(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-15
(45)【発行日】2024-03-26
(54)【発明の名称】オイル潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240318BHJP
F16H 57/037 20120101ALI20240318BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/037
F16H57/04 N
F16H57/04 Q
(21)【出願番号】P 2021136998
(22)【出願日】2021-08-25
【審査請求日】2023-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】宇戸 亮太
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-215026(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110067849(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 57/037
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイル及びギアを収容するギア室と、
前記ギア室内において潤滑対象に対して供給するオイルが溜められるオイル溜部と、
前記オイル溜部の外縁をなす台座部と、
前記オイル溜部にオイルを導入可能なように連通した連通部と、
前記台座部に対して前記オイル溜部の外側において、前記連通部よりも下方側の位置から前記連通部の手前の位置まで前記オイル溜部に沿って延びるガイド部と、
前記連通部に対して上方側において、前記連通部を基準として前記ガイド部とは反対側において前記ギア室の内側に向けて張り出すように形成された張出部と、
前記ガイド部及び前記連通部の少なくともいずれかに臨むように膨出した膨出部と、
前記オイル溜部に対して前記ガイド部よりも外側において、前記ギア室を構成する壁面と前記ガイド部との間に形成された窪部と、
を有
し、
前記膨出部が、前記張出部及び前記窪部の間に設けられていること、を特徴とするオイル潤滑構造。
【請求項2】
前記張出部が設けられた部分に、前記張出部よりもさらに前記ギア室の内側に突出した張出リブが設けられていること、を特徴とする請求項1に記載のオイル潤滑構造。
【請求項3】
前記膨出部は、前記張出部よりも前記ギア室の内側に向けて膨出していること、を特徴とする請求項1又は2に記載のオイル潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイル潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示されている動力伝達装置のようなものが提供されている。特許文献1の動力伝達装置は、ファイナルドライブギヤに噛合するファイナルドリブンギヤと、ベアリングを介してファイナルドリブンギヤを回転自在に軸支するトランスミッションケースとを備えたものである。特許文献1の動力伝達装置は、トランスミッションケースにベアリングの上方に位置させた側壁を設けることにより、ファイナルドリブンギヤで掻き上げられた潤滑油を受け止めてベアリングへ案内できるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者らが、トランスアクスルにおいてオイル及びギアを収容するギア室内で作動するギアにより掻き上げられるオイルを、各部の潤滑に活用することを検討したところ、例えば高回転領域において、ギア室内において飛散するオイルを捕捉等して、目的とする箇所に安定的に供給しにくい場合があることを見いだした。そのため、オイルが収容された室内において飛散しているオイルを、例えば上記特許文献1に開示されている従来技術等と比べて、潤滑対象となる箇所に向けてより一層安定的に供給可能なオイル潤滑構造の提供が望まれている。
【0005】
そこで本発明は、オイル及びギアを収容するギア室内においてギアの作動に伴って飛散しているオイルを、従来技術のものよりも一層安定的に潤滑対象に対して供給可能なオイル潤滑構造の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明のオイル潤滑構造は、オイル及びギアを収容するギア室と、前記ギア室内において潤滑対象に対して供給するオイルが溜められるオイル溜部と、前記オイル溜部の外縁をなす台座部と、前記オイル溜部にオイルを導入可能なように連通した連通部と、前記台座部に対して前記オイル溜部の外側において、前記連通部よりも下方側の位置から前記連通部の手前の位置まで前記オイル溜部に沿って延びるガイド部と、前記連通部に対して上方側において、前記連通部を基準として前記ガイド部とは反対側において前記ギア室の内側に向けて張り出すように形成された張出部と、を有すること、を特徴とするものである。
【0007】
本発明のオイル潤滑構造は、潤滑対象に対して供給するオイルが溜められるオイル溜部にオイルを導入可能なように形成された連通部を有する。また、本発明のオイル潤滑構造は、オイル溜部の外縁をなす台座部側に対してオイル溜部の外側に設けられたガイド部が、連通部よりも下方側の位置から連通部の手前の位置までオイル溜部に沿って延びるように形成されている。そのため、本発明のオイル潤滑構造によれば、ギア室内において飛散しているオイルをガイド部によって案内し、連通部を介してオイル溜部に導入できる。さらに、本発明のオイル潤滑構造は、連通部に対して上方側の領域に設けられた張出部が、連通部を基準としてガイド部とは反対側においてギア室の内側に向けて張り出すように形成されている。そのため、本発明のオイル潤滑構造は、ガイド部によって案内されたオイルのうち、連通部を越えて反対側に飛散したオイルを張出部において捕捉して、連通部に向けて案内できる。従って、本発明のオイル潤滑構造によれば、ギア室内においてギアの作動に伴って飛散しているオイルを、潤滑対象の潤滑のために安定的に供給できる。
【0008】
また、本発明のオイル潤滑構造は、上述したようにガイド部や張出部を設けた構成とすることにより、台座部近傍の剛性を向上させることができる。
【0009】
(2)上述したオイル潤滑構造は、前記ガイド部及び前記連通部の少なくともいずれかに臨むように膨出した膨出部を有すること、を特徴とするものであると良い。
【0010】
本発明のオイル潤滑構造は、上述した構成とすることにより、ギア室内において飛散しているオイルを膨出部において捕捉して連通部やガイド部に向けて落下させ、連通部を介してオイル溜部に導入できる。従って、本発明のオイル潤滑構造は、上述した構成を採用することにより、ギア室内においてギアにより掻き上げられてきたオイルを、潤滑対象の潤滑のために最大限有効活用できる。
【0011】
本発明のオイル潤滑構造は、上記(2)のように膨出部を設ける場合に、前記膨出部が、前記ガイド部及び前記連通部の少なくともいずれかの上方に設けられているものであると良い。本発明のオイル潤滑構造は、かかる構成とすることにより、膨出部に当たったオイルをより一層確実に連通部やガイド部に向けて落下させることができる。
【0012】
(3)上述したオイル潤滑構造は、前記オイル溜部に対して前記ガイド部よりも外側において、前記ギア室を構成する壁面と前記ガイド部との間に形成された窪部を有すること、を特徴とするものであると良い。
【0013】
本発明のオイル潤滑構造は、上述した構成とすることにより、ギア室内において飛散しているオイルを窪部において捕捉し、ガイド部によって連通部に案内することができる。従って、本発明のオイル潤滑構造は、上述したように窪部を設けた構成とすることにより、ギア室内においてギアにより掻き上げられてきたオイルを、潤滑対象の潤滑のために最大限有効活用できる。
【0014】
(4)上述したオイル潤滑構造は、前記ギア室が、複数の構成体を締結して構成されるものであり、前記膨出部が、前記構成体に設けられた締結用のボス部と一体的に形成されていること、を特徴とするものであると良い。
【0015】
本発明のオイル潤滑構造は、かかる構成とすることにより、締結用のボス部を形成するために膨出した部分を膨出部として活用できる。
【0016】
(5)上述したオイル潤滑構造は、前記潤滑対象が、内周側にオイルを流通可能なオイル流通孔を備えた軸体であること、を特徴とするものであると良い。
【0017】
本発明のオイル潤滑構造は、かかる構成とすることにより、軸体の内周側に設けられたオイル流通孔に、多量のオイルを供給し、潤滑させることができる。
【0018】
(6)上述したオイル潤滑構造は、前記台座部に、前記軸体を回転自在に支持する軸受が収容されること、を特徴とするものであると良い。
【0019】
本発明のオイル潤滑構造は、かかる構成とすることにより、台座部を軸受の収容のために活用すると共に、オイル溜部に溜まったオイルを軸受の潤滑に活用できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、オイル及びギアを収容するギア室内においてギアの作動に伴って飛散しているオイルを、従来技術のものよりも一層安定的に潤滑対象に対して供給可能なオイル潤滑構造を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明のトランスアクスルを示すモータ室側を示す断面図である。
【
図2】
図1のトランスアクスルのギア室側を示す断面図である。
【
図4】
図1のトランスアクスルに用いられている第三構成体を示す斜視図である。
【
図5】
図1のトランスアクスルに用いられている第三構成体を、
図4とは異なる角度から見た状態を示す斜視図である。
【
図6】ギア室内において飛散するオイルの流れを説明するための要部拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係るオイル潤滑構造Lについて、これを採用したトランスアクスル10を例に挙げ、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明においては、オイル潤滑構造Lの説明に先だってトランスアクスル10の構成について説明する。
【0023】
≪トランスアクスル10の構成≫
トランスアクスル10は、エンジン(図示略)やバッテリ(図示略)を備えた車両に搭載されている。トランスアクスル10を搭載した車両は、エンジンを動力源として後述する発電機44を駆動させ、発電機44の駆動により後述する駆動モータ50を駆動させて走行可能とされているとともに、エンジンを停止させてバッテリを動力源として駆動させて駆動モータ50を駆動させて走行可能(EV走行)とされている、いわゆるシリーズ式ハイブリッド車とされている(
図3参照)。
【0024】
なお、本発明のトランスアクスル10は、本実施形態のようにシリーズ式ハイブリッド車やパラレル式ハイブリッド車など、エンジンを搭載したハイブリッド車に好適に用いることができる。
【0025】
図1に示すとおり、トランスアクスル10は、トランスアクスルハウジング20、発電機44、駆動モータ50、デファレンシャル機構40を備えている。また、
図3に示すとおり、トランスアクスル10は、カウンタ軸55、及びカウンタギア56を備えている。
【0026】
トランスアクスルハウジング20は、発電機44や駆動モータ50等を収容するための収容体である。
図1に示すとおり、トランスアクスルハウジング20は、複数の構成部材を締結することによりひとつの収容体をなしている。本実施形態では、トランスアクスルハウジング20は、第一構成体20a、第二構成体20b、及び第三構成体20cからなる三つの構成体を締結して一体化したものとされている。
【0027】
図3に示すとおり、第一構成体20aは、トランスアクスルハウジング20において幅方向Wの中間部分を形成している。
図3に示すとおり、第一構成体20aには、隔壁部22が形成されており、隔壁部22によりモータ室21aとなる空間と、ギア室21bとなる空間とに仕切られている。また、第二構成体20bは、第一構成体20aのモータ室21a側に締結されている。さらに、第三構成体20cは、ギア室21b側に締結されている。発電機44や駆動モータ50はモータ室21aに収容され、デフリングギア42等のデファレンシャル機構40はギア室21bに収容されている。
【0028】
また、トランスアクスルハウジング20の内部には、オイルが収容されている。トランスアクスル10は、図示を省略したオイルポンプによりオイルが圧送されることにより、発電機44や駆動モータ50を冷却可能とされている。
【0029】
発電機44は、モータジェネレータ(MG1)からなる。発電機44には、インバータなどを内蔵する発電機コントローラが接続されている。発電機コントローラには、複数の二次電池を組み合わせた組電池からなる電池が接続されている。発電機44から出力される交流電力は、発電機コントローラにより直流電力に変換されて、その直流電力が電池に供給されることにより、電池が充電される。
【0030】
駆動モータ50は、モータジェネレータ(MG2)からなる。駆動モータ50には、インバータなどを内蔵するモータコントローラが接続されている。モータコントローラには、電池が接続されている。電池から出力される直流電力がモータコントローラに供給され、その直流電力がモータコントローラにより交流電力に変換されて、交流電力が駆動モータ50に供給されることにより、駆動モータ50が駆動される。駆動モータ50は、ロータ52がステータ(図示を省略)内で回転可能とされている。
【0031】
図3に示すとおり、駆動モータ50の回転軸(ロータ軸)と同一軸線上には、キャリア軸53が設けられている。キャリア軸53は、駆動モータ50の回転軸に相対回転可能に保持されている。キャリア軸53の他端部は、トランスアクスルハウジング20に回転可能に保持されている。キャリア軸53には、キャリアギア54が設けられている。これにより、キャリア軸53は、キャリアギア54と一体的に回転可能とされている。
【0032】
図3に示すとおり、カウンタ軸55は、キャリア軸53と平行に延びて、トランスアクスルハウジング20に回転可能に保持されている。カウンタギア56は、カウンタ軸55と一体回転するように設けられており、キャリアギア54と噛合している。また、カウンタ軸55と一体回転するように、出力ギア57が設けられている。出力ギア57は、デフリングギア42と噛合している。
【0033】
デファレンシャル機構40は、左右の駆動輪を駆動する左右一対のドライブシャフト(図示を省略)の間の差動を許容するとともに、これら左右一対のドライブシャフトに回転動力を伝達するように構成されている。デファレンシャル機構40には、デフリングギア42、デファレンシャルギア43を含む複数のギアにより構成されている。
【0034】
駆動モータ50の動力は、キャリア軸53に伝達される。キャリア軸53に伝達された動力は、キャリアギア54、カウンタギア56および出力ギア57を介して、デファレンシャル機構40のデフリングギア42に伝達され、デファレンシャル機構40からドライブシャフト(図示を省略)を介して駆動輪(図示を省略)に伝達される。これにより、駆動輪が回転し、車両が走行する。
【0035】
トランスアクスルハウジング20には、図示を省略したオイルポンプが設けられている。また、
図1に示すとおり、トランスアクスルハウジング20内のモータ室21aには、オイルポンプから圧送されたオイルを噴出させるためのオイル噴出口61,62が設けられている。オイル噴出口61は、発電機44(MG1)に向けて上方からオイルを噴出する。また、オイル噴出口62は、駆動モータ50(MG2)に向けて上方からオイルを噴出する。このように、トランスアクスル10は、モータ室21aのオイルをオイルポンプにより循環させ、各モータの冷却を行っている。
【0036】
トランスアクスルハウジング20のギア室21b側には、オイルが収容されている。
図2に示すとおり、ギア室21bには、デフリングギア42の略半分が浸かる量のオイルが収容されている(
図2の油面Fo1参照)。
【0037】
トランスアクスルハウジング20は、トランスアクスル10を構成する発電機44や駆動モータ50等を収容するための収容体である。上述のとおり、トランスアクスルハウジング20には内部空間を仕切る隔壁部22が設けられている(
図3参照)。トランスアクスルハウジング20の内部空間は、隔壁部22によりモータ室21aとギア室21bとに仕切られている。モータ室21aには、発電機44及び駆動モータ50が収容されている。ギア室21bには、デフリングギア42等のデファレンシャル機構40が収容されている。
【0038】
図1に示すとおり、トランスアクスルハウジング20には、第一リブ24が設けられている。また、
図2に示すとおり、トランスアクスルハウジング20には、第二リブ25、及び第三リブ26が設けられている。
【0039】
図1に示すとおり、第一リブ24は、モータ室21a側に形成されている。第一リブ24は、湾曲した形状とされており、第一リブ24により上方から滴下したオイルを受け止めて溜めるオイル貯部30を構成している。このように、トランスアクスル10には、モータ室21a側にオイル貯部30が形成されている。
【0040】
図2に示すとおり、第二リブ25は、ギア室21b側に形成されている。第二リブ25は、デフリングギア42の外周に沿うように湾曲した形状とされている。第二リブ25は、デフリングギア42により回転方向Xに向けて掻き上げられたオイルを第二連通部34に誘導するオイル誘導部36として機能する。デフリングギア42により掻き上げられたオイルは、第二リブ25(オイル誘導部36)に沿って第二連通部34に到達する。
【0041】
図2に示すとおり、第三リブ26は、ギア室21b側に形成されている。第三リブ26は、第一連通部32aの近傍に設けられており、第一連通部32aを介してギア室21b側に流入したオイルを案内するオイル案内部38を形成している。第一連通部32aからギア室21b側に流入したオイルは、第三リブ26(オイル案内部38)に案内されつつ、デファレンシャル機構40の右側に案内される。
【0042】
図1及び
図2に示すとおり、隔壁部22には、モータ室21aとギア室21bとを連通する複数の連通部が形成されている。より具体的には、隔壁部22には、オイル貯部30近傍に形成された連通部として、第一連通部32、及び第二連通部34が設けられている。
【0043】
第一連通部32は、オイル貯部30に貯留されたオイルをギア室21bに流入させるために設けられている。本実施形態では、第一連通部32aと、第一連通部32bとの、二つの第一連通部32が設けられている。
図1に示すとおり、第一連通部32aは、長孔形状の貫通孔とされている。また、第一連通部32bは、円形の貫通孔とされている。
【0044】
第二連通部34は、デフリングギア42により掻き上げられたオイルを後述するオイル貯部30に流入させるために設けられている。
図1に示すとおり、第二連通部34は、円形の貫通孔とされている。上述のとおり、トランスアクスル10では、デフリングギア42と出力ギア57が噛み合っている。また、出力ギア57は、歯面がはすばとなっており、出力ギア57の歯面からベアリングを超えてオイルが第二連通部34に向かって飛ばされる。このようにして第二連通部34に到達したオイルは、オイル貯部30に流入する。
【0045】
図1に示すとおり、駆動モータ50(MG2)は、デファレンシャル機構40の上方に配置されている。また、オイル貯部30は、上述のとおり、駆動モータ50(MG2)の下方側に配置されている。そのため、オイル貯部30に流入したオイルは、第一連通部32から滴下して、デフリングギア42等を潤滑する。
【0046】
また、デフリングギア42は、
図1に示す方向(回転方向X)に回転する。言い方を換えれば、ギア室21bのオイルは、デフリングギア42の回転に伴って、
図1に示す回転方向Xに向けて掻き上げられる。さらに、第二リブ25(オイル誘導部36)は、オイルの掻き上げ方向(回転方向X)の延長線上となる位置に設けられている。そのため、トランスアクスル10は、デフリングギア42の回転により掻き上げられたオイルをオイル貯部30に効率的に案内して流入させることができる。
【0047】
≪オイル潤滑構造Lについて≫
トランスアクスル10は、大略上述したような構成とされており、モータ室21aとギア室21b側との間でオイルを往き来させつつ、各部の潤滑を行うことができる構成とされている。オイル潤滑構造Lは、
図4~
図6に示すような構成とされており、ギア室21b内に配されたデフリングギア42や、カウンタギア56、キャリアギア54等のギアの回転に伴って掻き上げられたオイルのうち、第三構成体20cに設けられたオイル溜部70の近傍を流れるオイルをオイル溜部70に導入し、潤滑対象となるものを潤滑するための構造である。本実施形態では、オイル溜部70が、キャリア軸53の端部を支持する軸受53aを収容する台座部80を用いて構成されており、軸受53a等を潤滑対象とする。以下、オイル潤滑構造Lについて、さらに詳細に説明する。
【0048】
図4~
図6に示すように、オイル潤滑構造Lは、第三構成体20cに形成されたオイル溜部70、ガイド部72、窪部74、張出部76、及び膨出部78を用いて構成されている。
【0049】
オイル溜部70は、ギア室内において潤滑対象に対して供給するオイルを溜める部分である。オイル溜部70は、台座部80及び溜部閉塞体82を備えている。台座部80は、オイル溜部70の外縁をなすものである。本実施形態では、軸受53aを嵌め込み可能な大きさとされ、正面視で略円形となるように形成されている。台座部80は、ギア室21bの側面側を基端として立設され、他端側において開放端とされている。台座部80には、オイル溜部70にオイルを導入するための連通部84が形成されている。
【0050】
連通部84は、台座部80の径方向外側から内側に向けて延びるように形成された溝によって形成されている。連通部84は、トランスアクスル10の設置状態において上方から下方に向けてオイルを導入可能なように形成されている。連通部84は、台座部80の外周側であって基端側(ギア室21bの側面側)の部分において円弧状に切り欠かれている。これにより、連通部84におけるオイルを導入するための間口が拡張されている。
【0051】
溜部閉塞体82は、台座部80を開放端側に取り付けられ、台座部80を閉塞するためのプレートである。溜部閉塞体82には、扇面状の開口88と、ノズル状に形成された差込部90とが設けられている。差込部90は、オイル溜部70の内外を連通するパイプ状のものである。差込部90は、オイル溜部70の略軸心位置に、オイル溜部70の外側(ギア室21bの内側)に向けて突出するように形成されている。差込部90は、キャリア軸53の内周側(軸心側)に設けられたオイル流通孔53bに差し込み可能なものとされている。
【0052】
ガイド部72は、ギア室21bの側面からギア室21bの内側に向けて張り出すように形成されたリブ状のものである。また、ガイド部72は、ギア室21bの内部において飛散しているオイルをオイル溜部70の連通部84に向けて案内するガイドとして機能するものである。ガイド部72は、台座部80に対してオイル溜部70の径方向外側に設けられている。ガイド部72は、オイル溜部70に沿って延びるように形成されている。また、ガイド部72は、連通部84よりも下方側の位置から連通部84の手前の位置に到達するように形成されている。
【0053】
窪部74は、オイル溜部70に対してガイド部72よりも外側(本実施形態では上方側)において、ギア室21bの外周を構成する壁面とガイド部72との間に形成されている。これにより、窪部74は、ガイド部72よりも外側において飛散するオイルを受け入れることができる空間を構成している。また、ガイド部72が窪部74の下面を構成している。そのため、窪部74の内部に流入したオイルは、ガイド部72に沿って連通部84側に案内される。
【0054】
張出部76は、連通部84に対して上方側において、連通部84を基準としてガイド部72とは反対側においてギア室21bの内側に向けて張り出すように形成された部分である。張出部76は、第三構成体20cの縁部と台座部80の外周との間に位置している。張出部76が設けられた部分には、張出部76よりもさらにギア室21bの内側に突出した張出リブ86が設けられている。張出リブ86は、略円形に形成されたオイル溜部70(台座部80)の接線方向に延びるように形成されている。張出リブ86は、ギア室21b内においてオイル溜部70よりも下方側(上流側)から掻き上げられたオイルを、連通部84に向けて案内することができる。
【0055】
膨出部78は、上述したガイド部72及び張出部76の中間に設けられている。膨出部78は、ガイド部72及び連通部84に臨むように膨出している。また、膨出部78は、ガイド部72及び連通部84の上方に設けられている。膨出部78は、張出部76よりもギア室21bの内側に向けて膨出している。また、膨出部78は、第三構成体20cの外縁部において、第一構成体20aとの締結用として設けられたボス部23と一体的に形成されている。
【0056】
また、膨出部78の中腹部には、さらにギア室21b側に突出した凸部78aが設けられている。凸部78aは、連通部84に対して上方側において、先端部が連通部84に向けて突出するように形成されている。
【0057】
本実施形態のオイル潤滑構造Lは、上述したような構成とされている。かかる構成とされているため、ギア室21b内においてギア等が作動することによって飛散したオイルは、
図6において矢印で示すように、軸受53a及びガイド部72の隙間を通った後、さまざまな経路を経たのち、連通部84を介してオイル溜部70に流入する。具体的には、ギア室21b内において飛散したオイルは、ガイド部72に当たり、台座部80に嵌め込まれたキャリア軸53を支持する軸受53a及びガイド部72の隙間に流れ込む。その後、オイルは、軸受53a及びガイド部72の間を通過し、連通部84まで到達する。このような経路(第一の経路)で連通部84に到達したオイルの大部分は、連通部84を介してオイル溜部70に流入する。
【0058】
また、軸受53a及びガイド部72の間を通過してきたオイルのうち、連通部84を越えて張出部76側に向かうオイルの一部は、張出部76や張出リブ86に当たって跳ね返り、連通部84側に落下する経路(第二の経路)で飛散してオイル溜部70に流入する。また、張出部76や張出リブ86から跳ね返ったオイルのうち、連通部84側に落下しなかったオイルは、ガイド部72の上側に形成された窪部74に流入した後、ガイド部72に沿って落下する経路(第三の経路)を経て連通部84に案内される。これにより、窪部74からオイル溜部70にオイルが流入する。
【0059】
上述したように、ギア室21b内において飛散しているオイルには、軸受53a及びガイド部72の隙間を通過する第一の経路を経てオイル溜部70に流入するもの、第一の経路及び第二の経路を経てオイル溜部70に流入するもの、及び第一の経路から第二の経路を経て第三の経路でオイル溜部70に流入するものがある。これらのオイルは、いずれも軸受53a及びガイド部72によって形成された第一の経路を経て流れるものであるが、第一の経路を経ることなくギア室21b内を飛散しているオイルも存在している。このようなオイルについても、前述した各経路とは異なる経路でギア室21b内に設けられた張出部76や張出リブ86に案内されたり、窪部74に流入するなどして、オイル溜部70に流入することが想定される。
【0060】
上述したようにしてオイル溜部70内に導入されたオイルは、台座部80に嵌め込まれたキャリア軸53を支持するための軸受53aを潤滑する。また、オイル溜部70内に導入されたオイルは、キャリア軸53の内周側(軸心側)に設けられたオイル流通孔53bに導入される。オイル流通孔53bは、キャリア軸53に対して接続された駆動モータ50のロータ軸51の内周側(軸心側)に設けられたオイル流通孔51aと連通している。また、ロータ軸51とキャリア軸53との接続部分や、ロータ軸51の端部において、オイル流通孔51aは、ロータ軸51を支持するための軸受51b,51cや、キャリア軸53の基端側を支持するための軸受53cが配置された部分と連通している。そのため、オイル流通孔51a,53bに流れ込んだオイルは、軸受51b,51c,53cにも行き渡り、これらを潤滑する。
【0061】
上述したように、本実施形態のオイル潤滑構造Lは、潤滑対象に対して供給するオイルが溜められるオイル溜部70にオイルを導入可能なように形成された連通部84を有する。また、オイル潤滑構造Lは、オイル溜部70の外縁をなす台座部80側に対してオイル溜部70の外側に設けられたガイド部72が、連通部84よりも下方側の位置から連通部84の手前の位置までオイル溜部70に沿って延びるように形成されている。そのため、上述したオイル潤滑構造Lによれば、ギア室21b内において飛散しているオイルをガイド部72によって案内し、連通部84を介してオイル溜部70に導入できる。さらに、本実施形態のオイル潤滑構造Lは、連通部84に対して上方側の領域に設けられた張出部76が、連通部84を基準としてガイド部72とは反対側においてギア室21bの内側に向けて張り出すように形成されている。そのため、本実施形態のオイル潤滑構造Lは、ガイド部72によって案内されたオイルのうち、連通部84を越えて反対側に飛散したオイルを張出部76において捕捉して、連通部84に向けて案内できる。従って、上述したオイル潤滑構造Lによれば、ギア室21b内においてギアの作動に伴って飛散しているオイルを、潤滑対象の潤滑のために安定的に供給できる。
【0062】
また、上述したオイル潤滑構造Lは、ガイド部72及び連通部84の少なくともいずれかに臨むように膨出した膨出部78を有する。そのため、オイル潤滑構造Lは、ギア室21b内において飛散しているオイルを膨出部78において捕捉して連通部84やガイド部72に向けて落下させ、連通部84を介してオイル溜部70に導入できる。従って、オイル潤滑構造Lは、上述した構成を採用することにより、ギア室21b内においてギアにより掻き上げられてきたオイルを、潤滑対象の潤滑のために最大限有効活用できる。
【0063】
なお、本実施形態では、膨出部78や凸部78aをガイド部72及び連通部84の双方の上方に配し、両者に対して臨むように設けた例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、いずれか一方に臨むように設けたものであっても良い。また、凸部78aを膨出部78の中腹部に設ける代わりに、あるいは膨出部78の中腹部に設けることに加えて、他の部位に設けても良い。具体的には、凸部78aは、例えば、連通部84の入口部分において、連通部84に対して奥側(ギア室21bの壁面側)の位置等に設けられても良い。
【0064】
また、本実施形態では、膨出部78を設けたり、膨出部78に凸部78aを設けたりした構成を例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、オイル潤滑構造Lは、膨出部78に凸部78aを設けない構成としたり、膨出部78を設けない構成としたりしても良い。
【0065】
本実施形態のオイル潤滑構造Lは、上述したようにガイド部72や張出部76、膨出部78を台座部80の近傍に設けた構成とされているため、台座部80近傍の剛性を向上させることができる。
【0066】
上述したオイル潤滑構造Lは、オイル溜部70に対してガイド部72よりも外側において、ギア室21bを構成する壁面とガイド部72との間に形成された窪部74を有する。そのため、オイル潤滑構造Lは、ギア室21b内において飛散しているオイルを窪部74において捕捉し、ガイド部72によって連通部84に案内することができる。従って、オイル潤滑構造Lは、ギア室21b内においてギアにより掻き上げられてきたオイルを捕捉して連通部84に向けて供給するために、ガイド部72の上側に形成された窪部74を活用できる。
【0067】
なお、本実施形態では、ガイド部72の上側に形成された空間を、オイルを受け入れるための窪部74として活用した例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、窪部74を設けるための十分な空間をガイド部72の上方に確保できない場合等においては、オイル潤滑構造Lは、窪部74を備えていないものとしても良い。
【0068】
また、上述したオイル潤滑構造Lは、ギア室21bを構成する第一構成体20a及び第三構成体20cをボルト等で締結するために設けられたボス部を活用して膨出部78が形成されている。そのため、オイル潤滑構造Lは、膨出部78を形成するために特別に膨出した部分を設ける必要がなく、その分だけ構成をシンプルなものとすることができる。なお、本実施形態では、ボルト締結用のボス部を膨出部78として活用する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、膨出部78を形成するために別途膨出した箇所を形成したものとすることも可能である。このような構成とすることにより、ボルトの締結位置に限定されることなく、膨出部78を最適な位置に設けることができる。
【0069】
上述したオイル潤滑構造Lは、潤滑対象が、内周側にオイルを流通可能なオイル流通孔53bを備えたキャリア軸53(軸体)である。そのため、オイル潤滑構造Lは、キャリア軸53の内周側に設けられたオイル流通孔53bに、多量のオイルを供給し、潤滑させることができる。なお、本実施形態では、オイル溜部70に溜めたオイルをキャリア軸53に供給して潤滑する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、キャリア軸53に代えて、あるいはこれに加えて、他の箇所とオイル溜部70とを連通させ、オイルを供給するようにしても良い。
【0070】
上述したオイル潤滑構造Lは、台座部80に、軸体を回転自在に支持する軸受53aが収容されるものである。そのため、上述したオイル潤滑構造Lによれば、台座部80を軸受53aの収容のために活用しつつ、オイル溜部70に溜められたオイルを軸受53aの潤滑に活用できる。なお、本実施形態では、台座部80に軸受53aを嵌め込んだ例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、軸受53a等の潤滑対象物を台座部80をはじめとするオイル溜部70の各部に収容しないものであっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、例えば、車両に搭載されるトランスアクスル等、オイル及びギアを収容するギア室を備えたもの全般において好適に利用できる。
【符号の説明】
【0072】
21b :ギア室
53 :キャリア軸53(軸体)
53a :軸受
53b :オイル流通孔
70 :オイル溜部
72 :ガイド部
74 :窪部
76 :張出部
78 :膨出部
80 :台座部
84 :連通部
L :オイル潤滑構造