IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アルコン インコーポレイティドの特許一覧

特許7455744前方に偏った光学設計を有する眼内レンズ
<>
  • 特許-前方に偏った光学設計を有する眼内レンズ 図1
  • 特許-前方に偏った光学設計を有する眼内レンズ 図2
  • 特許-前方に偏った光学設計を有する眼内レンズ 図3
  • 特許-前方に偏った光学設計を有する眼内レンズ 図4
  • 特許-前方に偏った光学設計を有する眼内レンズ 図5
  • 特許-前方に偏った光学設計を有する眼内レンズ 図6
  • 特許-前方に偏った光学設計を有する眼内レンズ 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】前方に偏った光学設計を有する眼内レンズ
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20240318BHJP
   G02C 7/04 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
A61F2/16
G02C7/04
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020530560
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-25
(86)【国際出願番号】 IB2018060467
(87)【国際公開番号】W WO2019123390
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-03
(31)【優先権主張番号】62/608,037
(32)【優先日】2017-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】ジョン アルフレッド キャンピン
(72)【発明者】
【氏名】ミョン-テク チェ
(72)【発明者】
【氏名】コスティン ユージーン キュラトゥ
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ ハンター ペティット
(72)【発明者】
【氏名】シン ウェイ
【審査官】胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0320547(US,A1)
【文献】特表2014-530638(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0153683(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0112612(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0227286(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0203619(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0093891(US,A1)
【文献】特開2011-254482(JP,A)
【文献】特開2009-192830(JP,A)
【文献】Robert Rosen, et al.,Impact of intraocular lens design on anterior surface reflections,Investgative Ophthalmology & Visual Science,vol. 58,2017年06月11日,p. 2724
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/14-2/16
G02C 1/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学部であって、
前面曲率半径(R)及び前面屈折力(P)を有する前面であって、前記前面屈折力が
【数1】
として定義される、前面と、
後面曲率半径(R)及び後面屈折力(P)を有する後面であって、前記後面屈折力が
【数2】
として定義される後面と、
形状係数(X)であって、
【数3】
として定義され、式中、
が、患者の眼球の房水の屈折率であり、
が、前記光学部の屈折率であり、
前記形状係数(X)が、ゼロより大きく、レンズ屈折力(P)の関数として形状係数(X)を定義する曲線に対応し、前記曲線が、レンズ屈折力(P)が増大するに従って単調に低減する、形状係数(X)と、
を備える光学部
を備え、
前記曲線が非線形であり、
前記曲線が、以下の三次方程式によって定義され、
X=X+XP+X+X
式中、X、X、X及びXが、実数である値を有する定数であり、X、X及びXの絶対値が、0よりも大きく、
が0.75~1.5の範囲であり、
が-0.11~-0.05の範囲の負の数であり、
が0.0017~0.0035の範囲であり、
が-0.000042~0.00002(0を除く)の範囲である、
眼用レンズ。
【請求項2】
前記前面屈折力(P)が、レンズ屈折力(P)及び形状係数(X)の関数である、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項3】
が約1.068であり、
が約-0.075であり、
が約0.0025であり、
が約-0.00003である、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項4】
前記光学部の屈折率が、1.42~1.56の範囲である、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項5】
前記光学部の屈折率が、1.498におよそ等しい、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項6】
前記前面が非球面であり、前記非球面のサグ量は以下のように定義され、
【数4】
rが光軸からの半径距離であり、
cが前記前面曲率半径(R)に対応する前記前面のベース曲率であり、
kがコーニック定数であり、
が4次変形定数であり、
が6次変形定数である、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項7】
前記レンズ屈折力(P)が、6~35ジオプタの範囲であり、
前記形状係数(X)が、0.20~1.0の範囲である、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項8】
12ジオプタより大きいすべてのレンズ屈折力(P)に対して、前記前面曲率半径(R)が18mm未満である、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項9】
前記光学部のエッジから延在し且つ前記眼用レンズの支持部面を画定する複数の支持部をさらに備え、10ジオプタより大きいすべてのレンズ屈折力(P)に対して、前記光学部の主面と前記支持部面との間の距離が、0.2mm未満の量だけ変化する、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項10】
前記光学部のエッジから延在し且つ前記眼用レンズの支持部面を画定する複数の支持部をさらに備え、20ジオプタより大きいすべてのレンズ屈折力(P)に対して、前記光学部の主面と前記支持部面との間の距離が、0.1mm未満の量だけ変化する、請求項1に記載の眼用レンズ。
【請求項11】
光学部であって、
前面曲率半径(R)及び前面屈折力(P)を有する前面であって、前記前面屈折力が
【数5】
として定義される、前面と、
後面曲率半径(R)及び後面屈折力(P)を有する後面であって、前記後面屈折力が
【数6】
として定義される後面と、
形状係数(X)であって、
【数7】
として定義され、式中、
が、房水又は患者の眼球の屈折率であり、
が、前記光学部の屈折率であり、前記屈折率が1.42~1.56の範囲であり、
前記形状係数(X)が、ゼロより大きく、レンズ屈折力(P)の関数として形状係数(X)を定義する曲線に対応し、前記曲線が、レンズ屈折力(P)が増大するに従って単調に低減する三次方程式によって定義され、
前記形状係数(X)が、6~35ジオプタの範囲であるレンズ屈折力(P)の場合、0.20~1.0の範囲である、形状係数(X)と、
を備える光学部と、
前記光学部のエッジから延在する複数の支持部と、
を備え、
前記三次方程式が、
X=X+XP+X+X
であり、式中、X、X、X及びXが、実数である値を有する定数であり、X、X及びXの絶対値が、0よりも大きく、
が0.75~1.5の範囲であり、
が-0.11~-0.05の範囲の負の数であり、
が0.0017~0.0035の範囲であり、
が-0.000042~0.00002(0を除く)の範囲である、
眼内レンズ。
【請求項12】
前記前面屈折力(P)が、レンズ屈折力(P)及び形状係数(X)の関数である、請求項11に記載の眼内レンズ。
【請求項13】
が約1.068であり、
が約-0.075であり、
が約0.0025であり、
が約-0.00003である、請求項11に記載の眼内レンズ。
【請求項14】
前記光学部の屈折率が、1.498におよそ等しい、請求項11に記載の眼内レンズ。
【請求項15】
前記前面が非球面であり、前記非球面のサグ量は以下のように定義され、
【数8】
rが光軸からの半径距離であり、
cが前記前面曲率半径(R)に対応する前記前面のベース曲率であり、
kがコーニック定数であり、
が4次変形定数であり、
が6次変形定数である、請求項11に記載の眼内レンズ。
【請求項16】
12ジオプタより大きいすべてのレンズ屈折力(P)に対して、前記前面曲率半径(R)が18mm未満である、請求項11に記載の眼内レンズ。
【請求項17】
前記複数の支持部が、前記眼内レンズの支持部面を画定し、
10ジオプタより大きいすべてのレンズ屈折力(P)に対して、前記光学部の主面と前記支持部面との間の距離が、0.2mm未満の量だけ変化する、請求項11に記載の眼内レンズ。
【請求項18】
前記複数の支持部が、前記眼内レンズの支持部面を画定し、
20ジオプタより大きいすべてのレンズ屈折力(P)に対して、前記光学部の主面と前記支持部面との間の距離が、0.1mm未満の量だけ変化する、請求項11に記載の眼内レンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して眼用レンズに関し、より詳細には、前方に偏った光学設計を有する眼内レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの眼は、その最も単純な観点から、角膜と呼ばれる透明な外側部分を通して光を透過させ、水晶体によって網膜の上に像を集束させることにより、視力を提供するように機能する。集束する像の質は、眼球のサイズ及び形状、並びに角膜及び水晶体の透明度を含む多くの要素によって決まる。年齢又は疾患により水晶体の透明度が低下すると、網膜まで透過させることができる光の量が減少するため、視力が低下する。この眼の水晶体の欠陥は、医学的に白内障として知られている。この状態に対する容認された治療は、水晶体を外科的に除去して、水晶体を眼内レンズ(IOL)で置き換えることである。
【0003】
IOLは、通常、(1)患者の視力を(たとえば、通常、屈折又は回折を介して)矯正する光学部と、(2)光学部を患者の眼内で(たとえば、水晶体嚢内で)適所に保持する支持構造体を構成する支持部とを含む。概して、医師は、光学部が患者に対して適切な矯正特性を有するIOLを選択する。手術処置中、執刀医は、患者の眼の水晶体嚢に切開部(嚢切開部(capsulorhexis))を形成し、その切開部を通してIOLを挿入することにより、選択されたIOLを埋め込むことができる。一般的に、IOLは、角膜切開部を介して水晶体嚢内に挿入されるために折り畳まれ、水晶体嚢内の適所に置かれると広げられる。広げる間、支持部は、各々の一部が水晶体嚢と接触するように拡張して、IOLを適所に保持することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
既存のIOLは、多くの患者において許容可能に十分に機能することができるが、いくつかの欠点もある。たとえば、既存のIOLは、両凸光学設計を有する場合があり、必然的に前面曲率を、反射をもたらすことが知られている範囲とする、屈折率を有する材料から形成される場合がある。この現象は、「反射光(glint)」又は「瘢痕(scary)眼」と呼ばれることがある。
【0005】
したがって、必要なものは、広範囲の屈折力にわたって反射光の発生を低減させる光学設計その前面曲率を有するIOLである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
いくつかの実施形態では、眼用レンズは、前面曲率半径(R)を有する前面と、後面曲率半径(R)を有する後面とを有する光学部を含む。前面曲率半径(R)及び後面曲率半径(R)は、ゼロより大きい形状係数(X)(X=(R-R)/(R+R))を定義する。形状係数(X)は、レンズ屈折力(P)の関数として形状係数(X)を定義する曲線に対応し、曲線は、レンズ屈折力(P)が増大するに従って単調に低減する。
【0007】
いくつかの実施形態では、本開示は、1つ又は複数の技術的利点を提供することができる。一例として、上述した前方に偏った光学設計を有するIOLにより、「反射光」、すなわち、外部観察者が患者の眼内に埋め込まれたIOLからの反射を見る現象の出現率を低下させることができる。ヒト眼モデルシミュレーションにより、反射の強度はIOLの前面曲率半径によって決まり、反射の強度は、IOLに入射する波面の曲率により緊密に一致する一定範囲の曲率半径(たとえば、18~40mmの範囲の曲率半径)において最強であることが示された。上述した前方に偏った光学設計を有するIOLにより、広範囲のレンズ屈折力にわたり、最高強度の反射をもたらすことが知られている範囲外にある前面曲率半径をもたらすことができ、それにより、反射光の出現率が低下する。
【0008】
別の例として、上述した前方に偏った光学設計を有するIOLにより、IOL主面とIOL支持部面との間の距離が屈折力範囲にわたって実質的に一定のままであるという事実に起因して、広範囲のIOL屈折力にわたって安定した術後前房深度(effective lens position)(ELP)をもたらすことができる。このIOL屈折力範囲にわたるELPの安定性によりA定数変動を最小限にすることができ、それにより、より良好な且つ/又はより予測可能な屈折結果をもたらすことができる。
【0009】
さらに別の例として、上述した前方に偏った光学設計を有するIOLは、位置ずれ(たとえば、偏心及び傾斜)に対する感度を低くすることができる。より詳細には、上述したIOLは正の形状係数を有し、それは、比較的高い前面曲率を有することを意味する。比較的高い前面曲率は、前面に入射し前面から出て行く光線が、ガウス光学系の公式がスネルの法則からわずかな量だけ逸脱するように法線方向から小さい平均角度を有し、それにより偏心に対する感度が低下することを意味する。その結果、上述した前方に偏った光学設計を有するIOLにより、より良好な屈折結果をもたらすことができる。
【0010】
最後の例として、上述した前方に偏った光学設計を有するIOLにより、埋込後の陰性の(影を知覚する)異常光視症(negative dysphotopsia)の発症を低減させることができる。陰性の異常光視症の発症の低減の1つの理由は、上述した前方に偏った光学設計を有するIOLに対して、白内障手術の後の虹彩の後方移動の量を低減させることができるということである。虹彩の後方移動により、光が網膜の種々の部分にぶつかるか又はぶつかり損なうために、患者に陰性の異常光視症が発症することになる可能性があることが想定されているため、こうした移動を低減させることにより、陰性の異常光視症の発症を低減させることができる。陰性の異常光視症の発症の低減の別の理由は、上述した前方に偏った光学設計を有するIOLにぶつかる周辺光線(高い入射角度で患者の眼に入る光線)を、等凸設計(すなわち、同じ前面曲率及び後面曲率)を有するIOLと比較してより均一に拡散させることができるということである。この周辺光線の均一な拡散により、陰性の異常光視症の知覚を低減させることができる。
【0011】
本開示及びその利点がより完全に理解されるように、ここで、同様の参照番号が同様の特徴を示す添付図面と併せて、以下の説明を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示のいくつかの実施形態による例示的な眼用レンズの上面図を示す。
図2図1に示す(図1の線A-Aに沿った)例示的な眼用レンズの光学部の断面図を示す。
図3】例示的な眼用レンズに対する形状係数(X)対レンズ屈折力(P)のプロットを示す。
図4】例示的な眼用レンズに対する前面曲率半径(R)及び後面曲率半径(R)対レンズ屈折力(P)のプロットを示す。
図5】例示的な眼用レンズに対する前面屈折力(P)及び後面屈折力(P)対レンズ屈折力(P)のプロットを示す。
図6】例示的な眼用レンズに対するレンズ支持部面とレンズ主面との間の距離対レンズ屈折力(P)のプロットを示す。
図7】例示的な眼用レンズに対するレンズ屈折力シフト対レンズ屈折力(P)のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
当業者であれば、以下に記載する図面が単に例示を目的とするものであることが理解されよう。これらの図面は、本出願人の開示の範囲を決して限定するようには意図されていない。
【0014】
概して、本開示は、前方に偏った光学設計を有するIOLに関し、IOLは、前面曲率半径(R)を有する前面と後面曲率半径(R)を有する後面とを有する光学部を含む。前面曲率半径(R)及び後面曲率半径(R)は、ゼロより大きい形状係数(X)(X=(R-R)/(R+R))を定義する。形状係数(X)は、レンズ屈折力(P)の関数として形状係数(X)を定義する曲線に対応し、この曲線は、レンズ屈折力(P)が増大するに従って単調に低減する。
【0015】
上述した前方に偏った光学設計を有するIOLは、広範囲のIOL屈折力にわたって、反射をもたらすことが知られている曲率範囲外である前方曲率を維持することにより、反射光の出現率を低下させることができる。さらに、上述した前方に偏った光学設計を有するIOLにより、(1)広範囲のIOL屈折力にわたりIOL主面とIOL支持部面との間に実質的に一定の距離を提供し、それにより、その屈折力範囲にわたり安定したELP及び低減したA定数変動を提供し、(2)位置ずれ(たとえば、偏心及び傾斜)に対する感度を低下させることによって、より良好な且つ/又はより予測可能な屈折結果をもたらすことができる。
【0016】
図1及び図2は、光学部102と複数の支持部104とを有する例示的な眼用レンズ100(以下、IOL100と呼ぶ)を示す。特に、図1は、IOL100の上面図を示し、図2は、(図1の線A-Aに沿った)IOL100の光学部102の断面図を示す。
【0017】
IOL100を製造するために、種々の技法及び材料を採用することができる。たとえば、IOL100の光学部102は、種々の生体適合性ポリマー材料から形成することができる。いくつかの好適な生体適合性材料としては、限定なしに、軟質アクリルポリマー材料、ヒドロゲル材料、ポリメチメタクリレート(polymethymethacrylate)、若しくはポリスルホン、若しくはポリスチレンを含むコポリマー材料、又は他の生体適合性材料が挙げられる。例として、一実施形態では、光学部102は、米国特許第5,290,892号明細書、同第5,693,095号明細書、同第8,449,610号明細書又は同第8,969,429号明細書に記載されているもの等、軟質アクリル疎水性コポリマーから形成することができる。IOL100の支持部104もまた、上に開示したもの等の好適な生体適合性材料から形成することができる。場合により、IOLの光学部102及び支持部104は、一体ユニットとして製造することができるが、他の場合では、別個に形成し、本技術分野において既知である技法を利用して互いに接合することができる。
【0018】
光学部102は、前面106、後面108、光軸110及び光学部エッジ112を含むことができる。前面106及び/又は後面108は、患者の視力を矯正するための任意の好適な表面プロファイルを有することができる。たとえば、前面106及び/又は後面108は、球面、非球面、トーリック、屈折、回折又はそれらの任意の好適な組合せであり得る。言い換えれば、光学部102は、球面レンズ、非球面レンズ、トーリックレンズ、多焦点レンズ(屈折又は回折)、焦点深度拡張型(extended depth of focus)レンズ、上記の任意の好適な組合せ、又は他の任意の好適なタイプのレンズのうちの1つ又は複数であり得る。
【0019】
前面106は、4.5mm~7.0mmの前面径114を有することができる。1つの具体的な実施形態では、前面径114は約6mmであり得る。さらに、前面106は全面光学部を含むことができ、それは、前面106の光学部分が光学部エッジ112まで広がることを意味する。別法として、前面106は、前面106の光学領域の縁部と光学部エッジ112との間に1つ又は複数の遷移領域(図示せず)を含むことができる。
【0020】
後面108は、4.5mm~7.0mmの後面径116を有することができる。1つの具体的な実施形態では、後面径116は、約6.15mmであり得る(又は、レンズ屈折力に応じて、6.15mmを含む範囲内で変更することができる)。さらに、後面108は、全面光学部を含むことができ、それは、後面108の光学部分が光学部エッジ112まで広がることを意味する。別法として、後面108は、後面108の光学領域の縁部と光学部エッジ112との間に1つ又は複数の遷移領域(図示せず)を含むことができる。
【0021】
光学部エッジ112は、前面106と後面108との間に延在することができ、1つ又は複数の湾曲面、1つ又は複数の平坦面、又はそれらの任意の好適な組合せを含むことができる。1つの具体的な実施形態では、光学部エッジ112は、前面106と後面108との間に延在する連続湾曲面を含むことができる。こうした実施形態では、連続湾曲面は、光軸110に対して平行な接線はまったく含まないものとすることができ、それにより、少なくとも一部にはエッジグレアから陽性の(光を知覚する)異常光視症(positive dysphotopsia)の結果の発症を有利に低減させることができる。
【0022】
いくつかの実施形態では、光学部エッジ112における厚さは、全IOL屈折力範囲(たとえば、6~35ジオプタ)にわたって一定であり得る。その結果、IOL100の中心厚さ(すなわち、光軸110に沿った厚さ)は、IOL屈折力範囲にわたって変更することができる。一例として、光学部エッジ112における厚さは、全IOL屈折力範囲にわたって約0.25mmであり得る。
【0023】
支持部104は、各々、ガセット(gusset)領域118、エルボ(elbow)領域120及び先端領域122を含むことができる。ガセット領域118は、光学部102の周縁部から延在することができ、光学部102の周縁部のある角度(たとえば、50度以上の角度)を張ることができる。エルボ領域120は、ガセット領域118と先端領域122とを結合することができ、最小幅(たとえば、0.40mm~0.65mm)を有する支持部104の部分を含むことができる。その結果、エルボ領域128は、光学部102の座屈及び湾曲を最小限にしながら、支持部104が撓曲するのを可能にするヒンジをもたらすことができる。先端領域130は、エルボ領域128から延在することができ、6mm~7.5mmの範囲の長さを有することができる。特定の構成を有する特定の数の支持部104を示し説明しているが、本開示は、IOL100が、任意の好適な構成を有する任意の好適な数の支持部104を含むことができることを企図している。
【0024】
いくつかの実施形態では、光学部102の前面106は、前面曲率半径(R)を有し、光学部102の後面108は、後面曲率半径(R)を有する。さらに、前面曲率半径(R)及び後面曲率半径(R)は、以下のように、まとめて光学部102の形状係数(X)を定義することができる。
【数1】
【0025】
さらに、前面106は前面屈折力(P)を有し、後面108は後面屈折力(P)を有し、前面屈折力及び後面屈折力は以下のように定義される。
【数2】
式中、
は、房水又は患者の眼球の屈折率(約1.336)であり、
は、光学部102の屈折率である。
【0026】
光学部の屈折率(n)は1.42~1.7の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、光学部の屈折率(n)は1.42~1.56の範囲であり得る。いくつかの実施形態では、光学部の屈折率(n)は約1.498であり得る。
【0027】
光学部102の形状係数(X)はゼロより大きく、それは、後面曲率半径(R)が前面曲率半径(R)より大きい(すなわち、前面曲率が後面曲率より大きい)ことを意味する。いくつかの実施形態では、形状係数(X)は、6~35ジオプタの範囲のレンズ屈折力(P)を有するIOL100の場合、0.20~1.0の範囲となる。
【0028】
いくつかの実施形態では、形状係数(X)は、レンズ屈折力(P)の関数として形状係数(X)を定義する曲線に対応し、この曲線は、レンズ屈折力(P)が増大するに従って単調に低減する。製造制約又は他の製造上の考慮事項により、形状係数(X)は、所与のレンズ屈折力(P)に対して曲線によって定義される値に等しくない場合もあり得る。しかしながら、形状係数(X)は、それにも関わらず、曲線に対応するように選択することができる。たとえば、任意の所与のレンズ屈折力(P)に対して、形状係数(X)は曲線から0.2を超えて逸脱しないことから、形状係数(X)は曲線に対応することができる。
【0029】
いくつかの実施形態では、形状係数(X)が非線形に対応する上述した曲線。たとえば、曲線は、以下の三次方程式によって定義することができる。
X=X+XP+X+X (式4)
式中、X、X、X及びXは、実数である値を有する定数である。
【0030】
いくつかの実施形態では、Xは0.75~1.5の範囲であり、Xは-0.11~-0.05の範囲の負の値であり、Xは0.0017~0.0035の範囲であり、Xは-0.000042~0.00002の範囲である。いくつかの実施形態では、Xは約1.068であり、Xは約-0.075であり、Xは約0.0025であり、Xは約-0.00003である。
【0031】
式(1)~(4)を考慮すると、前面曲率半径(R)、後面曲率半径(R)、前面屈折力(P)及び後面屈折力(P)は、以下のように定義することができる。
【数3】
【0032】
図3に、形状係数(X)が式(4)によって定義された曲線に対応し、Xが約1.068であり、Xが約-0.075であり、Xが約0.0025であり、Xが約-0.00003である実施形態における、形状係数(X)が対応する曲線を示す。上述したように、製造制約又は他の製造上の考慮事項により、形状係数(X)は、すべてのレンズ屈折力(P)に対して、図示する曲線によって定義される値に等しいとは限らない場合もあるが、それにも関わらず、その曲線に対応するように選択することができる(たとえば、形状係数(X)は、0.2を超えて曲線から逸脱しないものとすることができる)。
【0033】
IOL100の光学部102が約1.498の屈折率を有し、形状係数(X)が図3に示す曲線に対応する実施形態では、前面の曲率半径(R)及び後面の曲率半径(R)は、図4に示す曲線に対応することができる。こうした実施形態では、前面屈折力(P)及び後面屈折力(P)は、図5に示す曲線に対応することができる。図3に関して上述した所望の曲線に対する形状係数(X)における変動のように、製造制約又は他の製造上の考慮事項により、必然的に、所与のレンズ屈折力(P)に対して、表面半径及び/又は屈折力が図4及び図5に示す曲線に対応しない可能性があり得る。それにも関わらず、表面半径及び/又は屈折力は、形状係数(X)のように曲線に対応することができ、それは、一定量を超えて曲線から逸脱しない(たとえば、前面曲率半径(R)は2mmを超えて曲線から逸脱しない可能性がある)ためである。
【0034】
いくつかの実施形態では、前面106及び後面の一方又は両方は非球面であり得る。たとえば、前面106は、ベース曲率(すなわち、上述した前面106の曲率)からの逸脱が以下のように定義される、非曲面であり得る。
【数4】
式中、
rは光軸110からの半径距離を示し、
cは前面106のベース曲率を示し、
kはコーニック定数を示し、
は4次変形定数であり、
は6次変形定数である。
【0035】
いくつかの実施形態では、式(9)の定数(k、a及びa)は、IOL100に対する目標球面収差が達成されるように選択することができる。一例として、0.2μmの目標球面収差を達成するための式(9)の定数(k、a及びa)。
【0036】
上述した前方に偏った光学設計を有するIOL100(たとえば、図3に示すような形状係数と図4に示すような前面及び後面曲率半径とを有するIOL100)により、「反射光」、すなわち、外部観察者が患者の眼内に埋め込まれたIOLからの反射を見る現象の出現率を低下させることができる。ヒト眼モデルシミュレーションにより、反射の強度はIOLの前面曲率半径によって決まり、反射の強度は、IOLに入射する波面の曲率により緊密に一致する一定範囲の曲率半径(たとえば、18~40mm)において最強であることが示された。上述した前方に偏った光学設計を有するIOL100により、広範囲のレンズ屈折力(P)(たとえば、12~35ジオプタの範囲のレンズ屈折力(P))にわたり、最高強度の反射をもたらすことが知られている範囲外にある前面曲率半径をもたらすことができ、それにより反射光の出現率が低下する。
【0037】
さらに、上述した前方に偏った光学設計を有するIOL100(たとえば、図3に示す曲線に対応する形状係数(X)と、図4に示す曲線に対応する前面/後面曲率半径(R/R)とを有するIOL100)により、IOL主面とIOL支持部面との間の距離(ΔPP、後述する)が屈折力範囲にわたって実質的に一定のままであるという事実により、広範囲のIOL屈折力にわたって安定した術後前房深度(ELP)をもたらすことができる。このIOL屈折力範囲にわたるELPの安定性によりA定数変動を最小限にすることができ、それにより、より良好な且つ/又はより予測可能な屈折結果をもたらすことができる。
【0038】
上述したIOL支持部面は、以下のように、後面の頂部からの距離(IOLHP)として定義することができる。
【数5】
式中、
SagOEは、後面108の頂部における後面高さと光学部エッジ112における後面高さとの間の距離を表し、
ETは光学部エッジ112における厚さを表した。
【0039】
上述したIOL主面は、以下のように、後面の頂部からの距離(IOLPP)として定義することができる。
【数6】
式中、
は、房水又は患者の眼球の屈折率(約1.336)であり、
は光学部102の屈折率であり、
IOLCTはIOL100の中心厚さであり、
は前面屈折力であり、
PはIOLレンズ屈折力である。
【0040】
式(10)及び式(11)を考慮すると、IOL主面とIOL支持部面との間の距離(ΔPP)は、以下のように定義することができる。
【数7】
【0041】
図6に、上述した術後前房深度(ELP)の安定性を示し、図6は、それぞれ図3及び図4に示すような形状係数(X)と前面/後面曲率半径(R/R)とを有するIOL100に対する、IOL支持部面とIOL主面との間の距離(ΔPP)対レンズ屈折力(P)を示す。これは図7によってさらに示し、図7は、図6にプロットしたIOL支持部面とIOL主面との間の距離(ΔPP)からもたらされる屈折力シフトを示す。図6及び図7は、図3及び図4に示す曲線に等しい形状係数(X)及び曲率半径(R/R)を有するレンズに対するΔPP及び対応する屈折力シフトを示すが、本開示は、製造制約又は他の製造上の考慮事項からもたらされる、図3及び図4に示す曲線からの形状係数(X)及び曲率半径(R/R)の上述した逸脱により、図6及び図7に示す曲線から対応する逸脱があり得ることを企図している。
【0042】
上述した理由で、図6に示す曲線からの逸脱がある実施形態では、レンズ屈折力(P)が異なる任意の2つのレンズの間のΔPPの許容可能な差異の量は、レンズ屈折力(P)が増大するに従って低減する可能性がある。単なる一例として、さまざまなレンズ屈折力(P)における許容可能な差異の量は、以下のようなものであり得る。
【0043】
【表1】
【0044】
さらに、上述した前方に偏った光学設計を有するIOL100(たとえば、図3に示す曲線に対応する形状係数(X)と図4に示す曲線に対応する前面/後面曲率半径(R/R)とを有するIOL100)は、位置ずれ(たとえば、偏心及び傾斜)に対する感度を低くすることができる。より詳細には、上述したIOL100は正の形状係数を有し、それは、比較的高い前面曲率を有することを意味する。比較的高い前面曲率は、前面に入射し前面から出て行く光線が、ガウス光学系の公式がスネルの法則からわずかな量だけ逸脱するように法線方向から小さい平均角度を有し、それにより偏心に対する感度が低下することを意味する。その結果、上述した前方に偏った光学設計を有するIOL100により、より良好な屈折結果をもたらすことができる。
【0045】
最後に、上述した前方に偏った光学設計を有するIOL100(たとえば、図3に示すような形状係数(X)と図4に示すような前面/後面曲率半径(R/R)とを有するIOL100)により、埋込後の陰性の(影を知覚する)異常光視症の発症を低減させることができる。陰性の異常光視症の発症の低減の1つの理由は、上述した前方に偏った光学設計を有するIOLに対して、白内障手術の後の虹彩の後方移動の量を低減させることができるということである。虹彩の後方移動により、光が網膜の種々の部分にぶつかるか又はぶつかり損なうために、患者に陰性の異常光視症が発症することになる可能性があることが想定されているため、こうした移動を低減させることにより、陰性の異常光視症の発症を低減させることができる。陰性の異常光視症の発症の低減の別の理由は、上述した前方に偏った光学設計を有するIOLにぶつかる周辺光線(高い入射角度で患者の眼に入る光線)を、等凸設計(すなわち、同じ前面曲率及び後面曲率)を有するIOLと比較してより均一に拡散させることができるということである。この周辺光線の均一な拡散により、陰性の異常光視症の知覚を低減させることができる。
【0046】
さまざまな上に開示した特徴及び機能並びに他の特徴及び機能又はそれらの代替物を、望ましいように組み合わせて他の多くの異なるシステム又は応用にすることができることが理解されよう。それらにおけるさまざまな現時点で予測できない又は予期しない代替形態、変更形態、変形形態又は改良形態は、当業者によって後に作成することができ、それら代替形態、変形形態及び改良形態もまた、以下の特許請求の範囲によって包含されるように意図されていることもまた理解されよう。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7