(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】超音波診断装置、学習装置、画像処理方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 8/14 20060101AFI20240318BHJP
【FI】
A61B8/14
(21)【出願番号】P 2020130830
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 直哉
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 翔也
(72)【発明者】
【氏名】長永 兼一
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開平2-206445(JP,A)
【文献】Adam C. Luchies, et al.,Deep Neural Networks for Ultrasound Beamforming,IEEE TRANSACTIONS ON MEDICAL IMAGING,2018年,VOL. 37, NO. 9,2010-2021
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから単一の受信ビームデータを生成する信号処理部と、
単一の受信ビームデータに対する複数の受信ビームデータを教師データとして学習された学習済みモデルを用いて、前記信号処理部により生成された前記単一の受信ビームデータを入力として、複数の受信ビームデータに基づく走査線データである推定データを出力する推論部と、
前記推論部により出力された前記推定データに基づいて画像を生成する画像生成部と、
前記画像生成部により生成された画像を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項2】
前記教師データにおける前記複数の受信ビームデータは、前記単一の受信ビームデータの走査領域と重複する走査領域に対して複数回の超音波の送受信を行うことにより得られる受信データから形成されることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項3】
前記教師データにおける前記複数の受信ビームデータは、前記単一の受信ビームデータの走査領域を含む走査領域に対して複数回の超音波の送受信を行うことにより得られる受信データから形成されることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項4】
前記学習済みモデルは、被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから生成された単一の受信ビームデータを入力データとし、複数回の超音波の送受信により得られる複数の受信データにそれぞれ異なる整相加算処理を施して生成された同一の走査線の複数の受信ビームデータを合成した正解データとして、学習されることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項5】
前記学習済みモデルの入力データは、複数の振動子が受信する受信データに遅延処理を施した二次元データであることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項6】
前記学習済みモデルの入力データは、複数の振動子が受信する受信データに整相加算処理を施した一次元データであることを特徴とする請求項1に記載の超音波診断装置。
【請求項7】
前記学習済みモデルは、前記超音波診断装置とは別の学習装置による学習によって得られることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項8】
前記学習済みモデルを生成する学習装置をさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の超音波診断装置。
【請求項9】
被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから単一の受信ビームデータの第1の超音波画像を生成する信号処理部と、
単一の受信ビームデータの超音波画像を入力データとして複数の受信ビームデータに基づく1つの走査線の第2の超音波画像を推定するように学習された学習済みモデルを用いて、前記信号処理部によって生成された前記第1の超音波画像を入力として、前記第2の超音波画像に相当する推定超音波画像を出力する推論部と、
前記推論部により出力された前記推定超音波画像を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項10】
被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから単一の受信ビームデータを生成することを繰り返して第1の超音波画像を生成する信号処理部と、
単一の受信ビームデータを生成することを複数回数繰り返して生成される超音波画像を
入力データとして複数の受信ビームデータを生成することを前記複数回数よりも多い回数繰り返して生成される第2の超音波画像を推定する学習済みモデルを用いて、前記信号処理部によって生成された前記第1の超音波画像を入力として、前記第2の超音波画像に相当する推定超音波画像を出力する推論部と、
前記推論部により出力された前記推定超音波画像を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項11】
被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから単一の受信ビームデータを生成する信号処理部と、
単一の受信ビームデータを入力データとして複数の受信ビームデータに基づく1つの走査線データを推定するように学習された第1の学習済みモデルと、複数の受信ビームデータ生成を複数回数繰り返して生成される第1の複数の走査線データを入力データとして複数の受信ビームデータ生成を前記複数回数よりも多い回数繰り返して生成される第2の複数の走査線データを推定する第2の学習済みモデルと、を用いて、前記信号処理部によって生成された前記単一の受信ビームデータを前記第1の学習済みモデルに入力して1つの走査線データを推定することを繰り返して得られる複数の走査線データを、第2の学習済みモデルに入力して前記第2の複数の走査線データに相当する複数の走査線データを推定し、前記第2の学習済みモデルによって推定された前記複数の走査線データを出力する推論部と、
前記推論部により出力された前記複数の走査線データに基づいて画像を生成する画像生成部と、
前記画像生成部により生成された画像を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置。
【請求項12】
被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから生成される単一の受信ビームデータに対する複数の受信ビームデータを教師データとして含む学習データを用いた機械学習により学習済みモデルを生成する学習器、
を有することを特徴とする学習装置。
【請求項13】
被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから単一の受信ビームデータを生成する信号処理ステップと、
単一の受信ビームデータに対する複数の受信ビームデータを教師データとして学習された学習済みモデルを用いて、前記信号処理ステップにより生成された前記単一の受信ビームデータを入力として、複数の受信ビームデータに基づく走査線データである推定データを出力する推論ステップと、
前記推論ステップにより出力された前記推定データに基づいて画像を生成する画像生成ステップと、
前記画像生成ステップにより生成された画像を表示する表示ステップと、
を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項14】
請求項13に記載の画像処理方法の各ステップをプロセッサに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超音波診断装置、学習装置、画像処理方法およびプログラムに関し、特に超音波画像の画質を向上させるための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波診断装置はその簡便性、高解像度性、リアルタイム性などにより画像診断装置として臨床現場で広く使用されている。その画像生成の手法としては、送信ビームの形成処理と受信信号の整相加算処理とによって画像を生成する手法が一般的である。送信ビームの形成は、複数の変換素子に対して時間遅延を与えた電圧波形を入力し、生体内で超音波を収束させることで達成される。また、受信信号の整相加算は、生体内の構造により反射された超音波を複数の変換素子で受信し、得られた受信電圧信号に対して、注目点に対する経路長を考慮した時間遅延を与え、さらに加算することで達成される。この送信ビームの形成処理と整相加算処理とにより、注目点からの反射信号を選択的に抽出して画像化を行う。そして、送信ビームが画像化領域の中を走査するように、送信ビームを制御することで観察したい領域の画像を得ることができる。
【0003】
このような超音波診断装置において、送信ビームに複数の受信ビームを形成して超音波信号を受信する技術がある(特許文献1)。これによれば、1回の送信に対して1回の受信を行って超音波信号を得る場合よりも、より多くの受信信号を同時に処理することができ、超音波画像におけるコントラストの向上、分解能の向上、フレームレートの向上が可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、送信ビームに複数本の走査線分の受信ビーム形成を行うため、超音波診断装置には走査線数分の並列受信回路やデータ処理回路などが必要となり、装置の構成が複雑化する可能性がある。
【0006】
本発明は、超音波診断装置の構成を複雑化させることなく、画質の良い画像を生成することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから単一の受信ビームデータを生成する信号処理部と、
単一の受信ビームデータに対する複数の受信ビームデータを教師データとして学習された学習済みモデルを用いて、前記信号処理部により生成された前記単一の受信ビームデータを入力として、複数の受信ビームデータに基づく走査線データである推定データを出力する推論部と、
前記推論部により出力された前記推定データに基づいて画像を生成する画像生成部と、
前記画像生成部により生成された画像を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置を含む。
また、本開示は、
被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから単一の受信ビームデータ
の第1の超音波画像を生成する信号処理部と、
単一の受信ビームデータの超音波画像を入力データとして複数の受信ビームデータに基づく1つの走査線の第2の超音波画像を推定するように学習された学習済みモデルを用いて、前記信号処理部によって生成された前記第1の超音波画像を入力として、前記第2の超音波画像に相当する推定超音波画像を出力する推論部と、
前記推論部により出力された前記推定超音波画像を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置を含む。
また、本開示は、被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから単一の受信ビームデータを生成することを繰り返して第1の超音波画像を生成する信号処理部と、
単一の受信ビームデータを生成することを複数回数繰り返して生成される超音波画像を入力データとして複数の受信ビームデータを生成することを前記複数回数よりも多い回数繰り返して生成される第2の超音波画像を推定する学習済みモデルを用いて、前記信号処理部によって生成された前記第1の超音波画像を入力として、前記第2の超音波画像に相当する推定超音波画像を出力する推論部と、
前記推論部により出力された前記推定超音波画像を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置を含む。
また、本開示は、被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから単一の受信ビームデータを生成する信号処理部と、
単一の受信ビームデータを入力データとして複数の受信ビームデータに基づく1つの走査線データを推定するように学習された第1の学習済みモデルと、複数の受信ビームデータ生成を複数回数繰り返して生成される第1の複数の走査線データを入力データとして複数の受信ビームデータ生成を前記複数回数よりも多い回数繰り返して生成される第2の複数の走査線データを推定する第2の学習済みモデルと、を用いて、前記信号処理部によって生成された前記単一の受信ビームデータを前記第1の学習済みモデルに入力して1つの走査線データを推定することを繰り返して得られる複数の走査線データを、第2の学習済みモデルに入力して前記第2の複数の走査線データに相当する複数の走査線データを推定し、前記第2の学習済みモデルによって推定された前記複数の走査線データからなる推定超音波画像を出力する推論部と、
前記推論部により出力された前記推定超音波画像を表示する表示部と、
を備えることを特徴とする超音波診断装置を含む。
【0008】
さらに、本開示は、被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから単一の受信ビームデータに対する複数の受信ビームデータを教師データとして含む学習データを用いた機械学習により学習済みモデルを生成する学習器、
を有することを特徴とする学習装置を含む。
また、本開示は、被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから単一の受信ビームデータを生成する信号処理ステップと、
単一の受信ビームデータに対する複数の受信ビームデータを教師データとして学習された学習済みモデルを用いて、前記信号処理ステップにより生成された前記単一の受信ビームデータを入力として、複数の受信ビームデータに基づく走査線データである推定データを出力する推論ステップと、
前記推論ステップにより出力された前記推定データに基づいて画像を生成する画像生成ステップと、
前記画像生成ステップにより生成された画像を表示する表示ステップと、
を有することを特徴とする画像処理方法を含む。
また、本開示は、上記画像処理方法の各ステップをプロセッサに実行させるためのプログラムを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超音波診断装置の構成を複雑化させることなく、画質の良い画像を生成することができる技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態における超音波診断装置の概略構成を示す図
【
図2】第1実施形態における受信信号処理部の概略構成を示す図
【
図3】マルチ受信ビームフォーミングを模式的に示す図
【
図4】第1実施形態における超音波診断装置が実行する処理のフローを示す図
【
図5】第1実施形態における学習部の処理内容を模式的に示す図
【
図6】第1実施形態における学習に用いる入力データと正解データの一例を示す図
【
図7】第1実施形態における超音波診断装置の表示部の表示例を示す図
【
図8】第1実施形態における超音波診断装置の表示部の別の表示例を示す図
【
図9】第2実施形態における受信信号処理部の概略構成を示す図
【
図10】第3実施形態におけるデータの関係を模式的に示す図
【
図11】一変形例における送信ビームと受信ビームの関係を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。
【0012】
<第1実施形態>
以下に、第1実施形態に係る超音波診断装置について説明する。
図1は、第1実施形態に係る超音波診断装置を用いるシステムを示す概略図である。
【0013】
超音波診断装置1は、被検者に接触させて超音波の送受信を行う超音波探触子100と、超音波探触子100によって受信した超音波信号に信号処理を施して超音波画像を生成する装置本体101を備える。また、超音波診断装置1は、装置本体101を操作するための操作部102と装置本体101によって生成された超音波画像などを表示する表示部103とを備える。
【0014】
超音波探触子100は、装置本体101に接続されている。超音波探触子100は、複数の振動子を有し、複数の振動子を駆動することによって超音波を発生する。超音波探触子100は、振動子から被検体に超音波を送信し、被検体から反射する超音波を受信して電気信号に変換する。超音波探触子100によって変換された電気信号は、装置本体101に伝達される。
【0015】
また、超音波探触子100は、複数の振動子の前面側(被検体側)に設けられ、複数の振動子と被検体の音響インピーダンスを整合させる音響整合層を有する。また、超音波探触子100は、複数の振動子の背面側(被検体に対して反対側)に設けられ、複数の振動子から背面側への超音波の伝播を防止するバッキング材を有する。
【0016】
超音波探触子100は、装置本体101に着脱自在に接続される。超音波探触子100の種類として、リニア型、セクタ型、コンベックス型、ラジアル型、三次元走査型など挙げられ、被検体の撮影用途に応じて、超音波探触子100の種類が適宜選択されてよい。
【0017】
装置本体101は、超音波探触子100に電圧信号を送信するための送信回路110と、被検体から反射する超音波を受信するための受信回路111とを備える。また、装置本体101は、受信回路111によって受信された超音波信号を用いて超音波画像を生成する受信信号処理部112を備える。さらに、装置本体101は、受信信号処理部112によって生成された超音波画像に輝度調整や補間、その他のフィルタを適用する超音波画像生成部113を備える。さらに、装置本体101は、装置本体101の各種構成要素を制
御する制御部114を備える。
【0018】
超音波探触子100は、複数の振動子から超音波を被検体に送信し、被検体内の音響インピーダンスの差が反映された反射超音波を被検体から受信する。そして、送信回路110は、超音波探触子100による超音波の送信を制御する。送信回路110は、パルス発生部や送信遅延回路等を有し、超音波探触子100に駆動信号を供給する。パルス発生部は、所定のパルス繰り返し周波数(PRF;Pulse Repetition Frequency)のレートパルスを発生させる。
【0019】
送信回路110は、複数の振動子に異なる時間差を有する電圧信号を送信する。これにより、複数の振動子から遅延時間の異なる超音波が送信されることで送信ビームが形成される。そして、スイッチなどにより送信ビームを形成する位置(振動子)を順次変更することで、被検体に対する電子的なスキャンが可能となる。
【0020】
受信回路111は、アンプやA/D変換部等を有する。アンプは、被検体からの反射超音波の信号をチャンネルごとに増幅してゲイン補正処理を行う。また、A/D変換部は、アンプによってゲイン補正された信号をA/D変換する。
【0021】
送信回路111は、被検体に対して二次元走査を行う場合は、超音波探触子100から二次元の超音波を送信させる。そして、受信回路111は、超音波探触子100が受信した二次元の反射超音波から二次元の超音波信号を生成する。また、送信回路111は、被検体に対して三次元走査を行う場合は、超音波探触子100から三次元の超音波を送信させる。そして、受信回路111は、超音波探触子100が受信した三次元の反射超音波から三次元の超音波信号を生成する。
【0022】
操作部102には、マウス、キーボード、ボタン、パネルスイッチ、タッチコマンドスクリーン、フットスイッチ、トラックボール、ジョイスティックなどが用いられる。操作部102は、超音波診断装置の操作者からユーザ入力として種々の指示を受け付け、装置本体101に対して、受け付けた指示を伝達する。
【0023】
表示部103は、超音波診断装置の操作者が操作部102を操作して指示を入力するためのGUI(Graphic User Interface)を表示したり、装置本体101によって生成された超音波画像や計測結果などを表示したりする。
【0024】
なお、装置本体101における送信回路110、受信回路111、受信信号処理部112、超音波画像生成部113は、集積回路などのハードウェアで構成されてもよいし、ソフトウェアでモジュール化されたプログラムであってもよい。
【0025】
図2は、受信信号処理部112の概略構成を示す図である。遅延処理部201は、制御部114から入力される振動子配置や画像生成の各種条件(開口制御、信号フィルタ)を基に、受信回路111で得られた受信信号のデジタルデータに対して、被検体から受信する超音波の受信指向性を決定する遅延時間を与える。
【0026】
推論部202は、遅延処理部201で遅延処理された信号を入力とし、記憶部203に保存された学習済みモデルに従って信号を生成する。推論部202では、学習済みモデルを用いて入力信号を処理するプログラムが実行される。B(Brightness)モード処理部204は、推論部202で生成された信号に対して、包絡線検波処理や対数圧縮処理などを行った後、観察領域内の各点での信号強度を輝度強度で表した画像データを生成する。これらの画像データは、最終的に表示部103において表示される。
【0027】
加算部205は、遅延処理部201で遅延処理された信号を入力とし、入力信号に対して加算処理を行う。すなわち、遅延処理部201と加算部205で整相加算処理が行われる。遅延処理部201で遅延処理された信号は、推論部202による学習済みモデルを用いた推定が行われない場合に、加算部205に入力される。この結果、通常の整相加算によるBモード画像が生成される。
【0028】
記憶部203に保存される学習済みモデルは、超音波診断装置に組み込まれる前に、超音波診断装置の外部の学習装置210で学習が実施されたものであることが望ましい。学習済みモデルは、あらかじめ記憶部203に保存されていてもよいし、ネットワークを介して超音波診断装置に送信されるものであってもよい。
【0029】
学習装置210による学習済みモデルの生成のための機械学習の具体的なアルゴリズムとしては、最近傍法、ナイーブベイズ法、サポートベクターマシンなどが挙げられる。また、ニューラルネットワークを利用して、学習するための特徴量、結合重み付け係数を自ら生成する深層学習(ディープラーニング)が採用されてもよい。これら種々のアルゴリズムのうち利用できるものが適宜選択されて学習装置210による機械学習に適用することができる。
【0030】
受信信号処理部112は、1つ以上のプロセッサとメモリにより構成してもよい。その場合、
図2に示す各部の機能はコンピュータプログラムによって実現される。例えば、メモリに記憶されているプログラムをCPUが読み込み実行することにより、各部の機能を提供することができる。受信信号処理部112は、CPUの他に、各部の演算を担当するプロセッサ(GPU、FPGAなど)を備えていてもよい。メモリは、プログラムを非一時的に記憶するためのメモリ、受信信号などのデータを一時保存しておくためのメモリ、CPUが利用するワーキングメモリなどを含むとよい。
【0031】
図3は、マルチ受信ビームフォーミングを模式的に示す図である。超音波探触子100の複数の振動子300から送信ビームが生成される。マルチ受信ビームフォーミングとは、送信ビームの音場内に複数の受信ビームを形成する手法である。図に示す例では、送信ビーム301の音場内に3つの受信ビーム302a、302b、302cが形成されている。受信ビーム302a、302b、302cは、それぞれ観測点303a、303b、303cから伝搬する波面304a、304b、304cに応じた遅延処理を受信開口305内の振動子が受信する超音波信号に行うことで形成される。
【0032】
マルチ受信ビームフォーミングによれば、1本の走査線に対して一対の送受信ビームの形成を行うよりも一度に広範囲の被検体の情報を取得できる。そして、マルチ受信ビームフォーミングを行いながら送信ビームをスキャンすることで、観測点が同じである同一の受信ビームを重ね合わせることができる。この結果、受信する超音波信号のSN比および画像コントラストを向上させることができる。さらに、受信ビームの重ね合わせを用いることで、送信ビームのフォーカスに起因する深さごとの方位分解能の劣化を補償しつつ、より広い深さ範囲で高い分解能を維持した、いわゆるフォーカスレス効果を得ることができる。
【0033】
図4は、本実施形態において、超音波診断装置1の各部が実行する画像処理のフローを示す。ステップS40において、受信信号処理部112は、受信回路111で得られたマルチ受信ビームフォーミングを行っていない超音波信号と、制御部114から入力される振動子の配置や画像生成の各種条件とを基に、受信超音波の信号データを得る。
【0034】
次に、ステップS41で、受信信号処理部112は、ステップS40による信号処理が行われた信号データを入力として、記憶部203に記憶されている学習済みモデルを用い
た推論を実行する。この結果、受信信号処理部112は、マルチ受信ビームフォーミングを行った場合に相当する推定データを得る。受信信号処理部112は、この推定データを超音波画像生成部113に出力する。
【0035】
そして、ステップS42において、超音波画像生成部113は、受信信号処理部112から出力される推定データに対して輝度調整や補間、その他のフィルタを適用して、その結果得られる画像データを表示部103に出力する。表示部103は、超音波画像生成部113から出力される超音波画像を表示し、超音波診断装置1は本フローの処理を終了する。
【0036】
<学習フェーズ>
次に、本実施形態の超音波診断装置1における学習について説明する。
図5は、学習装置210の処理内容を示す図である。入力データ501と正解データ502が学習器503に与えられ、学習済みモデル504が生成される。入力データ501は、一例として、被検体への1回の超音波の送受信により得られる受信データから生成された単一の受信ビームデータを含む。また、正解データ502は、一例として、複数回の超音波の送受信により得られる複数の受信データにそれぞれ異なる整相加算処理を施して生成された同一の走査線の複数の受信ビームデータを含む。そして、学習器503は、入力データ501と正解データ502を含む学習データを用いた機械学習により学習済みモデル504を生成する。ここで、教師データは、推論部202に入力されるデータと同様の入力データと、この入力データが推論部202に入力されたときに期待される出力である正解データを含む。より具体的には、教師データは、一例として、単一の受信ビームデータに対する複数の受信ビームデータである。教師データは、教示データあるいはトレーニングデータとも呼ばれる。また、入力データは、入力画像、学習画像、学習データとも呼ばれる。また、正解データは、正解画像とも呼ばれる。
【0037】
なお、学習装置210の学習に用いるデータは、学習用の超音波診断装置によって取得されるデータを用いて行われることが望ましい。学習用の超音波診断装置は、大規模な並列同時受信回路または大容量メモリおよび高性能なGPU(Graphics Processing Unit)等の並列演算処理装置を備えることが望ましい。これにより、超音波診断装置で、より精度の高いマルチビームフォーミング処理が行える。高性能な学習用の超音波装置で生成した正解データにより学習した学習済みモデルを記憶部203に保存することにより、大規模で高価なハード構成を持たない比較的簡易な装置でマルチビームフォーミング処理相当の画像を生成することが可能となる。
【0038】
また、正解データは、学習装置210の学習にリアルタイムに生成される必要はなく、振動子のデータの取得と保持ができれば、高速並列演算を行わずに走査線ごとの信号データが生成されてよい。このようにリアルタイム処理の制約がないことにより、従来のマルチ受信ビームフォーミングよりもさらに多くの受信ビームを用いて得られる走査線ごとの信号データを学習に用いることができる。
【0039】
図6は、学習装置210の学習に使用される入力データと正解データの例を模式的に示す図である。学習装置210に与えられる入力データ601は、超音波診断装置においてマルチ受信ビームフォーミングを行っていない場合の受信超音波による信号データであり、単一の受信ビームから得られる受信超音波に遅延処理を行った後の信号データである。この遅延処理後の信号データは、各振動子が受信する超音波について、各振動子を示す軸とサンプリングタイミングを示す軸とからなる平面上に信号データを並べた二次元データである。入力データを生成する際に用いる受信開口306は、
図3に示すように、超音波診断装置においてマルチ受信ビームフォーミングを行う場合の1つの受信開口305より広いことが望ましい。また、受信開口306は、1つの送信ビームの送信に使用される全
振動子を含む範囲の受信開口であることが望ましい。これは、受信開口306をマルチ受信ビームフォーミングに使用する全振動子を包含する開口とすることで、推定に使用する情報をマルチ受信ビームフォーミングで使用する情報と同等のものとすることができるためである。
【0040】
また、学習装置210に与えられる正解データ602は、超音波診断装置においてマルチ受信ビームフォーミングを行い、1本の走査線について複数の受信ビームによる受信超音波の信号データを整相加算して生成した走査線データである。
図6の例では、マルチ受信ビームフォーミングによって3つの受信ビームを形成する場合に、各受信ビームについて振動子が受信する超音波に基づく信号データ611、612、613が示されている。これら信号データ611、612、613を基に目的の1本の走査線についての信号データ621、622、623が得られる。これらの信号データ621、622、623を整相加算することで、正解データ602が得られる。また、この正解データは、Bモード処理が行われる前の一次元データである。超音波診断装置では、送信ビームのスキャンを行うことで、同一の走査線については、送信ビームに形成される受信ビームの数の分だけ加算される。
【0041】
本実施形態では、上記の入力データと正解データのセットを様々な被検体の撮像データから取得し、学習装置210の学習に用いる。このような学習を行うことで、入力データに用いられる受信ビーム1つ分の信号データから、マルチ受信ビームフォーミングを行った場合に相当する1本の走査線情報を得ることができる。
【0042】
なお、ここでは入力データは、複数の振動子が受信する受信データに遅延処理を施した二次元データであり、各振動子を示す軸とサンプリングタイミングを示す軸とからなる平面上に信号データを並べた二次元データを想定している。ただし、入力データは、受信ビーム1つ分の遅延処理後の信号データであればよい。あるいは、入力データは、複数の振動子が受信する受信データに整相加算処理を施した一次元データでもよい。入力データが一次元データである場合は、受信開口内の振動子方向に平均化された信号データであるため、二次元データに比べて情報量が減少しており、学習で抽出される特徴量が十分でない場合がある。したがって、入力データとしては、加算処理前の遅延処理後の信号データである方がより望ましいといえる。
【0043】
また、入力データと正解データの取得に用いられる被検体は、超音波の送受信シミュレーションによって画像化可能なデジタルファントムを用いてもよいし、実際のファントムを用いてもよいし、実際の生体を用いてもよい。
【0044】
本実施形態では学習装置210が超音波診断装置1の外部にあり、学習済みモデルが記憶部203に記憶される例について説明したが、学習装置210を超音波診断装置1の一部として構成して学習を行ってもよい。この場合の正解データは、上記の超音波診断装置1の外部で学習が行われる場合と同様に、整相加算された複数の受信ビームを合成して生成した1本の走査線に関する信号データである。大規模な並列同時受信回路を持たない超音波診断装置では、送信ビームに複数の受信ビームを形成することで画像生成のフレームレートが低下するが、本実施形態の超音波診断装置1では正解データの生成ではリアルタイム処理は必須でない。したがって、本実施形態の超音波診断装置1によれば、種々の被検体を用いた学習データをあらかじめ用意できるため、様々なパターンの入力データに対する学習が行われる。この結果、超音波探触子100によって得られる受信超音波を基に、安定して画質の良い画像を推定できることが期待できる。
【0045】
このような受信ビーム1つ分の遅延処理後の信号データを入力データとし、正解データにマルチ受信ビームフォーミングによる信号データを用いた学習を行うことで得られた学
習モデルが推論部202で動作する。これにより、推論部202は、入力される受信ビーム1つ分の遅延処理後の信号データに対して分解能やコントラストの高いマルチ受信ビームフォーミング処理に相当する信号データを推定できることが期待できる。
【0046】
<推論フェーズ>
次に、
図2を参照しながら、受信信号処理部112によって実行される推論処理について説明する。記憶部203には、マルチ受信ビームフォーミングに相当する信号データが生成されるように学習された学習済みモデルが記憶される。遅延処理部201から出力された受信ビーム1つ分の遅延処理後の信号データが推論部202に入力される。推論部202は、記憶部203に記憶されている学習済みモデルを用いて、入力される信号データからマルチ受信ビームフォーミングに相当する信号データを得て、後段のBモード処理部204に出力する。推論部202は、超音波探触子100による送信ビームのスキャン回数に応じた回数の推論を繰り返し行う。出力される信号データは、Bモード処理部204に入力され、Bモード処理部204は、この信号データに包絡線検波処理、対数圧縮処理などを行い、各観測点における信号強度を輝度強度で表した画像データを生成する。Bモード処理部204によって生成される画像データは、超音波画像生成部113に出力される。超音波画像生成部113は、生成される画像データに輝度調整や補間、その他のフィルタを適用する。超音波画像生成部113による処理後の画像データは、表示部103に出力され、表示部103に超音波画像が表示される。
【0047】
以上の処理により、1回の送信に対して1回の受信のデータを使用して、マルチ受信ビームフォーミングを行ったことに相当する超音波画像を生成することができる。すなわち、大規模な並列同時受信回路や高性能な並列演算処理装置を持たない装置でマルチ受信ビームフォーミングに相当する高画質画像を生成することができる。
【0048】
<超音波画像の表示>
次に、
図7を用いて超音波診断装置1の表示部103に表示される超音波画像について説明する。上記処理によって生成される画像は、超音波探触子100が受信した超音波を直接画像化したものではなく、学習済みモデルを用いた推論に基づく画像であるため、表示部103では、表示されている画像が推論に基づく画像であることが表示される。例えば、
図7に示す超音波画像701では、画像と共に「multi AI」という文字を表示することで推論結果である画像が超音波画像701に含まれていることを示す。なお、推論に基づく画像であることを示すのは、文字による表示でなくてもよく、表示画像や表示領域の外縁の色を変える、点滅させる、背景の色を変える、彩度、模様を変化させるなどの種々の手法によってユーザに通知されてよい。
【0049】
図8は、推論部202による学習済みモデルを用いた推論を行わずに送信ビームに単一の受信ビームを形成して得られる超音波画像811と、上記の推論によって得られる超音波画像812とが、表示部203によって表示される表示画面801の例である。ユーザは、推論によって生成される超音波画像812だけでなく、推論なしの超音波画像811も同時に確認できるため、推論によって変化する画像部分を視認することができる。なお、表示画面801における超音波画像811、812の表示は、一方の画像のみを表示する切り替え表示や、互いの画像を重ねる重畳表示などによって表示形態が変更されてよい。これにより、ユーザは、種々の表示方法によって両画像811、812の差分を確認することができる。
【0050】
<第2実施形態>
次に、
図9を参照しながら、第2実施形態に係る超音波診断装置について説明する。なお、以下の説明において、第1実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、学習装置210における
学習および推論部202による推論に使用する入力データは、マルチ受信ビームフォーミングを行わずに得られるBモード用の超音波画像データである点である。さらに、第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、学習装置210の学習に使用する正解データが、マルチ受信ビームフォーミングを行って得られるBモード用の超音波画像データである点である。
【0051】
図9は、第2実施形態における受信信号処理部912の構成を示す図である。超音波診断装置のその他の構成は第1実施形態と同じである。
図8に示すように、第2実施形態における受信信号処理部912は、整相加算部901、Bモード処理部204、推論部202、記憶部203を有する。
【0052】
整相加算部901は、受信回路111で得られる超音波探触子100の各振動子の受信信号のデジタルデータに、制御部114から入力される振動子の配置や画像生成の各種条件(開口制御、信号フィルタ)を基に、受信指向性を決定する遅延時間を与える。そして、整相加算部901は、各振動子の受信超音波の信号データを加算して1本の走査線の信号データを得る。Bモード処理部204は、整相加算部901で生成される信号データに対し、包絡線検波処理、対数圧縮処理などを行った後、各観測点における信号強度を輝度強度で表したBモード画像データを生成する。
【0053】
推論部202は、記憶部203に記憶されている学習済みモデルを用いて、Bモード処理部204によって生成されたBモード画像データを入力として推論した超音波画像データを生成する。推論部202から出力された画像データは、表示部103において表示される。
【0054】
第2実施形態における学習装置210の学習に使用される入力データは、マルチ受信ビームフォーミングを行っていないBモード画像データであり、単一の受信ビームデータの超音波画像である。また、学習装置210の学習に使用される正解データは、マルチ受信ビームフォーミングによって得られるBモード画像であり、複数の受信ビームデータに基づく1つの走査線の超音波画像である。また、正解データは、1本の走査線の画像データを生成するために使用する受信ビームの本数が入力データの画像データの生成に用いられる受信ビームの本数よりも多い画像データである。
【0055】
本実施形態における推論に使用される入力データは、マルチ受信ビームフォーミングを行っていない第1の超音波画像の一例としてのBモード画像データである。記憶部203には、マルチ受信ビームフォーミングを行って得られるBモード画像データが出力されるように学習された学習済みモデルが記憶されている。Bモード処理部204から出力されたマルチ受信ビームフォーミングを行っていないBモード画像データが、推論部202に入力される。そして、推論部202は、マルチ受信ビームフォーミングを行った場合に相当する第2の超音波画像の一例としてのBモード画像データを出力する。出力されたBモード画像データは、推定超音波画像として超音波画像生成部113に出力される。超音波画像生成部113は、入力されるBモード画像データに輝度調整や補間、その他のフィルタを適用して表示部103に出力する。
【0056】
以上により、本実施形態では、マルチ受信ビームフォーミングを行っていない場合のBモード画像データが学習済みモデルに入力され、その出力として、マルチ受信ビームフォーミングを行った場合に相当する超音波画像の画像データが得られる。本実施形態では、第1実施形態のように信号データに対して推論処理を繰り返すのではなく、画像データに対して推論が行われ、推論結果としての画像データを得る。画像データに対する推論処理を行うため、画像データでは、その基となる信号データに含まれる情報の一部が失われている。この結果、学習および推論の精度が信号データを入力とする場合に比べて低下する
可能性があるが、データ処理量を抑えることができ、より高速な処理、および/またはより簡易な超音波診断装置の構成が可能となる。
【0057】
<第3実施形態>
次に、
図10を参照しながら、第3実施形態に係る超音波診断装置について説明する。なお、以下の説明において、第1および第2実施形態と同様の構成については同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。第3実施形態が第1および第2実施形態と異なる点は、第1実施形態と同様に遅延処理後の信号データから1本の走査線の信号データを出力する推論を行った後に、さらに、間欠的な画像データを入力として補完された画像データを出力する推論を行う点である。
【0058】
マルチ受信ビームフォーミングを用いる場合は、送信ビームのスキャンのピッチを広げることで、超音波画像の表示におけるフレームレートを向上することができる。
図10に、マルチ受信ビームフォーミングにおける送信ビームのスキャンのピッチサイズによる受信ビームと推論により得られる走査線の信号データの関係を示す。
図10Aは、送信ビームのスキャンピッチが狭い場合の、
図10Bは、送信ビームのスキャンピッチがより広い場合の、スキャン方向における受信ビームと信号データの位置関係を模式的に示す。図に示すように、スキャンピッチによって、同一の走査線に対する受信ビームの重なり回数が変わり、スキャンピッチが広くなるほど同一の走査線に対する受信ビームの重なり回数は少なくなる。また、スキャンピッチが広くなるほど、被検体に送信される送信ビームの送信回数は少なくなる。
【0059】
図10Aおよび
図10Bの例では、1送信ビームあたり4本の受信ビームを形成するマルチ受信ビームフォーミングを想定する。本実施形態では、4本の受信ビームを形成して得られる受信超音波を基に1本の走査線の信号データを推論する。
【0060】
図10Aの例では、2本の送信ビーム1001、1002から、それぞれ4本の受信ビームについての信号データ1003、1004が得られる。また、各信号データ1003、1004から推論によって2本の走査線の信号データ1005、1006が得られる。
図10Aのように送信ビームのスキャンピッチがより狭い場合は、推論により得られる走査線の信号データ1005、1006をより密に配置することができる。
【0061】
図10Bの例でも、2本の送信ビーム1011、1012から、それぞれ4本の受信ビームについての信号データ1013、1014が得られる。また、各信号データ1013、1014から推論によって2本の走査線の信号データ1015、1016が得られる。ただし、
図10Bの例では、
図10Aの例よりもスキャンピッチが広いため、推論により得られる走査線の信号データは、
図10Aの例より疎に配置され、送信ビームのスキャンピッチに応じた大きさの間隙1017が生じる。この結果、
図10Bの例の場合は、超音波診断装置において走査線間の距離が広い超音波画像データ1020が生成される。
【0062】
本実施形態では、遅延処理後の信号データを入力として1本の走査線の信号データを推論する第1の学習済みモデルに加えて、別の第2の学習済みモデルを用いて、補完画像データを推論する。第1の学習済みモデルは、単一の受信ビームデータを入力データとして複数の受信ビームデータに基づく1つの走査線データを推定するように学習された学習済みモデルである。また、第2の学習済みモデルは、複数の受信ビームデータ生成を複数回数繰り返して生成される第1の複数の走査線データが入力データとして入力される学習済みモデルである。そして、第2の学習済みモデルは、複数の受信ビームデータ生成を複数回数よりも多い回数繰り返して生成される第2の複数の走査線データを推定する。第2の学習済みモデルの学習に使用される入力データは、
図10Bの例のように送信ビームのスキャンピッチがより広く、すなわち送信ビームの送信回数がより少なく、走査線間の距離
がより広い信号データを基に生成される走査線データである。また、正解データは、
図10Aのように送信ビームのスキャンピッチがより狭く、すなわち送信ビームの送信回数がより多く、走査線間の距離がより狭い(好ましくは、走査線間の間隙がない)信号データを基に生成される複数本の走査線データである。これら入力データと正解データとを用いた学習は、あらかじめ超音波診断装置外で行われ、学習により得られた学習済みモデルは記憶部203に記憶されている。
【0063】
本実施形態に係る超音波診断装置では、超音波探触子100の振動子で受信され、受信信号処理部112の遅延処理部201によって遅延処理が行われた信号データが推論部202に入力される。そして、推論部202は、第1実施形態と同様の学習済みモデルによって、1本の走査線データが推論される。そして、この推論処理を超音波探触子100による送信ビームのスキャン回数分繰り返した後、推論結果である信号データ群が、推論部202による第2の学習済みモデルを用いた推論に使用される。第2の学習済みモデルを用いた推論により、超音波探触子100による送信ビームのスキャンピッチよりも狭い送信ビームのスキャンによって得られる複数本の走査線データに相当する走査線データが生成される。そして、生成された走査線データは、Bモード処理部204に入力され、Bモード処理部204によって輝度変調されたBモード用画像データが超音波画像生成部113に出力される。超音波画像生成部113は、Bモード用画像データに輝度調整や補間、その他のフィルタを適用する。超音波画像生成部113による処理後の画像データは、表示部103に出力され、表示部103に超音波画像が表示される。
【0064】
以上の構成により、本実施形態によれば、マルチ受信ビームフォーミングを行っていない場合に得られる信号データを使用して、マルチ受信ビームフォーミングを行った場合に相当する信号データが推論によって得られる。さらに、本実施形態によれば、超音波画像のフレームレートを高く維持しつつ、より低いフレームレートで生成される高画質な超音波画像を推論によって生成することが可能となる。これにより、高画質な超音波画像を生成するための高価で規模の大きいハードウェア構成を持たない超音波診断装置において、マルチ受信ビームフォーミングを行った場合に相当する高画質な超音波画像を生成することができる。
【0065】
<その他の実施形態>
上述した実施形態は本発明の具体例を示すものにすぎない。本発明の範囲は上述した実施形態の構成に限られることはなく、その要旨を変更しない範囲のさまざまな実施形態を採ることができる。
【0066】
例えば、第1実施形態、第3実施形態においては、信号データを入力データとし、推論によって信号データを出力として得る学習済みモデルを利用したが、学習済みモデルの入出力は信号データでなくてもよい。例えば、第2実施形態と同様にBモード処理部204によって生成される画像データを入力データとして用いてもよい。このような超音波診断装置の構成によっても、上述した実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0067】
また、上記の実施形態の一変形例として、次のように教師データを生成してもよい。
図11に模式的に示すように、複数の振動子1103を用いて、マルチ受信ビームフォーミングを行わない送信ビーム1101(実線)に形成される受信ビーム1101aを基に入力データを得る。また、マルチ受信ビームフォーミングを行う送信ビーム1102(点線)に形成される複数(図では一例として3本)の受信ビーム1102a~1102cのいずれか(図では一例として1102b)を受信ビーム1101aと合うようにして正解データを得る。そして、送信ビーム1101から得られる受信ビームデータの走査領域と送信ビーム1102から得られる受信ビームデータの走査領域との少なくとも一部の領域が互いに重なるようにして教師データを生成してもよい。したがって、教師データにおける
複数の受信ビームデータは、単一の受信ビームデータの走査領域を含む走査領域に対して複数回の超音波の送受信を行うことにより得られる受信データから形成することができる。さらには、教師データにおける複数の受信ビームデータは、単一の受信ビームデータの走査領域と重複する走査領域に対して複数回の超音波の送受信を行うことにより得られる受信データから形成することもできる。これにより、入力データと正解データとの間で、被験体に対する走査領域の少なくとも一部を合わせることで、より精度の高い推論結果が得られるように学習装置210の学習を行うことができる。
【0068】
また、開示の技術は例えば、システム、装置、方法、プログラム若しくは記録媒体(記憶媒体)等としての実施態様をとることが可能である。具体的には、複数の機器(例えば、ホストコンピュータ、インターフェイス機器、撮像装置、webアプリケーション等)から構成されるシステムに適用してもよいし、また、1つの機器からなる装置に適用してもよい。
【0069】
また、本発明の目的は、以下のようにすることによって達成されることはいうまでもない。すなわち、前述した実施形態の機能を実現するソフトウェアのプログラムコード(コンピュータプログラム)を記録した記録媒体(または記憶媒体)を、システムあるいは装置に供給する。かかる記憶媒体は言うまでもなく、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体である。そして、そのシステムあるいは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU)が記録媒体に格納されたプログラムコードを読み出し実行する。この場合、記録媒体から読み出されたプログラムコード自体が前述した実施形態の機能を実現することになり、そのプログラムコードを記録した記録媒体は本発明を構成することになる。
【符号の説明】
【0070】
1:超音波診断装置
112:受信信号処理部
202:推論部
113:超音波画像生成部
103:表示部