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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】接合基板、金属回路基板及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/02 20060101AFI20240318BHJP
   H01L 23/12 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H05K1/02 L
H01L23/12 J
H01L23/12 Q
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020549435
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038172
(87)【国際公開番号】W WO2020067427
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-29
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2018181383
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】津川 優太
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩二
(72)【発明者】
【氏名】青野 良太
【合議体】
【審判長】高野 洋
【審判官】土居 仁士
【審判官】衣鳩 文彦
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/094213(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 1/02
H05K 3/46
H01L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板とで積層状態を構成している金属板であって、前記基板側の第1面と、前記第1面と反対側の第2面とを有しており、積層方向から見て前記第1面の縁が前記第2面の縁よりも外側に位置している金属板と、
前記基板と前記金属板との間に配置され前記金属板を前記基板に接合させている接合部材であって、前記積層方向から見て前記金属板の全周に亘って縁からはみ出している接合部材と、
を備え、
前記積層方向に沿って切断した複数の切断面のうちの少なくとも1つの切断面における、前記第1面の周縁に相当する部分から前記第2面の周縁に相当する部分までの前記積層方向と直交する直交方向の長さを周面長A(mm)、前記接合部材のはみ出し部分の前記直交方向の長さをはみ出し長B(mm)、及び、記第1面から前記第2面までの距離を前記金属板の厚みC(mm)とした場合、下記の第1式及び下記の第2式を満たし、
前記金属板における前記第1面の全周縁と前記第2面の全周縁とを繋ぐ周面は、傾斜面を含む面とされており、前記積層方向に沿って切断した複数の切断面のうちの少なくとも1つの切断面における、前記傾斜面に相当する部分の前記直交方向に対する傾斜角θ(°)は、下記の第3式を満たし、
前記第1面の周縁に相当する部分から前記金属板の上面の内側に向けて、前記金属板の下面に相当する直線と45°となるように直線を引き、前記直線と前記金属板の上面とが交わる点と、前記第1面の周縁に相当する部分とを結ぶ直線を斜辺とする直角二等辺三角形に相当する断面の面積をS1とし、前記直角二等辺三角形の前記斜辺より前記基板の外側方向に向けてはみ出す断面の面積をS2とした場合、前記面積S1と前記面積S2との関係は、下記の第4式を満たしている接合基板。
(第1式)0.200≦B/(A+B)≦0.400
(第2式)0.8(mm)≦C≦2.0(mm)
(第3式)86≧θ>69(°)
(式4式)0.6≦S2/S1
【請求項2】
前記金属板は、前記積層方向から見て角が4つ以上の多角形とされ、
前記少なくとも1つの切断面は、前記積層方向から見た前記金属板の対角線で切断した切断面とされている、
請求項1に記載の接合基板。
【請求項3】
すべての前記対角線で前記積層方向に沿って切断したすべての切断面における、前記周面長A(mm)及び前記はみ出し長B(mm)は、前記第1式を満たす、
請求項2に記載の接合基板。
【請求項4】
前記積層方向から見た前記金属板のすべての対角線で前記積層方向に沿って切断したすべての切断面における、前記傾斜面に相当する部分の前記直交方向に対する傾斜角θ(°)は、前記第3式を満たす、
請求項1~3のいずれか1項に記載の接合基板。
【請求項5】
前記周面長A(mm)は、0.15(mm)以上0.30(mm)以下のいずれかの長さとされている、
請求項1~4のいずれか1項に記載の接合基板。
【請求項6】
前記はみ出し長B(mm)は、10μm以上100μm以下のいずれかの長さとされている、
請求項1~5のいずれか1項に記載の接合基板。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の接合基板と、
回路パターンが形成された前記金属板に実装されている電子部品と、
を備えている回路基板。
【請求項8】
前記電子部品の動作温度は、100℃以上250℃以下の範囲とされている、
請求項7に記載の回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接合基板、金属回路基板及び回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックス製の基板と、ろう材等の接合部材を介して基板に接合された金属板とを備えた接合基板の金属板に回路パターンが形成され、回路パターンの一部に電子部品が実装された回路基板が知られている(特許文献1及び特許文献2参照)。
上記のような回路基板を製造する場合、電子部品は金属板に形成された回路パターンに例えば半田を介して実装される。そのため、回路パターンが形成された金属板は電子部品の実装時に発熱する。また、上記のような回路基板を例えば製品(図示省略)の一部に組み込んで動作させる場合、電子部品は発熱する。これらの理由により、接合基板及び回路基板には、一定の基準以上のヒートサイクル特性を満たすことが要求される。
また、上記のような回路基板の電子部品としていわゆるパワーIC等の半導体素子が用いられるが、近年パワーICのハイパワー化が進んでいる。パワーIC等の半導体素子は、回路基板の動作時に高温(例えば200℃等)に発熱する場合もある。以上の理由により、接合基板及び回路基板には、上記の一定の基準よりもさらに高い基準以上のヒートサイクル特性を満たすことが要求されつつある。
【0003】
ここで、特許文献1には、セラミック銅回路基板(セラミックス基板及び回路パターンが形成された銅板)と、セラミックス基板と銅板との間に配置され、両者を接合するろう材と、回路パターンに実装されている半導体チップとを備えた半導体装置が開示されている。具体的には、ろう材の銅板の縁からのはみ出し長さを10(μm)以上150(μm)以下とし、銅板の周面を傾斜面状とし、銅板の厚みを0.2(mm)以上1.0(mm)以下とすることが開示されている。この場合、銅板の断面の端部に相当する部分の直角二等辺三角形の面積を面積Dとし、端部から当該直角二等辺三角形を除いた部分の面積を面積Cと定義すると、C/Dは0.2以上0.6以下とすることが開示されている(特許文献1の図3参照)。
また、特許文献2には、セラミックス基板と、金属回路と、セラミックス基板に金属回路を接合する接合層とを備え、金属回路に電子部品を実装するための回路基板が開示されている。具体的には、接合層の金属回路の縁からのはみ出し長が30(μm)以下とし、金属回路の周面を傾斜面とし、金属回路の厚みを0.3(mm)以上0.5(mm)以下とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-174165号公報
【文献】特開平10-326949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、接合基板、金属回路基板及び回路基板は、放熱性を高めるために、金属板の厚みを大きくすること(例えば、0.5(mm)以上の厚みにすること)が要望されている。
特許文献1に開示されているセラミック銅回路基板の場合、上記のC/Dの範囲に関する条件を満たしたうえで銅板の厚みを大きくすると、銅板の端部の傾斜面状の部分の幅が大きくなってしまう。これに伴い、銅板における電子部品の実装領域が狭くなってしまう。
また、前述のとおり、特許文献2には、金属板の厚みを大きくした場合(例えば、0.8(mm)以上の厚みにした場合)について開示されていない。そのため、特許文献2には、金属回路の厚みを大きくした場合のヒートサイクル特性を考慮した回路基板の最適な設計条件が開示されていない。
【0006】
本発明は、金属板の厚みが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れた接合基板の提供を目的とする。また、本発明は、金属板の厚みが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れた金属回路基板の提供を目的とする。また、本発明は、金属板の厚みが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れた回路基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1態様の接合基板は、基板と、前記基板とで積層状態を構成している金属板であって、前記基板側の第1面と、前記第1面と反対側の第2面とを有しており、積層方向から見て前記第1面の縁が前記第2面の縁よりも外側に位置している金属板と、前記基板と前記金属板との間に配置され前記金属板を前記基板に接合させている接合部材であって、前記積層方向から見て前記金属板の全周に亘って縁からはみ出している接合部材と、を備え、前記積層方向に沿って切断した複数の切断面のうちの少なくとも1つの切断面における、前記第1面の周縁に相当する部分から前記第2面の周縁に相当する部分までの前記積層方向と直交する直交方向の長さを周面長A(mm)、前記接合部材のはみ出し部分の前記直交方向の長さをはみ出し長B(mm)、及び、記第1面から前記第2面までの距離を前記金属板の厚みC(mm)とした場合、下記の第1式及び下記の第2式を満している。
(第1式)0.032≦B/(A+B)≦0.400
(第2式)0.5(mm)≦C≦2.0(mm)
【0008】
本発明の第2態様の接合基板は、第1態様の接合基板であって、前記金属板は、前記積層方向から見て角が4つ以上の多角形とされ、前記少なくとも1つの切断面は、前記積層方向から見た前記金属板の対角線で切断した切断面とされている。
【0009】
本発明の第3態様の接合基板は、第2態様の接合基板であって、すべての前記対角線で前記積層方向に沿って切断したすべての切断面における、前記周面長A(mm)及び前記はみ出し長B(mm)は、前記第1式を満たしている。
【0010】
本発明の第4態様の接合基板は、第1~第3態様のいずれか一態様に記載の接合基板であって、前記金属板における前記第1面の全周縁と前記第2面の全周縁とを繋ぐ周面は、傾斜面を含む面とされている。
【0011】
本発明の第5態様に記載の接合基板は、第4態様の接合基板であって、前記積層方向に沿って切断した複数の切断面のうちの少なくとも1つの切断面における、前記傾斜面に相当する部分の前記直交方向に対する傾斜角θ(°)は、下記の第3式を満たしている。
(第3式)θ>45(°)
【0012】
本発明の第6態様の接合基板は、第5態様の接合基板であって、すべての前記対角線で前記積層方向に沿って切断したすべての切断面における、前記傾斜面に相当する部分の前記直交方向に対する傾斜角θ(°)は、前記第3式を満たしている。
【0013】
本発明の第7態様の接合基板は、第1~第6態様のいずれか一態様に記載の接合基板であって、前記周面長A(mm)は、0.15(mm)以上0.30(mm)以下のいずれかの長さとされている。
【0014】
本発明の第8態様の接合基板は、第1~第7態様のいずれか一態様に記載の接合基板であって、前記はみ出し長B(mm)は、10×10-6(mm)以上100×10-6(mm)以下のいずれかの長さとされている。
【0015】
本発明の第1態様の金属回路基板は、第1~第8態様のいずれか一態様に記載の接合基板の金属板に回路パターンが形成されている。
【0016】
本発明の第1態様の回路基板は、第1~第8態様のいずれか一態様に記載の接合基板と、回路パターンが形成された前記金属板に実装されている電子部品と、を備えている。
【0017】
本発明の第2態様の回路基板は、第1態様の回路基板であって、前記電子部品の動作温度は、100℃以上250℃以下の範囲とされている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の接合基板は、金属板の厚みが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れる。
また、本発明の金属回路基板は、金属板の厚みが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れる。
また、本発明の回路基板は、金属板の厚みが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【0020】
図1】本実施形態の接合基板の上面図である。
図2A図1の接合基板を2A-2A切断線で切断した断面図である。
図2B図2Aの断面図の一部を拡大した断面図である。
図2C図2Aの断面図の一部を拡大した断面図であって、ろう材のぬれ性の一例を考慮した断面図である。
図2D図2Aの断面図の一部を拡大した断面図であって、ろう材のぬれ性の一例を考慮した断面図である。
図3A】本実施形態の回路基板の上面図であって、実装された半導体素子及びその近傍の部分拡大図である。
図3B図3Aの回路基板を3B-3B切断線で切断した断面図である。
図4】複数の実施例及び複数の比較例に対する設定条件及びヒートサイクル試験の結果をまとめた表である。
図5】変形例の接合基板の上面図である。
図6】他の変形例の接合基板の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<概要>
以下、本実施形態について、図面を参照しながら説明する。まず、本実施形態の接合基板10(図1図2A及び図2B参照)、金属回路基板及び回路基板50の構成について説明する。次いで、本実施形態の回路基板50の製造方法について説明する。次いで、複数の実施例及び複数の比較例について行ったヒートサイクル試験について説明する。次いで、本実施形態の効果について説明する。最後に、変形例について説明する。なお、以下の説明において参照するすべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0022】
≪本実施形態の接合基板、金属回路基板及び回路基板の構成≫
図1は、本実施形態の接合基板10の上面図を示している。図2Aは、図1の接合基板10を2A-2A切断線で切断した断面図を示している。図2Bは、図2Aの接合基板10の断面図の一部を拡大した断面図を示している。
【0023】
<接合基板>
本実施形態の接合基板10は、図1図2A及び図2Bに示されるように、セラミックス基板20(基板の一例)と、金属板30と、ろう材40(接合部材の一例)とを備えている。また、セラミックス基板20と金属板30とは、図2A及び図2Bに示されるように、ろう材40を挟んで積層状態を構成している。
なお、本実施形態、実施例及び変形例における「接合基板」とは、回路パターン60(図3A及び図3B参照)が形成される前の基板を意味する。また、「金属回路基板」とは、接合基板10の金属板30に回路パターン60が形成された状態の基板を意味する。また、「回路基板」とは、接合基板10の金属板30に回路パターン60が形成された後に回路パターン60の一部に半導体素子70等の電子部品が実装された状態の基板を意味する。
【0024】
(セラミックス基板)
本実施形態のセラミックス基板20は、金属板30を支持する機能を有する。ここで、セラミックス基板20は、一例として、窒化珪素製とされ、その厚み方向(図中のT方向(積層方向の一例)のことをいう。)から見て矩形とされている。また、セラミックス基板20の厚みは、一例として0.32(mm)とされている。なお、セラミックス基板20の材料、形状等は、本実施形態における一例であり、前述の機能を発揮すれば本実施形態の場合と異なっていれもよい。例えば、厚みは0.1mm以上であってよく、0.2mm以上であってよい。また、厚みは2.5mm以下であってよく、1.5mm以下であってよい。また、形状が矩形の場合(長方形状や正方形状の場合)に、一辺の長さは5mm以上であってよく、10mm以上であってよい。また、一辺の長さは250mm以下であってよく、200mm以下であってよい。
【0025】
(金属板及びろう材)
本実施形態の金属板30は、回路パターン60(図3A及び図3B参照)が形成されるための部分とされている。金属板30は、前述のとおり、セラミックス基板20とで積層状態を構成している。
【0026】
本実施形態のろう材40は、図2A及び図2Bに示されるように、セラミックス基板20と金属板30との間に配置されて金属板30をセラミックス基板20に接合させている。また、ろう材40は、T方向から見て、金属板30の全周縁からはみ出している(図2A及び図2B参照)。別言すると、ろう材40は、T方向から見て、金属板30の下面32の全周縁32Aからはみ出している。前述のとおり、図2A及び図2B図1の2A-2A切断線で切断した接合基板10の断面図であるが、2A-2A切断線は接合基板10をその厚み方向から見た場合の金属板30の対角線を含む仮想線L1と重なっている。仮想線L1が沿う方向をX方向とすると、ろう材40は、図2Aに示されるように、X方向において、金属板30の周縁(別言すると、下面32の周縁32A)に相当する部分からB(mm)はみ出している。以下、本明細書では、長さB、すなわち、ろう材40のはみ出し部分におけるT方向に直交するX方向(直交方向の一例)の長さBをはみ出し長Bという。本実施形態のはみ出し長Bは、一例として50×10-6(mm)とされている。ただし、後述する実施例の評価結果(図4の表を参照)を考慮すると、はみ出し長Bは、10×10-6(mm)以上100×10-6(mm)以下であることが好ましい。
【0027】
金属板30は、一例として、銅製とされ、その厚み方向(図中のT方向(積層方向の一例)のことをいう。)から見て矩形とされている。金属板30の厚みCは、一例として0.8(mm)とされている。ただし、後述する実施例の評価結果(図4の表を参照)を考慮すると、厚みCは、0.5(mm)以上2.0(mm)以下である。さらに好ましい厚みCは、0.8(mm)以上1.2(mm)以下である。また、金属板30の材料及び厚み以外の形状は、本実施形態における一例であり、回路パターン60になるものであれば本実施形態の場合と異なっていれもよい。
【0028】
本実施形態では、金属板30の厚み方向における2つの面のうち、セラミックス基板20側の平面を下面32(第1面の一例)、セラミックス基板20側と反対側の平面、すなわち、下面32と反対側の平面を上面34(第2面の一例)とする。また、金属板30の上面34の全周縁34Aと下面32の全周縁32Aとを繋ぐ面を周面36とする。ここで、金属板30は、積層方向から見て下面32の縁が上面34の縁よりも外側に位置している。別言すると、金属板30をT方向の上側から見ると、下面32は、上面34を囲んでいる(図2A及び図2B参照)。すなわち、周面36は、上面34側から下面32側に亘って、上面34の全周縁から外側に広がる傾斜状の面とされている。より具体的には、周面36は、図2Bに示されるように、上面34の縁34AよりもX方向の外側(下面32の縁32A側)で縁34Aに繋がっている曲面部分36Aと、曲面部分36Aの外側端部から下面32の縁32Aまでの平面部分36Bとで構成されている。平面部分36BのX方向(下面32)に対する傾斜角θは、45°よりも急勾配(傾斜角θ>45°)とされている。すなわち、本実施形態の周面36は、傾斜面とされる平面部分36Bを含む面とされている。なお、本実施形態の傾斜角θは、一例として傾斜角θが69°とされている。
なお、周面36の始点となる上面34の縁34Aは、図2に示すように、断面の観察視野において、厚みの減少が始まった位置を意味する。図2の観察視野から明らかな通り、ここでの厚みの減少において、表面の微細な凹凸(表面粗さ)は考慮しない。
また、ろう材40は、例えば、ぬれ性を考慮すると、図2C図2Dのような断面形状を呈する。図2Cのようにろう材40の厚さが外縁向かうに従って小さくなりろう材40とセラミックス基板20とが接する場合には、断面におけるセラミックス基板20とろう材40との接点40Cが、下面32の縁32Aから接点40Cまでの距離がはみ出し長Bとなる。また、図2Dのように、ろう材40の外縁が凸形状となる場合には、下面32の縁32Aから凸形状の頂点40Dまでがはみ出し長Bとなる。
また、平面部分36Bは、例えば、断面において面の平均粗さ以下で所定距離以上直線となっている領域である。言い換えると、連続して上記傾斜角θとなっている領域である。
【0029】
また、本実施形態では、図2Aに示されるように、X方向における周面36に相当する部分の長さA(以下、周面長Aという。)は、一例として0.25(mm)とされている。ただし、後述する実施例の評価結果(図4の表を参照)を考慮すると、周面長Aは、一例として0.15(mm)以上0.30(mm)以下であることが好ましい。
【0030】
以上のとおりであるから、本実施形態の接合基板10では、周面長A(mm)と、はみ出し長B(mm)との関係は、後述する実施例の評価結果(図4の表を参照)を考慮すると、下記の式1を満たしている。
【0031】

(式1)0.032≦B/(A+B)≦0.400
【0032】
さらに、金属板30の厚みC(mm)についても考慮すると、本実施形態の接合基板10は、上記の式1を満たしつつ、下記の式2を満たすといえる。
【0033】

(式2)0.5(mm)≦C≦2.0(mm)
【0034】
なお、前述のとおり、本実施形態の接合基板10の周面36は、曲面部分36Aと平面部分36Bとで構成されている。ここで、図2Bに示されるように、金属板30の断面図において、縁32Aから金属板30の上面34の内側に向けてX方向に沿う直線(例えば下面32に相当する直線)と45°となるように直線を引き、この直線と上面34とが交わる点を点34Bとする。縁32Aと点34Bとを結ぶ直線を斜辺とする直角二等辺三角形に相当する断面の面積をS1とする。また、縁32Aと点34Bとを結ぶ直線よりセラミックス基板20の外側方向に向けてはみ出す断面の面積、すなわち、金属板30の端部から前述の直角二等辺三角形を除いた部分の断面の面積をS2とする。この場合、本実施形態では、面積S1と、面積S2との関係は、下記の式3を満たしている。
【0035】

(式3)0.6≦S2/S1
【0036】
以上のとおり、本実施形態の接合基板10の構成について、仮想線L1に沿った切断線で切断した断面図(図2A及び図2B)を参照しながら説明した。そして、本実施形態の接合基板10は、前述の式1、式2及び式3を満たすとして説明した。ここで、式1、式2及び式3のうち式1及び式3は、接合基板10の断面図を用いて定義したパラメータによる。そのため、式1及び式3の値は、切断線の向きにより値が変化する。
しかしながら、本実施形態の場合、図1に示されるように、金属板30の長手方向(Y方向)に平行な仮想線L2に沿って切断した断面図の場合にも、式1及び式3を満たす。また、金属板30の短手方向(Z方向)に平行な仮想線L3に沿って切断した断面図の場合にも、式1及び式3を満たす。すなわち、本実施形態の場合、金属板30の対角線に沿った仮想線L1で切断した断面図だけではなく、2つの対角線の交点O(図1参照)又はZ方向から見た中心Oを通るすべての仮想線に沿って切断した断面図の場合でも、式1及び式3を満たす。別の見方をすると、本実施形態の場合、金属板30におけるすべての対角線でZ方向に沿って切断したすべての切断面において、式1及び式3を満たす。
【0037】
以上が、本実施形態の接合基板10の構成についての説明である。
【0038】
<金属回路基板>
本実施形態の金属回路基板は、図1及び図2の接合基板に回路パターン60が形成された状態の基板である。回路パターン60については下記回路基板50の説明の通りである。
【0039】
<回路基板>
次に、本実施形態の回路基板50について、図3A及び図3Bを参照しながら説明する。図3Aは、本実施形態の回路基板50の上面図であって、実装された半導体素子70及びその近傍の部分拡大図を示している。図3Bは、図3Aの回路基板50を3B-3B切断線で切断した断面図を示している。
本実施形態の回路基板50は、前述のとおり、接合基板10の金属板30に回路パターン60が形成された後に回路パターン60の一部に半導体素子70等の電子部品が実装された状態の基板とされている。ここで、半導体素子70は、一例として、いわゆるパワーICとされ、その動作温度の範囲の上限が250℃とされている。回路パターン60は、図3Aに示されるように、金属板30の一部を削除して(具体的には、後述のとおり、エッチングして)形成したパターンとされている。回路パターン60は、実装する複数の電子部品を考慮したレイアウトを考慮して形成されている。図3A及び図3Bの例では、半導体素子70が回路パターン60の定められた位置にはんだ80により接合されている。
【0040】
以上が、本実施形態の回路基板50の構成についての説明である。
【0041】
≪本実施形態の回路基板及び金属回路基板の製造方法≫
次に、本実施形態の回路基板50(図3A及び図3B参照)及び金属回路基板の製造方法について説明する。
まず、セラミックス基板20の一方の面にろう材40を塗布する。
次いで、ろう材40が塗布されたセラミックス基板20の一方の面に金属板30を張り付ける。すなわち、セラミックス基板20に金属板30を接合する。
次いで、金属板30が例えば、図1のようにT方向の上側から見てセラミックス基板20の内側で矩形となるように、金属板30をエッチングする。
次いで、金属板30の上面34に所定の表面処理を施す。
以上により、回路基板50を製造するために必要とされる、接合基板10が製造される。なお、金属板30のエッチングが終了した時点では、ろう材40は、金属板30の全周縁よりもはみ出した状態とされている。また、金属板30の周面36は、エッチングによる影響により、図2A及び図2Bに示されるように、傾斜面を含む面となる。
【0042】
次いで、接合基板10の金属板30の上面34にフォトレジスト(図示省略)をラミネートする。この場合、液状のフォトレジストを塗布してもよい。
次いで、フォトレジストに回路パターン60を形成するため、回路パターン60に準じたパターンの露光をする。この場合、回路パターン60のネガ画像が形成されているフィルムをフォトレジストに密着させていわゆる一括露光によりフォトレジストを感光させても、いわゆる直描型露光装置を用いて(上記フィルムを用いずに)フォトレジストを感光させてもよい。
次いで、回路パターン60に準じて感光したフォトレジストをエッチングする。
次いで、残ったフォトレジストを除去する。
以上により、回路パターン60が形成された状態の接合基板10(すなわち金属回路基板)が製造される。
次いで、回路パターン60が形成された状態の接合基板10(すなわち金属回路基板)に半導体素子70等の電子部品を実装すると、図3A及び図3Bに示されるように、回路基板50が完成する。
【0043】
以上が、本実施形態の回路基板50の製造方法についての説明である。
【0044】
≪実施例及び比較例のヒートサイクル試験≫
次に、周面長A(mm)、はみ出し長B(mm)、金属板30の厚みC(mm)、傾斜角θ(°)及びS2/S1をパラメータとして、複数の接合基板(試料1~27)を準備して、後述するヒートサイクル試験を行った。この場合、上記のパラメータ以外は、前述の実施形態の接合基板10と同じ設定条件とした(図1図2A及び図3B参照)。
そして、後述する定められた基準を満たす場合と満たさない場合とを調べた。その結果、図4の表に示されるように、前述の式1、式2及び式3を満たす場合が定められた基準を満たす場合となった。
【0045】
以下、ヒートサイクル試験の内容について説明する。
まず、常温(一例として20℃)の試験対象の接合基板を150℃の環境内に移動し、150℃の環境内で15分間保持する(第1工程)。
次いで、接合基板を150℃の環境内から-55℃の環境内に移動し、-55℃の環境内で15分間保持する(第2工程)。
そして、第1工程と第2工程とを交互に2000回繰り返す。
次いで、超音波探傷測定により、金属板30の剥離の有無を観察する。
その結果、本願の発明者は、剥離が有ると観察された接合基板は定められた基準を満たさないと判断し、剥離が無いと観察された接合基板は定められた基準を満たすと判断した。図4の表の「評価結果」では、「定められた基準を満たす場合」をOKと表記し、「満たさない場合」をNGと表記した。
なお、図4の表における、試料1~11、13~21は、上記の評価結果から、それぞれ実施例1~20とした。試料12は、本実施形態の接合基板10に相当する。また、試料22~28は、それぞれ比較例1~7とした。
【0046】
以上より、ヒートサイクル試験の結果、図4の表のようになった。そして、本願の発明者は、式1、式2及び式3を満たす接合基板(試料1~21)は、満たしてない接合基板(試料22~28)に比べて、ヒートサイクル特性の点で優れていることを見出した。
【0047】
以上が、複数の実施例及び複数の比較例についてのヒートサイクル試験についての説明である。
【0048】
≪本実施形態の効果≫
以上のとおり、式1、式2及び式3を満たす、本実施形態及び本実施例の接合基板10及び金属回路基板は、式1、式2及び式3の少なくともいずれか1つを満たさない接合基板に比べて、ヒートサイクル特性の点において優れていることが見出された。ここで、式1、式2及び式3の少なくともいずれか1つを満たさない接合基板には、例えば、前述の特許文献1及び特許文献2に開示されている又はその思想で変形した接合基板が含まれる。
したがって、本実施形態及び本実施形態に含まれる本実施例の接合基板10及び金属回路基板は、金属板30の厚みCが大きい場合(例えば0.5(mm)以上2.0(mm)以下)であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れる。これに伴い、本実施形態の回路基板50は、金属板30(回路パターン60の部分)の厚みCが大きい場合であっても、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れる。そのため、本実施形態の回路基板50は、動作温度の範囲の上限が例えば250℃等の高温となる電子部品(例えば、パワーIC)を実装している場合であっても、故障し難い。
なお、本実施形態の効果、別言すると、式1、式2及び式3を満たす、本実施形態及び本実施例の接合基板10及び金属回路基板の技術的優位性は、本願の発明者が前述のヒートサイクル試験を行った結果に基づいて見出されたものである。そして、上記技術的優位性とは熱に対する特性であることから、定性的なものである。そのため、本願の発明者は、本ヒートサイクル試験における、第1及び第2工程での保持温度及び保持時間、並びに、繰り返し回数(2000回)の一部又は全部と異なる条件のヒートサイクル試験によっても、本ヒートサイクル試験の場合と同様の結果が見出されたと推認する。すなわち、式1、式2及び式3を満たす接合基板10及び金属回路基板の技術的優位性は、本ヒートサイクル試験と異なる条件(例えば、繰り返し回数が2000回未満なる条件)のヒートサイクル試験からも導くことができるといえる。
【0049】
≪変形例≫
以上のとおり、本発明について前述の実施形態及び実施例を例として説明したが、本発明は前述の実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の技術的範囲には、例えば、下記のような形態(変形例)も含まれる。
【0050】
例えば、本実施形態の説明では、金属板30の全周縁での断面図において、式1、式2及び式3を満たすとした。しかしながら、前述したヒートサイクル試験の結果を考慮すると、以下のことがいえる。すなわち、積層方向に沿って切断した複数の切断面のうちの少なくとも1つの切断面において(好ましくは任意の10個の断面において5個以上)、金属板30の周縁の構造が、式1、式2、式3を満たせばよい(後述する通り、式3は必須ではないため、少なくとも1つの切断面(好ましくは任意の10個の断面において5個以上)で式1及び式2を満たせばよい)。別の観点では、全周縁の一部において式1、式2及び式3の何れか1つを満たさないものの残りにおいてすべてを満たす接合基板や金属回路基板(図示省略)は、前述の比較例の接合基板に比べて、電子部品の実装領域を確保しつつ、ヒートサイクル特性に優れるといえる。すなわち、本発明の技術的範囲には、全周縁の一部において式1、式2及び式3の何れか1つを満たさないものの残りにおいてすべてを満たす接合基板及び金属回路基板も含まれる。ここで、式2は金属板30の厚みCであり、通常は一定の値となるので、断面によって式2を満たしたり満たさなかったりすることはない(厚みCが一定でない場合には断面図において厚みCの最大値と最小値の平均を厚みCとする)。したがって、断面によって式1~式3の全てを満たさない場合は、通常、断面によって式1を満たさない断面があったり、式3を満たさない断面があったり、式1及び式3の両方を満たさない断面がある場合である(式3は必須ではないため、断面によって式1及び式2の全てを満たさない場合は、通常、断面によって式1を満たさない場合である)。
また、本実施形態の説明では式1、式2及び式3を満たす例について説明したが、本発明は金属板30が厚い場合(式2の場合)において、式1を満たすことが重要であるから、式3は満たさなくてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、T方向から見た金属板30の形状は矩形状であるとして説明した(図1参照)。しかしながら、式1、式2及び式3を満たす接合基板であれば、T方向から見た金属板30の形状は矩形状でなくてもよい。T方向から見た金属板30の形状は、角のない楕円状、三角状、角が4つ以上の多角形状(例えば、図5の変形例の接合基板10A)、楕円と矩形とが組み合わされた複合形状その他の2次元形状であってもよい。
【0052】
また、本実施形態では、金属板30の周面36は、曲面部分36Aと平面部分36Bとで構成されているとして説明した。しかしながら、式1、式2及び式3を満たす接合基板であれば、周面36が曲面部分36Aと平面部分36Bとで構成されていなくてもよい。例えば、図6に示される変形例の接合基板10Bのように断面図における周面36の部分が直線状の線分(側面が平面)となっていてもよい。また、断面図における周面36が湾曲線であってもよい(図示省略)。周面36が平面ではなく湾曲等している場合、傾斜角θは、上記断面図において、縁32Aにおける周面36の接線と、下面32とが成す角を意味する。
【0053】
この出願は、2018年9月27日に出願された日本出願特願2018-181383号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4
図5
図6