重み係数を乗算した値と、前記推定位置の値に第2重み係数を乗算した値を加算した合計値を用いて前記移動体の移動を制御し、前記第1重み係数及び前記第2重み係数の一方を段階的に増加させ、他方を段階的に減少させることで、前記読取位置に基づく制御と、前記推定位置に基づくセンサレスベクトル制御を段階的に切り替える、請求項2に記載の移動体の制御方法。
【請求項4】
前記切替工程は、
前記第1設置区間から前記第2設置区間を介して前記非設置区間へ前記移動体を移動させる際に、前記第1制御工程から前記第2制御工程へ切り替える場合と、前記非設置区間から前記第2設置区間を介して前記第1設置区間へ前記移動体を移動させる際に、前記第2制御工程から前記第1制御工程へ切り替える場合の両方の場合において、前記読取位置に基づく制御と、前記推定位置に基づくセンサレスベクトル制御を段階的に切り替える、請求項2又は請求項3に記載の移動体の制御方法。
【請求項5】
前記被位置情報読取部は、
前記第1設置区間及び前記第2設置区間において、前記移動体の移動方向に沿って設置され、
前記切替工程は、
前記被位置情報読取部の端点から所定の距離だけ離れた位置に前記移動体が到達すると、前記第2設置区間に到達したとして、前記第1制御工程と前記第2制御工程の切り替えを開始する、請求項1から請求項4の何れか1項に記載の移動体の制御方法。
【請求項6】
前記第1設置区間及び前記第2設置区間の少なくとも一方の区間において、前記推定位置の推定を実行し、前記被位置情報読取部から前記位置情報読取部により読み取った前記読取位置と、推定した前記推定位置に基づいて、前記推定位置の推定における誤差を補正する補正工程を、含む、請求項1から請求項5の何れか1項に記載の移動体の制御方法。
【請求項7】
前記レールは、
前記移動体の移動方向に沿って前記被位置情報読取部が設置され、前記移動方向における前記被位置情報読取部の端点の外側が前記非設置区間となっており、前記非設置区間を他のレールに接続して前記移動体の走行路を形成する、請求項1から請求項6の何れか1項に記載の移動体の制御方法。
【請求項8】
前記移動体は、
前記可動子としてのコイルと、
前記コイルに供給する電力を制御する電力制御部と、
前記コイルに発生する電力値を検出する検出部と、
前記電力制御部が前記コイルに供給する電力を制御する制御値と、前記検出部により検出した電力値とに基づいて前記推定位置を推定する位置推定部と、
を備える、請求項1から請求項7の何れか1項に記載の移動体の制御方法。
【請求項9】
レールと、
前記レールに沿って移動する移動体と、
制御装置と、
を備え、
前記レールは、
固定子と、
被位置情報読取部が設置された第1設置区間と、
前記被位置情報読取部が設置されていない区間を有する非設置区間と、
前記第1設置区間と前記非設置区間との間に設置され、前記被位置情報読取部が設置された第2設置区間と、
を備え、
前記移動体は、
前記固定子により生じる磁力を利用して推力を発生させる可動子と、
前記被位置情報読取部から位置情報を読み取る位置情報読取部と、
を備え、
前記制御装置は、
前記第1設置区間において、前記被位置情報読取部から前記位置情報読取部により読み取った前記位置情報が示す読取位置に基づいて前記移動体の移動を制御する第1制御処理と、
前記非設置区間において、前記移動体の位置を推定した推定位置に基づいて前記移動体の移動をセンサレスベクトル制御する第2制御処理と、
前記第2設置区間において、前記読取位置に基づく前記移動体の制御と、前記推定位置に基づく前記移動体の制御との両方の制御を実行しつつ、前記第1制御処理と前記第2制御処理の切り替えを実行する切替処理と、
を実行する、移動体制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被位置情報読取部の位置情報に基づいて移動体の移動を制御する移動体の制御方法及び移動体制御システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被位置情報読取部の位置情報に基づいて移動体の移動を制御する技術が種々提案されている(例えば、特許文献1など)。特許文献1に記載のリニアモータの位置決め装置は、可動子の位置決めを行う位置決め領域と、可動子が常に通過するだけの走行領域とを設けている。また、位置情報を読取り可能なリニアスケールを、位置決め領域だけに設置している。そして、位置決め装置は、走行領域において、リニアスケールを用いないセンサレスベクトル制御を実行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-23936号公報(段落0011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した特許文献1の位置決め装置では、走行領域において、可動子を常に定速で移動させることで、リニアスケールを用いないセンサレスベクトル制御を実行している。このため、可動子を定速で走行させる走行領域であればリニアスケールをなくすことが可能であるが、可動子の位置や速度を変更等したい走行領域では、リニアスケールを設置する必要が生じる。換言すれば、可動子の位置や速度の制御等を実行したいものの、リニアスケールが設置できないような走行領域では、可動子の移動を適切に制御等できない虞があった。
【0005】
本開示は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、被位置情報読取部が設置されていない非設置区間においても移動体の位置に基づく制御が実行できる移動体の制御方法及び移動体制御システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示は、レールに沿って移動する移動体の制御方法であって、前記レールは、固定子と、被位置情報読取部が設置された第1設置区間と、前記被位置情報読取部が設置されていない非設置区間と、前記第1設置区間と前記非設置区間との間に設置され、前記被位置情報読取部が設置された第2設置区間と、を備え、前記移動体は、前記固定子により生じる磁力を利用して推力を発生させる可動子と、前記被位置情報読取部から位置情報を読み取る位置情報読取部と、を備え、前記第1設置区間において、前記被位置情報読取部から前記位置情報読取部により読み取った前記位置情報が示す読取位置に基づいて前記移動体の移動を制御する第1制御工程と、前記非設置区間において、前記移動体の位置を推定した推定位置に基づいて前記移動体の移動をセンサレスベクトル制御する第2制御工程と、前記第2設置区間において、前記読取位置に基づく前記移動体の制御と、前記推定位置に基づく前記移動体の制御との両方の制御を実行しつつ、前記第1制御工程と前記第2制御工程の切り替えを実行する切替工程と、を含む、移動体の制御方法を開示する。
また、本開示の内容は、移動体の制御方法としての実施だけでなく、レール及び移動体を備える移動体制御システムとして実施しても有益である。
【発明の効果】
【0007】
本開示の移動体の制御方法、移動体制御システムによれば、被位置情報読取部が設置されていない非設置区間では、移動体の位置を推定した推定位置に基づくセンサレスベクトル制御を実行する。これにより、非設置区間においても、推定位置に基づいて、移動体の位置や速度制御が可能となる。被位置情報読取部が設置できないような走行路においても、移動体の移動を適切に制御できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施例の搬送システムが備えるレール装置及びキャリアの斜視図である。
【
図3】Y方向及びZ方向に平行な平面で切断したレール装置の断面図である。
【
図5】搬送システムの電気的な構成を示す図である。
【
図7】第1制御と第2制御の切り替えの状態を示す図である。
【
図8】別例の第1制御と第2制御の切り替えの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の移動体制御システムを具体化した一実施例である搬送システムについて説明する。
図1は、後述する搬送システム10(
図6参照)が備えるレール装置11及びキャリア13の斜視図を示している。
図1は、直線形状のレール装置11に、キャリア13を配置した状態を示している。
図6に示すように、搬送システム10は、直線、曲線、分岐形状等のレール装置11を互いに組み合わせた走行路において、リニアモータの駆動によってキャリア13を移動させるシステムである。直線、曲線、分岐形状等のレール装置11は、同様の構成となっている。このため、以下の説明では、
図1に示す直線の走行路を有するレール装置11とキャリア13について説明し、曲線、分岐形状等のレール装置11の説明を省略する。また、以下の説明では、
図1におけるキャリア13をスライド移動させる方向をX方向、X方向に垂直でレール装置11を載置する面に平行な方向をY方向、X方向及びY方向に垂直な方向をZ方向と称して説明する。
【0010】
図1~
図3に示すように、レール装置11は、X方向に延設され、Z方向の上部を開口した略U字形状をなしている。レール装置11は、底部21と、第1側壁22と、第2側壁23を備えている。底部21には、非接触給電の制御などを実行するレール制御部25(
図3参照)が設けられている。第1及び第2側壁22,23は、底部21の上面に設けられ、Y方向で互いに対向し、X方向に沿って延設されている。レール装置11は、底部21、第1及び第2側壁22,23によって、X方向に延びる溝を構成している。この溝は、キャリア13が移動する走行路である。
【0011】
キャリア13は、底部21、第1側壁22、及び第2側壁23に囲まれた溝内に収納されている。第1及び第2側壁22,23の各々の内壁には、複数の永久磁石26が取り付けられている。複数の永久磁石26は、例えば、Z方向に延びる長方形の板状をなし、第1及び第2側壁22,23の各々の内壁において、X方向に沿って、即ち、キャリア13の移動方向に沿って所定の磁極ピッチで配列されている。永久磁石26の各々は、例えば、キャリア13とY方向で対向する内側の面においてN極、S極が交互に現れるように、X方向において隣り合うものが互いに異なる極性(N極及びS極)となっている。尚、
図2及び
図3は、永久磁石26のキャリア13側を覆うカバー27(
図1参照)を取り外した状態を示している。また、
図2は、Y方向の手前側の第2側壁23を取り外した状態を示している。
【0012】
また、第1及び第2側壁22,23の各々の上部には、レール部28が設けられている。レール部28は、例えば、スライド面をV字に形成されたVレールであり、後述するキャリア13の溝ローラ43を取り付けられる。また、第1及び第2側壁22,23の各々の内壁には、リニアスケール29が取り付けられている。
図4に示すように、キャリア13には、レール装置11のリニアスケール29の各々とY方向で対向する位置にリニアヘッド40が取り付けられている。リニアヘッド40は、キャリア13のX方向への移動にともなって、X方向におけるキャリア13の位置を示す位置情報PI(
図5参照)をリニアスケール29から読み取る。リニアヘッド40は、読み取った位置情報PIをキャリア13の制御装置50に出力する(
図5参照)。以下、位置情報PIが示す位置を、読取位置と言う場合がある。尚、
図3及び
図4に示すリニアスケール29及びリニアヘッド40の取り付け位置や数は、一例である。例えば、第1側壁22の上面にリニアスケール29を設けても良い。また、キャリア13は、Y方向の一方側にリニアヘッド40を備える構成でも良い。また、Y方向の両側にリニアスケール29やリニアヘッド40を備えた場合、キャリア13の制御において、どちらか一方の読取位置を採用したり、それぞれで読み取った読取位置の比較を行うことができる。
【0013】
また、底部21の上面には、X方向に延設され、上部を開口した略U字形状をなす走行レール30が設けられている。また、底部21の上部には、非接触給電を行う送電コイル部31が設けられている。送電コイル部31は、X方向に延びるコイル保持部33と、送電コイル35とを備えている。尚、
図1及び
図2は、送電コイル35を取り外した状態を示している。送電コイル35は、X方向に延びるコイル保持部33に巻回されている。
【0014】
一方、
図1及び
図2に示すように、キャリア13は、本体部41と、作業台42とを備えている。本体部41は、略箱型形状をなし、内部に様々な機器が内蔵されている。作業台42は、X方向に長い略板状をなし、本体部41の上部に固定されている。
図4は、キャリア13をX方向から見た側面図であり、本体部41の一部を取り除いた状態を示している。
図2及び
図4に示すように、作業台42の下面には、複数の溝ローラ43が取り付けられている。また、溝ローラ43の下方には、上記したリニアヘッド40が取り付けられている。
【0015】
また、本体部41の下面には、複数の走行ローラ45が取り付けられている。複数の走行ローラ45の各々は、走行レール30に内側から接触して回転する。キャリア13は、作業台42をレール装置11の上方に配置した状態で、略U字状をなすレール装置11の溝内に本体部41を挿入している。複数の溝ローラ43の各々は、第1及び第2側壁22,23の上部に設けられたレール部28に対して回転可能に取り付けられている。キャリア13は、溝ローラ43及び走行ローラ45をレール装置11に対して回転可能に取り付けられることでX方向へ移動可能となり、作業台42に物品(部品など)を載置して移動する。本実施例では、例えば、後述する
図6の搬送システム10に示すように、複数のレール装置11を連結して構成した走行路87上で複数のキャリア13が移動する。複数のキャリア13は、作業工程位置93等において停止し、物品89の供給や組み立て後の物品89の移動などを実行する。
【0016】
また、
図4に示すように、本体部41の下面には、非接触給電を行う受電コイル部47が設けられている。受電コイル部47は、コイル保持部48と、受電コイル49とを備えている。受電コイル49は、X方向に延びるコイル保持部48に巻回されている。キャリア13をレール装置11内に配置した状態では、受電コイル部47は、Z方向において送電コイル部31と所定の間隔を間に設けて対向して配置されている。
【0017】
図5に示すように、レール装置11のレール制御部25は、送電コイル35と接続され、送電コイル35に供給する交流電圧を変更する。レール制御部25は、送電コイル35に供給する交流電圧を変更することで、送電コイル35からキャリア13の受電コイル49へ非接触による電力供給を行う。尚、キャリア13への電力の供給は、非接触給電に限らず、接触型の給電方法を用いても良い。
【0018】
また、
図2及び
図4に示すように、本体部41内には、制御装置50と、巻線部53と、が内蔵されている。従って、本実施例の搬送システム10は、レール装置11に永久磁石26を配置し、キャリア13に巻線部53を配置した、所謂、ムービングコイル方式のリニアモータである。尚、搬送システム10は、所謂、ムービングマグネット方式のリニアモータでも良い。
【0019】
また、本実施例のキャリア13は、搬送システム10の管理装置73から受信した制御データCTに基づいて移動する。また、後述するリニアスケール29が設置されていない区間に応じて、キャリア13は、推定位置に基づいたセンサレスベクトル制御を実行する。詳述すると、
図5に示すように、制御装置50は、電圧制御部51、指令生成部52、位置速度制御部54、位置推定部55、切替部56を備えている。電圧制御部51、指令生成部52、位置速度制御部54、位置推定部55、切替部56を、例えば、ICやFPGAなどのハードウェアによる処理で実現しても良く、CPUでプログラムを実行したソフトウェア処理で実現しても良く、ハードウェア処理とソフトウェア処理を組み合わせて実現しても良い。
【0020】
管理装置73は、指令生成部52を介してキャリア13との間で無線通信が可能となっている。例えば、指令生成部52は、後述するキャリア13の位置を示す切替部56の使用位置情報PI3を管理装置73へ送信する。管理装置73は、例えば、搬送システム10の作業に合わせて各キャリア13の移動先を適宜決定する。管理装置73は、キャリア13から受信した使用位置情報PI3等に基づいてキャリア13の現在位置を判断し、次の移動先を決定する。管理装置73は、移動先を決定すると、キャリア13の現在位置の情報や移動先を示す目標位置の情報等を制御データCTに含めて指令生成部52へ送信する。指令生成部52は、管理装置73から受信した現在位置と、目標位置に基づいて、例えば、目標位置までの移動における目標速度や目標加速度等を設定する。指令生成部52は、設定した目標速度や目標加速度の情報を位置速度制御部54へ出力する。尚、キャリア13は、GPS装置等を備え、自装置において現在位置の情報を検出しても良い。
【0021】
また、制御装置50の位置速度制御部54は、切替部56から入力した使用位置情報PI3に基づいて、電圧制御部51のトルク制御に対するトルク指令を変更する。使用位置情報PI3は、キャリア13の位置を示す情報であり、位置情報PIと、後述する位置推定部55の推定位置情報PI2に基づいて切替部56が決定した位置情報である。位置速度制御部54は、使用位置情報PI3に基づいてキャリア13の速度や加速度を検出し、指令生成部52から入力した目標速度、目標加速度となるように、電圧制御部51に出力するトルク指令の内容(例えば、目標トルクやトルク(推力)定数など)を変更する。
【0022】
電圧制御部51は、巻線部53へ電圧指令値CVを出力し、巻線部53に通電する電圧や電流を制御する。
図2及び
図4に示すように、巻線部53は、Y方向における本体部41の両側にそれぞれ設けられ、永久磁石26と対向する位置に設けられている。巻線部53は、複数のヨーク53Aのそれぞれにコイル53Bが巻回されている(
図2参照)。
図5に示すように、巻線部53には、コイル53Bに流れる電流値A1を検出する検出部57が取り付けられている。検出部57は、検出した電流値A1を電圧制御部51へ出力する。電圧制御部51は、位置速度制御部54から入力したトルク指令と、検出部57から入力した電流値A1に基づいた電圧指令値CVを巻線部53へ出力し、巻線部53へ通電する交流電流をフィードバック制御する。また、電圧制御部51は、切替部56から入力した使用位置情報PI3に基づいて、永久磁石26の位置を検出する。電圧制御部51は、検出した永久磁石26の位置(極性の位置)と、巻線部53の磁極の位置に基づいて巻線部53の電流を制御し、巻線部53の磁極を切り替える。
【0023】
巻線部53は、電圧制御部51から入力した電圧指令値CVに基づいてコイル53Bに印加する電圧やコイル53Bに流れる交流電流を変更し磁界を発生させ(N極及びS極を誘起させ)、レール装置11の永久磁石26との間に推力(磁気吸引力や磁気反発力)を発生させる。これにより、制御装置50は、キャリア13を移動させる方向や速度を制御する。
【0024】
また、管理装置73は、各レール装置11のレール制御部25と接続されており、キャリア13から受信した使用位置情報PI3等に基づいてレール制御部25を制御する。管理装置73は、キャリア13の移動に合わせて、レール装置11の送電コイル35からキャリア13の受電コイル49へ非接触給電を制御する。
【0025】
また、位置推定部55は、キャリア13の現在位置の推定を実行する。位置推定部55は、例えば、電圧制御部51から入力した電圧指令値CVと、検出部57から入力した電流値A1とに基づいて、キャリア13の現在位置を推定する。位置推定部55は、推定した推定値を示す推定位置情報PI2を切替部56に出力する。また、切替部56は、リニアヘッド40から位置情報PIを入力する。切替部56は、後述するように、リニアスケール29が設置されていない区間に応じて、使用位置情報PI3として、位置情報PIを使用するか、推定位置情報PI2を使用するのか、あるいは両方を使用するのかを切り替える。これにより、リニアスケール29が設置されていない区間では、リニアヘッド40を用いずに、推定位置情報PI2に基づいてキャリア13の移動を制御するセンサレスベクトル制御を実行できる。尚、キャリア13の位置を推定する方法は、特に限定されない。例えば、位置推定部55は、巻線部53に印加する電圧や巻線部53に流れる電流からコイル53Bに発生する磁界の変化を検出し、磁界の変化に基づいて位置を推定しても良い。
【0026】
また、位置推定部55は、リニアヘッド40から位置情報PIを入力する。位置推定部55は、位置情報PIに基づいて推定位置情報PI2の推定における誤差を補正する。位置情報PIの読取位置は、リニアヘッド40によってリニアスケール29を読み取った、いわば、実際のキャリア13の位置を示す情報である。位置推定部55は、この読取位置に、推定位置情報PI2が示す推定位置を一致させる又は近似させるように、推定処理における変数・係数・処理内容等を補正する。位置推定部55は、リニアヘッド40によってリニアスケール29を読取り可能な区間において、補正処理を定期的に実行する。これにより、推定の精度を高めることができる。
【0027】
図6は、搬送システム10の概要を模式的に示している。
図6に示すように、搬送システム10は、例えば、複数のレール装置11を互いに連結して走行路87を構成している。キャリア13は、管理装置73からの指令に基づいて走行路87を走行する。搬送システム10の走行路87には、複数の作業ロボット91が配置されている。作業ロボット91は、例えば、多関節ロボットであり、各種の作業を行う。キャリア13は、例えば、各作業ロボット91の作業工程位置93で停止する。作業ロボット91は、作業台42に載置された物品89に対する作業を行う。
【0028】
ここで、本実施例のレール装置11には、
図2に示すように、キャリア13の移動方向であるX方向に沿ってリニアスケール29が設けられている。また、上記したように、搬送システム10は、複数のレール装置11を互いに連結して走行路87を構成している。この場合、隣接するレール装置11の境界部分(接続部分)には、リニアスケール29が設けられていない区間が発生する場合がある。例えば、
図6に示すように、レール装置11は、リニアスケール29が設置された第1設置区間SC1と、リニアスケール29が設置されていない区間を有する非設置区間SC3とを有する。また、本実施例では、第1設置区間SC1と非設置区間SC3との間であってリニアスケール29が設置された区間を、制御の切り替えを実行する第2設置区間SC2として設定している。以下の説明では、位置情報PIの読取位置に基づいて位置速度制御部54や電圧制御部51が実行する制御を、第1制御と称し、推定位置情報PI2の推定位置に基づいて位置速度制御部54や電圧制御部51が実行するセンサレスベクトル制御を、第2制御と称して説明する。
【0029】
図7は、第1制御と第2制御の切り替えの状態を示している。
図7の縦軸は、第1制御と第2制御のそれぞれについて、キャリア13の移動の制御に用いている割合(度合い)を重みとして示している。縦軸における100は、100%の重み(割合)でどちらか一方の制御を実行していることを示している。この場合、他方の制御は、縦軸における0%となり、その制御を実行していない状態となる。横軸は、キャリア13の位置を示している。実線で示す波形L1は、第1制御の重みを示している。また、破線で示す波形L2は、第2制御の重みを示している。
【0030】
以下の説明では、説明の便宜上、
図6に示すように、一例として、移動元のレール装置11を第1レール装置11Aと、移動先のレール装置11を第2レール装置11Bと称して説明する。
図7は、例えば、キャリア13が、左から右へ向かって第1レール装置11Aから第2レール装置11Bへ移動する状態を示している。
【0031】
位置P1は、移動元の第1レール装置11Aにおける第1設置区間SC1と第2設置区間SC2の境界の位置ある。キャリア13の制御装置50は、位置P1に到達するまでの第1設置区間SC1において、第1制御のみで移動を制御する。即ち、位置P1までの間は、リニアスケール29が読み取れるため、読取位置に基づく制御のみで移動を制御する。また、制御装置50は、第1設置区間SC1において、位置推定部55による推定も実行し、推定位置情報PI2の推定における誤差を補正する処理を、第1制御による移動制御と並列に実行する。これにより、第1設置区間SC1において、推定位置を読取位置にできるだけ一致させることができる。
【0032】
また、位置P2は、第2設置区間SC2と非設置区間SC3の境界の位置である。制御装置50は、位置P1に到達し第2設置区間SC2に進入すると、第1制御と第2制御の切替を開始し、位置P2までに切り替えを完了させる。また、終点P3は、第1レール装置11Aのリニアスケール29の終端を示している。制御装置50は、例えば、第1設置区間SC1における使用位置情報PI3(位置情報PI)に基づいて、リニアスケール29の終点P3から所定の距離61だけ手前の位置P1に到達したことを検出すると、切り替えを開始する。距離61は、全てのレール装置11で統一の値でも良く、レール装置11のリニアスケール29の設置状況などに応じて異なる値でも良い。
【0033】
また、切り替えを開始するタイミングを決定する方法は、上記した終点P3からの距離61を用いる方法に限らない。例えば、制御装置50は、リニアスケール29の開始点や中点などから所定の距離の位置に基づいて、切り替えタイミングを決定しても良い。また、制御装置50は、例えば、レール装置11や管理装置73など、他の装置から切り替えを開始するタイミングを取得しても良い。例えば、キャリア13は、新たなレール装置11に進入するごとに、そのレール装置11から切り替えを開始する位置P1の情報を取得しても良い。
【0034】
制御装置50は、第2設置区間SC2において、第1制御と第2制御とを段階的に切り替える。例えば、切替部56は、位置速度制御部54や電圧制御部51へ使用位置情報PI3を所定回数だけ出力するごとに、使用位置情報PI3を演算して出力する。切替部56は、例えば、次式により使用位置情報PI3が示す位置の値を演算する。
使用位置情報PI3の値=K1*位置情報PIの読取位置の値+K2*推定位置情報PI2の推定位置の値
上記式において、K1は、位置情報PIの読取位置に対する第1重み係数である。K2は、推定位置情報PI2の推定位置に対する第2重み係数である。
【0035】
切替部56は、例えば、使用位置情報PI3を所定回数だけ出力するごとに、第1重み係数K1を1、0.9、0.8、0.7・・・・・・0.1、0と、0.1ずつ減らしていく。また、切替部56は、使用位置情報PI3を出力するごとに、第2重み係数K2を、0、0.1、0.2・・・・0.8、0.9、1と、0.1ずつ増やしていく。重み係数は、位置P1において第1重み係数K1=1、第2重み係数K2=0、位置P2において第1重み係数K1=0、第2重み係数K2=1となる。これにより、使用位置情報PI3に対する読取位置と推定位置との割合が相対的に(反比例して)変化する。位置速度制御部54及び電圧制御部51が、使用位置情報PI3を使用して制御を実行することで、巻線部53に対する制御における第1及び第2制御の重みを段階的に変更することができる。尚、制御装置50は、第2設置区間SC2において、切り替えを実行しつつ、上記した位置情報PIに基づく推定位置情報PI2の補正処理を実行しても良い。
【0036】
第2設置区間SC2において重み係数を変更するタイミングは特に限定されない。例えば、切替部56は、使用位置情報PI3を1回出力するごとに、重み係数を変更しても良い。この場合、第2設置区間SC2において11回だけ重み係数の変更が行なわれる。あるいは、切替部56は、例えば、第2設置区間SC2に進入した初期段階では第1及び第2重み係数K1,K2の変化量を少なくし、徐々に増やしても良い。具体的には、切替部56は、第1重み係数K1を1、0.99、0.98、0.97・・・0.91、0.9、0.85、0.8、0.7・・・・・・0.1、0と、第2重み係数K2を、0、0.01、0.02、0.03・・・・0.09、0.1、0.15、0.2、0.3・・・・0.9、1と、変化させても良い。また、位置速度制御部54や電圧制御部51の使用位置情報PI3を用いたフィードバック制御の周期に基づいて、第1及び第2重み係数K1,K2を変更する回数や第2設置区間SC2の長さを設定しても良い。
【0037】
図7に示すように、制御装置50は、位置P2において第1重み係数K1=0、第2重み係数K2=1とし、第1制御から第2制御への切り替えを完了させる。制御装置50は、位置P2から位置P5までの非設置区間SC3において、推定位置に基づくセンサレスベクトル制御(第2制御)を実行する。
【0038】
また、
図7のP7は、第1レール装置11Aと第2レール装置11Bの境界を示している。例えば、境界P7は、非設置区間SC3の中点となる。本実施例では、リニアスケール29の終点P3が、位置P2(第2設置区間SC2の終点)よりも外側(境界P7側)となっている。換言すれば、非設置区間SC3の一部には、リニアスケール29が設けられた区間が存在する。これにより、切り替えを完了する位置P2まで、リニアスケール29の読み取りを確実に実行できる。尚、終点P3と位置P2とを一致させても良い。この場合、非設置区間SC3の全区間を、リニアスケール29が設置されていない区間としても良い。
【0039】
キャリア13は、非設置区間SC3を移動し、境界P7において、移動元の第1レール装置11Aから移動先の第2レール装置11Bへ乗り移る。制御装置50は、第2レール装置11Bの第2設置区間SC2の開始点である位置P5に到達すると、第2制御から第1制御への切り替えを開始する。制御装置50は、例えば、位置P1と同様に、使用位置情報PI3に基づいて、第2レール装置11Bのリニアスケール29の開始点P4から所定の距離62だけ通過した位置P5に到達したことを検出すると、切り替えを開始する。尚、制御装置50は、距離62以外の方法で位置P5の位置を検出しても良い。例えば、制御装置50は、終点P3から所定の距離だけ離れた位置を位置P5として検出し、切り替えを開始しても良い。また、開始点P4と位置P5とを一致させても良い。例えば、制御装置50は、第2レール装置11Bのリニアスケール29の読み取りが可能なった時点、即ち、リニアスケール29の開始点P4を検出した時点で、切り替えを開始しても良い。
【0040】
制御装置50は、第2設置区間SC2の第1制御から第2制御への切り替えと同様に、第2重み係数K2を減らしながら第1重み係数K1を増やし、段階的に第2制御から第1制御へ切り替える。制御装置50は、第2レール装置11Bの第2設置区間SC2の終点である位置P6において、第1重み係数K1=1、第2重み係数K2=0とし、第2制御から第1制御への切り替えを完了させる。同様に、制御装置50は、走行路87を構成するレール装置11間を移動するごとに、上記した切り替え制御を実行する。
【0041】
ここで、レール装置11の境界P7に発生するリニアスケール29のない区間(
図7の終点P3と開始点P4の間の区間)は、キャリア13の移動時間が1秒にも満たない短い区間であるかもしれない。しかしながら、このような短い区間であっても、位置情報を失うことで、制御が不安定となり、キャリア13に振動が発生する可能性がある。これに対し、本実施例のキャリア13では、リニアスケール29のない非設置区間SC3に応じて、リニアスケール29を用いないセンサレスベクトル制御に切り替えることで、キャリア13の振動を抑制し、安定してキャリア13を走行させることができる。
【0042】
また、本実施例の制御装置50は、第2設置区間SC2における切り替え制御(本開示の切替工程の一例)において、読取位置に基づく第1制御と、推定位置に基づく第2制御を段階的に切り替える。推定位置は、推定処理の精度によっては、リニアスケール29から読み取った読取位置との間で誤差が生じる可能性がある。推定位置と読取位置とに誤差が生じた場合、読取位置に基づく第1制御と、推定位置に基づく第2制御を排他的に切り替えると、キャリア13に振動が生じる可能性がある。そこで、第1制御と第2制御を段階的に切り替えることで、制御に用いる使用位置情報PI3の変動を抑制し、キャリア13の振動の発生を抑制できる。
【0043】
尚、制御装置50は、第1制御と第2制御とを段階的に切り替えなくとも良い。例えば、
図8に示すように、制御装置50は、位置P2において、第1制御を停止し、推定位置に基づく第2制御を開始しても良い。具体的には、第1重み係数K1を1から0に切り替え、第2重み係数K2を0から1に切り替えても良い。上記したように、制御装置50は、第1設置区間SC1において、推定位置の補正を実行している。このため、推定位置は、読取位置と一致または近似している可能性が高い。そこで、第1制御から第2制御への切り替えを一気に実行する。一方、第2制御から第1制御への切り替えは、第2制御中(非設置区間SC3中)において推定位置と読取位置との間で誤差が生じる可能性がある。このため、
図8に示すように、移動先の第2レール装置11Bの第2設置区間SC2においては、第2制御から第1制御への切り替えを、段階的に切り替える。尚、第2制御から第1制御への切り替えにおいても、段階的に切り替えずに、一気に切り替えても良い。
【0044】
また、上記したように、制御装置50は、読取位置の値に第1重み係数K1を乗算した値と、推定位置の値に第2重み係数K2を乗算した値を加算した合計値を用いてキャリア13の移動を制御する。制御装置50は、第1及び第2重み係数K1,K2の一方を段階的に増加させ、他方を段階的に減少させることで、第1及び第2制御を段階的に切り替えている。これによれば、読取位置の値と推定位置の値のそれぞれに乗算する重み係数を相対的に変更することで、キャリア13の制御に用いる使用位置情報PI3における読取位置と推定位置の比率を段階的に変更できる。
【0045】
また、制御装置50は、
図7に示すように、第1制御から第2制御へ切り替える場合と、第2制御から第1制御へ切り替える場合の両方の場合において、第1及び第2制御を段階的に切り替えている。これによれば、非設置区間SC3へ入る場合と、非設置区間SC3から出る場合の両方において、制御の切り替えを段階的に実行し、キャリア13の振動の発生を抑制できる。
【0046】
また、リニアスケール29は、第1設置区間SC1及び第2設置区間SC2において、キャリア13の移動方向(本実施例ではX方向)に沿って設置されている。制御装置50はリニアスケール29の終点P3から所定の距離61だけ離れた位置P1にキャリア13が到達すると、第1制御から第2制御への切り替えを開始する。また、制御装置50は、リニアスケール29の開始点P4から所定の距離62だけ離れた位置P5にキャリア13が到達すると、第2制御から第1制御への切り替えを開始する。
【0047】
これによれば、例えば、終点P3や開始点P4から所定の距離61,62だけ離れた位置P1,P5にキャリア13が到達すると、切り替えを開始する。これにより、切り替えの開始位置を統一でき、切り替えに必要な制御内容の簡素化を図ることができる。
【0048】
また、制御装置50は、第1設置区間SC1において、読取位置と、推定位置に基づいて、推定位置の推定における誤差を補正する。これによれば、リニアスケール29が設置された第1設置区間SC1においても推定位置の推定を実行し、読取位置と推定とに基づいて推定位置の推定における誤差を補正する。読取位置に対する推定位置の誤差を小さくし、切り替えを実行できる。尚、制御装置50は、第1設置区間SC1及び第2設置区間SC2の少なくとも一方の区間で上記した補正処理を実行しても良い。
【0049】
また、本実施例のレール装置11は、キャリア13の移動方向に沿ってリニアスケール29が設置され、移動方向におけるリニアスケール29の終点P3の外側が非設置区間SC3となっており(非設置区間SC3に含まれ)、非設置区間SC3を他のレール装置11に接続してキャリア13の走行路87を形成する。
【0050】
例えば、複数のレール装置11を互いに接続して1つの走行路87を形成する場合、繋ぎ目となる接続部分には、リニアスケール29を設置することが構造上、難しくなる場合がある。繋ぎ目の僅かな距離であっても位置情報が途絶えた場合、繋ぎ目の通過中や通過後においてキャリア13の振動が発生する可能性がある。従って、このような複数のレール装置11を互いに接続するような構成において、推定位置に基づくセンサレスベクトル制御に切り替えることで、キャリア13をレール間で安定して移動させることができる。その結果、様々な形状のレール装置11を容易に接続でき、走行路87の形状の自由度を向上できる。
【0051】
また、本実施例のキャリア13は、可動子としてのコイル53Bと、コイル53Bに供給する電力を制御する電圧制御部51と、コイル53Bに発生する電流値A1(本開示の電力値の一例)を検出する検出部57と、電圧制御部51がコイル53Bに供給する電力を制御する電圧指令値CVと検出部57により検出した電流値A1とに基づいて推定位置を推定する位置推定部55と、を備える。これによれば、ムービングコイル方式のキャリア13において、電圧制御部51の電圧指令値CVと、検出部57の電流値A1に基づいて推定位置を推定する。従って、キャリア13側で制御の切り替えを実行できる。尚、制御の切り替え判断を、レール制御部25や管理装置73等の他の装置が実行しても良い。例えば、管理装置73が、
図5から受信した使用位置情報PI3に基づいて、切り替えのタイミングや第1及び第2重み係数K1,K2をキャリア13に指示しても良い。
【0052】
因みに、搬送システム10は、本開示の移動体制御システムの一例である。レール装置11、第1レール装置11A、第2レール装置11Bは、レールの一例である。キャリア13は、移動体の一例である。永久磁石26は、固定子の一例である。リニアスケール29は、被位置情報読取部の一例である。リニアヘッド40は、位置情報読取部の一例である。コイル53Bは、可動子の一例である。終点P3、開始点P4は、被位置情報読取部の端点の一例である。電圧指令値CVは、制御値の一例である。電流値A1は、電力値の一例である。
【0053】
以上、上記した本実施例によれば以下の効果を奏する。
本実施例の一態様では、キャリア13の制御装置50は、第1設置区間SC1において、リニアスケール29からリニアヘッド40により読み取った位置情報PIが示す読取位置に基づいてキャリア13の移動を制御する(本開示の第1制御工程、第1制御処理の一例)。また、制御装置50は、非設置区間SC3において、キャリア13の位置を推定した推定位置に基づいてキャリア13の移動をセンサレスベクトル制御する(本開示の第2制御工程、第2制御処理の一例)。そして、制御装置50は、第2設置区間SC2において、読取位置に基づく第1制御と、推定位置に基づく第2制御の両方の制御を実行しつつ、第1及び第2制御の切り替えを実行する(本開示の切替工程、切替処理の一例)。
【0054】
これによれば、第1設置区間SC1と非設置区間SC3との間の第2設置区間SC2において、読取位置に基づく第1制御と、推定位置に基づく第2制御を実行しながら、2つの制御の切り替えを実行する。そして、リニアスケール29が設置されていない非設置区間SC3では、推定位置に基づくセンサレスベクトル制御を実行する。これにより、非設置区間SC3においても、推定位置に基づいて、キャリア13の位置や速度制御が可能となる。リニアスケール29が設置できないような走行路87においても、キャリア13の移動を適切に制御できる。
【0055】
尚、本願は、上記実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することが可能である。
例えば、上記実施例では、リニアモータの構造として、所謂、ムービングコイル方式の構造を採用したが、これに限らない。リニアモータの構造として、ムービングマグネット方式を採用しても良い。この場合、本開示の固定子として、コイルを採用でき、可動子として永久磁石を採用できる。また、例えば、レール装置11のレール制御部25が、上記実施例の制御装置50と同様に、レール装置11に設けられた巻線部53の制御において、読取位置と推定位置に基づく第1及び第2制御の切り替えを実行しても良い。
また、上記実施例では、センサレスベクトル制御を、レール装置11の境界P7の僅かな区間だけに適用したが、これに限らない。例えば、キャリア13の移動の制御において、カーブ、分岐点の移動など、制御により高い精度が求められる区間を第1設置区間SC1とし、第1制御を実行しても良い。また、等速移動、一定の加減速の移動など高い精度が要求されない区間を、非設置区間SC3として第2制御を実行しても良い。
【0056】
上記実施例では、第1及び第2重み係数K1,K2を用いて、第1及び第2制御を段階的に切り替えたが、他の方法を用いても良い。例えば、制御装置50は、1:9、4:5、6:3、10:0などの数種類の比率の組み合わせを用いて、第1及び第2制御を段階的に切り替えても良い。
また、制御装置50は、第1設置区間SC1や第2設置区間SC2において、推定位置の補正処理を実行しなくとも良い。
また、レール装置11は、複数のレール装置11を組み合わせて走行路87を形成する構成に限らない。レール装置11は、1つのレール装置11内に、複数の第1設置区間SC1、第2設置区間SC2、非設置区間SC3(リニアスケール29のある区間とない区間)を備える構成でも良い。
【0057】
電圧制御部51は、電圧指令値CVによって巻線部53の電圧を制御し、コイル53Bに印加される電圧値やコイル53Bに流れる電流値を制御したが、巻線部53に対して電流指令値を出力し、電流値に基づいてコイル53Bの電圧値や電流値を制御しても良い。
検出部57は、コイル53Bの電圧値を検出して電圧制御部51や位置推定部55に出力しても良い。
本開示の移動体として、レール装置11の走行路87で物品89を搬送するキャリア13を採用したが、これに限らない。本開示の移動体は、例えば、XYロボットにおいて、作業ヘッドをX軸方向やY軸方向に移動させるスライダ装置の移動体でも良い。従って、移動体は、物品89などを搬送しない移動物でも良い。
【符号の説明】
【0058】
10 搬送システム(移動体制御システム)、11 レール装置(レール)、11A 第1レール装置(レール)、11B 第2レール装置(レール)、13 キャリア(移動体)、26 永久磁石(固定子)、29 リニアスケール(被位置情報読取部)、40 リニアヘッド(位置情報読取部)、50 制御装置、51 電圧制御部、53B コイル(可動子)、55 位置推定部、57 検出部、61,62 距離、SC1 第1設置区間と、SC2 第2設置区間、SC3 非設置区間、P1 位置、P5 位置、PI 位置情報、K1 第1重み係数、K2 第2重み係数、P3 終点(端点)、P4 開始点(端点)。