(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】振動ゲル
(51)【国際特許分類】
C08J 3/075 20060101AFI20240318BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20240318BHJP
A61K 47/30 20060101ALI20240318BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240318BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240318BHJP
A61K 31/365 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
C08J3/075 CER
C08J3/075 CEZ
A61K9/06
A61K47/30
A61K47/02
A61K47/36
A61K31/365
(21)【出願番号】P 2020571840
(86)(22)【出願日】2019-06-26
(86)【国際出願番号】 GB2019051798
(87)【国際公開番号】W WO2020002909
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-02-09
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514314897
【氏名又は名称】ユニヴァーシティ・オヴ・ニューカッスル・アポン・タイン
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カタリーナ・ノヴァコヴィッチ
(72)【発明者】
【氏名】アンナ・イサコヴァ
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-210915(JP,A)
【文献】特開2014-176931(JP,A)
【文献】特開平08-040987(JP,A)
【文献】特開2010-222465(JP,A)
【文献】特開2014-212685(JP,A)
【文献】特開2014-210260(JP,A)
【文献】特開2009-108769(JP,A)
【文献】特開2006-343650(JP,A)
【文献】ISAKOVA ANNA; ET AL,OSCILLATORY CHEMICAL REACTIONS IN THE QUEST FOR RHYTHMIC MOTION OF SMART MATERIALS,EUROPEAN POLYMER JOURNAL,2017年08月16日,VOL:95,,PAGE(S):430 - 439,http://dx.doi.org/10.1016/j.eurpolymj.2017.08.033
【文献】吉田 亮,心筋のように拍動する自励振動ゲル,生物物理,日本,日本生物物理学会,2011年11月29日,51巻6号,p.264-267,http://www.jstage.jst.go.jp/article/biophys/51/6/51_6_264/_article/-char/ja/,[2023年3月7日検索],インターネット
【文献】吉田 亮,自励振動ゲル -時間構造をもつゲル-,高分子,日本,高分子学会,2005年07月01日,54巻7号,p.466-469,http://www.jstage.jst.go.jp/article/kobunshi1952/54/7/54_7_466/article/-char/ja/,[2023年3月7日検索],インターネット
【文献】Ryo Yoshida,Self-Oscillating Polymer and Gels as Novel Biomimetic Materials,Bull. Chem. Soc. Jpn.,Vol. 81, No. 6,日本,日本化学会,2008年06月11日,p.676-688,https://journal.csj.jp/doi/epdf/10.1246/bcsj.81.676,[2023年3月7日検索],インターネット
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28;99/00
A61K 9/00-9/72;47/00-47/48
A61K 31/33-33/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動膨張、及び場合により収縮を受けるゲルであって、前記ゲルは、
非物理的刺激に応答して膨張又は収縮するポリマー固相であって、前記非物理的刺激は、pHの変化及び/又は温度の変化である、ポリマー固相と、
前記ポリマー固相の成分に結合される遷移金属触媒であって、Pd、Pt、Fe、Cu、Co、Ru、Rh、及びIrから選択される金属を含む、遷移金属触媒と、
アルキンを含む有機化合物と
を含み、
前記触媒は前記有機化合物の振動性酸化的カルボニル化反応を触媒し、前記振動性酸化的カルボニル化反応は、前記ゲルへ前記非物理的刺激を与え、その刺激によって前記ゲルは振動的に膨張し、及び場合によりまた、振動的に収縮し、前記振動性酸化的カルボニル化反応は、更なる触媒が全く添加されずに1時間より長い間持続される、ゲル。
【請求項2】
前記有機化合物が、前記ポリマー固相の成分に結合している、請求項1に記載のゲル。
【請求項3】
前記有機化合物が、前記ゲルの液相中に存在する、請求項1に記載のゲル。
【請求項4】
前記遷移金属触媒が、パラジウムを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項5】
前記遷移金属触媒が、コバルトを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項6】
前記ポリマー固相が、生体適合性である、請求項1から5のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項7】
前記ゲルの液相が、水を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項8】
前記非物理的刺激が、pHの変化である、請求項1から7のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項9】
前記振動性酸化的カルボニル化反応が、パラジウム触媒による酸化的カルボニル化(PCOC)反応、又はコバルト触媒による酸化的カルボニル化である、請求項1から8のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項10】
前記ゲルが、段階的な振動膨張を受ける、請求項1から9のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項11】
前記ゲルが、振動膨張及び収縮を受ける、請求項1から9のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項12】
前記ゲルの前記振動膨張が、前記ゲルから薬剤を振動放出させる、請求項1から11のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項13】
前記ゲルが、前記薬剤を更に含む、請求項12に記載のゲル。
【請求項14】
前記ゲルが、前記薬剤を中に保持する貯蔵部を封入する、請求項13に記載のゲル。
【請求項15】
前記振動性酸化的カルボニル化反応における1又は複数の更なる反応物も、前記貯蔵部中に存在する、請求項14に記載のゲル。
【請求項16】
ゲルを振動膨張及び収縮させる方法であって、
A)請求項1から11のいずれか一項に記載のゲルに、触媒及び
任意選択で開始剤によって触媒される振動性酸化的カルボニル化反応において有機化合物と反応する1又は複数の化学物質を与える工程;或いは
B)
第1のゲルに、
アルキンを含む有機化合物
を与えて請求項1から11のいずれか一項に記載のゲルを形成し、並びに
また任意選択で、触媒
によって及び
任意選択で開始剤によって触媒される前記振動性酸化的カルボニル化反応において前記有機化合物と反応する1又は複数の化学物質を与える工程
のいずれかを含
み、
前記第1のゲルが、請求項1から11のいずれか一項に記載のものであり、しかし、前記有機化合物を含まない、方法。
【請求項17】
ゲルから薬剤を振動放出させる方法であって、
A)請求項12から15のいずれか一項に記載のゲルに、触媒及び
任意選択で開始剤によって触媒される振動性酸化的カルボニル化反応において有機化合物と反応する1又は複数の化学物質を与える工程;或いは
B)
第1のゲルに、
アルキンを含む有機化合物
を与えて請求項12から15のいずれか一項に記載のゲルを形成し、並びに
また任意選択で、触媒
によって及び
任意選択で開始剤によって触媒される前記振動性酸化的カルボニル化反応において化合物分子と反応する1又は複数の化学物質を与える工程
のいずれかを含
み、
前記第1のゲルが、請求項12から15のいずれか一項に記載のものであり、しかし、前記有機化合物を含まない、
方法。
【請求項18】
前記ゲルに更なる触媒又は有機化合物を添加することを含まない、請求項16又は請求項17に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段階的な振動膨張、又は振動膨張及び収縮のいずれかを受けるゲルに関する。振動反応は、ゲル内で起こり、ゲルの状態を変化させ、ゲルを膨張させ、任意選択で収縮させる。ゲルは、化学薬剤の振動放出のために使用し得る。
【背景技術】
【0002】
ゲルの振動膨張及び収縮は、創傷治癒、及び膨張が薬物構成体の放出を伴う場合は時間薬物療法、等の医療用途を含む、様々な産業において強力なツールとなり得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】S.U. Rehman、F.A. Khwaja、A. Ul Haq、M.S. Zafar、「Polym. Degrad. Stab.」45 (1994)267~272
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に従って、振動膨張を受けるゲルであって、前記ゲルは、
非物理的刺激に応答して膨張するポリマー固相と;
ポリマー固相の成分に結合される遷移金属触媒と;
有機化合物と
を含み、
触媒は有機化合物の持続した振動反応を触媒し、前記振動反応は、ゲルへ前記非物理的刺激を与え、ゲルを振動膨張させ、かつ振動反応は、更なる触媒が全く添加されずに持続される、ゲルが提供される。
【0005】
振動反応は、ゲルが暴露される条件を変更し、そうすることによって、ゲルの振動膨張を駆動する。
【0006】
ゲルは、段階的な振動膨張を受けてもよい。したがって、ゲルは段階を踏んで膨張する場合がある。段階的膨張は、膨張速度が振動性である(即ち、比較的速い膨張、次いで膨張速度が低下する期間、次いで膨張が比較的少ないか又は全くない期間、次いで膨張速度が増大する期間等)ために生じるものと考えることができる。したがって、ゲルは、膨張が比較的急速な期間と膨張が全くないか又は膨張が緩慢である期間との間を振動してもよい。これらの実施形態において、ゲルは、膨張期間と膨張期間の間に元のサイズに戻ることはない。このことは典型的に、振動性変化率を有する、条件(非物理的刺激)の変化に応答して、起こる。説明のための例として、ゲルは振動性変化率を有するpHの上昇に応答して膨張してよく(pHが比較的急速に上昇する期間とpHが全く上昇しないか又は緩慢に上昇する期間の間で振動して)、又はゲルは振動性変化率を有するpHの低下に応答して膨張してもよい(pHが比較的急速に低下する期間とpHが全く低下しないか又は緩慢に上昇する期間の間を振動して)。
【0007】
ゲルは、振動膨張及び収縮を受けてもよい。したがって、ゲルは、膨張の期間と収縮の期間との間を交互する。ゲルが振動膨張及び収縮を受ける場合、収縮は典型的に、ゲルを膨張させる非物理的刺激(第1の非物理的刺激)の反対である第2の非物理的刺激に応答して起こることになる。このことは典型的に、それ自身振動性である、条件の変化に応答して起こる。説明のための例として、ゲルは、pHの上昇に応答した膨張の期間とpHの低下に応答した収縮の期間との間を交互してもよい;ゲルは、pHの低下に応答した膨張の期間とpHの上昇に応答した収縮の期間との間を交互してもよい;ゲルは、反応からの熱の放出に応答した膨張の期間とゲルが冷却される際の収縮の期間との間を交互してもよい;ゲルは、酸化還元電位の上昇に応答した膨張の期間と酸化還元電位の低下に応答した収縮の期間との間を交互してもよい;又はゲルは、酸化還元電位の低下に応答した膨張の期間と酸化還元電位の上昇に応答した収縮の期間との間を交互してもよい。
【0008】
反応における使用に好適なゲルは、熱、pH変化、又は酸化還元変化等の非物理的刺激に応答して膨張し、任意選択で収縮しうるゲルである、「スマートゲル」を含む。
【0009】
ゲルは生体適合性でもよい、即ち、ゲルは生体適合性ポリマー固相を含んでもよい。
【0010】
好適な固相は、キトサンをベースにした固相を含む。キトサン固相は、遷移金属に対する結合部位を組み込むように改変されたキトサンから形成されてもよい。代替的には、キトサン固相は、遷移金属に対する結合部位を組み込むポリマーが全体に散在されているキトサン(例えば、遷移金属に対する結合部位を組み込むように改変されたキトサン)から形成されてもよい。好適な、遷移金属に対する結合部位は、2~4炭素原子によって分離される、酸素、窒素、及び亜リン酸から選択される2つの原子を有する結合部位、例えば、ヘテロアリールイミン、プロリン-アミド、ヘテロアリールトリアゾールを含んでもよい。キトサンは、例えば、ジアルデヒドで架橋してもよい。説明のための架橋剤は、ゲニピンである。キトサンベースのゲルは典型的に、pHの低下に応答して膨張する。
【0011】
代替的には、固相は合成ポリマーから形成してもよい。固相は合成ポリアクリレートから形成してもよい。
【0012】
好適であろう説明のためのゲルは、ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)(ポリNIPAM)、ポリ[2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート](ポリDMAEMA)、及びヒドロキシプロピルセルロースを含む。これらのゲルは典型的に、温度の変化に応答して膨張する。
【0013】
更なる説明のためのゲルは、ポリ[2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート]、ポリ[2-(ジエチルアミノ)エチルアクリレート]、ポリ[2-(ジイソプロピルアミノ)エチルアクリレート]、ポリスルホネート、及びポリホスホネートを含む。これらのゲルは典型的に、pHの変化に応答して膨張する。
【0014】
ポリマー(例えば、合成ポリアクリレート)は、アミン基を組み込んでもよい。アミン基は、pHの低下に応答して、ゲルを膨張させることができる。
【0015】
ポリマー(例えば、合成ポリマー)は、PEG基を組み込んでもよい。PEG基は、ゲルの親水性を増大させることができ、その生体適合性を増大させる可能性がある。
【0016】
合成ポリマーは、アミン基及びPEG基を組み込んでもよい。ポリマー固相は、架橋基、例えば、ポリアクリレートの場合のジアクリレートを含んでもよい。
【0017】
ポリマー固相を構成するポリマーは、PEG基を含んでもよい。
【0018】
遷移金属触媒は、ポリマー固相の成分に結合される。触媒は、ゲル形成ポリマーに結合される場合がある。代替的には、触媒は、ゲル形成ポリマー内に散在されるポリマーに結合される場合がある。
【0019】
遷移金属触媒は、ゲル中に均一に分散されてもよい。代替的には、ゲルは、遷移金属触媒の濃度がより高い領域、及び遷移金属触媒の濃度がより低い領域を含んでもよい。
【0020】
遷移金属触媒は、Pd、Pt、Fe、Cu、Co、Ru、Rh、及びIrから選択される金属を含み得る。遷移金属触媒は、パラジウムを含んでもよい。遷移金属触媒は、Pd2+、例えば、PdCl2を含んでもよい。遷移金属触媒は、コバルトを含んでもよい。遷移金属触媒は、コバルト2+、例えば、Co(NO3)2.6H2Oを含んでもよい。
【0021】
触媒は、振動反応の条件下で触媒の再生が自己触媒的であるように、選択し得る。自己触媒的とは、反応した触媒が、未反応の触媒の存在下でのみ再生されうることを意味する。
【0022】
有機化合物は、ポリマー固相の成分に結合される(例えば、共有結合される)場合がある。有機化合物は、ゲル形成ポリマーに結合される(例えば、共有結合される)場合がある。代替的には、有機化合物は、ゲル形成ポリマー内に散在されるポリマーに結合される(例えば、共有結合される)場合がある。有機化合物をポリマー固相の成分に結合することは、有機化合物及び反応生成物がゲルによって放出されないことを意味する。
【0023】
代替的には、有機化合物は、ゲルの液相の成分である場合がある。
【0024】
有機化合物は、ゲル中に均一に分散してもよい。これは、有機化合物がゲルの液相の成分であろうと、又は有機化合物がポリマー固相の成分に結合されていようと、そうなり得る。
【0025】
代替的には、ゲルは、有機化合物の濃度がより高い領域、及び有機化合物の濃度がより低い領域を含んでもよい。これは典型的に、有機化合物が、ゲル形成ポリマー内に散在するポリマーに結合される場合である。
【0026】
遷移金属触媒及び有機化合物の両方が、ゲル形成ポリマー内に散在するポリマーに結合される場合、両方とも同じポリマーに結合してもよく、又はそれぞれが異なるポリマーに結合してもよい。有機化合物の濃度がより高い領域及び有機化合物の濃度がより低い領域が存在し、且つ遷移金属触媒の濃度がより高い領域及び遷移金属触媒の濃度がより低い領域も存在する場合、有機化合物の濃度がより高い領域は、遷移金属触媒の濃度がより高い領域でもある場合がある。これは、有機化合物及び遷移金属触媒の両方を同じポリマーに組み込むことによって、最も効率的に達成される。遷移金属及び又は有機化合物が結合されるポリマーは、PEG基を更に組み込んでもよい。
【0027】
有機化合物は、遷移金属との触媒反応を受けるために好適な官能基を含んでもよい。説明のための例としては、アルキン基、アルケン基、ハロゲン化アリール基、及びボロン酸アリール基又はボロン酸基が挙げられる。有機化合物は、少なくとも1のアルキン又はアルケンを含む場合がある。有機化合物は、1より多いアルキン又は1より多いアルケンを含む場合がある。有機化合物は、少なくとも1のアルキンを含む場合がある。有機化合物は、1より多いアルキンを含む場合がある。
【0028】
振動反応は、パラジウム触媒による酸化的カルボニル化(PCOC)反応でもよい。そのような反応において、遷移金属触媒は、Pd2+触媒であり、有機化合物はアルキンである。振動反応は、コバルト触媒による酸化的カルボニル化反応、例えば、コバルト触媒による酸化的カルボニル化反応でもよい。そのような反応において、遷移金属触媒は、Co2+触媒であり、有機化合物はアルキンである。アルキンは、一酸化炭素及び有機アルコールと反応する。説明のためのPCOC反応は以下である:
【0029】
【0030】
振動反応は、酸化的ヘック反応でもよい。説明のための酸化的ヘック反応は以下である:
【0031】
【0032】
酸化的ヘック反応において、ボロン酸は、ポリマー固相の成分に結合される(例えば、共有結合される)場合がある。アルケンは、ポリマー固相の成分に結合される(例えば、共有結合される)場合がある。ボロン酸及びアルケンの両方は、ポリマー固相の成分に結合される(例えば、共有結合される)場合がある。
【0033】
ゲルの液相は典型的に、有機アルコール、例えば、C1~C10-アルキルアルコールを含む。溶媒は、C1~C4-アルキルアルコール、例えば、メタノール、エタノール、又はイソプロパノールを含んでもよい。これは、振動反応がPCOC反応である場合に特にそうである。
【0034】
ゲルの液相は、水を含んでもよい。ある特定の実施形態において、液相が水を含むとき、これにより段階的な振動膨張が生じうる。
【0035】
ゲル(例えば、液相)は、振動反応において、1又は複数の更なる反応物を組み込んでもよい。代替的には、ゲルは、振動反応における1又は複数の更なる反応物を中に保持する貯蔵部を封入してもよい。振動反応がPCOC反応である場合、振動反応における更なる反応物は、一酸化炭素又は一酸化炭素源である。例としては、ギ酸類(例えば、フェニルギ酸、ギ酸メチルピリジニル)、ホルムアミド類(例えば、ホルムアニリド)、又は金属カルボニル(例えば、Ru3(CO)12又はFe(CO)5)が挙げられる。
【0036】
振動反応は、1時間より長い間持続してもよい。振動反応は、24時間より長い間持続してもよい。振動反応は、48時間より長い間持続してもよい。振動反応は、7日より長い間持続してもよい。振動反応は、28日より長い間持続してもよい。本発明者は、PCOC反応が、触媒又はアルキンの補充なしで28日より長い間、継続しうることを観察した。従来技術の振動反応で、数分より長い間継続するものはないと考えられている。
【0037】
ゲルの振動膨張又は段階的膨張は、ゲルから薬剤を振動放出させる場合がある。ゲルは薬剤を更に含む場合がある。代替的には、ゲルは、薬剤を中に保持する貯蔵部を封入してもよい。上述のように、振動反応における1又は複数の更なる反応物も、貯蔵部中に存在する。
【0038】
薬剤は典型的に、有機化合物である。薬剤は典型的に、振動反応の条件下では反応しない有機化合物である。薬剤は、薬物分子でもよい。薬剤は、分子量が1000g/mol未満である薬物分子でもよい。薬剤は、分子量が500g/mol未満である薬物分子でもよい。代替的には、薬剤は、生体高分子薬物、例えば、タンパク質、抗体、又はそれの結合体、多糖類、ポリヌクレオチドでもよい。放出されうる例示的な薬物としては、関節炎、糖尿病、喘息、心血管系疾患等から選択される疾患を治療するために使用される薬剤が挙げられる。
【0039】
本発明の第2の態様において、ゲルを振動膨張及び収縮させる方法であって、
A)第1の態様のゲルに、触媒によって触媒される振動反応において有機化合物と反応する1又は複数の化学物質、及び/又は開始剤を与える工程;或いは
B)第1の態様で説明されるが有機化合物を含まないゲルに、有機化合物、並びに任意選択で、触媒によって触媒される振動反応において有機化合物と反応する1又は複数の化学物質、及び/又は開始剤を与える工程のいずれかを含む、方法が提供される。
【0040】
ゲルの振動膨張が、ゲルから薬剤を振動放出させる場合、第2の態様の方法は、ゲルから薬剤を振動放出させる方法であって、
A)第1の態様のゲルに、触媒によって触媒される振動反応において有機化合物と反応する1又は複数の化学物質、及び/又は開始剤を与える工程;或いは
B)第1の態様で説明されるが有機化合物を含まないゲルに、有機化合物、並びに任意選択で、触媒によって触媒される振動反応において有機化合物と反応する1又は複数の化学物質、及び/又は開始剤を与える工程のいずれかを含む、方法である。
【0041】
上述の選択肢B)は、有機化合物がポリマー固相の成分に結合していない場合でもよい。
【0042】
該方法は、ゲルに更なる触媒又は有機化合物を添加することを含まない場合がある。本発明者は、本発明が、触媒又は有機化合物の補充なしに長時間維持される振動反応を提供しうることを見出した。
【0043】
PCOC反応において、例えば、該方法はCO及び/又はアルコールをゲルに与える工程を含んでもよい。任意選択で、開始剤が添加されてもよい。
【0044】
開始剤は、HIでもよい。
【0045】
本発明の実施形態は、付随する図面を参照しながら、以下に更に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】キトサンベースのパラジウム触媒(Chi-IM-PdCl
2)の合成の模式図を示す。Chi-IM-PdCl
2を触媒として用い、20℃のメタノール中でフェニルアセチレンを酸化的カルボニル化した際に記録されたpHの振動。挿入図は、244分での振動の開始を示す。
【
図2】A)Chi-IM-PdCl
2マクロゲルの上面図を示す。B)完全に架橋されたゲルにおける、キトサン及びChi-IM-PdCl
2に富む領域の分布の模式図を示す。C)メタノール(黒色の線、上)、及びメタノール:水(灰色の線、下)中での、触媒としてChi-IM-PdCl
2マクロゲル、及び反応物としてPhAcを用いたPCOC系において記録されたpH傾向を示す。
【
図3-1】
図3Aは、マクロゲルでのPCOC反応の拡散期を示す図である。
図3Bは、マクロゲルでのPCOC反応の転換及び放出段階を示す図である。
【
図3-2】
図3Cは、メタノール中で、時間の関数として出発物質(PhAc)の濃度によって表される、pH関連パルス転換を示す図である。PhAcの濃度は、閉じた記号で示され、連続した線は目で見るためのガイドとしてのものにすぎず、実際のデータを表していない。メタノール中でのそれぞれのパルス放出の開始は、垂直な点線によって表される。
図3Dは、メタノール:水中で、時間の関数として出発物質(PhAc)の濃度によって表される、pH関連パルス転換を示す図である。PhAcの濃度は、閉じた記号で示され、連続した線は目で見るためのガイドとしてのものにすぎず、実際のデータを表していない。メタノール中でのそれぞれのパルス放出の開始は、垂直な点線によって表される。
図3Eは、メタノール系での、時間の関数としてのZ異性体のpH関連放出を示す図である。Z異性体の濃度は、閉じた記号で示され、連続した線は目で見るためのガイドとしてのものにすぎず、実際のデータを表していない。メタノール中でのそれぞれのパルス放出の開始は、垂直な点線によって表される。
図3Fは、メタノール:水系での、時間の関数としてのZ異性体のpH関連放出を示す図である。Z異性体の濃度は、閉じた記号で示され、連続した線は目で見るためのガイドとしてのものにすぎず、実際のデータを表していない。メタノール中でのそれぞれのパルス放出の開始は、垂直な点線によって表される。
【
図4】逆のフォトルミネセンス強度(1/PL)として表される、メタノール中でのChi-IM-PdCl
2マクロゲルからのフルオレセインの放出を示す。連続した線は目で見るためのガイドとしてのものにすぎず、データを表していない。
【
図5】(A)メタノール、及び(B)メタノール:水系での、時間の関数としてのフルオレセインのpH制御放出を示す。逆のPL強度は、閉じた記号として表される。連続した線は目で見るためのガイドとしてのものにすぎず、データを表していない。
【
図6】PS-VBTP-PdCl
2を用いる触媒系におけるpH振動を示す。
【
図7】メタノールのみの中のNIPAM-VBTP-PdCl
2ゲル(左)、NIPAM-PdCl
2ゲル(右、黒色の線)、及び水:メタノール混合物中のNIPAM-VBTP-PdCl
2ゲルにおけるpH振動を示す。
【
図8】フェニルアセチレンを基質として用いるChi-Pro-Pd触媒によるカルボニル化反応のpHトレースを示す。
【
図9】新鮮な触媒(A)、及び再利用触媒(B)中の、PEGDAを基質として用いるChi-Pro-Pd触媒によるカルボニル化反応のpHトレースを示す。
【
図10】ポリアクリレート-Pd触媒を用いるメタノール中でのフェニルアセチレン(PhAc)のPCOCにおいて記録されたpHを示す。触媒の構造式を挿入図として示す。
【
図11A】MeOH(上の線)、及びEtOH(下の線)中での、PhAc/Pd-ポリアクリレートを用いる酸化的カルボニル化反応において記録されたpHを示す。
【
図11B】1-PrOH(上の線)、1-BuOH(中間の線)、及び1-HexOH(下の線)中での、PhAc/Pd-ポリアクリレートを用いる酸化的カルボニル化反応において記録されたpHを示す。
【
図12】EtOH中での、200mg、275mg、及び350mgのPEGAを用いる、PEGA/Pd-ポリアクリレートを用いる酸化的カルボニル化反応において記録されたpHを示す。
【
図13】CO/空気(常温で、それぞれ15mL分
-1)を用いる、メタノール中でのフェニルアセチレンのP-cat触媒によるPCOCにおいて記録されたpHを示す。PhAc基質の添加に続いて、0.0228mmolのHIを添加した。
【
図14】メタノール中での、フェニルアセチレンのCo(NO
3)
2.6H
2O触媒によるカルボニル化において記録されたpHを示す。KI(2.5、4.5、及び10.5g)及び触媒はMeOHに溶解され、CO(15mL/分)によるパージが、基質(フェニルアセチレン)が添加される前に開始される。反応は、外部からもたらされる空気の非存在下で行われた。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本明細書を通して、「振動」という用語は、ある特性が経時的に繰返し変動すること、即ち、前記特性の高い値又は低い値の各期間の交代を意味することを意図している。前記特性の例としては、薬剤の放出速度、ゲルのサイズ(即ち、膨張の度合い)、pH、温度、膨張速度、pHの変化率、温度の変化率、反応速度、反応速度の変化率が挙げられる。数学的に正確な正弦波パターンを意味することを意図しておらず、単に、前記特性の相対的なピークと相対的なトラフとの間で繰り返される変化である。ゲルは、固相及び液相を含む。液相は、固相にわたって分散される。
【0048】
「非物理的刺激」という用語は、ゲルがさらされる化学的又はエネルギー的条件の任意の変化を説明することを意図している。条件のこの変化は、ゲル内で起こる振動反応によって生成されよう。「非物理的刺激」という用語は、固形物の使用、又はゲルを膨張及び収縮させるために外部から加えられる圧力変化を除外することを意図している。非物理的刺激は、pHの変化(例えば、pHの上昇、又はpHの低下)でもよい。非物理的刺激は、温度の変化(例えば、温度の上昇)でもよい。非物理的刺激は、酸化還元電位の変化(例えば、酸化還元電位の上昇、又は酸化還元電位の低下)でもよい。
【0049】
振動反応は、更なる触媒が全く添加されずに持続される。持続されるとは、反応(及び結果として得られる効果、例えば、ゲルの段階的膨張、若しくは膨張及び収縮、又は薬剤の放出)の振動的性質が、全く触媒を添加する必要なしに、長時間(例えば、1時間より長い)にわたって継続することを意味する。典型的には、実質的にすべての有機化合物が反応するまで、反応は継続する。この文脈において、「実質的にすべての」という用語は、有機化合物の50%超、例えば、75%超、又は90%超が反応したことを意味し得る。振動反応はまた、典型的に、更なる有機化合物を添加する必要なしに、持続される。反応は、少なくとも触媒及び有機化合物に関して、バッチ様反応として説明し得る。振動反応を持続するために、他の反応物、例えば、CO又はアルコールの供給がゲルに対して使用可能である場合がある。
【0050】
有機化合物は、炭素及び水素を含み、互いに共有結合する原子団である。有機化合物はまた、酸素、窒素、硫黄、亜リン酸、ハロゲン、及びホウ素から選択される1又は複数のヘテロ原子を含んでもよい。有機化合物は、ポリマー固相の成分に共有結合してもよい。この場合、有機化合物は、ポリマー鎖と、本明細書において有機化合物と呼ばれる共有結合した原子団のうちの1又は複数との両方を含む、より大きい高分子の一部である。
【0051】
生体適合性は、ゲルが人体に配置される、又は移植される場合、重度又は進行する応答とは対照的に、ゲルが応答を刺激しないか、又は軽度及び/若しくは一過性の応答のみを刺激することを意味する。
【0052】
「結合される」という用語は、共有結合、イオン結合、供与結合、水素結合、又はファンデルワールス力を介して結合されることを意味してもよい。有機分子がポリマー固相の成分に結合される場合、有機分子は典型的に、ポリマー固相の成分に共有結合される。遷移金属触媒の場合、遷移金属は典型的に、ポリマー固相の成分に共有結合される官能基(例えば、二座配位子)に結合される。金属は典型的に、供与結合によって前記基に結合される。遷移金属触媒はまた、遷移金属に結合されるがポリマー固相の成分に結合されない他の配位子、例えば、塩素イオン又はリン酸基を含んでもよい。
【0053】
本明細書の説明及び請求項を通して、「含む」及び「含有する」という単語及びそれらの変形語は、「含むが限定されない」ことを意味し、それらの単語は、他の部分、添加剤、成分、整数、又は工程を排除することは意図されない(且つ排除しない)。本明細書の説明及び請求項を通して、文脈上別段の必要がない限り、単数形の語は複数形の語を包含する。具体的には、不定冠詞が使用されている場合、文脈上別段の必要がない限り、本明細書では、単数性だけでなく、複数性も考慮されているとして理解されるべきである。
【0054】
本発明の特定の態様、実施形態、又は実施例と共に説明される特徴、整数、特性、化合物、化学的部分、又は基は、本明細書で説明される任意の他の態様、実施形態、又は実施例と両立不可能でない限り、それらに適用可能であると理解されるべきである。本明細書(付随する任意の請求項、要約、及び図面を含む)において開示される特徴のすべて、及び/又は本明細書において開示される任意の方法若しくはプロセスの工程のすべては、そのような特徴及び/又は工程の少なくともいくつかが相互排他的である組み合わせを除く任意の組み合わせで、組み合わせてもよい。本発明は、いかなる前述の実施形態の詳細にも限定されない。本発明は、本明細書(付随する任意の請求項、要約、及び図面を含む)において開示される特徴の、任意の新規な1つ、若しくは任意の新規な組み合わせ、又は本明細書において開示される、任意の方法若しくはプロセスの工程の、任意の新規な1つ、又は任意の新規な組み合わせに及ぶ。
【0055】
読者の注意は、本出願に関連して、本明細書と同時に又は本明細書に先んじて提出される、且つ本明細書との縦覧に付される、すべての論文及び文献に向けられ、すべてのそのような論文及び文献の内容は、参照により本明細書に引用される。
【実施例】
【0056】
(実施例1-キトサンイミンベースの系)
この実施例において、スマートなキトサンマクロゲル内で振動を駆動する力として、パラジウム触媒による酸化的カルボニル化(PCOC)反応を用いる、キトサンベースのマクロゲルからのパルス放出を実証する。
【0057】
キトサンベースのパラジウム触媒が振動を生成することを確認するために、当該触媒を、イミン化学によって合成し(
図1でChi-IM-PdCl
2と表記される)、調製したまま、フェニルアセチレンを基質として用いるPCOC反応において使用する(
図1)(合成、特徴付け、及び実験の手順に関しては下記を参照されたい)。Chi-IM-PdCl
2の物理的外見は、黒色のキトサン粒子であり、酸性環境において膨潤する(キトサン上の遊離アミノ基に起因して)が、パラジウム原子のキトサン鎖を架橋する能力に起因して、溶解しない。
【0058】
図1に見られるように、Chi-IM-PdCl
2での振動の誘導期間は、わずか244分と短く、基質がほとんど完全に消費される(約93%の転換)まで、1600分間継続する。出発振幅は小さく、0.05pH単位の領域にあるが、0.8~0.9pH単位に発展し、周期は10~40分にわたる。
【0059】
続いて、架橋剤として追加のキトサン溶液及びゲニピンを使用し、モデル薬物化合物としてフルオレセインを組み込んで、Chi-IM-PdCl
2をマクロゲルへと作製する(
図2A)。乾燥の際に、これらの架橋されたマクロゲル(Chi-IM-PdCl
2マクロゲルと表記される)は、薄層膜(約1mm厚さ)を形成する。最終のゲルは、統計学的に分散された膨潤した(架橋された)Chi-IM-PdCl
2粒子を中に有するキトサンマトリックスからなる。
【0060】
PCOC反応系におけるpHの変化を、2つの異なる溶媒系、純粋なメタノール及びメタノール:水系(1:1)において調べる。反応を、ヨウ化水素酸を添加することによって開始する。
図2Bに見られるように、時系列での反復性非線状傾向が、両方の溶媒系で観察されるが、これらの溶媒系は異なるパターンを有し、pH範囲は著しく異なる。
【0061】
メタノールにおいては、マクロゲルにより規則的なpH振動が生じ、pH振動はHIの添加後ほぼすぐに(したがって、より高いpH値で)始まり、反応の経過全体にわたって持続し、周期は30~60分にわたり、振幅は0.1~0.2pH単位であった。メタノールのpHは水素イオン濃度に直接相関しないが、それでも、より高いpH値は、より小さい水素イオン濃度を、この場合では水素イオンの小さい振幅を示す。この結果は、より高いpH値で自己触媒的段階が行きわたることを示す。系におけるPdの漏出は、実験の初め及び終わりで検出されない。ゲルの除去後、出発物質の更なる転換は観察されない。
【0062】
純粋なメタノールにおいて観察されるpH挙動とは対照的に、メタノール:水溶媒混合物においては、pHは、回復することなしに段階的に低下し、pHの回復を担う反応が、水の存在によって阻害されるか、又は隠されるかのいずれかであることを示す。
【0063】
この研究における触媒系は不均一であり、マクロゲル内に組み込まれているため、ゲル表面への、及び/又はゲル内への基質の拡散が、反応が起こるために必要とされる(
図3A)。同様に、反応生成物の放出は、反対方向で起こる(
図3B)。両方の溶媒系において、マクロゲルは、pHが振動するか、又は段階的に低下するかとは無関係に、生成物のパルス放出を示す。バルク反応系に生成物を送り返すことは、拡散によって駆動されるのではない、即ち、濃度低下の方向に進むのではない。
【0064】
図3C及び
図3Dは、出発物質の転換の進展を示し、一方で、
図3E及び
図3Fは、生成物(2Z)-2-フェニル-2-ブテン二酸ジメチル(Z異性体として表記される)の放出を示す。
【0065】
メタノールにおいては、生成物形成は、単一振動内でのpH低下に相関し、一方で、メタノール:水においては、生成物形成は、単一段階内でのpH降下に完全に相関する。
【0066】
薬剤のpH制御放出を、作製プロセス中にマクロゲル内に組み込まれるフォトルミネセンストレーサーとしてフルオレセインナトリウム塩を使用し、反応溶液のフォトルミネセンス(PL)の強度を530nm(励起480nm)で測定して、調べる。マクロゲルは、HIが添加されるまでは、フルオレセイン放出を全く示さず、HIの添加により、Pd含有マクロゲル溶液での発光強度が著しく増大する。
図4は、時間に対するPL強度の進展を示し、1/PLとして表される。振動が進行するに従い、PL強度は反応の終わりまで上昇し続ける。
【0067】
メタノール中のフルオレセイン放出の特徴を詳細に見ると(
図5)、フルオレセインの放出は、pHの振動に完全に同期された振動状態で起こることが明らかである。最大PL強度は、pHが低いときに観察され、pHが上昇するとき、フルオレセインからのPLは減少する。これは、フルオレセインが、放出され、次いでマクロゲルによって再吸収されることを示唆しており、このことは、ゲルがメタノール中で崩壊していても、pH振動に応答して、ある特定の変化がゲル中で起こることを更に示唆する。反応速度が、生成物への段階的な基質の転換を律する一方で、フルオレセイン放出は拡散によって律されるように思われる。1/PLの漸進的な減少は、pHの漸進的な減少と相互関係があり、このことは、また、マクロゲルの体積及び多孔率の変化との関連を示す。しかしながら、フルオレセインPLのpHへの一般的な依存も完全に排除されるべきではなく、報告では、PL強度は、pH上昇と正比例して増大することが示されている。ここでは、反対のプロセスが観察された。
【0068】
メタノール:水中の同じマクロゲルは、全く異なる挙動を示す(
図5B)。フルオレセインは、再吸収されないが、pHの低下と相関する段階を踏んで放出される。このことも、pHの段階的低下、及び予測されるマクロゲル体積の段階的増大と整列される、拡散制御されたフルオレセイン放出を示唆する。pHの低下、即ち水素イオン濃度の増大は、-NH
2基のプロトン化に起因する、キトサンベースのヒドロゲルにおける膨潤を誘導し、多孔率の増大と、その結果である荷重拡散の増大をもたらすと考えられている。
【0069】
結論として、キトサンベースのパラジウム触媒マクロゲルを用いて、振動性酸化的カルボニル化反応を駆動力として利用し、純粋なメタノール系及びメタノール:水(1:1)系の両方における「薬物様」フルオレセインのパルス放出が確立された。メタノールにおいて、フルオレセインは振動的に放出され、一方で、メタノール:水系において、放出は段階的である。これらの結果は、これらの系において記録されるpH傾向と完全に相関し、pHの関数として予測されるマクロゲル体積の変化と整列された、拡散駆動の放出を示す。両方の溶媒系において、反応物の段階的転換、及び反応生成物の段階的形成は、反応速度がこのプロセスを決定することを示唆することが確認された。
【0070】
1.材料
材料を受け取られたままで使用する:塩化パラジウム(≧99.9%)、キトサン中間分子量、2-ピリジンカルボキサルデヒド(99%)、塩化ナトリウム(ACS試薬、≧99.0%)、ゲニピン(≧98%(HPLC))、ヨウ化水素酸(≧57%)、フェニルアセチレン(98%)、メタノール(HPLCプラス、≧99.9%)、すべてSigma Aldrich社;ナフタレン(超純粋)、ヨウ化カリウム(≧99% GPR RECTAPUR(登録商標))、すべてVWR Chemicals社;緩衝液:pH2.00(グリシン)、pH7(リン酸塩)、及びpH10(ホウ酸塩)(すべてNIST Standard、pH測定用に使用準備済み、Fisher Chemical)。純粋な空気及び一酸化炭素をBOCによって供給する。
【0071】
2.Chi-IM-PdCl2の合成及び特徴付け
吸水性粒子(40メッシュ)を覆って、50mLのジエチルエーテル中で、キトサン(0.500g)を0.300gの2-ピリジンカルボキサルデヒドと、18時間混合する。沈殿を粒子から分離し、ろ過によって収集し、一晩真空で乾燥し、0.522gのChi-IMポリマーを得る。
【0072】
得られたChi-IMポリマー(0.522g)を、50mlのメタノール中で250mgのNa2PdCl4と共に撹拌し、0.703gのChi-IM-PdCl2を得る。Pd含有量を、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-OES)によって14.27%と測定する。
【0073】
3.質量分析検出器を用いたガスクロマトグラフィー(GC-MS)
出発物質転換及び生成物分散に関して、VF-5msカラム(30m)を装着した、質量分析検出器を用いたVarian Saturn 2200ガスクロマトグラフィー(GCMS)によって、試料を分析する。その方法は以下のとおりである:注入器の温度、150℃;ヘリウム流速、1mL分-1;オーブン温度、5段階において35分にわたって100~195℃。すべての試料を、実験の支持された時間間隔で取り出し(本文に別段に記載されていない限り)、シリカ上でろ過し、メタノールで1:2に希釈する。
【0074】
4.フォトルミネセンス(PL)
吸光度に関しては480nmフィルター、及び蛍光収集に関しては530nmフィルターを使用して、FLUOstar(登録商標)Omega UV-Visフィルターベースのマルチモードマイクロプレートリーダーによって、PL強度を測定する。測定のために、0.2mLの試料溶液をウェルごとに沈殿させ、スキャンを3枚取る。
【0075】
5.触媒としてChi-IM-PdCl2を用いるPCOC
反応のバルク内のpH及び温度を記録するためにHEL micronote システムを用いて、平底三角フラスコ(100mL)内で約20℃で、常に撹拌しながら反応を行う。反応に先立って、pH2、7、及び10のNIST追跡可能な緩衝溶液に対してpHプローブを常温で校正する。4.150gのKI、200mgのChi-IM-PdCl2触媒、及び256mgのナフタレン(内部標準)を、固体の状態でフラスコに充填し、100mLのHPLCグレードメタノール中に撹拌によって懸濁させる。pH及び温度の監視を、固体が溶解している間に開始し、実験を通して継続する。pHの安定化は、KIの溶解が完了したことを示す。次いで、それぞれ流速15mL/分での、溶液を通すCO及び空気パージを始める。最初のpH降下後、pHは安定化し、それから1.38mL(12.57mmol)のフェニルアセチレンを添加する。pH及び温度を2000分間監視する。反応混合物の試料を反応の終わりに取り出し、上述のGC-MS法を用いて分析し、出発物質転換及び生成物含有量を決定する。生成物は、有意な量:(2E)-2-フェニル-2-ブテン二酸ジメチル(E異性体)=6.7mmol;5,5-ジメトキシ-3-フェニル-2(5H)-フラノン(DMO)=5.4mmol;(2Z)-2-フェニル-2-ブテン二酸ジメチル(Z異性体)=0.2mmolで観察される。主な生成物の他に、いくつかの他の生成物も観察され、それらは一般に、中間体:4-メチル-アトロパ酸=0.14mmol;ケイ皮酸フェニル=0.025mmolとして認められる。
【0076】
6.マクロゲル作製
Chi-IM-PdCl2含有ゲルを以下のとおり作製する:1%酢酸中の1%キトサン溶液2mL、Chi-IM-PdCl2触媒0.100g、水中のゲニピン1%水溶液0.200mL、及び1%水酸化ナトリウム水溶液中の5質量%フルオレセイン溶液0.2mLをすべて、プラスチック製のダイヤモンド型の秤量ボート(寸法80mm×50mm×14mm)に、充填し、底に均等に分散させ、完全に混合する。秤量ボートを重いプラスチック製の蓋で閉じ、24時間空気中で加熱し、触媒の高密度な粒子が挿入された、エメラルド色の平坦なヒドロゲルを得る。
【0077】
7.メタノールのみにおけるマクロゲルPCOC手順
4,150gのKI及び0.128gのナフタレンを、100mLビーカーに入ったメタノール(50mL)に溶解する。マクロゲルを溶液に挿入し、小さい撹拌棒(5mm)を横にして加える。pH及び温度プローブを、ゲルに触れないように離しておく。pHを放置して安定化させ、次いで、溶液を通して、CO/空気をそれぞれ15mL/分でパージする。15分のパージ後、0.69mL(6.28mmol)のフェニルアセチレンを、反応に添加する。pHが再び安定化した後、0.1mLの希釈HI溶液を添加して(0.0228mmol)、振動を誘導する。反応を4000分間監視する。生成物放出及びPL強度の測定のための試料(0.4mL)を表示された時間点で取り出す。
【0078】
8.メタノール:水系中のマクロゲルPCOC手順
0.064mgのナフタレンを、25mLのメタノールに溶解し、次いで、25mLのDI水を、連続混合しながら添加する。得られた溶液を使用して、4.150gのKIを100mLビーカー内で溶解する。マクロゲルを溶液に挿入し、小さい撹拌棒(5mm)を横にして加える。pHを放置して安定化させ、次いで、溶液を通してCO/空気をそれぞれ15mL/分でパージする。15分のパージ後、0.69mLのフェニルアセチレンを、反応に添加する。pHが再び安定化した後、0.1mLの希釈HI溶液を添加して(0.0228mmol)、誘導時間を短縮する。反応を4000分間監視する。生成物放出及びPL強度の測定のための試料(0.4mL)を表示された時間点で取り出す。
【0079】
(実施例2-ポリ(2-(1-(4-ビニルベンジル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)ピリジン)(ポリVBTP)
ポリマー担持パラジウム(PS-VBTP-PdCl2)触媒を、以下のスキームに従った、ほぼ定量的な転換を有する簡単な3工程で、市販されるメリフィールド樹脂から合成する。
【0080】
【0081】
初めに、樹脂をアジド誘導体に転換し、次いでそれを「クリック」ケミストリーによって、2-エチニルピリジンと反応させる。得られたトリアゾール-ピリジン樹脂をパラジウム(II)塩と共に撹拌し、パラジウム触媒を得る。フーリエ変換赤外分光法(FTIR)によってクリック反応の成功が確認され、フーリエ変換赤外分光法は、「クリック」反応後の2100cm-1でのアジドバンドの欠如、及び-N=及び-C-N-振動(1600cm-1及び1415cm-1)に関連付けられるバンドの強度の増大を示す。
【0082】
典型的なフェニルアセチレン酸化的カルボニル化反応における、この触媒の振動挙動を調べる。
図6は、生成されたpHパターンを示す。初めは、CO及び空気が反応系を通してパージされるとき明白なpH降下(7.7から5.3まで)があり、PhAcが添加されるとき緩慢なpH低下(pH3.3まで)がある。しかしながら、誘導期間の780分の後、別の急なpH降下が観察され、振動はその後すぐに開始する。初めの3つの振動は比較的小さく、振幅は0.5~1.2、周期は12~20分であるが、次いで振動は形状を変え、振幅(2.4~3.3pH単位)及び周期(400~1260分)が大きくなる。振動の形状は台形状であり、先の振動の最大pH値と続く振動の最大pH値との間の周期は、わずか35分(平均で)である。
【0083】
VBTPを組み込んでいるゲルを、以下のスキームに従って合成する:
【0084】
【0085】
NIPAM-VBTP-PdCl
2ゲルは、メタノール中での振動を示し(
図7A)、振動は、架橋されたPS-VBTP-PdCl
2触媒によって生成される振動とパターンが非常に似ており、違いは誘導期間の長さのみである。メタノール中のNIPAM-VBTP-PdCl
2ゲルにおいて、振動は、3150分後に初めて開始し、漸進的に増大する周期(160~260分)、及び振幅(0.21~0.53pH単位)を有する。振動の形状から、速度の異なる2つのプロセス、つまり振動においてpHが最大点に達した後すぐに起こる1つの緩慢なプロセス、及び急速なプロセスが、pH降下を律すると結論することができる。例えば、緩慢なプロセスは182分かかり、急速なプロセスは3分かかるのみである。それと同時に、pH上昇は、著しく急速に、平均で23分以内に起こり、したがって、1つの振動周期の10~12.5%を占めるのみである。他の報告されている系において、pH上昇は最長のプロセスであるか、又は全振動周期の約50%を占めるかのいずれかである。
【0086】
水:メタノール混合物(
図7B)において、NIPAM-VBTP-PdCl
2ゲルは、2pH単位から0.4pH単位まで、pHが全般的に低下する傾向を示し、これは基質を添加した後6000分で初めて起こる。pH低下は、水:メタノール中でのキトサン系における段階的低下を思わせる、波状パターンを有するが、NIPAM-VBTP-PdCl
2ゲルの場合、pHは低下段階の後わずかに回復するように見える。「波」は、30~40分の周期を有し、0.03~0.05pH単位回復するのみである。
【0087】
1.PdCl2を含浸させた、架橋ポリ(スチレン-r-ビニルベンジルトリアゾレピリジン)(PS-VBTP-PdCl2)の合成
メリフィールド樹脂(1.500g)を、20mLのDMF中で3.000gのNaN3と共に常温で48時間、撹拌する。完了したら、反応混合物をろ過し、固形物をフィルターに収集し、水(3×200mL)及びアセトン(100mL)で洗浄する。得られた粉末を真空で乾燥し、1.610gのポリ(スチレン-r-ビニルベンジルアジド)(PS-VBA)を得る。
【0088】
0.500gの得られた樹脂PS-VBA及び0.020gの乾燥塩化銅(I)を、20mLの無水THFに懸濁させる。反応混合物を20mLに関して窒素でパージし、その後、0.2mLのエチニルピリジンを注射器によって添加する。反応を、不活性雰囲気下、室温で24時間、撹拌する。完了したら、反応混合物をろ過し、固形物をフィルターに収集し、THF及び水で複数回(ろ液が透明に流れるまで)洗浄する。得られた固形物を真空で乾燥し、0.900gの帯黄色の生成物(PS-VBTP)を得る。
【0089】
0.700gのPS-VBTPを、窒素雰囲気下、メタノール中で50mgのNa2PdCl4と共に24時間、撹拌する。次いで、樹脂をろ過し、メタノールで洗浄し、真空で乾燥して、0.742mgの淡黄色の粉末(PS-VBTP-PdCl2)を得る。
【0090】
2.2-(1-(4-ビニルベンジル)-1H-1,2,3-トリアゾール-4-イル)ピリジン(VBTP)の合成
ビニルベンジルアジド(0.500g)及びCuCl(I)(0.010g)を、20mLの乾燥THF中で15分間混合し、窒素で20分間パージしてから、0.196mgのエチニルピリジンを注射器によって溶液にゆっくりと添加する。反応混合物を、室温で24時間、撹拌し、次いで、THFを蒸発させる。残渣をジエチルエーテル(100mL)で抽出し、水(2×200mL)で洗浄し、有機相を収集し、溶媒を蒸発させる。得られた乾燥残留物を、一滴のメタノールを用いて(溶解を助けるために)、熱いヘキサン(100mL)から再結晶させ、ろ過し、収集する。白色の結晶を真空で乾燥する(収率97%、VBTP)。1H NMR (500 MHz, CDCl3, δ ppm): 5.31 (d, 1H), 5.54 (s, 2H), 5.76 (d, 1H), 6.70 (dd, 1H), 7.20 (t, 1H), 7.28 (d, 2H), 7.40 (d, 2H), 7.78 (t, 1H), 8.03 (s, 1H), 8.18 (d, 1H), 8. 55 (d, 1H).
【0091】
3.合成ゲルの作製(NIPAM-r-VBTP-r-MBAゲル)
0.480gのN-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)、0.020gのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、0.020gのN,N'-メチレンビス(アクリルアミド)(MBA)、及び0.100gのVBTPを、22mLガラスバイアルに充填し、折り返し式ゴム栓(turnover rubber stopper)で密閉し、5mm磁気棒を備えつける。バイアルの内容物を窒素で3回排気して逆充填し、2mLの窒素パージしたメタノールを加える。反応混合物を5分間撹拌し、65℃に熱した油浴に入れる。重合を18時間進行させ、その後、ゲルをバイアルから取り出し、メタノールで複数回洗浄して、未反応の物質をすべて除去する。得られたゲルをNa2PdCl4のメタノール溶液(1mg/mL)に48時間浸し、次いで、メタノールで洗浄して、ゲル担体に結合されていない反応物をすべて除去する。
【0092】
4.PCPOC
反応のバルク内のpH及び温度を記録するためにHEL micronote システムを用いて、平底ビーカー(50mL)内で、常に局所的に撹拌しながら(小さい5mm磁気棒)、反応を行う。反応に先立って、2、7、及び10pHの緩衝液に対して、常温(17~20℃)でプローブを校正する。規定量のKI(2.075g)及び触媒(ゲル全部又は200mgの樹脂)を、固体の状態でフラスコに充填し、50mLのHPLCグレードのメタノール又は水:メタノール(50:50 v/v%系)中に溶解させる。固体が溶解している間に、pH監視を始め、pHの安定化をKIが完全に溶解したしるしとする。その時点で、CO(15mL/分)及び空気(15mL/分)での溶液中のパージを始めた。10~20分後(又はpHの最初の降下に続く安定化の後)、フェニルアセチレン(1.38mL)を添加する。10分のうちに、0.028mmolのHIを添加する。反応のpH及び温度の変化に関して、系を監視していく。
【0093】
出発物質転換及び生成物分散に関して、VF-5msカラム(30m)を装着した、質量分析検出器を用いたVarian Saturn 2200ガスクロマトグラフィー(GCMS)によって、試料を分析する。その方法は以下のとおりである:注入器の温度150℃;ヘリウム流速1mL分-1;オーブン温度5段階において35分にわたって100~195℃。すべての試料を、実験の終わりに取り出し(本文に別段に記載されていない限り)、シリカ上でろ過し、メタノールで1:2に希釈する。
【0094】
(実施例3-キトサン及びキトサンプロリンベースの系)
標準的なEDCI/DMAPカップリング手法を用いて、プロリン官能化キトサンを合成する。
【0095】
【0096】
FTIRによって合成の成功が確認され、FTIRにおいて、1640cm-1でのアミドバンドの強度の相対的変化は、追加のアミド結合の形成に起因して増大し、1380、1300、及び1080cm-1でのC-Nアミノバンドの強度は減少する。続いて、プロリン官能化キトサンを、メタノール中でK2PdCl4と共に撹拌して、Chi-Pro-Pd触媒を得る。キトサンは、官能化の前でもPdに対する複数の結合配位子を有することに留意することは重要であり、Pdは二座結合を必要とするので、異なるキトサン鎖上の配位子を利用し、したがってそれらを架橋し得る。官能化後、Chi-Pro-Pdは、1%酢酸(典型的な溶媒)中で不溶性となる。Chi-Pro-Pd中のPdの含有量は、6.85質量%である。
【0097】
初めにフェニルアセチレンを基質として使用して、常時pHを監視しながら、Chi-Pro-Pd触媒をPCOC反応において用いる。49~69分の周期、及び0.2と1.82との間を漸進的に変化する振幅を有する振動(
図8)が、基質添加後190分で開始する。
【0098】
ポリマー性ジアルキン官能化PEGポリマーである、ビス(ペンタ-4イン酸)ポリエチレングリコリルエステル(PEGDA)を基質として使用して、Chi-Pro-Pd触媒をPCOC反応において用いる。Chi-Pro-Pd触媒による反応(
図9A)において、基質の添加により、すぐにpH降下は起こらず、代わりにpHはごくわずかに上昇し、10分後、7.5から5.8に急に降下し、そこから6.45pH単位に回復する。750分で、振幅が4.12単位から1に、且つ周期が87分から66分に漸進的に減少する、一連の「カスケード」振動が観察される。第1の一連の振動後、次のpH降下は2440分で初めて起こる。第2の一連の振動は、はるかにより小さい振幅、及び1480分から604分へと短くなる傾向である、はるかにより長い周期を有する。新鮮な反応バッチ中、同じ条件で同じ触媒を再利用する場合(
図9B)、振動パターンは維持される(即ち、初めに単一のpH降下及び回復、次いで一連の大きい振動、続いて増大した周期での、より小さい振動)が、時間尺度ははるかにより短い。したがって、再利用されるChi-Pro-Pdにおいて、第1の一連の振動は225分で開始し、700分までに終わるが、それに対して、新鮮な触媒においては、これらの振動は750分で始めて開始し、更に750分間継続する。加えて、より後の振動は、より顕著であり、振幅は1.25~1.60pH単位に達しうる。
【0099】
これは、小分子及びポリマー基質の両方を用いる、パラジウム触媒によるカルボニル化反応におけるプロリン官能化キトサン-パラジウム触媒(Chi-Pro-Pd)の振動レジームを実証する。Chi-Pro-Pdポリマーは、第2の実験で再利用した後でも振動を生成させることができ、プロリン配位子がパラジウムを保持するのに十分強いことを示す。
【0100】
プロリン官能化キトサンパラジウム触媒の合成:0.500gのキトサン、0.450gのプロリン塩酸塩、0.025mgのDMAP、及び1.200gのEDCIを、30mlのメタノールに懸濁させる。次いで、30mlの水(pH4)を撹拌しながら添加する。反応混合物を、混ざるように一晩置き、ろ過し、固形物をメタノールで洗浄し、収集し、真空で乾燥し、暗褐色のキトサン粒子(Chi-Pro、収率86%)を得る。Chi-Pro-Pdを、メタノール中で1mg/mLのK2PdCl4と共に24時間撹拌し、ろ過し、メタノールで洗浄して未反応のK2PdCl4をすべて除去する。固形物を収集し、真空で乾燥し、暗黒色のキトサン粒子(収率90%、Chi-Pro-Pd)を得る。
【0101】
(実施例4-ポリアクリレートパラジウム)
フェニルアセチレン(PhAc)を基質として、及びMeOHを溶媒として使用して、PCOCにおいてポリマー性ポリアクリレート-Pdを用い、ここで、S.U. Rehman、F.A. Khwaja、A. Ul Haq、M.S. Zafar、「Polym. Degrad. Stab.」45 (1994)267~272に従って、ポリアクリレート-Pdを合成する(
図10)。ポリマー性ポリアクリレート-Pdにおいて、パラジウムの分子は、ポリマー鎖間で架橋剤として働き、ポリアクリレートはパラジウムを担持するための配位子としてではなく、対イオンとして働く。この構造により、パラジウムの高充填量(ICP-OESによる測定で16.26%)が達成可能となり、触媒からのパラジウムの浸出をゼロ(反応後のICP-OESによる測定で)にできる。
【0102】
ポリアクリレート-Pd触媒系において、KI/触媒混合物をCOでパージする間に、最初のpH降下が記録される。PhAc基質の添加後、更なるpH降下が観察される。次いで、このpH降下は、5.05から5.59に回復し、PhAcの添加後206分でpH振動が開始する。この高さのpHで生じる振動は、めったに観察されない。ポリアクリレート-Pdの場合、記録された振動は、18~24分の周期、及び0.1~0.15pH単位の小さな振幅を有することは、留意するに値する。4000分後、出発物質転換は、わずか6.95%であり、このことは、この反応における転換触媒は極めて緩慢であり、振動が、このような観察がソフトウェア、ハードウェア、及び他の装置によって限定されない(即ち、ガス管が詰まらない)ならば、観察された4000分よりもはるかに長い間持続する可能性があることを示す。
【0103】
様々な種類の脂肪族アルコール溶媒、具体的には、MeOH、EtOH、1-PrOH、1-BuOH、及び1-HexOH中で、フェニルアセチレンを基質として使用して、PCOCにおいて、ポリアクリレート-Pd触媒系を更に用いる。脂肪族アルコール溶媒のそれぞれにおいて、pHの振動が観察される。
【0104】
MeOHにおいて、振動は、反応に入って500分頃に始まり、バーストする傾向を有する。振動の落ち込みは、初めは約300分離れており、落ち込みの間隔は経時的に短くなり、消滅する。EtOHにおいて、振動は、pHが最初の降下をすると即座に始まり、混合式の性質である。EtOHにおける実験中、振動の振幅は変化し、一連のより大きい振幅混合式振動が2600分と4100分との間に起こる。MeOH及びEtOHの両方におけるpH振動の振幅は、非常に小さいpH単位から約1pH単位にわたる。MeOHにおける振動の周期は約10~60分にわたり、一方でEtOHにおいては、周期は約14~83分にわたる。PhAc転換は、MeOHで37%、EtOHで40%である。
【0105】
1-PrOH、1-BuOH、及び1-HexOHにおいて、振動は、最初のpH低下の最後に即座に始まる。最初のpH低下は1-HexOHにおいて最大であり、1-BuOH及び1-PrOHがそれに続き、これは、Pd-ポリアクリレートを使用するとき、アルコールの脂肪族鎖が長いほど、最初の自己触媒的pH降下速度が速いことを示唆する可能性がある。3種すべてのアルコールにおいて、振動の振幅は小さい(0.5pH単位未満)が、それらの形状は非常に異なる。1-PrOHにおいて、振動は、初め「正方形」形状を有し、変化の激しい区間(1220~1700分)がそれに続く。1-BuOHにおいて、振動は、その始まりから混合式であり、終わりに向かって振幅が増大する。1-HexOHにおいて、振動は、より不規則である。周期は、1-PrOHにおいて20~263分、1-BuOHにおいて13~44分、1-HexOHにおいて31~156分にわたる。PhAc転換は、1-PrOHにおいて37%、1-BuOHにおいて34%である。1-HexOHにおけるPhAc転換は、ピークの共溶出に起因して、起こり得なかった。
【0106】
反応物及び溶媒の両方としてPEG化アルキン(PEGA)のポリマー基質及びEtOHを使用して、PCOCにおいて、ポリアクリレート-Pd触媒系を更に用いる。PEGAの添加に続いて、最初のpH低下があり、振動性pHの傾向が始まる。最初の自己触媒的pH低下時の、より速いpH回復は、より少量のPEGA基質で起こる。
【0107】
したがって、エタノールにおける、基質及び触媒であるPEGA/Pd-ポリアクリレートの組み合わせにより、全ポリマー性自己振動系が今後探究される将来性を示す。通常使用されるメタノールをエタノールで置き換えることが、より生体適合性である振動反応系への移行において重要である一方で、基質及び触媒の両方としてポリマーを用いることにより、見込みのある振動性物質からの浸出の問題だけでなく、小さい生成物の形成も除かれる。
【0108】
(実施例5-ポリマー結合P-Catパラジウム)
ポリマー結合ジ(アセタト)ジシクロヘキシルフェニルホスフィンパラジウム(II)(P-cat)は、市販のパラジウム触媒である。P-cat中のPdの含有量は、約5%である。P-catは架橋されており、飽和KIメタノール溶液に不溶性であり、したがって、PCOC反応における不均一系触媒作用の可能性が洞察される。
【0109】
【0110】
フェニルアセチレン(PhAc)を基質として、及びMeOHを溶媒として使用して、常時pHを監視しながら、P-catをPCOC反応において用いる。pHの変化を、4000分にわたって監視した。試料を、実験の終わりに取り出し、出発物質転換に関して、GC-MSによって分析する。P-cat触媒による反応において、振動は観察されない。7.1から6.9への小さいpH降下は、最初、CO/空気パージ時に起こり、基質の添加後、pHは、6.1に漸進的に低下し、そこで横這い状態になる。したがって、pHは、振動性カルボニル化反応において振動が典型的に起こる値に達しない。4000分後、基質転換は、わずか3.5%である。
【0111】
P-catを、基質の添加後にHIを添加することによってpHを人工的に低下させる、PCOC反応において更に用いる。この反応において、フェニルアセチレン基質及びHIの添加に続いて、pHは、2500分にわたって、ほぼ4.3から3.2に漸進的に低下する。この時点後、pHの3.2から2.4への急な降下が起こり、2.5への漸進的な回復が続く。振動は、4000分後に始まる。振動パターンは、漸進的に増大する振幅及び周期が複合している。振動の長い周期は、330分から348分にわたり、一方でより短い周期は、20分から53分である。4000分後、基質転換は29.5%である。
【0112】
したがって、HIの添加は、P-Catにおける振動を達成する助けとなるだけでなく、フェニルアセチレン転換を劇的に増大させもする。それに加えて、HIの添加後、P-Catは混合式の振動を示す。HI添加がなければ振動を生じることはないP-cat系を使用するときの、強酸性のHIが振動を開始する特性は、pH媒介性標的薬物送達及び放出にとって有望な特徴である。
【0113】
(実施例6-コバルト触媒によるカルボニル化反応)
pHの振動は、コバルト触媒によるカルボニル化反応においても達成された。フェニルアセチレンを基質として、及びr MeOHを溶媒として使用して、触媒コバルト(II)硝酸六水和物Co(NO3)2.6H2Oを用いる。pHの振動は、外部からもたらされる空気の非存在下で起こり、したがって、このカルボニル化反応の追加の融通性を示す。
【0114】
Co(NO3)2.6H2Oによって触媒されるカルボニル化:KI(2.5、4.5、又は10.5g)を100mLのMeOHに溶解する。Co(NO3)2.6H2O(66mg)を添加し、溶液を10分間撹拌する。次いで、反応混合物をCOでパージする(15mL/分)。10分後、フェニルアセチレン(1.38mL)基質を、反応混合物に添加する。pHの変化に関して経時的に系を監視する。