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特許7455714放射性核種処理システムおよび放射性核種処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】放射性核種処理システムおよび放射性核種処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21G 7/00 20090101AFI20240318BHJP
   G21B 3/00 20060101ALI20240318BHJP
   G21F 9/00 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
G21G7/00
G21B3/00 B
G21F9/00 Z
G21F9/00 N
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020157514
(22)【出願日】2020-09-18
(65)【公開番号】P2022051176
(43)【公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-01-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】土橋 晋作
(72)【発明者】
【氏名】鶴我 薫典
(72)【発明者】
【氏名】中野 要治
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-190786(JP,A)
【文献】特開2013-178222(JP,A)
【文献】特開昭59-048698(JP,A)
【文献】特開平08-220029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21G 7/00
G21B 3/00
G21F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重水素が透過可能な構造体、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部および重水素低濃度部、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極、および前記電極に接続される電源を有する反応装置と、
前記貯留部に接続され、電解質を含む重水溶液を前記貯留部に供給する電解質溶液供給部と、
前記貯留部に接続され、前記貯留部内から溶液を抜き出し、該抜き出した溶液を前記貯留部に戻す循環部と、
前記構造体の放射線量を測定する第1検出器と、
前記貯留部から抜き出した溶液の放射線量を測定する第2検出器と、
前記第2検出器の測定で得られた第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合に、反応終了と判定する判定部と、
を備え、
前記構造体は、前記貯留部側に、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層を有し、
前記循環部は、前記貯留部から抜き出した溶液を貯蔵する溶液貯蔵部を有する放射性核種処理システム。
【請求項2】
前記放射性物質は、γ線を放出する核種を有し、
前記第1検出器は、γ線検出器である請求項1に記載の放射性核種処理システム。
【請求項3】
前記反応装置は、周囲を遮蔽材で囲まれている請求項1または請求項2に記載の放射性核種処理システム。
【請求項4】
重水素が透過可能な構造体、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部および重水素低濃度部、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極、および前記電極に接続される電源を有する反応装置と、
前記貯留部に接続され、電解質を含む重水溶液を前記貯留部に供給する電解質溶液供給部と、
前記貯留部に接続され、前記貯留部内から溶液を抜き出し、該抜き出した溶液を前記貯留部に戻す循環部と、
前記重水素低濃度部内に収容され、前記構造体の放射線量を測定する第1検出器と、
前記貯留部から抜き出した溶液の放射線量を測定する第2検出器と、
前記第2検出器の測定で得られた第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合に、反応終了と判定する判定部と、
を備え、
前記構造体は、前記貯留部側に、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層を有する放射性核種処理システム。
【請求項5】
前記放射性物質は、β線を放出する核種を有し、
前記第1検出器は、β線検出器である請求項4に記載の放射性核種処理システム。
【請求項6】
前記第1検出器の測定で得られた第1放射線量が第1閾値以下に低下した場合に、反応終了と判定する判定部をさらに備える請求項1~5のいずれかに記載の放射性核種処理システム。
【請求項7】
前記第2検出器は、前記溶液貯蔵部内に貯蔵された溶液の放射線量を測定可能に、前記溶液貯蔵部との相対位置が固定される請求項1~3のいずれかに記載の放射性核種処理システム。
【請求項8】
前記第1検出器は、前記構造体に正対している請求項1~のいずれかに記載の放射性核種処理システム。
【請求項9】
前記貯留部に接続され、前記水素吸蔵金属または前記水素吸蔵合金と、前記放射性物質とを含む電着液を前記貯留部に供給する電着液供給部と、
前記貯留部から抜き出された溶液を系外に排出する排出部と、
をさらに備える請求項1~のいずれかに記載の放射性核種処理システム。
【請求項10】
前記第1検出器の視野範囲に、内部標準物質が配置される請求項1~のいずれかに記載の放射性核種処理システム。
【請求項11】
前記貯留部に接続され、前記貯留部内に洗浄液を供給する洗浄液供給部をさらに備える
請求項10に記載の放射性核種処理システム。
【請求項12】
前記構造体は、前記水素吸蔵金属または前記水素吸蔵合金からなる基板と、前記基板上に形成された中間層とを備え、
前記中間層は、前記水素吸蔵金属または前記水素吸蔵合金からなる第1層と、前記水素吸蔵金属または前記水素吸蔵合金に対して相対的に仕事関数が低い物質からなる第2層とが積層された構成であり、
前記表層は、前記中間層の上にある請求項1~11のいずれかに記載の放射性核種処理システム。
【請求項13】
重水素が透過可能な構造体、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部および重水素低濃度部、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極、および前記電極に接続される電源を有する反応装置を用いた放射性核種処理方法であって、
水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層を前記貯留部側に向けて前記構造体を配置し、
前記貯留部に電解質を含む重水溶液を供給し、
前記電解質を含む重水溶液に浸漬させた前記電極に電圧を印加して前記電極と前記構造体との間に電圧差を生じさせ、前記電極と前記構造体との間の空間で前記電解質を含む重水溶液から前記重水素を発生させ、所定時間、濃度勾配によって前記構造体の前記貯留部側から前記重水素低濃度部側に向けて前記重水素を透過させ、
前記重水素の透過を停止し、前記貯留部から溶液を抜き出して前記貯留部内を空にした後、第1検出器により前記構造体の放射線量を測定し、前記第1検出器の測定により得られた第1放射線量が、第1閾値以下に低下した場合に、反応を終了し、
前記第1放射線量が、前記第1閾値よりも高い場合に、抜き出した前記溶液を前記貯留部に戻し、前記重水素の透過を再開させ、
前記貯留部から抜き出した電解質溶液の第2放射線量を第2検出器によって測定し、
前記第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合に、反応終了と判定す放射性核種処理方法。
【請求項14】
前記放射性物質は、γ線を放出する核種を有し、
前記第1検出器は、γ線検出器である請求項13に記載の放射性核種処理方法。
【請求項15】
前記反応装置の周囲を遮蔽材で囲う請求項13または請求項14に記載の放射性核種処理方法。
【請求項16】
重水素が透過可能な構造体、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部および重水素低濃度部、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極、および前記電極に接続される電源を有する反応装置を用いた放射性核種処理方法であって、
水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層を前記貯留部側に向けて前記構造体を配置し、
前記構造体の放射線量を測定する第1検出器を前記重水素低濃度部内に配置し、
前記貯留部に電解質を含む重水溶液を供給し、
前記電解質を含む重水溶液に浸漬させた前記電極に電圧を印加して前記電極と前記構造体との間に電圧差を生じさせ、前記電極と前記構造体との間の空間で前記電解質を含む重水溶液から前記重水素を発生させ、濃度勾配によって前記構造体の前記貯留部側から前記重水素低濃度部側に向けて前記重水素を透過させ、
前記重水素を透過させながら、前記第1検出器により前記構造体の第1放射線量を測定し、
前記第1検出器の測定で得られた前記第1放射線量が第1閾値以下に低下した場合に、反応を終了し、
前記貯留部から抜き出した電解質溶液の第2放射線量を第2検出器によって測定し、
前記第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合に、反応終了と判定する放射性核種処理方法。
【請求項17】
前記放射性物質は、β線を放出する核種を有し、
前記第1検出器は、β線検出器である請求項16に記載の放射性核種処理方法。
【請求項18】
前記第1検出器の視野範囲に、内部標準物質を配置する請求項1317のいずれかに記載の放射性核種処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、放射性廃棄物処理技術、自然界に豊富に存在する元素から希少な元素を生成する技術などに係る放射性核種処理システムおよび放射性核種処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
使用済の核燃料を再処理する際には、まず硝酸(HNO)溶液中に使用済核燃料を溶解させ、ウラン(U)およびプルトニウム(Pu)を分離する。分離後の溶液(酸性廃液)には、セシウム137(Cs-137)およびストロンチウム90(Sr-90)などが含まれる。
【0003】
酸性廃液は、例えば地層埋設処分されるが、どうやって処分するかが検討課題となっている。
【0004】
特許文献1,2には、簡便で小規模な装置を利用してCsなどの物質を他の核種に変換する技術が開示されている。特許文献1,2では、重水素と核種変換が施される物質とを反応させている。
【0005】
特許文献2では、電解質を含む重水溶液を電気分解させて重水素ガスを発生させ、発生した重水素ガスを核種変換が施される物質を備えた構造体に透過させることで、核種変換反応を起こさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第4346838号公報
【文献】特許第6486600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に記載の種変換装置を用いて元素を変換させるには、数十から数百時間を要する。実験終了後に変換反応が起こっていなかった場合、時間およびコスト(重水素ガスおよび電力などの材料費等)の損失が大きい。そのため、実験中に、重水素と核種変換が施される物質との反応の進行度合いが確認できることが望まれる。
【0008】
しかしながら、実験中に反応の進行度合いを確認するのは困難である。特許文献2では、ICP-MSを用いて反応生成物量を確認しているが、当該方法は、構造体を破壊する必要があるため、実験中の確認には適さない。
【0009】
核種変換が施される物質として放射性物質を用いる場合、安全性等の観点から、その取扱いに注意を払う必要がある。そのため、反応の進行の見極めは、作業員が放射性物質に接触しない様式で実施できることが好ましい。
【0010】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、非破壊かつ非接触で、重水素と放射性物質との反応の進行度合いを見極められる放射性核種処理システムおよび放射性核種処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の核種変換システムおよび核種変換方法は以下の手段を採用する。
【0012】
本開示は、重水素が透過可能な構造体、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部および重水素低濃度部、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極、および前記電極に接続される電源を有する反応装置と、前記貯留部に接続され、電解質を含む重水溶液を前記貯留部に供給する電解質溶液供給部と、前記貯留部に接続され、前記貯留部内から溶液を抜き出し、該抜き出した溶液を前記貯留部に戻す循環部と、前記構造体の放射線量を測定する第1検出器と、前記貯留部から抜き出した溶液の放射線量を測定する第2検出器と、前記第2検出器の測定で得られた第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合に、反応終了と判定する判定部と、を備え、前記構造体は、前記貯留部側に、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層を有し、前記循環部は、前記貯留部から抜き出した溶液を貯蔵する溶液貯蔵部を有する放射性核種処理システムを提供する。
【0013】
本開示は、重水素が透過可能な構造体、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部および重水素低濃度部、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極、および前記電極に接続される電源を有する反応装置と、前記貯留部に接続され、電解質を含む重水溶液を前記貯留部に供給する電解質溶液供給部と、前記貯留部に接続され、前記貯留部内から溶液を抜き出し、該抜き出した溶液を前記貯留部に戻す循環部と、前記重水素低濃度部内に収容され、前記構造体の放射線量を測定する第1検出器と、前記貯留部から抜き出した溶液の放射線量を測定する第2検出器と、前記第2検出器の測定で得られた第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合に、反応終了と判定する判定部と、を備え、前記構造体は、前記貯留部側に、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層を有する放射性核種処理システムを提供する。
【0014】
本開示は、重水素が透過可能な構造体、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部および重水素低濃度部、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極、および前記電極に接続される電源を有する反応装置を用いた放射性核種処理方法であって、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層を前記貯留部側に向けて前記構造体を配置し、前記貯留部に電解質を含む重水溶液を供給し、前記電解質を含む重水溶液に浸漬させた前記電極に電圧を印加して前記電極と前記構造体との間に電圧差を生じさせ、前記電極と前記構造体との間の空間で前記電解質を含む重水溶液から前記重水素を発生させ、所定時間、濃度勾配によって前記構造体の前記貯留部側から前記重水素低濃度部側に向けて前記重水素を透過させ、前記重水素の透過を停止し、前記貯留部から溶液を抜き出して前記貯留部内を空にした後、第1検出器により前記構造体の放射線量を測定し、前記第1検出器の測定により得られた第1放射線量が、第1閾値以下に低下した場合に、反応を終了し、前記第1放射線量が、前記第1閾値よりも高い場合に、抜き出した前記溶液を前記貯留部に戻し、前記重水素の透過を再開させ、前記貯留部から抜き出した電解質溶液の第2放射線量を第2検出器によって測定し、前記第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合に、反応終了と判定す放射性核種処理方法を提供する。
【0015】
本開示は、重水素が透過可能な構造体、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部および重水素低濃度部、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極、および前記電極に接続される電源を有する反応装置を用いた放射性核種処理方法であって、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層を前記貯留部側に向けて前記構造体を配置し、前記構造体の放射線量を測定する第1検出器を前記重水素低濃度部内に配置し、前記貯留部に前記電解質を含む重水溶液を供給し、前記電解質を含む重水溶液に浸漬させた前記電極に電圧を印加して前記電極と前記構造体との間に電圧差を生じさせ、前記電極と前記構造体との間の空間で前記電解質を含む重水溶液から前記重水素を発生させ、濃度勾配によって前記構造体の前記貯留部側から前記重水素低濃度部側に向けて前記重水素を透過させ、前記重水素を透過させながら、前記第1検出器により前記構造体の放射線量を測定し、前記第1検出器の測定で得られた第1放射線量が第1閾値以下に低下した場合に、反応を終了し、前記貯留部から抜き出した電解質溶液の第2放射線量を第2検出器によって測定し、前記第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合に、反応終了と判定する放射性核種処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
構造体の放射線量の低下をモニタリングすることで、非破壊かつ非接触で、重水素と放射性物質との反応の進行度合いを見極められる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る核種変換システムの概略図である。
図2】構造体の一例の断面模式図である。
図3】遮蔽材の配置を例示する模式図である。
図4】第1実施形態に係る核種変換方法の手順を示すフロー図である。
図5】第1検出器の測定で得られるエネルギースペクトル図である。
図6】第2実施形態に係る核種変換システムの概略図である。
図7】第2実施形態に係る核種変換方法の手順を示すフロー図である。
図8】第2検出器の配置の一例を示す概略図である。
図9】第3実施形態に係る核種変換システムの概略図である。
図10】第3実施形態に係る核種変換方法の手順を示すフロー図である。
図11】第1検出器および第2検出器の測定で得られるエネルギースペクトル図である。
図12】第1検出器および第2検出器の測定で得られるエネルギースペクトル図である。
図13】反応前後のγ線強度(規格化)を示す図である。
図14】第4実施形態に係る核種変換方法の手順を示すフロー図である。
図15】電解質溶液への放射性物質溶出量と変換反応効率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本開示に係る放射性物質処理システム(放射性核種処理システム)は、反応装置、高濃度化装置、および低濃度化装置を備える。反応装置は、表層を有する構造体を含む。表層は、放射性物質および水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を含む。
【0019】
本開示に係る放射性物質処理方法(放射性核種処理方法は、上記構造体に、表層側から重水素を透過させ、表層に含まれる放射性物質を非放射性の核種となるように処理する
【0020】
本開示は、構造体の放射線量をモニタリングし、モニタリング値に基づいて反応の進行度合いを見極め、反応終了のタイミングを計ることを特徴とする。
【0021】
以下に、本開示に係る放射性物質処理システム(放射性核種処理システムおよび放射性物質処理方法(放射性核種処理方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
〔第1実施形態〕
図1は、第1実施形態に係る核種変換システムの概略図である。核種変換システム1は、反応装置10、高濃度化装置(電解質溶液供給部)60、低濃度化装置17、循環部30および第1検出器100を備える。
【0023】
核種変換システム1は、排出部40および電着液供給部50を備えてもよい。核種変換システム1は、洗浄液供給部90を備えてもよい。核種変換システム1は、判定部110を備えていてもよい。核種変換システム1は、制御部111を備えていてもよい。
【0024】
(反応装置)
反応装置10は、貯留部11、重水素低濃度部12、構造体13、電極14および電源15を備える。
【0025】
貯留部11と重水素低濃度部12とは構造体13により隔てられ、それぞれ閉空間を構成している。貯留部11および重水素低濃度部12は、後述の表層に含まれる放射性物質由来のγ線が透過可能な構成である。γ線透過可能とするには、貯留部11(少なくともγ線検出部)には、出来る限り密度の低い材料を用いたほうが良い。たとえば、鉛(11.3g/cm)や鉄(7.87g/cm)より、PTFE(2.2g/cm)やアルミニウム(2.7g/cm)を適用する方が望ましい。貯留部11は、閉空間内に液体を貯留可能である。
【0026】
構造体13は、重水素が透過可能である。図2に、構造体13の断面模式図を例示する。構造体13は、基板21、中間層24および表層25が順に積層された構成である。表層25は、構造体13の一方の面側の最表面(基板21と反対側の表面)に形成される。反応装置10において、構造体13は、基板21が重水素低濃度部12側、表層25が貯留部11側を向くよう配置される。
【0027】
基板21は、バルクの水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を含む。水素吸蔵金属は、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)などである。水素吸蔵合金は、パラジウム合金、ニッケル合金などである。基板21の厚さは、コスト的には薄い方が良いが、機械的な強度も考慮すると、例えば0.01mm~1mmである。
【0028】
中間層24は、第1層22と第2層23とが交互に積層された積層体である。第1層22および第2層23は、スパッタリング法または電着法により基板21上に積層され得る。スパッタリング法では、所定厚さの層を形成するために成膜を繰り返し実施する。
【0029】
第1層22は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を含む。第1層22に含まれる水素吸蔵金属または水素吸蔵合金は、基板21に含まれる水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と同じ種類であるとよい。
【0030】
第2層23は、基板21に含まれる金属に対して相対的に仕事関数が低い低仕事関数物質を含む。低仕事関数物質は、電子を放出しやすい物質である、低仕事関数物質の仕事関数は、3eV未満である。低仕事関数物質は、例えば、酸化カルシウム(CaO、仕事関数1.2eV)、酸化イットリウム(Y、仕事関数2.2eV)およびチタン酸ストロンチウム(SrTiO、仕事関数4.2eV)などである。変換効率の観点から、低仕事関数物質は、酸化カルシウムを選択するとよい。
【0031】
表層25は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む。
【0032】
水素吸蔵金属は、例えば、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)などである。水素吸蔵合金は、例えば、パラジウム合金、ニッケル合金などである。
【0033】
放射性物質は、γ線または中性子線を放出する核種を有する。γ線を放出する核種は、例えば、Cs-137、Cs-134、Sb-125、Co-60である。中性子線を放出する核種は、例えば、Pu-241である。
【0034】
電極14は、貯留部11内に収容される。電極14は、構造体13の貯留部11側の表面と離間して対向配置される。電極14は白金(Pt)などから製造された板状の部材である。電極14は、メッシュ構造であるとよい。物理的に穴の開いた構成とすることで、構造体13から放出される放射線が透過しやすくなる。
【0035】
電源15は、反応装置10の外側に配置される。電源15は、電極14に接続される。
【0036】
貯留部11には逆止弁16が設置される。逆止弁16は、貯留部11と外部雰囲気とを接続する流路に設けられている。逆止弁16は、外部雰囲気の気圧が貯留部11に貯留される気体の気圧より大きいときに閉鎖する。逆止弁16は、貯留部11に貯留される気体の気圧が外部雰囲気の気圧より大きいときに開放して、貯留部11内の気体を外部雰囲気に排気する。
【0037】
反応装置10は、ヒータ20を備えてもよい。ヒータ20は、重水素低濃度部12内の構造体13近傍に設置される。ヒータ20は、構造体13の重水素低濃度部12側を所定温度に加熱する。
【0038】
(電解質溶液供給部)
電解質溶液供給部60は、貯留部11に重水素を供給し、重水素低濃度部12に対して貯留部11内を相対的に重水素の濃度が高い状態とする構成である。
【0039】
電解質溶液供給部60は、電解質溶液タンク61、電解質溶液供給用配管62、重水供給部65および不活性ガス供給部71を備える。
【0040】
重水供給部65は、不活性ガス供給用配管66、除湿装置67、乾燥不活性ガス供給用配管68、重水タンク69および重水供給用配管70を備える。
【0041】
不活性ガス供給用配管66は、図示されていないガス源と除湿装置67とを接続する流路を形成している。乾燥不活性ガス供給用配管68は、除湿装置67と重水タンク69とを接続する流路を形成している。
【0042】
重水タンク69は、内部に重水(DO)を貯留している閉空間を構成する。重水供給用配管70は重水タンク69と電解質溶液タンク61とを接続する流路を形成している。
【0043】
図示されないガス源から供給された不活性ガスが、不活性ガス供給用配管66、除湿装置67、および乾燥不活性ガス供給用配管68を経由して、重水タンク69へ供給される。これにより、重水タンク69内部が加圧され、重水が重水供給用配管70を通じて電解質溶液タンク61に送給される。重水供給用配管70に設置されるバルブV5により、重水の供給量が制御される。
【0044】
不活性ガス供給部71は、不活性ガス供給用配管72、除湿装置73および乾燥不活性ガス供給用配管74を備える。
【0045】
不活性ガス供給用配管72は、図示されていないガス源と除湿装置73とを接続する流路を形成している。乾燥不活性ガス供給用配管74は、除湿装置73と電解質溶液タンク61とを接続する流路を形成している。
【0046】
不活性ガス供給部71は、図示されないガス源から供給された窒素ガスを電解質溶液タンク61へ供給する。乾燥不活性ガス供給用配管74から電解質溶液タンク61へ窒素ガスが供給されることにより、電解質溶液タンク61内部が加圧される。
【0047】
電解質溶液タンク61は、内部に電解質溶液を貯留している閉空間を構成する。電解質溶液タンク61の底部に電解質塩63が配置されている。電解質塩63の種類は特に限定されないが、後述する放射性物質と同じ元素の塩であることが好ましい。例えば、硝酸セシウムCsNO、水酸化セシウムCsOH、硫化アンチモンSb、硝酸コバルトCo(NO、硝酸プルトニウムPu(NOである。電解質溶液の溶媒は重水である。電解質塩63が重水に浸漬することにより溶解し、電解質溶液(電解質を含む重水溶液)が生成される。
【0048】
電解質溶液タンク61の外側周囲には、ヒータ64が配置される。ヒータ64は電解質溶液タンク61内の電解質溶液を所定温度に制御する。電解質溶液の温度と重水供給部65からの重水供給量とを制御することにより、電解質溶液の中の電解質濃度が調整される。本実施形態において、電解質濃度は0.001mol/lから飽和濃度の間である。
【0049】
電解質溶液供給用配管62は、電解質溶液タンク61と貯留部11とを接続する流路を形成している。電解質溶液タンク61内部が加圧されることにより、電解質溶液供給用配管62を通じて貯留部11に送給される。電解質溶液供給用配管62に設置されるバルブV4により、電解質溶液の供給量が制御される。
【0050】
電解質溶液供給部60は、重水補充部80を含んでもよい。重水補充部80は、貯留部11に接続されている。重水補充部80は、不活性ガス供給用配管81、除湿装置82、乾燥不活性ガス供給用配管83、重水タンク84および重水補充用配管85を備える。
【0051】
不活性ガス供給用配管81は、図示されていないガス源と除湿装置82とを接続する流路を形成している。乾燥不活性ガス供給用配管83は、除湿装置82と重水タンク84とを接続する流路を形成している。重水補充用配管85は、重水タンク84と貯留部11とを接続する流路を形成している。重水タンク84は、内部に重水(DO)を貯留している閉空間を構成する。
【0052】
図示されないガス源から供給された窒素ガスが、不活性ガス供給用配管81、除湿装置82、および乾燥不活性ガス供給用配管83を経由して、重水タンク84へ供給され、重水タンク84内部が加圧される。重水タンク84内部が加圧されることにより、重水が重水補充用配管85を通じて貯留部11に送給される。重水補充用配管85に設置されるバルブV6により、重水の供給量が制御される。
【0053】
(低濃度化装置)
低濃度化装置17は、貯留部11に対して重水素低濃度部12内を相対的に重水素濃度が低い状態とする構成である。本実施形態において、低濃度化装置17は、排気手段18および排気経路19を有する。
【0054】
排気手段18は、排気経路19を介して重水素低濃度部12に接続される。排気手段18は、重水素低濃度部12内部の気体を排出して、重水素低濃度部12内の圧力を低下させる。図1では、排気手段18として真空ポンプを用いる場合を示す。真空ポンプは、例えば、ターボ分子ポンプおよびドライポンプなどである。
【0055】
なお、低濃度化装置17は、不活性ガス供給部であってもよい。不活性ガス供給部は、ガス源と、不活性ガス供給用配管と、排気配管とを備える。不活性ガス供給部は、重水素低濃度部12に不活性ガス(例えば、N、Ar)を供給する。重水素低濃度部12内が所定の圧力に維持されるために、重水素低濃度部12内のガスが排気配管を通じて排出される。
【0056】
(第1検出器)
第1検出器100は、構造体13(表層25に含まれる放射性物質)から放出される放射線を検出可能な機器である。表層25に含まれる放射性物質がγ線を放出する核種を有する場合、第1検出器100には、Ge半導体検出器などのγ線検出器が用いられる。Ge半導体検出器は、スペクトル分解能が高く、所望の放射性物質に着目できる。表層25に含まれる放射性物質が中性子線を放出する核種を有する場合、第1検出器100には、中性子検出器が用いられる。
【0057】
第1検出器100は、構造体13から放出される放射線を検出可能に配置される。第1検出器100と反応装置10(測定対象)との相対位置は固定される。
【0058】
第1検出器100は、構造体13の表層25の近く、例えば貯留部11に近接させて配置されるとよい。放射線発生源(放射性物質)からの距離が近い方が検出できる放射線量も多くなるため、検出精度を高められる。
【0059】
図1では、第1検出器100が貯留部11の横に配置されているが、第1検出器100の配置はこれに限定されない。
【0060】
例えば、第1検出器100は、構造体13の表層25側の面に正対するよう配置されるとよい。図1において表層25側の面に正対する位置は、貯留部11の上部(電極14が配置されている側)である。
【0061】
放射線物質は、表層中に分散している。板状の構造体13の横側(図1では紙面左側)に第1検出器100を配置した場合、第1検出器100に近い辺側と、その反対辺側とで、第1検出器100からの距離に違いが生じる。線源からの距離が離れるにつれて、検出できる放射線量は少なくなる。そのため、線源と第1検出器100との距離は、一定であることが好ましい。第1検出器100を構造体13の表層25側の面と正対させて固定することで、構造体13の表層面上に分散した放射性物質のそれぞれと第1検出器100との距離のバラつき幅を小さくできる。
【0062】
図3に、構造体13に正対させた第1検出器100のイメージ図を示す。図3では、貯留部11および重水素低濃度部12の記載を省略する。構造体13は、第1検出器100を向く側に表層(不図示)を有する。反応装置10の周囲は、遮蔽材102で囲うとよい。
【0063】
遮蔽材102は、構造体13から放出された放射線を遮蔽できる材料からなる。表層に含まれる放射性物質がγ線を放出する核種を有する場合、遮蔽材102として、例えば、所定厚さの鉛ブロックを使用できる。表層に含まれる放射性物質が中性子線を放出する核種を有する場合、遮蔽材102として、例えば、水壁などを使用できる。
【0064】
反応装置10の周りを遮蔽材102で囲むことにより、放射線測定の際に、外乱要因による影響を小さくできる。外乱要因による影響が小さいと、ノイズが少なくなり、バックグラウンドを低く抑えられるため、放射線量の変化をより正確に得られるようになる。
【0065】
図3では反応装置10の3方を遮蔽材102で囲っているが、遮蔽材102の配置はこれに限定されない。遮蔽材102は、電解質溶液タンク61および/または溶液貯蔵部101など、放射線発生源を有する他の構成から放出される放射線が遮られるよう配置されてもよい。
【0066】
第1検出器100は、複数箇所に設置してもよい。それにより、検出精度が向上される。
【0067】
(循環部)
循環部30は、貯留部11内から溶液を抜き出し、抜き出した溶液を貯留部11内に戻すことができる。循環部30は、抜出配管31、溶液貯蔵部101、熱交換器32、フィルタ33、ポンプ34、再供給配管35および再供給配管35に設置されるバルブV1を備える。
【0068】
抜出配管31の一端は、貯留部11内から溶液を抜き出し可能に貯留部11に接続されている。抜出配管31は、貯留部11内の溶液を略全量抜き出せる構成であるとよい。例えば、図1では、抜出配管31を、貯留部11の壁面の中間部に貫通させ、一端を貯留部11の底部に配置する。これに限定されず、抜出配管31は、貯留部11の壁面下部または底面に接続されてもよい。
【0069】
抜出配管31の他端は、溶液貯蔵部101に接続されている。溶液貯蔵部101は、貯留部11内に貯留されていた溶液を全量受け入れ、貯蔵可能な容量を有する。溶液貯蔵部101は、受け入れた液体を貯蔵せずに熱交換器32へ導く導管(不図示)を備える。
【0070】
溶液貯蔵部101、熱交換器32、フィルタ33、ポンプ34はそれぞれ配管で順に接続されている。貯留部11から抜き出された溶液は、溶液貯蔵部101を介して熱交換器32に入る。
【0071】
熱交換器32は、貯留部11から抜き出された溶液を冷却する。フィルタ33は、貯留部11から抜き出された溶液をろ過して不純物を除去する。ポンプ34は、再供給配管35を介してフィルタ33によりろ過された溶液を貯留部11に戻す。再供給配管35の一旦は、構造体13と電極14との間に向けて配置されるとよい。これにより、構造体13の表面を効率よく冷却できる。
【0072】
(排出部)
排出部40は、再供給配管35のバルブV1上流側に接続される。排出部40は、排出配管41とバルブV2とを備える。排出部40は、循環部30によって貯留部11から抜き出された溶液を系外に排出する。なお、排出部40は貯留部11に直接接続されても良い。
【0073】
(電着液供給部)
電着液供給部50は、貯留部11に連結される。図1において、電着液供給部50は循環部30の再供給配管35に接続されるが、これに限定されず、反応装置10の貯留部11に直接接続されても良い。電着液供給部50は、放射性物質と、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を含む電着液を貯留部に供給する。
【0074】
電着液供給部50は、電着液タンク51、電着液供給用配管52、不活性ガス供給用配管53、除湿装置54および乾燥不活性ガス供給用配管55を備える。
【0075】
不活性ガス供給用配管53は、図示されていないガス源と除湿装置54とを接続する流路を形成している。不活性ガス供給用配管53は、ガス源から供給される不活性ガス(図1ではCE(Cold Evaporator)_N)のうちの所定の流量の不活性ガスを除湿装置54に供給する。不活性ガスとしてArガスなども適用可能である。
【0076】
除湿装置54は、シリカゲルに例示される除湿機能付フィルタを備えている。除湿装置54は、不活性ガス供給用配管53から供給された不活性ガスから不純物を除去し、不活性ガスを乾燥させる。
【0077】
乾燥不活性ガス供給用配管55は、除湿装置54と電着液タンク51とを接続する流路を形成している。乾燥不活性ガス供給用配管55は、除湿装置54により乾燥された不活性ガスのうちの所定の流量の不活性ガスを電着液タンク51に供給する。
【0078】
電着液タンク51は、内部に電着液を貯留している閉空間を構成する。電着液は、水素吸蔵金属の塩(例えばPd塩)または水素吸蔵合金の塩を含む。電着液はさらに、表層25に含まれるべき放射性物質を含む。該放射性物質の塩が電着液に添加されていても良い。
【0079】
電着液タンク51の外側周囲には、ヒータ56が配置される。ヒータ56は電着液タンク51内の電着液を所定温度に制御する。
【0080】
図1の構成において、電着液供給用配管52は電着液タンク51と再供給配管35とを接続する流路を形成している。
【0081】
乾燥不活性ガス供給用配管55から電着液タンク51へ不活性ガスが供給されることにより、電着液タンク51内部が加圧される。これにより、電着液が電着液供給用配管52を通じて反応装置10の貯留部11に送給される。電着液供給用配管52に設置されるバルブV3により、電着液の供給量が制御される。
【0082】
(洗浄液供給部)
洗浄液供給部90は再供給配管35に接続される。洗浄液供給部90は、反応装置10の貯留部11に直接接続しても良い。
【0083】
洗浄液供給部90は、不活性ガス供給用配管91、除湿装置92、乾燥不活性ガス供給用配管93、洗浄液タンク94および洗浄液供給用配管95を備える。乾燥不活性ガス供給用配管93は、除湿装置92と洗浄液タンク94とを接続する流路を形成している。洗浄液供給用配管95は、洗浄液タンク94と貯留部11とを接続する流路を形成している。洗浄液供給用配管95にバルブV7が設置される。
【0084】
洗浄液タンク94は、内部に洗浄液を貯留している閉空間を構成する。核種変換反応時のコンタミを考慮すると洗浄液は重水が最適であるが、例えば軽水等の他の液体も使用可能である。
【0085】
(判定部)
判定部110は、第1検出器100に電気的に接続されている。判定部110は、第1検出器100の測定で得られた放射線量が第1閾値以下に低下したことをもって、反応終了と判定する。
【0086】
第1閾値は、例えば、1時間あたりの放射線捕捉量が初期値の50%となる値、または、1時間あたり1000カウント以下などと設定できる。第1閾値は、バックグラウンドレベルの放射線量とすることが好ましい。初期値は、電解質溶液を供給する前に、第1検出器100の測定で得られた貯留部11内に配置した構造体13の放射線量である。
【0087】
(制御部)
制御部111は、判定部110,電解質溶液供給部60,低濃度化装置17,循環部30,排出部40,電着液供給部50,重水補充部80および洗浄液供給部90に電気的に接続されている。制御部111は、各部からの溶液の供給,排出および排気などを制御できる。制御部111は、判定部110が反応終了を判定した場合に、電解質溶液の供給および低濃度化装置17での排気を停止する。
【0088】
制御部111は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、およびコンピュータ読み取り可能な記憶媒体等から構成されている。そして、各種機能を実現するための一連の処理は、一例として、プログラムの形式で記憶媒体等に記憶されており、このプログラムをCPUがRAM等に読み出して、情報の加工・演算処理を実行することにより、各種機能が実現される。なお、プログラムは、ROMやその他の記憶媒体に予めインストールしておく形態や、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、有線または無線による通信手段を介して配信される形態等が適用されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記憶媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリ等である。
【0089】
次に、本実施形態に係る核種変換方法について、図4を参照して説明する。本実施形態に係る核種変換方法は、表層を形成する工程<S1~3>、反応させる工程<S4~5>、反応終了を判定する工程<S6~7>、放射性物質を回収する工程<S8>を含む。
【0090】
予め表層25が形成された構造体13を用いる場合、表層を形成する工程(S1~3)は省略される。
【0091】
本実施形態では、反応装置10に構造体13を設置する時点で、構造体13に表層25は形成されていないものとする。これに限定されず、表層25が形成された構造体13を設置してもよい。その場合、表層を形成する工程(S1~3)は、省略される。構造体13は、表層25が貯留部11側を向くよう配置される。
【0092】
(準備)
貯留部11および重水素低濃度部12が気密保持された閉空間となるよう、反応装置10に構造体13を配置する。構造体13と間をあけ、構造体13に対向するよう電極14を配置する。
【0093】
(表層の形成)
<S1>電着液の供給
電着液は、表層25に含まれるべき水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む。
【0094】
電着液供給部50のヒータ56は、電着液タンク51内の電着液を所定温度(具体的に、25~75℃)に保持する。
【0095】
排出部40のバルブV2を閉鎖する。循環部30のポンプ34が作動するとともに、再供給配管35に設置されたバルブV1を開放する。
【0096】
不活性ガス供給用配管53のバルブV13、乾燥不活性ガス供給用配管55のバルブV23、および、電着液供給用配管52のバルブV3を開放する。これにより、電着液タンク51内の電着液が電着液供給用配管52および再供給配管35を通じて貯留部11に送給される。
【0097】
電極14が電着液に浸漬し所定量の電着液が貯留部11に貯留されると、バルブV1,V3,V13,V23が閉鎖し、ポンプ34が停止される。
【0098】
<S2>電着
電源15は電極14に正電圧を印加する。電着液中の水素吸蔵金属または水素吸蔵合金が構造体13の表面に電着し、表層(電着層)が形成される。表層の形成過程で、電着液に含まれる放射性物質が表層内に取り込まれる(埋め込まれる)。
【0099】
<S3>電着液の回収
表層形成終了後、バルブV2が開放され、ポンプ34が起動する。貯留部11内の電着液が抜出配管31および排出部40を通じて系外に排出される。排出された電着液は回収される。回収された電着液は、電着液タンク51に戻されても良い。
【0100】
電着液が排出された後、貯留部11などに残留する電着液を洗い流すために洗浄工程が実施されても良い。
【0101】
洗浄工程では、バルブV2を閉鎖し、バルブV1を開放する。次いで、洗浄液供給部90の不活性ガス供給用配管91のバルブV17、乾燥不活性ガス供給用配管93のバルブV27、および、洗浄液供給用配管95のバルブV7を開放する。洗浄液タンク94内の洗浄液が洗浄液供給用配管95および再供給配管35を通じて貯留部11に送給される。洗浄液は、貯留部11および循環部30を循環する。
【0102】
所定時間経過後、バルブV1,V7,V17,V27が閉鎖するとともにバルブV2が開放する。これにより、洗浄液が排出部40を通じて系外に排出される。
【0103】
(反応)
<S4>電解質溶液の供給
電着液または洗浄液(洗浄工程を実施した場合)の排出が完了すると、バルブV2が閉鎖され、バルブV1が開放される。
【0104】
電解質溶液供給部60における不活性ガス供給用配管53のバルブV14、乾燥不活性ガス供給用配管55のバルブV24、および、電解質溶液供給用配管62のバルブV4が開放される。電解質溶液タンク61内の電解質溶液が電解質溶液供給用配管62を通じて貯留部11に送給される。
【0105】
電解質溶液は、電解質を含む重水溶液である。電極14が浸漬されるまで電解質溶液が送給されると、バルブV14,V24,V4は閉鎖される。
【0106】
貯留部11内の電解質溶液は、循環部30を用いて循環される。この循環の過程では、貯留部11から抜き出された電解質溶液は溶液貯蔵部101に貯蔵されずに、導管から熱交換器32へと導かれる。熱交換器32に導かれた電解質溶液は、所定温度に調整される。本実施形態では、貯留部11内の電解質溶液の温度が20~40℃程度に維持される。
【0107】
循環部30による循環は、後述の<S5>重水素の透過でも継続される。冷却した電解質溶液を循環させることで、反応に伴い発生した熱による表層25の温度上昇を抑えられる。
【0108】
<S5>重水素の透過
低濃度化装置17が作動する。図1の核種変換システム1で真空ポンプ(排気手段18)が起動し、重水素低濃度部12内が減圧される。重水素低濃度部12内の圧力は<0.1Paであることが好ましい。
【0109】
低濃度化装置17として不活性ガス供給装置を設置した場合、重水素低濃度部12に不活性ガスが供給され、所定の圧力が維持される。
【0110】
ここで、ヒータ20により構造体13の重水素低濃度部12側が70℃程度に加熱される。
【0111】
電源15が、電解質溶液に浸漬された電極14に電圧を印加し、電極(陽極)14と構造体(負極)13との間に電圧差を発生させる。電圧差は、少なくとも2V以上である。電圧が印加されることにより、構造体13の貯留部11側表面上で重水が電気分解され、重水素(D)が発生する。本実施形態では電解質を含む重水溶液を用いているため、電気分解が促進される。電圧差が2V未満であると、電気分解反応が十分に進まない。
【0112】
貯留部11側表面で重水素が発生すると、構造体13の貯留部11側の面と重水素低濃度部12側の面との間に重水素の濃度勾配が生じる。重水素低濃度部12が減圧(あるいは不活性ガスで充填)されていると、構造体13の貯留部11側の面と重水素低濃度部12側の面との間の濃度勾配は大きくなる。濃度勾配により、貯留部11で発生した重水素が重水素低濃度部12側に流れ、構造体13を透過する。
【0113】
さらに、ヒータ20で構造体13の重水素低濃度部12側が加熱されることによって、構造体13の貯留部11側の面と重水素低濃度部12側の面との間に温度勾配が生じる。温度勾配により、重水素の透過が促進される。
【0114】
重水素が透過する際に、表層25内に含まれる放射性物質が非放射性の核種に変換される。例えば、Cs-137→Eu-153、Cs-134→La-138などの変換反応が生じる。電解質塩63が表層25に含まれる放射性物質と同じ元素の塩である場合、電解質塩63に由来する元素も同様に核種変換される。
【0115】
電気分解および核種変換反応により、貯留部11内の重水(電解質溶液)量および電解質(放射性物質の塩を用いた場合)が減少し、電解質濃度が変動する。電解質溶液供給部60はバルブV4の開度を調整し、電極14が電解質溶液に浸漬できる所定の水位を維持するように、電解質溶液タンク61から電解質溶液を貯留部11に送給する。
【0116】
重水供給部65はバルブV5の開度を調整し、電解質溶液タンク61内の水位が維持されるように所定水量の重水を供給する。電解質溶液供給部60のヒータ64は、電解質溶液を所定温度(具体的に、20~40℃)に保持する。重水供給部65からの重水供給量、電解質溶液温度および貯留部11に送給される電解質溶液量を考慮して、電解質溶液タンク61中の電解質濃度が適切に調整される。
【0117】
貯留部11内の電解質濃度は既知の手段によりモニタリングされる。電気分解速度が速く貯留部11内の電解質濃度が上昇する場合は、重水補充部80が起動するとともにバルブV6が開放し、重水タンク84から重水を貯留部11に送給して、貯留部11内の電解質濃度を調整する。
【0118】
重水の電気分解で重水素が発生する際、酸素(O)が生成する。また、電解質溶液の供給に伴い不活性ガス(N等)が貯留部11に搬送される。貯留部11内が1気圧(1×10Pa)以上になると逆止弁16が開放し、貯留部11内からガスが排出される。
【0119】
(反応終了の判定)
<S6>電解質溶液の回収(抜出し)
重水素の透過を開始してから所定時間経過した後、重水素の透過を停止させる。具体的には、電源15による電圧の印加および排気手段18を停止し、バルブV4,V5,V14,V24が閉鎖するとともに電解質溶液供給部60が停止して、電解質溶液の送給が停止される。重水補充部80が起動していた場合は、バルブV6が閉鎖するとともに重水補充部80が停止する。
【0120】
循環部30により、貯留部11から電解質溶液を略全量抜き出し、貯留部11を空(液体フリーの状態)にする。抜き出した電解質溶液は、一時的に溶液貯蔵部101に貯蔵する。
【0121】
「空(液体フリーの状態)」は、貯留部11内に貯留されている溶液の略全量を抜出したことを意味するが、装置構成の関係で物理的に抜出しきれなかった液の残留を許容する。電解質溶液は、少なくとも表層25が露出するまで抜出される。
【0122】
貯留部11から電解質溶液を抜き出し、表層25を露出させることで、電解質溶液による放射線の検出ロスを抑えられる。これにより、検出精度が上がる。
【0123】
種類によっては、表層25に含まれる放射性物質が電解質溶液に溶出する可能性がある。貯留部11から電解質溶液を抜き出すことで、電解質溶液に溶出した放射性物質から放出された放射線の影響を除外できる。これにより、純粋に表層25にある放射性物質の量を見極められる。
【0124】
電解質溶液を略全量抜き出した後、図示しない乾燥手段によって貯留部11内を乾燥させてもよい。
【0125】
<S7>放射線量のモニタリング
第1検出器100により、構造体13(表層25の放射性物質)から放出される放射線を測定する。測定により得られた放射線量が第1閾値よりも高かった場合、判定部110は反応継続と判定する。当該判定に基づき、制御部111は、溶液貯蔵部101に一時貯蔵していた電解質溶液を貯留部内に戻し、反応を再開する。すなわち、上記<S4>から<S7>の工程を繰り返す。
【0126】
測定により得られた放射線量が第1閾値以下に低下した場合、判定部110は反応終了と判定する。
【0127】
<S8>表層の回収
反応終了と判定された場合、構造体13から表層25を回収する。
【0128】
電源15は、電極14に表層25の形成工程とは逆の負電圧を印加する。表層25が構造体13から電解質溶液中に溶出して、構造体13から剥離する。電流密度と製膜速度(剥離速度と同等)との関係を予め取得しておけば、表層25のみが剥離する時間を得ることができる。従って、表層25の剥離では時間制御が可能である。
【0129】
所定時間経過後、電源15は電極14への電圧印加を停止する。バルブV1が閉鎖するとともにバルブV2が開放する。貯留部11内の溶出成分を含む電解質溶液は、貯留部11から排出配管41および排出部40を通じて核種変換システム1の系外に排出される。排出された電解質溶液は、回収される。
【0130】
本実施形態の核種変換方法では、構造体13を交換することなく、表層を形成する工程~表層を回収する工程まで繰り返し実施され得る。表層を回収する工程と次の表層を形成する工程との間に、上述した洗浄工程を実施することができる。
【0131】
第1実施形態の説明では、洗浄液供給部90と重水補充部80とを併用しているが、洗浄液供給部90と重水補充部80とは同じ構成であるので、本実施形態ではいずれか一方のみが設置されても良い。
【0132】
図5に、Cs-137を含む表層25を備えた構造体13の放射線量をモニタリングしたエネルギースペクトル図を示す。図5において、太矢印左側が反応前(重水素透過前の初期値)、太矢印右側が反応後(所定時間重水素透過後)である。同図において、横軸はγ線のエネルギー(keV)、縦軸はγ線捕捉量である。
【0133】
Cs-137は、662keVのγ線を放出する。エネルギースペクトル上で662keV付近のγ線捕捉量をモニタリングすることで、表層25に存在するCs-137量の変化を確認できる。
【0134】
重水素の透過によりCs-137が非放射性の核種に変換された場合、図5の矢印右側のグラフのように、Cs-137のピークは低くなる、原材料であるCs-137がなくなるとそれ以上Cs-137を起点とした反応は起こりえない。よって、γ線捕捉量が第1閾値まで低下した時点で反応終了とみなすことができる。
【0135】
第1閾値は、バックグラウンドレベルであることが好ましい。第1閾値は、例えば、1時間あたりのγ線捕捉量が初期値の50%となる値、または、1時間あたり検出される放射線の数が1000カウント以下となる値などであってよい。
【0136】
〔第2実施形態〕
図6は、本実施形態に係る核種変換システム2の概略図である。図7は、本実施形態に係る核種変換方法の手順を示すフロー図である。第1実施形態と共通の構成については、説明を省略する。
【0137】
本実施形態に係る核種変換システムは、第1検出器103を重水素低濃度部12内に配置する点が第1実施形態と異なる。本実施形態では、循環部30の溶液貯蔵部101が省略される。
【0138】
本実施形態に用いられる構造体13は、ベータ線が透過可能な厚さである。基板21の厚さは、0.01mm以上0.05mm以下であってよい。基板21は、バルクの水素吸蔵金属または水素吸蔵合金を含む。水素吸蔵金属は、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)などである。水素吸蔵合金は、パラジウム合金、ニッケル合金などである。
中間層24および表層25は、第1実施形態と同様である。
【0139】
第1検出器103は、重水素低濃度部12内に配置される。第1検出器103は、構造体13に正対させ、および/または、構造体13に近接させるとよい。
【0140】
第1検出器103には、判定部110が電気的に接続される。
【0141】
重水素低濃度部12内に配置する第1検出器103としては、β線検出器が好適である。その場合、表層25に含まれる放射性物質は、β線を放出する核種である。
【0142】
β線検出器は、例えば、ガイガーカウンターである。ガイガーカウンターは、小型であり、計測器のボードとヘッドの分離が可能であるため、測定対象物への近接が比較的容易である。ガイガーカウンターは、連続運転時間に制限がない。ガイガーカウンターは、γ線検出器と比較して安価である。
【0143】
β線を放出する核種は、例えば、Cs-137、Cs-134、Sb-125、Co-60、Pu-241、Sr-90、Ni-63、H-3である。
【0144】
本実施形態に係る核種変換方法は、表層を形成する工程<S11~13>、反応させる工程<S14~15>、反応終了を判定する工程<S16>、放射性物質を回収する工程<S17>を含む。
【0145】
表層を形成する工程<S11~13>、反応させる工程<S14~15>、放射性物質を回収する工程<S17>は、第1実施形態の<S1~3>、<S4~5>、<S8>と同様である。反応終了を判定する工程<S16>は、電解質溶液の回収を行わない点で第1実施形態と異なる。本実施形態では、第1実施形態のように、貯留部11から抜き出された電解質溶液が溶液貯蔵部101で一時貯蔵される必要はない。
【0146】
(反応終了の判定:S16)
本実施形態では、重水素の透過を停止せずに、反応終了の判定を行う。具体的には、第1検出器103は、電極14が電解質溶液に浸漬した状態で、連続的に構造体13から放出される放射線を測定する。
【0147】
測定により得られた放射線量が第1閾値よりも高かった場合、判定部110は反応継続と判定する。制御部111は、反応終了と判定されるまでの間、重水素の透過、循環部30による電解質溶液の循環を継続する。すなわち、<S14~16>が繰り返される。
【0148】
測定により得られた放射線量が第1閾値以下に低下した場合、判定部110は反応終了と判定し、<S17>表層を回収する工程へと進む。
【0149】
図8に、構造体付近のより具体的な概略図を例示する。構造体13は、試料ステージ120および試料固定冶具121に挟持されている。試料ステージ120に取り付けられたOリング122により、貯留部11と重水素低濃度部12とがそれぞれ気密保持される。
【0150】
試料ステージ120の構造体13と重なる領域120aには、複数の貫通孔123が形成される。重水素低濃度部12側から見た場合、貫通孔123は構造体13により完全に被覆される。試料ステージ120は、加工性を考慮してアルミ製であることが好ましい。試料ステージ120の領域120aは、パンチングメタル、発泡金属、金属メッシュで構成され得る。領域120aに貫通孔123が形成されることで、重水素を透過可能に、構造体13を支持できる。このような構造では、構造体13が薄い場合に、該構造体13の機械的強度を補える。
【0151】
固定した際の試料固定冶具121の変形を小さくするために、試料固定冶具121はモリブデンやステンレスなどの硬質材料を使用するとよい。
【0152】
図8に示すように、β線検出器は、重水素低濃度部12側でβ線を検出する。重水素低濃度部12内には電解液がない。また、反応工程の間、重水素低濃度部12内は真空である。よって、放射線のロスが少ない。
【0153】
本実施形態では、第1検出器103を重水素低濃度部12内に配置することにより、リアルタイムで反応の進行を確認できる。
【0154】
〔第3実施形態〕
図9は、本実施形態に係る核種変換システム3の概略図である。図10は、本実施形態に係る核種変換方法の手順を示すフロー図である。
【0155】
本実施形態に係る核種変換システム3は、第2検出器104が配置される点で第1実施形態と異なる。第1実施形態と共通の構成については、説明を省略する。
【0156】
第2検出器104は、溶液貯蔵部101内に貯蔵された溶液から放出される放射線を検出可能な機器である。表層25に含まれる放射性物質がγ線を放出する核種を有する場合、第2検出器104には、Ge半導体検出器などのγ線検出器が用いられる。表層25に含まれる放射性物質が中性子線を放出する核種を有する場合、第2検出器104には、中性子検出器が用いられる。第2検出器104は、第1検出器100と同じタイプの機種、または違うタイプの機種であってよい。
【0157】
第2検出器104は、溶液貯蔵部101内の溶液から放出される放射線を検出可能に配置される。第2検出器104と溶液貯蔵部101との相対位置は固定される。
【0158】
第2検出器104は、溶液貯蔵部101に近接して配置されるとよい。放射線発生源(放射性物質)からの距離が近い方が検出できる放射線量も多くなるため、検出精度を高められる。
【0159】
第2検出器104は、複数個所に設置してもよい。それにより、検出精度が向上される。
【0160】
判定部110は、第1検出器100および第2検出器104に電気的に接続される。
【0161】
溶液貯蔵部101は、反応装置10と同様に、周囲を遮蔽材(不図示)で囲うとよい。遮蔽材は、表層25の放射性物質から放出された放射線を遮蔽できる材料からなる。
【0162】
本実施形態に係る核種変換方法は、表層を形成する工程<S21~23>、反応させる工程<S24~25>、反応終了を判定する工程<S26~27>、放射性物質を回収する工程<S28>を含む。
【0163】
表層を形成する工程<S21~23>、反応させる工程<S24~25>、放射性物質を回収する工程<S28>は、第1実施形態の<S1~3>、<S4~5>、<S8>と同様である。反応終了を判定する工程<S26~27>は、第2検出器を用いた判定を含む点で第1実施形態と異なる。
【0164】
(反応終了の判定)
<S26>電解質溶液の回収
本実施形態では、第1実施形態の<S6>電解質溶液の回収と同様に、所定時間、重水素を透過させた後、貯留部11から電解質溶液を抜き出し、貯留部11内を空にする。抜き出した電解質溶液は、一時的に溶液貯蔵部101に貯蔵する。
【0165】
電解質溶液を略全量抜き出した後、図示しない乾燥手段によって貯留部11内を乾燥させるとなおよい。
【0166】
<S27>放射線量のモニタリング
放射線量のモニタリングは、第1検出器100および第2検出器104の両方で実施する。第1検出器100によるモニタリングは、第1実施形態と同様である。
【0167】
本実施形態では、第2検出器104を用いて、溶液貯蔵部101内に貯蔵された電解質溶液から放出される放射線を測定する。
【0168】
第1検出器100の測定により得られた第1放射線量が第1閾値より高く、かつ、第2検出器104で検出した第2放射線量が第2閾値未満である場合、判定部110は、反応継続と判定する。制御部111は、溶液貯蔵部101に一時貯蔵していた電解質溶液を貯留部内に戻し、第1実施形態と同様に反応を再開する。すなわち、上記<S24>から<S27>の工程を繰り返す。
【0169】
第1放射線量が第1閾値以下に低下した場合、第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合、および、第1放射線量が第1閾値以下であり、かつ、第2放射線量が第2閾値以上であった場合、判定部110は反応終了と判定し、<S28>表層を回収する工程へと進む。
【0170】
第2閾値は、構造体13の放射線量の初期値の50%相当となる値などと設定できる。
【0171】
反応させる工程<S24~25>の間、表層25を含む構造体13は電解質溶液に浸漬されている。表層25に含まれる放射性物質は、一部が電解質溶液に溶出する可能性がある。第2検出器104の測定により得られた放射線量には、電解質溶液に溶出した放射性物質の量が反映される。
【0172】
放射性物質は、種類によって電解質溶液への溶解度が異なる。例えば、アルカリ金属は溶けやすく、Coなどは溶出しにくい。また、表層25の表面にある放射性物質は、表層内にある場合と比較して溶出しやすい。
【0173】
第1放射線量が第1閾値を超える場合、変換反応の材料となる放射性物質が構造体13(表層25)に多く存在するため、そのまま反応を継続させるとよい。第1放射線量が第1閾値を超える場合、電解質溶液に溶出した放射性物質量が少ないため、第2閾値以上となることはない。
【0174】
第1放射線量が第1閾値以下であると、構造体13(表層25)に存在する放射性物質が少ないため、反応効率が低下する。第2放射線量が第2閾値以上であると、多くの放射性物質が電解質溶液に溶出している。そのため、構造体13に存在する放射性物質量が少なく、反応効率が低下する。
【0175】
図11、12に、第1検出器および第2検出器の測定で得られるエネルギースペクトル図を例示する。図11は、電解質溶液へ溶出した放射性物質(Cs)量が少ない場合のエネルギースペクトル図である。図12は、電解質溶液へ溶出した放射性物質(Cs)量が多い場合のエネルギースペクトル図である。図11,12において、横軸はγ線のエネルギー(keV)、縦軸はγ線カウント数である。
【0176】
変換反応開始時、図11,12のどちらにおいても、第1検出器(構造体)で放射性物質(Cs)のピークが観察される。第2検出器(電解質溶液)では放射性物質(Cs)のピークは見られない。第1検出器の放射性物質(Cs)のピークは、変換反応中に小さくなり、変換反応終了ではさらに小さくなる。
【0177】
電解質溶液への溶出が少ない場合、図11に示すように、変換反応終了時点であっても、第2検出器で放射性物質(Cs)のピークはあまり大きくならない。
【0178】
反応装置10および循環部30は、閉空間であり、放射性物質(Cs)が外部に漏れることはない。放射性物質(Cs)は半減期が長い。上記反応させる工程は、数十から数百時間程度であるため、自然崩壊によって、図11に示すほど放射線量が変動するとは考えにくい。よって、図11では、放射性物質(Cs)が、非放射性の核種に変換されたものと考えられる。
【0179】
一方、電解質溶液への溶出が多い場合、図12に示すように、第2検出器での放射性物質(Cs)のピークは、変換反応中に少し大きくなり、変換反応終了時にはさらに大きくなる。
【0180】
図12は、構造体の表面の放射線量が低くなったとしても、電解質溶液の放射線量が高い場合、変換反応が生じているのではなく、単に、表層から放射性物質が溶出しているだけであることを示唆する。
【0181】
図13に、反応前後のγ線強度(規格化)を示す。Run1~5のいずれにおいても、反応後のγ線強度(構造体13および貯留部内に貯留された溶液の放射線量)は、反応前(γ線初期値)よりも低くなることが確認された。
【0182】
本開示の核種変換反応は、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金の結晶格子中にある放射性物質に重水素を透過させることで生じる。構造体(表層)から離れた状態の放射性物質では変換反応が起こらない。そのため、電解質溶液に溶出する放射性物質の量が増えると、放射性物質の変換反応効率は低下する。
【0183】
本実施形態では、構造体表面および電解質溶液の放射線量を確認することにより、反応の進行度合いをより正確に判定できる。本実施形態は、比較的、電解質溶液に溶けやすい放射性物質を検出対象とする場合に有利である。
【0184】
〔第4実施形態〕
図14は、本実施形態に係る核種変換方法の手順を示すフロー図である。本実施形態に係る核種変換システムは、第3実施形態(図9)と同様の構成である。
【0185】
本実施形態において、第2検出器104の配置は、溶液貯蔵部101の近くに限定されない。第2検出器104は、循環部30を流れる循環水の放射線を測定可能に配置されればよい。第2検出器104と循環部30(測定対象となる箇所)との相対位置は固定する。第2検出器104は、例えば、抜出配管31、熱交換器32の近傍に配置されてもよい。測定対象となる箇所の壁面(測定面)は、表層25の放射性物質が放出する放射線と同種の放射線を透過可能な材料で構成される。
【0186】
本実施形態に係る核種変換方法は、表層を形成する工程<S31~33>、反応させる工程<S34~35>、反応終了を判定する工程<S36>、放射性物質を回収する工程<S37>を含む。
【0187】
表層を形成する工程<S31~33>、反応させる工程<S34~35>、放射性物質を回収する工程<S37>は、第1実施形態の<S1~3>、<S4~5>、<S8>と同様である。
反応終了を判定する工程<S36>は、電解質溶液の回収を行わず、かつ、第2検出器を用いた判定を用いる点で第1実施形態と異なる。本実施形態では、第1実施形態のように、貯留部11から抜き出された電解質溶液が溶液貯蔵部101で一時貯蔵される必要はない。
【0188】
(反応終了の判定:S36)
本実施形態では、重水素の透過を停止せずに、反応終了の判定を行う。放射線量のモニタリングは、第1検出器100および第2検出器104の両方で実施する。
【0189】
第1検出器100は、電極14が電解質溶液に浸漬した状態で、連続的に構造体13から放出される放射線を測定する。
【0190】
第2検出器104は、循環部30を流れる循環水から放出される放射線を連続的に測定する。
【0191】
第1検出器100の測定により得られた第1放射線量が第1閾値より高く、かつ、第2検出器104で検出した第2放射線量が第2閾値未満である場合、判定部110は、反応継続と判定する。制御部111は、反応終了と判定されるまでの間、重水素の透過、循環部30による電解質溶液の循環を継続する。すなわち、<S34~36>が繰り返される。
【0192】
第1放射線量が第1閾値以下に低下した場合、第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合、および、第1放射線量が第1閾値以下であり、かつ、第2放射線量が第2閾値以上であった場合、判定部110は反応終了と判定し、<S37>表層を回収する工程へと進む。
【0193】
第1閾値は、例えば、1時間あたりの放射線捕捉量が初期値の50%となる値、または、1時間あたり1000カウント以下などと設定できる。第1閾値は、バックグラウンドレベルの放射線量とすることが好ましい。
【0194】
第2閾値は、構造体13の放射線量の初期値の50%相当となる値などと設定できる。
【0195】
本実施形態では、貯留部11内に電解質溶液が貯留されている状態で、構造体13の放射線量を測定する。表層25の放射性物質の一部が電解質溶液に溶出するため、第1検出器と第2検出器の検出効率を考慮するとよい。例えば、第1検出器と第2検出器の信号比から、構造体と電解質溶液の放射線量比率を求めた値(例えば、電解質溶液への放射性物質溶出量80%)を第2閾値として設定してもよい。
【0196】
図15に、電解質溶液への放射性物質溶出量(第1検出器:第2検出器の信号比)と、変換反応効率との関係を示す。同図において、横軸は電解質溶液への放射性物質溶出量(%)、縦軸は変換反応効率(%)である。
【0197】
図15に示すように、電解質溶液に溶出する放射性物質の量が増えると、放射性物質の変換反応効率は低下する。
【0198】
本実施形態では、反応を停止させずに、反応の進行度合いをリアルタイムに確認できる。
【0199】
第1実施形態~第4実施形態では、第1検出器(100,103)及び第2検出器(104)の視野範囲に、内部標準物質が配置されてもよい。内部標準物質は、例えば、表層25近傍、反応装置10の壁面などに配置され得る。表層25近傍に配置する場合は、表層25に触れない位置に配置し固定すると良い。反応装置10の壁面に配置する場合も同様である。
【0200】
表層25に含まれる放射性物質がγ線を放出する核種である場合、内部標準物質としてAm-241などを用いることができる。表層25に含まれる放射性物質が中性子線を放出する核種である場合、内部標準物質として252Cf、241Am-Beなどを用いることができる。表層25に含まれる放射性物質がβ線を放出する核種である場合、内部標準物質としてSr-90などを用いることができる。
【0201】
内部標準物質を配置することで、定量計算が可能となる。内部標準物質を配置することで測定感度の変化に対応できる。
【0202】
第1実施形態~第4実施形態では、反応装置内に配置した構造体13の放射線量について、予め外部標準物質を用いて検量線を作成しておいてもよい。
【0203】
第3実施形態では、溶液貯蔵部101内に貯蔵された電解質溶液の放射線量について、予め外部標準物質を用いて検量線を作成しておいてもよい。
【0204】
第4実施形態では、測定箇所を流れる循環水の放射線量について、予め外部標準物質を用いて検量線を作成しておいてもよい。
【0205】
〈付記〉
以上説明した実施形態に記載の核種変換システムおよび核種変換方法は、例えば以下のように把握される。
【0206】
本開示に係る核種変換システム(1)は、重水素が透過可能な構造体(13)、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部(11)および重水素低濃度部(12)、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極(14)、および前記電極に接続される電源(15)を有する反応装置(10)と、前記貯留部に接続され、電解質を含む重水溶液を前記貯留部に供給する電解質溶液供給部(60)と、前記貯留部に接続され、前記貯留部内から溶液を抜き出し、該抜き出した溶液を前記貯留部に戻す循環部(30)と、前記構造体の放射線量を測定する第1検出器(100)と、を備え、前記構造体は、前記貯留部側に、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層(25)を有し、前記循環部は、前記貯留部から抜き出した溶液を貯蔵する溶液貯蔵部(101)を有する。
【0207】
上記開示に係る核種変換システムによれば、電解質を含む重水溶液(電解質溶液)に電極を浸漬させることで、重水溶液の電気分解が可能である。貯留部内で電解質を含む重水溶液を電気分解することで重水が発生する。これにより、貯留部内の重水素濃度が相対的に高くなり、構造体の厚さ方向(貯留部側から重水素低濃度部に向かう方向)に重水素濃度勾配が形成される。重水素は濃度の高い方から低い方へと流れるため、結果として、構造体に重水素が透過される。重水溶液は、構造体を透過しない。
【0208】
構造体に重水素を透過させると、表層に含まれる放射性物が別の核種に変換される反応が生じる。これにより、放射性物質を非放射性物質に変換できる。
【0209】
第1検出器は、構造体の放射線量を測定できる。放射性物質が非放射性物質に変換されると、構造体の放射能量は低下する。構造体の放射線量の低下を第1検出器によりモニタリングすることで、反応の進行度合いを見極められる。
【0210】
上記開示の核種変換システムでは、貯留部から抜き出した溶液を一時的に溶液貯蔵部に留置ける。これにより、貯留部内を溶液フリーの状態にできる。
【0211】
重水素を透過させる際、構造体は電解質を含む重水溶液に浸漬されるが、放射性物質の一部が重水溶液に溶出することがある。
【0212】
貯留部内を溶液フリーの状態にしてから構造体の放射線量を測定することで、溶液中に溶出した放射性物質の影響を除ける。これにより、表層に含まれる放射性物質から放出される放射線量をより正確に把握できる。
【0213】
上記開示の一態様において、前記放射性物質は、γ線を放出する核種を有し、前記第1検出器は、γ線検出器であってよい。
【0214】
γ線は、透過性が高いため、反応装置の外部からでも構造体の放射線量を測定できる。よって、γ線検出器は、既存のシステムにも設置しやすい。γ線検出器は、スペクトル分解能が高く、所望の放射性物質に着目可能である。
【0215】
上記開示の一態様において、前記反応装置は、周囲を遮蔽材(102)で囲まれているとよい。
【0216】
反応装置の周囲に遮蔽材を配置することにより、外乱要因による影響を小さくできる。外乱要因とは、宇宙線および他の放射線発生源である。他の放射性発生源は、例えば、貯留部から抜き出して溶液貯蔵部に貯蔵された電解質を含む重水溶液、および、電着液などである。
【0217】
本開示に係る核種変換システム(2)は、重水素が透過可能な構造体、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部および重水素低濃度部、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極、および前記電極に接続される電源を有する反応装置と、前記貯留部に接続され、電解質を含む重水溶液を前記貯留部に供給する電解質溶液供給部と、前記貯留部に接続され、前記貯留部内から溶液を抜き出し、該抜き出した溶液を前記貯留部に戻す循環部と、前記重水素低濃度部内に収容され、前記構造体の放射線量を測定する第1検出器(103)と、を備え、前記構造体は、前記貯留部側に、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層を有する。
【0218】
構造体は、貯留部に収容されている重水溶液を重水素低濃度部側に透過させない。すなわち、重水素低濃度部に電解質を含む重水溶液は存在しない。
重水素低濃度部内に配置することで、第1検出器を構造体に近づけることができる。また、重水素低濃度部の内部であれば、第1検出器と構造体を隔てる障壁もない。よって、放射線のロスが小さく、検出の精度が高くなる。
重水素低濃度部に低濃度化装置として排気手段および排気経路を接続した場合、重水素低濃度部を真空にできる。これにより放射線のロスが小さくなる。
【0219】
第1検出器を重水素低濃度部内に配置することで、電解質を含む重水溶液を抜き出す必要がないため、連続的なモニタリングが可能となる。これにより、反応を止めることなく(連続運転しながら)、反応の進行度合いを見極めることができる。
【0220】
上記開示に一態様において、前記放射性物質は、β線を放出する核種を有し、前記第1検出器は、β線検出器であってよい。
【0221】
β線を放出する核種は、γ線を放出する核種よりも遮蔽および取り扱いが容易である。
β線検出器は、小型であり、計測対象物への近接が比較的容易である。β線検出器は、連続運転時間に制限がなく、γ線検出器と比べると安価である。よって、重水素低濃度部内に配置しやすい。
【0222】
上記開示の一態様において、核種変換システムは、前記第1検出器で測定された放射線量が第1閾値以下に低下した場合に、反応終了と判定する判定部(110)をさらに備えてもよい。
【0223】
第1閾値を設けることで、反応終了の判断基準が明確となる。第1閾値は、例えば、1時間あたりの放射線捕捉量が初期値の50%となる値、または、1時間あたり1000カウント以下などと設定できる。第1閾値は、バックグラウンドレベルの放射線量とすることが好ましい。
【0224】
上記開示の一態様において、核種変換システム(3)は、前記貯留部から抜き出した溶液の放射線量を測定する第2検出器(104)をさらに備えてもよい。
【0225】
上述の通り、貯蔵部から抜き出された溶液には、表層から溶出した放射性物質が含まれている可能性がある。溶液貯蔵部内に貯蔵された溶液の放射線量または貯留部から抜きだした溶液の放射線量を測定する第2検出器を備えることで、溶出した放射性物質の量を知ることができる。
【0226】
上記開示の一態様において、前記第2検出器(104)は、前記溶液貯蔵部内に貯蔵された溶液の放射線量を測定可能に、前記溶液貯蔵部との相対位置が固定されてもよい。
【0227】
溶液貯蔵部には、貯留部から抜き出された溶液が貯蔵されている。よって、溶液貯蔵部の放射線量を測定することで、まとまった量の放射線を検出できる。これにより、測定精度が高まる。
【0228】
上記開示の一態様において、核種変換システムは、前記第2検出器の測定で得られた第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合に、反応終了と判定する判定部(110)をさらに備える。
【0229】
第2放射線量は、表層から溶出した放射性物質の量を反映し得る。溶出した放射性物質の量が多いということは、表層に含まれる放射性物質量が少なくなっているということである。表層に含まれる放射性物質の量が少なくなると、反応効率も低下する。反応終了の判断基準に第2閾値を加えることで、反応の進行度合いをより正確に見極められる。
【0230】
上記開示の一態様において、前記第1検出器は、前記構造体に正対しているとよい。
【0231】
放射性物質は、表層に分散されている。第1検出器を構造体に正対させることで、分散している各放射性物質と第1検出器との距離の偏りを小さくできる。これにより、放射性物質から放出される放射線の測定精度が高くなる。
【0232】
上記開示の一態様において、核種変換システムは、前記貯留部に接続され、前記水素吸蔵金属または前記水素吸蔵合金と、前記放射性物質とを含む電着液を前記貯留部に供給する電着液供給部(50)と、前記貯留部から抜き出された溶液を系外に排出する排出部(40)と、をさらに備えてもよい。
【0233】
電着液供給部から貯留部内に電着液を供給し、構造体および電極を電着液に浸漬させ、電極に電圧を印加し、電極と構造体との間に電圧差を生じさせると、電着液に含まれる放射性物質および水素吸蔵金属または水素吸蔵合金が構造体表面に電着される。これにより表層が形成され得る。表層形成後、排出部から電着液を系外への排出できるため、貯留部内を溶液フリーな状態とし、電解質を含む重水溶液の供給が可能である。電着液供給部を備えた核種変換システムでは、表層の形成から反応までを同一装置内で実施できる。これにより放射性物質が装置外に暴露される頻度が大幅に減少することになるため、作業員の安全性が高まる。
【0234】
上記開示の一態様において、前記第1検出器の視野範囲に、内部標準物質が配置されてもよい。
【0235】
内部標準物質とは、放射能が既知の放射性物質である。第1検出器の視野範囲とは、少なくとも反応装置内であり、例えば、貯留部の内壁等である。内部標準物質は、表層中に配置されてもよい。
【0236】
上記開示の一態様において、核種変換システムは、前記貯留部に接続され、前記貯留部内に洗浄液を供給する洗浄液供給部(90)をさらに備えてもよい。
【0237】
洗浄液供給部は、電着液供給部を利用して表層を形成した後、電着液を抜き出した貯留部内を洗浄できる。貯留部に残存した電着液の成分は核種変換反応を阻害する恐れがある。貯留部内に残存した電着液を取り除くことで、コンタミによる影響を低減できる。
【0238】
上記開示の一態様において、前記構造体は、前記水素吸蔵金属または前記水素吸蔵合金からなる基板と、前記基板上に形成された中間層とを備え、前記中間層は、前記水素吸蔵金属または前記水素吸蔵合金からなる第1層と、前記水素吸蔵金属または前記水素吸蔵合金に対して相対的に仕事関数が低い物質からなる第2層とが積層された構成であり、前記表層は、中間層の上にあってよい。
【0239】
構造体を上記構成とすることで、変換反応が生じることを確認している。
【0240】
本開示に係る核種変換方法は、重水素が透過可能な構造体、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部および重水素低濃度部、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極、および前記電極に接続される電源を有する反応装置を用いた核種変換方法であって、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層を前記貯留部側に向けて前記構造体を配置し、前記貯留部に電解質を含む重水溶液を供給し、前記電解質を含む重水溶液に浸漬させた前記電極に電圧を印加して前記電極と前記構造体との間に電圧差を生じさせ、前記電極と前記構造体との間の空間で前記電解質を含む重水溶液から前記重水素を発生させ、所定時間、濃度勾配によって前記構造体の前記貯留部側から前記重水素低濃度部側に向けて前記重水素を透過させ、前記重水素の透過を停止し、前記貯留部から溶液を抜き出して前記貯留部内を空にした後、第1検出器により前記構造体の放射線量を測定し、前記第1検出器の測定により得られた第1放射線量が、第1閾値以下に低下した場合に、反応を終了し、前記第1放射線量が、前記第1閾値よりも高い場合に、抜き出した前記溶液を前記貯留部に戻し、前記重水素の透過を再開させる。
【0241】
上記開示の一態様において、前記放射性物質は、γ線を放出する核種を有し、前記第1検出器は、γ線検出器であってよい。
【0242】
上記開示の一態様では、前記反応装置の周囲を遮蔽材で囲うとよい。
【0243】
本開示に係る核種変換方法は、重水素が透過可能な構造体、前記構造体により隔てられ、それぞれ閉空間をなす貯留部および重水素低濃度部、前記貯留部内に収容されて前記構造体の前記貯留部側の表面と対向配置される電極、および前記電極に接続される電源を有する反応装置を用いた核種変換方法であって、水素吸蔵金属または水素吸蔵合金と、放射性物質とを含む表層を前記貯留部側に向けて前記構造体を配置し、前記構造体の放射線量を測定する第1検出器を前記重水素低濃度部内に配置し、前記貯留部に前記電解質を含む重水溶液を供給し、前記電解質を含む重水溶液に浸漬させた前記電極に電圧を印加して前記電極と前記構造体との間に電圧差を生じさせ、前記電極と前記構造体との間の空間で前記電解質を含む重水溶液から前記重水素を発生させ、濃度勾配によって前記構造体の前記貯留部側から前記重水素低濃度部側に向けて前記重水素を透過させ、前記重水素を透過させながら、前記第1検出器により前記構造体の第1放射線量を測定し、前記第1検出器の測定により得られた第1放射線量が第1閾値以下に低下した場合に、反応を終了する。
【0244】
上記開示の一態様において、前記放射性物質は、β線を放出する核種を有し、前記第1検出器は、β線検出器であってよい。
【0245】
上記開示の一態では、前記貯留部から抜き出した電解質溶液の第2放射線量を第2検出器によって測定し、前記第2放射線量が第2閾値以上に上昇した場合に、反応終了を終了してもよい。
【0246】
上記開示の一態では、前記第1検出器の視野範囲に、内部標準物質を配置するとよい。
【符号の説明】
【0247】
1,2,3 核種変換システム
10 反応装置
11 貯留部
12 重水素低濃度部
13 構造体
14 電極
15 電源
16 逆止弁
17 低濃度化装置
18 排気手段
19 排気経路
20,56,64 ヒータ
21 基板
22 第1層
23 第2層
24 中間層
30 循環部
31 抜出配管
32 熱交換器
33 フィルタ
34 ポンプ
35 再供給配管
40 排出部
41 排出配管
50 電着液供給部
51 電着液タンク
52 電着液供給用配管
53,66,72,81,91 不活性ガス供給用配管
54,67,73,82,92 除湿装置
55,68,74,83,93 乾燥不活性ガス供給用配管
60 電解質溶液供給部
61 電解質溶液タンク
62 電解質溶液供給用配管
63 電解質塩
65 重水供給部
69,84 重水タンク
70 重水供給用配管
71 不活性ガス供給部
80 重水補充部
85 重水補充用配管
90 洗浄液供給部
94 洗浄液タンク
95 洗浄液供給用配管
100,103 第1検出器
101 溶液貯蔵部
102 遮蔽材
104 第2検出器
110 判定部
111 制御部
120 試料ステージ
120a 領域
121 試料固定冶具
122 Oリング
123 貫通孔
図1
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