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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】油入変圧器のタンク、および油入変圧器
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/02 20060101AFI20240318BHJP
   H01F 27/12 20060101ALI20240318BHJP
   H01F 30/10 20060101ALI20240318BHJP
【FI】
H01F27/02 D
H01F27/12 A
H01F30/10 S
H01F30/10 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021029305
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022130235
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】河村 大成
(72)【発明者】
【氏名】篠原 誠
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 拓弥
(72)【発明者】
【氏名】杉田 亮佑
【審査官】後藤 嘉宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-332148(JP,A)
【文献】特開平10-270258(JP,A)
【文献】特開2009-260012(JP,A)
【文献】特開平06-275441(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103439(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第107545995(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/02
H01F 27/12
H01F 30/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄心と鉄心に巻回した巻線から成る変圧器本体を収容し、絶縁油を充填する油入変圧器のタンクであって、
前記タンクは、底板と、前記底板の周縁から上方に延びる側壁部と、前記側壁部の上部に形成され、上蓋を取り付けるフランジと、前記側壁部の開口を塞ぐように取り付けられる、放熱リブを備える側板と、を備え、
前記放熱リブを備える側板は、平板状の鋼材を、複数の波山状を備えるように折り曲げて、波山の両端を塞いで波山状の放熱リブを形成したものであり、
前記放熱リブを備える側板を、前記波山状の放熱リブ水平方向となるよう、周囲を溶接して取り付けたことを特徴とする油入変圧器のタンク。
【請求項2】
請求項に記載の油入変圧器のタンクにおいて、
前記波山状の放熱リブの端部は、前記タンクの側壁部に溶接されたことを特徴とする油入変圧器のタンク。
【請求項3】
請求項1に記載の油入変圧器のタンクにおいて、
前記側板の厚さは、タンクの側壁部の厚さより薄く構成されていることを特徴とする油入変圧器のタンク。
【請求項4】
請求項1に記載の油入変圧器のタンクにおいて、
前記波山状の放熱リブに、絶縁油が通るように内部に空間を形成し、循環経路としたことを特徴とする油入変圧器のタンク。
【請求項5】
請求請1に記載の油入変圧器のタンクにおいて、
タンク上部の放熱リブの高さは、タンク下部の放熱リブの高さよりも高いことを特徴とする油入変圧器のタンク。
【請求項6】
請求項5に記載の油入変圧器のタンクにおいて、
前記タンクの放熱リブの高さは、タンクの下部から上部に向かうにつれて次第に高くなることを特徴とする油入変圧器のタンク。
【請求項7】
請求項1~の何れか1項に記載のタンクと、
前記タンクに収容する、鉄心と鉄心に巻回した巻線から成る変圧器本体と、
前記タンクに充填した絶縁油と、
を備える油入変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入変圧器のタンク構造に関する。
【背景技術】
【0002】
油入変圧器は、鉄心と鉄心に巻回した巻線から成る変圧器本体をタンクに収容し、冷却媒体である絶縁油を充填した構造である。油入変圧器においては、運転中に電力損失により熱が発生する。油入変圧器を冷却するために、タンクに放熱器を備える。放熱器としては、液体冷媒を自然循環させるために、タンクの外壁に垂直(縦)方向に放熱リブを備えた技術がある。
【0003】
例えば特許文献1には、「電器本体を収納したタンクと、このタンクの側壁の周囲に複数取付けられ高さ方向に長く形成された放熱リブとを備え、前記タンクに充填した液体冷媒を放熱リブ内に循環させるように構成した静止誘導電器において、前記放熱リブの板厚を前記タンクの板厚よりも薄くすると共に、前記放熱リブの一つ当たりの放熱量を高さ方向の上下に行くにしたがって大きくなるように形成したことを特徴とする静止誘導電器。」(請求項1参照)と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-260012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、油入変圧器では、高効率化により発熱量が減るため、冷却面積を減らし、波形の放熱リブを小さくしている。そのため、放熱リブの圧力吸収量が少なくなり、タンクの内圧は上昇傾向にある。
【0006】
油入変圧器のタンクは、タンク内の圧力変化で膨張、収縮し、変形する。従来のタンク構造では、液体冷媒の自然対流による冷却効果を考慮して、波形の放熱リブを垂直(縦)方向に配置している。しかし、高効率化による放熱リブの小型化で、高さ方向に剛性の高い波形の放熱リブと上部フランジとの溶接部の応力集中が大きくなるため、変形により溶接部に亀裂や破断が生じて、タンクの寿命が短くなる。
【0007】
本発明は、油入変圧器において、タンクの応力集中を抑制し、高寿命の製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、波形の放熱リブを水平(横)方向に配置し、上部フランジとの溶接部における応力集中を緩和したタンク構造とする。
【0009】
本発明の「油入変圧器のタンク」の一例を挙げるならば、
鉄心と鉄心に巻回した巻線から成る変圧器本体を収容し、絶縁油を充填する油入変圧器のタンクであって、
前記タンクは、底板と、前記底板の周縁から上方に延びる側壁部と、前記側壁部の上部に形成され、上蓋を取り付けるフランジと、前記側壁部の開口を塞ぐように取り付けられる、放熱リブを備える側板と、を備え、
前記放熱リブを備える側板は、平板状の鋼材を、複数の波山状を備えるように折り曲げて、波山の両端を塞いで波山状の放熱リブを形成したものであり、
前記放熱リブを備える側板を、前記波山状の放熱リブ水平方向となるよう、周囲を溶接して取り付けたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、波形の放熱リブを水平(横)方向に配置することにより、油入変圧器のタンクの応力集中を緩和し、タンクの寿命を向上することができる。
【0011】
上記した以外の課題、構成および効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】波形の放熱リブを水平(横)方向に備えた、本発明の実施例1の油入変圧器のタンク構造を示す斜視図である。
図2】実施例1の油入変圧器のタンクの正面図および上面図である。
図3】実施例1の油入変圧器のタンク構造の一部の詳細を示す斜視図である。
図4図3に示すタンク構造の変形前と変形後を示す断面図である。
図5】本発明の実施例2の油入変圧器のタンクの正面図である。
図6】本発明の実施例3の油入変圧器の上面図である。
図7】波形の放熱リブを垂直(縦)方向に備えた、従来技術の油入変圧器のタンク構造を示す斜視図である。
図8】従来技術の油入変圧器のタンクの正面図および上面図である。
図9】従来技術の油入変圧器のタンク構造の一部の詳細を示す斜視図である。
図10図9に示すタンク構造の変形前と変形後を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
油入変圧器は、鉄心と鉄心に巻回した巻線から成る変圧器本体をタンクに収容し、絶縁油を充填した構造である。本発明の油入変圧器のタンクを説明する前に、従来の一般的な油入変圧器のタンク構造を説明する。
【0014】
図7に、放熱リブを垂直(縦)方向に備えた、従来技術の油入変圧器のタンクの斜視図を示す。また、図8に、従来技術の油入変圧器のタンクの正面図および上面図を示す。図は、比較的大容量の油入変圧器のタンク構造である。
【0015】
図に示すように、タンク1は、底板5と、底板5の周縁から上方に延びる側壁部6と、側壁部6の上部に形成され、上蓋を取り付けるフランジ4から構成されている。側壁部6には、放熱リブ3aを備える側板3を取り付けた場合に、放熱リブ3aにタンク内の絶縁油を循環させるために、開口が形成されている。
【0016】
放熱リブ3aを備える側板3は、平板状の鋼材を、複数の波山状を備えるように折り曲げて、波山の端部を溶接等で塞いで放熱リブ3aを形成している。そして、波山状の放熱リブ3aに、絶縁油が循環するように内部に空間を形成し、循環経路としている。放熱リブ3aを備える側板3は、タンクの側壁部6に設けた開口部を塞ぐように、溶接等で気密に取り付けられる。なお、側板の厚さは、折り曲げを容易に行うために、タンクの厚さより薄くされている。
【0017】
図9に、従来の油入変圧器のタンク構造の放熱リブの取り付けの詳細を示す。放熱リブ3aを備える側板3は、タンクの側壁部6に設けた開口部を塞ぐように、ビート溶接部7で溶接により気密に取り付けられる。また、波形リブ3aは、波形リブ3aと上部フランジとの溶接部8において、上部フランジ4に溶接される。
【0018】
油入変圧器を稼働すると、タンク1内の温度が上昇し、タンク1内の圧力が上昇する。そして、波形の放熱リブ3aおよびフランジ4が変形する。図10にこの様子を示し、図10(a)はタンク内の圧力が低い、変形前の状態を、図10(b)はタンク内の圧力が高い、変形後の状態を示す。図10(b)に示すように、従来の垂直(縦)方向に取り付けた放熱リブ3aでは、高さ方向に剛性の高い放熱リブ3aと上部フランジ4が内側から外側の方向10に変形し、放熱リブ3aと上部フランジ4との溶接部8や、放熱リブ3aと底板5との溶接部8にかかる応力集中が大きくなり、亀裂や破断が生じる。
【0019】
本発明は、この課題を解決し、油入変圧器において、タンクの応力集中を抑制し、高寿命の製品を提供するものである。
【0020】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし主旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
以下に説明する発明の構成において、同一または類似する構成または機能には同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。
【実施例1】
【0021】
図1に、放熱リブを水平(横)方向に備えた、実施例1の油入変圧器のタンクの斜視図を示す。また、図2に、実施例1の油入変圧器のタンクの正面図および上面図を示す。図は、比較的大容量の油入変圧器のタンク構造である。
【0022】
図に示すように、タンクは、底板5と、底板の4つの周縁から上方に延びる側壁部6と、側壁部6の上部に形成され、上蓋を取り付けるフランジ4から構成されている。側壁部6には、放熱リブ2aを備える側板2を取り付けた場合に、放熱リブにタンク内の絶縁油を通すために、開口が形成されている。なお、図示していないが、タンク1を密閉する上蓋を有し、上蓋はボルトなどでフランジ4に取り付けられる。
【0023】
放熱リブ2aを備える側板2は、平板状の鋼材を、複数の波山状を備えるように折り曲げて、波山の端を溶接等で塞いで放熱リブ2aを形成している。そして、波山状の放熱リブ2aに、絶縁油が通るように内部に空間を形成し、循環経路としている。放熱リブ2aを備える側板2は、放熱リブ2aが水平(横)方向となるように、そして、タンクの側壁部6に設けた開口部を塞ぐように、タンクの側壁部6へ溶接等で気密に取り付けられる。
【0024】
図3に、本実施例の油入変圧器のタンク構造の放熱リブの取り付けの詳細を示す。放熱リブ2aを備える側板2は、放熱リブ2aが水平(横)方向となるように、そして、タンクの側壁部6に設けた開口部を塞ぐように、ビート溶接部7で周囲を溶接することにより気密に取り付けられる。また、放熱リブ2aは、放熱リブ2aとタンクの側壁部6との溶接部9において、側壁部6に溶接される。
【0025】
本実施例の油入変圧器を稼働すると、タンク1内の温度が上昇し、タンク1内の圧力が上昇する。そして、放熱リブ2aおよびフランジ4が変形する。図4にこの様子を示し、図4(a)はタンク内の圧力が低い、変形前の状態を、図4(b)はタンク内の圧力が高い、変形後の状態を示す。図4(b)に示すように、本実施例の水平(横)方向に取り付けた波形の放熱リブ2aでは、側板2の端と上部フランジ4や底板5とが溶接されており、従来技術のように、剛性の高い放熱リブ2aと上部フランジ4とが溶接されていないので、タンク内の圧力が上昇しタンクが内側から外側の方向10に変形しても、側板2の端と上部フランジ4や底板5との溶接部7にかかる応力が集中することはなく、亀裂や破断の発生が低減される。
【0026】
波形の放熱リブ2aを水平(横)方向に配置すると、冷却能力自体は、タンク内部の絶縁油の自然対流を阻害することになるが、放熱リブの冷却面積そのものが変圧器の高効率化で小さいので、影響は緩和される。
【0027】
本実施例によれば、波形の放熱リブを水平(横)方向に配置することにより、油入変圧器のタンクの応力集中を緩和し、タンクの寿命を向上することができる。
【実施例2】
【0028】
図5に、実施例2の油入変圧器のタンク構造を示す。図は、実施例2の油入変圧器のタンクの正面図である。実施例1のタンクの放熱リブ2aは同じ高さを有するものであるが、実施例2のタンクの放熱リブ2aは場所毎に異なる高さを備えるものである。
【0029】
油入変圧器を稼働すると、タンク1内部の温度が上昇する。温度が高くなった絶縁油は密度が低くなりタンク上部へ移動し、また、冷却された絶縁油は密度が高くなりタンク下部へ移動する。したがって、タンク上部は下部に比べて、温度が高い傾向にある。
【0030】
絶縁油の温度が高くなるタンク上部では高さが高い放熱リブ2aを備え、絶縁油の温度が低くなるタンク下部には上部よりも高さが低い放熱リブ2aを備える。タンク上部の放熱リブ2aの高さを高くすることで、温度が高いタンク上部の放熱面積が大きくなり、効率よく油入変圧器を冷却することができる。図では、タンクの側壁部において、下側から上方に向かうにつれて次第に放熱リブの高さが高くなっているが、2つ以上の領域に分けて、上側の領域の放熱リブの高さを下側の領域の放熱リブの高さよりも高くしてもよい。
【0031】
水平(横)方向に配置した放熱リブの高さを、タンクの下側よりも上側を高くしたので、温度が高いタンク上部の放熱面積が大きくなり、効率よく油入変圧器を冷却することができる。また、高さが異なる放熱リブの製造は、平板状の鋼材を、複数の波山状を備えるように折り曲げる際に、高さを変えて折り曲げればよいので、製造が容易である。
【実施例3】
【0032】
図6に、実施例3の油入変圧器を示す。図は、実施例3の油入変圧器の上面図である。
【0033】
本実施例の油入変圧器は、実施例1の油入変圧器のタンク1に、変圧器本体20を収容し、冷却媒体である絶縁油26を充填したものである。変圧器本体20は、鉄心22と、鉄心22に巻回した巻線24とで構成されている。図では、三相3脚型の変圧器本体を示しているが、三相5脚型など何れのものでもよい。
【符号の説明】
【0034】
1…タンク
2…本発明のタンクの側板
2a…本発明の放熱リブ
3…従来技術のタンクの側板
3a…従来技術の放熱リブ
4…タンクのフランジ
5…タンクの底板
6…タンクの側壁部
7…ビート溶接部
8…放熱リブと上部フランジとの溶接部
9…放熱リブとタンクの側壁部との溶接部
10…内圧上昇による放熱リブの変形方向
20…変圧器本体
22…鉄心
24…巻線
26…絶縁油
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10