(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】オイルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/3232 20160101AFI20240318BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
F16J15/3232 201
F16J15/16 B
(21)【出願番号】P 2020154360
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2023-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000104490
【氏名又は名称】キーパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆一
(72)【発明者】
【氏名】野中 匡浩
【審査官】久慈 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-44687(JP,A)
【文献】特開2020-8096(JP,A)
【文献】国際公開第2018/097268(WO,A1)
【文献】特開2019-90518(JP,A)
【文献】特開2013-50179(JP,A)
【文献】特開2020-106081(JP,A)
【文献】特開2004-132519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/3232
F16J 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸とその周囲を覆うハウジングとの間に配置され、前記ハウジング側に固定する嵌合部と、前記回転軸と接触する主リップと、前記主リップよりも大気側であり、前記回転軸に設けられたスリンガの径方向に延びるフランジ部と接触するサイドリップを有するオイルシールにおいて、前記サイドリップは、前記フランジ部と接触可能な少なくとも3つ以上の環状突起部を有し、前記サイドリップの先端側の前記環状突起部の先端と前記サイドリップの根本側の前記環状突起部の先端とを結ぶ仮想線よりも前記フランジ部側に、前記サイドリップ先端側の前記環状突起部と前記サイドリップ根本側の前記環状突起部との間に形成される前記環状突起部の先端が位置していることを特徴とするオイルシール。
【請求項2】
前記環状突起部と前記環状突起部との間の溝の深さが、前記サイドリップの根本側の前記溝が浅く、前記サイドリップ先端側の前記溝の深さが深くなることを特徴とする請求項1に記載のオイルシール。
【請求項3】
前記サイドリップの最も根本側に形成される前記環状突起部の軸方向位置が、前記サイドリップの軸方向長さ1に対して、根元から0.3~0.7の範囲内の位置にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のオイルシール。
【請求項4】
前記サイドリップの内周面あるいは外周面の少なくとも一方が、根本側の緩傾斜面とそれよりも先端側の急傾斜面とを備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1つに記載のオイルシール。
【請求項5】
前記サイドリップの先端側の前記環状突起部が摩耗すると前記サイドリップの先端が前記フランジ部と接触可能とする請求項1から4のいずれか1つに記載のオイルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はオイルシールに関する。さらに詳しくは、本発明はスリンガのフランジ部との間で泥水等が機器内部に侵入しないようにするためのシール機構を構成するサイドリップを備えるオイルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
外部からの泥水などが侵入する恐れのある軸封箇所には、軸に備えられたスリンガのフランジ部との間で泥水等が機器内部に侵入しないようにするためのシール機構を構成するサイドリップを備えるオイルシールが使用されている。例えば、自動車のアクスルやエンジンのリア部用のオイルシール101では、機器内部に泥水が侵入しないようにするためのサイドリップ105を有するオイルシール101とスリンガ106とを組み合わせて使用されている(特許文献1)。
【0003】
このオイルシール101は、
図10に示すように、回転軸102とその周囲を覆うハウジング103との間の隙間に配置され、ハウジング103に固定する嵌合部107と、回転軸102と接触する主リップ104と、主リップ104よりも大気側であり、回転軸102に嵌合されたスリンガ106のフランジ部106aと軸方向に接触するサイドリップ105とを備える。なお、図中の符号108は金属環である。
【0004】
サイドリップ105には、フランジ部106aと軸方向に接触する複数の突起部105aを形成することで、サイドリップ105とスリンガ106との接触圧を上げることができると共に、突起部105a同士の間にグリースを保持することが可能となる。このため、シール性が向上すると共に、サイドリップの耐摩耗性が向上できる(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】実願昭57-168755(実開昭59-072360)
【文献】実願平03-064080(実開平05-008136)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のオイルシール101のサイドリップ105は、突起部105aが二等辺三角形状に形成されているため、フランジ部106aとの接触時には、前記突起部105aの大気側壁面105aaと、機器側壁面105abとがほぼ同じ角度でフランジ部と接触する。このため、オイルシール101と、スリンガ106との組付時の組付誤差、回転軸102の回転時におけるがたつき及び軸方向の移動等が生じた場合に、突起部105aは、スリンガ106の位置にばらつきが生じてしまうことで、フランジ部106aと接触している突起部105aの面圧ピークが機器側の方に形成されてしまう危険性があった。突起部105aの面圧ピークが機器側の方に形成されてしまうと、突起部105aにおける前記フランジ部106aとの接触面が泥水の浸入方向に働いてしまい、泥水を機器側に吸い込みやすくなってしまう。
【0007】
また、前記フランジ部106aと接触している突起部105aの面圧ピークが機器側の方に形成されてしまうと、突起部105a同士の間に介在させたグリースが突起部105aにおける前記フランジ部106aとの接触面に供給し難い構成となってしまう危険性があった。このため、グリース保持によるサイドリップの耐摩耗性の向上効果を得ることができなくなる危険性も生じてしまう。
【0008】
本発明は、オイルシールと、スリンガとの組付時の組付誤差、回転軸の回転時におけるがたつき及び軸方向の移動等が生じた場合でも、サイドリップのシール性を確保すると共に、サイドリップの耐摩耗性を向上することができるオイルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するために請求項1記載の発明は、回転軸とその周囲を覆うハウジングとの間に配置され、ハウジング側に固定する嵌合部と、回転軸と接触する主リップと、主リップよりも大気側であり、回転軸に設けられたスリンガの径方向に延びるフランジ部と接触するサイドリップを有するオイルシールにおいて、サイドリップは、フランジ部と接触可能な少なくとも3つ以上の環状突起部を有し、サイドリップの先端側の環状突起部の先端とサイドリップの根本側の環状突起部の先端とを結ぶ仮想線よりもフランジ部側に、サイドリップ先端側の環状突起部とサイドリップ根本側の環状突起部との間に形成される環状突起部の先端が位置するようにしている。
【0010】
ここで、本発明にかかるオイルシールは、環状突起部と環状突起部との間の溝の深さが、サイドリップの根本側の溝が浅く、サイドリップ先端側の溝の深さが深くなることが好ましい。
【0011】
また、本発明にかかるオイルシールは、サイドリップの最も根本側に形成される環状突起部の軸方向位置が、サイドリップの軸方向長さ1に対して、根元から0.3~0.7の範囲内の位置にあることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明にかかるオイルシールは、サイドリップの内周面あるいは外周面の少なくとも一方が、根本側の緩傾斜面とそれよりも先端側の急傾斜面とを備えることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明にかかるオイルシールは、サイドリップの先端側の環状突起部が摩耗するとサイドリップの先端がフランジ部と接触可能とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のオイルシールによれば、スリンガとの組付の際に、サイドリップ先端側の環状突起部とサイドリップ根本側の環状突起部との間に形成される環状突起部が相手部材たるフランジ部と近くなり接触しやすくなることから、締め代が小さくてもサイドリップの先端側の環状突起部と共に密封部を構成することでシール性を高めることができる。また、サイドリップの締め代が小さくても、サイドリップ先端側の環状突起部のみならず、サイドリップ先端側の環状突起部とサイドリップ根本側の環状突起部との間に形成される環状突起部がフランジ部と接触して密封部を構成することで、接触荷重が分散するので、サイドリップ、相手部材たるフランジ部の摩耗低減を図ることができる。
【0015】
さらに、締め代の許容範囲が広がる(相手部材との取付位置精度をラフにできる)ことで、シールの取り扱いも容易となる。
【0016】
つまり、オイルシールと、スリンガとの組付時の組付誤差、回転軸の回転時におけるがたつき及び軸方向の移動等が生じた場合でも、サイドリップのシール性を確保すると共に、サイドリップの耐摩耗性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のオイルシールの自然状態の中央縦断面図である。
【
図2】本発明のオイルシールのサイドリップの突起部とスリンガのフランジ部との接触した状態の拡大図である。
【
図3】本発明のオイルシールのサイドリップの突起部間の高さの関係を示す説明図である。
【
図4】本発明のオイルシールのサイドリップの突起部間の溝深さの関係を示す説明図である。
【
図5】本発明のオイルシールのサイドリップの長さと根本側の突起部の位置との関係を示す説明図である。
【
図6】本発明のオイルシールのサイドリップの傾斜面の関係を示す説明図である。
【
図7】本発明のオイルシールのサイドリップの先端形状を示す説明図である。
【
図8】本発明のオイルシールのサイドリップの突起部とスリンガのフランジ部との接触状態を示す説明図で、(A)は締め代小、(B)は締め代中、(C)は締め代大である。
【
図9】本発明のオイルシールの一実施形態を示す中央縦断面図である。
【
図10】従来のオイルシールの一実施形態を示す中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成を図面に示す形態に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1に本発明のオイルシール1の実施形態の一例を示す。本発明のオイルシール1は、外部からの泥水などが侵入する恐れのある軸封箇所、例えば回転軸2とその周囲を覆うハウジング3との間の隙間に配置され、ハウジング3に固定する嵌合部7と、回転軸2と接触する主リップ4と、主リップよりも大気側であり、回転軸2に軸方向に延びるスリーブ部6bが嵌合されたスリンガ6の径方向に延びるフランジ部6aと軸方向に接触するサイドリップ5とを備える。なお、図中の符号8は、嵌合部7と後面9とを補強する金属環である。
【0020】
サイドリップ5は、後面9から大気側のスリンガ6に向けて突出するように形成されている。このサイドリップ5には、フランジ部6aと接触可能な少なくとも3つ以上の環状突起部5aを有している。本実施形態の場合、シール面側にサイドリップの先端側の第一環状突起部5a1とサイドリップの根本側の第三環状突起部5a3および第一環状突起部5a1と第三環状突起部5a3との間に形成される第二環状突起部5a2との3つの環状突起部が形成されている。この少なくとも3つ以上の環状突起部5aの間にグリース(図示省略)を保持させることで突起部5aとフランジ部6aとの接触面にグリースを供給し易くすることができると共に、この少なくとも3つ以上の突起部5aのうちの少なくとも1つがスリンガ6のフランジ部6aと接触することで大気側からの泥水等の浸入を防止することができる。また、他の非接触の突起もフランジ部6aと近接することでラビリンス効果により大気側からの泥水等の浸入を防止することができる。勿論、サイドリップ5のすべての突起部5aがスリンガ6のフランジ部6aと接触しても良い。尚、本明細書中において、環状突起部全般を指す場合には、環状突起部5aと呼び、特定の位置の環状突起部を指すときには第一環状突起部5a1、第二環状突起部5a2、第三環状突起部5a3、…、第n環状突起部5anと特定して呼ぶ。
【0021】
ここで、本実施形態の3つ以上の環状突起部5aは、サイドリップ5の先端側の環状突起部の先端とサイドリップの根本側の環状突起部の先端とを結ぶ仮想線よりもフランジ部側に、サイドリップ先端側の環状突起部とサイドリップ根本側の環状突起部との間に形成される環状突起部の先端が位置するように形成されている。本実施形態のオイルシール1の場合、例えば、
図3に示すように、サイドリップ5の先端側の環状突起部(以下、第一環状突起部5a1と呼ぶ)とサイドリップの根本側の環状突起部(以下、第三環状突起部5a3と呼ぶ)とサイドリップ先端側の環状突起部とサイドリップ根本側の環状突起部との間に形成される環状突起部(以下、第二環状突起部5a2と呼ぶ)との3つの環状突起部5aを有し、第一環状突起部5a1の先端と第三環状突起部5a3の先端とを結ぶ仮想線13よりもフランジ部側に、第二環状突起部5a2の先端14が位置するように形成されている。
【0022】
これにより、第二環状突起部5a2が相手部材たるスリンガ6のフランジ6aと近くなり第二環状突起部5a2がフランジ6aに接触しやすくなり、締め代が小さくても第一環状突起部5a1、第二環状突起部5a2がともに密封部を構成することでシール性を高める。例えば、
図8(A)に示すように、締め代が小さくても第一環状突起部5a1、第二環状突起部5a2がともに接触して密封部を構成する。また、
図8(B)に示すように、サイドリップ5の締め代が中位の場合でも、第一環状突起部5a1、第二環状突起部5a2がともに接触して密封部を構成する。さらに、
図8(C)に示すように、サイドリップの締め代が大きい場合には、第一環状突起部5a1、第二環状突起部5a2および第三突起部5a3の全てが共にスリンガ6のフランジ6aと接触して密封部を構成する。
【0023】
また、サイドリップ5の締め代が小さくても、サイドリップ先端側の環状突起部即ち第一環状突起部5a1のみならず、第二環状突起部5a2が相手部材たるフランジ6aと接触して密封部を構成することで接触荷重が分散するので、サイドリップ5、フランジ6aの摩耗低減を図ることができる。また、少なくとも3つ以上の環状突起部5a1、5a2、5a3の間にグリースを保持し易くすることでトルク低減、摩耗低減を図ることもできる。さらに、締め代の許容範囲が広がる(相手部材たるフランジ6aとの取付位置精度をラフにできる)ことで、シールの取り扱いも容易となる。
【0024】
ここで、サイドリップ5の少なくとも1つの環状突起部5aは、
図2に示すように、環状突起部5aの大気側壁面5aaとフランジ部6aの接触面との成す角αが、環状突起部5aの機器側壁面5abとフランジ部6aの接触面との成す角βよりも大きくなるように形成されている。このため、オイルシール1と、スリンガ6との組付時に組付誤差、回転軸の回転時におけるがたつき及び軸方向の移動等が生じたとしても、環状突起部5aの接触面の面圧ピークを大気側に設けることが可能となり、仮に泥水等が機器側に侵入したとしても環状突起部5aの接触面が泥水の排水方向に働くようになり、オイルシールのシール性を確保することができる。また、環状突起部5aの機器側の面圧が大気側の面圧よりも低い構成となるので、環状突起部5a同士の間に介在させたグリース(図示省略)は、スリンガ6のフランジ部6aと接触している環状突起部5aの接触面へ吸込方向に働くようになる。このため、グリースがスリンガのフランジ部と接触している環状突起部5aの接触面に供給され易くなり、環状突起部5a間のグリース保持によるサイドリップ5の耐摩耗性の向上効果を得ることができる。ここで、角度αと角度βとの関係はα>βであれば良く、特定の比に限られるものではないが、その差が大きいほど環状突起部5aに侵入した泥水の排水効果が期待できる。本実施形態にかかるオイルシールは、角度αは90°~130°の範囲で、より好ましくは100°~120°の範囲とすることが良い。90°未満の場合、オイルシール1と、スリンガ6との組付時に環状突起部5aが大気側壁面と接触するように反転してしまう危険性がある。また、130°超過だと、環状突起部5aが大気側壁面5aaと接触するように反転してしまう危険性がある。
【0025】
尚、
図2では、少なくとも1つの環状突起部5aの1つとして、第一環状突起部5a1を例示しているが、これに特に限られるものではなく、好ましくは第一環状突起部5a1および第二環状突起部5a2、より好ましくは全ての突起例えば第一環状突起部5a1、第二環状突起部5a2および第三突起部5a3が上述の角度αと角度βとの関係(α>β)を満たしていることである。
【0026】
また、
図1に示すように、環状突起部5aの大気側壁面5aaと機器側壁面5abとの間の環状突起部5aの先端を平坦面5acに形成することが好ましい。スリンガ6のフランジ部6aと接触する環状突起部5aの先端が線接触となるエッジ状である場合には、環状突起部5aの先端部分を常に大気側に設けることができる。しかしながら、環状突起部5aの先端がエッジ状である場合は、オイルシール1とスリンガ6との組付作業時に環状突起部5aの先端がフランジ部6aに引っ掛かり大気側壁面5aa側に折れ曲がりやすくなり、折れ曲がったまま装着されてしまうことで面圧ピークが機器側になってしまう危険性がある。この構成に対し、環状突起部5aの大気側壁面5aaと機器側壁面5abとの間の環状突起部5aの先端を平坦面5acにすることで、オイルシール1とスリンガ6との組付作業時に環状突起部5aの先端がフランジ部6aに引っ掛かることがなくなる。しかも、フランジ部6aと環状突起部5aとの接触面は線接触ではなく面接触になり、接触面の接触幅が長くなり、環状突起部5aの接触面圧を下げることができる。このため、サイドリップ5の環状突起部5aの摩耗量を低減することができる。また、接触面の接触幅が長くなるため、接触面に異物が噛み込まれたとしても径方向に連通しにくくすることができるようになる。このため、異物噛み込み時のサイドリップ5のシール性を向上させることができる。
【0027】
ここで、平坦面5acは、環状突起部5aの先端が線状とならずに面接触するような接触面を構成するものであれば良く、特に平滑で平面度の高い面を求めているものでは無く、微小な凹凸や曲面等を有していても、フランジ部6aに面接触することが可能である構成であれば良い。
【0028】
さらに、
図1に示すように、サイドリップ5のシール面には、環状突起部5aと環状突起部5aのそれぞれの間に溝12を形成することが好ましい。例えば、本実施形態では、第一環状突起部5a1と第二環状突起部5a2および第三突起部5a3のそれぞれの間に溝12を形成している。この場合、サイドリップ5の溝12を形成した部分は環状突起部5aを形成している部分よりも肉厚が薄くなって剛性が弱くなる。このため、機器側の環状突起部5aがスリンガ6のフランジ部6aに接触した場合にサイドリップ5の先端側がオイルシール1の後面9側に反転しそうになったとしても、溝12の部分の剛性が低いため(サイドリップ5が反転するほどの剛性がなくなり)、大気側の環状突起部5aがフランジ部6aから離間してしまうことを抑えることができる。また、環状突起部5aと環状突起部5aの間、例えば第一環状突起部5a1、第二環状突起部5a2および第三環状突起部5a3の間のグリース保持量を増加させることが可能となり、環状突起部5a例えば第一環状突起部5a1、第二環状突起部5a2および第三環状突起部5a3への長期グリース供給が可能となりオイルシールの長寿命化を図ることができる。
【0029】
ここで、環状突起部5aと環状突起部5aとの間に形成される溝12の深さは、サイドリップの根本側の溝12が浅く、サイドリップ先端側の溝12の深さが深くなることが好ましい。例えば本実施形態では、
図4に示すように、第一環状突起部5a1と第二環状突起部5a2との間の溝12の深さd1が、第二環状突起部5a2と第三環状突起部5a3との間の溝12の深さd2よりも深くなる(d1>d2)ように形成されている。この場合、サイドリップの先端側(第二環状突起部5a2よりも先端側)がより曲がりやすくなるので第二環状突起部5a2が相手部材たるフランジ部6aと接触しやすくなり、第一環状突起部5a1および第二環状突起部5a2がともに密封部を構成することでシール性を高める。また、サイドリップ5の締め代が小さくても第二環状突起部5a2が相手部材たるフランジ部6aと接触して密封部を構成することで接触荷重が分散するので、サイドリップ、相手部材たるフランジ部6aの摩耗低減を図ることができる。また、各環状突起部5a1、5a2、5a3の間にグリースを保持し易くすることでトルク低減、摩耗低減を図ることもできる。さらに、締め代の許容範囲が広がる(相手部材たるフランジ部6aとの取付位置精度をラフにできる)ことで、オイルシールの取り扱いも容易となる。
【0030】
また、
図1に示すように、サイドリップ5の先端はR(曲面)形状で形成されていることが好ましい。この場合、オイルシール1とスリンガ6との組付時において、スリンガ6のフランジ部6aと最初に接触するサイドリップ5の部位がサイドリップ5の先端面11側であったとしても、サイドリップ5の先端はR形状であるため接触圧は小さくなる。このため、オイルシール1とスリンガ6との組付にサイドリップ5の先端部分がスリンガ6のフランジ部6aに引っ掛かりシール面とは反対側に反転してしまうことがなくなる。したがって、オイルシール1とスリンガ6との組付完了時にサイドリップ5とフランジ部6aとの接触をサイドリップ5のシール面とすることが容易にできるようになる。
【0031】
さらに、サイドリップ5の先端には、オイルシール1とスリンガ6との組付完了時に、スリンガ6のフランジ部6aに接触しない凸部10を形成することが好ましい。オイルシール1とスリンガ6との組付時に、サイドリップ5の先端がR形状の場合は、サイドリップ5がシール面側とは反対側に反転することを防止できる。しかしながら、サイドリップ5の先端がR形状の場合、面圧が分散されて突起部5aの大気側の面圧ピークが低下してしまう危険性があった。そこで、サイドリップ5の先端にシール面とは関係ない凸部10を形成することで、サイドリップ5のシール性を低下させることなく突起部5aの面圧ピークを大気側に維持すると共に、オイルシール1とスリンガ6との組付時にサイドリップ5の先端部分がスリンガ6のフランジ部6aに引っ掛かりシール面とは反対側に反転してしまうことを防止できるようになる。
【0032】
また、サイドリップ5の最も根本側に形成される環状突起部例えば本実施形態の場合には第三環状突起部5a3のサイドリップ5の根本からの軸方向位置L
3は、サイドリップ5の軸方向長さLに対して、根本から(0.3~0.7)Lの位置に設定されることが好ましい(
図5参照)。これにより、サイドリップ5に大きく締め代がついた際にサイドリップ5の形状が安定してシール性を維持向上することができる。ここで、第三環状突起部5a3の軸方向位置L
3が0.3L未満の場合、第三環状突起部5a3を相手部材に接触させるためにはサイドリップ5の締め代が大きくなりすぎて接触荷重が極めて高くなってしまい、トルク増大、リップの異常摩耗の危険がある。このため根本側の突起部(本実施形態の場合には第三環状突起部5a3)を接触させることができず密封部を構成できなくなる。その反面、第三環状突起部5a3の軸方向位置L
3が0.7Lより大きい場合、第三環状突起部5a3から根本までの距離が長くなりすぎて、サイドリップ5に大きな締め代をつけたときに第三環状突起部5a3よりもサイドリップ5の根本側の部分が相手部材・フランジ部6aと強く接触して相対的にサイドリップ先端側の突起部即ち第一環状突起部5a1の接触が弱く(最悪の場合には非接触と)なってしまい、シール性の低下につながる。また、サイドリップ5の先端側のスペースが小さくなり環状突起部5aの数が制限される。
【0033】
また、サイドリップ5は、内周面あるいは外周面の少なくとも一方が、根本側の緩傾斜面15とそれよりも先端側の急傾斜面16とを備えることが好ましい(
図6参照)。この場合、サイドリップが曲がりやすくなり複数の環状突起部5aが相手部材と接触しやすくなるのでシール性を高めることができる。しかも、サイドリップ5の締め代が小さくても複数の環状突起部5aが相手部材と接触して密封部を構成することで、接触荷重が小さくなり、トルク低減、サイドリップ、相手部材の摩耗低減を図ることができる。締め代の許容範囲が広がる(相手部材との取付位置精度をラフにできる)ことで、シールの取り扱いも容易となる。ここで、周面を緩傾斜面15のみで構成した場合、サイドリップ5が曲がりにくくなるのでトルク増大、異常摩耗の危険がある。また、サイドリップ5を変形させる際に内側に反転してしまう危険が高まる。一方、周面を急傾斜面16のみで構成した場合、サイドリップ5の径寸法が大きくなってしまい、相手部材も大きくせざるを得なくなり重量アップ、コストアップとなる。また、シール運搬時の積み重ねができない、シール組み込みの際にシール端面に治具が当てられないなどの問題が生じる。
【0034】
第一環状突起部5a1が摩耗すると、サイドリップ5の先端面11が相手部材たるフランジ部6aと接触可能としても良い(
図7参照)。この場合、サイドリップ5の先端面11を密封部として利用できるので、密封部の数が増えることでシール性がより向上する。
【0035】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、サイドリップ5は第一環状突起部5a1、第二環状突起部5a2および第三環状突起部5a3の3つの環状突起部5aを備えた例を挙げて説明したが、少なくとも3つ以上の環状突起部5aを有しているものであれば環状突起部5aの数は特に3つに限定されるものではない。また、実施形態を示す図では、サイドリップ5は後面9から先端面11との間に一部厚肉を形成するものであったが、サイドリップの厚さは均一なものや後面9から先端面11にかけて先細りにする構成にしてもよい。さらに、上述の実施形態では、主リップ4は回転軸2と接触するものであったが、スリンガ6のスリーブ部6bを延長して回転軸2の外周面を覆うような構成にして、主リップ4とスリーブ部6bとが接触する構成にしても良い。また、上述の実施形態では、オイルシール1は回転軸2とその周囲を覆うハウジング3との間の隙間に配置するものであったが、転がり軸受等の内輪と外輪との間の隙間に配置する構成でも良い。さらに、金属環8の形状は、嵌合部7及び後面9を補強できる形状であれば良く、L字等の形状にしても良い。また、本発明における突起の位置関係は、少なくとも任意の3つの突起が、サイドリップの先端側、サイドリップの根本側と、その間の位置関係にあれば良く、本発明における溝の位置関係についても、少なくとも任意の2つの溝が、サイドリップの先端側と、サイドリップの根本側の位置関係にあれば良い。
【符号の説明】
【0036】
1 オイルシール
2 回転軸
3 ハウジング
4 主リップ
5 サイドリップ
5a 環状突起部
5aa 大気側壁面
5ab 機器側壁面
5ac 平坦面
5a1 第1環状突起部
5a2 第2環状突起部
5a3 第3環状突起部
6 スリンガ
6a フランジ部
6b スリーブ部
7 嵌合部
8 金属環
9 後面
10 凸部
11 先端面
12 溝
13 第一環状突起部の先端と第三環状突起部の先端とを結ぶ仮想線
14 第二環状突起部の先端
15 根本側の緩傾斜面
16 根本側の緩傾斜面よりも先端側の急傾斜面